(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165871
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】速硬性モルタル組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241121BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20241121BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/06 Z
C04B22/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082431
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】瀬谷 昌明
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112MB06
4G112PB03
4G112PB08
(57)【要約】
【課題】調製直後は流動性があり、3Dプリンターのノズルから押し出しできる柔らかさを有し、且つ、押し出し後は自立可能で、10分以内で上に材料が積層されても、潰壊したり崩壊したりすることのない速硬性モルタル組成物を提供する。
【解決手段】水硬性セメントと骨材と水と非晶質水酸化アルミニウムとを含む速硬性モルタル組成物であって、調製直後の該速硬性モルタル組成物についてJIS R5201:2015に規定するフロー試験で測定した打撃前のフロー値が100~120mmであり、同打撃後のフロー値が135~250mmである速硬性モルタル組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性セメントと骨材と水と非晶質水酸化アルミニウムとを含む速硬性モルタル組成物であって、調製直後の該速硬性モルタル組成物についてJIS R5201:2015に規定するフロー試験で測定した打撃前のフロー値が100~120mmであり、同打撃後のフロー値が135~250mmである速硬性モルタル組成物。
【請求項2】
更に、アルカリ金属炭酸塩を含む請求項1に記載の速硬性モルタル組成物。
【請求項3】
更に、石灰を含む請求項1又は2に記載の速硬性モルタル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木、建築分野で使用する速硬性モルタル組成物に関する。具体的には3Dプリンターに好適に用いられる速硬性モルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築分野、その他の幅広い分野において、3Dプリンターを用いた、住宅、構造物の建築や構造部材の製造が検討されている。その際に使用される材料は、基本的には水硬性セメントと骨材と水からなるモルタルである。即ち、水硬性セメント単独では硬化後の収縮が大きくひび割れ等の不具合の原因となることから、骨材を加えた材料が使用されている。
【0003】
3Dプリンターによる造形物の構築は、コンピュータで作成した造形データに従って、3Dプリンターのノズルからモルタルをベッド(台)上に押し出し、押し出したモルタルの硬化層を形成し、この硬化層上に、更にモルタルをノズルから押し出して、モルタルの押し出しと硬化とを繰り返して高さ方向に順次硬化層を積層してゆくことで行われる。このため、3Dプリンター用のモルタルには、3Dプリンターのノズルから押し出し可能な柔らかさと、押し出し後には形状を保ったまま動かない自立性を有し、且つ、その上に更にモルタルが積層されても潰壊したり崩壊しなりしないことが望まれる。
【0004】
このため、例えば特許文献1には、水硬性セメント、骨材及び水と、特定の分散剤、増粘剤、遅延剤、非晶質カルシウムアルミノシリケート、セッコウ、及び短繊維を含有する、自立性、強度発現性に優れた材料が提案されている。
【0005】
また、硬化促進性能を付与する材料としては、特許文献2に、石灰及び水を含む主材液を硬化させるために該主材液に混合して用いる硬化材であって、乾燥水酸化アルミニウムゲル(非晶質の水酸化アルミニウム)及びアルカリ金属炭酸塩を含むことを特徴とする硬化材、および、硬化材液、土質安定用薬液が開示されている。
また、特許文献3には、比較例としてセメントと水の混合物に非晶質の水酸化アルミニウムを添加することによりセメントスラリーの粘度が上がることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-140906号公報
【特許文献2】特開2021-42088号公報
【特許文献3】特開2001-348257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、各種の添加剤を含有させることにより、自立性、強度発現性に優れた材料が提案されているが、ここで示されている実施例の硬化時間は25分以上で、傾斜がある構造物のように積層後に崩れやすい状態での使用には不適合であり、更に速い硬化時間が望まれる。
特許文献2では、非晶質水酸化アルミニウムを含む硬化材と主材液を混ぜることで、混合後10秒程度でゲル化する例が記載されている。しかし、本材料は地盤改良を対象とするものであり、骨材を含まず、自立を必要とせず、セメントに対する水の量が多い水硬性セメントスラリー(液体)に関するものであり、10秒程度でゲル化するとの記載はあるものの、ゲル化以降の薬液の硬さに関する記載はない。
特許文献3では、非晶質の水酸化アルミニウムを添加することで、セメントと水のスラリーの粘度が上がることの記載はあるが、3Dプリンターで積層された場合に、潰れないレベルの硬さになるまでの事象に関する記載はない。
【0008】
本発明は上記従来技術の課題に鑑み、調製直後は流動性があり、3Dプリンターのノズルから押し出しできる柔らかさを有し、且つ、押し出し後は自立可能で、10分以内で上に材料が積層されても、潰壊したり崩壊したりすることのない速硬性モルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[3]の態様を包含する。
【0010】
[1] 水硬性セメントと骨材と水と非晶質水酸化アルミニウムとを含む速硬性モルタル組成物であって、調製直後の該速硬性モルタル組成物についてJIS R5201:2015に規定するフロー試験で測定した打撃前のフロー値が100~120mmであり、同打撃後のフロー値が135~250mmである速硬性モルタル組成物。
[2] 更に、アルカリ金属炭酸塩を含む[1]に記載の速硬性モルタル組成物。
[3] 更に、石灰を含む[1]又は[2]に記載の速硬性モルタル組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、調製直後は柔らかく流動性があることで3Dプリンターでのノズルからの押し出しが可能であり、且つ、押し出し後は形を維持したまま自立することができ、その後10分程度で硬くなることで、早い段階で上部にセメントモルタルが積層されても崩れることなく、3Dプリンターによる積層造形に適した速硬性モルタル組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
[速硬性モルタル組成物の成分組成]
本発明の速硬性モルタル組成物は、水硬性セメント、骨材、水、及び非晶質水酸化アルミニウムを含有する。また、本発明の速硬性モルタル組成物は、更にアルカリ金属炭酸塩、石灰、その他の添加剤を含有してもよい。
以下、各成分について説明する。
【0014】
(水硬性セメント)
水硬性セメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、中庸熱及び白色などのポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなどの混合セメント、微粒子セメント、超微粒子セメント、極超微粒子セメントや高炉水砕スラグ、アルミナセメントが挙げられる。石灰の存在により水硬性を示すことから、水硬性セメントとしてはポゾラン反応性物質も含まれる。該ポゾラン反応性物質としては、例えば、シリカヒューム、フライアッシュ、活性カオリン等が挙げられる。
水硬性セメントは、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0015】
(骨材)
骨材としては、特に限定されないが、3号、4号、5号、6号、7号、8号等の各種サイズの珪砂、フライアッシュバルーン、シラスバルーン等の軽量骨材、豊浦砂等が挙げられる。
骨材は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
骨材の粒径としては、50%粒径で、0.1~3mmが好ましく、0.2~1mmがより好ましく、0.3~0.7mmが更に好ましい。骨材の粒径が上記下限値以上であれば、同量の水でも流動性が上がり、強度も上がるという観点で好ましく、上記上限値以下であれば、形状を保持しやすいという観点で好ましい。
【0016】
本発明の速硬性モルタル組成物において、骨材の含有量は、水硬性セメント100質量部に対する骨材の含有量として、50~500質量部が好ましく、100~300質量部がより好ましい。骨材の含有量が上記下限値以上であれば、セメントの収縮が抑制され、ひび割れの抑制ができるという観点で好ましく、上記上限値以下であれば、強度が上昇するという観点で好ましい。
【0017】
(水)
水としては、例えば、上水、工業用水、地下水、河川水、海水などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果を充分に発揮させるためには、上水や工業用水が好ましい。
【0018】
本発明の速硬性モルタル組成物において、水の含有量は、水とセメントの比率(水/セメント比)で0.2~1.5が好ましく、0.5~1.0が更に好ましい。水/セメント比が上記下限値以上であれば、流動性が増すという観点で好ましい。一方、上記上限値以下であれば、強度が上昇するという観点から好ましい。
【0019】
(非晶質水酸化アルミニウム)
本発明において非晶質水酸化アルミニウムは、非晶質の水酸化アルミニウムをすべて含む。非晶質水酸化アルミニウムの例としては、乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末があり、アルマイト処理で発生するアルミスラッジ等が挙げられる。
なかでも活性が高いという観点から、乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末が好ましい。
【0020】
乾燥水酸化アルミニウムゲルは、Al(OH)3・mH2Oの化学組成を持つ化合物であり、非晶質の水酸化アルミニウムである。乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末としては、例えば、日本薬局方の医療用制酸剤・潰瘍治癒剤等に用いられるものが挙げられるが、工業用として、吸着剤等に用いられる乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末が好ましい。乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末の酸化アルミニウム含有量は45%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。酸化アルミニウム含有量が45%以上であれば、反応性が高くなり速硬性に優れる。
また、乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末の粒子径は、レーザー回折散乱法によるメジアン径で40~120μmが好ましく、60~100μmが更に好ましい。メジアン径が上記下限値以上であれば、粒子が舞い難く、取扱い性がよくなる。一方、上記上限値以下であれば、粒子の沈降が抑えられるとともに、反応性が高くなり速硬性に優れる。
【0021】
本発明の速硬性モルタル組成物において、非晶質水酸化アルミニウムの含有量は、水硬性セメント100質量部に対する非晶質水酸化アルミニウムの含有量として、10~0.2質量部が好ましく、5~0.5質量部がより好ましく、3~1質量部が更に好ましい。非晶質水酸化アルミニウムの含有量が上記下限値以上であれば、非晶質水酸化アルミニウムによる速硬性付与効果を十分に得ることができる点で好ましく、上記上限値以下であれば、調製直後の流動性維持効果を十分に得ることができる点で好ましい。
【0022】
(アルカリ金属炭酸塩)
アルカリ金属炭酸塩は、速硬性を付与する非晶質水酸化アルミニウムとの組み合わせにおいて、更に速硬性を付与する成分である。
【0023】
アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3などのアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩は一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0024】
本発明の速硬性モルタル組成物がアルカリ金属炭酸塩を含有する場合、アルカリ金属炭酸塩の含有量は、非晶質水酸化アルミニウムに対する質量比で、0.5~2の範囲とすることが好ましい。
また、非晶質水酸化アルミニウムとアルカリ金属炭酸塩の合計の含有量は、水硬性セメント100質量部に対して0.2~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましく、1~2質量部が更に好ましい。
即ち、非晶質水酸化アルミニウムとアルカリ金属炭酸塩とを併用することによる速硬性の相乗的な向上効果により、これらの配合量を非晶質水酸化アルミニウム単独の場合よりも少なめにすることができる。
【0025】
(石灰)
石灰は、速硬性を付与する非晶質水酸化アルミニウムとの組み合わせにおいて、更に速硬性を付与する成分であり、非晶質水酸化アルミニウムとアルカリ金属炭酸塩と石灰との組み合わせにおいても、非晶質水酸化アルミニウムが少ない状態で速い硬化性を付与できる。
【0026】
石灰は、水中で水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の形をとるものであり、例えば、消石灰(Ca(OH)2)や生石灰(CaO)が挙げられる。中でも、取扱いが容易な消石灰が好ましい。
【0027】
石灰のブレーン値は6000~30000cm2/gが好ましく、8000~20000cm2/gがより好ましい。石灰のブレーン値が上記下限値以上であれば、速硬性が上がる点で優れる。一方、上記上限値以下であれば、速硬性モルタル組成物の粘性が低下するとともに、水との混合時に凝集が起こりにくくなる。
石灰は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0028】
本発明の速硬性モルタル組成物が石灰を含有する場合、石灰の含有量は、非晶質水酸化アルミニウムに対する質量比で、0.2~2の範囲とすることが好ましい。
また、非晶質水酸化アルミニウムと石灰の合計の含有量は、水硬性セメント100質量部に対して0.2~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましく、1~2質量部が更に好ましい。
即ち、非晶質水酸化アルミニウムと石灰とを併用することによる速硬性の相乗的な向上効果により、これらの配合量を非晶質水酸化アルミニウム単独の場合よりも少なめにすることができる。
特に、本発明の速硬性モルタル組成物が、非晶質水酸化アルミニウムと共に、アルカリ金属炭酸塩及び石灰を含有する場合、これらの3成分による速硬性の相乗的な向上効果により、非晶質水酸化アルミニウムとアルカリ金属炭酸塩と石灰の合計の含有量は、水硬性セメント100質量部に対して0.2~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましく、1~2質量部が更に好ましい。
【0029】
(アルカリ金属水酸化物)
本発明の速硬性モルタル組成物は、更にアルカリ金属水酸化物を含有することで、速硬性をより上げることができる。
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、LiOH、NaOH、KOHなどが挙げられる。
アルカリ金属水酸化物は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0030】
本発明の速硬性モルタル組成物がアルカリ金属水酸化物を含有する場合、アルカリ金属水酸化物の含有量は、非晶質水酸化アルミニウムに対する質量比で、0.2~1の範囲とすることが好ましい。
【0031】
(アルカリ金属珪酸塩)
本発明の速硬性モルタル組成物は、更にアルカリ金属珪酸塩を含有することで、速硬性をより上げることができる。
アルカリ金属珪酸塩としては、例えば、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムなどが挙げられる。
アルカリ金属珪酸塩は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0032】
アルカリ金属珪酸塩としては、アルカリ金属オルト珪酸塩、アルカリ金属セスキ珪酸塩、アルカリ金属メタ珪酸塩、アルカリ金属1号珪酸塩、アルカリ金属2号珪酸塩、アルカリ金属3号珪酸塩、アルカリ金属4号珪酸塩の水溶液、粒状品、粉末品が挙げられる。中でも反応性を高める効果が高い点から、アルカリ度の高いアルカリ金属オルト珪酸塩が好ましく、オルト珪酸ナトリウムが更に好ましい。
【0033】
本発明の速硬性モルタル組成物がアルカリ金属珪酸塩を含有する場合、アルカリ金属珪酸塩の含有量は、非晶質水酸化アルミニウムに対する質量比で、0.2~1の範囲とすることが好ましい。
【0034】
(その他の添加剤)
本発明の速硬性モルタル組成物は、更に、その他の添加剤として増粘剤を含有していてもよい。
増粘剤としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエーテル系;ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド-ポリアクリル酸ソーダ共重合物、ポリアクリルアミド部分加水分解物などのアクリル系ポリマー;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、アルギン酸ソーダ、カゼイン、天然多糖類誘導体などの水溶性ポリマーなど各種の増粘剤が挙げられる。
これらの増粘剤は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0035】
更に、本発明の速硬性モルタル組成物は、消泡剤や硬化遅延剤、減水剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
消泡剤としては、高級アルコール系、アルキルフェノール系、ジエチレングリコール系、ジブチルフタレート系、非水溶性アルコール系、トリブチルホスフェート系、ポリグリコール系、シリコーン系、酸化エチレン-酸化プロピレン共重合物のようなポリエーテル系などの消泡剤が挙げられる。
これらの消泡剤は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0037】
減水剤としては、減水性能に優れた高性能減水剤を用いることが好ましく、例えば、ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物系、リグニンスルホン酸塩又はその誘導体系、メラミンホルマリン縮合物系(スルホン酸塩、(変性)メチロール)、ポリカルボン酸系、アミノスルホン酸系、ポリエーテル系を主成分とする減水剤が挙げられる。ここで「主成分」とは通常全体の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%~100質量%を占める成分をいう。
これらの減水剤は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0038】
硬化遅延剤としては、有機カルボン酸(塩)、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコヘプトン酸、オキシマロン酸、粘液酸、グルクロン酸、ラクトビオン酸等のオキシカルボン酸、及びこれらのオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩等が挙げられる。また、グルタミン酸等のアミノカルボン酸、及びこれらのアミノカルボン酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、ゲル化直後のゲル強度の立ち上がりの観点からオキシカルボン酸及び/又はその塩が好ましく、クエン酸、クエン酸のナトリウム塩、グルコン酸、グルコン酸のナトリウム塩が特に好ましい。
これらの硬化遅延剤は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0039】
更に、本発明の速硬性モルタル組成物は、硫酸イオン供給源として、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩を含有していてもよい。
更に、本発明の速硬性モルタル組成物は、繊維を含有していてもよい。繊維の含有により、材料の収縮や動きによるクラックの発生を抑制することが出来る。繊維としては、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、鋼繊維、炭素繊維等が挙げられる。
繊維の長さは、0.1~40mmが好ましく、1~30mmがより好ましく、3~10mmが更に好ましい。繊維が長くなることでクラックの発生抑制性能が向上すると観点で好ましく、繊維が短いことで流動性が上がるという観点から好ましい。
更に、トチクレーやベントナイト等の粘土鉱物を含有しても良い。粘土鉱物の含有により、チクソ性が上がり、押し出しがしやすい状態で押し出し後の形状維持性能を上げることが出来る。
【0040】
[打撃前後のモルタルフロー値]
本発明の速硬性モルタル組成物は、調製直後の速硬性モルタル組成物についてJIS R5201:2015(セメントの物理試験方法)に規定するフロー試験で測定した打撃前後のフロー値が以下の通り、特定の値となることを特徴とする。
ここで、「調製直後の速硬性モルタル組成物」とは、本発明の速硬性モルタル組成物を構成する全成分を混合した直後の速硬性モルタル組成物をさし、また、「直後」とは全成分混合後、10秒以内をさす。
本発明の速硬性モルタル組成物を調製する際の各材料の混合順序には特に制限はないが、一般的には、後掲の実施例に示されるように、水硬性セメントと骨材と水との混合物(モルタル)に、少量成分である非晶質水酸化アルミニウムを添加混合して調製されるため、この調製直後とは、通常水硬性セメントと骨材と水との混合物(モルタル)に非晶質水酸化アルミニウムを添加混合した直後である。
その他添加物については、水硬性セメントと骨材と水との混合物(モルタル)中に事前に混合されていることが好ましい。通常、水硬性セメントと骨材とその他添加物を混合したものを水と混練して作製する。
アルカリ金属炭酸塩についても、水硬性セメントと混合することで流動性が低下することから、通常、水硬性セメントと骨材と水との混合物に対して、非晶質水酸化アルミニウムと共に添加混合されるため、添加混合した直後が調製直後となる。
石灰については、水硬性セメントと混合しても流動性が低下しないことから、水硬性セメントと骨材と水との混合物(モルタル)中に事前に混合しても良いし、非晶質水酸化アルミニウムゲルとともに混合しても良い。混ざりをよくするという観点で、水硬性セメントと骨材と水との混合物(モルタル)中に事前に混合した方が好ましい。
アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属珪酸塩については、水硬性セメントと混合することで流動性が低下することから、通常、水硬性セメントと骨材と水との混合物に対して、非晶質水酸化アルミニウムと共に添加混合されるため、添加混合した直後が調製直後となる。
なお、フロー値は、JIS R5201:2015(セメントの物理試験方法)で規定する市販のフロー値測定用の試験器により測定することができる。
【0041】
(打撃前のフロー値)
JIS R5201:2015に規定するフロー試験において、15秒間に15回の打撃を行う前、即ち、打撃回数ゼロにおいて、フローコーンを垂直に持ち上げた際の下部のモルタルの広がり(直径:最大と認める方向とその直角の平均値)を測定する。この値が100~120mmとなることで、3Dプリンターのノズルからの押し出し後、形状を維持したまま、自立することが可能となる。自立性の観点から、打撃前のフロー値は、100~120mmであることが好ましい。
【0042】
(打撃後のモルタルフロー値)
JIS R5201:2015に規定するフロー試験において、規定通り15秒間に15回ハンドルを回し(打撃15回)、フローテーブルを上下させ規定量のモルタルの広がり(直径:最大と認める方向とその直角の平均値)を測定する。
この値が135~250mmとなることで、流動性が確保され、3Dプリンターのノズルからの押し出しが可能となる。流動性の観点から、打撃後のフロー値は、135~250mmであることが好ましい。
【0043】
[速硬性モルタル組成物の調製方法]
前述の各成分を混合して本発明の速硬性モルタル組成物を調製する際の各成分の混合は、一般的な混合器に、各成分を所望の配合量で投入し、混ぜ合わせることで行うことができる。該混合器は、工場又は施工現場に固定されているものでもよく、ミキサートラックに搭載されているものでもよい。
各成分は充分に混合されていることが好ましい。
【0044】
[作用効果]
本発明によれば、水硬性セメントと骨材と水と非晶質水酸化アルミニウムを含み、調製直後のJIS R5201に規定するフロー値の測定において、打撃前のフロー値が100~120mmであり、打撃後のフロー値が135~250mmであることで、混合直後は3Dプリンターのノズルからの押し出しが可能な柔らかさを有する一方で、押し出し後は早期に高い強度を発現する速硬性モルタル組成物が得られる。
更には非晶質水酸化アルミニウムとともに、アルカリ金属炭酸塩又は石灰が含まれることにより、或いはアルカリ金属炭酸塩と石灰が含まれることにより、より早期に高い強度を発現する速硬性モルタル組成物が得られる。
【0045】
即ち、打撃後のフロー値で135~250mmを示すことから、本発明の速硬性モルタル組成物は、3Dプリンターのノズルからの押し出しが可能である。更に、打撃前のフロー値が100~120mmであることから、押し出し後に形を維持することが可能である。押し出し後は、非晶質水酸化アルミニウム、更にはアルカリ金属炭酸塩及び/又は石灰の作用で、早期に強度が発現することができる。
【実施例0046】
以下に本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[材料]
・水硬性セメント:普通ポルトランドセメント(UBE三菱セメント(株)製)
・骨材:東北珪砂5号(50%粒径:約0.525mm)
・水:水道水
・非晶質水酸化アルミニウム:乾燥水酸化アルミニウムゲル粉末(メジアン径:84μm)(製品名:AD200P(富田製薬(株)製))
・アルカリ金属炭酸塩:ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)(製品名:ソーダ灰ライト((株)トクヤマ製))
・石灰:特号消石灰(ブレーン値:12000cm2/g)(製品名:特号消石灰(宇部マテリアルズ(株)製))
【0048】
[速硬性モルタル組成物の調製方法]
水硬性セメントと砂を混合し、水と混ぜて均一になるまで匙で攪拌した。
得られたモルタルに、非晶質水酸化アルミニウム等の添加剤を粉のまま添加し、匙で10秒間攪拌(攪拌時間は、カップ移し替えや移液操作を含む)した。
【0049】
[ちょう度の測定方法]
調製した速硬性モルタル組成物を、上部をカットした500mLディスカップに入れ、ペネトロメーター(JIS K 2220-2013規定のちょう度計、および、オプション円錐を使用)で、混合開始から10分後(ただし、比較例1では25分後)に針を落とし、ちょう度を測定した。混合開始から10分後ちょう度の測定は、3Dプリンターのノズルからの押し出し後を想定した測定である。
結果の判定基準は以下とした。
ちょう度が100以上の場合:×
ちょう度が100未満の場合:〇
【0050】
[打撃前のフロー値の測定]
JIS R5201:2015に規定のフロー値測定方法において、調製直後の速硬性モルタル組成物(上記の匙で10秒間攪拌した後の速硬性モルタル組成物)をフローコーンに詰め、フローコーンを上部に垂直に抜いた際の速硬性モルタル組成物とフローテーブルとの接触部分の直径を測定した。
【0051】
[打撃後のフロー値の測定]
JIS R5201:2015に規定のフロー値測定方法において、調製直後の速硬性モルタル組成物(上記の匙で10秒間攪拌した後の速硬性モルタル組成物)に対して15秒間に15回ハンドルを回し、フローテーブルを上下させ規定量のモルタルの広がり(直径)を測定した。
【0052】
[実施例1~6及び比較例1~3]
表1に示す配合で調製した速硬性モルタル組成物について、ちょう度及びフロー値の測定と評価を行い、結果を表1に示した。
【0053】
【0054】
表1より次のことが分かる。
【0055】
比較例1より、非晶質水酸化アルミニウム等の添加剤を含まないモルタルは、調製後25分経ってもちょう度が大きく、積層するとつぶれる硬さであることが分かる。
これに対し、実施例1のように非晶質水酸化アルミニウムを混合することで、混合直後は3Dプリンターのノズルで押し出しできる柔らかさを有し、且つ、押し出し後に形状を維持できる硬さを有し、10分には更に上に積層してもつぶれない硬さまで硬くなることが分かる。
実施例2、3では、非晶質水酸化アルミニウムに加えて、ソーダ灰を添加したことにより、非晶質水酸化アルミニウムとソーダ灰との合計の添加量は、実施例1の非晶質水酸化アルミニウムの添加量と同じ或いは少ないにも関わらず、調製後10分で上に積層してもつぶれない硬さまで硬くなった。また、10分後の硬さが、非晶質水酸化アルミニウム単独よりも硬いにもかかわらず、打撃後のフロー値が大きく、混合直後の流動性は非晶質水酸化アルミニウム単独の実施例1よりも良いことが分かる。
実施例4では、非晶質水酸化アルミニウムに加えて、消石灰を添加したところ、非晶質水酸化アルミニウムが少ないにも関わらず、10分後に上に積層してもつぶれない硬さまで硬くなった。
実施例5では、非晶質水酸化アルミニウムにソーダ灰と消石灰を添加することで、更に少ない非晶質水酸化アルミニウム量で10分後に上に積層してもつぶれない硬さとなった。
比較例2、3では水量が多いモルタルに非晶質水酸化アルミニウムを含有するが、打撃前のフロー値が大きく、ノズルからの押し出し後に形状を維持できない。
比較例4では、水分が少ないモルタルで、打撃前のフロー値から形状は維持するが、打撃後のフロー値に大きな変化がなく、ノズルからの押し出しが難しいことが分かる。
本発明の速硬性モルタル組成物は、初期流動性(射出性)と早期硬化、自立性に優れ、3Dプリンター用セメントモルタル組成物として、土木、建築物等の構築に有用である。