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特開2024-165590タンパク質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、組成物、ポリエチレンテレフタレートの検出方法、及びポリエチレンテレフタレートの分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165590
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】タンパク質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、組成物、ポリエチレンテレフタレートの検出方法、及びポリエチレンテレフタレートの分解方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20241121BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20241121BHJP
   C07K 1/13 20060101ALI20241121BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N9/14
C07K1/13
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081904
(22)【出願日】2023-05-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、創発的研究支援事業、「プラスチックを探して壊すバイオマイクロドローンの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】橋野 嘉仁
【テーマコード(参考)】
2G043
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA04
2G043BA14
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA01
2G043DA02
2G043DA08
2G043DA09
2G043EA01
2G043EA13
2G043FA07
2G043KA02
2G043KA03
2G043KA05
2G043LA01
2G043MA01
2G043NA01
2G043NA05
2G043NA11
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA46
4B065CA55
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA89
4H045EA50
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】PETへの結合性を有するタンパク質;前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクター及び形質転換体;前記タンパク質を含む組成物;並びにPETの検出方法及び分解方法を提供する。
【解決手段】配列番号1のアミノ酸配列に対してK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記K13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列を含み、ポリエチレンテレフタレートへの結合能を有する、タンパク質;前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクター及び形質転換体;前記タンパク質を含む組成物;並びにPETの検出方法及び分解方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列に対してK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記K13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列を含み、
ポリエチレンテレフタレートへの結合能を有する、タンパク質。
【請求項2】
60℃でポリエチレンテレフタレートへの結合能を有する、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
さらに標識物質を含む、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記標識物質が蛍光色素又は蛍光タンパク質である、請求項3に記載のタンパク質。
【請求項5】
さらに酵素ドメインを含む、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項6】
前記酵素ドメインがポリエチレンテレフタレート分解酵素ドメインである、請求項5に記載のタンパク質。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載のタンパク質を含む組成物。
【請求項11】
請求項3又は4に記載のタンパク質をポリエチレンテレフタレートへ接触させることと、
前記標識物質を検出することと、
を含む、ポリエチレンテレフタレートの検出方法。
【請求項12】
請求項6に記載のタンパク質をポリエチレンテレフタレートへ接触させることを含む、ポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンパク質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、組成物、ポリエチレンテレフタレートの検出方法、及びポリエチレンテレフタレートの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックによる環境汚染の解決や、持続可能な社会の構築が重要視されている。その中で、ポリエチレンテレフタレート(PET)は国内で生産されているプラスチックの4%を占めており、飲料ボトルや衣類など身近なところで使用されている。また、エンジニアリングプラスチックとしてガラス繊維などとの複合材料も使用されている。
【0003】
PETの持続可能な利用を目的とした様々なPET分解技術が報告されている。例えば、特許文献1~4では、PET分解酵素が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/168811号
【特許文献2】特開2015-119670号公報
【特許文献3】国際公開第2012/099018号
【特許文献4】特表2019-527060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
使用されたプラスチックが環境中に流出することで微細化し、水中を漂っていることが知られている。このような環境中に漂うプラスチックは「マイクロプラスチック」と呼ばれる。環境汚染への対応のため、PETを除去したり分解したりする技術が望まれる。PETの検出、除去や分解には、PETに結合可能な物質を用いることが有用であるが、これまでに、PETに結合性を有する物質に関する知見は限られている。
上記事情に鑑み、本開示は、PETへの結合性を有するタンパク質;前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクター及び形質転換体;前記タンパク質を含む組成物;並びにPETの検出方法及び分解方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> 配列番号1のアミノ酸配列に対してK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記K13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列を含み、
ポリエチレンテレフタレートへの結合能を有する、タンパク質。
<2> 60℃でポリエチレンテレフタレートへの結合能を有する、<1>に記載のタンパク質。
<3> さらに標識物質を含む、<1>又は<2>に記載のタンパク質。
<4> 前記標識物質が蛍光色素又は蛍光タンパク質である、<3>に記載のタンパク質。
<5> さらに酵素ドメインを含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載のタンパク質。
<6> 前記酵素ドメインがポリエチレンテレフタレート分解酵素ドメインである、<5>に記載のタンパク質。
<7> <1>~<6>のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
<8> <7>に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
<9> <8>に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
<10> <1>~<6>のいずれか1項に記載のタンパク質を含む組成物。
<11> <3>又は<4>に記載のタンパク質をポリエチレンテレフタレートへ接触させることと、前記標識物質を検出することと、を含む、ポリエチレンテレフタレートの検出方法。
<12> <6>に記載のタンパク質をポリエチレンテレフタレートへ接触させることを含む、ポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、PETへの結合性を有するタンパク質;前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクター及び形質転換体;前記タンパク質を含む組成物;並びにPETの検出方法及び分解方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】PfChBD2-fADL-1eの遺伝子マップを示す。
図2】バイオパニングの流れの概要を示す。
図3】バイオパニングにおける2ラウンド目及び3ラウンド目での洗浄液(Wash)と溶出液を植菌したカナマイシン50μg/mL添加2×YT寒天培地に生じたコロニー数を示す。
図4】PfChBD2(PDB ID:2CWR)とAlphaFold2で予測されたPfChBD2-K270T-N272P-E279L-D281R、PfChBD2-K270P-E279L-D281W、及びPfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体の三次元構造を示す。斜線ハッチング部は変異を加えたK270、N272、E279、D281の位置を示す。a:全体の構造を示す。b:変異箇所を拡大したものを示す。
図5】stagRFP-PfChBD2-TEV-Hisの遺伝子マップを示す。
図6】PfChBD2の野生型(WT)とK270H-N272P-E279V-D281G変異体におけるPETへの結合量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示の実施形態は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示の実施形態を制限するものではない。
【0010】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示において要素が単数形で表記されている場合であっても、特に明示されているときを除き、技術的な矛盾が生じない限りは複数の存在を排除しない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本開示において、アミノ酸配列の「同一性」とは、比較する2つのアミノ酸配列を、アミノ酸残基の一致数が最大となるように、必要に応じて一方又は双方に適宜ギャップを挿入してアラインメントしたときの、全アミノ酸残基数における一致アミノ酸残基数の割合をいう。アラインメントは、BLASTのデフォルトパラメータで評価することができる。
【0012】
本開示において、基準とするアミノ酸配列と「X%以上の配列同一性を有する」とは、比較対象のアミノ酸配列の全長又は一部分が、基準とするアミノ酸配列の全長に対してX%以上の配列同一性を有することを意味する。
【0013】
本開示において、アミノ酸残基は以下の括弧内の一文字表記で示すことがある。
アラニン(A)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、リシン(K)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、バリン(V)。
【0014】
本開示において、ペプチド又はタンパク質のアミノ酸変異は、変異前のアミノ酸の一文字表記、N末端からのアミノ酸位置番号、変異後のアミノ酸の一文字表記、の順に並べて表記することがある。例えば、「配列番号1のアミノ酸配列に対してK13Hの変異を有する」とは、配列番号1のN末端から数えて13番目のリシンがヒスチジンに置換されていることを意味する。
【0015】
本開示において、「Xのアミノ酸配列を含むタンパク質」とは、当該タンパク質のアミノ酸配列の全部又は一部がXのアミノ酸配列であることを意味する。すなわち、当該タンパク質は、Xのアミノ酸配列のみからなってもよく、Xのアミノ酸配列に加えて、Xのアミノ酸のN末端及びC末端の一方又は両方に付加配列(例えばタンパク質発現及び回収のための配列、例えばシグナル配列、タグ配列等;タンパク質の標識のための配列;他のドメイン等)を有していてもよい。
【0016】
<タンパク質>
本開示のタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列に対してK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記K13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列を含み、PETへの結合能を有する。
【0017】
配列番号1:
TTPVPVSGSL EVKVNDWGSG AEYDVTLNLD
GQYDWTVKVK LAPGATVGSF WSANKQEGNG
YVIFTPVSWN KGPTATFGFI VNGPQGDKVE
EITLEINGQV I
【0018】
配列番号1のアミノ酸配列は、Pyrococcus furiosus由来耐熱性キチナーゼのCBM2ファミリーキチン結合ドメイン(以下、「PfChBD2」とも記す。)のアミノ酸配列を表す。発明者らは、PfChBD2のアミノ酸配列に対する上記の4変異が、PETへの結合能を向上させることを見出した。かかる4変異を有するタンパク質は、PETへの結合能を有するタンパク質として有用となる可能性がある。
【0019】
本開示のタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列に対してK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列に対してK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列と91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。以下に、配列番号1のアミノ酸配列に対してK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列を示す。
【0020】
配列番号2:
TTPVPVSGSL EVHVPDWGSG AVYGVTLNLD
GQYDWTVKVK LAPGATVGSF WSANKQEGNG
YVIFTPVSWN KGPTATFGFI VNGPQGDKVE
EITLEINGQV I
【0021】
本開示のタンパク質は、上記の配列同一性を満たす範囲において、配列番号1に対してK13H、N15P、E22V、及びD24G以外の変異を含んでいても含んでいなくてもよい。例えば、本開示のタンパク質は、K13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を含んでいる限り、配列番号2に対して、1個又は2個以上のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。この場合、欠失、置換、又は付加されるアミノ酸の個数は、タンパク質がPETへの結合能を有する限り制限されず、例えば、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個であってもよい。欠失、置換、又は付加されるアミノ酸の位置は、例えば配列番号1のN末端から1~12番目、14番目、16~21番目、23番目、又は25~101番目からなる群より選択される1又は複数の範囲であってよい。
【0022】
本開示のタンパク質は、N末端又はC末端に付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。付加的なアミノ酸配列としては、本開示のタンパク質を組み換え技術により作製するための付加配列が挙げられる。かかる付加配列としては、タンパク質の合成開始点となるアミノ酸(N末端のメチオニン残基等)、N末端のシグナル配列(例えば、大腸菌におけるタンパク質分泌のためのシグナル配列)、タグ配列(例えば、ヒスチジンタグ、GSTタグ、FLAGタグ等)、プロテアーゼ認識配列(例えば、TEVプロテアーゼ認識配列)等が挙げられる。また、本開示のタンパク質は、後述する標識物質及び/又は酵素ドメインを含んでいてもよい。
【0023】
本開示のタンパク質は101~1000アミノ酸からなるものであってもよく、101~500アミノ酸からなるものであってもよく、101~300アミノ酸からなるものであってもよい。
【0024】
本開示のタンパク質は、PETへの結合能を有する。本開示のタンパク質がPETへの結合能を有する条件は特に制限されず、例えば、いずれかの温度条件でPETへの結合能を有すればよい。本開示のタンパク質は、例えば20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、又は65℃でPETへの結合能を有する。好ましくは、本開示のタンパク質は、少なくとも25℃でPETへの結合能を有することが好ましく、少なくとも25℃~40℃でPETへの結合能を有することがより好ましく、少なくとも25~50℃でPETへの結合能を有することがさらに好ましく、少なくとも25℃~60℃の温度域でPETへの結合能を有することが特に好ましい。
また、例えば、本開示のタンパク質は、いずれかのpH条件でPETへの結合能を有すればよい。本開示のタンパク質は、例えばpH4、5、6、7、8、9、又は10でPETへの結合能を有する。好ましくは、本開示のタンパク質は、少なくともpH8でPETへの結合能を有することが好ましく、少なくともpH6~8でPETへの結合能を有することがより好ましく、少なくともpH5~9でPETへの結合能を有することがさらに好ましく、少なくともpH4~10でPETへの結合能を有することが特に好ましい。
【0025】
本開示において、PETへの結合能は以下の少なくともいずれかの方法により確認する。以下のいずれかの方法により結合が確認できた場合に、試験対象のタンパク質がPETへの結合能を有すると判断する。
1.結合させたPETを熱処理してSDS-PAGEにより結合したタンパク質量を解析する方法:PETフィルム又はPET粉末と試験対象のタンパク質を混合し反応させたのち、遠心して得られたPET沈殿物を洗浄する。洗浄したPETフィルム又はPET粉末をサンプルバッファーに懸濁して加熱することにより、PETに結合していたタンパク質を変性させて回収する。SDS-PAGEにより結合していたタンパク質量を解析する。または、PETの有無で上澄中のタンパク質量をSDS-PAGEにより比較することで、PETに結合して減少したタンパク質量を算出し、結合した量を解析する。
2.反応後上澄の280nm吸光度減少:よく洗浄したPETフィルム又はPET粉末と試験対象のタンパク質を含むタンパク質溶液を混合して、結合反応を行う。上澄みを回収し、タンパク質に由来する280nm吸光度の減少を計測することで、PETへ結合して減少した溶液中のタンパク質量を推定する。
【0026】
一態様において、本開示のタンパク質は、さらに標識物質を含んでいてもよい。標識物質とは、本開示のタンパク質を検出可能とする標識となる物質である。本開示のタンパク質が標識物質を含むと、PETへ結合した本開示のタンパク質の容易な検出が可能となる。
標識物質としては、蛍光色素、蛍光タンパク質、アルキニル基(例えば、ラマン分光用タグとしてのアルキニル基)等が挙げられる。なかでも、蛍光色素又は蛍光タンパク質が好ましい。
蛍光色素としては、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類等が挙げられる。
蛍光タンパク質としては、赤色蛍光タンパク質(RFP)、橙色蛍光タンパク質(mOrange)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、シアン色蛍光タンパク質(CFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)等が挙げられる。赤色蛍光タンパク質としては、例えば、stagRFPが知られている(Nature Communications (2020) 11:1848)。
【0027】
一態様において、本開示のタンパク質は、さらに酵素ドメインを含んでいてもよい。「酵素ドメイン」とは、酵素活性を有するドメインである。本態様において、酵素ドメインは、「配列番号1のアミノ酸配列に対してK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記K13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異を有するアミノ酸配列を含み、PETへの結合能を有する」ドメイン(以下、「PET結合ドメイン」とも記す。)に連結されているドメインである。換言すると、本開示のタンパク質は酵素ドメインとPET結合ドメインとが連結したタンパク質であってもよい。
【0028】
酵素ドメインにおける酵素の種類は特に制限されず、例えば、PET分解酵素ドメイン等が挙げられる。例えば、本開示のタンパク質がPET分解酵素ドメインとPET結合ドメインが連結したタンパク質である場合、PET結合ドメインによってPETへの結合を担保したうえで、PET分解酵素ドメインによってPETの分解が可能となるため、効率的なPETの分解が可能となると考えられる。
【0029】
PET分解酵素としては、各種の酵素が知られており、例えば、国際公開第2019/168811号;特開2015-119670号公報;国際公開第2012/099018号;特表2019-527060号公報;Meilleur, C.; Hupe, J. F.; Juteau, P.; Shareck, F. Isolation and Characterization of a New Alkali-Thermostable Lipase Cloned from a Metagenomic Library. J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 2009, 36, 853-61;Danso, D.; Schmeisser, C.; Chow, J.; Zimmermann, W.; Wei, R.; Leggewie, C.; Li, X.; Hazen, T.; Streit, W. R. New Insights into the Function and Global Distribution of Polyethylene Terephthalate (Pet)-Degrading Bacteria and Enzymes in Marine and Terrestrial Metagenomes. Appl. Environ. Microbiol. 2018, 84, No. e02773-17等に記載の酵素が挙げられる。
【0030】
PET分解酵素のPET加水分解活性の至適pH(最も活性が高いpH)は特に制限されず、中性付近であることが実用上好ましい。例えば、至適pHはpH5.0~9.5であることが好ましく、pH5.5~9.0であることがより好ましく、pH6.0~8.0であってもよい。
【0031】
PETは70℃付近にガラス転移温度を有し、PETの分解を高温で行うと分解効率が高まることが期待されることから、PET分解酵素のPET加水分解活性の至適温度は、pH7において、60℃超であることが好ましく、65℃以上であることがより好ましい。また、PETの分解が促進される範囲で、低エネルギーで分解を行う観点からは、PET分解酵素のPET加水分解活性の至適温度は90℃以下であってもよく、85℃以下であってもよく、80℃以下であってもよい。
上記至適温度は以下のように測定する。2枚の非晶性PETディスク(厚さ0.25mm、表面積合計0.32cm、質量合計4.0mg)に、50mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の250μLの0.1μMタンパク質を添加し、各温度で60分間インキュベートする。HPLCで分解産物濃度を分析し、分解産物濃度の合計をタンパク質濃度及び反応時間で除算して、活性値を得る。
【0032】
PETの加水分解による分解産物としては、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)、モノ(ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)、テレフタル酸(TPA)、及びエチレングリコール(EG)が挙げられる。PET分解酵素によるPETの分解産物は、これらすべてであってもよく、これらのうち一部であってもよく、これらが連結した部分分解産物であってもよい。
【0033】
PET分解酵素の融解温度(Tm)は、70.0℃以上であることが好ましく、72.0℃以上であることがより好ましく、74.0℃以上であることがさらに好ましい。PETの分解が促進される範囲で、低エネルギーで分解を行うことが望ましいため、PET分解酵素の融解温度(Tm)は、100.0℃以下であってもよく、95.0℃以下であってもよく、90.0℃以下であってもよい。
本開示において、タンパク質の融解温度(Tm)は以下の手順で円偏光二色性(CD)スペクトルにより測定される。10mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.0)中の13μMのタンパク質溶液を調製する。20℃で250~200nmにおけるタンパク質のCDスペクトルを測定する。タンパク質を20℃から1℃/分の速度で加熱しながら、230nmにおけるタンパク質のシグナルを追跡する。95℃で、250~200nmにおける変性タンパク質のCDスペクトルを測定する。230nmにおけるシグナルの温度依存性のカーブフィッティングにより、タンパク質のTmを推定する。
【0034】
<ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体>
本開示のポリヌクレオチドは、本開示のタンパク質をコードする塩基配列を含む。
本開示の組換えベクターは、前記ポリヌクレオチドを含む。
本開示の形質転換体は、前記組換えベクターを含む。
【0035】
ポリヌクレオチドは、本開示のタンパク質をコードする任意のポリヌクレオチドであってよい。ポリヌクレオチドの核酸配列は、コドンの縮重の範囲内で変化させることができる。組換えベクターを宿主に導入して形質転換体を得て、タンパク質を発現させる場合、宿主において使用頻度の高いコドンを採用することが好ましい。
【0036】
組換えベクターは、本開示のタンパク質を発現可能な任意の組換えベクターであってよい。好ましい組換えベクターとしては、プラスミド、ファージ等が挙げられる。発現ベクターは、発現に必要なプロモーターを有し、ターミネーター、選択マーカー(薬剤耐性遺伝子等)などの他の構成要素を有してもよい。
宿主は、本開示のタンパク質を発現可能であれば特に制限されず、用いる組換えベクターと併せて選択される。宿主として、微生物細胞を用いることが簡便であり、例えば、原核生物(例えば、大腸菌)、真核生物(例えば、酵母)等を用いてもよい。
発現ベクター及び宿主を用いてタンパク質の作製を行う際の、形質転換、発現、及び回収における条件は、当業者に周知の方法を採用できる。
【0037】
<組成物>
本開示の組成物は、本開示のタンパク質を含む。本開示のタンパク質は、未精製の状態(例えば、タンパク質を発現する宿主を含む状態、又はタンパク質を発現する宿主から分泌された粗タンパク質液を含む状態)、又は精製された状態で組成物に含まれていてもよく、好ましくは精製された状態で組成物に含まれる。
【0038】
本開示の組成物は、本開示のタンパク質の他に、タンパク質の安定化に適する緩衝液等を含んでもよい。緩衝液としては、組成物の液性を中性付近に維持する緩衝液が好ましく、例えば、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、Tris-HCl緩衝液、HEPES等が挙げられる。
本開示の組成物は、本開示のタンパク質及び緩衝液の他、安定化剤等の添加剤を含んでもよい。
【0039】
<PETの検出方法>
一実施形態において、標識物質を含む本開示のタンパク質をPETへ接触させることと、前記標識物質を蛍光検出することと、を含む、PETの検出方法が提供される。かかる方法によれば、本開示のタンパク質がPETに結合するため、標識物質を検出することで、PETを効率的に検出することができる。標識物質の詳細は上述の通りである。
【0040】
<PETの分解方法>
一実施形態において、PET分解酵素ドメインを含む本開示のタンパク質をPETへ接触させることを含む、PETの分解方法が提供される。かかる方法によれば、本開示のタンパク質がPETに結合するため、PETを効率的に分解することができる。PETを分解する際の温度及び反応時間は、PETの分解に適する範囲で適宜設定することができる。PET分解酵素ドメインの詳細は上述の通りである。
【実施例0041】
次に本開示の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本開示の実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
1.背景と目的
自然界で、セルラーゼやキチナーゼが持つ糖鎖結合モジュール(Carbohydrate-Binding Module、CBM)には、結晶性セルロースやキチンへの酵素の結合能を向上させ、分解活性を向上させるものがある。CAZy(Carbohydrate-Active EnZymes)データベース上で、CBMファミリーはアミノ酸配列の相同性から分類され、現在96のファミリーが存在する。また、CBMには、結晶性セルロースのような不溶性糖質に結合できるタイプA、不溶性基質を除く多種の糖鎖内部に結合できるタイプB、糖鎖の末端に結合できるタイプCという3つのタイプがある。特に、タイプAのCBMでは表面に露出した芳香族残基が平らな結晶性セルロースやキチン表面と結合するために、平面的な相互作用表面を形成している。CBMはPETに対して親和性を持つ可能性があり、PETとの相互作用にはタイプAのCBMが持つ露出した芳香族アミノ酸残基が重要な役割を果たしていることが示唆されている。平らな結晶性セルロースやキチンのようにPET表面にも、タイプAのCBMが持つ露出した芳香族アミノ酸が相互作用できると考えられる。そのため、酵素のPETへの結合能を向上させるための戦略として、CBMを酵素に融合するアプローチが行われている。
【0043】
Pyrococcus furiosus由来耐熱性キチナーゼのCBM2ファミリーキチン結合ドメイン(PfChBD2)はタイプAのCBMである。PfChBD2は耐熱性が高く、PETのガラス転移温度よりも高い85℃でも構造を保つことが確認されており、PET結合ドメインのテンプレート構造として適している。
【0044】
本研究では、PfChBD2をテンプレートとし飽和変異導入とファージディスプレイ法を用いて人工的に進化させることでPETに結合能を持つタンパク質の開発を試みた。ファージベクターに組み込んだPfChBD2の遺伝子に飽和変異導入を行い、プラスミドライブラリを構築した。プラスミドライブラリから大腸菌を用いて、PfChBM2変異体を提示したファージライブラリを作製した。ファージライブラリに対して、非晶性PETフィルム片とのアフィニティセレクションを行うことでPETに結合能を持つタンパク質の創出を行った。
【0045】
2.PfChBD2-fADL-1eの作製
PETに結合するPfChBD2変異体の創出を行うために、まずPfChBD2を表面に提示するファージを発現させるプラスミドDNAを作製した。ファージ発現用のプラスミドはfADL-1eを用いた。fADL-1eはファージベクターであり、目的遺伝子を挿入したfADL-1eを大腸菌(SS320株)に形質転換すると、目的タンパクを表面に提示したM13ファージを発現させることができる。fADL-1eには選択マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子が組み込まれている。またPETに結合したファージを回収するため、PfChBD2遺伝子とg3pタンパク質遺伝子の間にトリプシン切断部位を挿入した。
PCRにより増幅したPfChBD2をコードするDNA及びfADL-1eをライゲーションして、ファージ感染耐性を持つ大腸菌(DH10B)に形質転換した。その大腸菌を培養し、プラスミド抽出することでPfChBD2プラスミドDNAを得た。
【0046】
(1)PfChBD2遺伝子とプラスミド(fADL-1e)のPCR
<方法>
テンプレートDNAであるPfChBD2遺伝子とfADL-1eファージベクターのDNA溶液(1ng/μL)を5μL、10μMのプライマーMix0.75μLと混合し、全量が12.5μLになるように超純水を加えた(表1)。混合液に2×KOD One PCR Master mix12.5μLを加え、サーマルサイクラーにて98℃10秒、68℃40秒を30サイクルの条件でPCR反応を行った。使用したプライマーを表2に示す。PCR反応液サンプルにLoading Bufferを加え、2%、1%アガロースゲルにそれぞれアプライし、100Vで25分電気泳動した。MIDORI Green Xtraでゲルを染色してバンドサイズを確認した。バンドをゲルから全て切り出しマイクロチューブに入れた。Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて、ゲル抽出を行った。吸光度計を用いて、精製したDNAサンプルのDNA濃度を測定した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
<結果>
予想されるDNAサイズはPfChBD2が384bp,fADL-1eが7950bpである。ゲル上では400bp,8kbp付近にそれぞれバンドがみられたため、目的遺伝子が増幅されていたことが分かった。ゲル抽出により、DNA濃度がPfChBD2から6.2ng/μL、fADL-1eから36.8ng/μLのDNAサンプルをそれぞれ25μL得た。
【0050】
(2)PfChBD2遺伝子とプラスミド(fADL-1e)のライゲーション及び形質転換
<方法>
(1)で得られた2つのDNAサンプルを各1μL、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mixを2μL加え、サーマルサイクラーで50℃、1時間インキュベートし、ライゲーションした。ライゲーション反応液0.8μLをエレクトロコンピテントセル(DH10B株)50μLに混合し、エレクトロポレーションキュベットに混合液を入れた。DH10B株はバクテリオファージに対して感染耐性を持つ。エレクトロポレーションを行い、SOC培地200μLを加えて懸濁した。懸濁液をマイクロチューブに回収し、37℃、1,000rpmで1時間インキュベートした。懸濁液をカナマイシン50μg/mL添加LB寒天培地に植菌し、37℃で1日インキュベートした。
寒天培地にできたコロニーから一つ選択して、カナマイシン50μg/mL添加LB液体培地に植菌し、37℃、300rpmで1日インキュベートした。細菌培養液の入ったチューブを回収し、6,000gで3分間遠心分離した。上清を除き、沈殿した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kitを用いて、プラスミド抽出を行った。吸光度計を用いて、精製したプラスミドのDNA濃度を測定した。目的遺伝子が正確にプラスミドに挿入されているのか確認するために、精製したプラスミドDNAサンプルをシーケンス解析した。シーケンス解析にはユーロフィンジェノミクスのDNAシーケンスサービスを用いた。
【0051】
<結果>
DNA濃度30ng/μLのプラスミドDNAを50μL得た。また、シーケンス解析の結果から、挿入した遺伝子の末端に1塩基挿入されてしまい、fADL-1eに存在するファージの感染に必要なg3pタンパク質をコードする遺伝子のコドンがずれていることが分かった。
【0052】
(3)PfChBD2プラスミドDNAのPCR
<方法>
(2)で得られたプラスミドDNAサンプルのg3pタンパク質をコードする遺伝子を正しいコドンに戻すためにプライマーを設計した。(2)で得られたプラスミドDNAをテンプレートDNAとして、PCR溶液を表1に従って調製した。(1)と同じ条件でPCR反応を行った。使用したプライマーを表2に示す。Loading Bufferを加え、反応液サンプルを1%アガロースゲルにアプライし、100V、25分電気泳動した。その後、MIDORI Green Xtraでゲルを染色してバンドサイズを確認し、バンドをゲルから全て切り出しマイクロチューブに入れた。(1)と同様にゲル抽出を行い、吸光度計を用いて、精製したDNAサンプルのDNA濃度を測定した。
【0053】
<結果>
予想されるDNAサイズは8318bpである。ゲル上では8kbp付近にバンドがみられたため、目的のDNAが増幅されていたことが分かった。ゲル抽出により、DNA濃度35.6ng/μLのDNAサンプルが25μL得られた。
【0054】
(4)PfChBD2-fADL-1eのライゲーション及び形質転換
<方法>
(3)で得られたDNAサンプルを1μLとNE Builder HiFi DNA Assembly Master Mix 1μLを混合し、サーマルサイクラーで50℃、1時間インキュベートし、DNAサンプルをライゲーションした。(2)と同様に形質転換を行い、プラスミド抽出を行った。吸光度計を用いて、精製したプラスミドDNAのDNA濃度を測定した。精製したプラスミドDNAサンプルのシーケンス解析を行った。
【0055】
<結果>
DNA濃度124.7ng/μLのプラスミドDNAが50μL得られた。また、シーケンス解析の結果からPfChBD2遺伝子が正確に挿入され、コドンが正確なプラスミドを得られたことが分かった。ここで得られたプラスミドDNAをPfChBD2-fADL-1eと呼ぶ(図1)。
【0056】
3.PfChBD2-4Mプラスミドライブラリの作製
ここでは、飽和変異導入を用いて、PfChBD2遺伝子のK270、N272、E279、D281にあたるコドンにランダムな変異を加え、PfChBD2-4Mの飽和変異体ライブラリを作製した。飽和変異導入では、変異を加えたいアミノ酸座位に対応するコドンに対して、ランダムな変異が導入されるようにプライマーを設計し、PCRを行う。このPCRによって、目的のアミノ酸座位に対応するコドンに対して、ランダムにコドンを発生させることができる。プライマー設計の際、コドンに対するランダムな変異を加えるためにコドンNNKを用いた。NからはA、T、G、Cの塩基、KからはG、Tの塩基がランダムに合成される。コドンNNKを用いることで、コードされるアミノ酸の比率のばらつきを抑え、20種類のアミノ酸を網羅することができる。また、ストップコドンが発生する確率を3.125%に抑えることができる。
【0057】
(1)PfChBD2への変異導入
<方法>
PfChBD2-fADL-1eをテンプレートDNA(1ng μL-1)として1μL、10μMのプライマーMixを0.75μL混合し、全量が12.5μLになるように超純水を加えた。混合液に2×KOD One PCR Master mix 12.5μLを加え、サーマルサイクラーで98℃10秒、68℃40秒を30サイクルの条件でPCR反応を行った。使用したプライマーを表3に示す。PCR反応液サンプルにLoading Bufferを加え、1%アガロースゲルにアプライし、100Vで25分電気泳動した。MIDORI Green Xtraでゲルを染色してバンドサイズを確認し、バンドをゲルから全て切り出してマイクロチューブに入れた。2章(1)と同様にゲル抽出を行い、精製したDNAサンプルのDNA濃度を測定した。
【0058】
【表3】
【0059】
<結果>
予想されるDNAサイズは8318bpである。ゲル上では8kbp付近にバンドがみられたため、目的のDNAが増幅されていたことが分かった。ゲル抽出後、DNA濃度19.1ng/μLのDNAサンプルが25μL得られた。ここで得られたDNAサンプルをPfChBD2-4M-fADL-1eとする。
【0060】
(2)PfChBD2-4M-fADL-1eのライゲーション及び形質転換
<方法>
(1)で得られたDNAサンプルと等量のNE Builder HiFi DNA Assembly Master Mixを加え、サーマルサイクラーで50℃、1時間インキュベートし、ライゲーションした。ライゲーション反応液0.8μLをエレクトロコンピテントセル(DH10B株)50μLに混合し、エレクトロポレーションキュベットに混合液を入れた。エレクトロポレーションを行い、SOC培地200μLを加えて懸濁した。懸濁液をマイクロチューブに回収し、37℃、1,000rpmで1時間インキュベートした。懸濁液をカナマイシン50μg/mL添加LB寒天培地に植菌し、37℃で1日インキュベートした。ここまでの操作を寒天培地プレートが10枚になるように行った。寒天培地に生じたコロニーを計測した後、白金耳を用いて全てのコロニーをカナマイシン50μg/mL添加液体LB培地にそれぞれ集め、37℃、1,000rpmで1晩培養した。10個の液体培地から200μLずつ回収した。その後、2章(2)と同様にプラスミド抽出とDNA濃度の測定を行った。
【0061】
<結果>
10枚のカナマイシン50μg/mL添加LB寒天培地に生じたコロニーの数を表4に示す。各プレートによってコロニーの数にはばらつきがあった。また、コロニー数の合計は12,294個であった。プラスミド抽出を行った結果、DNA濃度31.4ng/μLのプラスミドライブラリが50μL得られた。ここで得られたプラスミドライブラリを0世代としてPfChBD2-4M-gene0とする。
【0062】
【表4】
【0063】
4.PfChBD2-4Mファージライブラリの作製とバイオパニング
ファージディスプレイ法を用いてPETに結合するPfChBD2変異体を選抜するために、PfChBD2変異体を表面に提示させたファージを発現、精製することでファージライブラリを作製した。得られたファージライブラリとPETフィルムを用いてバイオパニングを行った。バイオパニングでは、非晶性PETフィルム片への結合、洗浄、回収、増殖のラウンドを、洗浄強度と温度を変化させて繰り返した。ファージの発現にはSS320株を宿主として用いた。SS320株はF因子を持ち、ファージライブラリの構築に適した大腸菌である。
【0064】
(1)ファージライブラリPfChBD2-4M-gene0ファージ0世代の作製
<方法>
PfChBD2-4M-gene0プラスミドライブラリ0.5μLをエレクトロコンピテントセル(SS320株)50μLに混合し、エレクトロポレーションキュベットに混合液を入れた。エレクトロポレーションを行い、SOC培地200μLを加えて懸濁した。懸濁液をマイクロチューブに回収し、37℃、1,000rpmで1時間インキュベートした。懸濁液をカナマイシン50μg/mL添加2×YT液体培地に植菌し、37℃、300rpmで1日インキュベートした。
細菌培養液10mLを13,000gで5分間遠心して、大腸菌を沈殿させた。上清を新しいチューブに移し、上清と5×PEG/NaClが4:1になるように5×PEG/NaClを加えた。転倒混和し、チューブを氷上で1時間インキュベートした。13,000gで10分間遠心し、ファージを沈殿させた。上清を取り除き、再び遠心後、完全に上清を取り除いた。沈殿したファージにTris Buffer Saline:50mM Tris-HCl(pH7.5)を120μL加え、ボルテックスで再懸濁し、氷上で1時間インキュベートした。再びボルテックスし、13,000gで1分間遠心分離してファージ溶液を回収した。
1×TBSバッファーでブランクをとり、269nmと320nmの吸光度を測定した。ファージベクターインサートの長さ(8,303bp)を1ビリオンあたりの塩基数として、以下の式から得られたファージ溶液のビリオン数を求めた。
【0065】
【数1】
【0066】
<結果>
PEG沈殿後の、ファージ溶液の吸光度を表6に示す。269nmと320nmの吸光度の差から、ファージのビリオン数を求めると、790×1010virions/mLのファージ溶液が120μL得られたことが分かった。ここで得られたファージをPfChBD2-4M-gene0ファージとした。
【0067】
(2)細菌細胞(SS320株)の準備
<方法>
SS320を2×YT液体培地で37℃、250rpmで1日インキュベートした。培養液:新しい2×YT液体培地が1:10になるように混合し、37℃、250rpmで1時間インキュベートした。600nmでの吸光度を測定し、吸光度が0.5~1.0になるように調整した。室温で1時間以内にファージを感染させた。
【0068】
(3)バイオパニング
<方法>
1.5mLチューブに表5の組成となるように、1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8)、(1)で得られたPfChBD2-4M-gene0ファージ、及び超純水を加えた。非晶性PETフィルムはGood Fellow社の厚さ0.25mmのAmorphous PET firmを直径5.5mmのディスクにし、20%エタノールに加えて、20rpmで1時間洗浄し、20%エタノールですすぎ、乾燥させたものを使用した。
【0069】
【表5】
【0070】
結合ステップでは、ファージと非晶性PETフィルムを結合させるために、調製した非晶性PETフィルムを含む溶液を25℃、1,000rpmで1時間インキュベートした。その後、上清を新しいチューブに移し変えて保存した。洗浄ステップでは、洗浄を行うために50mMリン酸ナトリウム緩衝液500μLを加え、25℃、1,000rpmで5分インキュベートした。洗浄液を新しいチューブに移し替えて保存した。1ラウンドでは、洗浄を5回行い、その都度洗浄液を回収し、洗浄液1~5とした。非晶性PETフィルムに結合したファージを溶出するために、0.25%トリプシン溶液を500μL加え、37℃、1,000rpmで20分インキュベートした。ファージを含む溶出液を新しいチューブに保存した。また、上清と洗浄液にも終濃度0.25%になるようにトリプシンを加え、トリプシン処理した。
【0071】
感染・増幅ステップでは、上清、洗浄液1~5とファージ溶出液に(2)で得られたSS320培養液を等量加え、37℃,1,000rpmで30分間ファージを大腸菌(SS320)に感染させた。必要に応じて適当に希釈し、カナマイシン50μg/mL添加2×YT寒天培地に植菌し、37℃で1日インキュベートした(1ラウンドでは希釈なし、2ラウンドでは洗浄液1、2を含む培養液を5倍希釈、洗浄液3~5を2倍希釈、3ラウンドでは洗浄液1~3を含む培養液を5倍希釈、洗浄液4、5を2倍希釈した)。その後、コロニー数の計測を行った。ファージ溶出液を感染させた大腸菌を植菌した寒天培地に生えたコロニーを白金耳でカナマイシン50μg/mL添加2×YT液体培地に全て回収し、37℃、300rpmで1日インキュベートした。細菌培養液を13,000gで2分間遠心し、大腸菌を沈殿させた。上清を用いてPEG沈殿を行い、ファージを精製した。また、沈殿物を用いてプラスミド抽出を行った。これらで得たファージライブラリとプラスミドライブラリを新しい世代として保存した。
【0072】
ここまでを1ラウンドとして、合計3ラウンド行った(図2)。2ラウンドでは、前のラウンドで得た新しい世代を用いて、洗浄回数を10回に増やして再び同様の操作を行った。次の3ラウンドでは、結合と洗浄ステップでのインキュベートの温度条件を25℃から60℃へ変更して2ラウンドと同じ操作を行った。また、3ラウンドではファージ溶出液を含む大腸菌を植菌した寒天培地に生えたコロニーを1つずつカナマイシン50μg/mL添加2×YT液体培地に植菌し、37℃、1,000rpmで1日インキュベートした。細菌培養液を13,000gで2分間遠心し、沈殿物を用いてプラスミド抽出を行った。得られたプラスミドDNAをシーケンス解析した。
【0073】
<結果>
1、2ラウンドでのPEG沈殿によって得られたファージの吸光度測定を行った。269nmと320nmの吸光度の差から、ファージベクターインサートの長さ(8,303bp)を1ビリオンあたりの塩基数として計算し、各ラウンドで得られたファージ溶液のビリオン数を求めた(表6)。各ラウンドでファージが得られていることが分かった。また、並行して行ったプラスミド抽出から、プラスミドDNAが得られた。
【0074】
【表6】
【0075】
1ラウンドでは、溶出したファージを感染させた大腸菌をカナマイシン50μg/mL添加2×YT寒天培地に植菌したものに、447個のコロニーが生じた。生じたコロニーを回収して細菌培養した後、PEG沈殿とプラスミド抽出より得られたファージとプラスミドDNAを1世代として、ファージをPfChBD2-4M-gene1ファージ、プラスミドDNAをPfChBD2-4M-gene1とした。また、洗浄液を感染させた大腸菌を植菌した寒天培地全てにコロニーが区別できないほどに多数の大腸菌が生えていた。
【0076】
2ラウンドでは、溶出したファージを感染させた大腸菌をカナマイシン50μg/mL添加2×YT寒天培地に植菌したものに、972個のコロニーが生じた。生じたコロニーを回収して細菌培養した後、得られたファージとプラスミドDNAを2世代として、ファージをPfChBD2-4M-gene2ファージ、プラスミドDNAをPfChBD2-4M-gene2とした。また、洗浄液を感染させた大腸菌を植菌したプレートの全てにコロニーが生じた。コロニーの計測可能なプレートで、コロニー計測を行った(図3:ラウンド2、3での洗浄液(Wash)と溶出液を植菌したカナマイシン50μg mL-1添加2×YT寒天培地に生じたコロニー数)。
【0077】
3ラウンドでは、溶出したファージを感染させた大腸菌を2×YT寒天培地に植菌したものに、29個のコロニーが生じた。29個のコロニーをそれぞれプラスミド抽出し、シーケンス解析を行った結果、3つのPfChBD2変異体が存在していることが分かった。3つの変異体はPfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G、PfChBD2-K270T-N272P-E279L-D281R、PfChBD2-K270P-E279L-D281W(N272のコドン違い)であり、これらのプラスミドDNAを3世代として保存した(図4)。また、29個のコロニー中27個のコロニーから同一のコドンを持つPfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体のプラスミドDNAが得られた。
【0078】
<考察>
2ラウンドでのコロニー形成単位(cfu/mL)は、Wash4から10にかけてコロニー形成単位が低くなっていることが確認できた(図3)。また、2ラウンドで得た2世代のコロニー形成単位がWash9、10よりも明らかに大きいことから、非晶性PETフィルムと相互作用しているファージを溶出ステップによって回収できたと考えられる。しかし、3ラウンドでは2ラウンドと異なり、3世代のコロニー形成単位がWash9、10よりも大きくなることはなかった。これは、2ラウンドより温度条件が厳しくなったことで、洗浄ステップによって取り除かれるファージが多くなったためと考えられる。そのため、3ラウンドで得られた変異体は耐熱性が他の変異体に比べて高い可能性がある。3世代では、29個のコロニーから3種類の変異体が得られた。PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体は29個のコロニー中27個のコロニーから得られた。そのため、他の2種類の変異体に比べてPfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体は、耐熱性が高い可能性がある。
【0079】
3つの変異体のPfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G、PfChBD2-K270T-N272P-E279L-D281R、及びPfChBD2-K270P-E279L-D281Wはファージディスプレイ法を用いたアフィニティセレクションによって得られた。
【0080】
5.次世代シーケンス解析
バイオパニングによる0世代のプラスミドライブラリPfChBD2-4M-gene0から2世代のプラスミドライブラリPfChBD2-4M-gene2の変化を確認するために、各ライブラリに対して次世代シーケンス解析を行った。次世代シーケンス解析では、調製したDNAライブラリに対して蛍光物質を持つ基質ヌクレオチドを利用した伸長反応を行い、解析することで膨大な数の塩基配列を同時に配列決定することできる。
【0081】
(1)次世代シーケンス解析用DNAサンプルの調製
<方法>
ここでは、次世代シーケンサIllumina MiSeqを用いるMiSeq Paired-End法による次世代シーケンス解析のためのDNAサンプルを調製した。プラスミドライブラリPfChBD2-4M-gene0とラウンド2で得られたPfChBD2-4M-gene2をテンプレートDNAとして、4つの変異箇所を含むDNA領域を増幅させ、リンカー配列を末端に付随させるプライマーを設計した(表7)。PCR溶液を表1に従って調製した。サーマルサイクラーにて98℃10秒,68℃40秒を30サイクルの条件でPCR反応を行った。Loading Bufferを加え、反応液サンプルを2%アガロースゲルにそれぞれアプライし、100Vで25分電気泳動した。その後、MIDORI Green Xtraでゲルを染色してバンドサイズを確認し、バンドをゲルから全て切り出しマイクロチューブに入れた。2章(1)と同様にゲル抽出を行い、精製したDNAサンプルのDNA濃度を測定した。その後DNAが精製されているか確認するために再び2%アガロースゲルで電気泳動を行った。
【0082】
【表7】
【0083】
予想されるバンドサイズは303bpである。ゲル上では300bp付近にそれぞれバンドがみられたため、目的遺伝子が増幅されていたことが分かった。ゲル抽出により、DNA濃度がPfChBD2-4M-gene0から31ng/μL、PfChBD2-4M-gene2から62ng/μLのDNAサンプル25μLが得られた。また、これら精製後のDNAサンプルにおいてそれぞれ1つのバンドが確認されたことから、DNAサンプルが精製されていることが確認できた。
【0084】
(2)次世代シーケンス解析
<方法>
(1)で精製したDNAサンプルを北海道システム・サイエンス株式会社の次世代シーケンス解析サービスで解析してもらった。以降北海道システム・サイエンス株式会社の次世代シーケンス解析サービスで行われたことを示す。Agilent 2200 Tape Stationシステムによるサンプルの濃度測定・品質の確認を行った。イルミナ社の16s Metagenomic Sequencing Library Preparationプロトコルに従い、シーケンス用ライブラリ調製を行った。次世代シーケンサIllumina MiSeqを用いて、MiSeq Paired-End法300塩基読み取りにより塩基配列データを取得した。出力された解析生データより、塩基配列のテキストデータを取得した。所定のフィルタリングによるリードデータの選別を行った。Index情報による各サンプルデータの振り分けを行った。振り分けされたデータについてサンプルごとにリードトリミングを行った。トリミングされたデータについて二つのリード配列の連結を行った。連結されたデータについて、同一配列のリードデータの集計を行った。集計を行った配列データについて、ターゲット領域の切り出しと同一配列の集計、アミノ酸翻訳と同一配列の集計、及びターゲット領域のアラインメントを行った。
【0085】
<結果>
次世代シーケンス解析の結果によって得られた塩基配列のリード数と翻訳して得られたアミノ酸配列のユニーク数を表8に示す。0世代ではユニーク数が17,791種類、2世代では3,827種類であった。また、ストップコドンの発生、塩基の欠失や挿入によって、アミノ酸の数に異常があったアミノ酸配列は、0世代には1,456種類でリード数が12,279個、2世代には259種類でリード数が424個であった。ユニーク数とアミノ酸数に異常があったアミノ酸配列の差から、真のユニーク数を計算した。真のユニーク数は0世代で16,335個、2世代で3,568個となっていた。0世代から2世代にかけて真のユニーク数が減少し、アミノ酸数に異常のあるアミノ酸配列の種類とリード数が減っていることが分かった。
【0086】
【表8】
【0087】
各世代の次世代シーケンス解析から得られたアミノ酸配列をカウントしたもののうち、上位を表9に示した。0世代では、ストップコドンを生じたものが多く上位になっていた。また、0世代では野生型(WT)のアミノ酸配列も多くみられたが、変異を加える際のテンプレートDNAが影響していると考えられる。2世代でのカウント数上位には、0世代の次世代シーケンス解析で少ないリード数だったものが確認できた。また、2世代のカウント数上位には、0世代の次世代シーケンス解析では確認されていないものも存在していた。これは、0世代の次世代シーケンス解析では読み切れなかった配列が存在していたことを示唆する。しかし、そのような配列であってもバイオパニングの2つのラウンドを経ることで、2世代の次世代シーケンスで上位のカウント数を示すことがわかった。
【0088】
【表9】
【0089】
0世代と2世代の次世代シーケンス解析の結果得られたアミノ酸配列から、アミノ酸の数が異常な配列を除いた後、リード数をカウントした。0世代のアミノ酸分布では、NNKによる変異導入が行われていたことが分かった。0世代と2世代のアミノ酸分布を比べると、バイオパニングの2つのラウンドによって、アミノ酸分布が変化したことが分かった。
【0090】
2世代のアミノ酸分布では0世代に比べて、変異を加えたアミノ酸座位ごとに分布が変化していた。K270の位置でリード数(%)の上位3つは、プロリン(P)が64.7%、それに次いでスレオニン(T)とヒスチジン(H)がそれぞれ12%、8.8%であった。N272の位置でリード数は、プロリン(P)とメチオニン(M)でそれぞれ22.3%、22%であり、ヒスチジン(H)が13.5%であった。また、N272の位置でWTとはコドン違いのアスパラギン(N)が10.4%を占めていた。E279の位置でリード数(%)は、トリプトファン(W)が37.4%で、それに次いでロイシン(L)とバリン(V)がそれぞれ22%、7.8%であった。D281の位置でリード数は、グルタミン酸(E)が20.5%であり、それに次いでアルギニン(R)とトリプトファン(W)がそれぞれ15.3%,13.3%であった。また、グリシン(G)とアラニン(A)はそれぞれ12.8%,9.7%を占めていた。
【0091】
<考察>
次世代シーケンス解析の結果、0世代でのアミノ酸数が異常な配列はリード数が12,279個であった。0世代全体のリード数が9,9136個であることから、アミノ酸数が異常な配列のリード数は12.4%を占めていることが分かった。NNKによる飽和変異導入を4箇所に行う場合、ストップコドンは11.9%の確率で生じる。また、アミノ酸数が異常な配列にはストップコドン以外にも、塩基の欠損や挿入によってアミノ酸数が異常になってしまったものも含まれていた。このようなことから、0世代でのアミノ酸数が異常な配列のリード数は理論値に近い値であると考えられる。
アミノ酸数が異常な配列のリード数は0世代で12,279個、2世代で424個であった。これは、バイオパニングによってアミノ酸数異常な配列が取り除かれたため、アミノ酸数が異常な配列のリード数が減少したと考えられる。また、真のユニーク数も0世代で16,335種類、2世代で3,568種類であり、減少していた。これも、バイオパニングによって非晶性PETフィルムに相互作用するPfChBD2変異体が選抜されたためと考えられる。
【0092】
2世代におけるカウント数上位には、3ラウンドで得られた3世代のPfChBD2変異体がすべて含まれていた(表9)。また、2世代のカウント数で1番多いカウント数だった変異体は3世代では確認できなかった。これは、2ラウンドでは温度条件が25℃、3ラウンドでは60℃で結合ステップと洗浄ステップを行ったことから、2ラウンドで上位のカウント数であったとしても耐熱性が低くなる変異の組み合わせが淘汰され、耐熱性の高い構造を持つPfChBD2変異体が3世代として得られたと考えられる。
0世代と2世代のアミノ酸分布を比べると、変異を加えたアミノ酸座位ごとに分布が変化していた。このことから、PETへの結合能が向上した変異体ライブラリが得られたと考えられる。
【0093】
6.stagRFP-PfChBD2の遺伝子作製
4章(3)で一番多く得られた3世代のPfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体について、非晶性PETへの結合能を確認するため、大腸菌を宿主とした発現系の構築を行った。タンパク質発現用ベクターには、カナマイシン耐性遺伝子とHisタグを持つpET27bベクターを使用した。PCRとライゲーション反応を用いて、pET27bに蛍光タンパク質stagRFPとTEVプロテアーゼ認識配列が挿入されたプラスミドDNAに対してPfChBD2のWTと変異体の遺伝子を挿入した。stagRFPはtagRFP-Tの約2倍の蛍光強度で、最大吸収波長を555nmに持つ、赤色蛍光タンパク質の一つである。ライゲーションしたプラスミドを大腸菌Tuner(DE3)株に形質転換した。培養した大腸菌からプラスミドを抽出し、シーケンス解析で目的遺伝子が得られたことを確認した。
【0094】
(1)stagRFP-PfChBD2遺伝子作製のためのPCR
<方法>
stagRFP遺伝子とTEVプロテアーゼ認識配列が挿入されたpET27bプラスミドDNAにPfChBD2遺伝子を挿入するためにプライマーを設計した(表10)。stagRFP遺伝子とTEVプロテアーゼ認識配列が挿入されたpET27bプラスミドDNAとPfChBD2のWT、K270H-N272P-E279V-D281G変異体のDNAをテンプレートDNAとした。テンプレートDNAとプライマーを用いて、表1に従ってPCR溶液を調製した。サーマルサイクラーにて98℃10秒、68℃40秒を30サイクルの条件でPCR反応を行った。PCR反応液サンプルにLoading Bufferを加え、2%、1%アガロースゲルにそれぞれアプライし、100Vで25分電気泳動した。
MIDORI Green Xtraでゲルを染色してバンドサイズを確認した。バンドをゲルから全て切り出しマイクロチューブに入れた。Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up Systemを用いて、ゲル抽出を行った。吸光度計を用いて、精製したDNAサンプルのDNA濃度を測定した。
【0095】
【表10】
【0096】
<結果>
予想されるDNAサイズはstagRFP遺伝子とTEVプロテアーゼ認識配列が挿入されたpET27bプラスミドDNAで6085bp、PfChBD2で328bpである。ゲル上では6kbp、300bp付近にそれぞれバンドがみられたため、目的遺伝子が増幅されたことが分かった。ゲル抽出により、DNA濃度がstagRFP遺伝子から44.7ng/μL、PfChBD2のWTで161ng/μL、PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281Gで50ng/μLのDNAサンプルをそれぞれ25μL得た。
【0097】
(2)stagRFP遺伝子とPfChBD2遺伝子のライゲーション及び形質転換
<方法>
(1)で得られたstagRFP遺伝子とPfChBD2のDNAサンプルを各1μL、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mixを2μL加え計4μL、サーマルサイクラーで50℃、1時間インキュベートし、ライゲーションした。ライゲーション反応液0.8μLをエレクトロコンピテントセルTuner(DE3)株50μLに混合し、エレクトロポレーションキュベットに混合液を入れた。Tuner(DE3)株はlacZY欠失変異体で、IPTG(イソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド)濃度依存的なタンパク発現の誘導を行える。エレクトロポレーションを行い、SOC培地200μLを加えて懸濁した。懸濁液をマイクロチューブに回収し、37℃、1,000rpmで1時間インキュベートした。懸濁液をカナマイシン50μg/mL添加LB寒天培地に植菌し、37℃で1日インキュベートした。寒天培地にできたコロニーから一つ選択して、カナマイシン50μg/mL添加LB液体培地と寒天培地にそれぞれ植菌し、37℃、300rpmで1日インキュベートした。細菌培養液の入ったチューブを回収し、6,000gで3分間遠心分離した。上清を除き、沈殿した大腸菌からQIA prep Spin Miniprep Kitを用いて、プラスミド抽出を行った。吸光度計を用いて、精製したプラスミドのDNA濃度を測定し、プラスミドDNAサンプルをシーケンス解析した。
【0098】
<結果>
カナマイシン50μg/mL添加LB寒天培地に単一のコロニーがそれぞれ形成された。DNA濃度30ng/μLのPfChBD2(WT)を挿入したプラスミドDNAサンプルと260ng/μLのPfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281Gを挿入したプラスミドDNAサンプルをそれぞれ50μL得た。また、シーケンス解析の結果から、PfChBD2遺伝子が正確に挿入されていることが分かった。ここで得られたプラスミドDNAをstagRFP-PfChBD2-TEV-His、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G-TEV-Hisと呼ぶ(図5)。
【0099】
7.stagRFP-PfChBD2の発現と精製
PfChBD2のWTとK270H-N272P-E279V-D281G変異体を用いて、非晶性PETに対する結合実験を行うために、蛍光タンパクstagRFPをN末端に融合させたPfChBD2のWTとK270H-N272P-E279V-281G変異体を作製した。6章で得られたstagRFP-PfChBD2-TEV-His、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G-TEV-Hisを組み込んだ大腸菌Tuner(DE3)株を液体培地で培養し、IPTGによるタンパク質の発現誘導を行うことで目的タンパク質の生産を行った。また、生産されたタンパク質をアフィニティークロマトグラフィーとゲルろ過クロマトグラフィーを用いて精製した。
【0100】
(1)stagRFP-PfChBD2とstagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体の発現
<方法>
6章(2)で得られた寒天培地に生えたstagRFP-PfChBD2-TEV-HisとstagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G-TEV-Hisのコロニーを10mLのカナマイシン50μg/mL添加LB培地にそれぞれ植菌して、37℃、300rpmで1日インキュベートした。培養した細菌培養液を700mLのカナマイシン50μg/mL添加Super Broth培地にそれぞれ植菌し、37℃、130rpmで3時間培養した。培養後、30分氷水で培地を冷却した。700mLの培地に対して、1M IPTGを350μLそれぞれ加え、20℃、130rpmで1日インキュベートした。それぞれの培地を3,000gで10分間遠心分離して、沈殿物を回収した。沈殿物は、-80℃で冷凍保存した。
【0101】
<結果>
stagRFP-PfChBD2-TEV-Hisの沈殿物を6.1g、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G-TEV-Hisの沈殿物を3.0gそれぞれ得た。回収した沈殿物はどちらも赤色をしていた。
【0102】
(2)アフィニティークロマトグラフィーによる精製
<方法>
(1)で得られた沈殿物10gに対して10mLの50mMリン酸ナトリウム100mM塩化ナトリウムバッファー(バッファー1)を加え、超音波破砕機で20分間破砕した。破砕液を20,000gで15分間遠心分離し、上清を回収した。上清をカラムボリューム3mLのNi-NTAカラムにロードし、フロースルー(FT)を回収した。バッファー130mLをカラムに流し入れ、カラムからでてきた3~6mLを回収した。続いて50mMイミダゾール、50mMリン酸ナトリウム、及び100mM塩化ナトリウムバッファー30mLをカラムに流し入れ、同様の操作を行った。その後、100mMイミダゾール、50mMリン酸ナトリウム、及び100mM塩化ナトリウムバッファー30mLをカラムに流し入れ、3mLずつ試験管に回収した。それぞれの吸光度を測定し、吸光がみられたものをSDS-PAGEによってバンドサイズを確認した。バンドが確認できたフラクションをVIVASPIN20(30,000MWCO)に回収し、700μLまで濃縮した。濃縮したタンパク質溶液をillustra NAP-10 Columnsを用いて、バッファー1に置換した1.4mLのタンパク溶液を得た。その後、3mg/mLのTEVプロテアーゼを80μL加え、16℃で1日インキュベートした。カラムボリューム0.5mLのNi-NTAにタンパク溶液を流し入れた。流れ出たサンプルを再びカラムに流し入れて、回収した。500μLずつバッファー1を流し入れて、それぞれ流れ出たタンパク溶液を回収し、バッファー1を合計3mL流し入れるまで同様の操作を行った。各フラクションの吸光度を測定し、280nmの波長で吸光がみられたものをVIVASPIN20(30,000MWCO)に回収し、遠心分離でタンパク質溶液が500μL以下になるまで濃縮した。
【0103】
<結果>
アフィニティークロマトグラフィーで得た各フラクションの吸光度測定の結果を表11に示す。予想されるバンドサイズは40kDaである。SDS-PAGEの結果から、35kDaと45kDaの間にバンドが確認できるため、目的のタンパク質がフラクションNo.2~10に存在していることが分かった。TEVプロテアーゼ処理したタンパク質溶液をNi-NTAカラムにロード後に、バッファー1を用いて回収した各フラクションの吸光度を表12に示す。WTのフラクションNo.17、K270H-N272P-E279V-D281G変異体のフラクションNo.14をそれぞれ濃縮したタンパク質溶液を0.5mL得た。
【0104】
【表11】
【0105】
【表12】
【0106】
(3)ゲルろ過クロマトグラフィーによる精製
<方法>
Superdex 75 Increase 10/300GLをカラムとしてゲルろ過クロマトグラフィーを行った。(2)で得られた500μL以下になるまで濃縮したタンパク質溶液をカラムにそれぞれロードした。バッファーには、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH8)を使用し、流速を0.5ml/min、1フラクションあたり0.5mLの条件で精製を行った。精製後、吸光のあるフラクションをSDS-PAGEによってバンドサイズを確認した。バンドが確認できたフラクションをVIVASPIN20(30,000MWCO)に回収し、1mL以下になるまで濃縮した。吸光度計を用いて、濃縮したタンパク質溶液の340nmを基準とした280nmの吸光度を測定した。測定した吸光度とモル吸光係数(54,860M-1cm-1)からタンパク質濃度を求めた。
【0107】
<結果>
予想されるバンドサイズは40kDaである。SDS-PAGEでは、35kDaと45kDaの間にバンドが確認できたため、目的のタンパク質が精製できたことがわかった。stagRFP-PfChBD2ではフラクションNo.5~19、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281GではフラクションNo.3~16をそれぞれ回収して、濃縮した。タンパク質濃度が40.9μMのstagRFP-PfChBD2と25.9μMのstagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281Gがそれぞれ約800μL得られた。
【0108】
8.PETに対する結合量の測定
PfChBD2(WT)とPfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281GのPET結合能を確認するために、7章で精製したタンパク質と非晶性PETとをインキュベートした。遠心分離後、上清に含まれるPfChBD2に融合させた蛍光タンパク質stagRFPの最大吸収波長555nmの吸光度から上清に含まれるタンパク質量を測定した。基質のみとタンパク質のみの吸光度も測定することで、基質1mgあたりに結合したタンパク質量を求めた。また、赤色蛍光タンパク質stagRFPを用いたタンパク質の定量を行ったのは、基質である非晶性PETが280nmの吸収を示し、計測精度に問題があったためである。
【0109】
(1)stagRFP-PfChBD2の検量線の作成
<方法>
7章(3)で精製したstagRFP-PfChBD2を終濃度が0.5μM、1μM、1.5μMになるように50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH8)に混合した。吸光度を測定し、その結果から検量線を作成した。以降の実験ではこの検量線を用いてタンパク質濃度を測定した。
【0110】
(2)stagRFP-PfChBD2とstagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体の結合能の測定
<方法>
7章(3)で得られた精製したstagRFP-PfChBD2及びstagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281Gと基質を用いて、表13にしたがって溶液を調製した。基質には非晶性PETを用いた。同様に、基質のみの溶液とタンパク質のみの溶液も調製した。また、溶液は各3つずつ用意した。調製した溶液を25℃で1時間インキュベートした。遠心分離によって基質を沈殿させ、上清の吸光度を測定した。
【0111】
【表13】
【0112】
<結果>
吸光度測定の結果から、(1)で得られた検量線を用いて各溶液のstagRFP-PfChBD2及びstagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281Gの濃度を求めた。タンパク質のみの溶液から基質とタンパク質を含む溶液と基質のみの溶液のタンパク質濃度の差をとることで、基質に結合したタンパク質量(nmol)を求めた。
非晶性PETへのstagRFP-PfChBD2(WT)の結合量は0.3(±0.64)nmol/mgで、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体は3.87(±0.86)nmol/mgであった(図6)。
【0113】
<考察>
結合実験の結果、stagRFP-PfChBD2(WT)はほとんど非晶性PETへ結合しないことがわかった。バイオパニングによって得られた3世代のPfChBD2変異体を用いたstagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281Gは非晶性PETへの結合能を獲得していた。
【0114】
下表に、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体のアミノ酸配列(配列番号3)及び遺伝子配列(配列番号4)を示す。下表において、N末端部(1~244番目のアミノ酸、1~732番目の塩基)は赤色蛍光タンパク質stagRFPを示す。網掛け部(245~247番目のアミノ酸、733~741番目の塩基)はリンカー配列を示す。C末端の太字下線部(248~348番目のアミノ酸、742~1044番目の塩基)はPfChBD2変異体を示す。囲み字は変異点を示す。
【0115】
【表14】
【0116】
下表に、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体における変異箇所を示す。なお、本実施例において、K270H-N272P-E279V-D281G変異体における変異アミノ酸番号(270、272、279、及び281)は、PfChBD2の由来するキチン分解酵素を基準としたアミノ酸座位で示されている。PfChBD2はキチン分解酵素のC末端ドメインであり、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281Gとキチン分解酵素とではN末端のアミノ酸数が異なる。そのため、上記の270、272、279、及び281というアミノ酸番号は、stagRFP-PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281Gにおける、N末端から260番目、262番目、269番目、及び271番目のアミノ酸にそれぞれ相当する。
【0117】
【表15】
【0118】
上記アミノ酸配列において、K270H-N272P-E279V-D281G変異体における各変異(すなわち、配列番号3のN末端から260番目、262番目、269番目、及び271番目の変異)は、それぞれPfChBD2のK13H、N15P、E22V、及びD24Gの変異に対応する。
【0119】
9.総括
今回の研究では、ファージディスプレイ法を用いて、PETに結合能を持つタンパク質の創出を行った。ファージライブラリを用いたバイオパニングでは、3ラウンドを通して3つのPfChBD2変異体が3世代として得られた。また、バイオパニング前の0世代と2ラウンドで得られた2世代のプラスミドライブラリを次世代シーケンス解析で比較すると、飽和変異導入した各アミノ酸座位でアミノ酸分布が変化していた。バイオパニングの3ラウンドでは、PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体が一番多く確認できた。このことから、K270H-N272P-E279V-D281G変異体が他の変異体よりも耐熱性やPET結合能が高いと考え、PETとの結合実験を行った。結合実験では、K270H-N272P-E279V-D281G変異体はPETへの結合能を獲得していた。これらのことから、ファージディスプレイ法を用いたPETとのアフィニティセレクションによって、PETへの結合能を獲得したタンパク質の創出が可能であることがわかった。この戦略は、PfChBD2-K270H-N272P-E279V-D281G変異体のPETへの結合能を向上させることにおいても応用できると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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