(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165685
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】スラストプレート、スクロール圧縮機及びスラストプレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20241121BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F04C18/02 311Z
F04C18/02 311H
F04C29/00 B
F04C29/00 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082076
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 怜
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄太
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 宏光
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀昭
【テーマコード(参考)】
3H039
3H129
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA06
3H039AA12
3H039BB04
3H039BB07
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC22
3H129AA02
3H129AA15
3H129AA21
3H129AB03
3H129BB31
3H129BB44
3H129CC10
(57)【要約】
【課題】面内に強いせん断力がかかった場合でも、樹脂層の剥離を抑制でき、耐久性及び耐食性に優れるスラストプレート、スクロール圧縮機及びスラストプレートの製造方法を提供する。
【解決手段】金属により構成されたプレート本体と、前記プレート本体における一方の主面及び端面のそれぞれに直接積層された樹脂層と、を含むスラストプレートであって、前記プレート本体における前記一方の主面と前記端面との間の角部の少なくとも一部に前記樹脂層が設けられていない部位を有し、前記部位にリン酸塩皮膜が設けられている、スラストプレート。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属により構成されたプレート本体と、
前記プレート本体における一方の主面及び端面のそれぞれに直接積層された樹脂層と、
を含むスラストプレートであって、
前記プレート本体における前記一方の主面と前記端面との間の角部の少なくとも一部に前記樹脂層が設けられていない部位を有し、前記部位にリン酸塩皮膜が設けられている、スラストプレート。
【請求項2】
前記プレート本体における他方の主面にリン酸塩皮膜が設けられている、請求項1に記載のスラストプレート。
【請求項3】
前記リン酸塩皮膜が、リン酸マンガン皮膜、リン酸亜鉛皮膜又はリン酸カルシウム皮膜である、請求項1又は請求項2に記載のスラストプレート。
【請求項4】
ハウジングと、
前記ハウジングに固定された固定スクロールと、
前記固定スクロールに対して旋回する可動スクロールと、
前記ハウジングに取付けられ、前記可動スクロールにおける背面に面接触し、前記可動スクロールにおける軸方向の反力を受ける、請求項1又は請求項2に記載のスラストプレートと、
を備え、
前記スラストプレートは、前記プレート本体の前記一方の主面上に設けられた前記樹脂層を、前記可動スクロールにおける背面に面接触させるように配置されている、スクロール圧縮機。
【請求項5】
金属により構成されたプレート本体における一方の主面及び端面のそれぞれに直接、塗布法により樹脂層を形成すること、及び
前記プレート本体における前記一方の主面と前記端面との間の角部の少なくとも一部における前記樹脂層が設けられていない部位、及び、前記プレート本体における他方の主面にリン酸塩化成処理を施すこと、
をこの順で含む、スラストプレートの製造方法。
【請求項6】
前記リン酸塩化成処理に、リン酸マンガン、リン酸亜鉛又はリン酸カルシウムを用いる、請求項5に記載のスラストプレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストプレート、スクロール圧縮機及びスラストプレートの製造方法に関する。さらに詳しくは、スクロール圧縮機等に使用され、面内に強いせん断力がかかった場合でも、樹脂層の剥離を抑制でき、耐久性及び耐食性に優れるスラストプレート、スクロール圧縮機及びスラストプレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、スクロール圧縮機は、冷媒を圧縮するスクロールユニットを備えており、固定スクロールと可動スクロールとが対面して設置されている。可動スクロールの背面には軸方向の反力を受けるスラストプレートが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1をはじめとする従来の技術では、摺動部材の耐久性を向上させることを目的として、プレート本体の表面に下地処理としてリン酸塩処理を施した後、形成されたリン酸塩皮膜を樹脂層により被覆していた。しかしながら、スラストプレートの摺動環境においては樹脂層の表面に強いせん断力が加わるため、樹脂層の下地であるリン酸塩皮膜が内部で破断してしまう場合がある。これは樹脂層が剥離する原因になり得るため、耐久性の観点でさらなる改善の余地がある。
【0005】
本発明者らは、プレート本体の表面に直接、樹脂層を形成することについて検討した。まず、樹脂を含む塗料をプレート本体に塗布して樹脂層を形成する場合、プレート本体の角部にまで樹脂層を形成するためには樹脂層を厚く形成する必要があった(これは塗料の表面張力等に起因する。)。しかしながら、このように樹脂層を厚く形成する場合は、樹脂層がプレート本体から剥離し易くなることがわかった。また、このように樹脂層を厚く形成する場合は、樹脂層の厚さを均一にすることが困難であり、その結果、スクロール圧縮機の運転時にスラストプレートにかかる面圧が不均一になることがわかった。一方で、樹脂層を薄く形成する場合は、塗料の表面張力によって、プレート本体の角部が樹脂層から露出する。この場合、金属により構成されたプレート本体の露出により耐食性が損なわれると共に、樹脂層の端部が摺動面に存在することで、当該端部を起端として樹脂層の剥離が発生してしまうことがわかった。
【0006】
本発明の目的は、面内に強いせん断力がかかった場合でも、樹脂層の剥離を抑制でき、耐久性及び耐食性に優れるスラストプレート、スクロール圧縮機及びスラストプレートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るスラストプレートは、金属により構成されたプレート本体と、前記プレート本体における一方の主面及び端面のそれぞれに直接積層された樹脂層と、を含むスラストプレートであって、前記プレート本体における前記一方の主面と前記端面との間の角部の少なくとも一部に前記樹脂層が設けられていない部位を有し、前記部位にリン酸塩皮膜が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本実施形態に係るスラストプレートによれば、プレート本体の角部が樹脂層から露出していても、当該角部にリン酸塩皮膜を備えるため、当該角部を起端とする樹脂層の剥離をリン酸塩皮膜によって抑制できる。これにより、スラストプレートの面内に高いせん断力が加わっても、樹脂層の剥離を抑制し、耐久性が向上する。また、金属により構成されたプレート本体の角部がリン酸塩皮膜で被覆されることで、耐食性も向上する。即ち、樹脂層とリン酸塩皮膜とが協働的に作用して、耐久性及び耐食性を向上することができる。さらに、プレート本体の角部が樹脂層から露出することが許容されるため、塗料の表面張力を考慮して厚く形成せざるを得なかった樹脂層を、薄く形成することが可能になり、その結果、樹脂層による断熱作用を低減することも可能になる。樹脂層による断熱作用が低減することで、摺動発熱の放熱性が向上する。また、樹脂層を薄く形成することが可能になることで、樹脂層の厚さの均一性を向上でき、スクロール圧縮機の運転時にスラストプレートにかかる面圧を均一化できる。
【0009】
より好ましくは、前記プレート本体における他方の主面にリン酸塩皮膜が設けられている。これにより、スラストプレートの他方の主面に格別に樹脂層を設けなくても、リン酸塩皮膜によってプレート本体が被覆されるので、簡素な構成で、スラストプレートの耐久性がさらに向上する。
【0010】
より好ましくは、前記リン酸塩皮膜が、リン酸マンガン皮膜、リン酸亜鉛皮膜又はリン酸カルシウム皮膜である。これにより、リン酸塩皮膜を容易に形成でき、プレート本体の角部の露出部位を被覆できるため、スラストプレートの耐久性及び耐食性がより良好に発揮される。
【0011】
本発明の一実施形態に係るスクロール圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジングに固定された固定スクロールと、前記固定スクロールに対して旋回する可動スクロールと、前記ハウジングに取付けられ、前記可動スクロールにおける背面に面接触し、前記可動スクロールにおける軸方向の反力を受ける、上記のスラストプレートと、を備え、前記スラストプレートは、前記プレート本体の前記一方の主面上に設けられた前記樹脂層を、前記可動スクロールにおける背面に面接触させるように配置されていることを特徴とする。
【0012】
本実施形態に係るスクロール圧縮機によれば、該スクロール圧縮機が備えるスラストプレートの耐久性及び耐食性に優れるため、スクロール圧縮機の耐久性も向上する効果が得られる。
【0013】
本発明の一実施形態に係るスラストプレートの製造方法は、金属により構成されたプレート本体における一方の主面及び端面のそれぞれに直接、塗布法により樹脂層を形成すること、及び前記プレート本体における前記一方の主面と前記端面との間の角部の少なくとも一部における前記樹脂層が設けられていない部位、及び、前記プレート本体における他方の主面にリン酸塩化成処理を施すこと、をこの順で含むことを特徴とする。
【0014】
本実施形態に係るスラストプレートの製造方法では、金属表面処理であるリン酸塩化成処理を、あえてプレート本体に樹脂層を形成した後で施す。これにより、樹脂層を必要な部位に形成でき、後段のリン酸塩化成処理により、樹脂層が形成されていない部位(プレート本体における金属表面の露出部位)に選択的にリン酸塩化成処理を施すことができる。樹脂層の表面にはリン酸塩皮膜が形成されないため、樹脂層の本来の表面(円滑な摺動面)を維持することができる。その結果、プレート本体の角部が樹脂層から露出していても、当該角部にリン酸塩皮膜を備えるため、当該角部を起端とする樹脂層の剥離をリン酸塩皮膜によって抑制できる。これにより、スラストプレートの面内に高いせん断力が加わっても、樹脂層の剥離を抑制し、耐久性が向上する。また、金属により構成されたプレート本体の角部がリン酸塩皮膜で被覆されることで、耐食性も向上する。即ち、樹脂層とリン酸塩皮膜とが協働的に作用して、耐久性及び耐食性を向上することができる。さらに、プレート本体の角部が樹脂層から露出することが許容されるため、樹脂層を薄く形成することが可能になり、その結果、樹脂層による断熱作用を低減することも可能になる。樹脂層による断熱作用が低減することで、摺動発熱の放熱性が向上する。また、樹脂層を薄く形成することが可能になることで、樹脂層の厚さの均一性を向上でき、スクロール圧縮機の運転時にスラストプレートにかかる面圧を均一化できる。またさらに、樹脂層が形成されたプレート本体の全体をリン酸塩化成処理液に浸漬することで、プレート本体の角部(金属露出部)と他方の主面とに同時にリン酸塩化成処理を施すことも可能であるため、生産性を向上することもできる。
【0015】
より好ましくは、前記リン酸塩化成処理に、リン酸マンガン、リン酸亜鉛又はリン酸カルシウムを用いる。これにより、スラストプレートの耐久性及び耐食性がより良好に発揮される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、面内に強いせん断力がかかった場合でも、樹脂層の剥離を抑制でき、耐久性及び耐食性に優れるスラストプレート、スクロール圧縮機及びスラストプレートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスラストプレートを備えたスクロール圧縮機の前後方向に沿った断面図である。
【
図2】
図1のスクロール圧縮機が備えるスラストプレートの平面図である。
【
図3】
図2における(A)-(A)線断面図であり、スラストプレートにおける一方の主面と端面との間の角部近傍を拡大して示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るスラストプレートの製造方法を説明する図である。
【
図5】実施例1における、樹脂層形成後、かつリン酸塩化成処理前のプレート本体の様子を示す画像であり、(a)はマイクロスコープ像、(b)は二次電子像、(c)は反射電子像である。
【
図6】実施例1における、樹脂層形成後、かつリン酸塩化成処理前のプレート本体の様子を示す画像であり、(d)は元素分析によるC(炭素原子)分析像、(e)は元素分析によるFe(鉄原子)分析像である。
【
図7】比較例2に係るスラストプレートの耐久試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
(スラストプレート及びスクロール圧縮機)
図1は本発明の一実施形態に係るスラストプレートを備えたスクロール圧縮機(以下、単に「圧縮機」とも称する。)の前後方向に沿った断面図である。
【0020】
圧縮機11は、例えばカーエアコンの冷媒回路で用いられるベルト駆動型のスクロール圧縮機であり、冷媒を吸入し、圧縮してから排出する。圧縮機11は、前後方向に沿って前側から順に並んだ、フロントハウジング12と、センタハウジング13と、リアハウジング14と、によって気密性を保つように一体化されている。フロントハウジング12の上部には、冷媒を吸入する吸入口(図示省略)が形成され、リアハウジング14の上部には、圧縮された冷媒を排出する排出口16が形成されている。
【0021】
フロントハウジング12の前側には、回転軸21が回転自在に支持されている。回転軸21の前端側には、電磁クラッチ22を介してプーリ23に連結されている。プーリ23には、例えばエンジンの動力が駆動ベルトを介して伝達される。
【0022】
センタハウジング13の後側には、固定スクロール24が形成されており、フロントハウジング12の後側からセンタハウジング13の前側にかけて、可動スクロール25が収容されている。
【0023】
固定スクロール24は、センタハウジング13の後側を閉塞するように形成されており、円板状に形成された固定端板26と、この固定端板26の前面に形成された固定渦巻き27と、を備える。
【0024】
可動スクロール25は、固定端板26の前側に配置されており、円板状に形成された可動端板28と、この可動端板28の後面に形成され、固定渦巻き27と噛み合う可動渦巻き29と、を備える。
【0025】
固定端板26の前面と可動端板28の後面とが対向し、固定渦巻き27と可動渦巻き29とが噛み合っている。固定渦巻き27の先端は、図示しないチップシールを介して可動端板28の後面に摺動可能に接触し、可動渦巻き29の先端は、図示しないチップシールを介して固定端板26の前面に摺動可能に接触している。固定端板26の前面、固定渦巻き27、可動端板28の後面、及び可動渦巻き29で囲まれた区画によって、冷媒を圧縮するための圧力室31が形成されている。前後方向から見ると、圧力室31は、三日月状の密閉空間となる。
【0026】
可動端板28の前面には、ボス32が形成され、回転軸21の後端には、偏心させたクランク端部33が形成され、クランク端部33がボス32に回転自在の状態で嵌め込まれている。回転軸21の回転運動は、クランク端部33によって旋回運動として可動スクロール25に伝達される。可動スクロール25は、例えばピン&ホールを介して自転が阻止され、且つ固定スクロール24に対する公転が許容されている。
【0027】
固定端板26の中央には、前後方向に貫通した吐出孔(図示省略)が形成され、吐出孔は、固定端板26の後側に形成された吐出室35に連通している。固定端板26の後面には、吐出孔の後端側を開閉可能な吐出弁36が設けられている。
【0028】
固定スクロール24に対して可動スクロール25が公転すると、圧力室31は、前後方向から見て、スクロール中心に向かって変位してゆき、且つ容積が縮小してゆく。圧力室31は、スクロール外側にあるときに吸入口(図示省略)と連通して冷媒を吸入し、スクロール中心にあるときに吐出孔(図示省略)と連通して圧縮した冷媒を吐出する。吐出弁36は、吐出圧を受けるときに、吐出室35に冷媒を吐出させる。
【0029】
フロントハウジング12には、フロントハウジング12に取付けられ、可動端板28の前面、つまり可動スクロール25の背面に面接触し、可動スクロール25における軸方向の反力を受ける円環状のスラストプレート37が設けられている。固定スクロール24に対して可動スクロール25が公転するときに、スラストプレート37に対しても可動スクロール25の可動端板28が摺動することになる。
【0030】
可動スクロール25は、金属により構成することができ、例えば、6000系のアルミ合金、つまりアルミニウム-マグネシウム-シリコン系(Al-Mg-Si系)合金である。ここでは、A6061-T6を使用している。尚、A4032では、シリコンの含有率が11.0~13.5[%]であるのに対して、A6061では、シリコンの含有率が0.4~0.8[%]である。また、少なくとも可動スクロール25の背面、つまり可動端板28の前面が、アルマイト処理(陽極酸化処理)されていてもよい。
【0031】
図2は、
図1のスクロール圧縮機が備えるスラストプレートの平面図である。また、
図3は、
図2における(A)-(A)線断面図であり、スラストプレートにおける一方の主面と端面との間の角部近傍を拡大して示す図である。
【0032】
スラストプレート37は、金属により構成された円環状のプレート本体38と、プレート本体38における一方の主面38a及び端面38bのそれぞれに直接積層された樹脂層39と、を含む。ここで、「直接積層された」とは、プレート本体38における金属表面と、樹脂層39とが、他の層を介さずに積層されていることを意味する。また、「端面」とは、プレート本体38における厚さ方向の面であり、一方の主面38aと他方の主面とを接続する面であり、「側面」ということもできる。図示の例では、円環状のプレート本体38の外周面及び内周面がそれぞれ端面38bに相当する。また、円環状のプレート本体38の周方向に等間隔で配置された4つの貫通孔(図示しないピンを挿通するための孔)の内周面もまた端面38bに相当する。
【0033】
スラストプレート37は、プレート本体38における一方の主面38aと端面38bとの間の角部の少なくとも一部に樹脂層39が設けられていない部位を有し、当該部位にリン酸塩皮膜40が設けられている。
【0034】
かかるスラストプレート37においては、プレート本体38の角部が樹脂層39から露出していても、当該角部にリン酸塩皮膜40を備えるため、当該角部を起端とする樹脂層39の剥離をリン酸塩皮膜40によって抑制できる。これにより、スラストプレート37の面内に高いせん断力が加わっても、樹脂層39の剥離を抑制し、耐久性が向上する。また、金属により構成されたプレート本体38の角部がリン酸塩皮膜40で被覆されることで、耐食性も向上する。即ち、樹脂層39とリン酸塩皮膜40とが協働的に作用して、耐久性及び耐食性を向上することができる。さらに、プレート本体38の角部が樹脂層39から露出することが許容されるため、塗料の表面張力を考慮して厚く形成せざるを得なかった樹脂層39を、薄く形成することが可能になり、その結果、樹脂層39による断熱作用を低減することも可能になる。樹脂層39による断熱作用が低減することで、摺動発熱の放熱性が向上する。また、樹脂層39を薄く形成することが可能になることで、樹脂層39の厚さの均一性を向上でき、圧縮機11の運転時にスラストプレート37にかかる面圧を均一化できる。
【0035】
圧縮機11において、スラストプレート37は、プレート本体38の一方の主面38a上に設けられた樹脂層39を、可動スクロール25における背面に面接触させるように配置される。
【0036】
プレート本体38を構成する金属は格別限定されず、例えば、鉄又は鉄を含む合金等が挙げられ、より具体的には例えば炭素鋼等が挙げられる。プレート本体38は少なくともその表面が金属によって構成され、通常は、プレート本体38は金属からなる。プレート本体38の厚さは、例えば0.3mm以上1.0mm以下である。この範囲の厚さであれば、プレート本体38は十分な強度を発揮でき、またプレート本体38の変形を防止できる。また、プレート本体38のビッカース硬度は、例えば235Hv以上295Hv以下である。
【0037】
樹脂層39は、樹脂を含むものであればよい。樹脂は格別限定されず、例えば、ポリアミドイミド等が挙げられる。樹脂としてポリアミドイミドを含むことにより、樹脂層39のプレート本体38に対する接着性に優れる効果が得られる。
【0038】
樹脂層39は、樹脂に加えて、固体潤滑剤を含むことができる。固体潤滑剤は格別限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイト、酸化アルミニウム(アルミナ)、二硫化モリブデン等が挙げられる。ポリテトラフルオロエチレンは樹脂層39に粒子として含有させることができ、その粒径は、例えば0.1~20μmである。これにより、潤滑性に優れ、かつ樹脂層からの粒子の脱落を防止できる。樹脂層39は、これら固体潤滑剤からなる群から選択される1種以上を含有することができる。樹脂層39が固体潤滑剤を含む場合、樹脂はバインダーとしても機能し得る。
【0039】
樹脂層39における固体潤滑剤の含有量は、樹脂層39の総量に対して10質量%以上60質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がより好ましい。また、好ましい一例として、樹脂層39は、ポリアミドイミドを100質量部としたときに、ポリテトラフルオロエチレンが30質量部以上70質量部以下、グラファイトが5質量部以上20質量部以下、酸化アルミニウムが0.5質量部以上3質量部以下となるように配合される。
【0040】
樹脂層39の厚さは、50μm以下、30μm以下、さらには25μm以下であることが好ましい。尚、「樹脂層39の厚さ」は、樹脂層39における最も厚い部分における厚さとする。このように樹脂層39を薄く形成することにより、摺動発熱の放熱性に優れ、スラストプレート37、さらには圧縮機11の耐久性を向上できる。また、樹脂層39を、50μm以下、30μm以下、さらには25μm以下のように薄く形成することにより、プレート本体38からの樹脂層39の剥離をより好適に防止できる。さらに、樹脂層39を、50μm以下、30μm以下、さらには25μm以下のように薄く形成することで、樹脂層39の厚さの均一性を向上でき、圧縮機11の運転時にスラストプレート37にかかる面圧を均一化できる。そして、樹脂層39を薄く形成する場合は、プレート本体38における一方の主面38aと端面38bとの間の角部の少なくとも一部に樹脂層39が設けられていない部位(プレート本体38を構成する金属が露出した部位)が形成され易くなる。これは樹脂層39を形成するために用いる塗料の表面張力に起因し得る。樹脂層39が設けられていない部位は、プレート本体38における一方の主面38aと端面38bとの間の角部に沿うように(稜線に沿うように)、連続的に(帯状に)形成され得る(例えば、後述する
図5及び
図6参照)。当該露出部位にリン酸塩皮膜40を設けることによって、スラストプレートの耐久性及び耐食性を向上することができる。樹脂層39の厚さの下限は格別限定されず、例えば、5μm以上、10μm以上又は15μm以上であり得る。樹脂層39の厚さは、例えば、5μm以上50μm以下、10μm以上30μm以下、さらには15μm以上25μm以下であることが好ましい。
【0041】
上述したように、スラストプレート37は、プレート本体38における一方の主面38aと端面38bとの間の角部の少なくとも一部に樹脂層39が設けられていない部位を有し、当該部位にリン酸塩皮膜40が設けられている。特に、プレート本体38における一方の主面38aと、プレート本体38の内周面に相当する端面38bとの間の角部の少なくとも一部に樹脂層39が設けられていない部位を有し、当該部位にリン酸塩皮膜40が設けられていることが好ましい。
【0042】
リン酸塩皮膜40は、リン酸マンガン皮膜、リン酸亜鉛皮膜又はリン酸カルシウム皮膜であることが好ましい。これにより、スラストプレート37の耐久性及び耐食性がより良好に発揮される。
【0043】
図示しないが、リン酸塩皮膜40は、プレート本体38における他方の主面(一方の主面38aを表面とした場合の裏面に相当)にも設けられていることが好ましい。これにより、スラストプレート37における他方の主面(可動スクロール25とは反対側の面)の耐摺動性が向上する効果が得られる。スラストプレート37自体は、当該スラストプレート37をハウジングに取付けるためのピンに対してルースであり得、運転中にスラストプレート37における他方の主面と当該他方の主面と接するハウジング(フロントハウジング12)との間にも摺動が発生し得る。そのため、他方の主面の耐摺動性が向上することで、スラストプレート37の耐久性をさらに向上できる。
【0044】
本実施形態では、プレート本体38に樹脂層39を設けると共に、樹脂層39が設けられていない部位(金属露出部位)にリン酸塩皮膜40を形成することで、圧縮機11における金属同士の摺動を回避でき、これも耐久性の向上に寄与する。また、リン酸塩皮膜40には防錆効果があるため、錆防止の効果も発揮される。
【0045】
(スラストプレートの製造方法)
図4は、本発明の一実施形態に係るスラストプレートの製造方法を説明する図である。
図4では、
図3と同様の断面を示している。
【0046】
本実施形態に係るスラストプレートの製造方法は、まず、
図4(a)に示すように、金属により構成されたプレート本体38における一方の主面38a及び端面38bのそれぞれに直接、塗布法により樹脂層39を形成する。次いで、
図4(b)に示すように、プレート本体38における一方の主面38aと端面38bとの間の角部の少なくとも一部における樹脂層39が設けられていない部位、及び、プレート本体38における他方の主面(図示省略)にリン酸塩化成処理を施す(リン酸塩皮膜40を形成する)。
【0047】
即ち、本実施形態に係るスラストプレートの製造方法では、金属表面処理であるリン酸塩化成処理を、あえて、金属により構成されたプレート本体38に樹脂層39を形成した後で施す。これにより、樹脂層39を必要な部位に形成でき、後段のリン酸塩化成処理により、樹脂層39が形成されていない部位(プレート本体における金属表面の露出部位)に選択的にリン酸塩化成処理を施すことができる。樹脂層39の表面にはリン酸塩皮膜40が形成されないため、樹脂層39の本来の表面(円滑な摺動面)を維持することができる。その結果、プレート本体38の角部が樹脂層39から露出していても、当該角部にリン酸塩皮膜40を備えるため、当該角部を起端とする樹脂層39の剥離をリン酸塩皮膜40によって抑制できる。これにより、スラストプレート37の面内に高いせん断力が加わっても、樹脂層39の剥離を抑制し、耐久性が向上する。また、金属により構成されたプレート本体38の角部がリン酸塩皮膜40で被覆されることで、耐食性も向上する。即ち、樹脂層39とリン酸塩皮膜40とが協働的に作用して、耐久性及び耐食性を向上することができる。さらに、プレート本体38の角部が樹脂層39から露出することが許容されるため、樹脂層39を薄く形成することが可能になり、その結果、樹脂層39による断熱作用を低減することも可能になる。樹脂層39による断熱作用が低減することで、摺動発熱の放熱性が向上する。また、樹脂層39を薄く形成することが可能になることで、樹脂層39の厚さの均一性を向上でき、圧縮機11の運転時にスラストプレート37にかかる面圧を均一化できる。またさらに、樹脂層39が形成されたプレート本体38の全体をリン酸塩化成処理液に浸漬することで、プレート本体38の角部(金属露出部)と他方の主面とに同時にリン酸塩化成処理を施すことも可能であるため、生産性を向上することもできる。本実施形態に係るスラストプレートの製造方法によれば、上述した本発明の一実施形態に係るスラストプレートを効率的に製造できる。本実施形態に係るスラストプレートの製造方法については、上述した本発明の一実施形態に係るスラストプレートについてした説明が適宜援用される。
【0048】
樹脂層39を形成するための塗布法においては、塗料を用いることができる。塗料は、樹脂層39を構成するための上述した樹脂や固体潤滑剤等の成分を含むことができる。また、塗料は、N-メチル-2-ピロリジノン等の溶剤を含むことができる。例えば、塗料は、N-メチル-2-ピロリジノン等を主成分とする溶剤にポリアミドイミド等の樹脂を溶解したワニスと、固体潤滑剤又はその分散液とを混合して、調製することができる。
【0049】
塗料における固体潤滑剤の含有量は、乾燥後における樹脂層39の総量に対して10質量%以上60質量%以下となる量であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下となる量であることがより好ましい。これにより、レベリングが良好になり、樹脂層39の平滑性が向上し、耐摩耗性が向上する。特に上記含有量が10質量%以上であることにより、塗料に、樹脂層39を所望の膜厚で形成可能な粘度を付与することができる。また、特に上記含有量が60質量%以下であることにより、粘度が過剰に高くなることが防止され、塗料の塗布適性(特にスプレー塗装への適性)を向上できる。
【0050】
塗布法に用いる塗布手段は格別限定されず、例えば、スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ローノレコーティング等の公知の方法を好適に用いることができる。塗り斑の発生を抑え、均一な膜厚に制御が可能なことや、溶剤の除去効率を向上させる観点からは、スプレーコーティングが特に好ましい。
【0051】
プレート本体38における一方の主面38a及び端面38bのそれぞれに塗料を塗布した後、形成された塗膜(溶剤を含む)を加熱することが好ましい。これにより、溶剤を除去して乾燥することができ、また塗膜を硬化(加熱硬化)することができる。加熱温度は170℃以上250℃以下であることが好ましく、加熱時間は30~120分間であることが好ましい。加熱温度が170℃以上であることにより硬化反応を十分に進行することができ、機械的強度と耐摩耗性が良好に発揮される。加熱温度が250℃以下であれば、エネルギーコストを抑えることができる。加熱時間が30分間以上であることにより硬化反応を十分に進行することができ、機械的強度と耐摩耗性が良好に発揮される。加熱時間が120分間以下であることにより、エネルギーコストを抑えることができる(通常、120分間より長く加熱しても硬化反応はそれ以上に進行しない。)。
【0052】
樹脂層39を形成するための塗布法においては、プレート本体38における一方の主面38aと端面38bとの間の角部の少なくとも一部に、樹脂層39が形成されない部位(金属表面が露出した部位)が形成される。一方、プレート本体38における他方の主面には、塗料を塗布せず、樹脂層39を形成しない。
【0053】
リン酸塩化成処理は、公知の方法を特に制限なく用いることができ、例えば、樹脂層39が形成されたプレート本体38の全体を、リン酸塩化成処理液(例えばリン酸塩水溶液)に浸漬することによって行うことができる。これにより、プレート本体38における一方の主面38aと端面38bとの間の角部の少なくとも一部における樹脂層39が設けられていない部位、及び、プレート本体38における他方の主面(他方の主面は、金属表面が露出した状態である。)のそれぞれに対して、同時に、かつ選択的に(即ち樹脂層39が形成されている部位を除くように)、リン酸塩化成処理を施すことができる。そのため、製造効率を向上することができる。
【0054】
リン酸塩水溶液の温度は格別限定されず、例えば50℃以上90℃以下であり得る。リン酸塩化成処理に用いるリン酸塩は、リン酸マンガン、リン酸亜鉛又はリン酸カルシウムであることが好ましい。これにより、得られるスラストプレート37の耐久性及び耐食性がより良好に発揮される。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0056】
実施例1
金属(炭素鋼(S65C))により構成されたプレート本体(引張強度:720MPa以上、ビッカース硬さ:235Hv以上、板厚:0.5mm)を、炭化水素系洗浄剤を用いて3分間、超音波洗浄して、十分に脱脂した。
【0057】
一方で、ポリアミドイミド(100質量部)、ポリテトラフルオロエチレン(50質量部)、グラファイト(10質量部)及びアルミナ(1質量部)を、固体潤滑剤(ポリテトラフルオロエチレン、グラファイト及びアルミナの総量)の割合が30質量%になるようにN-メチル-2-ピロリドンで希釈し、十分に撹拌して、塗料を調製した。
【0058】
プレート本体を50℃で20分間以上予熱した後、プレート本体における一方の主面及び端面のそれぞれに、スプレー塗装により上記塗料を塗布し、230℃で30分間加熱して、樹脂層を形成した。塗料の塗布量は、加熱硬化後の樹脂層の膜厚が約20μmになるように制御した。プレート本体における一方の主面と端面との間の角部には、樹脂層が設けられていない部位が形成された。
【0059】
尚、プレート本体における一方の主面と端面との間の角部に、樹脂層が設けられていない部位が形成されたことは、マイクロスコープ像、二次電子像、反射電子像、元素分析等により確認することができる。
図5及び
図6は、実施例1における、樹脂層形成後、かつリン酸塩化成処理前のプレート本体の様子を示す画像であり、(a)はマイクロスコープ像、(b)は二次電子像、(c)は反射電子像、(d)は元素分析によるC(炭素原子)分析像、(e)は元素分析によるFe(鉄原子)分析像である。また、各画像において、αはプレート本体の主面、βは角部、γは端面である。例えば、元素分析の場合、樹脂層が設けられた部位(主面α及び端面γ)においては、プレート本体を構成するFe(鉄原子)が検出されず、樹脂層を構成するC(炭素原子)が検出される。一方、樹脂層が設けられていない部位(角部β)においては、プレート本体を構成するFe(鉄原子)が多く検出されるが、樹脂層を構成するC(炭素原子)は検出されない(即ち、金属表面が露出している。)。
図5及び
図6より、プレート本体における一方の主面αと端面γとの間の角部βに沿うように(稜線に沿うように)、樹脂層が設けられていない部位(金属表面が露出した部位)が連続的に(帯状に)形成されていることがわかる。
【0060】
次いで、樹脂層が形成されたプレート本体に、脱脂洗浄及び表面活性化処理を施した。脱脂洗浄は、炭化水素系洗浄剤を用いて3分間、超音波洗浄することにより行った。また、表面活性化処理は酸洗浄により行った。
【0061】
次いで、樹脂層が形成されたプレート本体の全体を、85℃のリン酸マンガン水溶液に浸漬して、プレート本体における樹脂層が形成されていない表面(一方の主面と端面との間の角部の少なくとも一部における樹脂層が設けられていない部位、及び、プレート本体における他方の主面)に同時にリン酸塩化成処理を施して、膜厚約10μmのリン酸塩皮膜(リン酸マンガン皮膜)を形成した。以上のようにして、スラストプレートを得た。
【0062】
比較例1
リン酸塩化成処理を省略したこと以外は実施例1と同様にして、スラストプレートを得た。このスラストプレートは、実施例1と同様にプレート本体における一方の主面と端面との間の角部に樹脂層が設けられていない部位が形成されているが、実施例1とは異なり、リン酸塩化成処理を省略したことにより、当該部位にリン酸塩皮膜は形成されておらず、金属表面が露出した状態である(
図5及び
図6に示したままの状態ということもできる。)。
【0063】
比較例2
実施例1と同様のプレート本体を、実施例1と同様の処理により十分に脱脂した。次いで、プレート本体の全体を実施例1と同様のリン酸マンガン水溶液に浸漬して、プレート本体の表面全体にリン酸塩化成処理を施して、膜厚約10μmのリン酸塩皮膜(リン酸マンガン皮膜)を形成した。一方で、実施例1と同様の塗料を調製した。リン酸塩皮膜が形成されたプレート本体を50℃で、20分間以上予熱した後、プレート本体における一方の主面及び端面のそれぞれに、スプレー塗装により上記塗料を塗布し、230℃で30分間加熱して、樹脂層を形成した。ここでは、加熱硬化後の樹脂層の膜厚が約20μmになるように制御した。プレート本体における一方の主面と端面との間の角部には、樹脂層が設けられていない部位が形成された。以上のようにして、スラストプレートを得た。
【0064】
評価方法
(1)耐久試験
実施例及び比較例で得られたスラストプレートの各々をスクロール圧縮機に装着し、以下の試験条件で耐久試験を行った。
【0065】
[試験条件]
荷重:2900[N]
回転速度:0.52[m/sec]
クラッチ on/off:25[sec]/5[sec]
継続時間:480[hr]
スラストプレート周囲温度:110[℃]
【0066】
試験後のスラストプレートの外観を目視にて観察した結果、実施例1では、目立った劣化は観察されず、耐久性が良好であることが分かった。金属により構成されたプレート本体が、樹脂層及びリン酸マンガン皮膜によって安定に被覆されているため、耐食性(防錆性)にも優れると考えられる。
【0067】
比較例1では、プレート本体における一方の主面と端面との間の角部(金属表面)が樹脂層から露出していることに起因して、圧縮機の可動スクロール背面の異常摩耗が確認された。このことから、耐久性に劣ることが分った。
【0068】
比較例2では、スラストプレートの表面(一方の主面側の表面)が3箇所にわたって部分的に剥離していることが観察され、耐久性に劣ることが分った(
図7:剥離部を白線で囲むと共に、矢印で指し示す。)。剥離部を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、リン酸マンガンの結晶粒が確認された。また、剥離部をエネルギー分散型X線分析(EDX)で成分分析した結果、P(リン原子)、Mn(マンガン原子)及びFe(鉄原子)が検出された。このことから、スラストプレート本体近傍のリン酸マンガン皮膜内で破断が生じ、リン酸マンガン皮膜の一部と共に、該リン酸マンガン皮膜上の樹脂層が剥離したことが分かった。