IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図1
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図2
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図3
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図4
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図5
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図6
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図7
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図8
  • 特開-搭載設計装置及び搭載設計方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165783
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】搭載設計装置及び搭載設計方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/15 20200101AFI20241121BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20241121BHJP
   G06F 30/18 20200101ALI20241121BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20241121BHJP
   G06F 111/04 20200101ALN20241121BHJP
   G06F 113/16 20200101ALN20241121BHJP
【FI】
G06F30/15
G06F30/20
G06F30/18
B60R16/02 610Z
G06F111:04
G06F113:16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082277
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】大村 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 英稔
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA05
5B146AA14
5B146AA21
5B146BA01
5B146DC04
5B146DC05
5B146DE16
5B146FA00
(57)【要約】
【課題】電子制御ユニットの搭載位置の設計において、搭載数を含めて搭載位置を的確に決定する技術を提供する。
【解決手段】S130では、処理部5は、第1決定変数及び第2決定変数を含んで設定される搭載用関数、及び第1決定変数及び第2決定変数が取り得る範囲を制限する搭載用条件を規定する係数を取得する。第1決定変数は、搭載候補位置のそれぞれについて、ゾーンECUを搭載するか否かを示す。第2決定変数は、搭載候補位置に搭載されたゾーンECUに周辺機器を接続するか否かを示す。S140では、処理部5は、搭載用条件を充足する範囲で、搭載用関数により算出される評価値を最小化する第1決定変数及び第2決定変数を求めることで、電子制御ユニットの搭載位置及び搭載数を決定する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計対象車両において電子制御ユニットを搭載可能な位置を表す複数の搭載候補位置、前記設計対象車両に搭載され、前記電子制御ユニットに接続される周辺機器が搭載された位置を表す一つ以上の機器搭載位置、及び前記搭載候補位置間及び前記機器搭載位置から前記搭載候補位置に至る配線経路を含んだ情報であるトポロジー情報を取得するように構成されたトポロジー情報取得部(5:S120)と、
前記複数の搭載候補位置のそれぞれについて、前記電子制御ユニットを搭載するか否かを表す第1決定変数、及び前記周辺機器のそれぞれについて、前記搭載候補位置に搭載された前記電子制御ユニットのいずれに接続するかを表す第2決定変数を用いて設定され、前記電子制御ユニットの配置の良否を表す評価値の算出に用いる目的関数を搭載用関数とし、前記第1決定変数及び前記第2決定変数が取り得る値の範囲を制限する制約条件を搭載用条件として、前記設計対象車両に応じて決まる前記搭載用関数及び前記搭載用条件を規定する係数を取得するように構成された搭載用係数取得部(5;S130)と、
前記搭載用条件を充足する範囲で、前記搭載用関数により算出される前記評価値を最大化又は最小化する前記第1決定変数及び前記第2決定変数を求めることで、前記電子制御ユニットの搭載位置及び搭載数を決定するように構成された搭載用演算部(5:S140)と、
を備える搭載設計装置。
【請求項2】
請求項1に記載の搭載設計装置であって、
前記搭載用関数は、前記電子制御ユニットを搭載するか否かによって決まる搭載コストと、前記電子制御ユニットと前記周辺機器との間の配線コストとの合計値を、前記評価値として算出するように設定された、
搭載設計装置。
【請求項3】
請求項1に記載の搭載設計装置であって、
前記搭載用関数は、前記電子制御ユニットを搭載するか否かによって決まる搭載コストと、前記電子制御ユニットと前記周辺機器と間の配線コストとの合計値と、前記電子制御ユニットと前記周辺機器との間の配線重量との加重加算値を、前記評価値として算出するように設定された
搭載設計装置。
【請求項4】
請求項1に記載の搭載設計装置であって、
前記制約条件は、前記複数の搭載候補位置のいずれか1か所以上に、前記電子制御ユニットを配置すること、及び前記周辺機器は、それぞれが、前記搭載候補位置に配置された前記電子制御ユニットのいずれか一つに接続されることを含む
搭載設計装置。
【請求項5】
請求項1に記載の搭載設計装置であって、
前記トポロジー情報は、前記搭載候補位置及び前記機器搭載位置をノードとし、前記配線経路をエッジとするグラフによって表される
搭載設計装置。
【請求項6】
請求項1に記載の搭載設計装置であって、
前記搭載用演算部により、前記搭載候補位置のいずれかに搭載位置が決定された前記電子制御ユニットを搭載ユニットとして、前記搭載ユニット間の電源線の配線の有無を表す第3決定変数を用いて、前記搭載ユニット間を接続する電力線の配線構造の良否を表す評価値を算出する目的関数を電源用関数とし、前記第3決定変数が取り得る値の範囲を制限する制約条件を電源用条件として、前記電源用関数及び前記電源用条件を規定する係数を取得するように構成された電源用係数取得部(5:S150)と、
前記電源用条件を充足する範囲で、前記電源用関数により算出される前記評価値を最大化又は最小化する前記第3決定変数を求めることで、前記電力線の配線構造を決定するように構成された電源用演算部(5:S160~S170)と、
を備える搭載設計装置。
【請求項7】
請求項6に記載の搭載設計装置であって、
前記電源用関数は、前記搭載ユニット間を接続する電源線の配線コストを、前記評価値として算出するように設定された、
搭載設計装置。
【請求項8】
請求項6に記載の搭載設計装置であって、
前記電源用関数は、前記搭載ユニット間を接続する電源線の配線コストと、前記搭載ユニット間を接続する電源線の配線重量との加重加算値を、前記評価値として算出するように設定された、
搭載設計装置。
【請求項9】
請求項6に記載の搭載設計装置であって、
前記電源用条件には、直にバッテリに接続される前記搭載ユニットである先頭ユニットは、当該先頭ユニット以外の前記搭載ユニットである非先頭ユニットからの入力を持たないこと、及び前記非先頭ユニットは、いずれも自身以外の他の前記搭載ユニットの一つからの入力を持つこと、前記搭載ユニット間を接続するリンク数が、前記搭載ユニットの数であるノード数未満であることを含む
搭載設計装置。
【請求項10】
コンピュータを用いて構築された搭載設計装置において実行される搭載設計方法であって、
前記コンピュータが備えるトポロジー情報取得部が、設計対象車両において電子制御ユニットを搭載可能な位置を表す複数の搭載候補位置、前記設計対象車両に搭載され、前記電子制御ユニットに接続される周辺機器が搭載された位置を表す一つ以上の機器搭載位置、及び前記搭載候補位置間及び前記機器搭載位置から前記搭載候補位置に至る配線経路に関する情報であるトポロジー情報を取得し(S120)、
前記コンピュータが備える搭載用係数取得部が、前記複数の搭載候補位置のそれぞれについて、前記電子制御ユニットを搭載するか否かを表す第1決定変数、及び前記周辺機器のそれぞれについて、前記搭載候補位置に搭載された前記電子制御ユニットのいずれに接続するかを表す第2決定変数を用いて設定され、前記電子制御ユニットの配置の良否を表す評価値の算出に用いる目的関数を搭載用関数とし、前記第1決定変数及び前記第2決定変数が取り得る値の範囲を制限する制約条件を搭載用条件として、前記設計対象車両に応じて決まる前記搭載用関数及び前記搭載用条件の係数を取得し(S130)、
前記コンピュータが備える搭載用演算部が、前記搭載用条件を充足する範囲で、前記搭載用関数により算出される前記評価値を最大化又は最小化する前記第1決定変数及び前記第2決定変数を求めることで、前記電子制御ユニットの搭載位置及び搭載数を決定する(S140)
搭載設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載用電子制御ユニットの搭載位置を設計する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車載用電子制御ユニット(以下、ECU)の搭載位置を決定する方法が記載されている。この方法では、フルスペックを実現する際に必要となる全てのECUの搭載位置が予め設定(以下、初期設定)されていることを前提としている。そして、車両のグレード等に応じて、ECUが搭載されない空き搭載位置が生じた場合、空き搭載位置に移動させることで、ワイヤハーネスの電線長を短くすることができるECUがあれば、そのECUを空き搭載位置に移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-5914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者らの検討の結果、従来技術では、ECU搭載位置の初期設定が、必ずしも最適化されているとは限らないという課題が見いだされた。また、従来技術では、多数存在する設計パターンを、ワイヤハーネスの電線長以外の要素によって評価することができないという課題も見いだされた。
【0005】
本開示の1つの局面は、電子制御ユニットの搭載位置の設計において、搭載数を含めて搭載位置を的確に決定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、搭載設計装置であって、トポロジー情報取得部(5:S120)と、搭載用係数取得部(5;S130)と、搭載用演算部(5:S140)と、を備える。トポロジー情報取得部は、複数の搭載候補位置、一つ以上の機器搭載位置、及び配線経路を含んだ情報であるトポロジー情報を取得するように構成される。搭載候補位置は、設計対象車両において電子制御ユニットを搭載可能な位置を表す。機器搭載位置は、設計対象車両に搭載され、電子制御ユニットに接続される周辺機器が搭載された位置を表す。配線経路は、搭載候補位置間及び機器搭載位置から搭載候補位置に至る配線経路である。搭載用係数取得部は、設計対象車両に応じて決まる搭載用関数及び搭載用条件を規定する係数を取得するように構成される。搭載用関数は、第1決定変数及び第2決定変数を用いて設定され、電子制御ユニットの配置の良否を表す評価値の算出に用いる目的関数である。第1決定変数は、複数の搭載候補位置のそれぞれについて、電子制御ユニットを搭載するか否かを表す変数である。第2決定変数は、周辺機器のそれぞれについて、搭載候補位置に搭載された電子制御ユニットのいずれに接続するかを表す変数である。搭載用条件は、第1決定変数及び第2決定変数が取り得る値の範囲を制限する制約条件である。搭載用演算部は、搭載用条件を充足する範囲で、搭載用関数により算出される評価値を最大化又は最小化する第1決定変数及び第2決定変数を求めることで、電子制御ユニットの搭載位置及び搭載数を決定するように構成される。
【0007】
このような構成によれば、電子制御ユニットの搭載位置を搭載数も含めて的確に決定することができる。
本開示の一態様は、コンピュータを用いて構築された搭載設計装置において実行される搭載設計方法である。搭載設計方法では、まず、コンピュータが備えるトポロジー情報取得部が、複数の搭載候補位置、一つ以上の機器搭載位置、及び配線経路を含むトポロジー情報を取得する(S120)。搭載候補位置は、設計対象車両において電子制御ユニットを搭載可能な位置を表す。機器搭載位置は、設計対象車両に搭載され、電子制御ユニットに接続される周辺機器が搭載された位置を表す。配線経路は、搭載候補位置間及び機器搭載位置から搭載候補位置に至る配線経路である。次に、コンピュータが備える搭載用係数取得部が、設計対象車両に応じて決まる搭載用関数及び搭載用条件の係数を取得する(S130)。搭載用関数は、第1決定変数及び第2決定変数を用いて、電子制御ユニットの配置の良否を表す評価値の算出に用いる目的関数である。第1決定変数は、複数の搭載候補位置のそれぞれについて、電子制御ユニットを搭載するか否かを表す変数である。第2決定変数は、周辺機器のそれぞれについて、搭載候補位置に搭載された電子制御ユニットのいずれに接続するかを表す変数である。搭載用条件は、第1決定変数及び第2決定変数が取り得る値の範囲を制限する制約条件である。次に、コンピュータが備える搭載用演算部が、搭載用条件を充足する範囲で、搭載用関数により算出される評価値を最大化又は最小化する第1決定変数及び第2決定変数を求めることで、電子制御ユニットの搭載位置及び搭載数を決定する(S140)。
【0008】
このような方法によれば、上述の搭載設計装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車載用電子制御ユニットの搭載設計装置の構成を示すブロック図である。
図2】トポロジー情報の概要を示すワイヤハーネストポロジー図である。
図3】トポロジー情報の内容を示す表である。
図4】係数情報の内容を示す表である。
図5】ループ接続の有無と、搭載ノードの数及びリンク数との関係を示す説明図である。
図6】搭載設計処理のフローチャートである。
図7】ゾーンECUの数と、ゾーンECUと周辺機器との間の配線量との関係を示す説明図である。
図8】実施形態の手法及び比較手法について、ゾーンECUの搭載候補位置の数と、設計に要する計算時間との関係を測定した結果を示すグラフである。
図9】実施形態の手法及び比較手法について、設計結果の総コストを算出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
第1実施形態の車載用電子制御ユニット(以下、ECU)の搭載設計装置1は、ゾーン型アーキテクチャを採用する車両において、ゾーンECUの搭載数及び搭載位置の設計、更に、ゾーンECU間を接続する電力線の配線構造の設計に用いられる。
【0011】
ゾーン型アーキテクチャは、車両の電気/電子アーキテクチャ(すなわち、EEA)の一種である。現時点でのEEAの主流は、ドメイン分散型アーキテクチャである。ドメイン分散型アーキテクチャは、パワートレイン、ボデー、シャシー等といった特定のシステム(すなわち、ドメイン)毎に、複数のECUが配置される。これに対して、ゾーン型アーキテクチャは、高い処理能力を備えたゾーンECUと呼ばれる少数のコンピュータに制御機能と情報を集約する。これにより、シンプルな配線構造とシステム開発の効率化を実現する。
【0012】
図1に示すように、搭載設計装置1は、入力部2と、表示部3と、記憶部4と、処理部5とを備える。
入力部2は、キーボード及びポインティングデバイス等を備え、当該搭載設計装置1を操作するための各種指令や各種情報を入力するために使用される。入力部2は、他の機器(例えば、サーバ)と直接又はネットワークを介して通信するための通信インタフェース、及び各種記録媒体から情報を読み込むための読込装置等を備えてもよい。入力部2は、通信インタフェース及び読込装置を介して必要な情報を入力するように構成されてもよい。
【0013】
表示部3は、例えば、液晶ディスプレイ等を備え、入力部2を介して各種情報を入力するための情報入力画面、及び処理部5での処理結果等を提示するための結果提示用画面等を表示する。入力部2及び表示部3は、タッチパネル付ディスプレイ等を用いて一体に構成されてもよい。
【0014】
記憶部4は、ハードディスク及びUSBメモリ等の記録媒体を備える。記憶部4は、処理部5での処理に必要な各種情報を記憶する。記憶部4に記憶される情報は、入力部2を介して外部から取得されたり、更新されたりしてもよい。記憶部4が着脱自在な記録媒体で構成されている場合は、この記録媒体を交換することで情報が更新されるようにしてもよい。
【0015】
処理部5は、CPU51と、ROM52と、RAM53と、を備える。処理部5の各種機能は、CPU51が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。本実施形態では、ROM52が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。処理部5は、ゾーンECUの搭載数及び搭載位置、並びにゾーンECU間を接続する電力線の配線構造の設計を行う搭載設計処理を少なくとも実行する。
【0016】
[1-2.記憶部の情報]
記憶部4には、トポロジー情報41と、搭載用係数情報42と、電源用係数情報43とが少なくとも記憶されている。
【0017】
トポロジー情報41は、車両の種類毎に用意される。図2に示すように、トポロジー情報41は、複数のノードとノード間を接続する複数のエッジとで定義されたグラフによって表現されるグラフ型のデータ構造を有する。図3に示すように、ノードN~Nm+nは、m個の機器位置ノードND~NDとn個の候補位置ノードNE~NEとを有する。m,nは、任意の正整数である。以下では、個々のノードN~Nm+nを特に区別しない場合は、ノードNと表記する。個々の機器位置ノードND~NDを特に区別しない場合は、機器位置ノードNDと表記する。個々の候補位置ノードNE~NEを特に区別しない場合は、候補位置ノードNEと表記する。
【0018】
機器位置ノードNDは、車両において周辺機器DVが搭載される位置(以下、機器搭載位置)を表す。周辺機器DVは、ゾーンECUに接続されるセンサ及びアクチュエータ等である。候補位置ノードNEは、車両においてゾーンECUを搭載可能な位置(以下、搭載候補位置)を表す。トポロジー情報41は、機器位置ノードND(すなわち、機器搭載位置及び機器搭載位置に搭載される周辺機器)の数m、及び候補位置ノードNE(すなわち、搭載候補位置)の数nを情報として含む。
【0019】
エッジE~Eは、ノードN間を接続する配線経路を表す情報である。以下では、個々のエッジE~Eを特に区別しない場合は、エッジEと表記する。エッジEは、以下のグラフを形成するように設定される。各機器位置ノードNDは、それぞれ、候補位置ノードNEのいずれかに到るエッジEを一つ以上有する。各候補位置ノードNEは、他の候補位置ノードNEに至るエッジEを一つ以上有する。候補位置ノードNEの一つは、接続ノードにバッテリBTを含む。但し、図2では、候補位置ノードNE間を接続するエッジEのみを示し、候補位置ノードNEと機器位置ノードNDとを接続するエッジE、及び候補位置ノードNEとバッテリBTとを接続するエッジEの図示を省略している。
【0020】
図3に示すように、各エッジEは、接続ノード及びエッジ長についての情報を有する。接続ノードは、エッジEの両端に接続されるノードNを識別する情報である。エッジ長は、エッジEに対応する車両上の配線経路の長さを表す情報である。
【0021】
図4に示すように、搭載用係数情報42及び電源用係数情報43は、車両の種類毎に用意される。
搭載用係数情報42は、搭載用関数及び搭載用条件を規定するために用いられる複数の搭載用係数を含む。搭載用関数は、ゾーンECUをどの搭載候補位置(すなわち、候補位置ノードNE)に搭載するかを決定するために使用する目的関数である。搭載用条件は、搭載用関数で使用する意思決定変数が取り得る値の範囲を規定するために使用する制約条件である。
【0022】
電源用係数情報43は、電源用関数及び電源用条件を規定するために用いられる複数の電源用係数を含む。電源用関数は、搭載用関数及び搭載用条件に従って搭載位置及び搭載数が決定されたゾーンECU間の電力線の配線構造を決定するために使用する目的関数である。電源用条件は、電源用関数で使用する意思決定変数が取り得る値の範囲を制限するために使用する制約条件である。目的関数及び制約条件は、意思決定変数と、搭載用係数又は電源用係数とを用いた等式又は不等式によって表される。
【0023】
搭載用係数は、搭載コストb、及び機器配線コストcを少なくとも有する。搭載コストbは、ゾーンECUを車両に搭載することで必要となる、ゾーンECU1個あたりのコストである。機器配線コストcは、機器位置ノードNDが示す位置に搭載される周辺機器DVへの接続に必要な配線の単位長さ当たりのコストである。
【0024】
電源用係数は、定数A,B、及び機器負荷電流Lを少なくとも有する。
定数A,Bは、電力線配線コストCを算出する近似式に用いられる。電力線配線コストCは、候補位置ノードNEiが示す搭載候補位置への搭載が決定されたゾーンECUへの電力供給に用いる電力線の単位長さ当たりのコストである。機器負荷電流Lは、機器位置ノードNDが示す位置に搭載される周辺機器DVの負荷電流である。
【0025】
[1-2.目的関数及び制約条件]
処理部5が、ゾーンECUの搭載位置及び搭載数の設計に用いる搭載用関数及び搭載用条件について説明する。
【0026】
搭載用関数は、(1)式で表される。
【0027】
【数1】
【0028】
(1)式において、Zは評価値である。
(1)式において、x、yijは、意思決定変数である。x=1は、候補位置ノードNEが示す搭載候補位置にゾーンECUを搭載することを意味する。x=0は、候補位置ノードNEが示す搭載候補位置にゾーンECUを搭載しないことを意味する。以下では、候補位置ノードNEが示す搭載候補位置に搭載されるゾーンECUを搭載ECUjと表記する。yij=1は、機器位置ノードNDが示す機器搭載位置に設置されている周辺機器DVを、搭載ECUjに接続することを意味する。yij=0は、周辺機器DViを搭載ECUjに接続しないことを意味する。
【0029】
(1)式において、dijは、機器位置ノードNDから候補位置ノードNEまでの配線経路長、すなわち周辺機器DBと搭載ECUjとの接続に必要な信号線の長さを表す。配線経路長dijは、トポロジー情報41に含まれるエッジ長に基づき、機器位置ノードNDから候補位置ノードNEへの最短経路に属する全てのエッジのエッジ長を合計することで算出される。配線経路長dijの算出には、例えば、グラフ理論にて使用されるアルゴリズムであるダイクストラ法等を用いることができる。なお、配線経路長dijは、機器位置ノードNDと候補位置ノードNEとの全ての組み合わせのそれぞれについて予め算出しておいた値を用いてもよい。配線経路長dijを予め算出しておく場合、配線経路長dijは、トポロジー情報41に含まれていてもよい。
【0030】
(1)式において、mは周辺機器DV(すなわち、機器位置ノードND)の数、nは搭載候補位置(すなわち、候補位置ノードNE)の数であり、いずれもトポロジー情報41に含まれる。
【0031】
(1)式において、bはゾーンECUの1個あたりの搭載コストであり、cは周辺機器DVへの単位長さあたりの配線コストであり、いずれも搭載用係数情報42に含まれる。
【0032】
(1)式において、右辺第1項は、ゾーンECUの搭載数によって決まる搭載コストの合計値(以下、総搭載コスト)である。また、(1)式において、右辺第2項は、ゾーンECUの搭載位置によって決まるゾーンECUと各周辺機器DVとの間の配線コストの合計値(以下、総配線コスト)である。つまり、(1)式は、総搭載コストと総配線コストとの合計値を評価値Zとして、評価値Zが最小化されるように意思決定変数x、yijの値を決定することを意味する。この場合、評価値Zによって設計の良否が判定され、評価値Zが小さいほど設計が良好であると判定される。
【0033】
搭載用関数に適用する搭載用条件は、(2)~(4)式で表される。
【0034】
【数2】
【0035】
(2)~(4)式で表される搭載用条件は、意思決定変数x、yijが取り得る値の範囲を制限する条件である。
(2)式は、候補位置ノードNE~NEが示す搭載候補位置のいずれか1箇所以上に、ゾーンECUを搭載しなければならない(すなわち、x~xのうち1つ以上が1の値をとる)という条件を示す。
【0036】
(3)式は、周辺機器DV~DVは、いずれも、いずれか1個の搭載ECUjに接続されなければならない(すなわち、yi1~yinのうち、1つだけが1の値をとる)という条件を示す。
【0037】
(4)式は、周辺機器DVの接続先は、搭載ECUj(すなわち、x=1となる候補位置ノードNE)に限るという条件を示す。つまり、ゾーンECUが搭載されない(すなわち、x=0となる)候補位置ノードNEは、周辺機器DVの接続先にはならない(すなわち、必ずyij=0となる)ことを示す。
【0038】
次に、処理部5が、搭載用関数を用いて搭載数及び搭載位置が決定されたゾーンECU間の電源線接続構造を決定するために用いる電源用関数及び電源用条件について説明する。
次に、電源用関数は、(5)~(8)式で定義される。
【0039】
【数3】
【0040】
(5)式において、Xijは、意思決定変数である。以下では、候補位置ノードNEが示す搭載候補位置への搭載が決定されたゾーンECUを搭載ECUiという。Xij=1は、搭載ECUiから、別の搭載ECUjに向けて電力線を接続することを意味する。Xij=0は、搭載ECUiから搭載ECUjに向けて電力線を接続しないことを意味する。つまり、意思決定変数Xijでは、搭載ECUiが電力供給元である上流側となり、搭載ECUjが電力供給先である下流側となる接続方向も含めて接続の有無が示される。
【0041】
(5)式において、Dijは、候補位置ノードNEから候補位置ノードNEまでの配線経路長、すなわち、搭載ECUiと搭載ECUjとの接続に必要な配線の長さである。配線経路長Dijは、配線経路長dijの場合と同様に、トポロジー情報41に含まれるエッジ長に基づき、候補位置ノードNEから候補位置ノードNEへの最短経路に属する全てのエッジのエッジ長を合計することで算出される。配線経路長Dijの算出には、配線経路長dijの場合と同様に、例えば、ダイクストラ法等を用いることができる。配線経路長Dijは、候補位置ノードNEと候補位置ノードNEとの全ての組み合わせのそれぞれについて予め算出しておいた値を用いてもよい。配線経路長Dijを予め算出しておく場合、配線経路長Dijは、トポロジー情報41に含まれていてもよい。
【0042】
(5)式において、Cは、搭載ECUiに電力を供給する電力線の単位長さあたりの配線コストを表す。配線コストCは、(6)式に従って、搭載ECUi毎に算出される。
(6)式において、tは、搭載ECUiが必要とする入力電流を表す。入力電流tは、(7)式に従って、搭載ECUi毎に算出される。
【0043】
(7)式において、Yijは、ツリー構造となるように設計される電力線の配線構造において、搭載ECUiが搭載ECUjの先祖ノードであるか否かを表す変数である。Yij=1は、搭載ECUiが搭載ECUjの先祖ノードであることを意味する。Yij=0は、搭載ECUiが搭載ECUjの先祖ノードではないことを意味する。先祖ノードは、バッテリBTから着目する搭載ECUに到る経路において、着目する搭載ECUよりバッテリBT(すなわち、電力の供給元)側に位置する全ての搭載ECUが先祖ノードである。Yijは、後述の(11)(12)式に示す制約条件を用いて算出され、意思決定変数Xijの設定に応じて値が決まる。
【0044】
(7)式において、rは、搭載ECUkが自身に接続された周辺機器DVに供給する負荷電流を表す。負荷電流rは、(8)式に従って、搭載ECUi毎に算出される。
(8)式において、yikは、(1)式を用いて決定される意思決定変数であり、yik=1は、搭載ECUkが周辺機器DVの接続先であることを意味する。yik=0は、搭載ECUkが周辺機器DVの接続先ではないことを意味する。(8)式において、Lは、周辺機器DVの負荷電流であり、電源用係数情報43に含まれる。つまり、rは、搭載ECUkに接続される(すなわち、yik=1となる)すべての周辺機器DViの負荷電流Lを合計することで算出される。
【0045】
(5)~(8)式は、搭載ECU間を接続する電力線の配線コストの合計値を評価値Zとして、評価値Zを最小化する意思決定変数Xijを算出することを表す。但し、搭載ECUiに電力を供給する電力線の単位長さあたりの配線コストCは、搭載ECUiを先祖ノードとする(すなわち、Yik=1となる)すべての搭載ECUkの負荷電流rを合計した入力電流tに従って設定される。
【0046】
次に、電源用関数に適用する電源用条件は、(9)~(12)式で定義される。
【0047】
【数4】
【0048】
(9)~(12)式で表される電源用条件は、意思決定変数Xijが取り得る値の範囲、及び、二つの搭載ECU間に先祖、子孫の関係があるか否かを規定する変数Yijの値についての制約条件を示す。
【0049】
(9)(10)式は、搭載ECU間の接続をツリー構造にするための条件を示す。
(9)式は、先頭ECUは、非先頭ECUからの入力を持たす、非先頭ECUは、自身以外の他の非先頭ECUからの入力を必ず一つ持つという条件を示す。先頭ECUは、バッテリBTに直接接続され、ツリー構造の最も上流に位置する搭載ECUj、但しj=gである。非先頭ECUは、先頭ECU以外の他の搭載ECUj、但しj≠gである。
【0050】
(10)式は、搭載ECU間の接続構造に、ループ接続を発生させないための制約条件である。具体的には、搭載ECUの部分集合を任意に選択したときに、その部分集合に含まれる搭載ECU間の接続数(以下、リンク数)が、搭載ECUの数(以下、ノード数)未満となることを制約条件としている。図5に示すように、電力線の接続構造中にループ接続を含む部分集合では、リンク数がノード数以上になることがわかる。この関係性を利用してループ接続を含んだ接続構造を排除する。
【0051】
(11)(12)式は、搭載ECUiと搭載ECUjとの間の先祖-子孫の関係、すなわち、電源の供給元(すなわち、上流)と供給先(すなわち、下流)の関係を定義するための制約条件である。
【0052】
(11)式は、基本的な親(すなわち、先祖)と子(すなわち、子孫)の関係を定義する制約条件である。例えば、搭載ECUiが上流、搭載ECUjが下流となるように接続されている(すなわち、Xij=1である)場合、搭載ECUiは搭載ECUjの先祖である(すなわち、Yij=1)と定義されることを意味する。
【0053】
(12)式においてi=jの場合の式は、すべての搭載ECUは、自身を自身の先祖として定義することを意味する。(12)式においてi≠jの場合の式は、祖父と孫等の二代以上の先祖-子孫の関係についての制約条件である。つまり、搭載ECUiが搭載ECUkの先祖であると定義され(すなわち、Yik=1)、かつ、搭載ECUkが搭載ECUjの先祖であると定義されている(すなわち、Ykj=1)場合、搭載ECUiは搭載ECUjの先祖である(すなわち、Yij=1)ことを意味する。
【0054】
なお、(12)式において、搭載ECUが自身を祖先ノードに含むように、先祖-子孫の関係を定義する理由は、(7)式を用いて搭載ECUの入力電流tを算出する際に、自身の負荷電流rが入力電流tに含まれるようにするためである。
【0055】
[1-2.処理]
次に、処理部5が実行する搭載設計処理について、図6のフローチャートを用いて説明する。処理部5が備えるROM52には、搭載設計処理を実現するためのプログラムである設計処理プログラムが記憶されている。搭載設計処理は、入力部2を介して所定の起動指令が入力されると開始される。
【0056】
搭載設計処理が開始されると、S110にて、処理部5は、設計対象となる車両を選択する。具体的には、車両選択用の画面を表示部3に表示し、入力部2を介して選択された車両を設計対象車両とする。
【0057】
続くS120では、処理部5は、記憶部4から設計対象車両に関するトポロジー情報41を取得する。
続くS130では、処理部5は、記憶部4から設計対象車両に関する搭載用係数情報42を取得する。
【0058】
続くS140では、処理部5は、(1)式に示した搭載用関数及び(2)~(4)式に示した搭載用条件に、S120及びS130にて取得したトポロジー情報41及び搭載用係数情報42を適用する。そして、処理部5は、搭載用条件を充足する範囲で、搭載用関数にて算出される評価値Zを最小化する第1決定変数x及び第2決定変数yijの組み合わせを求めることで、ゾーンECUの搭載数及び搭載位置を決定する。なお、(1)~(4)式に示した数理モデルは、混合整数線形計画問題MILPに分類される。これは、目的関数と制約条件が線形で表現される最適化問題(すなわち、線形計画問題)のうち、整数でなければならない変数を含む問題のことをいう。数理計画問題を解くアルゴリズムが搭載されているソフトウェアである数理計画法ソルバを用いて、搭載用条件のもとで、搭載用関数を最小化する意思決定変数x,yijの組み合わせを探索する。数理計画法ソルバは、様々なものが存在するが、例えば、Gurobi Optimizerを用いることができる。Gurobi Optimizerは登録商標である。
【0059】
続くS150では、処理部5は、記憶部4から設計対象車両に関する電源用係数情報43を取得する。
続くS160では、処理部5は、S140での算出結果、及びS150で取得した電源用係数情報43に基づき、(8)式を用いて、搭載ECUk毎の負荷電流rを算出する。
【0060】
続くS170では、処理部5は、(5)~(7)式に示した電源用関数及び(9)~(12)式に示した電源用条件に、S140での算出結果、及びS150で取得した電源用係数情報43を適用する。そして、処理部5は、電源用条件を充足する範囲で、電源用関数にて算出される評価値Zを最小化する第3決定変数を求めることで、ゾーンECU間を接続する電力線の配線構造を決定して、処理を終了する。なお、S170では、S140の場合と同様に、数理計画法ソルバを用いて、電源用条件のもとで、電源用関数を最小化する意思決定変数Xijの組み合わせを探索する。
【0061】
[1-3.試算]
ゾーンアーキテクチャを具現化する場合、ゾーンECUを何個搭載するか、ゾーンECUを車両のどこに搭載するかを設計する必要がある。図7は、ゾーンECUを8個搭載した場合と、3個搭載した場合を例示する。図示されているように、ゾーンECUを増やすほど、周辺機器とゾーンECUとの接続に要する配線は短くなる。逆に、ゾーンECUを減らすほど、周辺機器とゾーンECUとの接続に要する配線は長くなる。つまり、ゾーンECUの搭載数と、配線量とはトレードオフの関係にある。
【0062】
ゾーンECUの搭載数及び搭載位置の設計には膨大な数のパターンが存在する。例えば、ゾーンECUの搭載候補位置が100箇所存在する場合、搭載候補位置毎にゾーンECUを搭載する/しないのパターンが存在するため、考慮すべき設計のパターン数は、2100となる。
【0063】
ここで、図8は、ゾーンECUの搭載数及び搭載位置を、本実施形態の手法(以下、本手法)を用いた場合と、数理モデルを定義せず、すべてのパターンを総あたりで検証する手法(以下、比較手法)を用いた場合とについて、設計に要する計算時間を示したグラフである。計算環境として、6Core/12Threads、32GHzで動作するCPU、及び32GBのメインメモリを有するコンンピュータを用いた。
【0064】
比較手法では、搭載候補位置の数nに対して計算時間が指数関数的に増大し、n=20で、約9000秒となっている。これに対して本手法では、n=20のときの計算時間は、約0.64秒であり、比較手法の0.01%以下の時間で計算が完了している。また、本手法では、nに対する計算時間の増加が概ね線形であり、n=432においても、10秒以下で計算が完了している。なお、n=432は、今回使用したEEAモデルに存在するコネクタを、全て搭載候補位置とした場合の値である。つまり、本手法は、搭載候補位置が、実用上十分な規模の数だけ存在しても、現実的な時間内で設計を完了することができる。
【0065】
図9は、本手法と比較手法とで、設計で得られた結果に基づいて、ゾーンECUの搭載コスト、ゾーンECU間の配線コスト、周辺機器配線コストの合計を計算した結果を示す。図9において、コストは、ECUの搭載に必要な、ECU1個あたりのコストを100として正規化したコストを示す。
【0066】
但し、比較手法では、ゾーンECUの搭載候補位置の数nを増やすと現実的な時間内で結果を得ることが不可能になるため、n=20とした。本手法では、上述のEEAモデルでの上限となるn=432とした。ゾーンECUの搭載候補位置以外のデータは、両手法とも同一のデータを与えた。
【0067】
図9に示すように、比較手法での設計に基づく合計コストは、2824.1であり、本実施形態の手法での設計に基づく合計コストは2637.5と約6.6%小さくなることが確認された。
【0068】
なお、設計によって決定されたゾーンECUの数は、本手法が10、比較手法が8であり、ゾーンECUの搭載位置は、類似した傾向を示した。
[1-4.用語の対応]
本実施形態においてS120の処理を実行する処理部5が本開示のトポロジー情報取得部に相当し、S130の処理を実行する処理部5が本開示の搭載用係数取得部に相当し、S140の処理を実行する処理部5が本開示の搭載用演算部に相当する。また、本実施形態において、S150の処理を実行する処理部5が本開示の電源用係数取得部に相当し、S160~S170の処理を実行する処理部5が本開示の電源用演算部に相当する。本実施形態において搭載ECUが本開示の搭載ユニットに相当し、先頭ECUが本開示の先頭ユニットに相当し、非先頭ECUが本開示の非先頭ユニットに相当する。
【0069】
[1-5.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1a)搭載設計装置1では、目的関数である搭載用関数の意思決定変数として、各搭載位置候補にゾーンECUを搭載するか否かを決めるx、搭載位置候補に周辺機器を接続するか否かを決めるyijを用いている。従って、ゾーンECUの搭載位置を、搭載数も含めて最適化する設計を行うことができる。
【0070】
(1b)搭載設計装置1では、搭載用関数によって算出する評価値として、ゾーンECUの搭載コストと、搭載されたゾーンECUと周辺機器DVとの間の配線コストとの合計値を用いている。つまり、配線コストだけでなく、搭載するゾーンECUの数も正しく評価することができる。また、搭載用関数を適宜変更することで、様々な要素を評価対象として含めることができる。
【0071】
(1c)搭載設計装置1では、ゾーンECUの搭載位置の設計を最適化問題とみなし、数理計画法を用いて設定された目的関数及び制約条件を用いて、ソルバによって、制約条件を満たしつつ目的関数を最小化又は最大化する意思決定変数の組み合わせを探索する。従って、搭載設計装置1では、設計パターンを総当たりして、最適な設計を探索する手法(すなわち、比較手法)と比較して、計算時間を大幅に短縮することができる。
【0072】
(1d)搭載設計装置1では、設計の制約を数理計画法の制約条件として表現することで、様々な制約を考慮した設計を行うことができる。
(1e)搭載設計装置1では、トポロジー情報41が、グラフ型データ構造にて表現されているため、ダイクストラ法等、グラフ型データ構造に適用される公知の手法を用いることで、処理負荷をより軽減することができる。
【0073】
[2.第2実施形態]
[2-1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0074】
上述した第1実施形態では、搭載用関数は、ゾーンECUの搭載コストと、ゾーンECUと周辺機器DVとの間の配線コストの合計を評価値Zとしている。これに対し、第2実施形態では、上述の搭載コスト及び配線コストに加えて、ゾーンECUと周辺機器DVとの間の配線重量を考慮した評価値Zを用いる点で、第1実施形態と相違する。
【0075】
[2-2.搭載用関数]
第2実施形態では、(1)式の代わりに(13)式に示す搭載用関数を用いる。
【0076】
【数5】
【0077】
(13)式において、wは、周辺機器DVの接続に必要な配線の単位長さあたりの重量である。
(13)式において、Ccostは、搭載コストと配線コストとの合計コストを評価値に換算する係数である。
【0078】
(13)式において、Cweightは、配線重量を評価値に換算する係数である。
なお、w,Ccost,Cweightは、搭載用係数情報42に含まれる情報である。
【0079】
つまり、第2実施形態では、合計コストと配線重量との加重加算値を評価値Zとして用いている。
[2-3.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果(1a)~(1e)を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0080】
(2a)第2実施形態によれば、車両の総重量に影響を与える配線重量を考慮した設計を実現することができる。
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0081】
(3a)上記第2実施形態では、搭載用関数にて配線重量を含めた評価を行っているが、電源用関数にて、電力線の配線重量を含めた評価を行うように構成してもよい。更に、搭載用関数及び電源用関数には、搭載コスト、配線コスト、配線重量以外の評価要素を加えたり、搭載コスト、配線コスト、配線重量のいずれか一つ以上を、評価要素を除外したりしてもよい。
【0082】
(3b)本開示に記載の処理部5及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の処理部5及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の処理部5及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。処理部5に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0083】
(3c)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0084】
(3d)上述した搭載設計装置1の他、当該搭載設計装置1を構成要素とするシステム、当該搭載設計装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、搭載設計方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【0085】
[4.本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
設計対象車両において電子制御ユニットを搭載可能な位置を表す複数の搭載候補位置、前記設計対象車両に搭載され、前記電子制御ユニットに接続される周辺機器が搭載された位置を表す一つ以上の機器搭載位置、及び前記搭載候補位置間及び前記機器搭載位置から前記搭載候補位置に至る配線経路を含んだ情報であるトポロジー情報を取得するように構成されたトポロジー情報取得部(5:S120)と、
前記複数の搭載候補位置のそれぞれについて、前記電子制御ユニットを搭載するか否かを表す第1決定変数、及び前記周辺機器のそれぞれについて、前記搭載候補位置に搭載された前記電子制御ユニットのいずれに接続するかを表す第2決定変数を用いて設定され、前記電子制御ユニットの配置の良否を表す評価値の算出に用いる目的関数を搭載用関数とし、前記第1決定変数及び前記第2決定変数が取り得る値の範囲を制限する制約条件を搭載用条件として、前記設計対象車両に応じて決まる前記搭載用関数及び前記搭載用条件を規定する係数を取得するように構成された搭載用係数取得部(5;S130)と、
前記搭載用条件を充足する範囲で、前記搭載用関数により算出される前記評価値を最大化又は最小化する前記第1決定変数及び前記第2決定変数を求めることで、前記電子制御ユニットの搭載位置及び搭載数を決定するように構成された搭載用演算部(5:S140)と、
を備える搭載設計装置。
【0086】
[項目2]
項目1に記載の搭載設計装置であって、
前記搭載用関数は、前記電子制御ユニットを搭載するか否かによって決まる搭載コストと、前記電子制御ユニットと前記周辺機器との間の配線コストとの合計値を、前記評価値として算出するように設定された、
搭載設計装置。
【0087】
[項目3]
項目1に記載の搭載設計装置であって、
前記搭載用関数は、前記電子制御ユニットを搭載するか否かによって決まる搭載コストと、前記電子制御ユニットと前記周辺機器と間の配線コストとの合計値と、前記電子制御ユニットと前記周辺機器との間の配線重量との加重加算値を、前記評価値として算出するように設定された
搭載設計装置。
【0088】
[項目4]
項目1から項目3までのいずれか1項に記載の搭載設計装置であって、
前記制約条件は、前記複数の搭載候補位置のいずれか1か所以上に、前記電子制御ユニットを配置すること、及び前記周辺機器は、それぞれが、前記搭載候補位置に配置された前記電子制御ユニットのいずれか一つに接続されることを含む
搭載設計装置。
【0089】
[項目5]
項目1から項目4までのいずれか1項に記載の搭載設計装置であって、
前記トポロジー情報は、前記搭載候補位置及び前記機器搭載位置をノードとし、前記配線経路をエッジとするグラフによって表される
搭載設計装置。
【0090】
[項目6]
項目1から項目5までのいずれか1項に記載の搭載設計装置であって、
前記搭載用演算部により、前記搭載候補位置のいずれかに搭載位置が決定された前記電子制御ユニットを搭載ユニットとして、前記搭載ユニット間の電源線の配線の有無を表す第3決定変数を用いて、前記搭載ユニット間を接続する電力線の配線構造の良否を表す評価値を算出する目的関数を電源用関数とし、前記第3決定変数が取り得る値の範囲を制限する制約条件を電源用条件として、前記電源用関数及び前記電源用条件を規定する係数を取得するように構成された電源用係数取得部(5:S150)と、
前記電源用条件を充足する範囲で、前記電源用関数により算出される前記評価値を最大化又は最小化する前記第3決定変数を求めることで、前記電力線の配線構造を決定するように構成された電源用演算部(5:S160~S170)と、
を備える搭載設計装置。
【0091】
[項目7]
項目6に記載の搭載設計装置であって、
前記電源用関数は、前記搭載ユニット間を接続する電源線の配線コストを、前記評価値として算出するように設定された、
搭載設計装置。
【0092】
[項目8]
項目6に記載の搭載設計装置であって、
前記電源用関数は、前記搭載ユニット間を接続する電源線の配線コストと、前記搭載ユニット間を接続する電源線の配線重量との加重加算値を、前記評価値として算出するように設定された、
搭載設計装置。
【0093】
[項目9]
項目6から項目8までのいずれか1項に記載の搭載設計装置であって、
前記電源用条件には、直にバッテリに接続される前記搭載ユニットである先頭ユニットは、当該先頭ユニット以外の前記搭載ユニットである非先頭ユニットからの入力を持たないこと、及び前記非先頭ユニットは、いずれも自身以外の他の前記搭載ユニットの一つからの入力を持つこと、前記搭載ユニット間を接続するリンク数が、前記搭載ユニットの数であるノード数未満であることを含む
搭載設計装置。
【符号の説明】
【0094】
1…搭載設計装置、2…入力部、3…表示部、4…記憶部、5…処理部、41…トポロジー情報、42…搭載用係数情報、43…電源用係数情報、51…CPU、52…ROM、53…RAM。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9