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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165651
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】新規デキストリン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 30/18 20060101AFI20241121BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20241121BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20241121BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C08B30/18
A23L29/30
C12P19/04
C12P19/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082015
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 陽一朗
(72)【発明者】
【氏名】前田 栄彰
【テーマコード(参考)】
4B041
4B064
4C090
【Fターム(参考)】
4B041LC03
4B041LD10
4B041LH02
4B041LH04
4B041LK22
4B041LK23
4B041LK28
4B041LK45
4B041LP01
4B041LP06
4B041LP07
4B041LP22
4B041LP25
4B064AF12
4B064CA21
4B064CB07
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC30
4B064CE11
4B064CE16
4B064DA10
4C090AA04
4C090BA07
4C090BC10
4C090BD08
4C090BD35
4C090BD50
4C090CA31
4C090CA32
4C090CA43
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、低DEでありながら低粘性かつ老化安定性のよいデキストリンを簡便かつ効率的に製造する方法を提供することにある。また、本発明の課題は、そのような低DEでありながら低粘性かつ老化安定性のよい新規のデキストリンを提供することにある。
【解決手段】酸でpH1~3に調整した15~40%(w/w)澱粉懸濁液を100~140℃でDE2以上6未満となるまで加水分解し、次いでアルカリでpH5~7に調整後、α-アミラーゼを作用させてDE10未満、好ましくはDE5以上10未満となるまで加水分解する。また、原料澱粉として、ワキシー種澱粉(ワキシータピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉、ワキシーポテト澱粉、モチ米澱粉のうちのいずれか一以上)か、当該ワキシー種澱粉と、非ワキシー種澱粉(タピオカ澱粉、トウモロコシ澱粉、ポテト澱粉及びサツマイモ澱粉のうちのいずれか一以上)とを含む澱粉組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸でpH1~3に調整した15~40%(w/w)澱粉懸濁液を100~140℃でDE2以上6未満となるまで加水分解し、アルカリでpH5~7に調整後、α-アミラーゼを作用させてDE5以上10未満となるまで加水分解する、デキストリンの製造方法。
【請求項2】
前記澱粉が、ワキシー種澱粉であるか、ワキシー種澱粉及び非ワキシー種澱粉からなる澱粉組成物である、請求項1記載のデキストリンの製造方法。
【請求項3】
前記ワキシー種澱粉が、ワキシータピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉、ワキシーポテト澱粉、モチ米澱粉のいずれか一以上であり、前記非ワキシー種澱粉が、タピオカ澱粉、トウモロコシ澱粉、ポテト澱粉、サツマイモ澱粉のいずれか一以上である、請求項2記載のデキストリンの製造方法。
【請求項4】
前記ワキシー種澱粉が、ワキシータピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉のいずれか一以上であり、前記非ワキシー種澱粉が、タピオカ澱粉である、請求項2に記載のデキストリンの製造方法。
【請求項5】
前記澱粉組成物が、ワキシー種澱粉を40%以上で含む、請求項2~4のいずれか一項に記載のデキストリンの製造方法。
【請求項6】
以下(1)~(5)の条件を満たすデキストリン:
(1)DE10未満、
(2)Brix30の水溶液の30℃における粘度が25mPa・s以下、
(3)Brix50の水溶液の30℃における粘度が350mPa・s以下、
(4)Brix15の水溶液の4℃・5日間保存後の濁度が1.0以下、
(5)分子量50,000以上の糖組成物含有量が固形分当たり13%以下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低DEでありながら低粘性かつ老化しにくい新規デキストリン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デキストリンとは、澱粉を酸や酵素により加水分解して得られる澱粉分解物である。その分解度はDE、すなわち、「[(直接還元糖(ブドウ糖として表示)の質量)/(固形分の質量)]×100」の算出値で表され、一般に、加水分解がさほど進まないうちは低DEとなり、加水分解が進むと高DEとなる。
【0003】
低DEのデキストリンは、粉末状又は顆粒状の調味料、スープ、飲料、嚥下剤などの製造の際の粉末化基材や造粒バインダーとして用いられたり、飲食品のコクみ付けのために用いられたりするが、低DEデキストリンは一般に高分子画分を多く含んでいることから、水に一旦溶解しても経時的に老化・白濁し、飲食品の外観や食感に悪影響を及ぼすことがある。また、低DEデキストリンは、高DEデキストリンと比べて甘味が非常に少なく浸透圧に影響を及ぼしにくいことから広く飲食品に適用しやすいものの、一般には粘度が高く、粘性を必要としない飲食品には適用しづらい面もあった。
【0004】
そこで、低DEでありながら老化安定性の高いデキストリンを得ようと、澱粉の加水分解後に低分子画分を取り除く方法が提案されている。例えば、特許文献1には、澱粉を加水分解してDE20~40の安定性の高い澱粉分解物とした後、低分子量の糖類を逆浸透膜で分離する方法が開示されている。また、特許文献2には、アミロペクチン含有澱粉を酵素処理によりα-1,6結合を増加させ、分子量約2~5万ダルトンかつDE値8未満のマルトデキストリンを限外ろ過で分画する方法が開示されている。
【0005】
一方、特許文献3は、低分子量の糖類を分離する工程をわざわざ採用せずとも、ワキシータピオカ澱粉を原料とし、特定条件下でα-アミラーゼを用いた二段分解をすることによって、DE1.2~1.7の老化しにくい澱粉分解物を得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3756853号明細書
【特許文献2】特開平6-209784号公報
【特許文献3】特開2021-88623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
老化安定性の高い低DEデキストリンを得ようと、上述の公知の手法を採用する場合、低分子画分の分画・除去には分画機や膜などの設備導入が必要であって、その費用負担はもちろんのこと、製造工程の複雑化、得られる澱粉分解物の歩留まりの低下、採用する酵素やワキシー種澱粉のコストなど、種々の面で問題があった。また、他方で、低DEデキストリンについては、飲料やスープなどの粘性を不要とする飲食品にまで広く利用できるように、低粘性であることが望まれていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、低DEでありながら、低粘性かつ老化しにくい新規デキストリンを提供すること、及びそのデキストリンを簡便、安価、かつ効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、まず、比較的安価な非ワキシー種澱粉を比較的高価なワキシー種澱粉に一部置き換え混合した原料澱粉を、酸及び/又はα-アミラーゼを作用させて加水分解すれば、低DEでありながら高い老化安定性を有するデキストリンを安価かつ簡便に得られることを見出した。
そして、さらに検討した結果、非ワキシー種とワキシー種の澱粉を予め混合しなくても、原料澱粉を特定の条件下で酸に次いでα-アミラーゼによる加水分解を行えば、低DEでありながら低粘性かつ老化安定性のあるデキストリンを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
一般に、低DEデキストリンを得ようとする場合、低度の加水分解を行うことになるが、澱粉を酸で加水分解すると、グルコース長鎖の画分が多くなって製造工程中に老化が進んでしまう。そうすると、作業性が悪くなったり(例えば、ろ過工程に時間を要する)、製品歩留まりが悪くなったりする(例えば、グルコース長鎖画分がろ過残さとなる)ため、そのような不具合を生じない、酵素による加水分解がまず選択される。しかし、酵素による加水分解では、老化安定性が達成されても、低DEかつ低粘性のデキストリンを得ることはできない。そのようなところ、本発明者らは、特定条件下で、酸による加水分解を行った後に酵素による加水分解を行うことにより、低DEというだけでなく低粘性かつ老化安定性のよいデキストリンが簡便・安価に得られることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の[1]~[6]から構成される。
[1]酸でpH1~3に調整した15~40%(w/w)澱粉懸濁液を100~140℃でDE2以上6未満となるまで加水分解し、アルカリでpH5~7に調整後、α-アミラーゼを作用させてDE5以上10未満となるまで加水分解する、デキストリンの製造方法。
[2]前記澱粉が、ワキシー種澱粉であるか、ワキシー種澱粉及び非ワキシー種澱粉からなる澱粉組成物である、[1]に記載のデキストリンの製造方法。
[3]前記ワキシー種澱粉が、ワキシータピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉、ワキシーポテト澱粉、モチ米澱粉のいずれか一以上であり、前記非ワキシー種澱粉が、タピオカ澱粉、トウモロコシ澱粉、ポテト澱粉、サツマイモ澱粉のいずれか一以上である、[2]に記載のデキストリンの製造方法。
[4]前記ワキシー種澱粉が、ワキシータピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉のいずれか一以上であり、前記非ワキシー種澱粉が、タピオカ澱粉である、[2]に記載のデキストリンの製造方法。
[5]前記澱粉組成物が、ワキシー種澱粉を40%以上で含む、[2]~[4]のいずれかに記載のデキストリンの製造方法。
[6]以下(1)~(5)の条件を満たすデキストリン:
(1)DE10未満、
(2)Brix30の水溶液の30℃における粘度が25mPa・s以下、
(3)Brix50の水溶液の30℃における粘度が350mPa・s以下、
(4)Brix15の水溶液の4℃・5日間保存後の濁度が1.0以下、
(5)分子量50,000以上の糖組成物含有量が固形分当たり13%以下。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、簡便かつ効率的に、低DEでありながら低粘性かつ老化安定性のよい新規デキストリンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の新規デキストリンの製造に用いられる原料は、澱粉である。その澱粉種にとくに制限はなく、ワキシー種と非ワキシー種の澱粉をそれぞれ単独、又は組み合わせて使用することができる。もっとも、のちの製造効率の観点、特にろ過工程における歩留まり低下防止の観点からは、ワキシー種の澱粉を含むことが好ましく、原料澱粉中におけるワキシー種の割合が20%(w/w)以上であることがより好ましく、30%(w/w)であることがさらに好ましく、40%(w/w)以上であることが最も好ましい。また、澱粉を複数種組み合わせるときは、加水分解工程前の原料段階で予め混合しておくことが好ましい。
【0013】
ここで、ワキシー種の澱粉とは、アミロペクチン含量が90%以上、好ましくは95%以上の澱粉を指す。一方、非ワキシー種澱粉とは、ワキシー種以外の澱粉を指し、その多くはアミロース含量が15%以上であって、いわゆる高アミロース種澱粉もこの範疇に含まれる。本発明において用いられる澱粉は、自然界に見出される天然澱粉であってもよいし、遺伝子工学技術を含む標準的育種技術により得られた澱粉であってもよい。また、澱粉の代表的な供給源は、穀類、塊茎、根、藻、豆果及び果物であって、好適な例としては、トウモロコシ、エンドウ、ジャガイモ、サツマイモ、バナナ、オオムギ、コムギ、米、サゴ、アマランサス、タピオカ、カンナ、モロコシなどが挙げられる。本発明においてはいずれの澱粉を用いても構わないが、より好適な例をワキシー種・非ワキシー種のそれぞれについて挙げるとすれば、ワキシー種であれば、ワキシータピオカ、ワキシーコーン、ワキシーポテト及びモチ米であり、非ワキシー種であれば、タピオカ、ポテト、トウモロコシ、サツマイモであり、より好ましくはタピオカ、ポテトである。
【0014】
本発明の新規デキストリンの製造において、最も重要な工程のひとつは、澱粉の加水分解工程である。加水分解工程は2段階で行われることを必須とし、第一段目の工程は、酸による加水分解であり、第二段目の工程は、酵素による加水分解である。
この澱粉の加水分解の程度は、一般には、得られるデキストリンの「DE」値で表される。本明細書において使用されるDEは、ウイルシュテッターシューデル法による分析値であって、「[(直接還元糖(ブドウ糖として表示)の質量)/(固形分の質量)]×100」の式により求められる。
【0015】
先述のとおり、本発明の新規デキストリンの製造工程における第一段目の加水分解工程は、酸による加水分解工程である。この工程において使用する酸の種類に制限はないが、例えば、塩酸やシュウ酸等が挙げられる。酸の使用量は、酸の種類により適宜調整でき、例えばシュウ酸の場合、原料澱粉の固形分質量に対して0.1~0.8質量%又は0.1~0.5質量%であることが好ましい。そして、第一段目の加水分解工程における反応温度は100℃~140℃又は110℃~130℃が好ましく、pHは1~3又は1~2が好ましく、反応時間は5~60分又は10~40分が好ましい。なお、第一段目の加水分解工程開始時の原料澱粉の濃度は15~40質量%程度とすることが好ましく、当該加水分解は加熱加圧蒸煮釜やジェットクッカーなどの加熱装置を用いて行うことができる。
この第一段目の酸加水分解反応を終了させるタイミングは、DEの値で判断することが好ましく、DEが好ましくは2以上6未満、より好ましくは3以上6未満、最も好ましくは3.5以上6未満となったときに、中和や冷却によって酸加水分解反応を終了させるとよい。
【0016】
本発明の新規デキストリンの製造工程における第二段目の加水分解工程は、酵素を用いた加水分解であって、使用する酵素はα-アミラーゼである。α-アミラーゼは、澱粉のα-1,4グルコシド結合を加水分解するエンド型酵素であって、比較的入手しやすい製品として、クライスターゼL1(天野エンザイム社製)やターマミル120L(ノボザイムズジャパン社製)などが挙げられる。このα-アミラーゼの使用量は、原料澱粉の固形分質量に対して0.01~0.2質量%であることが好ましく、0.02~0.18質量%であることがより好ましい。そして、第二段目の加水分解工程における反応温度は70~100℃又は75~90℃であることが好ましく、pHは5.0~7.0又は5.5~6.5であることが好ましく、反応時間は温度にもよるものの3~180分又は5~140分であることが好ましい。なお、第二段目の加水分解工程についても加熱加圧蒸煮釜やジェットクッカーなどの加熱装置を用いて行うことができる。
この第二段目の加水分解反応を終了させるタイミングは、DEの値で判断することが好ましく、DEが10未満、好ましくは5以上10未満、より好ましくは6以上10未満、さらに好ましくは7以上10未満となったときに、0.2MPa程度の加圧処理や、シュウ酸などの酸によって酵素加水分解反応を終了させることができる。
【0017】
上述の第一段目及び第二段目の加水分解工程を経て得られた反応液は、珪藻土によるろ過及びイオン交換樹脂による脱塩などの精製工程を経た後、濃縮によって液状品としたり、噴霧乾燥等によって粉末化品としたりできるほか、還元(水素添加)により還元型デキストリンとしてから液状品や粉末化品とすることもできる。収率(%)は、例えば、第二段目の加水分解液を濃縮した後に算出することができ、「収率(%)=(液重量×Brix)÷(原料固形分重量)」の計算式を用いて算出することができる。当該時点における収率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上最も好ましくは90%以上である。
【0018】
このようにして得られる本発明の新規デキストリンのDEは10未満であり、好ましくは5以上10未満、より好ましくは6以上10未満、さらに好ましくは7以上10未満であるが、二段階目の加水分解後に精製や粉末化といった工程を経るため、当該二段目の加水分解反応終了時点のDEと完全に一致するものでなく、最大で0.8程度前後することがある。
【0019】
本発明の新規デキストリンは、低DEでありながら低粘性かつ老化安定性に優れる。この「老化安定性」は、先述の珪藻土によるろ過工程などの製造工程において確認することができ、例えば、ろ過時間を計測又はろ過速度を算出することによって確認することができる。澱粉の加水分解液が老化しやすいと珪藻土ろ過で通液せずろ過残さとなるため、歩留まりが悪くなるが、本発明のデキストリンは老化安定性に優れるため、当該ろ過時間は短縮されて、歩留まりは向上する。
また、上の「老化安定性」は、デキストリンのBrix15水溶液を4℃で一定期間冷蔵した後の濁度をもって確認することもできる。本発明にいう濁度は、デキストリンのBrix15水溶液の720nm(1cmセル)における吸光度を10倍した値である。本発明の新規デキストリンのBrix15水溶液の4℃冷蔵5日目(約120時間後)の濁度は、2.0以下であり、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.5以下である。なお、水溶液を調製した日は「0日目」である。
【0020】
本発明の新規デキストリンは、低DEでありながら低粘性かつ老化安定性に優れる。ここでいう「低粘性」とは、Brix30粘度(30℃)が、25mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下、最も好ましくは18mPa・s以下であって、Brix50粘度(30℃)が、350mPa・s以下、好ましくは330mPa・s以下、最も好ましくは300mPa・s以下であることをいう。なお、この粘度は、B型粘度計(60rpm)で測定することができる。
【0021】
本発明の方法により得られるデキストリンは、分子量50,000以上の糖組成物の含有量が、固形分当たり13%以下、好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下、最も好ましくは9%以下であることを特徴とする。本発明において説明される分子量50,000以上の糖組成物の含有量は、ゲルろ過による高速液体クロマトグラフィーで得られる分子量分布から求めることができる。具体的な分析条件は、例えば以下であり、プルラン標準品、マルトトリオースおよびグルコースの検出時間に対する分子量の検量線から、分子量50,000の検出時間を算出し、その検出時間より前に検出されるピーク面積%を分子量50,000以上の糖組成物含有量とすることができる:
[カラム]:TSKgel G2500PWXL,G3000PWXL,G6000PWXL(東ソー(株)製)、
[カラム温度]:80℃、
[移動相]:蒸留水、
[流速]:0.5mL/min、
[検出器]:示差屈折率計、
[サンプル注入量]:1質量%水溶液100μL、
[検量線]:プルラン標準品(昭和電工(株)製)、マルトトリオース及びグルコース。
【0022】
また、本発明における糖組成の分析は、高速液体クロマトグラフィーを用いた以下の方法で行い、単純面積%を組成として表示する:
[カラム]:MCI GEL CK04SS(三菱ケミカル(株)社製)
[カラム温度]:80℃、
[移動相]:蒸留水、
[流速]:0.3mL/min、
[検出器]:示差屈折率計、
[サンプル注入量]:5質量%溶液10μL。
【0023】
本発明のデキストリンは、飲食品に幅広く好適に利用することができる。その飲食品の種類は特に限定されないが、透明性やなめらかさを重視する液状や流動状の飲食品、例えば、コーヒー、紅茶、ジュース等の清涼飲料、アルコール飲料などの飲料、アイスクリーム、ミルクプリン、カスタードクリーム、ヨーグルト、ムース等の乳含有食品、ゼリーなどのデザート製品、つゆ・たれ類、すし酢、ドレッシング、ケチャップ、ソース等の調味料、カレー、シチュー、濃厚流動食、経腸栄養剤などが挙げられ、飲料、ムースなどのデザート製品、つゆ・たれ類、ソース、ドレッシングなどにおいて、とくに有利に利用することができる。
【0024】
これら飲食品における本発明のデキストリンの含有量は、液状飲食品においては、1~30質量%、好ましくは2~15質量%、より好ましくは2~11質量%であり、粉末化飲食品においては、使用時・喫食時に水などに溶解したときの濃度が前記範囲となるのであれば、どのような含有量でも構わない。そして、当該含有量を充足する場合に、老化による白濁が抑制された、透明感を損なわない飲食品を得ることができる。
【0025】
以下、実施例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0026】
<酸加水分解(第一段目)>
表1及び2に記載の各原料澱粉(又は原料澱粉ミックス)300g又は500g(固形分換算)を水に懸濁して21質量%スラリーとし、シュウ酸を用いてpHを2±0.1に調整してからオートクレーブ(トミー精工社製)で120℃・3~19分間加熱した後、100℃以下とすることで酸分解反応を停止させた。その後、消石灰スラリーで約pH6に中和した。以上の操作により、DEが6未満の12種類の加水分解液(以降の試作品No.1~8、10~13に相当)を得た。なお、試作品No.1は、一段目の加水分解後すぐに老化し、二段目の酵素加水分解工程に進めることが困難であったため、以降の操作を中止した。
また、タピオカ澱粉1000g(固形分換算)を水に懸濁した21質量%スラリーをシュウ酸でpH6.0に調整し、原料固形分の0.14質量%となるようにα―アミラーゼ(クライスターゼL1、天野エンザイム社製品)を添加して85℃に保温された加熱加圧蒸煮釜へ投入して適時反応を行ったのち、0.2MPaの加圧処理にて酵素を失活させた。以上の操作により得られたDE4.15の加水分解液(以降の試作品No.9に相当)のうち、原料固形分300gに相当する加水分解液について、次の第二段目の酵素加水分解に用いた。
【0027】
<酵素加水分解(第二段目)>
次に、上の酸加水分解液又は酵素分解液をシュウ酸水溶液と消石灰スラリーでpH5.8~6.3に再調整してから、原料固形分の0.01~0.05質量%となるように上と同じα-アミラーゼ製品を添加して85℃で反応を開始し、おおよそ45~126分後、DEが6.3~7.4に到達した時点で、シュウ酸でpH3.5以下とし、15分間静置することによって酵素を失活させた。以上の操作により、DE6.3~7.4の各二段加水分解液12点(試作品No.2~13)を得た。
【0028】
<精製及び濃縮>
前記二段加水分解液を珪藻土によるろ過及びイオン交換樹脂による脱塩精製後、Brix30程度になるまで濃縮し、噴霧乾燥により粉末化してデキストリンNo.2~13を得た。このデキストリンNo.2~13について、以降に説明する方法によって分析した。その結果は表1及び2に示す。
【0029】
(DE)
各段階におけるデキストリンのDEは、ウイルシュテッターシューデル法(「澱粉糖関連工業分析法」、食品化学新聞社発行(平成3年11月1日発行))により測定した。また、参考のためにレーン法(「澱粉糖関連工業分析法」、食品化学新聞社発行(平成3年11月1日発行)参照。)による測定も行った。
【0030】
(ろ過時間及び速度)
本発明の特徴は、ろ過時間の短縮にもあるため、ろ過時間を計測した。ろ紙上に100gの珪藻土をコートしたヌッチェ(直径125mm)を準備し、二段加水分解液の通液及びポンプを用いた一定の吸引力による吸引ろ過を開始し、全量の通液が完了するまでの時間を計測して「ろ過速度」(g/分)を算出した。但し、コーンスターチ原料のデキストリンを用いたNo.10~13については、不溶物が珪藻土表面を覆うことによりろ過速度を極度に下げるため、5分経過毎に珪藻土表面をヘラで取り除き、不溶物による影響をできる限り除いた。
【0031】
(収率)
濃縮完了時点でのBrixおよび液重量を計測し、「(液重量×Brix)÷(原料固形分重量)」を収率とした。このときの「原料固形分重量」は、工程途中で分析のために消費した液の固形分重量を差し引いたものとした。
【0032】
(濁度)
Brix15に調整した水溶液を4℃で0、2、3、4、5、8日間冷蔵したときの720nm(1cmセル)における吸光度(分光光度計 U-2900、日立ハイテクノロジーズ社製)を測定し、これを10倍した値を濁度とした。
【0033】
(粘度)
各デキストリン液の粘度は、Brix30又はBrix50に調整した水溶液を30℃に保ち、60回転/分に設定した粘度計(BM型 東機産業社製)とローター(それぞれNo.1又はNo.2)を用いて30秒間で計測した。
【0034】
(分子量50,000以上の糖組成物含有量)
分子量50,000以上の糖組成物含有量は、ゲルろ過による高速液体クロマトグラフィーで得られる分子量分布から求めた。分析条件は後出の表3に示すとおりであり、分子量50,000の検出時間より前に検出されるピークの合計面積%を分子量50,000以上の糖組成物含有量とした。
【0035】
(糖組成)
デキストリンの糖組成は、後出の表4に示す条件下の高速液体クロマトグラフィーにより得られるクロマトグラムから単純面積%を算出し、糖組成%とした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
一段目の酸による加水分解が不十分であるとすぐに老化してしまい、二段目の酵素による加水分解が実施できなかった(DE1.37、試作品No.1)。一方、一段目の酸による加水分解後のDEが2以上7未満のときは老化せず、二段目の酵素による加水分解は可能となった(試作No.2~8、10~13)が、DEが6以上になると、二段目の酵素分解によって得られるデキストリン液は、冷蔵4日目の早い段階で老化した(試作品No.6)。
また、原料澱粉におけるワキシー種澱粉の比率が10%、30%、40%、100%と高くなるにつれて、ろ過速度及び収率は向上し、最終的に得られるデキストリン液の老化安定性は良好となった(試作品No.3~5、7、8、11~13)。他方、一段目の加水分解を、酸でなく酵素による加水分解とすると、目的とする低粘度のデキストリンは得られなかった(試作品No.9)。
原料澱粉として安価なトウモロコシ澱粉を用いると、製造工程中に老化して作業性と収率が悪くなるが、ワキシー種澱粉の比率を40%まで高めると、ろ過速度や収率が向上し、最終的に得られるデキストリン液は低粘度であるだけでなく老化安定性は非常に良好となった。