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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165729
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】鉄道車両用密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20241121BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20241121BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20241121BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20241121BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20241121BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C33/80
F16J15/3232 201
F16J15/447
F16J15/3256
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082158
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横瀬 諒介
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE16
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006CA01
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA10
3J042DA20
3J043AA16
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA02
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA01
3J216AA12
3J216AA14
3J216AB12
3J216BA30
3J216CA02
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC35
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
3J216GA03
(57)【要約】
【課題】従来技術に係る密封装置に比較して、弾性部の摩耗を低減できる密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置10は、内側部材21に固定される環状の第1シール部11と、外側部材22に固定される環状の第2シール部12とを備え、第1シール部11は、第1筒状部111と、環状のフランジ112と、第2筒状部113とを備え、第2シール部12は、剛性材料から形成された剛性部121と、弾性材料から形成された弾性部122とを備え、弾性部122は、剛性部121に支持された環状の基部128からフランジ112に向けて突出する少なくとも1つのダストリップ129と、基部128から第1筒状部111に向けて突出するシールリップ130とを備え、少なくとも1つのダストリップ129における第1方向の端部と中心軸との距離は、ダストリップ129における第2方向の端部と中心軸との距離よりも大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する内側部材と外側部材とにより鉄道車両の車軸を支持する軸受に利用され、前記内側部材と前記外側部材との間の環状の隙間を密封する鉄道車両用密封装置であって、
前記内側部材に固定される環状の第1シール部と、
前記外側部材に固定される環状の第2シール部とを備え、
前記第1シール部は、
前記内側部材に固定される第1筒状部と、
前記第1筒状部において当該鉄道車両用密封装置の中心軸に沿う第1方向の端部に連結されて、前記第1筒状部の外周面から外側に突出する環状のフランジと、
前記フランジの外周縁に連結され、当該フランジに対して前記第1方向の反対の第2方向に突出する第2筒状部とを備え、
前記第2シール部は、
剛性材料から形成された剛性部と、
弾性材料から形成された弾性部とを備え、
前記弾性部は、
前記剛性部に支持された環状の基部と、
前記基部から前記フランジに向けて突出する少なくとも1つのダストリップと、
前記基部から前記第1筒状部に向けて突出するシールリップとを備え、
少なくとも1つの前記ダストリップにおける前記第1方向の端部と前記中心軸との距離は、前記少なくとも1つの前記ダストリップにおける前記第2方向の端部と前記中心軸との距離よりも大きい、
鉄道車両用密封装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのダストリップは、
第1ダストリップと、
前記第1ダストリップの内側に位置する第2ダストリップとを含む、
請求項1に記載の鉄道車両用密封装置。
【請求項3】
前記第1ダストリップにおける前記第1方向の端部と前記中心軸との距離は、前記第1ダストリップにおける前記第2方向の端部と前記中心軸との距離よりも大きい、請求項2に記載の鉄道車両用密封装置。
【請求項4】
前記第2ダストリップにおける前記第1方向の端部と前記中心軸との距離は、前記第2ダストリップにおける前記第2方向の端部と前記中心軸との距離よりも大きい、請求項2に記載の鉄道車両用密封装置。
【請求項5】
前記シールリップにおける前記第1方向の端部と前記中心軸との距離は、前記シールリップにおける前記第2方向の端部と前記中心軸との距離よりも大きい、請求項1に記載の鉄道車両用密封装置。
【請求項6】
前記第2筒状部における前記第1方向の端部と前記中心軸との距離は、前記第2筒状部における前記第2方向の端部と前記中心軸との距離よりも小さい、請求項1に記載の鉄道車両用密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両に使用される軸受において、当該軸受の内側部材と外側部材との間の空間を密封する密封装置が用いられてきた。当該密封装置は、軸受の内部から外部へのグリースの漏れを抑制するシールリップと、軸受の外部から内部への異物の侵入を抑制するダストリップとを備えることがある。
【0003】
例えば、特許文献1は、環状の内側シール部材と、環状の外側シール部材とを備え、当該外側シール部材が弾性部を備える密封装置を開示している。当該密封装置において、当該弾性部は、内側シール部材に備わるスリーブの外周面に対して突出するシールリップと、内側シール部材のフランジに対して突出するダストリップとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-74108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に係る密封装置においては、シールリップがスリーブの外周面に対して摺動可能に接触し、ダストリップがフランジに対して摺動可能に接触する。この結果、密封装置の内部に侵入した異物が排出されにくいという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、従来技術に係る密封装置に比較して、内部に侵入した異物が排出されやすい密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好適な態様に係る鉄道車両用密封装置は、相対的に回転する内側部材と外側部材とにより鉄道車両の車軸を支持する軸受に利用され、前記内側部材と前記外側部材との間の環状の隙間を密封する鉄道車両用密封装置であって、前記内側部材に固定される環状の第1シール部と、前記外側部材に固定される環状の第2シール部とを備え、前記第1シール部は、前記内側部材に固定される第1筒状部と、前記第1筒状部において当該鉄道車両用密封装置の中心軸に沿う第1方向の端部に連結されて、前記第1筒状部の外周面から外側に突出する環状のフランジと、前記フランジの外周縁に連結され、当該フランジに対して前記第1方向の反対の第2方向に突出する第2筒状部とを備え、前記第2シール部は、剛性材料から形成された剛性部と、弾性材料から形成された弾性部とを備え、前記弾性部は、前記剛性部に支持された環状の基部と、前記基部から前記フランジに向けて突出する少なくとも1つのダストリップと、前記基部から前記第1筒状部に向けて突出するシールリップとを備え、少なくとも1つの前記ダストリップにおける前記第1方向の端部と前記中心軸との距離は、前記少なくとも1つの前記ダストリップにおける前記第2方向の端部と前記中心軸との距離よりも大きい、鉄道車両用密封装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来技術に係る密封装置に比較して、弾性部の摩耗を低減できる密封装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】密封構造100の構成を例示する断面図。
図2】密封装置10の構成を例示する断面図。
図3】密封装置10の構成を例示する断面図。
図4】剛性部121の斜視図。
図5】弾性部122の詳細図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1:第1実施形態
以下、図1図5を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る密封装置10を含む密封構造100の構成について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る密封装置10と、当該密封装置10が使用される転がり軸受20を含む密封構造100の構成を例示する断面図である。転がり軸受20は、一例として、鉄道車両用の軸受である。また、転がり軸受20は、一例として、RCT(Rotating End Cap Tapered Roller)(登録商標)軸受である。しかし、転がり軸受20は、RCT軸受に限定されない。例えば転がり軸受20は、RCC(Rotating End Cap Cylindrical Roller)(登録商標)軸受、玉軸受、針軸受等の他の転がり軸受であってもよい。
【0012】
転がり軸受20の中央には、車軸30が位置する。なお、以下の説明においては、車軸30の中心軸Cを想定する。中心軸Cは車軸30の中心軸であると同時に、後述のように、密封装置10の中心軸でもある。転がり軸受20は、中心軸Cを中心とする回転対称な形状を有する。車軸30は、中心軸Cを中心として回転可能である。
【0013】
また、中心軸Cに沿う一方向をC1方向と表記し、C1方向とは反対の方向をC2方向と表記する。C1方向は「第1方向」の一例であり、C2方向は「第2方向」の一例である。更に、中心軸Cを中心とした任意の直径の仮想円における円周に沿う方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。径方向において中心軸Cに向かう方向を「内側」と表記し、中心軸Cとは反対に向かう方向を「外側」と表記する。
【0014】
転がり軸受20は、相対的に回転する内側部材21と外側部材22とを備える。具体的には、内側部材21が回転する一方で、外側部材22は、転がり軸受20が設置される、図示しない筐体に固定される。内側部材21と外側部材22とは、中心軸Cを中心とする回転対称な形状を有する。内側部材21の内部には、車軸30が挿入される。外側部材22は、内側部材21の外側に、環状の隙間23を挟んで配置される。また、転がり軸受20は、内側部材21と外側部材22との間の当該環状の隙間23において、周方向に配置される複数のローラー24と、ローラー24を定位置に保持する保持器25とを備える。内側部材21は、車軸30に固定されており、車軸30の回転に伴って、中心軸Cを中心にして回転する。保持器25は、外側部材22に固定される。
【0015】
密封装置10は、ローラー24及び保持器25に対して、C1方向に位置する。密封装置10は、中心軸Cを中心とする回転対称な形状を有する。密封装置10は、内側部材21と外側部材22との間の環状の隙間23を密封する。隙間23は、密封装置10によって、空間S1と空間S2とに仕切られる。空間S1は大気に開放され、空間S2にはグリースが充填される。密封装置10の作用により、空間S2から、空間S1へのグリースの流出が防止又は低減される。また、密封装置10の作用により、空間S1から空間S2への異物の流入が防止又は低減される。ここで「異物」とは、例えば塵埃又は液体である。
【0016】
密封装置10は、内側部材21に固定される環状の第1シール部11と、外側部材22に固定される環状の第2シール部12とを備える。第1シール部11は、剛性材料から形成される。また、第2シール部12は、剛性材料から形成された剛性部121と、弾性材料から構成された弾性部122とを備える。剛性材料とは、例えば金属材料である。具体的には、剛性材料としては、ステンレス鋼、SPCC(Steel Plate Cold Commercial)又はSPHC(Steel Plate Hot Commercial)等が例示される。また、弾性材料とは、例えば任意のゴム材料である。具体的には、弾性材料としては、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(SR)、アクリルゴム(ACM)、ウレタンゴム(U)、ポリウレタンゴム(PUR)、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)又はフッ素ゴム(FKM)等が例示される。弾性部122は、剛性部121に支持される。剛性部121は、環状の取付溝22Aに固定される。取付溝22Aは、外側部材22の内周面221に形成された切欠部である。すなわち、密封装置10は、剛性部121の外周面123が、外側部材22の内周面221に接触した状態で、環状の隙間23に固定される。
【0017】
図2及び図3は、本実施形態に係る密封装置10の構成を例示する断面図である。なお、図2は、後述の突出部分126を含む断面を示す断面図である。一方で、図3は、後述の延長部分127を含む断面を示す断面図である。
【0018】
第1シール部11は、第1筒状部111と、環状のフランジ112と、第2筒状部113とを備える。第1筒状部111と、環状のフランジ112と、第2筒状部113とは一体に構成される。例えば、金属製の板状部材をプレス加工することで第1シール部11が製造される。したがって、第1筒状部111とフランジ112と第2筒状部113とにおいて板厚は実質的に共通する。ただし、別体で構成された複数の部分を相互に連結することで第1シール部11が構成されてもよい。
【0019】
第1筒状部111は、内側部材21に固定される。固定の方法は、例えば締まり嵌めであってよい。フランジ112は、第1筒状部111におけるC1方向の端部E1に連結される。また、フランジ112は第1筒状部111の外周縁から外側に突出する。第2筒状部113はフランジ112の外周縁に連結される。また、第2筒状部113はフランジ112に対してC2方向に突出する。
【0020】
第1筒状部111は円筒状の部分である。一方で、第2筒状部113は、C2方向に向けて拡径するテーパー状の部分である。具体的には、第2筒状部113におけるC1方向の端部E2と中心軸Cとの距離D2は、C2方向の端部E3と中心軸Cとの距離D3よりも小さい。換言すれば、第2筒状部113は、中心軸Cに対して傾斜する傾斜面を有する。第2筒状部113がC2方向に向けて拡径するテーパー状であることにより、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物が、重力によって当該空間の出口方向に移動しやすくなる。また、内側部材21と外側部材22とが相対的に回転した場合に、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物は、遠心力によって、第2筒状部113の内周面115をC2方向に移動しやすくなる。これらの結果、当該異物は、密封装置10から排出されやすくなる。ただし、第2筒状部113が円筒状である構成も、本開示の範囲には包含される。
【0021】
また、第1筒状部111のC1方向の端部E1と中心軸Cとの距離D1は、第2筒状部113のC1方向の端部E2と中心軸Cとの距離D2よりも小さい。換言すれば、第1筒状部111の外径は、第2筒状部113のいずれの箇所の内径をも下回る。すなわち、第1筒状部111は第2筒状部113の内側に位置する。具体的には、第1筒状部111の外周面114と第2筒状部113の内周面115とは、相互に間隔をあけて対向する。すなわち、第1筒状部111と第2筒状部113との間には環状の空間が形成される。
【0022】
フランジ112は、第1筒状部111と第2筒状部113とを相互に連結する。具体的には、フランジ112は、第1筒状部111におけるC1方向の端部E1と、第2筒状部113におけるC1方向の端部E2とを相互に連結する。すなわち、フランジ112は、第1筒状部111におけるC1方向の端部E1から径方向の外側に突出する環状部分、又は、第2筒状部113におけるC1方向の端部E2から径方向の内側に突出する環状部分とも表現される。
【0023】
第2シール部12は、上記のように剛性部121と弾性部122とを備える。図4は、剛性部121の斜視図である。剛性部121は、円筒部分124と、円環部分125と、複数の突出部分126と、複数の延長部分127とを備える。
【0024】
円筒部分124と、円環部分125と、複数の突出部分126と、複数の延長部分127とは一体に構成される。例えば、金属製の板状部材をプレス加工することで剛性部121が製造される。したがって、円筒部分124と円環部分125と複数の突出部分126と複数の延長部分127とにおいて、板厚は実質的に共通する。ただし、別体で構成された複数の部分を相互に連結することで剛性部121が構成されてもよい。
【0025】
円筒部分124は、外側部材22に固定される円筒状の部分である。円筒部分124は、外側部材22の取付溝22Aの内面に締まり嵌めによって嵌め込まれる。円環部分125は、円筒部分124におけるC1方向の端部E4から径方向の内側に突出する円環状の部分である。突出部分126は、円環部分125の内周縁E5からC1方向に突出する。延長部分127は、円環部分125の内周縁E5から径方向の内側に突出する。
【0026】
円筒部分124のC2方向の端部E6は、径方向外側に広がったフックとして形成されている。端部E6は、取付溝22Aに形成される凹部にはめ込まれる。
【0027】
円環部分125は、環状の外周部分と、外周部分の内側に位置する内周部分とを含む。内周部分は、複数の突出部分126と複数の延長部分127とに区分される。各突出部分126と各延長部分127とは、周方向に交互に配列する。各突出部分126は、外周部分の内周縁からC1方向に折曲げられた部分である。各延長部分127は、外周部分から中心軸Cに向かって連続する部分である。
【0028】
複数の突出部分126の各々は、等間隔に設けられることが好適である。しかし、当該複数の突出部分126の各々は、等間隔に設けられなくてもよい。同様に、複数の延長部分127の各々は、等間隔に設けられることが好適である。しかし、当該複数の延長部分127の各々は、等間隔に設けられなくてもよい。また、図4に示される剛性部121においては、8つの突出部分126及び8つの延長部分127が設けられているが、突出部分126及び延長部分127の個数は、8つに限定されない。
【0029】
図2及び図3に示されるように、弾性部122は、基部128と、ダストリップ129と、シールリップ130とを備える。図5は、弾性部122の詳細図である。
【0030】
基部128は、剛性部121に支持される。基部128は、剛性部121のうち円環部分125を被覆する第1基部131と、突出部分126を被覆する第2基部132と、延長部分127を被覆する第3基部133とを備える。また、第2基部132の外周面134は、第2筒状部113の内周面115と対向する。
【0031】
図2及び図3に示されるように、ダストリップ129は、基部128からフランジ112に向けて突出する。また、図2及び図3に示される例において、ダストリップ129は、第1ダストリップ129Aと第2ダストリップ129Bとを備える。密封装置10は複数のダストリップ129を備えることで、転がり軸受20の内部への異物の侵入をより強力に低減できる。ただし、ダストリップ129が1つのみの構成、及びダストリップ129が3つ以上の構成も、本開示の範囲には包含される。「ダストリップ129が1つのみの構成」の一例として、第1ダストリップ129A及び第2ダストリップ129Bのうち一方が省略された構成が挙げられる。
【0032】
第1ダストリップ129Aは、基部128に含まれる第2基部132からフランジ112に向けて突出する。
【0033】
第1ダストリップ129Aとフランジ112とは非接触の状態となっている。ここで「非接触の状態」とは、第1ダストリップ129Aとフランジ112とが離間した状態、又は、公差が最大のときの第1ダストリップ129Aとフランジ112との締め代が0の状態である。第1ダストリップ129Aとフランジ112とが非接触の状態となっていることで、第1ダストリップ129Aを挟んで内側と外側との圧力差、延いては、空間S1と空間S2との圧力差が抑制される。また、第1ダストリップ129Aとフランジ112とは非接触の状態となっているものの、ラビリンス効果によって、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に異物が侵入しにくくなる。ここで「ラビリンス効果」とは、第1ダストリップ129Aよりも内側の空間が、迷路のように入り組んだ流路となっていることで、第1ダストリップ129Aから内側に漏れ出ようとする流体の圧力損失が大きくなり、漏れ量が減少する効果のことである。
【0034】
また、図5に示されるように、第1ダストリップ129Aは、中心軸Cに対して傾斜する傾斜面を有する。より詳細には、第1ダストリップ129AにおけるC1方向の端部E7と中心軸Cとの距離D7は、第1ダストリップ129AにおけるC2方向の端部E8と中心軸Cとの距離D8よりも大きい。第1ダストリップ129Aの内周面137AがC1方向に向けて拡径するテーパー状であることにより、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物が、重力によって当該空間の出口方向に移動しやすくなる。また、内側部材21と外側部材22とが相対的に回転した場合に、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物は、遠心力によって、第1ダストリップ129Aの内周面137AをC1方向に移動しやすくなる。これらの結果、当該異物は、当該空間の出口方向に移動しやすくなる。ただし、第1ダストリップ129Aが、中心軸Cに対して傾斜する傾斜面を有さない構成、すなわち第1ダストリップ129Aが、中心軸Cに対して平行又は垂直な面を有する構成も、本開示の範囲には包含される。
【0035】
また、図2及び図3に示されるように、第2ダストリップ129Bは、第1ダストリップ129Aよりも内側に位置し、基部128に含まれる第3基部133からフランジ112に向けて突出する。第2ダストリップ129Bとフランジ112とは、第1ダストリップ129A及びフランジ112と同様に非接触の状態となっている。第2ダストリップ129Bとフランジ112とが非接触の状態となっていることで、第2ダストリップ129Bを挟んで内側と外側との圧力差、延いては、空間S1と空間S2との圧力差が抑制される。また、第2ダストリップ129Bとフランジ112とは非接触の状態となっているものの、ラビリンス効果によって、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に異物が侵入しにくくなる。
【0036】
また、図5に示されるように、第2ダストリップ129Bは、中心軸Cに対して傾斜する傾斜面を有する。より詳細には、第2ダストリップ129BにおけるC1方向の端部E9と中心軸Cとの距離D9は、第2ダストリップ129BにおけるC2方向の端部E10と中心軸Cとの距離D10よりも大きい。第2ダストリップ129Bの内周面137BがC1方向に向けて拡径するテーパー状であることにより、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物が、重力によって当該空間の出口方向に移動しやすくなる。また、内側部材21と外側部材22とが相対的に回転した場合に、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物は、遠心力によって、第2ダストリップ129Bの内周面137BをC1方向に移動しやすくなる。これらの結果、当該異物は、当該空間の出口方向に移動しやすくなる。ただし、第2ダストリップ129Bが、中心軸Cに対して傾斜する傾斜面を有さない構成、すなわち第2ダストリップ129Bが、中心軸Cに対して平行又は垂直な面を有する構成も、本開示の範囲には包含される。
【0037】
また、図2及び図3に示されるように、シールリップ130は、基部128に含まれる第3基部133から第1筒状部111に向けて突出する。シールリップ130と第1筒状部111とは接触しているため、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に異物が侵入しにくくなる。
【0038】
また、図5に示されるように、シールリップ130は、中心軸Cに対して傾斜する傾斜面を有する。より詳細には、シールリップ130におけるC1方向の端部E11と中心軸Cとの距離D11は、シールリップ130におけるC2方向の端部E12と中心軸Cとの距離D12よりも大きい。シールリップ130の内周面138がC2方向に向けて拡径するテーパー状であることにより、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物が、重力によって当該空間の出口方向に移動しやすくなる。また、内側部材21と外側部材22とが相対的に回転した場合に、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物は、遠心力によって、シールリップ130の内周面138をC1方向に移動しやすくなる。すなわち、当該異物は、当該空間の出口方向に移動しやすくなる。この結果、従来技術に比較して、第1シール部11と第2シール部12との間の空間に侵入した異物が、密封装置10から排出されやすくなる。ただし、シールリップ130が、中心軸Cに対して傾斜する傾斜面を有さない構成、すなわちシールリップ130が、中心軸Cに対して平行又は垂直な面を有する構成も、本開示の範囲には包含される。
【0039】
図2及び図3に示されるように、ダストリップ129とフランジ112とが非接触の状態となっているため、ダストリップ129がフランジ112に押圧される構成と比較すると、内側部材21と外側部材22との相対的な回転、更には第1シール部11と第2シール部12との相対的な回転に伴う、ダストリップ129の摩耗を低減できる。延いては、当該摩耗によって発生する摩擦熱が低減し、弾性部122の劣化が抑制される。この結果、本実施形態に係る密封装置10は、従来技術に係る密封装置に比較して、交換頻度を低減できる。
【0040】
また、弾性部122の内周面135のうちシールリップ130よりもC2方向に位置する径方向突起136は、第1筒状部111に間隔をあけて対向する。径方向突起136は内周面135の全周にわたって設けられている。径方向突起136は、径方向外側が広く、内側が狭い台形の断面を有する。転がり軸受20の内部から流出するグリースは、上記の間隔を経由した後、シールリップ130によってせき止められる。上記の間隙は、転がり軸受20の内部側から大気側へのグリースの流れを阻害し、シールリップ130に到達するグリースの量を低減することによって、シールリップ130の封止性能を補助する。
【0041】
2:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0042】
(1)上記の実施形態において、剛性部121は、円筒部分124と、円環部分125と、複数の突出部分126と、複数の延長部分127を備える。しかし、剛性部121は、弾性部122に備わる基部128を支持する形態である限り、円筒部分124と、円環部分125と、複数の突出部分126と、複数の延長部分127のうち少なくとも1つを備えない構成であってもよい。例えば、剛性部121は、円筒部分124と、円環部分125と、複数の突出部分126とのみを備え、複数の延長部分127を備えない構成であってもよい。
【0043】
(2)上記の実施形態において、第1ダストリップ129Aと第2ダストリップ129Bとの双方が、フランジ112と非接触の状態となっている。しかし、第1ダストリップ129Aと第2ダストリップ129Bのうち一方のみがフランジ112と非接触の状態となっており、他方がフランジ112と接触していてもよい。
【0044】
(3)上記の実施形態において、第1ダストリップ129Aの内周面は、全周に渡って、中心軸Cに対して傾斜している。しかし、第1ダストリップ129Aの内周面のうち一部のみが中心軸Cに対して傾斜し、他の部分が中心軸Cに対して平行であってもよい。第2ダストリップ129B及びシールリップ130についても同様である。
【0045】
(4)上記の実施形態において、第2筒状部113は、全周に渡って、中心軸Cに対して傾斜している。しかし、第2筒状部113のうち一部のみが中心軸Cに対して傾斜し、他の部分が中心軸Cに対して平行であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…密封装置、11…第1シール部、12…第2シール部、20…転がり軸受、21…内側部材、22…外側部材、22A…取付溝、23…隙間、24…ローラー、25…保持器、30…車軸、100…密封構造、111…第1筒状部、112…フランジ、113…第2筒状部、114…外周面、115…内周面、121…剛性部、122…弾性部、123…外周面、124…円筒部分、125…円環部分、126…突出部分、127…延長部分、128…基部、129…ダストリップ、129A…第1ダストリップ、129B…第2ダストリップ、130…シールリップ、131…第1基部、132…第2基部、133…第3基部、134…外周面、135…内周面、136…径方向突起、137A,137B…内周面、138…内周面、139…突起、140…表面、141…第1部分、142…第2部分、143…傾斜面、221…内周面、D1~D12…距離、E1~E4…端部、E5…内周縁、E6~E13…端部、E14…先端、E15…周縁、P,P1~P2…凸部、R,R1~R3…凹部、S1,S2…空間
図1
図2
図3
図4
図5