(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165588
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】吸着剤および処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20241121BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20241121BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241121BHJP
C01F 11/18 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B01J20/12 C
C02F1/28 B
B01J20/28 Z
C01F11/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081895
(22)【出願日】2023-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】金 熙濬
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
4G076
【Fターム(参考)】
4D624AA02
4D624AA04
4D624AB16
4D624BA06
4D624BB01
4D624BC04
4G066AA27B
4G066AA50B
4G066AA66B
4G066BA23
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA46
4G066DA07
4G066DA08
4G066FA37
4G076AA16
4G076AB09
4G076BA24
4G076BA42
4G076BC05
4G076CA02
4G076CA28
4G076CA40
4G076DA25
(57)【要約】
【課題】重金属を効率よく除去することができる吸着剤を提供すること、また、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明の吸着剤は、ドロマイト類とリン酸イオンと鉄イオンとを含み、前記リン酸イオンの少なくとも一部が、前記ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を形成していることを特徴とする。前記鉄イオンの少なくとも一部が、Fe2O3を形成していることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドロマイト類とリン酸イオンと鉄イオンとを含み、
前記リン酸イオンの少なくとも一部が、前記ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を形成していることを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
前記ドロマイト類は、水酸化ドロマイトである請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
前記ドロマイト類は、焼成ドロマイトである請求項1に記載の吸着剤。
【請求項4】
前記ドロマイト類は、ドロマイトである請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項5】
前記鉄イオンの少なくとも一部が、Fe2O3を形成している請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項6】
前記鉄イオンの少なくとも一部がリン酸鉄を形成している請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項7】
前記ドロマイト類に対する前記リン酸イオンの含有率が、0.1質量%以上10.0質量%以下である請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項8】
前記ドロマイト類に対する前記鉄イオンの含有率が、0.1質量%以上10.0質量%以下である請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項9】
前記ドロマイト類に対する前記リン酸イオンの含有率をX1[質量%]とし、前記ドロマイト類に対する前記鉄イオンの含有率をX2[質量%]としたとき、0.01≦X1/X2≦100の関係を満たす請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項10】
25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が100ppm以下であり、
25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が吸着量の30%以上である請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項11】
25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合の鉄イオンの溶出量が500ppm以下であり、
25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合の鉄イオンの溶出量が吸着量の30%以上である請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項12】
BET比表面積が10m2/g以上1000m2/g以下である請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項13】
平均細孔径が1nm以上200nm以下である請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項14】
請求項1または2に記載の吸着剤と、重金属を含む被処理物とを接触させ、前記被処理物中に含まれる前記重金属を除去することを特徴とする処理方法。
【請求項15】
pHが2.0以上12.0以下の条件で、前記吸着剤と前記被処理物とを接触させる請求項14に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や鉱山で用いた水には、多くの重金属等の汚染物質が含まれることがある。このような汚染された水を排水する場合には、汚染物質を十分に除去する必要がある。
【0003】
また、汚染土壌の井戸水等にも重金属等の汚染物質が含まれることがあり、飲用水等の生活用水等として用いる場合に、汚染物質を十分に除去する必要がある。
【0004】
従来においては、汚染物質の除去には、大量の吸着剤が使われている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、アルカリ性の液中で吸着剤による処理を行うと、重金属を十分に吸着させることができなかったり、吸着した重金属が再溶解してしまったりして、汚染物質を十分に除去することが困難であった。
【0005】
また、MgO系やCaO系の材料から製造された吸着剤も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、クロム(Cr)やヒ素(As)等の重金属を十分に除去することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-696号公報
【特許文献2】特開2014-97477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を提供すること、また、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の吸着剤は、ドロマイト類とリン酸イオンと鉄イオンとを含み、
前記リン酸イオンの少なくとも一部が、前記ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を形成していることを特徴とする。
【0009】
本発明の吸着剤では、前記ドロマイト類は、水酸化ドロマイトであることが好ましい。
本発明の吸着剤では、前記ドロマイト類は、焼成ドロマイトであることが好ましい。
【0010】
本発明の吸着剤では、前記ドロマイト類は、ドロマイトであることが好ましい。
本発明の吸着剤では、前記鉄イオンの少なくとも一部が、Fe2O3を形成していることが好ましい。
【0011】
本発明の吸着剤では、前記鉄イオンの少なくとも一部がリン酸鉄を形成していることが好ましい。
【0012】
本発明の吸着剤では、前記ドロマイト類に対する前記リン酸イオンの含有率が、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
本発明の吸着剤では、前記ドロマイト類に対する前記鉄イオンの含有率が、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の吸着剤では、前記ドロマイト類に対する前記リン酸イオンの含有率をX1[質量%]とし、前記ドロマイト類に対する前記鉄イオンの含有率をX2[質量%]としたとき、0.01≦X1/X2≦100の関係を満たすことが好ましい。
【0014】
本発明の吸着剤では、25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が100ppm以下であり、
25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が吸着量の30%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の吸着剤では、25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合の鉄イオンの溶出量が500ppm以下であり、
25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合の鉄イオンの溶出量が吸着量の30%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の吸着剤では、BET比表面積が10m2/g以上1000m2/g以下であることが好ましい。
本発明の吸着剤では、平均細孔径が1nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の処理方法は、本発明の上記吸着剤と、重金属を含む被処理物とを接触させ、前記被処理物中に含まれる前記重金属を除去することを特徴とする。
【0018】
本発明の処理方法では、pHが2.0以上12.0以下の条件で、前記吸着剤と前記被処理物とを接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を提供すること、また、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例1の吸着剤と比較例1のドロマイトのX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
【
図2】
図2(A)は、比較例1のドロマイトの電子顕微鏡写真(SEM)であり、
図2(B)は、実施例1の吸着剤の電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、焼成温度を変えて行った場合の、リンの含有率とクロム(VI)除去率との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、焼成温度を変えて行った場合の、鉄の含有率とクロム(VI)除去率との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、焼成温度と、クロム(VI)の除去率および吸着量との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、80℃で乾燥処理した吸着剤と、450℃で焼成した吸着剤を用いた場合の、標準液のpHとクロム(VI)吸着量との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、焼成温度を変更した場合のX線粉末回折の結果を示す図である。
【
図8】
図8は、焼成温度を変更した場合の細孔容積分布を示す図である。
【
図9】
図9は、焼成温度を変更した場合のヒドロキシアパタイト(HAP)の結晶子径を示す図である。
【
図10】
図10は、焼成温度を変更した場合のMgOの結晶子径を示す図である。
【
図11】
図11は、鉄およびリンを吸着した実施例1の吸着剤のTG-DTA曲線である。
【
図12】
図12は、焼成温度を450℃から700℃の間で変えた場合の、焼成温度と吸着剤のBET比表面積との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、焼成温度を450℃、700℃とした場合についての、吸着剤の細孔径と細孔容積との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、焼成工程での雰囲気の組成を変更した場合の細孔容積分布を示す図である。
【
図15】
図15は、焼成温度および焼成雰囲気の組成を変更して製造した各吸着剤についてのクロム(VI)の除去量を示す図である。
【
図16】
図16は、実施例1と比較例1の吸着剤を用いて、標準液のpHを2から9の範囲で変えた場合の、pHとクロム(VI)除去率との関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、標準液に対する吸着剤の投与量とクロム(VI)除去率との関係を示すグラフである。
【
図18】
図18は、標準液のクロム(VI)初期濃度を変えた場合の、処理時間とクロム(VI)除去率との関係を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例1の吸着剤を用いた場合の吸着等温線を示すグラフである。
【
図20】
図20は、ドロマイト原石と、当該ドロマイト原石を所定の焼成温度で焼成した焼成ドロマイトとについての、RIR(Reference Intensity Ratio:参照強度比)法による各結晶相の定量分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1]吸着剤
まず、本発明の吸着剤について説明する。
【0022】
本発明の吸着剤は、ドロマイト類とリン酸イオンと鉄イオンとを含み、リン酸イオンの少なくとも一部が、ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を形成していることを特徴とする。
これにより、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を提供することができる。
【0023】
吸着剤が、リン酸イオンに加えて鉄イオンを含むことにより、比表面積が増大し、その結果、重金属の吸着量を増やすことができたと考えられる。
【0024】
特に、本発明の吸着剤は、従来高い除去率で除去することが特に困難であったクロム(Cr)やヒ素(As)についても、高い除去率で除去することができる。
【0025】
このように、本発明の吸着剤で重金属(特に、クロム(VI))を高い除去率で除去することができるのは、ドロマイト類にリンイオンや鉄イオンを添加することにより、重金属の吸着量を増やすことができるとともに、吸着した重金属を化学結合により吸着剤に固定化し、不溶化することができ、水等に再溶解することが好適に防止されるためであると考えられる。
【0026】
また、本発明の吸着剤においては、前記ドロマイト類に吸着したリン酸イオンや鉄イオンも前記ドロマイト類に好適に固定化、不溶化され、水等に溶解することが好適に防止されているため、安定的に上記のような優れた効果が得られるものと考えられる。
【0027】
ドロマイト類としては、ドロマイト、水酸化ドロマイト(消化ドロマイト。ドロマイトプラスターを含む)、軽焼ドロマイト(焼成ドロマイトを含む)、ドロマイトクリンカー等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
中でも、ドロマイト類が水酸化ドロマイトであることにより、リン酸イオンとドロマイト類を構成するCaとの間での化学結合が強固なものとなる。
【0029】
また、ドロマイト類が焼成ドロマイトであることにより、リン酸イオンとドロマイト類を構成するCaとの間での化学結合がより強固なものとなる。
【0030】
また、ドロマイト類がドロマイトであることにより、吸着剤の粒径や細孔径等の条件を好適に調整することができる。また、原料としてのドロマイトがより安価であるため、吸着剤の生産コストのさらなる低減の観点からも有利である。
【0031】
ドロマイト類に対するリン酸イオンの含有率は、0.1質量%以上10.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上4.5質量%以下であるのがより好ましく、1.1質量%以上3.0質量%以下であるのがさらに好ましく、1.2質量%以上2.0質量%以下であるのがもっとも好ましい。
これにより、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0032】
ドロマイト類に対する前記鉄イオンの含有率は、0.1質量%以上10.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上4.5質量%以下であるのがより好ましく、1.5質量%以上4.0質量%以下であるのがさらに好ましく、2.0質量%以上3.8質量%以下であるのがもっとも好ましい。
これにより、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0033】
吸着剤において、ドロマイト類に対するリン酸イオンの含有率をX1[質量%]とし、前記ドロマイト類に対する鉄イオンの含有率をX2[質量%]としたとき、0.01≦X1/X2≦100の関係を満たすのが好ましく、0.40≦X1/X2≦0.80の関係を満たすのがより好ましく、0.41≦X1/X2≦0.78の関係を満たすのがさらに好ましく、0.42≦X1/X2≦0.76の関係を満たすのがもっとも好ましい。
これにより、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0034】
本発明の吸着剤は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、後述するような吸着剤の製造方法を用いることにより、本発明の吸着剤を効率よく製造することができる。
【0035】
本発明の吸着剤では、リン酸イオンの大部分が、ドロマイト類を構成するCaと化学結合しているのが好ましい。
【0036】
25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が、100ppm以下であるのが好ましく、50ppm以下であるのがより好ましく、30ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
このような条件を満足する場合、吸着剤中にリンがより安定的に固定されており、長期間にわたって吸着剤を使用する場合や、大量の被処理物を処理する場合(大量の被処理物を吸着剤と接触させる場合)であっても、安定的に重金属を優れた効率で除去することができる。
【0038】
なお、吸着剤を水と混合した場合のリン酸イオンの溶出量は、例えば、吸着剤と水とを混合して1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めることができる。
【0039】
リン酸イオンがドロマイト類を構成するCaと化学結合していることは、例えば、吸着剤を、上記のようにして水と接触させた後に、低pHの液体と接触させた場合に、リン酸イオンの溶出量が大幅に増加することにより確認することができる。
【0040】
より具体的には、25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合にリン酸イオンの溶出量が大幅に増加することにより確認することができる。
【0041】
25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合のリン酸イオンの溶出量は、吸着剤に含まれている全リン(吸着量)の30%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。
【0042】
このような条件を満足する場合、吸着剤中により多くのリンが固定されており、特に優れた重金属の除去能力が得られる。したがって、長期間にわたって吸着剤を使用する場合や、大量の被処理物を処理する場合(大量の被処理物を吸着剤と接触させる場合)であっても、安定的に重金属を優れた効率で除去することができる。
【0043】
なお、吸着剤を1Nの塩酸と混合した場合のリン酸イオンの溶出量は、例えば、吸着剤と1Nの塩酸とを混合して1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めることができる。
【0044】
特に、本発明の吸着剤では、25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合のリン酸イオンの溶出量、および、25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が、ともに、上記のような条件を満たすのが好ましい。すなわち、25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が100ppm以下であり、かつ、25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が吸着量の30%以上であるのが好ましい。
これにより、前述した効果が相乗的に作用しあい、より優れた結果が得られる。
【0045】
本発明の吸着剤では、鉄イオンの少なくとも一部がFexOyを形成し、0.01≦y/x≦2の関係を満たしていることが好ましく、さらに、鉄イオンの少なくとも一部が、Fe2O3を形成していることがより好ましい。
【0046】
FexOy(特に、Fe2O3)は、一般に、微細な多孔質であり高い比表面積を有する吸着剤の細孔の中で生成されるため、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0047】
このようなFe2O3は、例えば、後述するように製造時の焼成工程で水酸化鉄が脱水することや、吸着剤中の鉄成分が酸化することにより生成される。
【0048】
本発明の吸着剤では、鉄イオンの少なくとも一部がリン酸鉄を形成していることが好ましい。
【0049】
鉄イオンの少なくとも一部がリン酸と化学結合していることで、吸着剤中により多くの鉄が固定され、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0050】
25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合の鉄イオンの溶出量が、500ppm以下であるのが好ましく、400ppm以下であるのがより好ましく、300ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
このような条件を満足する場合、吸着剤中に鉄がより安定的に固定されており、長期間にわたって吸着剤を使用する場合や、大量の被処理物を処理する場合(大量の被処理物を吸着剤と接触させる場合)であっても、安定的に重金属を優れた効率で除去することができる。
【0052】
なお、吸着剤を水と混合した場合の鉄イオンの溶出量は、例えば、吸着剤と水とを混合して1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めることができる。
【0053】
25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合の鉄イオンの溶出量は、吸着剤に含まれている全鉄イオン(吸着量)の30%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。
【0054】
このような条件を満足する場合、吸着剤中により多くの鉄が固定されており、特に優れた重金属の除去能力が得られる。したがって、長期間にわたって吸着剤を使用する場合や、大量の被処理物を処理する場合(大量の被処理物を吸着剤と接触させる場合)であっても、安定的に重金属を優れた効率で除去することができる。
【0055】
なお、吸着剤を1Nの塩酸と混合した場合の鉄イオンの溶出量は、例えば、吸着剤と1Nの塩酸とを混合して1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めることができる
【0056】
特に、本発明の吸着剤では、25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合の鉄イオンの溶出量、および、25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合の鉄イオンの溶出量が、ともに、上記のような条件を満たすのが好ましい。すなわち、25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合した場合の鉄イオンの溶出量が500ppm以下であり、かつ、25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合した場合の鉄イオンの溶出量が吸着量の30%以上であるのが好ましい。
これにより、前述した効果が相乗的に作用しあい、より優れた結果が得られる。
【0057】
吸着剤は、通常、多孔質体である。
これにより、吸着剤の単位質量(単位体積)当たりの表面積を大きくすることができ、重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0058】
吸着剤における平均細孔径は、特に限定されないが、1nm以上200nm以下であるのが好ましく、2nm以上100nm以下であるのがより好ましく、3nm以上30nm以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
これにより、吸着剤の耐久性を確保しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0060】
吸着剤のBET比表面積は、10m2/g以上1000m2/g以下であるのが好ましく、20m2/g以上であるのがより好ましく、30m2/g以上であるのがさらに好ましい。
これにより、吸着剤による重金属の除去効率はさらに向上する。
【0061】
吸着剤の形状、大きさは特に限定されないが、吸着剤が粒子状をなしている場合、その平均粒径は、0.5μm以上20000μm以下であるのが好ましく、1μm以上1500μm以下であるのがより好ましく、50μm以上1000μm以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
これにより、吸着剤の単位質量(単位体積)当たりの粒子表面積を大きくすることや吸着剤にリン成分および鉄成分を均一に吸着させることができるとともに、粒子状の吸着剤が不本意に凝集してしまうこと等が効果的に防止され、吸着剤の流動性、取り扱いのしやすさが向上する。また、容器への充填性(充填のしやすさ、容器の形状に対する追従性)を向上させることができ、所望の形状への成形が容易となる。
【0063】
[2]吸着剤の製造方法
次に、吸着剤の製造方法について説明する。
【0064】
本実施形態の吸着剤の製造方法は、ドロマイト類と、溶解状態のリン化合物を含むリン溶液とを接触させリン成分を前記ドロマイト類に吸着させるリン吸着工程と、ドロマイト類と、溶解状態の鉄化合物を含む鉄溶液とを接触させ鉄成分を前記ドロマイト類に吸着させる鉄吸着工程と、前記リン溶液および鉄溶液と接触させた前記ドロマイト類を焼成する焼成工程とを有する。
【0065】
これにより、重金属を効率よく除去することができる吸着剤の製造方法を提供することができる。特に、クロム(Cr)やヒ素(As)等の重金属を効率よく除去することができる吸着剤を、安価で、生産性良く製造することができる。
【0066】
また、本実施形態の製造方法では、従来高い除去率で除去することが特に困難であったヒ素やクロム(Cr(IV))についても、高い除去率で除去することが可能な吸着剤を製造することができる。
【0067】
なお、本実施形態において、リン吸着工程と鉄吸着工程との順番は特に限定されない。
例えば、リン吸着工程を先に行い、リン吸着工程でリン成分が吸着されたドロマイト類に対し、鉄吸着工程を行ってもよいし、鉄吸着工程を先に行い、鉄吸着工程で鉄成分が吸着されたドロマイト類に対し、リン吸着工程を行ってもよい。また、リン吸着工程と鉄吸着工程とを同時に行ってもよい。
【0068】
以下の説明では、一例として、リン吸着工程を先に行い、リン吸着工程でリン成分が吸着されたドロマイト類に対し、鉄吸着工程を行う場合について中心的に説明する。
【0069】
ドロマイト類に先にリンを吸着させ、ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方とリン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を先に形成してから、鉄イオンを添加することで、リンと鉄とは反応しやすいため、鉄イオンを好適にドロマイト類に吸着させることができる。
【0070】
また、溶液中で反応を行うことで、生産コストを低く抑えられるほか、吸着剤の粒径や細孔径、表面積等の条件を好適に調整することができる。
【0071】
[2-1]リン吸着工程
リン吸着工程では、ドロマイト類と、溶解状態のリン化合物を含む溶液とを接触させる。これにより、溶液中に含まれるリン成分をドロマイト類に吸着させる。
【0072】
本工程で用いるドロマイト類としては、上述したドロマイト類を用いることができる。
本工程で用いるドロマイト類(原料としてのドロマイト類)は、通常、多孔質である。
これにより、吸着剤の単位質量(単位体積)当たりの表面積を大きくすることができ、重金属の除去効率をさらに向上させることができる。さらに、焼成工程により、比表面積を増加させることができる。
【0073】
原料としてのドロマイト類の平均細孔径は、特に限定されないが、1nm以上200nm以下であるのが好ましく、2nm以上100nm以下であるのがより好ましく、5nm以上30nm以下であるのがさらに好ましい。
【0074】
これにより、吸着剤の耐久性を確保しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。なお、平均細孔径は、例えば、焼成工程での焼成条件等により調整することができる。
【0075】
原料としてのドロマイト類は、リン吸着工程に先立って焼成することにより、軽焼ドロマイトとしてもよい。
【0076】
ドロマイトは、焼成することで、下記式:
CaMg(CO3)2→MgO+CaO+2CO2
で表される分解反応を示す。
【0077】
ドロマイトを焼成することによる上記熱分解により、CaOが形成され、リン吸着工程において、リンをより好適に吸着することができるものと考えられる。
【0078】
ドロマイトの焼成温度としては、650℃以上1000℃以下とすることが好ましい。
これにより、上述した効果をより顕著なものとすることができる。
【0079】
なお、軽焼ドロマイトとしては、市販されている軽焼ドロマイトを用いてもよい。
リン吸着工程でドロマイト類と接触させるリン化合物(ドロマイト類に吸着させるリン成分)は、少なくともその一部が溶媒に溶解していればよく、例えば、リン化合物の他の一部は、前記溶液中において分散した状態であってもよい。すなわち、前記溶液を構成する溶媒は、分散媒としても機能してもよい。
【0080】
前記溶液は、溶媒として少なくとも水を含む水溶液であるのが好ましいが、水以外の溶媒を含んでいてもよい。また、前記溶媒は、リン化合物以外の成分を溶質、分散質として含んでいてもよい。
【0081】
本工程でドロマイト類と接触させるリン化合物としては、例えば、リン酸やその塩(例えば、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム等)、亜リン酸やその塩、ペルオキソ一リン酸やその塩、ホスホン酸やその塩、ホスフィン酸やその塩、五酸化二リン等のリンの酸化物、五塩化リン等のリンのハロゲン化物、塩化ホスホリル等のハロゲン化ホスホリル、一リン化カルシウム、二リン化三カルシウム等のリン化カルシウム等が挙げられる。
【0082】
中でも、リン酸およびその塩が好ましい。
これにより、焼成工程でのリン酸イオンとドロマイト類を構成するCaとの間での化学結合の形成をより好適に進行させることができる。
【0083】
前記溶液中におけるリン化合物の濃度は、0.01質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以上2質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0084】
これにより、ドロマイト類に吸着しないで残存するリン化合物の量を抑制しつつ、ドロマイト類へのリン化合物の吸着量を多くすることができ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0085】
リン化合物としては、いかなるものを用いてもよく、例えば、合成品や、鉱石由来物、活性汚泥由来物、鉄鋼スラグ由来物等が挙げられるが、汚泥灰由来物を用いるのが好ましい。
【0086】
このように、貴重な資源であるリンとして、産業廃棄物である汚泥灰由来物を用いることにより、資源の有効活用ができ、また、産業廃棄物量の削減等の観点からも好ましい。また、吸着剤のコスト削減の観点からも好ましい。
【0087】
ドロマイト類とリン化合物との比率は特に限定されないが、ドロマイト類に対するリン化合物の吸着量は、リン酸イオン量の換算で、ドロマイト類100質量部(%)に対して、0.1質量部以上20質量部以下であるのが好ましく、1質量部以上2質量部以下であるのがより好ましい。
【0088】
これにより、ドロマイト類に吸着しないで残存するリン化合物の量を抑制しつつ、ドロマイト類へのリン化合物の吸着量を多くすることができ、ドロマイトより高価なリンを節約することもできる。さらに、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0089】
本工程は、ドロマイト類とリン化合物を含む溶液とを含む混合物のpHが、2以上12以下の条件で行うのが好ましく、3以上8以下の条件で行うのがより好ましく、4以上6以下の条件で行うのがさらに好ましい。
【0090】
これにより、リン化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0091】
また、本工程は、前記混合物を撹拌しつつ行うのが好ましい。
これにより、リン化合物とドロマイト類とをより効率よく接触させることができ、リン化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができる。特に、ドロマイト類の空孔内においてもリン化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができる。その結果、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
前記混合物の混合には、各種撹拌装置、各種混合装置を用いることができる。
【0092】
本工程の処理時間(ドロマイト類と溶解状態のリン化合物を含む溶液との接触時間)は、1分以上180分以下であるのが好ましく、10分以上60分以下であるのがより好ましい。
【0093】
これにより、吸着剤の生産性の低下を効果的に防止しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0094】
本工程の処理温度は、0℃以上100℃以下であるのが好ましく、10℃以上80℃以下であるのがより好ましく、20℃以上60℃以下であるのがさらに好ましい。
【0095】
これにより、吸着剤の製造に要するエネルギー量を削減しつつ、リン化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができ、短時間で効率よく本工程を行うことができる。
【0096】
リン吸着工程で、リン成分が溶解されている水溶液の中でリンをドロマイト類に吸着させた後に、固液分離を行ってもよい(固液分離工程)。
【0097】
また、固液分離工程で得られた固体であるリン吸着ドロマイト類に対し、乾燥処理を行ってもよい(乾燥工程)。
【0098】
[2-2]鉄吸着工程
鉄吸着工程では、リン吸着工程で得られた、リン化合物を吸着したドロマイト類(以下、リン吸着ドロマイト類と称する。)と、溶解状態の鉄化合物を含む溶液とを接触させる。これにより、溶液中に含まれる鉄成分をドロマイト類に吸着させる。
【0099】
鉄吸着工程でリン吸着ドロマイト類と接触させる鉄化合物(リン吸着ドロマイト類に吸着させる鉄成分)は、少なくともその一部が溶媒に溶解していればよく、例えば、鉄化合物の他の一部は、前記溶液中において分散した状態であってもよい。すなわち、前記溶液を構成する溶媒は、分散媒としても機能してもよい。
【0100】
前記溶液は、溶媒として少なくとも水を含む水溶液であるのが好ましいが、水以外の溶媒を含んでいてもよい。また、前記溶媒は、鉄化合物以外の成分を溶質、分散質として含んでいてもよい。
【0101】
本工程でリン吸着ドロマイト類と接触させる鉄化合物としては、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、リン酸鉄(III)等が挙げられる。
【0102】
中でも、塩化鉄(III)、水酸化鉄(III)が好ましい。ただし、上記以外の鉄化合物としては鉄がイオン化できればよい。
【0103】
これにより、吸着工程で鉄イオンをリン吸着ドロマイト類に好適に吸着させることができる。また、焼成工程での鉄イオンとリン酸との間での化学結合の形成をより好適に進行させることができる。
【0104】
前記溶液中における鉄化合物の濃度は、0.01質量%以上80.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上10.0質量%以下であるのがより好ましく、1.0質量%以上2.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0105】
これにより、ドロマイト類に吸着しないで残存する鉄化合物の量を抑制しつつ、ドロマイト類への鉄化合物の吸着量も制御でき、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0106】
ドロマイト類と鉄化合物との比率は特に限定されないが、ドロマイト類に対する鉄化合物の吸着量は、鉄イオン量の換算で、ドロマイト類100質量部(%)に対して、0.1質量部以上20.0質量部以下であるのが好ましく、1.0質量部以上2.0質量部以下であるのがより好ましい。
【0107】
これにより、リン吸着ドロマイト類に吸着しないで残存する鉄化合物の量を抑制しつつ、リン吸着ドロマイト類への鉄化合物の吸着量をより好適に制御することができる。さらに、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0108】
本工程は、リン吸着ドロマイト類と鉄化合物を含む溶液とを含む混合物のpHが、2以上10以下の条件で行うのが好ましく、4以上6以下の条件で行うのがより好ましい。
【0109】
これにより、鉄化合物を、リン吸着ドロマイト類により効率よく吸着させることができ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0110】
また、本工程は、前記混合物を撹拌しつつ行うのが好ましい。
これにより、鉄化合物と、リン吸着ドロマイト類とをより効率よく接触させることができ、鉄化合物を、リン吸着ドロマイト類により効率よく吸着させることができる。特に、リン吸着ドロマイト類の空孔内においても鉄化合物をリン吸着ドロマイト類により効率よく吸着させることができる。その結果、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
前記混合物の混合には、各種撹拌装置、各種混合装置を用いることができる。
【0111】
本工程の処理時間(リン吸着ドロマイト類と溶解状態の鉄化合物を含む溶液との接触時間)は、1分以上180分以下であるのが好ましく、10分以上60分以下であるのがより好ましい。
【0112】
これにより、吸着剤の生産性の低下を効果的に防止しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0113】
本工程の処理温度は、0℃以上100℃以下であるのが好ましく、10℃以上80℃以下であるのがより好ましく、20℃以上60℃以下であるのがさらに好ましい。
【0114】
これにより、吸着剤の製造に要するエネルギー量を削減しつつ、鉄化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができ、短時間で効率よく本工程を行うことができる
【0115】
鉄吸着工程で、鉄成分が溶解されている水溶液の中で鉄を、リン吸着ドロマイト類に吸着させた後に、固液分離を行う(固液分離工程)。
【0116】
また、固液分離工程で得られた固体である、リンおよび鉄吸着ドロマイト類に対し、乾燥処理を行う(乾燥工程)。
【0117】
乾燥工程での処理温度は、特に限定されないが、300℃以下であるのが好ましく、70℃以上300℃以下であるのがより好ましい。
【0118】
その後、乾燥処理した、リンおよび鉄吸着ドロマイト類を用いて、以下に詳述する焼成工程を行う。
【0119】
[2-3]焼成工程
焼成工程では、リン含有溶液および鉄含有溶液と接触させたドロマイト類(リン成分および鉄成分を吸着したドロマイト類)を焼成する。
【0120】
これにより、リン酸成分が吸着剤(ドロマイト類)に固定化され、原料としてのドロマイト類に比べて、重金属の吸着能力が向上する。特に、アルカリ性の条件下での重金属の吸着能力が顕著に向上する。
【0121】
また、焼成により、ドロマイト類を構成していたCaがPaと化学結合(イオン結合)しリン酸カルシウム系化合物が形成されることにより、幅広いpH領域(特に、pHが5以上の領域)において、吸着剤が被処理物と接触した場合のリン成分の脱離が効果的に防止され、安定的に優れた吸着能力が発揮される。
また、重金属だけでなく、F(フッ素)も好適に除去することができる。
【0122】
上記のような優れた効果は、焼成工程でリン成分を吸着剤(ドロマイト類)に吸着させ、それを固定化することにより得られるのであって、単に、ドロマイト類とリン化合物を混合し固体と固体が接触することでは得られない。より具体的には、例えば、リン含有水溶液中等において、単に、ドロマイト類とリン化合物とを接触させたとしても、反応性が悪く、焼成処理を行わなかった場合では、高濃度のアルカリ条件で被処理物を処理する際等に、リン酸成分が容易に溶出してしまい、重金属の除去効率の向上の効果が安定的には得られない。
【0123】
リン酸カルシウム系化合物としては、例えば、リン酸カルシウム(Ca(H2PO4)2やその水和物)、無水リン酸水素カルシウム(CaHPO4)、ヒドロキシアパタイト(HAP)(Ca10(PO4)6(OH)2)等のようなリン酸イオンとカルシウムイオンとを含む化合物が挙げられる。
【0124】
また、焼成により、鉄イオンがリン酸イオンと化学結合しリン酸鉄を形成することにより、鉄成分がリン吸着ドロマイト類に固定化され、原料としてのドロマイト類に比べて、重金属の吸着能力が向上する。
【0125】
また、焼成により、さらに、リン酸イオンと化学結合した一部の鉄イオンが約450℃で酸化鉄(Fe2O3)になることでCr(IV)イオンの吸着能力が向上するとともに、吸着剤の表面積も増加し、重金属の吸着能力をさらに向上させることができる。
【0126】
焼成工程の処理温度(最高焼成温度)は、300℃以上1000℃以下であるのが好ましく、340℃以上800℃以下であるのがより好ましく、400℃以上600℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、上述した効果をより顕著なものとすることができる。
【0127】
これにより、吸着剤の製造に要するエネルギー量を削減しつつ、リン酸イオンとドロマイト類を構成するCaとの間で、および、鉄とリン酸イオンとの間で、より効率よく化学結合を形成させることができ、短時間で効率よく本工程を行うことができる。
【0128】
焼成工程での処理時間(200℃以上の温度での加熱時間)は、特に限定されないが、0.3時間以上10時間以下であるのが好ましく、0.4時間以上5時間以下であるのがより好ましく、0.5時間以上3時間以下であるのがさらに好ましい。
【0129】
これにより、吸着剤の生産性の低下を効果的に防止しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0130】
また、焼成工程での加熱は、ほぼ一定の温度で保持するようにして行ってもよいし、異なる複数の保持温度で保持するようにして行ってもよい。また、焼成工程での加熱は、ほぼ一定の昇温速度、ほぼ一定の降温速度となるようにして行ってもよいし、昇温時の昇温速度、降温時の降温速度の少なくとも一方が、経時的に変化するようにして行ってもよい。
【0131】
また、焼成工程は、いかなる雰囲気中で行ってもよいが、空気中で行うのが好ましい。
これにより、焼成工程に比較的単純な構成の装置を用いることができ、雰囲気の組成等の調整を行う必要がなく、吸着剤の生産性を向上させることができる。また、原料としてリン酸(リン酸の塩を含む)以外のリン化合物を用いた場合であっても、本工程でリンの酸化数を調整して効率よくリン酸カルシウム系化合物を形成させることができる。
【0132】
また、原料として鉄(III)(鉄(III)の塩を含む)以外の鉄化合物を用いた場合であっても、本工程で鉄の酸化数を調整して効率よく鉄系化合物を形成させることができる。
【0133】
[2-4]水化工程
上記のような焼成工程で得られた焼成物をそのまま吸着剤として用いてもよいが、焼成工程の後に、水化させる水化工程をさらに有していてもよい。
【0134】
これにより、吸着剤の化学的安定性が向上する。また、吸着剤の親水性が向上し、例えば、吸着剤により処理すべき被処理物が水を含む場合に、吸着剤と被処理物との親和性(吸着剤に対する被処理物の濡れ性)をより向上させることができる。その結果、例えば、吸着剤の空孔内にも好適に被処理物を侵入させることができ、吸着剤による重金属の除去効率がさらに向上する。
【0135】
水化工程は、前記焼成物と水とを接触させることにより行うことができ、例えば、水を含む液中に前記焼成物を浸漬したり、前記焼成物に水を含む液体を噴霧したり、水蒸気の中に入れて置いたりすること等により行うことができる。
【0136】
上述したような吸着剤の製造方法によれば、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を簡易な方法で効率よく製造することができる。
【0137】
また、上述した製造方法では、製造条件、より具体的に、例えば、リン化合物および鉄化合物のドロマイト類に対する比率や、リン化合物と鉄化合物との比率、焼成工程での熱処理条件等を調整することにより、各重金属の吸着のしやすさを調整することができる。これにより、例えば、特定の種類の重金属の選択性を高めることができ、当該特定の重金属の回収、精製等に好適に適用することができる。
【0138】
なお、上述した説明では、リン吸着工程でリンを吸着したドロマイト類(リン吸着ドロマイト類)に対し、固液分離工程、乾燥工程を行ってから、鉄吸着工程を行った場合を例に挙げて説明したが、リン吸着ドロマイト類に対し、さらに焼成工程を行った後、鉄吸着工程を行ってもよい。
【0139】
また、リン吸着ドロマイト類に対し、固液分離工程や乾燥工程を行わず、鉄吸着工程を行ってもよい。この場合、リン吸着工程終了後の、溶解状態のリン化合物を含むリン溶液とドロマイト類との混合物に、別途調製した、溶解状態の鉄化合物を含む鉄溶液を添加してもよいし、上記混合物に鉄化合物を直接添加し少なくとも一部を溶解させてもよい。
【0140】
また、リン吸着工程と鉄吸着工程とを同じタイミングで行う場合には、例えば、ドロマイト類と、溶解状態のリン化合物および溶解状態の鉄化合物を含む溶液とを接触させることにより、行うことができる。
【0141】
[3]処理方法
次に、本発明の処理方法について説明する。
【0142】
本発明の処理方法は、本発明に係る吸着剤と、重金属を含む被処理物とを接触させ、被処理物中に含まれる重金属を除去することを特徴とする。
【0143】
これにより、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供することができる。
【0144】
本発明の処理方法を行う際の被処理物の形態は、特に限定されないが、通常、流動性を有しており、例えば、液状(ペースト状、スラリー状を含む)や、気体状等が挙げられる。
【0145】
特に、被処理物の形態は、液状であるのが好ましい。これにより、被処理物は、吸着剤と好適に接触(例えば、吸着剤が有する空孔内に好適に侵入)し、より効率よく重金属を除去することができる。
【0146】
吸着剤と被処理物とを接触させる際の、吸着剤と被処理物との混合物のpH(水素イオン指数)は、2.0以上12.0以下であるのが好ましく、2.5以上10.0以下であるのがより好ましく、3.0以上8.0以下であるのがさらに好ましい。
これにより、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0147】
被処理物は、除去すべき重金属を含む可能性があるものであれば、いかなるものであってもよいが、例えば、工場や実験室、発電所、建築物の解体現場、鉱山からの廃水、下水汚泥燃焼灰やこれを含む液体、井戸水等が挙げられる。
【0148】
被処理物は、除去すべき重金属を含む可能性があるものであればよく、実際に重金属を含んでいるか否かを問わない。
【0149】
ただし、被処理物中における重金属の含有率(複数種の重金属を含む場合には、これらの含有率の総和)は、特に限定されないが、10ppm以上10000ppm以下であるのが好ましく、10ppm以上1000ppm以下であるのがより好ましく、10ppm以上100ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0150】
これにより、重金属の除去率(吸着率)を特に高くしつつ、処理後の被処理物中の重金属の含有率を特に低くすることができる。すなわち、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0151】
被処理物が液状である場合、被処理物に対する吸着剤の投与量は、特に限定されないが、0.5g/L以上4g/L以下であるのが好ましく、1.5g/L以上3g/L以下であるのがより好ましい。
【0152】
これにより、吸着剤による重金属の除去を短い吸着時間でより効率よく行うことができる。
【0153】
処理時間(吸着剤と、重金属を含む被処理物との接触時間)は、1分以上120分以下であるのが好ましく、10分以上60分以下であるのがより好ましい。
これにより、吸着剤による重金属の除去をさらに効率よく行うことができる。
【0154】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0155】
例えば、本発明の吸着剤は、ドロマイト類とリン酸イオンと鉄イオンとを含み、リン酸イオンの少なくとも一部が、前記ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を形成していればよく、前述したような方法で製造されたものに限定されない。
【0156】
また、吸着剤の製造方法は、前述した工程以外の工程(例えば、前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)を有していてもよい。例えば、焼成工程よりも後に、焼成物を粉砕または解砕する工程や、分級する工程を有していてもよい。また、所定の形状に成形された吸着剤を得るための成形工程を有していてもよい。
【0157】
また、前述した実施形態では、焼成工程の後に水化工程を有する場合について代表的に説明したが、吸着剤の製造方法では、水化工程を有していなくてもよい。
【実施例0158】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0159】
[4]吸着剤の製造
(実施例1)
ドロマイト類として、岐阜県産出の国産ドロマイトを用意した。このドロマイトを粉砕および分級し、粒径を75μm以上150μm以下にした。その後、このドロマイトを105℃で24時間乾燥した後、800℃で焼成し軽焼ドロマイトとした。
【0160】
別途、300mLの三角フラスコに、1mol/Lに調整した塩酸:100mLを入れて加熱し80℃にした。そこに、汚泥灰:1gを入れ、マグネットスターラーを用いて温度を保ちつつ、50分間撹拌し、汚泥灰中に含まれるリン化合物を溶解させた。なお、汚泥灰から溶出したリン化合物のうち80質量%以上は、リン酸またはその塩であった。
【0161】
撹拌終了後に、固液分離を行い、分離した液相(濾液)を500mLにメスアップした。モリブデンブルー法により、メスアップした溶液中におけるリン化合物の濃度を求めたところ、リン溶出率は90質量%であった。溶液中のリン酸濃度は2000ppmであった。
【0162】
次に、前記溶液に対し1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHが12となるように調整した。
【0163】
次に、前記のようにしてpHが調整されたリン化合物の溶液の温度を室温(25℃)にした後、当該溶液:500mLに、上記の軽焼ドロマイト:5gを加え、この混合液を1時間撹拌することにより、焼成ドロマイトにリン化合物を吸着させた(リン吸着工程)。
撹拌終了後に、固液分離を行い、リン吸着ドロマイトを分離した。その後、リン吸着ドロマイトを自然乾燥した後、800℃で焼成処理を行った。
【0164】
一方、鉄化合物として塩化鉄(III)(FeCl3)の1mol/L水溶液を調製した。この水溶液:500mLに、前記のリン吸着ドロマイト:5gを加え、この混合液を1時間撹拌することにより、リン吸着ドロマイトに、さらに鉄化合物を吸着させた(鉄吸着工程)。
【0165】
撹拌終了後に、固液分離を行い、リン化合物および鉄化合物が吸着されたドロマイトを窒素雰囲気中で450℃(最高焼成温度)×30分間の焼成処理を施した(焼成工程)。
【0166】
次に、上記のようにして得られた焼成物を、水中に浸漬することにより水化処理を施し、その後、固液分離して自然乾燥した。その後、乳鉢ですりつぶすことにより粉末状の吸着剤を得た。
【0167】
一方、ドロマイトにリン化合物および鉄化合物を吸着させた後の液相(濾液)については、1000mLにメスアップし、その後、モリブデンブルー法によりリン化合物の濃度を求めた。そして、その結果から、ドロマイトに吸着されたリンの量(すなわち、吸着剤中におけるリンの含有率)を求めた。また、ICP質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)により鉄の量(すなわち、吸着剤中における鉄の含有率)を求めた。その結果から吸着剤中において、ドロマイトに対する、リンの含有率が1.5質量%であり、鉄の含有率が3.5質量%であるときに、最高のCr(VI)の除去率を示すことが分かった。
【0168】
(比較例1)
本比較例では、前記実施例1で原料として用いた焼成ドロマイトをそのまま吸着剤として用いた。
【0169】
図1は、実施例1の吸着剤と、鉄(Fe(III))イオンを吸着した比較例1のドロマイトのX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
【0170】
実施例1の吸着剤では、比較例1のドロマイトには見られない、Fe2O3由来のピークが確認された。これにより、実施例1の吸着剤において、鉄成分の少なくとも一部は、Fe2O3として存在していることが確認された。
【0171】
Fe2O3は、微細な多孔質を有する細孔中の表面に鉄を吸着した実施例1の吸着剤で、再焼結中に酸化され生成される。Fe2O3で細孔の表面が覆われていることで表面積の増大も期待される。これにより重金属、特にCr(III)の除去効率も向上すると推定される。
【0172】
また、
図2(A)は、比較例1で用いた焼成前のドロマイトの電子顕微鏡写真(SEM)であり、
図2(B)は、実施例1の吸着剤の電子顕微鏡写真である。
【0173】
ドロマイトは、丸いまたは花のような粒子形状であるが、リンおよび鉄を吸着させることにより、針状の形状や微粒子の塊に変化した。これにより、実施例1の吸着剤では、比較例1のドロマイトに比べて比表面積が大幅に増加したと考えられる。
【0174】
[5]評価
以下に示す評価実験では、クロム(VI)を含む標準液からのクロム(VI)の除去率を元に、吸着剤の製造条件や吸着条件について評価した。
【0175】
<クロム(VI)除去実験>
まず、クロム(VI)を10ppmの含有率で含み、他の重金属を実質的に含有しないpHが4の標準液を調製した。
【0176】
次に、前記実施例1の吸着剤について、標準液:1Lに対し、吸着剤:2gを加え、室温(25℃)で2時間撹拌した。その後、固液分離し、液相について、ICP質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)によりクロム(VI)の含有率を求め、当該含有率の値から吸着剤による除去率を求めた。
【0177】
[5-1]リンの最適含有率についての検討
ドロマイトに対する鉄(III)の含有率を2質量%に固定して、リンの含有率を1質量%から4.5質量%の間で変化させるとともに、焼成温度を450℃、550℃と変更、あるいは焼成に変えて80℃での乾燥処理とした以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
そして、得られた吸着剤を用いて、上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った。
【0178】
図3は、焼成温度を変えて行った場合の、リンの含有率とクロム除去率との関係を示す図である。
【0179】
2.0質量%のFe添加吸着剤の焼成温度については、450℃のときにクロム(VI)除去率(吸着率)が最も大きくなる結果が得られた。焼成を行わず乾燥処理のみとした場合、十分な除去率は得られなかった。また、いずれの焼成温度でも、リンの含有率が1.5質量%のときにクロム除去率が最も大きくなる結果が得られた。
【0180】
この場合、リンの含有率が1.5質量%であり、焼成温度が450℃のときに、クロム除去率が81.59%と最も高い結果が得られた。
【0181】
[5-2]鉄の最適含有率についての検討
ドロマイトに対するリンの含有率を1.5質量%に固定して、鉄(III)の含有率を1質量%から4.5質量%の間で変化させるとともに、焼成温度を450℃、550℃と変更、あるいは焼成に変えて80℃での乾燥処理とした以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
そして、得られた吸着剤を用いて、上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った。
【0182】
図4は、焼成温度を変えて行った場合の、鉄の含有率とクロム(VI)除去率との関係を示す図である。
【0183】
焼成温度については、450℃のときにクロム(VI)除去率が最も大きくなる結果が得られた。焼成を行わず乾燥処理のみとした場合、十分な除去率は得られなかった。また、いずれの焼成温度でも、鉄の含有率が3.5質量%のときにクロム除去率が最も大きくなる結果が得られた。
【0184】
この場合、鉄の含有率が3.5質量%であり、焼成温度が450℃のときに、クロム除去率が92.19%と最も高い結果が得られた。
【0185】
以下では、ドロマイトに対するリンの含有率を1.5質量%、鉄(III)の含有率を3.5質量%に固定し、吸着剤の製造条件について検討した。
【0186】
[5-3]焼成温度についての検討
焼成温度を120℃から800℃の間で変更した以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
そして、得られた吸着剤を用いて、上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った。
【0187】
図5は、焼成温度と、クロム(VI)の除去率および吸着量との関係を示すグラフである。いずれも、焼成温度が450℃のときに、クロム(VI)の除去率および吸着量が最も高くなる結果が得られている。
【0188】
また、80℃で乾燥処理した吸着剤と、450℃で焼成した吸着剤を用い、標準液のpHを2から12の間で変えたこと以外は、上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った。
【0189】
図6は、標準液のpHとクロム(VI)吸着量との関係を示すグラフである。
焼成を行わず乾燥処理のみとした場合、十分な除去率は得られなかった。450℃で焼成した吸着剤については処理溶液のpHが2から12まで良好なクロム(VI)吸着特性を示した。標準液のpHが4のときに、最も高いクロム(VI)吸着量4.49mg/gの結果が得られた。
【0190】
以上の結果から、吸着剤の焼成温度が450℃であり、標準液のpHが4のときに、良好なクロム(VI)吸着特性が得られた。
【0191】
図7は、焼成温度を変更した場合のX線粉末回折の結果を示す図である。
図7から、焼成温度が高くなるに従って、結晶性が向上し、ヒドロキシアパタイト(HAP)の化学量論比のピークに近づいていることがわかる。
【0192】
図8は、焼成温度を変更した場合の細孔容積分布を示す図である。
図8から、窒素雰囲気では、焼成温度が400℃以上500℃以下の範囲で、微細なメソ孔が増加し、比表面積が増加していることがわかる。
【0193】
また、
図9は、焼成温度を変更した場合のヒドロキシアパタイト(HAP)の結晶子径を示す図であり、
図10は、焼成温度を変更した場合のMgOの結晶子径を示す図である。
【0194】
[5-4]焼成温度とBET比表面積についての検討
図11は、鉄およびリンを吸着した、実施例1の吸着剤のTG-DTA曲線である。
吸着剤の分解は、DTAピークによって4つの異なる段階で発生したことがわかる。
まず、141℃付近のピークは、水分が除去されたことによるものと考えられる。また、380℃付近のピークは、Mg(OH)
2の脱水によるものと考えられる。また、460℃付近のピークは、Fe(OH)
3の脱水によるものと考えられる。680℃付近のピークは、Ca(CO)
3の分解によるものと考えられる。
これらの結果から、Fe(OH)
3は、約450℃で脱水されることがわかる。
【0195】
焼成温度を400℃から700℃の間で変更した以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
【0196】
図12は、焼成温度と吸着剤のBET比表面積との関係を示すグラフである。
BET比表面積は、焼成温度が450℃のときに急激に増加し、最大で50m
2/gになることがわかる。焼成温度が高すぎると、却ってBET比表面積は低下した。
なお、BET比表面積は、表面積測定装置(Mircometrics社製、TriStarII3020)を用いた測定により求められた数値である。
【0197】
図13は、焼成温度を450℃、700℃とした場合についての、吸着剤の細孔径と細孔容積との関係を示すグラフである。
【0198】
焼成温度が450℃の場合において、細孔径3.74nmの細孔が大量に生成されるときに細孔容積が最も大きくなる結果が得られていることがわかる。これは、Fe2O3およびMgOが微細な多孔質を有することに寄与するためと考えられる。
【0199】
図12および
図13に示した結果から、ドロマイトに吸着したFe(OH)
3は、焼成することにより約450℃で脱水されて、微細な多孔質のFe
2O
3となり、これにより、BET比表面積の増加につながると考えられる。
【0200】
[5-5]焼成雰囲気についての検討
焼成温度を400℃としたうえで、焼成雰囲気の組成を、窒素から、空気、二酸化炭素に変更した以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
得られた各吸着剤について、細孔容積分布を求めた。
【0201】
図14は、焼成工程での雰囲気の組成を変更した場合の細孔容積分布を示す図である。
図14から、焼成温度400℃では、窒素雰囲気で焼成を行うことにより、微細なメソ孔が増加し、比表面積が増加していることがわかる。
【0202】
また、焼成温度および焼成雰囲気の組成を変更した以外は、前記実施例1と同様にして製造した吸着剤を用いて、上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った。
【0203】
図15は、焼成温度および焼成雰囲気の組成を変更して製造した各吸着剤についてのクロム(VI)の除去量を示す図である。
【0204】
以下の実験では、吸着剤を用いた、クロム(VI)の吸着条件について検討した。
[5-6]吸着処理時のpHの影響についての検討
比較例1の吸着剤(ドロマイト)と、実施例1の吸着剤を用い、標準液のpHを2から9の間で変えたこと以外は、上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った。
【0205】
図16は、上記標準液のpHを2から9の範囲で変えた場合の、pHとクロム(VI)除去率との関係を示すグラフである。
【0206】
実施例1の吸着剤では、比較例1に比べて非常に高いクロム(VI)除去率が実現できていることがわかる。
また、標準液のpHが4のときに、90%と最も高いクロム(VI)除去率が得られた。
【0207】
クロム(VI)は、以下に示すようにクロム酸水素アニオン(HCrO4
-)として分布しており、酸性であることがクロム(VI)の除去にとって有利であることがわかった。
HCrO4
-⇔CrO4
2-+H+ pKa=5.9
H2CrO4⇔HCrO4
-+H+ pKa=4.1
Cr2O7
2-+H2O⇔2HCrO4
- pKa=2.2
【0208】
[5-7]吸着剤の投与量についての検討
実施例1の吸着剤を用い、標準液に対する吸着剤の投与量を0.5g/Lから4g/Lの間で変えたこと以外は、上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った。
【0209】
図17は、標準液に対する吸着剤の投与量とクロム(VI)除去率との関係を示すグラフである。
【0210】
吸着剤の投与量を増やすと、除去率が向上した一方で吸着量は減少した。これは、表面積が増えることにより、空の吸着サイトが大きくなるためと考えられる。
【0211】
標準液に対する吸着剤の投与量が2g/Lのときに、クロム(VI)除去率が90.032%と、最も良好な結果が得られた。
【0212】
[5-8]クロム(VI)初期濃度と処理時間についての検討
実施例1の吸着剤を用い、標準液におけるクロム(VI)の初期濃度を10ppm、20ppm、50ppmと変えたこと以外は、上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った。
【0213】
図18は、標準液のクロム(VI)の初期濃度を変えた場合の、処理時間とクロム(VI)除去率との関係を示すグラフである。
【0214】
クロム(VI)の初期濃度が高くなるほど、吸着量自体は増えるものの、一方で除去率は低下した。これは、吸着剤がクロム(VI)を吸着することにより表面のサイトが覆われていくことで、吸着可能な活性サイトが制限されるためと考えられる。
【0215】
いずれの初期濃度においても吸着速度は速く、最初の10分ほどで急速に吸着が進み、約1時間で平衡に近づいた。
【0216】
図19は、実施例1の吸着剤を用いて上記と同様にしてクロム(VI)除去実験を行った場合の吸着等温線を示すグラフである。
なお、図では、ラングミュア式、フロインドリッヒ式に基づくモデル等温線も併せて示している。
実験結果は、ラングミュア式によるモデル等温線によく適合した。
【0217】
以上の結果から、本発明では、高い除去率(吸着率)で重金属であるクロム(VI)を除去(吸着)することができた。
【0218】
また、前記実施例1では、25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合し、1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めたリン酸イオンの溶出量の値は、いずれも、10ppm以下であり、その後にさらに、固液分離し、25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合し、1時間撹拌した場合のリン酸イオンの溶出量の値は、いずれも、吸着剤に含まれる全リン(吸着量)の80%以上であった。
【0219】
この結果から、実施例1では、吸着剤中において、リン酸イオンの大部分が、ドロマイト類を構成するCaと化学結合し、リン酸カルシウム系化合物を形成していることが分かる。
【0220】
また、前記実施例1では、25℃で1gの吸着剤を100mLの水と混合し、1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めた鉄イオンの溶出量の値は、いずれも、10ppm以下であり、その後にさらに、固液分離し、25℃で1gの吸着剤を100mLの1Nの塩酸と混合し、1時間撹拌した場合の鉄イオンの溶出量の値は、いずれも、吸着剤に含まれる全鉄(吸着量)の80%以上であった。
【0221】
この結果から、実施例1では、吸着剤中において、鉄イオンの大部分が、リン酸と化学結合し、リン酸鉄を形成していることが分かる。
【0222】
また、実施例1の吸着剤について、X線回折(XRD)にて成分の分析を行ったところ、リン酸カルシウム系化合物(リン酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ヒドロキシアパタイト)が含まれていることが確認された。
【0223】
ドロマイトの代わりに水酸化ドロマイトを用いて同様にして吸着剤を製造し、各種評価実験を行ったところ、上記と同様な結果が得られた。
【0224】
また、クロム(VI)に変えてクロム(III)を用いて前記標準液と同様にして調製した液体を標準液として用いた以外は、前記と同様の評価を行ったところ、クロム(VI)の場合と同様に、クロム(III)についても高い除去率で除去することができた。
【0225】
また、クロム(VI)に変えてヒ素、ニッケル、カドミウム、鉛を用いて前記標準液と同様にして調製した液体を標準液として用いた以外は、前記と同様の評価を行ったところ、クロム(VI)の場合と同様に、これらの重金属についても高い除去率で除去することができた。
【0226】
なお、
図20は、ドロマイト原石と、当該ドロマイト原石を所定の焼成温度で焼成した焼成ドロマイトとについての、RIR(Reference Intensity Ratio:参照強度比)法による各結晶相の定量分析の結果を示す図である。
本発明の吸着剤は、ドロマイト類とリン酸イオンと鉄イオンとを含み、リン酸イオンの少なくとも一部が、ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を形成している。そのため、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を提供することができる。また、本発明の処理方法は、本発明に係る吸着剤と、重金属を含む被処理物とを接触させ、被処理物中に含まれる前記重金属を除去する。そのため、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供することができる。したがって、本発明の吸着剤および処理方法は、産業上の利用可能性を有する。