IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ BIRD INITIATIVE株式会社の特許一覧

特開2024-165717条件決定装置、条件決定方法及びプログラム
<>
  • 特開-条件決定装置、条件決定方法及びプログラム 図1
  • 特開-条件決定装置、条件決定方法及びプログラム 図2
  • 特開-条件決定装置、条件決定方法及びプログラム 図3
  • 特開-条件決定装置、条件決定方法及びプログラム 図4
  • 特開-条件決定装置、条件決定方法及びプログラム 図5
  • 特開-条件決定装置、条件決定方法及びプログラム 図6
  • 特開-条件決定装置、条件決定方法及びプログラム 図7
  • 特開-条件決定装置、条件決定方法及びプログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165717
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】条件決定装置、条件決定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20241121BHJP
【FI】
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082131
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】521040503
【氏名又は名称】BIRD INITIATIVE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 聡
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】森永 聡
(72)【発明者】
【氏名】山崎 啓介
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】
【課題】スケールアップ問題を効果的に解決するための条件決定技術を提供することである。
【解決手段】本開示の一態様は、第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて前記第2の系に対する試行条件を決定する試行条件決定部と、前記試行条件の下で試行された前記第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、前記第2の系に対する更なる試行条件を前記試行条件決定部に決定させる制御部と、を有する、条件決定装置に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて前記第2の系に対する試行条件を決定する試行条件決定部と、
前記試行条件の下で試行された前記第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、前記第2の系に対する更なる試行条件を前記試行条件決定部に決定させる制御部と、
を有する、条件決定装置。
【請求項2】
前記第1の系は、前記第2の系より低い試行コストと精度とによって実行可能である、請求項1に記載の条件決定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記試行結果に更に基づいて前記更なる試行条件を前記試行条件決定部に決定させる、請求項1に記載の条件決定装置。
【請求項4】
前記制御部は、複数の第1の系から前記第1のデータを前記試行条件決定部に取得させる、請求項1に記載の条件決定装置。
【請求項5】
前記第1のデータは、前記第1の系の試行条件と試行結果とを含む、請求項1に記載の条件決定装置。
【請求項6】
前記第1のデータは、前記第1の系の試行条件から試行結果を予測する予測モデルを含む、請求項1に記載の条件決定装置。
【請求項7】
第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて前記第2の系に対する試行条件を決定することと、
前記試行条件の下で試行された前記第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、前記第2の系に対する更なる試行条件を決定させること、
を有する、コンピュータが実行する条件決定方法。
【請求項8】
第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて前記第2の系に対する試行条件を決定することと、
前記試行条件の下で試行された前記第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、前記第2の系に対する更なる試行条件を決定させること、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、条件決定装置、条件決定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業分野において、機械学習技術の利用機会が拡大している。例えば、製造プラント、システムなどについて、機械学習技術を利用した実験プラント、シミュレーションの結果に基づいて、圧力、温度などのプロセス条件を設定する試みがされている。
【0003】
プロセス条件を設定するため最適化技術が利用されうる。例えば、特開2022-185927号公報は、工業製品開発又は製造プロセス開発のため、ベイズ最適化を利用した制約条件付き最適化技術を利用することについて記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-185927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、製造プラントやシステムなどが、実験プラントやシステムなど、あるいは、シミュレーション結果から導出されたプロセス条件の下で運用される場合、想定した性能を達成することができないケース、いわゆる、スケールアップ問題があることが知られている。この結果、実験プラントやシミュレーションなどを利用して生成条件が導出された場合でも、現場において試行錯誤しながら何度も試運転が繰り返されることになり、これに要する時間、マンパワー及び資材が無駄にされうる。
【0006】
本開示の1つの課題は、スケールアップ問題を効果的に解決するための条件決定技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて前記第2の系に対する試行条件を決定する試行条件決定部と、前記試行条件の下で試行された前記第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、前記第2の系に対する更なる試行条件を前記試行条件決定部に決定させる制御部と、を有する、条件決定装置に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、スケールアップ問題を効果的に解決するための条件決定技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施例による条件決定装置を示す概略図である。
図2図2は、本開示の一実施例による条件決定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3図3は、本開示の一実施例による条件決定処理を示す概略図である。
図4図4は、本開示の一実施例による条件決定装置の機能構成を示すブロック図である。
図5図5は、本開示の一実施例によるベイズ最適化を示す概略図である。
図6図6は、本開示の一実施例による条件決定処理を示すフローチャートである。
図7図7は、本開示の他の実施例による条件決定処理を示す概略図である。
図8図8は、本開示の他の実施例による条件決定処理を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態を説明する。
【0011】
以下の実施例では、実験系と本番系などの異なる2つの以上の系を利用して、製造プロセスなどの条件を決定する条件決定装置が開示される。
【0012】
図1に示されるように、条件決定装置100は、製造工場などの製造プロセスについて、当該製造プロセスの実験のための実験系20と、製造工場で実際に製造プロセス自体を実施する本番系30とを利用して、本番系30において利用される条件を決定する。例えば、化学メーカーの場合、条件決定装置100は、反応、分離などの単位操作における温度、圧力、流量、濃度などの条件を決定しうる。
【0013】
このような条件は、歩留まり率などの特定の性能を示す指標が最大となるように決定されることが望まれうる。典型的には、実験系20など、本番系30より試行コストが低い小規模な系で様々な条件が検討され、その検討結果が工場などの本番系30の大規模な系において設定されることが多い。
【0014】
例えば、工場の条件の最適化では、実験系データは実験室のデータ、シミュレーションデータなどであり、本番系データは実際の工場のデータでありうる。この場合、条件は設備の温度、圧力、流量などであってもよく、結果は売上、利益、歩留まり率、精錬度、製造時間、故障率などであってもよい。また、実験系データは製品Aの実際の工場のデータであり、本番系データは製品Bの実際の工場のデータであってもよい。この場合、条件は部品サイズ、部品位置、部品精度などであり、結果は売上、利益、歩留まり率、精錬度、製造時間、故障率などであってもよい。また、新材料の条件の最適化では、実験データはシミュレーションデータであり、本番系データは実験室のデータであってもよい。この場合、条件は原子の種類、組成比などであり、結果は熱伝導率、抵抗率、エネルギーなどであってもよい。また、薬の条件の最適化では、実験データはシミュレーションデータであり、本番系データは実験室のデータであってもよい。この場合、条件は原子の種類、組成比などであり、結果は薬の効果であってもよい。
【0015】
一方、スケールアップ問題として知られるように、実験系20において最適な条件が、本番系30において最適な結果を実現しうるとは限らない。このため、以下の実施例による条件決定装置100は、本番系30において最適な条件を可能な限り低いコストで決定するため、以降において詳細に説明されるような条件決定処理を実行する。
【0016】
ここで、条件決定装置100は、サーバ、パーソナルコンピュータ(PC)、スマートフォン、タブレット等の計算装置によって実現されてもよく、例えば、図2に示されるようなハードウェア構成を有してもよい。すなわち、条件決定装置100は、バスBを介し相互接続されるドライブ装置101、ストレージ装置102、メモリ装置103、プロセッサ104、ユーザインタフェース(UI)装置105及び通信装置106を有する。
【0017】
条件決定装置100における各種機能及び処理を実現するプログラム又は指示は、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の着脱可能な記憶媒体に格納されてもよい。当該記憶媒体がドライブ装置101にセットされると、プログラム又は指示が記憶媒体からドライブ装置101を介しストレージ装置102又はメモリ装置103にインストールされる。ただし、プログラム又は指示は、必ずしも記憶媒体からインストールされる必要はなく、ネットワークなどを介し何れかの外部装置からダウンロードされてもよい。
【0018】
ストレージ装置102は、ハードディスクドライブなどによって実現され、インストールされたプログラム又は指示と共に、プログラム又は指示の実行に用いられるファイル、データ等を格納する。
【0019】
メモリ装置103は、ランダムアクセスメモリ、スタティックメモリ等によって実現され、プログラム又は指示が起動されると、ストレージ装置102からプログラム又は指示、データ等を読み出して格納する。ストレージ装置102、メモリ装置103及び着脱可能な記憶媒体は、非一時的な記憶媒体(non-transitory storage medium)として総称されてもよい。
【0020】
プロセッサ104は、1つ以上のプロセッサコアから構成されうる1つ以上のCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、処理回路(processing circuitry)等によって実現されてもよく、メモリ装置103に格納されたプログラム、指示、当該プログラム若しくは指示を実行するのに必要なパラメータなどのデータ等に従って、条件決定装置100の各種機能及び処理を実行する。
【0021】
ユーザインタフェース(UI)装置105は、キーボード、マウス、カメラ、マイクロフォン等の入力装置、ディスプレイ、スピーカ、ヘッドセット、プリンタ等の出力装置、タッチパネル等の入出力装置から構成されてもよく、ユーザと条件決定装置100との間のインタフェースを実現する。例えば、ユーザは、ディスプレイ又はタッチパネルに表示されたGUI(Graphical User Interface)をキーボード、マウス等を操作し、条件決定装置100を操作する。
【0022】
通信装置106は、外部装置、インターネット、LAN(Local Area Network)、セルラーネットワーク等の通信ネットワークとの有線及び/又は無線通信処理を実行する各種通信回路により実現される。
【0023】
しかしながら、上述したハードウェア構成は単なる一例であり、本開示による条件決定装置100は、他の何れか適切なハードウェア構成により実現されてもよい。
【0024】
[条件決定装置]
次に、本開示の一実施例による条件決定装置100を説明する。図3は、本開示の一実施例による条件決定処理を示す概略図である。図3に示されるように、実験系20において、様々な条件(例えば、温度、圧力、流量、濃度など)が試行され、各条件の下で試行された結果(例えば、歩留まり率など)が収集され、条件と結果とのペアから構成される実験系データのデータセットDが、条件決定装置100に提供される。条件決定装置100は、初期的には、取得した実験系データセットDに基づいて、本番系30における試行用の試行条件を決定する。条件決定装置100から試行条件を取得すると、取得した試行条件の下で本番系30の作業が実行される。当該試行条件による試行結果が所定の終了条件を充足している場合、例えば、当該試行条件下で実現された歩留まり率が所定の閾値以上である場合、当該条件決定処理は終了される。他方、当該試行条件下で実現された歩留まり率が所定の閾値未満である場合、条件決定装置100は、実験系データセットDと本番系30による試行結果とに基づいて次の試行条件を決定する。条件決定装置100は、本番系30に当該試行条件下で作業を実行させ、本番系30において取得された試行条件と試行結果とを収集することによって本番系データセットDを得る。続いて条件決定装置100は、実験系データセットD、本番系データセットDに基づいて次の試行条件を決定し、本番系30に当該試行条件下で作業を実行させる。試行条件による試行結果が所定の終了条件を充足するまで、上述した処理が繰り返される。
【0025】
図4は、本開示の一実施例による条件決定装置100の機能構成を示すブロック図である。図4に示されるように、条件決定装置100は、試行条件決定部110及び制御部120を有する。試行条件決定部110及び制御部120の各機能部は、条件決定装置100のメモリ装置103に格納されているコンピュータプログラムがプロセッサ104によって実行されることによって実現されてもよい。
【0026】
試行条件決定部110は、第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて第2の系に対する試行条件を決定する。ここで、第1の系と第2の系とはそれぞれ、例えば、実験系20と本番系30とにより実現され、第1の系は、第2の系より低い試行コストと精度とによって実行可能であってもよい。具体的には、試行条件決定部110は、実験系20に関する実験系データセットDと本番系30に関する本番系データセットDとに基づいて、本番系30に対する試行条件を決定しうる。ここで、本番系データセットDは、試行条件決定部110によって決定された各試行条件と、各試行条件の下で実行された本番系30において取得された試行結果とのペアから構成されうる。なお、初期的には、試行条件決定部110は、実験系20に関する実験系データセットDのみに基づいて、本番系30に対する試行条件を決定してもよい。
【0027】
例えば、試行条件決定部110は、後述されるようなベイズ最適化を利用して、次の試行条件を決定してもよい。すなわち、試行条件決定部110は、本番系30をブラックボックス関数とみなし、ブラックボックス関数に対してサロゲートモデルを利用して試行条件を逐次的に探索してもよい。
【0028】
ベイズ最適化によると、試行条件決定部110は、1)サロゲートモデルによる本番系30の近似と、2)サロゲートモデルからの獲得関数の設計とを行う。例えば、図5に示されるように、試行条件決定部110は、本番系30を近似するサロゲートモデルを設定する。サロゲートモデルとしては、限定することなく、例えば、ガウス過程回帰が利用されうる。n個の入力x,x,・・・,xが与えられるとき、出力y=f(x)の同時確率p(y,y,・・・,y)がn次元ガウス(正規)分布に従う場合、関数f(・)は、ガウス過程に従うと呼ばれる。入力xiはスカラーであってもベクトルであってもよいが、ここでは簡単のため、スカラーとする。
【0029】
ここでは、出力が最も大きくなる入力を探す最大化の問題と仮定する。ただし、本開示によるベイズ最適化は、これに限定するものではない。例えば、符号を反転させることで最小化と考えることもできる。また、ある特定の値に近づいて欲しい場合、出力とその特定の値との差分、あるいは差分の二乗や絶対値などを考え、その差分の最小化を考えることもできる。
【0030】
サロゲートモデルとしてガウス過程回帰を利用する場合、試行条件決定部110は、実験系20と本番系30とから実験系データセットDと本番系データセットDとをそれぞれ取得し、取得した実験系データセットDと本番系データセットDとに基づいてガウス過程の予測分布
【数1】
を決定する。ここで、未知の入力xに対して、データ{x,y i=1を観測したとき
【数2】
である。太字はベクトルを表し、ベクトルy=(y,・・・,yである。Tは転置を表す。m(x)は平均を表し、σ(x)は分散を意味する。ここで、ηは正則化の大きさを表すハイパーパラメータである。Iは単位行列である。ただし、
【数3】
である。ここで、kχは正定値カーネルである。例えば、ガウスカーネルは、
【数4】
であり、hはバンド幅と呼ばれるハイパーパラメータである。また、試行条件決定部110は、前処理として、サンプルサイズnの出力のデータ集合
【数5】
に関して、平均
【数6】
を計算し、平均がゼロになるように、
【数7】
により減算してもよい。この場合、試行条件決定部110は、予測後に減算した
【数8】
を加算して元に戻すようにしてもよい。
【0031】
また、正定値カーネルについて、集合Xに対して、
【数9】
であるカーネル関数は、以下の性質を満たす。
・対称性
【数10】
・(半)正定値性:任意の
【数11】
と、任意の
【数12】
に対して、
【数13】
【0032】
このとき、以下のカーネルトリックが成り立つことが知られている。
【数14】
ここで、
【数15】
は、特徴量ベクトルであり、次元数をdで表す。すなわち、特徴量ベクトルを陽に考えなくとも、カーネル関数を計算すれば特徴量ベクトルの内積を計算したことになる。
【0033】
このようにして、実験系データセットDに基づいてサロゲートモデルとしてガウス過程の予測分布
【数16】
を取得すると、試行条件決定部110は、次に当該予測分布から獲得関数α(x)を導出する。獲得関数とは、次にどの入力点をサンプリングすべきか決定するための関数である。獲得関数において最も大きくなる入力xが、次のサンプリング候補点となる。獲得関数としては、EI(Expected Improvement)やUCB(Upper Confidence Bound)など各種関数が利用可能であるが、例えば、以下のPI(Probability of Improvement)が利用されうる。
【数17】
ここで、Φ(z)は、[-∞,z]の範囲の標準正規分布の累積分布
【数18】
であり、yは現時点までにサンプリングされたサンプリング点のうち最も大きな出力を示す。
【0034】
試行条件決定部110は、このようにして導出された獲得関数から次にサンプリングする試行条件を決定し、決定した試行条件を本番系30に送信する。当該試行条件を取得すると、本番系30は、取得した試行条件の下で作業を実行し、歩留まり率などの結果を取得する。
【0035】
すなわち、試行条件決定部110は、実験系20に関するデータと本番系30に関するデータとに基づいて本番系30に対する試行条件を決定する。なお、初期的には、試行条件決定部110は、実験系20に関するデータのみに基づいて本番系30に対する試行条件を決定してもよい。
【0036】
具体的には、試行条件決定部110は、ベイズ最適化を利用して、実験系データセットDと本番系データセットDとに基づいて試行条件を決定してもよい。例えば、試行条件決定部110は、実験系20のデータ生成過程を以下のようにモデル化してもよい。
【数19】
【0037】
すなわち、実験系20のパラメータWは平均0,分散λ Iであるガウス分布、実験系20の出力のノイズは平均0,分散σ に従い、実験系20の出力はパラメータWと特徴量ベクトルφ(x)の行列積にノイズが加算されたものと仮定している。また、試行条件決定部110は、本番系30のデータ生成過程を以下のようにモデル化してもよい。
【数20】
すなわち、本番系30のパラメータWは実験系20のパラメータWからδWだけズレているものと仮定する。また、そのズレδWは平均0,分散λδ Iであるガウス分布、本番系30の出力のノイズは平均0,分散σ に従うと仮定する。すると、本番系30のパラメータWは平均0,分散(λ +λδ )Iであるガウス分布に従うことになり、本番系30の出力はパラメータWと特徴量ベクトルφ(x)の内積にノイズが加算されたものと仮定することになる。λδ とσ はハイパーパラメータとなる。
【0038】
以下の実験系データセットDと本番系データセットD
【数21】
を考える。ここで、n,mはそれぞれのデータセットのサンプルサイズである。もし、本番系30のデータセットが空であれば、D={}と考えてもよい。その同時分布は
【数22】
となる。試行条件決定部110は、この同時分布を求めた後、未知の入力xを与えたときの出力yの予測分布(データセットが与えられた時の条件付き分布)
【数23】
を求める。
【0039】
まず同時分布は
【数24】
となる。
【0040】
ここで、式を見やすくするため、
【数25】
とすると、条件付き予測分布は、以下のように書き換えられうる。
【数26】
すなわち、サロゲートモデルとしての予測分布は、
【数27】
として定式化でき、試行条件決定部110は、この条件付き予測分布からPIなどの獲得関数を導出し、獲得関数を最大にするサンプリング点を試行条件として決定し、本番系30に提供してもよい。本番系30は、取得した試行条件の下で作業を実行し、作業の結果(例えば、歩留まり率など)を試行条件決定部110に返す。
【0041】
制御部120は、試行条件の下で試行された第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、第2の系に対する更なる試行条件を試行条件決定部110に決定させる。具体的には、試行条件決定部110によって決定された試行条件に従って本番系30において実行された作業の結果(例えば、歩留まり率)が所定の閾値以上にならない場合、制御部120は、本番系30に対する次の試行条件を決定するよう試行条件決定部120に指示してもよい。他方、作業結果が所定の閾値以上である場合、制御部120は、当該試行条件が満足いくものであると判定し、条件決定処理を終了する。すなわち、試行条件決定部110によって決定される試行条件の作業結果が所定の終了条件を充足するまで、制御部120は、試行条件決定部110に試行条件を順次決定させ、順次決定された試行条件の下で本番系30に作業を試行させる。ここで、充足条件を閾値とするのは一例であって、例えば他に試行回数などであってもよく、この例に限定されない。
【0042】
上述した実施例では、実験系データ及び/又は本番系データは、試行条件と試行結果とのペアから構成されているが、本開示による実験系データ及び/又は本番系データは、これに限定されず、例えば、実験系20及び/又は本番系30の試行条件から試行結果を予測する予測モデルを含むものであってもよい。このような予測モデルによって、試行条件決定部110は、実験系20及び/又は本番系30に対して試行条件から試行結果を予測することが可能になり、実験系データセットD及び/又は本番系データセットDを取得する必要がなくなりうる。
【0043】
[条件決定処理]
次に、本開示の一実施例による条件決定処理を説明する。当該条件決定処理は、条件決定装置100によって実行され、より詳細には、条件決定装置100の1つ以上のプロセッサ104が1つ以上のメモリ装置103に格納された1つ以上のプログラム又は指示を実行することによって実現されてもよい。図6は、本開示の一実施例による条件決定処理を示すフローチャートである。
【0044】
ステップS101において、条件決定装置100は、実験系20に関するデータを取得する。具体的には、条件決定装置100は、実験系20における実験結果を示す条件と結果とのペアから構成される実験系データデータセットDを取得する。
【0045】
ステップS102において、条件決定装置100は、実験系20に関するデータと本番系30に関するデータとに基づいて本番系30に対する試行条件を決定する。なお、初期的には、条件決定装置100は、実験系20に関するデータのみに基づいて本番系30に対する試行条件を決定してもよい。
【0046】
具体的には、条件決定装置100は、ベイズ最適化を利用して、実験系データセットDと本番系データセットDとに基づいて試行条件を決定してもよい。例えば、条件決定装置100は、実験系20のデータ生成過程を以下のようにモデル化してもよい。
【数28】
【0047】
すなわち、実験系20のパラメータWは平均0,分散λ Iであるガウス分布、実験系20の出力のノイズは平均0,分散σ に従い、実験系20の出力はパラメータWと特徴量ベクトルφ(x)の行列の積にノイズが加算されたものと仮定している。また、条件決定装置100は、本番系30のデータ生成過程を以下のようにモデル化してもよい。
【数29】
すなわち、本番系30のパラメータWは実験系20のパラメータWからδWだけズレているものと仮定する。また、そのズレδWは平均0,分散λδ Iであるガウス分布、本番系30の出力のノイズは平均0,分散σ に従うと仮定する。すると、本番系30のパラメータWは平均0,分散(λ +λδ )Iであるガウス分布に従うことになり、本番系30の出力はパラメータWと特徴量ベクトルφ(x)の行列の積にノイズが加算されたものと仮定することになる。λδ とσ はハイパーパラメータとなる。
【0048】
以下の実験系データセットDと本番系データセットD
【数30】
を考える。ここで、n,mはそれぞれのデータセットのサンプルサイズである。もし、本番系30のデータセットが空であれば、D={}と考えてもよい。その同時分布は
【数31】
となる。条件決定装置100は、この同時分布を求めた後、未知の入力xを与えたときの出力yの予測分布(データセットが与えられた時の条件付き分布)
【数32】
を求める。
【0049】
まず同時分布は
【数33】
となる。
【0050】
ここで、式を見やすくするため、
【数34】
とすると、条件付き予測分布は、以下のように書き換えられうる。
【数35】
すなわち、サロゲートモデルとしての予測分布は、
【数36】
として定式化でき、条件決定装置100は、この条件付き予測分布からPIなどの獲得関数を導出し、獲得関数を最大にするサンプリング点を試行条件として決定し、本番系30に提供してもよい。本番系30は、取得した試行条件の下で作業を実行し、作業の結果(例えば、歩留まり率など)を条件決定装置100に返す。
【0051】
ステップS103において、条件決定装置100は、試行条件の下で試行された本番系30の試行結果を取得する。具体的には、条件決定装置100は、ステップS103において決定した試行条件の下で試行された本番系30から、当該試行条件に対する試行結果を取得する。
【0052】
ステップS104において、条件決定装置100は、所定の終了条件が充足されたか判定する。所定の終了条件は、例えば、試行結果としての歩留まり率が所定の閾値以上であるなど、試行結果が所定の評価基準を上回ったことなどであってもよい。充足条件を閾値とするのは一例であって、例えば他に試行回数などであってもよく、この例に限定されない。所定の終了条件が充足された場合(S104:YES)、条件決定装置100は、当該条件決定処理を終了する。他方、所定の終了条件が充足されない場合(S104:NO)、条件決定装置100は、ステップS102に戻って、ステップS102~S104を繰り返す。
【0053】
上述した実施例では、条件決定装置100は、実験系データセットDと本番系データセットDとに基づいて試行条件を決定したが、本開示による試行条件の決定は、必ずしもこれに限定されるものでない。
【0054】
一実施例では、制御部120は、複数の第1の系から第1の系に関する第1のデータを試行条件決定部110に取得させてもよい。具体的には、制御部120は、図7に示されるように、複数の実験系20_1,・・・,20_Nから実験系データセットDS1,・・・,DSNを取得し、取得した実験系データセットDS1,・・・,DSNに基づいて本番系30に対する試行条件を試行条件決定部110に決定させてもよい。すなわち、試行条件決定部110は、実験系データセットDS1,・・・,DSNに基づいてベイズ最適化を実行し、次の試行条件を決定してもよい。この場合、サロゲートモデルは、実験系データセットDS1,・・・,DSNに近似したガウス過程であってもよい。試行条件決定部110は、当該ガウス過程から獲得関数(例えば、PIなど)を導出し、獲得関数を最大にするサンプリング点を本番系30の試行条件として決定してもよい。
【0055】
また、一実施例では、制御部120は、図8に示されるように、複数の第1の系から第1の系に関する第1のデータを試行条件決定部110に取得させ、第2の系から第2の系に関する第2のデータを試行条件決定部110に取得させ、第1のデータと第2のデータとに基づいて第2の系に対する更なる試行条件を試行条件決定部110に決定させてもよい。すなわち、図3及び7を参照して説明した実施例が、組み合わせて利用されてもよい。
【0056】
なお、上述した実施例では、試行条件決定部110は、サロゲートモデルにガウス過程を利用して試行条件を決定したが、本開示はこれに限定されず、例えば、Physics-Informed Neural Networks(物理法則に基づいた深層学習)のようなモデルを利用してもよい。これによって、データのない外挿領域でも、法則に従った予測が可能となることが期待される。
【0057】
また、上述した実施例では、歩留まり率などの試行結果が評価されたが、複数の評価対象が利用されてもよい。例えば、収率、品質、コスト、安全性などの他の複数の指標が最適化対象とされてもよい。
【0058】
上述した実施例によると、条件決定装置100は、本番系30において最適な条件を可能な限り低いコストで決定することができ、スケールアップ問題を効果的に解決することができる。
【0059】
(付記1)
第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて前記第2の系に対する試行条件を決定する試行条件決定部と、
前記試行条件の下で試行された前記第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、前記第2の系に対する更なる試行条件を前記試行条件決定部に決定させる制御部と、
を有する、条件決定装置。
(付記2)
前記第1の系は、前記第2の系より低い試行コストと精度とによって実行可能である、付記1に記載の条件決定装置。
(付記3)
前記制御部は、前記試行結果に更に基づいて前記更なる試行条件を前記試行条件決定部に決定させる、付記1又は2に記載の条件決定装置。
(付記4)
前記制御部は、複数の第1の系から前記第1のデータを前記試行条件決定部に取得させる、付記1~3の何れか1つに記載の条件決定装置。
(付記5)
前記第1のデータは、前記第1の系の試行条件と試行結果とを含む、付記1~4の何れか1つに記載の条件決定装置。
(付記6)
前記第1のデータは、前記第1の系の試行条件から試行結果を予測する予測モデルを含む、付記1~5の何れか1つに記載の条件決定装置。
(付記7)
第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて前記第2の系に対する試行条件を決定することと、
前記試行条件の下で試行された前記第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、前記第2の系に対する更なる試行条件を決定させること、
を有する、コンピュータが実行する条件決定方法。
(付記8)
第1の系に関する第1のデータと第2の系に関する第2のデータとに基づいて前記第2の系に対する試行条件を決定することと、
前記試行条件の下で試行された前記第2の系に関する試行結果が所定の終了条件を充足しないとき、前記第2の系に対する更なる試行条件を決定させること、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【0060】
以上、本開示の実施例について詳述したが、本開示は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
20 実験系
30 本番系
100 条件決定装置
110 試行条件決定部
120 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8