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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165849
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】列車接近報知システム
(51)【国際特許分類】
   B61L 29/28 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
B61L29/28 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082393
(22)【出願日】2023-05-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 研究集会名 交通安全環境研究所フォーラム2022 主催者 独立行政法人自動車技術総合機構 交通安全環境研究所 開催日 令和4年11月15日
(71)【出願人】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智紀
(72)【発明者】
【氏名】山口 大助
(72)【発明者】
【氏名】八木 誠
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM02
5H161MM14
5H161NN11
5H161PP12
5H161QQ03
(57)【要約】
【課題】踏切への列車接近を踏切利用者に報知する低コストの列車接近報知システムを提供する。
【解決手段】列車接近報知システムは、車上装置3と、踏切支援装置4と、少なくとも1つの沿線無線装置5とを備える。車上装置3は、自列車の現在位置情報を取得するGNSS受信機31と、通信部32と、車上制御部33とを有する。踏切支援装置4は、通信部41と、情報を報知する報知部42と、地上制御部43とを有する。各沿線無線装置5は、車上装置3、他の沿線無線装置5及び踏切支援装置4のいずれかが送信した情報を受信して、その情報を再送信する無線装置である。車上制御部33は、GNSS受信機31が取得した現在位置情報をキロ程に変換し、そのキロ程及び自列車の進行方向を含む列車情報を通信部32に送信させる。地上制御部43は、通信部41が受信した列車情報に基づいて自踏切へ列車接近を検知し、列車接近を報知部42に報知させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切への列車接近を踏切利用者に報知するための列車接近報知システムであって、
車両に搭載される車上装置と、
踏切に設置される踏切支援装置と、
前記車両が列車として運転される区間の沿線に設置される少なくとも1つの沿線無線装置とを備え、
前記車上装置は、自列車の現在位置情報を取得するGNSS受信機と、無線通信を行う通信部と、前記GNSS受信機及び通信部に接続された車上制御部とを有し、
前記踏切支援装置は、無線通信を行う通信部と、踏切利用者に情報を報知する報知部と、その通信部及び報知部に接続された地上制御部とを有し、
前記各沿線無線装置は、前記車上装置、他の沿線無線装置及び踏切支援装置のいずれかが送信した情報を受信して、その情報を再送信する無線装置であり、
前記車上制御部は、前記GNSS受信機が取得した現在位置情報をキロ程に変換し、そのキロ程及び自列車の進行方向を含む列車情報をその通信部に送信させ、
前記地上制御部は、その通信部が受信した前記列車情報に基づいて自踏切へ列車接近を検知し、列車接近を前記報知部に報知させることを特徴とする列車接近報知システム。
【請求項2】
前記沿線無線装置は、情報を受信した時、所定の待ち時間後にその情報を再送信し、
複数の沿線無線装置が設置される場合、前記各沿線無線装置の前記待ち時間は、互いに異なる値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の列車接近報知システム。
【請求項3】
前記車上装置が送信する情報は、送信するその情報を一意に特定するための識別符号を含み、
前記沿線無線装置は、情報を受信した時、その情報が既に受信した情報と同じである場合、その情報を再送信しないことを特徴とする請求項1に記載の列車接近報知システム。
【請求項4】
前記車上装置は、列車乗務員に情報を報知する車上報知部を有し、
前記踏切支援装置は、前記列車情報を受信した時、その列車情報を受信したことを示す確認応答信号を送信し、
前記車上制御部は、自列車が運転される区間にある踏切の位置情報を予め記憶しており、自列車が前方の踏切から所定距離内到達し、かつ前記確認応答信号を受信しない時、前記車上報知部に異常を報知させることを特徴とする請求項1に記載の列車接近報知システム。
【請求項5】
前記踏切支援装置及び沿線無線装置の各々は、自装置の故障を検出する自己診断機能を有し、自装置が健全か故障かの状態情報を所定周期、情報の再送信時又は前記確認応答信号の送信時に送信することを特徴とする請求項1に記載の列車接近報知システム。
【請求項6】
前記踏切支援装置は、自装置の故障を検出した時、前記沿線無線装置から故障の状態情報を受信した時、又は前記沿線無線装置から所定期間内に健全の状態情報を受信しなかった時、故障である旨を前記報知部に報知させることを特徴とする請求項5に記載の列車接近報知システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切への列車接近を踏切利用者に報知するための列車接近報知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄軌道輸送において安全の確保は最大の使命である。近年、関係者の努力の結果、事故件数は減少傾向にあるものの、事故件数の中で踏切事故が大きな割合を占めている。
【0003】
踏切(踏切道)は、線路と道路が平面交差する部分である。踏切は、踏切保安装置の内容によって第1種~第4種の4つの種別に区分される(非特許文献1参照)。第1種踏切には、自動遮断機(自動的に開閉する踏切遮断機)が設けられている。第3種踏切には、踏切警報機が設けられている。第4種踏切には、自動遮断機も踏切警報機も設けられてない。現在、第2種踏切は無い。
【0004】
公益財団法人鉄道総合技術研究所が作成した「鉄道安全データベース」を参照し、踏切種別毎の年間の事故件数を踏切箇所数で割ると、第4種踏切における事故発生割合が大きいことが分かる。第4種踏切における事故原因のデータで、直前横断が大半を占めていることから、踏切利用者が列車接近に気付かずに横断していると推定される。しかし、踏切種別の格上げ等をすることは、コスト等の課題が大きく、容易ではない。
【0005】
デュアルモード車両の車載装置がGPSを利用して測位し、踏切制御装置に併設した地上装置との間で通信を行い、デュアルモード車両が踏切の手前の所定距離以内にいる場合に踏切遮断機を遮断させる踏切制御システムが知られている(特許文献1参照)。このシステムは、デュアルモード車両から第1種踏切を制御する。デュアルモード車両は、軽量で軌道回路や踏切制御子で検知されにくいので、通信を利用したこのようなシステムが必要となる。もし、このシステムを通常の鉄道車両に用いようとすると、デュアルモード車両は軽量で速度が低いため制動距離が短いが、通常の鉄道車両は制動距離が長いので、踏切との通信距離が長くなり、高コストの通信設備が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-207794号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JIS E 3013:2001「鉄道信号保安用語」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するものであり、踏切への列車接近を踏切利用者に報知する低コストの列車接近報知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の列車接近報知システムは、踏切への列車接近を踏切利用者に報知するための列車接近報知システムであって、車両に搭載される車上装置と、踏切に設置される踏切支援装置と、前記車両が列車として運転される区間の沿線に設置される少なくとも1つの沿線無線装置とを備え、前記車上装置は、自列車の現在位置情報を取得するGNSS受信機と、無線通信を行う通信部と、前記GNSS受信機及び通信部に接続された車上制御部とを有し、前記踏切支援装置は、無線通信を行う通信部と、踏切利用者に情報を報知する報知部と、その通信部及び報知部に接続された地上制御部とを有し、前記各沿線無線装置は、前記車上装置、他の沿線無線装置及び踏切支援装置のいずれかが送信した情報を受信して、その情報を再送信する無線装置であり、前記車上制御部は、前記GNSS受信機が取得した現在位置情報をキロ程に変換し、そのキロ程及び自列車の進行方向を含む列車情報をその通信部に送信させ、前記地上制御部は、その通信部が受信した前記列車情報に基づいて自踏切へ列車接近を検知し、列車接近を前記報知部に報知させることを特徴とする。
【0010】
この列車接近報知システムにおいて、前記沿線無線装置は、情報を受信した時、所定の待ち時間後にその情報を再送信し、複数の沿線無線装置が設置される場合、前記各沿線無線装置の前記待ち時間は、互いに異なる値に設定されることが好ましい。
【0011】
この列車接近報知システムにおいて、前記車上装置が送信する情報は、送信するその情報を一意に特定するための識別符号を含み、前記沿線無線装置は、情報を受信した時、その情報が既に受信した情報と同じである場合、その情報を再送信しないことが好ましい。
【0012】
この列車接近報知システムにおいて、前記車上装置は、列車乗務員に情報を報知する車上報知部を有し、前記踏切支援装置は、前記列車情報を受信した時、その列車情報を受信したことを示す確認応答信号を送信し、前記車上制御部は、自列車が運転される区間にある踏切の位置情報を予め記憶しており、自列車が前方の踏切から所定距離内到達し、かつ前記確認応答信号を受信しない時、前記車上報知部に異常を報知させることが好ましい。
【0013】
この列車接近報知システムにおいて、前記踏切支援装置及び沿線無線装置の各々は、自装置の故障を検出する自己診断機能を有し、自装置が健全か故障かの状態情報を所定周期、情報の再送信時又は前記確認応答信号の送信時に送信することが好ましい。
【0014】
この列車接近報知システムにおいて、前記踏切支援装置は、自装置の故障を検出した時、前記沿線無線装置から故障の状態情報を受信した時、又は前記沿線無線装置から所定期間内に健全の状態情報を受信しなかった時、故障である旨を前記報知部に報知させることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の列車接近報知システムによれば、車上装置は、踏切との距離が直接通信できる距離より遠い場合においても、沿線無線装置が情報を再送信することによって、踏切支援装置と通信することができる。これにより、車上装置と踏切支援装置との間の通信設備費が低減される。踏切支援装置が列車接近を報知することによって、踏切利用者が列車接近を認識し、踏切事故が防がれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の一実施形態に係る列車接近報知システムの構成図である。
図2図2は同システムにおける車上装置のブロック構成図である。
図3図3は同システムにおける踏切支援装置のブロック構成図である。
図4図4は同システムにおける沿線無線装置のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る列車接近報知システムについて図1乃至図4を参照して説明する。図1に示すように、列車接近報知システム1は、踏切Cへの列車接近を踏切利用者に報知するためのシステムである。踏切Cは、線路Tと道路Rが平面交差する部分である。踏切Cは、自動遮断機や踏切警報機等の踏切保安装置が不要である。列車接近報知システム1は、踏切保安装置が無い第4種踏切に用いられる。車両2は、列車として運転され、図1に示す例では、踏切Cに向かって(右方向に)走行している。
【0018】
列車接近報知システム1は、車上装置3と、踏切支援装置4と、少なくとも1つの沿線無線装置5とを備える。図1に示す例では、踏切Cに対応して設置される沿線無線装置5(5a、5b)は、一方向につき2台である。沿線無線装置5は、一方向につき1台、又は3台以上であってもよい。なお、踏切Cにおける線路の反対側(図1の上側)にも踏切支援装置4があり、車両2から見て踏切Cより遠い沿線(図1の右側)にも沿線無線装置5があるが、図示したものと同じ構成であるので、図示を省略する。
【0019】
車上装置3は、車両2に搭載される。踏切支援装置4は、踏切Cに設置される。沿線無線装置5は、車両2が列車として運転される区間の沿線に設置される。
【0020】
図2に示すように、車上装置3は、GNSS受信機31と、通信部32と、車上制御部33とを有する。GNSS受信機31は、人工衛星からの信号を用いて位置を決定する衛星測位システム(GNSS)の受信機であり、自列車の現在位置情報を取得する。自列車とは、そのGNSS受信機31が搭載されている列車であり、列車は車両2から成るので、自車両と同じである。衛星測位システム(GNSS)には、GPS、準天頂衛星などがある。通信部32は、無線通信を行う。車上制御部33は、GNSS受信機31及び通信部32に接続される。車上制御部33は、CPU、メモリ等を有し、プログラムを実行することによって機能する。
【0021】
本実施形態では、コスト低減のため、車上装置3は、商用既製品で構成される。車上装置3は、汎用のIoT(Internet to Things)デバイス10を有する。通信部32及び車上制御部33は、IoTデバイス10の機能部分である。GNSS受信機31は、GNSSアンテナを有する。通信部32は、小電力無線装置であり、アンテナ11が接続され、無線によるデータ通信を行う。その通信プロトコルは、例えば「ESP-NOW」であり、限定されない。通信部32は、ブロードキャスト通信を行う。
【0022】
車上装置3は、上記の構成に加えて、バッテリ装置34と、太陽光発電パネル35を有する。バッテリ装置34は、蓄電池と充放電回路を有し、車上装置3の各部に電力を供給する。太陽光発電パネル35は、バッテリ装置34を充電する。車上装置3は、車両2からの給電が不要である。
【0023】
車上装置3は、GNSS受信機31を用いて自列車の列車速度を取得する。自列車の列車速度は、自列車の現在位置情報の時間的な変化から得られる。車上装置3は、車両2の速度発電機(車輪の回転から列車速度を検知する装置)への接続が不要である。また、車上装置3は、自列車の現在位置情報の変化から自列車の進行方向を検知する。
【0024】
図3に示すように、踏切支援装置4は、通信部41と、報知部42と、地上制御部43とを有する。通信部41は、無線通信を行う。報知部42は、踏切利用者に情報を報知する。地上制御部43は、通信部41及び報知部42に接続される。地上制御部43は、CPU、メモリ等を有し、プログラムを実行することによって機能する。
【0025】
本実施形態では、コスト低減のため、踏切支援装置4は、商用既製品で構成される。踏切支援装置4は、汎用のIoTデバイス10を有する。通信部41及び地上制御部43は、IoTデバイス10の機能部分である。通信部41は、小電力無線装置であり、アンテナ11が接続され、無線によるデータ通信を行う。報知部42は、LEDディスプレイ等の電光掲示板であり、発光パターンによって文字、記号、絵等を表示し、踏切利用者に視覚情報を提示する。
【0026】
踏切支援装置4は、上記の構成に加えて、バッテリ装置44と、太陽光発電パネル45を有する。バッテリ装置44は、蓄電池と充放電回路を有し、踏切支援装置4の各部に電力を供給する。太陽光発電パネル45は、バッテリ装置44を充電する。踏切支援装置4は、外部からの給電が不要である。
【0027】
図4に示すように、沿線無線装置5は、通信部51と、制御部52とを有する。通信部51は、無線通信を行う。制御部52は、通信部51に接続される。制御部52は、CPU、メモリ等を有し、プログラムを実行することによって機能する。
【0028】
本実施形態では、コスト低減のため、沿線無線装置5は、商用既製品で構成される。沿線無線装置5は、汎用のIoTデバイス10を有する。通信部51及び制御部52は、IoTデバイス10の機能部分である。通信部51は、小電力無線装置であり、アンテナ11が接続され、無線によるデータ通信を行う。通信部51は、ブロードキャスト通信を行う。
【0029】
沿線無線装置5は、上記の構成に加えて、バッテリ装置53と、太陽光発電パネル54を有する。バッテリ装置53は、蓄電池と充放電回路を有し、沿線無線装置5の各部に電力を供給する。太陽光発電パネル54は、バッテリ装置53を充電する。沿線無線装置5は、外部からの給電が不要である。
【0030】
沿線無線装置5は、車上装置3、他の沿線無線装置5及び踏切支援装置4のいずれかが送信した情報を受信して、その情報を再送信する無線装置である。
【0031】
上記のように構成された列車接近報知システム1の動作について説明する。車上装置3の車上制御部33は、GNSS受信機31が取得した現在位置情報をキロ程に変換する(図2参照)。
【0032】
より具体的には、車上制御部33は、自列車が運転される区間の緯度経度とキロ程を関連付けたデータテーブルを予め記憶しており、そのデータテーブルを参照して、GNSS受信機31が取得した緯度経度の現在位置情報(自列車の位置情報)をキロ程に変換する。なお、GNSS受信機31が緯度経度の現在位置情報を取得できなかったとき、又は取得した現在位置情報からキロ程変換でキロ程が求まらなかったときは、車上制御部33は、GNSS受信機31を用いて既に得ている列車速度を用いて自列車のキロ程を算出する。鉄軌道を走行する車両2は、列車速度が急変しないからである。
【0033】
そして、車上制御部33は、そのキロ程及び自列車の進行方向を含む列車情報を通信部32に送信させる。車上装置3は、列車情報を所定の周期、例えば1秒間隔で送信する。
【0034】
そして、列車(車両2)に最も近い沿線無線装置5(5a)は、車上装置3が送信した列車情報を受信して、その列車情報を再送信する(図1参照)。
【0035】
そして、列車から遠い別の沿線無線装置5(5b)は、沿線無線装置5aが再送信した列車情報を受信して、その列車情報を再送信する。
【0036】
そして、踏切支援装置4は、沿線無線装置5bが再送信した列車情報を受信する。踏切支援装置4の地上制御部43は、その通信部41が受信した列車情報に基づいて自踏切へ列車接近を検知する(図3参照)。
【0037】
本実施形態では、踏切支援装置4の地上制御部43は、自踏切のキロ程及び列車情報に基づいて列車と自踏切間の距離を算出することにより、列車の接近を検知する。その検知において、地上制御部43は、算出した距離が所定距離以下のとき、かつ、列車の進行方向が自踏切に接近する方向であるとき、列車が自踏切に接近したと判定する。なお、列車接近報知システム1において、列車が停止している等により進行方向が特定できない場合、進行方向未確定とされる。踏切支援装置4は、進行方向未確定で列車と自踏切間の距離が近い場合は、列車接近検知の対象とする。
【0038】
本実施形態の変形例として、車上装置3が送信する列車情報は、自列車の速度をさらに含み、地上制御部43は、自踏切のキロ程及びその列車情報に基づいて列車が到達するまでの時間を算出することにより、列車の接近を検知してもよい。この場合、地上制御部43は、算出した時間が所定時間以下のとき、列車が自踏切に接近したと判定する。
【0039】
そして、踏切支援装置4の地上制御部43は、検知した列車接近を報知部42に報知させる。
【0040】
本実施形態の列車接近報知システム1によれば、車上装置3は、踏切Cとの距離が直接通信できる距離より遠い場合においても、沿線無線装置5が情報を再送信することによって、踏切支援装置4と通信することができる(図1参照)。これにより、車上装置3と踏切支援装置4との間の通信設備費が低減される。踏切支援装置4が列車接近を報知することによって、踏切利用者が列車接近を認識し、踏切事故が防がれる。
【0041】
在来鉄道では、踏切が無い一部の線区を除き、非常制動距離は600m以下とされている。このため、車上装置3は、少なくとも踏切Cの600m手前から踏切支援装置4と通信できることが望ましい。列車接近報知システム1の通信部32、41、51に2.4GHz帯の小電力無線装置を用いる場合、無線の到達距離は、通常600m未満である。このため、車上装置3と踏切支援装置4との間の通信が沿線無線装置5を介して可能となるように、沿線無線装置5の数及び位置が設定される。
【0042】
列車接近報知システム1について、さらに詳述する。沿線無線装置5は、情報を受信した時、所定の待ち時間後にその情報を再送信する。複数の沿線無線装置5が設置される場合、各沿線無線装置5の待ち時間は、互いに異なる値に設定される。
【0043】
これにより、車上装置3が送信した情報が複数の沿線無線装置5によって受信されても、複数の沿線無線装置5が同じ情報を同時に再送信することが防がれる。
【0044】
車上装置3が送信する情報は、列車情報に加えて、送信する情報を一意に特定するための識別符号を含む。沿線無線装置5は、情報を受信した時、その情報が既に受信した情報と同じである場合、その情報を再送信しない。
【0045】
車上装置3が送信する情報に含まれる識別符号は、例えば、列車を特定する列車番号と、その列車からの送信ごとに加算される通し番号との組み合わせである。なお、列車番号は、その偶数・奇数によって列車の進行方向(上り・下り)を表すので、列車情報における進行方向の情報を兼ねてもよい。
【0046】
これにより、沿線無線装置5によって同じ情報が重複して再送信されることが防がれる。
【0047】
車上装置3は、列車乗務員(運転士)に情報を報知するための車上報知部36を有する(図2参照)。車上報知部36は、例えばディスプレイ又はランプである。踏切支援装置4は、列車情報を受信した時、その列車情報を受信したことを示す確認応答信号(ACK)を送信する。踏切支援装置4が送信する確認応答信号は、車上装置3が送信した列車情報又は識別符号、及び踏切Cの識別符号を含む。踏切支援装置4が送信した確認応答信号は、沿線無線装置5を介して又は直接に車上装置3に受信される。車上制御部33は、自列車が運転される区間にある踏切Cの位置情報を予め記憶しており、自列車が前方の踏切から所定距離内到達し、かつ確認応答信号を受信しない時、車上報知部36に異常を報知させる。
【0048】
これにより、列車乗務員は、列車接近報知システム1に異常があったことが前方の踏切Cに到達するより前に分かる。
【0049】
なお、車上装置3が送信する列車情報も、踏切支援装置4が送信する確認応答信号(ACK)も情報であるので、沿線無線装置5による再送信の対象である。列車情報と、それに対する確認応答信号は、情報伝達の方向が逆である(図1参照)。
【0050】
列車接近報知システム1における故障検出機能について説明する。踏切支援装置4及び沿線無線装置5の各々は、自装置の故障を検出する自己診断機能を有する。踏切支援装置4及び沿線無線装置5の各々は、自装置が健全か故障かの状態情報を所定周期、情報の再送信時又は確認応答信号の送信時に送信する。
【0051】
これにより、車上装置3及び踏切支援装置4は、列車接近報知システム1が故障したことを検出することができる。
【0052】
踏切支援装置4は、自装置の故障を検出した時、沿線無線装置5から故障の状態情報を受信した時、又は沿線無線装置5から所定期間内に健全の状態情報を受信しなかった時、故障である旨を報知部42に報知させる。
【0053】
これにより、踏切利用者は、踏切支援装置4が機能していないことを知ることができる。
【0054】
車上装置3は、踏切支援装置4又は沿線無線装置5から故障の状態情報を受信した時、故障である旨を車上報知部36に報知させる。
【0055】
これにより、列車乗務員は、列車接近報知システム1の故障を知ることができる。
【0056】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、報知部42は、視覚情報の提示に加えて、音声等の聴覚情報を提供してもよい。その場合、音声等の大きさは、周辺住民の了解が得られる音量とされる。
【符号の説明】
【0057】
1 列車接近報知システム
3 車上装置
31 GNSS受信機
32 通信部
33 車上制御部
4 踏切支援装置
41 通信部
42 報知部
43 地上制御部
5 沿線無線装置
図1
図2
図3
図4