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特開2024-165832操業条件決定装置、操業条件決定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165832
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】操業条件決定装置、操業条件決定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/00 20060101AFI20241121BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20241121BHJP
   B21B 99/00 20060101ALI20241121BHJP
   G05B 19/418 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
B21B37/00 300
B21B3/00 A
B21B3/00 D
B21B99/00
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082364
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 純一
(72)【発明者】
【氏名】平野 弘二
【テーマコード(参考)】
3C100
4E124
【Fターム(参考)】
3C100AA22
3C100AA70
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB27
3C100BB33
3C100EE10
4E124AA07
4E124BB02
4E124BB07
4E124BB08
4E124BB09
4E124EE11
(57)【要約】
【課題】製造仕様の互いに異なる複数の鋼材についての製造工程における操業条件であって、鋼材の生産性及び品質を向上可能である適切な操業条件を決定することができる、操業条件決定装置等を提供する。
【解決手段】本発明に係る操業条件決定装置100は、複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材の製造工程における操業条件を入力とし、対象鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備え、同一に設定される精錬工程における成分値を含む対象鋼材の製造工程における操業条件を、材料特性値予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材の材料特性値の確率分布と、対象鋼材の製造仕様に含まれる材料特性値の仕様とによって算出される対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、材料特性値予測モデルを逆解析することで、対象鋼材の製造工程のうち、少なくとも後工程における操業条件を決定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬工程及び前記精錬工程よりも後の後工程を有する製造工程を経て製造される、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材について、前記複数の鋼材の前記精錬工程における成分値を互いに同一に設定する条件で、前記複数の鋼材についての前記製造工程における操業条件を決定する操業条件決定装置であって、
前記複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材の前記製造工程における操業条件を入力とし、前記対象鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備え、
前記同一に設定される前記精錬工程における成分値を含む前記対象鋼材の前記製造工程における操業条件を、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布と、前記対象鋼材の前記製造仕様に含まれる材料特性値の仕様とによって算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記対象鋼材の前記製造工程のうち、少なくとも前記後工程における操業条件を決定する、
操業条件決定装置。
【請求項2】
前記同一に設定される前記精錬工程における成分値は、前記複数の鋼材のうち、前記対象鋼材以外の鋼材に設定されている既存鋼種の成分値であり、
前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記対象鋼材の前記製造工程のうち、前記後工程における操業条件を決定する、
請求項1に記載の操業条件決定装置。
【請求項3】
前記同一に設定される前記精錬工程における成分値は、既存鋼種に無い成分値であり、
前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記対象鋼材の前記製造工程のうち、前記精錬工程における前記成分値及び前記後工程における操業条件を決定する、
請求項1に記載の操業条件決定装置。
【請求項4】
前記材料特性値予測モデルは、ベイズ推定を用いたモデルである、
請求項1から3の何れかに記載の操業条件決定装置。
【請求項5】
前記材料特性値予測モデルは、分散不均一ガウス過程を用いたモデルである、
請求項1から3の何れかに記載の操業条件決定装置。
【請求項6】
精錬工程及び前記精錬工程よりも後の後工程を有する製造工程を経て製造される、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材について、前記複数の鋼材の前記精錬工程における成分値を互いに同一に設定する条件で、前記複数の鋼材についての前記製造工程における操業条件を決定する操業条件決定方法であって、
前記複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材の前記製造工程における操業条件を入力とし、前記対象鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを用い、
前記同一に設定される前記精錬工程における成分値を含む前記対象鋼材の前記製造工程における操業条件を、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布と、前記対象鋼材の前記製造仕様に含まれる材料特性値の仕様とによって算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記対象鋼材の前記製造工程のうち、少なくとも前記後工程における操業条件を決定する、
操業条件決定方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1に記載の操業条件決定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材についての製造工程における操業条件を決定する操業条件決定装置、操業条件決定方法、及び操業条件決定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムに関する。特に、本発明は、鋼材の生産性及び品質を向上可能な適切な操業条件を決定することができる、操業条件決定装置、操業条件決定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の鋼材は、精錬工程、連続鋳造工程、圧延工程(熱延工程、冷延工程)、連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛めっき工程等の製造工程を経て製造される。
【0003】
精錬工程を実行する転炉では、バッチ操業を行っており、1回の精錬(これをチャージと称する)で製造した溶鋼を取鍋に出鋼している。その後、連続鋳造工程では、転炉で製造され、それぞれ取鍋に出鋼された数チャージ分の溶鋼を連続して鋳造している。連続して鋳造するチャージの数を連々数と称するが、鋼材の生産性を向上させる観点からは、この連々数が大きいほど好ましい。
一方、異なる鋼種(精錬工程における溶鋼の成分値が異なる鋼材の種類)のチャージを連続して鋳造する場合には、チャージ間の継ぎ目の部分の成分が混合してしまうため、鋼材の品質を向上させる観点からは、異なる鋼種での連々数は小さいほど好ましい。
したがって、鋼材の生産性及び品質の双方を向上させる観点からは、連続鋳造工程において、同一鋼種(精錬工程における溶鋼の成分値が同一である鋼材の種類)の連々数を大きくすることが好ましい。
【0004】
ところが、鉄鋼業では、多品種少量生産を行うことが多い。このため、各顧客の異なる製造仕様毎に、製造する鋼材の鋼種を設定すると、鋼種の数が多くなり、同一鋼種の連々数を大きくすることが難しくなる。したがって、鋼材の生産性及び品質の双方を向上させる観点からは、設定する鋼種の数がなるべく少なくて済むように、鋼材の製造工程における操業条件を決定することが重要である。
設定する鋼種の数を少なくするには、各顧客の異なる製造仕様に対して、鋼種を同一に設定する一方で、製造仕様を満足するように、精錬工程よりも後の後工程(例えば、連続鋳造工程、圧延工程(熱延工程、冷延工程)、連続焼鈍工程、連続溶融亜鉛めっき工程等)の操業条件を製造仕様に応じて変更することが好ましい。換言すれば、従来は異なる鋼種に設定していた複数の鋼材を同一鋼種に集約する(これを鋼種集約と称する)ことができるように、製造仕様に応じて操業条件を決定することが好ましい。
【0005】
鋼種集約に関連する技術としては、例えば、特許文献1、2に記載の装置が提案されている。
【0006】
特許文献1に記載の装置は、顧客の製造仕様を満足できないリスクを小さくするために、下位規格(低品質)の鋼材の鋼種を上位規格(高品質)の鋼材の鋼種に抱き合わせることで鋼種集約する装置である(特許文献1の請求項1等)。
特許文献1に記載の装置では、本来は下位規格の鋼材が、上位規格の鋼材と同様に、過剰に合金が添加されたチャージで製造されることになるため、製造コストが増加するという問題がある。
【0007】
特許文献2に記載の装置は、過去に製造した鉄鋼製品毎に、化学成分及び操業条件の実績値、並びに機械的性質の実績値を事例として蓄積する製造情報記憶手段と、入力される化学成分及び操業条件の指示値に基づいて鉄鋼製品を製造したときに得られる機械的性質を、前記製造情報記憶手段に蓄積されたデータを利用して推定する材質推定手段と、を備えたデータベース型材質予測システムを用いて鉄鋼製品の機械的性質を推定するとともに、該推定値がオーダーの仕様を満足することを確認しつつ、規格の異なる複数のオーダーを集約して1つの製造ロットに編成する装置(すなわち、鋼種集約する装置)である(特許文献2の請求項3等)。
特許文献2に記載の装置では、オーダーの仕様に対応する操業条件等の実績値が、製造情報記憶手段に蓄積された過去のデータの中に無いことによる予測(推定)の不確実性については考慮できていない。このため、特許文献2に記載の装置で編成した製造ロットで鋼材を製造しても、製造後の鋼材の材料特性値(特許文献2では、機械的性質)がオーダーの仕様を満足しない(鋼材の材料特性値が不合格となる)リスクが高いという問題がある。また、材質推定手段に入力する化学成分及び操業条件の指示値を人手で検討する必要があるため、必ずしも適切な鋼種集約ができるとは限らないという問題がある。
【0008】
なお、非特許文献1、2には、分散不均一ガウス過程(分散不均一を考慮したガウス過程回帰)について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-159274号公報
【特許文献2】特開2009-020807号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Alan D. Saul, James Hensman, Aki Vehtari, Neil D. Lawrence, "Chained Gaussian Processes", Proceedings of the 19th International Conference on Artificial Intelligence and Statistics, PMLR 51:1431-1440, 2016
【非特許文献2】「ヘテロスケダスティック尤度と多潜在GP」, [online], [令和5年4月21日検索], インターネット<URL:https://gpflow.github.io/GPflow/develop/notebooks/advanced/heteroskedastic.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材についての製造工程における操業条件であって、鋼材の生産性及び品質を向上可能な適切な操業条件を決定することができる、操業条件決定装置、操業条件決定方法及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、精錬工程及び前記精錬工程よりも後の後工程を有する製造工程を経て製造される、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材について、前記複数の鋼材の前記精錬工程における成分値を互いに同一に設定する条件で、前記複数の鋼材についての前記製造工程における操業条件を決定する操業条件決定装置であって、前記複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材の前記製造工程における操業条件を入力とし、前記対象鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備え、前記同一に設定される前記精錬工程における成分値を含む前記対象鋼材の前記製造工程における操業条件を、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布と、前記対象鋼材の前記製造仕様に含まれる材料特性値の仕様とによって算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記対象鋼材の前記製造工程のうち、少なくとも前記後工程における操業条件を決定する、操業条件決定装置を提供する。
【0013】
本発明において、「製造工程」は、鋼材の厚みや表面状態、内部の金属組織を変化させるなど、製品として造り込む工程(圧延工程(熱延工程、冷延工程)、連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛めっき工程等)までの工程を意味し、鋼材の切断や検査のみを行う精整工程を含まないものとしてもよい。本発明において、材料特性値予測モデルを逆解析することで操業条件を決定する対象とする「製造工程」としては、例えば、精錬工程、連続鋳造工程、圧延工程(熱延工程、冷延工程)、連続焼鈍工程、連続溶融亜鉛めっき工程のうちの、1つ又は複数の工程を挙げることができる。ただし、材料特性値予測モデルを逆解析することで操業条件を決定する対象とする製造工程には、少なくとも後工程(精錬工程よりも後の後工程である連続鋳造工程、圧延工程(熱延工程、冷延工程)、連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛めっき工程等)のうちの少なくとも1つの工程が含まれる。
また、本発明において、「複数の鋼材」とは、実在する鋼材ではなく、本発明に係る操業条件決定装置によって決定される製造工程における操業条件に従って製造される(すなわち、将来的に製造される)鋼材を意味する。また、本発明における「鋼材」は、必ずしも1つの鋼材製品を意味するものではなく、複数の鋼材製品からなる鋼材製品群を纏めて1つの鋼材と称する場合もある。この場合の「複数の鋼材」は、鋼材製品群が複数であることを意味する。
また、本発明において、「製造仕様」は、顧客の注文に応じて決められる鋼材に関する仕様であり、例えば、鋼材のサイズや材料特性値の仕様などを挙げることができる。製造仕様は、必ずしも顧客の注文毎に決められるものではなく、複数の顧客の注文毎に決められる(複数の顧客の注文に対応して1つの製造仕様が決められる)場合もある。本発明において、「製造仕様の互いに異なる」とは、製造仕様を構成する要素(鋼材のサイズや材料特性値等)の全ての仕様が異なる場合に限らず、その一部の仕様が異なる場合も含む概念である。
また、本発明において、「精錬工程における成分値を互いに同一に設定する」とは、精錬工程における鋼材(溶鋼)の成分値を完全に同一に設定する場合に限らず、成分値を予め決められた同一の範囲内に設定する場合を含む概念である。
また、本発明において、「操業条件」は、製造工程において鋼材の材料特性値等の品質に影響を与える条件であり、例えば、精錬工程における炭素(C)やマンガン(Mn)やシリコン(Si)等の成分値、圧延工程における加熱温度、圧延温度及び冷却温度などを挙げることができる。
また、本発明において、「材料特性値」は、鋼材の有する機械特性を意味し、例えば、引張強度(TS)、降伏点(YP)、伸び(EL)、表面硬度、曲げ強度、靭性値、疲れ寿命を挙げることができる。
さらに、本発明において、「製造仕様に含まれる鋼材の材料特性値の仕様」としては、例えば、材料特性値の要求上限値、又は要求下限値、又はその両方を挙げることができる。
【0014】
本発明に係る操業条件決定装置は、精錬工程及び後工程を有する製造工程を経て製造される、製造仕様(鋼材のサイズや材料特性値など)の互いに異なる複数の鋼材について、複数の鋼材の精錬工程における成分値を互いに同一に設定する条件(換言すれば、複数の鋼材の鋼種を同一に設定する条件)で、複数の鋼材についての製造工程における操業条件を決定する装置である。
本発明に係る操業条件決定装置は、複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材の製造工程における操業条件を入力とし、対象鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備える。材料特性値予測モデルは、対象鋼材の材料特性値の確率分布、換言すれば、材料特性値の期待値とバラツキとを予測結果として出力するため、入力される対象鋼材の操業条件のうち、過去の操業実績が無い操業条件についても、材料特性値(特に、バラツキ)を精度良く予測できることが期待できる。また、材料特性値のコントロールが難しく、材料特性値にバラツキが生じ易い対象鋼材の操業条件についても、材料特性値の予測精度が高まることが期待できる。
本発明に係る操業条件決定装置では、対象鋼材の製造工程における操業条件(同一に設定される精錬工程における成分値を含む)を、材料特性値予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材の材料特性値の確率分布と、対象鋼材の製造仕様に含まれる材料特性値の仕様とによって、対象鋼材の材料特性値の合格確率が算出される。例えば、製造仕様に含まれる対象鋼材の材料特性値の仕様が、材料特性値の要求上限値及び要求下限値である場合、材料特性値の確率分布全体の面積に対する、要求下限値から要求上限値までの範囲内に占める面積の比率が、合格確率として算出されることになる。
したがって、対象鋼材の材料特性値の合格確率が所定のしきい値以上となるように、この材料特性値予測モデルを逆解析すれば、対象鋼材の製造工程のうち、少なくとも後工程における操業条件を、製造仕様に応じて適切に決定することができる。
本発明に係る操業条件決定装置によれば、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材について、決定される操業条件が製造仕様に応じた適切なものであると共に、複数の鋼材の精錬工程における成分値が互いに同一に設定されるため、同一鋼種の連々数を大きくすることができ、鋼材の生産性及び品質を向上可能である。
【0015】
なお、本発明の材料特性値予測モデルは、例えば、過去に製造された鋼材の製造工程における操業実績を入力とし、当該過去に製造された鋼材から取得した試験片について測定した材料特性値を出力とする既知データを用いることで構築される。例えば、このような既知データを教師データとして用いる機械学習によって構築してもよい。なお、本発明において、既知データとして用いられる「操業実績」は、操業条件の実績値であり、鋼材の材料特性値等の品質に影響を与えるデータである。操業実績には、鋼材の製造工程で得られる測定値や設定値の他、これらを物理式等を用いて加工することで得られるデータも含まれ得る。
また、材料特性値予測モデルは、本発明に係る操業条件決定装置が構築してもよいし、他の装置で構築した材料特性値予測モデルを本発明に係る材料特性予測装置に記憶させてもよい。
【0016】
本発明に係る操業条件決定装置は、第1の好ましい構成として、前記同一に設定される前記精錬工程における成分値が、前記複数の鋼材のうち、前記対象鋼材以外の鋼材に設定されている既存鋼種の成分値であり、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記対象鋼材の前記製造工程のうち、前記後工程における操業条件を決定することが可能である。
【0017】
上記の第1の好ましい構成によれば、例えば、複数の鋼材のうち、単位時間当たりの製造量が所定のしきい値以下の鋼材(単位時間当たりの製造量が少ない鋼材)を対象鋼材とし、対象鋼材以外の鋼材(換言すれば、単位時間当たりの製造量が比較的多い鋼材)に設定されている既存鋼種の成分値を、同一に設定される精錬工程における成分値とすることが考えられる。この場合、単位時間当たりの製造量が比較的多い既存鋼種に鋼種集約する操業条件を決定することになり、鋼材の生産性を十分に向上可能である。
【0018】
第1の好ましい構成では、既存鋼種に鋼種集約する操業条件を決定するが、本発明はこれに限るものではなく、既存鋼種に無い鋼種に鋼種集約する操業条件を決定することも可能である。この場合、既存鋼種に無い鋼種であるため、操業条件決定装置は、材料特性値予測モデルを逆解析することで、精錬工程における成分値も決定することになる。
すなわち、本発明に係る操業条件決定装置は、第2の好ましい構成として、前記同一に設定される前記精錬工程における成分値が、既存鋼種に無い成分値であり、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記対象鋼材の前記製造工程のうち、前記精錬工程における前記成分値及び前記後工程における操業条件を決定することも可能である。
【0019】
上記の第2の好ましい構成によれば、例えば、複数の鋼材の全てを対象鋼材とすることが考えられる。この場合、既存鋼種に無い成分値を、同一に設定される精錬工程における成分値とするため、複数の鋼材の全てを既存鋼種に無い新たな鋼種に鋼種集約する操業条件を決定することになり、新たな鋼種の鋼材の生産性を十分に向上可能である。
【0020】
本発明に係る操業条件決定装置において、前記材料特性値予測モデルは、例えば、ベイズ推定を用いたモデルとされる。また、前記材料特性値予測モデルは、例えば、分散不均一ガウス過程を用いたモデルとされる。
【0021】
また、前記課題を解決するため、本発明は、精錬工程及び前記精錬工程よりも後の後工程を有する製造工程を経て製造される、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材について、前記複数の鋼材の前記精錬工程における成分値を互いに同一に設定する条件で、前記複数の鋼材についての前記製造工程における操業条件を決定する操業条件決定方法であって、前記複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材の前記製造工程における操業条件を入力とし、前記対象鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを用い、前記同一に設定される前記精錬工程における成分値を含む前記対象鋼材の前記製造工程における操業条件を、前記材料特性値予測モデルに入力したときに出力される前記対象鋼材の材料特性値の確率分布と、前記対象鋼材の前記製造仕様に含まれる材料特性値の仕様とによって算出される前記対象鋼材の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、前記材料特性値予測モデルを逆解析することで、前記対象鋼材の前記製造工程のうち、少なくとも前記後工程における操業条件を決定する、操業条件決定方法としても提供される。
【0022】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、コンピュータを、前記操業条件決定装置として機能させるためのプログラムとしても提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材についての製造工程における操業条件であって、鋼材の生産性及び品質を向上可能である適切な操業条件を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る操業条件決定装置の概要を模式的に説明する図である。
図2】第1実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。
図3図2に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
図4図2に示す注文情報取得部1が取得する注文情報の一例を示す図である。
図5】材料特性値予測モデルを構築するのに用いられる既知データの一例を示す図である。
図6】第1実施形態の材料特性値予測モデルの構築例を従来の機械学習モデルの構築例と比較して説明する図である。
図7図2に示す操業条件出力部6から出力される内容の一例を示す図である。
図8図2に示す操業条件出力部6から出力される内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[操業条件決定装置の概要]
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態(第1実施形態、第2実施形態)に係る操業条件決定装置について、鋼材が鋼板である場合を例に挙げて説明する。最初に、本実施形態に係る操業条件決定装置の概要について説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る操業条件決定装置の概要を模式的に説明する図である。
本実施形態に係る操業条件決定装置は、精錬工程及び後工程を有する製造工程を経て製造される、製造仕様(鋼材のサイズや材料特性値などの仕様)の互いに異なる複数の鋼材について、複数の鋼材の精錬工程における成分値を互いに同一に設定する条件(換言すれば、複数の鋼材の鋼種を同一に設定する条件)で、複数の鋼材についての製造工程における操業条件を決定する装置である。具体的には、図1(a)に示すように、本実施形態に係る操業条件決定装置は、複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材の製造工程における操業条件を入力とし、対象鋼材の材料特性値の確率分布を出力とする材料特性値予測モデルを備える。このため、材料特性値予測モデルから出力される対象鋼材の材料特性値の確率分布と、対象鋼材の製造仕様に含まれる材料特性値の仕様(例えば、材料特性値の要求上限値及び要求下限値)とに基づき、材料特性値の確率分布全体の面積に対する、要求下限値から要求上限値までの範囲内に占める面積(図1(a)に示すハッチングを施した領域の面積)の比率が、合格確率として算出されることになる。
そして、図1(b)に示すように、本実施形態に係る操業条件決定装置は、対象鋼材の製造工程における操業条件(同一に設定される精錬工程における成分値を含む)を、材料特性値予測モデルに入力したときに出力される対象鋼材の材料特性値の確率分布と、対象鋼材の製造仕様に含まれる材料特性値の仕様(例えば、材料特性値の要求上限値及び要求下限値)とによって算出される対象鋼材の材料特性値の合格確率(確率分布全体の面積に対する図1(b)に示すハッチングを施した領域の面積)が、所定のしきい値以上となるように、材料特性値予測モデルを逆解析することで、対象鋼材の製造工程のうち、少なくとも後工程における操業条件を決定する。
なお、本実施形態に係る操業条件決定装置によって操業条件を決定する複数の鋼材(例えば、後述の鋼材K01、K02、K03、K04)は、例えば、鋼材の用途(加工性や溶接性を含む)や品質(材料特性値、形状、疵など)等に関わる所定の基準に従って、オペレータが、或いは、操業条件決定装置が自動的に、鋼種集約可能な鋼材を選択することで決定される。
【0027】
本実施形態では、材料特性値予測モデルを逆解析することで操業条件を決定する対象とする製造工程が、後工程である圧延工程(第1実施形態)、及び、精錬工程及び後工程である圧延工程(第2実施形態)である場合を例に挙げて説明する。
以下、逆解析によって操業条件を決定する対象とする製造工程等が互いに異なる第1実施形態及び第2実施形態について、順に説明する。
【0028】
[第1実施形態]
図2は、第1実施形態に係る操業条件決定装置の概略構成を示すブロック図である。図3は、図2に示す操業条件決定装置を用いて実行する操業条件決定方法の概略手順を示すフロー図である。
第1実施形態に係る操業条件決定装置100は、同一に設定される精錬工程における成分値が、複数の鋼材のうち、対象鋼材以外の鋼材に設定されている既存鋼種の成分値であり、材料特性値予測モデルを逆解析することで、対象鋼材の製造工程のうち、後工程(圧延工程)における操業条件を決定する構成である。
図2に示すように、第1実施形態に係る操業条件決定装置100は、注文情報取得部1と、材料特性値予測モデル格納部2と、材料特性値予測モデル取得部3と、制約条件設定部4と、操業条件決定部5と、操業条件出力部6と、を備える。
【0029】
操業条件決定装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の1つ又は複数のハードウェアプロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の1つ又は複数のメモリを具備するコンピュータから構成され、メモリに格納される1つ又は複数のプログラムが1つ又は複数のハードウェアプロセッサにより実行されることで各種の演算を実行する。これにより、操業条件決定装置100は、注文情報取得部1、材料特性値予測モデル格納部2、材料特性値予測モデル取得部3、制約条件設定部4、操業条件決定部5及び操業条件出力部6として機能する。なお、操業条件決定装置100は、PLC(Programmable Logic Controller)であってもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用のハードウェアによって実現してもよい。以下、操業条件決定装置100が備える各構成要素1~6について、順に説明する。
【0030】
<注文情報取得部1>
注文情報取得部1は、図3に示すステップST11を実行する。具体的には、注文情報取得部1は、注文情報を所定のデータベース(図示せず)から取得する。
図4は、注文情報取得部1が取得する注文情報の一例を示す図である。図4に示すように、注文情報には、例えば、顧客が注文した各鋼材に対応する鋼材IDに紐付けられた、製造仕様と、精錬工程における操業条件と、後工程における操業条件と、各鋼種の月産量と、が含まれる。
【0031】
製造仕様は、顧客の注文に応じて決められる鋼材に関する仕様であり、鋼材のサイズ(図4に示す例では、板厚)や材料特性値(図4に示す例では、降伏点(YP)及び引張強度(TS))などの仕様を挙げることができる。図4に示す例では、材料特性値の仕様として、YP及びTSの要求上限値及び要求下限値の双方を含まれているが、これに限らず、要求上限値及び要求下限値の何れか一方のみが含まれる場合もある。
精錬工程における操業条件には、鋼材(溶鋼)の成分値(図4に示す例では、炭素(C)、シリコン(Si)及びマンガン(Mn)の成分値)が含まれ、各成分値に応じて鋼種(図4に示す例では、鋼種A、鋼種B及び鋼種C)が定められている。これらの鋼種A、B、Cは、既存鋼種である。
後工程における操業条件は、図4に示す例では、圧延工程における圧延温度及び冷却温度である。
【0032】
<材料特性値予測モデル格納部2>
材料特性値予測モデル格納部2には、操業条件決定装置100が備える材料特性値予測モデル構築部(図示せず)又は他の装置で構築した材料特性値予測モデルが格納(記憶)される。
【0033】
<材料特性値予測モデル取得部3>
材料特性値予測モデル取得部3は、図4に示すステップST12を実行する。具体的には、材料特性値予測モデル取得部3は、材料特性値予測モデル格納部2に格納された材料特性値予測モデルを取得する。
【0034】
以下、材料特性値予測モデル格納部2に格納され、材料特性値予測モデル取得部3によって取得される材料特性値予測モデルの構築方法について説明する。
材料特性値予測モデルは、過去に製造された鋼材(本明細書では、これを「参照鋼材」とも称する)の製造工程における操業実績を入力とし、参照鋼材から取得した試験片について測定した材料特性値を出力とする既知データを用いることで構築される。例えば、既知データを教師データとして用いた機械学習によって、材料特性値予測モデルを構築してもよい。
図5は、材料特性値予測モデルを構築するのに用いられる既知データの一例を示す図である。図5に示す既知データは、参照鋼材毎に、精錬工程における操業実績として、炭素(C)、シリコン(Si)及びマンガン(Mn)の成分値を含む。また、既知データは、参照鋼材毎に、後工程における操業実績として、圧延工程における圧延温度及び冷却温度を含む。さらに、既知データは、参照鋼材毎に、材料特性値として、YP及びTSの測定値を含む。図5に示す既知データの操業実績(精錬工程における操業実績、後工程における操業実績)を材料特性値予測モデルの入力として用い、材料特性値を材料特性値予測モデルの出力として用いることで、材料特性値予測モデルは構築される。
【0035】
第1実施形態では、過去の操業実績が無いことによる予測の不確実性を定量化するために、ベイズ推定の一種であるガウス過程回帰を用いた材料特性値予測モデルを構築するが、本発明はこれに限るものではない。例えば、既知データを用いた分位点回帰等の統計手法を利用して材料特性値予測モデルを構築してもよいし、ベイジアンニューラルネットワーク等のその他の機械学習によって材料特性値予測モデルを構築してもよい。
以下、第1実施形態で用いるガウス過程回帰の概要について説明する。なお、以下の各式において太字で表した変数は、ベクトル又は行列を意味する。
【0036】
以下の式(1)で表される入力xで構成され、以下の式(2)で表される入力xに対応する、以下の式(3)で表される出力のベクトルfが、平均値が0で、共分散行列が以下の式(4)で表されるKとするガウス分布N(0,K)に従うとき、出力fはガウス過程に従うといい、以下の式(5)のように記述する。
【数1】

上記の式(4)において、k(x,x)は、x=[xi,1,・・・xi,d,・・・xi,D]と、x=[xj,1,・・・xj,d,・・・xj,D]との距離を計算するカーネル関数であり、例えば、以下の式(6)に示すような動径基底関数等を用いて表される。
【数2】

上記の式(6)において、θ、θ2,1,・・・θ2,d,・・・θ2,Dはハイパーパラメータであり、過去の操業実績から最適化して求めることができる。
このとき、入力xに対応する出力yが与えられたとき、新しいデータ点xの出力yの確率分布は、以下の式(7)に示すように推定することができる。
【数3】
【0037】
材料特性値予測モデルとして、上記の式(7)に示すような通常のガウス過程回帰を用いることも可能であるものの、通常のガウス過程回帰では、操業実績の違いによって材料特性値に生じるバラツキの変化を考慮できない。このため、第1実施形態では、以下の式(8)~式(12)で表される、期待値(平均値)と分散(標準偏差)とを個別に推定するガウス過程gP(0,K)、gP(0,K)を定義し、各ガウス過程の出力をパラメータとしたガウス分布を最終的な予測結果とする分散不均一ガウス過程(分散不均一を考慮したガウス過程)を用いている。
【数4】

上記の式(8)及び式(9)において、K、Kは、前述の式(4)と同様の形式で表される共分散行列である。上記の式(10)及び式(12)において、loc(x)は出力の平均値を意味する。上記の式(11)及び式(12)において、scale(x)は出力の標準偏差を意味し、正の値となるように、exp関数を使用している。
分散不均一ガウス過程の詳細については、非特許文献1、2に記載されているため、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0038】
なお、上記の手法を発展させることで、例えば、以下に述べるようにして、出力変数間の共分散行列Σ(x)を推定することも可能である。
Dを説明変数(材料特性値予測モデルへの入力変数)の数、Mを目的変数(材料特性値予測モデルからの出力変数)の数、Nを実績データのレコード数とする。例えば、以下の式(13)で表される過去の出力の実績Yを、以下の式(14)で表される負荷行列Wを用いて式(15)に基づき無相関化した、以下の式(16)で表されるTを得る。
【数5】

ここでは、負荷行列Wは、Yを主成分分析することで計算したが、独立成分分析等の他の統計手法を用いて計算してもよい。
そして、以下の式(17)で表される過去の入力の実績Xから、Tの各列t,・・・tの確率分布を予測する、以下の式(18)で表されるガウス過程回帰モデルNをM(m=1,2,・・・M)個構築する。
【数6】
【0039】
すなわち、新しい入力xに対応する、以下の式(19)で表される出力の平均値ベクトルμ(x)と、以下の式(20)で表される出力の標準偏差ベクトルσ(x)とを計算できる。これらの予測ベクトルに基づき、出力の平均値ベクトルμ(x)及び共分散行列Σ(x)を、それぞれ以下の式(21)及び式(22)によって計算可能である。
【数7】

上記の式(22)において、Σ(x)は、対角成分がσ(x)であり、それ以外の要素が0である正方行列である。
【0040】
第1実施形態の材料特性値予測モデルは、以上に説明した手法によって構築される。材料特性値予測モデルは、対象鋼材の製造工程における操業条件を入力とし、対象鋼材の材料特性値の確率分布を出力とするモデルである。出力変数間の相関を考慮しない場合は、材料特性値予測モデルは、前述の式(12)で表されるモデルである。出力変数間の相関を考慮する場合は、材料特性値予測モデルは、前述の式(18)、式(21)及び式(22)で表されるモデルである。
【0041】
図6は、第1実施形態の材料特性値予測モデルの構築例を従来の機械学習モデルの構築例と比較して説明する図である。具体的には、図6では、図示の便宜上、操業条件を構成する複数のパラメータのうち、圧延工程における鋼材の冷却温度のみをプロットし、材料特性値として引張強度(TS)を予測するモデルの構築例である。図6(a)は従来の機械学習モデルの構築例を、図6(b)は第1実施形態の材料特性値予測モデルの構築例を示す。図6に「●」でプロットしたデータが既知データである。
図6(a)に示す従来の機械学習モデルでは、入力される操業条件(冷却温度)に対して、材料特性値(TS)の平均値が予測結果として出力されることになる。このため、図6(a)において破線で囲んだ領域のように、同じ操業条件でも材料特性値のバラツキが大きな領域では、材料特性値の予測精度が悪くなるという問題がある。
これに対して、図6(b)に示す第1実施形態の材料特性値予測モデルは、予測結果として材料特性値の確率分布が出力される。具体的には、本実施形態の材料特性値予測モデルは、分散不均一ガウス過程を用いたモデルであり、予測結果として、平均値及び標準偏差が出力されることになる。図6(b)に示すハッチングを施した領域が、平均値及び標準偏差から求まる正規分布の95%予測範囲(95%信頼区間)である。図6(b)に示すように、材料特性値予測モデルでは、材料特性値のバラツキが大きな領域(図6(a)の破線で囲んだ領域に対応する領域)が、確率分布(95%予測範囲)に含まれることで、出力として反映されることになる。また、材料特性値予測モデルでは、操業実績が無い領域(図6(a)のハッチングを施した領域に対応する領域)でも、確率分布(95%予測範囲)が出力されるため、予測の不確実性が考慮されることになる。
【0042】
<制約条件設定部4>
制約条件設定部4は、図3に示すステップST13を実行する。具体的には、制約条件設定部4は、後述の操業条件決定部5で実行する逆解析の制約条件を必要に応じて設定する。第1実施形態の制約条件設定部4は、決定対象である後工程における操業条件を構成するパラメータ(第1実施形態では、圧延工程における圧延温度及び冷却温度)の上限値、又は下限値、又はその両方を必要に応じて設定する。また、制約条件設定部4は、パラメータ間の制約条件を設定してもよい。
第1実施形態では、操業成立性の観点から、制約条件設定部4は、例えば、以下の式(23)に示す、後工程における操業条件を構成するパラメータ間の制約条件を設定する。
圧延温度-400℃ ≦冷却温度≦圧延温度 ・・・(23)
【0043】
<操業条件決定部5>
操業条件決定部5は、まず図3に示すステップST14を実行する。具体的には、操業条件決定部5は、複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材を決定する。
第1実施形態の操業条件決定部5は、例えば、後述のように、鋼材の生産性を十分に向上させる観点から、複数の鋼材のうち、単位時間当たりの製造量(具体的には、月産量)が所定のしきい値以下の鋼材を対象鋼材として決定する。図4に示す注文情報の例では、例えば、所定のしきい値を月産量500tonとすると、K01、K02、K03及びK04の注文IDに対応する複数の鋼材(以下、各鋼材を鋼材K01、鋼材K02、鋼材K03、鋼材K04と称する)のうち、月産量が200tonである鋼材K01及び鋼材K02を対象鋼材として決定することになる。
なお、上記の例では、操業条件決定部5が自動的に対象鋼材を決定する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、オペレータが対象鋼材を決定して、決定した対象鋼材を操業条件決定部5に入力する態様を採用することも可能である。この場合には、月産量のみならず、各鋼材の用途や製造コスト等も含めて総合的に判断し、対象鋼材を決定することが可能である。
【0044】
次に、操業条件決定部5は、図3に示すステップST15を実行する。具体的には、操業条件決定部5は、図1を参照して概要を説明したように、図4に示す対象鋼材K01、K02の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、材料特性値予測モデル取得部3で取得した材料特性値予測モデルを逆解析することで、対象鋼材K01、K02の製造工程のうち、少なくとも後工程における操業条件(第1実施形態では、後工程である圧延工程における圧延温度及び冷却温度)を決定する。この際、操業条件決定部5は、対象鋼材K01、K02の精錬工程における成分値を、対象鋼材K01、K02以外の鋼材K03に設定されている既存鋼種Bの成分値、又は、対象鋼材K01、K02以外の鋼材K04に設定されている既存鋼種Cの成分値に設定して、材料特性値予測モデルを逆解析する。
なお、第1実施形態では、鋼材K01、K02を対象鋼材としたため、対象鋼材K01、K02の精錬工程における成分値を、対象鋼材K01、K02以外の鋼材K03に設定されている既存鋼種Bの成分値、又は、対象鋼材K01、K02以外の鋼材K04に設定されている既存鋼種Cの成分値に設定して、材料特性値予測モデルを逆解析する態様としているが、本発明はこれに限るものではない。例えば、鋼材K03、K04を対象鋼材とし、対象鋼材K03、K04の精錬工程における成分値を、対象鋼材K03、K04以外の鋼材K01、K02に設定されている既存鋼種Aの成分値に設定して、材料特性値予測モデルを逆解析する態様を採用することも可能である。
以下、操業条件決定部5が実行する逆解析の内容について、具体的に説明する。
【0045】
前述のように、材料特性値予測モデルを用いることで、以下の式(24)で表される操業条件xが与えられたときの、以下の式(25)で表される材料特性値y(引張強度yts降伏点yyp)の条件付き確率分布p(y|x)を出力できる(式(12)を用いて、又は、式(18)、式(21)及び式(22)を用いて出力できる)。
【数8】

そこで、操業条件決定部5は、精錬工程における成分値を、図4に示す既存鋼種Bの成分値(C成分:8、Si成分:22、Mn成分:110)又は既存鋼種Cの成分値(C成分:10、Si成分:30、Mn成分:140)に固定すると共に、製造仕様(板厚、YPの要求上限値及び要求下限値、TSの要求上限値及び要求下限値)を対象鋼材K01、K02の製造仕様に設定した上で、合格確率が所定のしきい値以上となる操業条件xを探索して決定する。すなわち、操業条件決定部5は、例えば、以下の式(26)~式(31)のように定式化される最適化問題P1を求解することで、後工程(圧延工程)における操業条件uを決定する。換言すれば、操業条件決定部5は、以下の式(26)で表される合格確率P(u)(対象鋼材k毎に各材料特性値の合格確率を相乗平均した値を、全ての対象鋼材kについて相乗平均した値)を所定のしきい値以上とする、後工程(圧延工程)における操業条件u(具体的には、対象鋼材k毎の操業条件u[k])を決定する。
【数9】
【0046】
上記の式(26)において、y upper[k]、y lower[k]は、S=tsのとき、製造仕様によって決まる対象鋼材k(k=K01又はK02)の引張強度(TS)の上限値、下限値である。また、y upper[k]、y lower[k]は、S=ypのとき、製造仕様によって決まる対象鋼材kの降伏点(YP)の上限値、下限値である。なお、製造仕様にこれらの上限値及び下限値のうちの何れか一方が存在しない場合には、上限値については十分に大きな値を、下限値については十分に小さな値を設定すればよい。
また、上記の式(26)において、μ(x[k])、σ(x[k])は、材料特性値予測モデルから出力される対象鋼材kの材料特性値y(S=ts又はyp)の確率分布p(y|x[k])の平均値ベクトル、標準偏差ベクトルである。
上記の式(27)、式(29)において、urt[k]は対象鋼材kの圧延温度である。
上記の式(27)、式(29)において、uct[k]は対象鋼材kの冷却温度である。
上記の式(28)、式(31)において、ν[k]は対象鋼材kの製造仕様の板厚である。
上記の式(30)において、νは既存鋼種B又はCの炭素の成分値、νSiは既存鋼種B又はCのシリコンの成分値、νMnは既存鋼種B又はCのマンガンの成分値である。
上記の式(28)に示すνは、上記の式(30)に示すように、既存鋼種B又はCの成分値に固定して設定されるパラメータ群である。上記の式(28)に示すν[k]は、上記の式(31)に示すように、対象鋼材kの製造仕様の板厚に固定して設定されるパラメータ群である。このため、ν及びν[k]は、何れも定数として扱う。
上記の式(27)は、制約条件設定部4で設定される制約条件である。
【0047】
なお、上記の式(26)では、対象鋼材がK01、K02の2つである場合を例に挙げているため、式(26)の最も右側に位置する指数が「1/2」になっているが、一般にQ個の対象鋼材の場合には、当該指数は「1/Q」となる。また、上記の式(26)では、材料特性値がTS、YPの2つである場合を例に挙げているため、式(26)の右から2番目に位置する指数が「1/2」になっているが、一般にR個の材料特性値の場合には、当該指数は「1/R」となる。
また、上記の説明では、最適化手法として、制約付き信頼領域法を用いているが、これに限るものではなく、差分進化法や粒子群最適化など、他の最適化手法を用いることも可能である。
【0048】
<操業条件出力部6>
操業条件出力部6は、図3に示すステップST16を実行する。具体的には、操業条件出力部6は、操業条件決定部5が決定した対象鋼材K01、K02の後工程における操業条件(圧延工程における圧延温度及び冷却温度)を出力する。操業条件出力部6は、決定した対象鋼材K01、K02の後工程における操業条件を出力するのみならず、対象鋼材K01、K02の製造仕様や、決定した対象鋼材K01、K02の製造工程における操業条件(精錬工程における成分値を含む)を材料特性値予測モデルに入力したときに材料特性値予測モデルから出力される材料特性値の確率分布(平均値、標準偏差)や、この確率分布と製造仕様とによって算出される対象鋼材K01、K02の材料特性値の合格確率なども併せて出力することが好ましい。また、操業条件出力部6は、操業条件決定部5が材料特性値予測モデルを逆解析することで算出される、合格確率P(u)が所定のしきい値以上とならない(しきい値未満である)対象鋼材K01、K02の後工程における操業条件も併せて出力してもよい。
【0049】
図7は、操業条件出力部6から出力される内容の一例を示す図である。図7に示す欄P1の「後工程操業条件」、「YP」及び「TS」に記載の数値は、対象鋼材K01、K02の精錬工程における成分値を、鋼材K03に設定されている既存鋼種Bの成分値に設定して材料特性値予測モデルを逆解析した場合に得られる値であり、欄P2の「後工程操業条件」、「YP」及び「TS」に記載の数値は、対象鋼材K01、K02の精錬工程における成分値を、鋼材K04に設定されている既存鋼種Cの成分値に設定して材料特性値予測モデルを逆解析した場合に得られる値である。なお、図7に示す「合格確率」に記載の数値は、対象鋼材K01、K02毎に算出される各材料特性値(YP、TS)の合格確率の最大値を相乗平均した値である。
例えば、前述のしきい値(合格確率P(u)と比較するしきい値)を0.98とすると、図7に示す欄P1の「合格確率」に記載の合格確率(0.945、0.967)を全ての対象鋼材K01、K02について相乗平均した値は0.98未満となり、上記のしきい値未満となる。これに対して、図7に示す欄P2の「合格確率」に記載の合格確率(0.997、0.998)を全ての対象鋼材K01、K02について相乗平均した値は0.98以上となり、上記のしきい値以上となる。したがって、図7に示す欄P2の「後工程操業条件」に記載の数値が、操業条件決定部5が決定した対象鋼材の後工程における操業条件となり、対象鋼材K01、K02の鋼種を鋼材K04に設定されている既存鋼種Cに鋼種集約する操業条件が決定されることになる。
【0050】
以上に説明したように、第1実施形態に係る操業条件決定装置100によれば、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材K01、K02、K04について、決定される操業条件が製造仕様に応じた適切なものである(対象鋼材K01、K02の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となる)と共に、複数の鋼材K01、K02、K04の精錬工程における成分値が互いに同一に設定(既存鋼種Cの成分値に設定)されるため、同一鋼種Cの連々数を大きくすることができ、鋼材の生産性及び品質を向上可能である。
第1実施形態では、図4に示すように、月産量が合わせて200tonと少ない鋼材K01、K02を対象鋼材として、これらの鋼種を月産量が1800tonと多い鋼材K04の鋼種Cに鋼種集約することになるため、同一の鋼種Cの月産量が2000tonとなり、鋼材の生産性を十分に向上可能である。
【0051】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る操業条件決定装置も、操業条件決定部5の演算内容を除いて、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様の構成を有する。このため、第2実施形態に係る操業条件決定装置についても、図2及び図3を援用し、図2において操業条件決定装置及びその構成要素に付された符号を援用する。
前述の第1実施形態に係る操業条件決定装置100は、既存鋼種に鋼種集約する操業条件を決定する構成である。
これに対し、第2実施形態に係る操業条件決定装置100は、既存鋼種に無い鋼種に鋼種集約する操業条件を決定する構成である。すなわち、第2実施形態に係る操業条件決定装置100において、同一に設定される精錬工程における成分値は、既存鋼種に無い成分値であり、材料特性値予測モデルを逆解析することで、対象鋼材の製造工程のうち、精錬工程における成分値及び後工程(圧延工程)における操業条件を決定する構成である。
以下、第2実施形態に係る操業条件決定装置100の各構成要素について説明するが、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と同様の内容である注文情報取得部1、材料特性値予測モデル格納部2、材料特性値予測モデル取得部3及び制約条件設定部4については説明を省略し、第1実施形態に係る操業条件決定装置100と異なる演算内容の操業条件決定部5と、操業条件出力部6と、について説明する。
【0052】
<操業条件決定部5>
操業条件決定部5は、第1実施形態と同様に、まず図3に示すステップST14を実行する。具体的には、操業条件決定部5は、複数の鋼材のうち、逆解析の対象とする対象鋼材を決定する。
第2実施形態の操業条件決定部5は、第1実施形態と異なり、既存鋼種に無い鋼種に鋼種集約する操業条件を決定することから、これから操業条件を決定しようとする複数の鋼材の全てを対象鋼材として決定する。図4に示す注文情報の例では、鋼材K01、鋼材K02、鋼材K03及び鋼材K04の全てを対象鋼材として決定することになる。
【0053】
次に、操業条件決定部5は、図3に示すステップST15を実行する。具体的には、操業条件決定部5は、図1を参照して概要を説明したように、図4に示す対象鋼材K01、K02、K03、K04の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となるように、材料特性値予測モデル取得部3で取得した材料特性値予測モデルを逆解析することで、対象鋼材K01、K02、K03、K04の製造工程のうち、精錬工程における成分値及び後工程における操業条件(第2実施形態では、精錬工程における成分値及び後工程である圧延工程における圧延温度及び冷却温度)を決定する。
以下、操業条件決定部5が実行する逆解析の内容について、具体的に説明する。
【0054】
操業条件決定部5は、製造仕様(板厚、YPの要求上限値及び要求下限値、TSの要求上限値及び要求下限値)を対象鋼材K01、K02、K03、K04の製造仕様に設定した上で、合格確率が所定のしきい値以上となる操業条件xを探索して決定する。すなわち、操業条件決定部5は、例えば、以下の式(32)~式(37)のように定式化される最適化問題P2を求解することで、精錬工程における成分値ν及び後工程(圧延工程)における操業条件uを決定する。換言すれば、操業条件決定部5は、以下の式(32)で表される合格確率P(u,ν)(対象鋼材k毎に各材料特性値の合格確率を相乗平均した値を、全ての対象鋼材kについて相乗平均した値)を所定のしきい値以上とする、精錬工程における成分値ν(全ての対象鋼材kに共通する成分値)及び後工程(圧延工程)における操業条件u(具体的には、対象鋼材k毎の操業条件u[k])を決定する。第2実施形態では、第1実施形態と異なり、式(35)に示す後工程(圧延工程)における操業条件u[k]を決定変数とするだけではなく、式(36)に示す精錬工程における成分値νも決定変数としている(第1実施形態では、式(30)に示す精錬工程における成分値νは既存鋼種によって決まる定数である)ため、既存鋼種に無い鋼種に鋼種集約する操業条件が決定されることになる。
【数10】
【0055】
上記の式(32)において、y upper[k]、y lower[k]は、S=tsのとき、製造仕様によって決まる対象鋼材k(k=K01、K02、K03又はK04)の引張強度(TS)の上限値、下限値である。また、y upper[k]、y lower[k]は、S=ypのとき、製造仕様によって決まる対象鋼材kの降伏点(YP)の上限値、下限値である。なお、製造仕様にこれらの上限値及び下限値のうちの何れか一方が存在しない場合には、上限値については十分に大きな値を、下限値については十分に小さな値を設定すればよい。
また、上記の式(32)において、μ(x[k])、σ(x[k])は、材料特性値予測モデルから出力される対象鋼材kの材料特性値y(S=ts又はyp)の確率分布p(y|x[k])の平均値ベクトル、標準偏差ベクトルである。
上記の式(33)、式(35)において、urt[k]は対象鋼材kの圧延温度である。
上記の式(33)、式(35)において、uct[k]は対象鋼材kの冷却温度である。
上記の式(34)、式(37)において、ν[k]は対象鋼材kの製造仕様の板厚である。
上記の式(36)において、νは炭素の成分値、νSiはシリコンの成分値、νMnはマンガンの成分値である。
上記の式(34)に示すν[k]は、上記の式(37)に示すように、対象鋼材kの製造仕様の板厚に固定して設定されるパラメータ群である。このため、ν[k]は、定数として扱う。
上記の式(33)は、制約条件設定部4で設定される制約条件である。
【0056】
なお、上記の式(32)では、対象鋼材がK01、K02、K03、K04の4つである場合を例に挙げているため、式(32)の最も右側に位置する指数が「1/4」になっているが、一般にQ個の対象鋼材の場合には、当該指数は「1/Q」となる。また、上記の式(32)では、材料特性値がTS、YPの2つである場合を例に挙げているため、式(32)の右から2番目に位置する指数が「1/2」になっているが、一般にR個の材料特性値の場合には、当該指数は「1/R」となる。
また、上記の説明では、最適化手法として、制約付き信頼領域法を用いているが、これに限るものではなく、差分進化法や粒子群最適化など、他の最適化手法を用いることも可能である。
【0057】
<操業条件出力部6>
操業条件出力部6は、第1実施形態と同様に、図3に示すステップST16を実行する。具体的には、操業条件出力部6は、操業条件決定部5が決定した、対象鋼材K01、K02、K03、K04の精錬工程における成分値及び後工程における操業条件(圧延工程における圧延温度及び冷却温度)を出力する。操業条件出力部6は、決定した対象鋼材K01、K02、K03、K04の精錬工程における成分値及び後工程における操業条件を出力するのみならず、対象鋼材K01、K02、K03、K04の製造仕様や、決定した対象鋼材K01、K02、K03、K04の製造工程における操業条件(精錬工程における成分値及び後工程における操業条件)を材料特性値予測モデルに入力したときに材料特性値予測モデルから出力される材料特性値の確率分布(平均値、標準偏差)や、この確率分布と製造仕様とによって算出される対象鋼材K01、K02、K03、K04の材料特性値の合格確率なども併せて出力することが好ましい。また、操業条件出力部6は、操業条件決定部5が材料特性値予測モデルを逆解析することで算出される、合格確率P(u,ν)が所定のしきい値以上とならない対象鋼材K01、K02、K03、K04の精錬工程における成分値及び後工程における操業条件も併せて出力してもよい。
【0058】
図8は、操業条件出力部6から出力される内容の一例を示す図である。図8に示す「合格確率」に記載の数値は、対象鋼材K01、K02、K03、K04毎に算出される各材料特性値(YP、TS)の合格確率の最大値を相乗平均した値である。
例えば、前述のしきい値(合格確率P(u,ν)と比較するしきい値)を0.98とすると、図8に示す「合格確率」に記載の合格確率(0.982、0.980、0.981、0.981)を全ての対象鋼材K01、K02、K03、K04について相乗平均した値は0.98以上となり、上記のしきい値以上となる。したがって、図8に示す「精錬工程操業条件」及び「後工程操業条件」に記載の数値が、操業条件決定部5が決定した対象鋼材の後工程における操業条件となり、既存鋼種に無い、C成分:10、Si成分:19、Mn成分:125の成分値を有する新たな鋼種Dに鋼種集約する操業条件が決定されることになる。
【0059】
以上に説明したように、第2実施形態に係る操業条件決定装置100によれば、製造仕様の互いに異なる複数の鋼材K01、K02、K03、K04について、決定される操業条件が製造仕様に応じた適切なものである(対象鋼材K01、K02の材料特性値の合格確率が、所定のしきい値以上となる)と共に、複数の鋼材K01、K02、K03、K04の精錬工程における成分値が互いに同一に設定(既存鋼種Dの成分値に設定)されるため、同一鋼種Dの連々数を大きくすることができ、鋼材の生産性及び品質を向上可能である。
第2実施形態では、図4に示すように、月産量が合わせて200tonの鋼材K01、K02と、それぞれ1800tonの鋼材K03、K04を対象鋼材として、これらの鋼種を全て鋼種Dに鋼種集約することになるため、同一の鋼種Dの月産量が3800tonとなり、鋼材の生産性を十分に向上可能である。
【0060】
なお、複数の鋼材K01、K02、K03、K04の全てを対象鋼材とした場合の合格確率P(u,ν)が所定のしきい値未満である場合には、複数の鋼材の中からこの例では3つ以下の対象鋼材を適宜選び直し、操業条件決定部5によって、再度、最適化問題P2を求解し、合格確率P(u,ν)を所定のしきい値以上とする、精錬工程における成分値及び後工程における操業条件を決定すればよい。
また、初めから、操業条件決定部5が、複数の鋼材K01、K02、K03、K04から考えられる対象鋼材の組み合わせパターン{K01,K02}、{K01,K03}、{K01,K04}、{K02,K03}、{K02,K04}、{K03,K04}、{K01,K02,K03}、{K01,K02,K04}、{K01,K03,K04}、{K02,K03,K04}、{K01,K02,K03,K04}の全てについて、最適化問題P2を求解し、合格確率P(u,ν)が所定のしきい値以上となる対象鋼材の組み合わせパターンについて、精錬工程における成分値及び後工程における操業条件を決定する構成を採用することも可能である。
【0061】
以上に説明した第1実施形態は、既存鋼種に鋼種集約する操業条件を決定する構成であり、第2実施形態は、既存鋼種に無い鋼種に鋼種集約する操業条件を決定する構成であるが、本発明はこれらの何れかの構成のみに限られるものではない。例えば、製造工程における操業条件を決定する複数の鋼材のうち、一部の鋼材については、既存鋼種に鋼種集約する操業条件を決定し、残りの鋼材については、既存鋼種に無い鋼種に鋼種集約する操業条件を決定するという、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせた構成を採用することも可能である。
【0062】
以上に説明した本実施形態において、操業条件決定装置100は、複数のコンピュータを用いて実装されてもよい。例えば、クラウドサーバ等の装置を用いて操業条件決定装置100が実装されてもよい。また、操業条件決定装置100のハードウェアプロセッサやメモリが複数のコンピュータに分散して実装されてもよい。
【0063】
以上、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・注文情報取得部
2・・・材料特性値予測モデル格納部
3・・・材料特性値予測モデル取得部
4・・・制約条件設定部
5・・・操業条件決定部
6・・・操業条件出力部
100・・・操業条件決定装置
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8