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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165723
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】エンジン制御システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/22 20060101AFI20241121BHJP
   F02D 41/30 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D41/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082144
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】末廣 和雅
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA22
3G301JB02
3G301KA02
3G301LB11
3G301MA28
3G301NA08
3G301PB08B
(57)【要約】
【課題】エンジン始動前にインジェクタのバルブが固着しているか否かを判定することを目的とする。
【解決手段】本発明は、電磁コイルに通電することでバルブを開けて燃料を噴射するインジェクタと、エンジン20が始動されることを予測するエンジン始動予測部82と、インジェクタを制御するエンジン制御部81と、を有するエンジン制御システムであって、エンジン制御部81は、エンジン始動予測部82によりエンジン20が始動されることが予測された場合に、電磁コイルを通電し、バルブが固着しているか否かを判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルに通電することでバルブを開けて燃料を噴射するインジェクタと、
エンジンが始動されることを予測するエンジン始動予測手段と、
前記インジェクタを制御する制御手段と、を有するエンジン制御システムであって、
前記制御手段は、
前記エンジン始動予測手段により前記エンジンが始動されることが予測された場合に、前記電磁コイルを通電し、前記バルブが固着しているか否かを判定することを特徴とするエンジン制御システム。
【請求項2】
前記エンジン始動予測手段は、
車両のドアの開閉情報に基づいて前記エンジンが始動されることを予測することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御システム。
【請求項3】
前記制御手段は、
温度が所定の温度よりも低い場合に、前記電磁コイルを通電し、前記バルブが固着しているか否かを判定することを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン制御システム。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記エンジンが停止されてから、次に前記エンジン始動予測手段により前記エンジンが始動されると予測されるまでの時間が所定の時間よりも長い場合に、前記電磁コイルを通電し、前記バルブが固着しているか否かを判定することを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン制御システム。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記エンジンを始動する前に前記電磁コイルを通電し、固着していないと判定した場合には、エンジン始動時にスロットルバルブを全開にすることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン制御システム。
【請求項6】
前記インジェクタを第1の燃料噴射手段とすると、前記第1の燃料噴射手段と異なる第2の燃料噴射手段を有し、
前記制御手段は、
前記バルブが固着していると判定した場合には、前記第2の燃料噴射手段によって前記エンジンを始動させることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からエンジンに燃料を供給するために、電磁コイルに通電することによりバルブを開けて燃料を噴射するインジェクタが用いられている。例えばCNG(圧縮天然ガス)等を気体燃料として用いたエンジン車両の場合、圧縮された気体燃料をインジェクタに導くときに減圧する必要がある。このとき、減圧によってインジェクタが冷却されるとともに、更に外気温が低温である場合、インジェクタ内で水分が凍結してインジェクタバルブが固着して開かなくなり、エンジンが始動できなくなることがある。
【0003】
特許文献1には、バルブ駆動開始前又は開始時のタイミングのデリバリガス圧力とバルブ駆動開始後のデリバリガス圧力を検出し、検出されたガス圧力の差を検出し、このガス圧力の差が所定値より小さい場合にインジェクタバルブが固着していると判断するインジェクタバルブの制御方法が開示されている。特許文献1のインジェクタバルブの制御方法では、インジェクタバルブが固着していると判断された場合、インジェクタバルブの固着が解消されたと判断されるまでバルブを駆動するためインジェクタに通電する時間を延長するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-65395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エンジン始動時にはクランキングに電力が使用されるために、インジェクタの電磁コイルへの電圧が低下してしまい、インジェクタバルブの固着が解消できない場合がある。
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、エンジン始動前にインジェクタのバルブが固着しているか否かを判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電磁コイルに通電することでバルブを開けて燃料を噴射するインジェクタと、エンジンが始動されることを予測するエンジン始動予測手段と、前記インジェクタを制御する制御手段と、を有するエンジン制御システムであって、前記制御手段は、前記エンジン始動予測手段により前記エンジンが始動されることが予測された場合に、前記電磁コイルを通電し、前記バルブが固着しているか否かを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エンジン始動前にインジェクタのバルブが固着しているか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】エンジン制御システムとして機能するバイフューエル車両の構成の一例を示す図である。
図2】制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図3】制御装置による処理の一例を示すフローチャートである。
図4】制御装置による処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る実施形態は、電磁コイルに通電することでバルブを開けて燃料を噴射する気体燃料インジェクタ51と、エンジン20が始動されることを予測するエンジン始動予測部82と、気体燃料インジェクタ51を制御するエンジン制御部81と、を有するエンジン制御システムであって、エンジン制御部81は、エンジン始動予測部82によりエンジン20が始動されることが予測された場合に、電磁コイルを通電し、バルブが固着しているか否かを判定する。したがって、エンジン始動前に気体燃料インジェクタ51のバルブが固着しているか否かを判定することができる。
【実施例0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について説明する。
図1は、実施例のエンジン制御システムとして機能するバイフューエル車両(車両)10の構成の一例を示す図である。なお、図1は、説明の便宜上、本開示の技術を説明するために簡略化したものであり、車両10が通常備える構成については図示されていなくても備えているものとする。
【0011】
本実施例の車両10は、内燃機関としてのエンジン20と、吸気系40と、排気系45と、気体燃料供給系50と、液体燃料供給系60と、検出部70と、エンジン20および関連機器を制御する制御装置80とを備えている。エンジン20は、バイフューエルエンジンであって、2種類の燃料を切替えて供給されることで駆動する。本実施例のエンジン20は、第1燃料として、例えば圧縮天然ガス(CNG)燃料等の気体燃料と、第2燃料として、例えばガソリン燃料等の液体燃料を使用するものとする。
【0012】
エンジン20は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程および排気行程からなる一連の4行程を行う。エンジン20は、クランクシャフト21が回転可能に収容されているクランク室22、ピストン23が往復動可能に収容されている燃焼室24、燃焼室24内に配置される点火プラグ25、燃焼室24と吸気ポート26との間に位置する吸気バルブ27、燃焼室24と排気ポート28との間に位置する排気バルブ29、エンジン20を始動するためのセルモータ30等を有する。なお、エンジン20の構成は特に限定されるものではなく、公知の各種エンジンが適用できる。また、エンジン20は、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの何れであってもよい。
【0013】
吸気系40は、吸気通路41と、エアクリーナ42と、スロットルバルブ43とを含む。吸気通路41は、車両10の外部から取り入れた吸気を、吸気ポート26を経由して燃焼室24に導く通路である。吸気通路41は、主に吸気管によって構成される。エアクリーナ42は、吸気通路41に配置され、吸気に含まれる塵や埃等の異物を取り除くことで吸気を浄化する。スロットルバルブ43は、吸気通路41に配置され、開閉することで吸気の流量を調整する。スロットルバルブ43は、制御装置80による制御に基づいて吸気の流量を調整する。
【0014】
排気系45は、排気通路46と、触媒(触媒コンバータ)47とを含む。排気通路46は、燃焼室24内で燃焼した排気ガスを、排気ポート28を経由して車両10の外部に排気する通路である。排気通路46は、主に排気管によって構成される。触媒47は、排気ガスに含まれる有害物質を浄化する。触媒47には、例えば、公知の各種三元触媒等が適用できる。
【0015】
燃料系は、気体燃料を供給する気体燃料供給系50と、液体燃料を供給する液体燃料供給系60とを有し、気体燃料および液体燃料を切替えてエンジン20に供給する。
【0016】
気体燃料供給系50は、気体燃料インジェクタ51と、気体燃料用デリバリパイプ52と、気体燃料供給管53と、プレッシャレギュレータ54と、レギュレータシャットオフバルブ55と、元弁56と、気体燃料タンク57とを含んで構成される。
【0017】
気体燃料供給管53の一方端には気体燃料タンク57が接続されており、気体燃料供給管53の他方端には気体燃料用デリバリパイプ52が接続されている。気体燃料タンク57と気体燃料供給管53との間には、元弁56が設けられている。元弁56は、制御装置80によって開閉が制御される常閉型の電磁弁により構成される。元弁56が閉弁状態である場合、気体燃料タンク57内は密閉状態となる。
【0018】
また、気体燃料供給管53には元弁56よりも下流側にレギュレータシャットオフバルブ55、プレッシャレギュレータ54が順に設けられている。
レギュレータシャットオフバルブ55は、制御装置80によって開閉が制御されるようになっている。元弁56およびレギュレータシャットオフバルブ55が開弁状態である場合には、気体燃料タンク57内の気体燃料が気体燃料供給管53を介して気体燃料用デリバリパイプ52に供給される。一方、レギュレータシャットオフバルブ55が閉弁状態になった場合には、気体燃料用デリバリパイプ52に気体燃料が供給されなくなる。
【0019】
プレッシャレギュレータ54は、気体燃料タンク57から供給される気体燃料の圧力を減圧させる。プレッシャレギュレータ54が気体燃料の圧力を減圧するときに気体燃料インジェクタ51が冷却される。また、プレッシャレギュレータ54は、所定の圧力の気体燃料を気体燃料用デリバリパイプ52に供給するように作動する。気体燃料用デリバリパイプ52は、プレッシャレギュレータ54から供給された気体燃料を一時的に貯留する。
【0020】
気体燃料用デリバリパイプ52には、エンジン20の各気筒に対応する複数の気体燃料インジェクタ51が連結されている。気体燃料用デリバリパイプ52に貯留されている気体燃料は、気体燃料インジェクタ51が開弁することにより吸気通路41または吸気ポート26に噴射される。気体燃料インジェクタ51は、燃料噴射手段の一例に対応する。気体燃料インジェクタ51は、電磁コイルと、バルブ(インジェクタバルブ)とを有し、電磁コイルに通電することでバルブを開いて気体燃料を噴射する。気体燃料インジェクタ51は、制御装置80の制御により電磁コイルに通電する時間および噴射タイミング等が制御される。気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに通電する時間が長いほど気体燃料の噴射量が増加する。なお、外気温度が低い場合には、プレッシャレギュレータ54が気体燃料の圧力を減圧するときに冷却されることと相まって、気体燃料インジェクタ51が固着されることがある。
【0021】
液体燃料供給系60は、液体燃料インジェクタ61と、液体燃料用デリバリパイプ62と、液体燃料供給管63と、燃料ポンプ64と、液体燃料タンク65とを含んで構成される。
【0022】
燃料ポンプ64は、液体燃料タンク65内に常圧状態で貯留されている液体燃料を吸引して、液体燃料供給管63を介して液体燃料用デリバリパイプ62に圧送する。液体燃料用デリバリパイプ62には、エンジン20の各気筒に対応する複数の液体燃料インジェクタ61が連結されている。
【0023】
液体燃料用デリバリパイプ62は、燃料ポンプ64から圧送された液体燃料を一時的に貯留する。液体燃料用デリバリパイプ62に貯留されている液体燃料は、液体燃料インジェクタ61が開弁することにより吸気通路41または吸気ポート26に噴射される。液体燃料インジェクタ61は、電磁コイルと、バルブ(インジェクタバルブ)とを有し、電磁コイルに通電することでバルブを開いて液体燃料を噴射する。液体燃料インジェクタ61は、制御装置80の制御により電磁コイルに通電する時間および噴射タイミング等が制御される。液体燃料インジェクタ61の電磁コイルに通電する時間が長いほど液体燃料の噴射量が増加する。なお、液体燃料は燃料ポンプ64から減圧されることがないために、液体燃料インジェクタ61は気体燃料インジェクタ51よりもバルブが固着されることがない。
【0024】
検出部70は、車両10の状態あるいは外部環境を検出して、検出した情報を制御装置80に送信する各種センサを有する。具体的には、検出部70は、ドア開閉センサ71、外気温センサ72、水温センサ73、計時部74、気体燃料圧力センサ75等を有する。
【0025】
ドア開閉センサ71は、車両10のドアの開閉を検出する。ドア開閉センサ71は、検出しているドアの開閉情報を制御装置80に送信する。
外気温センサ72は、外気温度を検出する。外気温センサ72は、検出している外気温度の情報を制御装置80に送信する。
水温センサ73は、エンジン20の冷却水の温度(水温)を検出する。水温センサ73は、検出している冷却水の温度の情報を制御装置80に送信する。
計時部74は、エンジン20を停止してからの時間を計測する。計時部74は、計測している時間の情報を制御装置80に送信する。
【0026】
気体燃料圧力センサ75は、気体燃料圧力、具体的には気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力を検出する。気体燃料圧力センサ75は、検出している気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力の情報を制御装置80に送信する。ここで、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに通電され、バルブが開いて気体燃料が噴射された場合には、一時的に気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力が低下する。一方、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着されている場合には、電磁コイルに通電してもバルブが開かないことにより気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力は変わらない。
【0027】
制御装置80は、車両10全体を制御する。制御装置80は、乗員によるアクセルペダルの操作をはじめとする運転操作、運転状況および各種センサからの情報に基づいて、エンジン20や車両10を構成する各ユニットを制御する。制御装置80は、CPU、ROM、RAM等を有するECU(Electrical Control Unit)を用いることができる。なお、制御装置80は、一つのECUで構成したり、複数のECUが協働して構成したりしてもよい。
【0028】
図2は、制御装置80の機能構成の一例を示す図である。図2に示す制御装置80の機能構成は、ECUのCPUがROMに記憶されたプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される。
制御装置80は、エンジン制御部81と、エンジン始動予測部82とを有する。
【0029】
エンジン制御部81は、エンジン20および関連機器を制御する。エンジン制御部81は、制御手段の一例に対応する。
具体的に、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51および液体燃料インジェクタ61を制御することにより、エンジン20の燃焼室24に供給する燃料を液体燃料から気体燃料に、または気体燃料から液体燃料に切替える。例えば、エンジン制御部81は、エンジン始動中に現在のエンジントルク値が燃料切替閾値を超えた場合や、気体燃料の残量が所定値以下である場合等に、エンジン20に供給する燃料を気体燃料から液体燃料に切替える。また、エンジン制御部81は、エンジン始動中に現在のエンジントルク値が燃料切替閾値を下回った場合や、液体燃料の残量が所定値以下である場合等に、エンジン20に供給する燃料を液体燃料から気体燃料に切替える。
【0030】
また、本実施例のエンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルを通電して、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着しているか否かを判定する。具体的には、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに通電したときに、気体燃料圧力センサ75から送信される圧力の情報に基づいて、圧力が変わらない場合には気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していると判定する。一方、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに通電したときに、気体燃料圧力センサ75から送信された圧力の情報に基づいて、圧力が低下した場合には気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していないと判定する。
【0031】
エンジン始動予測部82は、エンジン20が始動されることを予測する。エンジン始動予測部82は、エンジン始動予測手段の一例に対応する。
具体的に、エンジン始動予測部82は、ドア開閉センサ71により検出された車両10のドアの開閉情報に基づいてエンジン20が始動されることを予測する。例えば、エンジン始動予測部82は、エンジン始動前に車両10のドアが開くことを検出した場合にエンジン20が始動されると予測する。エンジン始動予測部82は、エンジン20が始動されることを予測した場合にはエンジン制御部81に通知する。
【0032】
次に、制御装置80による処理の一例について図3および図4のフローチャートを参照して説明する。図3および図4のフローチャートは、例えば、制御装置80であるECUがプログラムを実行することにより実現される。
【0033】
まず、図3のフローチャートを参照して、気体燃料インジェクタ51が固着しているか否かを判定する処理について説明する。図3のフローチャートは、エンジン20が停止している状態において開始される。
S10では、エンジン始動予測部82は、ドア開閉センサ71により検出された車両10のドアの開閉情報に基づいて、エンジン20が始動されるか否かを予測する。エンジン始動予測部82は、ドア開閉センサ71により車両10のドアが開くことが検出された場合にはエンジン20が始動されると予測し、車両10のドアが開くことが検出されない場合にはエンジン20が始動されないと予測する。エンジン20が始動されることを予測した場合にはS11に進み、そうではない場合にはエンジン20が始動されることを予測するまで待機する。
【0034】
S11では、エンジン制御部81は、外気温度とエンジン停止時間とが所定の条件を満たしているか否かを判定する。具体的に、エンジン制御部81は、外気温センサ72により検出された外気温度が所定の温度(第1の温度)よりも低く、かつ計時部74により計測されたエンジン停止時間が所定の時間よりも長いか否かを判定する。本実施例のエンジン停止時間とは、エンジン20が停止されてから、次にエンジン20が始動されると予測されるまでの時間をいう。外気温度とエンジン停止時間とが所定の条件を満たしていない場合にはS12に進み、所定の条件を満たしている場合にはS13に進む。
なお、S11では、外気温センサ72により検出された外気温度が所定の温度(第1の温度)よりも低いか否かのみを判定してもよく、エンジン停止時間が所定の時間よりも長いか否かのみを判定してもよい。
【0035】
S12では、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51が固着していない判定を確定させる。上述したS11において外気温度と所定の温度とを比較するのは、気体燃料インジェクタ51が固着されるのは外気温度が低いときであり、外気温度が高い場合には気体燃料インジェクタ51が固着しないためである。また、上述したS11においてエンジン停止時間と所定の時間とを比較するのは、気体燃料インジェクタ51が固着されるのはエンジン停止時間が長くエンジン20が冷えた状態の場合であり、エンジン停止時間が短く、エンジン20が冷えていない状態では気体燃料インジェクタ51のバルブは固着しないためである。
【0036】
S13では、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51を作動させる前に、気体燃料圧力センサ75により検出された気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力(気体燃料圧力)の情報を取得する。ここで取得した圧力の情報を、作動前圧力Pbとする。
【0037】
S14では、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルを通電することにより気体燃料インジェクタ51を作動させる。このとき、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに一定期間、最大電圧を印加する。エンジン20が複数の気筒である場合には気筒ごと、順番に気体燃料インジェクタ51を作動させる。S14ではエンジン20のクランキング前であるために、クランキングするときのセルモータ30への通電と気体燃料インジェクタ51の電磁コイルへの通電とが重複することによる電圧の低下を防止することができる。
【0038】
S15では、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51を作動させた後に、気体燃料圧力センサ75により検出された気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力(気体燃料圧力)の情報を取得する。ここで取得した圧力の情報を、作動後圧力Paとする。
【0039】
S16では、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51を作動させることにより、気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力(気体燃料圧力)が低下したか否かを判定する。具体的に、エンジン制御部81は、作動後圧力Paから作動前圧力Pbを減算した値が0または所定変動値よりも小さいか否かを判定する。気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力が低下していない場合、すなわち作動後圧力Paから作動前圧力Pbを減算した値が0または所定変動値よりも小さくない場合にはS17に進む。一方、気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力が低下した場合、すなわち作動後圧力Paから作動前圧力Pbを減算した値が0または所定変動値よりも小さい場合にはS18に進む。ここで、所定変動値は、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着せずにエンジン始動に最低限必要な燃料が噴射されるときに発生する気圧変動差としてもよい。
【0040】
ここで、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していない場合、気体燃料インジェクタ51を作動させることにより、気体燃料インジェクタ51から気体燃料が噴射されることにより気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力が一時的に低下する。一方、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着している場合、気体燃料インジェクタ51を作動させたとしても気体燃料インジェクタ51から気体燃料が噴射されないことにより気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力がほとんど変わらない。
【0041】
S17では、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していると判定する。S16からS17に進む場合とは、気体燃料インジェクタ51を作動させたにもかかわらず、気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力が変わらなかった場合であり、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していることから気体燃料が噴射されなかったことを意味する。エンジン制御部81は、気体燃料使用フラグをOFFにして記憶する。
【0042】
S18では、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していないと判定する。S16からS18に進む場合とは、気体燃料インジェクタ51を作動させることにより、気体燃料用デリバリパイプ52内の圧力が低下した場合であり、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していないことから気体燃料が噴射されたことを意味する。エンジン制御部81は、気体燃料使用フラグをONにして記憶する。
【0043】
次に、図4(a)、(b)のフローチャートを参照して、制御装置80がエンジン20を始動する処理について説明する。
図4(a)は、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していないと判定された場合(気体燃料使用フラグがONである場合)にエンジン20を始動する処理を示すフローチャートである。
S20では、エンジン制御部81は、エンジン始動するときの気体燃料の噴射量を通常のエンジン始動時よりも減量した噴射量に決定する。ここでは、上述したS14において気体燃料インジェクタ51を作動させて気体燃料を噴射させていることから、吸気ポート26には気体燃料が充満している。したがって、気体燃料の噴射量を通常のエンジン始動時よりも減量した噴射量にすることにより燃料過多になることを抑制することができる。なお、エンジン制御部81は、予め定められた噴射量(通常のエンジン始動時よりも所定量分を減量した噴射量)として決定してもよく、上述したS15において取得した作動後圧力Paに応じて減量した噴射量を決定してもよい。
【0044】
S21では、エンジン制御部81は、エンジン20のクランキングを開始するとともに気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに通電して気体燃料を噴射する。具体的に、エンジン制御部81は、セルモータ30に通電してクランクシャフト21を回転させるとともに、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに通電してS20で決定した噴射量の気体燃料を噴射させる。
【0045】
S22では、エンジン制御部81は、スロットルバルブ43を全開にする。ここでは、上述したS14において事前に気体燃料インジェクタ51を作動させて気体燃料を噴射させていることから、吸気ポート26には気体燃料が充満している。したがって、スロットルバルブ43を全開にすることにより掃気を促して、適正な混合気になるように調整することができる。エンジン制御部81は、スロットルバルブ43を全開にしてから一定時間経過後、スロットルバルブ43を全閉にするように制御する。なお、エンジン制御部81は、スロットルバルブ43を全開から全閉にする処理を所定回数、繰り返し実行することにより適正な混合気になるように調整してもよい。
【0046】
S23では、エンジン制御部81は、エンジン20の始動が完了したか否かを判定する。エンジン20の始動が完了した場合にはS24に進み、エンジン20の始動が完了していない場合にはS21に戻る。
【0047】
S24では、エンジン制御部81は、エンジン20のクランキングを停止する。S24が終了することにより、図4(a)のフローチャートの処理が終了する。
このように気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していないと判定された場合には、気体燃料インジェクタ51から気体燃料を噴射させることによりエンジン20を始動することができる。
【0048】
図4(b)は、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していると判定された場合(気体燃料使用フラグがOFFである場合)にエンジン20を始動する処理を示すフローチャートである。
S30では、エンジン制御部81は、エンジン20のクランキングを開始するとともに液体燃料インジェクタ61の電磁コイルに通電して液体燃料を噴射する。具体的に、エンジン制御部81は、セルモータ30に通電してクランクシャフト21を回転させるとともに、液体燃料インジェクタ61の電磁コイルに通電して液体燃料を噴射させる。ここでは、上述したS17において気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していると判定されていることから、気体燃料インジェクタ51を作動させずに液体燃料インジェクタ61を作動させて液体燃料を噴射させる。
【0049】
S31では、エンジン制御部81は、エンジン20の始動が完了したか否かを判定する。エンジン20の始動が完了した場合にはS32に進み、エンジン20の始動が完了していない場合にはS30に戻る。
S32では、エンジン制御部81は、エンジン20のクランキングを停止する。
【0050】
S33では、エンジン制御部81は、エンジン20の冷却水の温度が所定の温度(第2の温度)よりも高いか否かを判定する。具体的に、エンジン制御部81は、水温センサ73により検出された冷却水の温度と所定の温度を比較することにより、冷却水の温度が所定の温度よりも高いか否かを判定する。冷却水の温度が所定の温度よりも高い場合にはS34に進み、冷却水の温度が所定の温度以下の場合には冷却水の温度が所定の温度よりも高くなるまで待機する。このようにエンジン20の冷却水の温度と所定の温度とを比較するのは、冷却水の温度が所定の温度よりも高くなることによりエンジン20の熱により気体燃料インジェクタ51のバルブの固着が解消されるためである。
【0051】
S34では、エンジン制御部81は、エンジン20に供給する燃料を液体燃料から気体燃料に切替える。具体的に、エンジン制御部81は、液体燃料インジェクタ61から液体燃料を噴射するのを停止して、気体燃料インジェクタ51から気体燃料を噴射することにより燃料を液体燃料から気体燃料に切替える。S34が終了することにより、図4(b)のフローチャートの処理が終了する。
このように気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していると判定された場合であっても、液体燃料を噴射させることによりエンジン20を始動することができる。
【0052】
なお、上述した図3のフローチャートのS12において気体燃料インジェクタ51が固着していない判定が確定された場合であって、気体燃料を噴射させてエンジン20を始動する場合には、エンジン制御部81は、通常のエンジン始動を行う。具体的に、エンジン制御部81は、エンジン20のクランキングを開始するとともに気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに通電して気体燃料を噴射する。このとき、気体燃料が事前に噴射されておらず、吸気ポート26には気体燃料が充満していないことから、エンジン制御部81は通常のエンジン始動時の噴射量で気体燃料を噴射することにより、エンジン20を始動させることができる。
【0053】
以上のように本実施例によれば、エンジン制御部81は、エンジン始動予測部82によりエンジン20が始動されることが予測された場合に、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルを通電し、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着しているか否かを判定する。したがって、エンジン始動前に気体燃料インジェクタ51のバルブが固着しているか否かを判定することができる。このように、エンジン始動前に気体燃料インジェクタ51のバルブが固着しているか否かを判定することにより、気体燃料インジェクタ51のバルブの固着を判定するための気体燃料インジェクタ51への通電と、エンジン20をクランキングするときの通電とが重複することを防止することができる。すなわち、気体燃料インジェクタ51のバルブの固着を判定するときの気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに印加する電圧が低下することを抑制できる。したがって、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルに印加する電圧を高めることができるので、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着されていた場合であってもバルブを開く力(開弁力)を確保でき、バルブの固着を解消させ易くすることができる。
【0054】
また、本実施例によれば、エンジン始動予測部82は車両10のドアの開閉情報に基づいてエンジン20が始動されることを予測する。ドア開閉センサ71により車両10のドア、特に運転席のドアが開くことを検出することにより、高い確率で運転者が車両10に乗り込んでエンジン20を始動すると予測することができる。
【0055】
また、本実施例によれば、エンジン制御部81は、外気温度が所定の温度よりも低い場合に、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルを通電し、バルブが固着しているか否かを判定する。外気温度が所定の温度以上の場合には気体燃料インジェクタ51のバルブが固着されることはないために、バルブが固着しているか否かの判定を気体燃料インジェクタ51のバルブが固着される可能性がある場合に限定することができる。したがって、外気温度が所定の温度以上の場合には、エンジン始動前に気体燃料インジェクタ51を作動させないことにより気体燃料の消費を抑制することができる。
なお、本実施例では外気温度を用いて所定の温度と比較する場合について説明したが、この場合に限られず、気体燃料インジェクタ51のバルブの温度と連動して変化する温度(例えば、エンジン温度や冷却水の温度等)を検出部70から取得して、取得した温度を用いて所定の温度と比較してもよい。
【0056】
また、本実施例によれば、エンジン制御部81は、エンジン停止時間が所定の時間よりも長い場合に、気体燃料インジェクタ51の電磁コイルを通電し、バルブが固着しているか否かを判定する。エンジン停止時間が所定の時間以下の場合にはエンジン20が冷えておらず気体燃料インジェクタ51が固着されることはないために、バルブが固着しているか否かの判定を気体燃料インジェクタ51のバルブが固着される可能性がある場合に限定することができる。したがって、エンジン停止時間が所定の時間以下の場合には、エンジン始動前に気体燃料インジェクタ51を作動させないことにより気体燃料の消費を抑制することができる。
【0057】
また、本実施例によれば、エンジン制御部81は、エンジンを始動する前に気体燃料インジェクタ51の電磁コイルを通電し、固着していないと判定した場合には、エンジン始動時にスロットルバルブ43を全開にする。事前に気体燃料インジェクタ51を作動させて気体燃料を噴射させることにより、吸気ポート26には気体燃料が充満しているために、エンジン始動時にスロットルバルブ43を全開にすることにより気体燃料の掃気を促して、適正な混合気になるように調整することができる。
【0058】
また、本実施例によれば、エンジン制御部81は、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着していると判定した場合には、液体燃料インジェクタ61によってエンジン20を始動させる。したがって、気体燃料インジェクタ51のバルブが固着している場合であっても、エンジン20を始動させることができる。
【0059】
以上、本発明に係る実施例について説明したが、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
【0060】
上述した実施例では、第1燃料の気体燃料としてCNGを使用し、第2燃料の液体燃料としてガソリン燃料を使用する場合について説明したが、この場合に限られず、他の組み合わせであってもよい。第1燃料の気体燃料として、例えば水素燃料であってもよい。また、第2燃料の液体燃料として、例えば、重油、軽油、灯油等の石油系燃料であってもよく、アルコール類であってもよく、油脂類であってもよい。また、第1燃料と第2燃料とが異なる気体燃料であってもよい。
【0061】
上述した実施例では、エンジン20がバイフューエルエンジンである場合について説明したが、この場合に限られず、第1燃料のみを使用するエンジン、または第2燃料のみを使用するエンジンであってもよい。
上述した実施例では、液体燃料インジェクタ61は、電磁コイルに通電することでバルブを開いて液体燃料を噴射する場合について説明したが、この場合に限られず、他の方式で液体燃料あるいは気体燃料を噴射する燃料噴射手段であってもよい。
【0062】
上述した実施例では、エンジン始動予測部82がドア開閉センサ71により検出された車両10のドアの開閉情報に基づいてエンジン20が始動されることを予測する場合について説明したが、この場合に限られない。
例えば、エンジン始動予測部82は、リモートキーの電波に基づいてエンジン20が始動されることを予測してもよい。具体的に、エンジン始動予測部82は、リモートキーの電波に基づいて運転者が車両に近づいたと判定した場合にエンジン20が始動されると予測してもよく、リモートキーの電波に基づいてドアが開閉された場合にエンジン20が始動されると予測してもよい。
また、例えば、定期的にエンジン20を始動する時間が分かっている場合には、エンジン始動予測部82は、予め始動する時間を記憶しておき、記憶された時間に基づいて(タイマー機能に基づいて)エンジン20が始動されることを予測してもよい。
【0063】
上述した実施例の図3のフローチャートのS11では、外気温度が所定の温度(第1の温度)よりも低く、かつ計時部74により計測されたエンジン停止時間が所定の時間よりも長いか否かを判定する場合について説明したが、この場合に限られない。例えば、所定の時間は、外気温度に関連付けられた時間であってもよい。具体的には、外気温度が低いほど所定の時間が短くなるように関連付けられたテーブルが記憶されており、当該テーブルに基づいて、エンジン停止時間が所定の時間よりも長いか否かを判定してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10:バイフューエル車両(車両) 20:エンジン 43:スロットルバルブ 50:気体燃料供給系 51:気体燃料インジェクタ(インジェクタ、第1の燃料噴射手段) 60:液体燃料供給系 61:液体燃料インジェクタ(第2の燃料噴射手段) 80:制御装置 81:エンジン制御部(制御手段) 82:エンジン始動予測部(エンジン始動予測手段)
図1
図2
図3
図4