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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165848
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241121BHJP
   B62D 7/08 20060101ALI20241121BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D7/08 A
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082392
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】野々口 裕三
(72)【発明者】
【氏名】河田 岬大
(72)【発明者】
【氏名】永野 貴宣
(72)【発明者】
【氏名】大野 佑太
【テーマコード(参考)】
3D034
3D232
【Fターム(参考)】
3D034BA08
3D034BB01
3D034BC02
3D034BC22
3D034BC23
3D034BD02
3D034BD03
3D034BD06
3D034BD07
3D232CC27
3D232CC30
3D232DA03
3D232DA09
3D232DA15
3D232DA19
3D232DA24
3D232DA33
3D232DA36
3D232DA43
3D232DA64
3D232DA99
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD15
3D232EB08
3D232EC30
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】操舵中点を正確に更新する。
【解決手段】転舵輪230を旋回させるリンク機構110の形態の変化により車両200を直進させるための操舵角である操舵中点にずれが生じるステアリングシステム100であって、リンク機構110に接続されるシャフト243の回転角である操舵角を取得する操舵角取得部131と、路面301に対する車両200の上下方向の動作に関する動作情報を取得する動作情報取得部132と、所定の走行条件を満たした時点の操舵角を、中点一時値とする中点演算部133と、中点一時値に基づいて操舵中点を更新する操舵中点更新部134と、動作情報に基づき、車両200に所定の振動が発生しているかどうかを判定する振動判定部135と、を備え、振動判定部135は、車両200が振動していると判定した場合、操舵中点の更新に関する処理を中断させる中断情報を出力するステアリングシステム100。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪を旋回させるリンク機構の形態の変化により車両を直進させるための操舵角である操舵中点にずれが生じるステアリングシステムであって、
前記リンク機構に接続されるシャフトの回転角である操舵角を取得する操舵角取得部と、
路面に対する車両の上下方向の動作に関する動作情報を取得する動作情報取得部と、
所定の走行条件を満たした時点の前記操舵角を、中点一時値とする中点演算部と、
前記中点一時値に基づいて操舵中点を更新する操舵中点更新部と、
前記動作情報に基づき、前記車両に所定の振動が発生しているかどうかを判定する振動判定部と、を備え、
前記振動判定部は、
前記車両が振動していると判定した場合、操舵中点の更新に関する処理を中断させる中断情報を出力する
ステアリングシステム。
【請求項2】
前記車両が備えるサスペンションのストローク量を検出するストローク量検出器を備え、
前記動作情報取得部は、
前記ストローク量検出器から前記動作情報を取得する
請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
車体の上下方向の加速度を検出する加速度検出器を備え、
前記動作情報取得部は、
前記加速度検出器から前記動作情報を取得する
請求項1または2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記動作情報取得部は、
前記車両の周辺の対象物の状態を示す状態情報を取得し、前記状態情報から前記動作情報を演算により取得する
請求項1または2に記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵輪を旋回させるリンク機構の形態の変化により車両を直進させるための操舵中点にずれが生じるステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を直進走行させる時のステアリングホイールの回転角を測定する舵角センサの基準値(車両のイグニッションオン時などに設定される)からの、操舵方向および操舵量に対応する相対角度を操舵中点(例えば0°の点)として設定している。この操舵中点と実際に車両が直進走行するための相対舵角とは、様々な要因によってずれることが知られている。このようなずれが生じていると、自動運転時において、直進走行させるための指示に対応して操舵中点になるようにステアリングホイールを回転させても直進走行から僅かにずれて走行することになる。
【0003】
このずれを解消するため操舵中点を適宜更新することによって、実際の直進走行に合致させる状態を維持する試みが行われている。例えば、特許文献1に記載の技術では、運転支援に用いられる操舵中点の更新を、車両の挙動への影響が少ないと考えられるタイミングで一律に実行させている。具体的には、車両が略直進しているときに、操舵中点の更新を許可するように制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-146863号公報
【特許文献2】特開2013-203256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、発明者は、特許文献2に記載のようなピットマンアーム式などのリンク機構を搭載した車両では、特許文献1に記載の技術のように操舵中点を適宜更新しても、設定された操舵中点と実際に車両が直進走行するための相対舵角とのずれを修正できないおそれがあることを見出した。具体的には、路面凹凸の激しい道路、傾斜変動の大きい道路など路面状態が悪い道路などの悪路の走行時にサスペンションの伸縮によって車軸に上下の動きが発生すると、ステアリングホイールの操舵角に変化が無くても、操舵輪角(車輪の転舵角)が変わる、すなわち、操舵角と操舵輪角との関係が常に一定とならない。これは、逆についても同様で、車両が直進するための操舵角が一時的に変化する事態が起こり、そのときの相対舵角を操舵中点として設定してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記発明者の知見、および課題に鑑みなされたものであり、リンク機構の形態の変化により操舵中点と実際に車両が直進走行するための相対舵角に一時的なずれが生じても操舵中点を実際の直進走行に精度良く合致させることができるステアリングシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリングシステムは、転舵輪を旋回させるリンク機構の形態の変化により車両を直進させるための操舵角である操舵中点にずれが生じるステアリングシステムであって、前記リンク機構に接続されるシャフトの回転角である操舵角を取得する操舵角取得部と、路面に対する車両の上下方向の動作に関する動作情報を取得する動作情報取得部と、所定の走行条件を満たした時点の前記操舵角を、中点一時値とする中点演算部と、前記中点一時値に基づいて操舵中点を更新する操舵中点更新部と、前記動作情報に基づき、前記車両に所定の振動が発生しているかどうかを判定する振動判定部と、を備え、前記振動判定部は、前記車両が振動していると判定した場合、操舵中点の更新に関する処理を中断させる中断情報を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一時的な操舵中点のずれが頻発する状態を車両の振動に基づき判断し、所定の振動が生じている場合は、操舵中点の更新に関する処理を中断させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ステアリングシステムを備えた車両を簡易的に示す図である。
図2】ステアリングシステムが備える操舵中点設定装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】操舵中点設定装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図4】操舵中点設定装置の機能構成の別例を示すブロック図である。
図5】操舵中点設定装置の処理の流れの別例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るステアリングシステムの実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するために一例を挙示するものであり、本発明を限定する主旨ではない。例えば、以下の実施の形態において示される形状、構造、材料、構成要素、相対的位置関係、接続状態、数値、数式、方法における各段階の内容、各段階の順序などは、一例であり、以下に記載されていない内容を含む場合がある。また、平行、直交などの幾何学的な表現を用いる場合があるが、これらの表現は、数学的な厳密さを示すものではなく、実質的に許容される誤差、ずれなどが含まれる。また、同時、同一などの表現も、実質的に許容される範囲を含んでいる。
【0011】
また、図面は、本発明を説明するために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる。また、図中に示す場合があるX軸、Y軸、Z軸は、図の説明のために任意に設定した直交座標を示している。つまりZ軸は、鉛直方向に沿う軸とは限らず、X軸、Y軸は、水平面内に存在するとは限らない。
【0012】
また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として包括的に説明する場合がある。また、以下に記載する内容の一部は、本発明に関する任意の構成要素として説明している。
【0013】
図1は、ステアリングシステム100を備えた車両200を簡易的に示す図である。車両200は、エンジン、電動モーターなどにより路面301上を走行する移動体である。具体的に車両200としては、積載物の量により車重が大きく変化するトラック、バス、農業機械、建設機械などを例示することができる。本実施の形態の場合、車両200は、サスペンション220と、転舵輪230と、ステアリングシステム100と、を備えている。
【0014】
サスペンション220は、転舵輪230に生じる振動や衝撃を吸収し、車体210の姿勢を安定させ、走行性能を向上させる懸架装置である。例えば、サスペンション220は、コイルスプリング、ダンパー、アーム、スタビライザーバー、ブッシュなどの部品から構成され、走行中の車両200が路面301の凹凸や障害物に当たると、サスペンション220が転舵輪230に発生する力を吸収し、車体210の揺れを抑制する。また、サスペンション220は、車重に応じて縮み、縮んだ状態で機能する。つまり、サスペンション220により路面301に対する車体210の高さ位置hは、車重が重くなると低くなり、車重が軽くなると高くなる。
【0015】
ステアリングシステム100は、転舵輪230を転舵することにより車両200の進行方向を変える装置である。手動運転の場合、ステアリングシステム100によって、運転者がステアリングホイールなどの操舵部材241を操作して転舵輪230を任意の方向に旋回させることができる。また、操舵部材241の操作に伴い、電動アクチュエータ242から補助トルクをシャフト243に入力してもよい。さらに、電動アクチュエータ242の動作に応じて比較的強い補助トルクを油圧機構244からシャフト243に入力してもよい。自動運転の場合、ステアリングシステム100は、上位のECU(Electronic Control Unit)から送信される転舵情報に基づき、電動アクチュエータ242、および油圧機構244の少なくとも一方を駆動してシャフト243を回転させ、転舵輪230を転舵情報に応じて転舵する。
【0016】
ステアリングシステム100は、リンク機構110と、操舵角検出器120と、操舵中点設定装置130と、を備えている。
【0017】
リンク機構110は、転舵輪230を転舵させるための複数の機械要素が組み合わされた機構である。リンク機構110の種類は、限定されるものではないが、本実施の形態の場合、リンク機構110は、ピットマンアーム111と、ドラッグリンク112と、を備えている。
【0018】
ピットマンアーム111は、シャフト243の回転を伝達するステアリングボックス245(ギアボックス)の出力シャフトに取り付けられ、ステアリングボックス245が出力する回転を受け取る。ピットマンアーム111は、シャフト243の回転に伴って回転揺動することでドラッグリンク112を延在方向に往復動させる。ドラッグリンク112は、転舵輪230のホイールに取り付けられるタイロッド(不図示)の一端に取り付けられ、タイロッドを介して転舵輪230を旋回させる。ピットマンアーム111とドラッグリンク112の組み合わせからなるリンク機構110は、強いトルクを伝達することができ、特にバスやトラックなどの大型車両に用いられる場合が多い。
【0019】
操舵角検出器120は、ステアリングボックス245を介してリンク機構110に接続されるシャフト243の回転角を検出するセンサである。操舵角検出器120の種類は、特に限定されるものではないが、例えばレゾルバ、ロータリーエンコーダなどを例示することができる。
【0020】
図2は、ステアリングシステム100が備える操舵中点設定装置130の機能構成を示すブロック図である。操舵中点設定装置130は、車両200を直進させるための操舵角である操舵中点を設定して出力する装置である。操舵中点設定装置130は、プロセッサを備え、プログラムをプロセッサに処理させることにより実現する処理部として操舵角取得部131と、動作情報取得部132と、中点演算部133と、操舵中点更新部134と、振動判定部135と、を備えている。本実施の形態の場合、操舵中点設定装置130は、車両直進判定部137と、操舵判定部138と、を備えている。
【0021】
操舵角取得部131は、リンク機構110に接続されるシャフト243の回転角である操舵角(相対舵角)を取得する。本実施の形態の場合、操舵角取得部131は、シャフト243に取り付けられた操舵角検出器120からの信号に基づき相対舵角を取得している。例えば、操舵角取得部131は、車両200を直進走行させる相対舵角である操舵中点を0°とし、運転者から見て操舵部材241を時計回り(右回り)に回転させた場合を正、反時計回り(左回り)を負として操舵角を取得しており、絶対値的な回転角、および操舵方向を含む相対舵角を取得している。なお、操舵角取得部131が取得する回転角の正負は、逆でもかまわない。自動運転の場合、操舵角取得部131は、電動アクチュエータ242により回転するシャフト243の回転角を読み取った操舵角検出器120からの信号に基づき操舵角を取得する。自動運転の場合も手動運転と同じ操舵方向を含む相対舵角を取得する。
【0022】
動作情報取得部132は、路面301に対する車両200の上下方向の動作に関する動作情報を取得する。ここで、上下方向とは厳密な鉛直方向という意味ではなく、車両200の天井からシャシーに向かう任意の方向を含むものである。動作情報の取得方法は、限定されるものではない。例えば動作情報の取得方法1として、ステアリングシステム100は、車両200が備えるサスペンション220のストローク量を検出するストローク量検出器221を備え、動作情報取得部132は、ストローク量検出器221が出力するサスペンション220のストローク量を動作情報として取得してもよい。なお、ストローク量は、転舵輪230に接続されるサスペンション220のストローク量ではなく、従動輪に接続されるサスペンション(不図示)のストローク量でもかまわない。また、4輪にそれぞれ接続されるサスペンションのストローク量を取得し、これらを統計的に処理して得られた値を動作情報としてもかまわない。
【0023】
また、動作情報の取得方法2としては、ステアリングシステム100は、車体210の上下方向の加速度を検出する加速度検出器222を備え、動作情報取得部132は、加速度検出器222が出力する上下方向の加速度を動作情報として取得してもかまわない。
【0024】
また、動作情報の取得方法3としては、ステアリングシステム100は、車両200周辺の対象物の状態を示す状態情報を取得し、所得した状態情報から動作情報を演算により取得してもかまわない。状態情報とは、例えば自動運転や衝突防止などに用いられるLiDAR(Light Detection And Ranging)、レーン認識用の前方カメラ、3Dカメラなどからの情報に基づき、画像解析により得られる車両200の周辺に存在する特定の対象物の上下動を例示することができる。動作情報取得部132は、得られた上下動が車体210の上下動とみなして動作情報として取得してもよい。
【0025】
なお、動作情報取得部132は、取得方法1、取得方法2、および取得方法3のいずれか一つを用いて動作情報を取得してもよく、二つの方法の組み合わせ、または三つの方法の組み合わせにより動作情報を取得してもかまわない。
【0026】
振動判定部135は、動作情報取得部132が取得した動作情報に基づき、車両200に所定の振動が発生しているかどうかを判定する。振動判定部135の振動判定方法は、限定されるものではない。本実施の形態の場合、動作情報から得られるサスペンション220の伸縮の振動、上下加速度から得られる車体210の振動、および車外の対象物の振動から算出される車体210の振動の少なくとも一つの振幅を閾値判断し、所定の振幅閾値以下の状態が所定の時間閾値を超えると振動判定部135は、振動なしと判断する。また、振幅が振幅閾値以上になると振動判定部135は、振動ありと判断する。振動判定部135は、振動ありと判定した場合、操舵中点の更新に関する処理を中断させる中断情報を出力する。また、振動なしと判定した場合続行情報を出力する。なお中断情報、続行情報に基づく処理については後述する。
【0027】
車両直進判定部137は、車両200が備えるセンサから取得した走行情報に基づき、車両200が直進走行している直進状態か否かを判定する。車両直進判定部137の判定方法は、限定されるものではない。本実施の形態の場合、センサから取得する走行情報として、例えば、左右の転舵輪230、および左右の従動輪のそれぞれの車輪速、車両200のヨーレート、および車両200のロールレートの少なくとも一つを挙示することができる。具体的には、4輪の車輪速が所定の車輪速範囲内である場合、ヨーレートが0または0近傍の場合、ロールレートが0または0近傍の場合、のいずれか1つ以上を満たす場合に直進状態であると判定する。
【0028】
操舵判定部138は、ステアリングシステム100から得られる操舵情報に基づき、ステアリングシステム100が操舵されている操舵状態か否かを判定する。操舵状態とは、運転者が操舵部材241を操舵している状態、および自動運転により電動アクチュエータ242からシャフト243にトルクが加えられている状態を含む。操舵状態か否かの判定方法は、限定されるものではない。本実施の形態の場合、シャフト243に発生するトルクを検出するトルクセンサ(不図示)から取得するトルク、操舵角検出器120から取得する操舵速度、電動アクチュエータ242から取得するアシスト電流(自動運転の場合、操舵電流)などを操舵情報として挙示することができる。具体的には、トルクが0または0近傍とはみなせない場合、操舵速度が0または0近傍とはみなせない場合、アシスト電流(操舵電流)が0または0近傍とはみなせない場合、のいずれか1つ以上を満たす場合に操舵状態と判定する。それ以外は、非操舵状態と判定する。
【0029】
中点演算部133は、所定の走行条件を満たした時点において操舵角取得部131が取得した操舵角を演算により中点一時値とする。本実施の形態の場合、車両直進判定部137が直進走行していると判定し、かつ操舵判定部138が非操舵状態であると判定している場合において操舵角取得部131が取得した操舵角を中点一時値としている。
【0030】
操舵中点更新部134は、中点演算部133が演算により取得した中点一時値に基づいて操舵中点を更新する。本実施の形態の場合、操舵中点更新部134は、振動判定部135から中断情報を取得した場合、操舵中点の更新を中断する。つまり、中点演算部133が取得した中点一時値を使用せず、中断情報を取得する直前の続行情報を取得した際の操舵中点が維持される。
【0031】
図3は、操舵中点設定装置130の処理の流れを示すフローチャートである。車両直進判定部137は、車両200の走行情報に基づき車両200が直進状態か否かを判定する(S101)。車両直進判定部137が直進状態であると判定すると(S101、Yes)、操舵判定部138が操舵状態か否かを判定する(S102)。なお、直進状態の判定と操舵状態の判定の順序は逆でもかまわない。
【0032】
操舵判定部138が操舵状態ではないと判定した場合(S102、No)、中点演算部133は、操舵角取得部131が取得した操舵角を演算により中点一時値に設定する(S103)。
【0033】
次に、振動判定部135は、車体210が路面301に対して上下方向に振動しているか否かを判定する(S104)。振動判定部135が、振動が発生していないと判断した場合(S104、No)、つまり中断情報が振動判定部135から出力されていない場合、操舵中点更新部134は、ステップ103にて設定された中点一時値を用いて操舵中点を更新する(S105)。一方、中断情報が振動判定部135から出力された場合(S104、Yes)、操舵中点更新部134による操舵中点の更新は実施されない。車両200の走行中(S106、No)においては、上記の処理が繰り返し実施される。
【0034】
上述の通り、第一態様に係るステアリングシステム100は、転舵輪230を旋回させるリンク機構110の形態の変化により車両200を直進させるための操舵角である操舵中点にずれが生じるステアリングシステム100であって、リンク機構110に接続されるシャフト243の回転角である操舵角を取得する操舵角取得部131と、路面301に対する車両200の上下方向の動作に関する動作情報を取得する動作情報取得部132と、所定の走行条件を満たした時点の操舵角を、中点一時値とする中点演算部133と、中点一時値に基づいて操舵中点を更新する操舵中点更新部134と、動作情報に基づき、車両200に所定の振動が発生しているかどうかを判定する振動判定部135と、を備え、振動判定部135は、車両200が振動していると判定した場合、操舵中点の更新に関する処理を中断させる中断情報を出力する。
【0035】
ピットマンアームなどを有するリンク機構110を備えたステアリングシステム100では、車体210が路面301に対して上下に変位した際に、車両200の直進状態を実現する転舵輪230の旋回位置と予め設定される操舵中点との関係が変動する。つまり、車両200が例えば凹凸の激しい悪路などを直進走行した場合、従来技術では操舵中点が間違った相対舵角に基づき更新される。しかし、第一態様に係るステアリングシステム100では、車体210の上下振動に基づいて操舵中点の更新に関する処理を中断することができ、車両200本来の直進状態、例えば平面においてサスペンションがニュートラルな状態で車両200が直進している状態と整合しない相対舵角に基づく操舵中点の更新を防止することができる。操舵中点が正確に更新されることで、例えば自動運転におけるLKA(Lane Keeping Assist)の軌跡追従性が向上し、車両200走行時の安全性、快適性を向上させることができる。また、操舵部材241の戻り制御の不感帯を縮小することができる。なお、サスペンションがニュートラルな状態とは、例えば、車重による影響のみがサスペンションに働いている状態を意味している。
【0036】
また、第二態様のステアリングシステム100は、第一態様を含み、車両200が備えるサスペンション220のストローク量を検出するストローク量検出器221を備え、動作情報取得部132は、ストローク量検出器221から動作情報を取得する。
【0037】
なお、ストローク量検出器221は、車両200が備える複数のサスペンション220の少なくとも一つに備えられればよい。また、ストローク量検出器221が複数存在する場合、動作情報取得部132は、複数のストローク量検出器221からの信号を統計処理して動作情報を取得してもかまわない。
【0038】
また、第三態様のステアリングシステム100は、第一態様、または第二態様を含み、車両200の車体210の上下方向の加速度を検出する加速度検出器222を備え、動作情報取得部132は、加速度検出器222から動作情報を取得する。
【0039】
また、第四態様のステアリングシステム100は、第一態様から第三態様のいずれかを含み、動作情報取得部132は、車両200周辺の対象物の状態を示す状態情報を取得し、取得した状態情報から動作情報を演算により取得する。
【0040】
第二態様、第三態様、第四態様によれば、車体210の上下方向における振動を他のシステムと兼用できるセンサを用いて取得することができ、車両200における部品点数を抑制することができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0042】
例えば、上記の実施の形態では、振動判定部135から出力される中断情報に基づき操舵中点更新部134による操舵中点の更新を中断したが、図4図5に示すように、中点演算部133が中断情報に基づき中点演算部133の中点一時値の設定(S204)を中断してもかまわない。
【0043】
また、操舵状態か否かを判定しなくともよい。つまり、操舵中点設定装置130は、操舵判定部138を備えなくてもかまわない。
【0044】
また、振動判定部135は、バス、トラックのCAN(Controller Area Network)規格であるJ1939の中で定義された上下加速度の信号、サスペンション220のストローク(車体210の高さ位置)の信号を用いて所定の振動が発生しているかどうかを判定してもかまわない。
【0045】
また、車両直進判定部137は、走行情報として車両200のピッチ角、ロール角を
取得し、ピッチ角、およびロール角の少なくとも一方の変動が閾値を超えたとき直進状態ではないと判定してもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ステアリングを備えた車両、農業機械、建設機械、無人搬送機などに利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
100…ステアリングシステム、110…リンク機構、111…ピットマンアーム、112…ドラッグリンク、120…操舵角検出器、130…操舵中点設定装置、131…操舵角取得部、132…動作情報取得部、133…中点演算部、134…操舵中点更新部、135…振動判定部、137…車両直進判定部、138…操舵判定部、200…車両、210…車体、220…サスペンション、221…ストローク量検出器、222…加速度検出器、230…転舵輪、241…操舵部材、242…電動アクチュエータ、243…シャフト、244…油圧機構、245…ステアリングボックス、301…路面
図1
図2
図3
図4
図5