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特開2024-16575オイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法
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  • 特開-オイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016575
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】オイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/66 20230101AFI20240131BHJP
   C02F 1/24 20230101ALI20240131BHJP
   B01D 17/05 20060101ALI20240131BHJP
   E03F 5/16 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C02F1/66 530Q
C02F1/66 510K
C02F1/66 521B
C02F1/66 522A
C02F1/66 530B
C02F1/66 530C
C02F1/66 530L
C02F1/66 530Z
C02F1/66 540Z
C02F1/24 D
B01D17/05 501E
B01D17/05 501A
E03F5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118810
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小畑 敬輔
(72)【発明者】
【氏名】宇川 順
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康一
(72)【発明者】
【氏名】鶴峯 義之
(72)【発明者】
【氏名】今村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】木下 陽介
【テーマコード(参考)】
2D063
4D037
【Fターム(参考)】
2D063DB08
4D037AA11
4D037AB06
4D037BA01
4D037CA14
(57)【要約】
【課題】様々な異物や雨水等が含まれる流れのある排水であっても、中和制御を安定に実施可能なオイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法を提供する。
【解決手段】オイルトラップ槽12内を流れる排水から油分を浮上分離させると共に、流入側pH計35と流出側pH計37の各pH値に応じて排水に中和剤を供給する際に、排水が中和剤の供給位置から流出側pH計37に到達するまでの所要時間を用いて、流入側pH計35のpH値、中和剤の供給量、そのときの流出側pH計37のpH値の関係を求め、オイルトラップ槽12を流れる排水の流入側pH計35のpH値と前記関係から得た供給量の中和剤が供給された排水の流出側pH計37のpH値が、予め設定したpH範囲から外れた場合、pH範囲内となるように前記関係の中和剤の供給量に補正係数αを乗じる補正を行い、補正後の供給量の中和剤をオイルトラップ槽12の排水へ供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水の流入と流出が連続的に行われるオイルトラップ槽を備え、該オイルトラップ槽内を流入側から流出側へ向けて流れる排水から油分を浮上分離可能なオイルトラップと、
前記オイルトラップ槽の排水の流入側のpH値を測定する流入側pH計及び流出側のpH値を測定する流出側pH計と、
前記流入側pH計及び前記流出側pH計の各pH値を用いて、前記オイルトラップ槽を流れる排水への中和剤の供給量を決定する制御手段と、
前記制御手段で決定された供給量の前記中和剤を排水に供給する中和剤供給手段とを有するオイルトラップを活用した排水中和処理設備において、
前記制御手段は、
前記オイルトラップ槽の排水が前記中和剤の供給位置から前記流出側pH計に到達するまでの所要時間を用いて、前記流入側pH計のpH値、前記中和剤の供給量、及び、該供給量の中和剤が供給された排水の前記流出側pH計のpH値の関係を予め求め、
前記オイルトラップ槽を流れる排水の前記流入側pH計のpH値と前記関係から得られる供給量の前記中和剤が供給された、前記オイルトラップ槽を流れる排水の前記流出側pH計のpH値が、予め設定したpH範囲から外れたことを条件として、該pH範囲内となるように前記関係の前記中和剤の供給量に補正係数αを乗じる補正を行うことを特徴とするオイルトラップを活用した排水中和処理設備。
【請求項2】
請求項1記載のオイルトラップを活用した排水中和処理設備において、前記補正係数αは下式により求めることを特徴とするオイルトラップを活用した排水中和処理設備。
α={(X-R)/(X-X)}
ここで、Xはオイルトラップ槽を流れる排水の流入側pH計のpH値、Xは中和剤が供給されたオイルトラップ槽を流れる排水の流出側pH計のpH値、Rは予め設定したpH範囲内の所定値、である。
【請求項3】
請求項1又は2記載のオイルトラップを活用した排水中和処理設備において、前記中和剤の供給量の補正を複数回行う際は、前回補正時の前記補正係数αに新たな補正係数を乗じたものを今回補正の前記補正係数αとすることを特徴とするオイルトラップを活用した排水中和処理設備。
【請求項4】
請求項1又は2記載のオイルトラップを活用した排水中和処理設備において、前記制御手段には制限値βが予め設定され、前記補正係数αが前記制限値β以下の場合は該補正係数αをそのまま用い、前記補正係数αが前記制限値β超の場合は該制限値βを前記補正係数αとすることを特徴とするオイルトラップを活用した排水中和処理設備。
【請求項5】
排水の流入と流出が連続的に行われるオイルトラップ槽を備えたオイルトラップを用いて、該オイルトラップ槽内を流入側から流出側へ向けて流れる排水から油分を浮上分離させると共に、前記オイルトラップ槽の排水の流入側に設けられた流入側pH計及び流出側に設けられた流出側pH計の各pH値に応じて排水に中和剤を供給する際に、
前記オイルトラップ槽の排水が前記中和剤の供給位置から前記流出側pH計に到達するまでの所要時間を用いて、前記流入側pH計のpH値、前記中和剤の供給量、及び、該供給量の中和剤が供給された排水の前記流出側pH計のpH値の関係を予め求め、
前記オイルトラップ槽を流れる排水の前記流入側pH計のpH値と前記関係から得られる供給量の前記中和剤が供給された、前記オイルトラップ槽を流れる排水の前記流出側pH計のpH値が、予め設定したpH範囲から外れたことを条件として、該pH範囲内となるように前記関係の前記中和剤の供給量に補正係数αを乗じる補正を行った後、該補正後の供給量の前記中和剤を前記オイルトラップ槽の排水へ供給することを特徴とするオイルトラップを活用した排水中和処理方法。
【請求項6】
請求項5記載のオイルトラップを活用した排水中和処理方法において、前記補正係数αは下式により求めることを特徴とするオイルトラップを活用した排水中和処理方法。
α={(X-R)/(X-X)}
ここで、Xはオイルトラップ槽を流れる排水の流入側pH計のpH値、Xは中和剤が供給されたオイルトラップ槽を流れる排水の流出側pH計のpH値、Rは予め設定したpH範囲内の所定値、である。
【請求項7】
請求項5又は6記載のオイルトラップを活用した排水中和処理方法において、前記中和剤の供給量の補正を複数回行う際は、前回補正時の前記補正係数αに新たな補正係数を乗じたものを今回補正の前記補正係数αとすることを特徴とするオイルトラップを活用した排水中和処理方法。
【請求項8】
請求項5又は6記載のオイルトラップを活用した排水中和処理方法において、前記補正係数αが予め設定された制限値β以下の場合は該補正係数αをそのまま用い、前記補正係数αが前記制限値β超の場合は該制限値βを前記補正係数αとすることを特徴とするオイルトラップを活用した排水中和処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、工場等の施設から排出される排水から油分を浮上させて水分と油分の分離を行うオイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場排水の中和処理を行う方法として最も一般的なものはバッチ処理である。具体的には、排水を入れる専用の中和処理槽を設け、この中和処理槽内の排水に中和剤(中和用薬剤)を添加し撹拌して、所定のpHに達した後に放流するという処理である。
しかし、このようなバッチ処理には、大規模な中和処理槽が必要であり、大きな設備投資を必要とする。
一方、工場には、排水の放流前に油分を回収するオイルトラップが設けられており、このオイルトラップを活用し、工場排水を堰き止めることなく連続的にpH調整して放流する排水処理システムがある。
【0003】
上記したオイルトラップを用いた排水処理システムとしては、例えば、特許文献1に、既存のオイルトラップを活用し、連続的に流れる排水に中和剤を投入する技術が開示されている。これにより、大規模な設備投資を行うことなく中和処理を実施できるので、効率性及び経済性において非常に有効である。具体的に、特許文献1では、オイルトラップ槽の流入側のpH値(流入側pH値)とオイルトラップ槽を流れる排水の流量を計測し、必要な中和剤を供給して、排水がオイルトラップ槽から流出するまでに中和を完了させている。また、中和剤を供給した結果の排水のpH値(流出側pH値)を使用し、上記した中和剤の供給量を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-176090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、オイルトラップ槽に流れ込む排水には、様々な異物や雨水等が含まれ、例えば、中和剤の供給量を算出する基準となる検量線の決定時のサンプル排水と、実際に流れる排水とで成分が異なるため、必要な中和剤の供給量が変動していた。このため、単に、オイルトラップ槽の流入側のpH値と排水の流量を計測して、排水の中和に必要な量の中和剤を供給したとしても、目標とするpH値に調整できない場合があった。また、中和剤を供給した結果のpH値を使用して補正すればよいとも考えられるが、上記したように、流れのある排水では、正確なトラッキングができない場合があり、このため、様々な異物や雨水等が含まれる排水の中和に対しては、的確に補正できない場合があった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、流れのある排水であっても、また、様々な異物や雨水等が含まれる排水であっても、中和制御を安定に実施可能なオイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理設備は、排水の流入と流出が連続的に行われるオイルトラップ槽を備え、該オイルトラップ槽内を流入側から流出側へ向けて流れる排水から油分を浮上分離可能なオイルトラップと、
前記オイルトラップ槽の排水の流入側のpH値を測定する流入側pH計及び流出側のpH値を測定する流出側pH計と、
前記流入側pH計及び前記流出側pH計の各pH値を用いて、前記オイルトラップ槽を流れる排水への中和剤の供給量を決定する制御手段と、
前記制御手段で決定された供給量の前記中和剤を排水に供給する中和剤供給手段とを有するオイルトラップを活用した排水中和処理設備において、
前記制御手段は、
前記オイルトラップ槽の排水が前記中和剤の供給位置から前記流出側pH計に到達するまでの所要時間を用いて、前記流入側pH計のpH値、前記中和剤の供給量、及び、該供給量の中和剤が供給された排水の前記流出側pH計のpH値の関係を予め求め、
前記オイルトラップ槽を流れる排水の前記流入側pH計のpH値と前記関係から得られる供給量の前記中和剤が供給された、前記オイルトラップ槽を流れる排水の前記流出側pH計のpH値が、予め設定したpH範囲から外れたことを条件として、該pH範囲内となるように前記関係の前記中和剤の供給量に補正係数αを乗じる補正を行う。
【0008】
第1の発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理設備において、前記補正係数αは下式により求めることができる。
α={(X-R)/(X-X)}
ここで、Xはオイルトラップ槽を流れる排水の流入側pH計のpH値、Xは中和剤が供給されたオイルトラップ槽を流れる排水の流出側pH計のpH値、Rは予め設定したpH範囲内の所定値、である。
【0009】
第1の発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理設備において、前記中和剤の供給量の補正を複数回行う際は、前回補正時の前記補正係数αに新たな補正係数を乗じたものを今回補正の前記補正係数αとするのがよい。
【0010】
第1の発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理設備において、前記制御手段には制限値βが予め設定され、前記補正係数αが前記制限値β以下の場合は該補正係数αをそのまま用い、前記補正係数αが前記制限値β超の場合は該制限値βを前記補正係数αとすることが好ましい。
【0011】
前記目的に沿う第2の発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理方法は、排水の流入と流出が連続的に行われるオイルトラップ槽を備えたオイルトラップを用いて、該オイルトラップ槽内を流入側から流出側へ向けて流れる排水から油分を浮上分離させると共に、前記オイルトラップ槽の排水の流入側に設けられた流入側pH計及び流出側に設けられた流出側pH計の各pH値に応じて排水に中和剤を供給する際に、
前記オイルトラップ槽の排水が前記中和剤の供給位置から前記流出側pH計に到達するまでの所要時間を用いて、前記流入側pH計のpH値、前記中和剤の供給量、及び、該供給量の中和剤が供給された排水の前記流出側pH計のpH値の関係を予め求め、
前記オイルトラップ槽を流れる排水の前記流入側pH計のpH値と前記関係から得られる供給量の前記中和剤が供給された、前記オイルトラップ槽を流れる排水の前記流出側pH計のpH値が、予め設定したpH範囲から外れたことを条件として、該pH範囲内となるように前記関係の前記中和剤の供給量に補正係数αを乗じる補正を行った後、該補正後の供給量の前記中和剤を前記オイルトラップ槽の排水へ供給する。
【0012】
第2の発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理方法において、前記補正係数αは下式により求めることができる。
α={(X-R)/(X-X)}
ここで、Xはオイルトラップ槽を流れる排水の流入側pH計のpH値、Xは中和剤が供給されたオイルトラップ槽を流れる排水の流出側pH計のpH値、Rは予め設定したpH範囲内の所定値、である。
【0013】
第2の発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理方法において、前記中和剤の供給量の補正を複数回行う際は、前回補正時の前記補正係数αに新たな補正係数を乗じたものを今回補正の前記補正係数αとするのがよい。
【0014】
第2の発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理方法において、前記補正係数αが予め設定された制限値β以下の場合は該補正係数αをそのまま用い、前記補正係数αが前記制限値β超の場合は該制限値βを前記補正係数αとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るオイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法は、オイルトラップ槽の排水が中和剤の供給位置から流出側pH計に到達するまでの所要時間を用いて、流入側pH計のpH値、中和剤の供給量、及び、この供給量の中和剤が供給された排水の流出側pH計のpH値の関係を予め求めるので、中和剤の供給によって流出側pH計のpH値が変化する度合いを正確に把握でき、オイルトラップ槽での排水の流れを正確にトラッキング(追跡)できる。
そして、中和剤が供給されたオイルトラップ槽を流れる排水の流出側pH計のpH値が、予め設定したpH範囲から外れた場合は、このpH範囲内となるように前記した関係の中和剤の供給量に補正係数αを乗じる補正を行うので、前記した関係を元に、性状が変動する排水に対応した補正を行うことができる。
従って、流れのある排水であっても、また、様々な異物や雨水等により性状が変動する排水であっても、中和制御を安定に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態に係るオイルトラップを活用した排水中和処理設備の説明図である。
図2】本発明の一実施の形態に係るオイルトラップを活用した排水中和処理方法の説明図である。
図3】同オイルトラップを活用した排水中和処理方法の説明図である。
図4】実施例に係るオイルトラップを活用した排水中和処理方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るオイルトラップを活用した排水中和処理設備(以下、単に排水中和処理設備ともいう)10は、例えば、工場から排出される排水から油分(油成分)を分離可能なオイルトラップ11を有し、このオイルトラップ11に、pHの調整機能を付与したものである。以下、詳しく説明する。
【0018】
オイルトラップ11は、オイルトラップ槽12を備えている。
オイルトラップ槽12は、排水の流入と流出が連続的に行われる槽であり、オイルトラップ11は、オイルトラップ槽12の流入側(上流側)から流出側(下流側)へ向けて流れる(図1では、左側から右側へ向けて流れる)排水から油分を浮上分離させるものである。なお、オイルトラップ槽12の流出側には補助槽13が取り付けられ、オイルトラップ槽12から流出した油分分離後の排水(処理済水)が、補助槽13を介して海へ放流される構成になっている。このオイルトラップ槽12の排水の流れ方向の長さ(距離)は、例えば、数m~数十m程度である。
【0019】
オイルトラップ槽12の排水の流れ方向途中位置には、複数の仕切板14、15が設けられている。この一方の仕切板14はオイルトラップ槽12内の排水の液面(浴面)側に、他方の仕切板15はオイルトラップ槽12の底部側に、それぞれ配置され、仕切板14と仕切板15が、オイルトラップ槽12の流れ方向に間隔を有して交互に(流れがジグザグ状となるように)配置されている。なお、液面側の仕切板14は、その上端部が液面から突出して、浮上した油分を堰き止め可能な構成となっており、仕切板14で堰き止められた液面上の油分は、吸引ポンプ(図示しない)によって回収される。
【0020】
オイルトラップ槽12の流入側(仕切板14、15より上流側位置)には、排水循環路16の取水口と排出口が設けられている。
排水循環路16は配管で構成され、排水循環路16の取水側端部(上流側端部)の取水口に設けられた吸水ポンプ17により、オイルトラップ槽12内の排水の一部を排水循環路16に取り込み、この取り込んだ排水を、再度、排水循環路16の排水側端部(下流側端部)の排出口からオイルトラップ槽12内へ戻すものである。吸水ポンプ17は、排出口よりも上流側に配置されている。
なお、排水循環路16には、取水口から排出口へかけて、開閉弁18、逆止弁19、循環用流量計20、及び、開閉弁21が、順次設けられている。
【0021】
吸水ポンプ17は、オイルトラップ槽12内の排水中に配置される水中ポンプである。なお、吸水ポンプ17は、1つでもよいが、オイルトラップ槽12の幅方向(排水の流れ方向に直交する方向)に、間隔をあけて複数設けることが好ましい。
この吸水ポンプ17の吸水口の深さ位置は、オイルトラップ槽12内の排水の上層(油分の浮遊領域)よりも下方で、かつ、オイルトラップ槽12の底部よりも上方に、設定されている。これにより、吸水ポンプ17は、オイルトラップ槽12内で浮上した油分を吸引することなく(排水に含まれる油分の吸引を避けながら)、しかも、オイルトラップ槽12内の底部に堆積した汚泥の吸引を抑制しながら、オイルトラップ槽12内の排水を排水循環路16に取り込める。
また、排水循環路16の排出口の位置は、オイルトラップ槽12内の排水の液面上方に設定されているが、オイルトラップ槽12内の排水中に沈めてもよい。なお、この排出口は、1つでもよいが、オイルトラップ槽12の幅方向に、間隔をあけて複数設けることが好ましい。
【0022】
排水循環路16には、2つの中和剤供給手段22、23の供給口が設けられている。
一方の中和剤供給手段22は、液体状態の硫酸(中和剤の一例)を排水循環路16内のアルカリ性となった排水に供給するものであり、他方の中和剤供給手段23は、液体状態の苛性ソーダ(中和剤の一例)を排水循環路16内の酸性となった排水に供給するものである。このように、中和剤供給手段22と中和剤供給手段23は、使用する中和剤(薬液)の種類が異なるのみであり、その構成は略同様であるため、中和剤供給手段23の構成部材の符号については、中和剤供給手段22の構成部材の符号に「a」を付して、説明を省略する。
【0023】
中和剤供給手段22は、硫酸を貯留可能なタンク24と、このタンク24と排水循環路16を連通する薬剤投入路25とを有している。
タンク24に貯留される硫酸は、その濃度が5~15%程度に調整され、また、タンク24aに貯留される苛性ソーダは、その濃度が5~15%程度に調整されているが、各濃度は、必要に応じて種々変更できる。
なお、符号26は、タンク24に設けられた水位計である。
薬剤投入路25は配管で構成され、排水循環路16に設けた逆止弁19と循環用流量計20の間で、排水循環路16に接続されている。
【0024】
薬剤投入路25には、タンク24側から排水循環路16側へかけて、移送ポンプ27、投入用流量計28、背圧弁29、電動弁30、及び、逆止弁31が、順次設けられている。なお、符号32は、硫酸をタンク24へ返送し循環させて、硫酸の凝固を防止するためのメンテナンス用の流路であり、符号33は、この流路32に設けられた電動弁である。
薬剤投入路25内には、硫酸が常時充填されている。これにより、例えば、排水のpH値が急激に変化しても、排水循環路16に取り込まれた排水への硫酸の供給を、迅速に実施できるが、必要に応じて(例えば、薬剤投入路の長さに応じて)、薬剤投入路25内に硫酸を充填させなくてもよい。
【0025】
排水循環路16には、排水循環路16内の排水と、この排水に供給された硫酸(又は苛性ソーダ、以下同様)を混合するスタティックミキサ(混合手段の一例)34が設けられている。
スタティックミキサ34は、駆動部のない従来公知の静止型混合機であり、排水循環路16の循環用流量計20と開閉弁21との間(薬剤投入路25の硫酸供給口より下流側)に設けられている。
なお、排水循環路16内の排水と硫酸を混合できれば、上記したスタティックミキサ以外の混合機、例えば、駆動部を備えた混合機を使用することもできる。
【0026】
上記した構成により、排水循環路16に取り込んだ排水に硫酸を供給して混合できるが、排水循環路16の排水取り込み量は、オイルトラップ槽12へ流入する排水の最低流入量の3~10%(好ましくは、下限を5%、上限を8%)であることが好ましい。
ここで、排水循環路16の排水取り込み量が最低流入量の3%未満の場合、排水取り込み量が少なくなり、硫酸が混合された排水をオイルトラップ槽12内へ戻した際に、オイルトラップ槽12内の排水への硫酸の拡散効率が低下する傾向にある。一方、排水循環路16の排水取り込み量が最低流入量の10%超の場合、排水取り込み量が多くなり、硫酸が混合された排水をオイルトラップ槽12内へ戻した際に、オイルトラップ槽12内の排水の流れが乱れる傾向にある。
なお、通常は、最低流入量の3~10%の範囲内で、一定流量の取水を行っている。
【0027】
オイルトラップ11では、排水がオイルトラップ槽12の流入側から流出側へ向けて流れる際に、排水から油分を浮上分離させるため、油水分離に必要な排水の層流化領域を確保する必要がある。このため、前記したように、オイルトラップ槽12の流入側に、排水のpH調整を行うための排水循環路16の取水口と排出口を設けることにより、中和剤と混合された排水が、再度、オイルトラップ槽12内に流れ込んでも、オイルトラップ槽12内での排水の層流化に必要な領域(距離)を確保でき、オイルトラップ槽12の油水分離機能を維持できる。また、排水循環路16に取り込んだ排水と中和剤の混合を行って、これをオイルトラップ槽12内に戻すことにより、中和剤が排水中に2段階で拡散するので、極微量の必要薬液量であっても、オイルトラップ槽12内を直接撹拌することなく、中和剤を拡散させて、排水の中和反応を進行させることができる。
従って、排水からの油分の分離と排水のpH調整を、排水を堰き止めることなく(バッチ処理で行うことなく)連続的かつ経済的に実施できる。
【0028】
オイルトラップ槽12には、3箇所に流入側pH計35、監視用pH計36、及び、流出側pH計37を設置している。
流入側pH計35は、オイルトラップ槽12の流入側(排水循環路16の取水口に設けられた吸水ポンプ17より上流側位置)に設置され、オイルトラップ槽12内に流入する排水のpH値を測定可能なものである。
監視用pH計36は、仕切板14、15より下流側位置に設置され、オイルトラップ槽12内を流れる排水のpH値の監視(参考値)に用いるものである。
流出側pH計37は、オイルトラップ槽12の流出側(pH計36より下流側位置)に設置され、オイルトラップ槽12内から流出させる排水のpH値を測定(監視)可能なものである。
【0029】
上記したように、オイルトラップ槽12の3箇所に流入側pH計35、監視用pH計36、及び、流出側pH計37を順次設置したが、少なくともオイルトラップ槽12の流入側と流出側(最下流位置)に設置されていればよく、必要に応じて、4箇所以上の複数箇所に設置してもよい。なお、各箇所に設置するpH計の個数は、1個又は2個以上の複数個でもよい。
オイルトラップ槽12の排水の流出位置(オイルトラップ槽12の流出側端部)には、オイルトラップ槽12を流れる(オイルトラップ槽12から流出する)排水の流量を測定可能な堰式流量計38が設置されている。なお、排水の流量を測定できれば、堰式流量計以外の流量計を用いることも、勿論可能である。
【0030】
上記した3つの流入側pH計35、監視用pH計36、及び、流出側pH計37と堰式流量計38にはそれぞれ、指示計39~42が設けられ、この指示計39~42の各数値(排水のpH値と流量)が、演算処理手段(制御手段の一例)43に送信される。この演算処理手段43には、循環用流量計20と投入用流量計28、28aで計測された各流量も送信される。
演算処理手段43は、上記した送信されたデータを用いて、後述する各処理を予め設定したプログラムにより行い、排水循環路16への硫酸又は苛性ソーダの供給量を算出し、各移送ポンプ27、27aの動作を制御することが可能なコンピュータである。なお、コンピュータは、RAM、CPU、ROM、I/O、及び、これらの要素を接続するバスを備えた従来公知のものであるが、これに限定されるものではない。
【0031】
演算処理手段43は、薬液出力判定SEQ部と、基準倍率判定SEQ部と、薬液ゲイン判定SEQ部を有している。
薬液出力判定SEQ部には、堰式流量計38で測定された排水の流量(指示計42の流量)と、オイルトラップ槽12の流入側pH計35で測定されたpH値(指示計39のpH値)が、それぞれ入力される。
また、薬液出力判定SEQ部には、オイルトラップ槽12内の排水を中和するために必要な硫酸又は苛性ソーダ(即ち、中和剤)の供給量を決定するための基準データが記録されている。
【0032】
基準データは、硫酸と苛性ソーダについてそれぞれあるが、その基本構成は同じであるため、以下、中和剤としてまとめて説明する。
この基準データは、オイルトラップ槽12の排水が中和剤の供給位置(即ち、排水循環路16の排出口)から流出側pH計37に到達するまでの所要時間(中和の進行に要する時間)を用いて、流入側pH計35のpH値、中和剤の供給量、及び、この供給量の中和剤が供給された排水の流出側pH計37のpH値の関係を予め求めたものである。
ここで、中和剤の供給位置から流出側pH計37に到達するまでの所要時間は、堰式流量計38で測定された排水の流量と、排水の流れ方向とは直交する方向のオイルトラップ槽12の内側断面積から、排水の流速を求めることで算出できる。
【0033】
また、流入側pH計35のpH値、中和剤の供給量、及び、この供給量の中和剤が供給された排水の流出側pH計37のpH値の関係は、以下により求めることができる。
オイルトラップ槽12を流れる排水(標準的な(主として流れる)排水)について、流入側pH計35での排水のpH値と、この排水に供給した中和剤の供給量(投入用流量計28、28aの流量)と、この供給量の中和剤が供給された流出側pH計37での排水のpH値を、それぞれ測定する。そして、pH値を横軸(X軸)にとり、中和剤の供給量を縦軸(Y軸)にとることで、図2に示す関係、即ち基準となる検量線y(中和剤の設定投入量:ここでは一次関数)が得られる。
この検量線yには、上記した所要時間も変数として含まれているが、検量線yを所要時間ごとに得ることもできる。
【0034】
なお、上記した検量線yは、オイルトラップ槽12の過去の操業実績を用いて得ることもできる。
更に、上記した検量線yは、オイルトラップ槽12に流す排水を予めサンプリングすることで(実際にオイルトラップ槽12に排水を流すことなく)得ることもできる。この場合、サンプリングした排水のpH値(流入側pH計35のpH値に相当)と、この排水に供給する中和剤の供給量と、この供給量の中和剤が供給された結果の排水のpH値(流出側pH計37のpH値に相当)を、それぞれ測定する。なお、中和剤が供給された結果の排水のpH値は、サンプリングした排水のpH値と供給する中和剤の供給量から計算で求めることもできる。
なお、中和剤の供給量は検量線で構成せずに、多数の点データで構成してもよい。
【0035】
上記した検量線yを用いて、実際にオイルトラップ槽12を流れる排水の、堰式流量計38の流量(実測値)と流入側pH計35のpH値(実測値)から、オイルトラップ槽12内の排水を中和するために必要な中和剤の供給量が算出される。
ここで、排水の中和は、流出側pH計37のpH値が、海への放流を実施できる環境基準を満足するように、かつ、予め設定したpH範囲内となるように行う必要がある。具体的には、環境基準とは、pH値が例えば5~9程度であり、予め設定したpH範囲とは、例えば6.6~7.8であるが、状況に応じて変更される値であり、特に限定されるものではない。
【0036】
この薬液出力判定SEQ部で算出された中和剤の供給量は、基準倍率判定SEQ部に出力される。
基準倍率判定SEQ部には、上記した流入側pH計35で測定されたpH値(実測値)と、仕切板14、15より下流側位置のpH計36で測定されたpH値(指示計40のpH値)とが、それぞれ入力される。
薬液ゲイン判定SEQ部には、上記した流入側pH計35で測定されたpH値と、循環用流量計20、及び、投入用流量計28、28aで計測された各流量とが、それぞれ入力され、これらが基準倍率判定SEQ部に出力される。
【0037】
そして、薬液出力判定SEQ部で算出された供給量の中和剤を供給できるように、基準倍率判定SEQ部を介して、移送ポンプ27、27aの動作を制御する。
ここで、薬液出力判定SEQ部で算出された供給量の中和剤を供給したオイルトラップ槽12を流れる排水の流出側pH計37のpH値(実測値)が、前記した予め設定したpH範囲内である場合は、上記した供給量の中和剤を排水に供給する。
しかし、排水には、様々な異物や雨水等が含まれ、検量線yの決定時のサンプル排水と実際に流れる排水とで成分が異なる場合がある。このため、薬液出力判定SEQ部で算出した供給量の中和剤を供給しても、オイルトラップ槽12を流れる排水の流出側pH計37のpH値が、前記した予め設定したpH範囲を外れる場合がある。
【0038】
そこで、この場合は、流出側pH計37のpH値が上記したpH範囲内となるように、前記した検量線yから得られる中和剤の供給量に補正係数αを乗じる補正を行う。具体的には、補正係数αを式(1)により求めることが好ましい。
α={(X-R)/(X-X)} ・・・(1)
ここで、Xはオイルトラップ槽12を流れる排水の流入側pH計35のpH値(実測値)、Xは検量線yから得られる供給量の中和剤が供給されたオイルトラップ槽12を流れる排水の流出側pH計37のpH値(実測値)、Rは前記した予め設定したpH範囲内の所定値、である。このpH範囲内の所定値には、例えば、排水のpH値が前記した7.8を超える場合は7.8(上限値)を使用し、排水のpH値が前記した6.6未満の場合は6.6(下限値)を使用することで、中和剤の過剰使用を防止できる(経済的に中和制御を実施できる)が、pH範囲内で任意のpH値を使用してもよい。
【0039】
上記した式の内容を、図2を参照しながら説明する。
流入側pH計35のpH値が例えばXの場合、流出側pH計37のpH値を7.8(ΔpH=X-7.8)にするには、検量線yから中和剤の供給量をyとする必要がある。しかし、上記した理由から、流出側pH計37のpH値がX(ΔpH´=X-X)となり、7.8にはならない場合がある。これは、中和剤の供給量が不足していることを意味する。
そこで、排水への中和剤の供給量を増やし、即ち、pH値7.8を起点として検量線yの傾きを大きくし、検量線Yとなるように補正する必要がある(結果として傾き{y/(X-X)}の線を平行移動させた検量線となる)。この補正量が補正係数αである。
Y=α×y ・・・(2)
【0040】
なお、オイルトラップ槽12に排水を連続的に流す状況下においては、中和剤の供給量の補正を複数回行う場合があり、この場合は、前回補正時の補正係数αに新たな補正係数を乗じたものを、今回の補正係数αとすることが好ましい。具体的には、新たな補正係数をα´とすると、補正前の検量線yと補正後の検量線Yとの関係は、上記した式(2)を用いて式(3)のようになる。
Y=α×α´×y ・・・(3)
この式(3)において、今回の補正係数αに新たな補正係数α´を乗じたものが、今回の補正係数αとなる。これにより、前回の補正係数αを考慮した補正ができる。
なお、新たな補正係数α´の算出は、上記した補正係数αの算出と同様の方法(前記した式(1)の使用)により行うことができる。この中和剤の供給量の補正を複数回行う時期としては、例えば、予め設定した時間ごと(例えば、数十秒~数十分ごと)や、排水の種類が変動するごと等があるが、特に限定されるものではない。
【0041】
この補正を行うに際しては、補正係数αの値が大きければ、中和剤の供給量が過大になって過補償の状態となり、流出側pH計37のpH値の変動が大きくなるため、中和剤の供給量が乱高下するハンチング現象が生じる場合がある。そこで、これを防止するため、以下のように制御する。
演算処理手段43に制限値βを予め設定しておく。そして、補正係数αが制限値β以下の場合は補正係数αを用い、補正係数αが制限値β超の場合は制限値βを補正係数αとして用いる。この制限値βの値は、例えば、1.05以上、更には1.1以上であることが好ましく、1.5以下、更には1.3以下であるのが好ましい(例えば、1.2程度)。
【0042】
ここで、求めた補正係数α(目標倍率)が制限値β超となる場合について、図3を参照しながら説明する。
まず、1回目の補正時期において、求めた補正係数αが制限値β超であったため、制限値(倍率制限)βを補正係数αとしている。この操作を、2回目と3回目の補正時期にそれぞれ行うことで、補正係数αが目標倍率となるまで補正している。このため、4回目の補正時期では、補正を行っていない。このとき、補正を行うごとに、前記した式(3)に示すように、制限値βを乗じたものを補正係数αとして補正を行う。
なお、補正時期ごとに設定されている制限値βは、同じ値であるが、異なる値でもよい。また、ここでは、目標倍率までの補正回数が3回の場合について説明したが、求めた補正係数αによっては2回の場合もあり、また、4回以上の場合もある。
このように、中和剤の供給量を段階的に増やすことで、流出側pH計37のpH値の変動を小さくできるため、中和剤の供給量の乱高下に伴うハンチング現象を防止できる。
【0043】
続いて、本発明の一実施の形態に係るオイルトラップを活用した排水中和処理方法について、図1を参照しながら説明する。
工場で発生した排水は、排水中和処理設備10で処理され、排水からの油分の除去と、排水のpH調整が行われた後、海へ放流される。以下、詳しく説明する。
【0044】
排水中和処理設備10のオイルトラップ11では、排水のオイルトラップ槽12への流入とオイルトラップ槽12からの流出が連続的に行われる。このとき、排水に油分が含まれていれば、排水がオイルトラップ槽12の流入側から流出側へ向けて流れる過程で、排水から油分が浮上分離される。
この浮上した油分は、液面側の仕切板14で堰き止められるため、吸引ポンプによって回収される。
【0045】
また、オイルトラップ槽12内に流入した排水は、流入側pH計35、監視用pH計36、及び、流出側pH計37によって各箇所のpH値が測定され、また、堰式流量計38で流量が測定される。なお、測定されたpH値と流量は、演算処理手段43へ逐次送信される。
そして、排水が、例えば、雨水の影響によってアルカリ性となった場合や、工場の異常(例えば、設備の損傷や薬液の漏出)によって酸性となった場合は、オイルトラップ槽12内の排水の一部を、吸水ポンプ17によって排水循環路16に連続的に取り込む。
【0046】
なお、吸水ポンプ17は、pH計で測定したpH値がアルカリ性又は酸性を示した場合だけ断続的に運転させればよいが、例えば、pH値の変動に関わらず常時運転させ、排水循環路16への排水の取り込みを連続的に行ってもよい。
このとき、吸水ポンプ17の吸水口の深さ位置は、オイルトラップ槽12内の排水の上層(油分の浮遊領域)よりも下方で、かつ、オイルトラップ槽12の底部よりも上方に、設定されているので、排水循環路16への油分等の浸入を抑制できる。また、排水循環路16の排水取り込み量は、オイルトラップ槽12への排水の最低流入量の3~10%にすることが好ましい。
【0047】
ここで、演算処理手段43において、pH計35で測定されたpH値から、排水がアルカリ性であると判断された場合について、以下説明する。
演算処理手段43の薬液出力判定SEQ部では、堰式流量計38で測定された排水の流量(指示計42の流量)と、オイルトラップ槽12の流入側のpH計35で測定されたpH値(指示計39のpH値)から、オイルトラップ槽12内の排水を中和するために必要な硫酸の供給量(以下、硫酸量とも記載)が算出される。この算出された硫酸量は、基準倍率判定SEQ部に出力される。
【0048】
そして、基準倍率判定SEQ部は、薬液出力判定SEQ部で算出された硫酸量を、排水循環路16に供給できるように、移送ポンプ27の動作を制御する。なお、移送ポンプ27の動作は、演算処理手段43の薬液ゲイン判定SEQ部に送信された循環用流量計20と投入用流量計28で計測された各流量に基づいて行う。このとき、苛性ソーダを供給する移送ポンプ27aは停止状態である。
ここで、上記した硫酸量が供給されたオイルトラップ槽12を流れる排水の流出側pH計37のpH値(実測値)が、前記した予め設定したpH範囲内である場合、上記した硫酸量を、排水循環路16に供給できるように、移送ポンプ27の動作を制御する。
【0049】
一方、上記した硫酸量が供給されたオイルトラップ槽12を流れる排水の流出側pH計37のpH値(実測値)が、前記した予め設定したpH範囲を外れる場合、流出側pH計37のpH値が上記したpH範囲内となるように、前記した薬液出力判定SEQ部で算出された硫酸の供給量(検量線yから得られる硫酸の供給量)に前記した補正係数αを乗じる補正を行い、この補正した硫酸量を、排水循環路16に供給できるように、移送ポンプ27の動作を制御する。
この補正係数αは、前記したように、式(1)を用いて求めることが好ましく、また、中和剤の供給量の補正を複数回行う場合は、前回の補正係数αに新たな補正係数α´を乗じたものを補正係数αとすることが好ましく、更に、演算処理手段43に制限値βを予め設定して中和剤の供給量を段階的に増やすことが好ましい。
【0050】
中和剤供給手段22の薬剤投入路25内には、硫酸が常時充填されているため、例えば、排水のpH値が急激に変化しても、排水循環路16に取り込んだ排水への硫酸の供給を、迅速に実施できる。
また、中和剤供給手段22から供給される硫酸量は、オイルトラップ槽12内の排水を中性にするために必要な量であるため、排水循環路16に取り込まれたアルカリ性の排水は、供給された硫酸によって酸性となる。
【0051】
上記した排水循環路16内の排水と、この排水に供給された硫酸を、スタティックミキサ34によって混合した後、排水循環路16の排出口からオイルトラップ槽12内へ戻す。
このように、オイルトラップ槽12の流入側で排水のpH調整を行うことにより、オイルトラップ11のオイルトラップ槽12内の層流形成に必要な距離を確保でき、オイルトラップ11本来の油水分離機能を阻害することなく、適切な硫酸の添加が可能となる。
【0052】
また、スタティックミキサ34によって硫酸を混合した排水を、排水循環路16の排出口からオイルトラップ槽12に戻し、この排水をオイルトラップ槽12の上流側から下流側に流すことにより、排水がオイルトラップ槽12内を移動する間に中和反応が進行し、排水の流れの中で連続的に中和処理が可能となる。このとき、油水分離機能が影響されることはない。
【0053】
そして、油分の分離とpH調整が行われた排水(処理済水)を、補助槽13を介して海へ放流する。
なお、上記した方法は、演算処理手段43において、排水がアルカリ性であると判断された場合について説明しているが、演算処理手段43において、排水が酸性であると判断された場合は、中和剤供給手段23を用いて、上記と同様の方法により、排水循環路16に苛性ソーダを供給する。
【実施例0054】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
本発明のオイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法を用いて排水の中和処理を行った結果について、図4を参照しながら説明する。この図4には、オイルトラップ槽を流れる排水の流量、この排水の流入側pH計のpH値、排水に供給する硫酸量を補正するための補正係数、この補正係数を用いて算出された硫酸の供給量、この硫酸量が供給された排水の流出側pH計のpH値の各推移を、それぞれ示している。なお、説明の便宜上、グラフの左側縦軸にはpH値を、右側縦軸には補正係数を、それぞれ記載しており、排水の流量と硫酸の供給量についてはその挙動についてのみ図示している。
【0055】
図4に示すように、オイルトラップ槽を流れる排水の流量は一定でなく、変動していることがわかる。即ち、オイルトラップ槽の排水が硫酸の供給位置から流出側pH計に到達するまでの所要時間が変動していることがわかる。
まず、オイルトラップ槽を流れる排水のpH値を流入側pH計で測定したところ、前記した予め設定したpH範囲を外れていた(pH8超であった)ため、薬液出力判定SEQ部で算出された硫酸量を排水循環路に供給できるように、移送ポンプの動作を制御した。
次に、この硫酸量が供給された排水のpH値を流出側pH計で測定したところ、pH値は僅かに低下したが、上記した予め設定したpH範囲を外れていた(pH8超)。
【0056】
そこで、流出側pH計のpH値が上記したpH範囲内となるように、薬液出力判定SEQ部で算出された硫酸の供給量に補正係数αを乗じる補正を行い、この補正した硫酸量を排水循環路に供給できるように、移送ポンプの動作を制御した。
図4に示すように、硫酸の供給量の補正を4回行い、硫酸の供給量を段階的に増やすことで、流出側pH計のpH値の変動を小さくでき、中和剤の供給量の乱高下に伴うハンチング現象を防止しながら、流出側pH計のpH値を上記したpH範囲内まで低下させることができた。
なお、ここでは、補正を複数回行った実施例について説明したが、例えば、排水の流入側pH計のpH値が上記した予め設定したpH範囲から僅かに外れる程度であれば、補正は1回でもよい。
【0057】
以上のことから、本発明のオイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法を用いることで、流れのある排水であっても、また、様々な異物や雨水等が含まれる排水であっても、中和制御を安定に実施できる。
【0058】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のオイルトラップを活用した排水中和処理設備及び排水中和処理方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、本発明の権利範囲は、オイルトラップを活用した排水中和処理設備を新たに設置(新設)する場合に限定されるものではなく、例えば、従来工場で使用されている既存のオイルトラップに、流入側pH計、流出側pH計、制御手段、及び、中和剤供給手段を設置して、本発明のオイルトラップを活用した排水中和処理設備を構成する場合にも適用される。
【0059】
そして、前記実施の形態においては、排水中和処理設備を工場に設置した場合について説明したが、油分が含まれ、しかも、pH調整を行う必要のある排水が排出される施設であれば、特に限定されるものではない。
更に、前記実施の形態においては、排水中和処理設備が中和剤供給手段として酸とアルカリの2系統を備え、排水中和処理設備を広範なpH変化に対応可能な設備にしたが、排水が酸性のみ又はアルカリ性のみに変動する場合には、酸とアルカリのいずれか一方の系統のみでもよい。なお、酸性の中和剤は、前記した硫酸に限定されるものではなく、例えば、塩酸でもよい。また、アルカリ性の中和剤も、前記した苛性ソーダに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
10:オイルトラップを活用した排水中和処理設備、11:オイルトラップ、12:オイルトラップ槽、13:補助槽、14、15:仕切板、16:排水循環路、17:吸水ポンプ、18:開閉弁、19:逆止弁、20:循環用流量計、21:開閉弁、22、23:中和剤供給手段、24、24a:タンク、25、25a:薬剤投入路、26、26a:水位計、27、27a:移送ポンプ、28、28a:投入用流量計、29、29a:背圧弁、30、30a:電動弁、31、31a:逆止弁、32、32a:流路、33、33a:電動弁、34:スタティックミキサ(混合手段)、35:流入側pH計、36:監視用pH計、37:流出側pH計、38:堰式流量計、39~42:指示計、43:演算処理手段(制御手段)
図1
図2
図3
図4