IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

特開2024-165714ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法
<>
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図1
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図2
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図3
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図4
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図5
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図6
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図7
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図8
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図9
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図10
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図11
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図12
  • 特開-ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165714
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/52 20060101AFI20241121BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F16C33/52
F16C43/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082125
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦西 丈晴
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117HA02
3J701AA13
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA38
3J701BA45
3J701FA15
3J701FA46
(57)【要約】
【課題】ピンタイプ保持器において、ピンと第一リングとの結合強さを、従来のねじ止めによる結合と比較して高める。
【解決手段】ピンタイプ保持器10は、軸方向第一側の第一リング11と、軸方向第二側の第二リング12と、前記第一リング11と前記第二リング12とを軸方向に間隔をあけて連結する複数のピン13と、を有する。前記第一リング11は、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第一穴16を有する。前記第一穴16は、嵌合穴部21と、前記嵌合穴部21の軸方向第一側の隣に位置し前記嵌合穴部21よりも穴径の大きい大径穴部22と、を有する。前記ピン13は、前記嵌合穴部21に密着して取り付けられている第一軸端部31と、前記第一軸端部31よりも大径であり前記大径穴部22に入る大径端部32と、を有する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向第一側の第一リングと、
軸方向第二側の第二リングと、
前記第一リングと前記第二リングとを軸方向に間隔をあけて連結する複数のピンと、
を有し、
前記第一リングは、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第一穴を有し、
前記第一穴は、嵌合穴部と、前記嵌合穴部の軸方向第一側の隣に位置し前記嵌合穴部よりも穴径の大きい大径穴部と、を有し、
前記ピンは、前記嵌合穴部に密着して取り付けられている第一軸端部と、前記第一軸端部よりも大径であり前記大径穴部に入る大径端部と、を有する、
ピンタイプ保持器。
【請求項2】
前記第一リングは、前記大径端部に軸方向第一側から接触する止め部を有する、
請求項1に記載のピンタイプ保持器。
【請求項3】
前記ピンは、ころ軸受が有するころを貫通する軸中央部を有し、
前記軸中央部の外径は、前記第一軸端部の外径よりも小さい、
請求項1又は請求項2に記載のピンタイプ保持器。
【請求項4】
前記ピンは、前記軸中央部と前記第一軸端部との間に、外径が徐々に変化する外周面を有する接続軸部を有する、
請求項3に記載のピンタイプ保持器。
【請求項5】
前記第二リングは、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第二穴を有し、
前記ピンは、
軸方向第二側の端部に、前記第二穴に入る第二軸端部と、前記第二軸端部と前記第二穴との間に嵌合するブッシュと、前記ブッシュの軸方向第二側の隣に位置し前記第二リングと固定される溶接部と、を有する、
請求項1又は請求項2に記載のピンタイプ保持器。
【請求項6】
請求項5に記載のピンタイプ保持器を組み立てる方法であって、
前記ピンを、前記第一リングの前記第一穴に対して軸方向第一側から接近させ、前記第一穴が有する前記嵌合穴部に、前記ピンの前記第一軸端部を圧入する第一圧入工程と、
前記ピンに、ころ軸受のころを装着してから、前記ピンの前記第二軸端部と前記第二リングの前記第二穴との間に、前記ブッシュを圧入する第二圧入工程と、
軸方向第二側から、前記第二リングと前記第二軸端部とを溶接により固定する溶接工程と、
を有する、ピンタイプ保持器の組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンタイプ保持器、及び、その組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ピンタイプ保持器を開示する。ピンタイプ保持器は、軸方向第一側の第一リングと、軸方向第二側の第二リングと、複数のピンとを有する。複数のピンは、第一リングと第二リングとを軸方向に間隔をあけて連結する。ピンタイプ保持器は、比較的大型であり、大荷重又は衝撃荷重が作用する環境で使用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭53-40578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図13は、従来のピンタイプ保持器の一部を示す説明図である。このピンタイプ保持器は、第一リング91と、第二リング92と、複数のピン93とを有する。ピン93の軸方向第一側の端部94は、第一リング91に、ねじにより固定される。ピン93の軸方向第二側の端部95は、第二リング92に設けられている穴96に入った状態で、溶接により固定される。
【0005】
ピンタイプ保持器が採用される転がり軸受が回転すると、図13において二点鎖線で示すころ(転動体)99に、進み遅れが生じ、ころ99はピン93に衝突する。このような衝突が継続すると、第一リング91とピン93とのねじ結合の部分97に緩みが生じる。第一リング91は、全てのピン93とねじ結合されており、第一リング91と、全てのピン93の端部94(ねじ結合の部分97)との間で、緩みが生じる可能性がある。
【0006】
この場合、ピン93それぞれは、第二リング92との溶接による結合部分98を固定端とする、片持ち梁状態となる。第二リング92の穴96とピン93との間であって溶接による結合部分98以外に、隙間eが存在する。このため、ころ99の進み遅れにより、溶接による結合部分98に繰り返し応力が生じ、やがてその結合部分98又はその近傍が、損傷したり、ピン93及び結合部分98(ピン93の付け根部分)に大きな荷重が作用し、その付け根部分が損傷するおそれがある。つまり、ピン93との結合の弱点は、第二リング92側に集中する。
【0007】
このように、従来のピンタイプ保持器の場合、継続して使用していると一部において損傷が生じる可能性がある。
そこで、本発明は、ピンと第一リングとの結合強さを、従来のねじ止めによる結合と比較して高めることが可能となるピンタイプ保持器、及び、そのピンタイプ保持器の組み立て方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のピンタイプ保持器は、軸方向第一側の第一リングと、軸方向第二側の第二リングと、前記第一リングと前記第二リングとを軸方向に間隔をあけて連結する複数のピンと、を有し、前記第一リングは、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第一穴を有し、前記第一穴は、嵌合穴部と、前記嵌合穴部の軸方向第一側の隣に位置し前記嵌合穴部よりも穴径の大きい大径穴部と、を有し、前記ピンは、前記嵌合穴部に密着して取り付けられている第一軸端部と、前記第一軸端部よりも大径であり前記大径穴部に入る大径端部と、を有する。
【0009】
前記構成を有するピンタイプ保持器によれば、第一リングに対してピンを軸方向第一側から挿入し、ピンの第一軸端部を第一リングの第一穴に圧入することで、ピンと第一リングとは結合される。ピンの第一軸端部は第一リングの嵌合穴部に密着して取り付けられることから、ピンと第一リングとの結合強さは、従来のねじ止めによる結合と比較して高くなる。大径端部により、ピンと第一リングとは軸方向について位置決めされる。
【0010】
(2)好ましくは、前記第一リングは、前記大径端部に軸方向第一側から接触する止め部を有する。
前記構成によれば、大径端部は、第一リングの嵌合穴部を有する部分と、止め部とによって挟まれた状態となる。このため、ピンと第一リングとの間に軸方向の荷重が作用しても、これらピンと第一リングとは、軸方向について相対的に変位不能となる。
【0011】
(3)好ましくは、前記(1)又は(2)のピンタイプ保持器において、前記ピンは、ころ軸受が有するころを貫通する軸中央部を有し、前記軸中央部の外径は、前記第一軸端部の外径よりも小さい。
前記構成によれば、ピンタイプ保持器の組み立ての際、ピンの軸中央部が、第一リングの第一穴を通過してから、ピンの第一軸端部を、第一穴の嵌合穴部に圧入すればよく、組み立てが容易となる。
【0012】
(4)好ましくは、前記(3)のピンタイプ保持器において、前記ピンは、前記軸中央部と前記第一軸端部との間に、外径が徐々に変化する外周面を有する接続軸部を有する。
前記構成によれば、軸中央部と第一軸端部との間で、ピンの横断面が急変せず、応力集中の発生を抑えることが可能となる。
【0013】
(5)好ましくは、前記(1)から(4)のいずれか一つのピンタイプ保持器において、前記第二リングは、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第二穴を有し、前記ピンは、軸方向第二側の端部に、前記第二穴に入る第二軸端部と、前記第二軸端部と前記第二穴との間に嵌合するブッシュと、前記ブッシュの軸方向第二側の隣に位置し前記第二リングと固定される溶接部と、を有する。
前記構成によれば、ピンの第二軸端部は、第二リングに溶接によって固定される。ピンは、第二リング側においてブッシュにより支持され、溶接部に負荷が作用し難く、耐久性が向上する。
【0014】
(6)前記(5)のピンタイプ保持器を組み立てる方法は、前記ピンを、前記第一リングの前記第一穴に対して軸方向第一側から接近させ、前記第一穴が有する前記嵌合穴部に、前記ピンの前記第一軸端部を圧入する第一圧入工程と、前記ピンに、ころ軸受のころを装着してから、前記ピンの前記第二軸端部と前記第二リングの前記第二穴との間に、前記ブッシュを圧入する第二圧入工程と、軸方向第二側から、前記第二リングと前記第二軸端部とを溶接により固定する溶接工程と、を有する。
【0015】
前記組み立て方法によれば、ピンは、第一リングに圧入によって固定され、第二リングにブッシュと溶接とにより固定されるピンタイプ保持器が得られる。ピンの第一軸端部を第一リングの第一穴に圧入することで、ピンと第一リングとは結合され、その結合強さは、従来のねじ止めによる結合と比較して高くなる。大径端部により、ピンと第一リングとは軸方向について位置決めされる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ピンと第一リングとの結合強さを、従来のねじ止めによる結合と比較して高めることが可能となる。ピンタイプ保持器の耐久性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明のピンタイプ保持器を有するころ軸受の一例を示す断面図である。
図2図2は、ピンタイプ保持器の一部を示す斜視図である。
図3図3は、図2に示すピンタイプ保持器の一部を示す説明図である。
図4図4は、ピンの軸方向第一側の部分を拡大して示す説明図であり、凸部を塑性変形させる前の状態を示す。
図5図5は、ピンの軸方向第一側の部分を拡大して示す説明図であり、凸部を塑性変形させた後の状態を示す。
図6図6は、接続軸部及びその周囲を示す拡大図である。
図7図7は、ピンの軸方向第二側の部分を拡大して示す説明図である。
図8図8は、ピンタイプ保持器の組み立て方法(第一圧入工程)の説明図である。
図9図9は、ピンタイプ保持器の組み立て方法(ころ装着工程)の説明図である。
図10図10は、ピンタイプ保持器の組み立て方法(組み合わせ工程)の説明図である。
図11図11は、ピンタイプ保持器の組み立て方法(第二圧入工程)の説明図である。
図12図12は、ピンタイプ保持器の組み立て方法(溶接工程)の説明図である。
図13図13は、従来のピンタイプ保持器の一部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔ころ軸受及びピンタイプ保持器について〕
図1は、本発明のピンタイプ保持器を有するころ軸受の一例を示す断面図である。図1に示すころ軸受5は、内輪6、外輪7、複数のころ8、及び、ピンタイプ保持器10を有する。ころ8は円筒ころであり、図1に示すころ軸受5は、円筒ころ軸受である。図1は、ころ軸受5の中心軸と、ピンタイプ保持器10の中心軸Cとが一致した状態を示す。
なお、本発明のピンタイプ保持器は、内輪6と外輪7との間に設けられる複数のころ8を保持する保持器ではなく、図示しないが、軸とハウジングとの間に設けられる複数のころ8を保持する保持器であってもよい。
【0019】
ピンタイプ保持器10の各方向を定義する。ピンタイプ保持器10の中心軸Cに沿った方向、及び、中心軸Cに平行な方向は「軸方向」と定義される。中心軸Cに直交する方向は「径方向」と定義される。中心軸Cを中心とする円に沿った方向は「周方向」と定義される。各図において、左側は「軸方向第一側」と定義され、右側は「軸方向第二側」と定義される。
【0020】
図2は、ピンタイプ保持器10の一部を示す斜視図である。図3は、図2に示すピンタイプ保持器10の一部を示す説明図である。ピンタイプ保持器10は、軸方向第一側(左側)の第一リング11と、軸方向第二側(右側)の第二リング12と、複数のピン13とを有する。複数のピン13は、第一リング11と第二リング12とを軸方向に間隔をあけて連結する。図3は、第一リング11、第二リング12、及び、その他の一部を、断面として示す。
【0021】
図3において、ピンタイプ保持器10によって保持されるころ8は、二点鎖線で示される。複数のピン13は、周方向に沿って等間隔で配置される。ころ8は、ころ8の中心軸に沿って貫通する穴9を有する。ピン13は、穴9を貫通する。これにより、ころ8は、ピンタイプ保持器10によって保持され、ころ8の中心軸回りに回転自在となる。
【0022】
〔第一リング11及び第二リング12〕
第一リング11及び第二リング12は、環状の部材である。第一リング11及び第二リング12は、金属製(例えば、炭素鋼)である。少なくとも第二リング12は、溶接が可能となる材質である。
【0023】
第一リング11は、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第一穴16を有する。第一穴16の数は、ピン13と同数である。第一穴16は、嵌合穴部21と、嵌合穴部21の軸方向第一側(図3において左側)の隣に位置する大径穴部22とを有する。大径穴部22は、嵌合穴部21よりも穴径が大きい。第一リング11は、嵌合穴部21と大径穴部22との間に、環状の接触面25を有する。接触面25は、軸方向第一側に向く面であり、後述するピン13の大径端部32が接触する。
【0024】
嵌合穴部21及び大径穴部22それぞれは、軸方向に沿って直線状の穴である。第一穴16は、第一リング11を軸方向に貫通する段付き穴である。なお、ピンタイプ保持器10の組み立ての際に、第一リング11の一部(後述する凸部27)を塑性変形させるため、大径穴部22の軸方向第一側は変形している。
【0025】
第一リング11は、後述するピン13の大径端部32に軸方向第一側から接触する止め部23を有する。止め部23は、大径穴部22の周囲に設けられている。止め部23は、ピンタイプ保持器10の組み立ての際に、第一リング11の一部(凸部27)を塑性変形させることによって得られる部分である。
【0026】
図4は、ピン13の軸方向第一側の部分を拡大して示す説明図であり、凸部27を塑性変形させる前の状態を示す。第一リング11は、大径穴部22の周囲に凹部26を有する。本実施形態の凹部26は、大径穴部22を全周において囲む凹溝により構成される。第一リング11は、凹部26と大径穴部22との間に設けられる凸部27を有する。
【0027】
図4に示すように、ピン13の第一軸端部31及び大径端部32が、第一穴16に嵌った状態で、凸部27を大径端部32側に塑性変形させる。図5は、ピン13の軸方向第一側の部分を拡大して示す説明図であり、凸部27を塑性変形させた後の状態を示す。凸部27は、大径端部32に軸方向第一側から接触した状態となり、この凸部27が止め部23となる。
【0028】
本実施形態の場合、凸部27は、第一穴16の周りの全周に形成され環状であるが、塑性変形させて止め部23となる部分は、凸部27の全部でなくてよい。つまり、環状である凸部27の一部(複数箇所、例えば等間隔の4箇所)を塑性変形させて、その一部が止め部23となればよい。
【0029】
後に説明するピン13の大径端部32は、軸方向第一側に、中央の円形平面32aと、円形平面32aの周囲の環状斜面32bとを有する。環状斜面32bは、ピン13の半径方向外側に向かうにしたがって、軸方向第二側(図5において、右側)に進む傾斜面を有する。止め部23は、環状斜面32bに、軸方向第一側(図5において、左側)からの成分を有して接触する。
【0030】
第二リング12は、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第二穴17を有する(図3参照)。第二穴17の数は、ピン13と同数である。第二穴17は、直線穴部45と、傾斜穴部46とを有する。直線穴部45は、軸方向に沿って直線状の穴であり、後述するブッシュ36が嵌まる。傾斜穴部46は、直線穴部45の軸方向第二側の隣に位置し、軸方向第二側に向かって拡径する穴である。
【0031】
〔ピン13〕
ピン13は、断面が円形である直線部材である。ピン13は、金属製(例えば、浸炭鋼)であり、溶接が可能である。図3及び図5に示すように、ピン13は、軸方向第一側の端部13aに、第一軸端部31と、大径端部32とを有する。
【0032】
第一軸端部31は、嵌合穴部21に密着して取り付けられている。第一軸端部31は嵌合穴部21に圧入して取り付けられる。第一軸端部31は、嵌合穴部21に対して締め代を有する。第一軸端部31の軸方向長さL1は、嵌合穴部21の軸方向長さL2と同一である(L1=L2)、又は、第一軸端部31の軸方向長さL1は、嵌合穴部21の軸方向長さL2よりも僅かに大きい(L1>L2)。これにより、第一軸端部31は、嵌合穴部21の軸方向の全長にわたって嵌合穴部21に密着して取り付けられた状態となる。
【0033】
大径端部32は、第一軸端部31よりも大径である。大径端部32は、大径穴部22に入る。大径端部32の外径D3は、大径穴部22の内径d3よりも小さい(D3<d3)。この関係(D3<d3)により、大径端部32は、第一軸端部31の嵌合穴部21への圧入に、影響を与えない。大径端部32の軸方向寸法L4は、大径穴部22の軸方向寸法(穴の深さ)L3以下である(L4≦L3)。これにより、大径端部32は、第一リング11の軸方向第一側の側面11aから出ない。
なお、大径端部32の軸方向寸法L4は、大径穴部22の軸方向寸法L3よりも大きくてもよい。
【0034】
図3に示すように、ピン13は、ころ8を貫通する軸中央部33を有する。軸中央部33は、断面円形であり、軸方向に沿って直線状である。軸中央部33の外径D2は(図5参照)、第一軸端部31の外径D1よりも小さい(D2<D1)。
ピン13は、軸中央部33と第一軸端部31との間に、外径が徐々に変化する外周面34aを有する接続軸部34を有する。
【0035】
図6は、接続軸部34及びその周囲を示す拡大図である。接続軸部34は、軸方向に短い。接続軸部34の外周面34aは、第一軸端部31から軸中央部33に向かって徐々に外径が小さくなる斜面である。図6に示す形態の場合、外周面34aの形状は、ピン13の中心に向かって凹となるアール形状である。図示しないが、外周面34aの形状は、アール形状ではなく、第一軸端部31から軸中央部33に向かって直線的に外径が小さくなる斜面であってもよい。
【0036】
ピンタイプ保持器10が回転すると、ころ8は、ピン13と衝突を繰り返し、ピン13は大きな荷重を受け、各部に大きな負荷が作用する場合がある。接続軸部34の前記構成によれば、軸中央部33と第一軸端部31との間で、ピン13の横断面が急変せず、応力集中の発生を抑えることが可能となる。
【0037】
図7は、ピン13の軸方向第二側の部分を拡大して示す説明図である。ピン13は、軸方向第二側の端部13bに、第二軸端部35と、ブッシュ36と、溶接部37とを有する。
第二軸端部35は、第二リング12の第二穴17に入る。第二軸端部35は、ブッシュ36が嵌まる直線端部39と、直線端部39の軸方向第二側の隣に位置する傾斜端部40とを有する。傾斜端部40は、軸方向第二側の先端に向かって細くなる。
【0038】
ブッシュ36は、円筒形状を有する。ブッシュ36は、第二軸端部35の直線端部39と第二穴17の直線穴部45との間に嵌合する。ブッシュ36は、圧入によって取り付けられる。このため、ブッシュ36は、第二穴17及び第二軸端部35に対して締め代を有した状態となる。第二穴17(直線穴部45)とブッシュ36との間に隙間は存在せず、第二軸端部35(直線端部39)とブッシュ36との間に隙間は存在しない。
【0039】
溶接部37は、ブッシュ36の軸方向第二側の隣に位置する。溶接部37は、第二リング12と固定され、ピン13の軸方向第二側の端部13bと、第二リング12とを溶接する部分である。溶接部37の溶着金属37aは、傾斜端部40と傾斜穴部46との間に存在する。
【0040】
〔ピンタイプ保持器10の組み立て方法〕
前記構成を有するピンタイプ保持器10の組み立て方法について説明する。図8から図12は、その組み立て方法の説明図である。本実施形態の組み立ては、ピンタイプ保持器10の中心軸C(図1参照)が鉛直上下方向に向くようにして行われる。
【0041】
図8に示すように、ピン13を、第一リング11の第一穴16に対して軸方向第一側(図8において上側)から接近させ、第一穴16が有する嵌合穴部21に、ピン13の第一軸端部31を圧入する(第一圧入工程)。他のピン13についても、同様に、1本ずつ各第一穴16に圧入する。これにより、第一リング11と、複数のピン13とが一体となった一次中間品が得られる。
【0042】
前記のとおり、ピン13が有する軸中央部33の外径D2は、第一軸端部31の外径D1よりも小さい(D2<D1)。このため、ピン13の第一穴16への挿入の際、軸中央部33と第一穴16との間は隙間が生じ、軸中央部33は、第一穴16との関係で圧入とならない。軸中央部33が、第一穴16を通過してから、ピン13の第一軸端部31を、第一穴16の嵌合穴部21に圧入すればよく、組み立てが容易となる。
【0043】
前記一次中間品は、上下反転される。図9に示すように、ピン13に、ころ8を装着する(ころ装着工程)。
ころ8が装着された前記一次中間品に対して、第二リング12を上側から接近させ、ピン13の軸方向第二側の端部13bが、第二リング12の第二穴17の内側に位置する状態を得る(組み合わせ工程、図10参照)。第一リング11と第二リング12とは、軸方向に間隔をあけた状態で、図示しない治具によって連結される。
【0044】
ピン13の軸方向第二側の端部13bは、第二穴17の内側に位置するが、ピン13と第二リング12とは直接的に連結されていない。
図11に示すように、ピン13の第二軸端部35と第二リング12の第二穴17との間に、ブッシュ36を圧入する(第二圧入工程)。ブッシュ36は、第二軸端部35の直線端部39と第二穴17の直線穴部45との間に圧入される。
【0045】
図12に示すように、軸方向第二側(図12において上側)から、第二リング12と第二軸端部35とを溶接により固定する(溶接工程)。これにより、ピン13は、第二リング12との間に溶接部37を有する。
【0046】
前記第一圧入工程(図8)を終えてから前記溶接工程(図12)の後までの間において、第一リング11の一部を塑性変形させる工程が行われる。ピン13の第一軸端部31及び大径端部32が、第一穴16に嵌った状態で、第一リング11が有する凸部27を大径端部32側に塑性変形させる。
ここでは、第一圧入工程(図8参照)の次に、この塑性変形を伴う工程が行われる。図8では、凸部27を塑性変形させる前の状態を実線で示し、塑性変形させた後の凸部27を破線で示す。凸部27は、塑性変形することで、大径端部32に軸方向第一側(上側)から接触した状態となり、この凸部27が止め部23となる。凸部27の塑性変形は、全てのピン13に対して、例えばプレス機等を用いて、同時に行うことが可能である。
【0047】
前記のような塑性変形を伴う工程によれば、大径端部32は、第一リング11の嵌合穴部21を有する部分24と、止め部23とによって挟まれた状態となる。このため、ピンタイプ保持器10の完成後においても、ピン13と第一リング11との間に軸方向の荷重が作用しても、これらピン13と第一リング11とは、軸方向について相対的に変位不能となる。
【0048】
以上より、ピンタイプ保持器10が完成する。
なお、第一圧入工程(図8)において、すべてのピン13が第一リング11に圧入されなくてもよい。この場合、第一リング11に圧入したピン13に対して、前記ころ装着工程、前記第二圧入工程、及び前記溶接工程を行う。その後、前記治具を外し、残りのピン13を、第一リング11に圧入し(第一圧入工程)、前記ころ装着工程、前記第二圧入工程、及び前記溶接工程を再び行ってもよい。この場合、一次中間品の上下を反転させる動作が、更に行われる。
【0049】
〔本実施形態のピンタイプ保持器10〕
以上のように、本実施形態のピンタイプ保持器10は、第一リング11と、第二リング12と、複数のピン13とを有する(図2参照)。複数のピン13は、第一リング11と第二リング12とを軸方向に間隔をあけて連結する。
第一リング11は(図3参照)、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第一穴16を有する。
【0050】
第一穴16は、嵌合穴部21と、嵌合穴部21の軸方向第一側の隣に位置する大径穴部22とを有する。大径穴部22は、嵌合穴部21よりも穴径の大きい。
ピン13は、嵌合穴部21に密着して取り付けられている第一軸端部31と、第一軸端部31よりも大径であり大径穴部22に入る大径端部32とを有する。
【0051】
前記構成を有するピンタイプ保持器10によれば、第一リング11に対してピン13を軸方向第一側から挿入し、ピン13の第一軸端部31を第一リング11の第一穴16に圧入することで、ピン13と第一リング11とは結合される。ピン13の第一軸端部31は第一リング11の嵌合穴部21に密着して取り付けられることから、ピン13と第一リング11との結合強さは、従来(図13参照)のねじ止めによる結合と比較して高くなる。ピンタイプ保持器10の耐久性を高めることが可能となる。
【0052】
第二リング12は、周方向に間隔をあけて設けられている複数の第二穴17を有する。
ピン13は、軸方向第二側の端部13bに、第二穴17に入る第二軸端部35と、ブッシュ36と、溶接部37とを有する。ブッシュ36は、第二軸端部35と第二穴17との間に嵌合する。溶接部37は、ブッシュ36の軸方向第二側の隣に位置していて、第二リング12と固定される。
【0053】
この構成により、ピン13の第二軸端部35は、第二リング12に溶接によって固定される。ピン13は、第二リング12側においてブッシュ36により支持され、溶接部37に負荷が作用し難く、耐久性が向上する。
【0054】
〔本実施形態のピンタイプ保持器10の組み立て方法〕
前記構成を有するピンタイプ保持器10を組み立てる方法は、第一圧入工程(図8参照)と、第二圧入工程(図11参照)と、溶接工程(図12参照)とを有する。
第一圧入工程は、ピン13を、第一リング11の第一穴16に対して軸方向第一側から接近させ、第一穴16が有する嵌合穴部21に、ピン13の第一軸端部31を圧入する工程である。
第二圧入工程は、ピン13に、ころ軸受5のころ8を装着してから、ピン13の第二軸端部35と第二リング12の第二穴17との間に、ブッシュ36を圧入する工程である。
溶接工程は、軸方向第二側から、第二リング12と第二軸端部35とを溶接により固定する工程である。
【0055】
以上より、ピン13は、第一リング11に圧入によって固定され、第二リング12にブッシュ36と溶接とにより固定されるピンタイプ保持器10が得られる。
【0056】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0057】
5 ころ軸受
8ころ
10 ピンタイプ保持器
11 第一リング
12 第二リング
13 ピン
13a 軸方向第一側の端部
13b 軸方向第二側の端部
16 第一穴
17 第二穴
21 嵌合穴部
22 大径穴部
23 止め部
31 第一軸端部
32 大径端部
33 軸中央部
34 接続軸部
34a 外周面
35 第二軸端部
36 ブッシュ
37 溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13