(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165638
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ブームスプレーヤ
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
A01M7/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082000
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保田 秀彬
(72)【発明者】
【氏名】太田 淳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智樹
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121CB03
2B121CB32
2B121CB56
2B121CB70
(57)【要約】
【課題】走行装置に装着される水平機構を備えたブームスプレーヤにおいて、低コスト化と動作速度の向上ないし待機時間の短縮による作業の効率化を図ることができるブームスプレーヤを提供する。
【解決手段】ロックシリンダ17を伸長する(最伸状態にする)ことで一対のストッパ体18、19を互いに離間させてロック部11Gから反対方向へ離れさせることにより、ブーム4を重量バランスで水平状態に維持し、ロックシリンダ17を収縮する(最縮状態にする)ことで一対のストッパ体18、19を互いに接近させてロック部11Gに反対方向(対向方向)から近づける(挟持する)ことにより、ブーム4を支持する支持枠11を機体枠2に対して固定(ロック)する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置に装着される機体枠に対してブームを支持する支持枠を軸支して左右水平方向に展開したブームの重量バランスでブームの水平状態を維持する水平機構を備えたブームスプレーヤであって、
前記水平機構は、
シリンダチューブに設けられた基端側ストッパ体と、ロッドに設けられた先端側ストッパ体とからなる一対のストッパ体を有する単一のロックシリンダであって、前記一対のストッパ体が前記ロックシリンダの伸縮に応じて前記機体枠に沿って相互に離間又は接近可能となっている単一のロックシリンダと、
前記支持枠における前記一対のストッパ体の間に設けられたロック部と、を備え、
前記ロックシリンダを伸長することで前記一対のストッパ体を互いに離間させて前記ロック部から反対方向へ離れさせることにより、前記ブームを重量バランスで水平状態に維持するフリー状態と、前記ロックシリンダを収縮することで前記一対のストッパ体を互いに接近させて前記ロック部に反対方向から近づけることにより、前記ブームを支持する前記支持枠を前記機体枠に対して固定するロック状態と、を切り替え可能となっていることを特徴とするブームスプレーヤ。
【請求項2】
前記機体枠に、前記一対のストッパ体の各々の前記機体枠に沿う方向の移動を制限する移動制限部が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のブームスプレーヤ。
【請求項3】
前記移動制限部は、前記一対のストッパ体の各々が前記機体枠に沿う方向に移動可能に挿通される挿通孔で構成されることを特徴とする、請求項2に記載のブームスプレーヤ。
【請求項4】
前記一対のストッパ体の各々は、前記シリンダチューブ又は前記ロッドに連結されるとともに前記機体枠に摺動可能に配在される摺動部と、前記摺動部に連結されて前記ロック部に離間又は接近可能に対向配置されるストッパ部と、を備えることを特徴とする、請求項1に記載のブームスプレーヤ。
【請求項5】
前記ロックシリンダは、前記一対のストッパ体によって前記機体枠に固定されずに支持されていることを特徴とする、請求項1に記載のブームスプレーヤ。
【請求項6】
前記ロック部は、断面円形に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のブームスプレーヤ。
【請求項7】
前記ブームを支持する前記支持枠を前記機体枠に対して傾斜状態に保持するための傾斜シリンダを備え、
前記傾斜シリンダは、前記フリー状態において伸縮することで前記ブームを支持する前記支持枠を前記機体枠に対して傾斜状態に保持可能となっていることを特徴とする、請求項1に記載のブームスプレーヤ。
【請求項8】
前記支持枠は、前記ブームを支持するブーム支持部と、前記ブーム支持部と相対回転可能に設けられた連結部と、を有し、
前記ブーム支持部と前記連結部との間に前記傾斜シリンダが配備され、前記連結部と前記機体枠との間に弾性部材で構成されるダンパが配備されていることを特徴とする、請求項7に記載のブームスプレーヤ。
【請求項9】
前記連結部に前記ロック部が設けられていることを特徴とする、請求項8に記載のブームスプレーヤ。
【請求項10】
走行装置に装着される機体枠に対してブームを支持する支持枠を軸支して左右水平方向に展開したブームの重量バランスでブームの水平状態を維持するとともに、前記ブームを支持する前記支持枠を前記機体枠に対して固定状態にするロック機構を具備する水平機構を備えたブームスプレーヤであって、
前記ロック機構は、
シリンダチューブに設けられた基端側ストッパ体と、ロッドに設けられた先端側ストッパ体とからなる一対のストッパ体を有する単一のロックシリンダであって、前記一対のストッパ体が前記ロックシリンダの伸縮に応じて前記機体枠に沿って相互に離間又は接近可能となっている単一のロックシリンダと、
前記支持枠における前記一対のストッパ体の間に設けられたロック部と、を備え、
前記ロックシリンダを収縮することで前記一対のストッパ体を互いに接近させて前記ロック部に反対方向から近づけることにより、前記ブームを支持する前記支持枠を前記機体枠に対して固定状態にし、前記ロックシリンダを伸長することで前記一対のストッパ体を互いに離間させて前記ロック部から反対方向へ離れさせることにより、前記固定状態を解除することを特徴とするブームスプレーヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブームスプレーヤ、特には走行装置(トラクタなど)に装着されるブームスプレーヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ブームスプレーヤは、トラクタや自走機体などの走行装置に装着(直装又は牽引)されて、圃場などを進行しながら広範囲に薬剤等の液材(散布材)を散布する作業機である。このブームスプレーヤは、進行方向に対して交差する水平方向に沿って左右両側或いは左右の片側に延長配置されるブームを備えており、ブームに所定間隔で複数配置されるノズルから液材を圃場面に向けて噴射させることで、地面近くから1行程で広範囲に液材を散布することができる。
【0003】
このようなブームスプレーヤは、走行面の凹凸などによる機体のローリング(揺動)に対してブームの水平状態を維持することができる水平機構を備えたものが知られている。従来のブームスプレーヤにおける水平機構は、ブームを支持する支持枠が機体に軸支されており、水平方向左右に展開したブームの重量バランスでブーム全体の水平を維持する機構を備えている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
また、前述した従来のブームスプレーヤは、左右一方に展開したブームを伸縮させるなどして左右ブームの重量バランスが崩れるとブームの水平を維持できなくなるので、そのような操作を行う前にブームを支持する支持枠を機体に対して固定状態にするロック機構(ロック用油圧シリンダなど)を設ける必要がある。また、作業を行わない移動走行時、作業走行時よりも走行速度が高くなるとブームの水平を維持することが難しくなるので、このような場合にもブームを支持する支持枠を機体に対して固定する必要がある。また、圃場面自体が傾斜している場合には、左右に展開したブームを圃場面に沿って(圃場面と平行になるように)傾斜させる必要があり、それに対応するために機体に対してブームを支持する支持枠を傾斜状態に保持する傾斜機構(傾斜用油圧シリンダなど)を設けることが必要になる。このような要請に対処するために、水平機構を備えたブームスプレーヤにおいて、ロック機構(ロック用油圧シリンダなど)と傾斜機構(傾斜用油圧シリンダなど)を備えたものが提案されている(例えば、下記特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6527028号公報
【特許文献2】特許第5870006号公報
【特許文献3】特開2022-039392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2に開示されているブームスプレーヤは、一対のロック機構(ロック用油圧シリンダ)に備えられた可動部が左右方向で互いに異なる向きにそれぞれ進んで車体又はセンターブームに当接することによりセンターブームを揺動不能にロックする。このため、高価なアクチュエータとなる油圧シリンダが2本必要となり、生産コストが高くなる。また、油圧シリンダ2本分を動作させるための油量が必要となり、水平機構のロック又はフリー(ロック解除)にするための動作が遅くなり、ロック又はフリー(ロック解除)までの待機時間が長くなり、作業効率が低下する問題がある。
【0007】
また、上記特許文献3に開示されているブームスプレーヤは、単一のロック機構(ロック用油圧シリンダ)のシリンダチューブ内に、互いに反対方向に向くようにピストンロッド(以下、単にロッドと称する場合がある)を配置し、そのピストンロッドは、作動時に同時に反対方向へ伸縮し、そのピストンロッドのピストンヘッドが支持部にそれぞれ当接するまで伸長することによりセンターブームを揺動不能にロックする。すなわち、上記特許文献2の2本の油圧シリンダを1本にしたような構造である。このため、油圧シリンダの内部構造が複雑となり、生産コストが高くなる。また、1本の油圧シリンダであるものの、油を導入するための流路が2か所あり、油圧シリンダを作動させる際は依然として、油圧シリンダ2本分を動作させるのと同等の油量が必要となり、上記特許文献2と同様、水平機構のロック又はフリー(ロック解除)にするための動作が遅くなり、ロック又はフリー(ロック解除)までの待機時間が長くなり、作業効率が低下する問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に対処するために提案されたものであり、走行装置に装着される水平機構を備えたブームスプレーヤにおいて、低コスト化と動作速度の向上ないし待機時間の短縮による作業の効率化を図ることができるブームスプレーヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明に係るブームスプレーヤは、以下の構成を具備するものである。すなわち、走行装置に装着される機体枠に対してブームを支持する支持枠を軸支して左右水平方向に展開したブームの重量バランスでブームの水平状態を維持する水平機構を備えたブームスプレーヤであって、前記水平機構は、シリンダチューブに設けられた基端側ストッパ体と、ロッドに設けられた先端側ストッパ体とからなる一対のストッパ体を有する単一のロックシリンダであって、前記一対のストッパ体が前記ロックシリンダの伸縮に応じて前記機体枠に沿って相互に離間又は接近可能となっている単一のロックシリンダと、前記支持枠における前記一対のストッパ体の間に設けられたロック部と、を備え、前記ロックシリンダを伸長することで前記一対のストッパ体を互いに離間させて前記ロック部から反対方向へ離れさせることにより、前記ブームを重量バランスで水平状態に維持するフリー状態と、前記ロックシリンダを収縮することで前記一対のストッパ体を互いに接近させて前記ロック部に反対方向から近づけることにより、前記ブームを支持する前記支持枠を前記機体枠に対して固定するロック状態と、を切り替え可能となっていることを特徴とする。
【0010】
好ましい態様では、前記機体枠に、前記一対のストッパ体の各々の前記機体枠に沿う方向の移動を制限する移動制限部が設けられている。
【0011】
別の好ましい態様では、前記移動制限部は、前記一対のストッパ体の各々が前記機体枠に沿う方向に移動可能に挿通される挿通孔で構成される。
【0012】
別の好ましい態様では、前記一対のストッパ体の各々は、前記シリンダチューブ又は前記ロッドに連結されるとともに前記機体枠に摺動可能に配在される摺動部と、前記摺動部に連結されて前記ロック部に離間又は接近可能に対向配置されるストッパ部と、を備える。
【0013】
別の好ましい態様では、前記ロックシリンダは、前記一対のストッパ体によって前記機体枠に固定されずに支持されている。
【0014】
別の好ましい態様では、前記ロック部は、断面円形に形成されている。
【0015】
別の好ましい態様では、前記ブームを支持する前記支持枠を前記機体枠に対して傾斜状態に保持するための傾斜シリンダを備え、前記傾斜シリンダは、前記フリー状態において伸縮することで前記ブームを支持する前記支持枠を前記機体枠に対して傾斜状態に保持可能となっている。
【0016】
別の好ましい態様では、前記支持枠は、前記ブームを支持するブーム支持部と、前記ブーム支持部と相対回転可能に設けられた連結部と、を有し、前記ブーム支持部と前記連結部との間に前記傾斜シリンダが配備され、前記連結部と前記機体枠との間に弾性部材で構成されるダンパが配備されている。
【0017】
別の好ましい態様では、前記連結部に前記ロック部が設けられている。
【発明の効果】
【0018】
このような特徴を備えたブームスプレーヤは、アクチュエータとなるロックシリンダ(ロック用油圧シリンダなど)が1本で済み、生産コストを抑えられる。また、ロックシリンダへ送られる作動流体はロックシリンダ1本分で済み、水平機構のロック又はフリー(ロック解除)にするための動作が速くなり、ロック又はフリー(ロック解除)までの待機時間が短くなり、作業効率が向上する。これにより、走行装置に装着される水平機構を備えたブームスプレーヤにおいて、低コスト化と動作速度の向上ないし待機時間の短縮による作業の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの全体構成例を示した斜め後方視の斜視図である。
【
図1B】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの全体構成例を示した後面図である。
【
図1C】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの全体構成例を示した側面図である。
【
図2A】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの水平機構の構成例を示した斜め後方視の斜視図である。
【
図2B】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの水平機構の構成例を示した後面図である。
【
図2C】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの水平機構の構成例を示した側面図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの水平機構の主要部のフリー状態を示した斜め後方視の斜視図である。
【
図3B】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの水平機構の主要部のフリー状態を示した後面図である。
【
図4A】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの水平機構の主要部のロック状態を示した斜め後方視の斜視図である。
【
図4B】本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの水平機構の主要部のロック状態を示した後面図である。
【
図5】走行装置の左傾斜状態における水平機構のフリー状態とロック状態の切り替えを示した説明図である。
【
図6】走行装置の左傾斜状態における水平機構の右傾斜状態を示した説明図である。
【
図7】走行装置の右傾斜状態における水平機構のフリー状態とロック状態の切り替えを示した説明図である。
【
図8】走行装置の右傾斜状態における水平機構の左傾斜状態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。また、上下、左右、前後等の方向を示す用語は、走行装置の通常の進行方向を基準としている。
【0021】
先ず、
図1A~Cを用いて、本発明の実施形態に係るブームスプレーヤの全体構成の一例を説明する。ブームスプレーヤ1は、走行装置であるトラクタ(
図1A~Cには不図示、特許文献1等を参照)に直装され、圃場面などを走行しながら薬剤などを散布するものであり、トラクタに直装される機体枠2と、機体枠2に搭載されるタンク3と、機体枠2に水平機構10を介して支持されるブーム4とを備えている。ブーム4は、トラクタの進行方向に対して交差する水平方向に沿って左右両側或いは左右の片側に延長配置され、ブーム4には、タンク3に貯留される薬剤などを圃場面に向けて噴出するノズル5が複数配置されている。
【0022】
タンク3に貯留されている薬剤などは、ポンプの駆動圧によって、前述したブーム4に支持されている散布パイプ6に供給され、この散布パイプ6に所定間隔毎に配備されている複数のノズル5から散布される。
【0023】
以下、水平機構10を説明する。水平機構10は、
図1A~Cと共に
図2A~Cに示すように、機体枠2に対してブーム4を支持する支持枠11を軸支して、左右水平方向に展開したブーム4の重量バランスでブーム4の水平状態を維持する機構を備えている。
【0024】
支持枠11は、概ね左右対称の形態を有し、左右に伸びるブーム支持部11Aを備える。図示の例では、ブーム支持部11Aは、後面視で横長の台形枠状を有し、その左右両端に、ブーム4が展開又は収納可能に設けられている(
図1A、B参照)。また、支持枠11は、前述したブーム支持部11Aの走行装置側(前側)に、上下に伸びる連結部11Bを備える。そして、支持枠11においてブーム支持部11Aの中央上部と連結部11Bの上部が共に回転軸12によって機体枠2に回転自在に支持されている。なお、支持枠11においてブーム支持部11Aと連結部11Bは、回転軸12を中心として相対回転可能とされている。図示の例では、機体枠2は、昇降レール2Aとこの昇降レール2Aに昇降自在に支持される昇降フレーム2Bを備えており、支持枠11(のブーム支持部11Aと連結部11B)は、回転軸12によって昇降フレーム2Bに軸支されている。また、図示の機体枠2は、昇降フレーム2Bを昇降レール2Aに沿って昇降させる昇降シリンダ2Cを備えている。
【0025】
支持枠11と昇降フレーム2Bとの間には、弾性部材で構成されるバランス用(防振用)バネを内蔵したダンパ13が接続されている。ダンパ13は、その一端側が支持枠11の連結部11Bの上下中央部に設けられたダンパ支持部11Dに接続され、その他端が機体枠2の昇降フレーム2Bに設けられたダンパ支持部2Dに接続されている。支持枠11の連結部11Bのダンパ支持部11Dと機体枠2の昇降フレーム2Bのダンパ支持部2Dとは横並びで設けられており、ダンパ13は、左右に延在するように支持枠11の連結部11Bと機体枠2の昇降フレーム2Bとの間に配備されている。このため、支持枠11が後述するようなフリー状態になると、ダンパ13に内蔵されたバランス用バネの引っ張りのバランスで、支持枠11は水平状態に保持されることになる。
【0026】
また、水平機構10は、支持枠11におけるブーム支持部11Aと連結部11Bとの間に配備されて回転軸12回りに支持枠11のブーム支持部11Aを揺動させる(単一の)傾斜シリンダ(傾斜用油圧シリンダなど)15を備えている。傾斜シリンダ15は、一端側(シリンダチューブ根元側)が支持枠11のブーム支持部11Aに設けたシリンダ支持部11Eに軸支され、他端側(ロッド先端側)が支持枠11の連結部11Bの下部(ダンパ支持部11Dより下側)に設けたシリンダ支持部11Fに軸支されている。これにより、支持枠11が後述するようなフリー状態において、傾斜シリンダ15が伸縮すると、支持枠11のブーム支持部11Aが回転軸12の回りを揺動し、支持枠11のブーム支持部11Aに支持されるブーム4が機体枠2に対して任意の傾斜状態で保持される。
【0027】
また、水平機構10は、機体枠2と支持枠11との間に配備されて回転軸12回りに振り子状に揺動する支持枠11を機体枠2に対して固定された状態にする(単一の)ロックシリンダ(ロック用油圧シリンダなど)17を備えている(
図2B、
図2C参照)。
【0028】
図3A、B及び
図4A、Bを参照すればよく分かるように、ロックシリンダ17は、一端側(シリンダチューブ根元側)に基端側ストッパ体18(以下、ストッパ体18と記載する)が設けられ、他端側(ロッド先端側)に先端側ストッパ体19(以下、ストッパ体19と記載する)が設けられている。この2つのストッパ体18、19は、機体枠2の昇降フレーム2Bに沿って対向配置される左右一対のストッパ体18、19を構成するとともに、この左右一対のストッパ体18、19の各々は、機体枠2の昇降フレーム2Bに摺動可能に配在されている。図示の例では、この一対のストッパ体18、19の各々は、機体枠2の昇降フレーム2Bに摺動可能に外装ないし係合されている。これにより、ロックシリンダ17は、この一対のストッパ体18、19によって機体枠2の昇降フレーム2Bに固定されずに支持されている。図示の例では、ロックシリンダ17は、機体枠2の昇降フレーム2Bの下方に当該機体枠2の昇降フレーム2Bに沿って左右に延在するように配備されている。
【0029】
図示の例では、ロックシリンダ17の両端に設けられた各ストッパ体18、19は、ロックシリンダ17のシリンダチューブ又はロッドに連結されるとともに機体枠2に摺動可能に配在(外装ないし係合など)される、断面略矩形に形成されたブラケットからなる摺動部18A、19Aと、その摺動部18A、19Aの後面に突設された取付部18B、19Bに連結されて後述するロック部11Gに離間又は接近可能に対向配置される、ストッパボルトからなるストッパ部18C、19Cと、を備える。前述したロックシリンダ17の両端に設けられた一対のストッパ体18、19は、ロックシリンダ17の伸縮に応じて、ロックシリンダ17の最伸状態と最縮状態との間で、機体枠2の昇降フレーム2Bに沿って相互に離間又は接近可能となっている。ここで、ロックシリンダ17に対するストッパ体の近接・離間は、ロックシリンダ17の一端側にのみ設けられたロッドの伸縮によって行われる。具体的には、先端側のストッパ体(本実施例では19側)はロックシリンダ17によって伸縮されるロッドを介してロックシリンダ17の先端に接続されているのに対し、基端側のストッパ体(本実施例では18側)はロックシリンダ17に直接的に連結されている。ロックシリンダ17は先端側のロッドのみを動かすために必要な油量を導入すれば足り、左右両方に可動部を備える方法に比べて作動速度が速くなる利点がある。
【0030】
また、図示の例では、機体枠2の昇降フレーム2Bに、各ストッパ体18、19が機体枠2の昇降フレーム2Bに沿う方向に移動可能に挿通される、左右に伸びる長孔で構成される挿通孔2S、2Tが設けられている。各挿通孔2S、2Tに各ストッパ体18、19が挿通されることにより、ロックシリンダ17の最伸状態と最縮状態との間で各ストッパ体18、19の機体枠2の昇降フレーム2Bに沿う方向の移動(量)が制限される。言い換えれば、機体枠2の昇降フレーム2Bに設けられた挿通孔2S、2Tは、ロックシリンダ17の最伸状態と最縮状態との間で各ストッパ体18、19の機体枠2の昇降フレーム2Bに沿う方向の移動(量)を制限する(規定する)移動制限部となっている。
【0031】
また、水平機構10は、支持枠11における前述した一対のストッパ体18、19の間に、ロックシリンダ17と共に支持枠11を機体枠2に対して固定された状態にするための(単一の)ロック部11Gを備える。図示の例では、ロック部11Gは、支持枠11の連結部11Bの下部に設けられ、前後方向で視て断面円形に形成されたピン部材で構成されている。
【0032】
このような構成の水平機構10において、使用者の操作などに応じて、ロックシリンダ17を最伸状態にすることで、ロックシリンダ17の両端に設けられた左右一対のストッパ体18、19を互いに離間させて、ストッパ部18C、19Cをロック部11Gから反対方向へ離れさせることにより、支持枠11により支持されたブーム4を重量バランスで水平状態に維持することができる(
図3A、
図3B、
図5、
図7)。この状態をフリー状態(又はロック解除状態)と称する。このようなフリー状態(又はロック解除状態)では、左右に展開するブーム4を支持する支持枠11は、重量バランスに従って回転軸12の回りに回転自在に支持される。これにより、左右に展開したブーム4の重量バランスが等しい場合には、機体枠2のローリング(揺動)に対してブーム4は水平を維持することになる。
【0033】
一方、使用者の操作などに応じて、ロックシリンダ17を最縮状態にすることで、ロックシリンダ17の両端に設けられた左右一対のストッパ体18、19を互いに接近させて、ストッパ部18C、19Cをロック部11Gに反対方向(対向方向)から近づける(挟持する)ことにより、支持枠11により支持されたブーム4を機体枠2に固定することができる(
図4A、
図4B、
図5、
図7)。この状態を固定状態(又はロック状態)と称する。このような固定状態(又はロック状態)では、左右に展開するブーム4を支持する支持枠11は、ストッパ体18、19のストッパ部18C、19Cにより反対方向(対向方向)から抑え込まれて、機体枠2に対して固定された状態になる。
【0034】
ここで、ブーム4を支持する支持枠11が機体枠2に対して傾斜した状態で、ロックシリンダ17を収縮して、ロック部11Gにストッパ部18C、19Cが当接する場合でも、ロック部11Gが前後方向で視て断面円形に形成されたピン部材で構成されていることで、ロック部11Gとストッパ部18C、19Cをスムーズに当接させてブーム4を機体枠2に固定することができる。
【0035】
また、
図5に示す走行装置の左傾斜状態における水平機構10のフリー状態において、
図6に示すように、傾斜シリンダ15を伸長することで、支持枠11においてブーム支持部11Aと連結部11Bとが相対的に反対向きに(離間するように)回転し、支持枠11のブーム支持部11Aに支持されるブーム4を機体枠2に対してさらに右傾斜状態で保持することができる。なお、図示は省略するが、このフリー状態で、傾斜シリンダ15を収縮することで、支持枠11のブーム支持部11Aに支持されるブーム4を機体枠2に対してさらに左傾斜状態(固定状態におけるブームの傾きに近づく状態)で保持することも可能である。
【0036】
また、
図7に示す走行装置の右傾斜状態における水平機構10のフリー状態において、
図8に示すように、傾斜シリンダ15を収縮することで、支持枠11においてブーム支持部11Aと連結部11Bとが相対的に反対向きに(離間するように)回転し、支持枠11のブーム支持部11Aに支持されるブーム4を機体枠2に対してさらに左傾斜状態で保持することができる。なお、図示は省略するが、このフリー状態で、傾斜シリンダ15を伸長することで、支持枠11のブーム支持部11Aに支持されるブーム4を機体枠2に対してさらに右傾斜状態(固定状態におけるブームの傾きに近づく状態)で保持することも可能である。
【0037】
このように、本実施形態に係るブームスプレーヤ1の水平機構10は、アクチュエータとなるロックシリンダ(ロック用油圧シリンダなど)17を1本使用し、そのロックシリンダ17のロッド先端とシリンダチューブ根元に摺動部18A、19Aを設け、その摺動部18A、19Aにストッパ部18C、19Cを設けて、ストッパ体18、19を構成する。また、ブーム4を支持する支持枠11には、ストッパ部18C、19Cに近接するロック部11Gを設けておく。ロックシリンダ17を最伸状態にすることで、ロックシリンダ17の両端に設けられた(左右一対の)ストッパ体18、19を互いに離間させて、ストッパ部18C、19Cをロック部11Gから反対方向へ離れさせることにより、支持枠11により支持されたブーム4はロール方向に自由に動くことができる(フリー状態)。ロックシリンダ17を最縮状態にすることで、ロックシリンダ17の両端に設けられた(左右一対の)ストッパ体18、19を互いに接近させて、ストッパ部18C、19Cをロック部11Gに反対方向(対向方向)から近づける(挟持する)ことにより、支持枠11により支持されたブーム4は機体枠2に対して固定される(ロック状態)。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るブームスプレーヤ1の水平機構10は、シリンダチューブに設けられた基端側ストッパ体18と、ロッドに設けられた先端側ストッパ体19とからなる(左右)一対のストッパ体18、19を有する単一のロックシリンダ17であって、前記一対のストッパ体18、19が前記ロックシリンダ17の伸縮に応じて(前記ロックシリンダ17の最伸状態と最縮状態との間で)前記機体枠2に沿って相互に離間又は接近可能となっている単一のロックシリンダ17と、前記支持枠11における前記一対のストッパ体18、19の間に設けられたロック部11Gと、を備え、前記ロックシリンダ17を伸長する(最伸状態にする)ことで前記一対のストッパ体18、19を互いに離間させて前記ロック部11Gから反対方向へ離れさせることにより、前記ブーム4を重量バランスで水平状態に維持するフリー状態と、前記ロックシリンダ17を収縮する(最縮状態にする)ことで前記一対のストッパ体18、19を互いに接近させて前記ロック部11Gに反対方向(対向方向)から近づける(挟持する)ことにより、前記ブーム4を支持する前記支持枠11を前記機体枠2に対して固定(ロック)するロック状態と、を切り替え可能となっている。
【0039】
換言すると、本実施形態に係るブームスプレーヤ1の水平機構10は、前記ブーム4を支持する前記支持枠11を前記機体枠2に対して固定状態にするロック機構を具備しており、前記ロック機構は、シリンダチューブに設けられた基端側ストッパ体18と、ロッドに設けられた先端側ストッパ体19とからなる(左右)一対のストッパ体18、19を有する単一のロックシリンダ17であって、前記一対のストッパ体18、19が前記ロックシリンダ17の伸縮に応じて(前記ロックシリンダ17の最伸状態と最縮状態との間で)前記機体枠2に沿って相互に離間又は接近可能となっている単一のロックシリンダ17と、前記支持枠11における前記一対のストッパ体18、19の間に設けられたロック部11Gと、を備え、前記ロックシリンダ17を収縮する(最縮状態にする)ことで前記一対のストッパ体18、19を互いに接近させて前記ロック部11Gに反対方向(対向方向)から近づける(挟持する)ことにより、前記ブーム4を支持する前記支持枠11を前記機体枠2に対して固定(ロック)状態にし、前記ロックシリンダ17を伸長する(最伸状態にする)ことで前記一対のストッパ体18、19を互いに離間させて前記ロック部11Gから反対方向へ離れさせることにより、前記固定(ロック)状態を解除する。
【0040】
このような特徴を備えた本実施形態のブームスプレーヤ1は、アクチュエータとなるロックシリンダ(ロック用油圧シリンダなど)17が1本で済み、生産コストを抑えられる。また、ロックシリンダ17へ送られる作動流体はロックシリンダ1本分で済み、水平機構10のロック又はフリー(ロック解除)にするための動作が速くなり、ロック又はフリー(ロック解除)までの待機時間が短くなり、作業効率が向上する。これにより、走行装置に装着される水平機構10を備えたブームスプレーヤ1において、低コスト化と動作速度の向上ないし待機時間の短縮による作業の効率化を図ることができる。
【0041】
なお、傾斜シリンダ15やロックシリンダ17は、油圧または空気圧を用いたシリンダ装置(流体シリンダ)であれば良い。また、ダンパ13や傾斜シリンダ15の本数や配置箇所は、上述の実施形態に限られないことは当然である。
【0042】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1:ブームスプレーヤ,2:機体枠,2A:昇降レール,2B:昇降フレーム,2C:昇降シリンダ,2D:ダンパ支持部,2S,2T:挿通孔(移動制限部),3:タンク,4:ブーム,5:ノズル,6:散布パイプ,10:水平機構,11:支持枠,11A:ブーム支持部,11B:連結部,11D:ダンパ支持部,11E,11F:シリンダ支持部,11G:ロック部,12:回転軸,13:ダンパ,15:傾斜シリンダ,17:ロックシリンダ,18,19:ストッパ体(基端側ストッパ体、先端側ストッパ体),18A,19A:摺動部,18B,19B:取付部,18C,19C:ストッパ部