(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165618
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】無効電力補償システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/18 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
H02J3/18 128
H02J3/18 142
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081965
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相原 雄也
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066FA01
5G066FB02
5G066FB08
5G066FB13
(57)【要約】
【課題】低損失の無効電力補償システムを提供する。
【解決手段】この無効電力補償システムは、ステップ状に変化する(N+1)個の無効電力Q0~QNのうちのいずれかの無効電力Qnを配電線10に出力する調相設備1と、所望の無効電力を配電線10に出力する無効電力補償装置4と、(N+1)個の無効電力Q0~QNのうちの目標無効電力QTとの偏差が最も小さな無効電力Qnを調相設備1から出力させるとともに、目標無効電力QTと無効電力Qnとの偏差分の無効電力ΔQを無効電力補償装置4から出力させる制御装置9とを備える。したがって、無効電力補償装置4の出力を小さく抑制して損失を小さくできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップ状に変化する複数の無効電力のうちのいずれかの無効電力を配電線に出力する調相設備と、
所望の無効電力を前記配電線に出力する無効電力補償装置と、
前記複数の無効電力のうちの目標無効電力との偏差の大きさが最も小さな第1の無効電力を求め、前記調相設備から前記第1の無効電力を出力させる第1の制御部と、
前記目標無効電力と前記第1の無効電力との偏差分の第2の無効電力を求め、前記無効電力補償装置から前記第2の無効電力を出力させる第2の制御部とを備える、無効電力補償システム。
【請求項2】
前記調相設備は、
複数の分路リアクトルと、
それぞれ前記配電線と前記複数の分路リアクトルとの間に接続された複数の開閉器とを含み、
前記第1の制御部は、前記調相設備から前記第1の無効電力を出力させるためにオンさせるべき開閉器の数を求め、その数の開閉器をオンさせるとともに残りの各開閉器をオフさせる、請求項1に記載の無効電力補償システム。
【請求項3】
前記第1の制御部は、予め定めれた時間当たり1回だけ複数の開閉器の各々をオンまたはオフさせる、請求項2に記載の無効電力補償システム。
【請求項4】
前記調相設備は、
複数の進相コンデンサと、
それぞれ前記配電線と前記複数の進相コンデンサとの間に接続された複数の開閉器とを含み、
前記第1の制御部は、前記調相設備から前記第1の無効電力を出力させるためにオンさせるべき開閉器の数を求め、その数の開閉器をオンさせるとともに残りの各開閉器をオフさせる、請求項1に記載の無効電力補償システム。
【請求項5】
前記第1の制御部は、予め定めれた時間当たり1回だけ前記複数の開閉器の各々をオンまたはオフさせる、請求項4に記載の無効電力補償システム。
【請求項6】
前記無効電力補償装置は、
複数の自励式無効電力補償装置と、
それぞれ前記配電線と前記複数の自励式無効電力補償装置との間に接続された複数の開閉器とを含み、
前記第2の制御部は、前記無効電力補償装置から前記第2の無効電力を出力させるために最小限必要な自励式無効電力補償装置の数を求め、その数の開閉器をオンさせるとともに残りの各開閉器をオフさせ、その数の自励式無効電力補償装置から前記第2の無効電力を出力させる、請求項1に記載の無効電力補償システム。
【請求項7】
前記第2の制御部は、予め定めれた時間当たり1回だけ前記複数の開閉器の各々をオンまたはオフさせる、請求項6に記載の無効電力補償システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無効電力補償システムに関し、特に、無効電力を配電線に供給する無効電力補償システムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特開2018-7299号公報には、所定値の無効電力を配電線に出力する調相設備と、所望の値の無効電力を配電線に出力する無効電力補償装置と、目標無効電力が所定値以下である場合には、調相設備の出力を停止させるとともに無効電力補償装置から目標無効電力を出力させ、目標無効電力が所定値よりも大きい場合には、調相設備から無効電力を出力させるとともに無効電力補償装置の運転を停止させる制御部とを備えた無効電力補償システムが開示されている。
【0003】
調相設備は、所定値の無効電力を供給する分路リアクトルまたは進相コンデンサを含む。無効電力補償装置は、スイッチング素子をオンおよびオフさせて所望の値の無効電力を供給する自励式無効電力補償装置を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような無効電力補償システムでは、調相設備よりも無効電力補償装置において大きな損失が発生する。しかるに従来の無効電力補償システムでは、目標無効電力が所定値以下である場合には、無効電力補償装置だけで目標無効電力を生成するので、損失が大きいという問題があった。
【0006】
それゆえに、本開示の主たる目的は、低損失の無効電力補償システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る無効電力補償システムは、ステップ状に変化する複数の無効電力のうちのいずれかの無効電力を配電線に出力する調相設備と、所望の無効電力を配電線に出力する無効電力補償装置と、複数の無効電力のうちの目標無効電力との偏差の大きさが最も小さな第1の無効電力を求め、調相設備から第1の無効電力を出力させる第1の制御部と、目標無効電力と第1の無効電力との偏差分の第2の無効電力を求め、無効電力補償装置から第2の無効電力を出力させる第2の制御部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る無効電力補償システムでは、複数の無効電力のうちの目標無効電力との偏差の大きさが最も小さな第1の無効電力を調相設備から出力させるとともに、目標無効電力と第1の無効電力との偏差分の第2の無効電力を無効電力補償装置から出力させる。したがって、無効電力補償装置の出力を小さく抑制して損失を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施の形態1に従う無効電力補償システムの構成を示す回路ブロック図である。
【
図2】
図1に示す制御装置のうちの調相設備の制御に関連する部分を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示す制御装置のうちの無効電力補償装置の制御に関連する部分を示すブロック図である。
【
図4】
図1に示す自励式SVCの構成を例示する回路ブロック図である。
【
図5】本開示の実施の形態2に従う無効電力補償システムの構成を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態1]
図1は、本開示の実施の形態1に従う無効電力補償システムの構成を示す回路ブロック図である。
図1において、この無効電力補償システムは、調相設備1、無効電力補償装置4、電圧検出器7、電流検出器8、および制御装置9を備える。
【0011】
調相設備1および無効電力補償装置4は、ともに配電線10に接続される。調相設備1および無効電力補償装置4の各々は、制御装置9によって制御され、無効電力を配電線10に供給する。配電線10は、連系変圧器11を介して送電線12に接続される。送電線12は、商用交流電源13から交流電力を受ける。
【0012】
また、配電線10には、複数の発電装置14と複数の負荷15が接続されている。発電装置14は、交流電力を生成して配電線10に出力する。発電装置14は、風力、太陽光などの自然エネルギーを利用して交流電力を生成するものでもよいし、自然エネルギーを利用しない自家発電設備でも構わない。負荷15は、配電線10から受ける交流電力によって駆動される。
【0013】
電圧検出器7は、配電線10の所定箇所の交流電圧VSの瞬時値を検出し、検出値を示す信号を制御装置9に出力する。電流検出器8は、配電線10の所定箇所に流れる交流電流Iの瞬時値を検出し、検出値を示す信号を制御装置9に出力する。
【0014】
制御装置9は、電圧検出器7および電流検出器8の出力信号に基づいて、配電線10に供給すべき目標無効電力QTを求め、その目標無効電力QTを調相設備1および無効電力補償装置4から配電線10に供給させる。
【0015】
詳しく説明すると、調相設備1は、N個の分路リアクトル2と、それぞれ配電線10とN個の分路リアクトル2との間に接続されたN個の開閉器3とを含む。Nは、2以上の自然数である。N個の分路リアクトル2の各々は、所定値の進相無効電力Q1を供給する。N個の開閉器3の各々のオンおよびオフは、制御装置9によって制御される。
【0016】
1個の開閉器3がオンされると、その開閉器3に対応する1個の分路リアクトル2から所定値の進相無効電力Q1が配電線10に供給される。N個の開閉器3がオンされると、N個の分路リアクトル2から進相無効電力QN=N×Q1が配電線10に供給される。
【0017】
N個の開閉器3のうちのn個の開閉器3がオンされると、n個の分路リアクトル2から進相無効電力Qn=n×Q1が配電線10に供給される。nは、0以上でN以下の整数である。n=0である場合は、調相設備1から配電線10に出力される進相無効電力Q0は0(var)である。したがって、調相設備1は、0からQNまでステップ状に増大する(N+1)個の進相無効電力Q0~QNのうちのいずれかの進相無効電力Qnを配電線10に出力する。
【0018】
なお、本実施の形態1では、予備調査により、主に進相無効電力を配電線10に供給する必要があることが分かっているので、N個の分路リアクトル2を含む調相設備1を設けている。
【0019】
無効電力補償装置4は、M台の自励式SVC(Static Var Compensator)5と、それぞれ配電線10とM台の自励式SVC5との間に接続されたM個の開閉器6とを含む。Mは、2以上の自然数である。自励式SVC5は、STATCOM(Static Synchronous Compensator)とも呼ばれ、IEGT(Injection Enhanced Gate Transistor)、GCT(Gate Commutated Turn-off thyristor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの高周波数のスイッチング動作が可能なパワーエレクトロニクス素子を含む。
【0020】
進相をプラス(+)とし、遅相をマイナス(-)とすると、各自励式SVC5は、制御装置9によって制御され、-QXから+QXまでの間の所望の値の無効電力QYを配電線10に出力する。QXは、自励式SVC5の定格無効電力である。
【0021】
M個の開閉器6の各々のオンおよびオフは、制御装置9によって制御される。1個の開閉器6がオンされると、その開閉器6に対応する1台の自励式SVC5から無効電力QYが配電線10に供給される。M個の開閉器6がオンされると、M台の自励式SVC5から無効電力QZ=M×QYが配電線10に供給される。
【0022】
M個の開閉器6のうちのm個の開閉器6がオンされると、-m×QXから+m×QXまでの間の所望の値の無効電力QZ=m×QYがm台の自励式SVC5から配電線10に供給される。この場合、無効電力QZ=m×QYの供給はm台の自励式SVC5によって均等に分担され、各自励式SVC5は無効電力QY=QZ/mを配電線10に出力する。mは、1以上でM以下の自然数である。
【0023】
図2は、制御装置9のうちの調相設備1の制御に関連する部分を示すブロック図である。
図2において、制御装置9は、無効電力演算部20、無効電力指令部21、記憶部22、演算部23、信号発生部24、タイマー25、およびラッチ回路26を含む。
【0024】
無効電力演算部20は、電圧検出器7(
図1)によって検出される配電線10の交流電圧VSと、電流検出器8によって検出される配電線10に流れる交流電流Iとに基づいて、発電装置14および負荷15から配電線10に供給される無効電力QSを求める。
【0025】
無効電力指令部21は、無効電力演算部20によって求められる無効電力QSの逆極性の目標無効電力QT=-QSを求め、その目標無効電力QTを示す信号を出力する。記憶部22は、調相設備1が出力可能な(N+1)個の進相無効電力Q0~QNの値を記憶している。
【0026】
演算部23は、記憶部22に記憶された進相無効電力Q0~QNのうちの目標無効電力QTとの偏差ΔQの大きさが最も小さな無効電力Qn(第1の無効電力)を求め、その無効電力Qnを調相設備1から出力させるためにオンさせるべき開閉器3の数nを求める。
【0027】
信号発生部24は、演算部23によって求められる開閉器3の数nに基づいて、信号A1~ANを生成する。信号A1~ANは、それぞれN個の開閉器3に対応している。信号発生部24は、信号A1~ANのうちの開閉器3の数nの信号を「H」レベルにする。
【0028】
たとえば、信号発生部24は、n=0である場合には全ての信号A1~ANを「L」レベルにし、n=Nである場合には全ての信号A1~ANを「H」レベルにする。また、信号発生部24は、n=1である場合には、信号A1を「H」レベルにし、他の信号A2~ANを「L」レベルにする。
【0029】
タイマー25は、所定時間(たとえば2時間)毎にパルス信号P1を出力する。ラッチ回路26は、パルス信号P1に応答して信号A1~ANを取り込み、取り込んだ信号A1~ANを信号B1~BNとして保持および出力する。
【0030】
N個の開閉器3は、それぞれ信号B1~BNの論理レベルに従ってオンまたはオフする。たとえば、信号B1~BNがともに「H」レベルである場合には、N個の開閉器3はともにオンする。信号B1~BNがともに「L」レベルである場合には、N個の開閉器3はともにオフする。信号B1が「H」レベルであり、信号B2~BNがともに「L」レベルである場合には、N個の開閉器3のうちの1番目の開閉器3のみがオンされ、残りの(N-1)個の開閉器3はオフされる。
【0031】
開閉器3をオンさせた瞬間に突入電流が短時間だけ流れて開閉器3がダメージを受けるので、開閉器3を頻繁にオンおよびオフさせると開閉器3の寿命が短くなる。そこで、開閉器3の長寿命化を図るため、タイマー25およびラッチ回路26により、開閉器3のオンおよびオフを所定時間内において1回だけに制限している。
図2に示した回路部分20~26は、「第1の制御部」の一実施例を構成する。
【0032】
図3は、制御装置9のうちの無効電力補償装置4の制御に関連する部分を示すブロック図である。
図3において、制御装置9は、無効電力演算部30、減算器31、記憶部32、演算部33、信号発生部34、タイマー35、ラッチ回路36、および無効電力指令部37を含む。
【0033】
無効電力演算部30は、ラッチ回路26(
図2)の出力信号B1~BNに基づいて、オンされている開閉器3の数nを求め、その数nに分路リアクトル2が供給する進相無効電力Q1を乗算して、調相設備1から配電線10に供給されている進相無効電力Qnを求める。
【0034】
減算器31は、無効電力指令部21(
図2)によって求められる目標無効電力QTと、無効電力演算部30によって求められる無効電力Qnとの偏差分の無効電力ΔQ=QT-Qnを求める。
【0035】
記憶部32は、自励式SVC5の台数Mと、自励式SVC5の定格無効電力QXとを記憶している。演算部33は、減算器31によって求められた偏差分の無効電力ΔQ(第2の無効電力)と、記憶部32に記憶された台数Mおよび定格無効電力QXとに基づいて、偏差分の無効電力ΔQを供給するために最小限必要な自励式SVC5の台数mを求める。mは、1以上でM以下の自然数である。
【0036】
たとえば、(m-1)×QX<ΔQ<m×QXである場合には、(m-1)台の自励式SVC5では進相無効電力ΔQを供給することができず、m台の自励式SVC5では進相無効電力ΔQを供給できるので、mが最小限の台数となる。
【0037】
また、-m×QX<ΔQ<-(m-1)×QXである場合には、(m-1)台の自励式SVC5では遅相無効電力ΔQを供給することができず、m台の自励式SVC5では遅相無効電力ΔQを供給できるので、mが最小限の台数となる。
【0038】
信号発生部34は、演算部33で求められた台数mに基づいて、信号E1~EMを生成する。信号E1~EMは、それぞれM組の自励式SVC5および開閉器6に対応している。信号発生部34は、信号E1~EMのうちの自励式SVC5の数mの信号を「H」レベルにする。
【0039】
たとえば、信号発生部34は、m=Mである場合には全ての信号E1~EMを「H」レベルにする。また、信号発生部34は、m=1である場合には、信号E1を「H」レベルにし、他の信号E2~EMを「L」レベルにする。
【0040】
タイマー35は、所定時間(たとえば1時間)毎にパルス信号P2を出力する。ラッチ回路36は、パルス信号P2に応答して信号E1~EMを取り込み、取り込んだ信号E1~EMを信号F1~FMとして保持および出力する。
【0041】
M台の自励式SVC5は、それぞれ信号F1~FMの論理レベルに従って活性化または非活性化される。たとえば、信号F1~FMがともに「H」レベルである場合には、M台の自励式SVC5はともに活性化される。信号F1が「H」レベルであり、信号F2~FMがともに「L」レベルである場合には、M台の自励式SVC5のうちの1番目の自励式SVC5のみが活性化され、残りの(M-1)台の自励式SVC5は非活性化される。
【0042】
また、M個の開閉器6は、それぞれ信号F1~FMの論理レベルに従ってオンまたはオフする。たとえば、信号F1~FMがともに「H」レベルである場合には、M個の開閉器6はともにオンする。信号F1~FMがともに「L」レベルである場合には、M個の開閉器6はともにオフする。信号F1が「H」レベルであり、信号F2~FMがともに「L」レベルである場合には、M個の開閉器6のうちの1番目の開閉器6のみがオンされ、残りの(M-1)個の開閉器6はオフされる。
【0043】
自励式SVC5の運転および停止を頻繁に行なうと、自励式SVC5の寿命が短くなる。また、開閉器6をオンさせた瞬間に突入電流が短時間だけ流れて開閉器6がダメージを受けるので、開閉器6を頻繁にオンおよびオフさせると開閉器6の寿命が短くなる。そこで、自励式SVC5および開閉器6の長寿命化を図るため、タイマー35およびラッチ回路36により、自励式SVC5の活性化および非活性化と開閉器6のオンおよびオフを所定時間内において1回だけに制限している。
【0044】
無効電力指令部37は、信号F1~FMに基づいて、活性化されている自励式SVC5の台数mを求める。また無効電力指令部37は、減算器31によって求められた偏差分の無効電力ΔQを、活性化されている自励式SVC5の台数mで除算して、m台の自励式SVC5の各々が出力すべき無効電力QY=ΔQ/mを求める。そして無効電力指令部37は、求めた無効電力QYを示す無効電力指令値QCを生成し、その無効電力指令値QCをm台の自励式SVC5の各々に与える。
【0045】
M台の自励式SVC5のうちの活性化されたm台の自励式SVC5の各々は、無効電力指令値QCに応じた値の無効電力QY=ΔQ/mを配電線10に出力する。他の非活性化された各自励式SVC5の運転は停止される。
図3に示した回路部分30~37は、「第2の制御部」の一実施例を構成する。
【0046】
図4は、自励式SVC5の構成を例示する回路ブロック図である。
図4において、自励式SVC5は、インバータ40、コンデンサ41、変圧器42、電圧検出器43,44、電流検出器45、および制御装置46を含む。
図4では、M台の自励式SVC5のうちのM番目の自励式SVC5が示されている。
【0047】
インバータ40は、複数組のIGBTおよびダイオードを含む周知のものである。各組のIGBTおよびダイオードは互いに逆並列に接続されている。コンデンサ41は、インバータ40の直流端子40a,40b間に接続されている。インバータ40は、コンデンサ41の端子間の直流電圧VDを商用周波数の交流電圧に変換して交流端子40cに出力する。
【0048】
変圧器42の一次巻線42aはインバータ40の交流端子40cに接続され、変圧器42の二次巻線42bは開閉器6を介して配電線10に接続されている。変圧器42は、インバータ40と配電線10との間の支配的なインダクタンス成分となる。また変圧器42の二次巻線42bと開閉器6との間にリアクトルを接続してもよい。開閉器6は、信号FMが「H」レベルにされるとオンし、信号FMが「L」レベルにされるとオフする。
【0049】
電圧検出器43は、コンデンサ41の端子間の直流電圧VDを検出し、検出値を示す信号を制御装置46に出力する。電圧検出器44は、インバータ40の交流出力電圧VOの瞬時値を検出し、検出値を示す信号を制御装置46に出力する。電流検出器45は、インバータ40の交流出力電流IOの瞬時値を検出し、検出値を示す信号を制御装置46に出力する。
【0050】
制御装置46は、電圧検出器43,44および電流検出器45の出力信号と、ラッチ回路36(
図3)からの信号FMと、無効電力指令部37(
図3)からの無効電力指令値QCとに基づいて、インバータ40を制御する。
【0051】
すなわち、信号FMが「H」レベルである場合には、制御装置46は、インバータ40が供給する無効電力QYが無効電力指令値QCによって示される無効電力に一致するように、電圧検出器44の出力信号によって示される交流出力電圧VOと、電流検出器45の出力信号によって示される交流出力電流IOとに基づいて、インバータ40を制御する。
【0052】
このとき制御装置46は、インバータ40の交流出力電圧VOの振幅を配電線10の交流電圧VSの振幅よりも小さくすることにより、自励式SVC5を分路リアクトルとして動作させて進相無効電力を出力させる。
【0053】
また制御装置46は、インバータ40の交流出力電圧VOの振幅を配電線10の交流電圧VSの振幅よりも大きくすることにより、自励式SVC5は進相コンデンサとして動作させて遅相無効電力を出力させる。
【0054】
また、信号FMが「L」レベルである場合には、制御装置46は、インバータ40の運転を停止させる。この場合は、インバータ40に含まれるすべてのIGBTはオフ状態に維持される。1番目から(M-1)番目の自励式SVC5はM番目の自励式SVC5と同じ構成であるので、その説明は繰り返さない。
【0055】
次に、
図1~
図4に示した無効電力補償システムの動作について説明する。電圧検出器7および電流検出器8(
図1)によって配電線10の交流電圧VSおよび交流電流Iが検出され、それらの検出値に基づき、無効電力演算部20(
図2)によって無効電力QSが求められる。その無効電力QSに基づき、無効電力指令部21によって目標無効電力QT=-QSが求められ、その目標無効電力QTを示す信号が演算部23に与えられる。
【0056】
演算部23によって、記憶部22に記憶された(N+1)個の無効電力Q0~QNのうちの目標無効電力QTとの偏差ΔQの大きさが最も小さな無効電力Qnが求められる。また演算部23により、その無効電力Qnを調相設備1(
図1)から出力させるためにオンさせるべき開閉器3(
図1)の数nが求められる。
【0057】
信号発生部24(
図2)によって、開閉器3の数nに基づいて信号A1~ANが生成される。信号A1~ANは、それぞれN個の開閉器3に対応している。信号A1~ANのうちの開閉器3の数nの信号が「H」レベルにされる。
【0058】
タイマー25から所定時間(たとえば2時間)毎にパルス信号P1が出力される。そのパルス信号P1に応答して信号A1~ANがラッチ回路26に取り込まれ、信号B1~BNとして保持および出力される。
【0059】
これにより、N個の開閉器3のうちのn個の開閉器3がオンされるとともに残りの各開閉器3はオフされ、n個の分路リアクトル2が配電線10に接続され、n個の分路リアクトル2から配電線10に進相無効電力Qnが供給される。
【0060】
また、無効電力演算部30(
図3)により、ラッチ回路26の出力信号B1~BNに基づいて、オンされている開閉器3の数nが求められ、その数nに基づいて、調相設備1から配電線10に供給されている進相無効電力Qnが求められる。
【0061】
減算器31によって、無効電力指令部21によって求められる目標無効電力QT(
図2)と、無効電力演算部30によって求められる無効電力Qnとの偏差分の無効電力ΔQ=QT-Qnが求められる。
【0062】
演算部33(
図3)によって、偏差分の無効電力ΔQと、記憶部32に記憶された自励式SVC5の台数Mおよび定格無効電力QXとに基づいて、偏差分の無効電力ΔQを供給するために最小限必要な自励式SVC5の台数mが求められる。
【0063】
信号発生部34により、演算部33で求められた台mに基づいて、信号E1~EMが生成される。信号E1~EMは、それぞれM組の自励式SVC5および開閉器6に対応している。信号E1~EMのうちの自励式SVC5の台数mに応じた数の信号が「H」レベルにされる。
【0064】
タイマー35から所定時間(たとえば1時間)毎にパルス信号P2が出力される。パルス信号P2に応答して信号E1~EMがラッチ回路36に取り込まれ、信号F1~FMとして保持および出力される。これにより、M個の開閉器6のうちのm個の開閉器6がオンされるとともに残りの各開閉器6はオフされ、m台の自励式SVC5が配電線10に接続される。また、M台の自励式SVC5のうちのm台の自励式SVC5のみが活性化され、残りの各自励式SVC5は非活性化される。
【0065】
演算部33によって、信号F1~FMに基づいて、活性化されている自励式SVC5の台数mが求められ、減算器31によって求められた偏差分の無効電力ΔQが自励式SVC5の台数mで除算されて、m台の自励式SVC5の各々が出力すべき無効電力QY=ΔQ/mが求められる。また、無効電力指令部37により、無効電力QYを示す無効電力指令値QCが生成され、その無効電力指令値QCがm台の自励式SVC5の各々に与えられる。
【0066】
これにより、M台の自励式SVC5のうちの活性化されたm台の自励式SVC5の各々から配電線10に、無効電力指令値QCに応じた値の無効電力QY=ΔQ/mが供給される。他の非活性化された各自励式SVC5の運転は停止される。このようにして、目標無効電力QTのうちの無効電力Qnはn台の分路リアクトル2から供給され、目標無効電力QTと無効電力Qnの偏差分の無効電力ΔQはm台の自励式SVC5から供給される。
【0067】
次に、具体例について説明する。N=6、M=5とし、各分路リアクトル2は1000kvarの進相無効電力Q1を出力し、各自励式SVC5は、-1000kvarと+1000kvarの間の所望の無効電力QYを出力できるものとする。調相設備1は、0から6000kvarまで1000kvarずつステップ状に増大する7段階の進相無効電力Q0~Q6のうちのいずれかの進相無効電力Qnを出力する。
【0068】
目標無効電力QTが4600kvarである場合には、7段階の進相無効電力Q0~Q6のうちの目標無効電力QTとの偏差の大きさが最も小さな6段階目の進相無効電力Q6=5000(kvar)が演算部23(
図2)によって求められ、オンさせるべき開閉器3の数n=5が求められる。これにより、6個の開閉器3のうちの5個の開閉器3がオンされ、5個の分路リアクトル2から5000kvarの進相無効電力Q6が出力される。
【0069】
また、減算器31(
図3)によって目標無効電力QTと無効電力Q6との偏差ΔQ=QT-Q6=4600-5000=-400(kvar)が求められる。また、演算部33によって偏差分の無効電力ΔQ=-400(kvar)を供給するために最小限必要な自励式SVC5の台数m=1が求められる。これにより、1個の開閉器6がオンされ、1台の自励式SVC5から-400kvarの遅相無効電力QYが供給され、調相設備1および無効電力補償装置4から5000-400=4600(kvar)の無効電力が供給される。
【0070】
また、目標無効電力QTが7500kvarである場合には、7段階の進相無効電力Q0~Q6のうちの目標無効電力QTとの偏差が最も小さな7段階目の進相無効電力Q6=6000(kvar)が演算部23(
図2)によって求められ、オンさせるべき開閉器3の数n=6が求められる。これにより、6個の開閉器3の全てがオンされ、6個の分路リアクトル2から6000kvarの進相無効電力Q6が出力される。
【0071】
また、減算器31(
図3)によって目標無効電力QTと無効電力Q6との偏差ΔQ=QT-Q6=7500-6000=1500(kvar)が求められる。また、演算部33によって偏差分の進相無効電力ΔQ=1500(kvar)を供給するために最小限必要な台数m=2が求められる。これにより、2個の開閉器6がオンされ、2台の自励式SVC5から750kvarずつ合計1500kvarの進相無効電力QZが供給され、調相設備1および無効電力補償装置4から6000+1500=7500(kvar)の進相無効電力が供給される。
【0072】
以上のように、本実施の形態1では、N台の分路リアクトル2を含む調相設備1と、M台の自励式SVC5を含む無効電力補償装置4とが設けられ、(N+1)個の無効電力Q0~Q1のうちの目標無効電力QTとの偏差の大きさが最も小さな無効電力Qnが調相設備1から出力されるとともに、目標無効電力QTと無効電力Qnとの偏差分の無効電力ΔQが無効電力補償装置4から出力される。したがって、無効電力補償装置4の出力を最小限に抑えることができ、損失を小さくすることができる。
【0073】
[実施の形態2]
上記実施の形態1では、予備調査により、主に進相無効電力を配電線10に供給する必要があるので、N個の分路リアクトル2を含む調相設備1を設けた。この実施の形態2では、予備調査により、主に遅相無効電力を配電線10に供給する必要がある場合について説明する。
【0074】
図5は、本開示の実施の形態2に従う無効電力補償システムの構成を示す回路ブロック図であって、
図1と対比される図である。
図5を参照して、この無効電力補償システムが実施の形態1の無効電力補償システムと異なる点は、調相設備1が調相設備51で置換されている点である。調相設備51は、調相設備1の分路リアクトル2を進相コンデンサ52で置換したものである。
【0075】
すなわち、調相設備51は、N個の進相コンデンサ52と、それぞれ配電線10とN個の進相コンデンサ52との間に接続されたN個の開閉器3とを含む。N個の進相コンデンサ52の各々は、所定値の遅相無効電力Q1を供給する。N個の開閉器3の各々のオンおよびオフは、制御装置9によって制御される。
【0076】
1個の開閉器3がオンされると、その開閉器3に対応する1個の進相コンデンサ52から所定値の遅相無効電力Q1が配電線10に供給される。N個の開閉器3がオンされると、N個の進相コンデンサ52から遅相無効電力QN=N×Q1が配電線10に供給される。
【0077】
N個の開閉器3のうちのn個の開閉器3がオンされると、n個の進相コンデンサ52から遅相無効電力Qn=n×Q1が配電線10に供給される。n=0である場合は、調相設備51から配電線10に出力される遅相無効電力Q0は0(var)である。したがって、調相設備51は、0からQNまでステップ状に増大する(N+1)個の遅相無効電力Q0~QNのうちのいずれかの遅相無効電力Qnを配電線10に出力する。
【0078】
ただし、実施の形態1では、進相をプラス(+)とし、遅相をマイナス(-)としたが、本実施の形態2では、遅相をプラス(+)とし、進相をマイナス(-)とする。他の構成および動作は、実施の形態1と同じであるので、その説明は繰り返さない。
【0079】
この実施の形態2でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1,51 調相設備、2 分路リアクトル、3,6 開閉器、4 無効電力補償装置、5 自励式SVC、7,43,44 電圧検出器、8,45 電流検出器、9,46 制御装置、10 配電線、11 連系変圧器、12 送電線、13 商用交流電源、14 発電装置、15 負荷、20,30 無効電力演算部、21,37 無効電力指令部、22,32 記憶部、23,33 演算部、24,34 信号発生部、25,35 タイマー、26,36 ラッチ回路、31 減算器、40 インバータ、41 コンデンサ、42 変圧器、52 進相コンデンサ。