(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165906
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】組積造壁補強構造及び組積造壁補強方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
E04G23/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082492
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪田 真規
(72)【発明者】
【氏名】有竹 剛
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】既存基礎の有無に関わりなく組積造壁を補強することができると共に、施工効率を向上させることができる組積造壁補強構造を提供する。
【解決手段】組積造壁補強構造10は、レンガ壁108の下部側面108Aに形成され、支圧面34がレンガ壁108の目地117に沿った横孔12と、レンガ壁108の上面から横孔12の支圧面34を抜ける縦孔14と、縦孔14へ挿入され、先端部に取付けられた定着板18が横孔12内に位置するPC鋼棒16と、横孔12に充填され、定着板18を埋設するコンクリート部20と、PC鋼棒16を緊張する締付部材22と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組積造壁の下部側面に形成され、支圧面が前記組積造壁の目地に沿った横孔と、
前記組積造壁の上面から前記横孔の前記支圧面を抜ける縦孔と、
前記縦孔へ挿入され、先端部に取付けられた定着板が前記横孔内に位置する緊張材と、
前記横孔に充填され、前記定着板を埋設するコンクリート部と、
前記緊張材を緊張する締付部材と、
を有する組積造壁補強構造。
【請求項2】
前記横孔の上側の前記支圧面は、前記組積造壁の目地と平行である請求項1に記載の組積造壁補強構造。
【請求項3】
組積造壁の下部側面に、複数の円形孔を横にずらしラップさせて穿孔し、上面を斫って前記組積造壁の目地に沿った支圧面とするための横孔を形成する横孔形成工程と、
前記組積造壁の上面から前記横孔の前記支圧面を抜けるように削孔された縦孔に緊張材を挿入する緊張材挿入工程と、
前記緊張材の先端部に定着板を取り付け、前記定着板を前記横孔内に位置させる定着板取付工程と、
前記横孔にコンクリートを充填し、前記定着板を埋設する充填工程と、
前記縦孔の上側から前記緊張材を緊張する緊張工程と、
を有する組積造壁補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組積造壁補強構造及び組積造壁補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、組積造壁を備えた建物の補強構造が提案されている。
【0003】
下記特許文献1には、組積造建造物の頂部から下部にかけて設けられた鉛直孔と、鉛直孔の下端部に鉛直孔の孔径よりも拡径した拡径部と、を備えた組積造構造物の補強構造が開示されている。この組積造構造物の補強構造では、棒状材の下端部に定着板を取り付けた後、鉛直孔に棒状材を挿通し、拡径部に固化材を充填して定着板を埋設している。
【0004】
また、下記特許文献2には、レンガ壁の基礎の側壁から横穴を形成した組積造壁の補強構造が開示されている。この組積造壁の補強構造では、レンガ壁の上端と下端との間を挿通する貫通孔に緊張材を挿通し、緊張材の下端部を固定する下部固定部材が横穴に充填された充填材で固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-094431号公報
【特許文献2】特開2010-281034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の組積造構造物の補強構造では、鉛直孔の下端部に拡径部を形成するときに、鉛直孔の下端部を水平方向外側に切削して鉛直孔の内径よりも拡径している。このため、拡径部の切削作業に手間がかかり、施工効率が低下する。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の組積造壁の補強構造では、レンガ壁の基礎の側壁から横穴を形成している。このため、基礎が設けられていない組積造建造物には、本技術を適用することができず、改善の余地がある。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、既存基礎の有無に関わりなく組積造壁を補強することができると共に、施工効率を向上させることができる組積造壁補強構造及び組積造壁補強方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様に記載の組積造壁補強構造は、組積造壁の下部側面に形成され、支圧面が前記組積造壁の目地に沿った横孔と、前記組積造壁の上面から前記横孔の前記支圧面を抜ける縦孔と、前記縦孔へ挿入され、先端部に取付けられた定着板が前記横孔内に位置する緊張材と、前記横孔に充填され、前記定着板を埋設するコンクリート部と、前記緊張材を緊張する締付部材と、を有する。
【0010】
第1態様に記載の組積造壁補強構造によれば、組積造壁の下部側面に、支圧面が組積造壁の目地に沿った横孔が形成されている。組積造壁の上面から横孔の支圧面を抜ける縦孔へ緊張材が挿入されており、緊張材の先端部に取付けられた定着板が横孔内に位置している。横孔には、コンクリート部が充填されており、コンクリート部に定着板が埋設されている。さらに、組積造壁の上面に設けられた締付部材により、緊張材を緊張することで、横孔内のコンクリート部の上面の支圧面から組積造壁に圧縮力が生じる。
このため、既存基礎が存在しない組積造壁でも、緊張材により組積造壁全体に圧縮力を生じさせて補強することができる。さらに、組積造壁の下部側面に横孔を形成するため、組積造壁を備えた建物周辺の地盤中に史跡等があり掘削できなくても、建物内部側から補強可能であり、また、創建時の建物の意匠性を損なうことが抑制される。
【0011】
第2態様に記載の組積造壁補強構造は、第1態様に記載の組積造壁補強構造において、前記横孔の上側の前記支圧面は、前記組積造壁の目地と平行である。
【0012】
第2態様に記載の組積造壁補強構造によれば、横孔の上側の支圧面は組積造壁の目地と平行であるため、組積造壁の目地に合わせて、上側に支圧面となる水平面を備えた横孔を形成しやすい。
【0013】
第3態様に記載の組積造壁補強方法は、組積造壁の下部側面に、複数の円形孔を横にずらしラップさせて穿孔し、上面を斫って前記組積造壁の目地に沿った支圧面とするための横孔を形成する横孔形成工程と、前記組積造壁の上面から前記横孔の前記支圧面を抜けるように削孔された縦孔に緊張材を挿入する緊張材挿入工程と、前記緊張材の先端部に定着板を取り付け、前記定着板を前記横孔内に位置させる定着板取付工程と、前記横孔にコンクリートを充填し、前記定着板を埋設する充填工程と、前記縦孔の上側から前記緊張材を緊張する緊張工程と、を有する。
【0014】
第3態様に記載の組積造壁補強方法によれば、横孔形成工程では、組積造壁の下部側面に、複数の円形孔を横にずらしラップさせて穿孔し、上面を斫って組積造壁の目地に沿った支圧面とするための横孔を形成する。緊張材挿入工程では、組積造壁の上面から横孔の支圧面を抜けるように削孔された縦孔に緊張材を挿入する。定着板取付工程では、緊張材の先端部に定着板を取り付け、定着板を前記横孔内に位置させる。充填工程では、横孔にコンクリートを充填し、定着板を埋設する。さらに、緊張工程では、縦孔の上側から緊張材を緊張する。これにより、横孔に充填されたコンクリートの上面の支圧面から組積造壁に圧縮力が生じる。
このため、既存基礎が存在しない組積造壁でも、緊張材により組積造壁全体に圧縮力を生じさせて補強することができる。さらに、組積造壁の下部側面に横孔を形成するため、組積造壁を備えた建物周辺の地盤中に史跡等があり掘削できなくても、建物内部側から補強可能であり、また、創建時の建物の意匠性を損なうことが抑制される。
【発明の効果】
【0015】
本開示の組積造壁補強構造及び組積造壁補強方法によれば、既存基礎の有無に関わりなく組積造壁を補強することができると共に、施工効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る組積造壁補強構造が適用された建物の一部を示す側面断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る組積造壁補強構造が適用された建物の一部を示す正面断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る組積造壁補強構造を拡大した状態で示す正面断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る組積造壁補強構造を拡大した状態で示す側面断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る組積造壁補強構造を施工するための組積造壁補強方法を示す工程図である。
【
図6】(A)は、組積造壁に横孔を形成する状態を示す側面図であり、(B)は、組積造壁に横孔を形成する状態を示す平面図である。
【
図7】第2実施形態に係る組積造壁補強構造が適用された建物の一部を示す側面断面図である。
【
図8】比較例の組積造壁補強構造が適用された建物の一部を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。各図面において、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。
【0018】
〔第1実施形態〕
図1~
図6を用いて、第1実施形態に係る組積造壁補強構造及び組積造壁補強方法について説明する。
【0019】
(組積造壁補強構造が適用された建物の構成)
図1には、第1実施形態に係る組積造壁補強構造10が適用された建物100の一部が側面断面図にて示されている。また、
図2には、組積造壁補強構造10が適用された建物100の一部が正面断面図にて示されている。
図1に示すように、建物100は、地盤102が掘削された底面部に配置された割栗石104と、割栗石104の上側に打設された捨てコンクリート106と、捨てコンクリート106の上側に設けられたレンガ壁108と、を備えている。組積造壁とは、石、レンガ、コンクリートブロック等のブロック状の部材を積み重ねて形成された構造物の壁を意味する。第1実施形態では、建物100は、レンガ造の建築物であり、レンガを積み重ねて形成されたレンガ壁108を備えている。レンガ壁108は、組積造壁の一例である。
【0020】
さらに、建物100の屋内には、捨てコンクリート106の上側に配置されたレンガ床110と、レンガ床110の上側に形成された乾式床112と、を備えている。一例として、乾式床112は、建物100の地下1階に設けられている。乾式床112は、例えば、レンガ床110上に配置された複数の柱114の上面に床パネル115を敷き並べて形成されている。床パネル115は、レンガ壁108の側面に接触している。また、建物100の屋外では、地盤102が掘削された部分にレンガ壁108の下端部が接触している。
【0021】
図2に示すように、レンガ壁108は、レンガ116を積み上げて造られており、レンガ116とレンガ116の間には、目地材が充填された目地117が設けられている(
図3参照)。目地材は、例えば、モルタル又はグラウト等である。なお、
図2では、割栗石104及び捨てコンクリート106の図示を省略している。
【0022】
また、一例として、組積造壁補強構造10が適用された建物100は、割栗石104と捨てコンクリート106とを備えていたが(
図1参照)、本開示の組積造壁補強構造は、割栗石、捨てコンクリートの有無に関係なく適用することができる。
【0023】
(組積造壁補強構造の構成)
次に、組積造壁補強構造10について説明する。第1実施形態では、組積造壁補強構造10により、建物100のレンガ壁108が補強されている。
【0024】
図1及び
図2に示すように、組積造壁補強構造10は、レンガ壁108の下部側面108Aに形成された横孔12と、レンガ壁108の上面から横孔12に抜けた縦孔14と、縦孔14へ挿入されたPC鋼棒16と、を備えている。PC鋼棒16は、緊張材の一例である。PC鋼棒16の先端部(第1実施形態では下端部)には、定着板18が取り付けられており、定着板18が横孔12内に位置している(
図3及び
図4参照)。
【0025】
さらに、組積造壁補強構造10は、横孔12にコンクリートが充填されたコンクリート部20と、PC鋼棒16を緊張する締付部材22と、を備えている。
【0026】
横孔12は、建物100の屋内のレンガ壁108の下部側面108Aに形成されている。横孔12は、例えば、レンガ壁108の下部側面108Aに横方向に形成された凹部である。一例として、横孔12は、レンガ壁108を貫通しない形状とされている。横孔12は、複数(第1実施形態では2つ)の円形孔30A、30Bを横にずらしラップさせて穿孔し、上面を斫って上側平面部32としている(
図3参照)。上側平面部32は、レンガ壁108の目地117(
図3中に示す水平方向の目地117の中心線118を参照)に沿って形成されている。横孔12にコンクリート部20が充填された状態で、上側平面部32が支圧面34となる。第1実施形態では、横孔12の上側の支圧面34は、レンガ壁108の目地117と平行である。
【0027】
また、横孔12は、円形孔30A、30Bをラップさせて穿孔した部分の下面を斫って下側平面部36としている(
図3参照)。一例として、下側平面部36は、レンガ壁108の目地117とは異なる位置に形成されている。
【0028】
縦孔14は、レンガ壁108の上面から横孔12の支圧面34を抜けるように形成されている。縦孔14は、例えば、平面視にて円形状である(
図6(B)参照)。
図2に示すように、レンガ壁108の上側には、既存のコンクリート臥梁130が設けられている。縦孔14は、コンクリート臥梁130及びレンガ壁108に連続して形成されている。
【0029】
PC鋼棒16は、例えば、円形状の部材である。PC鋼棒16の外径は、縦孔14の内径より小さく、縦孔14の上部から挿入可能とされている。
【0030】
定着板18は、例えば、平面視にて矩形状の板材である。定着板18の外形は、縦孔14の内径よりも大きい。PC鋼棒16を縦孔14の上部から縦孔14内に挿入し、PC鋼棒16の先端部が横孔12に抜けた状態で、レンガ壁108の下部側面108Aにおける横孔12の開口からPC鋼棒16の先端部に定着板18を取り付け可能である。第1実施形態では、PC鋼棒16の先端部に定着板18を取り付けた状態で、PC鋼棒16及び定着板18を縦孔14内に挿入することはできない。
【0031】
一例として、定着板18は、PC鋼棒16が貫通する貫通孔を備えている。一例として、定着板18の貫通孔をPC鋼棒16に挿通させ、PC鋼棒16の先端に形成されたねじ部に、ナットなどの取付具40を締め付けることで、PC鋼棒16の先端部に定着板18が取り付けられる。
【0032】
図1~
図4に示されるように、第1実施形態では、横孔12には、円形孔30A、30Bをラップさせて穿孔した部分に、それぞれ螺旋状に巻かれたスパイラル筋42が配置されている。スパイラル筋42は、補強鉄筋の一例である。2つのスパイラル筋42は、水平方向に位置をずらすと共に一部が重なるように配置されている(
図3等参照)。
【0033】
横孔12にコンクリート又はモルタルが充填されたコンクリート部20には、PC鋼棒16の先端部の定着板18が埋設されている。コンクリート部20が固化し、所望の強度が得られることによって、定着板18がコンクリート部20に固定されている。第1実施形態では、横孔12内に2つのスパイラル筋42が位置をずらして配置されており、コンクリート部20には、2つのスパイラル筋42が埋設されている。
【0034】
図2に示すように、締付部材22は、PC鋼棒16を緊張した状態で、コンクリート臥梁130の縦孔14から露出したPC鋼棒16の先端に締め付けられている。締付部材22により、PC鋼棒16が緊張された状態で保持される。一例として、締付部材22は、PC鋼棒16の上端部に挿通された上部固定部材52と、PC鋼棒16の上端に設けられたねじ部に締め付けられる定着ナット54と、を備えている。定着ナット54が上部固定部材52を介してPC鋼棒16の上端のねじ部に締め付けられることで、PC鋼棒16が緊張した状態で保持される。
【0035】
(組積造壁補強方法)
次に、第1実施形態の組積造壁補強方法の一例としてのレンガ壁108の補強方法について説明する。
図5は、レンガ壁108の補強方法を示す工程図である。
【0036】
図5に示すように、レンガ壁108の補強方法は、削孔作業201と、PC鋼棒挿入作業及びコンクリート充填作業202と、緊張工事203と、を有する。
【0037】
削孔作業201では、レンガ壁108の上部に図示しない削孔機を設置し、鉛直削孔を行う(工程S211を参照)。これにより、レンガ壁108の上面から縦孔14を削孔する(
図2参照)。鉛直削孔では、縦孔14の鉛直施工精度の管理や、縦孔14の削孔長を確認する。
【0038】
次に、
図6(A)、(B)に示すように、レンガ壁108の下部側面108Aに削孔機300を設置し、レンガ壁108の横からコア削孔を行う(工程S212を参照)。削孔機300は、本体部302から延びたドリル304と、本体部302をレンガ壁108に固定する固定部材306と、を備えている。一例として、固定部材306は、レンガ壁108にねじ込まれた部材に締結固定される構成である。
【0039】
コア削孔の工程S212では、ドリル304により、レンガ壁108の下部側面108Aから円形孔30Aを穿孔する。さらに、削孔機300をレンガ壁108の横にずらして設置し、ドリル304により、円形孔30Aの横にずらして円形孔30Bを穿孔する。これにより、レンガ壁108の下部側面108Aに2つの円形孔30A、30Bを横にずらしラップさせて穿孔することができる。コア削孔の工程S212では、2つの円形孔30A、30Bの内径、ピッチ、位置などの寸法及び形状を確認する。さらに、2つの円形孔30A、30Bを斫ってレンガ壁108の目地117に沿った支圧面34とするための横孔12を形成する(横孔形成工程)。横孔12は、縦孔14の下端部と連通する位置に形成する。これにより、縦孔14は、レンガ壁108の上面から横孔12の支圧面34を抜けるように削孔された状態となる。なお、第1実施形態では、
図1に示す乾式床112を剥がして、レンガ壁108の下部側面108Aに横孔12を形成する。
【0040】
さらに、横孔12の形状の測定及び確認を行い(工程S213を参照)、横孔12内を清掃する(工程S214を参照)。
【0041】
一例として、直径350mmの円形孔30A、30Bを250mmの間隔で設け、250mmの幅の支圧面34を備えた横孔12を形成する。
【0042】
PC鋼棒挿入作業及びコンクリート充填作業202では、レンガ壁108の縦孔14にPC鋼棒16を挿入し(緊張材挿入工程)、PC鋼棒16の頂部を固定する(工程S221を参照)。PC鋼棒16は、中間継手により複数本を接合してもよい。一例として、PC鋼棒16には、防錆処理を施す。
【0043】
さらに、横孔12にスパイラル筋42をセットし、PC鋼棒16の先端部に定着板18を取り付ける(工程S222を参照)。これにより、定着板18を横孔12内に位置させる(定着板取付工程)。
【0044】
一例として、直径350mmの円形孔30A、30Bを250mmの間隔で設けた場合、PC鋼棒16の先端部に取り付けられた定着板18の上面は、250mmの幅の支圧面34から200mm以上離れるようにする。
【0045】
その後、横孔12内にコンクリートを充填し(工程S223を参照)、定着板18を埋設する(充填工程)。そして、コンクリートを硬化養生し、強度を確認する(工程S224を参照)
【0046】
緊張工事203では、PC鋼棒16の上部定着部のケレン(素地)の清掃を行い(工程S231を参照)、さらに、PC鋼棒16の上端に上部固定部材52を設置し(
図2参照)、図示しない油圧ジャッキをセットする(工程S232を参照)。そして、油圧ジャッキを用いてPC鋼棒16に緊張力を導入する(工程S233を参照)。この状態で、PC鋼棒16の上端のねじ部に定着ナット54を螺合し、工具を用いて定着ナット54を締め付けて所定の緊張力を導入する(緊張工程、工程S234を参照)。これにより、レンガ壁108を補強するための工程が終了する。その後、建物100の屋内に、レンガ壁108の横孔12を覆うように乾式床112を形成する。
【0047】
(作用及び効果)
次に、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0048】
組積造壁補強構造10では、レンガ壁108の下部側面108Aに、支圧面34がレンガ壁108の目地117に沿った横孔12が形成されている。レンガ壁108の上面から横孔12の支圧面34を抜ける縦孔14へPC鋼棒16が挿入されており、PC鋼棒16の先端部に取付けられた定着板18が横孔12内に位置している。横孔12には、コンクリート部20が充填されており、コンクリート部20に定着板18が埋設されている。さらに、レンガ壁108の上面に設けられた締付部材22により、PC鋼棒16が緊張されている。これにより、
図2中の矢印に示すように、横孔12内のコンクリート部20の上面の支圧面34からレンガ壁108に圧縮力が生じる。すなわち、コンクリート臥梁130とコンクリート部20の上側の支圧面34とでレンガ壁108が挟まれた状態でレンガ壁108に圧縮力が生じる(
図2参照)。
【0049】
このため、組積造壁補強構造10では、既存基礎が存在しないレンガ壁108でも、緊張力が付与されたPC鋼棒16によりレンガ壁108全体に圧縮力を生じさせて補強することができる。さらに、レンガ壁108の下部側面108Aに横孔12を形成するため、レンガ壁108を備えた建物100周辺の地盤102中に史跡等があり掘削できなくても、建物100の内部側から補強可能であり、また、創建時の建物100の意匠性を損なうことが抑制される。
【0050】
また、組積造壁補強構造10は、横孔12の上側の支圧面34は、レンガ壁108の目地117と平行である。第1実施形態では、横孔12の上側の支圧面34は、レンガ壁108の目地117の位置に合わせて形成されている。
【0051】
このため、組積造壁補強構造10では、レンガ壁108の目地に合わせて、上側に支圧面34となる水平面を備えた横孔12を形成しやすい。
【0052】
また、組積造壁補強方法によれば、横孔形成工程と、緊張材挿入工程と、定着板取付工程と、緊張工程と、充填工程と、を有している。横孔形成工程では、レンガ壁108の下部側面108Aに、複数の円形孔30A、30Bを横にずらしラップさせて穿孔し、上面を斫ってレンガ壁108の目地117に沿った支圧面34とするための横孔12を形成する。緊張材挿入工程では、レンガ壁108の上面から横孔12の支圧面34を抜けるように削孔された縦孔14にPC鋼棒16を挿入する。定着板取付工程では、PC鋼棒16の先端部に定着板18を取り付け、定着板18を横孔12内に位置させる。充填工程では、横孔12にコンクリートを充填し、定着板18を埋設する。さらに、緊張工程では、縦孔14の上側からPC鋼棒16を緊張する。これにより、横孔12にコンクリートを充填したコンクリート部20の上面の支圧面34からレンガ壁108に圧縮力が生じる。すなわち、コンクリート臥梁130とコンクリート部20の上側の支圧面34とでレンガ壁108が挟まれた状態でレンガ壁108に圧縮力が生じる(
図2参照)。
【0053】
このため、組積造壁補強方法では、既存基礎が存在しないレンガ壁108でも、緊張力が付与されたPC鋼棒16によりレンガ壁108全体に圧縮力を生じさせて補強することができる。さらに、レンガ壁108の下部側面108Aに横孔12を形成するため、レンガ壁108を備えた建物100周辺の地盤102中に史跡等があり掘削できなくても、建物100の内部側から補強可能であり、また、創建時の建物100の意匠性を損なうことが抑制される。
【0054】
(比較例の組積造壁補強構造)
ここで、比較例の組積造壁補強構造500について、説明する。
【0055】
比較例の組積造壁補強構造500では、地中に埋設されたコンクリート基礎502の上側にレンガ壁108が積み重ねて形成されている。レンガ壁108の上面からコンクリート基礎502に向けて縦孔504が削孔されている。縦孔504は、コンクリート基礎502に到達し、かつコンクリート基礎502を貫通しない位置まで削孔されている。縦孔504の先端部には、縦孔504の内径よりも孔径が拡大された拡径部506が形成されている。例えば、縦孔504に挿入された掘削ロッドの先端に孔拡径装置(図示省略)を取り付け、掘削ロッドを回転させることで、孔拡径装置により、縦孔504の先端部に拡径部506を形成することができる。
【0056】
PC鋼棒16の先端部には、定着部508が取り付けられており、PC鋼棒16が定着部508側から縦孔504に挿入されている。定着部508は、拡径部506よりも奥側の縦孔504の底部に突き当てられている。定着部508は拡径部506内のグラウト材510が固化することによってコンクリート基礎502に定着されている。
【0057】
PC鋼棒16の上端部には、上部固定部材52が配置されており、PC鋼棒16に緊張力が付与された状態で、PC鋼棒16の上端部のねじ部に定着ナット54が締め付けられている。
【0058】
比較例の組積造壁補強構造500では、コンクリート基礎502とコンクリート臥梁130とでレンガ壁108が上下方向に挟持されてレンガ壁108に圧縮力が付与される。
【0059】
しかし、比較例の組積造壁補強構造500は、コンクリート基礎502における縦孔504の先端部に、縦孔504の内径よりも孔径が拡大された拡径部506が形成されており、この構成をコンクリート基礎502が設けられていない建物100(
図2参照)に適用することはできない。すなわち、コンクリート基礎502が設けられていない建物100(
図2参照)では、レンガ壁108に形成された縦孔14の下端部に拡径部を設けることができない。
【0060】
これに対して、第1実施形態の組積造壁補強構造10では、レンガ壁108の下部側面108Aに、支圧面34がレンガ壁108の目地117に沿った横孔12が形成されている。そして、レンガ壁108の縦孔14にPC鋼棒16が挿入され、PC鋼棒16の先端部に取付けられた定着板18が横孔12に充填されたコンクリート部20に埋設されている。このため、第1実施形態の組積造壁補強構造10及び組積造壁補強方法では、既存のコンクリート基礎が存在しないレンガ壁108でも、緊張力が付与されたPC鋼棒16によりレンガ壁108全体に圧縮力を生じさせて補強することができる。
【0061】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態の組積造壁補強構造及び組積造壁補強方法について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0062】
図7には、第2実施形態の組積造壁補強構造160が適用された建物150が縦断面図にて示されている。
図7に示すように、建物150は、地盤102が掘削された部分に配置された割栗石152と、割栗石152の上側に打設された捨てコンクリート154と、捨てコンクリート154の上側に設けられたレンガ壁108と、を備えている。レンガ壁108は、地盤102に埋設されている。建物150の屋内には、地盤102の上に土間スラブ156が設けられている。一例として、土間スラブ156は、建物150の地下1階に設けられている。
【0063】
レンガ壁108の補強のための施工時には、土間スラブ156及び地盤102をレンガ壁108の下部側面108Aが露出する掘削範囲162で掘削する。そして、地盤102から露出したレンガ壁108の下部側面108Aに横孔12を形成する。第2実施形態の組積造壁補強構造160は、第1実施形態の組積造壁補強構造10と同様である。
【0064】
レンガ壁108の補強した後、地盤102の掘削範囲162を埋め戻し、埋め戻した地盤102の上部に土間スラブ156を設ける。本実施形態のその他の組積造壁補強方法は、第1実施形態の組積造壁補強方法と同様である。
【0065】
第2実施形態の組積造壁補強構造160及び組積造壁補強方法は、第1実施形態の組積造壁補強構造10及び組積造壁補強方法と同様の構成により、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0066】
〔その他〕
第1及び第2実施形態では、横孔12は、レンガ壁108を貫通しない凹部であるが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、横孔は、レンガ壁108を貫通するものでもよい。すなわち、本開示の「横孔」は、組積造壁の一例としてのレンガ壁を貫通するものと貫通しないものの両方を含む意味である。
【0067】
第1及び第2実施形態では、横孔12の支圧面34は平らであるが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、横孔の支圧面は、平らでない(すなわち、凹凸がある)形状であってもよい。
【0068】
第1及び第2実施形態では、横孔12の支圧面34は、レンガ壁108の目地117の位置に合わせて形成されているが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、横孔の支圧面は、レンガ壁108の目地117と平行であれば、レンガ壁108の目地117と僅かにずれた位置に設けられていてもよい。
【0069】
第1及び第2実施形態では、レンガ壁108に縦孔14の形成した後、レンガ壁108に下部側面108Aに横孔12を形成したが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、本開示の組積造壁補強方法では、横孔の形成と縦孔の形成の順序を逆にしてもよい。
【0070】
第1及び第2実施形態では、レンガ壁108の下部側面108Aに、2つの円形孔30A、30Bを横にずらしラップさせて穿孔したが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、3つ以上の円形孔を横にずらしラップさせて穿孔することで、横孔を形成してもよい。
【0071】
第1及び第2実施形態では、レンガ壁108のレンガ116を1段残して横孔12を形成したが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、レンガ壁108の最下部のレンガ116を含む部分に横孔を形成してもよい。
【0072】
第1及び第2実施形態では、建物100又は建物150の屋内のレンガ壁108の下部側面108Aに横孔12を形成したが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、横孔12が地盤102のグランドレベルより低い場合は、横孔12が見えないため、建物100又は建物150の屋外のレンガ壁の下部側面に横孔を形成してもよい。
【0073】
第1及び第2実施形態では、横孔12内にスパイラル筋42が配置されているが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、横孔内にスパイラル筋などの補強鉄筋を設けない構成でもよい。
【0074】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0075】
10 組積造壁補強構造
12 横孔
14 縦孔
16 鋼棒
18 定着板
20 コンクリート部
22 締付部材
30A 円形孔
30B 円形孔
34 支圧面
100 建物
108 レンガ壁
108A 下部側面
150 建物
160 組積造壁補強構造