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特開2024-16567防錆洗浄剤,下地処理方法及び再塗装方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016567
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】防錆洗浄剤,下地処理方法及び再塗装方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/12 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
C23F11/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118799
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】306017014
【氏名又は名称】地方独立行政法人 岩手県工業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】504118852
【氏名又は名称】株式会社中央コーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】522298646
【氏名又は名称】株式会社TERUI
(71)【出願人】
【識別番号】592256058
【氏名又は名称】大和化成株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 麗
(72)【発明者】
【氏名】高木 録郎
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 達夫
(72)【発明者】
【氏名】照井 則夫
(72)【発明者】
【氏名】福島 正也
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA03
4K062BB06
4K062BB30
4K062CA03
4K062CA04
4K062CA05
4K062FA08
(57)【要約】
【課題】 被処理物の下地処理後の水分の揮発性を向上させ、下地処理後に塗装処理等の次の工程に速やかに移行できるようにして、処理効率の向上を図る。
【解決手段】 被処理物の表面を下地処理する処理水に添加されて用いられる液状の防錆洗浄剤であって、防錆剤とHLB12以上のノニオン系界面活性剤とを有した媒体を10重量%~40重量%、水を60重量%~90重量%含む。媒体は、防錆剤を70重量%~98重量%含み、ノニオン系界面活性剤を2重量%~30重量%含む。処理水に、0.05重量%~10重量%添加されて使用される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の表面を下地処理する処理水に添加されて用いられる液状の防錆洗浄剤であって、
防錆剤とHLB12以上のノニオン系界面活性剤とを有した媒体を10重量%~40重量%、水を60重量%~90重量%含むことを特徴とする防錆洗浄剤。
【請求項2】
上記防錆剤は、1種類以上の亜硝酸塩を含むとともに、構造中にカルボキシル基を1個以上もつ芳香族カルボン酸,当該芳香族カルボン酸の誘導体,当該芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩,当該芳香族カルボン酸の誘導体のアルカリ金属塩,当該芳香族カルボン酸のアンモニウム塩,当該芳香族カルボン酸の誘導体のアンモニウム塩を1種類以上含んで構成されることを特徴とする請求項1記載の防錆洗浄剤。
【請求項3】
上記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを1種類以上含むことを特徴とする請求項2記載の防錆洗浄剤。
【請求項4】
上記媒体は、防錆剤を70重量%~98重量%含み、上記ノニオン系界面活性剤を2重量%~30重量%含むことを特徴とする請求項3記載の防錆洗浄剤。
【請求項5】
pH7~pH10であることを特徴とする請求項4記載の防錆洗浄剤。
【請求項6】
上記処理水に、0.05重量%~10重量%添加されて使用されることを特徴とする請求項1乃至5何れかに記載の防錆洗浄剤。
【請求項7】
金属製の被処理物の表面に処理水を吹き付けて該被処理物の素地表面を下地処理する下地処理方法において、
上記処理水に上記請求項6記載の防錆洗浄剤を添加することを特徴とする下地処理方法。
【請求項8】
金属製の素地に塗料が塗装された被処理物の表面に研削材を混合したエアを吹き付けて素地表面から塗料を剥離する剥離工程と、該剥離工程後に塗料が剥離された素地表面に処理水を吹き付けて洗浄する洗浄工程と、該洗浄工程後に素地表面に新しい塗料を塗装する塗装工程とを備えた再塗装方法において、
上記洗浄工程で用いる上記処理水に上記請求項6記載の防錆洗浄剤を添加することを特徴とする再塗装方法。
【請求項9】
金属製の素地に塗料が塗装された被処理物の表面に研削材を混合した処理水を吹き付けて素地表面から塗料を剥離する剥離工程と、該剥離工程後に塗料が剥離された素地表面に新しい塗料を塗装する塗装工程とを備えた再塗装方法において、
上記剥離工程で用いる上記処理水に上記請求項6記載の防錆洗浄剤を添加することを特徴とする再塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に金属製の被処理物の下地処理の際に用いるのに有効な防錆洗浄剤、その下地処理方法及びこの防錆洗浄剤を用いて再塗装を行う再塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、塗装された橋梁、歩道橋、土木構造物、プラント設備等、鋼をはじめとする金属製構造物に対しては、そのメンテナンスのために、再塗装することが一般的に行われている。この場合には、乾式ブラスト法や湿式ブラスト法を用いて錆や塗膜を除去し、その後、新しい塗装を行う。
また、寒冷地や沿岸地方の鋼構造物の表面には、塩分が一般的に付着していることはよく知られている。この下地処理において、乾式ブラスト法の場合には、研削材をエア流の中に供給しこれを被処理物の表面に吹き付けて処理し、その後、塩分除去のため、鋼材表面を処理水で水洗浄する。湿式ブラスト法の場合には、処理水に研削材を混合してこれを被処理物の表面に吹き付けて処理する。ところが、いずれの方法においても、水を使用するので、その後、被処理物の素地表面に錆(所謂「戻り錆」という)が発生しやすいという問題がある。
【0003】
これを解決するために、従来、例えば、上記の湿式ブラスト法に用いられるものであるが、特開2001-181815号公報(特許文献1)に記載の錆抑制剤の技術が提案されている。この錆抑制剤は、水酸化カリウム水溶液を用いて構成されている。あるいはまた、予熱してベーパライズし、亜鉛、アルミニウムなどと化合物を作り易いもの、例えばアクリル酸ポリマー、オキシフェノキシエタノール等を用いて構成されたものも提案されている。この場合、研削材を湿らせやすくするための界面活性剤を添加しても良いとされている。そして、湿式ブラスト法によって被処理物の表面を処理する際に、水にこの錆抑制剤を添加し被処理材に研削材と共に吹き付けてブラスト処理する。これにより、ブラスト後の素地表面には錆抑制剤の薄い皮膜が形成され、ブラスト処理した素地表面に錆が発生するのを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-181815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の錆抑制剤にあっては、ブラスト処理した表面に錆が発生するのを防止する効果はあるが、これを混合した水溶液の水分の揮発が遅く、ブラスト処理後に速やかに塗装処理を行なわなければならない条件下においては、対応が十分できないという問題があった。特に、梅雨時期や冬期の塗替え工程では問題になる。
【0006】
このため、特許文献1記載の技術においては、ブラスト処理する前に錆抑制剤を80℃~130℃に予熱することも行う。あるいは、ブラスト処理した後、ブラスト処理した素地調整面をメタノールやエタノール等のアルコール類を用いて洗浄処理を行ったり、素地調整面を加熱処理することを行っている。しかしながら、ブラスト処理する前に予熱し、あるいは、ブラスト処理した後、アルコール類を用いて洗浄処理を行ったり、素地調整面を加熱処理すると、それだけ、工数が増加して煩雑になってしまい、処理効率が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、被処理物の下地処理後の水分の揮発性を向上させ、下地処理後に塗装処理等の次の工程に速やかに移行できるようにして、処理効率の向上を図った防錆洗浄剤、下地処理方法及び再塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するため、本発明の防錆洗浄剤は、被処理物の表面を下地処理する処理水に添加されて用いられる液状の防錆洗浄剤であって、
防錆剤とHLB12以上のノニオン系界面活性剤とを有した媒体を10重量%~40重量%、水を60重量%~90重量%含む構成としている。
ノニオン系界面活性剤は、HLB12以上なので水との親和性が高く、半透明若しくは透明になって良く溶解している。
【0009】
これにより、例えば、金属製の素地に塗料が塗装された被処理物について再塗装する場合で説明すると以下のようになる。
<乾式ブラスト法の場合>
金属製の素地に塗料が塗装された被処理物の表面に研削材を混合したエアを吹き付けて素地表面から塗料を剥離し、それから、この塗料が剥離された素地表面に処理水を吹き付けて洗浄し、その後、素地表面に新しい塗料を塗装する。この場合、洗浄の際に用いる処理水に本発明に係る防錆洗浄剤を添加する。
【0010】
<湿式ブラスト法の場合>
金属製の素地に塗料が塗装された被処理物の表面に研削材を混合した処理水を吹き付けて素地表面から塗料を剥離し、それから、この工程後に素地表面に新しい塗料を塗装する。この場合、塗料の剥離で用いる処理水に本発明に係る防錆洗浄剤を添加する。
【0011】
この乾式ブラスト法による洗浄の際においては、あるいは、湿式ブラスト法における塗料の剥離の際においては、素地表面の塗料片や研削材が処理水とともに流されていくとともに、素地表面に防錆剤の薄い皮膜が形成される。処理水の吹付けを停止すると、水分が揮発していくが、ノニオン系界面活性剤と相まって相乗的に水分の揮発が行われ、速やかに素地表面が乾燥していく。即ち、ノニオン系界面活性剤の添加により防錆剤の表面濡れ性が向上し、防錆洗浄剤が濡れ広がり、均一な水の薄膜となり、水分揮発性(乾燥速度)が向上する。この結果、被処理物の素地表面に錆(所謂戻り錆)が発生する事態を防止することができる。また、乾燥が早いので、素地表面に可及的速やかに新しい塗装を行うことができるようになる。そのため、従来のように、乾燥させるためにアルコール類で拭いたり、素地表面を加熱処理する等の特別の処理をしなくても済み、それだけ、工数減となって処理効率を大幅に向上させることができ、再塗装完了までの時間を短くして作業効率を向上させることができる。
【0012】
そして、必要に応じ、上記防錆剤は、1種類以上の亜硝酸塩を含むとともに、構造中にカルボキシル基を1個以上もつ芳香族カルボン酸,当該芳香族カルボン酸の誘導体,当該芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩,当該芳香族カルボン酸の誘導体のアルカリ金属塩,当該芳香族カルボン酸のアンモニウム塩,当該芳香族カルボン酸の誘導体のアンモニウム塩を1種類以上含んで構成される。
【0013】
亜硝酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、亜硝酸ナトリウム,亜硝酸カリウム,亜硝酸カルシウム,亜硝酸マグネシウム,アミン類の亜硝酸塩類等を挙げることができる。
また、芳香族カルボン酸に係る化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、安息香酸、没食子酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、3-ニトロフタル酸、4-ニトロフタル酸およびこれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩等を挙げることができる。
防錆剤としては、従来から種々知られているが、上記の化合物を選択することにより、本発明の作用,効果を確実に発揮させることができる。
【0014】
また、必要に応じ、上記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを1種類以上含む構成としている。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等を挙げることができる。
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールFエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル等を挙げることができる。
【0015】
一般に、ノニオン系界面活性剤としては、例えば、多価アルコールと脂肪酸がエステル結合したエステル型,酸化エチレンを付加させてつくられるエーテル型,分子中にエステル結合とエーテル結合の両方を有したエステル・エーテル型等を挙げることができる。本発明においては、このうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを選択した。これにより、本発明の作用,効果を確実に発揮させることができる。特に、防錆剤との相乗効果により、水分の揮発性を向上させることができる。
【0016】
更に、必要に応じ、上記媒体は、防錆剤を70重量%~98重量%含み、上記ノニオン系界面活性剤を2重量%~30重量%含む構成としている。この比率により、防錆効果と乾燥性のバランスが良くなり、本発明の作用,効果を確実に発揮させることができる。
【0017】
更にまた、必要に応じ、上記防錆洗浄剤は、pH7~pH10である構成としている。
これにより、液安定性が良好となり、本発明の作用,効果を確実に発揮させることができる。望ましくは、pH7.5~pH9.5である。
【0018】
また、必要に応じ、上記処理水に、0.05重量%~10重量%添加されて使用される構成としている。好ましくは、0.15重量%~5重量%、より好ましくは、0.25重量%~1重量%である。
比較的少ない添加量で本発明の作用,効果を発揮させることができる。0.05重量%より少ないと、本発明の作用,効果を発揮できない。10重量%を超えると次工程が塗装の場合、塗料と被処理物との密着性を低下させる虞がある。
【0019】
また、上記目的を達成するため、本発明の下地処理方法は、金属製の被処理物の表面に処理水を吹き付けて該被処理物の素地表面を下地処理する下地処理方法において、上記処理水に上記の防錆洗浄剤を添加する構成としている。上記と同様の作用,効果を奏する。
【0020】
そしてまた、上記目的を達成するため、本発明の再塗装方法は、金属製の素地に塗料が塗装された被処理物の表面に研削材を混合したエアを吹き付けて素地表面から塗料を剥離する剥離工程と、該剥離工程後に塗料が剥離された素地表面に処理水を吹き付けて洗浄する洗浄工程と、該洗浄工程後に素地表面に新しい塗料を塗装する塗装工程とを備えた再塗装方法において、
上記洗浄工程で用いる上記処理水に上記の防錆洗浄剤を添加する構成としている。
【0021】
これは、所謂乾式ブラスト法を採用した再塗装方法である。これによれば、洗浄工程での洗浄の際において、素地表面の塗料片や研削材が処理水とともに流されていくとともに、素地表面に防錆剤の薄い皮膜が形成される。処理水の吹付けを停止すると、水分が揮発していくが、ノニオン系界面活性剤と相まって相乗的に水分の揮発が行われ、速やかに素地表面が乾燥していく。即ち、ノニオン系界面活性剤の添加により防錆剤の表面濡れ性が向上し、防錆洗浄剤が濡れ広がり、均一な水の薄膜となり、水分揮発性(乾燥速度)が向上する。この結果、ブラスト処理した素地表面に錆(所謂戻り錆)が発生する事態を防止することができる。また、乾燥が早いので、塗装工程への移行を可及的速やかに行うことができる。即ち、素地表面に可及的速やかに新しい塗装を行うことができるようになる。そのため、従来のように、乾燥させるためにアルコール類で拭いたり、素地表面を加熱処理する等の特別の処理をしなくても済み、それだけ、工数減となって処理効率を大幅に向上させることができ、再塗装完了までの時間を短くして作業効率を向上させることができる。
【0022】
また、上記目的を達成するため、本発明の再塗装方法は、金属製の素地に塗料が塗装された被処理物の表面に研削材を混合した処理水を吹き付けて素地表面から塗料を剥離する剥離工程と、該剥離工程後に塗料が剥離された素地表面に新しい塗料を塗装する塗装工程とを備えた再塗装方法において、
上記剥離工程で用いる上記処理水に上記の防錆洗浄剤を添加する構成としている。
【0023】
これは、所謂湿式ブラスト法を採用した再塗装方法である。これによれば、剥離工程での剥離の際において、素地表面の塗料片や研削材が処理水とともに流されていくとともに、素地表面に防錆剤の薄い皮膜が形成される。その後、塗装工程への移行においては、上記の所謂乾式ブラスト法を採用した再塗装方法と同様の作用,効果を奏する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被処理物に対して処理水で処理した際、被処理物の素地表面に防錆剤の薄い皮膜を形成することができる。この場合、水分が揮発していくが、ノニオン系界面活性剤と相まって相乗的に水分の揮発が行われ、速やかに素地表面を乾燥させることができる。即ち、ノニオン系界面活性剤の添加により防錆剤の表面濡れ性が向上し、防錆洗浄剤が濡れ広がり、均一な水の薄膜となり、水分揮発性(乾燥速度)を向上させることができる。この結果、ブラスト処理した素地表面に錆(所謂戻り錆)が発生する事態を防止することができる。また、乾燥が早いので、素地表面に可及的速やかに新しい塗装を行う等の次の工程に移行することができるようになり、処理効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態に係る防錆洗浄剤の構成を処理水の構成とともに示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る防錆洗浄剤の構成を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る再塗装方法(乾式ブラスト法を用いる再塗装方法)を示す工程図である。
図4】本発明の実施の形態に係る再塗装方法(湿式ブラスト法を用いる再塗装方法)を示す工程図である。
図5】本発明の試験例1に係り、実施例に係る処理水と比較例に係る処理水との金属表面に対する濡れ性についての比較試験結果を示す写真である。
図6】本発明の試験例2に係り、実施例に係る処理水と比較例に係る処理水との金属表面に対する水分揮発性についての比較試験結果を示す写真である。
図7】本発明の試験例3に係り、実施例に係る処理水と比較例に係る処理水との金属表面に対する水分揮発率の測定結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る防錆洗浄剤,下地処理方法及び再塗装方法について詳細に説明する。本発明の実施の形態に係る下地処理方法は、本発明の実施の形態に係る再塗装方法において実現されるので、この再塗装方法において説明する。
【0027】
図1及び図2には本発明の実施の形態に係る防錆洗浄剤の構成を示し、図3及び図4には本発明の実施の形態に係る再塗装方法を示す。実施の形態に係る防錆洗浄剤Rは、被処理物Mの表面を下地処理する処理水Wに添加されて用いられる液状のものである。実施の形態においては、後述の実施の形態に係る再塗装方法において、金属製の被処理物Mの表面に吹き付けられてこの被処理物Mの素地表面を下地処理する処理水Wに添加されて用いられる。
【0028】
図1及び図2に示すように、この防錆洗浄剤Rの基本的構成は、防錆剤とHLB12以上のノニオン系界面活性剤とを有した媒体を10重量%~40重量%、水を60重量%~90重量%含む。
【0029】
防錆剤は、実施の形態では、1種類以上の亜硝酸塩を含むとともに、構造中にカルボキシル基を1個以上もつ芳香族カルボン酸,当該芳香族カルボン酸の誘導体,当該芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩,当該芳香族カルボン酸の誘導体のアルカリ金属塩,当該芳香族カルボン酸のアンモニウム塩,当該芳香族カルボン酸の誘導体のアンモニウム塩を1種類以上含んで構成される。
【0030】
亜硝酸塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、亜硝酸ナトリウム,亜硝酸カリウム,亜硝酸カルシウム,亜硝酸マグネシウム,アミン類の亜硝酸塩類等を挙げることができる。
アミン類の亜硝酸塩類としては、例えば、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、ニトロナフタレンアンモニウムナイトライト等を挙げることができる。
また、芳香族カルボン酸に係る化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、安息香酸、没食子酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、3-ニトロフタル酸、4-ニトロフタル酸およびこれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0031】
ノニオン系界面活性剤は、一般に、例えば、多価アルコールと脂肪酸がエステル結合したエステル型,酸化エチレンを付加させてつくられるエーテル型,分子中にエステル結合とエーテル結合の両方を有したエステル・エーテル型等を挙げることができる。実施の形態では、ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを1種類以上含む構成としている。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等を挙げることができる。
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノールFエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル等を挙げることができる。
【0032】
また、図2に示すように、媒体は、防錆剤を70重量%~98重量%含み、ノニオン系界面活性剤を2重量%~30重量%含む構成としている。
また、本防錆洗浄剤RのpHは、pH7~pH10にしている。望ましくは、pH7.5~pH9.5である。
そして、実施の形態に係る防錆洗浄剤Rは、処理水Wに、0.05重量%~10重量%添加されて使用される構成としている。好ましくは、0.15重量%~5重量%、より好ましくは、0.25重量%~1重量%である。
【0033】
次に、この実施の形態に係る防錆洗浄剤Rを用いて行われる実施の形態に係る再塗装方法について説明する。実施の形態に係る再塗装方法は、(A)乾式ブラスト法を用いる再塗装方法と、(B)湿式ブラスト法を用いる再塗装方法の2態様ある。以下、各態様について説明する。
【0034】
(A)乾式ブラスト法を用いる再塗装方法
図3に示すように、この方法は、剥離工程(A1)と、洗浄工程(A2)と、塗装工程(A3)とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0035】
(A1)剥離工程
金属製の素地に塗料Tが塗装された被処理物Mの表面に研削材Kを混合したエアを吹き付けて素地表面から塗料Tを剥離する。研削材Kとしては、例えば、フェロニッケルスラグ,溶融アルミナ,アルマンダイトガーネット,銅スラグ,スチールグリット等、周知のものが用いられる。この場合、研削材Kを混合したエアを噴射するガンを備えた周知のエアブラスト装置を用いる。
【0036】
(A2)洗浄工程
剥離工程後に塗料Tが剥離された素地表面に処理水Wを吹き付けて洗浄する。この洗浄工程で用いる処理水Wには、上記の実施の形態に係る防錆洗浄剤Rが添加される。この洗浄工程においては、ガンから処理水Wを噴射するガンを備えた周知の洗浄装置を用いる。この場合、素地表面の塗料片や研削材Kが処理水Wとともに流されていくとともに、素地表面に防錆剤の薄い皮膜が形成される。処理水Wの吹付けを停止すると、水分が揮発していくが、ノニオン系界面活性剤と相まって相乗的に水分の揮発が行われ、速やかに素地表面が乾燥していく。即ち、ノニオン系界面活性剤の添加により防錆剤の表面濡れ性が向上し、防錆洗浄剤Rが濡れ広がり、均一な水の薄膜となり、水分揮発性(乾燥速度)が向上する。この結果、素地表面に錆(所謂戻り錆)が発生する事態を防止することができる。また、乾燥が早いので、塗装工程への移行を可及的速やかに行うことができる。このため、従来のように、乾燥させるためにアルコール類で拭いたり、素地表面を加熱処理する等の特別の処理をしなくても済み、それだけ、工数減となって処理効率を大幅に向上させることができる。尚、寒冷地や沿岸地域の腐食が進んだ鋼構造物の表面は塩分濃度が高いが、この洗浄工程によって塩分除去も確実に行われる。
【0037】
(A3)塗装工程
洗浄工程後に素地表面に新しい塗料T(A)を塗装する。塗装は、刷毛,ローラやスプレーガンなどを用いて、適宜行なう。この場合、洗浄工程において洗浄処理した素地表面には、防錆剤が被覆されているので、錆(所謂戻り錆)が発生する事態が防止され、塗装を円滑に行うことができる。また、洗浄工程後から塗装工程に至るまで、被処理物Mの素地表面の乾燥が必要になるが、上記の処理水Wの防錆洗浄剤Rの作用により、乾燥が早いので、塗装工程への移行を可及的速やかに行うことができる。即ち、素地表面に可及的速やかに新しい塗装を行うことができるようになる。このため、再塗装完了までの時間を短くして作業効率を向上させることができる。
【0038】
(B)湿式ブラスト法を用いる再塗装方法
図4に示すように、この方法は、剥離工程(B1)と、塗装工程(B2)とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0039】
(B1)剥離工程
金属製の素地に塗料Tが塗装された被処理物Mの表面に研削材Kを混合した処理水Wを吹き付けて素地表面から塗料Tを剥離する。この剥離工程で用いる処理水Wには、上記の実施の形態に係る防錆洗浄剤Rが添加される。研削材Kとしては、例えば、フェロニッケルスラグ,溶融アルミナ,ガーネット,銅スラグ等、周知のものが用いられる。研削材Kと処理水Wとの重量比は、研削材K:50重量%~55重量%、処理水W:45重量%~50重量%になる。この工程においては、研削材Kを混合した処理水Wを噴射するガンを備えた周知のウエットブラスト装置を用いる。
【0040】
この剥離工程においては、素地表面の塗料片や研削材Kが処理水Wとともに流されていくとともに、素地表面に防錆剤の薄い皮膜が形成される。処理水Wの吹付けを停止すると、水分が揮発していくが、ノニオン系界面活性剤と相まって相乗的に水分の揮発が行われ、速やかに素地表面が乾燥していく。即ち、ノニオン系界面活性剤の添加により防錆剤の表面濡れ性が向上し、防錆洗浄剤Rが濡れ広がり、均一な水の薄膜となり、水分揮発性(乾燥速度)が向上する。この結果、ブラスト処理した素地表面に錆(所謂戻り錆)が発生する事態を防止することができる。また、乾燥が早いので、塗装工程への移行を可及的速やかに行うことができる。このため、従来のように、乾燥させるためにアルコール類で拭いたり、素地表面を加熱処理する等の特別の処理をしなくても済み、それだけ、工数減となって処理効率を大幅に向上させることができる。尚、寒冷地や沿岸地域の腐食が進んだ鋼構造物の表面は塩分濃度が高いが、この剥離工程によって塩分除去も確実に行われる。
【0041】
(B2)塗装工程
剥離工程後に素地表面に新しい塗料T(A)を塗装する。塗装は、刷毛,ローラやスプレーガンなどを用いて、適宜行なう。この場合、剥離工程においてブラスト処理した素地表面には、防錆剤が被覆されているので、錆(所謂戻り錆)が発生する事態が防止され、塗装を円滑に行うことができる。また、剥離工程後から塗装工程に至るまで、被処理物Mの素地表面の乾燥が必要になるが、上記の処理水Wの防錆洗浄剤Rの作用により、乾燥が早いので、塗装工程への移行を可及的速やかに行うことができる。即ち、素地表面に可及的速やかに新しい塗装を行うことができるようになる。このため、再塗装完了までの時間を短くして作業効率を向上させることができる。
【0042】
<試験例>
次に試験例を示す。実施例に係る防錆洗浄剤Rを作成し、これを処理水Wに添加し、この処理水Wについて、比較例とともに下記の試験を行った。実施例に係る防錆洗浄剤Rとして、防錆剤として亜硝酸ナトリウムを15重量%、安息香酸ナトリウムを5重量%、ノニオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンクミルフェニルエーテルを3重量%、水を77重量%にしたものを作成した。この防錆洗浄剤Rを0.25重量%処理水Wに混合した。比較例に係る防錆洗浄剤Rは、上記界面活性剤を添加しないものとし、これを同様に0.25重量%処理水Wに混合した。
【0043】
(試験例1)
実施例に係る防錆洗浄剤Rを添加した処理水Wの試験片に対する表面濡れ性を接触角測定にて確認した。試験片として、アセトンで10分間超音波洗浄を行ったSUS304材(70mm×150mm、表面粗さRa=0.3)を用いた。上記の防錆洗浄剤Rを用いて処理水Wとしてのプローブ液を作成し、これを試験片に滴下した。液滴量は1μl使用した。比較例についても同様に行った。結果を図5に示す。実施例に係る処理水Wは、比較例に係る処理水Wに比較して濡れ広がりが大きく、水分揮発性(乾燥速度)が良くなることが分かる。
【0044】
(試験例2)
実施例に係る処理水Wの金属表面に対する水分揮発性について、比較例に係る処理水と比較試験を行った。実施例に係る防錆洗浄剤Rを添加した処理水Wを、SM400材(70mm×70mm、表面粗さRa=2.9)からなる試験片の表面全体に塗布し、塗布直後の試験片の表面の状態と、塗布してから1時間経過後の試験片の表面の状態とを比較して観察した。比較例についても同様に行った。
【0045】
図6に示すように、表面の観察結果は、処理水Wの塗布直後においては、比較例に係る処理水Wも実施例に係る処理水Wもほとんど差はなく、金属板表面に略均一に広がりを見せていた。塗布してから1時間経過後においては、比較例に係る処理水Wは金属表面に一部が残っていたが、一方、実施例に係る処理水Wは揮発して金属表面に残っていなかった。
【0046】
(試験例3)
実施例に係る処理水Wの金属表面に対する水分揮発率について、比較例に係る処理水と比較試験を行った。実施例に係る防錆洗浄剤Rを添加した処理水Wを上記の試験例2と同様に試験片に塗布し、大気放置において、塗布直後から1時間経過後の水分揮発率を測定した。比較例についても同様に行った。測定はフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて測定した。結果を図7に示す。実施例に係る処理水Wは、比較例に係る処理水に比較して、水分揮発性(乾燥速度)が大幅に良いことが分かった。防錆効果については、少なくとも24時間の防錆性を確認した。
【0047】
尚、上記実施の形態においては、下地処理方法として再塗装の際に適用した例を示したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、新規塗装の下地処理、各種ライニング、溶射及びメッキ等の下地処理、各種建築物の洗浄等に用いられる素地調整等、他の下地処理に適用して良く、適宜変更して差支えない。また、防錆洗浄剤Rにおいても、再塗装用の処理水Wに添加することに限定されるものではなく、金属製の被処理物の表面を下地処理する際に用いる処理水であればどのような処理水に添加しても良いことは勿論である。また、防錆洗浄剤Rの防錆剤や界面活性剤についても適宜変更して差支えない。要するに、本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
R 防錆洗浄剤
W 処理水
M 被処理物
T 塗料
K 研削材
(A) 乾式ブラスト法を用いる再塗装方法
(A1) 剥離工程
(A2) 洗浄工程
(A3) 塗装工程
(B) 湿式ブラスト法を用いる再塗装方法
(B1) 剥離工程
(B2) 塗装工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7