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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165889
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】ワイヤーソー装置
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/08 20060101AFI20241121BHJP
   B23D 57/00 20060101ALI20241121BHJP
   E04G 23/08 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B28D1/08
B23D57/00
E04G23/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082466
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000165424
【氏名又は名称】株式会社コンセック
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 雄平
(72)【発明者】
【氏名】三中 達雄
【テーマコード(参考)】
2E176
3C040
3C069
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176DD22
3C040AA19
3C040JJ03
3C069AA01
3C069BA06
3C069BB03
3C069BC03
3C069CA07
3C069EA01
(57)【要約】
【課題】コンクリートワイヤーソー装置10の切断用ワイヤがコンクリート構造物の角部に引っ掛かって走行を開始しない現象を解消する。
【解決手段】コンクリートワイヤーソー装置10は、電気モータ34と、張力機構21と、駆動プーリ19が回転停止するとともに切断用ワイヤ20がコンクリート構造物の角部102,103,104に係止している場合に当該切断用ワイヤ20を微速で走行させるよう電気モータ34を低回転で回転始動させる電気モータ始動運転手段(電気モータ制御部41および操作子43,44)と、これによって駆動プーリ19の周速が微速で回転するとともに切断用ワイヤ20が微速走行して角部102,103,104が切削されると、電気モータ34を低回転よりも速い第2速度で回転させる制御部41および電気モータ第2運転手段(電気モータ制御部41および操作子43,44)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物を切断する無端の切断用ワイヤが巻き掛けられる駆動プーリおよび従動プーリと、
前記駆動プーリを回転駆動させて前記切断用ワイヤを走行させる電気モータと、
前記駆動プーリを回転軸直角方向に付勢して前記切断用ワイヤに張力を付与するとともに、前記コンクリート構造物を横切るように前記切断用ワイヤを変位させる張力機構と、
前記駆動プーリが回転停止するとともに前記切断用ワイヤが前記コンクリート構造物の角部に係止している場合に、前記切断用ワイヤを微速で走行させるよう前記電気モータを低回転で回転始動させる電気モータ始動運転手段と、
前記電気モータ始動手段によって前記駆動プーリの周速が微速で回転するとともに前記切断用ワイヤが微速走行して前記角部が切削されると、前記電気モータを前記低回転よりも速い第2速度で回転させる電気モータ第2運転手段とを備える、コンクリートワイヤーソー装置。
【請求項2】
前記電気モータが駆動運転しない運転停止状態と、前記電気モータ始動運転手段に基づく前記電気モータの始動運転状態と、前記電気モータ第2運転手段に基づく前記電気モータの第2運転状態との間で、前記電気モータの運転を手動で切り替える1また複数の操作子を備える、請求項1に記載のコンクリートワイヤーソー装置。
【請求項3】
前記電気モータはサーボモータである、請求項1または2に記載のコンクリートワイヤーソー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート塊を切断するワイヤーソー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーソー装置として従来、例えば、特開2010-012766号公報(特許文献1)に記載のものが知られている。特許文献1記載の装置は、無端状の切断用ワイヤが巻き掛けられている駆動プーリを、被切断物から離れる方向に移動させることにより、切断用ワイヤの緊張状態を保持するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-012766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
橋等、駆動プーリよりも大きなコンクリート断面をワイヤーソーで切断する場合、以下に説明するような問題を生ずる。つまり切断作業を始める前の準備段階で、駆動プーリは回転停止しており、極めて長い切断用ワイヤが駆動プーリおよびコンクリート構造物に巻き掛けられる。そして切断用ワイヤに装着されたダイヤモンドビーズが、コンクリート構造物の1または複数の角部に引っ掛かって係止している。
【0005】
ここで引っ掛かり箇所が複数であったり、切断用ワイヤの張力が大きかったり等の理由により、コンクリート構造物の角部とダイヤモンドビーズの引っ掛かりが強力であると、駆動プーリの回転始動ができなくなる。
【0006】
コンクリートワイヤーソー装置の駆動プーリは、一般的に油圧モータで駆動されるところ、油圧モータは一定速度で回転し回転速度の調節ができない。油圧モータの一定速度は、切断用ワイヤに要求される走行速度に対応して設定され、具体的には駆動プーリの周速が20~25[m/s]になるように設定される。
【0007】
停止している駆動プーリが20~25[m/s]の周速でいきなり回転し始めると、角部で引っ掛かっている切断用ワイヤが駆動プーリの急な始動に追従できず、切断用ワイヤが走行停止したまま駆動プーリが空転してしまうという問題があった。あるいは駆動プーリが停止したまま、回転を始動しないという問題があった。
【0008】
したがって従来、コンクリート構造物の角部を斫り取り、切断用ワイヤの引っ掛かりを解消する事前準備が必要であった。
【0009】
本発明は、上述の実情に鑑み、コンクリート構造物の角部に引っ掛かって停止している切断用ワイヤを滑らかに始動させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため本発明によるコンクリートワイヤーソー装置は、コンクリート構造物を切断する無端の切断用ワイヤが巻き掛けられる駆動プーリおよび従動プーリと、駆動プーリを回転駆動させて切断用ワイヤを走行させる電気モータと、駆動プーリを回転軸直角方向に付勢して切断用ワイヤに張力を付与するとともに、コンクリート構造物を横切るように切断用ワイヤを変位させる張力機構と、駆動プーリが回転停止するとともに切断用ワイヤがコンクリート構造物の角部に係止している場合に切断用ワイヤを微速で走行させるよう電気モータを低回転で回転始動させる電気モータ始動運転手段と、電気モータ始動手段によって駆動プーリの周速が微速で回転するとともに切断用ワイヤが微速走行して角部が切削されると電気モータを低回転よりも速い第2速度で回転させる電気モータ第2運転手段とを備える。
【0011】
かかる本発明によれば、駆動プーリが回転始動する際に駆動プーリのトルクを切断用ワイヤに伝達することができる。したがって、コンクリート角部の引っ掛かりに抗して、切断用ワイヤも走行開始することができ、従来の斫り作業が不要になって作業効率が向上する。電気モータ始動運転手段による電気モータの低回転は特に限定されないが、電気モータが充分大きなトルクを出力することができる回転数が好ましく、例えば電気モータ回転数の通常使用範囲の下限値である。電気モータ第2運転手段による電気モータの第2速度は特に限定されないが、例えば電気モータの定格回転数であったり、通常使用範囲の上限値であったり、これらの回転数よりも低い回転数であったりする。
【0012】
本発明の一局面として、電気モータが駆動運転しない運転停止状態と、電気モータ始動運転手段に基づく電気モータの始動運転状態と、電気モータ第2運転手段に基づく電気モータの第2運転状態との間で、電気モータの運転を手動で切り替える1また複数の操作子を備える。かかる局面によれば、コンクリートワイヤーソー装置を操作する作業員が手動で操作子を操作することにより、任意のタイミングで切断用ワイヤの走行速度を調整することができる。他の局面として、運転停止状態から始動運転状態を経由して第2運転状態へ自動で切り替わるよう構成されてもよい。
【0013】
電気モータの構造は特に限定されないが、本発明の好ましい局面として、電気モータはサーボモータである。かかる局面によれば、低回転で高トルクを確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、切断用ワイヤがコンクリート構造物の角部に引っ掛かって停止している場合に、駆動プーリの微速回転によって、引っ掛かりに抗して切断用ワイヤの走行を開始させることができる。したがって従来のように、コンクリート構造物の角部を斫り取る事前準備が不要になり、作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態になるコンクリートワイヤーソー装置を示す縦断面図である。
図2】張力機構を示す模式図である。
図3】プーリ駆動機構を示す模式図である。
図4】駆動プーリの周速を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になるコンクリートワイヤーソー装置を示す縦断面図である。コンクリートワイヤーソー装置10は、ベース11と、支柱12と、アーム15と、従動プーリ16~18と、駆動プーリ19と、切断用ワイヤ20と、張力機構21と、プーリ駆動機構31と、電気モータ制御部41とを備える。
【0017】
ベース11は、コンクリート構造物100の上面101に固定される。かかる固定は図示しないアンカーボルト等による。支柱12は、ベース11に立設され、支柱12の先端13がコンクリート構造物100から離れている。支柱12には、ベース11から先端13まで上下方向に真っ直ぐ延びるラック14(図2)が設けられる。ラック14の延在方向は、後述する駆動プーリ19の回転軸直角方向と平行である。
【0018】
アーム15は支柱12に取り付け固定され、上下方向に真っ直ぐ延びる支柱12と交差するように真っ直ぐ延びる。本実施形態のアーム15は、上面101に沿って水平方向に延び、支柱12と直交する。従動プーリ16~18は、互いに間隔を空けてアーム15に軸支される。支柱12とアーム15と従動プーリ16~18は、切断対象であるコンクリート構造物100の大きさや形状に応じて、好適なレイアウトで配置変更される。
【0019】
切断用ワイヤ20は、屈曲自在な鋼撚り線(ワイヤ)にダイヤモンドビーズを所定の間隔で装着したダイヤモンドワイヤである。切断用ワイヤ20は、適切な長さでコンクリート構造物100と従動プーリ16~18と駆動プーリ19に巻き掛けされ、両端を接合されて無端とされる。本実施形態の切断用ワイヤ20では、隣り合う2個のダイヤモンドビーズ間にコイルスプリングが介在する。コイルスプリングには切断用ワイヤ20のワイヤが通される。コイルスプリングは、ダイヤモンドビーズの若干のワイヤ長手方向移動を許容しつつもかかる移動を抑制する。
【0020】
張力機構21は、駆動プーリ19およびプーリ駆動機構31を支持するものであって、支柱12に取り付けられる。図2は本実施形態の張力機構21を示す模式図である。張力機構21は、支柱12が通される筒状のケーシング22と、当該ケーシング22内部に設けられてラック14と噛合するピニオン23と、ケーシング22の外側面に附設されてピニオンを駆動する送りモータ28と、送りモータ28からピニオン23までの駆動伝達経路に順次設けられる平行軸歯車機構27、クラッチ機構26、および遊星歯車機構24を有する。
【0021】
遊星歯車機構24は入力軸29および出力軸30を有し、入力軸29はクラッチ機構26および平行軸歯車機構27を貫通して延び、出力軸30はピニオン23と結合する。遊星歯車機構24および平行軸歯車機構27は、送りモータ28の回転を減速してピニオン23へ伝達する。送りモータ28は例えば回転電機であるが、油圧モータでもよい。
【0022】
クラッチ機構26は、入力軸29および平行軸歯車機構27の出力側最終歯車と同軸に設けられ、当該出力側最終歯車を入力軸29に切り離し可能に接続する。クラッチ機構26は例えば電磁クラッチ等のヒステリシスクラッチであり、送りモータ28からピニオン23に向かう伝達トルク(ピニオン23から送りモータ28に向かう反力トルクを含む)の制御が可能である。またクラッチ機構26は、伝達トルクが所定の閾値以下で当該クラッチを接続し、伝達トルクが所定の閾値を超えると当該クラッチを解放するトルクリミッタとして機能する。
【0023】
張力機構21は、ラック14に沿って案内され、上述したラック14およびピニオン23のラックアンドピニオン機構によって駆動プーリ19をベース11から先端13へ付勢および変位させる。また切断用ワイヤ20によるコンクリート構造物100の切断が進行すると、駆動プーリ19をコンクリート構造物100から遠ざけるよう変位させ、切断用ワイヤ20の張力を保持する。
【0024】
なお張力機構21には、オプションとしてブレーキ機構25を有することができる。本実施形態のブレーキ機構25は、遊星歯車機構24から延びる回転軸29の先端に取り外し可能に設けられる着脱式であり、回転軸29を制動可能である。ブレーキ機構25は例えば電磁ブレーキであり、通常は制動OFFにされて、ピニオン23は回転自在とされる。ただし外部からブレーキ機構25に制動指令が入力されると、ブレーキ機構25は駆動伝達経路を制動し、ピニオン23を減速ないし回転停止させる。
【0025】
図3はプーリ駆動機構31を示す模式図である。プーリ駆動機構31は、駆動プーリ19のプーリ軸32と、電気モータ34と、電気モータ34からプーリ軸32までの駆動伝達経路に設けられる減速機構33を有する。本実施形態の電気モータ34は、回転速度制御およびトルク制御の可能なサーボモータであり、0~820[rpm]の範囲で段階的あるいは無段階的に回転速度を調整可能である。
【0026】
図1を参照して、電気モータ制御部41はプーリ駆動機構31の電気モータ34および図示しない電力源と電気的に接続される。電気モータ制御部41はインバータ制御部を含み、電気モータ34に供給する電流値を制御する等して、電気モータ34の回転速度および出力トルクをフィードバック制御する。これにより電気モータ34は、微速かつ高トルクを出力したり、それよりも増速された第2速度かつそれよりも小さい第2トルクを出力したり、それよりもさらに増速された通常速度かつそれよりもさらに小さい通常トルクを出力したりすることが可能である。
【0027】
電気モータ制御部41は操作子42~44を有する。操作子42は非常停止ボタンであり、通常は作動していないので張力機構21およびプーリ駆動機構31は運転可能とされるが、作業員が操作子42を手動で押し下げると、送りモータ28および電気モータ34は駆動運転を止める。操作子43は目盛りを伴うダイヤルであり、目盛0~10が刻まれている。目盛0~10は電気モータ34の回転数に比例する。駆動プーリ19の回転を停止する場合、操作子43は目盛0に合わせられる。反対に駆動プーリ19の回転を最大にする場合、操作子43は目盛0に合わせられる。操作子44は電気モータ34をオン・オフするボタンである。上述した操作子43による速度調整は、操作子44がオンにされている場合のみ実行可能である。
【0028】
次に本実施形態の始動につき説明する。
【0029】
図1を参照して、張力機構21はコンクリート構造物100から離れる方向、つまり上端13に向かうようにされており、駆動プーリ19は二点鎖線に示す位置にあり、駆動プーリ19を上向きの力Fで付勢する。そして切断用ワイヤは駆動プーリ19の両側それぞれで張力F/2で張り詰めている。ここで、駆動プーリ19から出てくる予定の切断用ワイヤ20の出側20bは二点鎖線で表される。また駆動プーリ19および切断用ワイヤ20は停止している。切断用ワイヤ20はコンクリート構造物100の幾つかの角部102,103,104で引っ掛かっている。
【0030】
図4(a)は、本実施形態の始動状態を表すグラフであり、横軸が時間tを、縦軸が駆動プーリ19の周速を表す。なお周速は電気モータ34の回転数に対応する。
【0031】
まず作業員は操作子43を目盛0にしつつ操作子44をオンにする。次に操作子43を目盛1に合わせる。すると電気モータ34が駆動プーリ19に正回転方向(図1中の矢)に大きなトルクTdを付与し、駆動プーリ19から切断用ワイヤ20に張力Tが付与される(t=t)。そうすると駆動プーリ19に巻き取られる切断用ワイヤ20へ向かる入側20cの張力がF/2からF/2+Tに急増する。一方、張力機構21の上向き付勢力はFのままなので、張力が付勢力を上回り(F/2+T>F)、駆動プーリ19は図1に実線で示すように反対側(張力が少なくなる側)へわずかに変位する。そうすると駆動プーリ19から出てくる切断用ワイヤ20の出側20bが実線で示すように撓み、角部102,103と切断用ワイヤ20の引っ掛かりが緩和される。ひきつづき駆動プーリ19の外周縁と切断用ワイヤ20の間では静止摩擦係数が維持されて、急増分の張力Tが引っ掛かりに抗し、切断用ワイヤ20全体を微速で走行開始せしめる。
【0032】
切断用ワイヤ20に装着される複数のダイヤモンドビーズが次々に角部102,103を乗り越える際、角部102は切削され、丸み帯びるようになり、引っ掛かりが解消される。本実施形態は、周速5[m/s]の微速で駆動プーリ19の速度が安定する。切断用ワイヤ20も同様である。ここで5[m/s]は切断用ワイヤ20の始動速度である。また張力機構21の付勢力と出側20b、入側20cの張力バランスが再び一致し、一旦変位した駆動プーリ19は支柱12に沿った安定位置に復帰する。
【0033】
次の時刻t=tで作業員は操作子43を目盛1から増速させる。増速は例えば目盛1から目盛5のように階段状である。そうすると駆動プーリ19の周速は15[m/s]に向かって増加し、当該周速で安定する。切断用ワイヤ20も同様である。ここで15[m/s]は切断用ワイヤ20の第2速度である。
【0034】
次の時刻t=tで作業員は操作子43を目盛5から増速させる。増速は例えば目盛5から目盛10のように階段状である。そうすると駆動プーリ19の周速は25[m/s]に向かって増加し、当該周速で安定する。切断用ワイヤ20も同様である。ここで25[m/s]は切断用ワイヤ20の通常速度である。以降、切断用ワイヤ20は通常速度で走行し、コンクリート構造物100を徐々に切断する。これと同時に張力機構21および駆動プーリ19は、上端13に向かって徐々に変位し、出側20bおよび入側20cの張力を適正な範囲に安定させる。
【0035】
電気モータ34は、始動直前の停止状態(t=tまで)で回転停止し、始動運転状態(t=tを過ぎてtまで)で、0を超え60rpmまでの範囲に含まれる所定値で駆動する。次に電気モータ34は、第2運転状態(t=tを過ぎてtまで)で、60を超え100rpmまでの範囲に含まれる所定値で駆動する。次に電気モータ34は、通常運転状態(t=tを過ぎて最後まで)で、100を超え820rpmまでの範囲に含まれる所定値で駆動する。
【0036】
ところで本実施形態のコンクリートワイヤーソー装置10は、駆動プーリ19が回転停止するとともに切断用ワイヤ20がコンクリート構造物100の角部102,103に係止している場合に、切断用ワイヤ20を微速で走行させるよう電気モータ34を低回転で回転始動させる操作子43、44(電気モータ始動運転手段)を有する。またコンクリートワイヤーソー装置10は、駆動プーリ19の周速が微速で回転するとともに切断用ワイヤ20が微速走行して角部102,103が切削されると(時刻t=t)、電気モータ34を上述した低回転よりも速い第2速度で回転させる操作子43、44(電気モータ第2運転手段)とを備える。本実施形態によれば、停止している駆動プーリ19および切断用ワイヤ20を始動させる際、駆動プーリ19を微速で始動させることから、駆動プーリ19および切断用ワイヤ20の静止摩擦力を保持することができる。したがって角部102,103の引っ掛かりに抗して切断用ワイヤ20を微速で走行開始させることができる。また本実施形態によれば、停止している切断用ワイヤ20を、始動運転状態と第2運転状態の2段階を経由して、通常運転速度に増速させることができる。
【0037】
ここで附言すると、駆動プーリ19を駆動するモータが従来のように油圧モータの場合、微速や低速といった速度調整ができず、駆動プーリ19が回転速度0からいきなり高回転で始動する。そうすると駆動プーリ19および切断用ワイヤとの静止摩擦力が失われ、駆動プーリ19のみ空転し、切断用ワイヤ20が角部102、103引っ掛かったまま走行しない。このため従来は、角部102,103,104を事前に斫り取らなければならず、工数を必要としていた。
【0038】
また図4(a)に示すように本実施形態のコンクリートワイヤーソー装置10は、電気モータ34を駆動運転しない運転停止状態(t=t)と、電気モータ始動運転状態(t=tを過ぎてtまで)と、電気モータ第2運転手段(t=tを過ぎてtまで)との間で、前記電気モータの運転を手動で切り替える操作子43を備えることから、作業員が任意のタイミングで切断用ワイヤ20を走行開始させることができる。
【0039】
また本実施形態の電気モータ34はサーボモータであることから、微速かつ大トルクで電気モータ始動運転状態(t=tを過ぎてtまで)を実現することができる。
【0040】
次に本発明の変形例を説明する。図4(b)は本発明の変形例を示すグラフである。この変形例では、駆動プーリ19および電気モータ34の運転停止状態(t=t)と、始動運転状態(t=tを過ぎてtまで)は前述した図4(a)の実施形態と共通する。ただし続く第2運転状態(t=tを過ぎてtまで)では、駆動プーリ19の周速および電気モータ34の回転速度を徐々に増速させる。かかる増速は、作業員が操作子43のダイヤルをゆっくりと増大させることによって実現する。
【0041】
図4(b)に示す変形例によっても、角部102,103を事前に斫り取ることなく、角部102,103に引っ掛かって走行停止している切断用ワイヤ20を微速で走行開始させることができる。
【0042】
次に本発明のさらなる変形例を説明する。図4(c)は本発明の変形例を示すグラフである。この変形例では、駆動プーリ19および電気モータ34の運転停止状態(t=t)と、始動運転状態(t=tを過ぎてtまで)は前述した図4(a)の実施形態と共通する。ただし続く第2運転状態が通常運転速度(例えば上述した25[m/s])である。 図4(c)に示す変形例によっても、角部102,103を事前に斫り取ることなく、角部102,103に引っ掛かって走行停止している切断用ワイヤ20を微速で走行開始させることができる。また運転停止状態から速やかに通常運転状態に移行することができる。
【0043】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。本実施形態では、始動運転状態(t=tを過ぎてtまで)から第2運転状態(t=tを過ぎてtまで)へ作業員が手動で切り替えるが、図示しない変形例として、自動で切り替えてもよい。また第2運転状態(t=tを過ぎてtまで)から通常運転(t=tを過ぎて最後まで)の切り替えも自動で実行可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、建設機械において有利に利用される。
【符号の説明】
【0045】
10 コンクリートワイヤーソー装置、 14 ラック、
16~18 従動プーリ、 19 駆動プーリ、 20 切断用ワイヤ、
21 張力機構、 23 ピニオン、 25 ブレーキ機構、
26 クラッチ機構、 28 送りモータ、 31 プーリ駆動機構、
34 電気モータ(サーボモータ)、 41 電気モータ制御部、
42~44 操作子。
図1
図2
図3
図4