(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165655
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/08 20120101AFI20241121BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20241121BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20241121BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W40/107
B60W40/076
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082019
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢田 将大
(72)【発明者】
【氏名】石川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤好 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】竹原 成晃
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA31
3D241BB05
3D241DC31Z
3D241DC33Z
3D241DC45Z
5H181AA01
5H181BB13
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC27
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL17
(57)【要約】
【課題】車両の発進の際に発生し得る障害物との衝突による損傷を回避または軽減することが可能な衝突損害軽減装置を得る。
【解決手段】
本開示の衝突損害軽減装置500は、車両が発進中であることを検出する発進判定部201と、車両が発進中である場合には車両の加速度および速度の上限を決定する発進中加速度・速度決定部202と、発進中加速度・速度決定部202で決定した上限に基づいて、車両の加速度および速度を制御する制御部203と、を備え、発進中加速度・速度決定部202では、障害物108が検知されていない状況でも、想定される障害物108に接触しても重大な損害にならない加速度および速度の上限を第1上限として決定することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が発進中であることを検出する発進判定部と、
前記車両が発進中である場合には前記車両の加速度および速度の上限を決定する発進中加速度・速度決定部と、
前記発進中加速度・速度決定部で決定した上限に基づいて、前記車両の加速度および速度を制御する制御部と、を備え、
前記発進中加速度・速度決定部では、障害物が検知されていない状況でも、想定される前記障害物に接触しても重大な損害にならない加速度および速度の上限を第1上限として決定することを特徴とする衝突損害軽減装置。
【請求項2】
何らかの前記障害物との接触を検出する障害物接触検出部をさらに備える請求項1に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項3】
前記発進中加速度・速度決定部では、前記障害物接触検出部で前記障害物との接触が検出されたとき、損害が拡大しない加速度および速度の上限を前記第1上限以下である第2上限として決定することを特徴とする請求項2に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項4】
前記障害物接触検出部は、車両タイヤの異常トルクによって車両床下の障害物との接触を検出することを特徴とする請求項3に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項5】
前回停車時の勾配情報を記憶する勾配情報記憶部をさらに備え、
前記障害物接触検出部は、発進開始時および発進中に、前記勾配情報記憶部に記憶された勾配情報と実際の勾配情報に差異が発生したときに前記障害物との接触を検出することを特徴とする請求項4に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項6】
前記障害物接触検出部は、車両タイヤ間のトルク差によって車両床下の障害物との接触を検出することを特徴とする請求項3に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項7】
前記障害物接触検出部は、前記車両のバンパーに備わる感圧スイッチによって車両進行方向の前記障害物との接触を検出することを特徴とする請求項3に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項8】
車両走行時に車両進行方向の前記障害物に対して検出性能向上を図る車両進行方向障害物センサをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項9】
前記発進中加速度・速度決定部では、車両発進中に前記車両進行方向障害物センサによって前記障害物が検出されたとき、加速度および速度の上限を前記第1上限以下である第3上限として決定することを特徴とする請求項8に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項10】
前記車両進行方向障害物センサは、測距センサであって、前記障害物との相対速度あるいは距離の変化によって検出性能向上を図ることを特徴とする請求項9に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項11】
前記車両進行方向障害物センサは、撮像センサであって、前記障害物および前記障害物の背景の変化の差、あるいは光学的特性の変化によって検出性能向上を図ることを特徴とする請求項9に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項12】
停車中に自車周辺の移動物体が前記自車周辺の一定範囲内に侵入し、かつ発進までに退避しなかった場合に、前記移動物体が侵入したとみなす移動物体侵入判定部をさらに備え、
前記発進中加速度・速度決定部では、前記移動物体侵入判定部で前記移動物体が侵入しなかったとみなした場合、加速度および速度の前記第1上限を撤回することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の衝突損害軽減装置。
【請求項13】
車両が発進中であることを検出する発進判定ステップと、
前記車両が発進中である場合には前記車両の加速度および速度の上限を決定する発進中加速度・速度決定ステップと、
前記発進中加速度・速度決定ステップで決定した上限に基づいて、前記車両の加速度および速度を制御する制御ステップと、を備え、
前記発進中加速度・速度決定ステップでは、障害物が検知されていない状況でも、想定される前記障害物に接触しても重大な損害にならない加速度および速度の上限を第1上限として決定することを特徴とする衝突損害軽減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両発進時は通常走行時と環境あるいは障害物検知の条件が異なるため、想定外の障害物(例えば、床下の石、輪留め、車両正面の安全コーンの除去忘れなど)に衝突する危険性が増大する。
【0003】
例えば特許文献1に記載の発進安全装置は、車両床下にセンサを設置し、床下に人間あるいは動物がいないことが確認された場合に発進を許可することで衝突を防いでいる。
【0004】
また特許文献2に記載の運転支援装置は、車両進行方向に障害物を検知した際、アクセル開度よりも小さい駆動力で発進することで、衝突被害を軽減することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-230319号公報
【特許文献2】特開2014-91351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発進安全装置では、発進するときのためだけに車両床下をセンシングする専用センサを別途設置する必要があり、その分システムおよび装置が複雑かつ高価になりうるという課題がある。
【0007】
さらに、特許文献2の運転支援装置では、まず車両進行方向に障害物を検知する必要がある。特に発進時前など車両が停止した状態である場合、車両が動いていることを期待して機能している障害物センサは認識精度が低下し、障害物を検知し損ねる可能性がある。
【0008】
「車両が動いていることを前提として機能する障害物センサ」の具体例としては以下が挙げられる。
(1)車載またはインフラ設置のミリ波レーダーセンサ
移動する自車両とのドップラー速度差または相対距離の変化を検出することで、物体の識別性能を高めていることがある。
(2)車載またはインフラ設置のカメラ
自車が移動することで近傍の物体と背景の変化に差が生じることで物体の識別性能が高まることがある。
【0009】
本開示は上記のような問題点を解消するためになされたものであり、追加のセンサを必要とせず、既存の障害物センサの性能を損なわない衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法によって車両停止時に検出されなかった障害物に対して、発進の際に衝突損害を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に係る衝突損害軽減装置は、
車両が発進中であることを検出する発進判定部と、
前記車両が発進中である場合には前記車両の加速度および速度の上限を決定する発進中加速度・速度決定部と、
前記発進中加速度・速度決定部で決定した上限に基づいて、前記車両の加速度および速度を制御する制御部と、を備え、
前記発進中加速度・速度決定部では、障害物が検知されていない状況でも、想定される障害物に接触しても重大な損害にならない加速度および速度の上限を第1上限として決定することを特徴とする。
【0011】
本願に係る衝突損害軽減方法は、
車両が発進中であることを検出する発進判定ステップと、
前記車両が発進中である場合には前記車両の加速度および速度の上限を決定する発進中加速度・速度決定ステップと、
前記発進中加速度・速度決定ステップで決定した上限に基づいて、前記車両の加速度および速度を制御する制御ステップと、を備え、
前記発進中加速度・速度決定ステップでは、前記障害物が検知されていない状況でも、想定される障害物に接触しても重大な損害にならない加速度および速度の上限を第1上限として決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法によれば、追加のセンサを必要とせず、既存の障害物センサの性能を損なわない車両制御方法によって、車両停止時に検出されなかった障害物があったとしても、発進の際に衝突損害を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係る衝突損害軽減装置を搭載した車両および車両の周囲の状況を表す模式図である。
【
図2】実施の形態1に係る衝突損害軽減装置の機能ブロック図である。
【
図3】実施の形態1に係る衝突損害軽減装置の動作のうち、電源投入後停車中ループを示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態1に係る衝突損害軽減装置の動作のうち、発進中ループを示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態1に係る衝突損害軽減装置の動作のうち、通常走行ループを示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態1に係る衝突損害軽減装置の動作のうち、停車中ループを示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態1に係る衝突損害軽減装置のハードウエアの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に係る衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法の構成、動作を、最適な実施の形態にしたがって図面を用いて説明する。
【0015】
実施の形態1.
<衝突損害軽減装置の構成>
図1は、実施の形態1に係る衝突損害軽減装置500を搭載した自車両101および自車両101の周辺の状況を表す模式図である。実施の形態1では、自車両101は、遠隔監視管制によって監視されるレベル4(運転者不在)の自動運転車両である。
【0016】
自車両101には通常走行時に自車両101の前方の例えば歩行者のような移動物体107や静止障害物108を検出するカメラ105a(以下、前方カメラセンサと呼ぶ場合もある)が設置されている。カメラ105aは、自車両101の前方の撮像範囲内の路面を撮像する。カメラ105aは撮像センサの一種であって、自車両101の走行中における障害物108および障害物108の背景の変化の差、あるいは反射などの光学的特性の変化によって検出性能向上を図る。
【0017】
自車両101には、通常走行時に自車両101の前方の移動物体107や静止障害物108を検出するミリ波レーダーセンサ104aが設けられている。ミリ波レーダーセンサ104aは測距センサの一種であって、自車両101の走行中における障害物108との相対速度あるいは距離の変化によって検出性能向上を図る。
【0018】
自車両101には、通知部106aが設置されている。通知部106aは、例えば、自車両101が検出した移動物体107に関する情報を遠隔監視管制(図示せず)に通知する。
【0019】
路面上には、自車両101の発進動作の際に障害となるような各種の障害物108が存在する可能性がある。各種の障害物108とは、具体的には、例えば、
図1に示されるような除去忘れの輪留め102、除去忘れの安全コーン103などである。
【0020】
図2は、実施の形態1に係る衝突損害軽減装置500の構成を示すブロック図である。衝突損害軽減装置500は、発進判定部201と、発進中加速度・速度決定部202と、制御部203と、障害物接触検出部204と、勾配情報記憶部206と、移動物体侵入判定部208と、通知部106と、を備える。
【0021】
発進判定部201は、自車両101が発進中、すなわち自車両停止状態から発進を開始して通常走行に至るまでの期間(本実施の形態では発進を開始して10m走行するまでとする)であるか否かを判定する。発進中加速度・速度決定部202は、発進中の加速度および速度の上限を決定する。制御部203は、自車両101の少なくとも加速度および速度を制御する。
【0022】
障害物接触検出部204は、障害物108との接触を検出する。勾配情報記憶部206は、タイヤトルクセンサ205から出力させる各タイヤにかかるトルクに応じてその位置の勾配を計算し、最後に走行した経路10m分の勾配情報を不揮発性メモリに保存する。
【0023】
移動物体侵入判定部208は、自車両停止中に、カメラ105aの映像を解析し、車両周囲1m以内の領域に入ってきたものと、その領域から出て行ったものをそれぞれカウントし続け、自車両101が発進を開始する直前に、入ってきたカウントの方が出て行ったカウントよりも大きい場合、車両周囲に移動物体107が侵入したと判定する。
【0024】
衝突損害軽減装置500は、自車両101に搭載された各種センサを用いて、自車両101の周囲の情報を取得する。各種センサとは、例えば
図2に示されるような、4つのタイヤそれぞれにかかるトルクを検出するタイヤトルクセンサ205、車両前方バンパー内部に設置され、バンパーに物体が接触するとそれを検出する感圧スイッチ207、自車両の加速度および速度を検出する加速度・速度センサ209、車両進行方向障害物センサ(ミリ波レーダーセンサ)104、車両進行方向障害物センサ(前方カメラセンサ)105などが挙げられる。なお、
図2の機能ブロック図では、前方カメラセンサは、車両進行方向障害物センサと移動物体侵入判定部208の侵入センサの両方を兼ねているが、それぞれ別個に設けられたセンサでもよい。
【0025】
<衝突損害軽減装置の動作>
実施の形態1に係る衝突損害軽減装置500の動作を、
図3から
図6の各フローチャートに示す。
図3から
図6の各フローチャートに沿って、実施の形態1に係る衝突損害軽減装置500の動作の流れ、つまり、実施の形態1に係る衝突損害軽減方法を以下に説明する。
【0026】
<電源投入後停車中ループの動作>
まず、衝突損害軽減装置500の電源投入直後は、自車両101は停止しているものとする。このとき、動作は
図3のステップSA01から開始する。つまり、ステップSA01から電源投入直後停車中ループを開始する。
【0027】
次に、ステップSA02において、移動物体侵入判定部208で移動物体侵入可能性ありと判定する。これは、電源が投入されるまでは自車両周辺に移動物体107が侵入あるいは退避したかを判定する手段を持たないため、自車両101の死角などに移動物体107が障害物として存在する可能性を考慮するためである。
【0028】
ステップSA03において、自車両101が発進開始するか判断する。自車両101が発進しない場合はステップSA01の処理に戻り、自車両101が発進開始する場合はステップSA04の処理に進む。
【0029】
ステップSA04において、電源投入直後停車中ループを終了し、ステップSB01の処理に進む。
【0030】
<発進中ループの動作>
図4のフローチャートに示される衝突損害軽減装置500の発進中ループの動作を、以下に説明する。
ステップSB01において、移動物体侵入判定部208にて移動物体107の侵入があったか判定する。このとき、前述した「移動物体侵入”可能性”あり」も「移動物体侵入あり」として扱う。移動物体107の侵入が無かったと判断できる場合は、障害物108との衝突の可能性が低いので、ステップSC01の処理に進む。そうでない場合は、ステップSB02の処理に進む。
【0031】
ステップSB02において、発進中加速度・速度決定部202にて加速度および速度の第1上限(以降、第1上限と呼ぶ)を決定し、制御に適用する。この第1上限の加速度および速度は、想定される障害物108に自車両101が接触しても重大な損害が発生しないように設定される。例えば、想定される障害物108のひとつに除去忘れの輪留め102があるとして、輪留め102を乗り越えない力の上限と、自車両101の車体重量から、第1上限の加速度を求めてもよい。さらに、輪留め102および自車両101を損壊しない運動エネルギーの上限と、自車両101の車体重量から、第1上限の速度を求めてよい。ただし、第1上限の設計方法は以上に限らない。乗客が不快に感じない加速度の上限から求めてもよいし、加速度あるいは速度どちらか一方のみを設定してもよい。
【0032】
ステップSB03から、発進中ループを開始する。ステップSB04において、ミリ波反射によって自車両進行方向に障害物108が検知されたか判断する。自車両停止中に障害物108を検知できていなかったとしても、このとき自車両101は第1上限を上限加速度あるいは上限速度として走行中であり、走行することによって前述したようにミリ波反射での障害物検知精度が向上している可能性がある。障害物108が検知された場合はステップSB06の処理に進み、検知されない場合はステップSB05の処理に進む。
【0033】
次に、ステップSB05において、ステップSB04の処理と同様に、前方カメラセンサ105aで自車両進行方向に障害物108が検知されたか判断する。障害物108が検知された場合はステップSB06の処理に進み、障害物108が検知されない場合はステップSB07の処理に進む。
【0034】
次に、ステップSB06において、自車両進行方向に障害物108が検知されたため、第1上限以下である第3上限の加速度および速度を決定し、制御に適用する。実施の形態1では、第3上限の加速度および速度をいずれも0とする。これにより、進行方向に障害物108がある場合は、自車両101は停止し、接触を回避する。
【0035】
次に、ステップSB07において、タイヤトルクセンサ205から各タイヤのトルクを読み取る。ステップSB08において、ステップSB07で読み取った各タイヤのトルクのうち、1つのタイヤトルクのみが突出して高い、あるいは低い異常値(異常トルク)でないか判定する。タイヤトルクが突出して高い異常値(異常トルク)である場合、自車両101が輪留め102などの障害物108を踏んでタイヤが乗り上げようとしている可能性がある。また、タイヤトルクが突出して低い異常値(異常トルク)である場合、自車両101が衣服などの障害物108を踏んで空転している可能性がある。ここで、異常値の判定はここで挙げた方法以外であっても構わない。異常値(異常トルク)がある場合はステップSB14の処理に進み、それ以外の場合はステップSB09の処理に進む。
【0036】
次に、ステップSB09において、タイヤトルクから現在の勾配情報を計算する。
【0037】
次に、ステップSB10において、過去の同じ場所での勾配情報を取得する。
【0038】
次に、ステップSB11において、ステップSB09の現在の勾配と、ステップSB10の過去の同じ位置の勾配を比較する。現在の勾配と過去の勾配の間に十分な差異が認められた場合、停車中に自車両101の床下に進入した石などの障害物108に接触している可能性がある。勾配に差異があった場合はステップSB14の処理に、それ以外はステップSB12の処理に進む。
【0039】
次に、ステップSB12において、バンパーの感圧スイッチ207を読み取る。
【0040】
次に、ステップSB13において、バンパーの感圧スイッチ207に反応があったか判定する。バンパーの感圧スイッチ207に反応があった場合、自車両101の進行方向に置かれていた安全コーン103などの障害物108に接触している可能性がある。バンパーの感圧スイッチ207に反応があった場合はステップSB14の処理に、反応が無かった場合はステップSB15の処理に進む。
【0041】
次に、ステップSB14において、自車両101が障害物108と接触したことが検知されたため、第1上限以下である第2上限の加速度および速度を決定し、制御に適用する。実施の形態1では、第2上限の加速度および速度をいずれも0とする。これにより、自車両101が障害物108と接触した場合は、自車両101は停止し、損害の拡大を回避する。
【0042】
次に、ステップSB15において、自車両101の速度あるいは加速度が設定された第2上限または第3上限に達したかを判定する。すなわち、障害物108の存在を認識し、それが制御に反映されたかを判定する。第2上限または第3上限に達した場合はステップSB16の処理に進み、それ以外の場合はステップSB17の処理に進む。
【0043】
次に、ステップSB16において、この車両を監視している遠隔監視管制に対し、障害物108の存在を認識し、障害物108の存在が制御に反映されたことを通知する。実施の形態1では第2上限および第3上限は加速度および速度がともに0であるため、自車両101は停止している。通知をうけた管制員は、対象の障害物108を除去するため現場に駆け付けることができる。なお、通知先は遠隔監視管制でなくともよく、乗客などに通知してもよい。
【0044】
次に、ステップSB17において、自車両101の発進が終了したか判定する。実施の形態1では、発進を開始して10m走行するまでの期間を発進中と定義し、それ以降の走行は通常走行と定義する。このとき、通常走行に切り替わった時点で発進が終了したとみなす。また、発進中に通常走行に至らずに停止した場合も発進終了として扱う。なお、発進中の走行距離は、速度センサの時間積分で計算することができる。発進が終了していない場合はステップSB03の処理に戻り、発進が終了した場合はステップSB18の処理に進む。
【0045】
ステップSB18において、発進中ループを終了し、ステップSC01の処理に進む。
【0046】
<通常走行ループの動作>
図5のフローチャートに示されるステップSC01において、通常走行ループが開始される。
【0047】
ステップSC02において、発進中ループで決定・適用した第1、2、3の上限を撤回(クリア)し、制御から解除する。
【0048】
次に、ステップSC03において、タイヤトルクセンサ205から各タイヤのトルクを取得し、勾配情報を計算する。
【0049】
次に、ステップSC04において、ステップSC03で計算した現在位置の勾配情報を勾配情報記憶部206に記録する。勾配情報記憶部206に記録された情報は、次回以降のステップSB10で参照される。
【0050】
次に、ステップSC05において、自車両101が停止したか否かを判定する。自車両101が停止していなければステップSC01の処理に戻り、停止していればステップSC06の処理に進む。
【0051】
ステップSC06において、通常走行ループを終了し、ステップSD01の処理に進む。
【0052】
図6のフローチャート中のステップSD01から、停車中ループを開始する。この停車中ループは、例えば信号待ちなどを想定している。この停車中ループでは、ステップSA01から始まる電源投入後停車中ループとは異なり、通常走行から停車して現在に至るまでの車両周辺の様子を前方カメラセンサ105aなどの車載センサによって継続して観測できているため、移動物体侵入の有無を検出することができる。
【0053】
次に、ステップSD02において、前方カメラセンサ105aの映像を読み取る。ここで、読み取る映像は現在の映像に限らず、過去の通常走行時の映像であってもよい。
【0054】
次に、ステップSD03において、ステップSD02で読み取ったカメラ映像を移動物体侵入判定部208にて解析し、移動物体侵入判定を行う。
【0055】
次に、ステップSD04において、自車両101が発進を開始する場合はステップSD05の処理に進み、発進を開始しない場合はステップSD01の処理に戻る。
【0056】
次に、ステップSD05において、停車中ループを終了し、ステップSB01の処理に進む。ここで、ステップSB01の判定において、ステップSD03で移動物体107が侵入していないと判断された場合は、発進中ループを介さずに通常走行ループに進むことになる。これによって、信号などでの再発進のたびに、自車両周辺に障害物108がないことがわかっているにも関わらず、第1上限の加速度および速度でゆっくり発進してしまう煩わしさを回避することができる。
【0057】
<実施の形態1の効果>
以上、実施の形態1に係る衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法によれば、追加のセンサを必要とせず、車両に搭載された既存の各種センサを用いて、車両停止時に検出されなかった障害物が存在する場合であっても、発進動作の際に障害物との衝突による損傷を著しく低減することが可能となる衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法が得られるという効果を奏する。
【0058】
実施の形態1の変形例.
実施の形態1では、第1上限である第1上限速度値v1および第1上限加速度値a1は、自車両101の周囲の障害物108を想定し、自車両101が障害物108に衝突すると仮定した場合に、自車両101が許容する損傷の度合いに基づき決定される。一方、第2上限である第2上限速度値v2および第2上限加速度値a2は、障害物接触検出部204による検出結果に基づき設定される第1上限以下である加速度および速度であり、実施の形態1ではそれぞれ0に設定される。さらに、第3上限である第3上限速度値v3および第3上限加速度値a3は、車両進行方向障害物センサが自車両進行方向の障害物108を検出した場合に設定される第1上限以下である加速度および速度であり、実施の形態1ではそれぞれ0に設定される。
【0059】
実施の形態1の変形例では、第2上限である第2上限速度値v2および第2上限加速度値a2は、第1上限以下であり、かつ0ではない値に設定される。一例を挙げると、以下の式(1)、式(2)および式(3)で表される値に設定する。
v2=v1×k2 (1)
a2=a1×k2 (2)
0.05<k2<0.1 (3)
すなわち、第1上限である第1上限速度値v1および第1上限加速度値a1を基準として、第2上限である第2上限速度値v2および第2上限加速度値a2を設定する。
【0060】
このように0より大きい上限を設定することにより、例えば小石などの乗り越えられる規模の障害物108、または草、枝などの走行に支障のない障害物(接触物)などに対して、自車両101が完全に停止することを避けることができる。これによって、急な制動による乗員の不快感を軽減できるとともに、第2上限以下の加速度および速度で前述したような障害物108を通過できた際は、第1上限での発進を継続することもできる。
【0061】
実施の形態1の変形例では、第3上限である第3上限速度値v3および第3上限加速度値a3は、第1上限以下であり、かつ0ではない値に設定される。一例を挙げると、以下の式(4)、式(5)および式(6)で表される値に設定する。
v3=v1×k3 (4)
a3=a1×k3 (5)
0.05<k3<0.5 (6)
すなわち、第1上限である第1上限速度値v1および第1上限加速度値a1を基準として、第3上限である第3上限速度値v3および第3上限加速度値a3を設定する。
【0062】
このように0より大きい上限を設定することにより、例えば落葉などの軽度な飛来物、動物などの自ら避けうる障害物108などに対して、自車両101が完全に停止することを避けることができる。これによって、急な制動による乗員の不快感を軽減できるとともに、前述したような障害物108が自ら進行方向外に移動した際は第1上限での発進を継続することもできる。
【0063】
なお、第2上限である第2上限速度値v2および第2上限加速度値a2は式(1)から式(3)によって設定される値とし、第3上限速度値v3および第3上限加速度値a3は0に設定してもよい。また、第3上限である第3上限速度値v3および第3上限加速度値a3は式(4)から式(6)によって設定される値とし、第2上限である第2上限速度値v2および第2上限加速度値a2は0に設定してもよい。
【0064】
以上、実施の形態1の変形例に係る衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法によると、第2上限および第3上限を簡易に設定できるので、発進動作の際に移動物体および障害物との衝突による損傷を低減しながら、快適な発進動作が可能となる衝突損害軽減装置および衝突損害軽減方法が得られるという効果を奏する。
【0065】
なお、上述の実施の形態1に係る衝突損害軽減装置500の構成では、衝突損害軽減装置500は機能ブロックとして説明されているが、衝突損害軽減装置500を格納するハードウエアとしての構成の一例を
図7に示す。ハードウエア800は、プロセッサ801と記憶装置802から構成される。記憶装置802は図示していないが、ランダムアクセスメモリなどの揮発性記憶装置と、フラッシュメモリなどの不揮発性の補助記憶装置とを具備する。
【0066】
また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備しても良い。プロセッサ801は、記憶装置802から入力されたプログラムを実行する。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ801にプログラムが入力される。また、プロセッサ801は、演算結果などのデータを記憶装置802の揮発性記憶装置に出力しても良いし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存しても良い。
【0067】
本開示は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
【0068】
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0069】
101 自車両、102 輪留め、103 安全コーン、104 車両進行方向障害物センサ(ミリ波レーダーセンサ)、104a ミリ波レーダーセンサ、105 車両進行方向障害物センサ(前方カメラセンサ)、105a 前方カメラセンサ、106、106a 通知部、107 移動物体、108 障害物、201 発進判定部、202 発進中加速度・速度決定部、203 制御部、204 障害物接触検出部、205 タイヤトルクセンサ、206 勾配情報記憶部、207 感圧スイッチ、208 移動物体侵入判定部、209 加速度・速度センサ、500 衝突損害軽減装置、800 ハードウエア、801 プロセッサ、802 記憶装置