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特開2024-165740真空ポンプのロータ翼の製造方法、真空ポンプのロータ翼、真空ポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165740
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】真空ポンプのロータ翼の製造方法、真空ポンプのロータ翼、真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20241121BHJP
   B22F 5/04 20060101ALI20241121BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241121BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241121BHJP
   B22F 10/20 20210101ALI20241121BHJP
【FI】
F04D19/04 F
B22F5/04
B33Y10/00
B33Y80/00
B22F10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082212
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕章
【テーマコード(参考)】
3H131
4K018
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA06
3H131BA09
3H131CA02
3H131CA03
3H131CA13
4K018AA13
4K018AA14
4K018BA07
4K018BA08
4K018FA06
4K018KA12
(57)【要約】
【課題】高速回転時に発生する応力に耐えられるロータ翼を材料の積層による方法を用いて製造する
【解決手段】ロータ翼22の製造方法は、中心部22aと、翼22bのうち中心部22aとの接続部分225から所定の長さdまでの第1部分221と、を第1材料M1を用いて形成するステップと、第1部分221の先端から翼22bの先端までの第2部分223を、第1材料M1に積層して形成した第2材料M2を用いて形成するステップと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプに設けられ、中心部と前記中心部から放射状に延びる翼とを有するロータ翼を製造する方法であって、
前記中心部と、前記翼のうち前記中心部との接続部分から所定の長さまでの第1部分とを、第1材料を用いて形成するステップと、
前記翼のうち前記第1部分の先端から前記翼の先端までの第2部分を、前記第1材料に積層して形成した第2材料を用いて形成するステップと、
を備える、ロータ翼の製造方法。
【請求項2】
前記第1材料の前記第1部分に対応する箇所に、前記第2材料を積層して形成するステップと、
前記第1材料を切削加工することで前記中心部と前記第1部分とを形成するとともに、前記第2材料を切削加工することで前記第2部分を形成するステップと、
を備える。請求項1に記載のロータ翼の製造方法。
【請求項3】
前記第1材料を切削加工することで前記中心部と前記第1部分とを形成するステップと、
切削加工により形成された前記第1部分の先端から、前記第2材料からなる前記第2部分を積層して形成するステップと、
を備える、請求項1に記載のロータ翼の製造方法。
【請求項4】
前記第1部分の所定の長さは、所定の大きさ以上の応力が前記接続部分において発生する範囲の大きさに基づいて決定される、請求項1に記載のロータ翼の製造方法。
【請求項5】
前記第2材料は積層造形法により前記第1材料に積層される、請求項1に記載のロータ翼の製造方法。
【請求項6】
中心部と前記中心部から放射状に延びる翼とを備え、
前記翼は、前記翼と前記中心部との接続部分から所定の長さだけ延びる第1部分と、前記第1部分の先端から前記翼の先端までの第2部分と、を有し、
前記中心部と前記第1部分は、第1材料により形成され、
前記第2部分は、前記第1材料より比重が小さい第2材料により形成される、
真空ポンプのロータ翼。
【請求項7】
中心部と前記中心部から放射状に延びる翼とを備え、
前記翼は、前記翼と前記中心部との接続部分から所定の長さだけ延びる第1部分と、前記第1部分の先端から前記翼の先端までの第2部分と、を有し、
前記中心部と前記第1部分は、第1材料により形成され、
前記第2部分は、前記第1材料よりも0.2%耐力が小さい第2材料により形成される、
真空ポンプのロータ翼。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のロータ翼を備える真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプのロータ翼の製造方法、真空ポンプのロータ翼、及び、真空ポンプ関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプには、回転駆動されるロータに設けられたロータ翼を備えるものがある(例えば、特許文献1を参照)。この真空ポンプでは、ロータの回転によりロータ翼を回転させて排気対象装置の内部を吸引し、吸引した気体を外部に排出する。このロータ翼は、回転中心となる中心部と、中心部から放射状に延びる翼と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-139361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、真空ポンプのロータ翼は、金属塊(例えば、鍛造材)を切削加工(削り出し)することにより製造されていた。切削加工によるロータ翼の製造では、削りかすが発生する、ロータ翼の複雑な形状のために加工時間が長くなるとの問題があった。これらの問題を解決するために、材料の積層による造形法(例えば、積層造形法)を用いてロータ翼を製造することが考えられる。材料の積層による造形法では、材料の層を順次積層することで任意の形状の対象物を高速に形成できる。
【0005】
その一方、真空ポンプのロータ翼は高速回転するため、ロータ翼には大きな応力が発生する。材料の積層による造形法で形成したロータ翼は、この応力に耐えられない可能性がある。なぜなら、材料の積層による造形法では粉末材料などの層を積層して対象物を形成するので、この方法で形成したロータ翼は、金属塊の切削加工により形成したロータ翼と比較して強度が弱くなる傾向にあるからである。
【0006】
従って、本発明の目的は、高速回転時に発生する応力に耐えられるロータ翼を、材料の積層による方法を用いて製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るロータ翼の製造方法は、中心部と中心部から放射状に延びる翼とを有するロータ翼を製造する方法である。ロータ翼の製造方法は、以下のステップを有する。
◎中心部と第1部分とを第1材料を用いて形成するステップ。第1部分は、翼のうち中心部との接続部分から所定の長さまでの部分である。
◎第1部分の先端から翼の先端までの第2部分を、第1材料に積層して形成した第2材料を用いて形成するステップ。
【発明の効果】
【0008】
真空ポンプに用いられるロータ翼においては、特に中心部と翼との接続部分において大きな応力が発生する。そこで、上述した本発明の一態様に係るロータ翼の製造方法では、ロータ翼の中心部と第1部分とを同一の第1材料を用いて形成する。すなわち、中心部と、中心部と翼との接続部分と、接続部分からの翼の第1部分とを、同一の第1材料を用いて形成する。一方、翼の残りの部分、すなわち、第1部分の先端から翼の先端までの第2部分を、第1材料に積層して形成した第2材料を用いて形成する。このため、上記の製造方法によるロータ翼では、第2材料により形成される第2部分に、特に大きな応力が生じる中心部と翼との接続部分が含まれない。このように、特に大きな応力が生じる箇所を、材料の積層による方法により形成される第2材料により形成しないことで、高速回転時に発生する応力にも耐えられるロータ翼を、材料の積層による方法を用いて製造できる。この結果、材料の積層による方法の有利点を生かしつつ、十分な強度を有するロータ翼の製造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】真空ポンプの断面図である。
図2】ロータ翼の上面図である。
図3】ロータ翼の製造方法1を示すフローチャートである。
図4A】ロータ翼の製造方法1を模式的に示す図である。
図4B】ロータ翼の製造方法1を模式的に示す図である。
図4C】ロータ翼の製造方法1を模式的に示す図である。
図5】ロータ翼の製造方法2を示すフローチャートである。
図6A】ロータ翼の製造方法2を模式的に示す図である。
図6B】ロータ翼の製造方法2を模式的に示す図である。
図6C】ロータ翼の製造方法2を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、真空ポンプに用いられるロータ翼、当該ロータ翼の製造方法を説明する。まず、図1を用いて、ロータ翼を備える真空ポンプを説明する。図1は、真空ポンプ1の断面図である。真空ポンプ1は、ハウジング2と、ベース3と、ロータ4と、ステータ5と、を含む。
【0011】
ハウジング2は、第1端部11と、第2端部12と、第1内部空間S1とを含む。第1端部11には吸気口13が設けられている。吸気口13は、排気対象装置(図示せず)の内部と気体流通可能に接続される。第1内部空間S1は、吸気口13に連通している。第2端部12は、ロータ4の軸線方向(以下、単に「軸線方向A1」と呼ぶ)において、第1端部11の反対に位置している。第2端部12は、ベース3に接続される。ベース3は、ベース端部14を含む。ベース端部14は、ハウジング2の第2端部12に接続される。ベース3は、例えば、アルミニウム製の部材である。
【0012】
ロータ4は、ハウジング2の内部空間に収納される。ロータ4は、シャフト21を含む。シャフト21は、軸線方向A1に延びている。シャフト21は、ベース3に回転可能に収納されている。シャフト21の下部には、スラストディスク21Aが設けられる。さらに、シャフト21の下端には、ターゲット21Bがネジ止めされている。
【0013】
ロータ4は、複数段のロータ翼22と、ロータ円筒部23と、を含む。複数段のロータ翼22は、それぞれ、軸線方向A1に対して傾斜してシャフト21に接続されている。複数のロータ翼22は、軸線方向A1に互いに間隔をおいて配置されている。図示を省略するが、複数段のロータ翼22は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のロータ翼22の1つのみに符号が付されており、他のロータ翼22の符号は省略されている。ロータ円筒部23は、複数段のロータ翼22の下方に配置されている。ロータ円筒部23は、軸線方向A1に延びている。
【0014】
ステータ5は、ロータ4の外周側に配置されている。ステータ5は、複数段のステータ翼31と、ステータ円筒部32と、を含む。複数段のステータ翼31は、それぞれ、ロータ翼22の傾斜とは反対方向に傾斜してハウジング2の内面に接続されている。例えば、ロータ翼22が吸気側から排気側に傾斜している場合には、ステータ翼31は、排気側から吸気側に傾斜する。一方、ロータ翼22が排気側から吸気側に傾斜している場合には、ステータ翼31は、吸気側から排気側に傾斜する。ロータ翼22及びステータ翼31の傾斜方向は、ロータ4の回転方向等により適宜決定できる。
【0015】
複数段のステータ翼31は、軸線方向A1において、互いに間隔をおいて配置されている。複数段のステータ翼31は、それぞれ複数段のロータ翼22の間に配置されている。図示を省略するが、複数段のステータ翼31は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のステータ翼31の2つのみに符号が付されており、他のステータ翼31の符号は省略されている。ステータ円筒部32は、ベース3に接触した状態で固定されている。ステータ円筒部32は、ロータ円筒部23の径方向において、わずかな隙間を空けてロータ円筒部23の外周面と向かい合って配置されている。ロータ円筒部23と向かい合うステータ円筒部32の内周面には、らせん状溝が設けられている。
【0016】
図1に示すように、ロータ円筒部23とステータ円筒部32の排気下流側の端部のさらに下流側には、排気空間S2が形成されている。排気空間S2には、排気対象装置から排気された排気対象気体が導かれる。排気空間S2は、排気口15に連通している。排気口15は、ベース3に設けられる。排気口15には、他の真空ポンプ(図示せず)が接続される。なお、排気下流側とは、軸線方向A1において、排気空間S2により近い側をいう。また、排気下流方向とは、排気空間S2に向かう方向をいう。
【0017】
真空ポンプ1は、軸受41A、41Eと、磁気軸受41B~41Dと、モータ42と、を含む。軸受41A、41Eは、ベース3のシャフト21を収納した位置に取り付けられている。軸受41A、41Eは、シャフト21を回転可能に支持する。軸受41A、41Eは、ボールベアリングである。磁気軸受41B~41Dは、シャフト21を磁力により支持する軸受である。このうち、磁気軸受41B、41Cは、シャフト21を径方向に支持するラジアル磁気軸受である。磁気軸受41Dは、シャフト21を軸方向に支持するスラスト磁気軸受である。
【0018】
モータ42は、ロータ4を回転駆動する。モータ42は、モータロータ42Aとモータステータ42Bとを含む。モータロータ42Aは、シャフト21に取り付けられている。モータステータ42Bは、ベース3に取り付けられている。モータステータ42Bは、モータロータ42Aと向かい合って配置されている。
【0019】
真空ポンプ1では、複数段のロータ翼22と複数段のステータ翼31とは、ターボ分子ポンプ部を構成する。また、ロータ円筒部23とステータ円筒部32とは、ネジ溝ポンプ部を構成する。真空ポンプ1では、モータ42によってロータ4が回転することで、廃棄対象装置の内部から、吸気口13を介して、第1内部空間S1へ排気対象気体が流入する。第1内部空間S1の排気対象気体は、ターボ分子ポンプ部とネジ溝ポンプ部を通過して、排気空間S2に導かれる。排気空間S2の排気対象気体は、排気口15から排気される。この結果、吸気口13に取り付けられた排気対象装置の内部が、高真空状態となる。
【0020】
以下、図2を用いて、ロータ翼22を詳細に説明する。図2は、ロータ翼22の上面図である。ロータ翼22は、中心部22aと、翼22bと、を有する。中心部22aは、ロータ翼22の回転中心となる部分である。中心部22aがロータ4に取り付けられることで、ロータ翼22がロータ4に配置される。
【0021】
翼22bは、中心部22aの側面から放射状に延びる。翼22bは、中心部22aの厚み方向に対しては傾斜している。翼22bは、ロータ4の回転により、排気対象気体を排気口15の方向へ移動させる。
【0022】
翼22bは、第1部分221と、第2部分223と、を有する。第1部分221は、翼22bのうち、中心部22aと翼22bとの接続部分225を含む部分である。第1部分221は、中心部22aと一体形成されている。具体的には、第1部分221は、1つの第1材料M1を切削加工することで、中心部22aとともに形成される。第1材料M1は、例えば、アルミニウムなどの金属の鍛造材である。
【0023】
図2に示すように、第1部分221は、接続部分225から所定の長さdだけ延びている。この所定の長さdは、所定の大きさ以上の応力が接続部分225において発生する範囲の大きさに基づいて決定される。この所定の大きさは、例えば、中心部22aと第1部分221とを形成する材料(すなわち、第1材料M1)が耐えられる応力(例えば、せん断応力)等に基づいて決定できる。
【0024】
本発明者は、高速回転時のロータ翼22において発生する応力分布の解析を行った。その結果、本発明者は、高速回転時には、中心部22aと翼22bとの接続部分225に形成された曲線部分227において、所定の大きさ以上の特に大きな応力が発生することを見いだした。この解析結果に基づいて、第1部分221の所定の長さdを、少なくとも曲線部分227全体が第1部分221に含まれる長さと決定できる。このように、中心部22aと第1部分221とを一体形成し、接続部分225の特に大きな応力が発生する部分(すなわち、曲線部分227)を第1部分221に含めることで、特に大きな応力が発生する部分に部品の接続部分及び材料の変化部分が配置されないようにできる。
【0025】
第2部分223は、翼22bのうち、第1部分221を除いた残りの部分である。すなわち、第2部分223は、第1部分221の先端から翼22bの先端までの部分である。詳細は後述するが、第2部分223は、中心部22aと第1部分221とを形成する第1材料M1とは特性が異なる第2材料M2で形成される。第2材料M2は、中心部22aと第1部分221とを形成する第1材料M1に積層することで形成される。
【0026】
第2部分223を形成する第2材料M2は、例えば、材料の積層による方法(例えば、積層造形法)により形成されたアルミニウム、マグネシウム、プラスチックなどである。このような第2材料M2は、金属塊である第1材料M1の比重よりも小さな比重を有する。これにより、翼22b全体の重量を、翼22b全体を第1材料M1のみで形成する場合と比較して小さくできる。この結果、高速回転時に中心部22aと翼22bとの接続部分225(特に、曲線部分227)に生じる応力の大きさを小さくして、より高速回転に耐えられるロータ翼22を実現できる。
【0027】
また、上記のように形成された第2材料M2は、第1材料M1よりも強度が低いことがある。具体的には、第2材料M2の0.2%耐力は、第1材料M1の0.2%耐力よりも小さい。なお、「0.2%耐力」とは、ひずみが0.2%となったときの応力をいう。
【0028】
図2に示すように、高速回転時に大きな応力が生じる部分(すなわち、接続部分225)は第1部分221に含まれており、第2部分223には含まれていない。また、第1部分221と第2部分223とは、高速回転時に大きな応力が生じる接続部分225で接続されていない。これにより、第1材料M1よりも強度が低い第2材料M2を用いて第2部分223を形成しても、第2部分223、及び/又は、第1部分221と第2部分223との接続部分が高速回転時に破損しない。このように、高速回転時に大きな応力が生じる部分を、第1材料M1により形成される第1部分221に含めることで、高速回転に耐えられるロータ翼22を実現できる。また、第1材料M1よりも強度が低い第2材料M2で第2部分223を形成できるので、第2部分223を形成するために用いる第2材料M2の選択の自由度を高めることができる。
【0029】
以下、上記で説明した構成を有するロータ翼22の製造方法を説明する。以下のように、ロータ翼22の製造方法には、「製造方法1」と「製造方法2」の二種類が存在する。以下、それぞれの製造方法を詳細に説明する。
【0030】
まず、図3及び図4A図4Cを用いて、ロータ翼22の製造方法1を説明する。図3は、ロータ翼22の製造方法1を示すフローチャートである。図4A図4Cは、ロータ翼22の製造方法1を模式的に示す図である。製造方法1では、第1材料M1を用いて中心部22aと第1部分221とを形成後に、第1部分221に第2材料M2を積層することで第2部分223を形成する。詳細には、以下のようにしてロータ翼22が製造される。
【0031】
最初に、中心部22aと第1部分221を形成するための第1材料M1を準備する(ステップS11)。第1材料M1は、例えば、アルミニウムなどの金属の鍛造材である。図4Aに示すように、第1材料M1は、中心部22aの中心から第1部分221の先端までの距離に相当する半径を有する円形とできる。しかし、これに限られず、第1材料M1の形状は、四角形などの他の形状とできる。
【0032】
次に、ステップS11で準備した第1材料M1を用いて、中心部22aと第1部分221とを形成する(ステップS12)。具体的には、第1材料M1を、図4Bに示すような中心部22aと第1部分221の形状に従って切削加工することで、中心部22aと第1部分221とを形成する。
【0033】
中心部22aと第1部分221とを形成後、図4Cに示すように、切削加工により形成された第1部分221の先端から、第2材料M2を第2部分223の形状に従って積層して、第2部分223を形成する(ステップS13)。
【0034】
第2部分223は、積層造形法により第2材料M2を第1部分221の先端から積層することで形成できる。具体的には、例えば、第2部分223の形成部分に第2材料M2の粉末原料を配置し、粉末原料にレーザ光及び/又は電子ビーム等を照射して粉末原料を溶融し凝固させ、第2部分223の形状に従ってこれを繰り返すことで、第2部分223を形成できる。その他、例えば、溶融した第2材料M2の原料を積層し凝固させ、第2部分223の形状に従ってこれを繰り返すことで、第2部分223を形成できる。このように、積層造形法により第2部分223を形成することで、容易に第2部分223を形成できる。
【0035】
上記の製造方法1では、第2部分223の形成に材料の切削を必要としないので、ロータ翼22全体を切削加工で形成する場合と比較して、削りかすが少なく、加工時間が短くなる。すなわち、上記の製造方法1は、ロータ翼22全体を切削加工で形成する場合と比較して、ロータ翼22の製造により生じる材料の無駄を少なく、ロータ翼22の製造時間を短くできる。
【0036】
また、製造方法1は、ロータ翼22全体を切削加工で形成する場合と比較して、ロータ翼22の製造の難易度を低くできる。ロータ翼22全体を切削加工で形成する場合には、中心部22aと翼22bとの接続部分225(特に、曲線部分227)の加工を行う際に、長く延びた2つの翼22bの間に工具を挿入して加工を行う必要がある。その一方で、第1部分221は、翼22bの一部であり、その長さは短い。このため、上記の製造方法1では、接続部分225の加工を行う際には、短い第1部分221の間に工具を挿入して加工を行えばよいので、加工の難易度が低くなる。
【0037】
次に、図5及び図6A図6Cを用いて、ロータ翼22の製造方法2を説明する。図5は、ロータ翼22の製造方法2を示すフローチャートである。図6A図6Cは、ロータ翼22の製造方法2を模式的に示す図である。製造方法2では、中心部22aと第1部分221形成する第1材料M1に、第2部分223を形成する第2材料M2を積層して形成し、切削加工により中心部22a、第1部分221、第2部分223を形成する。詳細には、以下のようにしてロータ翼22が製造される。
【0038】
最初に、図6Aに示すように、中心部22aと第1部分221を形成するための第1材料M1を準備する(ステップS21)。次に、図6Bに示すように、ステップS21で準備した第1材料M1の第1部分221に対応する箇所に、第2材料M2を積層して形成する(ステップS22)。
【0039】
第2材料M2は、積層造形法により形成できる。具体的には、例えば、第1材料M1の第1部分221に対応する箇所に第2材料M2の粉末原料を配置し、粉末原料にレーザ光及び/又は電子ビーム等を照射して粉末原料を溶融し凝固させ、これを繰り返すことで第2材料M2を形成できる。その他、例えば、溶融した第2材料M2の原料を積層し凝固させ、これを繰り返すことで第2材料M2を形成できる。
【0040】
ステップS22において形成される第2材料M2は、精密に第2部分223の形状を有していなくてもよい。後述するように、第2部分223は、第2材料M2の切削加工により形成される。従って、ステップS22において形成される第2材料M2は、例えば、第2部分223よりも大きく、第2部分223の概略形状を有していればよい。あるいは、第2材料M2は、例えば、第2部分223よりも大きい長方形、直方体形状とすることもできる。また、第2材料M2は、一部が第1部分221の先端と重複して形成されていてもよい。
【0041】
第2材料M2を第1材料M1に積層して形成後、第1材料M1及び第2材料M2を切削加工することにより、図6Cに示すように、中心部22a、第1部分221、及び第2部分223(すなわち、ロータ翼22全体)を形成する(ステップS23)。これにより、第1材料M1が切削加工されて中心部22aと第1部分221とが形成されるとともに、第2材料M2が切削加工されて第2部分223が形成される。
【0042】
上記の製造方法2では、第1材料M1と第2材料M2とを形成後に、切削加工によりロータ翼22全体を形成しているので、翼22bの一部を異なる特性の材料で形成したロータ翼22の形状、表面状態を精密に調整できる。例えば、第2材料M2を積層して形成する際にその形状を精密に制御できないような場合でも、最適な形状及び/又は表面状態を有するロータ翼22を製造できる。この結果、高速回転により最適なロータ翼22を製造できる。
【0043】
また、上記の製造方法2において、第1材料M1に積層して形成される第2材料M2を少なくとも第2部分223の概略形状とすることにより、第2部分223の切削加工の作業量を減らすことができる。この結果、1つの金属塊から切削加工のみによりロータ翼22全体を製造する場合と比較して、削りかすを少なく、加工時間を短くできる。すなわち、上記の製造方法2は、ロータ翼22全体を切削加工で形成する場合と比較して、ロータ翼22の製造により生じる材料の無駄を少なく、ロータ翼22の製造時間を短くできる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】
上記の実施形態に係る真空ポンプ1は、複数段のロータ翼22と複数段のステータ翼31とにより構成されるターボ分子ポンプと、ロータ円筒部23とステータ円筒部32とにより構成されるネジ溝ポンプとが一体化されたポンプである。しかし、ネジ溝ポンプは省略されてもよい。
【0046】
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0047】
(第1態様)中心部と中心部から放射状に延びる翼とを有するロータ翼の製造方法は、以下のステップを有する。
◎中心部と第1部分とを第1材料を用いて形成するステップ。第1部分は、翼のうち中心部との接続部分から所定の長さまでの部分である。
◎第1部分の先端から翼の先端までの第2部分を、第1材料に積層して形成した第2材料を用いて形成するステップ。
【0048】
第1態様に係るロータ翼の製造方法では、ロータ翼の中心部と第1部分とを同一の第1材料を用いて形成する。すなわち、中心部と、中心部と翼との接続部分と、接続部分からの翼の第1部分とを、同一の第1材料を用いて形成する。一方、翼の残りの部分、すなわち、第1部分の先端から翼の先端までの第2部分を、第1材料に積層して形成した第2材料を用いて形成する。このため、第1態様に係る製造方法によるロータ翼では、第2材料により形成される第2部分に、特に大きな応力が生じる中心部と翼との接続部分が含まれない。このように、特に大きな応力が生じる箇所を、材料の積層による方法により形成される第2材料により形成しないことで、高速回転時に発生する応力にも耐えられるロータ翼を、材料の積層による方法を用いて製造できる。この結果、材料の積層による方法の有利点を生かしつつ、十分な強度を有するロータ翼の製造を実現できる。
【0049】
(第2態様)第1態様に係るロータ翼の製造方法は、以下のステップを備えてもよい。
◎第1材料の第1部分に対応する箇所に、第2材料を積層して形成するステップ。
◎第1材料を切削加工することで中心部と第1部分とを形成するとともに、第2材料を切削加工することで第2部分を形成するステップ。
【0050】
第2態様に係る製造方法では、第1材料と第2材料とを形成後に、切削加工によりロータ翼全体を形成しているので、翼の一部を異なる特性の材料で形成したロータ翼の形状、表面状態を精密に調整して、最適な形状及び/又は表面状態を有するロータ翼を製造できる。この結果、高速回転により最適なロータ翼を製造できる。また、ロータ翼の製造により生じる材料の無駄を少なく、ロータ翼の製造時間を短くできる。
【0051】
(第3態様)第1態様に係るロータ翼の製造方法は、以下のステップを備えてもよい。
◎第1材料を切削加工することで中心部と第1部分とを形成するステップ。
◎切削加工により形成された第1部分の先端から、第2材料からなる第2部分を積層して形成するステップ。
【0052】
第3態様に係る製造方法では、第2部分の形成に材料の切削を必要としないので、ロータ翼全体を切削加工で形成する場合と比較して、ロータ翼の製造により生じる材料の無駄を少なく、ロータ翼の製造時間を短くできる。また、ロータ翼全体を切削加工で形成する場合と比較して、ロータ翼の製造の難易度を低くできる。
【0053】
(第4態様)第1態様~第3態様のいずれかに係るロータ翼の製造方法において、第1部分の所定の長さは、所定の大きさ以上の応力が接続部分において発生する範囲の大きさに基づいて決定されてもよい。第4態様に係る製造方法では、接続部分の大きな応力が発生する部分を第1部分に含めることができるので、大きな応力が発生する部分に部品の接続部分及び材料の変化部分が配置されないようにできる。
【0054】
(第5態様)第1態様~第4態様のいずれかに係るロータ翼の製造方法において、第2材料は積層造形法により第1材料に積層されてもよい。第5態様に係る製造方法では、容易な方法で第1材料に第2材料を積層して形成できる。
【0055】
(第6態様)第6態様に係る真空ポンプのロータ翼は、中心部と、中心部から放射状に延びる翼とを備える。このロータ翼において、翼は、第1部分と、第2部分と、を有する。第1部分は、翼と中心部との接続部分から所定の長さだけ延びる部分である。第2部分は、第1部分の先端から翼の先端までの部分である。また、中心部と上記の第1部分は、第1材料により形成される。第2部分は、第1材料より比重が小さい第2材料により形成される。
【0056】
第6態様に係る真空ポンプのロータ翼では、ロータ翼の中心部と第1部分とが同一の第1材料により形成されている。すなわち、中心部と、中心部と翼との接続部分と、接続部分からの翼の第1部分とが、同一の第1材料により形成されている。一方、翼の残りの部分、すなわち、第1部分の先端から翼の先端までの第2部分が、第1材料とは異なる第2材料により形成されている。このため、第6態様に係るロータ翼では、第2材料により形成される第2部分に、大きな応力が生じる中心部と翼との接続部分が含まれない。このように、大きな応力が生じる箇所を、材料の積層による方法により形成される第2材料により形成しないことで、高速回転時に発生する応力にも耐えられるロータ翼を実現できる。
【0057】
また、第6態様に係るロータ翼では、第2部分を形成する第2材料の比重が、中心部と第1部分とを形成する第1材料の比重よりも小さくなっている。これにより、翼22b全体の重量を小さくできる。この結果、高速回転時に中心部と翼との接続部分に生じる応力の大きさを小さくして、より高速回転に耐えられるロータ翼を実現できる。
【0058】
(第7態様)第7態様に係る真空ポンプのロータ翼は、中心部と、中心部から放射状に延びる翼とを備える。このロータ翼において、翼は、第1部分と、第2部分と、を有する。第1部分は、翼と中心部との接続部分から所定の長さだけ延びる部分である。第2部分は、第1部分の先端から翼の先端までの部分である。また、中心部と上記の第1部分は、第1材料により形成される。第2部分は、第1材料より0.2%耐力が小さい第2材料により形成される。
【0059】
第7態様に係る真空ポンプのロータ翼では、ロータ翼の中心部と第1部分とが同一の第1材料により形成されている。すなわち、中心部と、中心部と翼との接続部分と、接続部分からの翼の第1部分とが、同一の第1材料により形成されている。一方、翼の残りの部分、すなわち、第1部分の先端から翼の先端までの第2部分が、第1材料よりも0.2%耐力が小さい第2材料により形成されている。このため、第7態様に係るロータ翼では、0.2%耐力が小さい第2材料により形成される第2部分に、大きな応力が生じる中心部と翼との接続部分が含まれない。このように、大きな応力が生じる箇所を、0.2%耐力が小さい第2材料により形成しないことで、高速回転時に発生する応力にも耐えられるロータ翼を実現できる。また、第1材料よりも0.2%耐力が小さい第2材料で第2部分を形成できることで、第2部分を形成するために用いる第2材料の選択の自由度を高めることができる。
【0060】
(第8態様)第8態様に係る真空ポンプは、第6態様又は第7態様に係るロータ翼を備える。第6態様又は第7態様に係るロータ翼は高速回転に耐えうるものであるので、第1態様に係る真空ポンプは、ロータ翼を高速回転させて排気能力を高めることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 :真空ポンプ
2 :ハウジング
3 :ベース
4 :ロータ
5 :ステータ
11 :第1端部
12 :第2端部
13 :吸気口
14 :ベース端部
15 :排気口
21 :シャフト
21A :スラストディスク
21B :ターゲット
22 :ロータ翼
22a :中心部
22b :翼
221 :第1部分
223 :第2部分
225 :接続部分
227 :曲線部分
M1 :第1材料
M2 :第2材料
23 :ロータ円筒部
31 :ステータ翼
32 :ステータ円筒部
41A :軸受
41B :磁気軸受
41C :磁気軸受
41D :磁気軸受
41E :軸受
42 :モータ
42A :モータロータ
42B :モータステータ
A1 :軸線方向
S1 :第1内部空間
S2 :排気空間
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C