(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165807
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】故障診断システム、故障診断方法および故障診断プログラム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20241121BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20241121BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20241121BHJP
H01M 10/6563 20140101ALI20241121BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20241121BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20241121BHJP
H01M 10/663 20140101ALI20241121BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6563
H01M10/633
H01M10/651
H01M10/663
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082306
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003502
【氏名又は名称】弁理士法人芳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 保生
(72)【発明者】
【氏名】小山 和晃
(72)【発明者】
【氏名】堀田 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】永守 由子
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮太
【テーマコード(参考)】
5H030
5H031
【Fターム(参考)】
5H030AS08
5H030FF22
5H031HH06
(57)【要約】
【課題】ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を診断する故障診断システムを提供すること。
【解決手段】故障診断システムは、モータジェネレータ2に電力を供給するバッテリ50と、バッテリ50を冷却する冷却装置60と、バッテリ50のセルの温度を計測する第1温度センサ55と、バッテリパック40の周囲の温度を計測する第2温度センサ155と、バッテリ50の充放電時に流れる電流値を計測する電流センサ65と、制御部85、150と、を備える。制御部85、150は、電流センサ65により計測された電流値と、第1温度センサ55により計測されたセルの温度と、第2温度センサ155により計測された周囲の温度と、に基づいてセルの推定温度を演算し、第1温度センサ55により計測されたセルの温度と推定温度との差が閾値以上になると冷却装置60の故障が発生したと判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を診断する故障診断システムであって、
前記バッテリパックに設けられ前記ハイブリッドシステムのモータジェネレータに電力を供給するバッテリと、
前記バッテリパックに設けられ前記バッテリを冷却する冷却装置と、
前記バッテリパックに設けられ前記バッテリが有するセルの温度を計測する第1温度センサと、
前記バッテリパックの周囲の温度を計測する第2温度センサと、
前記バッテリパックに設けられ前記バッテリの充放電時に流れる電流値を計測する電流センサと、
前記冷却装置の故障を判定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電流センサにより計測された前記電流値と、前記第1温度センサにより計測された前記セルの温度と、前記第2温度センサにより計測された前記周囲の温度と、に基づいて前記セルの推定温度を演算し、前記第1温度センサにより計測された前記セルの温度と前記推定温度との差が閾値以上になると前記故障が発生したと判定することを特徴とする故障診断システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記電流センサにより計測された前記電流値と、前記第1温度センサにより計測された前記セルの温度と、前記第2温度センサにより計測された前記周囲の温度と、に基づいて前記セルの温度の上昇値を演算し、直前の前記推定温度に前記上昇値を加算することにより現在の前記推定温度を演算することを特徴とする請求項1に記載の故障診断システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記電流センサにより計測された前記電流値に基づいて前記充放電時における前記バッテリの発熱量を演算し、前記第1温度センサにより計測された前記セルの温度と、前記第2温度センサにより計測された前記周囲の温度と、に基づいて前記バッテリの放熱量を演算し、前記発熱量から前記放熱量を減算することにより前記上昇値を演算することを特徴とする請求項2に記載の故障診断システム。
【請求項4】
前記直前の前記推定温度は、前記現在の前記推定温度に関するサンプリングに対して1つ前のサンプリングにより演算された推定温度であることを特徴とする請求項2に記載の故障診断システム。
【請求項5】
前記周囲の温度は、前記ハイブリッドシステムのエンジンにおける吸入空気の温度であることを特徴とする請求項1に記載の故障診断システム。
【請求項6】
前記周囲の温度は、前記ハイブリッドシステムのエンジンにおける冷却水の温度であることを特徴とする請求項1に記載の故障診断システム。
【請求項7】
前記冷却装置は、ファンであり、
前記ファンの回転数は、一定の回転数に固定されたことを特徴とする請求項1に記載の故障診断システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記故障が発生したと判定すると警報を通知することを特徴とする請求項1に記載の故障診断システム。
【請求項9】
ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を診断する故障診断方法であって、
前記バッテリパックに設けられ前記ハイブリッドシステムのモータジェネレータに電力を供給するバッテリのセルの温度を計測するステップと、
前記バッテリパックの周囲の温度を計測するステップと、
前記バッテリの充放電時に流れる電流値を計測するステップと、
計測された前記電流値と、計測された前記セルの温度と、計測された前記周囲の温度と、に基づいて前記セルの推定温度を演算し、計測された前記セルの温度と前記推定温度との差が閾値以上になると前記故障が発生したと判定するステップと、
を備えたことを特徴とする故障診断方法。
【請求項10】
ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を診断する故障診断システムのコンピュータによって実行されるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記バッテリパックに設けられ前記ハイブリッドシステムのモータジェネレータに電力を供給するバッテリのセルの温度を計測するステップと、
前記バッテリパックの周囲の温度を計測するステップと、
前記バッテリの充放電時に流れる電流値を計測するステップと、
計測された前記電流値と、計測された前記セルの温度と、計測された前記周囲の温度と、に基づいて前記セルの推定温度を演算し、計測された前記セルの温度と前記推定温度との差が閾値以上になると前記故障が発生したと判定するステップと、
を実行させることを特徴とする故障診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を診断する故障診断システム、故障診断方法および故障診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータとバッテリとを併用するハイブリッドシステムは、低公害化と化石燃料の省資源化との要求に伴って、産業機械や自動車等のために開発されている。ハイブリッドシステムは、例えば化石燃料を使用し動力を発生する内燃式エンジンと、内燃式エンジンを補助するモータと、モータに電力を供給する例えばリチウムイオン電池等のバッテリと、を備えている。
【0003】
ハイブリッドシステムでは、例えばリチウムイオン電池を含むバッテリパックが、モータを駆動するための電源として用いられている。リチウムイオン電池等のバッテリの温度は、バッテリパックの周囲の温度だけではなく、バッテリの充放電時に流れる電流により発生するジュール熱などの影響を受ける。すなわち、リチウムイオン電池等のバッテリの温度は、バッテリが充放電を繰り返すことにより上昇する傾向にある。一方で、ハイブリッドシステムのモータが使用されて、バッテリが充放電を行う頻度および時間は、ハイブリッドシステムの使用者の使用状況および使用形態などに依存する。そのため、バッテリのセルの温度を計測する温度センサが計測した温度だけに基づいて、バッテリを冷却する冷却装置の故障を診断することは困難である。
【0004】
特許文献1には、通風用の間隔を空けて配列された複数の電池モジュールと、通風用の間隔に気体からなる冷却媒体を供給する供給通路を有する冷却媒体通路と、供給通路に冷却媒体を送り込むファン部とを備える電池パックが開示されている。特許文献1に記載された電池パックは、供給通路内の冷却媒体の温度を測定する第1の温度センサおよび第2の温度センサを備えている。第1の温度センサは、供給通路のファン部に近い位置に配置されている。第2の温度センサは、供給通路の第1の温度センサが配置された位置よりもファン部から離間した位置に配置されている。このように、特許文献1に記載された電池パックでは、複数の温度センサが供給通路に設けられている。そのため、電池パックの構造が複雑になるという点において、改善の余地がある。
【0005】
特許文献2には、少なくとも2つの冷却ファンを備えた電池パックの冷却ファン制御装置が開示されている。特許文献2に記載された電池パックの冷却ファン制御装置は、第1の冷却ファンの回転数指令と第2の冷却ファンの回転数指令との乖離が所定の閾値よりも大きく、かつ回転数指令が相対的に低い方の冷却ファンの実回転数が冷却ファンの回転数指令よりも所定量高いときに、冷却ファンのインペラの欠損が生じたと判定する。そのため、特許文献2に記載された電池パックの冷却ファン制御装置は、少なくとも2つの冷却ファンを備えた電池パックでないと適用されないという点において、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-192124号公報
【特許文献2】特開2017-103128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を簡易的に診断することができる故障診断システム、故障診断方法および故障診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様は、ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を診断する故障診断システムであって、前記バッテリパックに設けられ前記ハイブリッドシステムのモータジェネレータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリパックに設けられ前記バッテリを冷却する冷却装置と、前記バッテリパックに設けられ前記バッテリが有するセルの温度を計測する第1温度センサと、前記バッテリパックの周囲の温度を計測する第2温度センサと、前記バッテリパックに設けられ前記バッテリの充放電時に流れる電流値を計測する電流センサと、前記冷却装置の故障を判定する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電流センサにより計測された前記電流値と、前記第1温度センサにより計測された前記セルの温度と、前記第2温度センサにより計測された前記周囲の温度と、に基づいて前記セルの推定温度を演算し、前記第1温度センサにより計測された前記セルの温度と前記推定温度との差が閾値以上になると前記故障が発生したと判定することを特徴とする故障診断システムである。
【0009】
本発明の第2態様は、ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を診断する故障診断方法であって、前記バッテリパックに設けられ前記ハイブリッドシステムのモータジェネレータに電力を供給するバッテリのセルの温度を計測するステップと、前記バッテリパックの周囲の温度を計測するステップと、前記バッテリの充放電時に流れる電流値を計測するステップと、計測された前記電流値と、計測された前記セルの温度と、計測された前記周囲の温度と、に基づいて前記セルの推定温度を演算し、計測された前記セルの温度と前記推定温度との差が閾値以上になると前記故障が発生したと判定するステップと、を備えたことを特徴とする故障診断方法である。
【0010】
本発明の第3態様は、ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を診断する故障診断システムのコンピュータによって実行されるプログラムであって、前記コンピュータに、前記バッテリパックに設けられ前記ハイブリッドシステムのモータジェネレータに電力を供給するバッテリのセルの温度を計測するステップと、前記バッテリパックの周囲の温度を計測するステップと、前記バッテリの充放電時に流れる電流値を計測するステップと、計測された前記電流値と、計測された前記セルの温度と、計測された前記周囲の温度と、に基づいて前記セルの推定温度を演算し、計測された前記セルの温度と前記推定温度との差が閾値以上になると前記故障が発生したと判定するステップと、を実行させることを特徴とする故障診断プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハイブリッドシステムに搭載されるバッテリパックが備える冷却装置の故障を簡易的に診断することができる故障診断システム、故障診断方法および故障診断プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る故障診断システムが搭載されたハイブリッドシステムを表すブロック図である。
【
図2】本実施形態の制御部を有するコンピュータを表すブロック図である。
【
図3】本発明者が実施したシミュレーションの一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る故障診断システムが搭載されたハイブリッドシステムを表すブロック図である。
図1に表したハイブリッドシステム10は、エンジン1と、モータジェネレータ2と、バッテリパック40と、を備える。
【0015】
エンジン1は、例えばターボチャージを有する過給式の高出力な3気筒エンジンや4気筒エンジン等の多気筒ディーゼルエンジンである。但し、エンジン1は、ディーゼルエンジンに限定されるわけではない。エンジン1は、ECU(Electronic Control Unit:エレクトロニック・コントロール・ユニット)150を有する。ECU150は、エンジン1の動作を制御するとともに、例えばCAN(Controller Area Network)によりモータジェネレータ2と通信を行いモータジェネレータ2を制御する。
【0016】
モータジェネレータ2は、ハイブリッドシステム10が搭載される産業機械等の発進時や加速時などパワーが必要な時に、バッテリパック40から供給される電力により稼動しエンジン1をサポートする。なお、ハイブリッドシステム10は、例えばフォークリフト等の建設機械およびトラクタ等の農業機械を含む産業機械等に搭載される。また、モータジェネレータ2は、回生ブレーキなどを利用し、ハイブリッドシステム10が搭載される産業機械等の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して発電する。モータジェネレータ2は、インバータを内蔵している。但し、インバータは、必ずしもモータジェネレータ2に内蔵されていなくともよく、モータジェネレータ2とは別体として設けられていてもよい。
【0017】
バッテリパック40は、バッテリ50と、BMU(Battery Management Unit:バッテリ・マネージメント・ユニット)85と、ファン60と、を有する。本実施形態のファン60は、本発明の「冷却装置」の一例である。冷却装置は、バッテリ50を冷却できればよく、ファンだけに限定されるわけではない。冷却装置は、例えば冷却水を循環させることにより熱交換を行う熱交換器であってもよい。以下の説明では、冷却装置がファン60である場合を例に挙げる。
【0018】
バッテリ50は、モータジェネレータ2の駆動電源として設けられ、モータジェネレータ2に電力を供給する。バッテリ50は、正極端子51と、負極端子52と、を有する。バッテリ50としては、例えば48Vの高電圧型のリチウムイオン電池(LiB)などが挙げられる。但し、バッテリ50は、リチウムイオン電池に限定されるわけではない。また、バッテリ50の電圧は、48Vに限定されるわけではなく、48V以上であってもよい。バッテリ50は、必要な電圧(前述した例では48V)を得るために複数のセルが直列に接続された組電池として設けられる。
【0019】
モータジェネレータ2は、バッテリ50の正極端子51に接続された正極配線174に接続されている。正極配線174は、バッテリ50の正極端子51とモータジェネレータ2とを電気的に接続する配線である。また、モータジェネレータ2は、バッテリ50の負極端子52に接続された負極配線175に接続されている。負極配線175は、バッテリ50の負極端子52とモータジェネレータ2とを電気的に接続する配線である。
【0020】
ファン60は、バッテリパック40の筐体41に設けられ、
図1に表した矢印Aのようにバッテリ50に向かって風(すなわち空気)を送りバッテリ50を冷却する。ファン60は、信号線185によりBMU85に電気的に接続されており、BMU85から信号線185を通して送信される制御信号に基づいて一定の回転数で動作する。つまり、ファン60の回転数は、一定の回転数に固定されている。そのため、ファン60がバッテリ50に向かって送る風の量(すなわち風量)は、一定である。BMU85は、信号線185を通してファン60に制御信号を送信し、ファン60のオン/オフ制御を行う。
【0021】
バッテリパック40は、コンタクタ75と、電流値検出部65と、をさらに有する。コンタクタ75は、バッテリ50の正極端子51とモータジェネレータ2との間における電気回路すなわち正極配線174に設けられている。コンタクタ75は、信号線181によりECU150に電気的に接続されており、ECU150から信号線181を通して送信される制御信号に基づいて正極配線174の開閉を行う。
【0022】
なお、コンタクタ75は、BMU85に電気的に接続されていてもよい。この場合には、コンタクタ75は、BMU85から送信される制御信号に基づいて正極配線174の開閉を行う。また、コンタクタ75は、バッテリ50の負極端子52とモータジェネレータ2との間における電気回路すなわち負極配線175に設けられていてもよい。この場合には、コンタクタ75は、ECU150またはBMU85に電気的に接続されており、ECU150またはBMU85から送信される制御信号に基づいて負極配線175の開閉を行う。
【0023】
電流値検出部65は、本発明の「電流センサ」の一例であり、信号線184によりBMU85に電気的に接続されている。電流値検出部65は、正極配線174に設けられており、正極配線174を流れる電流値を計測する。すなわち、電流値検出部65は、バッテリ50の充放電時に流れる電流値を計測する。BMU85は、正極配線174を流れる電流値を、信号線184を通して電流値検出部65から取得する。BMU85は、信号線184を通して電流値検出部65から取得した電流値に基づいて過電流異常を検出する。
【0024】
BMU85は、信号線183によりバッテリ50に電気的に接続されており、バッテリ50から信号線183を通して送信される信号に基づいてバッテリ50の電圧値を検出する。具体的には、BMU85は、BMU85自体に内蔵された内部回路を用いて、バッテリ50に内蔵された各セルの電圧値を検出し、各セルの電圧値の総和をバッテリ50の電圧値として検出する。BMU85は、バッテリ50の状態を監視しており、バッテリ50から信号線183を通して送信される信号に基づいてバッテリ50の異常を検出することができる。例えば、BMU85は、バッテリ50から信号線183を通して送信される信号に基づいてバッテリ50の電圧値を検出し、過充電異常および過放電異常を検出する。
【0025】
また、BMU85は、CMU(Cell Management Unit:セル・マネージメント・ユニット;図示せず)から取得したセル温度に基づいて過温度異常を検出する。具体的には、
図1に表したように、第1温度センサ55が、バッテリ50の内蔵されている。第1温度センサ55は、バッテリ50に内蔵されたセルの表面温度を計測し、信号線183を通してセルの表面温度をBMU85に送信する。
【0026】
BMU85は、信号線193によりECU150に電気的に接続されている。ECU150およびBMU85は、例えばCANにより互いに通信し互いの状態を監視している。
【0027】
図1に表したように、本実施形態のハイブリッドシステム10は、第2温度センサ155をさらに備える。第2温度センサ155は、バッテリパック40の周囲の温度を計測する。バッテリパック40の周囲の温度としては、例えば、エンジン1における吸入空気の温度、およびエンジン1における冷却水の温度などが挙げられる。つまり、第2温度センサ155は、例えば、エンジン1における吸入空気の温度を計測したり、エンジン1における冷却水の温度を計測したりする。
【0028】
図2は、本実施形態の制御部を有するコンピュータを表すブロック図である。
本実施形態のECU150およびBMU85のそれぞれは、コンピュータ80としての機能を有する。ここでいう「コンピュータ」とは、パソコンには限定されず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。コンピュータ80は、制御部801と、通信部802と、記憶部803と、を有し、記憶部803に記憶されたプログラム804を読み出して種々の演算や処理を実行する。本発明の「制御部」は、ECU150に設けられた制御部801であってもよく、BMU85に設けられた制御部801であってもよい。
【0029】
本実施形態のプログラム804は、本発明の「故障診断プログラム」の一例である。プログラム804は、バッテリ50の充放電時におけるバッテリ50の発熱量を演算する演算プログラム、バッテリ50における放熱量を演算する演算プログラム、バッテリ50のセルの推定温度を演算する演算プログラム、およびファンの故障を診断するためのシーケンスプログラムなどを含む。プログラム804は、記憶部803に格納されていることには限定されず、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に予め格納され頒布されてもよく、あるいはネットワークを介してコンピュータ80にダウンロードされてもよい。
【0030】
制御部801は、例えばCPU(central processing unit)などであり、記憶部803に記憶されたプログラム804を読み出して種々の演算や処理を実行する。例えば、制御部801は、バッテリ50の充放電時におけるバッテリ50の発熱量を演算する演算部、バッテリ50における放熱量を演算する演算部、およびバッテリ50のセルの推定温度を演算する演算部を有する。これらの演算部は、記憶部803に格納されているプログラム804をコンピュータ80が実行することにより実現される。なお、これらの演算部は、ハードウェアによって実現されてもよく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現されてもよい。
【0031】
通信部802は、例えば、信号線183によりバッテリ50に電気的に接続されており、バッテリ50と通信を行う。あるいは、通信部802は、信号線184により電流値検出部65に電気的に接続されており、電流値検出部65と通信を行う。あるいは、通信部802は、信号線185によりファン60に電気的に接続されており、ファン60と通信を行う。あるいは、通信部802は、第2温度センサ155と通信を行う。あるいは、ECU150およびBMU85は、通信部802を介して例えばCANにより互いに通信し互いの状態を監視している。
【0032】
ここで、バッテリ50の温度は、バッテリ50が充放電を繰り返すことにより上昇する傾向にある。一方で、ハイブリッドシステム10のモータジェネレータ2が使用されて、バッテリ50が充放電を行う頻度および時間は、ハイブリッドシステム10の使用者の使用状況および使用形態などに依存する。そのため、バッテリ50のセルの温度を計測する第1温度センサ55が計測した温度だけに基づいて、バッテリ50を冷却するファン60の故障を診断することは困難である。
【0033】
これに対して、本実施形態に係る故障診断システムは、バッテリ50と、ファン60と、第1温度センサ55と、第2温度センサ155と、電流値検出部65と、制御部801と、を備える。そして、制御部801は、電流値検出部65により計測された電流値と、第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度と、第2温度センサ155により計測されたバッテリパック40の周囲の温度と、に基づいてバッテリ50のセルの推定温度を演算し、第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度と、制御部801により演算された推定温度と、の差が閾値以上になるとファン60の故障が発生したと判定する。
【0034】
具体的には、制御部801は、まず、電流値検出部65により計測された電流値と、第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度と、第2温度センサ155により計測されたバッテリパック40の周囲の温度と、に基づいてバッテリ50のセルの温度の上昇値を演算する。さらに具体的には、制御部801は、まず、電流値検出部65により計測された電流値に基づいてバッテリ50の充放電時におけるバッテリ50の発熱量を演算し、第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度と、第2温度センサ155により計測されたバッテリパック40の周囲の温度と、に基づいてバッテリ50の放熱量を演算し、バッテリ50の発熱量からバッテリ50の放熱量を減算することによりバッテリ50のセルの温度の上昇値を演算する。
【0035】
詳細に説明すると、制御部801は、以下の式を用いてバッテリ50の充放電時におけるバッテリ50の発熱量[W]を演算する。
バッテリ50の発熱量=抵抗値R×(通電量I)2・・・式(1)
抵抗値R=バッテリ50のセルの抵抗値=1つのセル当たりの抵抗値×セル数
通電量I=電流値検出部65により計測された電流値
【0036】
また、制御部801は、以下の式を用いてバッテリ50の放熱量[W]を演算する。
バッテリ50の放熱量=対流による熱損失F+放射による熱損失G・・・式(2)
対流による熱損失F=(D-E)×A×C
放射による熱損失G=((D+273.15)4-(E+273.15)4)×A×B×σ
D=第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度[℃]
E=第2温度センサ155により計測されたバッテリパック40の周囲の温度[℃]
A=バッテリ50のセルの表面積[m2]
C=外気への対流熱伝達率[W/m2・K]
B=バッテリ50のセルの表面の放射率[-]
σ=ステファン・ボルツマン定数
【0037】
そして、制御部801は、式(1)を用いた演算により得られたバッテリ50の発熱量と、式(2)を用いた演算により得られたバッテリ50の放熱量と、に基づいて、以下の式を用いてバッテリ50のセルの温度の上昇値ΔT[℃]を演算する。
セル温度上昇値ΔT=(バッテリ50の発熱量-バッテリ50の放熱量)/(比熱×重量)・・・式(3)
バッテリ50の発熱量=式(1)により得られた発熱量[W]
バッテリ50の放熱量=式(2)により得られた放熱量[W]
比熱=バッテリ50のセルの比熱[J/kg・K]
重量=バッテリ50のセルの重量[kg]
【0038】
制御部801は、以下の式を用いてバッテリ50のセルの推定温度[℃]を演算する。
推定セル温度(t)=推定セル温度(t-1)+セル温度上昇値ΔT・・・式(4)
推定セル温度(t-1)は、推定セル温度(t)の直前のバッテリ50のセルの推定温度である。具体的には、推定セル温度(t-1)は、推定セル温度(t)を演算する際のサンプリングに対して1つ前のサンプリングにより演算されたバッテリ50のセルの推定温度である。制御部801が最初の推定セル温度(t)を演算する場合には、推定セル温度(t-1)は、初期のセルの温度(現在のセルの温度)、すなわち第1温度センサ55の実測値である。制御部801は、温度整定のために、ハイブリッドシステム10の前回の運転から3時間以上が経過していることを条件として、式(4)を用いてバッテリ50のセルの推定温度[℃]を演算する。
【0039】
そして、制御部801は、第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度(すなわち実測値)と、式(4)を用いた演算により得られた推定セル温度(すなわち推定値)と、の差が閾値以上になるとファン60の故障が発生したと判定する。
【0040】
なお、制御部801は、ファン60の故障が発生した場合だけではなく、ファン60の故障が発生していなくとも例えばファン60の冷却風の通路が閉塞することにより第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度が上昇した場合にも、前述した判定(すなわち診断)を有効に活用できる。
【0041】
制御部801は、ファン60の故障が発生したと判定すると、警報を通知してもよい。これにより、ハイブリッドシステム10の使用者は、ファン60の故障が発生したこと、およびファン60の冷却風の通路が閉塞したことの少なくともいずれかを早期に知ることができる。
【0042】
本実施形態に係る故障診断システムによれば、制御部801は、第1温度センサ55が計測した温度だけに基づいてファン60の故障を診断するわけではなく、第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度(すなわち実測値)と、式(4)を用いた演算により得られた推定セル温度(すなわち推定値)と、の差が閾値以上になるとファン60の故障が発生したと判定する。そのため、制御部801は、ハイブリッドシステム10の使用者の使用状況および使用形態などに依らず、バッテリ50のセルの温度(すなわち実測値)と、推定セル温度(すなわち推定値)と、に基づいてファン60の故障を簡易的に診断することができる。
【0043】
図3は、本発明者が実施したシミュレーションの一例を表すグラフである。
本発明者は、ファン60がある場合と、ファン60がない場合と、において、
図2に関して前述した式を用いて推定セル温度の演算を行いグラフを作成した。そのときのグラフは、
図3に表した通りである。
図3に表したグラフは、バッテリ50の充放電が繰り返された場合を想定したグラフである。
【0044】
ファン60がある場合とは、すなわち、ファン60が動作している場合である。ファン60がない場合とは、すなわち、ファン60の故障等によりファン60が動作していない場合である。本発明者は、ファン60がある場合における対流熱伝達率Cをファン60がない場合における対流熱伝達率Cよりも大きい値に設定して演算を行った。
【0045】
図3に表した「ファンなし想定」に関する曲線は、
図2に関して前述した式を用いた演算結果である。この演算結果と同様に、ファン60の故障等によりファン60が動作していない場合、第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度(すなわち実測値)は、
図3に表した「ファンなし想定」に関する曲線と同様に上昇することが考えられる。そして、任意の時間において、第1温度センサ55により計測されたバッテリ50のセルの温度(すなわち実測値)と、式(4)を用いた演算により得られた推定セル温度(すなわち推定値)と、の差がΔT1(
図3参照)になることが考えられる。制御部801は、温度差ΔT1が閾値以上になると、ファン60の故障が発生したと判定し警報を通知する。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1:エンジン、 2:モータジェネレータ、 10:ハイブリッドシステム、 40:バッテリパック、 41:筐体、 50:バッテリ、 51:正極端子、 52:負極端子、 55:第1温度センサ、 60:ファン、 65:電流値検出部、 75:コンタクタ、 80:コンピュータ、 85:BMU、 150:ECU、 155:第2温度センサ、 174:正極配線、 175:負極配線、 181:信号線、 183:信号線、 184:信号線、 185:信号線、 193:信号線、 801:制御部、 802:通信部、 803:記憶部、 804:プログラム