(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165830
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】電池システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20241121BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241121BHJP
H02H 7/18 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
H02H7/18
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082362
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 宏司
【テーマコード(参考)】
5G053
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G053BA04
5G053CA04
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503DA04
5G503EA08
5G503GD03
5G503GD06
5H030FF41
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】非水電解質二次電池の劣化の抑制。
【解決手段】非水電解質二次電池1を備える電池システム100の制御方法であって、非水電解質二次電池1は、正極活物質および負極活物質を含み、正極活物質は、非水電解質二次電池1の充放電により相変化し、特定の条件に到達した後は、相変化が生じる充電深度領域Pで充放電しないようにする、あるいは、充放電を制限する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池を備える電池システムの制御方法であって、
前記非水電解質二次電池は、正極活物質および負極活物質を含み、
前記正極活物質は、前記非水電解質二次電池の充放電により相変化し、
特定の条件に到達した後は、前記相変化が生じる充電深度領域で充放電しないようにする、あるいは、充放電を制限する、
電池システムの制御方法。
【請求項2】
前記電池システムは、
前記相変化が生じる充電深度領域を、充放電容量に対する電圧変化量によって検出する検出部と、
前記相変化が生じる充電深度領域で充放電を行ったことによるダメージ量を算出する算出部と、
前記ダメージ量が閾値を超えた場合、前記相変化が生じる充電深度領域の使用を制限する制御部と
を備える、請求項1に記載の電池システムの制御方法。
【請求項3】
電圧変化量の検出は一定電流値以下で実施し、それ以上の電流値ではSOC-dV/dSOCで代用する、請求項2に記載の電池システムの制御方法。
【請求項4】
前記ダメージ量の積算値に対して制限量を徐変する、請求項2または3に記載の電池システムの制御方法。
【請求項5】
前記ダメージ量が前記閾値を超過した際は低電流域のみ使用を制限する、請求項2または3に記載の電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-196805号公報には、リチウムイオン二次電池の充放電サイクルの始端SOCまたは終端SOCがQ-dV/dQ曲線上に現れる特徴点であると検知または推定された場合、始端SOCまたは終端SOCをQ-dV/dQ曲線上に現れる特徴点を避けたSOCに設定するリチウムイオン二次電池システムが開示されている。同公報に開示されたリチウムイオン二次電池システムによると、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、非水電解質二次電池の劣化を抑制したいと考えている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで開示される電池システムの制御方法は、非水電解質二次電池を備える電池システムの制御方法である。非水電解質二次電池は、正極活物質および負極活物質を含み、正極活物質は、非水電解質二次電池の充放電により相変化し、特定の条件に到達した後は、相変化が生じる充電深度領域で充放電しないようにする、あるいは、充放電を制限する。かかる電池システムによると、非水電解質二次電池の劣化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、電池システム100を示す模式図である。
【
図2】
図2は、非水電解質二次電池1の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、非水電解質二次電池1の電極体20を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、制御装置70によって実行されるフローを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、Q-dV/dQ曲線を示すグラフである。
【
図6】
図6は、SOC-dV/dSOC曲線を示すグラフである。
【
図7】
図7は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、サイクル数と抵抗増加率の関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、サイクル数と抵抗増加率の関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、ここで開示される技術の一実施形態について図面を参照して説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、同一の作用を奏する部材・部位には、適宜に同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略される。
【0008】
〈電池システム100〉
図1は、電池システム100を示す模式図である。電池システム100は、
図1に示されているように、非水電解質二次電池1と、制御装置70とを備えている。非水電解質二次電池1は、複数であってもよく、単数であってもよい。電池システム100には、電池容量、作動電圧等を外部負荷に合わせて調整する観点から、複数の非水電解質二次電池1が用いられていることが好ましい。複数の非水電解質二次電池1は、直列に接続されていてもよく、並列に接続されていてもよく、直列と並列が組み合わせられて接続されていてもよい。
【0009】
〈非水電解質二次電池1〉
非水電解質二次電池1は、正極活物質および負極活物質を含んでいる。この実施形態では、非水電解質二次電池1として、リチウムイオン二次電池が用いられている。以下、非水電解質二次電池1の一例を説明する。
【0010】
図2は、非水電解質二次電池1の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
図3は、非水電解質二次電池1の電極体20を模式的に示す斜視図である。
図2に示されているように、ケース10と、電極体20と、非水電解質(図示省略)とを備えている。
【0011】
ケース10は、箱状の容器である。この実施形態では、角型のケース10が用いられている。ケース10の内部には、電極体20と非水電解質が収容されている。ケース10には、例えば、一定の強度を有する金属材料(アルミニウムなど)が用いられる。ケース10には、正極端子12と負極端子14とが取り付けられている。正極端子12と負極端子14は、ケース10内部の電極体20と接続されている。具体的には、正極端子12は、電極体20の正極板30(
図3参照)と接続されている。正極端子12には、アルミニウムなどが用いられる。一方、負極端子14は、電極体20の負極板40(
図3参照)と接続されている。この負極端子14には、銅などが用いられる。
【0012】
電極体20は、非水電解質二次電池1の発電要素である。
図3に示されているように、電極体20は、正極板30と、負極板40と、セパレータ50とを備えている。この実施形態では、電極体20は、捲回電極体である。捲回電極体は、正極板30と、負極板40と、セパレータ50とが積層されて、捲回されることによって作製される。電極体20の構造は、特に限定されず、従来公知の他の構造(積層型電極体など)であってもよい。
【0013】
正極板30は、導電性を有する金属箔である正極芯体32と、正極芯体32の表面に形成された正極活物質層34とを備えている。正極芯体32には、アルミニウムなどが用いられる。正極活物質層34は、正極活物質、導電材、バインダ等を含んでいる。導電材としては、アセチレンブラック、グラファイト等の炭素材料が用いられうる。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の樹脂材料が用いられうる。
【0014】
この実施形態では、正極活物質層34は、リチウム以外の金属原子に対するニッケルの含有量が70モル%以上であるリチウム複合酸化物(以下、「高Ni含有リチウム複合酸化物」ともいう)を、正極活物質として含有する。正極活物質として高Ni含有リチウム複合酸化物を用いることによって、非水電解質二次電池1を高容量化することができる。
【0015】
高Ni含有リチウム複合酸化物としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が好ましい。リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物において、Li以外の金属原子に対するNi含有量は、上記の通り70モル%以上である。リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物において、Li以外の金属原子に対するNi含有量は、80モル%以上であることが好ましい。
【0016】
高Ni含有リチウム複合酸化物の種類は、リチウム以外の金属原子に対するNi含有量が70モル%以上である限り特に限定されない。高Ni含有リチウム複合酸化物の例としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物等が挙げられる。高Ni含有リチウム複合酸化物としては、以下の式(I)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が例示される。
LiaNi1-bAbO2 (I)
【0017】
ここで、aは、0.8以上1.2以下であり、bは、0.2未満であることが好ましい。Aは、Ni以外の元素であり、CoおよびMnの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。また、Aの含有量(モル)に対する、Coの含有量(モル)とMnの含有量(モル)の合計のモル比は、0.8以上であることが好ましい。Al、Zr、B、Mg、Fe、Cu、Zn、Sn、Na、K、Ba、Sr、Ca、W、Mo、Nb、Ti、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が含まれていてもよい。
【0018】
正極活物質層34は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、従来より正極活物質層において使用されている公知のものおよびそれと同等以上の特性を有するものを使用してよい。具体的には、界面活性剤として、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
負極板40は、導電性を有する金属箔である負極芯体42と、当該負極芯体42の表面に付与された負極活物質層44とを備えている。負極芯体42には、銅などが用いられる。また、負極活物質層44は、負極活物質、バインダ、増粘剤等を含んでいる。負極活物質の一例として、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料が挙げられる。バインダとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の樹脂材料が挙げられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の樹脂材料が挙げられる。
【0020】
セパレータ50は、正極板30と負極板40との間に介在した絶縁シートである。セパレータ50としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂材料が用いられうる。セパレータ50の表面には、無機フィラーを含む耐熱層が形成されていてもよい。無機フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン等の無機酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、マイカ、タルク、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン等の粘土鉱物などが用いられうる。セパレータ50は、耐熱層を表面に定着させるためのバインダを含んでいてもよい。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、アクリル系樹脂等の樹脂バインダが用いられうる。
【0021】
非水電解質は、典型的には、非水溶媒と電解質塩(言い換えると、支持塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解質に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩を用いることができ、なかでも、LiPF6が好ましく用いられうる。非水電解質は、例えば、オキサラト錯体、ビニレンカーボネート(VC)等の被膜形成剤、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0022】
ところで、非水電解質二次電池の充放電を繰り返すことによって、非水電解質二次電池の容量が低下しうる。充放電による非水電解質二次電池の容量低下は、サイクル劣化とも称される。サイクル劣化は、充放電時に正極、負極、非水電解質の間で起こる化学反応によって進行しうる。例えば、正極活物質層に含まれる正極活物質は、非水電解質二次電池の充放電により相変化しうる。正極活物質の相変化は、充放電時、正極活物質にリチウムが吸蔵されたり、放出されたりする際に起こりうる。相変化は、充放電時に一定の速度で進行するものではない。例えば、非水電解質二次電池の充放電時の充電深度(SOC;State Of Charge)によって、相変化しやすさが異なりうる。非水電解質二次電池の充電深度が、相変化が生じる充電深度領域(以下、「相変化領域」とも称する。)で充放電された場合に、正極活物質の相変化が進行しやすい。また、相変化が生じやすい充電深度は、正極活物質の種類によって異なりうる。非水電解質二次電池の充電深度を、相変化しやすい充電深度に至らないように充放電を制御することによって、非水電解質二次電池の容量低下を抑えることができる。
【0023】
充放電の制御は、特定の条件に達した後に実行されうる。特定の条件とは、非水電解質二次電池1の充放電時に取得されるデータに基づいて設定されうる。この実施形態では、正極活物質に相変化が生じることによって与えられるダメージを、充放電時に取得されるデータに基づいて算出し、評価することによって条件が設定される。ここでは、非水電解質二次電池1の充放電は、制御装置70によって制御される。以下では、非水電解質二次電池1の充放電を制御する方法について、制御装置70の構成と併せて説明する。
【0024】
図4は、制御装置70(
図1参照)によって実行されるフローを示すフローチャートである。制御装置70は、充放電時のSOCの上限を制御する。この実施形態では、初期状態における上限SOCは、100%に設定されている。
図4に示されているように、制御装置70は、充放電容量Qを検出する処理S10と、相変化が生じる充電深度領域Pを検出する処理S20と、相変化が生じる充電深度領域Pをまたいで充放電されたか否かを判定する処理S30と、ダメージ量Dを算出し記憶する処理S40と、ダメージ量Dと閾値Thを比較する処理S50と、上限SOCを変更する処理S60とが実行されるように構成されている。
【0025】
〈制御装置70〉
制御装置70は、非水電解質二次電池1の充放電を制御する。制御装置70は、
図1に示されているように、非水電解質二次電池1が充放電される際のSOC(充電深度)の範囲を制御する。制御装置70は、例えばマイクロコンピュータである。制御装置70は、例えば、I/Fと、CPUと、ROMと、RAMとを備えている。制御装置70は、単一のコンピュータから構成されていてもよく、複数のコンピュータから構成されていてもよい。
【0026】
制御装置70は、センサ71を備えている。センサ71は、電圧センサ71aと、電流センサ71bと、温度センサ71cとを備えている。電圧センサ71aは、非水電解質二次電池1の電池電圧を検出する。電流センサ71bは、非水電解質二次電池1の充放電電流を検出する。温度センサ71cは、非水電解質二次電池1の電池温度を検出する。温度センサ71cとしては、温度を検出する各種素子(例えばサーミスタ等)を使用できる。電池電圧、充放電電流および電池温度は、予め定められた間隔で取得されている。電池電圧、充放電電流および電池温度が取得される間隔は、例えば、1秒ごと~100秒ごとに設定されうる。この実施形態では、電池電圧、充放電電流および電池温度が取得される間隔は、10秒ごとに設定されている。電池電圧、充放電電流および電池温度が取得される間隔は、制御装置70のROM、RAM容量により適宜設定されてもよい。
【0027】
制御装置70は、充放電容量検出部72と、SOC検出部73とを備えている。充放電容量検出部72とSOC検出部73では、電圧センサ71a、電流センサ71bおよび温度センサ71cで取得された数値が時間と関連付けられて充放電容量QおよびSOCの推定に用いられる。
【0028】
制御装置70は、検出部74と、判定部75と、算出部76と、記憶部77と、比較部78と、制御部79とを備えている。制御装置70に含まれる各部72~79は、1つまたは複数のプロセッサによって実現されるものであってもよいし、回路に組み込まれるものであってもよい。
【0029】
〈充放電容量Qを検出する処理S10〉
処理S10(
図4参照)では、充放電容量検出部72は、電流センサ71bによって検出された電流を積算することによって充放電容量Qを検出する。充放電容量Qの検出と併せて、SOCが検出されてもよい。SOC検出部73は、例えば、予め記憶された満充電容量と、充放電容量Qとに基づいてSOCを推定する。SOCは、満充電容量に対する充放電容量Q(充放電容量Q/満充電容量)によって計算される。SOC検出部73は、予め記憶された、電池電圧とSOCの関係から算出してもよい。充放電容量Qが検出されると、続いて、充放電容量に対する電圧変化量dV/dQが算出される。
【0030】
〈相変化が生じる充電深度領域Pを検出する処理S20〉
処理S20(
図4参照)では、検出部74は、相変化が生じる充電深度領域(相変化領域)Pを検出する。この実施形態では、検出部74は、充放電容量Qに対する電圧変化量dV/dQを検出する。相変化が生じる充電深度領域Pは、充放電容量Qに対する電圧変化量dV/dQに基づいて検出される。この実施形態では、検出部74は、充放電容量Qと、充放電容量に対する電圧変化量dV/dQ(以下、単に「dV/dQ」とも称する。)との関係を示すQ-dV/dQ曲線に基づいて、相変化領域Pを検出する。
【0031】
本発明者の知見では、正極活物質として高Ni含有リチウム複合酸化物が用いられている場合には、満充電容量付近(例えば、充電深度70%以上であり、80%以上でありうる。)で相変化が生じうる。充放電中に正極活物質に相変化が生じたことは、センサ71によって検出される電池電圧および電池電流に基づいて検知される。本発明者の知見では、Q-dV/dQ曲線に基づいて正極活物質に生じる相変化を検出することができる。充電時、満充電容量付近において正極活物質に相変化が生じた場合には、dV/dQが小さくなる。正極活物質に相変化が生じた場合には、充電時に満充電容量付近においてdV/dQが極大になる。また、充放電容量Qに対するdV/dQの変化が大きくなる変曲点が現れる。例えば、dV/dQが極大値以下になる時の充放電容量Qを検出することによって、正極活物質に相変化が生じる充電深度領域を検出することができる。
【0032】
図5は、Q-dV/dQ曲線を示すグラフである。
図5では、後述する例1~例3のリチウムイオン二次電池のQ-dV/dQ曲線が、電位曲線と併せて示されている。
図5に示されているように、非水電解質二次電池1の満充電容量は、約200Ahである。この実施形態では、充放電容量Qが約170Ahの時にdV/dQが極大になる。充放電容量Qが約180Ahの時にdV/dQが極小になる。充放電容量Qが約190Ahの時にdV/dQが上記極大(充放電容量Qが約170Ahの時のdV/dQ)以下になる。このとき、相変化領域Pは、充放電容量Qが170Ah以上190Ah以下(充電深度85%以上95%以下)の領域である。電極は、充電深度領域Pで充放電される際にダメージを受けやすい。このように、検出部74は、充放電容量Qに対するdV/dQの関係に基づいて相変化領域Pを検出する。充電深度領域Pが検出されると、充電深度領域Pをまたいで充放電されたか否かが判定される。なお、「充電深度領域Pをまたいで充放電」とは、充放電容量Qが、相変化領域Pの下限以下から上限以上に充電された場合、相変化領域Pの上限以上から下限以下に放電された場合に限られず、相変化領域Pを通過せずに充電または放電された場合も含むものとする。
【0033】
充放電電流Iが大きいと、過電圧の影響によって充電深度領域Pの正確な検出が難しい場合がある。検出部74は、電圧変化量dV/dQ以外のパラメータに基づいて充電深度領域Pを検出してもよい。例えば、dV/dSOCに基づいて充電深度領域Pを検出してもよい。
【0034】
図6は、SOC-dV/dSOC曲線を示すグラフである。dV/dSOCは、SOCに対する電圧変化量である。検出部74は、Q-dV/dQ曲線と同様、SOCと、dV/dSOCとの関係を示すSOC-dV/dSOC曲線(
図6参照)に基づいて、相変化領域Pを検出してもよい。本発明者の知見によると、充放電電流Iが大きい場合には、SOC-dV/dSOC曲線に基づいて充電深度領域Pを検出することによって、検出精度が向上しうる。電圧変化量dV/dQの検出は一定電流値以下の場合に実施され、それ以上の電流値ではdV/dSOCで代用されてもよい。検出部74は、例えば、充放電電流が0.1C未満の場合にQ-dV/dQ曲線が検出し、充放電電流Iが0.1C以上の場合にSOC-dV/dSOC曲線を検出してもよい。
【0035】
なお、相変化が発生する充電深度は、試験等によって予め把握することができる。この場合、検出部74による充電深度領域Pの検出は必ずしも実施されなくてもよい。ただし、電池の劣化に伴って相変化領域Pは、変動しうる。この場合、制御装置70は、例えば、電池の劣化(例えば、容量維持率の低下等)に応じた相変化領域Pのデータが格納されていてもよい。制御装置70は、電池の劣化に応じた相変化領域Pのデータを読み込むことができるように構成されていてもよい。
【0036】
〈相変化が生じる充電深度領域Pで充放電されたか否かを判定する処理S30〉
処理S30(
図4参照)では、判定部75は、相変化が生じる充電深度領域Pにおいて充放電されたか否かを判定する。充放電容量検出部72で検出された充放電容量Qが、検出部74で検出された充電深度領域Pに入っている場合(Yes)、処理S40(
図4参照)に進み、ダメージ量Dが算出される。充放電容量Qが充電深度領域Pに入っていない場合(No)、処理は終了し、充放電時のSOCの上限は変更されない。
【0037】
〈ダメージ量Dを算出し記憶する処理S40〉
処理S40では、算出部76は、ダメージ量Dを算出する。記憶部77は、ダメージ量Dを記憶する。ここで、ダメージ量Dは、上述した充電深度領域Pで充放電したことによるダメージを数値化したものである。正極活物質のダメージは、充電深度領域Pで充放電され、正極活物質の相変化が進行することによって蓄積しうる。
【0038】
この実施形態では、算出部76は、充電深度領域Pで充放電される際の充放電電流Iおよび電池温度Tに基づいて算出する。算出部76は、予め記憶されたマップに基づいてダメージ量Dを算出する。マップは、充放電電流Iと、電池温度Tとに基づいてダメージ係数αが特定されるように設定されている。充電深度領域Pで充放電されない場合には、ダメージ係数αは、0と設定されてもよい。
【0039】
マップは、縦軸に充放電電流I、横軸に電池温度Tが設定されたマトリックスで構成されていてもよい。マップには、特定の充放電電流Iと電池温度Tにおけるダメージ係数αが設定されうる。マップによれば、電流センサ71bで取得される充放電電流Iと、温度センサ71cで取得される電池温度Tとに基づいて、ダメージ係数αが特定される。
【0040】
マップは、正極活物質の組成等に応じて試験、シミュレーション、理論計算等によって予め設定されたものが記憶されているとよい。マップの設定については、後述する。なお、マップの構成は、かかる形態に限定されない。マップは、電池電圧、SOC、充放電容量Q等、制御装置70によって検知または推定される他のパラメータに基づいてダメージ係数αが特定されるように構成されていてもよい。また、制御装置70には、複数のマップが記憶されていてもよい。制御装置70には、例えば、ダメージ量Dごとに複数のマップが記憶されていてもよい。この場合、蓄積されたダメージ量Dに基づいたマップが用いられることによって、特定の充放電電流Iと電池温度Tにおけるダメージ係数αは、更新されうる。
【0041】
なお、本発明者の試行によると、正極活物質へのダメージは、充放電時の充放電電流Iが大きい程小さい。充放電電流Iが大きい程、ダメージ係数αは小さくなり、充放電電流Iが小さい程、ダメージ係数αは大きくなる。また、正極活物質へのダメージは、充放電時の電池温度Tが低い程小さい。電池温度Tが小さい程、ダメージ係数αは小さくなり、電池温度Tが大きい程、ダメージ係数αは大きくなる。
【0042】
記憶部77には、ダメージ量Dが記憶されている。記憶されているダメージ量Dは、以前に算出されたダメージ係数αが積算されたものである。算出部76は、今回算出されたダメージ係数αをダメージ量Dに加算する。今回算出されたダメージ係数αがダメージ量Dに加算されると、続いて、ダメージ量Dが閾値Th以上になったか否かが判定される。なお、今回記憶されたダメージ量Dには、次回、充電深度領域Pで充放電される際に、新たにダメージ係数αが加算される。
【0043】
なお、ダメージ量Dの算出は、上述した形態に限定されない。ダメージ量Dの算出は、マップによらず、例えば、充放電時に充電深度領域Pをまたいだ回数(例えば、この実施形態では、充放電時に充電深度85%以上95%以下に達した回数)によって算出されてもよい。このように、充放電時に充電深度領域Pをまたいだ回数を基に、充放電を制御する特定の条件が設定されてもよい。
【0044】
〈ダメージ量Dと閾値Thを比較する処理S50〉
処理S50(
図4参照)では、比較部78は、ダメージ量Dと閾値Thを比較する。処理S40で記憶されたダメージ量Dが閾値Th以上である場合(Yes)には、処理S60に進む。処理S40で記憶されたダメージ量Dが閾値Th以上ではない場合(No)には、処理は終了し、充放電時のSOCの上限は変更されない。
【0045】
なお、閾値Thは、試験、シミュレーション、理論計算等によって予め定められているとよい。例えば、試験によってダメージ量Dと容量維持率の関係を求め、容量維持率の変化率が大きくなるようなダメージ量を閾値Thが定められていてもよい。また、ダメージ量Dと抵抗増加率の関係に基づいて閾値Thが定められていてもよい。定められた閾値Thは、制御装置70に記憶され、比較部78によって参照されうる。
【0046】
〈上限SOCを変更する処理S60〉
処理S60(
図4参照)では、制御部79は、充放電時の上限SOCを変更する。制御部79は、ダメージ量Dが閾値Thを超えた場合、相変化が生じる充電深度領域(相変化領域)Pの使用を制限する。変更される上限SOCの値は、正極活物質の組成等に応じて定められるとよい。この実施形態では、上限SOCは、80%(充放電容量Qが160Ah)に変更される。
図5に示されているように、例1および例2では、充放電容量Qが約170Ahの時にdV/dQが極大になり、正極活物質の相変化が進行しうる。充放電容量Qを160Ahに制限することによって、正極活物質の相変化の進行を抑えることができる。
【0047】
このように、電池システム100では、特定の条件に到達した後(この実施形態では、ダメージ量Dが閾値Th以上になった後)は、相変化が生じる充電深度領域(相変化領域)Pで充放電しないように、充放電が制御される。これによって、正極活物質の相変化が抑えられ、非水電解質二次電池の容量が維持されやすくなる。また、非水電解質二次電池の抵抗が増加しにくくなる。また、上限SOCが変更される前は、上限SOCが高く(この実施形態では、100%)設定されている。このため、高用量の電池システム100が実現される。
【0048】
また、非水電解質二次電池1の充放電の制御は、相変化領域Pで充放電しないことに限られず、充放電を制限することによって実現されていてもよい。例えば、充放電制限後は、通常の使用において、変更後の上限SOC以上とならないようにSOCを制限する。緊急時等の予め設定された条件を満たした場合に、上限SOCを超えて充放電されるように充放電が制御されてもよい。
【0049】
なお、上限SOCは、ダメージ量Dの積算に応じて徐々に変更されてもよい。換言すると、ダメージ量Dの積算値に対して制限量(使用が制限される充放電容量Q、上限SOC等)が徐変されてもよい。例えば、ダメージ量Dが80を超えるまでは、上限SOCが100%に設定されていてもよい。上述のように、ダメージ量Dが100を超えると、上限SOCが80%に変更されてもよい。この場合、制御部79は、例えば、ダメージ量が80から100になるまで、線形的に上限SOCが100%から80%になるように上限SOCを制御してもよい。上限SOCは、線形的に制限されることに限られず、段階的(例えば、ダメージ量Dが5積算されるごとに上限SOCが5%低くなる)に制御されてもよい。このように、制限量が徐々に変更されることによって、電池システム100の使用感に与える影響を小さくしつつ、正極活物質の相変化の進行を抑えやすい。また、電池システム100のユーザは、充放電の制限に対処しやすい。
【0050】
また、充電深度領域Pの使用は、予め定められた条件を満たした場合に制限されてもよい。例えば、ダメージ量Dが閾値Thを超過した際、低電流域のみ使用が制限されてもよい。充放電電流Iが低い場合に充電深度領域Pの使用が制限され、充放電電流Iが高い場合に充電深度領域Pの使用が制限されなくてもよい。本発明者の試行によると、充放電電流Iが低い程、正極活物質の相変化が進行しやすく、充放電電流Iが高い程、正極活物質の相変化が進行しにくい。換言すると、充放電電流Iが低い程、正極活物質へのダメージが大きく、充放電電流Iが高い程、正極活物質へのダメージが小さい。このため、充放電電流Iが低い場合の充電深度領域Pの使用を制限することによって、正極活物質の相変化の進行を抑える効果が大きい。充放電電流Iが高い場合には、充電深度領域Pの使用を制限しなくても正極活物質の相変化が進行しにくい。特に限定されないが、充放電電流Iが0.5C未満の場合に充電深度領域Pの使用を制限し、0.5C以上の場合には充電深度領域Pの使用を制限しないことが好ましい。例えば、電池システム100が車載電池に用いられる場合、電流が0.5C以上の場合には回生ブレーキで減速し、0.5C未満では油圧ブレーキで減速されるように制限されてもよい。これによって、正極活物質へのダメージを最小限に抑え、かつ、回生エネルギーを回収しエネルギー効率が向上しうる。
【0051】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0052】
〈リチウムイオン二次電池の準備〉
正極活物質層としてのリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、バインダ:AB:PVdF=97.5:1.5:1.0の質量比で混合した。リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物におけるニッケルと、コバルトと、マンガンとのモル比は、ニッケル:コバルト:マンガン=80:10:10である。得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて正極合材スラリーを調整した。長尺のアルミニウム箔の両面に、重量が正極合材スラリーを塗布し、乾燥した。ここで、乾燥後の正極活物質層の重量が10cm2あたり390mgとなるように正極合材スラリーの塗布量を調整し、塗布した。その後、圧延ローラーにより塗膜をロールプレスして正極板を作製した。
【0053】
負極活物質層としての黒鉛と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)とを、黒鉛:CMC:SBR=98.3:0.7:1.0の質量比で、イオン交換水中で混合し、負極合材スラリーを調製した。負極合材スラリーを、長尺の銅箔の両面に塗布し、乾燥した。ここで、乾燥後の負極活物質層の重量が10cm2あたり255mgとなるように負極合材スラリーの塗布量を調整し、塗布した。その後、圧延ローラーにより塗膜をロールプレスして負極板を作製した。
【0054】
セパレータとして、表面にポリフッ化ビニリデン(PVdF)を介して酸化アルミニウムが設けられたポリエチレン(PE)から構成されたものを用意した。
【0055】
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、1:1:1の体積比で含む混合溶媒を用意した。混合溶媒にLiPF6を1.0mol/Lの濃度となるように溶解させ、非水電解質を調製した。
【0056】
正極板と負極板を、セパレータを介在させた状態で捲回し、捲回型の電極体を作製した。電極体を、調製した非水電解質と共に角型の電池ケースに収容して、気密に封止し、例1のリチウムイオン二次電池を得た。例1のリチウムイオン二次電池の上限電圧を、4.2Vに設定した。
【0057】
正極活物質として、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物におけるニッケルと、コバルトと、マンガンとのモル比が、ニッケル:コバルト:マンガン=70:10:20のものを用いた。乾燥後の正極活物質層の重量が10cm2あたり425mgとなるように正極合材スラリーの塗布量を調整し、塗布した。上記以外は、例1と同様の方法で例2のリチウムイオン二次電池を得た。例2のリチウムイオン二次電池の上限電圧を、4.25Vに設定した。
【0058】
正極活物質として、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物におけるニッケルと、コバルトと、マンガンとのモル比が、ニッケル:コバルト:マンガン=60:20:20のものを用いた。乾燥後の正極活物質層の重量が10cm2あたり440mgとなるように正極合材スラリーの塗布量を調整し、塗布した。上記以外は、例1と同様の方法で例3のリチウムイオン二次電池を得た。例3のリチウムイオン二次電池の上限電圧を、4.25Vに設定した。例1~例3にかかるリチウムイオン二次電池の容量が同一となるように、正極活物質の重量をそれぞれ設定した。
【0059】
〈初期抵抗の測定〉
例1~3のリチウムイオン二次電池を、SOC50%の状態に調整した。次に、-10℃の環境下で種々の電流値で電流を流し、2秒後の電池電圧を測定した。そして、流した電流と電圧変化を直線補間し、その傾きから抵抗値(初期抵抗)を算出した。
【0060】
〈容量維持率の評価〉
図7および
図8は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
図7では、例1,例3,後述する例4のリチウムイオン二次電池についてのサイクル数と容量維持率の関係が示されている。
図8では、例2,例3,後述する例5のリチウムイオン二次電池についてのサイクル数と容量維持率の関係が示されている。
【0061】
例1のリチウムイオン二次電池について、容量維持率を評価した。まず、50Aの電流で電池電圧が3.0Vとなるまで放電した。次いで、50Aの電流で電池電圧が4.2Vとなるまで充電した。次いで、50Aの電流で電池電圧が3.0Vとなるまで放電した。この時の試験用リチウムイオン二次電池の容量を初期容量として規定した。初期容量測定後のリチウムイオン二次電池について、50Aの電流で、SOC0~100%の充放電を1000サイクル行った。ここで、SOC0%を開回路電圧(OCV)3.0Vとし、SOC100%をOCV4.2Vとした。250サイクル後、500サイクル後、1000サイクル後の電池容量を取得し、耐久後容量とした。初期容量と耐久後容量を用いて、下記式(1):
容量維持率(%)=耐久後容量/初期容量×100 (1)
に基づいて、サイクル試験における容量維持率(%)を算出した。なお、例2,3のリチウムイオン二次電池について、上限電池電圧(SOC100%の電池電圧)を4.25Vとした以外は、例1のリチウムイオン二次電池と同様の方法で容量維持率を評価した。
【0062】
さらに、例1と同様のリチウムイオン二次電池(例4)について、初期抵抗を測定し、
図4に示されているフローチャートに従って、ダメージ量Dと閾値Thを比較しつつ上記と同じ条件でサイクル試験を実施した。250サイクル後にダメージ量Dが閾値Th以上になったので、それ以降は、上限SOCを80%に設定し、1000サイクルまで、SOC0~80%の充放電を行った。また、例2と同様のリチウムイオン二次電池(例5)について、初期抵抗を測定し、
図4に示されているフローチャートに従って、ダメージ量Dと閾値Thを比較しつつ上記と同じ条件でサイクル試験を実施した。500サイクル後にダメージ量Dが閾値Th以上になったので、それ以降は、上限SOCを80%に設定し、1000サイクルまで、SOC0~80%の充放電を行った。容量維持率の評価の結果を
図7および
図8に示す。
【0063】
〈抵抗増加率の評価〉
図9および
図10は、サイクル数と抵抗増加率の関係を示すグラフである。
図9では、例1,例3,例4のリチウムイオン二次電池についてのサイクル数と容量維持率の関係が示されている。
図10では、例2,例3,例5のリチウムイオン二次電池についてのサイクル数と容量維持率の関係が示されている。
【0064】
例1~5のリチウムイオン二次電池について、初期抵抗の測定と同様の方法で、250サイクル後、500サイクル後、1000サイクル後の耐久後抵抗を測定した。初期抵抗と耐久後抵抗を用いて、下記式(2):
抵抗増加率(%)=耐久後抵抗/初期抵抗×100 (2)
に基づいて、サイクル試験における抵抗増加率(%)を算出した。抵抗増加率の評価の結果を
図9および
図10に示す。
【0065】
例1と例4の比較(
図7参照)、および、例2と例5の比較(
図8参照)より、ダメージ量Dが閾値Th以上になった後に、相変化が生じる充電深度領域で充放電しないように充放電条件を制御した場合、充放電条件を制御しない場合と比較して、容量が維持されやすくなることがわかる。例1と例4の比較(
図9参照)、および、例2と例5の比較(
図10参照)より、ダメージ量Dが閾値Th以上になった後に、相変化が生じる充電深度領域で充放電しないように充放電条件を制御した場合、充放電条件を制御しない場合と比較して、抵抗が上昇しにくくなることがわかる。
【0066】
例3と例4の比較(
図7,9参照)、および、例3と例5の比較(
図8,10参照)より、正極活物質として高Ni含有リチウム複合酸化物を用いた場合であっても、充放電条件について上述のように制御することによって、高Ni含有リチウム複合酸化物を用いていないリチウムイオン二次電池と同程度の容量維持率および抵抗増加率となることがわかる。
【0067】
以下、ダメージ量Dの算出に用いられるダメージ係数αについて説明する。ここでは、例1および例2のリチウムイオン二次電池について、ダメージ係数αを試験によって設定する方法の一例について説明する。なお、以下の説明は、本発明をかかる形態に限定することを意図したものではない。
【0068】
〈ダメージ係数αの設定〉
ダメージ係数αは、サイクル試験時の容量維持率に基づいて設定されうる。ここでは、上述した容量維持率の評価の際に得られた結果を基に、ダメージ係数αの設定について説明する。なお、ダメージ係数αを設定する方法は、以下の方法に限られず、事前の試験等によって適宜設定されてもよい。
【0069】
図7および
図8では、グラフの横軸がサイクル数の平方根、縦軸が容量維持率である。サイクル数ごとに容量維持率をプロットする。本発明者の試行によると、正極活物質が異常に劣化しない場合には、サイクル数ごとの容量維持率は、略直線上にプロットされる。相変化によって正極活物質が異常に劣化した場合には、その時点で容量維持率が大きく低下し、グラフの傾きが変わる。換言すると、サイクル数の平方根と、容量維持率との関係を示すグラフに変曲点が現れる。ここでは、グラフ上の変曲点におけるダメージ量Dを、100とした。
【0070】
図7に示されているように、例1のリチウムイオン二次電池では、250サイクル後に変曲点が現れている。ダメージ係数αは、変曲点と、変曲点が現れたサイクル数とに基づいて算出されてもよい。例1のリチウムイオン二次電池の正極活物質についてのダメージ係数αは、例えば、
100/(250サイクル)
1/2=6.33
と算出されうる。
図8に示されているように、例2のリチウムイオン二次電池では、500サイクル後に変曲点が現れている。例2のリチウムイオン二次電池の正極活物質についてのダメージ係数αは、同様に、
100/(500サイクル)
1/2=4.48
と算出されうる。このとき、ダメージ量Dは、下記式(3):
ダメージ量D=ダメージ係数α×(サイクル数)
1/2 (3)
に基づいて算出されてもよい。また、閾値Thは、100と設定されうる。ダメージ係数αの算出方法は、上述した方法に限定されない。
【0071】
充放電電流I、電池温度T、dV/dQの変化等、正極活物質に与えられるダメージと関係のあるパラメータの条件を変えてサイクル試験を実施することによって、ダメージ係数αのマップが準備されてもよい。以下、一例として、充放電電流I、電池温度TおよびdV/dQの変化に基づいて定められるダメージ係数αのマップの準備について説明する。
【0072】
異なる充放電電流Iでサイクル試験を実施し、それぞれの充放電電流Iについてダメージ係数αを計算した。ここでは、例1のリチウムイオン二次電池を用いて、充放電電流Iを、50Aに設定した場合、100Aに設定した場合、200Aに設定した場合、それぞれについて上記と同様の方法でサイクル試験を実施した。ここでは、電池温度Tを60℃に固定した。
図11は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
図11に示されているように、充放電電流Iが小さい程、容量維持率の低下が大きく、充放電電流Iが大きい程、容量維持率の低下が小さい傾向があった。本発明者の知見によると、充放電電流Iが大きい程、相変化領域Pを早く通過するため、相変化が抑えられうる。
【0073】
異なる充放電電流Iでサイクル試験を実施した際に得られたグラフを基に、ダメージ係数αを算出した。ここでは、上記のダメージ係数αの算出方法と同様に、グラフの変曲点を基にダメージ係数αを算出した。詳細な計算は省略するが、充放電電流Iを50Aに設定した場合のダメージ係数αは、10.0であった。充放電電流Iを100Aに設定した場合のダメージ係数αは、6.3であった。充放電電流Iを50Aに設定した場合のダメージ係数αは、5.6であった。
【0074】
また、異なる電池温度Tでサイクル試験を実施し、それぞれの電池温度Tについてダメージ係数αを計算した。ここでは、例1のリチウムイオン二次電池を用いて、電池温度Tを、60℃に設定した場合、25℃に設定した場合、-10℃に設定した場合、それぞれについて上記と同様の方法でサイクル試験を実施した。ここでは、充放電電流Iを50Aに固定した。
図12は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
図12に示されているように、電池温度Tが高い程、容量維持率の低下が大きく、電池温度Tが低い程、容量維持率の低下が小さい傾向があった。本発明者の知見によると、電池温度Tが高い程、正極活物質に割れ等が発生し、相変化が進行しうる。
【0075】
異なる電池温度Tでサイクル試験を実施した際に得られたグラフを基に、ダメージ係数αを算出した。詳細な計算は省略するが、電池温度Tを60℃に設定した場合のダメージ係数αは、10.0であった。電池温度Tを25℃に設定した場合のダメージ係数αは、4.2であった。電池温度Tを-10℃に設定した場合のダメージ係数αは、0であった。
【0076】
また、異なる充放電範囲でサイクル試験を実施し、それぞれの充放電範囲についてダメージ係数αを計算した。充放電範囲は、SOCに基づいて設定された。充放電範囲の下限SOCは、0%に固定された。充放電範囲の上限SOCを変えることによって設定された。ここでは、例1のリチウムイオン二次電池を用いて、充放電範囲の上限SOCを、100%に設定した場合、93%に設定した場合、87%に設定した場合、それぞれについて上記と同様の方法でサイクル試験を実施した。
図13は、サイクル数と容量維持率の関係を示すグラフである。
図13に示されているように、上限SOCが87%に設定されている場合には、上限SOCが93%、100%に設定されている場合と比較して容量維持率の低下が小さかった。上限SOCが93%に設定されている場合と100%に設定されている場合とでは、容量維持率の低下は同程度であった。本発明者の知見によると、相変化領域PでのdV/dQの変化が大きい程、正極活物質に割れ等が発生し、相変化が進行しうる。なお、容量維持率に加えて、上限SOCを変えた場合の抵抗増加率を上記と同様の方法で評価した。詳細な説明は省略するが、容量維持率と同様、上限SOCが87%に設定されている場合には、上限SOCが93%、100%に設定されている場合と比較して抵抗増加率が低かった。
【0077】
異なる上限SOCでサイクル試験を実施した際に得られたグラフを基に、ダメージ係数αを算出した。詳細な計算は省略するが、上限SOCを100%および93%に設定した場合のダメージ係数αは、6.3であった。上限SOCを87%に設定した場合のダメージ係数αは、5.3であった。
【0078】
このように、充放電電流I、電池温度T、dV/dQの変化等のパラメータを変更して試験し、各パラメータとダメージ係数αの関係を求めることにより、ダメージ係数α算出のためのマップが用意されてもよい。
【0079】
以上、ここで開示される技術について、種々説明した。特に言及されない限りにおいて、ここで挙げられた実施形態などは本発明を限定しない。また、ここで開示される技術は、種々変更でき、特段の問題が生じない限りにおいて、各構成要素やここで言及された各処理は適宜に省略され、または、適宜に組み合わされうる。また、本明細書は、以下の各項に記載の開示を含んでいる。
【0080】
項1:
非水電解質二次電池を備える電池システムの制御方法であって、
前記非水電解質二次電池は、正極活物質および負極活物質を含み、
前記正極活物質は、前記非水電解質二次電池の充放電により相変化し、
特定の条件に到達した後は、前記相変化が生じる充電深度領域で充放電しないようにする、あるいは、充放電を制限する、
電池システムの制御方法。
【0081】
項2:
前記電池システムは、
前記相変化が生じる充電深度領域を、充放電容量に対する電圧変化量によって検出する検出部と、
前記相変化が生じる充電深度領域で充放電を行ったことによるダメージ量を算出する算出部と、
前記ダメージ量が閾値を超えた場合、前記相変化が生じる充電深度領域の使用を制限する制御部と
を備える、項1に記載の電池システムの制御方法。
【0082】
項3:
電圧変化量の検出は一定電流値以下で実施し、それ以上の電流値ではSOC-dV/dSOCで代用する、項2に記載の電池システムの制御方法。
【0083】
項4:
前記ダメージ量の積算値に対して制限量を徐変する、項2または3に記載の電池システムの制御方法。
【0084】
項5:
前記ダメージ量が前記閾値を超過した際は低電流域のみ使用を制限する、項2~4のいずれか一項に記載の電池システムの制御方法。
【符号の説明】
【0085】
1 非水電解質二次電池
10 ケース
12 正極端子
14 負極端子
20 電極体
30 正極板
32 正極芯体
34 正極活物質層
40 負極板
42 負極芯体
44 負極活物質層
50 セパレータ
70 制御装置
71 センサ
71a 電圧センサ
71b 電流センサ
71c 温度センサ
72 充放電容量検出部
73 SOC検出部
74 検出部
75 判定部
76 算出部
77 記憶部
78 比較部
79 制御部
100 電池システム