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特開2024-165719乳酸発酵スターターの製造方法及び乳酸発酵溶液の製造方法
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  • 特開-乳酸発酵スターターの製造方法及び乳酸発酵溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165719
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】乳酸発酵スターターの製造方法及び乳酸発酵溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241121BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20241121BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20241121BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L19/00 Z
C12P1/04 Z
C12P7/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082134
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】523185246
【氏名又は名称】株式会社告田乳酸発酵研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】告田 政秋
(72)【発明者】
【氏名】告田 幸子
【テーマコード(参考)】
4B016
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B016LC04
4B016LE05
4B016LG05
4B016LG06
4B016LK18
4B016LP13
4B064AD02
4B064CA02
4B064CD23
4B064CD24
4B064CD25
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA15X
4B065AA30X
4B065BB26
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA55
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】サトイモを原料とする乳酸発酵スターターの製造方法、及び、この乳酸発酵スターターの製造方法により得た乳酸発酵スターターを用いて食品ロスを乳酸発酵により乳酸発酵溶液化する乳酸発酵溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】サトイモを原料とし、乳酸菌及び枯草菌を用いて、間欠的に撹拌しながら、嫌気性状態での乳酸菌による乳酸発酵(サトイモ嫌気性発酵工程;ステップS121)と、好気性状態での枯草菌による好気性発酵(サトイモ好気性発酵工程;ステップS122)とを繰り返すことにより乳酸発酵スターターを製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サトイモを原料とし、乳酸菌及び枯草菌を用いて、間欠的に撹拌しながら、嫌気性状態での乳酸菌による乳酸発酵と、好気性状態での枯草菌による好気性発酵とを繰り返すことを特徴とする乳酸発酵スターターの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸発酵スターターの製造方法により得た乳酸発酵スターターと、食品ロスとを、前記乳酸発酵スターターと前記食品ロスとの合計に対する前記乳酸発酵スターターの割合を40質量%以上として混合し、間欠的に撹拌しながら、前記乳酸発酵スターターに含まれる乳酸菌による嫌気性状態での乳酸発酵と、前記乳酸発酵スターターに含まれる枯草菌による好気性状態での好気性発酵とを繰り返すことを特徴とする乳酸発酵溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸発酵スターターの製造方法、及び、この乳酸発酵スターターの製造方法により得た乳酸発酵スターターを用いて食品ロスを乳酸発酵により乳酸発酵溶液化する乳酸発酵溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、家畜の保存飼料であるサイレージを効率良く生産するための研究が行われている。サイレージとは、牧草などに乳酸菌を作用させて保存性を高め、牧草のない冬季などに家畜を飼育するための保存飼料である。牧草などには乳酸菌が利用できる単糖が少ないため乳酸が十分できないことがある。そこで、乳酸菌に植物性多糖を分解する酵素遺伝子を導入し、酵素を多量に発現させたところ、植物性多糖から効率良く乳酸を生成させることが可能となった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
食品以外の他の例として、乳酸を原料とする生分解性の「ポリ乳酸樹脂」も注目されている。既に、乳酸生成効率の良い菌株で乳酸を多量に作り、合成反応によってポリ乳酸樹脂が作られて市場に出回っている。バイオ技術の応用によって乳酸の生産効率が改良された乳酸菌ができれば、コストが低減し、安くて利用しやすい生分解樹脂の消費が増大し、地球環境の保全に寄与することができる。
【0004】
なお、乳酸発酵スターターとしては、さといもを主原料として乳酸発酵させたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。サトイモ特有のネバネバには、ガラクタンという栄養素が含まれている。これは食物繊維の一種で、水に溶けやすい水溶性食物繊維ある。水溶性食物繊維は、その粘着性により食べ過ぎ防止に効果があるとされており、糖質の吸収をゆるやかにするため血糖値の上昇も抑えてくれる。また、ガラクタンには、腸内環境を整える整腸作用がある。サトイモにはガラクタンの他に、こんにゃくの主成分ともいわれるグルコマンナンという食物繊維が多く含まれている。このグルコマンナンは、ガラクタン同様、水溶性食物繊維と呼ばれるもので、血中コレステロールの低下や血糖値の上昇予防に効果がある。同じ芋類のジャガイモやサツマイモには、水に溶けづらい不溶性食物繊維が多く含まれているのに対し、サトイモは芋類の中では珍しく水溶性食物繊維を多く含む。サトイモを調理する際に特有の粘りがでるのは、この水溶性食物繊維が水に溶け出すからである。
【0005】
ガラクタンは、カラギーナンなど、ガラクトースを主成分とする多糖類の総称である。ガラクタンは、植物、海藻などに広く分布するが、ほかの糖と結合したヘテロ多糖として存在することも多い。ルピナスの種子やリンゴのペクチン質には、(β1→4)結合をもつ単独のD-ガラクタンが約25%含まれており、これらのペクチン酸の側鎖として結合している。また、針葉樹材中のアラビノガラクタン中にも、同様な重合度がD-ガラクタンが見出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-045069
【特許文献2】特開2022-81851
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリ乳酸は、生分解性を有し、環境配慮に優れたカーボンニュートラルな合成樹脂である。ポリ乳酸は植物起源の素材から合成できるバイオプラスチックの1つであり、ブドウ糖(グルコース)・砂糖(スクロース)などに乳酸菌を作用させ、発酵作用により得られる乳酸を重合させることにより製造することができる。
【0008】
乳酸発酵の原料は、ブドウ糖原料とデンプン質原料の2つに分けられる場合がある。ブドウ糖原料は、リンゴやブドウなどの果実のように、糖質、特にグルコース(ブドウ糖)を含む原料で、酵母でアルコール発酵し、リンゴ酒やブドウ酒(ワイン)ができる。デンプン質原料は、米や麦、トウモロコシなどの穀類、ジャガイモやサツマイモのイモ類であり、その主成分はデンプンである。デンプン質原料では、例えば、トウモロコシやジャガイモから得られるデンプンに酵素(アミラーゼなど)を作用させることにより、原料となる糖類を大量に得ることができる。しかし、でんぷん質原料であるトウモロコシや芋のデンプンは、水に溶けないベーター・デンプンであるため、水と熱を加えて湖化させることによりアルファ・デンプンとした後に酵素により糖化する必要があり、加熱処理による二酸化炭素排出の問題があった。
【0009】
一方、サトイモ特有のネバネバは、ガラクタンである。ガラクタンは、カラギーナンなど、ガラクトースを主成分とする多糖類の総称であり、水に溶けやすい水溶性食物繊維であるので、加熱処理することなく乳酸発酵させることが可能である。そこで、サトイモを乳酸菌により乳酸発酵させたものを乳酸発酵スターターとして利用するようにすれば、二酸化炭素の排出量をゼロとすることができるので好ましい。更に、サトイモを原料として乳酸発酵させた乳酸発酵スターターにより食品ロスを乳酸発酵溶液化することができれば、廃棄物を原料としてポリ乳酸を製造することができるので好ましい。
【0010】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、サトイモを原料とする乳酸発酵スターターの製造方法、及び、この乳酸発酵スターターの製造方法により得た乳酸発酵スターターを用いて食品ロスを乳酸発酵により乳酸発酵溶液化する乳酸発酵溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の乳酸発酵スターターの製造方法は、サトイモを原料とし、乳酸菌及び枯草菌を用いて、間欠的に撹拌しながら、嫌気性状態での乳酸菌による乳酸発酵と、好気性状態での枯草菌による好気性発酵とを繰り返すものである。
【0012】
本発明の乳酸発酵溶液の製造方法は、本発明の乳酸発酵スターターの製造方法により得た乳酸発酵スターターと、食品ロスとを、乳酸発酵スターターと食品ロスとの合計に対する乳酸発酵スターターの割合を40質量%以上として混合し、間欠的に撹拌しながら、前記乳酸発酵スターターに含まれる乳酸菌による嫌気性状態での乳酸発酵と、前記乳酸発酵スターターに含まれる枯草菌による好気性状態での好気性発酵とを繰り返すものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サトイモを原料とし、乳酸菌及び枯草菌を用いて、間欠的に撹拌しながら嫌気性状態と好気性状態とを繰り返すようにしたので、嫌気性状態においては、乳酸菌による乳酸発酵により乳酸菌の数を増加させることができ、好気性状態においては、枯草菌による好気性発酵によりサトイモのでんぷんを分解することができる。よって、容易に乳酸発酵を進めることができ、優れた乳酸発酵スターターを得ることができる。
【0014】
また、本発明により得られた乳酸発酵スターターを用い、乳酸発酵スターターの割合を40質量%以上として食品ロスと乳酸発酵スターターとを混合し、間欠的に撹拌しながら嫌気性状態と好気性状態とを繰り返すようにしたので、嫌気性状態においては、乳酸発酵スターターに含まれる乳酸菌による乳酸発酵により乳酸を生成することができ、好気性状態においては、乳酸発酵スターターに含まれる枯草菌による好気性発酵により食品ロスのでんぷん質及びタンパク質を分解することができる。よって、食品ロスを原料として、容易に乳酸発酵させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る乳酸発酵スターターの製造方法の流れを表すものである。
図2】本発明の一実施の形態に係る乳酸発酵溶液の製造方法の流れを表すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
(乳酸発酵スターターの製造方法)
図1は、本発明の一実施の形態に係る乳酸発酵スターターの製造方法の流れを表すものである。なお、乳酸発酵スターターというのは、乳酸菌を含み、原料に添加して乳酸発酵させるものである。
【0018】
この乳酸発酵スターターの製造方法は、サトイモを原料として乳酸発酵させるものである。まず、例えば、原料のサトイモを準備する(サトイモ準備工程;ステップ110)。サトイモを原料とするのは、サトイモのデンプンが水に溶けやすい水溶性食物繊維で、ガラクタンやグルコマンナン等の多糖類であり、これらの多糖類が乳酸菌の作用を受けて分解し、乳酸が生成されるからである。特に、生のサトイモを原料とすれば、加熱処理することなく乳酸発酵させることができるので、二酸化炭素の排出量をゼロとすることができるので好ましい。
【0019】
更に、原料としてはサトイモの親芋を用いることが好ましい。サトイモの親芋は、デンプン分解酵素(α-アミラーゼ活性及びβ-アミラーゼ活性)を持っているので、乳酸発酵が進むに従いサトイモが液状化し、乳酸発酵溶液を得ることができるからである。この乳酸発酵溶液は、乳酸発酵により生成された乳酸と、乳酸菌と、酵素とを含む溶液である。また、サトイモの親芋は小芋(食用サトイモ)を収穫した後、畑に漉き込まれるか、又は、廃棄されている未使用資源であるので、サトイモの親芋を原料として用いるようにすれば、資源を有効活用することができるので好ましい。
【0020】
原料のサトイモは、細かく刻んだり、すり潰した状態とすることが好ましい。後続の工程において乳酸菌及び枯草菌と十分に撹拌混合することができるからである。
【0021】
次いで、例えば、サトイモを原料とし、乳酸菌及び枯草菌を用いて、間欠的に撹拌しながら、嫌気性状態での乳酸菌による乳酸発酵と、好気性状態での枯草菌による好気性発酵とを繰り返す(サトイモ間欠撹拌工程;ステップS120)。乳酸菌及び枯草菌は、サトイモに付着しているものをそのまま用いてもよいが、サトイモに付着している乳酸菌及び枯草菌に加えて、又は、サトイモに付着している乳酸菌及び枯草菌を洗浄等により落として、別の乳酸菌及び枯草菌を添加するようにしてもよい。
【0022】
乳酸菌は、サトイモから乳酸発酵により乳酸を生成するものであり、枯草菌は、好気性発酵によりサトイモのでんぷんを分解するものである。乳酸菌による乳酸発酵は通常嫌気性発酵であり、枯草菌による好気性発酵は通常好気性発酵である。よって、例えば、密閉状態とした嫌気性状態での乳酸菌による乳酸発酵の工程(サトイモ嫌気性発酵工程;ステップS121)と、撹拌により空気を混入した好気性状態での枯草菌による好気性発酵の工程(サトイモ好気性発酵工程;ステップS122)とを交互に複数回ずつ繰り返すことが好ましい。
【0023】
これにより、例えば、密閉した嫌気性状態では、乳酸菌による乳酸発酵が進み、乳酸酸度により水素イオン濃度はpH4.2からpH4.4程度で安定となる(サトイモ嫌気性発酵工程;ステップS121)。また、例えば、撹拌により空気を混入して好気性状態とすると、枯草菌による好気性発酵が進み、枯草菌が生産する酵素によりサトイモのでんぷんが分解されて液状化する(サトイモ好気性発酵工程;ステップS122)。再び、例えば、密閉し嫌気性状態とすると、枯草菌により分解された糖質により乳酸菌による乳酸発酵が進む(サトイモ嫌気性発酵工程;ステップS121)。なお、枯草菌は、pHの低下及び酸素の減少により休眠状態となる。また、再び、撹拌により好気性状態とすると、枯草菌による好気性発酵によりサトイモのでんぷんが分解される(サトイモ好気性発酵工程;ステップS122)。
【0024】
サトイモ間欠撹拌工程(ステップS120)、すなわち、サトイモ嫌気性発酵工程(ステップS121)及びサトイモ好気性発酵工程(ステップS122)は、加熱せず常温において行うことが好ましい。常温というのは、積極的に冷却したり加熱したりしない自然の状態の温度を意味している。常温でも乳酸発酵させることができるので、常温とすれば二酸化炭素の排出量をゼロとすることができるので好ましい。また、サトイモ間欠撹拌工程(ステップS120)の処理温度は、0℃以上30℃以下とすることが好ましく、0℃以上25℃以下とすればより好ましく、10℃以上25℃以下とすれば更に好ましい。30℃よりも高い温度では腐敗する恐れがあるからである。
【0025】
サトイモ間欠撹拌工程(ステップS110)は、サトイモの少なくとも一部が液状化して乳酸発酵溶液が生成されたら終了することができる。なお、全てのサトイモを液状化してもよいが、全てのサトイモが液状化する前に工程を終了し、一部のサトイモはそのまま残存させることが好ましい。すなわち、乳酸発酵スターターには、サトイモが含まれるようにすることが好ましい。後述する乳酸発酵溶液の製造において、乳酸発酵の開始時に、残存するサトイモを利用することにより、良好に乳酸発酵を進めることができるからである。これにより、乳酸発酵スターターが得られる。この乳酸発酵スターターの製造方法により得られた乳酸発酵スターターには、乳酸菌と、枯草菌と、乳酸と、酵素とが含まれており、サトイモを含んでいればより好ましい。
【0026】
このように、本実施の形態の乳酸発酵スターターの製造方法によれば、サトイモを原料とし、乳酸菌及び枯草菌を用いて、間欠的に撹拌しながら嫌気性状態と好気性状態とを繰り返すようにしたので、嫌気性状態においては、乳酸菌による乳酸発酵により乳酸菌の数を増加させることができ、好気性状態においては、枯草菌による好気性発酵によりサトイモのでんぷんを分解することができる。よって、容易に乳酸発酵を進めることができ、優れた乳酸発酵スターターを得ることができる。
【0027】
(乳酸発酵溶液の製造方法)
図2は、本発明の一実施の形態に係る乳酸発酵溶液の製造方法の流れを表すものである。なお、乳酸発酵溶液というのは、乳酸発酵により生成された乳酸を含む溶液である。
【0028】
この乳酸発酵溶液の製造方法は、本実施の形態の乳酸発酵スターターの製造方法により得られた乳酸発酵スターターを用いて、食品ロスから乳酸発酵溶液を製造するものである。具体的には、まず、本実施の形態の乳酸発酵スターターの製造方法により得られた乳酸発酵スターターと、食品ロスとを混合する(食品ロス混合工程;S210)。食品ロスは、本来ならまだ食べられるのに捨てられる食品のことである。具体的には、例えば、焼く、煮る、蒸す、揚げる等の各種方法により調理され、食されずに捨てられる食品が挙げられ、主として加熱処理されている食品である。
【0029】
食品ロスと、乳酸発酵スターターとは、食品ロスと乳酸発酵スターターとの合計に対する乳酸発酵スターターの割合を40質量%以上として混合することが好ましく、45質量%以上とすればより好ましい。乳酸発酵スターターの割合を40質量%以上とすることにより、食品ロスを乳酸発酵させることができるからである。食品ロスと乳酸発酵スターターとを混合する際には、食品ロスは、細かく刻んだり、すり潰した状態とすることが好ましい。乳酸発酵スターターと十分に混合することができるからである。
【0030】
続いて、例えば、食品ロスと乳酸発酵スターターとを混合した混合物を、間欠的に撹拌しながら、乳酸発酵スターターに含まれる乳酸菌による嫌気性状態での乳酸発酵と、乳酸発酵スターターに含まれる枯草菌による好気性状態での好気性発酵とを繰り返す(食品ロス間欠撹拌工程;ステップS220)。乳酸菌は、食品ロスから乳酸発酵により乳酸を生成するものであり、乳酸菌による乳酸発酵は通常嫌気性発酵である。枯草菌は、好気性発酵により食品ロスのデンプン質及びタンパク質を分解するものであり、枯草菌による好気性発酵は通常好気性発酵である。よって、例えば、密閉状態とした嫌気性状態での乳酸菌による乳酸発酵の工程(食品ロス嫌気性発酵工程;ステップS221)と、撹拌により空気を混入した好気性状態での枯草菌による好気性発酵の工程(食品ロス好気性発酵工程;ステップS222)とを交互に複数回ずつ繰り返すことが好ましい。
【0031】
これにより、例えば、密閉した嫌気性状態では、乳酸菌による乳酸発酵が進み、乳酸酸度により水素イオン濃度はpH3.8からpH4.0程度で安定となる(食品ロス嫌気性発酵工程;ステップS221)。また、例えば、撹拌により空気を混入して好気性状態とすると、枯草菌による好気性発酵が進み、枯草菌が生産する酵素により食品ロスのでんぷん質及びタンパク質が分解されて液状化する(食品ロス好気性発酵工程;ステップS222)。再び、例えば、密閉し嫌気性状態とすると、枯草菌により分解された糖質により乳酸菌による乳酸発酵が進む(食品ロス嫌気性発酵工程;ステップS221)。なお、枯草菌は、pHの低下及び酸素の減少により休眠状態となる。また、再び、撹拌により好気性状態とすると、枯草菌による好気性発酵により食品ロスのでんぷん質及びタンパク質が分解される(食費ロス好気性発酵工程;ステップS222)。
【0032】
食品ロス間欠撹拌工程(ステップS220)、すなわち、食品ロス嫌気性発酵工程(ステップS221)及び食品ロス好気性発酵工程(ステップS222)は、加熱せず常温において行うことが好ましい。常温というのは、積極的に冷却したり加熱したりしない自然の状態の温度を意味している。常温でも乳酸発酵させることができるので、常温とすれば二酸化炭素の排出量をゼロとすることができるので好ましい。また、食品ロス間欠撹拌工程(ステップS120)の処理温度は、0℃以上30℃以下とすることが好ましく、0℃以上25℃以下とすればより好ましく、10℃以上25℃以下とすれば更に好ましい。30℃よりも高い温度では腐敗する恐れがあるからである。
【0033】
食品ロス間欠撹拌工程(ステップS220)は、食品ロスの少なくとも一部が液状化して乳酸発酵溶液が生成されたら終了することができ、全ての食品ロスが液状化するまで行うことが好ましい。これにより、乳酸発酵溶液が得られる。なお、食品ロス間欠撹拌工程(ステップS220)を進めると、pH3.8からpH4.0程度で油脂分が分離し、油脂分を回収した後の溶液が乳酸発酵溶液となる。回収した油脂分はバイオ燃料として利用することができ、乳酸発酵溶液は、乳酸発酵により生成されたポリ乳酸等の乳酸を含んでおり、バイオプラスチックに利用することができる。
【0034】
このように、本実施の形態の乳酸発酵溶液の製造方法によれば、本実施の形態の乳酸発酵スターターの製造方法により得られた乳酸発酵スターターを用い、乳酸発酵スターターの割合を40質量%以上として食品ロスと乳酸発酵スターターとを混合し、間欠的に撹拌しながら嫌気性状態と好気性状態とを繰り返すようにしたので、嫌気性状態においては、乳酸発酵スターターに含まれる乳酸菌による乳酸発酵により乳酸を生成することができ、好気性状態においては、乳酸発酵スターターに含まれる枯草菌による好気性発酵により食品ロスのでんぷん質及びタンパク質を分解することができる。よって、食品ロスを原料として、容易に乳酸発酵させることができる。
【実施例0035】
(実施例1)
まず、生のサトイモ(親芋)を細かく刻んでミンチ状とし(サトイモ準備工程;ステップS110)、サトイモを原料として、乳酸菌及び枯草菌を用いて、間欠的に撹拌しながら嫌気性状態と好気性状態とを繰り返した(サトイモ間欠撹拌工程;ステップS120)。撹拌は、3日から5日に1回の間隔で、1回につき3分から10分程度行った。サトイモは、乳酸発酵が進むに従い液状化し、混合から1週間経過後にはサトイモの一部が液状化し、サトイモの一部がそのまま残存した乳酸発酵スターター溶液が得られた。得られた乳酸発酵スターターについて、乳酸菌及び枯草菌の存在を調べたところ、乳酸菌も枯草菌も存在が確認された。
【0036】
次いで、食品ロスと、製造した乳酸発酵スターターとを混合した(食品ロス混合工程;S210)。食品ロスとして、市販されている各種弁当を用意した。具体的には、あおり香味炒飯1個、海苔鮭弁当5個、柔らかとんかつ弁当1個、イカカツおかか弁当6個、煮込みかつ丼3個、二色おこわ弁当2個を用意し、それらを細かく刻んでミンチ状とした。いずれも加熱処理されている食品である。食品ロスの質量は6684gであった。
【0037】
乳酸発酵スターターの質量は、食品ロスと同量の6684gとした。すなわち、食品ロスと乳酸発酵スターターとの合計に対する乳酸発酵スターターの割合は、50質量%とした。なお、乳酸発酵スターターのpHは4.29、温度は25.9℃、生菌数は約570万個/g、乳酸菌数は2360万個/gであった。また、食品ロスと、乳酸発酵スターターとを混合した直後における混合物のpHは5.02、温度は25.9℃、生菌数は約1億900万個/g、乳酸菌数は6億6千万個/gであった。なお、生菌数はペトリフィルムACにより測定し、乳酸菌数はペトリフィルムLABにより測定した。以下同様である。
【0038】
続いて、食品ロスと乳酸発酵スターターとの混合物を加熱せずに常温において間欠的に撹拌しながら嫌気性状態と好気性状態とを繰り返した(食品ロス間欠撹拌工程;S220)。撹拌は、3日から5日に1回の間隔で、1回につき3分から10分程度行った。食品ロスは、乳酸発酵が進むに従い液状化し、混合から1週間経過後には全体が液状化した乳酸発酵溶液が得られた。1週間後の乳酸発酵溶液のpHは3.95、温度は25.8℃、生菌数は110万個/g、乳酸菌数は4億2千万個/gであった。すなわち、乳酸発酵が進んだことが確認された。なお、得られた乳酸発酵溶液に含まれる酸を高速液体クロマトグラフ法により分析したところ、乳酸と酢酸が含まれており、乳酸の割合は90質量%以上であった。
【0039】
(比較例1)
実施例1と同様にして乳酸発酵スターターを製造し、食品ロスと、製造した乳酸発酵スターターとを混合した。食品ロスは、実施例1と同様に市販されている各種弁当とした。具体的には、あおり香味炒飯1個、大人様ランチ1個、きのこと栗の炊込み1個、海苔鮭弁当1個、ハンバーグ弁当1個、柔らかとんかつ弁当1個、特盛牛カルビ焼肉重1個、二色おこわ弁当1個を用意し、それらを細かく刻んでミンチ状とした。いずれも加熱処理されている食品である。食品ロスの質量は3329gであった。
【0040】
乳酸発酵スターターの質量は、食品ロスの1/3の1110gとした。すなわち、食品ロスと乳酸発酵スターターとの合計に対する乳酸発酵スターターの割合は、25質量%とした。なお、乳酸発酵スターターのpHは4.32、温度は22.0℃、生菌数は890万個/g、乳酸菌数は8千万個/gであった。また、食品ロスと、乳酸発酵スターターとを混合した直後における混合物のpHは5.12、温度は22.2℃、生菌数は1億3200万個/g、乳酸菌数は4億2千万個/gであった。
【0041】
続いて、実施例1と同様にして、食品ロスと乳酸発酵スターターとの混合物を加熱せずに常温において間欠的に撹拌しながら嫌気性状態と好気性状態とを繰り返した。その結果、混合から1週間経過後において、乳酸発酵はしたものの液状化しなかった。1週間後における食品ロスと乳酸発酵スターターとの混合物のpHは3.90、温度は23.0℃、生菌数は1千230万個/g、乳酸菌数は5千800万個/gであった。すなわち、食品ロスと乳酸発酵スターターとの合計に対する乳酸発酵スターターの割合が少ないと乳酸発酵しても液状化しないことが分かった。
【0042】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態及に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、他の構成要素を備えていてもよい。また、各構成要素の説明は一例を示したものであり、異なっていてもよい。
図1
図2