(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165822
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】防食施工方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
C23F11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082347
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000227261
【氏名又は名称】日鉄防食株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 義行
(72)【発明者】
【氏名】岩本 桂二
(72)【発明者】
【氏名】横山 琢也
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA01
4K062AA05
4K062BC12
4K062CA02
4K062EA14
4K062FA01
4K062GA01
(57)【要約】
【課題】飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部であって、長手方向に垂直な断面がH型、溝形鋼、T型、L字型など、内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼であっても、その表面に保護カバーを容易に取り付けることができる防食施工方法の提供。
【解決手段】飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部であり、長手方向に垂直な断面が内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼を防食する防食施工方法であって、前記形鋼の表面に防錆層を密着させて形成する防錆層形成工程と、前記形鋼が有する前記凹部に充填材を充填して、前記凹部における前記断面を内側へ向かって凹む部分を有さない形状とする充填工程と、前記充填材が充填された前記形鋼の外周側にプラスチック層を形成するプラスチック層形成工程と、前記プラスチック層の外周側に、保護層を形成する保護層形成工程と、を備える、防食施工方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部であり、長手方向に垂直な断面が内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼を防食する防食施工方法であって、
前記形鋼の表面に防錆層を密着させて形成する防錆層形成工程と、
前記形鋼が有する前記凹部に充填材を充填して、前記凹部における前記断面を内側へ向かって凹む部分を有さない形状とする充填工程と、
前記充填材が充填された前記形鋼の外周側にプラスチック層を形成するプラスチック層形成工程と、
前記プラスチック層の外周側に、保護層を形成する保護層形成工程と、
を備える、防食施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防食施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋構造物の飛沫帯や干満帯は腐食の進行が速いため、表面に防食層を形成し、さらに保護層を形成する防食施工工法が適用される場合がある。
そのような工法の1つとしてペトロラタム被覆工法が挙げられる。ペトロラタム被覆工法はペトロラタムを主成分とするペトロラタム系の防食材料による防食対象物を被覆する工法である。被覆した防食材を波浪や漂流物の衝突などの外力から保護するとともに腐食環境から防食材を遮断して耐久性を増すために、保護材として樹脂製保護カバーや耐食性保護カバー等が取り付けられる。このようなペトロラタム被覆工法については、例えば非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】港湾鋼構造物 防食・補修マニュアル(2022年版) 令和4年9月、一般財団法人沿岸技術研究センター
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部であって、長手方向に垂直な断面がH型、溝形鋼(チャンネル)、T型(カットティー)、L字型など、内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼の表面に保護カバーを取り付けることは、非常に困難であった。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部であって、長手方向に垂直な断面がH型、溝形鋼(チャンネル)、T型(カットティー)、L字型など、内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼であっても、その表面に保護カバーを容易に取り付けることができる防食施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討し、上記課題を解決する方法を見出し、本発明を完成させた。
本発明は、飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部であり、長手方向に垂直な断面が内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼を防食する防食施工方法であって、
前記形鋼の表面に防錆層を密着させて形成する防錆層形成工程と、
前記形鋼が有する前記凹部に充填材を充填して、前記凹部における前記断面を内側へ向かって凹む部分を有さない形状とする充填工程と、
前記充填材が充填された前記形鋼の外周側にプラスチック層を形成するプラスチック層形成工程と、
前記プラスチック層の外周側に、保護層を形成する保護層形成工程と、
を備える、防食施工方法
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部であって、長手方向に垂直な断面がH型、溝形鋼(チャンネル)、T型(カットティー)、L字型など、内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼であっても、その表面に保護カバーを容易に取り付けることができる防食施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)は、防食対象物である形鋼10の概略上面図であり、
図1(b)は
図1(a)におけるA-A線断面図であり、
図1(c)は
図1(a)におけるB-B線断面図であり、
図1(d)は
図1(c)における凹部へ充填材を充填した状態を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、防食対象物である形鋼20の概略上面図であり、
図2(b)は
図2(a)におけるC-C線断面図であり、
図2(c)は
図2(b)における凹部へ充填材を充填した状態を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は、防食対象物である形鋼30の概略上面図であり、
図3(b)は
図3(a)におけるD-D線断面図であり、
図3(c)は
図3(b)における凹部へ充填材を充填した状態を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は、防食対象物である形鋼40の概略上面図であり、
図4(b)は
図4(a)におけるE-E線断面図であり、
図4(c)は
図4(b)における凹部へ充填材を充填した状態を示す断面図であり、
図4(d)は
図4(b)における凹部へ充填材を充填した状態であって、
図4(c)とは異なる態様を示す断面図である。
【
図5】
図1(d)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層17を形成し、さらにその外周側に保護層19を形成した状態を示す断面図が
図5(a)である。
図2(c)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層27を形成し、さらにその外周側に保護層29を形成した状態を示す断面図が
図5(b)である。
図3(c)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層37を形成し、さらにその外周側に保護層39を形成した状態を示す断面図が
図5(c)である。
図4(c)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層47を形成し、さらにその外周側に保護層49を形成した状態を示す断面図が
図5(d)である。
図4(d)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層47´を形成し、さらにその外周側に保護層49´を形成した状態を示す断面図が
図5(e)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について説明する。
本発明は、飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部であり、長手方向に垂直な断面がH型、溝形鋼(チャンネル)、T型(カットティー)、L字型など、内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼を防食する防食施工方法である。
【0010】
本発明において防食する対象(防食対象物)は、飛沫帯または干満帯に存在する海洋構造物の少なくとも一部である。例えば桟橋の支柱や横梁、桟橋の基礎杭(鋼管杭)における飛沫帯または干満帯に付近に存在する上部工の桁、昇降足場や防舷材基礎などが挙げられる。
【0011】
このような防食対象物の中には、長手方向に垂直な断面がH型、溝形鋼(チャンネル)、T型(カットティー)、L字型など、内側へ向かって凹む凹部を有する形状である形鋼が存在し得る。また、腐食等の影響によって広範囲に集中減肉した表面に穴(凹部)が形成された形鋼を防食対象物とする場合がある。このような場合、その表面に樹脂製保護カバーや耐食性保護カバー等の保護カバーを取り付けることは容易ではない。
そこで本発明の方法を適用することが考えられる。
【0012】
本発明は、以下に説明する防錆層形成工程と、充填工程と、プラスチック層形成工程と、保護層形成工程と、を備える。
【0013】
<防錆層形成工程>
本発明が備える防錆層形成工程について説明する。
防錆層形成工程では、防食対象物である形鋼の表面に防錆層を密着させて形成する。
【0014】
防錆層は従来公知の防食剤を用いて形成することができる。例えば、市販の防食剤であるペトロラタム(ペトロラタム系防食ペースト、ペトロラタム系防食シート)、エポキシ樹脂、酸化重合樹脂などを用いて防錆層を形成することができる。
【0015】
防食対象物である形鋼の外側の表面に密着するように設ける防錆層の量は、防食対象物の単位面積当たりの防錆層の質量として、2.0~4.0kg/m2であることが好ましく、2.0~3.0kg/m2であることがより好ましく、2.0~2.5kg/m2であることがより好ましく、2.0~2.2kg/m2であることがさらに好ましい。
また、防錆層の厚さは特に限定されないが、2~5mmであることが好ましく、2~4mmであることがより好ましく、2~3mmであることがさらに好ましい。
【0016】
施工に際しては、例えば防食対象物である形鋼の表面付着物を除去し、サンドブラスト等で素地調整した後、上記のように、従来公知の防食剤を用いて防錆層を形成することが好ましい。
【0017】
<充填工程>
本発明が備える充填工程について説明する。
充填工程は、前記形鋼が有する前記凹部に充填材を充填して、前記凹部における、長手方向に垂直な断面を内側へ向かって凹む部分を有さない形状とする工程である。
ここで、内側へ向かって凹む部分を有さない形状として、例えば、円形、半円形、楕円形、半楕円形、多角形が挙げられる。
【0018】
充填工程について図を用いて説明する。
図1(a)は、防食対象物である形鋼10の概略上面図であり、
図1(b)は
図1(a)におけるA-A線断面図であり、
図1(c)は
図1(a)におけるB-B線断面図であり、
図1(d)は
図1(c)における凹部へ充填材を充填した状態を示す断面図である。
【0019】
図1に例示する形鋼10は、凹部14を有している。凹部14は、例えば腐食により形成された穴である。
前述の防錆層形成工程において、防食対象物である形鋼の表面に防錆層を密着させて形成しているので、凹部14についても、その表面に防錆層12が形成されている。
そして、充填工程では形鋼が有する凹部14内へ、凹部14の表面に形成されている防錆層12に密着させるように、充填材16を充填する(
図1(d))。ここで凹部14における断面が矩形となるように充填材16を充填する。矩形は内側へ向かって凹む部分を有さない形状に該当する。
このようにすることで、充填工程の後に行う保護層形成工程において、保護層を形成しやすくなる。
【0020】
充填工程における防食対象物が別の態様の場合について、
図2を用いて説明する。
図2(a)は、防食対象物である形鋼20の概略上面図であり、
図2(b)は
図2(a)におけるC-C線断面図であり、
図2(c)は
図2(b)における凹部へ充填材を充填した状態を示す断面図である。
【0021】
図2に例示する形鋼20はH形鋼である。したがって2つの凹部24を有している。
前述の防錆層形成工程において、防食対象物である形鋼の表面に防錆層を密着させて形成しているので、凹部24についても、その表面に防錆層22が形成されている。
そして、充填工程では形鋼が有する凹部24内へ、凹部24の表面に形成されている防錆層22に密着させるように、充填材26を充填する(
図2(c))。ここで凹部24における断面が矩形となるように充填材26を充填する。矩形は内側へ向かって凹む部分を有さない形状に該当する。
このようにすることで、充填工程の後に行う保護層形成工程において、保護層を形成しやすくなる。
【0022】
充填工程における防食対象物が別の態様の場合について、
図3を用いて説明する。
図3(a)は、防食対象物である形鋼30の概略上面図であり、
図3(b)は
図3(a)におけるD-D線断面図であり、
図3(c)は
図3(b)における凹部へ充填材を充填した状態を示す断面図である。
【0023】
図3に例示する形鋼30は溝形鋼(チャンネル)である。したがって1つの凹部34を有している。
前述の防錆層形成工程において、防食対象物である形鋼の表面に防錆層を密着させて形成しているので、凹部34についても、その表面に防錆層32が形成されている。
そして、充填工程では形鋼が有する凹部34内へ、凹部34の表面に形成されている防錆層32に密着させるように、充填材36を充填する(
図3(c))。ここで凹部34における断面が内側へ向かって凹む部分を有さない形状となるように充填材36を充填する。
このようにすることで、充填工程の後に行う保護層形成工程において、保護層を形成しやすくなる。
【0024】
充填工程における防食対象物が別の態様の場合について、
図4を用いて説明する。
図4(a)は、防食対象物である形鋼40の概略上面図であり、
図4(b)は
図4(a)におけるE-E線断面図であり、
図4(c)は
図4(b)における凹部へ充填材を充填した状態を示す断面図であり、
図4(d)は
図4(b)における凹部へ充填材を充填した状態であって、
図4(c)とは異なる態様を示す断面図である。
【0025】
図4に例示する形鋼40はL形鋼である。したがって1つの凹部44を有している。
前述の防錆層形成工程において、防食対象物である形鋼の表面に防錆層を密着させて形成しているので、凹部44についても、その表面に防錆層42が形成されている。
そして、充填工程では形鋼が有する凹部44内へ、凹部44の表面に形成されている防錆層42に密着させるように、充填材46および46’を充填する(
図4(c)、
図4(d))。ここで凹部44における断面が内側へ向かって凹む部分を有さない形状となるように充填材46および46’を充填する。充填した充填材46’は、
図4(d)に示すように、断面において外側へ凸となってよい。
このようにすることで、充填工程の後に行う保護層形成工程において、保護層を形成しやすくなる。
【0026】
充填工程において用いる充填材は、一定の強度を有し、施工性を高めるために軽いことが好ましい。
充填材として、発泡ポリエチレン、発泡ウレタン、発泡スチロール、発泡ポリプロピレンを好ましく用いることができる。
充填材としては、木材、ゴムを用いてもよい。
【0027】
凹部の形状に合わせて、これに嵌る形状に予め成形された充填剤を用意し、これを充填することが好ましい。
【0028】
<プラスチック層形成工程>
本発明が備えるプラスチック層形成工程について説明する。
プラスチック層形成工程では、前記充填材が充填された前記形鋼の外周側にプラスチック層を形成する。
充填材が充填された形鋼の外周面の全てを覆うようにプラスチック層を形成することが好ましい。
【0029】
プラスチック層は、発泡プラスチック層であることが好ましい。例えば三次元の方向に連通した多数の孔を有する市販の発泡ポリエチレンからなる発泡プラスチックを用いることができる。
【0030】
プラスチック層の厚さは特に限定されないが、3~15mmであることが好ましく、5~10mmであることがより好ましい。
【0031】
なお、施工に際しては、発泡ポリエチレン等のプラスチックのシートを一方の面に貼りつけた保護層を予め作成し、プラスチックのシートを内側にしてこれを前記充填材が充填された前記形鋼の外周側に付けると、プラスチック層と保護層とを同時に簡易に形成することができるので好ましい。
【0032】
<保護層形成工程>
本発明が備える保護層形成工程について説明する。
保護層形成工程では、前記プラスチック層の外周側に、保護層を形成する。
前記プラスチック層の外周面に密着するように保護層を形成することが好ましい。
【0033】
保護層は、耐食性金属製またはプラスチック製の薄板からなることが好ましい。
【0034】
ここで、薄板を構成する耐食性金属は海水中で極めて耐食性が優れているために、長期間使用しても腐食による損傷がない。
耐食性金属は特に限定されない。例えば耐食性金属として、チタン、チタン合金、ステンレスが挙げられ、チタンまたはチタン合金であることが好ましい。
耐食性金属製の薄板としては板厚が0.3~3.0mm、好ましくは0.6~1.0mmのものが軽量であり、この場合、施工時の取扱いが容易であるので好ましい。また、この程度にまで薄い厚さとしても、接合部の強度が高いため、波や漂流物にからの衝撃があっても破損し難い。
【0035】
また、薄板を構成するプラスチックは、海水中での耐食性に優れるものであればよい。このようなプラスチックとして、FRP、APCなどが挙げられる。
プラスチック製の薄板としては、板厚が2~5mm、好ましくは2~3mmのものが軽量であり、この場合、施工時の取扱いが容易であるので好ましい。
【0036】
図1(d)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層17を形成し、さらにその外周側に保護層19を形成した状態を示す断面図が
図5(a)である。
図2(c)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層27を形成し、さらにその外周側に保護層29を形成した状態を示す断面図が
図5(b)である。
図3(c)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層37を形成し、さらにその外周側に保護層39を形成した状態を示す断面図が
図5(c)である。
図4(c)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層47を形成し、さらにその外周側に保護層49を形成した状態を示す断面図が
図5(d)である。
図4(d)において、凹部へ充填材を充填した状態を示したが、この外周側にプラスチック層47´を形成し、さらにその外周側に保護層49´を形成した状態を示す断面図が
図5(e)である。
【符号の説明】
【0037】
10、20、30、40 形鋼
12、22、32、42 防錆層
14、24、34、44 凹部
16、26、36、46、46´ 充填材
17、27、37、47、47´ プラスチック層
19,29、39、49、49´ 保護層