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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165726
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】溶接部検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/207 20190101AFI20241121BHJP
   B23K 9/00 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
G01N33/207
B23K9/00 501P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082153
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】坂口 貴士
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 敬之
(72)【発明者】
【氏名】黒田 勇一
(72)【発明者】
【氏名】小寺 壮平
(72)【発明者】
【氏名】菅原 雅秀
(72)【発明者】
【氏名】高縄 直樹
【テーマコード(参考)】
2G055
4E081
【Fターム(参考)】
2G055AA08
2G055BA07
2G055CA06
2G055CA07
2G055FA09
4E081YX05
(57)【要約】
【課題】異材溶接された溶接部材の溶接部におけるバタリング層の有無を確認できる溶接部検査方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る溶接部検査方法は、第1部材11の母材が炭素鋼または低合金鋼であり、第2部材12の母材が耐腐食合金であり、第1部材が、第1部材の母材よりもクロム含有量の高い溶接材料でバタリングされた後、第2部材と本溶接された溶接部材の溶接部検査方法であって、本溶接部13の第1部材側端部から、バタリングによりバタリング層が形成された領域14を超えるまでの範囲を含む溶接部材の表面を被検査領域15とし、被検査領域に硫酸銅水溶液を塗布し、硫酸銅水溶液を塗布した被検査領域における析出銅による着色を確認し、析出銅により最も強く着色された着色領域と、本溶接部との間に、析出銅による着色が現れない領域または着色領域よりも析出銅色が薄い領域が存在するか否かをもって、バタリング層の有無を判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の母材が炭素鋼または低合金鋼であり、
第2部材の母材が耐腐食合金であり、
前記第1部材が、前記第1部材の母材よりもクロム含有量の高い溶接材料でバタリングされた後、前記第2部材と本溶接された溶接部材の溶接部検査方法であって、
本溶接部の第1部材側端部から、前記バタリングによりバタリング層が形成された領域を超えるまでの範囲を含む前記溶接部材の表面を被検査領域とし、
前記被検査領域に硫酸銅水溶液を塗布し、
前記硫酸銅水溶液を塗布した前記被検査領域における析出銅による着色を確認し、
前記析出銅により最も強く着色された着色領域と、前記本溶接部との間に、前記析出銅による着色が現れない領域または前記着色領域よりも析出銅色が薄い領域が存在するか否かをもって、バタリング層の有無を判定する溶接部検査方法。
【請求項2】
前記硫酸銅水溶液の塗布前に、前記被検査領域を清浄化し、
前記バタリング層の有無を判定した後に、前記被検査領域から銅を除去する請求項1に記載の溶接部検査方法。
【請求項3】
前記析出銅の除去後、前記被検査領域に銅検出試薬を塗布し、前記銅検出試薬による着色を確認することをもって、銅の残存有無を判定する請求項2に記載の溶接部検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異材溶接された溶接部材の溶接部の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボイラを構成する伝熱管(ボイラチューブ)、配管などでは、母材の異なる部材が異材溶接されることがある。異材溶接では、母材の希釈防止、溶接割れ、脆化などを防止するため、一方の部材にバタリングしてバタリング層を形成した後、該バタリング層と他方の部材とを本溶接する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-192579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バタリングした後に本溶接して得られた溶接部には、通常、バタリング層が残存しているはずである。しかしながら、本発明者らが調査した結果によると、事前のバタリング層の形成が十分でない場合など、本溶接後にバタリング層が残存していない溶接部があることが確認されている。
【0005】
バタリング層が残存していない溶接部は、割れなどの損傷が発生する恐れがある。そのため、バタリングを経て本溶接された溶接部は、使用前に、バタリング層の有無を確認する必要がある。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、異材溶接部におけるバタリング層の有無を確認できる溶接部検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の溶接部検査方法は以下の手段を採用する。
本開示の一態様は、第1部材の母材が炭素鋼または低合金鋼であり、第2部材の母材が耐腐食合金であり、前記第1部材が、前記第1部材の母材よりも鉄含有量の低い溶接材料でバタリングされた後、前記第2部材と本溶接された溶接部材の溶接部検査方法であって、本溶接部の第1部材側端部から、前記バタリングによりバタリング層が形成された領域を超えるまでの範囲にある前記溶接部材の表面を被検査領域とし、前記被検査領域に硫酸銅水溶液を塗布し、前記硫酸銅水溶液を塗布した前記被検査領域における析出銅による着色を確認し、前記析出銅により最も強く着色された着色領域と、前記本溶接部との間に、前記析出銅による着色が現れない領域または前記着色領域よりも析出銅色が薄い領域が存在するか否かをもって、前記バタリング層の有無を判定する溶接部検査方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記開示によれば、硫酸銅水溶液を用いることで異材溶接された溶接部材の溶接部におけるバタリング層の有無を確認できる。上記開示によれば、バタリング層の存在を目視可能であることから、簡便に素早く確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る溶接部材の製造手順を示す図である。
図2】第1実施形態に係る溶接部材の断面模式図である。
図3】硫酸銅水溶液塗布後の図2の外周面の模式図を示す。
図4】第2実施形態に係る溶接部検査方法の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(溶接部材)
本開示に係る溶接部検査方法を適用する溶接部材について説明する。溶接部材は、例えば、ボイラを構成する伝熱管(ボイラチューブ)、配管など機器の一部等であってよい。
【0011】
本開示に係る溶接部検査方法は、母材の異なる第1部材と第2部材とが溶接金属(本溶接部)を介して異材溶接された溶接部材の溶接部を検査対象とする。溶接部材は、第1部材と本溶接部との間に、バタリング層(またはバタリング層が形成された領域)を有する。
【0012】
第1部材の母材は、炭素鋼または低合金鋼である。「炭素鋼」は、鉄と炭素の合金であり、炭素含有量が通常0.02~約2質量%の範囲の鋼である。炭素鋼は、少量のケイ素、マンガン、りん、硫黄などを含んでもよい。「低合金鋼」は、総量が5質量%以下で合金元素を含む鋼である。合金元素は、クロム、ニオブ、バナジウム、銅、またはリン等である。低合金鋼は、1Cr鋼,2Cr鋼などであってよい。
【0013】
第2部材の母材は、耐腐食合金である。耐腐食合金は、第1部材よりもクロムの含有量が高い。「耐腐食合金」は、第1部材よりもクロム含有量の高い低合金鋼及びオーステナイトステンレス鋼、ニッケル系合金等であってよい。オーステナイトステンレス鋼は、SUS304,SUS303,SUS316等である。ニッケル系合金は、インコネル合金、インコロイ合金、ハステロイ合金等である。
【0014】
溶接金属(本溶接部)の母材は、第2部材の母材と同じまたは同系統の金属材料であってよい。
【0015】
図1に、溶接部材の製造手順のイメージ図を示す。
まず、拘束のない状態で第1部材1の端部に金属を溶着(バタリング)させ、バタリング層2を形成する(図1(a)参照)。
【0016】
バタリングには、第1部材1よりもクロム含有量の高い溶接材料が用いられる。溶接材料には、第1部材1と第2部材3とを本溶接する溶接金属4または第2部材3の母材と同系統の材料を用いるとよい。バタリングは、肉盛溶接または溶射などにより実施され得る。バタリングでは、所定の大きさ(長さ、厚さ)のバタリング層2が形成される。形成されたバタリング層2には、突き合わせ溶接のための開先が加工される。
【0017】
次に、第2部材3と、バタリングにより第1部材1に形成されたバタリング層2と、を突き合わせ、拘束がある状態で本溶接する(図1(b)および図1(c)参照)。これにより、溶接金属(本溶接部4)を介して第1部材1と第2部材3とが接合された溶接部材5が得られる。
【0018】
上記手順で製造された溶接部材5では、通常、第1部材1と本溶接部4との間にバタリング層2が残存する。しかしながら、バタリング施工時の肉盛溶接または溶射などによる入熱の影響や本溶接時に生じる希釈の影響によってバタリング層2の母材の一部または全部が消失する場合もあり得る。その場合、図1の符号2は、「バタリング層が形成された領域」と理解すればよい。「バタリング層が形成された領域」は、バタリング層の有無に限らず、バタリング層が存在したことのある領域であればよい。
【0019】
〔第1実施形態〕
以下に、本開示に係る溶接部検査方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
(溶接部検査方法)
本実施形態では、被検査領域15に硫酸銅水溶液を塗布し、析出銅による着色を確認し、バタリング層の有無を判定する。
【0021】
図2は、検査対象である溶接部材の断面模式図である。図2の溶接部材10では、管状の第1部材11と管状の第2部材12とが本溶接部13を介して突き合わせ溶接(裏波溶接)されている。
【0022】
図2において、符号14は、バタリング層が形成された領域を示す。バタリング層が形成された領域14は、本溶接部13(裏波ビード)の第1部材側端部から、管軸方向に沿って第1部材側へバタリング層の長さ(L)分だけ離れた位置までである。裏波ビード(本溶接部13)の端部は目視で確認可能である。
【0023】
バタリングにより管軸方向に所定長さ(L)のバタリング層が形成されたことがある溶接部材においてバタリング層が全て残存している場合、「バタリング層が形成された領域」は、バタリング層の所定長さ(L,図2の両矢印の範囲)に対応する。
【0024】
被検査領域15は、本溶接部13の第1部材側端部から、バタリング層が形成された領域14を超えるまでの範囲を含む、溶接部材の表面である。
【0025】
例えば、施工されたバタリング層の管軸方向長さ(バタリング層が形成された領域14の距離)が10~20mmであれば、本溶接部13の第1部材側端部から、第1部材11側に50~100mm離れた位置までを被検査領域15に設定するとよい。被検査領域15は、管状の溶接部材10の外周面側だけに限定されず、内周面側にあってもよい。
【0026】
鉄を多く含む第1部材の表面に硫酸銅水溶液を塗布すると、以下の化学反応が生じる。
Fe+CuSO→FeSO+Cu
鉄は銅と置換され、溶解して緑色の硫酸鉄溶液となり、銅は赤みを帯びた金属銅として第1部材の表面に析出する。これにより、第1部材表面が析出銅色に着色される。
【0027】
一方、バタリング層の母材(溶接材料)は、第1部材よりも鉄含有量が低い。そのため、バタリング層の表面に硫酸銅水溶液を塗布しても、バタリング層表面に析出銅色は現れない、または、着色されたとしても第1部材表面よりも析出銅色が薄い。
【0028】
図3に、硫酸銅水溶液塗布後の図2の外周面の模式図を示す。
硫酸銅水溶液塗布後の被検査領域において、第1部材11に相当する表面は、析出銅により最も強く着色される(着色領域16)。本溶接部13と着色領域16との間に、析出銅による着色が現れないかまたは着色領域16よりも析出銅色が薄い領域(非着色領域17)の存在が確認されることで、溶接部材10にバタリング層が残存していると判定できる。着色領域16と非着色領域17とは目視で色の違いを識別できる。
【0029】
実際に、インコロイ925でバタリングしたBW&6330製短管(第1部材)と、インコロイ925(第2部材)とを、インコロイ925を用いて本溶接した溶接部材の被検査領域に、硫酸銅(II)20%(w/v)脱イオン(純水)水溶液(CuSO・5HO)を塗布したところ、図3に示すように着色領域16と非着色領域17を目視で確認できた。なお、非着色領域17は、析出銅により着色されていなかった。
【0030】
図3に示すように、ノギス18などにより非着色領域17の管軸方向の長さを計測し、バタリングにより形成したバタリング層の管軸方向の長さと比較すると、バタリング層の残存率を確認できる。
【0031】
〔第2実施形態〕
図4に、本実施形態に係る溶接部検査方法の操作手順を示す。本実施形態に係る溶接部検査方法は、(S1)清浄化、(S2)硫酸銅水溶液塗布、(S3)バタリング層の有無判定、および(S4)銅除去の工程を順に備えている。
【0032】
(S1)清浄化
溶接部材表面の被検査領域から異物を除去し、被検査領域を清浄化する。「異物」とは、硫酸銅水溶液が溶接部材の表面を湿らせるのを妨げる物質である。異物は、例えば、ミルスケール、酸化物、油脂分、汚染物質(有機物等)である。
【0033】
異物の除去には、清浄剤または脱脂剤を使用できる。例えば、Magnaflux社製のSKC-Sを溶接部材表面の被検査領域に噴霧した後、清浄布で拭きとることで異物を除去する。例えば、SKC-Sを染み込ませた清浄布で溶接部材表面の被検査領域を拭くことで異物を除去する。
【0034】
異物除去後、溶接部材表面の被検査領域を乾燥させる。例えば、異物除去にSKC-Sを使用した場合、5分以上放置することで溶接部材表面は乾燥され得る。
【0035】
(S2)硫酸銅水溶液塗布
第1実施形態と同様に、溶接部材表面の被検査領域に硫酸銅水溶液を塗布する。塗布には、硫酸銅水溶液に浸した綿棒を使用できる。塗布は刷毛、スプレーなどで実施されてもよい。硫酸銅水溶液は、第1部材に塗布した場合に、第1部材表面が析出銅により着色される濃度である。例えば、硫酸銅(II)20%(w/v)脱イオン(純水)水溶液を使用できる。塗布回数は一回でもよい。
【0036】
なお、バタリング溶接直後に溶接部の検査を実施する場合、溶接部材表面の被検査領域が常温程度に冷えたことを確認した後、硫酸銅水溶液を塗布するとよい。硫酸銅水溶液を塗布する際の溶接部材表面の被検査領域は、硫酸銅水溶液が蒸発して無水物とならない温度、例えば、0℃以上100℃未満であるとよい。
【0037】
(S3)バタリング層の有無判定
第1実施形態と同様に、被検査領域における析出銅による着色を確認し、本溶接部と着色領域との間に非着色領域が存在するか否かをもってバタリング層の残存有無を判定する。
【0038】
本溶接部と着色領域との間に非着色領域が周方向に均一の幅で確認できた場合、バタリング層は残存していると判定される。本溶接部と着色領域との間に非着色領域が周方向に均一の幅で確認できなかった場合(本溶接部と着色領域が隣接している場合)、バタリング層は残存していないと判定される。「均一」とは、同一の幅値に限定されるものではなく、目視で同程度の幅であると認識できる程度の誤差を許容する。
【0039】
非着色領域と着色領域とは色種または色の強度が異なる。よって両者は目視により区別可能である。非着色領域で析出銅による薄い着色が確認される場合、非着色領域と着色領域とで色の違いが最も大きくなるタイミングでバタリング層の有無を判定するとよい。非着色領域と着色領域との色差が小さい場合、硫酸銅水溶液の濃度または着色を確認する時間等を調整するとよい。
【0040】
被検査領域において析出銅による着色(着色領域の存在)が確認できない場合、塗布に使用した硫酸銅水溶液が着色剤として機能していない可能性がある。そのため、別試験を実施し、使用した硫酸銅水溶液が鉄との反応により銅を析出可能か否か確認する。別試験では、組成が既知であり、適切に清浄化されていることが確認された炭素鋼または低合金鋼の試験片に、機能を確認したい硫酸銅水溶液を塗布し、着色を確認する。
【0041】
試験片表面に析出銅による着色が確認されない場合、硫酸銅水溶液に問題があると判断できるため、別の硫酸銅水溶液を用意して(S2)硫酸銅水溶液の塗布からやり直す。
試験片表面に析出銅による着色が確認された場合、硫酸銅水溶液に問題がないと判断することができる。
【0042】
(S4)銅除去
バタリング層の有無を確認した後、溶接部材表面の被検査領域から銅を除去する。着色領域に析出した銅メッキは、研磨により物理的に除去できる。研磨には、スコッチブライド(商標)などの研磨パッドおよびワイヤブラシなどを使用できる。硫酸銅水溶液が塗布された着色領域以外の領域(非着色領域等)も着色領域と同様に研磨して、硫酸銅水溶液由来の銅を除去する。
【0043】
本実施形態に係る溶接部検査方法は、(S4)銅除去の後、(S5)銅残存有無確認の工程を備えていてもよい。
【0044】
(S5)銅残存有無判定
上記(S4)銅除去の後、溶接部材表面の被検査領域に銅検出試薬を塗布し、銅検出試薬による着色を確認することをもって、銅の残存有無を確認する。銅が残存していることが確認された場合、銅の残存が確認されなくなるまで上記(S4)と(S5)を繰り返すとよい。銅が残存していないことが確認された場合、溶接部材表面の被検査領域を布でふき取りして、検査を終了する。
【0045】
銅検出試薬は、アンモニア系溶液であってよい。アンモニア系溶液が銅に接触すると青色の錯体が形成される。被検査領域に銅が残存している場合、溶接部材表面は青色または不可青色に着色される。この着色は目視で確認できる。
【0046】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載の溶接部検査方法は、例えば以下のように把握される。
【0047】
本開示の一態様に係る溶接部検査方法は、第1部材(11)の母材が炭素鋼または低合金鋼であり、第2部材(12)の母材が耐腐食合金であり、前記第1部材が、前記第1部材の母材よりも鉄含有量の低い溶接材料でバタリングされた後、前記第2部材と本溶接された溶接部材(10)の溶接部検査方法であって、本溶接部(13)の第1部材側端部から、前記バタリングによりバタリング層が形成された領域(14)を超えるまでの範囲を含む前記溶接部材の表面を被検査領域(15)とし、(S2)前記被検査領域に硫酸銅水溶液を塗布し、(S3)前記硫酸銅水溶液を塗布した前記被検査領域における析出銅による着色を確認し、前記析出銅により最も強く着色された着色領域(16)と、前記本溶接部との間に、前記析出銅による着色が現れない領域(17)または前記着色領域よりも析出銅色が薄い領域(17)が存在するか否かをもって、前記バタリング層の有無を判定する。
【0048】
第1部材に形成されたバタリング層と第2部材とを、本溶接部を介して異材溶接した場合、得られた溶接部材の溶接部からバタリング層が消失することがある。本開示の第1態様によれば、硫酸銅水溶液を用いることで溶接部におけるバタリング層の有無を判定できる。
【0049】
硫酸銅水溶液は、バタリング層が形成された領域と、該領域に隣接する第1部材の表面に塗布される。
【0050】
硫酸銅水溶液が塗布された被検査領域に鉄が多く存在すると、鉄が銅に置換され、赤褐色の銅が析出する。よって、第1部材に硫酸銅水溶液を塗布すると、第1部材表面が着色される。
【0051】
一方、バタリング層は、第1部材よりも鉄含有量が少ない。そのためバタリング層に硫酸銅水溶液を塗布しても、着色されないか、または、着色されにくいため第1部材表面に比べ着色が薄い。よって、色の違いにより第1部材とバタリング層とを目視で区別できる。
【0052】
バタリング層が残存している場合、着色領域と本溶接部との間に、非着色領域を確認できる。バタリング層が残存していない場合、着色領域と本溶接部とが隣接して見えるか、または、着色領域と本溶接部との間の距離が、第1部材にバタリングされたバタリング層の長さよりも短く見える。
【0053】
本開示の一態様によれば、目視でバタリング層の有無を判定できるため、現場で簡単に素早く溶接部の検査を実施できる。硫酸銅水溶液は安価であるため、検査費用の増加を抑制できる。
【0054】
異材溶接時に施工されるバタリング層の大きさは、主蒸気配管などの大口径配管よりも、スーツブロワランスチューブなどの小口径配管の方が小さい場合が多い。施工されたバタリング層が小さいほど、バタリング層の残存確認がより重要である。
【0055】
本開示の第2の態様に係る溶接部検査方法は、前記第1の態様において、前記硫酸銅水溶液の塗布前に、(S1)前記被検査領域を清浄化し、前記バタリング層の有無を判定した後に、(S4)前記被検査領域から銅を除去する。
【0056】
硫酸銅水溶液を塗布する前に、被検査領域を清浄化することで、異物に邪魔されることなく溶接部材表面を硫酸銅水溶液で湿らせることができる。また、清浄化することで、異物に由来した着色を避けられるため、より正確にバタリング層の有無を判定できる。
【0057】
硫酸銅水溶液を塗布する前に、被検査領域の表面温度が所定温度範囲であることを確認するとよい。所定温度範囲は、硫酸銅水溶液が凍結せず、かつ蒸発しない温度の範囲である。これにより、塗布された硫酸銅水溶液が凍結する、または蒸発して無水物になることを避けられるため、析出銅による着色も阻害されない。
【0058】
バタリング層の存在有無を判定した後、被検査領域から析出銅を除去することで、残留銅に起因したはんだ脆性の発生を抑制できる。析出銅は、研磨パッド等で薄く研磨することで容易に除去できる。
【0059】
本開示の第3の態様に係る溶接部検査方法は、前記第2の態様において、(S6)前記析出銅の除去後、前記被検査領域に銅検出試薬を塗布し、銅検出試薬による着色を確認することをもって、銅の残存有無を判定する。
【0060】
銅除去工程の後、銅検出試薬を用いて銅の残留有無を確認することで、より確実にはんだ脆性を防止できる。
【符号の説明】
【0061】
1,11 第1部材
2 バタリング層
3,12 第2部材
4,13 本溶接部(溶接金属)
5,10 溶接部材
14 バタリング層が形成された領域
15 被検査領域
16 着色領域
17 非着色領域(析出銅による着色が現れない領域,前記着色領域よりも析出銅色が薄い領域)
18 ノギス
図1
図2
図3
図4