(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165852
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】インバータ一体型電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20241121BHJP
F04C 18/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F04B39/00 106D
F04C18/02 311Z
F04B39/00 103Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082398
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】猿橋 美早子
【テーマコード(参考)】
3H003
3H039
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB05
3H003AB06
3H003AC03
3H003AD01
3H003AD02
3H003BC01
3H003CA01
3H003CA02
3H003CD01
3H003CF05
3H039AA02
3H039AA04
3H039AA05
3H039AA12
3H039BB25
3H039CC09
3H039CC12
3H039CC32
3H039CC33
3H039CC35
(57)【要約】
【課題】電動モータのロータが固定された回転軸を回転可能に支持する軸受の電食を抑制又は防止することができるインバータ一体型電動圧縮機を提供する。
【解決手段】インバータ一体型電動圧縮機10において、導電性を有するハウジング20の第1隔壁部212はインバータ60と電動モータ40との間を仕切り、ハウジング20の第2隔壁部232は電動モータ40と圧縮機構50との間を仕切っている。電動モータ40のステータ41はハウジング20に固定され、電動モータ40のロータ42が固定された導電性の回転軸30は、第1隔壁部212に保持された金属製の第1軸受25と第2隔壁部232に保持された金属製の第2軸受26とによって回転可能に支持されている。また、回転軸30とロータ42との間には絶縁層35が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の回転軸と、前記回転軸を回転させる電動モータと、前記回転軸の回転によって駆動されて流体を圧縮する圧縮機構と、前記電動モータを駆動するインバータと、これらを収容する導電性のハウジングとを含むインバータ一体型電動圧縮機であって、
前記ハウジングは、前記インバータと前記電動モータとの間を仕切る第1隔壁部と、前記電動モータと前記圧縮機構との間を仕切る第2隔壁部とを有し、
前記電動モータは、前記ハウジングに固定されたステータと、前記回転軸に固定されたロータとを含み、
前記回転軸は、前記第1隔壁部に保持された金属製の第1軸受と前記第2隔壁部に保持された金属製の第2軸受とによって回転可能に支持されており、
前記回転軸と前記ロータとの間に絶縁層が設けられている、
インバータ一体型電動圧縮機。
【請求項2】
前記ロータは、前記回転軸が前記ロータの貫通孔に圧入されることによって前記回転軸に外周面に固定されており、
前記絶縁層は、前記回転軸の外周面の少なくとも前記ロータに対応する部分を覆うように形成されている、
請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項3】
前記圧縮機構は、前記ハウジングに固定された固定スクロールと、前記固定スクロールに対して公転旋回運動を行う可動スクロールとを含むスクロール圧縮機構であり、
前記ロータの貫通孔は、前記圧縮機構側の開口と前記インバータ側の開口とを有し、前記圧縮機構側の開口の周縁部が前記インバータ側の開口の周縁部に比べて大きく面取りされている、
請求項2に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項4】
内周部が前記回転軸の外周面に接触する導電性の軸シール部材が前記第2隔壁部に保持されている、請求項1~3のいずれか一つに記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ一体型電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機の一例として従来からインバータ一体型電動圧縮機が知られている。この種の電動圧縮機においては、金属製の回転軸(駆動軸)、回転軸を回転させる電動モータ、回転軸の回転によって駆動される圧縮機構、及び電動モータを駆動するインバータが金属製のハウジング内に一体的に組み込まれていることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インバータによって電動モータが駆動される場合、回転軸とこれを支持する金属製の軸受を保持するハウジングとの間には電動モータ内の静電容量によって軸電圧が発生する。この軸電圧が例えば潤滑剤による絶縁膜の絶縁破壊電圧を超えると、回転軸と軸受との間や軸受内部で放電が起こり、その結果、軸受に電食が発生するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、電動モータのロータが固定された回転軸を回転可能に支持する金属製の軸受の電食を抑制又は防止することができるインバータ一体型電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、インバータ一体型電動圧縮機が提供される。提供されるインバータ一体型電動圧縮機は、導電性の回転軸と、前記回転軸を回転させる電動モータと、前記回転軸の回転によって駆動されて流体を圧縮する圧縮機構と、前記電動モータを駆動するインバータと、これらを収容する導電性のハウジングとを含む。前記ハウジングは、前記インバータと前記電動モータとの間を仕切る第1隔壁部と、前記電動モータと前記圧縮機構との間を仕切る第2隔壁部とを有する。前記電動モータは、前記ハウジングに固定されたステータと前記回転軸に固定されたロータとを含む。前記回転軸は、前記第1隔壁部に保持された金属製の第1軸受と前記第2隔壁部に保持された金属製の第2軸受とによって回転可能に支持されている。また、前記回転軸と前記ロータとの間には絶縁層が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、電動モータのロータが固定された回転軸を回転可能に支持する軸受の電食を抑制又は防止することができるインバータ一体型電動圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機を示す断面図である。
【
図2】回転軸と電動モータのロータとを示す図である。
【
図3】電動モータ内部の静電容量による軸電圧の発生原理の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機(以下単に「電動圧縮機」という。)の概略構成を示す断面図である。実施形態に係る電動圧縮機10は、例えば、車両用空調装置の冷媒回路に組み込まれ、冷媒回路を流れる気体冷媒(つまり、流体)を圧縮し、高圧化して吐出するように構成される。ここで、前記冷媒回路を流れる気体冷媒には潤滑剤が含まれ得る。
【0011】
なお、以下においては、
図1における左側を電動圧縮機10の前側、
図1における右側を電動圧縮機10の後側、
図1における上側を電動圧縮機10の上側、
図1における下側を電動圧縮機10の下側として説明する。また、「第1」、「第2」などの用語は、単に類似の要素を区別するために用いられ、それらが付された要素を限定するものではない。
【0012】
電動圧縮機10は、ハウジング20と、回転軸30と、回転軸30を回転させる電動モータ40と、回転軸30の回転によって駆動されて気体冷媒(流体)を圧縮する圧縮機構50と、電動モータ40に給電して電動モータ40を駆動するインバータ60とを含む。回転軸30、電動モータ40、圧縮機構50及びインバータ60は、ハウジング20に収容されている。特に限定されないが、本実施形態においては、スクロール圧縮機構が圧縮機構50として採用されており、圧縮機構50は、ハウジング20に固定された固定スクロール51と、固定スクロール51に対して公転旋回運転を行う可動スクロール52とを含む。
【0013】
ハウジング20は、例えば金属製であり、導電性を有する。本実施形態において、ハウジング20は、フロントハウジング21、カバー部材22、センターハウジング23及びリアハウジング24をハウジング構成要素として含む。そして、これらハウジング構成要素が図示省略の締結具などによって締結されて電動圧縮機10のハウジング20が形成されている。但し、これに限られるものではなく、ハウジング20は、任意のハウジング構成要素の組み合わせで形成され得る。
【0014】
フロントハウジング21は、前後に延びる円筒状の第1周壁部211を有する。第1周壁部211の前端面がフロントハウジング21の前端面であり、第1周壁部211の後端面がフロントハウジング21の後端面である。第1周壁部211の内部は、第1隔壁部212により、インバータ60が収容される前側のインバータ収容空間と、電動モータ40が収容される後側のモータ収容空間とに仕切られている。換言すれば、フロントハウジング21(つまり、ハウジング20)の第1隔壁部212は、ハウジング20内において電動モータ40とインバータ60との間を仕切っている。
【0015】
第1隔壁部212には第1軸受保持部213が形成されている。第1軸受保持部213は、第1隔壁部212の径方向略中央に設けられている。第1軸受保持部213は、円筒状に形成され、第1隔壁部212の後側の面から後方に、すなわち、前記モータ収容空間内に突出している。第1軸受保持部213には金属製の第1軸受25が保持されている。本実施形態において、第1軸受25は、転がり軸受であり、内輪、外輪、及びそれらの間に配置された複数の転動体を含む。第1軸受25の摺動部は、あらかじめ付与された潤滑剤及び/又は前記気体冷媒に含まれる潤滑剤によって潤滑され得る。
【0016】
フロントハウジング21の前端面にはカバー部材22が接合されている。これにより、前記インバータ収容空間が閉塞されてインバータ収容室が形成されている。フロントハウジング21の後端面にはセンターハウジング23の前端面が接合されている。なお、フロントハウジング21とカバー部材22との間、及び、フロントハウジング21とセンターハウジング23との間には必要に応じてシール部材が配置され得る。
【0017】
センターハウジング23は、前後に延びる円筒状の第2周壁部231を有する。第2周壁部231の前端面がセンターハウジング23の前端面であり、第2周壁部231の後端面がセンターハウジング23の後端面である。第2周壁部231の内部は、第2隔壁部232により、フロントハウジング21の前記モータ収容空間に繋がる前側の接続空間と、圧縮機構50が収容される後側の圧縮機構収容空間とに仕切られている。換言すれば、センターハウジング23(つまり、ハウジング20)の第2隔壁部232は、ハウジング20内において電動モータ40と圧縮機構50との間を仕切っている。
【0018】
第2隔壁部232は、有底円筒状の中空突出部233を有する。中空突出部233は、底部が前方を向いており、第2隔壁部232の他の部位に対して、前方に、すなわち、前記モータ収容空間側に突出している。中空突出部233は、フロントハウジング21の第1隔壁部212に設けられた第1軸受保持部213に対向するように、第2隔壁部232の径方向略中央に設けられている。中空突出部233の前側平坦部(有底円筒状の底部)には回転軸30が挿通される軸挿通孔234が形成されている。また、中空突出部233の内部には第2軸受保持部235が形成されている。つまり、第2軸受保持部235は、軸挿通孔234よりも圧縮機構50側に設けられている。第2軸受保持部235には金属製の第2軸受26が保持されている。本実施形態において、第2軸受26は、第1軸受25と同様、転がり軸受である。第1軸受25の摺動部と同様、第2軸受26の摺動部は、あらかじめ付与された潤滑剤及び/又は前記気体冷媒に含まれる潤滑剤によって潤滑され得る。
【0019】
センターハウジング23の後端面にはリアハウジング24の前端面が接合されている。リアハウジング24は、有底円筒状に形成され、前後に延びる円筒状の第3周壁部241と、第3周壁部241の後側の開口を閉塞する底壁部242とを有する。第3周壁部241の開口端面である前端面がリアハウジング24の前端面である。
【0020】
本実施形態において、センターハウジング23の後端面、すなわち、第2周壁部231の後端面には凹部236が形成されている。この凹部236は、圧縮機構50(スクロール圧縮機構)を構成する固定スクロール51の第1基板511(後述する)の外縁部を収容可能である。そして、固定スクロール51の第1基板511の外縁部が、凹部236に収容された状態でセンターハウジング23とリアハウジング24とに挟持されている。これにより、固定スクロール51がハウジング20に固定され、センターハウジング23(第2周壁部231)の後側の開口が固定スクロール51の第1基板511で閉塞され、及び、リアハウジング24(第3周壁部241)の開口端面(前側の開口)が固定スクロール51の第1基板511で閉塞される。
【0021】
回転軸30は、例えば金属製であり、導電性を有する。回転軸30は、第2隔壁部232の中空突出部233に形成された軸挿通孔234に挿通されている。換言すれば、回転軸30は、軸挿通孔234を貫通してハウジング20内を前後方向に延びている。また、回転軸30は、第1隔壁部212(の第1軸受保持部213)に保持された第1軸受25と、第2隔壁部232(の第2軸受保持部235)に保持された第2軸受26とによってハウジング20に対して回転可能に支持されている。
【0022】
ここで、本実施形態では、ハウジング20内における軸挿通孔234を介した電動モータ40側の空間(前記モータ収容空間)と圧縮機構50側の空間(前記圧縮機構収容空間)との連通を遮断するため、軸シール部材27が設けられている。軸シール部材27は、第2隔壁部232の中空突出部233の内部に形成されたシール保持部237に保持されている。シール保持部237は、軸挿通孔234と第2軸受保持部235との間に設けられている。軸シール部材27は、円環状に形成され、外周部がシール保持部237に例えば圧入によって固定され、内周部が回転軸30の外周面に接触(摺動接触)するように構成されている。
【0023】
つまり、軸シール部材27は、第2隔壁部232の中空突出部233の内部において、第2軸受26よりも電動モータ40側に、さらに言えば、軸挿通孔234に隣接して配置されている。そして、軸シール部材27は、回転軸30の軸方向における電動モータ40側と圧縮機構50側との間をシールし、これによって、ハウジング20内における軸挿通孔234を介した電動モータ40側の空間(前記モータ収容空間)と圧縮機構50側の空間(前記圧縮機構収容空間)との連通を遮断(実質的に遮断)している。
【0024】
電動モータ40は、例えば三相交流モータである。電動モータ40は、ステータ41及びロータ42を含む。ステータ41及びロータ42は、いずれも導電性を有する。
【0025】
ステータ41は、フロントハウジング21の第1周壁部211の内周面(つまり、ハウジング20)に固定されている。ステータ41は、ステータコアと、ステータ巻線とを含む。ステータ巻線にはインバータ60から交流電力が供給される。インバータ60は、図示しない車載バッテリなどからの直流電力を交流電力に変換してステータ41のステータ巻線に供給するように構成されている。
【0026】
ロータ42は、ステータ41の径方向内側に所定の隙間を有して配置されている。ロータ42には永久磁石が組み込まれている。ロータ42は、全体として円筒状に形成され、その中空部、換言すれば、ロータ42を前後方向に貫通する貫通孔に回転軸30が挿通された状態で回転軸30に固定されている。つまり、ロータ42は、回転軸30の外周面に固定されて、回転軸30と一体に回転する。
【0027】
図2は、回転軸30及び電動モータ40のロータ42を示す図である。
図2に示されるように、本実施形態においては、回転軸30とロータ42との間に絶縁層35が設けられている。特に限定されないが、絶縁層35は、フッ素樹脂やエポキシ樹脂などの電気絶縁性樹脂で形成され得る。また、絶縁層35は、所望の厚さを有し得る。
【0028】
本実施形態において、ロータ42は、回転軸30がロータ42の貫通孔42a(中空部)に圧入されることによって回転軸30に外周面に固定されており、絶縁層35は、回転軸30の外周面のロータ42に対応する部分を覆うように形成されている。また、ロータ42の貫通孔42a(中空部)の2つの開口、すなわち、インバータ60側の開口(前側開口)及び圧縮機構50側の開口(後側開口)のうち、圧縮機構50側の開口の周縁部42bがインバータ60側の開口の周縁部42cに比べて大きく面取りされている(圧縮機構50側の開口の周縁部42bのみが面取りされている場合を含む)。
【0029】
電動モータ40は、インバータ60からの給電によってステータ41に磁界が発生し、ロータ42の永久磁石に回転力が作用してロータ42が回転し、これによって、回転軸30を回転させる。つまり、電動モータ40は、インバータ60によって駆動されて回転軸30を回転させるように構成されている。
【0030】
圧縮機構50は、上述のように、スクロール圧縮機構であり、固定スクロール51と、固定スクロール51に対して公転旋回運転を行う可動スクロール52とを含む。
【0031】
固定スクロール51は、円板状の第1基板511と、第1基板511の一方の面に立設された第1渦巻壁512とを有する。第1渦巻壁512は、第1基板511の前記一方の面上を径方向内側の内端部(巻き初め部)から径方向外側の外端部(巻き終わり部)まで渦巻状(インボリュート曲線状)に延びている。固定スクロール51は、第1基板511の前記一方の面(第1渦巻壁512が立設された面)が前方を向いた状態で第1基板511の外縁部が凹部236に収容され、センターハウジング23とリアハウジング24とに挟持されて固定されている。
【0032】
可動スクロール52は、円板状の第2基板521と、第2基板521の一方の面に立設された第2渦巻壁522と、第2基板521の他方の面に突出形成された円筒部523とを有する。第2渦巻壁522は、第2基板521の前記一方の面上を径方向内側の内端部(巻き初め部)から径方向外側の外端部(巻き終わり部)まで渦巻状(インボリュート曲線状)に沿って延びている。可動スクロール52は、第2基板521の前記一方の面(第2渦巻壁522が立設された面)が後方を向いた状態でセンターハウジング23の第2隔壁部232と固定スクロール51との間に配置されている。換言すれば、可動スクロール52は、第2渦巻壁522が固定スクロール51の第1渦巻壁512に噛み合うように、固定スクロール51に対向配置されている。なお、第2基板521の前記他方の面は、第2基板521の背面又は可動スクロール52の背面とも称される。
【0033】
可動スクロール52は、回転軸30及びクランク機構70を介して伝達される駆動力によって駆動される。クランク機構70は、回転軸30の回転を可動スクロール52の公転旋回運動に変換する機構である。駆動された可動スクロール52は、自転阻止機構80によって自転が阻止された状態で、固定スクロール51に対して公転旋回運動を行う。
【0034】
特に限定されないが、クランク機構70は、例えば、回転軸30の後端に回転軸30に対して偏心して設けられた偏心ピンと、偏心ピンに回転可能に取り付けられ且つ軸受を介して円筒部523に回転可能に挿入された偏心ブッシュとを含む構成を有し得る。また、自転阻止機構80は、例えば、可動スクロール52の第2基板521の前記他方の面(背面)に形成された円形穴に圧入されたリングと、センターハウジング23の第2隔壁部232に固定され且つスラストプレート90を貫通してリングの内側まで延びるピンとを含む構成を有し得る。
【0035】
圧縮機構50(スクロール圧縮機構)は、可動スクロール52が固定スクロール51に対して公転旋回運動を行うことで気体冷媒を取り込んで圧縮するように構成されている。なお、可動スクロール52の第2基板521とセンターハウジング23の第2隔壁部232との間には円環板状のスラストプレート90が配置されており、第2隔壁部232の後側の面がスラストプレート90を介して可動スクロール52からのスラスト力を受けるようになっている。
【0036】
また、
図1に示されるように、実施形態に係る電動圧縮機10は、外部から気体冷媒(流体)が流入する吸入室H1と、気体冷媒を圧縮する圧縮室H2と、圧縮室H2で圧縮された気体冷媒が吐出される吐出室H3と、圧縮室H2で圧縮された気体冷媒から潤滑油を分離する気液分離室H4と、可動スクロール52の第2基板521の背面側に設けられた背圧室H5とを有する。
【0037】
吸入室H1は、フロントハウジング21の前記モータ収容空間とセンターハウジング23の前記接続空間とによって形成されている。換言すれば、吸入室H1は、フロントハウジング21の第1周壁部211、フロントハウジング21の第1隔壁部212、センターハウジング23の第2周壁部231及びセンターハウジング23の第2隔壁部232によって画成されている。吸入室H1を画成するフロントハウジング21の第1周壁部211には吸入口P1が形成されており、この吸入口P1を介して外部からの気体冷媒が吸入室H1に流入する。吸入室H1には、電動モータ40及び第1軸受25が配置されている。また、センターハウジング23には、吸入室H1内の気体冷媒を圧縮機構50(スクロール圧縮機構)の外端部近傍の空間H6に導くための冷媒通路L1が形成されている。
【0038】
圧縮室H2は、固定スクロール51と可動スクロール52との間に形成される。圧縮機構50(スクロール圧縮機構)においては、可動スクロール52が固定スクロール51に対して公転旋回運動を行うと、第2渦巻壁522が第1渦巻壁512に接触し、第1基板511、第1渦巻壁512、第2基板521及び第2渦巻壁522によって三日月状の密閉空間が径方向外側で形成され、形成された三日月状の密閉空間は、容積を徐々に減少させながら径方向内側へと移動する。この三日月状の密閉空間が圧縮室H2である。
【0039】
吐出室H3は、リアハウジング24の第3周壁部241と、リアハウジング24の底壁部242と、固定スクロール51の第1基板511とによって画成されている。つまり、リアハウジング24の第3周壁部241の内部が吐出室H3となっている。固定スクロール51の第1基板511の径方向中央には、最も内側に移動して容積が小さくなった圧縮室H2と、吐出室H3とを連通する吐出孔L2が形成されている。吐出孔L2には、逆止弁(リード弁)95が設けられている。逆止弁95は、圧縮室H2から吐出室H3への気体冷媒の流通を許容するが、吐出室H3から圧縮室H2への気体冷媒の流通を阻止するように構成されている。
【0040】
気液分離室H4は、吐出室H3よりも後側に設けられている。具体的には、気液分離室H4は、リアハウジング24の上部から下方に延びる円柱状の空間としてリアハウジング24の底壁部242に形成されている。吐出室H3と気液分離室H4とは連通孔L3を介して連通している。気液分離室H4には、気体冷媒に含まれる潤滑油を分離するオイルセパレータ100が配置されている。リアハウジング24の上部には、気液分離室H4に連通する吐出口P2が設けられている。
【0041】
背圧室H5は、センターハウジング23の第2隔壁部232と可動スクロール52の第2基板521とによって画成されている。換言すれば、本実施形態において、背圧室H5は、主に第2隔壁部232の中空突出部233の内部空間によって形成されている。背圧室H5には、第2軸受26、軸シール部材27及びクランク機構70などが配置されている。背圧室H5は、センターハウジング23及びリアハウジング24に形成された連通路L4を介して吐出室H3及び気液分離室H4に連通しており、連通路L4の途中にはオリフィス(絞り部)OLが配置されている。なお、図示省略するが、背圧室H5は、オリフィスや背圧制御弁がその途中に設けられた放圧通路を介して吸入室H1に連通している。
【0042】
ここで、電動圧縮機10の動作を簡単に説明する。
【0043】
インバータ60からの給電によって電動モータ40が回転軸30を回転させると、回転軸30の回転がクランク機構70を介して圧縮機構50(より具体的には可動スクロール52)に伝達され、可動スクロール52が固定スクロール51に対して公転旋回運動を行う。すると、気体冷媒(低圧)が吸入口P1を介して吸入室H1に流入し、電動モータ40及び冷媒通路L1を通過して空間H6に至り、固定スクロール51と可動スクロール52との間に形成される圧縮室H2に取り込まれて圧縮される。圧縮室H2で圧縮された気体冷媒(高圧)は、吐出孔L2(及び逆止弁95)を介して吐出室H3に吐出され、その後、連通孔L3を介して気液分離室H4に流入する。気液分離室H4に流入した気体冷媒は、オイルセパレータ100によって、そこに含まれた潤滑油が分離される。そして、オイルセパレータ100によって潤滑油が分離された後の気体冷媒(高圧)は、吐出口P2から吐出される。オイルセパレータ100によって気体冷媒から分離された潤滑油は、気液分離室H4の底部に貯留される。また、吐出室H3に吐出された気体冷媒に含まれた潤滑油の一部は、吐出室H3の底部に貯留される。
【0044】
背圧室H5は、連通路L4を介して吐出室H3及び気液分離室H4に連通している。また、背圧室H5は、軸挿通孔234及び前記放圧通路を介して吸入室H1にも連通している。吐出室H3及び気液分離室H4は高圧であり、吸入室H1は低圧である。そのため、吐出室H3の底部及び/又は気液分離室H4の底部に貯留された潤滑油は、吐出室H3内及び/又は気液分離室H4内の気体冷媒と共に、連通路L4を介して背圧室H5に供給され、その際に、オリフィスOLを通過することによって減圧される。また、背圧室H5内の潤滑油及び/又は気体冷媒は、軸シール部材27と、前記放圧通路に設けられたオリフィスや背圧制御弁とによって、吸入室H1への流出が制限される。そのため、背圧室H5の圧力は、吸入室H1の圧力Psと吐出室H3の圧力Pd(=気液分離室H4の圧力)との間の中間圧力Pmに保持され、この中間圧力Pmによって可動スクロール52が固定スクロール51に向けて押し付けられる。つまり、背圧室H5は、可動スクロール52に対して固定スクロール51に向けて押し付ける方向の圧力を作用させる。
【0045】
以上説明したように、実施形態に係る電動圧縮機10において、電動モータ40のロータ42が固定された導電性の回転軸30は、導電性のハウジング20を構成するフロントハウジング21の第1隔壁部212に保持された金属製の第1軸受25と、ハウジング20を構成するセンターハウジング23の第2隔壁部232に保持された金属製の第2軸受26とによって回転可能に支持されている。第1隔壁部212は、ハウジング20内においてインバータ60と電動モータ40との間を仕切っており、第2隔壁部232は、ハウジング20内において電動モータ40と圧縮機構50との間を仕切っており、第1軸受25及び第2軸受26は、転がり軸受である。
【0046】
また、実施形態に係る電動圧縮機10において、電動モータ40はインバータ60によって駆動される。そのため、インバータ60のスイッチング素子のスイッチングにより、
図3に示されるように、電動モータ40のステータ41の前記ステータ巻線にはコモンモード電圧Vcが印加される。このコモンモード電圧Vcは、例えば、前記ステータ巻線と回転軸30との間の第1静電容量C1と、回転軸30とこれを支持する軸受(第1軸受25、第2軸受26)を保持するハウジング20との間の第2静電容量C2とで分圧され、第2静電容量C2の電圧分担分V2(=Vc×C1/(C1+C2))が回転軸30とハウジング20との間に軸電圧として発生する。第1静電容量C1は、主に前記ステータ巻線とロータ42との間の静電容量であり、前記第2静電容量は、主に第1軸受25内及び/又は第2軸受26内の潤滑剤による絶縁膜の静電容量である。そして、既述のように、回転軸30とハウジング20との間の軸電圧が潤滑剤による絶縁膜の絶縁破壊電圧を超えると、第1軸受25及び/又は第2軸受26の内部で放電が起こり、その結果、第1軸受25及び/又は第2軸受26に電食が発生するおそれがある。
【0047】
この点、本実施形態においては、回転軸30とロータ42との間に絶縁層35が設けられている。つまり、前記ステータ巻線と回転軸30との間において、前記ステータ巻線とロータ42との間の静電容量に絶縁層35の静電容量が直列に追加(接続)された形となっている。そのため、絶縁層35の静電容量によって、第2静電容量C2の電圧分担分V2、すなわち、回転軸30とハウジング20との間に発生する軸電圧を調整すること、さらに言えば、小さくすることが可能である。したがって、実施形態に係る電動圧縮機10によれば、絶縁層35によって回転軸30とハウジング20との間に発生する軸電圧を従来に比べて小さくすることで、第1軸受25及び/又は第2軸受26の内部で放電が起こること、ひいては、第1軸受25及び/又は第2軸受26の電食を抑制又は防止することができ、その結果、長期間にわたる安定した運転が可能になる。
【0048】
また、本実施形態において、ロータ42は、回転軸30がロータ42の貫通孔42aに圧入されることによって回転軸30に外周面に固定されており、絶縁層35は、回転軸30の外周面のロータ42に対応する部分を覆うように形成されている。そのため、回転軸30とロータ42との間に絶縁層35が設けることが比較的容易である。
【0049】
また、本実施形態ではスクロール圧縮機構が圧縮機構50として採用されている。圧縮機構50がスクロール圧縮機構である場合、回転軸30は、圧縮機構50側がその反対側(インバータ60側)に比べて大径に形成されることが多い。そのため、ロータ42を回転軸30の外周面に固定する際、回転軸30は、ロータ42の貫通孔42a(中空部)の2つの開口(インバータ60側の開口及び圧縮機構50側の開口)のうち、圧縮機構50側の開口から挿入されることになる。
【0050】
この点、本実施形態においては、ロータ42の貫通孔42a(中空部)の2つの開口のうち、圧縮機構50側の開口の周縁部42bがインバータ60側の開口の周縁部42cに比べて大きく面取りされている。そのため、面取りされた圧縮機構50側の開口の周縁部42bがガイドとして機能し、ロータ42の貫通孔42a(中空部)への回転軸30の挿入が容易に行えると共に、回転軸30とロータ42とを一体化する際に絶縁層35が損傷することも抑制又は防止され得る。
【0051】
なお、上述の実施形態において、絶縁層35は、回転軸30の外周面のロータ42に対応する部分を覆うように形成されている。しかし、これに限られるものではない。絶縁層35は、ロータ42の内周面を覆うように設けられてもよい。あるいは、絶縁層35は、回転軸30の外周面全体を覆う絶縁被膜として形成されてもよい。さらに、回転軸30の外周面全体が絶縁被膜で覆われると共に、前記絶縁被膜とは別に回転軸30の外周面のロータ42に対応する部分に絶縁層35が設けられてもよい。このようにすると、回転軸30から第1軸受25又は第2軸受26に電流が流れないようにすることができ、第1軸受25及び/又は第2軸受26の内部で放電が起こること、ひいては、第1軸受25及び第2軸受26の電食がさらに効果的に抑制又は防止され得る。
【0052】
また、上述の実施形態においては、第1軸受25及び第2軸受26として金属製の転がり軸受が採用されている。しかし、第1軸受25及び第2軸受26は、必ずしも転がり軸受である必要はない。例えば、第1軸受25及び第2軸受26の少なくとも一方が金属製の滑り軸受で形成されてもよい。この場合、回転軸30と第1軸受25及び第2軸受26の少なくとも一方との間で放電が起こること、ひいては、第1軸受25及び第2軸受26の電食が抑制又は防止され得る。
【0053】
さらに、軸シール部材27が導電性を有してもよい。この場合、軸シール部材27は、例えば、金属製の芯材と、芯材の表面を少なくとも部分的に覆う導電性樹脂とを含み、導電性樹脂によって、回転軸30の外周面に接触(摺動接触)する内周部としてのリップ部が形成され得る。このようにすると、軸シール部材27によって回転軸30と第2隔壁部232(すなわち、ハウジング20)とが電気的に導通されるので、回転軸30に発生した電荷を第1軸受25や第2軸受26を介さずにハウジング20に逃がすことができる。したがって、第1軸受25及び第2軸受26の内部で放電が起こること、ひいては、第1軸受25及び第2軸受26の電食がさらに効果的に抑制又は防止され得る。
【0054】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明は、上述の実施形態や変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形や変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0055】
10…インバータ一体型電動圧縮機、20…ハウジング、25…第1軸受、26…第2軸受、27…軸シール部材、30…回転軸、35…絶縁層、40…電動モータ、41…ステータ、42…ロータ、42a…貫通孔、42b,42c…周縁部、50…圧縮機構、51…固定スクロール、52…可動スクロール、60…インバータ、212…第1隔壁部、213…第1軸受保持部、232…第2隔壁部、233…中空突出部、234…軸挿通孔、235…第2軸受保持部、237…シール保持部、H1…吸入室、H2…圧縮室、H3…吐出室、H5…背圧室