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特開2024-165681溶存物質検知装置、溶存物質検知方法及び溶存物質検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165681
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】溶存物質検知装置、溶存物質検知方法及び溶存物質検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20241121BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01N33/18 Z
G01N1/22 N
G01N1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082069
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】隅倉 みさき
(72)【発明者】
【氏名】横井 浩人
(72)【発明者】
【氏名】山野井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 広貴
(72)【発明者】
【氏名】田畑 潤也
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA06
2G052AB25
2G052AD02
2G052AD26
2G052AD42
2G052BA17
2G052EB11
2G052JA20
(57)【要約】
【課題】
水中に含有する臭気物質などの揮発性物質の濃度を測定する
【解決手段】
水中の溶存物質を検出する溶存物質検出装置であって、溶存物質を含む原水が入った原水槽と、原水よりも高温の温水が入った温水槽と、原水と温水を混合する混合槽と、原水槽から原水を混合槽へ流入させ、温水槽から温水を混合槽へ流入させ混合水を生成する制御を行う制御部と、混合水から発生する気相から溶存物質の量を測定する測定装置を備える溶存物質検出装置。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の溶存物質を検出する溶存物質検出装置であって、
溶存物質を含む原水が入った原水槽と、
原水よりも高温の温水が入った温水槽と、
原水と温水を混合する混合槽と、
原水槽から原水を混合槽へ流入させ、温水槽から温水を混合槽へ流入させ混合水を生成する制御を行う制御部と、
混合水から発生する気相から溶存物質の量を測定する測定装置を備える溶存物質検出装置。
【請求項2】
前記制御部は混合槽の混合水の温度が目標温度になるよう原水の温度を基に流入させる温水の温度と、原水と温水の割合を制御する請求項1に記載の溶存物質検出装置。
【請求項3】
前記制御部は気相に含まれる溶存物質の濃度が、測定装置が測定可能な濃度となるよう原水と温水の混合割合と温水の温度を求める請求項2に記載の溶存物質検出装置。
【請求項4】
前記制御部は混合槽の容積から少なくとも測定装置が溶存物質の測定に必要な気相の最低量を減算した容積の混合水を作成するための原水、温水、温水の量を求める請求項3に記載の溶存物質検出装置。
【請求項5】
前記制御部は混合水を作成するとき原水と温水を混合槽に入れる前に、混合槽を密閉し気圧を低下させる請求項4に記載の溶存物質検出装置。
【請求項6】
前記混合槽は容積の変更が可能とする容積変更手段を備え、
前記制御部は混合水を作成するとき容積変更手段を用いて測定装置が測定するのに必要な気相の最低量を確保する請求項4に記載の溶存物質検出装置。
【請求項7】
水中の溶存物質を検出する溶存物質検出方法であって、
制御部が溶存物質を含む原水の入った原水槽から原水を混合槽へ流入させ、
原水よりも高温の温水が入った温水槽から温水を混合槽へ流入させて混合水を生成し、
測定装置が混合水から発生する気相から溶存物質の量を測定する溶存物質検出方法。
【請求項8】
前記制御部は混合槽の混合水の温度が目標温度になるよう原水の温度を基に流入させる温水の温度と、原水と温水の割合を制御する請求項7に記載の溶存物質検出方法。
【請求項9】
前記制御部は気相に含まれる溶存物質の濃度が、測定装置が測定可能な濃度となるよう原水と温水の混合割合と温水の温度を求める請求項8に記載の溶存物質検出方法。
【請求項10】
水中の溶存物質を検出する溶存物質検出プログラムであって、
コンピュータに制御部が溶存物質を含む原水の入った原水槽から原水を混合槽へ流入させる手順、
原水よりも高温の温水が入った温水槽から温水を混合槽へ流入させて混合水を生成する手順、
測定装置が混合水から発生する気相から溶存物質の量を測定する手順を実行させる溶存物質検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解度が低く懸濁状態の場合も含め、水中に含まれる臭気物質や揮発性成分の濃度を計測する溶存物質検知装置、溶存物質検知方法及び溶存物質検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場や工場では、河川や湖沼/貯水池などから取水して浄化処理することで、水道水や製造工程用水を供給している。このような水源では、季節・気象条件や事故等により水に臭気物質や重油/ガソリンなどの揮発性物質が混入する場合がある。その場合、粉末活性炭の注入や取水停止などの対策を実施する必要がある。これらの臭気物質や揮発性物質の水中の濃度は、計測が難しいごく微量でも人の嗅覚では検知されることが多い。
【0003】
これらの物質は水への溶解性が低い準揮発性~揮発性物質である場合が多く、上水試験方法では、試験水を三角フラスコで40―50℃に加温してフラスコ内の気相の臭気を人が嗅いで臭気の種類や強度を計測する方法が示されている。臭気物質等の混入時には、速やかな対策を実施することが水道水や生産物への混入を回避するために有効であるが、人による計測は手間がかかり連続監視には不向きである。
【0004】
そのため、加温等により水中の臭気物質や揮発性物質を気相へ移動させてガスセンサや臭気センサで計測する方法・装置が開発されている。
【0005】
例えば特許文献1では、原水の加温に加えて空気を吹き込むことにより、水中物質の気相中への回収を促進する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2では、水中物質を回収した後の原水の余熱を原水の加温に活用することで消費電力を低減する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-45689
【特許文献2】特開2023-10559
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決する課題は、水中の臭気物質を含む揮発性物質を安価に監視することである。上記の特許文献1あるいは特許文献2に記載の方法では、原水を常時加温して気相を連続計測している。このため、原水の変化(揮発性物質の混入)に対する応答時間が短く、監視装置として高い性能が得られる一方で、加温や空気注入のための消費電力が多くなる。また、高温のヒータ部が原水に接触しており、原水中のたんぱく質や有機物、無機スケールなどがヒータ表面に付着すると伝熱効率が低下するため適時の除去が必要である。
【0009】
一方、密閉容器に原水を注入して加温し、目標水温に達したら密閉容器内の気相を計測するバッチ方式の場合、加温/計測中に原水に生じた変化は、次の採水/計測まで検知できないが、消費電力は常時目標水温の原水を維持させる場合より低くなると考えられる。
【0010】
ただし、このようのバッチ方式の計測では、原水を直接ヒータ等で加温する場合、目標の水温に達するまでの時間が原水の水温により変動する。水中の揮発性物質は、目標水温に達するまでにも気相中に移動するため、水中の揮発性物質濃度が同じでも、加温時間が長いほど計測する気相には揮発性物質が多く含まれることになり誤差の原因となる。
【0011】
また、原水が低水温の時期は目標水温に達するまでの加温時間が長くなり計測頻度が減少し、原水の変化の発生から検知するまでの時間が長くなる可能性がある。このような原水の水温変化による計測値への影響を除くため、原水水温や加温時間に基づいて計測値を補正する、あるいは、所定の加温時間で目標水温に達するようにヒータ出力を調整する必要がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、消費電力とメンテナンスの頻度が低い水中の揮発性物質の計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、水中の溶存物質を検出する溶存物質検出装置であって、溶存物質を含む原水が入った原水槽と、原水よりも高温の温水が入った温水槽と、原水と温水を混合する混合槽と、原水槽から原水を混合槽へ流入させ、温水槽から温水を混合槽へ流入させ混合水を生成する制御を行う制御部と、混合水から発生する気相から溶存物質の量を測定する測定装置を備える溶存物質検出装置により達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、水中の臭気物質を含む揮発性物質を安価に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1における水中含有物質の計測装置の概念図である。
図2】本発明の実施例1における水中含有物質の算出手順のフロー図である。
図3】本発明の実施例2における水中含有物質の計測装置の概念図である。
図4】本発明の実施例2における水中含有物質の算出手順のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施例における水中含有物質の計測方法について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【実施例0017】
計測対象の水が浄水場の原水であり、計測目的の水中含有物質が臭気物質である場合について、以下に説明する。
【0018】
図1は、本実施例における水中含有物質の計測装置の概念図である。原水槽1は原水2が常に流入・流出している。水温計3は原水槽1内に設置され、原水の水温を計測し計測データを前処理制御部9へ送る。温水槽5は低臭気の温水用水6が流入する。
【0019】
ヒータ7は温水槽5内の温水用水6を目標水温になるまで加温する。電磁弁4(非通電時は閉)は前処理制御部9からの信号により所定時間、開となり、原水槽1内の原水は混合槽10へ流入する。
【0020】
電磁弁8(非通電時は閉)は前処理制御部9からの信号により所定時間、開となり、温水槽5内の温水は混合槽10に流入する。水位計11は混合槽10内に設置され、水位を計測し計測データを前処理制御部9へ送る。電磁弁13(非通電時は閉)は混合槽10の底部に設置され、前処理制御部9からの信号により所定時間、開となり、混合槽10内の水を排水する。
【0021】
電磁弁16(非通電時は閉)と活性炭カラム14は、混合槽10の気相部分に接続された管路に設置されている。電磁弁16は前処理制御部9からの信号により所定時間、開となり、活性炭カラム14を通過して臭気物質などを除去された外気が混合槽10に流入する。電磁弁19(非通電時は閉)とガス計測器17は、混合槽10の気相部分に接続された管路に設置されている。電磁弁19は前処理制御部9からの信号により所定時間、開となり、混合槽10内の気相がポンプを内蔵するガス計測器17に吸引される。
【0022】
ガス計測器17は臭気の強度を計測し計測データを計測結果表示部20に送る。真空ポンプ12は混合槽10の内部の気相を吸引・排出し、混合槽10内の圧力を負圧にする。前処理制御部9は、水温計3と水位計11から送られた計測値を基に混合する原水の水量と温水の水温と水量を算出する。
【0023】
前処理制御部9はその算出結果から原水槽1と温水槽5から原水と温水が混合槽へ算出した水量の分流入するための流出時間を算出し、電磁弁4と電磁弁8を開閉する信号を送り、ヒータ7に温水の目標水温を送る。
【0024】
また、前処理制御部9は、電磁弁16と電磁弁13と電磁弁19を、それぞれ活性炭を通過した外気を取り込む時間、ガス計測器17が気相を計測する時間、混合槽10を排水する時間に開閉する信号を送る。計測結果表示部20は、前処理制御部9からの温水の水温と水量、原水の水量、およびガス計測器17からの臭気の計測データを基に原水の臭気の強度を算出し、算出結果を表示する。
【0025】
図2は、本実施例における水中含有物質の計測手順のフロー図である。本図を用いて原水中の臭気物質の計測方法を説明する。
【0026】
前処理制御部9は、水温計3から原水の水温T1を取得し、あらかじめ設定された混合槽10内の気相の容積Vgと原水の水量V1の比率aと、温水の水量V2と混合槽10の容積Vと混合後の水温T3から、温水の目標水温T2を算出する。(ステップ101)
続いて、前処理制御部9から温水の目標水温T2を受け取ったヒータ7が、温水槽5内の水を目標水温T2になるまで加温する。(ステップ102)
温水が加温されている間に、真空ポンプ12は混合槽10内の気相を吸引し混合槽10内を負圧にする。(ステップ103)
次に、前処理制御部9は電磁弁4を開にして混合槽10に原水を流入させ、水位計11の計測値が原水の水量V1に相当する水位に達したら電磁弁4を閉にする。(ステップ104)
続いて、前処理制御部9は電磁弁8を開にして混合槽10に温水を流入させ、水位計11の計測値が原水の水量V1と温水の水量の合計(V1+V2)に相当する水位に達したら電磁弁8を閉にする。(ステップ105)
続いて、前処理制御部9は電磁弁16を開にして、外気が活性炭を通過して混合槽10内に流入し、気相の圧力が大気圧相当に達したら電磁弁4を閉にする。(ステップ106)
続いて、前処理制御部9は電磁弁19を開にして、ガス計測器17が混合槽10の気相を吸引して臭気を計測する。あらかじめ設定した計測時間の経過後、電磁弁19を閉にする。(ステップ107)
次に、前処理制御部9は電磁弁13と電磁弁16を開にして、混合槽10内の水を排水し、あらかじめ設定した排水時間の経過後、電磁弁13と電磁弁16を閉にする。(ステップ108)
次に、計測結果表示部20は前処理制御部9から混合槽10内の気相と原水の容積比aと、ガス計測器17から計測値を受け取り、それらに基づいて原水中の臭気物質の濃度の推定値を算出し、表示する。(ステップ109)
続いて、計測結果表示部20はガス計測器17の計測値があらかじめ設定した上限値以下の場合、ステップ101に戻る。同計測値が上限値より高い場合、気相の容積Vgに対する原水の水量V1の比率aを低下させる。その後、ステップ101に戻る。(ステップ110)
前処理制御部9による温水の目標水温T2の算出には、数式1から数式3を用いるとよい。
[数1] a=V1/Vg
[数2] V=Vg+V1+V2
[数3] T2=(T3×(V1+V2)-T1×V1)/V2
ここで、T1:原水水温、T3:混合後の水温、Vg:混合槽内の気相容積、V1:混合槽内の原水容積、V2:混合槽内の温水容積、V:混合槽10の容積である。
【0027】
気相の容積Vgはガス計測器17の計測対象のガスを吸引する流量に基づいて設定するとよい。例えば半導体式のガス計測器は、吸引する流量が多くかつ計測に2、3分程度の時間がかかるものがある。このような場合には、ガス計測器で吸引して計測したあとの排気を再び混合槽10の気相に戻して循環して計測する構成にすると1回の計測に必要な気相の容積Vgが小さくなり、混合槽10や温水槽の寸法を小型化でき、消費電力も抑制できる。
【0028】
気相に対する原水の容積の比率aは、原水の揮発性物質の含有量に基づいて設定する。あらかじめ、想定する揮発性物質が検知したい下限の濃度で含有されている原水を用いて、ガス計測器17の計測可能な濃度範囲になる気相に対する原水の容積を調べた結果から上記比率aを設定するとよい。
【0029】
混合後の水温T3は、混合槽10での滞留時間に、混合槽10の壁面等からの熱伝導による水温の低下も含めて、揮発性物質が気相へ効率よく移動する水温に設定する。例えば上述の上水試験方法に示された40℃-50℃の範囲で設定するとよい。
【0030】
真空ポンプ12が混合槽10内の気相を吸引する時間は、原水と温水と活性炭を通過した外気が目的の容量の分、流入できるような負圧にまで混合槽10内の気圧が低下するような時間になるよう、あらかじめ試して設定するとよい。
【0031】
また、真空ポンプ12は混合槽10の上部と管路で接続してもよいが、図1に示すようにガス計測器17が接続された管路18に電磁弁19より混合槽10側で分岐する管路を設けて接続してもよい。後者の場合、真空ポンプ12が混合槽10内の気相を吸引する際、加温で発生したミストが凝縮して管路18の内壁面に付着した水滴を吸引して除去し、ガス計測器17への水滴の流入を低減する効果が得られる。
【0032】
前処理制御部9が電磁弁16を開にして、外気が活性炭を通過して混合槽10内に流入させる時間は、あらかじめ真空ポンプで吸引する時間に対して大気圧に達するまでの時間を試して設定する。あるいは混合槽10に気相の圧力計を設置し、その圧力計測値に基づいて電磁弁4を開閉してもよい。
【0033】
前処理制御部9が電磁弁19を開にして、ガス計測器17が混合槽10の気相を吸引して臭気を計測する時間は、ガス計測器17の仕様に応じて、計測値が安定する時間に設定するとよい。
【0034】
計測結果表示部20による原水中の臭気物質の濃度の推定値の算出には、数式4を用いることができる。
[数4] C1=k×Cg×Vg/(r×V1)
=k×Cg/(r×a)
ここで、C1:原水中の臭気物質濃度、k:単位の換算係数、Cg:ガス計測器の計測値、r:臭気物質の水中から気相への回収率である。
【0035】
水中の物質の気相への回収率rには、各物質の蒸気圧と加温する水温と回収時間が影響すると考えられる。本実施例の計測方法では、加温する水温と回収時間は固定の値であるため、想定する物質の回収率rは一定値と仮定して、あらかじめ標準物質を用いた試験で、原水中の物質の濃度と気相のガス計測器の計測値の関係式の係数を求め、その係数をk/rとすることもできる。その場合、水中物質の濃度はガス計測器の計測値を気相に対する原水の容積の比率aで除した値に比例する。
【0036】
ガス計測器17の計測値の上限値は、使用するガス計測器の計測可能な範囲で、対象物質の濃度変化幅を検知できる値にする。ガス計測器の種類によっては、高濃度のガス分子を計測すると、センサや計測部の壁面等に付着したガス分子の除去に時間を要する場合があるため、必要な精度が得られる範囲でできるだけ低い値に設定するとよい。
【0037】
ガス計測器以外の手段で原水中の対象物質が検知したい濃度以上に含まれることが把握されており、かつ計測結果表示部20による原水中の臭気物質の濃度の推定値が低い場合は、上記の比率aを増加することで気相への回収量を増やすとよい。
【0038】
気相の容積Vgは、ガス計測器17の仕様により決まる、安定した計測に求められる最低容積を確保する必要がある。このため、気相の容積Vgに対する原水の水量V1の比率aを変化させる場合、Vgは例えば上記最低容量で固定し、原水の水量V1を変化させるとよい。ただし、混合槽10の容積Vは固定のため、原水の水量V1を増加させたとき、温水の水量V2は減少し、温水の目標水温T2は上昇する。T2は水の沸点が上限であり、このときの数式3で算出されるV1をV1の上限値とするとよい。
【0039】
前処理制御部9はCPU(Central Processing Unit)、主記憶メモリ、入出力部、外部記憶装置等を備える計算機で実現できる。主記憶メモリに格納されたソフトウェアで実現された制御プログラムがCPUで実行されることにより、原水、温水用水の必要量等の計算や、温度測定、ヒータによる加温、電磁弁の操作、臭気の測定実行等を各装置へ入出力部経由で指示することにより臭気測定をすることができる。
【0040】
本実施例の形態によれば、水道水等の揮発性物質の少ない水を温水にして原水と混合することで原水を加温し、原水と温水を混合した容器内の気相をガス計測器で計測する。これにより、原水の加温時間は、原水の水温に関わらず共通に原水と温水が混合するための時間となり、原水水温の変化による計測値への影響が低減できる。
【0041】
また、加温時間は原水を直接加温する場合に比べ大幅に短くなり、計測頻度が向上する。また、ヒータ等の高音部は原水ではなく水道水等の夾雑物の少ない水と接触し、加温容器も原水が希釈された水と接触するため、ヒータ表面や加温容器内面における汚れ等の付着物量が少なくなり清掃頻度の低減が期待できる。
【0042】
浄水場で本発明の溶存物質検知装置を使用する場合は連続的に検査を続ける必要は必ずしもなく、30分から1時間に1回程度の検査でも問題ない場合が多いと考えられる。このため、温水槽に用意する温水用水は検査と検査の間に原水と混合して40℃-50℃近くの混合水を作成するのに必要な温度と量の温水用水を準備しておくことにより短時間での検査が可能となる。
【0043】
また、温水用水を作成するために工場等の廃熱を使用することによりコストの低い検査が可能となる。
【実施例0044】
図3は、本実施例における水中含有物質の計測装置の概念図である。実施例1と基本的な構成、動作は同じであるため、以下に実施例1と異なる点のみ説明する。
【0045】
本実施例では実施例1と異なり混合槽10内の気相を真空ポンプで吸引しない。従って、混合槽10内の気圧は大気圧であり、原水と温水を自然流下で流入させるために原水槽1と温水槽5は混合槽10より鉛直方向に高い位置に設置する。三方弁の電磁弁22は、混合槽10の気相部分に接続された管路18に設置され、分岐した一方の管路にガス計測器17の吸引口、他方の管路に活性炭カラム14が接続されている。
【0046】
電磁弁22は非通電時は混合槽10側が閉で、ガス計測器17は活性炭カラム14を通過した外気を吸引している。電磁弁22は前処理制御部9からの信号により所定時間、活性炭カラム14側が閉となり、ガス計測器17は混合槽10内の気相を吸引する。
【0047】
三方弁の電磁弁21は、混合槽10の気相部分に接続された管路15に設置され、分岐した一方の管路にガス計測器17の排出口が接続され、他方の管路は大気開放されている。
【0048】
電磁弁21は非通電時は混合槽10側が閉で、ガス計測器17から排出された計測後の外気や混合槽10の気相は、大気中に排出されている。電磁弁21は前処理制御部9からの信号により所定時間、大気開放側が閉となり、ガス計測器17から排出された活性炭カラム14を通過した外気または混合槽10内の気相は混合槽10内に流入する。
【0049】
圧力調整弁23は混合槽10の気相部分に接続された管路に設置され、混合槽10内の圧力が大気圧以上になると開になり混合槽10内の気相を槽外へ排出し、混合槽10内を大気圧に維持する。前処理制御部9は、電磁弁21と電磁弁22を、それぞれ活性炭を通過した外気を取り込む時間、あるいは混合槽10内の気相を循環して計測する時間、ガス計測器17が気相を計測する時間に開閉する信号を送る。
【0050】
図4は、本実施例における水中含有物質の計測手順のフロー図である。本図を用いて原水中の臭気物質の計測方法を説明する。
【0051】
前処理制御部9は、水温計3から原水の水温T1を取得し、あらかじめ設定された混合槽10内の気相の容積Vgと原水の水量V1の比率aと、温水の水量V2と混合槽10の容積Vと混合後の水温T3から、温水の目標水温T2を算出する。(ステップ201)
続いて、前処理制御部9から温水の目標水温T2を受け取ったヒータ7が、温水槽5内の水を目標水温T2になるまで加温する。(ステップ202)
次に、前処理制御部9は電磁弁4を開にして、活性炭カラムを通過した外気が満たされている混合槽10へ原水を流入させる。水位計11の計測値が原水の水量V1に相当する水位に達したら電磁弁4を閉にする。(ステップ203)
続いて、前処理制御部9は電磁弁8を開にして混合槽10に温水を流入させ、水位計11の計測値が原水の水量V1と温水の水量の合計(V1+V2)に相当する水位に達したら電磁弁8を閉にする。(ステップ204)
次に、前処理制御部9は電磁弁21と電磁弁22を切り替えて、ガス計測器17が混合槽10の気相を吸引して臭気を計測し、排気は混合槽10へ戻る。あらかじめ設定した計測時間の経過後、電磁弁22を混合槽側を閉に戻す。(ステップ205)
続いて、前処理制御部9は電磁弁13を開にして、混合槽10内の水を排水し、ガス計測器17を介して活性炭カラムを通過した外気が混合槽10に流入する。排水が完了し、混合槽10内が大気圧以上になると、混合槽10内の気相は圧力調整弁23を通って排出される。あらかじめ設定した排水時間の経過後、電磁弁13を閉にして、電磁弁21を混合槽側を閉にする。(ステップ206)
次に、計測結果表示部20は前処理制御部9から混合槽10内の気相と原水の容積比aと、ガス計測器17から計測値を受け取り、それらに基づいて原水中の臭気物質の濃度の推定値を算出し、表示する。(ステップ207)
続いて、計測結果表示部20はガス計測器17の計測値があらかじめ設定した上限値以下の場合、ステップ201に戻る。同計測値が上限値より高い場合、気相の容積Vgに対する原水の水量V1の比率aを低下させる。その後、ステップ201に戻る。(ステップ208)
原水と温水が混合槽10に流入する際、混合槽10内の気相は流入した原水や温水と同等の容積が圧力調整弁23から排出される。温水が流入している途中にも流入中に水中の計測対象の物質は気相に移動しているため、温水の流入はできるだけ短時間に実施し、混合槽10外への計測対象物質の流出量を減らすことが望ましい。また、気相と原水を注入した後に温水を注入すると、混合槽10内の水温が温水より低くなり、混合槽10の温度差による劣化の低減や気相のミストの量が減る効果が期待できる。
【0052】
原水と温水の混合槽10への注入は、ポンプを用いてもよい。この場合、あらかじめ把握しておいたポンプの送水速度と、原水や温水の水量からポンプの動作時間を算出してもよい。
【0053】
混合槽10は、気相の容積を一定にしたまま混合水が入る部分の容積が可変の容器を使用してもよい。例えば、混合槽10の底部の位置を可変にしても良いし、混合槽自体を伸縮性のあるゴムのような素材を用いて作成してもよい。
【0054】
この場合、圧力調整弁23は不要である。気相が混合槽10の外へ流出しないため、温水の注入時間を長くすることができ、ポンプの小型化で消費電力を低減することが期待できる。
【0055】
本実施例の形態によれば、混合槽10内の気相を循環して計測することで必要な気相と原水の容量を低減し、半導体式のガス計測器など、計測に要するガス量が比較的多い計測器を使用する場合でも、全体の計測装置を小型化・省電力化できる。
【符号の説明】
【0056】
1 原水槽、2 原水、3 水温計、4 電磁弁、5 温水槽、6 温水用水、7 ヒータ、8 電磁弁、9 前処理制御部、10 混合槽、11 水位計、12 真空ポンプ、13 電磁弁、14 活性炭カラム、15 管路、16 電磁弁、17 ガス計測器、18 管路、19 電磁弁、20 計測結果表示部、21 電磁弁、22 電磁弁、23 圧力調整弁。
図1
図2
図3
図4