(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016574
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】型枠構造、鋼矢板壁補修方法
(51)【国際特許分類】
E02D 31/06 20060101AFI20240131BHJP
E02D 37/00 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
E02D31/06 C
E02D37/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118808
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】318015909
【氏名又は名称】井島 康喜
(74)【代理人】
【識別番号】100127764
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 泰州
(72)【発明者】
【氏名】井島 康喜
(57)【要約】
【課題】本発明は、鋼矢板壁を補修する際の型枠構築作業が容易となる新規な型枠構造、及び新規な鋼矢板壁補修方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 鋼矢板壁2を補修するための型枠構造1につき、前記鋼矢板壁2と、前記鋼矢板壁2の複数個所に立設された棒状のセパレータ3と、各セパレータ3が刺し通された複数の支持穴5を有する型枠4と、を具備してなり、前記支持穴5の穴寸法(r)が前記セパレータ3の外径(φ)より十分に大きくなされ、各セパレータ3に取り付けられた蓋材10によって前記支持穴5が塞がれてなる構造とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板壁を補修するための型枠構造であって、
前記鋼矢板壁と、
前記鋼矢板壁の複数個所に立設された棒状のセパレータと、
各セパレータが刺し通された複数の支持穴を有する型枠と、
を具備してなり、
前記支持穴の穴寸法が前記セパレータの外径より十分に大きくなされ、
各セパレータに取り付けられた蓋材によって前記支持穴が塞がれてなることを特徴とする型枠構造。
【請求項2】
請求項1に記載の型枠構造において、
前記支持穴の穴寸法が前記セパレータの外径の二倍以上となされた型枠構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の型枠構造において、前記支持穴の開口形状並びに前記蓋材の形状が四角形となされ、前記蓋材が前記支持穴を通じて前記型枠の内外に出し入れできる寸法となされた型枠構造。
【請求項4】
鋼矢板壁を補修するための鋼矢板壁補修方法であって、
前記鋼矢板壁の複数箇所に棒状のセパレータを立設するセパレータ立設工程と、
型枠を前記セパレータに仮固定する位置決め工程と、
前記型枠を前記セパレータに固定する型枠固定工程と、
前記鋼矢板壁と前記型枠との間に形成された空間内に充填剤を充填する打設工程と、
を実行し、
前記位置決め工程では、前記型枠に設けられた、前記セパレータの外径より十分に大きい穴寸法を有する支持穴に前記セパレータを刺し通し、各セパレータに取り付けられた蓋材によって前記支持穴を塞ぐことを特徴とする鋼矢板壁補修方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼矢板壁補修方法において、
前記位置決め工程の実行時、前記型枠上方の支持穴を開放状態のままとし、
前記打設工程では、充填剤を輸送するホースを開放状態の支持穴を通じて前記鋼矢板壁と前記型枠との間に形成された空間内に挿入し、充填剤を充填しながら徐々に前記ホースを引き上げる鋼矢板壁補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板壁を補修するための型枠構造並びに鋼矢板壁補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防潮堤や岸壁、護岸などには、施工性と経済性の良さから鋼矢板を連続的に打設することによって鋼矢板壁が形成されているものがある。これらの鋼矢板壁には建設時から数十年が経過して老朽化が進んでいるものも多いため、老朽化した鋼矢板壁に対して補修を行うことにより腐食を防止し、水路施設等の長寿命化を図る技術が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1では、既設の鋼矢板壁の正面にパネル材を対面配置し、前記鋼矢板壁と前記パネル材との間に形成された空間内にコンクリート等の充填剤を充填することによって既設の鋼矢板壁を補修する方法を開示している。
【0005】
前記特許文献1に開示された補修方法によって鋼矢板壁の補修を行うと前記パネル材が新たな壁面を構成することになるため、前記パネル材の素材選択や前記パネル材の確実な固定手段が必要になる。そのため、鋼矢板壁を補修するにあたっては、鋼矢板壁の正面に型枠を対面配置し、前記鋼矢板壁と前記型枠との間に生コンクリートを充填した後、前記型枠を撤去することによって新たなコンクリート擁壁を形成する方法が一般的である。
【0006】
この補修方法では、まず、
図8に示すように既設の鋼矢板壁2の複数個所に立設された棒状のセパレータ3を介して型枠4を仮固定する。この際、前記型枠4に設けられた支持穴5に前記セパレータ3が刺し通される。前記セパレータ3にはプラスチックコーン(Pコン)などの位置決め具6が取り付けられており、前記型枠4は前記位置決め具6に当接した状態で位置決めされる。
【0007】
次いで、
図9に示すように縦バター7や横バター8で前記型枠4を固定した後、前記型枠4に取り付けられた打設管9を通じて生コンクリートを充填する。なお、生コンクリートを吐出する高さには制限があるため、まず、前記型枠4の下方に取り付けられている打設管9を使用して生コンクリートを吐出し、生コンクリートの充填量に応じて順に上方の打設管9を使用する。
【0008】
充填された生コンクリートが硬化した後に前記型枠4を外し、表面の不陸をならす所定の作業を行えば、既設の鋼矢板壁2を補修したコンクリート擁壁が完成する。
【0009】
しかしながら、前記支持穴5からの生コンクリートの漏れを避けるために、前記セパレータ3の太さ(φ)に対する前記型枠4に設けられた前記支持穴5の穴寸法(r)の差はできるだけ小さく設定する必要がある(例えば、φ:16mmに対してr:18mmとなされる。)。そのため、流れや波のある水中での作業環境下において、ダイバーが型枠の内側に入り、複数のセパレータ3を所定の支持穴5に刺し通すことは非常に危険な作業であった。
【0010】
本発明は、前記技術的課題を解決するために開発されたものであって、鋼矢板壁を補修する際の型枠構築作業が安全且つ容易となる新規な型枠構造、及び新規な鋼矢板壁補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題を解決するための本発明の型枠構造は、鋼矢板壁を補修するための型枠構造であって、前記鋼矢板壁と、前記鋼矢板壁の複数個所に立設された棒状のセパレータと、各セパレータが刺し通された複数の支持穴を有する型枠と、を具備してなり、前記支持穴の穴寸法が前記セパレータの外径より十分に大きくなされ、各セパレータに取り付けられた蓋材によって前記支持穴が塞がれてなることを特徴とする(以下、「本発明型枠構造」と称する。)。
【0012】
前記本発明型枠構造においては、前記支持穴の穴寸法が前記セパレータの外径の二倍以上となされたものが好ましい態様となる。
【0013】
前記本発明型枠構造においては、前記支持穴の開口形状並びに前記蓋材の形状が四角形となされ、前記蓋材が前記支持穴を通じて前記型枠の内外に出し入れできる寸法となされたものが好ましい態様となる。
【0014】
前記技術的課題を解決するための本発明の鋼矢板壁補修方法は、鋼矢板壁を補修するための鋼矢板壁補修方法であって、前記鋼矢板壁の複数箇所に棒状のセパレータを立設するセパレータ立設工程と、型枠を前記セパレータに仮固定する位置決め工程と、前記型枠を前記セパレータに固定する型枠固定工程と、前記鋼矢板壁と前記型枠との間に形成された空間内に充填剤を充填する打設工程と、を実行し、前記位置決め工程では、前記型枠に設けられた、前記セパレータの外径より十分に大きい穴寸法を有する支持穴に前記セパレータを刺し通し、各セパレータに取り付けられた蓋材によって前記支持穴を塞ぐことを特徴とする(以下、「本発明補修方法」と称する。)。
【0015】
前記本発明補修方法においては、前記位置決め工程の実行時、前記型枠上方の支持穴を開放状態のままとし、前記打設工程では、充填剤を輸送するホースを開放状態の支持穴を通じて前記鋼矢板壁と前記型枠との間に形成された空間内に挿入し、充填剤を充填しながら徐々に前記ホースを引き上げることが好ましい態様となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鋼矢板壁を補修する際の型枠構築作業が安全且つ容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、本発明型枠構造を示す斜視図であり、
図1(b)は、支持穴部分を断面状態で示す拡大図である。
【
図2】
図2は、本発明補修方法におけるセパレータ立設工程を一部拡大して示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、セパレータに蓋材を取り付ける様子を示す斜視図であり、
図3(b)は、蓋材が取り付けられた前記セパレータを断面状態で示す拡大図である。
【
図4】
図4(a)は、本発明補修方法における位置決め工程を示す斜視図であり、
図4(b)は、支持穴部分を断面状態で示す拡大図である。
【
図5】
図5は、他の実施形態に係る本発明補修方法における打設工程を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、更に他の実施形態に係る本発明型枠構造の支持穴部分を断面状態で示す拡大図である。
【
図7】
図7は、支持穴と蓋材の寸法関係を示す斜視図(a)と正面図(b)である。
【
図8】
図8(a)は、従来の鋼矢板の補修方法における型枠の取り付け工程を示す斜視図であり、
図8(b)は、支持穴部分を断面状態で示す拡大図である。
【
図9】
図9(a)は、従来の鋼矢板の補修方法によって構築された型枠構造を示す斜視図であり、
図9(b)は、支持穴部分を断面状態で示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<本発明型枠構造(1)>
図1に本発明型枠構造1を示す。前記本発明型枠構造1は、「鋼矢板壁(2)」と、「セパレータ(3)」と、「型枠(4)」と、を具備する。
【0020】
‐鋼矢板壁2‐
前記鋼矢板壁2は、両端に継手が設けられた大型型鋼の一種である鋼矢板の連続体である。前記鋼矢板壁2は、施設予定地盤に鋼矢板を打ち込んで鋼矢板壁2を構築し、水圧や土圧を防御し、土砂や地下水、海水などの流出入や漏洩を防止するためのものである。なお、本発明において鋼矢板壁2は、経時的な老朽化等によって補修が必要となった既設のもののみならず、新設されたものやまだ老朽化していないものも含まれる。
【0021】
‐セパレータ3‐
前記セパレータ3は、前記鋼矢板壁2の複数個所に取り付けられた棒状体である。本実施形態においては前記セパレータ3として表面にネジ山が刻まれた金属棒を用いた。なお、前記セパレータ3には位置決め具6としてのプラスチックコーンが取り付けられており、前記位置決め具6に当接するようにして蓋材10が配置されている。本実施形態において前記蓋材10は鉄製平板の中央に貫通孔11が設けられた全体形状を有しており、前記貫通孔11を通じて前記セパレータ3が刺し通されている。なお、前記貫通孔11の内径は前記位置決め具6の座面によって塞ぎ得る寸法となされている。
【0022】
‐型枠4‐
前記型枠4は、前記鋼矢板壁2の正面に対面配置されて、前記鋼矢板壁2との間に充填剤を充填するための空間を形成する役割を担う。前記型枠4には複数の支持穴5が設けられており、前記型枠4は、各支持穴5に前記セパレータ3を各々刺し通された状態で仮固定され、縦バター7や横バター8を用いて固定される。
【0023】
前記構成を有する本発明型枠構造1は、既設の鋼矢板壁2を補修するために構築されるものであり、前記鋼矢板壁2と前記型枠4との間に形成された空間に生コンクリート等の充填剤を充填し、充填剤の硬化後に前記型枠4を外すことによって新たな擁壁を形成することができる。本実施形態において充填剤の充填は、前記型枠4に取り付けられている打設管9を通じて行われる。
【0024】
前記本発明型枠構造1においては、前記支持穴5の穴寸法(r)が前記セパレータ3の外径(φ)より十分に大きい寸法関係となされているが、前記支持穴5は前記セパレータ3に取り付けられている前記蓋材10によって塞がれているため、前記支持穴5から充填剤が漏れることは無い。
【0025】
<本発明補修方法>
図2~
図4に本発明補修方法を示す。前記本発明補修方法は、「セパレータ立設工程」と、「位置決め工程」と、「型枠固定工程」と、「打設工程」と、を実行する。
【0026】
‐セパレータ立設工程‐
前記セパレータ立設工程では、鋼矢板壁2の複数箇所に棒状のセパレータを立設する。
図2に示すように、本実施形態においては前記セパレータ3として表面にネジ山が刻まれた金属棒を用い、前記セパレータ3と前記鋼矢板壁2の接点を溶接することによって前記セパレータ立設工程を実行した。なお、前記セパレータ3には位置決め具6としてのプラスチックコーンが取り付けられており、
図3に示すように、前記位置決め具6に当接するようにして蓋材10を配置した。
【0027】
‐位置決め工程‐
前記位置決め工程では、型枠4を前記セパレータ3に仮固定する。
図4に示すように、本発明補修方法では前記型枠4に設けられた支持穴5に前記セパレータ3を刺し通すことによって前記位置決め工程を実行する。又、本発明補修方法では前記支持穴5の穴寸法(r)が前記セパレータ3の外径(φ)より十分に大きく設定されているため、前記支持穴5に前記セパレータ3を刺し通す作業は比較的速やかに実行することできる。前記支持穴5に前記セパレータ3を刺し通し、前記型枠4を各セパレータ3に取り付けられた蓋材10に当接させれば、前記支持穴5が前記蓋材10によって塞がれる。
【0028】
‐型枠固定工程‐
前記型枠固定工程では、前記型枠4を前記セパレータ3に固定する。本実施形態においては、縦バター7や横バター8を用いて前記型枠固定工程を実行した(
図1参照)。
【0029】
‐打設工程‐
前記打設工程では、前記鋼矢板壁2と前記型枠4との間に形成された空間内に充填剤を充填する。本実施形態においては、前記型枠4に取り付けられている打設管9を通じて充填剤としての生コンクリートを充填することによって前記打設工程を実行した。
【0030】
前記各工程を実行する本発明補修方法では、前記支持穴5の穴寸法(r)が前記セパレータ3の外径(φ)より十分に大きく設定されているため、前記支持穴5に前記セパレータ3を刺し通す作業が容易となり、前記位置決め工程を比較的速やかに実行することできるようになる。これより、本発明補修方法によれば、鋼矢板壁2を補修する際の型枠構築作業が容易となる。
【0031】
ところで、本実施形態においては、前記打設工程につき前記型枠4に取り付けられている打設管9を通じて充填剤を充填しているが、
図5に示すように、前記位置決め工程の実行時に前記型枠4の上方の支持穴5を開放状態のままとし、前記打設工程において充填剤を輸送するホース(H)を開放状態の前記支持穴5を通じて前記鋼矢板壁2と前記型枠4との間に形成された空間内に挿入し、充填剤を充填しながら徐々に前記ホース(H)を引き上げることもできる。前記ホース(H)による充填剤の充填を行えば、従来使い捨てられていた打設管9の使用本数を少なくすることができ、もって作業コストの低減が図られる。
【0032】
又、本実施形態においては、前記型枠4の背面側(前記鋼矢板壁2に面する側)から前記蓋材10を前記支持穴5にあてがうことによって前記支持穴5を塞いでいるが、
図6に示すように前記型枠4の正面側から前記蓋材10を前記支持穴5にあてがうことによって前記支持穴5を塞いでも良い。
【0033】
更に、本実施形態においては、前記支持穴5の開口形状並びに前記蓋材10の形状につき四角形となされているが、前記支持穴5の開口形状並びに前記蓋材10の形状は特に限定されない。前記支持穴5の開口形状並びに前記蓋材10の形状は、四角形以外の多角形であっても円形や楕円形等であっても良い。
【0034】
但し、
図7に示すように、前記支持穴5の開口形状並びに前記蓋材10の形状を四角形とし、前記蓋材10につき前記支持穴5を通じて前記型枠4の内外に出し入れできる寸法とすれば、本発明補修方法の作業性が向上するため好ましい態様となる。
【0035】
なお、本発明において前記支持穴5の「穴寸法(r)」とは、前記支持穴5の開口形状が円形の場合はその直径を意味し、前記支持穴5の開口形状が円形以外の場合は最大内接円(前記支持穴5に囲まれた最大円)の直径を意味する。
【0036】
又、本発明において、前記支持穴5の穴寸法(r)が前記セパレータ3の外径(φ)より「十分に大きく設定」されているとは、前記位置決め工程の作業性が向上するに十分な大きさを意味する。具体的には、前記支持穴5の穴寸法(r)につき前記セパレータ3の外径(φ)の二倍以上(より好ましくは3倍以上)に設定することが好ましい態様となる。
【0037】
なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、鋼矢板壁を補修する手段として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0039】
1 本発明型枠構造(型枠構造)
2 鋼矢板壁
3 セパレータ
4 型枠
5 支持穴
6 位置決め具
7 縦バター
8 横バター
9 打設管
10 蓋材