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特開2024-165877回転中心装置及び回転中心装置を備えた支承構造
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  • 特開-回転中心装置及び回転中心装置を備えた支承構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165877
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】回転中心装置及び回転中心装置を備えた支承構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20241121BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082440
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】林 圭介
(72)【発明者】
【氏名】長峰 洋一
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA21
2E139CB04
3J048AA06
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】下部構造物に対する上部構造物の回転移動を許容する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる回転中心装置及び回転中心装置を備えた支承構造を提供することを目的とする。
【解決手段】支承構造1は、上部構造物100及び下部構造物110の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10とピン支承装置40とが配置され、ピン支承装置40は、下部構造物110に向かって突出する円柱状部52と、円柱状部52を上部構造物100の底面に固定するアッパープレート51とを有する上沓50と、上沓50の回転を許容しながら、平面視方向の相対移動を規制するベースポット62と、ベースポット62を下部構造物110における上面に固定するベースプレート61とを有する下沓60と、下沓60による上沓50の相対移動規制を解消する固定ボルト70とが設けられた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物及び下部構造物の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置と、前記上部構造物と前記下部構造物との相対回転の中心を構成する回転中心装置とが配置され、
前記回転中心装置は、
前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分において、他方に向かって突出する凸状部及び前記凸状部を前記対向部分に固定する凸状固定部を有する凸状部材と、
前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における他方の対向部分において、前記凸状部材の回転を許容しながら、前記滑り方向の相対移動を規制する規制構成部及び前記規制構成部を前記対向部分に固定する規制固定部を有する規制部材と、
前記規制部材による前記回転中心装置の相対移動規制を解消する規制解消機構とが設けられた
支承構造。
【請求項2】
前記規制構成部は、
前記規制固定部に固定された本体部と、
前記凸状部の一部を囲繞し、前記滑り方向の移動を規制する囲繞規制部とが設けられた
請求項1に記載の支承構造。
【請求項3】
前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方に、前記対向部分に螺合固定する締結手段が設けられ、
前記規制解消機構は、前記対向部分に対する螺合固定を解消する前記締結手段である
請求項2に記載の支承構造。
【請求項4】
前記囲繞規制部は前記本体部に対して脱着可能に構成され、
前記規制解消機構は、前記本体部に対して取り外せる前記囲繞規制部である
請求項2に記載の支承構造。
【請求項5】
前記上部構造物の前記対向部分に固定された上沓と、前記下部構造物の前記対向部分に固定された下沓とが備えられ、回転のみを許容するピン支承装置で前記回転中心装置を構成し、
前記凸状部材は、前記上沓と前記下沓の一方であり、前記規制部材は前記上沓と前記下沓の他方である
請求項1乃至請求項4のうちいずれかに記載の支承構造。
【請求項6】
少なくとも、前記滑り方向の相対移動規制が前記規制解消機構によって解消されていない状態において、
前記上沓と前記下沓の対向面同士の間に隙間が形成された
請求項5に記載の支承構造。
【請求項7】
摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置とともに、上部構造物及び下部構造物の間に配置され、前記上部構造物と前記下部構造物との相対回転の中心を構成し、
前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分において、他方に向かって突出する凸状部及び前記凸状部を前記対向部分に固定する凸状固定部を有する凸状部材と、
前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における他方の対向部分において、前記凸状固定部の回転を許容しながら、前記滑り方向の相対移動を規制構成部及び前記規制構成部を前記対向部分に固定する規制固定部を有する規制部材と、
前記滑り方向の相対移動規制を解消する規制解消機構とが設けられた
回転中心装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、上部構造物と下部構造物との間に配置し、下部構造物で上部構造物を支持する支承構造及び支承構造に用いる回転中心装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、免震構造物、橋梁、あるいは固定構造物同士を接続する接続部分等の振動や相対変位が生じる構造物において、上部構造物に固定された上沓と、下部構造物に固定された下沓との境界面、つまり摺動面が摺動して可動支持する滑り支承装置があり、上部構造物と下部構造物との間に滑り支承装置を配置した支承構造がある。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、上部構造物と下部構造物との間に支承装置を配置した支承構造において、摺動面に沿って全方向や所定の方向に摺動可能な滑り支承装置と、摺動面方向に沿う摺動は規制され、回転だけが許容されたピン支承装置とを併用する場合がある。
【0004】
このように構成された支承構造では、上部構造物が、ピン支承装置を回転中心として回転移動し、他の滑り支承装置が当該回転移動に追従して摺動面に沿って摺動して、下部構造物で回転移動する上部構造物を支持することができる。
【0005】
しかしながら、このような支承構造では、回転移動する上部構造物を下部構造物で支持できるものの、構造物の状況変化や用途変化等によって、下部構造物に対する上部構造物の回転移動ではない、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支持に対応することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-181304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、下部構造物に対する上部構造物の回転移動を許容する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる回転中心装置及び回転中心装置を備えた支承構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上部構造物及び下部構造物の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置と、前記上部構造物と前記下部構造物との相対回転の中心を構成する回転中心装置とが配置され、前記回転中心装置は、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分において、他方に向かって突出する凸状部及び前記凸状部を前記対向部分に固定する凸状固定部を有する凸状部材と、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における他方の対向部分において、前記凸状部材の回転を許容しながら、前記滑り方向の相対移動を規制する規制構成部及び前記規制構成部を前記対向部分に固定する規制固定部を有する規制部材と、前記規制部材による前記回転中心装置の相対移動規制を解消する規制解消機構とが設けられた支承構造であることを特徴とする。
【0009】
またこの発明は、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置とともに、上部構造物及び下部構造物の間に配置され、前記上部構造物と前記下部構造物との相対回転の中心を構成し、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分において、他方に向かって突出する凸状部及び前記凸状部を前記対向部分に固定する凸状固定部を有する凸状部材と、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における他方の対向部分において、前記凸状固定部の回転を許容しながら、前記滑り方向の相対移動を規制構成部及び前記規制構成部を前記対向部分に固定する規制固定部を有する規制部材と、前記滑り方向の相対移動規制を解消する規制解消機構とが設けられた回転中心装置であることを特徴とする。
【0010】
上述の上部構造物及び下部構造物は、例えば、ビルを上部構造物とし、基礎構造を下部構造物とする建造物、橋脚を下部構造物とし、主桁を上部構造物とする橋梁、ビルを下部構造物とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物とする連絡通路、柱を下部構造物とし、トラス屋根を上部構造物とする屋根構造、あるいは、ビルを下部構造物とし、別のビルを上部構造物とするエキスパンション構造における構造物としてもよい。あるいは、サーバを上部構造物とし、ラックを下部構造物とする構造物であってもよい。
上記滑り支承装置は、剛滑り支承、弾性滑り支承など様々な構造の滑り支承装置が含まれる。
【0011】
この発明により、下部構造物に対する上部構造物の回転移動を許容する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
詳述すると、上部構造物及び下部構造物の間に、摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置とともに配置された回転中心装置は、前記上部構造物と前記下部構造物との相対回転の中心を構成する。そして、前記回転中心装置は、前記上部構造物と前記下部構造物におけるそれぞれの対向部分における一方の対向部分に設ける凸状部材と、他方の対向部分に設ける規制部材とが設けられている。
【0012】
また、規制部材は、一方の対向部分に設けられた前記凸状部材の前記凸状部の回転を許容しながら、前記滑り方向の相対移動を規制する規制構成部を有している。そのため、支承構造は、回転中心装置により下部構造物に対する上部構造物の回転移動を許容する支承状態の支承構造を構成することができる。
【0013】
また、前記規制部材に、前記滑り方向の相対移動規制を解消する規制解消機構が設けられている。そのため、回転中心装置における前記凸状部材の滑り方向の相対移動規制が解消され、上部構造物及び下部構造物の間に設けられた摺動面に沿った滑り方向に摺動可能な少なくとも二つの滑り支承装置によって下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態の支承構造を構成することができる。
【0014】
このように、前記凸状部材と規制部材とを有する回転中心装置において、規制部材による移動規制と、規制解消機構による規制解除とにより、下部構造物に対する上部構造物の回転移動を許容する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0015】
この発明の態様として、前記規制構成部は、前記規制固定部に固定された本体部と、前記凸状部の一部を囲繞し、前記滑り方向の移動を規制する囲繞規制部とが設けられてもよい。
この発明により、本体部に装着した前記囲繞規制部により、前記凸状部の回転を許容しながら滑り方向の移動を囲繞して確実に規制することができる。
【0016】
またこの発明の態様として、前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方に、前記対向部分に螺合固定する締結手段が設けられ、前記規制解消機構は、前記対向部分に対する螺合固定を解消する前記締結手段であってもよい。
【0017】
この発明により、前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方を、前記対向部分に対して締結手段で螺合固定することができる。そして、締結手段の螺合を解消することで、前記対向部分に対して前記凸状固定部と前記規制固定部の少なくとも一方の螺合固定を容易に解消することができる。そのため、上部構造物と下部構造物との対向部分のそれぞれに前記凸状部材と前記規制部材とが固定されていることで機能する相対移動規制を解消することができる。
【0018】
またこの発明の態様として、前記囲繞規制部は前記本体部に対して脱着可能に構成され、前記規制解消機構は、前記本体部に対して取り外せる前記囲繞規制部であってもよい。
この発明により、前記凸状部の回転を許容しながら滑り方向の移動を囲繞して確実に規制する前記囲繞規制部を本体部から取り外すことで、前記囲繞規制部が前記規制解消機構として機能し、回転中心装置における前記凸状部材の滑り方向の相対移動規制を容易に解消することができる。
【0019】
またこの発明の態様として、前記上部構造物の前記対向部分に固定された上沓と、前記下部構造物の前記対向部分に固定された下沓とが備えられ、回転のみを許容するピン支承装置で前記回転中心装置を構成し、前記凸状部材は、前記上沓と前記下沓の一方であり、前記規制部材は前記上沓と前記下沓の他方であってもよい。
この発明により、前記回転中心装置を確実に構成することができる。
【0020】
またこの発明の態様として、少なくとも、前記滑り方向の相対移動規制が前記規制解消機構によって解消されていない状態において、前記上沓と前記下沓の対向面同士の間に隙間が形成されてもよい。
この発明により、下部構造物に対する上部構造物の回転移動を許容する支承状態において、よりスムーズに回転移動させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、下部構造物に対する上部構造物の回転移動を許容する支承状態と、下部構造物に対する上部構造物の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる回転中心装置及び回転中心装置を備えた支承構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】支承構造の正面方向からの概略図。
図2】支承構造の平面視方向からの概略図。
図3】滑り支承装置の分解斜視図。
図4】ピン支承装置の分解斜視図。
図5】可動した支承構造の平面視方向からの概略図。
図6】規制解除状態の支承構造の正面方向からの概略図。
図7】可動した規制解除状態の支承構造の平面視方向からの概略図。
図8】別の実施形態のピン支承装置における下沓の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は支承構造1の正面方向からの概略図を示し、図2は支承構造1の平面視方向からの概略図を示し、図3は滑り支承装置10の分解斜視図を示し、図4はピン支承装置40の分解斜視図を示し、図5は可動した支承構造1の平面視方向からの概略図を示し、図6は規制解除状態の支承構造1の正面方向からの概略図を示し、図7は可動した規制解除状態の支承構造1の平面視方向からの概略図を示している。
【0024】
なお、図2図5及び図7において、上部構造物100、上部構造物100に取り付けられた滑り支承装置10の滑り上沓20、及びピン支承装置40の上沓50を透過状態で図示している。
また、図1及び図6において、滑り支承装置10及びピン支承装置40は、左右方向における左側を正面図で図示し、右側を断面図で図示している。
【0025】
さらに、図3及び図4において滑り支承装置10の滑り下沓30及びピン支承装置40の構成する要素についてその形状を明確にするため、手前側の一部を切り欠いて図示するとともに、図3における滑り上沓20及び図4におけるアッパープレート51を透過状態で図示している。また、上部構造物100及び下部構造物110は、理解を容易にするため簡略化して図示している。
【0026】
支承構造1は、滑り支承装置10とピン支承装置40とを有し、下部構造物110で上部構造物100を支承する構造であり、下部構造物110に対する上部構造物100の回転移動を許容する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0027】
詳述すると、支承構造1は、上部構造物100及び下部構造物110の間に、二つの滑り支承装置10と、ひとつのピン支承装置40とを備え、ふたつの滑り支承装置10の間にピン支承装置40を配置している。
滑り支承装置10は、平面視方向から視て、全方向への摺動を許容する滑り支承装置であり、全方向滑り支承装置ともいう。
【0028】
滑り支承装置10は、上部構造物100の底面に固定する滑り上沓20と、下部構造物110の上面に固定する滑り下沓30とを備えている。
滑り上沓20は、上部構造物100の底面に固定されるソールプレート21と、ソールプレート21の底面に装着されたスライドプレート22とを備えている。ソールプレート21は、適宜の方法で下部構造物110の上面に固定されるように構成している。なお、スライドプレート22は、ステンレス板で構成し、スライドプレート22の底面で、滑り下沓30の摺動面と摺動する摺動面を構成している。
【0029】
滑り下沓30は、図3に示すように、固定リング31、ベアリング32、ピストン33、シールリング34、シム35、弾性プレート36、ダストシール37及びベースポット38を備えている。
固定リング31は、後述する装着凹部381に装着したピストン33等の抜け出しを防止する金属製リング状板材であり、図示省略するボルトでベースポット38の上面に対して脱着可能に装着される。
【0030】
滑り部材であるベアリング32は、自己潤滑性を有する、ポリアミド樹脂、またはポリ四フッ化エチレン樹脂で平面視円形に形成されている。ベアリング32の上面は、滑り上沓20のスライドプレート22の底面である摺動面と摺動する摺動面を構成する。
【0031】
ピストン33は、ステンレス製の略円柱形状であり、シールリング34を嵌合できる円形凹部331を底面の外周縁に沿って形成している。また、ピストン33の上面にベアリング32を装着し、固定している。
シールリング34は、径外側が垂直面となり、径内側が下方に向かって径外側に傾斜する傾斜面である片断面台形状の円形リングであり、ピストン33の円形凹部331に装着される。
【0032】
シム35は、シールリング34の外径と同じ径の平面視円形形状で形成したフッ素樹脂製の薄板である。
弾性プレート36は、シム35と同じ径の平面視円形のゴム製のプレートである。
【0033】
ダストシール37は、ベースポット38の上面に設けた装着溝382に装着され、滑り支承装置10において滑り上沓20のスライドプレート22の底面に当接して、滑り上沓20と滑り下沓30との摺動面の周囲を囲繞するシール材であり、リング状に形成している。
【0034】
ベースポット38は、下部構造物110の上面に固定される鋼製の円柱状体であり、上面の平面視中央に円柱状空間を形成する装着凹部381と、その外周に平面視円形となる装着溝382とを備え、適宜の方法で下部構造物110の上面に固定されるように構成している。
【0035】
そして、ベースポット38の装着凹部381に、下から順に、弾性プレート36、シム35、及び円形凹部331にシールリング34を装着し、上面にベアリング32を固定したピストン33を装着する。その上から固定リング31をベースポット38の上面に固定するとともに、装着溝382にダストシール37を装着して、上述のように各要素を構成した滑り下沓30を組み付ける。
【0036】
このように構成した滑り上沓20のソールプレート21を上部構造物100の底面に固定するとともに、滑り下沓30のベースポット38を下部構造物110の上面に固定することで滑り支承装置10を構成することができる。このように構成した滑り支承装置10は、下部構造物110に対して上部構造物100が摺動面に沿う方向に移動すると、上部構造物100の底面に固定した滑り上沓20のスライドプレート22の底面と、下部構造物110の上面に固定した滑り下沓30のベアリング32の上面とが、それぞれ摺動面として摺動することができる。
【0037】
ピン支承装置40は、平面視方向から視た摺動(以下において平面視方向の移動という)は規制するものの、回転を許容する滑り支承装置であり、固定支承装置ともいう。
ピン支承装置40は、図4に示すように、上部構造物100の底面に固定する上沓50と、下部構造物110の上面に固定する下沓60とを備えている。
【0038】
上沓50は、上部構造物100の底面に固定するアッパープレート51と、アッパープレート51の底面に固定された略円柱状の円柱状部52とを有し、一体に構成している。
アッパープレート51は、平面視四角形で、適宜の厚みを有する鋼製の板材であり、外周縁に沿って、固定ボルト70を挿通するボルト孔511を複数設けている。
【0039】
円柱状部52は、径より高さが低く、アッパープレート51と同様の鋼製の略円筒状である。円柱状部52は、アッパープレート51の底面より下方に突出し、アッパープレート51の底面における平面視中央に備えられている。
【0040】
下沓60は、下部構造物110の上面に固定するベースプレート61と、ベースプレート61の上面に固定されたベースポット62とを有し、一体に構成している。
ベースプレート61は、平面視四角形で、適宜の厚みを有する鋼製の板材であり、適宜の方法で下部構造物110の上面に固定されるように構成している。
【0041】
ベースポット62は、平面視四角形状であり、適宜の高さを有する略四角柱状であり、上面の平面視中央に、円柱状部52が挿入可能な円柱状空間を形成する装着凹部621を設けるとともに、装着凹部621の底面に円形のベアリング622を接着固定している。
【0042】
装着凹部621は、円柱状部52よりわずかに大径の略円柱状の空間である。なお、ベースポット62の上部において、装着凹部621を形成する部分を囲繞規制部63とし、その下部を本体部64としている。
【0043】
装着凹部621の底面に備えたベアリング622は、装着凹部621の底面に形成した平面視円形の円形溝に装着される平面視円形状のプレートであり、上述の滑り支承装置10の滑り下沓30のベアリング32と同様に、自己潤滑性を有する、ポリアミド樹脂、またはポリ四フッ化エチレン樹脂で平面視円形に形成されている。
【0044】
上沓50のアッパープレート51を上部構造物100の底面に固定し、下沓60のベースプレート61を下部構造物110の上面に固定するとともに、装着凹部621の底面の円形溝にベアリング622が装着されたベースポット62の装着凹部621に、適宜の方法で円柱状部52の先端部分を装着して上沓50と下沓60とを組み付けてピン支承装置40を構成することができる。
なお、上沓50の滑り支承装置10の底面に対する固定は、アッパープレート51に設けたボルト孔511に固定ボルト70を挿通し、上部構造物100に対して螺合して行われる。
【0045】
このように構成された滑り支承装置10及びピン支承装置40で構成する支承構造1では、図1のa部拡大図に示すように、ピン支承装置40において、上沓50の円柱状部52の底面と、下沓60における装着凹部621の底面に設けたベアリング622の上面との間に隙間sが設定されている。つまり、下沓60におけるベアリング622の上面と上沓50の円柱状部52の底面とは接触していない。
【0046】
このように構成した支承構造1を設けたことにより、地震動等の外力が作用すると、下部構造物110に対して上部構造物100が相対移動しようとする。
しかしながら、支承構造1は、二つの滑り支承装置10の間にピン支承装置40を配置しているため、下部構造物110に対する上部構造物100の摺動面に沿う平面視方向の移動はピン支承装置40によって規制される。そのため、図5に示すように、ピン支承装置40を中心として、二つの滑り支承装置10において上部構造物100の底面に固定された滑り上沓20の摺動面と、下部構造物110の上面に固定された滑り下沓30の摺動面とが摺動して、下部構造物110に対して上部構造物100は回転移動することとなる。つまり、支承構造1は、ピン支承装置40によって平面視方向の移動が規制され、回転移動が可能な支承状態となる。
【0047】
これに対し、ピン支承装置40における上沓50のアッパープレート51を上部構造物100の底面にして固定する固定ボルト70の螺合を解消すると、図6に示すように、上部構造物100に対して上沓50は分離される。当初状態では円柱状部52の底面とベアリング622の上面との間に隙間sが形成されていたが、この分離状態では上部構造物100の底面と上沓50のアッパープレート51の上面との間に隙間sが形成されることとなる。
【0048】
つまり、この上部構造物100に対する上沓50の分離は、ピン支承装置40による平面視方向の移動規制が解消された状態、平面視方向の変位を許容する支承状態となる。そのため、図7に示すように、地震動等の外力が作用すると、二つの滑り支承装置10において上部構造物100の底面に固定された滑り上沓20の摺動面と、下部構造物110の上面に固定された滑り下沓30の摺動面とが摺動して、下部構造物110に対して上部構造物100が摺動面に沿う平面視方向において移動することができる。
【0049】
上述したように、支承構造1は、上部構造物100及び下部構造物110の間に、摺動面に沿った平面視方向に摺動可能な二つの滑り支承装置10と、上部構造物100と下部構造物110との相対回転の中心を構成するピン支承装置40とが配置されている。ピン支承装置40は、上部構造物100の底面において、下部構造物110に向かって突出する円柱状部52及び円柱状部52を底面に固定するアッパープレート51を有する上沓50と、下部構造物110の上面において、上沓50の回転を許容しながら、摺動面に沿った平面視方向の相対移動を規制するベースポット62及びベースポット62を上面に固定するベースプレート61を有する下沓60と、下沓60によるピン支承装置40の相対移動規制を解消する固定ボルト70とが設けられている。
【0050】
このように構成した支承構造1及びピン支承装置40は、下部構造物110に対する上部構造物100の回転移動を許容する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0051】
詳述すると、上部構造物100及び下部構造物110の間に、二つの滑り支承装置10とともに配置され、上部構造物100と下部構造物110との相対回転の中心を構成するピン支承装置40は、上部構造物100における底面に固定した上沓50と、下部構造物110の上面に固定した下沓60とが設けられている。
【0052】
そして、下沓60は、上部構造物100の底面に設けられた上沓50の円柱状部52の回転を許容しながら、摺動面に沿った平面視方向の相対移動を規制するベースポット62を有している。そのため、下部構造物110に対する上部構造物100の回転移動を許容する支承状態の支承構造1を構成することができる。
【0053】
また、下沓60に、ベースポット62による、上沓50の円柱状部52の回転を許容しながら、摺動面に沿った平面視方向の相対移動規制を解消する規制解消機構として、螺合固定を解消できる固定ボルト70が設けられている。そのため、上部構造物100の底面への固定ボルト70の螺合を解消することで、上部構造物100の底面に対する下沓60の螺合固定は解消され、ピン支承装置40における上沓50の円柱状部52の平面視方向の相対移動規制が解消されることとなる。よって、上部構造物100及び下部構造物110の間に設けられた二つの滑り支承装置10によって下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態の支承構造1を構成することができる。
【0054】
このように、上沓50と下沓60とを有するピン支承装置40において、下沓60による平面視方向の変位の移動規制と、固定ボルト70による規制解除とにより、例えば、構造物の状況変化や用途変化等によって、下部構造物110に対する上部構造物100の回転移動を許容する支承状態と、下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態を切り替えることができる。
【0055】
また、ベースポット62は、ベースプレート61に固定された本体部64と、円柱状部52における先端部分を囲繞し、平面視方向の移動を規制する囲繞規制部63とが設けられているため、本体部64に設けられた囲繞規制部63により、円柱状部52の回転を許容しながら平面視方向の移動を囲繞して確実に規制することができる。
【0056】
また、アッパープレート51に、対向部分に螺合固定する固定ボルト70が設けられ、固定ボルト70は、上部構造物100の底面に対する螺合固定及び螺合固定の解消ができる締結手段であるため、アッパープレート51を、上部構造物100の底面に対して固定ボルト70で螺合固定することができるとともに、固定ボルト70の螺合を解消することで、上部構造物100の底面に対してアッパープレート51の螺合固定を容易に解消することができる。よって、上部構造物100の底面と下部構造物110の上面とのそれぞれに上沓50と下沓60とが固定されていることで機能する相対移動規制を解消することができる。
【0057】
また、上部構造物100の底面に固定された上沓50と、下部構造物110の上面に固定された下沓60とが備えられ、回転のみを許容するピン支承装置40は、平面視方向の相対移動規制が固定ボルト70によって解消されていない、下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を規制する支承状態において、上沓50における円柱状部52の底面と下沓60における装着凹部621に設けたベアリング622の上面との間に隙間sが形成されている。そのため、下部構造物110に対する上部構造物100の回転移動を許容する支承状態において、よりスムーズに回転移動させることができる。
【0058】
また、固定ボルト70による上部構造物100の底面に対する上沓50の螺合固定を解消した、下部構造物110に対する上部構造物100の平面視方向の変位を許容する支承状態では、上部構造物100の底面と上沓50におけるアッパープレート51の上面との間に隙間sが形成される。したがって、下部構造物110に対して上部構造物100が平面視方向に変位する際にスムーズに移動することができる。
【0059】
なお、上述のピン支承装置40では、厳密にいえば、上沓50における円柱状部52の底面と下沓60における装着凹部621に設けたベアリング622の上面との間に隙間sが形成され、ピン支承装置40では、上部構造物100を下部構造物110で支持している状態ではない。したがって、上部構造物100と下部構造物110との相対回転の中心を構成する装置であれば支承装置でなくてもよいが、回転中心装置を別途設計・製造することなく、ピン支承装置40を用いることで、汎用性を向上することができる。
【0060】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、本発明の上部構造物は上部構造物100に対応し、
以下同様に、
下部構造物は下部構造物110に対応し、
滑り支承装置は滑り支承装置10に対応し、
回転中心装置はピン支承装置40に対応し、
凸状部は円柱状部52に対応し、
凸状固定部はアッパープレート51に対応し、
凸状部材は上沓50に対応し、
規制構成部はベースポット62に対応し、
規制固定部はベースプレート61に対応し、
規制部材は下沓60に対応し、
規制解消機構は固定ボルト70に対応し、
支承構造は支承構造1に対応し、
本体部は本体部64に対応し、
囲繞規制部は囲繞規制部63に対応し、
締結手段は固定ボルト70に対応し、
上沓は上沓50に対応し、
下沓は下沓60に対応し、
ピン支承装置はピン支承装置40に対応し、
隙間は隙間sに対応するも、上記実施形態に限定するものではない。
【0061】
例えば、上述の説明においては、上部構造物100と下部構造物110との間に設けたピン支承装置40において、上沓50の円柱状部52の底面と、下沓60における装着凹部621の底面に設けたベアリング622の上面との間に隙間sを設定したが、下沓60にベアリング622を設けず、装着凹部621の底面と円柱状部52の底面との間に隙間sが形成されるように構成してもよい。また、当初状態において上沓50の円柱状部52の底面と、下沓60における装着凹部621の底面に設けたベアリング622の上面とが接するように構成してもよい。
【0062】
さらには、上述の説明では、上部構造物100に対して下沓60の固定を固定ボルト70の螺合を解消して、上部構造物100と下沓60とを分離して、支承構造1における平面視方向における変位を規制する支承状態から平面視方向における変位を許容する支承状態に切り替えた。これに対して、例えば、図8に示すように、ピン支承装置40において、上沓50に対する下沓60の規制を解消して、支承構造1における平面視方向における変位を許容する支承状態に切り替えてもよい。
【0063】
なお、図8は、別の実施形態のピン支承装置40における下沓60の説明図を示している。詳しくは、図8(a)は手前側の一部を切り欠いた状態の下沓60の斜視図を示し、図8(b)は本体部64に対して囲繞規制部63を取り外した状態の下沓60の斜視図を示している。
【0064】
具体的には、図8に示すように、ベースポット62における装着凹部621を構成するとともに、ピン支承装置40における円柱状部52の先端を囲繞する囲繞規制部63を、ベースポット62の本体部64から分離可能に構成する。そして、支承構造1における平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替える際に、ベースポット62の本体部64から囲繞規制部63を分離することで、上沓50に対する下沓60の規制を解消することができる。
【0065】
なお、このように構成した下沓60において、本体部64に対して囲繞規制部63を取り付けた状態で、側方から本体部64に対して囲繞規制部63をボルトで螺合固定できるように構成すると、上部構造物100と下部構造物110との間において、囲繞規制部63を分離する際の作業性が向上するため好ましい。
【0066】
このように、囲繞規制部63は本体部64に対して脱着可能に構成され、円柱状部52の回転を許容しながら平面視方向の移動を囲繞して確実に規制する囲繞規制部63を本体部64から取り外すことで、囲繞規制部63が規制解消機構として機能し、ピン支承装置40における上沓50の円柱状部52の平面視方向の相対移動規制を容易に解消することができる。
【0067】
上述の上部構造物100及び下部構造物110は、例えば、ビルを上部構造物100とし、基礎構造を下部構造物110とする建造物、橋脚を下部構造物110とし、主桁を上部構造物100とする橋梁、ビルを下部構造物110とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物100とする連絡通路、柱を下部構造物110とし、トラス屋根を上部構造物100とする屋根構造、あるいは、ビルを下部構造物110とし、別のビルを上部構造物100とするエキスパンション構造における構造物としてもよい。あるいは、サーバを上部構造物100とし、ラックを下部構造物110とする構造物であってもよい。
【0068】
上記滑り支承装置10は、剛滑り支承承など様々な構造の滑り支承装置で構成してもよい。
さらには、上述の説明では、上部構造物100の底面に滑り支承装置10の滑り上沓20及びピン支承装置40の上沓50を取り付け、下部構造物110の上面に滑り支承装置10の滑り下沓30及びピン支承装置40の下沓60を取り付けて支承構造1を構成した。これに対し、上部構造物100の底面に滑り支承装置10の滑り下沓30及びピン支承装置40の下沓60を取り付け、下部構造物110の上面に滑り支承装置10の滑り上沓20及びピン支承装置40の上沓50を取り付けて支承構造1を構成してもよい。
【0069】
また、上述の説明では、上部構造物100の底面に対して、固定ボルト70で上沓50を螺合固定し、固定ボルト70による螺合固定を解消して、平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替えた。これに対し、下部構造物110に対する下沓60の固定を解消して、平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替えてもよいし、上沓50と下沓60の両方の固定を解消して、平面視方向の変位を許容する支承状態に切り替えてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…支承構造
10…滑り支承装置
40…ピン支承装置
50…上沓
51…アッパープレート
52…円柱状部
60…下沓
61…ベースプレート
62…ベースポット
63…囲繞規制部
64…本体部
70…固定ボルト
100…上部構造物
110…下部構造物
s…隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8