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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165622
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】送液装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20241121BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20241121BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20241121BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20241121BHJP
   B01J 4/00 20060101ALI20241121BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
G01N1/00 101K
B01J19/00 321
B81B1/00
G01N35/10 D
B01J4/00 103
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081972
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薄井 恒平
(72)【発明者】
【氏名】神野 健太
(72)【発明者】
【氏名】大脇 悠介
【テーマコード(参考)】
2G052
2G058
3C081
4B029
4G068
4G075
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052AD09
2G052AD29
2G052CA04
2G052CA20
2G052CA28
2G052CA35
2G052DA09
2G052HC10
2G058EA14
2G058EB01
3C081AA01
3C081BA21
3C081BA23
3C081BA33
3C081EA27
3C081EA28
3C081EA29
4B029AA27
4B029BB01
4G068AA01
4G068AB11
4G068AB17
4G068AB30
4G068AC20
4G068AD50
4G068AE10
4G068AF02
4G068AF17
4G068AF31
4G068AF40
4G075AA13
4G075AA39
4G075AA61
4G075AA70
4G075BA10
4G075BB05
4G075BB07
4G075BB10
4G075BD15
4G075CA51
4G075CA56
4G075DA02
4G075EB50
4G075FC02
(57)【要約】
【課題】デッドボリュームの発生を抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うこと。
【解決手段】本実施形態に係る送液装置は、貯留部と、配管と、送液部とを備える。貯留部は、第1液体と、当該第1液体とは非混和性であり、かつ当該第1液体とは比重が異なる第2液体とを貯留する。配管は、一端が貯留部に接続され、他端が第1液体の送液先に接続される。送液部は、貯留部から第1液体、第2液体の順に配管に押し出すことで送液先に第1液体を送液する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を含む第1液体と、当該第1液体とは非混和性であり、かつ当該第1液体とは比重が異なる第2液体とを貯留する貯留部と、
一端が前記貯留部に接続され、他端が前記第1液体の送液先に接続される配管と、
前記貯留部から前記第1液体、前記第2液体の順に前記配管に押し出すことで前記送液先に前記第1液体を送液する送液部と、
を備える送液装置。
【請求項2】
前記送液部は、前記貯留部から前記送液先への送液方向に応じた比重の第2液体を前記配管に押し出す、
請求項1に記載の送液装置。
【請求項3】
前記送液方向が上向きの場合は、前記第1液体よりも比重の大きい前記第2液体を前記配管に押し出し、前記送液方向が下向きの場合は、前記第1液体よりも比重の小さい前記第2液体を前記配管に押し出す、
請求項2に記載の送液装置。
【請求項4】
前記配管の情報に基づいて、前記貯留部から前記配管へ押し出す前記第2液体の容量を算出する算出部と、
前記送液部を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記算出部で算出された容量分の前記第2液体を前記配管に押し出させる制御を行う、
を更に備える、
請求項1に記載の送液装置。
【請求項5】
前記送液先は、微細流路である、
請求項4に記載の送液装置。
【請求項6】
前記算出部は、前記微細流路の情報に基づいて、前記貯留部から前記配管及び前記微細流路へ押し出す前記第2液体の容量を算出する、
請求項5に記載の送液装置。
【請求項7】
前記配管内に設けられ、前記貯留部から送液される前記第2液体が前記微細流路に侵入することを防止するフィルタを更に備える、
請求項5又は6に記載の送液装置。
【請求項8】
前記フィルタは、前記配管内の前記配管と前記微細流路とを接続する接続部付近に設けられる、
請求項7に記載の送液装置。
【請求項9】
前記第1液体を貯留する第1容器から前記貯留部へ前記第1液体を充填する第1充填部を更に備える、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の送液装置。
【請求項10】
前記第1充填部が前記第1液体を前記貯留部へ充填可能な状態と、前記送液部が前記第1液体を前記送液先へ送液可能な状態とを切り替える第1切替部を更に備える、
請求項9に記載の送液装置。
【請求項11】
前記第2液体を貯留する第2容器から前記貯留部へ前記第2液体を充填する第2充填部と、
前記第1充填部が前記第1液体を前記貯留部へ充填可能な状態と、前記第2充填部が前記第2液体を前記貯留部へ充填可能な状態とを切り替える第2切替部と、
を更に備え、
前記第1切替部は、前記第1充填部が前記第1液体を前記貯留部へ充填可能な状態又は前記第2充填部が前記第2液体を前記貯留部へ充填可能な状態と、前記送液部が前記第1液体を前記送液先へ送液可能な状態とを切り替える、
請求項10に記載の送液装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、μm単位のサイズの流路(以下、マイクロ流路ともいう)を用い、細胞の分取や分析、微小反応場形成(以下、ドロップレット生成ともいう)等を行うマイクロ流路デバイスが知られている。このようなマイクロ流路デバイスでは、試料となるサンプル溶液が入ったシリンジとマイクロ流路とを配管(例えば、チューブ等)で接続し、ポンプ等を利用してマイクロ流路に試料を送液することが行われる。
【0003】
ところで、マイクロ流路に試料を送液する際に圧力損失が生じることが知られている。このため、圧力損失を小さくする目的で、内径0.1mm~数mmの太さのチューブがシリンジとマイクロ流路との接続に用いられることが多くなっている。また、実用上、長さに余裕を持たせたチューブを用いてシリンジとマイクロ流路とを接続する場合が多い。
【0004】
上記の構成でマイクロ流路に試料を送液する場合、マイクロ流路とシリンジとを接続するチューブ内で液残り(以下、デッドボリュームともいう)が生じるという問題がある。これに対して、空気を用いてチューブ内のサンプル溶液を押し出してデッドボリュームを抑制する方法が知られている。しかしながら、空気を用いる方法では送液流量の安定性が保障されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-210353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、デッドボリュームの発生を抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うことである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決される課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る送液装置は、貯留部と、配管と、送液部とを備える。貯留部は、第1液体と、当該第1液体とは非混和性であり、かつ当該第1液体とは比重が異なる第2液体とを貯留する。配管は、一端が貯留部に接続され、他端が第1液体の送液先に接続される。送液部は、貯留部から第1液体、第2液体の順に配管に押し出すことで送液先に第1液体を送液する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る送液システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態に係る推定デッドボリュームの算出処理の一例を説明する図である。
図3図3は、第1実施形態に係る送液装置及び駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、第1実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図5図5は、第1実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図6図6は、第1実施形態に係る送液システムが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、第1実施形態に係る送液装置の動作の一例を説明する図である。
図8図8は、第1実施形態に係る送液装置の動作の一例を説明する図である。
図9図9は、第1実施形態に係る送液装置の比較評価における装置構成の一例を示すイメージ図である。
図10図10は、第1実施形態に係る送液装置の送液安定性に関する比較評価のデータの一例を示す図である。
図11図11は、第2実施形態に係る送液装置及び駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
図12図12は、第2実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図13図13は、第2実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図14図14は、第2実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図15図15は、第2実施形態に係る送液システムが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図16図16は、第3実施形態に係る送液装置及び駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
図17図17は、第3実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図18図18は、第3実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図19図19は、第3実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図20図20は、第3実施形態に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図21図21は、第1実施形態に係る送液システムが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図22図22は、変形例1に係るマイクロ流路の構成の一例を示す模式図である。
図23図23は、変形例1に係る推定デッドボリュームの算出処理の一例を説明する図である。
図24図24は、変形例2に係る送液装置の動作の一例を説明する図である。
図25図25は、変形例2に係る送液装置の送液安定性に関する実験データの一例を示す図である。
図26図26は、変形例3に係る送液システムの構成の一例を示すブロック図である。
図27図27は、変形例4に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図28図28は、変形例4に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図29図29は、変形例4に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図30図30は、変形例4に係る送液装置の外観の一例を示す斜視図である。
図31図31は、実施形態とは異なる形態の送液装置の動作の一例を説明する図である。
図32図32は、実施形態とは異なる形態の送液装置の動作の一例を説明する図である。
図33図33は、実施形態とは異なる形態の送液装置の比較評価における装置構成の一例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、送液装置のいくつかの実施形態について詳細に説明する。なお、実施形態は、以下の実施形態に限られるものではない。また、以下の説明において、同様の構成要素には共通の符号を付与するとともに、重複する説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る送液システム1の構成の一例を示すブロック図である。図1に示す送液システム1は、送液装置の一例である。本実施形態に係る送液システム1は、送液装置70と、駆動装置80と、処理装置90と、マイクロ流路100とを備えている。マイクロ流路100は、微細流路の一例である。
【0011】
送液装置70とマイクロ流路100とは、チューブTで接続される。チューブTは、例えば、PTFE(polytetrafluoroethylene)チューブである。チューブTは、配管の一例である。
【0012】
送液装置70は、マイクロ流路100に対してサンプル(細胞培養の対象となる対象細胞を含む生体試料等)を含む液体(以下、サンプル溶液ともいう)を送液する。例えば、送液装置70は、マイクロ流路100に対してサンプルを含む細胞懸濁液(以下、単に細胞懸濁液ともいう)を、所定の流量で継続的に送液する。なお、送液装置70は、マイクロ流路100に対して試薬の分注等を行うユニットを備えていてもよい。この場合、送液装置70はサンプル溶液の送液を行うユニットを含む複数のユニットで構成される。
【0013】
駆動装置80は、送液装置70を駆動する。駆動装置80は、例えば、ポンプやモータ等の駆動源により構成される。
【0014】
処理装置90は、駆動装置80を制御して送液装置70を作動させる。処理装置90は、出力装置40と、入力装置50と、記憶回路60と、処理回路30とを有する。
【0015】
出力装置40は、各種情報の出力を行う。出力装置40は、プリンタと、ディスプレイとを備えている。プリンタは、送液に関するデータ等の印刷を行う。ディスプレイは、CRT(Cathode Ray Tube)や液晶パネルなどのモニタであり、送液に関するデータ等の表示を行う。
【0016】
入力装置50は、各種情報の入力を行う。入力装置50は、キーボード、マウス、ボタン、タッチキーパネルなどの入力デバイスを備え、送液を行う細胞懸濁液SLの容量、送液流量等の送液パラメータを設定するための入力、サンプルの被検識別情報等を設定するための入力等を行う。
【0017】
記憶回路60は、各種情報を記憶する。記憶回路60は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子、又は、ハードディスク、光ディスク等の記憶装置などである。
【0018】
処理回路30は、送液システム1全体を統括制御する。例えば、処理回路30は、図1に示すように、制御機能31及び算出機能32を実行する。ここで、制御機能31は、制御部の一例である。また、算出機能32は、算出部の一例である。
【0019】
制御機能31は、駆動装置80を制御して送液システム1の各装置を作動させる。例えば、制御機能31は、駆動装置80に含まれる送液駆動源(例えば、ポンプ)を駆動して、マイクロ流路100へ後述する試料供給部71内に充填された細胞懸濁液を送液する。
【0020】
算出機能32は、配管の情報に基づいて、配管内の推定デッドボリュームを算出する。例えば、算出機能32は、チューブT内の推定デッドボリュームを算出する。一例として、算出機能32は、チューブTに関する情報(例えば、チューブの内径や長さ等)に基づいて、推定デッドボリュームを算出する。以下、図2を用いて配管内の推定デッドボリュームの算出処理について説明する。
【0021】
図2は、配管内の推定デッドボリュームの算出処理の一例を説明する図である。配管内の推定デッドボリュームは、配管断面積×配管長さで表される推定式で算出される。図2の例では、チューブTの内径をd、チューブTの長さをLとした場合を示しており、この場合チューブT内の推定デッドボリュームDV1は、DV1=πd/4×Lの式で算出することができる。この場合、チューブTの内径、チューブTの長さは、配管の情報の一例である。
【0022】
上述の制御機能31は、算出機能32で算出された推定デッドボリュームに基づいて、マイクロ流路100への細胞懸濁液及びデッドボリューム対策液の送液を行う。制御機能31による細胞懸濁液の送液処理については後述する。
【0023】
ここで、例えば、処理回路30の構成要素が実行する各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路60に記録されている。処理回路30は、各プログラムを記憶回路60から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路30は、図1の処理回路30内に示された各機能を有することとなる。
【0024】
なお、図1においては、単一の処理回路30にて、以下に説明する各処理機能が実現されるものとして説明するが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。
【0025】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。
【0026】
プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路60に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、記憶回路60にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込まれる。
【0027】
なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0028】
図1に戻り、説明を続ける。マイクロ流路100は、細胞の分取やドロップレット生成等のサンプルの処理が実行される。例えば、細胞の分取を行う場合、マイクロ流路100は、サイズに基づく細胞の分離、選別、及び収集等の処理を実行する。
【0029】
また、例えば、ドロップレット生成を行う場合、マイクロ流路100は、化学反応、タンパク質結晶化、微粒子合成、高分子合成、及び単一細胞の単分散化等の処理を実行する。この場合、上述の処理回路30の制御機能31は、サンプル溶液の流量を制御によって、液滴サイズやスループット(生成頻度)を調整する制御を行ってもよい。
【0030】
なお、マイクロ流路100は、実行する処理等に応じて変更可能としてもよい。この場合、チューブTを併せて変更してもよい。
【0031】
次いで、図3乃至図5を用いて、送液装置70及び駆動装置80について説明する。図3は、第1実施形態に係る送液システム1の送液装置70及び駆動装置80の構成の一例を示すブロック図である。
【0032】
図3に示すように、送液装置70は、試料供給部71を有する。また、駆動装置80は、送液駆動源81を有する。送液駆動源81は、送液部、第1充填部、及び第2充填部の一例である。また、図1にも示したように処理装置90の処理回路30は、制御機能31及び算出機能32を機能部として有する。また、試料供給部71は、チューブTによりマイクロ流路100と接続されている。
【0033】
試料供給部71は、対象細胞を含む細胞懸濁液と、当該細胞懸濁液とは非混和性であり、かつ当該細胞懸濁液とは比重が異なるデッドボリューム対策液とを貯留する。対象細胞を含む細胞懸濁液は、第1液体の一例である。また、デッドボリューム対策液は、第2液体の一例である。試料供給部71は、例えば、シリンジ等である。また、試料供給部71は、細胞懸濁液及びデッドボリューム対策液を貯留するため、貯留部の一例である。
【0034】
また、試料供給部71は、処理回路30の制御機能31の制御下で細胞懸濁液、デッドボリューム対策液の順にチューブTに押し出すことでマイクロ流路100に細胞懸濁液を送液する。この場合のマイクロ流路100は、送液先の一例である。本実施形態において、試料供給部71は、送液方向が下向きになるよう固定される。例えば、試料供給部71は、図4、5に示すように、送液方向が略垂直下向きになるよう駆動装置80の送液駆動源81等に固定される。
【0035】
なお、図4、5では、送液方向が略垂直下向きになる例について記載したが、送液方向は略垂直下向きに限定されない。送液方向は、送液方向のベクトル成分のうち、重力方向のベクトル成分が、当該重力方向以外のベクトル成分より大きくなる方向であればよい。例えば、送液方向は、送液方向のベクトル成分のうち、重力方向のベクトル成分が、当該重力方向以外のベクトル成分より大きくなるのであれば、斜め下向き等であってもよい。
【0036】
送液駆動源81は、試料供給部71内の細胞懸濁液及びデッドボリューム対策液をマイクロ流路100へ供給するための駆動力を発生させる装置である。送液駆動源81は、例えば、シリンジポンプ等である。
【0037】
また、制御機能31は、送液駆動源81を制御して所定の流量で細胞懸濁液をマイクロ流路100へ供給する。
【0038】
算出機能32は、図2で説明した方法でチューブT内の推定デッドボリュームを算出する。制御機能31は、送液駆動源81を制御して細胞懸濁液を試料供給部71から押し出した後、チューブT内に細胞懸濁液が残留しないように、算出機能32で算出された推定デッドボリュームに基づき、試料供給部71からチューブT内にデッドボリューム対策液を押し出す制御を行う。
【0039】
ここで、図4及び図5は、第1実施形態に係る送液装置70の外観の一例を示す斜視図である。図4は、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ供給する前の送液装置70の状態の一例を表している。
【0040】
図4に示すように、試料供給部71は、プランジャ71aを有する。また、試料供給部71は、チューブTによりマイクロ流路100に接続されている。例えば、試料供給部71の先端にチューブTを接続するための接続部材(例えば、ルアーロック等)を設けることで、当該接続部材を介してチューブTの一端側が着脱自在に接続される。なお、チューブTの一端側には、マイクロ流路100が接続される。
【0041】
プランジャ71aは、送液駆動源81の駆動により上下動し、試料供給部71内に貯留する液体の引き出し又は押し出しを行う。具体的には、プランジャ71aは、送液駆動源81の駆動により試料供給部71内の細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLを押し出してチューブTへ供給する。また、本実施形態では、試料供給部71内に細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLが予め充填される。
【0042】
ここで、試料供給部71内に存在する細胞懸濁液SLの容量は、入力装置50を介して、予めユーザによって入力されるものとする。試料供給部71内に存在する細胞懸濁液SLの容量は、マイクロ流路100へ送液する細胞懸濁液SLの全量を表している。
【0043】
また、同様に、送液流量の設定値についても、入力装置50を介して、予めユーザによって入力されるものとする。送液流量は、1分間に送液する細胞懸濁液SLの量を表している。なお、送液流量の設定方法は、ユーザ入力に限定されない。例えば、制御機能31が、マイクロ流路100で行う処理等の設定に応じて自動的に送液流量を設定してもよい。
【0044】
また、試料供給部71内に充填されるデッドボリューム対策液OLの容量は、算出機能32で算出された推定デッドボリューム以上の容量である。これにより、デッドボリューム対策液OLが不足して、デッドボリューム対策液OLの代わりに空気をチューブTへ押し出してしまうことを防止できる。
【0045】
ここで、細胞懸濁液SLは、例えば、細胞培養に用いられるRPMI(Roswell Park Memorial Institute)-1640培地等の液体培地である。また、デッドボリューム対策液OLは、送液方向に応じた比重の液体が用いられる。送液方向が下向きの場合、細胞懸濁液SLよりも比重の小さい液体である。本実施形態では、デッドボリューム対策液OLは、細胞懸濁液SLよりも比重の小さい油である。細胞懸濁液SLよりも比重の小さい油としては、例えば、キャノーラ油等が挙げられる。
【0046】
細胞懸濁液SLよりも比重が小さいデッドボリューム対策液OLを用いることで、図4に示すように、試料供給部71の下方に比重が大きい細胞懸濁液SLが配置され、上方に比重の小さいデッドボリューム対策液OLが配置される。
【0047】
本実施形態では、ユーザは対象細胞を含む細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLが充填されたシリンジを送液装置70に設置する。この場合のシリンジは試料供給部71の一例である。なお、ユーザ自身がピペットや充填用のシリンジ及びチューブ等を用いて、空のシリンジに対象細胞を含む細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLの充填を行ってもよい。
【0048】
また、図5は、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ供給した後の送液装置70の状態の一例を表している。制御機能31が送液駆動源81を駆動させることで、図5に示すように、プランジャ71aが下方向に移動する。これにより、試料供給部71からチューブT内に細胞懸濁液SLが押し出される。更にプランジャ71aが下方に移動すると、チューブTからマイクロ流路100へと細胞懸濁液SLが送液される。
【0049】
試料供給部71内の細胞懸濁液SLが全てチューブT内に押し出されると、チューブT内には、細胞懸濁液SLが充填された状態になる。ここで、仮に試料供給部71内にデッドボリューム対策液OLが存在しない場合、チューブT内には、細胞懸濁液SLが残留することになる。つまり、チューブT内にはデッドボリューム(液残り)が生じてしまう。
【0050】
本実施形態では、制御機能31により送液駆動源81が駆動され、試料供給部71内のデッドボリューム対策液OLがチューブT内に残留する細胞懸濁液SLを押し出す。これにより、チューブT内の細胞懸濁液SLがマイクロ流路100へ送液される。
【0051】
また、制御機能31は、算出機能32で算出された推定デッドボリューム分の容量のデッドボリューム対策液OLがチューブT内に押し出されるように、送液駆動源81の駆動を制御する。つまり、この場合、算出機能32は、チューブTの情報に基づいて、チューブT内に押し出すデッドボリューム対策液OLの容量を算出しているとも言える。
【0052】
本実施形態では、制御機能31により送液駆動源81が駆動され、算出機能32で算出された推定デッドボリューム分の容量のデッドボリューム対策液OLがチューブT内に残留する細胞懸濁液SLを押し出す。チューブT内に押し出されたデッドボリューム対策液OLの容量は、算出機能32で算出された推定デッドボリュームと同量であるため、計算上、デッドボリューム対策液OLは、チューブT内に全量残留し、マイクロ流路100内に押し出されることはない。
【0053】
これにより、本実施形態に係る送液装置70は、マイクロ流路100内へデッドボリューム対策液OLが侵入することを防止した上で、チューブT内のデッドボリュームを抑制することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、制御機能31は、算出機能32で算出された推定デッドボリューム分の容量のデッドボリューム対策液OLをチューブT内に押し出すが、チューブT内に押し出すデッドボリューム対策液OLの容量はこれに限定されない。例えば、推定デッドボリュームから所定値を減算した値分の容量をチューブT内に押し出すデッドボリューム対策液OLの容量としてもよいし、推定デッドボリュームから所定値を加算した値分の容量をチューブT内に押し出すデッドボリューム対策液OLの容量としてもよい。
【0055】
次に、本実施形態に係る送液システム1が実行する処理について説明する。図6は、第1実施形態に係る送液システム1が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0056】
なお、本処理の前提として、算出機能32は、チューブTの推定デッドボリュームを算出済であるものとする。また、制御機能31は、算出されたチューブTの推定デッドボリュームに基づいて、デッドボリューム対策液OLの送液量を設定済であるものとする。また、送液装置70には、細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLを充填済の試料供給部71が設置されているものとする。また、試料供給部71内の細胞懸濁液SLの容量及び送液流量は予め設定されているものとする。
【0057】
制御機能31は、試料供給部71の細胞懸濁液SLの送液を開始する(ステップS101)。
【0058】
例えば、制御機能31は、送液駆動源81を制御し、プランジャ71aを押し下げ、所定の流量になるように試料供給部71内の細胞懸濁液SLをチューブT内へと押し出す。制御機能31は、更にプランジャ71aを押し下げることにより、チューブT内の細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へと送液する。
【0059】
次いで、制御機能31は、試料供給部71のデッドボリューム対策液OLの送液を開始し(ステップS102)、本処理を終了する。
【0060】
例えば、制御機能31は、計算上で試料供給部71内の細胞懸濁液SLを全量チューブT内に押し出した後、算出機能32で算出された、チューブTの推定デッドボリューム分、試料供給部71内のデッドボリューム対策液OLをチューブT内に押し出す。
【0061】
これにより、試料供給部71内に充填された細胞懸濁液SLを略全量マイクロ流路100へと送液することができる。
【0062】
以上に述べた第1実施形態に係る送液システム1は、細胞懸濁液SLと、当該細胞懸濁液SLとは非混和性であり、かつ当該細胞懸濁液とは比重が異なるデッドボリューム対策液OLとが充填される試料供給部71と、一端が試料供給部71に接続され、他端がマイクロ流路100に接続されるチューブTを備える。また、送液システム1は、試料供給部71から細胞懸濁液SL、デッドボリューム対策液OLの順にチューブTに押し出すことでマイクロ流路100に細胞懸濁液SLを送液する。
【0063】
これにより、試料供給部71内の細胞懸濁液SLを押し出した時点でチューブT内に残留している細胞懸濁液SLをデッドボリューム対策液OLで押し出すことによりマイクロ流路100に送液することができる。つまり、本実施形態に係る送液システム1は、デッドボリュームを抑制することができる。以下、図を用いて、デッドボリュームを抑制できる理由について説明する。
【0064】
まず、本実施形態による送液方法との比較のため、デッドボリューム対策液OLを用いない構成の送液装置について説明する。図31及び図32は、実施形態とは異なる構成の送液装置200の動作の一例を説明する図である。送液装置200は、試料供給部201とプランジャ201aを有する。試料供給部201とプランジャ201aは、試料供給部71とプランジャ71aと同様のため説明は省略する。また、試料供給部201は、チューブTによりマイクロ流路100と接続されている。
【0065】
図31は、試料供給部201に予め充填された細胞懸濁液SLをマイクロ流路100に送液する前の状態を表している。例えば、プランジャ201aは、ポンプ等の送液駆動源(図示しない)の駆動により押し下げられ、細胞懸濁SLをチューブT内に押し出す。プランジャ201aを押し下げていくことにより、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液することができる。
【0066】
また、図32は、プランジャ201aを試料供給部201の底面まで押し下げた状態を表している。図32に示すように、プランジャ201aを試料供給部201の底面まで押し下げたとしても、チューブT内に残留する細胞懸濁液SLには、プランジャ201aが液体を押し出す力が十分に伝わらない可能性がある。このため、チューブT内には細胞懸濁液SLの液残り、つまりデッドボリュームDVが生じ得る。
【0067】
一方、本実施形態に係る送液システム1は、上述のようにデッドボリューム対策液OLでチューブT内の細胞懸濁液SLを押し出すことにより、デッドボリュームの発生を抑制することができる。
【0068】
以下、図31及び図32に示した、実施形態とは異なる送液装置200と比較するため、図31及び図32と同様の図を用いて第1実施形態に係る送液装置70の動作の一例について説明する。
【0069】
図7及び図8は、第1実施形態に係る送液装置70の動作の一例を説明する図である。送液装置70は、試料供給部71とプランジャ71aを有する。試料供給部71とプランジャ71aについては上述のとおりのため、説明は省略する。また、試料供給部71は、チューブTによりマイクロ流路100と接続されている。
【0070】
図7は、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100に送液する前の送液装置70の状態を表している。また、図7に示すように、本実施形態に係る送液装置70では、細胞懸濁液SLと共にデッドボリューム対策液OLが試料供給部71に予め充填されている。
【0071】
図29の送液装置200と同様に、例えば、送液駆動源81(図示しない)の駆動によりプランジャ71aが押し下げられることで、送液装置70は、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液することができる。また、デッドボリューム対策液OLは細胞懸濁液SLよりも比重が小さいため、試料供給部71は、細胞懸濁液SL、デッドボリューム対策液OLの順で内部の液体をチューブT内に押し出すことになる。
【0072】
また、図8は、プランジャ71aを試料供給部71の底面まで押し下げた状態を表している。図8に示すように、プランジャ71aを試料供給部71の底面まで押し下げると、デッドボリューム対策液OLがチューブT内に押し出されることになり、チューブT内に残留していた細胞懸濁液SLがマイクロ流路100へと押し出される。このため、デッドボリューム対策液OLを用いない送液装置200と比較して、チューブT内に残留する細胞懸濁液SLの量を低減することができる。
【0073】
ところで、デッドボリュームを抑制する別の方法として、例えば、空気で配管内に残留する液体を押し出す技術が知られている。しかしながら、従来の空気で配管内に残留する液体を押し出してデッドボリュームを抑制する方法の流量の安定性については保障されていない。このため、空気を用いた送液方法では、例えば、マイクロ流路100を用いて、細胞分取やドロップレット生成等の処理を行うような、厳密な流量制御が求められる場面において、安定した流量で送液を行えない可能性がある。
【0074】
以下、第1実施形態に係る送液手法(以下、提案手法ともいう)と、空気を用いてデッドボリューム抑制する手法(以下、従来手法ともいう)とについて、流量の安定性に関する比較評価の結果を説明する。
【0075】
まず、提案手法の評価に係る送液装置70の構成について、図9を用いて説明する。図9は、第1実施形態に係る送液装置70の比較評価における装置構成の一例を示すイメージ図である。
【0076】
図9に示すように、送液装置70の試料供給部71に送液用チューブDTの一端を接続した。また、送液用チューブDTの他端は、流量計CMの入り口に接続した。また、流量計CMの出口には、廃液用チューブWTを接続した。また、廃液用チューブWTは、廃液容器WCの中に入った状態とし、流量計CMからの廃液が廃液容器WC内に流れるようにした。また、試料供給部71の内部には、予め細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLを充填した状態とした。
【0077】
また、流量計CMには情報処理装置IAを接続し、測定した流量の情報を情報処理装置IAで取得できる構成とした。
【0078】
また、試料供給部71としては、2.5mLシリンジ(テルモ株式会社製)を使用した。
【0079】
また、送液用チューブDTとしては、シリコンチューブ(0.5×2.5mm)及びPTFEチューブ(内径0.5mm)を使用した。具体的には、2.5mLシリンジの先端にはルアーロックを接続し、ルアーロックにはシリコンチューブの一端を接続し、シリコンチューブの他端には、PTFEチューブを接続した。
【0080】
また、送液駆動源81として、シリンジポンプ(Harvard社製)を使用した。
【0081】
また、流量計CMとしては、Flow EZ(Fluigent社製)を使用した。
【0082】
また、細胞懸濁液SLとして、RPMI-1640培地、デッドボリューム対策液OLとしてキャノーラ油を使用した。具体的には、先に0.5mLのキャノーラ油を2.5mLシリンジ内に充填し、その後、1mLのRPMI-1640培地を2.5mLシリンジ内に充填した。なお、キャノーラ油及びRPMI-1640培地の充填は、同じ充填用の配管を用いて手動で行った。
【0083】
次に、従来手法の評価に係る送液装置300の構成について、図31を用いて説明する。図31は、実施形態とは異なる送液装置300の比較評価における装置構成の一例を示すイメージ図である。
【0084】
送液装置300の比較評価における装置構成は、図9に示した第1実施形態に係る送液装置70の比較評価における装置構成と略同様であるが、試料供給部301内には、デッドボリューム対策液OLの代わりに空気ARを予め充填した状態とした。具体的には、先に0.5mLの空気ARを2.5mLシリンジ内に充填し、その後、1mLのRPMI-1640培地を2.5mLシリンジ内に充填した。なお、空気AR及びRPMI-1640培地の充填は、同じ充填用の配管を用いて手動で行った。
【0085】
また、提案手法及び従来手法の評価では、2.5mLシリンジを送液方向が略垂直下向きとなるようにシリンジポンプに固定した状態で、送液流量15μL/minに設定してシリンジポンプを動作させてシリンジからの送液を開始し、約15~30分間、流量のモニタリングを実行した。また、比較例として、同様の方法でRPMI-1640培地のみを送液した場合の流量のモニタリングも実行した。
【0086】
次に、図10を用いて、提案手法と従来手法との比較評価の結果について説明する。図10は、第1実施形態に係る送液装置の送液安定性に関する比較評価のデータの一例を示す図である。
【0087】
図10では、横軸は、送液開始からの経過時間を表す送液時間(S)、縦軸は、流量計CMで計測された流量計測値(μL/min)を表している。また、図10の実線のグラフは、提案手法(RPMI-1640培地及びキャノーラ油を送液した場合)の計測流量計測値の推移を、点線は、従来手法(RPMI-1640培地及び空気を送液した場合)の流量計測値の推移を、破線は、比較例(RPMI-1640培地のみを送液した場合)の流量計測値の推移を表している。
【0088】
図10に示すように、従来手法では、送液時間が350~400秒付近で設定された送液流量である15μL/minを下回るピークが生じていることがわかる。また、送液時間が900~1100秒付近でも継続的に流量計測値が15μL/minを下回っていることがわかる。
【0089】
これに対し、提案手法では、送液時間が100秒付近までは上向きのピークが確認できるものの、100秒付近以降では、安定して流量計測値が15μL/min前後となっていることがわかる。
【0090】
また、比較例に関しても、上向き及び下向きのいくつかのピークが発生していることがわかる。
【0091】
以上より、提案手法が最も安定した流量で継続的に送液を行うことができることがわかる。したがって、提案手法は、従来手法と比較して送液安定性が大きく改善していると言える。つまり、本実施形態に係る送液システム1によれば、デッドボリュームの発生を抑制した上で、安定した流量で継続的な送液を行うことができる。
【0092】
(第2実施形態)
上述した第1実施形態では、試料供給部71内に予め充填された細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLを送液する形態について説明した。第2実施形態では、予めデッドボリューム対策液OLが充填された試料供給部71内に細胞懸濁液SLを充填してマイクロ流路100に送液する形態について説明する。以下の第2実施形態以降の説明において、第1実施形態と共通する要素等については、図面中に同一の番号を付してその説明を省略することがある。
【0093】
図11は、第2実施形態に係る送液システム1Aの送液装置70A及び駆動装置80Aの構成の一例を示すブロック図である。
【0094】
図11に示すように、送液装置70Aは、試料供給部71、第1バルブ72、第1容器74を有する。第1バルブ72は、第1切替部の一例である。また、駆動装置80は、送液駆動源81及びバルブ駆動源82を有する。また、処理装置90Aの処理回路30Aは、制御機能31A及び算出機能32を機能部として有する。
【0095】
また、試料供給部71は、チューブT1により第1バルブ72と接続されている。また、第1バルブ72は、チューブT2によりマイクロ流路100と接続されている。また、第1バルブ72は、チューブT3により第1容器74と接続されている。試料供給部71、送液駆動源81、算出機能32については第1実施形態と同様のため説明を省略する。
【0096】
第1バルブ72は、後述の第1容器74から試料供給部71への細胞懸濁液SLの充填が可能な状態と、試料供給部71からマイクロ流路100への細胞懸濁液SLの送液が可能な状態とを切り替える。
【0097】
また、本実施形態の第1バルブ72は、後述のバルブV1及びバルブV2を有する。例えば、第1バルブ72は、バルブV1を閉状態、バルブV2を開状態とすることで、第1容器74から試料供給部71への細胞懸濁液SLの充填が可能な状態にする。また、例えば、第1バルブ72は、バルブV1を開状態、バルブV2を閉状態とすることで試料供給部71からマイクロ流路100への細胞懸濁液SLの送液が可能な状態にする。
【0098】
第1バルブ72は、後述のバルブ駆動源82により駆動し、バルブV1及びバルブV2の開状態、閉状態を切り替える。
【0099】
第1容器74は、細胞懸濁液SLを貯留するための容器である。第1容器74内の細胞懸濁液SLは、送液駆動源81の駆動により試料供給部71に充填される。
【0100】
バルブ駆動源82は、第1バルブ72の状態を切り替える駆動源である。例えば、バルブ駆動源82は、第1バルブ72のバルブV1及びバルブV2の開状態と閉状態を切り替える。バルブ駆動源82は、例えば、モータである。一例として、バルブ駆動源82は、制御機能31の制御下で駆動し、第1バルブ72のバルブV1及びバルブV2の開状態と閉状態とを切り替える。
【0101】
ここで、図12乃至図14は、第2実施形態に係る送液装置70Aの外観の一例を示す斜視図である。図12は、細胞懸濁液SLを試料供給部71に充填する前の送液装置70Aの状態の一例を表している。
【0102】
図12に示すように、試料供給部71は、プランジャ71aを有する。また、試料供給部71は、チューブT1により第1バルブ72に接続されている。また、第1バルブ72のバルブV1は、チューブT2によりマイクロ流路100に接続されている。また、第1バルブ72のバルブV2には、チューブT3が接続されている。また、チューブT3は、第1容器74内の細胞懸濁液SLに浸された状態になっている。
【0103】
また、第1バルブ72は、バルブV1が閉状態、バルブV2が開状態となっている。また、本実施形態では、試料供給部71内には、デッドボリューム対策液OLのみが予め充填されている。
【0104】
図13は、細胞懸濁液SLが試料供給部71に充填されている状態を表している。図13に示すように、図12の状態で送液駆動源81の駆動によりプランジャ71aが引き上げられると、第1容器74内の細胞懸濁液SLがチューブT3を通って、チューブT1内に吸引される。更にプランジャ71aを引き上げることで、チューブT1内の細胞懸濁液SLは、試料供給部71に充填される。
【0105】
この例では、試料供給部71内に充填する細胞懸濁液SLの容量は、入力装置50を介して、ユーザによって入力される。
【0106】
ここで、試料供給部71内に充填する細胞懸濁液SLの容量は、入力装置50を介して、予めユーザによって入力されるものとする。試料供給部71内に充填する細胞懸濁液SLの容量は、マイクロ流路100へ送液する細胞懸濁液SLの全量を表している。
【0107】
また、第1実施形態と同様に、送液流量の設定値は、予めユーザによって入力され、試料供給部71内に充填されるデッドボリューム対策液OLの容量は、算出機能32で算出された推定デッドボリューム以上の容量であるものとする。
【0108】
図14は、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液中の送液装置70Aの状態の一例を表している。細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液する場合、制御機能31Aは、バルブ駆動源82を制御して、第1バルブ72のバルブV1を開状態、バルブV2を閉状態に切り替える。
【0109】
第1バルブ72のバルブV1が開状態、バルブV2が閉状態になった状態で、制御機能31が送液駆動源81を駆動させると、図14に示すように、プランジャ71aが下方向に移動し、試料供給部71からチューブT1内に細胞懸濁液SLが押し出される。更にプランジャ71aが下方に移動すると、チューブT1内の細胞懸濁液SLは、チューブT2を通ってマイクロ流路100へと送液される。
【0110】
次に、本実施形態に係る送液システム1Aが実行する処理について説明する。図15は、第2実施形態に係る送液システム1Aが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0111】
本処理の前提として、算出機能32は、チューブT1及びT2の推定デッドボリュームを算出済であるものとする。また、制御機能31は、算出されたチューブT1及びT2の推定デッドボリュームに基づいて、デッドボリューム対策液OLの送液量を設定済であるものとする。また、送液装置70Aには、デッドボリューム対策液OLを充填済の試料供給部71が設置されているものとする。また、試料供給部71に充填する細胞懸濁液SLの容量、送液流量は予め設定されているものとする。また、第1バルブ72のバルブV1は閉状態、バルブV2は開状態であるものとする。
【0112】
まず、制御機能31Aは、駆動装置80の送液駆動源81を制御し、設定された充填量分の細胞懸濁液SLを試料供給部71に充填する(ステップS201)。
【0113】
例えば、制御機能31Aは、送液駆動源81を制御し、プランジャ71aを引き上げ、第1容器74内の細胞懸濁液SLをチューブT3内に吸引を開始する。また、制御機能31Aは、設定された細胞懸濁液SLの充填量に応じて更にプランジャ71aを引き上げる。これにより、チューブT3内の細胞懸濁液SLは、チューブT1を通って試料供給部71に充填される。
【0114】
設定された量の細胞懸濁液SLが試料供給部71に充填された後、制御機能31Aは、駆動装置80のバルブ駆動源82を制御し、第1バルブ72のバルブV1を開状態、バルブV2を閉状態に切り替える(ステップS202)。
【0115】
次いで、制御機能31Aは、駆動装置80の送液駆動源81を制御し、細胞懸濁液SLの送液を開始する(ステップS203)。
【0116】
例えば、制御機能31は、送液駆動源81を制御し、プランジャ71aを押し下げ、所定の流量になるように試料供給部71内の細胞懸濁液SLをチューブT1内へと押し出す。また、制御機能31は、更にプランジャ71aを押し下げる。これにより、チューブT1内の細胞懸濁液SLは、チューブT2を通ってマイクロ流路100へと送液される。
【0117】
次いで、制御機能31は、試料供給部71のデッドボリューム対策液OLの送液を開始し(ステップS204)、本処理を終了する。
【0118】
例えば、制御機能31は、計算上で試料供給部71内の細胞懸濁液SLを全量チューブT1内に押し出した後、算出機能32で算出された、チューブT1及びT2の推定デッドボリューム分、試料供給部71内のデッドボリューム対策液OLをチューブT1内に押し出す。
【0119】
これにより、試料供給部71内に充填された細胞懸濁液SLを略全量マイクロ流路100へと送液することができる。
【0120】
以上に述べた第2実施形態に係る送液システム1Aによれば、細胞懸濁液SLを自動的に充填することができる。このため、例えば、ユーザが手動で試料供給部71内に細胞懸濁液SLを充填し、充填量を手動で入力した場合に、実際の充填量が充填量の入力値よりも少なかったために、計算上のタイミングよりも早いタイミングでデッドボリューム対策液OLがチューブT内に押し出され、マイクロ流路100内にデッドボリューム対策液OL液が侵入してしまうような事態を防止することができる。
【0121】
また、第2実施形態に係る送液システム1Aによれば、第1実施形態に係る送液システム1と同様に、デッドボリュームの発生を抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うことができる。
【0122】
(第3実施形態)
上述した第2実施形態では、デッドボリューム対策液OLが充填された試料供給部71内に細胞懸濁液SLを充填してマイクロ流路100に送液する形態について説明した。第3実施形態では、空の試料供給部71内に細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLを充填してマイクロ流路100に送液する形態について説明する。
【0123】
図16は、第3実施形態に係る送液システム1Bの送液装置70B及び駆動装置80Bの構成の一例を示すブロック図である。
【0124】
図16に示すように、送液装置70Bは、試料供給部71、第1バルブ72、第2バルブ73、第1容器74及び第2容器75を有する。第2バルブ73は、第2切替部の一例である。また、駆動装置80Bは、送液駆動源81及びバルブ駆動源82Bを有する。また、処理装置90Bの処理回路30Bは、制御機能31B及び算出機能32を機能部として有する。
【0125】
また、試料供給部71は、チューブT1により第1バルブ72と接続されている。また、第1バルブ72は、チューブT2によりマイクロ流路100と接続されている。また、第1バルブ72は、チューブT4により第2バルブ73と接続されている。また、第2バルブ73は、チューブT5により第1容器74と接続されている。また、第2バルブ73は、チューブT6により第2容器75と接続されている。
【0126】
試料供給部71、第1バルブ72、第1容器74、送液駆動源81、算出機能32については第1実施形態及び第2実施形態と同様のため説明を省略する。
【0127】
第2バルブ73は、後述の第2容器75から試料供給部71へのデッドボリューム対策液OLの充填が可能な状態と、第1容器74から試料供給部71への細胞懸濁液SLの充填が可能な状態とを切り替える。
【0128】
また、本実施形態の第2バルブ73は、後述のバルブV3及びバルブV4を有する。例えば、第2バルブ73は、バルブV3を閉状態、バルブV4を開状態とすることで、第2容器75から試料供給部71へのデッドボリューム対策液OLの充填が可能な状態にする。また、例えば、第2バルブ73は、バルブV3を開状態、バルブV4を閉状態とすることで第1容器74から試料供給部71への細胞懸濁液SLの充填が可能な状態にする。
【0129】
第2バルブ73は、バルブ駆動源82Bにより駆動し、バルブV3及びバルブV4の開状態、閉状態を切り替える。
【0130】
第2容器75は、デッドボリューム対策液OLを貯留するための容器である。第2容器75内のデッドボリューム対策液OLは、送液駆動源81の駆動により試料供給部71に充填される。
【0131】
バルブ駆動源82Bは、第1バルブ72及び第2バルブ73の状態を切り替える。例えば、バルブ駆動源82Bは、制御機能31Bの制御下で駆動し、第1バルブ72のバルブV1及びバルブV2並びに第2バルブ73のバルブV3及びバルブV4の開状態と閉状態とを切り替える。
【0132】
ここで、図17乃至図20は、第3実施形態に係る送液装置70Bの外観の一例を示す斜視図である。図17は、デッドボリューム対策液OLを試料供給部71に充填する前の送液装置70Bの状態の一例を表している。
【0133】
図17に示すように、試料供給部71は、プランジャ71aを有する。また、試料供給部71は、チューブT1により第1バルブ72に接続されている。また、第1バルブ72のバルブV1は、チューブT2によりマイクロ流路100に接続されている。
【0134】
また、第1バルブ72のバルブV2は、チューブT4により第2バルブ73に接続されている。また、第2バルブ73のバルブV3には、チューブT5が接続されている。また、チューブT5は、第1容器74内の細胞懸濁液SLに浸された状態になっている。また、第2バルブ73のバルブV4には、チューブT6が接続されている。また、チューブT6は、第2容器75内のデッドボリューム対策液OLに浸された状態になっている。
【0135】
また、第1バルブ72は、バルブV1が閉状態、バルブV2が開状態となっている。また、第2バルブ73は、バルブV3が閉状態、バルブV4が開状態となっている。また、本実施形態では、デッドボリューム対策液OLの充填動作が行われる前は、試料供給部71は空の状態である。
【0136】
図18は、デッドボリューム対策液OLが試料供給部71に充填されている状態を表している。図18に示すように、図17の状態で送液駆動源81の駆動によりプランジャ71aが引き上げられると、第2容器75内のデッドボリューム対策液OLがチューブT6及びチューブT4を通って、チューブT1内に吸引される。更にプランジャ71aを引き上げることで、チューブT1内のデッドボリューム対策液OLは、試料供給部71に充填される。
【0137】
ここで、試料供給部71に充填されるデッドボリューム対策液OLの容量は、算出機能32で算出されたチューブT内の推定デッドボリュームに基づいて決定される。例えば、推定デッドボリュームに所定の値を加えた容量を、試料供給部71に充填するデッドボリューム対策液OLの容量とする。これにより、チューブT内に押し出すデッドボリューム対策液OLが不足してチューブT内のデッドボリュームを解消できなくなるといった事態を防止できる。
【0138】
図19は、細胞懸濁液SLが試料供給部71に充填されている状態を表している。細胞懸濁液SLを試料供給部71に充填する場合、制御機能31Bは、バルブ駆動源82を制御して、第2バルブ73のバルブV3を開状態、バルブV4を閉状態に切り替える。
【0139】
この状態で送液駆動源81の駆動によりプランジャ71aが引き上げられると、第1容器74内の細胞懸濁液SLがチューブT5及びチューブT4を通って、チューブT1内に吸引される。更にプランジャ71aを引き上げることで、チューブT1内の細胞懸濁液SLは、試料供給部71に充填される。
【0140】
ここで、第2実施形態と同様に、試料供給部71内に充填する細胞懸濁液SLの量及び送液流量の設定値は、予めユーザによって入力されるものとする。
【0141】
図20は、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液中の送液装置70Bの状態の一例を表している。細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液する場合、制御機能31Bは、バルブ駆動源82を制御して、第1バルブ72のバルブV1を開状態、バルブV2を閉状態に切り替える。
【0142】
第1バルブ72のバルブV1が開状態、バルブV2が閉状態になった状態で、制御機能31が送液駆動源81を駆動させると、図20に示すように、プランジャ71aが下方向に移動し、試料供給部71からチューブT1内に細胞懸濁液SLが押し出される。更にプランジャ71aが下方に移動すると、チューブT1内の細胞懸濁液SLは、チューブT2を通ってマイクロ流路100へと送液される。
【0143】
次に、本実施形態に係る送液システム1Bが実行する処理について説明する。図21は、第3実施形態に係る送液システム1Bが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0144】
本処理の前提として、算出機能32は、チューブT1及びT2の推定デッドボリュームを算出済であるものとする。また、制御機能31は、算出されたチューブT1及びT2の推定デッドボリュームに基づいて、デッドボリューム対策液OLの試料供給部71内への充填量及びチューブT1への送液量を設定済であるものとする。また、試料供給部71に充填する細胞懸濁液SLの容量、送液流量は予め設定されているものとする。また、第1バルブ72のバルブV1は閉状態、バルブV2は開状態であるものとする。また、第2バルブ73のバルブV3は閉状態、バルブV4は開状態であるものとする。
【0145】
まず、制御機能31Bは、駆動装置80の送液駆動源81を制御し、設定された充填量分のデッドボリューム対策液OLを試料供給部71に充填する(ステップS301)。
【0146】
例えば、制御機能31Bは、送液駆動源81を制御し、プランジャ71aを引き上げ、第2容器75内のデッドボリューム対策液OLをチューブT6内に吸引する。また、制御機能31Bは、設定されたデッドボリューム対策液OLの充填量に応じて更にプランジャ71aを引き上げる。これにより、チューブT6内のデッドボリューム対策液OLは、チューブT4、チューブT1を通って試料供給部71に充填される。
【0147】
推定デッドボリュームに基づいて決定された容量のデッドボリューム対策液OLが試料供給部71に充填された後、制御機能31Bは、駆動装置80のバルブ駆動源82Bを制御し、第2バルブ73のバルブV3を開状態、バルブV4を閉状態に切り替える(ステップS302)。
【0148】
まず、制御機能31Bは、駆動装置80の送液駆動源81を制御し、設定された充填量分の細胞懸濁液SLを試料供給部71に充填する(ステップS303)。
【0149】
例えば、制御機能31Bは、送液駆動源81を制御し、プランジャ71aを引き上げ、第1容器74内の細胞懸濁液SLをチューブT5内に吸引する。また、制御機能31Bは、設定された細胞懸濁液SLの充填量に応じて更にプランジャ71aを引き上げる。これにより、チューブT5内の細胞懸濁液SLは、チューブT4、チューブT1を通って試料供給部71に充填される。
【0150】
設定された量の細胞懸濁液SLが試料供給部71に充填された後、制御機能31Bは、駆動装置80のバルブ駆動源82Bを制御し、第1バルブ72のバルブV1を開状態、バルブV2を閉状態に切り替える(ステップS304)。
【0151】
ステップS305及びS306については、図15のステップS203及びステップS204と同様のため、説明を省略する。これにより、試料供給部71内に充填された細胞懸濁液SLを略全量マイクロ流路100へと送液することができる。
【0152】
以上に述べた第3実施形態に係る送液システム1Bによれば、デッドボリューム対策液OLを自動的に充填することができる。このため、例えば、ユーザが手動で試料供給部71内にデッドボリューム対策液OLを充填した場合に、デッドボリューム対策液OLの充填量が算出されたチューブT1及びT2内の推定デッドボリュームよりも少なかったために、デッドボリューム対策液OLをチューブT内に押し出す工程でデッドボリューム対策液OLの代わりに空気をチューブT1内に押し出してしまい、送液の安定性が損なわれてしまうような事態を防止できる。
【0153】
また、第3実施形態に係る送液システム1Bによれば、第1実施形態及び第2実施形態に係る送液システム1と同様に、デッドボリュームの発生を抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うことができる。
【0154】
なお、上述した実施形態は、各装置が有する構成又は機能の一部を変更することで、適宜に変形して実施することも可能である。そこで、以下では、上述した実施形態に係るいくつかの変形例を他の実施形態として説明する。なお、以下では、上述した実施形態と異なる点を主に説明することとし、既に説明した内容と共通する点については詳細な説明を省略する。また、以下で説明するいくつかの変形例は、個別に実施されてもよいし、適宜組み合わせて実施されてもよい。
【0155】
(変形例1)
上述の第1実施形態乃至第3実施形態では、算出機能32がチューブT内の推定デッドボリュームを算出する形態について説明した。しかしながら、算出機能32は、更にマイクロ流路100内の流路の推定デッドボリュームを算出してもよい。
【0156】
ここで、図22は、変形例1に係るマイクロ流路100の構成の一例を示す模式図である。図22のマイクロ流路100は、ドロップレット生成に用いられるマイクロ流路100の一例である。
【0157】
本変形例に係るマイクロ流路100は、オイル注入口DI、オイル流路DP、サンプル注入口SI、第1サンプル流路SP1、液滴生成領域CR、第2サンプル流路SP2、及び回収口OTを有する。
【0158】
オイル注入口DIは、液滴生成用オイルを注入する注入口である。オイル流路DPは、オイル注入口DIから注入された液滴生成用オイルを液滴生成領域CRへ送出するための流路である。
【0159】
サンプル注入口SIは、細胞懸濁液SLを注入する注入口である。サンプル注入口SIは、例えば、一端が試料供給部71の先端に接続されたチューブTの他端に接続される。サンプル流路SP1は、サンプル注入口SIから注入された細胞懸濁液SLを液滴生成領域CRへ送出する流路である。
【0160】
液滴生成領域CRは、ドロップレット(液滴)を生成するための領域である。例えば、液滴生成領域CRでは、液滴生成用オイルが細胞懸濁液SLをせん断することにより、細胞懸濁液SL内の細胞が封入されたドロップレットが生成される。第2サンプル流路SP2は、液滴生成領域CRで生成されたドロップレットを回収口OTへ送出するための流路である。回収口OTは、生成されたドロップレットを回収するための回収口である。
【0161】
ところで、図22の例では、第1サンプル流路SP1内の細胞懸濁液SLを押し出し切れない可能性があるため、デッドボリュームが発生し得る。同様に、第2サンプル流路SP2内に、ドロップレットが流路壁に吸着する等して残留する可能性があるため、デッドボリュームが発生し得る。
【0162】
そこで、処理回路30の算出機能32は、配管内の推定デッドボリュームに加えて、マイクロ流路100内の流路の推定デッドボリュームを算出してもよい。例えば、算出機能32は、チューブT内の推定デッドボリュームDV1に加えて、第1サンプル流路SP1の推定デッドボリュームDV2及び第2サンプル流路SP2の推定デッドボリュームDV3を算出してもよい。以下、図23を用いてマイクロ流路100内の推定デッドボリュームの算出処理について説明する。
【0163】
図23は、マイクロ流路内の推定デッドボリュームの算出処理の一例を説明する図である。マイクロ流路内の推定デッドボリュームは、流路断面積×流路長さで表される推定式で算出される。
【0164】
図23の例で、流路幅をW、流路の深さをH、流路の長さをL1とし、図22の第1サンプル流路SP1内の推定デッドボリュームDV2を求める場合、第1サンプル流路SP1の推定デッドボリュームDV2は、DV2=W×H×L1の式で算出することができる。この場合、流路幅、流路の深さ、流路の長さは微細流路の情報の一例である。また、第2サンプル流路SP2の推定デッドボリュームDV3も同様の式で算出可能である。
【0165】
上述の制御機能31は、算出機能32で算出された推定デッドボリュームに基づいて、マイクロ流路100への細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLの送液を行う。例えば、制御機能31は、推定デッドボリュームDV1+推定デッドボリュームDV2+推定デッドボリュームDV3を配管及びマイクロ流路の推定デッドボリュームとし、当該推定デッドボリュームに相当する容量のデッドボリューム対策液OLを用いてデッドボリュームを解消する処理を実行する。
【0166】
ところで、図22の例では、第2サンプル流路SP2内に残留するドロップレットについては、デッドボリューム対策液OL以外の液体でデッドボリュームを解消することが可能な場合もある。このような場合は、制御機能31は、推定デッドボリュームDV3を除いた値に相当する容量のデッドボリューム対策液OLを用いて、デッドボリュームを解消する処理を実行してもよい。
【0167】
また、ユーザがどの部分をデッドボリュームとするかを選択できるようにしてもよい。これにより、制御機能31は、例えば、ユーザがマイクロ流路100内にデッドボリューム対策液OLがなるべく侵入しないようにしたいと考えているような場合には、推定デッドボリュームDV1のみを推定デッドボリュームとする等、ユーザの希望に合わせた送液処理を行うことができる。
【0168】
(変形例2)
上述の第1実施形態乃至第3実施形態では、試料供給部71からマイクロ流路100への送液方向が下向きである形態について説明した。しかしながら、送液方向はこれに限定されない。例えば、試料供給部71からマイクロ流路100への送液方向は、上向きであってもよい。
【0169】
図24は、変形例2に係る送液装置70の動作の一例を説明する図である。図24に示すように、本変形例に係る送液装置70は、試料供給部71とプランジャ71aを有する。本変形例では、試料供給部71は、送液方向が上向きになるよう固定される。例えば、試料供給部71は、送液駆動源81(図24では図示しない)に略垂直上向きに固定される。
【0170】
なお、図24では、送液方向が略垂直上向きになる例について記載したが、送液方向は略垂直上向きに限定されない。本変形例において、送液方向は、送液方向のベクトル成分のうち、反重力方向ベクトル成分が、当該反重力方向以外のベクトル成分より大きくなる方向であればよい。例えば、送液方向は、送液方向のベクトル成分のうち、反重力方向のベクトル成分が、当該反重力方向以外のベクトル成分より大きくなるのであれば、斜め上向き等であってもよい。
【0171】
プランジャ71aについては上述の実施形態と同様のため説明を省略する。また、試料供給部71は、チューブTにより、試料供給部71の上方に位置するマイクロ流路100(図24では図示しない)と接続されている。
【0172】
また、第1実施形態と同様に、デッドボリューム対策液OLは、送液方向に応じた比重の液体が用いられる。送液方向が上向きの場合、デッドボリューム対策液OL1は、細胞懸濁液SLよりも比重が大きい液体である。細胞懸濁液SLよりも比重が大きい液体としては、例えば、HFE(Hydro Fluoro Ether)-7500等が挙げられる。
【0173】
細胞懸濁液SLよりも比重が大きいデッドボリューム対策液OLを用いることで、図24に示すように、試料供給部71の下方に比重が大きいデッドボリューム対策液OLが配置され、上方に比重の小さい細胞懸濁液SLが配置される。
【0174】
図24は、試料供給部71に予め充填された細胞懸濁液SLをマイクロ流路100に送液する前の状態を表している。例えば、プランジャ71aは、ポンプ等の送液駆動源(図示しない)の駆動により押し上げられ、細胞懸濁SLをチューブT内に押し出す。プランジャ71aを押し上げていくことにより、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液することができる。
【0175】
また、プランジャ71aを押し上げて、デッドボリューム対策液OL1をチューブT内に押し出すことで、上述の実施形態と同様に試料供給部71のデッドボリュームを抑制することができる。
【0176】
図25は、変形例2に係る送液装置の送液安定性に関する比較評価のデータの一例を示す図である。ここで、図25は、本変形例の手法と、従来手法との流量の安定性に関する比較評価の結果を示している。なお、本変形例の手法では、図9に示した構成と同様の装置構成で、2.5mLシリンジをシリンジポンプに略垂直上向きに固定して流量計測を実施した。また、デッドボリューム対策液OL1として、HFE-7500を用いた。
【0177】
図25では、図10と同様に、横軸は、送液開始からの経過時間を表す送液時間(S)、縦軸は、流量計CMで計測された流量計測値(μL/min)を表している。また、図25の破線のグラフは、変形例手法(RPMI-1640培地及びHFE-7500を送液した場合)の計測流量計測値の推移を、は、実線は、比較例(RPMI-1640培地のみを下向きに送液した場合)の流量計測値の推移を表している。
【0178】
図25に示すように、変形例手法では、送液開始時から安定して流量計測値が15μL/min前後となっていることがわかる。また、比較例と比較しても安定的な流量で送液を行うことができていることがわかる。したがって、本変形例に係る送液システム1についても、上述の第1実施形態と同様に、安定した流量で継続的な送液を行うことができると言える。
【0179】
また、上向きに送液を行っても、デッドボリュームを抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うことができるため、送液装置70の構成の自由度が高くなる。例えば、装置を設置する環境等により、試料供給部71の上方にマイクロ流路100を設けざるを得ないような状況であったとしても、デッドボリュームを抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うことが可能な送液装置70を提供することができる。
【0180】
(変形例3)
上述の第1実施形態乃至第3実施形態では、試料供給部71内の細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLをプランジャ71aで押し出してマイクロ流路100へ送液する形態について説明した。しかしながら、送液システム1は、ポンプ等の圧力供給源からの圧力を制御してマイクロ流路100への送液を行ってもよい。
【0181】
図26は、変形例3に係る送液システム1の構成の一例を示すブロック図である。図26に示すように、本変形例に係る送液システム1は、駆動装置80、圧力制御式送液装置70C、マイクロチューブMT、及びマイクロ流路100を有する。また、マイクロ流路100にはチューブTの一端が接続され、チューブTの他端は、マイクロチューブMT内の細胞懸濁液SLの層に浸された状態になっている。
【0182】
駆動装置80は、圧力供給源81Cを備える。圧力供給源81Cは、圧力制御式送液装置70Cに対して圧力を供給する。圧力供給源81Cは、例えば、ポンプである。
【0183】
圧力制御式送液装置70Cは、圧力供給源81Cから供給された圧力を制御して、空気圧を生み出し、当該空気圧をマイクロチューブMT内に送り出す。圧力制御式送液装置70Cは、圧力供給源81Cから供給される圧力を制御することで所定の流量で細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液することができる。
【0184】
マイクロチューブMTは、細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLを貯留する。本変形例のデッドボリューム対策液OLは、第1実施形態と同様に細胞懸濁液SLよりも比重が小さい液体である。本変形例では、細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLは予め充填される。なお、細胞懸濁液SL及びデッドボリューム対策液OLの充填は、ユーザがピペット等を用いて手動で行ってもよいし、自動分注機等を用いて自動で行ってもよい。
【0185】
ここで、圧力制御式送液装置70CからマイクロチューブMT内に送られた空気圧により、マイクロチューブMT内の細胞懸濁液SLは、チューブT内に送り出される。また、圧力制御式送液装置70Cが空気圧をマイクロチューブMT内に送り続けることで、チューブTから細胞懸濁液SLがマイクロ流路100へと送り出されることになる。これにより、本変形例に係る送液システム1は、マイクロ流路100へ細胞懸濁液SLを送液できる。
【0186】
また、本変形例では、比重の大きい細胞懸濁液SLが先にチューブT内へ送り出されるため、細胞懸濁液SL、デッドボリューム対策液OLの順でチューブT内へと送り出されることになる。したがって、上述した第1実施形態と同様に、チューブT内に残留する細胞懸濁液SLをデッドボリューム対策液OLで押し出すことにより、チューブT内のデッドボリュームを抑制することができる。
【0187】
(変形例4)
上述の第3実施形態では、第2バルブ73の切り替えにより、デッドボリューム対策液OLの試料供給部71への充填と、細胞懸濁液SLの試料供給部71への充填処理とを切り替える形態について説明した。しかしながら、チューブの差し替えにより、デッドボリューム対策液OLの試料供給部71への充填と、細胞懸濁液SLの試料供給部71への充填処理とを切り替えてもよい。
【0188】
ここで、図27乃至図30は、変形例4に係る送液装置70Bの外観の一例を示す斜視図である。図27は、デッドボリューム対策液OLを試料供給部71に充填する前の送液装置70Bの状態の一例を表している。
【0189】
図27に示すように、試料供給部71は、プランジャ71aを有する。また、試料供給部71は、チューブT1により第1バルブ72に接続されている。また、第1バルブ72のバルブV1は、チューブT2によりマイクロ流路100に接続されている。
【0190】
また、第1バルブ72のバルブV2には、チューブT8が接続されている。また、チューブT8は、第2容器75内のデッドボリューム対策液OLに浸された状態になっている。
【0191】
また、第1バルブ72は、バルブV1が閉状態、バルブV2が開状態となっている。また、本実施形態では、デッドボリューム対策液OLの充填動作が行われる前は、試料供給部71は空の状態である。
【0192】
また、図28は、デッドボリューム対策液OLが試料供給部71に充填されている状態を表している。図28に示すように、図27の状態で送液駆動源81の駆動によりプランジャ71aが引き上げられると、第2容器75内のデッドボリューム対策液OLがチューブT8を通って、チューブT1内に吸引される。更にプランジャ71aを引き上げることで、チューブT1内のデッドボリューム対策液OLは、試料供給部71に充填される。
【0193】
また、図29は、細胞懸濁液SLが試料供給部71に充填されている状態を表している。細胞懸濁液SLを試料供給部71に充填する場合、チューブT8を第2容器75から第1容器74に差し替える。なお、チューブT8の差し替えは、制御機能31による指示の下、ユーザが手動で行ってもよいし、制御機能31が、駆動装置80のモータ等の駆動力を利用して自動的に行ってもよい。
【0194】
この状態で送液駆動源81の駆動によりプランジャ71aが引き上げられると、第1容器74内の細胞懸濁液SLがチューブT8を通って、チューブT1内に吸引される。更にプランジャ71aを引き上げることで、チューブT1内の細胞懸濁液SLは、試料供給部71に充填される。
【0195】
また、この例では、試料供給部71内に吸引するデッドボリューム対策液OLの容量、試料供給部71内に吸引する細胞懸濁液SLの容量、送液流量は、入力装置50を介して、ユーザによって入力される。
【0196】
また、図30は、細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液中の送液装置70Bの状態の一例を表している。細胞懸濁液SLをマイクロ流路100へ送液する場合、制御機能31Bは、バルブ駆動源82を制御して、第1バルブ72のバルブV1を開状態、バルブV2を閉状態に切り替える。
【0197】
第1バルブ72のバルブV1が開状態、バルブV2が閉状態になった状態で、制御機能31が送液駆動源81を駆動させると、図30に示すように、プランジャ71aが下方向に移動し、試料供給部71からチューブT1内に細胞懸濁液SLが押し出される。更にプランジャ71aが下方に移動すると、チューブT1内の細胞懸濁液SLは、チューブT2を通ってマイクロ流路100へと送液される。
【0198】
本変形例によれば、第3実施形態と同様に、デッドボリュームを抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うことができる。
【0199】
(変形例5)
上述の第1実施形態乃至第3実施形態に係る送液システム1(1A、1B)は、試料供給部71とマイクロ流路100とを接続するチューブT(T1、T2)の内部にデッドボリューム対策液OLがマイクロ流路100に侵入することを防止するフィルタを有していてもよい。フィルタとしては、例えば、メンブレンフィルタ等を用いることができる。
【0200】
また、フィルタは、チューブT内のチューブTとマイクロ流路100との接続部に近い位置に設けることが好ましい。これは、フィルタにより、チューブT内のフィルタが設けられる位置よりも下流にはデッドボリューム対策液OLが届かなくなるため、チューブT内のフィルタが設けられる位置よりも下流に残留する細胞懸濁液SLを押し出すことができず、チューブT内のフィルタが設けられる位置よりも下流では、デッドボリュームが生じる可能性があるためである。
【0201】
本変形例によれば、マイクロ流路100内にデッドボリューム対策液OLが侵入することを防止した上で、デッドボリュームの発生を抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うことができる。
【0202】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、デッドボリュームの発生を抑制し、かつ、安定した流量で継続的な送液を行うことができる。
【0203】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0204】
1 送液システム
30 処理回路
31 制御機能
32 算出機能
40 出力装置
50 入力装置
60 記憶回路
70 送液装置
71 試料供給部
71a プランジャ
80 駆動装置
81 送液駆動源
100 マイクロ流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33