(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016577
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】コークス炉炭化室の付着カーボン除去方法
(51)【国際特許分類】
C10B 43/10 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
C10B43/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118812
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉森 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】八ケ代 健一
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 惣一
(72)【発明者】
【氏名】池本 慎太郎
(57)【要約】
【課題】押詰り発生抑制と黒煙発生抑制の両立が図れるコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法を提供する。
【解決手段】炭化室にランスを挿入して酸素含有ガスを吹き込み付着カーボンを酸化除去する方法であり、炭化室の付着カーボン除去操作を実行した後の石炭乾留操業の際に、付着カーボンを除去した炭化室に隣接する燃焼室を通過する燃焼排ガスのCO濃度を測定し、予め設定した燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度の上限又は下限の管理基準値と、測定した燃焼排ガスのCO濃度の実測値とを比較し、石炭乾留操業後に行う付着カーボン除去操作時に、1)実測値がCO濃度上限の管理基準値超の場合、酸素含有ガスの吹き込み時間を短縮、及び/又は、単位時間当たりの吹き込み量を減少させ、2)実測値がCO濃度下限の管理基準値未満の場合、酸素含有ガスの吹き込み時間を延長、及び/又は、単位時間当たりの吹き込み量を増加させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化室にランスを挿入して酸素含有ガスを吹き込み、前記炭化室の保有熱で該炭化室の付着カーボンを酸化させて除去するコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法において、
前記炭化室の付着カーボン除去操作を実行した後の石炭乾留操業の際に、付着カーボンを除去した前記炭化室に隣接する燃焼室を通過する燃焼排ガスのCO濃度を測定し、
予め設定した前記燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度の管理基準値と、測定した燃焼排ガスのCO濃度の実測値とを比較し、
前記実測値が前記管理基準値を超えることを条件として、前記石炭乾留操業後に行う前記炭化室の付着カーボン除去操作時の前記酸素含有ガスの吹き込み時間を短縮、及び/又は、前記酸素含有ガスの単位時間当たりの吹き込み量を減少、させることを特徴とするコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法。
【請求項2】
炭化室にランスを挿入して酸素含有ガスを吹き込み、前記炭化室の保有熱で該炭化室の付着カーボンを酸化させて除去するコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法において、
前記炭化室の付着カーボン除去操作を実行した後の石炭乾留操業の際に、付着カーボンを除去した前記炭化室に隣接する燃焼室を通過する燃焼排ガスのCO濃度を測定し、
予め設定した前記燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度の管理基準値と、測定した燃焼排ガスのCO濃度の実測値とを比較し、
前記実測値が前記管理基準値未満であることを条件として、前記石炭乾留操業後に行う前記炭化室の付着カーボン除去操作時の前記酸素含有ガスの吹き込み時間を延長、及び/又は、前記酸素含有ガスの単位時間当たりの吹き込み量を増加、させることを特徴とするコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉炭化室内に付着するカーボンの酸化除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉の炭化室では、乾留生成ガスの熱分解によって生ずるカーボン、及び、石炭装入時に飛散する微粉炭が、炉壁に固着してコークス化することにより、付着カーボンが生ずる。
この炉壁の付着カーボンは、炉壁面上で成長するに従い、炉壁の熱伝導率を下げ、炭化室の有効容積を減少させるため、炉の生産性を低下させ、更にはコークス押出しを不可能とならしめる、いわゆる押詰りの原因となるもので、定期的な除去作業が必要である。
この課題を解決するために、噴射ノズル(ランス)を炭化室に挿入し、例えば空気のような酸素を含む気体を噴射しつつカーボンを燃焼除去する方法が、従来から種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、酸素含有ガスを炭化室内に供給し付着カーボンの酸化によって生成する排ガスを、炭化室内より排気する際に、CO2濃度を測定することで、その濃度変化から付着カーボンの燃焼完了時期が判定できると記載している。これは、付着カーボン量と排ガス中のCO2濃度等との間に強い相関を見出したことを根拠としている。
また、特許文献1は、上記した排ガス中のCO2濃度の測定に加え、炭化室内より排気される排ガス温度を測定することにより、付着カーボンの燃焼完了判断の一助とすることができることも記載している。
特許文献2は、酸素を含む気体(酸素含有ガス)を炭化室に供給し付着カーボンの酸化によって生成する排ガスを、炭化室内より排気する際に、O2濃度を測定することで、その濃度変化から炭化室の炉壁の平滑度を推定できると記載している。これは、排ガス中のO2濃度と、炉壁に付着したカーボンの平滑度との間に強い相関を見出したことを根拠としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-124559号公報
【特許文献2】特開2008-201925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、コークス炉操業を行うに際し、付着カーボンに関して以下のことを知見した。
付着カーボンは、炭化室煉瓦(レンガ)の本体部や目地部のいずれの部分にも付着していた。また、乾留する石炭の配合種類、操業中の燃焼室や炭化室の温度変化、に応じて、石炭乾留操業(以下、単に乾留操業とも記載)中に付着カーボンが除去される場合や付着カーボンの堆積が進行する場合のいずれもがありえた。
【0006】
このため、特許文献1記載の技術によって、乾留操業停止時に仮に適切に付着カーボンを除去したとしても、乾留操業中に、煉瓦目地に付着しているカーボンが除去され、煉瓦目地を通じてコークス炉ガス(以下、COGとも記載)が炭化室から燃焼室に供給され、燃焼室で燃焼不良が発生して、燃焼排ガスが黒煙を呈するおそれがある。
また、炭化室と燃焼室を隔てる煉瓦(炉壁煉瓦)は、長期の使用に伴い、目地部の溶射材等が剥離し落下して無くなっている場合があり、当該部分を付着カーボンが閉塞している場合がある。この場合、炭化室で発生したCOGが燃焼室に供給されて燃焼室の燃焼不良が発生するのを防止するため、目地を閉塞していたカーボンは燃焼室の燃焼不良防止に有効である。
上記より、特許文献1記載の技術には、押詰り発生抑制と黒煙発生抑制の両立が困難となる場合がある、という課題がある。
【0007】
また、特許文献2記載の技術でも、上記した特許文献1と同様に、乾留操業停止時に仮に適切に付着カーボンを除去しても、乾留操業中に、煉瓦目地に付着しているカーボンが除去され、煉瓦目地を通じてCOGが炭化室から燃焼室に供給され、燃焼室に燃焼不良が発生し、燃焼排ガスが黒煙を呈するおそれがある。
上記より、特許文献2記載の技術には、押詰り発生抑制と黒煙発生抑制の両立が困難となる場合がある、という課題がある。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、押詰り発生抑制と黒煙発生抑制の両立が図れるコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、コークス炉操業を行うに際し、押詰り発生抑制と黒煙発生抑制の両立を図るには、付着カーボンを適切な量残して炭化室の炉壁から除去することが重要であることに想到した。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
前記目的に沿う第1の発明に係るコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法は、炭化室にランスを挿入して酸素含有ガスを吹き込み、前記炭化室の保有熱で該炭化室の付着カーボンを酸化させて除去するコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法において、
前記炭化室の付着カーボン除去操作を実行した後の石炭乾留操業の際に、付着カーボンを除去した前記炭化室に隣接する燃焼室を通過する燃焼排ガスのCO濃度を測定し、
予め設定した前記燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度の管理基準値と、測定した燃焼排ガスのCO濃度の実測値とを比較し、
前記実測値が前記管理基準値を超えることを条件として、前記石炭乾留操業後に行う前記炭化室の付着カーボン除去操作時の前記酸素含有ガスの吹き込み時間を短縮、及び/又は、前記酸素含有ガスの単位時間当たりの吹き込み量を減少、させる。
【0011】
燃焼排ガスのCO濃度は、通常は環境上の基準値である上限値を持ち、コークス炉においては環境上の基準値よりも低い値を上限値(即ち、第1の発明の管理基準値)として、管理の目安としている。つまり、燃焼排ガスのCO濃度が管理基準値を超える場合、目地を通じてCOGが炭化室から燃焼室へ漏れていると見做すことができる。
なお、管理基準値は、例えば、炭化室ごとに異なる燃焼調整状況に応じて、数値自体が異なる(例えば、燃焼室Pでは10ppm、燃焼室Qでは15ppm、等)ため、一定期間の操業実績(測定実績)に応じて、予め決定しておくと良い。具体的には、正常とされるCO濃度の数値範囲の上限値を、管理基準値に用いる等が考えられる。
【0012】
前記目的に沿う第2の発明に係るコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法は、炭化室にランスを挿入して酸素含有ガスを吹き込み、前記炭化室の保有熱で該炭化室の付着カーボンを酸化させて除去するコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法において、
前記炭化室の付着カーボン除去操作を実行した後の石炭乾留操業の際に、付着カーボンを除去した前記炭化室に隣接する燃焼室を通過する燃焼排ガスのCO濃度を測定し、
予め設定した前記燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度の管理基準値と、測定した燃焼排ガスのCO濃度の実測値とを比較し、
前記実測値が前記管理基準値未満であることを条件として、前記石炭乾留操業後に行う前記炭化室の付着カーボン除去操作時の前記酸素含有ガスの吹き込み時間を延長、及び/又は、前記酸素含有ガスの単位時間当たりの吹き込み量を増加、させる。
【0013】
燃焼排ガスのCO濃度が、第2の発明の管理基準値未満の場合、付着カーボンが炉壁に過剰に付着していると見做すことができる。
このため、管理基準値は、一定期間の操業実績(測定実績)に応じて、予め決定しておくと良い。具体的には、正常とされるCO濃度の数値範囲の下限値を、管理基準値に用いる等が考えられる。
【0014】
ここで、第1、第2の発明においては管理基準値という同じ用語を用いているが、通常は、第1の発明に記載の管理基準値(実質的にはCO濃度の上限値)の数値が、第2の発明に記載の管理基準値(実質的にはCO濃度の下限値)の数値よりも、高い値となる(異なる数値となる)。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法は、炭化室の付着カーボン除去操作を実行した後の石炭乾留操業の際に、この炭化室に隣接する燃焼室を通過する燃焼排ガスのCO濃度を測定し、予め設定した燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度の管理基準値と、測定した燃焼排ガスのCO濃度の実測値とを比較して、石炭乾留操業後に行う付着カーボン除去操作時のカーボン除去の程度を決定する。
具体的には、実測値が管理基準値超の場合、付着カーボンを除去し過ぎている(炭化室から燃焼室へ流れ込むCOG量が過剰である)ことから、石炭乾留操業後に行う付着カーボン除去操作時の酸素含有ガスの吹き込み時間を短縮、及び/又は、単位時間当たりの吹き込み量を減少させて、カーボン除去の程度を緩和する。
また、実測値が管理基準値未満の場合、付着カーボンの除去が不足している(コークスの押詰りが発生し易くなる)ことから、石炭乾留操業後に行う付着カーボン除去操作時の酸素含有ガスの吹き込み時間を延長、及び/又は、単位時間当たりの吹き込み量を増加させて、カーボン除去の程度を強化する。
これにより、付着カーボンを適切な量(炭化室の煉瓦目地を閉塞する量)残して炭化室の炉壁から除去することができるため、押詰り発生抑制と黒煙発生抑制の両立が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は本発明の一実施の形態に係るコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法の処理工程の順番を示す説明図、(B)~(D)はそれぞれ石炭装入工程の模式図、コークス押出工程の模式図、カーボン除去工程の模式図、である。
【
図2】(A)~(C)はそれぞれカーボンによるコークス押出性への影響を示す炭化室の横断面図、コークス押出方向に沿って切断した縦断面図、コークス押出方向と直交する方向に切断した縦断面図である。
【
図3】(A)~(C)は燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度の挙動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)~(D)、
図2(A)~(C)に示すように、本発明の一実施の形態に係るコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法は、炭化室10にカーボン焼却ランス(ランス)11を挿入して酸素含有ガスを吹き込み、炭化室10の保有熱で炭化室10の付着カーボンを酸化させて除去する方法であり、押詰り発生抑制と黒煙発生抑制を両立する方法である。
以下、詳しく説明する。
【0018】
まず、コークス製造プロセスについて、
図1を参照しながら説明する。
図1(A)に処理する工程の順番を示した通り、多数の炭化室10を有する炉団内の各炭化室10に石炭12を、装入口13を介して装入し(石炭装入工程)、一定時間加熱乾留をする(炭化工程)ことにより、コークスを生成させる。その後、押出し機のラムビーム14により各炭化室10のコークスケーキ15を押出(コークス押出工程)後、カーボン焼却ランス11を、装入口13を介して各炭化室10に挿入して酸素含有ガスを吹き込み(カーボン除去工程)、再度石炭を装入する(石炭装入工程)サイクルを繰り返す。なお、
図1中の符号16は、炭化室10内で発生したガスを排出するための上昇管である。
図1(B)は石炭装入工程、
図1(C)はコークス押出工程、
図1(D)はカーボン除去工程の模式図である。
【0019】
次に、カーボンの付着堆積状況と押詰り、並びに、カーボン除去による目地開放によるCOGの流出と黒煙発生について、
図2(A)~(C)を参照しながら説明する。
コークス乾留中に発生するガスには炭化水素系ガスが含まれており、このガスが高温の炭化室10内で熱分解を起こすことで、コークス表面と炉壁表面、炉頂空間へ、カーボンを生成する。
生成したカーボンは、炉壁煉瓦の目地部に付着し保護カーボンとなるが、付着量が過大である場合は、突起物としてコークス押出時の抵抗となり、押詰りや押止めといった押出トラブルを誘発する要因となる。
一方で、カーボンの付着量が過少である場合は、炉壁目地をシールする保護カーボン層がないことから、炭化室10で発生したCOGが目地を通して隣接する燃焼室17へ漏れ込み、燃焼室17で燃焼不良が発生して黒煙が発生する。
上記したように、付着カーボン除去が過度である場合には、燃焼室17で黒煙発生を起こし、カーボン除去が過少である場合には、コークス押出し時の押詰りを起こす。
【0020】
燃焼室17を通過する燃焼排ガスのCO濃度は、炭化室10と燃焼室17の間に配置されている耐火物(煉瓦)の目地の通気状況(穴あき状況や付着カーボンの除去状況)の目安となる。即ち、炭化室10で石炭を乾留している間は、炭化室10ではCOGが発生し、目地の破損部を通ってCOGが燃焼室17に供給され、燃焼室17の燃焼排ガスのCO濃度増加の原因となり、このCOG供給量が増加すると黒煙発生につながる。
そこで、本願発明者らは、燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度の傾向管理により、目地の破損部を通過して燃焼室に供給されるCOGの量を定量的に評価することに注目した。具体的には、目地の破損部を通って燃焼室に供給されるCOGの量を定量的に評価するため、炭化室の付着カーボン除去操作を実行した後の石炭乾留操業の際に、付着カーボンを除去した炭化室に隣接する燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度を測定することに想到した。
【0021】
石炭乾留操業中の燃焼排ガスのCO濃度の実測値が、
図3(A)に示すように、予め設定しておいた管理基準値(例えば正常とされるCO濃度の数値範囲の上限値:基準線)Aを超えた場合、COGが煉瓦目地を通って燃焼室に供給される量が増加していることを表す。
ここで、
図3(A)に示す状況は、押詰り発生抑制の状況にはあるものの、燃焼室へのCOG供給量が増えて黒煙発生の予兆と捉えることができるから、石炭乾留操業後に行う炭化室の付着カーボン除去操作時の操作条件を弱める。なお、操作条件とは、酸素含有ガスの吹き込み時間と酸素含有ガスの単位時間当たりの吹き込み量を意味し(以下、同じ)、通常、石炭乾留操業前に行った炭化室の付着カーボン除去操作時の操作条件と同じであり、次に行う石炭乾留操業中の燃焼排ガスのCO濃度の実測値が管理基準値A以下となるように、酸素含有ガスの吹き込み時間を短縮、及び/又は、酸素含有ガスの吹き込み量を減少、させる。この酸素含有ガスの吹き込み時間と吹き込み量は、例えば、過去の操業実績に基づいて調整できる。
【0022】
これにより、目地に付着したカーボンの除去量が減るため、この付着カーボン除去操作後に行う石炭乾留初期にて、目地を通って燃焼室に供給されるCOGが減少し、燃焼室の燃焼排ガス中のCO濃度が減少して、黒煙発生を未然に予防できる。
例えば、
図3(B)に示す実線は、前記した付着カーボン除去操作時の操作条件を弱めた結果である。縦軸のCO濃度は、乾留操業中の目地のカーボン付着量変化に影響される場合があり、例えば、付着カーボンの除去の程度が緩和されることで、燃焼室に流れ込むCOG量が減少してCO濃度が管理基準値Aよりも低下し、更に、石炭の装入直後に発生した揮発物により目地にカーボン成分が付着することで、燃焼室に流れ込むCOG量が更に減少してCO濃度が下がっていく。
【0023】
なお、
図3(B)に示す破線は、前記した付着カーボン除去操作時の操作条件を結果として弱めていない場合(付着カーボン除去が過剰な場合)の結果であり、煉瓦目地を通ってCOGが燃焼室に供給される量が減っておらず、CO濃度が管理基準値Aよりも高くなっている。
具体的には、煉瓦目地に一旦孔が開き、乾留操業中にCOGが孔を介して燃焼室へ流入し続けると、その流速が上昇してカーボンが孔に留まりにくい状況となり、また、その部分で燃焼不良が生じて炉壁の温度が低下し孔部でのカーボン形成が阻害されるため、孔が開いていく傾向となり、寧ろ通過するCOG量が増加することになる。
【0024】
また、石炭乾留操業中の燃焼排ガスのCO濃度の実測値が、
図3(C)の実線に示すように、予め設定しておいた管理基準値(例えば正常とされるCO濃度の数値範囲の下限値:基準線)Bを下回る場合、カーボンが過剰に付着していることを表す。
ここで、
図3(C)に示す状況は、燃焼室へのCOG供給量がなく、カーボンによる押詰り発生の予兆と捉えることができるから、石炭乾留操業後に行う炭化室の付着カーボン除去操作時の操作条件を強める。なお、この操作条件は、通常、石炭乾留操業前に行った炭化室の付着カーボン除去操作時の操作条件と同じであり、次に行う石炭乾留操業中の燃焼排ガスのCO濃度の実測値が管理基準値B以上となるように、操作条件の酸素含有ガスの吹き込み時間を延長、及び/又は、酸素含有ガスの単位時間当たりの吹き込み量を増加、させる。この酸素含有ガスの吹き込み時間と吹き込み量は、例えば、過去の操業実績に基づいて調整できる。
これにより、目地及び炉壁に付着したカーボンの除去量が増えるため、
図3(C)の破線に示すように、燃焼室の燃焼排ガス中のCO濃度が上昇し、押詰り発生を未然に予防できる。
【0025】
上記した燃焼室の燃焼排ガスのCO濃度は、例えば、燃焼室から燃焼排ガスとして排出される過程で、燃焼排ガスを配管により引抜いて測定することにより得られるが、どの燃焼室から排出される燃焼排ガスであるかが特定できれば、その測定方法は特に限定されるものではない。
また、石炭乾留操業中の燃焼排ガスのCO濃度の実測値には、例えば、数十時間に及ぶ1回の石炭乾留操業時のCO濃度の平均値を用い、この平均値と上記した管理基準値A、Bとを比較するのがよいが、この平均値には、例えば、1回の石炭乾留操業の特定期間(例えば、乾留操業後半)のCO濃度の平均値を用いることもできる。また、実測値にCO濃度の測定値そのものを使用し、この測定値が1回又は2回以上の複数回、管理基準値A超であるか否か、又は、管理基準値B未満であるか否かで、実測値と管理基準値A、Bとの比較を行ってもよい。
【0026】
管理基準値は、炭化室に隣接する2つの燃焼室a、bに対して、例えば、以下のように設定できる。なお、一方の燃焼室aの管理基準値(CO濃度上限)をCT1、管理基準値(CO濃度下限)をCB1とし、他方の燃焼室bの管理基準値(CO濃度上限)をCT2、管理基準値(CO濃度下限)をCB2とする(CT1>CB1、CT2>CB2)。
1)4つの管理基準値CT1、CT2、CB1、CB2が異なる(即ち、CT1≠CT2、かつ、CB1≠CB2)。
2)2つの管理基準値CT1、CT2が同じ、かつ、2つの管理基準値CB1、CB2が同じ(即ち、CT1=CT2、かつ、CB1=CB2)。
3)2つの管理基準値CT1、CT2が同じ、又は、2つの管理基準値CB1、CB2が同じ(即ち、CT1=CT2、又は、CB1=CB2)。
【0027】
上記した1)の管理基準値の設定では、炭化室の両隣で、石炭乾留操業中の燃焼排ガスのCO濃度の実測値と管理基準値との比較の判断基準が異なるが、一方の燃焼室の管理基準値の条件を満たした場合に、酸素含有ガスの吹き込み時間の短縮や延長、また、酸素含有ガスの単位時間当たりの吹き込み量の減少や増加の判断を行えばよい(上記した3)の管理基準値の設定についても同様)。
なお、管理基準値の設定の際に、一方の燃焼室aの管理基準値CT1が、他方の燃焼室bの管理基準値CB2以下となる場合(CT1≦CB2)も考えられるが、本発明者らは経験していない。仮にこのような状況が発生した場合は、作業者の手作業により付着コークスを除去するのがよい。
酸素含有ガスの吹き込み時間の短縮や延長、また、酸素含有ガスの単位時間当たりの吹き込み量の減少や増加は、例えば、過去の操業実績に基づいて調整できる。
【0028】
上記した実測値と管理基準値との比較や、酸素含有ガスの吹き込み時間や吹き込み量の調整は、例えば、コークス炉設備の制御部(コンピュータ)により自動で実施することができる。
具体的には、炭化室の付着カーボン除去操作を実行した後の石炭乾留操業の際に測定した燃焼排ガスのCO濃度を、リアルタイム(逐次)に連続的又は断続的に制御部へ送信する。制御部では、この送信されたCO濃度の測定値に対して予め設定した処理がなされ、前記した燃焼排ガスのCO濃度の実測値を算出し、燃焼排ガスのCO濃度の管理基準値と、燃焼排ガスのCO濃度の実測値とを比較する。そして、制御部は、石炭乾留操業後に行う炭化室の付着カーボン除去操作時の酸素含有ガスの吹き込み時間、及び/又は、吹き込み量の調整を行う。なお、酸素含有ガスの吹き込み時間と吹き込み量は、例えば、過去の操業実績に基づいて得られた、燃焼排ガスのCO濃度の管理基準値と、燃焼排ガスのCO濃度の実測値との乖離幅に応じて調整できる。
なお、上記した操作は、作業者が手動により行うこともできる。
【実施例0029】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
<押詰り防止効果の確認>
あるコークス炉について、以下の押詰り発生率を算出した。
比較として、従来技術(炭化室の付着カーボンの除去を実施せず、押詰りが発生したら人力で付着カーボンを除去する方法、以下同じ)の1年間のカーボン起因の押詰り発生率を回数割合で算出した。
前記した特許文献2記載の方法(炭化室に酸素含有ガスを吹き込み、炭化室から排出される排ガスの酸素濃度が所定の値となった時点で酸素含有ガス吹き込みを停止、以下同じ)を数年実施し、最も押詰り発生が抑制できた最後の1年間のカーボン起因の押詰り発生率を回数割合で算出し、上記した従来技術の発生率を100として発生率を指数化した。
その結果、指数化した発生率は約60であった。
本発明の方法(燃焼室のCO濃度管理、以下同じ)を2年実施し、後半1年間のカーボン起因の押詰り発生率を回数割合で算出し、上記した従来技術の発生率を100として発生率を指数化した。
その結果、指数化した発生率は約40であった。
【0030】
<黒煙発生未然防止効果の確認>
あるコークス炉について、黒煙発生状況について調査した。実際には黒煙の発生がなかったため、黒煙発生可能性リスク(排ガス中のCO濃度であって黒煙が発生する濃度を100として、60以上にCO濃度が上昇すること)について比較した。
比較として、従来技術の1年間の黒煙発生可能性リスクが生じた回数の回数割合を算出した。
前記した特許文献2記載の方法であって押詰り発生状況を確認した期間の黒煙発生可能性リスクが生じた回数割合を算出し、従来技術の回数割合を100として回数割合を指数化した。
その結果、指数化した回数割合は約50であった。
本発明の方法であって押詰り発生状況を確認した期間の黒煙発生可能性リスクが生じた回数割合を算出し、従来技術の回数割合を100として回数割合を指数化した。
その結果、指数化した回数割合は約35であった。
【0031】
以上より、本発明に従えば、炭化室内であって特に炭化室煉瓦の目地にCOGの流通を止める程度の付着カーボンを残し、かつ炭化室から乾留コークスを押し出す際の押詰りを防止できる程度に付着カーボンを除去することが可能となり、押詰り発生割合と黒煙発生(発生可能性リスク)割合の双方を低減する効果が同時に得られることがわかった。
【0032】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のコークス炉炭化室の付着カーボン除去方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、炭化室の両隣の燃焼室に対して、CO濃度上限とCO濃度下限となる一組の管理基準値をそれぞれ設定し、少なくとも一方の燃焼室のCO濃度上限の管理基準値を超えた場合、又は、CO濃度下限の管理基準値を下回った場合に、付着カーボン除去操作時の酸素含有ガスの吹き込み時間や吹き込み量の調整を行った場合について説明した。
しかし、例えば、炭化室やこの炭化室に隣接する燃焼室の状況に応じて、1)一方の燃焼室のみにCO濃度上限とCO濃度下限となる一組の管理基準値を設定し、また、2)両隣の燃焼室又は一方の燃焼室に対して、CO濃度上限及びCO濃度下限のいずれか一方の管理基準値のみを設定し、この管理基準値に応じて、付着カーボン除去操作時の酸素含有ガスの吹き込み時間や吹き込み量の調整を行うこともできる。