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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165756
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】水質判定方法および水質判定装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20241121BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241121BHJP
   G06V 10/82 20220101ALI20241121BHJP
【FI】
C02F3/12 Z
G06T7/00 610
G06T7/00 350C
G06V10/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082237
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧田 晟洋
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】江川 拓也
【テーマコード(参考)】
4D028
5L096
【Fターム(参考)】
4D028CA04
4D028CA05
4D028CA07
4D028CA09
4D028CA11
4D028CA12
4D028CB01
4D028CC01
4D028CC02
4D028CC04
4D028CC05
4D028CC06
4D028CC07
4D028CC09
4D028CC12
4D028CC14
4D028CC15
4D028CD01
4D028CE02
4D028CE03
5L096BA03
5L096CA04
5L096GA30
5L096GA51
5L096HA11
5L096KA04
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】処理水の画像を用いた画像解析によって処理水の水質の良否を高精度に判定すること。
【解決手段】活性汚泥を含む処理水の水質を判定する水質判定方法であって、処理水を撮像して複数の汚泥画像データを第1入力パラメータとして取得する撮像ステップと、処理水の処理施設のプラントデータを第2入力パラメータとして取得するプラントデータ取得ステップと、複数の記汚泥画像データを第1入力パラメータとして沈降性判定モデルに入力して、処理水の水質の良否を第1出力パラメータとして出力する沈降性判定ステップと、プラントデータを第2入力パラメータとして処理水SS予測モデルに入力して、処理水の水質の良否を第2出力パラメータとして出力する処理水SS予測ステップと、を含む。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取得した活性汚泥を含む処理水の水質を判定する水質判定方法であって、
活性汚泥を含む処理水を採取して撮像することにより複数の汚泥画像データを第1入力パラメータとして取得する撮像ステップと、
活性汚泥を含む処理水を処理する処理施設におけるプラントデータを第2入力パラメータとして取得するプラントデータ取得ステップと、
複数の前記汚泥画像データを第1入力パラメータとして沈降性判定モデルに入力して、前記処理水の水質の良否を第1出力パラメータとして出力する沈降性判定ステップと、
前記プラントデータを第2入力パラメータとして処理水SS予測モデルに入力して、前記処理水の水質の良否を第2出力パラメータとして出力する処理水SS予測ステップと、を含み、
前記沈降性判定モデルは、あらかじめ採取した活性汚泥の汚泥画像データを学習用入力パラメータとし、前記汚泥画像データに対応した、あらかじめ汚泥の沈降性の良否と、前記汚泥の沈降性の良否に基づいて前記処理水の良否を判定した良否の判定結果を学習用出力パラメータとして、機械学習によってあらかじめ生成された学習モデルであり、
前記処理水SS予測モデルは、あらかじめ取得したプラントデータを学習用入力パラメータとし、前記プラントデータに対応した処理水のSS濃度またはSSクラスと、前記SS濃度またはSSクラスに基づいた前記処理水の水質の良否とを学習用出力パラメータとし、機械学習によってあらかじめ生成された学習モデルである
水質判定方法。
【請求項2】
前記沈降性判定モデルの生成における前記機械学習のニューラルネットワークは、畳み込みニューラルネットワークである
請求項1に記載の水質判定方法。
【請求項3】
前記沈降性判定ステップにおいて、前記活性汚泥の沈降性が良であると判定した場合に前記処理水SS予測ステップを実行する
請求項1に記載の水質判定方法。
【請求項4】
前記プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量から選択された少なくとも1つのデータを含む
請求項1に記載の水質判定方法。
【請求項5】
前記プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量のデータを含む
請求項1に記載の水質判定方法。
【請求項6】
前記沈降性判定モデルにおける前記学習用入力パラメータとして用いる前記汚泥画像データに対して、学習用出力パラメータとして、前記汚泥画像データに対応した処理水の基準値の80%以下の汚泥画像データにおける水質の判定結果を良とし、前記処理水の基準値の200%以上の汚泥画像データにおける水質の判定結果を不良とする
請求項1に記載の水質判定方法。
【請求項7】
前記沈降性判定モデルは、採取された汚泥画像データの数のうち、クラス所属確率が所定の第1閾値以上の数と、クラス所属確率が所定の第2閾値以下の数との合計に対する、クラス所属確率が所定の第1閾値以上の数の割合を、不良度とし、前記不良度に基づいて、処理水の沈降性を判定する
請求項1に記載の水質判定方法。
【請求項8】
取得した活性汚泥を含む処理水の水質を判定する制御部を有する水質判定装置であって、
前記制御部は、
活性汚泥を含む処理水を採取して撮像することにより複数の汚泥画像データを第1入力パラメータとして取得して、複数の前記汚泥画像データを第1入力パラメータとして沈降性判定モデルに入力して、前記処理水の水質の良否を第1出力パラメータとして出力可能であり、
活性汚泥を含む処理水を処理する処理施設におけるプラントデータを第2入力パラメータとして取得して、前記プラントデータを第2入力パラメータとして処理水SS予測モデルに入力して、前記処理水の水質の良否を第2出力パラメータとして出力可能であり、
前記沈降性判定モデルは、あらかじめ採取した活性汚泥の汚泥画像データを学習用入力パラメータとし、前記汚泥画像データに対応した、あらかじめ汚泥の沈降性の良否と、前記汚泥の沈降性の良否に基づいて前記処理水の良否を判定した良否の判定結果を学習用出力パラメータとして、機械学習によってあらかじめ生成された学習モデルであり、
前記処理水SS予測モデルは、あらかじめ取得したプラントデータを学習用入力パラメータとし、前記プラントデータに対応した処理水のSS濃度またはSSクラスと、前記SS濃度またはSSクラスに基づいた前記処理水の水質の良否とを学習用出力パラメータとし、機械学習によってあらかじめ生成された学習モデルである
水質判定装置。
【請求項9】
前記沈降性判定モデルの生成における前記機械学習のニューラルネットワークは、畳み込みニューラルネットワークである
請求項8に記載の水質判定装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記沈降性判定モデルから前記第1出力パラメータとして前記活性汚泥の沈降性が良であると出力された場合に、前記処理水SS予測モデルから前記第2出力パラメータとして前記処理水の水質の良否を出力する
請求項8に記載の水質判定装置。
【請求項11】
前記プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量から選択された少なくとも1つのデータを含む
請求項8に記載の水質判定装置。
【請求項12】
前記プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量のデータを含む
請求項8に記載の水質判定装置。
【請求項13】
前記沈降性判定モデルにおける前記学習用入力パラメータとして用いる前記汚泥画像データに対して、学習用出力パラメータとして、前記汚泥画像データに対応した処理水の基準値の80%以下の汚泥画像データにおける水質の判定結果を良とし、前記処理水の基準値の200%以上の汚泥画像データにおける水質の判定結果を不良とする
請求項8に記載の水質判定装置。
【請求項14】
前記沈降性判定モデルは、採取された汚泥画像データの数のうち、クラス所属確率が所定の第1閾値以上の数と、クラス所属確率が所定の第2閾値以下の数との合計に対する、クラス所属確率が所定の第1閾値以上の数の割合を、不良度とし、前記不良度に基づいて、処理水の沈降性を判定する
請求項8に記載の水質判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質判定方法および水質判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排水処理システムによる有機物を含む排水に対する排水処理には、微生物を使用した生物処理が用いられる場合が多い。生物処理において、下水や排水中に含まれる有機物を基質として人為的に培養された微生物の集合体を活性汚泥と称する。活性汚泥中においては、細菌(従属栄養生物)、糸状菌、酵母、原生生物、後生生物などの多様な生物種が相互作用することによって、水中の有機物、窒素(N2)、およびリン(P)などが処理される。
【0003】
この排水処理システムの運転支援ツールとして、各種プラントデータを入力値として、経験式や人工知能などによって、処理水水質の1つである浮遊物質量(SS:Suspended Solids)の濃度(SS濃度)を予測する手法が提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7122989号公報
【特許文献2】特開平6-328091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排水などの処理水のSS濃度の悪化の要因の中には、糸状菌が優占することによって汚泥が浮上することなどがある。しかしながら、限られたプラントデータのみでは処理水の悪化の予兆を広範に捉えることが困難な場合がある。そのため、処理水の水質に関する良否の判定を行うために、処理水の画像を用いた画像解析によって処理水の水質の良否を高精度に判定できる方法が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、処理水の画像を用いた画像解析によって処理水の水質の良否を高精度に判定可能な水質判定方法および水質判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る水質判定方法は、取得した活性汚泥を含む処理水の水質を判定する水質判定方法であって、活性汚泥を含む処理水を採取して撮像することにより複数の汚泥画像データを第1入力パラメータとして取得する撮像ステップと、活性汚泥を含む処理水を処理する処理施設におけるプラントデータを第2入力パラメータとして取得するプラントデータ取得ステップと、複数の前記汚泥画像データを第1入力パラメータとして沈降性判定モデルに入力して、前記処理水の水質の良否を第1出力パラメータとして出力する沈降性判定ステップと、前記プラントデータを第2入力パラメータとして処理水SS予測モデルに入力して、前記処理水の水質の良否を第2出力パラメータとして出力する処理水SS予測ステップと、を含み、前記沈降性判定モデルは、あらかじめ採取した活性汚泥の汚泥画像データを学習用入力パラメータとし、前記汚泥画像データに対応した、あらかじめ汚泥の沈降性の良否と、前記汚泥の沈降性の良否に基づいて前記処理水の良否を判定した良否の判定結果を学習用出力パラメータとして、機械学習によってあらかじめ生成された学習モデルであり、前記処理水SS予測モデルは、あらかじめ取得したプラントデータを学習用入力パラメータとし、前記プラントデータに対応した処理水のSS濃度またはSSクラスと、前記SS濃度またはSSクラスに基づいた前記処理水の水質の良否とを学習用出力パラメータとし、機械学習によってあらかじめ生成された学習モデルである。
【0008】
本発明の一態様に係る水質判定方法は、上記の発明において、前記沈降性判定モデルの生成における前記機械学習のニューラルネットワークは、畳み込みニューラルネットワークである。
【0009】
本発明の一態様に係る水質判定方法は、上記の発明において、前記沈降性判定ステップにおいて、前記活性汚泥の沈降性が良であると判定した場合に前記処理水SS予測ステップを実行する。
【0010】
本発明の一態様に係る水質判定方法は、上記の発明において、前記プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量から選択された少なくとも1つのデータを含む。
【0011】
本発明の一態様に係る水質判定方法は、上記の発明において、前記プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量のデータを含む。
【0012】
本発明の一態様に係る水質判定方法は、上記の発明において、前記沈降性判定モデルにおける前記学習用入力パラメータとして用いる前記汚泥画像データに対して、学習用出力パラメータとして、前記汚泥画像データに対応した処理水の基準値の80%以下の汚泥画像データにおける水質の判定結果を良とし、前記処理水の基準値の200%以上の汚泥画像データにおける水質の判定結果を不良とする。
【0013】
本発明の一態様に係る水質判定方法は、上記の発明において、前記沈降性判定モデルは、採取された汚泥画像データの数のうち、クラス所属確率が所定の第1閾値以上の数と、クラス所属確率が所定の第2閾値以下の数との合計に対する、クラス所属確率が所定の第1閾値以上の数の割合を、不良度とし、前記不良度に基づいて、処理水の沈降性を判定する。
【0014】
本発明の一態様に係る水質判定装置は、取得した活性汚泥を含む処理水の水質を判定する制御部を有する水質判定装置であって、前記制御部は、活性汚泥を含む処理水を採取して撮像することにより複数の汚泥画像データを第1入力パラメータとして取得して、複数の前記汚泥画像データを第1入力パラメータとして沈降性判定モデルに入力して、前記処理水の水質の良否を第1出力パラメータとして出力可能であり、活性汚泥を含む処理水を処理する処理施設におけるプラントデータを第2入力パラメータとして取得して、前記プラントデータを第2入力パラメータとして処理水SS予測モデルに入力して、前記処理水の水質の良否を第2出力パラメータとして出力可能であり、前記沈降性判定モデルは、あらかじめ採取した活性汚泥の汚泥画像データを学習用入力パラメータとし、前記汚泥画像データに対応した、あらかじめ汚泥の沈降性の良否と、前記汚泥の沈降性の良否に基づいて前記処理水の良否を判定した良否の判定結果を学習用出力パラメータとして、機械学習によってあらかじめ生成された学習モデルであり、前記処理水SS予測モデルは、あらかじめ取得したプラントデータを学習用入力パラメータとし、前記プラントデータに対応した処理水のSS濃度またはSSクラスと、前記SS濃度またはSSクラスに基づいた前記処理水の水質の良否とを学習用出力パラメータとし、機械学習によってあらかじめ生成された学習モデルである。
【0015】
本発明の一態様に係る水質判定装置は、上記の発明において、前記沈降性判定モデルの生成における前記機械学習のニューラルネットワークは、畳み込みニューラルネットワークである。
【0016】
本発明の一態様に係る水質判定装置は、上記の発明において、前記制御部は、前記沈降性判定モデルから前記第1出力パラメータとして前記活性汚泥の沈降性が良であると出力された場合に、前記処理水SS予測モデルから前記第2出力パラメータとして前記処理水の水質の良否を出力する。
【0017】
本発明の一態様に係る水質判定装置は、上記の発明において、前記プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量から選択された少なくとも1つのデータを含む。
【0018】
本発明の一態様に係る水質判定装置は、上記の発明において、前記プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量のデータを含む。
【0019】
本発明の一態様に係る水質判定装置は、上記の発明において、前記沈降性判定モデルにおける前記学習用入力パラメータとして用いる前記汚泥画像データに対して、学習用出力パラメータとして、前記汚泥画像データに対応した処理水の基準値の80%以下の汚泥画像データにおける水質の判定結果を良とし、前記処理水の基準値の200%以上の汚泥画像データにおける水質の判定結果を不良とする。
【0020】
本発明の一態様に係る水質判定装置は、上記の発明において、前記沈降性判定モデルは、採取された汚泥画像データの数のうち、クラス所属確率が所定の第1閾値以上の数と、クラス所属確率が所定の第2閾値以下の数との合計に対する、クラス所属確率が所定の第1閾値以上の数の割合を、不良度とし、前記不良度に基づいて、処理水の沈降性を判定する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る水質判定方法および水質判定装置によれば、処理水の画像を用いた画像解析によって処理水の水質の良否を高精度に判定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態による下水処理施設の下水処理フローの一例を示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による下水処理施設の一例の全体構成を示す図である。
図3図3は、本発明の一実施形態による情報処理装置におけるモデル構築部および汚泥沈降性判定部の概念を示す一部流れ図を含むブロック図である。
図4A図4Aは、本発明の一実施形態による水質判定処理の撮像画像データにおける沈降性が不良の汚泥の例を示す図である。
図4B図4Bは、本発明の一実施形態による水質判定処理の撮像画像データにおける沈降性が良の汚泥の例を示す図である。
図5図5は、本発明の一実施形態による水質判定処理における画像解析結果の統計的な処理による画像のクラス所属確率分布の例を示すグラフである。
図6図6は、本発明の一実施形態による水質判定方法によって判定された不良度および処理水のSS濃度の日ごとの測定結果の例を示すグラフである。
図7図7は、本発明の一実施形態による情報処理装置におけるモデル構築部および処理水SS予測部の概念を示す一部流れ図を含むブロック図である。
図8図8は、本発明の一実施形態による水質判定方法を説明するためのフローチャートである。
図9図9は、本発明の一実施形態の第1変形例による水質判定方法を説明するためのフローチャートである。
図10図10は、本発明の一実施形態の第2変形例による水質判定方法を説明するための一部流れ図を含むブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。なお、本発明の一実施形態においては例えば、下水処理施設の処理水水質を予測する予測方法や予測装置に適用可能であり、特に、活性汚泥画像を用いた画像解析と、プラントデータを用いた処理水のSS濃度予測とによって、下水処理施設の処理水水質を高精度に予測する処理方法に適用して好適なものである。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態による下水処理施設の基本的な下水処理フローの一例を示す図である。図1に示すように、一実施形態による下水処理施設1は、最初沈殿池10と、生物反応槽20と、最終沈殿池30とを備える。最初沈殿池10は、下水ラインから流入する下水から、例えばトイレットペーパーなどの固形性汚濁物や砂などを除去する施設である。生物反応槽20は、微生物群の作用によって、アンモニアに含まれる窒素やリン酸や有機物などを除去するための施設である。最終沈殿池30は、例えば自然沈降によって活性汚泥と処理水とを固液分離するための施設である。
【0025】
一実施形態による下水処理施設1における主要な処理対象物および項目は、以下の例を挙げることができる。すなわち、有機物に関しては、生物学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、および浮遊状固形物(SS)である。窒素に関しては、全窒素(有機体窒素+無機窒素)(T-N)、アンモニア性窒素(NH4-N)、硝酸性窒素(NO3-N)、亜硝酸性窒素(NO2-N)などである。リン(P)に関しては、全リン(有機体リン+無機リン)T-P、リン酸性リン(PO4-P)などである。
【0026】
また、活性汚泥による下水処理において、有機物、窒素、リンなどの汚濁物質の処理に最も貢献しているのは、ズーグレア(Zoogloea)属、バシラス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属などの細菌類である。これらの細菌類は下水処理施設において用いられる顕微鏡による観察などの光学的な観察においては、フロックとして観察される。これらのフロックは、細菌が体外に放出する細胞外高分子物質や糸状菌の存在により、大きさ、濃淡、色などの様々な特徴を有する複雑形状を有する。活性汚泥の性能の大半を占める細菌の集合体であるフロックや糸状菌を対象として画像解析を行うことにより、その性能を定量的に評価可能である。
【0027】
上述した活性汚泥を利用した下水処理施設においては、安定した操業のために活性汚泥のモニタリングが必要になる。そのため、下水処理施設においては、顕微鏡などによって生物反応槽の活性汚泥が観察されている。ここで、処理水の観察によって得られる活性汚泥の画像データや撮像画像データから得られる情報に基づく判定は、撮像画像データを観察する観察者の技量に依存することが多い。また、顕微鏡による光学的な観察においては、多様な生物種が複雑に関係している生物反応を定量的に判断することが困難である。そのため、処理水の水質に関する良否の判定を行うために、処理水の画像を用いた画像解析によって処理水の水質の良否を高精度に判定できる方法が求められていた。
【0028】
そこで、本発明者は、上述した要請に基づいて種々検討を行い、活性汚泥の画像データからニューラルネットワークによって活性汚泥の画像から汚泥沈降性の良否を判定する沈降性判定モデルに加え、機械学習によって種々のセンサ値などのプラントデータに基づいて処理水のSS濃度を予測する処理水SS予測モデルを用いる方法を案出した。沈降性判定モデルからの出力パラメータと、処理水SS予測モデルからの出力パラメータとを用いて、下水処理施設の処理水を解析することによって、広範な悪化要因に対して処理水のSS濃度の悪化を予測して、悪化の予兆を予測することが可能になる。以下に説明する一実施形態は本発明者による以上の鋭意検討により案出されたものである。
【0029】
図2は、本実施形態による下水処理施設の全体構成の例を示す構成図である。図2に示すように、下水処理施設1は、最初沈殿池10、生物反応槽20、および最終沈殿池30を備える。最初沈殿池10には下水ライン8から下水が流入される。生物反応槽20は、最初沈殿池10と流入ライン12を介して接続されている。流入ライン12には、水量センサ14が設けられる。水量センサ14の計測値のデータは情報処理装置60に出力される。最終沈殿池30は、活性汚泥と処理水とを固液分離する。なお、最初沈殿池10の流入側に沈砂池(図示せず)を設けても良い。沈砂池は、大きな重い夾雑物を除去して、ポンプなど(図示せず)を保護する。
【0030】
生物反応槽20は、嫌気槽22、無酸素槽24、および好気槽26を備える。嫌気槽22においては、下水に含まれる微生物の細胞内におけるリン(P)が放出されてポリヒドロキシアルカノエイト(PHA)が細胞内に合成される。無酸素槽24においては、硝酸(NO3)内の酸素(O)によって有機物が酸化分解されることによって、硝酸(NO3)が窒素(N2)ガスに還元される。好気槽26においては、溶存酸素によって有機物が酸化分解されて、アンモニア(NH3)を硝酸化してPHAを分解し、リン酸(H3PO4)を細胞内に過剰蓄積させることによってリン(P)が除去される。
【0031】
最終沈殿池30の流出側には、処理水ライン32、汚泥返送ライン34、および余剰汚泥ライン36が設けられている。処理水ライン32は、処理水を消毒して河川など放流するためのラインである。汚泥返送ライン34は、汚泥の一部を生物反応槽20の入側に返送するためのラインである。余剰汚泥ライン36は、余剰汚泥を脱水して排出するためのラインである。
【0032】
汚泥返送ライン34には、返送ポンプ38および流量計39が設けられる。汚泥返送ライン34によって、最終沈殿池30に蓄積した汚泥の一部が生物反応槽20の流入側に戻される。返送ポンプ38による返送汚泥量の調整によって、MLSS濃度(汚泥濃度)の維持や調整が行われる。
【0033】
余剰汚泥ライン36には、余剰汚泥ポンプ40および流量計41が設けられる。余剰汚泥ライン36において余剰汚泥が脱水されて排出される。余剰汚泥ポンプ40による余剰汚泥量の調整によって、系内の汚泥量の調整や汚泥の新陳代謝を整えて、汚泥滞留時間が制御される。流量計41により計測される余剰汚泥の引き抜き量(余剰汚泥引抜量)の計測値のデータは情報処理装置60に供給される。
【0034】
好気槽26には、空気ブロワ42および空気量計43が設けられる。好気槽26は、外部から処理水に対して空気を吹き込み可能に構成される。空気ブロワ42の空気量は、DO(溶存酸素濃度)の維持および制御に用いられる。
【0035】
生物反応槽20の好気槽26の流出側には、硝化液循環ライン44が設けられる。硝化液循環ライン44は、硝化液を無酸素槽24に循環させるためのラインである。硝化液循環ライン44には、硝化液循環ポンプ46が設けられる。硝化液循環ポンプ46による硝化液循環量は、無酸素槽24への硝酸性窒素の供給量を調整して、窒素を除去するために用いられる。
【0036】
嫌気槽22には、例えば溶存酸素濃度センサ(DOセンサ)、pHセンサ、温度センサ、および酸化還元電位センサ(ORPセンサ)を含むセンサ群52が設けられる。無酸素槽24には、例えばDOセンサ、pHセンサ、ORPセンサ、温度センサ、および硝酸濃度センサを含むセンサ群54が設けられる。好気槽26には、例えばDOセンサ、MLSS濃度(汚泥濃度)センサ、pHセンサ、ORPセンサ、および温度センサを含むセンサ群56が設けられる。処理水ライン32には水質センサ58が設けられる。それぞれのセンサ群52,54,56、および水質センサ58による計測値のデータは、プラントデータとして情報処理装置60に入力される。
【0037】
ここで、プラントデータは、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量から選択された少なくとも1つのデータを含む。プラントデータは、好適には、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量の全てのデータを含む。なお、有機物濃度は、化学的酸素要求量(CODmn、CODcr)、生物化学的酸素要求量(BOD)などを含む。また、プラントデータは、活性汚泥を採取する位置におけるプラントデータのみならず、その他の位置において計測されたプラントデータを採用することが可能である。例えば、送風量は好気槽26において計測される。情報処理装置60は、取得したプラントデータに基づいて画像処理および演算処理を行い、処理結果に基づいてそれぞれのポンプやブロワなどのアクチュエータを制御する。
【0038】
例えば、pHセンサにより計測されたpHの計測値は、環境条件の管理に用いられる。情報処理装置60は、嫌気槽22および無酸素槽24において例えばpH7~8、好気槽26において例えばpH6~7に維持するように制御する。また、酸化還元電位(ORP)も環境条件の管理に用いられる。ORPは、嫌気槽22において所定電位未満、具体的に例えば-300mV未満、好適には-400mV未満に維持され、無酸素槽24においては、所定電位未満、具体的に例えば0~-200mV未満に維持される。溶存酸素濃度(DO)も環境条件の管理に用いられる。DOは、嫌気槽22や無酸素槽24においては例えば0.2mg/L未満、好気槽26においては、例えば1.0~2.0mg/Lに維持される。さらに汚泥濃度(MLSS)は、活性汚泥中の微生物量の管理に用いられる。MLSSは、遠心分離汚泥の乾燥重量で全体的に例えば2000~3000mg/Lに維持される。汚泥性状としては、例えばMLSS、1Lメスシリンダで30分沈殿させた場合の汚泥界面の目盛である活性汚泥沈殿率SV30、および30分沈降後の質量が1gの汚泥が占める容積である汚泥沈降目標SVI(=SV30×10000/MLSS)が分析される。
【0039】
(情報処理装置)
情報処理装置60は、通常のコンピュータなどから構成される。すなわち、情報処理装置60は、制御部、記憶部、入出力部、および通信部(いずれも図示せず)を備える。制御部は、具体的に、GPU(Graphics Processing Unit)を含み、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサ、およびRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの主記憶部(いずれも図示せず)を備える。記憶部は、RAMなどの揮発性メモリ、ROMなどの不揮発性メモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)、およびリムーバブルメディアなどから選ばれた記憶媒体から構成される。なお、リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、または、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、もしくはBD(Blu-ray(登録商標) Disc)のようなディスク記録媒体である。また、外部から装着可能なメモリカードなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体を用いて記憶部を構成しても良い。記憶部には、情報処理装置60の動作を実行するための、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル、各種データベースなどが記憶可能である。ここで、各種プログラムには、本実施形態による学習モデルに基づいた処理を実現する自動判定プログラムも含まれる。これらの各種プログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、フレキシブルディスクなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。
【0040】
制御部は、記憶部に格納されたプログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて、後述するモデル構築部100,100A、汚泥沈降性判定部200、および処理水SS予測部300の機能を実現できる。また、プログラムは、沈降性判定モデルや処理水SS予測モデルなどの、モデル構築部によって例えば畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)などの機械学習などによって生成された学習モデルを含む。なお、学習モデルは、学習済みモデルやモデルなどとも称される。学習モデルは、所定の入力パラメータと出力パラメータとの入出力データセットを教師データとして、例えばニューラルネットワークを用いた深層学習(ディープラーニング)などの機械学習により生成できる。
【0041】
入出力部は、例えば、タッチパネルディスプレイ、スピーカマイクロホン、ボタン、スイッチ、ジョグダイヤルなどから構成しても良い。出力部としての入出力部は、制御部による制御に従って、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはプラズマディスプレイなどのディスプレイの画面上に、文字や図形などを表示したり、スピーカから音声を出力したりして、所定の情報を外部に通知するように構成される。入出力部は、印刷用紙などに所定の情報を印刷することによって出力するプリンタを含む。記憶部に格納された各種情報は、例えば所定の事務所などに設置された入出力部のディスプレイなどで確認することができる。入力部としての入出力部は、例えば、キーボードや入出力部の内部に組み込まれて表示パネルのタッチ操作を検出するタッチパネル式キーボード、外部との間の通話を可能とする音声入力デバイス、スイッチ、またはジョグダイヤルなどから選択されて構成される。情報処理装置60の入出力部から所定の情報を入力することにより、下水処理施設1におけるそれぞれのポンプやブロワなどのアクチュエータを制御することができる。
【0042】
通信部は、例えば、LAN(Local Area Network)インターフェースボード、無線通信のための無線通信回路、または専用線やケーブルなどによる通信が可能な有線通信回路である。LANインターフェースボードや無線通信回路は、公衆通信網であるインターネットなどのネットワークに接続することができる。通信部は、ネットワークに接続して、下水処理施設1との間で通信を行うことができ、種々の制御信号などの信号や画像データやプラントデータなどの情報を送受信する。
【0043】
次に、情報処理装置60による、本実施形態による画像解析を用いた活性汚泥判定方法について説明する。図3は、本実施形態による水質判定処理の概念を示す一部流れ図を含むブロック図である。図3に示すように、情報処理装置60は、モデル構築部100および汚泥沈降性判定部200を有して構成される。
【0044】
モデル構築部100においては、活性汚泥を採取し(ステップST11)、画像を撮像し(ステップST12)、画像ラベリングし(ステップST13)、教師あり学習を行い(ステップST14)、モデルを構築する(ステップST15)。ステップST14の教師あり学習においては、入力画像、畳み込み層とプーリング層との繰り返し、全結合層、および出力層を有する畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いている。
【0045】
一方、汚泥沈降性判定部200においては、新たな活性汚泥を採取し(ステップST21)、採取した活性汚泥の画像を撮像し(ステップST22)、モデル構築部100のステップST15において構築された学習モデルを用いて処理し(ステップST23)、各画像のクラス所属確率を出力し(ステップST24)、各出力結果に対する統計処理を行い(ステップST25)、採取汚泥の例えば沈降性に対する判定結果を出力する(ステップST26)。
【0046】
ここで、モデル構築部100のステップST11~ST13による画像ラベリングの方法について説明する。すなわち、活性汚泥を採取(ステップST11)し、汚泥画像を撮像する(ステップST12)。活性汚泥は設定された汚泥滞留時間(SRT)の間、処理施設内に滞留する。そこで汚泥採取時刻を基準として、SRT内に処理水を取得して取得された処理水のSS濃度Xを汚泥画像に紐付ける。活性汚泥は常に入れ替わるため、紐付ける処理水のSS濃度は、汚泥採取時刻の近傍で採取された処理水のSS濃度であることが望ましく、汚泥採取時刻を開始時刻として水理学的滞留時間(HRT)に相当する時間の経過までの間に採取された処理水のSS濃度であることがより望ましい。
【0047】
次に、ステップST13において、画像に紐づけられた処理水水質を元に画像をラベリングする。ここで、ラベリングにおける教師画像のクラス分類数は2以上のクラスであればよく、「良」、「不良」の2通りとしたり、クラスA,B,C,Dの4通りとしたり、種々に設定可能である。
【0048】
ここで、処理水の水質(SS濃度X)に基づいて画像にラベリングを行う際のクラスとして、画像に紐付けられた処理水のSS濃度の基準値Tとの関係からクラス分類することが可能である。具体的に例えば、クラス分類をクラスA,B,C,Dの4通りとした場合、以下の(1-1)式、(1-2)式、(1-3)式、および(1-4)式のようにクラス分類することが可能である。なお、処理水のSS濃度の基準値Tは、例えば100mg/Lである。
クラスA:X≦0.8T ………(1-1)
クラスB:0.8T<X≦T …(1-2)
クラスC:T<X<2T ………(1-3)
クラスD:2T≦X ……………(1-4)
【0049】
本実施形態においては、活性汚泥の画像データのうちの、クラスAの状態の画像データを沈降性が「良」の画像とし、クラスDの状態の画像データを沈降性が「不良」の画像データとする。なお、クラスB,Cの画像データは教師データとして採用しないようにする。クラスAとクラスDの分類については、CNNを利用した画像解析を利用する。
【0050】
すなわち、本実施形態におけるCNNを利用した解析手順としては、まず、沈降性の良いクラスAの画像と沈降性の悪いクラスDの画像を得て学習用の教師画像とする。ここで、図4Aおよび図4Bはそれぞれ、本実施形態による水質判定処理の撮像画像データにおける沈降性が「不良」(クラスD)および「良」(クラスA)の汚泥の例を示す図である。図4Aに示すように、沈降性が不良の汚泥は、フロック2が比較的小さく、フロック2が緻密でなく、糸状菌4の量が多く、微小粒子6が多いなどである。一方、図4Bに示すように、沈降性が良の汚泥は、フロック2が比較的大きく、フロック2が緻密であり、糸状菌4の量が少なく、微小粒子6が少ないなどである。
【0051】
情報処理装置60は、教師データとして、上述したクラスA,Dの画像データ(図4A図4B参照)を学習用入力パラメータとして用い、汚泥の沈降性の良否を学習用出力パラメータとして用いて、例えばCNNによって教師画像データを学習する。これにより、学習済みモデルである沈降性判定モデルが生成される。情報処理装置60は、生物反応槽20から流出される活性汚泥を例えば顕微鏡などを用いて撮像して得られた汚泥画像データを入力パラメータとして沈降性判定モデルに入力し、出力パラメータとして沈降性の良否の判定を出力する(ステップST26)。
【0052】
汚泥沈降性判定部200の統計処理ステップにおいて、同一の汚泥サンプルから撮像された複数枚の汚泥画像に対して、学習済みCNNモデルを使用して、画像解析を実施し、各画像のクラス所属確率を出力する。図5は、本実施形態による水質判定処理における画像解析結果の統計的な処理による画像のクラス所属確率分布の例を示すグラフである。
【0053】
通常、活性汚泥中にはミクロ的に種々の特徴を有する汚泥が存在する。そのため、汚泥のクラス所属確率は広がりを有することになる。汚泥のサンプルのマクロ的な評価のためには例えば次の指標を用いることができる。
(I)第1評価値=それぞれの画像のクラス所属確率の中央値
(II)採取された汚泥画像データの数のうち、クラス所属確率が所定の第1閾値y%(例えば70%)以上の数Aと、クラス所属確率が所定の第2閾値x%(例えば30%)以下の数Bとの合計の数(A+B)に対する、クラス所属確率が所定の第1閾値(例えば70%)以上の数Aの割合を、第2評価値(不良度)とする。具体的には以下の(2)式で表される。
第2評価値=不良度[x%,y%]=A/(A+B)×100(%)…(2)
【0054】
具体的に例えば、図5に示す例は、汚泥画像データの数が500枚であるとした場合の、クラス所属確率分布である。図5においては、500枚の汚泥画像データのそれぞれに関して沈降性判定モデルから沈降性の不良度が出力され、それぞれの画像データの不良度を例えば10%ごとに分類した結果がヒストグラム化されている。なお、汚泥画像データの枚数は一例であり、必要な枚数であれば種々の枚数を選択可能である。
【0055】
図5において、クラス所属確率が30%以下で沈降性が「良」と判定できる汚泥画像データの数Bが91枚(図5中、太縦線左側)であった。また、クラス所属確率が70%以上で沈降性が「不良」と判定できる汚泥画像データの数Aが315枚(図5中、太縦線右側)であった。なお、クラス所属確率(スコア)が30%より高く70%未満の場合は、沈降性が「良」であるとも「不良」であるとも判定することが困難であって判別ができず採用されない汚泥画像データの数(500-A-B=)194枚であった。この場合、第2評価値としての不良度[30%,70%]は(2)式から、315/(91+315)×100=77.6%と導出できる。
【0056】
ここで、クラス所属確率で統計的な処理が必要な理由は、活性汚泥の性能が、微生物群の活性によって決定することに起因する。顕微鏡による観察像のようなミクロな視点では、沈降性の良い汚泥(沈降性「良」)と沈降性の悪い汚泥(沈降性「不良」)とが混在している。活性汚泥全体の性質は、いずれの汚泥が占有しているかに依存する。そこで、同じサンプルに対して撮像した汚泥画像データのそれぞれに対してクラス所属確率を算出することによって、ミクロな視点からの良否を判定可能である。これに対して統計的な処理を行うことによって、全体の汚泥の沈降性の良否を判定することができる。
【0057】
図6は、本実施形態による水質判定方法における活性汚泥の不良度(0.7)および処理水のSS濃度の実測値に関して、日ごとの測定結果の一例を示すグラフである。なお、図6において「不良度(0.7)」は、上述した(2)式において第2評価値としての不良度[30%,70%]を意味する。
【0058】
図6から、例えばN年8月~9月の部分(図6中、囲みS1)においては、不良度(0.7)が大きく増加した後に処理水のSS濃度が大きく増加していることが分かる。具体的に図6から、8月~9月においては不良度が5%程度から30%以上にまで増加していることが分かる。その後、処理水のSS濃度が120mg/L程度、すなわち基準値T(100mg/L)を超過する程度まで増加したことが分かる。同様に、例えばN年10月の部分(図6中、囲みS2)において、不良度が30%程度から50%程度にまで増加した後、処理水のSS濃度は一旦低下したものの、その後は基準値Tを大幅に超過する360mg/L程度にまで増加したことが分かる。すなわち、処理水のSS濃度を測定しているだけでは予測不能な処理水の水質の悪化を、沈降性判定モデルを用いた統計的分類に基づいた不良度の導出によって判定可能となることが分かる。以上のように、不良度を用いた評価を行うことによって、処理水のSS濃度の悪化を早期かつ鋭敏に予測することができることが分かる。
【0059】
(処理水SS濃度予測方法)
次に、情報処理装置60によるプラントデータから処理水のSS濃度値またはSS濃度クラスを予測する方法について説明する。図7は、本実施形態による情報処理装置におけるモデル構築部および処理水SS予測部の概念を示す一部流れ図を含むブロック図である。
【0060】
図7に示すように、情報処理装置60は、図3に示すモデル構築部100と同様のモデル構築部100A、および処理水SS予測部300を有する。モデル構築部100Aにおいては、各種センサからのプラントデータを取得し(ステップST111)、処理水のSS濃度を取得し(ステップST112)、プラントデータに対して処理水のSS濃度を対応させてクラスをラベリングし(ステップST113)、教師あり学習を行い(ステップST114)、モデルを構築する(ステップST115)。一方、処理水SS予測部300においては、各種センサから新たなプラントデータを取得し(ステップST121)、モデル構築部100のステップST115で構築された学習モデルを用いて処理し(ステップST122)、処理水のSS濃度値(SS値)またはSS濃度クラス(SSクラス)を出力する(ステップST123)。
【0061】
(水質判定方法)
次に、上述した情報処理装置60における汚泥沈降性判定部200および処理水SS予測部300による水質判定方法について説明する。図8は、本実施形態による水質判定方法を説明するためのフローチャートである。
【0062】
図8に示すように、情報処理装置60における汚泥沈降性判定部200は、撮像ステップとして、採取した活性汚泥を撮像することにより、複数データ、例えば500枚以上の汚泥画像データを取得する(ステップST31)。汚泥沈降性判定部200は、取得した汚泥画像データを第1入力パラメータとして沈降性判定モデルに入力する(ステップST32)。沈降性判定モデルは、上述した不良度[x%,y%]を導出して活性汚泥を含む処理水の水質の「良」または「不良」を判定して、判定結果を第1出力パラメータとして出力する(ステップST33)。これにより、沈降性判定ステップが実行される。
【0063】
汚泥沈降性判定部200が、処理水の水質は「不良」であると判定した場合(ステップST33:No)、情報処理装置60の制御部は、処理水の水質が不良であると最終判定を行う(ステップST39)。以上により、本実施形態による水質判定処理は終了する。
【0064】
一方、汚泥沈降性判定部200が、処理水の水質は「良」であると判定した場合(ステップST33:Yes)、処理水SS予測部300は、プラントデータ取得ステップSTとして、下水処理施設1の各所に設けられたセンサからプラントデータを取得する(ステップST34)。なお、処理水SS予測部300によるプラントデータの取得は、他の処理と並行させたり、適時または常時行ったりすることが可能であり、プラントデータの取得のタイミングは限定されない。また、プラントデータとしては、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量から選択された少なくとも1つのデータを含み、これらの全てのデータを含むことが好ましい。さらに、プラントデータとして、例示したデータ以外の他のデータを含めても良い。
【0065】
処理水SS予測部300は、取得したプラントデータを第2入力パラメータとして、処理水SS予測モデルに入力する(ステップST35)。処理水SS予測モデルは、処理水のSS濃度またはSS濃度のクラス(以下、SSクラス)を導出する(ステップST36)。処理水SS予測部300は、処理水のSS濃度またはSSクラスに基づいて、処理水の水質の「良」または「不良」を判定して、判定結果を第2出力パラメータとして出力する(ステップST37)。以上により、処理水SS予測ステップが実行される。
【0066】
処理水SS予測部300が、処理水の水質は「不良」であると判定した場合(ステップST37:No)、情報処理装置60の制御部は、処理水の水質が不良であると最終判定を行う(ステップST39)。一方、処理水SS予測部300が、処理水の水質は「良」であると判定した場合(ステップST37:Yes)、情報処理装置60の制御部は、処理水の水質が良であると最終判定を行う(ステップST38)。以上により、本実施形態による水質判定処理が終了する。
【0067】
(水質判定方法の第1変形例)
次に、上述した情報処理装置60における汚泥沈降性判定部200および処理水SS予測部300による水質判定方法の第1変形例について説明する。図9は、本実施形態の変形例による水質判定方法を説明するためのフローチャートである。
【0068】
図9に示すように、情報処理装置60における汚泥沈降性判定部200は、採取した活性汚泥を撮像して、複数の汚泥画像データを取得する(ステップST41)。汚泥沈降性判定部200は、取得した汚泥画像データを入力パラメータとして沈降性判定モデルに入力する(ステップST42)。沈降性判定モデルは、上述した不良度[x%,y%]を導出して活性汚泥を含む処理水の水質の「良」または「不良」を判定して、判定結果を出力パラメータとして出力する(ステップST43)。
【0069】
一方、処理水SS予測部300は並行して、下水処理施設1の各所に設けられたセンサからプラントデータを取得する(ステップST44)。なお、プラントデータの取得のタイミングは限定されない。また、プラントデータとしては、硝酸濃度、MLSS濃度、流入水量、余剰汚泥引抜量、処理水の温度、全窒素濃度、アンモニア濃度、有機物濃度、および送風量から選択された少なくとも1つのデータを含み、好適には全てのデータを含む。さらに、プラントデータとして、他のデータを含めても良い。処理水SS予測部300は、取得したプラントデータを入力パラメータとして、処理水SS予測モデルに入力する(ステップST45)。処理水SS予測モデルは、処理水のSS濃度またはSSクラスを導出し、処理水の水質の「良」または「不良」を判定して、判定結果を出力パラメータとして出力する(ステップST46)。
【0070】
情報処理装置60の制御部は、汚泥沈降性判定部200が処理水の水質は「良」であると判定、かつ処理水SS予測部300が処理水の水質は「良」であると判定した場合(ステップST47)、処理水の水質が良であると最終判定を行って出力する(ステップST48)。他方、情報処理装置60の制御部は、汚泥沈降性判定部200が処理水の水質は「不良」であると判定、および処理水SS予測部300が処理水の水質は「不良」であると判定の少なくとも一方の判定が行われた場合(ステップST47:No)、処理水の水質が不良であると最終判定を行う(ステップST49)。以上により、本実施形態の変形例による水質判定処理が終了する。
【0071】
(水質判定方法の第2変形例)
次に、上述した情報処理装置60における汚泥沈降性判定部200および処理水SS予測部300による水質判定方法の第2変形例について説明する。図10は、本実施形態の変形例による水質判定方法を説明するための一部流れ図を含むブロック図である。
【0072】
図10に示すように、情報処理装置60における汚泥沈降性判定部200の沈降性判定モデルから出力される不良度の出力値(%)および汚泥沈降性判定部200が判定した処理水の水質の判定結果(良または不良)の少なくとも一方を入力パラメータの1つとして、プラントデータとともに処理水SS予測部300の処理水SS予測モデルに入力する。処理水SS予測部300は、取得したプラントデータ、および汚泥沈降性判定部200から入力された不良度と判定結果との少なくとも一方のデータを入力パラメータとして、処理水SS予測モデルに入力する。処理水SS予測モデルは、処理水のSS値またはSSクラスを導出して出力パラメータとして出力する。その他の構成は、上述した実施形態と同様である。以上により、本実施形態の第2変形例による水質判定処理が終了する。
【0073】
以上説明した一実施形態によれば、顕微鏡などを用いて活性汚泥のミクロの状態を撮像した汚泥画像データを、ニューラルネットワークの沈降性判定モデルに入力して、汚泥沈降性の良否を出力する一方、取得したプラントデータを機械学習により生成された処理水SS予測モデルに入力して、処理水のSS濃度またはSSクラスを出力し、処理水の水質の良否を判定していることにより、処理水におけるSSの悪化の予兆を検知することができる。また、沈降性判定モデルのみを用いて処理水の水質を判定する場合や、処理水SS予測モデルのみを用いて処理水の水質を判定する場合に比して、処理水の水質の状態をより正確に判定することができ、さらに処理水の水質、特にSS濃度の悪化の有無を的確に予測可能となる。
【0074】
(記録媒体)
上述の一実施形態において、情報処理装置に実行させるプログラムを、コンピュータその他の機械や装置(以下、コンピュータなど、という)が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。コンピュータなどに、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、当該コンピュータなどが移動体制御装置として機能する。ここで、コンピュータなどが読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラムなどの情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータなどから読み取ることができる非一時的な記録媒体をいう。このような記録媒体のうちのコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、BD、DAT、磁気テープ、フラッシュメモリなどのメモリカードなどがある。また、コンピュータなどに固定された記録媒体としてハードディスク、ROMなどがある。さらに、SSDは、コンピュータなどから取り外し可能な記録媒体としても、コンピュータなどに固定された記録媒体としても利用可能である。
【0075】
また、一実施形態による情報処理装置に実行させるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。
【0076】
以上、本開示の一実施形態について具体的に説明したが、本開示は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた仮想画像や動作はあくまでも例に過ぎず、これと異なる仮想画像や動作であっても良い。
【0077】
(その他の実施形態)
上述した一実施形態においては、上述してきた「部」を、「回路」などに読み替えることができる。例えば、制御部は、制御回路に読み替えることができる。
【0078】
なお、本明細書におけるフローチャートの説明においては、「まず」、「その後」、「続いて」などの表現を用いてステップ間の処理の前後関係を明示していたが、上述した実施形態を実施するために必要な処理の順序は、それらの表現によって一意的に定められるわけではない。すなわち、本明細書で記載したフローチャートにおける処理の順序は、矛盾のない範囲で変更することができる。
【0079】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付のクレームおよびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値や情報の種類はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値や情報の種類を用いてもよく、上述の一実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。
【0080】
上述した一実施形態においては、処理水SSについて予測対象としたが、下水処理施設にて管理されるその他の処理水の水質についても同様にして予測対象とすることができる。そのほかの処理水の水質としては、例えば化学的酸素要求量(COD)、アンモニア性窒素、硝酸性窒素、全窒素、全リンなどである。
【0081】
なお、上述した実施形態においては、本発明を、嫌気-無酸素-好気法により有機物、窒素、リン(P)を除去するための、生物反応槽20が、嫌気槽22、無酸素槽24、および好気槽26を備えた下水処理施設1に適用したが、本発明の適用対象はこれに限定されず、例えば無酸素-好気法(循環式硝化脱窒素法)により有機物と窒素を除去するための、生物反応槽が嫌気槽を含まない下水処理施設や、嫌気-好気法により有機物とリンを除去するための、生物反応槽が無酸素槽を含まず、嫌気槽と好気槽を備えた下水処理施設や、標準活性汚泥法により有機物を除去するための、生物反応槽が好気槽のみからなる下水処理施設にも適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0082】
1 下水処理施設
2 フロック
4 糸状菌
6 微小粒子
8 下水ライン
10 最初沈殿池
12 流入ライン
14 水量センサ
20 生物反応槽
22 嫌気槽
24 無酸素槽
26 好気槽
30 最終沈殿池
32 処理水ライン
34 汚泥返送ライン
36 余剰汚泥ライン
38 返送ポンプ
39,41 流量計
40 余剰汚泥ポンプ
42 空気ブロワ
43 空気量計
44 硝化液循環ライン
46 硝化液循環ポンプ
52,54,56 センサ群
58 水質センサ
60 情報処理装置
100,100A モデル構築部
200 汚泥沈降性判定部
300 処理水SS予測部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10