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特開2024-165869ビフィズス菌増殖促進剤、ならびにこれを含む食品および医薬品
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  • 特開-ビフィズス菌増殖促進剤、ならびにこれを含む食品および医薬品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165869
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ビフィズス菌増殖促進剤、ならびにこれを含む食品および医薬品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20241121BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241121BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20241121BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20241121BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241121BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20241121BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20241121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241121BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/718 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/736 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/716 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/4188 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/525 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/59 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/593 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 38/40 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 33/14 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L33/105
A23L33/15
A23L33/17
A23L33/135
A23L33/16
A23L29/30
A61P43/00 121
A61P1/12
A61K31/702
A61K31/718
A61K31/736
A61K31/715
A61K31/716
A61K31/7048
A61K31/352
A61K31/353
A61K31/192
A61K31/11
A61K31/4188
A61K31/455
A61K31/195
A61K31/525
A61K31/355
A61K31/59
A61K31/593
A61K31/202
A61K38/02
A61K38/40
A61K33/00
A61K33/14
A61K33/06
A61K33/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082426
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(71)【出願人】
【識別番号】511045475
【氏名又は名称】株式会社農
(71)【出願人】
【識別番号】313014608
【氏名又は名称】ウェルネオシュガー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】舩坂 好平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 彩子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 匡
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 学之
(72)【発明者】
【氏名】原 和志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 修啓
(72)【発明者】
【氏名】山川 早紀
(72)【発明者】
【氏名】平林 克樹
【テーマコード(参考)】
4B018
4B041
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD02
4B018MD04
4B018MD08
4B018MD10
4B018MD13
4B018MD19
4B018MD20
4B018MD23
4B018MD26
4B018MD31
4B018MD33
4B018MD36
4B018MD40
4B018MD47
4B018MD58
4B018MD71
4B018MD87
4B018ME11
4B041LC10
4B041LD10
4B041LH01
4B041LH08
4B041LK02
4B041LK05
4B041LK08
4B041LK11
4B041LK13
4B041LK14
4B041LK19
4B041LK25
4B041LK33
4B041LK37
4B041LK42
4C084AA02
4C084BA03
4C084CA15
4C084CA38
4C084MA02
4C084MA52
4C084NA05
4C084ZA731
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086BA09
4C086BC19
4C086CB09
4C086CB28
4C086DA14
4C086EA01
4C086EA11
4C086EA20
4C086HA02
4C086HA04
4C086HA19
4C086HA24
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA73
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB09
4C206DA05
4C206DA21
4C206FA45
4C206GA05
4C206GA36
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206ZA73
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】1-ケストースと栄養成分とを併用することで、栄養成分単独で摂取したときのビフィズス菌の増殖促進効果がさらに相乗的な増殖促進効果となって発揮され得る組み合わせ、或いは、栄養成分単独で摂取したときのビフィズス菌の増殖抑制効果が相殺されてさらにビフィズス菌の増殖促進効果となって発揮され得る組み合わせを含む、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤を提供する。
【解決手段】本発明のビフィズス菌増殖促進剤は、1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、前記栄養成分が、所定の食物繊維、所定のポリフェノール、所定のビタミン類、所定の脂質、所定のアミノ酸、所定のタンパク質、および所定のミネラルから選択される1種類以上の成分である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、
前記栄養成分が、イソマルトデキストリン、グルコマンナン、レバン、およびβ-グルカンから選択される1種類以上の食物繊維であるビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項2】
1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、
前記栄養成分が、ルチン、ケルセチン、カテキン、ヘスペリジン、ダイゼイン、p-クマル酸、カフェ酸、およびバニリンから選択される1種類以上のポリフェノールであるビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項3】
1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、
前記栄養成分が、ビオチン、ナイアシン、パントテン酸、リボフラビン、ビタミンE、およびビタミンDと、これらのビタミンの誘導体と、該ビタミンおよび該誘導体の塩とから選択される1種類以上のビタミン類であるビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項4】
1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、
前記栄養成分が、アラキドン酸およびα-リノレン酸、ならびにこれらの脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物から選択される1種類以上の脂質であるビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項5】
1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、
前記栄養成分が、γ-アミノ酪酸、大豆タンパク質、ホエイタンパク質、およびラクトフェリンから選択される1種類以上のアミノ酸またはタンパク質であるビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項6】
1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、
前記栄養成分が、カルシウムおよびカリウムから選択される1種類以上のミネラルであるビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項7】
前記ビタミンEがα-トコフェロール、前記ビタミンDがコレカルシフェロールである請求項3記載のビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項8】
前記1-ケストースおよび前記栄養成分に加えてビフィズス菌を含むシンバイオティクスである請求項1~7のいずれか1項に記載のビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のビフィズス菌増殖促進剤を含む食品または医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフィズス菌増殖促進剤、ならびにこれを含む食品および医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
ビフィズス菌は、Bifidobacterium属(ビフィドバクテリウム属)に属する細菌で、腸内細菌叢におけるいわゆる善玉菌として、乳酸や酢酸を産生して腸内環境を健康的に改善しまたは維持する機能を有することが知られている。ビフィズス菌は、食品形態等として摂取可能なプロバイオティクスとしても利用されている。
【0003】
また、上記のビフィズス菌の増殖促進効果を有するプレバイオティクスの一つとして、1-ケストースが知られている(特許文献1:特開2005-306781号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-306781号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D.Gwiazdowska.et al.“The impact of polyphenols on Bifidobacterium growth”Acta Biochimica Polanica, (PL), Polish Biochemical Society and Polish Academy of Sciences, 2015, Vol.62, No.4, p.895-901
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、現在、いわゆる健康食品と総称され、或いは健康補助食品、栄養補助食品、サプリメント等と称して、特定の栄養成分が配合された食品であって、当該栄養成分の補給やそれによる特定の機能を期待して摂取される食品が普及している。これらの食品に配合される栄養成分としては、糖質、食物繊維、ポリフェノール、ビタミン類、脂質、アミノ酸、タンパク質、ミネラル等が例示される。これらの栄養成分の中には、ビフィズス菌の増殖促進効果を有することが知られている成分も存在するが、一方で摂取濃度等によってはビフィズス菌の初期等の増殖を抑制し得る成分も存在する(非特許文献1)。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの栄養成分のビフィズス菌への影響について研究し、さらに栄養成分に1-ケストースを加えた系のビフィズス菌への影響について研究した。その結果、栄養成分単独で確認されたビフィズス菌の増殖促進効果が1-ケストースの併用によってさらに相乗的な増殖促進効果となって表れる成分(詳細は後述するが、この効果を相乗的な増殖促進効果と規定する)、或いは、栄養成分単独で確認されたビフィズス菌の増殖抑制効果が1-ケストースの併用によって相殺されてさらにビフィズス菌の増殖促進効果となって表れる成分(詳細は後述するが、この効果を相殺的な増殖促進効果と規定する)が存在することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、1-ケストースと栄養成分とを併用することで、栄養成分単独で摂取したときのビフィズス菌の増殖促進効果がさらに相乗的な増殖促進効果となって発揮され得る組み合わせ、或いは、栄養成分単独で摂取したときのビフィズス菌の増殖抑制効果が相殺されてさらにビフィズス菌の増殖促進効果となって発揮され得る組み合わせを含む、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤、ならびにこれを含む食品および医薬品を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
本発明に係るビフィズス菌の増殖促進剤の一実施形態は、1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、前記栄養成分が、イソマルトデキストリン、グルコマンナン、レバン、およびβ-グルカンから選択される1種類以上の食物繊維であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るビフィズス菌の増殖促進剤の一実施形態は、1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、前記栄養成分が、ルチン、ケルセチン、カテキン、ヘスペリジン、ダイゼイン、p-クマル酸、カフェ酸、およびバニリンから選択される1種類以上のポリフェノールであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るビフィズス菌の増殖促進剤の一実施形態は、1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、前記栄養成分が、ビオチン、ナイアシン、パントテン酸、リボフラビン、ビタミンE、およびビタミンDと、これらのビタミンの誘導体と、該ビタミンおよび該誘導体の塩とから選択される1種類以上のビタミン類であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るビフィズス菌の増殖促進剤の一実施形態は、1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、前記栄養成分が、アラキドン酸およびα-リノレン酸、ならびにこれらの脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物から選択される1種類以上の脂質であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るビフィズス菌の増殖促進剤の一実施形態は、1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、前記栄養成分が、γ-アミノ酪酸、大豆タンパク質、ホエイタンパク質、およびラクトフェリンから選択される1種類以上のアミノ酸またはタンパク質であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るビフィズス菌の増殖促進剤の一実施形態は、1-ケストースと栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤であって、前記栄養成分が、カルシウムおよびカリウムから選択される1種類以上のミネラルであることを特徴とする。
【0016】
さらに、これら本発明に係るビフィズス菌の増殖促進剤は、前記1-ケストースおよび前記栄養成分に加えてビフィズス菌を含むシンバイオティクスとすることもできる。
【0017】
また、本発明に係る食品は、本発明に係るビフィズス菌増殖促進剤を含む食品として提供される。本発明に係る医薬品は、本発明に係るビフィズス菌増殖促進剤を含む医薬品として提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、1-ケストースと所定の栄養成分とを併用することで、相乗的なビフィズス菌の増殖促進効果、或いは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1A図1B図1Cは、本発明に係る相乗的なビフィズス菌の増殖促進効果および相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果について説明する説明図である。図1Aは、ビフィズス菌の増殖量の例を示すグラフである。図1Bは、相乗的なビフィズス菌の増殖促進効果の例を示すグラフである。図1Cは、相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0021】
本実施形態に係るビフィズス菌の増殖促進剤は、1-ケストースと所定の栄養成分とを含む相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進剤である。1-ケストース(1-kestose)は、「Kes」と略記する場合がある。先ず、本発明に係る相乗的なビフィズス菌の増殖促進効果および相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果について規定する。図1Aは、所定の培地でビフィズス菌を培養した際の培養開始後のある時点(例えば、24時間経過時点、48時間経過時点等)におけるビフィズス菌の増殖量を、当該時点での培地の濁度測定値から培養開始時点での濁度測定値を差し引いた正味の濁度を表す濁度増加量で示した例である。
【0022】
点aは基礎培地成分のみで培養した例を表す。点bは基礎培地成分に所定の栄養成分を添加して培養した例を表す。点bは点aよりも濁度の増加量が大きく、ここでの栄養成分はビフィズス菌の増殖促進効果を有している。点cは基礎培地成分に1-ケストースを添加して培養した例を表す。点cは点aよりも濁度の増加量が大きく、1-ケストースは、公知のようにビフィズス菌の増殖促進効果を有している。点dは基礎培地成分に1-ケストースおよび当該栄養成分を添加して培養した例を表す。
【0023】
このとき、直線abで表される点ab間の濁度増加量の差異は、栄養成分単独でのビフィズス菌の増殖促進効果、換言すると1-ケストース非存在下での栄養成分のビフィズス菌の増殖促進効果を表す。これに対して、直線cdで表される点cd間の濁度増加量の差異は、1-ケストースと栄養成分との併用での増殖促進効果、換言すると1-ケストース存在下での栄養成分のビフィズス菌の増殖促進効果を表す。したがって、直線abで表される効果と直線cdで表される効果とを比較することにより、1-ケストースと栄養成分とを併用することで、栄養成分単独でのビフィズス菌の増殖促進効果がさらに相乗的な増殖促進効果となって発揮され得るか否か、すなわち1-ケストースと栄養成分との併用による相乗的なビフィズス菌の増殖促進効果の有無を評価できる。
【0024】
具体的には、直線abの傾き、すなわち点bにおける濁度増加量を点aにおける濁度増加量で除したb/aの値、および、直線cdの傾き、すなわち点dにおける濁度増加量を点cにおける濁度増加量で除したd/cの値について、
(b/a) ≧ 1.0のときに、(d/c) / (b/a) >1.0 を満たすとき、
1-ケストースと当該栄養成分との組み合わせに、相乗的なビフィズス菌の増殖促進効果を有すると評価できる(図1B参照)。なお、このとき、当然に(d/c) > 1.0 となる。
【0025】
また、1-ケストースと栄養成分との併用による相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果の有無についても同様に評価できる。すなわち、図1Aに示す例において、点bが点aよりも濁度の増加量が小さくなっている例に置き換えればよい(不図示)。このとき、当該栄養成分はビフィズス菌の増殖抑制効果を有しており、b/aの値は1.0よりも小さくなることから、
(b/a) < 1.0のときに、(d/c) / (b/a) >1.0 を満たすとき、1-ケストースと当該栄養成分との組み合わせに、相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果を有すると評価できる(図1C参照)。なお、この相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果は、1-ケストースと栄養成分とを併用することで、栄養成分単独でのビフィズス菌の増殖抑制効果が相殺されてさらにビフィズス菌の増殖促進効果となって発揮され得る効果と規定することから、(d/c) > 1.0 となる。したがって、本発明に係る相殺的効果を、一方の抑制効果と他方の促進効果とが単に相殺されることを上回る効果であって、広義には相乗的効果の範疇に含まれると解することもできる。
【0026】
次に、本発明により増殖が促進される対象であるビフィズス菌は、Bifidobacterium属に属する細菌で、Bifidobacterium breve(ビフィドバクテリウム・ブレーベ)、Bifidobacterium catenulatum(ビフィドバクテリウム・カテヌラータム)、Bifidobacterium bifidum(ビフィドバクテリウム・ビフィダム)、Bifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)、Bifidobacterium infantis(ビフィドバクテリウム・インファンティス)、Bifidobacterium adolescentis(ビフィドバクテリウム・アドレセンティス)、Bifidobacterium angulatum(ビフィドバクテリウム・アンギュラツム)、Bifidobacterium animalis(ビフィドバクテリウム・アニマーリス)、Bifidobacterium kashiwanohense(ビフィドバクテリウム・カシワノヘンス)等を含む。本発明に係るビフィズス菌増殖促進剤は、ここに例示するような、少なくとも1種の細菌の増殖を促進する。なお、本実施形態に係るビフィズス菌増殖促進剤によれば、少なくともBifidobacterium bifidum、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium infantisを含む複数種類の細菌に対して増殖促進効果を発揮する(実施例参照)。
【0027】
次に、1-ケストースは、スクロースに1分子のフルクトースが結合したフラクトオリゴ糖の一つであって、スクロースのフルクトースにフルクトースがβ(2,1)結合したものである。1-ケストースがビフィズス菌の増殖促進効果を有することは公知であるが、本発明は、1-ケストースと所定の栄養成分との併用によって双方のビフィズス菌への影響を上回る相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果を有する組み合わせであることに飛躍的な技術進歩を有している。
【0028】
化学物質としての1-ケストースは公知であり市販品が存在することから、本実施形態に係る製剤成分に市販品をそのまま使用できる。また、1-ケストースは、タマネギ、ニンニク、バナナ、オオムギ、ライムギ等の野菜、果物、穀物等にも含まれる。したがって、これら生物由来の抽出物等が製剤成分に使用されてもよい。
【0029】
1-ケストースの工業的製法としては、一例として、スクロースを基質として、特開昭58-201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより、製造することができる。具体的に、先ず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより、酵素反応を行って、酵素反応液を得る。この酵素反応液は1-ケストースを相当量含んでいることから、この糖液が製剤成分に使用されてもよい。
【0030】
或いは、当該酵素反応液を、特開2000-232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することにより、1-ケストースと他の糖(グルコース、フルクトース、スクロースおよび四糖以上のオリゴ糖等)とを分離して精製し、比較的高純度の1-ケストース溶液を得ることができる。この溶液が製剤成分に使用されてもよい。或いは、当該1-ケストース溶液を濃縮後、特公平6-70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1-ケストースの結晶や純度98質量%以上で1-ケストースを含有する組成物を得ることができる。この結晶や組成物が製剤成分に使用されてもよい。なお、ここでいう「純度」は、糖の総質量中の1-ケストースの質量%を意味する。或いは、市販のフラクトオリゴ糖から、上記の方法により、1-ケストースを精製したものや、さらに結晶化したもの等が製剤成分に使用されてもよい。
【0031】
1-ケストースは、通常知られている分析法のうち、分析試料の状況に適した方法により分析することが可能であり、当業者により分析試料の状況に応じて通常選択される方法を使用できる。常法として、分析試料を水に溶解し、或いは液体試料は必要に応じて水で希釈し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して糖組成を分析することで、1-ケストースの含有を分析できる。また、クロマトグラムのピーク面積の割合を質量の割合として、1-ケストースの含有量も算出できる。
【0032】
次に、1-ケストースと組み合わせ可能な栄養成分は、食物繊維、ポリフェノール、ビタミン類、脂質、アミノ酸、タンパク質、またはミネラルである所定の栄養成分で、これらのうち少なくとも1種類の成分と1-ケストースとを併用することで、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が得られる。なお、ここでいうビタミン類とは、ビタミンおよびその誘導体ならびにそれらの塩を含むことを意味する。
【0033】
栄養成分のうち、食物繊維としては、イソマルトデキストリン、グルコマンナン、レバン、およびβ-グルカンが挙げられる。いずれも公知の栄養成分で市販品が存在し、別称を含む各々の成分名を含む表示で流通する製品は少なくともここでいう各々の食物繊維成分に含まれる。また、各々の成分は自然界に存在するものもあり、例えば、グルコマンナンはコンニャクに含まれ、レバンはコムギ、オオムギ等のイネ科植物やユリ科植物に含まれ、Serratia levanicum(セラチア・レバニカム)等に例示されるSerratia属(セラチア属)の細菌等によっても産生される。また、β-グルカンは様々な植物、キノコ、また、Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)(酵母)等の微生物に含まれる。したがって、これら生物由来の抽出物や産生物等が製剤成分に使用されてもよい。なお、例えば、コンニャク芋を製粉化したコンニャク粉には相当量のグルコマンナンが含まれており、このような生物加工品が製剤成分に使用されてもよい。
【0034】
レバンは、スクロースのフルクトースにフルクトースがβ(2,6)結合で重合した直鎖状フラクタンであるが、β(2,6)結合の主鎖にβ(2,1)結合の分岐鎖を有していてもよい。例えば、特開2002-017390号公報に記載の方法等で製造することができる。β-グルカンは、グルコースがβ-グルコシド結合で重合した多糖で、栄養成分としてのβ-グルカンは、β-1,3-グルカン、β-(1,3)(1,4)-グルカンで、β(1,6)結合の分岐鎖を有していてもよい。例えば、特開2008-220172号公報に記載の方法等で製造することができる。グルコマンナンは、グルコースとマンノースとが所定の割合でβ(1,4)結合した多糖で、コンニャク芋からの抽出技術は周知技術であり、特開昭56-134972号公報に記載の方法等で製造することができる。
【0035】
イソマルトデキストリンは、通常のデキストリンと比べてα(1,6)グルコシド結合の分岐構造の割合が高い多分岐α-グルカンの一種である。すなわち、通常の澱粉を公知の方法で加水分解して得られるいわゆる通常のデキストリンは、グルコースがα(1,4)グルコシド結合で重合した多糖で、α(1,6)グルコシド結合の分岐鎖を有するα-グルカンであるが、イソマルトデキストリンは、通常のデキストリンと比べてα(1,6)グルコシド結合の分岐構造の割合が高いデキストリンである。イソマルトデキストリンは、例えば、国際公開第2008/136331号等に例示されるように、マルトースおよび/またはグルコース重合度3以上のα-1,4-グルカンを基質として、α-グルコシル転移酵素の転移反応によりα(1,6)グルコシド結合を合成して製造され、α-アミラーゼや澱粉枝切酵素等も適宜併用される。前述の通り、別称を含む各々の成分名を含む表示で流通する製品は少なくともここでいう各々の食物繊維成分に含まれる。
【0036】
また、栄養成分のうち、ポリフェノールとしては、ルチン、ケルセチン、カテキン、ヘスペリジン、ダイゼイン、p-クマル酸、カフェ酸、およびバニリンが挙げられる。カフェ酸はカフェイン酸もしくはコーヒー酸、バニリンはワニリンと呼称される場合がある。いずれも公知の栄養成分で市販品が存在し、別称を含む各々の成分名を含む表示で流通する製品は少なくともここでいう各々のポリフェノール成分に含まれる。また、各々の成分は植物体等に含まれ、これらの抽出物や産生物等が製剤成分に使用されてもよい。
【0037】
ここでいうカテキンは、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレートおよびエピガロカテキンガレートを含み、これらのうち少なくとも1種類を有していればよい。なお、2種類以上を有するときのカテキンの含有量としては含有する全種の合計量とする。
【0038】
また、ポリフェノールは配糖体として装飾されてもよい。すなわち、ルチンはケルセチン配糖体、ヘスペリジンはフラバノン配糖体であるが、ケルセチン、ダイゼイン、p-クマル酸、カフェ酸、およびバニリンも植物体等の中で配糖体として存在し得ることから、植物体等の抽出物や産生物等に含まれるこれらのポリフェノール成分が配糖体の形態で製剤成分に使用されてもよい。
【0039】
後述の実施例によれば、フラボノイド(フラボノール(ルチン、ケルセチン)、フラバノール(カテキン)、フラバノン(ヘスペリジン))およびイソフラボン(ダイゼイン)と比較して、p-クマル酸、カフェ酸、およびバニリンで、相対的に、より好適な相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が得られた。
【0040】
また、栄養成分のうち、ビタミン類としては、水溶性ビタミンとして、ビオチン、ナイアシン、パントテン酸、およびリボフラビンが挙げられ、これらのビタミンの誘導体、ならびに当該ビタミンおよび当該誘導体の塩を含む。
【0041】
ここでいうナイアシンは、ニコチン酸およびニコチン酸アミドを含む。また、ビタミンの誘導体や塩としては、食品や医薬品等に通常使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、リボフラビンの場合、誘導体として、リボフラビンリン酸エステル、リボフラビン酢酸エステル、リボフラビン酪酸エステル等のリボフラビンエステルや、フラビンアデニンジヌクレオチド等が例示され、塩として、リボフラビンリン酸エステルナトリウム、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム等が例示される。
【0042】
ビオチンはビタミンB7、ナイアシンはビタミンB3、パントテン酸はビタミンB5、リボフラビンはビタミンB2もしくはラクトフラビンと呼称される場合がある。いずれも公知の栄養成分で市販品が存在し、別称を含む各々の成分名を含む表示で流通する製品は少なくともここでいう各々のビタミン類成分に含まれる。ビタミン類の天然および合成の別は限定されない。
【0043】
さらに、ビタミン類としては、脂溶性ビタミンとして、ビタミンEおよびビタミンDが挙げられ、これらのビタミンの誘導体、ならびに当該ビタミンおよび当該誘導体の塩を含む。
【0044】
ビタミンEは、トコフェロールおよびトコトリエノールを含み、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、σ-トコフェロール、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、およびσ-トコトリエノールを含む。d体またはdl体のいずれであってもよい。ビタミンDは、ビタミンD2であるエルゴカルシフェロール、およびビタミンD3であるコレカルシフェロールを含む。また、ビタミンの誘導体や塩としては、食品や医薬品等に通常使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、ビタミンEの場合、トコフェロールまたはトコトリエノールの酢酸エステル、ニコチン酸エステル、リン酸エステル等の誘導体や、ビタミンDの場合、エルゴカルシフェロールまたはコレカルシフェロールの硫酸エステル等の誘導体、さらにこれらの塩等が例示される。ビタミンEおよびビタミンDはいずれも公知の栄養成分で市販品が存在し、別称を含む各々の成分名を含む表示で流通する製品は少なくともここでいう各々のビタミン類成分に含まれる。ビタミン類の天然および合成の別は限定されない。
【0045】
後述の実施例によれば、脂溶性ビタミン(ビタミンEおよびビタミンD)と比較して、水溶性ビタミン(ビタミンB群:ビオチン、ナイアシン、パントテン酸、およびリボフラビン)で、相対的に、より好適な相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が得られた。
【0046】
また、栄養成分のうち、脂質としては、アラキドン酸およびα-リノレン酸が挙げられる。いずれも公知の栄養成分で市販品が存在し、別称を含む各々の成分名を含む表示で流通する製品は少なくともここでいう各々の脂質成分に含まれる。
【0047】
また、脂質としては、アラキドン酸およびα-リノレン酸を構成脂肪酸とする化合物を含む。これらの脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物としては、食品や医薬品等に通常使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、アラキドン酸またはα-リノレン酸を構成脂肪酸として比較的高い濃度で含む油脂(例えば、α-リノレン酸を比較的高濃度で含むシソ油、アマニ油、エゴマ油等)や、当該脂肪酸のエステル、特にアラキドン酸を含むトリグリセリド、リン脂質、糖脂質、その他アラキドン酸塩等が例示される。
【0048】
また、栄養成分のうち、アミノ酸としてはγ-アミノ酪酸(GABA)、タンパク質としては、大豆タンパク質、ホエイタンパク質、およびラクトフェリンが挙げられる。大豆タンパク質は大豆由来のタンパク質である。ホエイタンパク質は、乳由来のタンパク質(乳タンパク質)に含まれるカゼイン以外のタンパク質である。ラクトフェリンは、乳(ホエイ)、その他涙、汗、唾液等の外分泌液等に含まれる鉄結合性の糖タンパク質である。いずれも公知の栄養成分で市販品が存在し、別称を含む各々の成分名を含む表示で流通する製品は少なくともここでいう各々のアミノ酸成分またはタンパク質成分に含まれる。
【0049】
また、栄養成分のうち、ミネラルとしては、カルシウムおよびカリウムが挙げられる。これらのミネラルは、イオンとして液状の製剤中に含まれていてもよい。製剤成分として使用されるミネラル源としては、食品や医薬品として配合が許容可能なものであれば、特に制限されない。カルシウム源としては、例えば、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム等が例示される。カリウム源としては、乳酸カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム(リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム)、グルコン酸カリウム、アスコルビン酸カリウム、グルタミン酸カリウム等が例示される。これらのミネラル(ミネラル源)はいずれも公知の栄養成分で市販品が存在し、別称を含む各々の成分名を含む表示で流通する製品は少なくともここでいう各々のミネラル成分に含まれる。
【0050】
以上の本実施形態に係る栄養成分には、特記した以外に、当該栄養成分の摂取(投与)を目的として配合されていることが当業者に理解され得る範囲において、各成分の誘導体、各成分および誘導体の塩、中間体、前駆体、その他各成分を含む化合物が含まれる。また、各栄養成分は、通常知られている分析法のうち、分析試料の状況に適した方法により分析することが可能であり、当業者により分析試料の状況に応じて通常選択される方法を使用できる。
【0051】
本実施形態に係るビフィズス菌の増殖促進剤(以下、本剤)は、含有成分として規定される1-ケストースおよび所定の栄養成分以外の成分は限定されず、他の栄養成分(糖質、食物繊維、ポリフェノール、ビタミン類、ビタミン様物質、脂質、アミノ酸、タンパク質、ミネラル等)その他の食品成分や、薬効成分、生薬等を含んでいてもよい。本剤は、1-ケストースおよび所定の栄養成分を含むプレバイオティクスとして提供することができる。これを摂取(投与)することで、腸内に常在するビフィズス菌の増殖を促進できる。或いは、プレバイオティクスとしての1-ケストースおよび所定の栄養成分にプロバイオティクスであるビフィズス菌を加えることで、本剤は、1-ケストースおよび所定の栄養成分ならびにビフィズス菌を含むシンバイオティクスとしても提供することができる。これを摂取(投与)することで、摂取(投与)されたビフィズス菌および腸内に常在するビフィズス菌の増殖を促進できる。
【0052】
また、本剤の剤型は限定されず、一例として、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤(サプリメントを含む)、また、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、また、注射剤等の非経口用液体製剤、等の剤型に適宜成形することができる。また、適切なドラッグデリバリーシステム(DDS)が適用されてもよい。公知の方法により適宜各剤型に成形、製剤化が可能で、成形、製剤化に際して通常添加される賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、崩壊剤、増粘剤、保存剤、安定化剤、pH調整剤等の添加物等が本剤に含まれていてもよい。また、本剤の投与方法も限定されず、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与、局所投与等を適宜選択することができる。また、1日当たり単回または複数回に分けて投与されてもよい。
【0053】
また、本剤は、それ自体を食品、医薬品等として適用できる。或いは、本剤を、食品組成物、医薬品組成物等としても適用できる。すなわち、本剤を組成物として適用する場合、組成物としての本剤が配合された食品、医薬品等の形態を取ることができる。換言すると、組成物としての本剤を含む食品、医薬品等の形態を取ることができる。ここでいう「医薬品」は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の第2条第1項に規定する医薬品から同項第2号および第3号の末尾のかっこ書を除いたものを意味し、すなわち医薬部外品を含む。ここでいう「食品」は、飲食される物全般を意味し、飲料を含む。
【0054】
本剤を食品または食品組成物として適用する場合、本剤である食品または本剤を含む食品を、特に、ビフィズス菌の増殖促進およびそれに準ずる保健機能を目的として摂取する食品として適用することができる。すなわち、健康増進法に基づく特定保健用食品や、食品表示法に基づく機能性表示食品等として、特定の保健機能を表示・標榜した製品として適用可能性がある。
【0055】
なお、組成物としての本剤を含む製品の形態も限定されない。すなわち、組成物としての本剤を含む食品、医薬品等もまた、本剤同様に、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤(サプリメントを含む)、また、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、また、注射剤などの非経口用液体製剤、等の剤型の形態であってもよい。したがって、1-ケストースと栄養成分とを含む製剤は、本剤そのものとしての食品、医薬品等に該当すると共に、組成物としての本剤を含む食品、医薬品等にも該当する場合がある。
【0056】
さらに、1-ケストースは、ヒトが日常的に摂取する食物にも含まれており、古来より食経験を有する物質であること、また、毒性試験および遺伝毒性試験においても毒性および変異原性が認められていないことから、高い安全性を有する食品成分として使用可能である(食品と開発、2014年12月、Vol.49、No.12、p.8-10)。そのため、本剤は、後述の実施例においてビフィズス菌の増殖促進効果が認められた量を超えて1-ケストースを含んでもよく、摂取(投与)されてもよい。一方、耐容上限量が設定されている栄養成分はそれを超えない範囲で摂取(投与)される必要があるが、後述の実施例では、本実施形態に係るいずれの栄養成分も耐容上限量を超えない範囲で、1-ケストースとの組み合わせによりビフィズス菌の増殖促進効果が得られた。
【0057】
また、1-ケストースは、吸湿性がきわめて低く、溶解性および耐熱性に優れることから、食品加工時の利便性が高く、さらに、砂糖に類似した甘味を示すことから、砂糖の代替品としても使用可能である。このような1-ケストースの特性を活かして、組成物としての本剤を含む食品は、例えば、1-ケストースおよび所定の栄養成分が配合された、ガム、グミ、キャンディーその他の菓子、また、フレーク状もしくはパフ状のシリアル、また、バー、ゼリー、ドリンクゼリー、嚥下食品、飲料等の各種の食品として好適に適用できる。
【実施例0058】
1-ケストースと所定の栄養成分とを含む系におけるビフィズス菌の培養試験を行った。試験には以下の1-ケストースおよび栄養成分を使用した(なお、成分名または試薬名そのものの名称で流通しているものについては製品名を表記しない)。
1-ケストース(iKesクリスタル(登録商標)(純度95質量%)、伊藤忠製糖(株))
食物繊維:イソマルトデキストリン((株)林原)、グルコマンナン(レオックスLM(登録商標)、清水化学(株))、レバン(シグマアルドリッチジャパン合同会社)、β-グルカン(クルルのβグル(登録商標)、伊藤忠製糖(株))
ポリフェノール:ルチン(東京化成工業(株))、ケルセチン(東京化成工業(株))、カテキン(東京化成工業(株))、ヘスペリジン(富士フイルム和光純薬(株))、ダイゼイン(富士フイルム和光純薬(株))、p-クマル酸(富士フイルム和光純薬(株))、カフェ酸(東京化成工業(株))、バニリン(東京化成工業(株))
ビタミン:ビオチン(富士フイルム和光純薬(株))、ナイアシン(富士フイルム和光純薬(株))、パントテン酸(富士フイルム和光純薬(株))、リボフラビン(富士フイルム和光純薬(株))、α-トコフェロール(富士フイルム和光純薬(株))、コレカルシフェロール(富士フイルム和光純薬(株))
脂質:アラキドン酸(富士フイルム和光純薬(株))、α-リノレン酸(富士フイルム和光純薬(株))
アミン酸、タンパク質:γ-アミノ酪酸(富士フイルム和光純薬(株))、大豆タンパク質(Solpro 741(分離大豆タンパク)、サンブライト(株))、ホエイタンパク質(THERMAX 690、日成共益(株))、ラクトフェリン(Bioferrin 2000、日成共益(株))
ミネラル:塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬(株))、リン酸水素二カリウム(富士フイルム和光純薬(株))
【0059】
培地は以下のように調製した。
TPY培地(ハイポリペプトン、日本製薬(株))10g、酵母エキス(日本ベクトン・ディッキンソン(株))5g、Tween80(東京化成工業(株))2g、KHPO(富士フイルム和光純薬(株))3g、L-システイン塩酸塩-水和物(富士フイルム和光純薬(株))1g、MgSO・7HO(富士フイルム和光純薬(株))2.6g、CaCl(富士フイルム和光純薬(株))0.3g、FeCl・6HO(富士フイルム和光純薬(株))6mg、および1mg/Lに調整したレサズリンナトリウム塩(東京化成工業(株))2mLを、1Lの水に溶解させて調製したTPY培地)を基礎培地とした。
【0060】
96ディープウェルプレートにTPY培地を500μL、さらに、段階希釈した主剤である1-ケストースおよび併用剤である各栄養成分を、ならびに適量の水を、表1に示す濃度になるように合計を1mLにして[Kes+栄養成分添加培地](検証培地d)を調製した。また、検証培地dの栄養成分(溶液)分を水に置き換えた[Kes添加培地](検証培地c)、検証培地dの1-ケストース(溶液)を水に置き換えた[栄養成分添加培地](検証培地b)、TPY培地を500μLに適量の水を加えて合計を1mLにして調製した[無添加培地](検証培地a)を、それぞれ調製した。これにより下記の4区の試験区を設定した。
試験区a(検証培地a):TPY培地+水(無添加培地)
試験区b(検証培地b):TPY培地+栄養成分+水 (栄養成分添加培地)
試験区c(検証培地c):TPY培地+1-ケストース+水(Kes添加培地)
試験区d(検証培地d):TPY培地+1-ケストース+栄養成分+水(Kes+栄養成分添加培地)
【0061】
【表1】
【0062】
増殖促進を検証するビフィズス菌として、RIKEN BRC-JCM提供のBifidobacterium bifidum(JCM 1209)、Bifidobacterium longum(JCM 1217)、およびBifidobacterium infantis(JCM 1222)を培養対象に使用した。炭素源としてグルコースを0.5質量%含むTPY培地を前培養の培地として使用し、3種類の細菌を16時間~24時間培養後、各検証培地に培地1mL当たり2質量%となる20μLをそれぞれ植菌し、培養した。
【0063】
ビフィズス菌の増殖量は、培養開始後24時間および48時間経過時点で測定し、算出した。具体的には、培養開始後24時間および48時間経過時点での各検証培地の濁度測定値から培養開始時点での濁度測定値をBlank値としてそれぞれ差し引いて算出した正味の濁度を表す濁度増加量を、各検証培地における当該時点でのビフィズス菌の増殖量とした。濁度の測定はプレートリーダー(Sunrise Rainbow、Tecan社)を使用し、吸光度波長660nmにおける濁度を測定した。また、培養開始時点の濁度は、植菌前の各検証培地の濁度を測定した。
【0064】
算出したビフィズス菌の増殖量に基づいて、ビフィズス菌の増殖促進効果を評価した。増殖促進効果の評価は、前述の本文の規定に沿って、
[(Kesと栄養成分とを併用したときの増殖促進効果または増殖抑制効果)/(栄養成分のみを添加したときの増殖促進効果または増殖抑制効果)]
を表す、(d/c) / (b/a) を算出した(ここでのdは試験区d(検証培地d)での増殖量、cは試験区c(検証培地c)での増殖量、bは試験区b(検証培地b)での増殖量、aは試験区a(検証培地a)での増殖量を表す)。
そして、(b/a) ≧ 1.00のとき、(d/c) / (b/a) >1.00 を満たし、(d/c) > 1.00 であるとき、相乗的なビフィズス菌の増殖促進効果であると評価した。
また、(b/a) < 1.00のとき、(d/c) / (b/a) >1.00 を満たし、(d/c) > 1.00 であるとき、相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果であると評価した。
さらに、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果の程度を以下の基準で区分した。
(d/c) / (b/a) = 1.00以下の場合:効果無し(空欄)
= 1.00を上回り1.05未満:効果あり(+)
= 1.05以上1.10未満:効果あり(++)
= 1.10以上1.20未満:効果あり(+++)
= 1.20以上2.00未満:効果あり(*)
= 2.00以上:効果あり(**)
結果を表2-表7に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すように、1-ケストース5mg/mLに対して、5mg/mLの比率でそれぞれ組み合わせたイソマルトデキストリン、グルコマンナン、レバン、およびβ-グルカンそれぞれの併用は、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果を発揮した。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示すように、1-ケストース5mg/mLに対して、20μg/mL以上の比率で組み合わせたルチン、100μg/mLの比率で組み合わせたケルセチン、2μg/mL~20μg/mLの比率で組み合わせたカテキン、2μg/mL以上の比率で組み合わせたヘスペリジン、100μg/mLの比率で組み合わせたダイゼイン、2μg/mL以上の比率で組み合わせたp-クマル酸、2μg/mL以上の比率で組み合わせたカフェ酸、および2μg/mL以上の比率で組み合わせたバニリンそれぞれの併用は、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果を発揮した。
【0069】
フラボノイド(フラボノール(ルチン、ケルセチン)、フラバノール(カテキン)、フラバノン(ヘスペリジン))およびイソフラボン(ダイゼイン)と比較して、p-クマル酸、カフェ酸、およびバニリンで、相対的に、より好適な相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が発揮された。
【0070】
【表4】
【0071】
表4に示すように、1-ケストース5mg/mLに対して、0.1μg/mL以上の比率で組み合わせたビオチン、17μg/mL以上の比率で組み合わせたナイアシン、2μg/mL以上の比率で組み合わせたパントテン酸、0.5μg/mL以上の比率で組み合わせたリボフラビン、2μg/mL以上の比率で組み合わせたα-トコフェロール、および100μg/mLの比率で組み合わせたコレカルシフェロールそれぞれの併用は、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果を発揮した。
【0072】
脂溶性ビタミン(α-トコフェロールおよびコレカルシフェロール)と比較して、水溶性ビタミン(ビタミンB群:ビオチン、ナイアシン、パントテン酸、およびリボフラビン)で、相対的に、より好適な相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が発揮された。特にパントテン酸で好適な相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が発揮された。
【0073】
【表5】
【0074】
表5に示すように、1-ケストース5mg/mLに対して、20μg/mL以上の比率で組み合わせたアラキドン酸、および2μg/mL以上の比率で組み合わせたα-リノレン酸それぞれの併用は、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果を発揮した。
【0075】
【表6】
【0076】
表6に示すように、1-ケストース5mg/mLに対して、2μg/mL以上の比率で組み合わせたγ-アミノ酪酸、500μg/mLの比率で組み合わせた大豆タンパク質、500μg/mL以上の比率で組み合わせたホエイタンパク質、および2000μg/mLの比率で組み合わせたラクトフェリンそれぞれの併用は、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果を発揮した。特にγ-アミノ酪酸で好適な相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が発揮された。
【0077】
【表7】
【0078】
表7に示すように、1-ケストース5mg/mLに対して、3mg/mLの比率で組み合わせた塩化カルシウム、および6mg/mL以上の比率で組み合わせたリン酸水素二カリウムそれぞれの併用は、相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果を発揮した。特にリン酸水素二カリウムで好適な相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果が発揮された。
【0079】
なお、ここには本発明をサポートするデータを示したが、試験にはここに示した以外の栄養成分も供試した。それらについては必ずしも相乗的なまたは相殺的なビフィズス菌の増殖促進効果は発揮されず、本発明(特許請求の範囲に係る発明)が様々な栄養成分の検証に基づく鋭意研究の成果としての組み合わせであることを示している。
図1