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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165833
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ゴム製シール部材用塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/12 20060101AFI20241121BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20241121BHJP
   C09D 109/02 20060101ALI20241121BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241121BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D127/18
C09D109/02
C09D7/63
C09K3/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082365
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファム ホアイ ナム
【テーマコード(参考)】
4H017
4J038
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB07
4H017AB12
4H017AD01
4H017AE02
4J038CA072
4J038CD121
4J038JC32
4J038MA08
4J038NA10
4J038PA06
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】金属と接触して使用されるゴム製シール部材に用いられる、シール部材自体への優れた密着性、及び相手材である金属製品に対する非粘着性を長期にわたって発現可能な耐久性に優れた塗膜を形成可能な塗料組成物を提供する。
【解決手段】水素化アクリロニトリルブタジエンゴム及びパーフルオロフッ素樹脂を含有するゴム製シール部材用塗料組成物であって、前記水素化アクリロニトリルブタジエンゴムと前記パーフルオロフッ素樹脂の配合比(固形分質量比)が25:75~55:45であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化アクリロニトリルブタジエンゴム及びパーフルオロフッ素樹脂を含有する塗料組成物において、前記水素化アクリロニトリルブタジエンゴムと前記パーフルオロフッ素樹脂の配合比(固形分質量比)が25:75~55:45であることを特徴とするゴム製シール部材用塗料組成物。
【請求項2】
前記パーフルオロフッ素樹脂が、熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂である請求項1記載のゴム製シール部材用塗料組成物。
【請求項3】
前記熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体である請求項2記載のゴム製シール部材用塗料組成物。
【請求項4】
シランカップリング剤を含有する請求項1又は2記載のゴム製シール部材用塗料組成物。
【請求項5】
前記水素化アクリロニトリルブタジエンゴム及び前記パーフルオロフッ素樹脂が水性分散液から成り、水性塗料組成物である請求項1又は2記載のゴム製シール部材用塗料組成物。
【請求項6】
前記水素化アクリロニトリルブタジエンゴムと前記パーフルオロフッ素樹脂の配合比(固形分質量比)が、35:65~50:50である請求項1又は2記載のゴム製シール部材用塗料組成物。
【請求項7】
水素化アクリロニトリルブタジエンゴム及びパーフルオロフッ素樹脂を25:75~55:45の配合比(固形分質量比)で含有する塗膜を表面に有することを特徴とするゴム製シール部材。
【請求項8】
前記パーフルオロフッ素樹脂が、熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂である請求項7記載のゴム製シール部材。
【請求項9】
前記熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体である請求項8記載のゴム製シール部材。
【請求項10】
塗膜に対し、室温でφ5mmのプロープ(材質SUS304)を速度5mm/min、荷重100gfで押し当て、100gfの荷重で3秒保持した後、速度10mm/minで引き離した際のプローブが受ける粘着力(ピーク値)が20gf以下である請求項7又は8に記載のゴム製シール部材。
【請求項11】
シールリング、ガスケット、バルブシール又は逆止弁である請求項7又は8記載のゴム製シール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製シール部材に好適に適用可能なフッ素樹脂塗料組成物に関するものであり、より詳細には、金属に接触するゴム製シール部材に金属に対する優れた非粘着性を付与可能なフッ素樹脂塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シールリングや、ガスケット、バルブシール、逆止弁等のゴム製シール部材は、自動車、産業機械等の分野で広く使用されている。ゴム製シール部材においては、相手材との固着防止、シールの瞬時の開閉等を目的として、ゴム製シール部材表面に、ゴム成分及びフッ素樹脂粒子を含有するコーティング剤から成る皮膜が形成されることがある。
このようなコーティング剤として、例えば下記特許文献1には、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し、粒子径が2μm以下のフッ素樹脂粒子と粒子径が0.5~30μmであるフッ素樹脂粒子以外の充填剤粒子とを合計で10~90重量部および融点40~160℃であるワックスを10~40重量部の割合で含有させた有機溶媒溶液として調製され、フッ素樹脂粒子を全充填剤量の20~80重量%の割合で用いたオイルシール用コーティング剤が記載されている。
【0003】
また本発明者等は、ゴム又はプラスチック基材のような耐熱性に劣る基材に対して、優れた離型性を長期にわたって発現し得る塗膜を形成可能な塗料組成物を提案した(下記特許文献2)。この塗料組成物は、基材に対する塗膜密着性も高いことから、上述したようなゴム製シール部材への利用も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/014901号
【特許文献2】特開2022-136748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属と接触して使用されるゴム製シール部材は、シール性能を損なわないように(シールリングやガスケットにおいては金属部材と固着しないように、バルブシールや弁においては瞬時の開閉が可能となるように)、金属に軽く触れた場合にも全く付着しないような非粘着性が要求されるが、上記特許文献2に記載された塗料組成物から成る塗膜は、ブラダー等への離型性を付与する点では優れているとしても、金属に対して要求される上記のような非粘着性(非タッキング性)を制御することができないことが分かった。
【0006】
従って本発明の目的は、金属と接触して使用されるゴム製シール部材において、ゴム製基材への優れた密着性、及び相手材である金属部材に対する非粘着性(非タッキング性)を長期にわたって発現可能な耐久性に優れた塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、金属部材に対して優れた非粘着性(非タッキング性)の塗膜を有する、シールリング、ガスケット、バルブシール、逆止弁等のゴム製シール部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(以下、「HNBR」ということがある)及びパーフルオロフッ素樹脂(以下、単に「フッ素樹脂」ということがある)を含有する塗料組成物において、前記水素化アクリロニトリルブタジエンゴムと前記パーフルオロフッ素樹脂の配合比(固形分質量比)が25:75~55:45であることを特徴とするゴム製シール部材用塗料組成物が提供される。
【0008】
本発明のゴム製シール部材用塗料組成物においては、
(1)前記パーフルオロフッ素樹脂が、熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂であること、
(2)前記熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体であること、
(3)シランカップリング剤を含有すること、
(4)前記水素化アクリロニトリルブタジエンゴム及び前記パーフルオロフッ素樹脂が水性分散液から成り、水性塗料組成物であること、
(5)前記水素化アクリロニトリルブタジエンゴムと前記パーフルオロフッ素樹脂の配合比(固形分質量比)が、35:65~50:50であること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム及びパーフルオロフッ素樹脂を25:75~55:45の配合比(固形分質量比)で含有する塗膜を表面に有することを特徴とするゴム製シール部材が提供される。
【0010】
本発明のゴム製シール部材においては、
(1)前記パーフルオロフッ素樹脂が、熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂であること、
(2)前記熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体であること、
(3)塗膜に対し、室温でφ5mmのプロープ(材質SUS304)を速度5mm/min、荷重 100gfで押し当て、100gfの荷重で3秒保持した後、速度10mm/minで引き離した際のプローブが受ける粘着力(ピーク値)が20gf以下であること、
(4)シールリング、ガスケット、バルブシール又は逆止弁であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム製シール部材用塗料組成物においては、ゴム製シール部材が有すべきシール性能を好適に発現し得るように、相手材である金属に軽く接触した場合でも全く付着しないような非粘着性(非タッキング性)をゴム製シール部材に付与することができると共に、耐摩耗性にも優れており、このような優れた非粘着性を長期にわたって維持することができる。
また本発明のゴム製シール部材用塗料組成物は、伸縮性を有し、耐熱性が高くないゴム製シール部材に対しても、優れた追従性を有する塗膜を低温で形成可能であり、耐久性にも優れている。
更に本発明のゴム製シール部材用塗料組成物は、HNBR及びフッ素樹脂が水中に分散した水性塗料組成物とすることができることから、環境面及びコスト面においても優れている。
更にまた本発明の塗料組成物から成る塗膜を有する、シールリングや逆止弁等のゴム製シール部材は、金属と接触しても粘着することのない優れた非粘着性を有しており、ゴム製シール部材が有するシール性能が損なわれることなく維持される。
また耐熱性に劣るゴム製シール部材表面に低温で塗膜を形成可能であり、生産性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(塗料組成物)
本発明のゴム製シール部材用塗料組成物は、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム及びパーフルオロフッ素樹脂を含有する塗料組成物において、前記HNBRと前記フッ素樹脂の配合比(固形分質量比)が25:75~55:45であることが重要な特徴であり、特に上記配合比が35:65~50:50であることが好適である。上記範囲よりもHNBRの配合量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、連続した塗膜を形成することが困難になり、クラックなどの塗膜欠陥を生じるおそれがあると共に、ゴム製シール部材と塗膜の密着性が低下するおそれがある。一方上記範囲よりもHNBRの配合量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して所望の非粘着性を塗膜に付与することが困難になる。
【0013】
[水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)]
本発明の塗料組成物において、ベース樹脂となるHNBRは、耐熱性や加硫後の耐久性、ゴム製シール部材との密着性、さらに非粘着性を兼ね備えると共に、塗膜形成後においても伸び率の50%以上を維持し得るという特性を有している。
HNBRは未加硫の状態で用い、塗膜形成の際に加硫されるが、加硫処理温度は200℃以下(好ましくは180℃以下)にて可能であることから、その温度以上で使用可能なゴム製シール部材に対して、本発明の塗料組成物は問題なく使用できる。
HNBRとしては、水素化率が80~99%であることが好ましい。またアクリロニトリル含有量が18~50質量%範囲にあることが好ましい。また100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)(JIS K6300準拠)が30~150の範囲にあることが好ましい。
本発明の塗料組成物が水系塗料組成物である場合には、従来公知の方法によって調製されたHNBRの水性分散液(ラテックス)が好適に用いられる。
【0014】
[パーフルオロフッ素樹脂]
本発明の塗料組成物においては、パーフルオロフッ素樹脂を含有することにより、塗膜の表面エネルギーが低下して、滑り性が向上し、塗膜の非粘着性を制御することが可能である。また、摩擦係数低減により耐摩耗性も改善されることから、長期にわたって非粘着性が維持されるため、耐久性も向上する。
また後述するように塗膜の形成に際して180℃程度の温度で焼成することにより、フッ素樹脂粒子が形成される塗膜中で溶融することなく、HNBRから成るマトリックス(海)中にフッ素樹脂粒子が島となる海島構造を形成するため、HNBRによる塗膜の伸縮性を損なうことがない。
【0015】
このようなパーフルオロフッ素樹脂としては、これに限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);低分子量ポリテトラフルオロエチレン(低分子量PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等の熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂;を例示することができる。これらの中でも熱溶融性パーフルオロフッ素樹脂、特にFEPを好適に使用することができる。
後述するように、ゴム製シール部材への塗膜の形成には高温処理することが困難であることから、上記フッ素樹脂の中でも融点が低いFEPを使用することにより、ゴム製シール部材に良好な塗膜を形成することができる。またゴム製シール材への密着性に関しても後述する実施例の結果から明らかなように他のフッ素樹脂に比して優れている。
FEPは、テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)のみからなる共重合体であってもよく、TFE、HFP、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に基づく重合単位からなる共重合体であってもよい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体に基づく重合単位としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)などが挙げられる。
FEP中のテトラフルオロエチレン(TFE)の量としては、75~97質量%の範囲にあることが好ましい。
【0016】
熱溶融性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)は、1~100g/10分であることが好ましく、より好ましくは1~80g/10分、さらに好ましくは1~50g/10分であることが望ましい。MFRは、ASTM D1238に従い、メルトインデクサーを用いて温度372℃、荷重5kg重で測定する。
【0017】
フッ素樹脂は、フッ素樹脂の粉体粒子として用いることもできるが、好適にはフッ素樹脂粒子が塗膜中に細かく分散することで優れた非粘着性を得ることができるため、乳化重合により得られた分散液を塗料の原料として混合して用いることが好ましい。フッ素樹脂粒子の平均粒径は、0.5μm以下、特に0.3μm以下であることが好ましい。本発明において、平均粒径はレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0018】
[シランカップリング剤]
本発明の塗料組成物においては、塗膜とゴム製シール部材との接着性を向上させるために、シランカップリング剤を含有することが好適である。
本発明の塗料組成物に使用し得るシランカップリング剤としては、従来公知のものを使用することができ、これに限定されないが、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシジル基含有シランカップリング剤;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン等のビニル基含有シランカップリング剤;γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤;γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカップリング剤等を例示できる。
【0019】
シランカップリング剤は、塗料組成物中の樹脂全体(HNBR及びフッ素樹脂の合計)の固形分量の0.5~3.0質量%、特に0.8~2.5質量%の量で配合することが好ましい。上記範囲よりもシランカップリング剤の量が少ない場合には、シランカップリング剤を配合することにより得られる上述した効果が十分得られず、その一方上記範囲よりもシランカップリング剤の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜の非粘着性が損なわれるおそれがある。
【0020】
[塗料組成物の調製]
本発明の塗料組成物は、水系又は溶剤系塗料組成物、或いは粉体塗料組成物の何れの形態であってもよいが、環境面を考慮して、水系塗料組成物であることが好ましい。また塗料組成物の調製は、これに限定されないが、下記の調製方法を例示できる。
本発明の塗料組成物を水系塗料組成物として調製する場合には、従来公知の方法によって調製されたHNBRの水性分散液(ラテックス)或いはHNBRの前駆体の溶液と、フッ素樹脂粒子の水性分散液或いはその混合液(例えば、既存のフッ素樹脂水系塗料など)とを、HNBRとフッ素樹脂の配合比(固形分質量比)が25:75~55:45となるように混合し、必要によりシランカップリング剤、或いは後述する他の添加剤を更に添加して混合することにより調製することができる。
【0021】
HNBRの水性分散液は、従来公知の方法により調製することができ、これに限定されないが、乳化重合や懸濁重合、或いは高速ホモジナイザー等の乳化装置を用いる方法、反転乳化法、転相温度乳化法、界面活性剤による乳化法等により調製することができる。
HNBRの水性分散液においては、0.01~0.5μmの平均粒径を有するHNBR粒子が、水性分散液中に10~70質量%となるように分散していることが好適である。
フッ素樹脂粒子の水性分散液は、界面活性剤などを用いてフッ素樹脂粒子を水性媒体中に均一且つ安定に分散させることにより調製することができるし、或いはフッ素樹脂を界面活性剤及び開始剤、或いは必要により連鎖移動剤等を用いて水系乳化重合することにより調製することもできる。水系乳化重合により得られた水性分散液から調整された市販のフッ素樹脂水性分散液を使用することもできる。
フッ素樹脂水性分散液においては、0.01~180μmの平均粒径を有するフッ素樹脂粒子が、水性分散液中に10~70質量%となるように分散していることが好適である。特に、0.1~0.3μmの平均粒径を有するフッ素樹脂粒子の水性分散液が好ましく用いられる。
【0022】
本発明の塗料組成物においては、上述したHNBRの水性分散液及びフッ素樹脂の水性分散液はそのまま使用することもできるが、分散性・導電性・発泡防止・耐摩耗改善等、求める特性に応じて通常の塗料に使用される充填材や各種の添加剤を添加することができる。
例えば、界面活性剤(例えばライオン(株)製レオコール(登録商標)、ダウケミカルカンパニー製 TRITON(登録商標)、TERGITOL(登録商標)シリーズ、花王(株)製エマルゲン(登録商標)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系の非イオン系界面活性剤や、ライオン(株)製リパール(登録商標)、花王(株)製エマール(登録商標)、ペレックス(登録商標)などのスルホコハク酸塩、アルキルエーテルスルホン酸ナトリウム塩、硫酸モノ長鎖アルキル系の陰イオン系界面活性剤、ライオン(株)製レオアール(登録商標)、ダウケミカルカンパニー製OROTAN(登録商標)などのポリカルボン酸塩、アクリル酸塩系の高分子界面活性剤などが挙げられる)、造膜剤(例えば、ポリアミドやポリアミドイミド、アクリル、アセテートなどの高分子系造膜剤、高級アルコールやエーテル、造膜効果を有する高分子界面活性剤などが挙げられる)、増粘剤(水溶性セルロース類や、溶剤分散系増粘剤、アルギン酸ソーダ、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、キサンタンガム、ポリアクリル酸、アクリル酸エステルなどが挙げられる)等を加えることもできる。
【0023】
<水性塗料組成物>
本発明の水系塗料組成物は、上記方法により調製されたHNBRの水性分散液、フッ素樹脂の水性分散液あるいはその水系組成液(溶液や既成塗料等)を混合・撹拌することによって調製することができる。
水性塗料組成物においては、環境面及びコストの面から水を主な媒体とすることが好適であるが、塗料組成物の粘度等のレオロジー特性の調整や、充填材の分散性の向上、或いは塗工後の乾燥における溶媒の揮発性を改良して均一な塗膜を形成するという観点から水と相溶性のある極性溶媒を加えることもできる。
【0024】
このような極性溶媒としては、これに限定されるものではないが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチルモルフォリン、N-ホルミルモルフォリン、N-アセチルモルフォリン、N,N’-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルアセトアミド又はN,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン等を例示することができる。
【0025】
<溶剤系塗料組成物>
溶剤系塗料組成物とする場合には、液状のHNBR、HNBR溶剤分散液、フッ素樹脂の溶液、あるいはフッ素樹脂溶剤分散液を調製して、これらを撹拌・混合することにより調製することができ、水性塗料組成物について例示した各種の添加剤を使用することができる。
【0026】
<粉体塗料組成物>
粉体塗料組成物とする場合には、上記方法により調製されたHNBRの水性分散液、フッ素樹脂水性分散液を、撹拌してHNBR及びフッ素樹脂を共凝集させることにより作製できる。具体的には、100~500rpmの撹拌速度で1~60分間撹拌することにより、平均粒径が1~200μmの凝集造粒物を造粒した後、分離・洗浄・乾燥することで、HNBR・フッ素樹脂の一次粒子から成る複合粉末を調製できる。必要に応じて、凝集や造粒過程で生成した粒径が200μm以上の大きな粗粒子を粉砕して細かくすることもできる。
尚、ゴム・フッ素樹脂一次粒子を化学的に凝集させるために、HCl,HSO,HNO,HPO,NaSO,MgCl,CaCl,HCOONa、CHCOOK、(NHCO等の電解物質を配合することが好ましい。更に必要により、水と非相溶の有機溶剤(好ましくは、フッ素系溶剤)を加えることで、凝集された粒子が均一に造粒されるため好ましい。
【0027】
<その他>
本発明の塗料組成物は、求める特性に応じて、各種の有機・無機充填材を加えることもできる。有機充填材としては、例えば、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチックが挙げられる。無機充填材としては、金属粉、金属酸化物(酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等)、ガラス、セラミックス、炭化珪素、酸化珪素、弗化カルシウム、カーボンブラック、グラフアイト、マイカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。充填材の形状としては、粒子状、繊維状、フレーク状など、各種の形状の充填材が使用可能であるが、本発明の塗料組成物に求められる塗膜の延伸性を得るためには、異方性の小さい粒子状の充填材を用いることが好ましく、球状の充填材を用いることがより好ましい。
また上記以外にも、導電性、発泡防止、耐摩耗性改善、耐腐食性改善、着色等、求める特性に応じて、従来より塗料に使用されていた顔料や各種添加剤を配合することができる。
これらの充填材を用いることで、塗膜に各種の特性を与えることができる。
【0028】
また充填材の配合量は、用いる充填材の種類によって一概に規定できないが、塗料組成物の塗料固形分(HNBRとフッ素樹脂、及び充填材の合計量)に対して0.1~10質量%の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも充填材の配合量が少ないと、充填材配合による特性の向上が乏しく、一方上記範囲よりも多いと上記範囲にある場合に比して非粘着性が低下したり、延伸性を悪化させたりするおそれがある。
充填材は、塗料組成物が水系塗料等の液体塗料である場合は、充填材を水等の液媒体に分散させて用いることが好ましい。
【0029】
(コーティング方法)
本発明の塗料組成物は、スプレー塗装、ディップ塗装等、従来公知のコーティング方法によってゴム製シール材表面に塗装することができる。
塗装後、塗工された塗料組成物をHNBRの架橋温度に加熱処理することにより塗膜を形成する。前述した通り、本発明の塗料組成物においては、HNBRの架橋温度が120~200℃と低いことから、ゴム製シール部材に直接塗装して加熱処理を行ってもゴム製シール部材を損なうことなく、均一な塗膜を形成することができる。
尚、本発明の塗料組成物の加熱条件(焼付条件)は、塗料組成物の組成や形態、塗工量、所望の架橋温度等によって異なり、一概に規定することはできないが、HNBRの架橋温度以上の温度で5~120分間加熱することが好ましい。また加熱処理を複数回行うことにより架橋を促進することが可能となり、耐摩耗性を向上することもできる。
また本発明の塗料組成物は、ゴム製シール部材との接着性に優れていることから、プライマー層を設けたり、或いは基材の表面処理等を行う必要がなく、基材表面に直接塗装することができる。
【0030】
(ゴム製シール部材)
前述した通り、 本発明の塗料組成物は、低温での塗膜形成が可能であり、しかも金属に軽く触れた場合にも全く付着しない優れた非粘着性(非タッキング性)を発現することが可能であると共に、ゴム基材に対する優れた密着性及びゴム基材の伸縮に追従可能な伸縮性を有している。そのため、Oリングやオイルシール等のシールリング、ガスケット、バルブシール、或いはアンブレラ型等の逆止弁等の、相手材として金属と接触するゴム製シール部材の表面塗膜として好適に使用できる。
【0031】
ゴム製シール部材は、その種類及び用途により種々のゴム又は熱可塑性エラストマー(これらを総称して「ゴム材料」ということがある)から成形されることができる。
ゴムとしては、これに限定されないが、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン等の飽和ポリオレフィン系ゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、α-オレフィン・ジエン共重合体、エチレン・ジエン共重合体、プロピレン・ジエン共重合体、これらのハロゲン化物、水素添加物等のα-オレフィン・ジエン共重合体系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、これらのハロゲン化物、水素添加物等のジエン重合体系ゴム、メチルシリコーンゴム、ビニル・メチルシリコーンゴム、フェニル・メチルシリコーンゴム等のシリコーン系ゴム、フッ化シリコーンゴム、フッ化ビニリデンゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、四フッ化エチレン・パーフルオロメチルビニルエーテルゴム等のフッ素系ゴム、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・ジエン共重合体系ゴム、ブチルゴム、そのハロゲン化物、水素添加物等のブチル系ゴム、クロロプレン、そのハロゲン化物、水素添加物等のクロロプレン系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン・エチレンオキシドゴム等のエピクロルヒドリン系ゴム、ポリエーテルウレタンゴム、ポリエステルウレタンゴムなどのウレタン系ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、そのハロゲン化物、水素添加物等のアクリロニトリル・ブタジエン系ゴム、天然ゴム等を例示できる。
【0032】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン・ブロック共重合体、これらのハロゲン化物、水素添加物等のポリスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン樹脂とオレフィンゴムのブレンド体、オレフィン樹脂とオレフィン・ジエン共重合体のブレンド体、これらのハロゲン化物、水素添加物などのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が例示される。
【0033】
本発明の塗料組成物は、上記ゴム材料の中でも、特にフッ素ゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM、EPDM)から成るシール部材に対して、優れた密着性を維持しながら金属に対する所望の非粘着性を付与することが可能である。
また、ゴム製シール部材を構成する上記ゴム材料には、使用する材料に応じて、架橋剤、重合開始剤、充填材、顔料、紫外線吸収剤、老化防止剤、発泡剤、消泡剤、酸化防止剤等を従来公知の処方によって添加されていてもよい。
本発明の塗料組成物により形成される塗膜は、耐久性に優れ、非粘着性(非タッキング性)を長時間維持可能であることから、自動車用のシールリング等の表面に塗布する塗料として用いることが好適である。
【0034】
(塗膜)
ゴム製シール部材の表面塗膜の厚みは、シール部材の種類や用途などによって適宜選択することができるが、上述したようなシールリングや逆止弁に非粘着性を付与するために使用する場合には、加熱処理後の膜厚が、5μm以上、特に5~300μmとなるように塗装することが好ましい。膜厚が上記範囲よりも薄い場合には、上記範囲にある場合に比して連続的な塗膜を形成できず、塗膜欠陥を生じるおそれがあると共に、摩耗により塗膜性能(非粘着性(非タッキング性)、滑り性)が早期に失われるおそれがある。その一方膜厚が上記範囲より厚くても非粘着性等の塗膜性能のさらなる向上は望めず、経済性に劣るようになる。
【0035】
ゴム製シール部材表面に形成された塗膜は、金属に対して粘着することのない優れた非粘着性を有している。これによりかかる塗膜が表面に形成されたシール部材は、シール部材として優れたシール性能を発現することが可能となる。
またゴム製シール部材表面に形成された塗膜は、純水の接触角が90度以上、好適には95度以上であり、この点からも高い非粘着性を有していることがわかる。
更にゴム製シール部材表面に形成された塗膜は、ゴム製シール部材に対して優れた接着力(密着力)を有している。これにより、かかる塗膜が表面に形成されたゴム製シール部材は、塗膜が有する優れた非粘着性、耐摩耗性、伸縮性等を長期にわたって安定して具備することが可能となる。尚、ゴム製シール部材に対する剥離強度の測定方法は、後述する。
【実施例0036】
(テストピースの作製)
ゴム製シール部材の性能評価用テストピースとして下記の3種を使用した。
・フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)(サイズ:100mm×50mm×2mmt、株式会社パルテック社製)
・エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)(サイズ:100mm×50mm×2mmt、株式会社パルテック社製)
・ブチルゴム(IIR)シート(サイズ:100mm×50mm×2mmt、株式会社パルテック社製)
【0037】
エアブローを施した上記各基材に、エアースプレー塗装ガン(アネスト岩田(株)製 W-88-10E2 φ1mmノズル(手動ガン))を用いて、エアー圧力2.5~3.0kgf/cmで、後述する実施例及び比較例の塗料組成物を吹き付け、塗装を行った。塗装された液体質量が、基材1枚あたり約0.65g(0.60~0.70g)となるように塗装し、テストピースを作製した。
尚、焼き付け条件は以下のとおりである。
60℃で10分間加熱乾燥した後、別オーブンに移動し120℃で10分間加熱し、更に別オーブンに移動して180℃で10分間加熱架橋処理した後、別オーブンに移動して
120℃で60分間加熱して2次架橋処理を行った。
【0038】
(評価方法)
[塗膜形成状態(目視)]
得られた塗膜を目視にて観察し、クラック等の欠陥の有無を確認した。クラック等の欠陥が発生しなかったものを合格とした。結果を表2に示す。
【0039】
[非粘着性評価(タッキング試験)]
株式会社レスカ製タッキング試験機TAC1000を用いて、室温でφ5mmのプロープ(材質SUS304)を速度5mm/min、荷重100gfで押し当て、100gfの荷重で3秒保持した後、速度10mm/minで引き離した際のプローブが受ける粘着力(ピーク値)(gf)を測定した。結果を表2に示す。
【0040】
[離型性評価(純水接触角(°))]
上記の方法で得られたテストピースを用い、全自動接触角計(協和界面化学株式会社 DM-701)を用いて、測定環境:25℃湿度60%RHにて、純水の接触角(°)(液滴サイズ:約2μL)を測定した。結果を表2に示す。
【0041】
[密着性評価(クロスカット試験)]
上記の方法で得られたテストピースの塗膜表面について、JIS K 5600.5.6に準じて、下記のクロスカット試験を行った。
(1)試験面にカッターナイフを用いて、素地に達する11本の切り傷をつけ100個の碁盤目を作る。カッターガイドを使用し、切り傷の間隔は1mmとした。
(2)碁盤目部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を評価する。
評価結果は、剥離した碁盤目数(個/100個)で表示した。結果を表2に示す。
【0042】
[塗膜延伸性評価]
後述する実施例2~5の塗料組成物を、ブチルゴム(IIR)シートに塗装したテストピースからダンベル型の試験片(ASTM D-2116に準拠)を切り出し、定伸張繰り返し疲労試験機(株式会社マイズ試験機製 MYSS Tester、H9537/H9606)で測定温度:100℃、変異ストローク:11mm(50%延伸)、延伸速度及び戻り速度:11mm/min、延伸回数100回の条件で延伸試験を行った。試験が終わった後、塗膜の状態を確認した。実施例2~5の塗料組成物から成る塗膜は、いずれもクラックや剥離が発生しなかった。
【0043】
[塗膜耐摩耗試験]
アルミニウム基材(JIS A5052準拠品、100mm×50mm×1mmt)の表面を、イソプロピルアルコールで脱脂し、その表面にサンドブラスタ―(株式会社不二製作所製 ニューマブラスター SGF-4(A)S-E566)を用い、#60番アルミナ(昭和電工社製 ショウワブラスター)によるショットブラストを施し粗面化した。
エアー圧力2.5~3.0kgf/cmで、後述する実施例及び比較例の塗料組成物を吹き付け、塗装を行った。塗装された液体質量が、基材1枚あたり約0.65g(0.60~0.70g)となるように塗装し、テストピースを作製した。
尚、焼き付け条件は以下のとおりである。
60℃で10分間加熱乾燥した後、別オーブンに移動し120℃で10分間加熱し、更に別オーブンに移動して180℃で10分間加熱架橋処理した後、別オーブンに移動して120℃で60分間加熱して2次架橋処理を行った。
【0044】
得られたテストピースについて、JIS K5600-5-10(試験片往復法)に準拠し、スガ試験機株式会社製 スガ摩耗試験機 NUS-ISO3を用い、耐摩耗試験を実施した。試験条件は以下の通りである。
荷重:1N
往復回数:100回(ストローク30mm)
使用研磨紙:シリコンカーバイド紙P-400級(幅12mm)
測定前後質量の変化から以下の計算式によりWear Resistance (WR)を求めた。n=3回で測定し、得られた平均値を表2に示す。
【0045】
【数1】
N:往復運動の回数(ds:double strokes)
W1:試験前の質量(mg)
W2:試験後の質量(mg)
S:摩耗部の面積(cm
ρ:供試材の密度(g/cm
実験条件より挿入する値:N:100ds
S:1.2cmx3cm
密度ρについては、HNBRについては平均的な比重値として1.02g/cmを用い、FEP、PFA、及びPTFEについては平均的な比重値として2.15g/cmを用いて、表1に示した組成比から算出した計算値を用いた。
【0046】
(実施例1)
純水2.08gとフッ素樹脂としてFEP水性分散液(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製 テフロン(登録商標)FEP 120-JR、FEP樹脂固形分54.5質量%)203.3gを1リットルのステンレスビーカーに入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌機を用いて200rpmで3分間撹拌してから、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム水性分散液(ラテックス)(HNBR R2230LX、日本ゼオン株式会社製、HNBR樹脂固形分41.3質量%)268.27gを加えて、更に150rpmで5分間撹拌した。濃度25質量%に調整されたカーボンブラック水性分散液7.79gを上記の混合液に入れて250rpmで5分間攪拌した。これに、6%メチルセルロース水溶液16.10gとシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 KBM-603)2.46gを加えて、250rpmで15分間攪拌し、500gの塗料組成物を得た。
【0047】
(実施例2、実施例3、比較例1、比較例2)
塗料中のフッ素樹脂(FEP)とHNBRの組成比を表1に示す割合になるように調整し、濃度も実施例1と同様になるように、実施例1と同様の手順で塗料組成物を作製した。
【0048】
【表1】
【0049】
(実施例4)
フッ素樹脂としてPFA水性分散液(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製 テフロン(登録商標)PFA 334-JR、PFA樹脂固形分60.0質量%)を使用して、実施例3と同様の組成比になるように調整して塗料組成物を作製した。
【0050】
(実施例5)
フッ素樹脂としてPTFE水性分散液(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製 テフロン(登録商標)PTFE 31-JR、PTFE樹脂固形分59.4質量%)を使用して、実施例3と同様の組成比になるように調整して塗料組成物を作製した。
【0051】
(比較例3)
フッ素樹脂を使用せずHNBRのみ使用して、実施例1の塗料組成物と同様の樹脂固形分(フッ素樹脂とHNBRの合計)濃度となるように調整し、実施例1と同様の手順で塗料組成物を作製した。
【0052】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のゴム製シール部材用塗料組成物は、金属に対して優れた非粘着性を長期に亘って付与可能な塗膜を形成可能であり、シールリング、ガスケット、バルブシール、逆止弁などのゴム製シール部材用の塗料として好適に使用することができる。