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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165845
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】多芯式筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/12 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
B43K24/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082384
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 敦
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353HA02
2C353HA07
2C353HE01
2C353HE14
2C353HG03
2C353HJ12
(57)【要約】
【課題】未使用時において、軸筒の先端開口を簡単且つ確実に閉鎖することが可能な多芯式筆記具を提供する。
【解決手段】多芯式筆記具1は、軸筒4と、リフィル5が接続されたノック部材20と、軸筒4の前端開口8を閉鎖可能な閉鎖部材33を備えたシール部材30と、伝達カム40と、を具備し、筆記状態にあるノック部材20を後退させると、伝達カム40を介してシール部材30を前進させて、閉鎖部材33が前端開口8を閉鎖するシール状態とし、且つ、非筆記状態にあるノック部材20を前進させると、伝達カム40を介してシール部材30を後退させて、閉鎖部材33が前端開口8を開放するシール解除状態とするように、伝達カム40が構成されている。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、筆記体が接続されたノック部材と、前記軸筒の前端開口を閉鎖可能な閉鎖部を備えたシール部材と、伝達部材と、を具備し、
筆記状態にある前記ノック部材を後退させると、前記伝達部材を介して前記シール部材を前進させて、前記閉鎖部が前記前端開口を閉鎖するシール状態とし、且つ、非筆記状態にある前記ノック部材を前進させると、前記伝達部材を介して前記シール部材を後退させて、前記閉鎖部が前記前端開口を開放するシール解除状態とするように、前記伝達部材が構成されていることを特徴とする多芯式筆記具。
【請求項2】
前記ノック部材がノックカム部を有し、前記シール部材がシールカム部を有し、前記伝達部材が、前記ノックカム部と協働するノックカム面及び前記シールカム部と協働するシールカム面を有する伝達カムである請求項1に記載の多芯式筆記具。
【請求項3】
前記ノックカム面及び前記シールカム面が、周方向に沿って互いに反対方向に傾斜する斜面である請求項2に記載の多芯式筆記具。
【請求項4】
前記伝達カムが円筒状に形成されている請求項2に記載の多芯式筆記具。
【請求項5】
前記シール部材が前方に付勢されている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多芯式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のリフィルを備えた多芯式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のリフィルを備え、操作部材を回転させることによって所望のリフィルを選択的に出没可能な、いわゆる回転繰り出し式の多芯式筆記具が公知である(特許文献1)。特許文献1の多芯式筆記具のリフィルは、多孔体からなる筆記部と、筆記部にインクを供給するインク貯留部とを有するマーカーである。
【0003】
一般にマーカーペンやサインペン等の多孔体からなる筆記部を有する筆記具では、筆記部からのインクの蒸発に起因する筆記不良が問題となる。そのため、例えばキャップ式の筆記具では、軸筒から突出する筆記部をキャップで覆うことによって、インクの蒸発を防止している。しかしながらキャップ式筆記具は、キャップの着脱を両手で行わなければならず面倒であり、またキャップは筆記具とは別体であることからを紛失する虞もある。
【0004】
キャップ式ではない筆記具として、特許文献1の多芯式筆記具は、3つのリフィルと1つのシール部材とを有している。特許文献1の多芯式筆記具では、操作部材を回転させることによって、3つのリフィルと1つのシール部材とが順次、前進及び後退を繰り返す。3つのリフィルの各々が前進したときは、筆記部が軸筒から突出した筆記状態となる。シール部材が前進したときは、シール部材の先端部が軸筒の先端開口を内側から閉鎖したシール状態となる。それによって、先端開口を介したインクの蒸発を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-210765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の多芯式筆記具では、リフィル及びシール部材を切り替えたいときに操作部材を回転させると、所定のリフィル又はシール部材のいずれか1つが前進する。操作部材をさらに回転させると、前進したリフィル又はシール部材は後退する。前進したリフィル又はシール部材の後退が完了したときには、いずれのリフィル又はシール部材も前進していない安定的な状態となる。したがって使用者は、筆記が終わった後に操作部材を適切な量だけ回転させて意図的にシール部材を前進させ、それによって軸筒の先端開口を閉鎖する必要がある。この操作を失念すると、軸筒の先端開口が開放されたままとなり、先端開口を介したインクの蒸発、ひいては筆記不良の問題が生じる。また、この操作も両手で行わなければならず、面倒である。
【0007】
本発明は、未使用時において、軸筒の先端開口を簡単且つ確実に閉鎖することが可能な多芯式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、軸筒と、筆記体が接続されたノック部材と、前記軸筒の前端開口を閉鎖可能な閉鎖部を備えたシール部材と、伝達部材と、を具備し、筆記状態にある前記ノック部材を後退させると、前記伝達部材を介して前記シール部材を前進させて、前記閉鎖部が前記前端開口を閉鎖するシール状態とし、且つ、非筆記状態にある前記ノック部材を前進させると、前記伝達部材を介して前記シール部材を後退させて、前記閉鎖部が前記前端開口を開放するシール解除状態とするように、前記伝達部材が構成されていることを特徴とする多芯式筆記具が提供される。
【0009】
前記ノック部材がノックカム部を有し、前記シール部材がシールカム部を有し、前記伝達部材が、前記ノックカム部と協働するノックカム面及び前記シールカム部と協働するシールカム面を有する伝達カムであってもよい。前記ノックカム面及び前記シールカム面が、周方向に沿って互いに反対方向に傾斜する斜面であってもよい。前記伝達カムが円筒状に形成されていてもよい。前記シール部材が前方に付勢されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、未使用時において、軸筒の先端開口を簡単且つ確実に閉鎖することが可能な多芯式筆記具を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態による多芯式筆記具のシール状態の斜視図である。
図2図2は、図1の多芯式筆記具の縦断面図である。
図3図3は、軸筒4を省略した図1の多芯式筆記具の斜視図である。
図4図4は、内筒の斜視図である。
図5図5は、ノック部材の側面図である。
図6図6は、シール部材の摺動部材の側面図である。
図7図7は、伝達カムの斜視図である。
図8図8は、ノック部材によるノック操作を段階的に示す側面図である。
図9図9は、図8の各図に対応する別の側面図である。
図10図10は、別のノック部材によるノック操作を段階的に示す側面図である。
図11図11は、図10の各図に対応する別の側面図である。
図12図12は、自動シール機構の動作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0013】
図1は、本発明の実施形態による多芯式筆記具1のシール状態の斜視図であり、図2は、図1の多芯式筆記具1の縦断面図であり、図3は、軸筒4を省略した図1の多芯式筆記具1の斜視図である。
【0014】
多芯式筆記具1は、前軸2及び後軸3を備え且つ全体として円筒状に形成された軸筒4と、軸筒4の後方の内部に配置された内筒10と、筆記部5aを備え且つ軸筒4内に収容された筆記体である2つのリフィル5と、リフィル5の各々の後端部に前端部が接続された2つのノック部材20と、リフィル5の各々が内部を貫通する2つのコイルばね6と、スペーサ7とを有している。リフィル5は、マーカーペンやサインペン等の多孔体からなる筆記部を有するリフィルであるが、ボールペン、万年筆及び筆ペン等のリフィルであってもよい。
【0015】
本明細書中では、多芯式筆記具1の軸線方向において、筆記部5a側を「前」側と規定し、筆記部5aとは反対側を「後」側と規定する。また、「軸線」又は「中心軸線」とは、特に断りのない限り、多芯式筆記具1の中心軸線を意味する。
【0016】
多芯式筆記具1は、軸筒4内に収容された1つのシール部材30と、伝達カム40とをさらに有している。シール部材30は、摺動部材31と、円筒状に形成された接続筒32と、閉鎖部である閉鎖部材33とを有している。摺動部材31の後端部は、コイルばね34によって包囲されている。ノック部材20、シール部材30及び伝達カム40は、自動シール機構を構成する。
【0017】
軸筒4の前端部、具体的には前軸2の前端部には、前端開口8が形成されている。軸筒4の後部の側面、具体的には後軸3の後部の側面には、軸線方向に延びる2つの窓孔9が形成されている。軸筒4の内部に配置されたノック部材20の操作部21は、窓孔9を介して外方に突出している。操作部21を窓孔9に沿って前後移動させることで、対応するリフィル5の筆記部5aが、軸筒4の前端、すなわち前軸2の前端開口8から突出したり、軸筒4内に没入したりする。
【0018】
ここで、筆記部5aが軸筒4の前端開口8から突出した状態を筆記状態と称し、図1及び図2に示されるように、筆記部5aが軸筒4内に没入した状態を非筆記状態と称す。また、多芯式筆記具1が非筆記状態のとき、図2により示されるように、シール部材30の閉鎖部材33が軸筒4の前端開口8を閉鎖しており、この状態をシール状態と称す。他方、多芯式筆記具1が筆記状態のとき、当然のことながら、シール部材30の閉鎖部材33は、軸筒4の前端開口8を閉鎖しておらず、この状態をシール解除状態と称す。多芯式筆記具1は、筆記状態のときはシール解除状態となり、非筆記状態のときはシール状態となるように構成されている。
【0019】
スペーサ7は、全体的に円筒状に形成された部材である。スペーサ7は、2つのリフィル5とシール部材30とが互いに干渉せずに離間させるように構成されている。すなわち、スペーサ7には、軸線方向に延び且つ周方向に沿って等間隔に配置された3つの貫通孔7aが形成されている。3つの貫通孔7aには、対応するリフィル5又はシール部材30が貫通して挿入されている。
【0020】
図4は、内筒10の斜視図である。内筒10は、略円筒状に形成された部材である。内筒10の側面には、軸線方向に延びる2つの第1縦孔11と、軸線方向に延びる1つの第2縦孔12とが形成されている。2つの第1縦孔11の各々と1つの第2縦孔12とは、周方向に沿って等間隔に形成されている。内筒10の内部において、2つの第1縦孔11の各々の周方向における両側には、軸線方向に延びる一対の案内レール13が形成されている。案内レール13の各々は、軸線方向に延びる突起状に形成されている。案内レール13の前端には、前方に面した段部14が形成されている。内筒10の前端部の外周面には、2つの第1縦孔11の前端を画成する第1フランジ部15と、1つの第2縦孔12の前端を画成する第2フランジ部16とが形成されている。第2縦孔12の周方向における両側の内筒10の外面は、軸線方向に延びる2つの縦溝17が形成されている。
【0021】
図5は、ノック部材20の側面図である。ノック部材20は、棒状に形成された部材である。ノック部材20の後端部の側面には、突起状の操作部21が形成されている。ノック部材20の前端部には、リフィル5の後端部の内部に挿入されて、リフィル5と嵌合する第1嵌合部22が形成されている。操作部21に対して両側のノック部材20の側面には、軸線方向に延びる一対のレール突起23が形成されている。操作部21に対して反対側のノック部材20の側面には、前方から、第1突起部24、第2突起部25及び第3突起部26が形成されている。第1突起部24、第2突起部25及び第3突起部26によって、ノック部材20は、内筒10内において安定的に前後移動することができる。操作部21と同じ側のノック部材20の前方の側面には、突起状のノックカム部27が形成されている。ノックカム部27の前面には、第1カム面28が形成されている。ノックカム部27の後面には、内筒10の第1フランジ部15の前端面に係止するように構成された第1係止面29が形成されている。
【0022】
図6は、シール部材30の摺動部材31の側面図である。摺動部材31は、全体的に円柱状に形成された部材である。摺動部材31の前端部には、接続筒32の後端部の内部に挿入されて、接続筒32と嵌合する第2嵌合部35が形成されている。摺動部材31の後端部はより小径に形成され、それによって、後方に面した支持段部36が形成されている。摺動部材31の側面には、突起状のシールカム部37が形成されている。シールカム部37の前面には、第2カム面38が形成されている。
【0023】
図2を参照すると、摺動部材31の前端部に嵌合する接続筒32の前端部の内部には、閉鎖部材33の後端部が嵌合によって接続されている。閉鎖部材33は、全体的に円柱状に形成された部材である。閉鎖部材33の前端部は、半球状に形成されている。円柱又は半球の径は、軸筒4の前端開口8の径よりも僅かばかり大きく設定されている。したがって、閉鎖部材33が前端開口8を貫通して突出することはない。
【0024】
図7は、伝達カム40の斜視図であって、図7(A)及び図7(B)は、それぞれ異なる角度から伝達カム40を見た斜視図である。伝達カム40は、全体的に円筒状に形成された部材である。伝達カム40の側面には、後方に向かって延びる第1突片41及び第2突片42が画成されている。第1突片41は、伝達カム40の部材の厚み幅の面によって画成される、第1ノックカム面43及びシールカム面44を有している。第2突片42は、伝達カム40の部材の厚み幅の面によって画成される厚み幅の面によって画成される第2ノックカム面45を有している。第1ノックカム面43及びシールカム面44は、周方向に沿って互いに反対方向に傾斜する斜面であり、それによって第1突片41は、山型に形成されている。第2ノックカム面45は、周方向においてシールカム面44側に位置し、且つ、シールカム面44と逆方向に傾斜する斜面、言い換えると第1ノックカム面43と同一方向に傾斜する斜面である。第1ノックカム面43及び第2ノックカム面45は、同一の形状及び傾斜を有し、前端部は、縦面46に接続されている。シールカム面44の傾斜は、第1ノックカム面43の傾斜及び第2ノックカム面45の傾斜と比較して、より緩やかである。伝達カム40の環状の前端面には、周方向に沿って等間隔に配置された6つの第1摺動突起47が形成されている。第1摺動突起47の近傍の伝達カム40の外周面には、周方向に沿って等間隔に配置された3つの第2摺動突起48が形成されている。
【0025】
次に、主に図2を参照しながら、多芯式筆記具1の上述した各部材の配置について説明する。
【0026】
内筒10は、後軸3の後方の内部に配置される。具体的には、内筒10は、後軸3の内周面に設けられ且つ軸線方向に延びて内筒10の縦溝17と相補的な2つの突起(図示せず。)が対応する縦溝17に受容されることによって、後軸3の内部において内筒10が位置決めされる。内筒10の内部には、2つの第1縦孔11の各々に対応する位置に2つのノック部材20が配置され、且つ、第2縦孔12に対応する位置に摺動部材31がコイルばね34と共に配置される。ノック部材20の操作部21の各々は、対応する内筒10の第1縦孔11及び軸筒4の窓孔9を介して径方向外方へ突出している。操作部21は、窓孔9及び第1縦孔11に規制された範囲で、ノック部材20が、軸線方向に沿って前後移動することができる。
【0027】
スペーサ7は、スペーサ7の外周面が後軸3の内周面に嵌合することによって、軸筒4に対して固定されている。上述したように、2つのリフィル5とシール部材30とがスペーサ7を貫通するように配置される。2つのリフィル5の後端部には、上述したように、ノック部材20が接続されている。リフィル5が貫通するコイルばね6の一端は、対応するスペーサ7の貫通孔7aの周囲の部分によって支持される。コイルばね6によって、リフィル5及びノック部材20は、後方に付勢されている。コイルばね34は、シール部材30の摺動部材31の後端部を包囲するように、内筒10内に配置される。コイルばね34の一端は、摺動部材31の支持段部36によって支持され、コイルばね34の他端は、内筒10の後端面の内側によって支持される。コイルばね34によって、摺動部材31、ひいてはシール部材30は、前方に付勢されている。
【0028】
軸筒4内において、伝達カム40は、スペーサ7のすぐ後方に配置される。すなわち、伝達カム40の環状の前端面はスペーサ7の環状の後端面に対向するように配置される。伝達カム40は、軸筒4内において、スペーサ7に対して摺接しながら中心軸線回りに回転可能に構成されている。このとき、伝達カム40とスペーサ7との間の摺動抵抗を低減させるように、スペーサ7の後端面と摺接する第1摺動突起47は、円筒面状に形成されている。また、伝達カム40と、伝達カム40を包囲する軸筒4、具体的には後軸3との間の摺動抵抗を低減させるように、後軸3の内周面と摺接する第2摺動突起48は、円筒面状に形成されている。
【0029】
伝達カム40は、2つのノック部材20及び1つの摺動部材31を包囲している。2つのノック部材20のノックカム部27の各々は、対応する第1ノックカム面43又は第2ノックカム面45と協働するように配置される。具体的には、ノックカム部27の第1カム面28と、第1ノックカム面43又は第2ノックカム面45とが摺接するように動作する。摺動部材31のシールカム部37は、シールカム面44と協働するように配置される。具体的には、シールカム部37の第2カム面38と、シールカム面44とが摺接するように動作する。
【0030】
ところで、多芯式筆記具1では、公知のノック機構を備え、ノック部材20のうちの1つを前方に押圧するノック操作によって、筆記状態と非筆記状態とが選択的に切り替えられる。すなわち、ノック部材20の各々は、対応する案内レール13間において案内レール13に沿って前後方向にスライド可能に配置される。ノック部材20及びこれに接続されたリフィル5は、コイルばね6によって後方へ付勢されている。
【0031】
非筆記状態から筆記状態に切り替えるためには、所望のリフィル5が接続されたノック部材20を、ノック操作によってコイルばね6の付勢力に抗して前方に向かってスライドさせる。ノック部材20を案内レール13のレール長を越えてスライドさせると、ノック部材20は案内レール13の先端から離脱する。このとき、ノック部材20は、中心軸線に直交する方向、すなわち径方向内方に軸筒4内において入り込む。次いで、コイルばね6の付勢力によって、ノック部材20の後端部が案内レール13の前端に設けられた段部14に係合すると、リフィル5の筆記部5aが軸筒4の前端開口8から突出し、多芯式筆記具1は筆記状態となる。
【0032】
他方、筆記状態から非筆記状態に切り替えるためには、筆記状態のリフィル5に対応するノック部材20以外の別のノック部材20を、コイルばね6の付勢力に抗して前方に向かってスライドさせる。別のノック部材20は、案内レール13に沿ってスライドする過程において、筆記状態にある当該ノック部材20に衝突して当該ノック部材20を径方向外方へ押し出し、案内レール13との係合を解除する。その結果、コイルばね6の付勢力によって、当該ノック部材20に接続されたリフィル5は後退して筆記部5aが軸筒4内に没入し、多芯式筆記具1は非筆記状態となる。
【0033】
多芯式筆記具1では、自動シール機構を有することによって、筆記状態にあるノック部材20を後退させると、伝達カム40を介してシール部材30を前進させて、閉鎖部材33が軸筒4の前端開口8を閉鎖するシール状態となり、非筆記状態にあるノック部材20を前進させると、伝達カム40を介してシール部材30を後退させて、閉鎖部材33が軸筒4の前端開口8を開放するシール解除状態となる。
【0034】
図8乃至図12を参照しながら、多芯式筆記具1の自動シール機構の動作について説明する。図8は、ノック部材20Aによるノック操作を段階的に示す側面図であり、図9は、図8の各図に対応する別の側面図であり、図10は、別のノック部材20Bによるノック操作を段階的に示す側面図であり、図11は、図10の各図に対応する別の側面図である。図8乃至図11において、軸筒4は省略されている。図12は、自動シール機構の動作を説明する模式図である。
【0035】
図8乃至図11では、図8に示されるように、図中、多芯式筆記具1の前端部を下方に配置し且つ2つのノック部材20に正対するように配置したとき、左側のノック部材をノック部材20Aとし、右側のノック部材をノック部材20Bとして説明する。ノック部材20Aはノックカム部27Aを有し、ノック部材20Bはノックカム部27Bを有している。ノックカム部27Aは、伝達カム40の第1ノックカム面43と協働するように配置され、ノックカム部27Bは、伝達カム40の第2ノックカム面45と協働するように配置される。図12では、伝達カム40を周方向に展開したものに対して、ノック部材20Aのノックカム部27A、ノック部材20Bのノックカム部27B及びシールカム部37の位置を示している。
【0036】
図8(A)乃至図8(D)の各々は、非筆記状態(図8(A))からノック部材20Aをノック操作することによって筆記状態(図8(D))に遷移するときの一連の動作を示しており、図9(A)乃至図9(D)の各々は、対応する図8(A)乃至図8(D)を中心軸線に対して反対側から見た図である。図10(A)乃至図10(D)の各々は、非筆記状態(図10(A))からノック部材20Bをノック操作することによって筆記状態(図10(D))に遷移するときの一連の動作を示しており、図11(A)乃至図11(D)の各々は、対応する図10(A)乃至図10(D)を中心軸線に対して反対側から見た図である。
【0037】
図9(A)に示されるように、摺動部材31はコイルばね34によって前方に付勢されていることから、シールカム部37も前方に付勢されている。このとき、多芯式筆記具1は、シール部材30の閉鎖部材33が軸筒4の前端開口8を閉鎖したシール状態となっている。コイルばね34による付勢力は、シールカム部37を介して伝達カム40へと伝達され、伝達カム40を回転させるように作用している。具体的には、シールカム面44が、シールカム部37の第2カム面38を介してコイルばね34の付勢力から周方向の分力を受け、伝達カム40を回転させるように作用している。伝達カム40の回転は、第1ノックカム面43及び第2ノックカム面45が、対応するノック部材20Aのノックカム部27A及びノック部材20Bのノックカム部27Bに当接することで規制されている(図8(A))。したがって、非筆記状態(図8(A)及び図9(A))では、ノックカム部27A、ノック部材20B及びシールカム部37は、それぞれ第1ノックカム面43、第2ノックカム面45及びシールカム面44に当接している。なお、図12(A)は、多芯式筆記具1の非筆記状態であり、図8(A)、図9(A)、図10(A)及び図11(A)に対応する状態を示している。
【0038】
非筆記状態(図8(A)及び図9(A))からノック部材20Aをノック操作すると、ノック部材20Aの前進に伴い、ノックカム部27Aが伝達カム40の第1ノックカム面43と協働して、伝達カム40を回転させる。具体的には、第1ノックカム面43が、ノックカム部27Aの第1カム面28を介してノック操作による押圧力から周方向の分力を受け、伝達カム40を回転させる(図8(B))。なお、このときの回転方向は、多芯式筆記具1を中心軸線に沿って後方から見て時計回りであり、これを第1方向と称す。
【0039】
対応する図9(B)を参照すると、伝達カム40の回転によって、シール部材30が後退する。すなわち、シールカム部37が、シールカム面44を介して伝達カム40の回転力から軸線方向の分力を受け、コイルばね34の付勢力に抗してシール部材30を後退させる。シール部材30の後退によって、閉鎖部材33によって閉鎖されていた軸筒4の前端開口8は開放される。
【0040】
さらにノック部材20Aのノック操作を継続すると、ノックカム部27Aが第1ノックカム面43を越えて前進する(図8(C))。その結果、伝達カム40に加わっていたノック操作による押圧力が失われる一方で、上述したようにコイルばね34の付勢力によって、シールカム部37を介して伝達カム40を第1方向とは反対の第2方向に回転させる周方向の分力が作用する(図9(C))。しかしながら、第1ノックカム面43を越えたノックカム部27Aの周方向の側面が、伝達カム40の縦面46に当接することによって、伝達カム40の第2方向への回転が規制される。
【0041】
さらにノック部材20Aのノック操作を継続すると、上述したようにノック部材20の後端部が案内レール13の前端に設けられた段部14に係合し、多芯式筆記具1は、筆記状態と共にシール解除状態となる(図8(D)及び図9(D))。なお、図12(B)は、図12(A)に示された状態からノック部材20Aをノック操作した筆記状態であり、図8(D)及び図9(D)に対応する状態を示している。
【0042】
図8(D)及び図9(D)に示された状態から、ノック部材20Bを所定の距離だけスライドさせると、上述したようにノック部材20Bが軸筒4の内部においてノック部材20Aの係合を解除し、コイルばね6の付勢力によってノック部材20Aは後退する。ノック部材20Aの後退によって、コイルばね34の付勢力による伝達カム40の第2方向への回転の規制が解除され、伝達カム40が第2方向に回転すると共に、シール部材30、ひいてはシールカム部37が前進する。その結果、多芯式筆記具1は、再び非筆記状態になると共にシール状態となる(図8(A)、図9(A)及び図12(A))。
【0043】
一方、非筆記状態(図10(A)及び図11(A))からノック部材20Bをノック操作すると、ノック部材20Bの前進に伴い、ノックカム部27Bが伝達カム40の第2ノックカム面45と協働して、伝達カム40を回転させる。具体的には、第2ノックカム面45が、ノックカム部27Bの第1カム面28を介してノック操作による押圧力から周方向の分力を受け、伝達カム40を第1方向に回転させる(図10(B))。
【0044】
対応する図11(B)を参照すると、伝達カム40の回転によって、シール部材30が後退する。すなわち、シールカム部37が、シールカム面44を介して伝達カム40の回転力から軸線方向の分力を受け、コイルばね34の付勢力に抗してシール部材30を後退させる。シール部材30の後退によって、閉鎖部材33によって閉鎖されていた軸筒4の前端開口8は開放される。
【0045】
さらにノック部材20Bのノック操作を継続すると、ノックカム部27Bが第2ノックカム面45を越えて前進する(図10(C))。その結果、伝達カム40に加わっていたノック操作による押圧力が失われる一方で、上述したようにコイルばね34の付勢力によって、シールカム部37を介して伝達カム40を第2方向に回転させる周方向の分力が作用する(図11(C))。しかしながら、第2ノックカム面45を越えたノックカム部27Bの周方向の側面が、伝達カム40の縦面46に当接することによって、伝達カム40の第2方向への回転が規制される。
【0046】
さらにノック部材20Bのノック操作を継続すると、上述したようにノック部材20の後端部が案内レール13の前端に設けられた段部14に係合し、多芯式筆記具1は、筆記状態と共にシール解除状態となる(図10(D)及び図11(D))。なお、図12(C)は、図12(A)に示された状態からノック部材20Bをノック操作した筆記状態であり、図10(D)及び図11(D)に対応する状態を示している。
【0047】
図10(D)及び図11(D)に示された状態から、ノック部材20Aを所定の距離だけスライドさせると、上述したようにノック部材20Aが軸筒4の内部においてノック部材20Bの係合を解除し、コイルばね6の付勢力によってノック部材20Bは後退する。ノック部材20Bの後退によって、コイルばね34の付勢力による伝達カム40の第2方向への回転の規制が解除され、伝達カム40が第2方向に回転すると共に、シール部材30、ひいてはシールカム部37が前進する。その結果、多芯式筆記具1は、再び非筆記状態になると共にシール状態となる(図10(A)、図11(A)及び図12(A))。
【0048】
以上より、多芯式筆記具1によれば、一般的な多芯式筆記具において筆記状態及び非筆記状態を切り替えるという単なるノック操作をするだけで、シール解除状態及びシール状態を自動的に切り替えることができる。しかもこのノック操作は、多芯式筆記具1を一方の手で把持した状態で行うことができる。したがって、多芯式筆記具1の未使用時において、軸筒4の前端開口8を簡単且つ確実に閉鎖することが可能となり、筆記部からのインクの蒸発を防止することができる。
【0049】
軸筒4の前端開口8からのインクの蒸発を防止することに加え、後軸3の窓孔9からの蒸発を防止するため、多芯式筆記具1は付加的なシール部材を有していてもよい。付加的なシール部材は、例えば、スペーサ7に設けられた3つの貫通孔7aと、リフィル5又はシール部材30との間の環状の間隙からの蒸発を防止するようにシールするOリングである。
【0050】
上述した実施形態において、多芯式筆記具1は2つのリフィル5を有していたが、3つ以上のリフィル5を有していてもよい。この場合、リフィル5の数に対応して伝達カム40が構成される。具体的には、伝達カム40は、リフィル5の各々に対応し且つ互いに同一方向に傾斜する斜面であるノックカム面を有するように構成される。また、多芯式筆記具1は、1つのリフィル5のみを有していてもよい。この場合、シール部材30も含めて「多芯式」筆記具とし、この場合、当該筆記具は、いわゆるサイドノック式の筆記具であってもよく、ノック部材を後端部に配置して後端ノック式の筆記具としてもよい。
【0051】
上述した実施形態において、伝達部材として伝達カムを使用したが、筆記状態にあるノック部材を後退させると、当該伝達部材を介してシール部材を前進させて、閉鎖部が前端開口を閉鎖するシール状態とし、且つ、非筆記状態にあるノック部材を前進させると、当該伝達部材を介してシール部材を後退させて、閉鎖部が前端開口を開放するシール解除状態とするように構成されている限りにおいて、例えばノック部材の前後移動と連動するリンク機構であってもよい。この場合、シール部材を前方に付勢するコイルばねを省略してもよい。シール部材を前方に付勢するコイルばねは、板ばね等、その他弾性部材であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 多芯式筆記具
4 軸筒
5 リフィル
5a 筆記部
7 スペーサ
8 前端開口
9 窓孔
10 内筒
20 ノック部材
21 操作部
27 ノックカム部
30 シール部材
31 摺動部材
33 閉鎖部材
37 シールカム部
40 伝達カム
43 第1ノックカム面
44 シールカム面
45 第2ノックカム面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
図12