(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165934
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20241121BHJP
G01R 11/54 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01R19/00 A
G01R11/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082535
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】230128026
【弁護士】
【氏名又は名称】駒木 寛隆
(72)【発明者】
【氏名】村上 健二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直樹
【テーマコード(参考)】
2G035
【Fターム(参考)】
2G035AA12
2G035AB05
2G035AC03
2G035AC07
2G035AD10
2G035AD23
2G035AD28
2G035AD45
(57)【要約】
【課題】ケーブル被覆の上から芯線にかかる被測定電圧の物理量をより高い精度で測定可能にする。
【解決手段】測定装置は、第1周波数の被測定電圧がかかる芯線に対して、第2周波数の注入電流を、絶縁体を介して注入し、前記注入電流と、前記絶縁体を介して前記芯線から漏れ出た前記被測定電圧の漏れ電流とが回路ユニットにおいて重畳してなる合成電流を取得し、前記合成電流を解析して、前記被測定電圧の寄与に基づく有効電力及び無効電力である、測定有効電力及び測定無効電力を算出し、前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、前記第2周波数、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき、前記被測定電圧を算出し、算出した前記被測定電圧を出力する、制御部を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数の被測定電圧がかかる芯線に対して、第2周波数の注入電流を、絶縁体を介して注入し、
前記注入電流と、前記絶縁体から漏れ出た前記被測定電圧の漏れ電流とからなる合成電流を取得し、
前記被測定電圧の寄与に基づく有効電力及び無効電力である測定有効電力及び測定無効電力を前記合成電流に基づき算出し、
前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、前記第2周波数、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき前記被測定電圧を算出し、
前記被測定電圧を出力する、
制御部を備える、測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、及び、前記第2周波数に基づき、前記測定有効電力、及び、前記測定無効電力に対応する皮相電力を算出し、
算出した前記皮相電力、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき、前記被測定電圧を算出する、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記制御部は、
算出した前記測定有効電力、及び、前記測定無効電力の比に基づいて、前記漏れ電流の前記注入電流に対する位相を算出し、
算出した前記漏れ電流の位相を更に出力する、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記漏れ電流の寄与がある状態において回路ユニット内で前記注入電流を流して測定された、前記回路ユニットにおける有効電力及び無効電力である注入有効電力、及び、注入無効電力を測定し、
前記漏れ電流の寄与がない状態において前記回路ユニット内で前記注入電流を流して測定された、前記回路ユニットにおける有効電力及び無効電力であるオフセット有効電力、及び、オフセット無効電力を測定し、
前記注入有効電力を前記オフセット有効電力でオフセットした電力を前記測定有効電力として算出し、
前記注入無効電力を前記オフセット無効電力でオフセットした電力を前記測定無効電力として算出する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記注入電流の寄与がない状態において、前記絶縁体を介して前記芯線から漏れ出た前記被測定電圧の前記漏れ電流の電圧を取得し、
取得した前記漏れ電流の電圧に基づき、前記漏れ電流の前記電流実効値を取得する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項6】
制御部を備える測定装置の測定方法であって、
前記制御部が、
第1周波数の被測定電圧がかかる芯線に対して、第2周波数の注入電流を、絶縁体を介して注入することと、
前記注入電流と、前記絶縁体を介して漏れ出た前記被測定電圧の漏れ電流とからなる合成電流を取得することと、
前記合成電流に基づき、前記被測定電圧の寄与に基づく有効電力及び無効電力である、測定有効電力及び測定無効電力を算出することと、
前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、前記第2周波数、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき、前記被測定電圧を算出することと、
前記被測定電圧を出力することと、
を含む、測定方法。
【請求項7】
前記制御部は、
前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、及び、前記第2周波数に基づき、前記測定有効電力、及び、前記測定無効電力に対応する皮相電力を算出し、
算出した前記皮相電力、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき、前記被測定電圧を算出する、
請求項6に記載の測定方法。
【請求項8】
前記制御部は、
算出した前記測定有効電力、及び、前記測定無効電力の比に基づいて、前記漏れ電流の前記注入電流に対する位相を算出し、
算出した前記漏れ電流の位相を更に出力する、
請求項6に記載の測定方法。
【請求項9】
前記制御部は、
前記漏れ電流の寄与がある状態において回路ユニット内で前記注入電流を流して測定された、前記回路ユニットにおける有効電力及び無効電力である注入有効電力、及び、注入無効電力を測定し、
前記漏れ電流の寄与がない状態において前記回路ユニット内で前記注入電流を流して測定された、前記回路ユニットにおける有効電力及び無効電力であるオフセット有効電力、及び、オフセット無効電力を測定し、
前記注入有効電力を前記オフセット有効電力でオフセットした電力を前記測定有効電力として算出し、
前記注入無効電力を前記オフセット無効電力でオフセットした電力を前記測定無効電力として算出する、
請求項6から8のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項10】
前記制御部は、
前記注入電流の寄与がない状態において、前記絶縁体を介して前記芯線から漏れ出た前記被測定電圧の前記漏れ電流の電圧を取得し、
取得した前記漏れ電流の電圧に基づき、前記漏れ電流の前記電流実効値を取得する、
請求項6から8のいずれか一項に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
設備の24時間稼働及びシステム化等の進展に伴い、設備を動作させたままでのメンテナンスに対する要望が高まっている。このような設備メンテナンスの一環として、配電盤等の活線部であるネジ等に金属のクリップを接続して、活線部の電圧及び位相等を測定することが行われている。
【0003】
配電盤の活線部は、クリップするための構造を有しておらず、また、狭い場所に密集していることが多い。そのため、活線部にクリップを接続して電圧等を測定する手法は、作業者の感電の危険を生じさせる可能性がある。クリップ時の電源短絡、クリップ脱落による短絡、及び、クリップ脱落による測定データの消失などの危険が生じる可能性もある。
【0004】
特許文献1には、電線の芯線に印加される交流電圧を芯線に接する絶縁体を通して測定する非接触電圧測定装置が記載されている。特許文献1の構成は、予め設けられた基準コンデンサの容量を変化させて絶縁体と電極間の結合容量との間で分圧した入力信号に基づき結合容量を求め、この結合容量の値に基づき交流電圧を測定する。このような構成によれば、活線部ではなくケーブル被覆の上から芯線にかかる被測定電圧等を測定することができる。したがって、作業者の感電、短絡、及び、測定データ消失等の危険を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の構成は、被覆された電線の芯線に接する絶縁体を通して印加されている電圧等を測定する測定精度に改善の余地があった。
【0007】
そこで、本開示は、ケーブル被覆の上から芯線にかかる被測定電圧の物理量をより高い精度で測定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
幾つかの実施形態に係る測定装置は、
(1)第1周波数の被測定電圧がかかる芯線に対して第2周波数の注入電流を、絶縁体を介して注入し、
前記注入電流と、前記絶縁体から漏れ出た前記被測定電圧の漏れ電流とからなる合成電流を取得し、
前記被測定電圧の寄与に基づく有効電力及び無効電力である測定有効電力及び測定無効電力を前記合成電流に基づき算出し、
前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、前記第2周波数、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき前記被測定電圧を算出し、
前記被測定電圧を出力する、
制御部を備える。
【0009】
このように、測定装置は、被測定電圧がかかる芯線から直接信号を取得するのではなく、絶縁体を介して取得された信号に基づき被測定電圧が印加された芯線から被覆を通して流れ出る漏れ電流を測定するため、ケーブル被覆の上から被測定電圧の物理量を測定することができる。また、測定装置は、被測定電圧が印加された芯線から被覆を通して流れ出る漏れ電流の第1周波数とは異なる第2周波数の注入電力を注入し、被測定電圧の寄与に基づく有効電力及び無効電力に基づき、被測定電圧を測定する。したがって、測定装置は、周波数に基づき、活線の状態のまま、被測定電圧が印加された芯線から被覆を通して流れ出る漏れ電流と注入電流を区別して、簡易な構成により、ケーブル被覆の上から被測定電圧をより高い精度で測定することが可能である。
【0010】
一実施形態において、
(2)(1)の測定装置において、
前記制御部は、
前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、及び、前記第2周波数に基づき、前記測定有効電力、及び、前記測定無効電力に対応する皮相電力を算出し、
算出した前記皮相電力、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき、前記被測定電圧を算出してもよい。
【0011】
このように、測定装置は、測定有効電力及び測定無効電力に対応する皮相電力を算出して、被測定電圧を算出するため、絶縁体の抵抗成分及び容量成分に応じて、被測定電圧をより高い精度で測定することが可能である。
【0012】
一実施形態において、
(3)(1)又は(2)の測定装置において、
前記制御部は、
算出した前記測定有効電力、及び、前記測定無効電力の比に基づいて、前記漏れ電流の前記注入電流に対する位相を算出し、
算出した前記漏れ電流の位相を更に出力してもよい。
【0013】
したがって、測定装置は、被測定電圧だけでなく、被測定電圧に起因して絶縁体から漏れ出た漏れ電流の位相についてもより高い精度で測定することが可能である。
【0014】
一実施形態において、
(4)(1)から(3)のいずれかの測定装置において、
前記制御部は、
前記漏れ電流の寄与がある状態において回路ユニット内で前記注入電流を流して測定された、前記回路ユニットにおける有効電力及び無効電力である注入有効電力、及び、注入無効電力を測定し、
前記漏れ電流の寄与がない状態において前記回路ユニット内で前記注入電流を流して測定された、前記回路ユニットにおける有効電力及び無効電力であるオフセット有効電力、及び、オフセット無効電力を測定し、
前記注入有効電力を前記オフセット有効電力でオフセットした電力を前記測定有効電力として算出し、
前記注入無効電力を前記オフセット無効電力でオフセットした電力を前記測定無効電力として算出してもよい。
【0015】
このように、測定装置は、注入有効電力、及び、注入無効電力を、漏れ電流の寄与がない状態で測定されたオフセット有効電力、及び、オフセット無効電力を用いてオフセットして、測定有効電力、及び、測定無効電力を測定し、このような測定有効電力、及び、測定無効電力を用いて、被測定電圧を測定する。したがって、測定装置によれば、測定環境及び内部リーク等の影響を低減して、被測定電圧の物理量をより高い精度で測定することが可能である。
【0016】
一実施形態において、
(5)(1)から(4)のいずれかの測定装置において、
前記制御部は、
前記注入電流の寄与がない状態において、前記絶縁体を介して前記芯線から漏れ出た前記被測定電圧の前記漏れ電流の電圧を取得し、
取得した前記漏れ電流の電圧に基づき、前記漏れ電流の前記電流実効値を取得してもよい。
【0017】
このように、測定装置は、注入電流の寄与がない状態において測定された漏れ電流の測定値に基づき電流実効値を取得する。したがって、測定装置は、より精度が高い電流実効値を用いて、被測定電圧の物理量をより高い精度で測定することが可能である。
【0018】
幾つかの実施形態に係る測定方法は、
(6)制御部を備える測定装置の測定方法であって、
前記制御部が、
第1周波数の被測定電圧がかかる芯線に対して、第2周波数の注入電流を、絶縁体を介して注入することと、
前記注入電流と、前記絶縁体を介して漏れ出た前記被測定電圧の漏れ電流とからなる合成電流を取得することと、
前記合成電流に基づき、前記被測定電圧の寄与に基づく有効電力及び無効電力である、測定有効電力及び測定無効電力を算出することと、
前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、前記第2周波数、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき、前記被測定電圧を算出することと、
算出した前記被測定電圧を出力することと、
を含む。
【0019】
このように、測定方法は、被測定電圧がかかる芯線から直接信号を取得するのではなく、絶縁体を介して取得された信号に基づき被測定電圧が印加された芯線から被覆を通して流れ出る漏れ電流を測定するため、ケーブル被覆の上から被測定電圧の物理量を測定することができる。また、測定方法は、被測定電圧が印加された芯線から被覆を通して流れ出る漏れ電流の第1周波数とは異なる第2周波数の注入電力を注入し、被測定電圧の寄与に基づく有効電力及び無効電力に基づき、被測定電圧を測定する。したがって、測定方法は、周波数に基づき、活線の状態のまま、被測定電圧が印加された芯線から被覆を通して流れ出る漏れ電流と注入電流を区別して、簡易な構成により、ケーブル被覆の上から被測定電圧をより高い精度で測定することが可能である。
【0020】
一実施形態において、
(7)(6)の測定方法において、
前記制御部は、
前記測定有効電力、前記測定無効電力、前記第1周波数、及び、前記第2周波数に基づき、前記測定有効電力、及び、前記測定無効電力に対応する皮相電力を算出し、
算出した前記皮相電力、前記注入電流の電圧、及び、前記漏れ電流の電流実効値に基づき、前記被測定電圧を算出してもよい。
【0021】
このように、測定方法は、測定有効電力及び測定無効電力に対応する皮相電力を算出して、被測定電圧を算出するため、絶縁体の抵抗成分及び容量成分に応じて、被測定電圧をより高い精度で測定することが可能である。
【0022】
一実施形態において、
(8)(6)又は(7)の測定方法において、
前記制御部は、
算出した前記測定有効電力、及び、前記測定無効電力の比に基づいて、前記漏れ電流の前記注入電流に対する位相を算出し、
算出した前記漏れ電流の位相を更に出力してもよい。
【0023】
したがって、測定方法は、被測定電圧だけでなく、被測定電圧に起因して絶縁体から漏れ出た漏れ電流の位相についてもより高い精度で測定することが可能である。
【0024】
一実施形態において、
(9)(6)から(8)のいずれかの測定方法において、
前記制御部は、
前記漏れ電流の寄与がある状態において回路ユニット内で前記注入電流を流して測定された、前記回路ユニットにおける有効電力及び無効電力である注入有効電力、及び、注入無効電力を測定し、
前記漏れ電流の寄与がない状態において前記回路ユニット内で前記注入電流を流して測定された、前記回路ユニットにおける有効電力及び無効電力であるオフセット有効電力、及び、オフセット無効電力を測定し、
前記注入有効電力を前記オフセット有効電力でオフセットした電力を前記測定有効電力として算出し、
前記注入無効電力を前記オフセット無効電力でオフセットした電力を前記測定無効電力として算出してもよい。
【0025】
このように、測定方法は、注入有効電力、及び、注入無効電力を、漏れ電流の寄与がない状態で測定されたオフセット有効電力、及び、オフセット無効電力を用いてオフセットして、測定有効電力、及び、測定無効電力を測定し、このような測定有効電力、及び、測定無効電力を用いて、被測定電圧を測定する。したがって、測定方法によれば、測定環境及び内部リーク等の影響を低減して、被測定電圧の物理量をより高い精度で測定することが可能である。
【0026】
一実施形態において、
(10)(6)から(9)のいずれかの測定方法において、
前記制御部は、
前記注入電流の寄与がない状態において、前記絶縁体を介して前記芯線から漏れ出た前記被測定電圧の前記漏れ電流の電圧を取得し、
取得した前記漏れ電流の電圧に基づき、前記漏れ電流の前記電流実効値を取得してもよい。
【0027】
このように、測定方法は、注入電流の寄与がない状態において測定された漏れ電流の測定値に基づき電流実効値を取得する。したがって、測定方法は、より精度が高い電流実効値を用いて、被測定電圧の物理量をより高い精度で測定することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、ケーブル被覆の上から芯線にかかる被測定電圧の物理量をより高い精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】一実施形態に係る測定装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図1の絶縁クリップが備える把持構造の構成例を示す図である。
【
図3】
図2のクリップ板の構成例を示す断面図である。
【
図4】
図1の装置本体の回路構成を含む、測定装置の構成例を示す図である。
【
図5】測定装置による測定シーケンスの一例を説明する図である。
【
図6】
図1の測定装置を応用した活線絶縁抵抗を測定する装置の一例を示す図である。
【
図7】
図1の測定装置を応用した電力計の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<比較例>
比較例に係る構成として、特許文献1(請求項1)には、「電線の芯線に印加される交流電圧を前記芯線に接する絶縁体を通して測定する非接触電圧測定装置において、前記絶縁体を通して入力信号を取り込む第1電極と、予め設けられた基準コンデンサの容量を変化させて前記絶縁体と前記電極間の結合容量との間で分圧した前記入力信号に基づき前記結合容量を求め、この結合容量の値から前記交流電圧を求める電圧測定手段と、前記交流電圧と同相の交流電圧を前記絶縁体を通して検出する前記電線とは容量成分のみで結合し抵抗成分とは非接触の状態となるようにわずかな距離を隔てて配置された第2電極と、前記電圧測定手段で求めた交流電圧と前記第2電極で求めた交流電圧との位相差を検出する位相差検出手段と、この位相差検出手段で求めた位相差と前記電圧測定手段からの電圧を入力し前記電圧測定手段で求めた交流電圧を補正する補正手段と、を備えたことを特徴とする非接触電圧測定装置。」が記載されている。
【0031】
電線を被覆する絶縁体の容量は極めて小さく、温湿度等の測定条件により大きく変動する場合がある。そのため、絶縁体の容量に基づき交流電圧を測定する比較例の構成は、測定精度に改善の余地があった。
【0032】
<実施形態>
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照して説明する。各図面中、同一の構成又は機能を有する部分には、同一の符号を付している。本実施形態の説明において、同一の部分については、重複する説明を適宜省略又は簡略化する場合がある。
【0033】
図1は、一実施形態に係る測定装置1の構成例を示す図である。測定装置1は、ケーブル80にかかる被測定電圧V
M、及び、被覆を通して流れ出る漏れ電流I
Mの位相θ
Mを測定する。ケーブル80は、被測定電圧V
Mがかかる芯線81、及び、芯線81を被覆する絶縁体であるケーブル被覆82を備える。測定装置1は、装置本体10、絶縁クリップ41、及び、配線45を備える。
【0034】
絶縁クリップ41は、ケーブル被覆82に接触し、被測定電圧V
Mがかかる芯線81から被覆を通して流れ出る電流I
M(漏れ電流の電流実効値:I
M)を取得する。
図1に示すように、絶縁クリップ41は、一対のクリップ電極40a,40bにより、ケーブル80のケーブル被覆82を挟み込むようにしてケーブル被覆82に接触する。以下、クリップ電極40a,40bをまとめて「クリップ電極40」と称する場合がある。
【0035】
絶縁クリップ41は、
図1のクリップ電極40をケーブル80に押し付ける把持構造47を備えてもよい。
図2は、
図1の絶縁クリップ41が備える把持構造47の構成例を示す図である。把持構造47は、アーム部471、接触部472、及び、把持部473を備える。把持構造47は、板ばねの弾性力等を用いて、アーム部471により一対のクリップ電極40a,40bをケーブル被覆82に対して押し付ける。本実施形態において、アーム部471の端部である接触部472は、クリップ電極40a,40bと接着部408(
図3参照)を介して連結している。把持部473は、クリップ電極40a,40bの間の長さを広げるために作業者が操作する。
【0036】
クリップ電極40は、絶縁体部401を介してケーブル被覆82から電気信号を取得する電極402を有する。
図3は、
図2のクリップ電極40の構成例を示す断面図である。クリップ電極40は、絶縁体部401、電極402、絶縁体部403、シールド404、絶縁体部405、406、及び、接着部408を備える。
【0037】
絶縁体部401は、ケーブル80のケーブル被覆82に接する絶縁体である。絶縁体部401は、例えば、エチレンプロピレンゴムを含むゴム等により構成してもよい。電極402は、絶縁体部401を介してケーブル被覆82から電気信号を取得する導体である。電極402は、ケーブル被覆82から取得した電気信号を、配線45を介して装置本体10へ出力する。
【0038】
絶縁体部403は、電極402の周囲を覆って短絡を防ぐ絶縁体である。シールド404は、絶縁体部403越しに電極402を覆って外部からの電磁界、及び、電磁波等の影響を抑制する導体である。絶縁体部405は、クリップ電極40の筐体を構成する絶縁体である。絶縁体部406は、絶縁体部401に対してケーブル80が移動することを防止する絶縁体である。絶縁体部406は、絶縁体部401の縁部に突起として設けられてもよい。絶縁体部403,405,406は、例えば、アクリルを含む樹脂により構成してもよい。
【0039】
絶縁体部401、電極402、絶縁体部403、シールド404、及び、絶縁体部405、406は、接着部408により互いに接着する。接着部408は、例えば、絶縁性を有する接着剤(バインダー)により構成してもよい。
【0040】
図2及び
図3の例において、絶縁体部405の外表面には、把持構造47の接触部472が接着部408により固定される。したがって、作業者は、把持部473を操作して、クリップ電極40a,40bの間の長さを広げ、ケーブル80に対する絶縁クリップ41の取付け、及び、ケーブル80からの絶縁クリップ41の取外しを行うことができる。
【0041】
図4は、
図1の装置本体10の回路構成を含む、測定装置1の構成例を示す図である。
図4が示すように、装置本体10は、回路ユニット71及び制御ユニット72を備える。回路ユニット71は、ケーブル80に対して電気信号を出力したり、ケーブル80からの応答を取得したりする。制御ユニット72は、回路ユニット71の動作を制御したり、作業者とのインタフェースを提供したりする。
【0042】
回路ユニット71は、オペアンプ11~14、スイッチ21,22、抵抗器25、注入端子31、及び、測定端子35~37を備える。
【0043】
オペアンプ11~14は、非反転入力端子(+)、反転入力端子(-)、及び、出力端子を備える増幅器の電子回路モジュールである。オペアンプ11~14は、非反転入力端子及び反転入力端子の間の電位差を所定の増幅率(ゲイン)で増幅して出力端子から出力する。オペアンプ11は、オペアンプ13の出力端子及び抵抗器25に接続された非反転入力端子と、オペアンプ14の出力端子に接続された反転入力端子と、測定端子36とに接続された出力端子を備える。オペアンプ12(I/Vアンプ)は、グランド(GND)に接続された非反転入力端子と、スイッチ21に接続された反転入力端子と、測定端子37とに接続された出力端子を備える。オペアンプ13は、注入端子31及び測定端子35に接続された非反転入力端子と、オペアンプ14の出力端子に接続された反転入力端子と、オペアンプ11の非反転入力端子及び抵抗器25に接続された出力端子とを備える。オペアンプ14(バッファアンプ)は、スイッチ21及び抵抗器25に接続された非反転入力端子と、当該オペアンプ14の出力端子に接続された反転入力端子と、オペアンプ11,13,14の各々の反転入力端子に接続された出力端子とを備える。
【0044】
スイッチ21は、一端がスイッチ22に接続している。スイッチ21は、切替え動作により、オペアンプ12の反転入力端子とオペアンプ14の非反転入力端子及び抵抗器25とのいずれかを、スイッチ22に接続する。スイッチ22は、一端がスイッチ21に接続しており、他端がクリップ電極40に接続している。スイッチ22は、切替え動作により、スイッチ21及びクリップ電極40の間を接続又は開放する。抵抗器25は、Rxの抵抗値を有する。
【0045】
注入端子31は、オペアンプ13の非反転入力端子へ注入電流を出力する。注入電流は、電圧Vt、及び、周波数Ft(第2周波数)の交流信号である。
【0046】
測定端子35~37は、測定信号V1~V3を出力する。測定端子35が出力する測定信号V1は、注入端子31が出力する注入電流の電圧Vtと同一である。測定端子36が出力する測定信号V2は、オペアンプ11の出力端子から出力される電流である。スイッチ21が抵抗器25側に接続し、スイッチ22が接続している場合、測定信号V2は、被測定電圧VMの漏れ電流に注入電流を重畳させた合成電流に対応する。スイッチ22が開放している場合、測定信号V2は、回路ユニット71に注入電流を注入したことにより回路ユニット71を流れる電流に対応する。測定端子37が出力する測定信号V3は、オペアンプ12の出力端子から出力される電流である。測定信号V3は、スイッチ21がオペアンプ12側に接続している場合、ケーブル被覆82及び絶縁体部401を介して芯線81から漏れ出た漏れ電流の電圧VMに対応する。
【0047】
制御ユニット72は、制御部721、記憶部722、入力部723、及び、出力部724を備える。
【0048】
制御部721は、1つ以上のプロセッサを含む。制御部721は、装置本体10を構成する各構成部と通信可能に接続され、測定装置1全体の動作を制御する。例えば、制御部721は、スイッチ21,22の切替え、注入端子31からの注入電流の入力、測定端子35~37における電圧測定、及び、電圧測定値の解析等を制御してもよい。
【0049】
記憶部722は、1つ以上のメモリを含む。記憶部722は、測定装置1の動作に用いられる任意の情報を記憶する。例えば、測定装置1は、芯線81にかかる被測定電圧VMの電圧測定に関する情報を記憶してもよい。
【0050】
入力部723は、作業者の入力操作を受け付けて、作業者の操作に基づく入力情報を取得する1つ以上の入力インタフェースを含む。例えば、入力部723は、物理キー、静電容量キー、及び、出力部724のディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン等であるが、これらに限定されない。
【0051】
出力部724は、作業者に対して情報を出力し、作業者に通知する1つ以上の出力インタフェースを含む。例えば、出力部724は、情報を画像として出力するディスプレイ等であるが、これに限定されない。
【0052】
本実施形態において、装置本体10は、回路ユニット71及び制御ユニット72を備えるが、これらの機能の一部が外部の装置により実現されてもよい。
【0053】
以下、説明の簡略化のため、装置本体10は、一つのクリップ電極40から取得した電気信号を基に芯線81にかかる被測定電圧V
M及び漏れ電流の位相θ
Mを測定する例を説明する。
図1及び
図2のように、複数のクリップ電極40から電気信号を受信する場合、測定装置1は、クリップ電極40の各々について回路ユニット71を設けることで、クリップ電極40毎に被測定電圧V
M及び漏れ電流の位相θ
Mを測定することができる。
【0054】
図4の例において、電源84から芯線81へ被測定電圧V
Mが印加されている。被測定電圧V
Mは、周波数F
M(第1周波数)、電圧V
M、位相θ
Mの交流信号である。クリップ電極40をケーブル被覆82に接触させると、ケーブル被覆82の抵抗成分87及び容量成分88を介して、被測定電圧V
Mの漏れ電流I
M(電流実効値:I
M)がクリップ電極40へ漏れ出る。ここで、ケーブル被覆82の抵抗成分87及び容量成分88には、絶縁体部401の抵抗成分及び容量成分の寄与も含まれる。以下、被測定電圧V
Mの周波数F
Mが既知である場合に、測定装置1が、被測定電圧V
M及び漏れ電流の位相θ
Mを測定する動作について説明する。説明の簡略化のため、以下、オペアンプ11~14のゲインに関する演算の説明は省略する。
【0055】
測定装置1は、スイッチ21を抵抗器25側に接続するとともに、スイッチ22を接続する。このような状態において、測定装置1は、注入端子31から注入電流(例えば、Vt=8V、Ft=40Hz)を印加する。この場合、注入電流により回路ユニット71からケーブル被覆82へ流れ出る電流と、芯線81からケーブル被覆82を通して回路ユニット71へ漏れ出た被測定電圧VMの漏れ電流IMとを合成した合成電流が、抵抗器25(例えば、Rx=1~10MΩ)を流れる。測定端子36は、このような合成電流の大きさに比例する電圧V2の測定信号V2を出力する。測定端子35は、注入電流の電圧Vtと同一の測定信号V1を出力する。そこで、測定装置1は、電圧V1、V2に基づき合成電流の有効電力である注入有効電力Ix_Active、及び、無効電力である注入無効電力Ix_Reactiveを算出する。測定装置1は、注入有効電力Ix_Active及び注入無効電力Ix_Reactiveの比に基づいて、注入電流に対する漏れ電流の位相θMを求めることができる。なお、位相θMは、注入電流に起因する電圧Vtに対する被測定電圧VMの位相に対応する。
【0056】
また、印加した注入電流の電圧V1と合成電流の電圧V2の位相差は、ケーブル被覆82(絶縁体部401を含む。)の抵抗成分87及び容量成分88の比により変化する。そこで、測定装置1は、注入有効電力Ix_Active及び注入無効電力Ix_Reactiveに基づいて、ケーブル被覆82(絶縁体部401を含む。)の抵抗成分87及び容量成分88を算出することができる。さらに、電圧V2は合成電流に対応する電圧であるため、測定装置1は、電圧V2波形と電圧V1(=Vt)の波形を比較することで、被測定電圧VMの漏れ電流IMのみを抽出することができる。注入電流の電圧Vtの周波数Ft、及び、被測定電圧VMの周波数FMは既知である。そこで、測定装置1は、これらの情報を用いて被測定電圧VMを算出することができる。
【0057】
上記のように、理論的には、測定装置1は、被測定電圧VM及び漏れ電流の位相θMを測定することができる。しかし、実際には、温湿度等の測定環境の影響、並びに、回路ユニット71内の容量リーク及び抵抗リークが存在し、これらの寄与により測定値に誤差が生じる可能性がある。そこで、測定装置1は、スイッチ21を抵抗器25側に接続するとともに、スイッチ22を開放した状態における、測定端子35の測定信号V1及び測定端子36の測定信号V2を測定してもよい。測定装置1は、被測定電圧VMの影響を除外した状態における電圧V2の有効電力であるオフセット有効電力Iofs_Active、及び、無効電力であるオフセット無効電力Iofs_Reactiveを算出してもよい。測定装置1は、注入有効電力Ix_Activeからオフセット有効電力Iofs_Activeをオフセットした有効電力I_Active(測定有効電力)、及び、注入無効電力Ix_Reactiveからオフセット無効電力Iofs_Reactiveをオフセットした無効電力I_Reactive(測定無効電力)を算出してもよい。ここで、有効電力I_Active及び無効電力I_Reactiveは次の式(1)(2)により求められる。
I_Active=Ix_Active-Iofs_Active (1)
I_Reactive=Ix_Reactive-Iofs_Reactive (2)
【0058】
測定装置1は、上記のようにして算出された有効電力I_Active及び無効電力I_Reactiveを用いて、被測定電圧VM及び漏れ電流の位相θMを算出してもよい。これにより、被測定装置1は、測定環境及び内部リーク等の影響を低減して、より高い精度で被測定電圧VM及び漏れ電流の位相θMを取得することができる。
【0059】
また、前述のように、理論的には、電圧V2の波形と電圧V1(=Vt)の波形を比較することで、被測定電圧VMの漏れ電流IMのみを取得することができる。しかし、実際には、抵抗器25等におけるリークが存在し、そのようなリークの寄与により測定値に誤差が生じる可能性がある。そこで、測定装置1は、スイッチ21をオペアンプ12側に接続するとともに、スイッチ22を接続した状態における、オペアンプ12の測定信号V3を、測定端子37により測定してもよい。測定装置1は、電圧V3に基づき、被測定電圧VMの漏れ電流IM(電流実効値:IM)を直接測定してもよい。測定装置1は、このようにして測定した漏れ電流IMに加えて、有効電力I_Active、無効電力I_Reactive、漏れ電流IMの電流実効値IM、注入電流の電圧Vtの周波数Ft、及び、被測定電圧VMの周波数FMに基づいて、被測定電圧VMを算出してもよい。このように、測定装置1は、漏れ電流IMを直接測定するための測定端子37、及び、クリップ電極40を測定端子37に接続するためのスイッチ21を備えるようにすることで、より精度が高い被測定電圧VMを取得することができる。なお、有効電力I_Active及び無効電力I_Reactiveと、前述のケーブル被覆82(絶縁体部401を含む。)の抵抗成分87及び容量成分88との関係については、後述する。
【0060】
測定装置1の具体的な動作について、
図5を参照して説明する。
図5は、測定装置1による測定シーケンスの一例を説明する図である。
図5において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。
【0061】
測定期間T1(例えば、長さ100ms)において、測定装置1は、回路ユニット71内部のオフセット有効電力Iofs_Active及びオフセット無効電力Iofs_Reactiveを算出する。具体的には、測定装置1は、スイッチ22を開放して、注入端子31から注入電流を注入する。測定装置1は、測定端子35が測定した測定信号V
1(=注入電流の電圧V
t)、及び、測定端子36が測定した測定信号V
2を取得する。
図5において、グラフ101は、測定信号V
1の電圧V
1の時間変化を示す。グラフ102は、測定信号V
2の電圧V
2の時間変化を示す。測定装置1は、電圧V
1の瞬時値と、電圧V
2の瞬時値とを乗算した平均値をオフセット有効電力Iofs_Activeとして取得する。測定装置1は、位相を90度だけずらした電圧V
1の瞬時値と、電圧V
2の瞬時値とを乗算した平均値をオフセット無効電力Iofs_Reactiveとして算出する。換言すると、オフセット有効電力Iofs_Active、及び、オフセット無効電力Iofs_Reactiveは、被測定電圧V
Mが印加された芯線81からの漏れ電流の寄与がない状態において回路ユニット71内で注入電流を流して測定された、回路ユニット71における有効電力及び無効電力である。
【0062】
測定期間T2(例えば、長さ100ms)において、測定装置1は、回路ユニット71内部の注入有効電力Ix_Active及び注入無効電力Ix_Reactiveを算出する。具体的には、測定装置1は、スイッチ21を抵抗器25側に接続するとともに、スイッチ22を接続して、注入端子31から注入電流を注入する。測定装置1は、測定端子35が測定した測定信号V
1(=注入電流の電圧V
t)、及び、測定端子36が測定した測定信号V
2を取得する。
図5の測定期間T2においても、グラフ101は、測定信号V
1の電圧V
1の時間変化を示す。グラフ103は、測定信号V
2の電圧V
2の時間変化を示す。測定装置1は、電圧V
1の瞬時値と、電圧V
2の瞬時値とを乗算した平均値を注入有効電力Ix_Activeとして取得する。測定装置1は、位相を90度だけずらした電圧V
1の瞬時値と、電圧V
2の瞬時値とを乗算した平均値を注入無効電力Ix_Reactiveとして算出する。換言すると、注入有効電力Ix_Active及び無効有効電力Ix_Reactiveは、被測定電圧V
Mが印加された芯線81からの漏れ電流I
Mの寄与がある状態において回路ユニット71内で注入電流を流して測定された、回路ユニット71における有効電力及び無効電力である。
【0063】
測定期間T3(例えば、長さ300ms)において、測定装置1は、被測定電圧V
Mの漏れ電流I
Mを測定する。具体的には、測定装置1は、スイッチ21をオペアンプ12側に接続して、被測定電圧V
Mの漏れ電流I
Mをオペアンプ12へ出力する。オペアンプ12は、漏れ電流I
Mを増幅して測定端子37へ出力する。測定装置1は、このような漏れ電流I
Mに対応する電流である、測定端子37が測定した測定信号V
3を取得する。
図5において、グラフ104は、測定信号V
3の電圧V
3の時間変化を示す。測定装置1は、このようにして測定した漏れ電流I
Mの電流実効値I
Mを取得する。換言すると、測定装置1は、注入電流の寄与がない状態において、絶縁体(ケーブル被覆82及び絶縁体部401)を介して芯線81から漏れ出た被測定電圧V
Mの漏れ電流I
Mの電圧V
3を取得し、電圧V
3に基づき、漏れ電流I
Mの電流実効値を取得する。
【0064】
測定装置1は、測定期間T1~T3で取得した情報に基づき、被測定電圧VM及び位相θMを取得する。まず、測定装置1は、測定期間T1、T2において取得した注入有効電力Ix_Active、及び、オフセット有効電力Iofs_Activeに基づき、式(1)により、有効電力I_Activeを算出する。同様に、測定装置1は、測定期間T1、T2において取得した注入無効電力Ix_Reactive、及び、オフセット無効電力Iofs_Reactiveに基づき、式(2)により、無効電力I_Reactiveを算出する。
【0065】
測定装置1は、有効電力I_Active及び無効電力I_Reactiveに基づき、注入電流の電圧Vtに対する漏れ電流IMの位相θMを求める。具体的には、測定装置1は、次の式(3)により漏れ電流IMの位相θMを算出してもよい。
θM=arctan(I_Reactive/I_Active) (3)
【0066】
測定装置1は、有効電力I_Active、無効電力I_Reactive、注入電流の電圧Vt及び周波数Ft、被測定電圧VMの周波数FM、並びに、漏れ電流IMの電流実効値IMに基づき、被測定電圧VMを取得する。
【0067】
ここで、式(4)に示すように、無効電力I_Reactiveに対して、被測定電圧VMの周波数FMと注入電流の電圧Vtの周波数Ftとの比を乗算した値I_Reactive’を算出する。
I_Reactive’=I_Reactive×(FM/Ft) (4)
【0068】
この場合、皮相電力I_Apparentは、次の式(5)により算出される。
I_Apparent=((I_Active)2+(I_Reactive’)2)1/2/Vt (5)
ここで、(I_Active)2+(I_Reactive’)2)1/2は、皮相電力に相当する。
【0069】
そこで、測定装置1は、式(5)により皮相電力I_Apparentを算出した上で、式(6)により、被測定電圧VMを算出する。
VM=IM/I_Apparent×Vt (6)
【0070】
なお、スイッチ21が抵抗器25側に接続し、スイッチ22が接続し、注入端子31から注入電流を注入している場合、ケーブル被覆82(絶縁体部401を含む。)の抵抗成分87及び容量成分88を流れる電流IR、ICは、式(7)(8)により示される。
IR=I_Active/Rx (7)
IC=I_Reactive/Rx (8)
【0071】
そうすると、ケーブル被覆82(絶縁体部401を含む。)の抵抗成分87の抵抗値RI及び容量成分88の容量値CIは、式(9)(10)により示される。
RI=Vt/IR (9)
CI=Vt/IC (10)
したがって、式(4)~(6)の計算は、測定信号V3の電圧レベルを、測定信号V1,V2により求めた抵抗成分87及び容量成分88から逆算して、被測定電圧VMを算出することに対応する。
【0072】
測定装置1は、以上のようにして求めた被測定電圧VM及び漏れ電流の位相θMを出力する。例えば、測定装置1は、電圧VM及び位相θMを、出力部724に表示したり、あるいは、記憶部722に記憶させたりしてもよい。
【0073】
以上のように、測定装置1は、被測定電圧VMがかかるケーブル80に対して注入電流を注入し、注入電流と、ケーブル被覆82から漏れ出た被測定電圧VMの漏れ電流IMとが重畳してなる合成電流(V2)を測定する。測定装置1は、注入電流(電圧V1=Vt)及び合成電流(電圧V2)を解析して、被測定電圧VMの寄与に基づく有効電力(測定有効電力)及び無効電力(測定無効電力)を算出する。測定装置1は、無効電力及び有効電力の比により注入電流の電圧Vtに対する被測定電圧VMの位相θMを取得する。また、測定装置1は、無効電力及び有効電力と、被測定電圧VMの周波数FMと注入電流の電圧Vtの周波数Ftとの比と、注入電流の電圧Vtとに基づき、皮相電力I_Apparentを算出する。測定装置1は、漏れ電流IM、皮相電力I_Apparent、及び、注入電流の電圧Vtにより、被測定電圧VMを算出する。このように、測定装置1は、被測定電圧VMの周波数FMと異なる周波数Ftを有する注入電流をケーブル被覆82へ注入する。したがって、測定装置1は、周波数に基づき、活線の状態のまま、被測定電圧VMと注入電流の電圧Vtを区別して、簡易な構成により、ケーブル被覆82の上から被測定電圧VM及び位相θMを測定することが可能である。
【0074】
また、測定装置1は、スイッチ22をオフにした状態でオフセット有効電力Iofs_Active、及び、オフセット無効電力Iofs_Reactiveを測定し、注入有効電力Ix_Active及び注入無効電力Ix_Reactiveを補正した上で、電圧VM及び位相θMを算出する。オフセット有効電力Iofs_Active、及び、オフセット無効電力Iofs_Reactiveは、回路ユニット71内部の容量成分及び絶縁抵抗成分により消費される電力を反映している。したがって、測定装置1は、回路ユニット71内のリーク及び環境等の影響を除外して、より高い精度で被測定電圧VM及び位相θMを測定することが可能である。
【0075】
また、測定装置1は、スイッチ21の切替えにより被測定電圧VMの漏れ電流IMを直接測定して、その測定値に基づき、被測定電圧VMを測定する。したがって、測定装置1は、回路ユニット71内の抵抗リーク等の影響を除外して、より高い精度で被測定電圧VM及び位相θMを測定することが可能である。
【0076】
なお、
図5は、測定期間T1でオフセット有効電力Iofs_Active及びオフセット無効電力Iofs_Reactiveを算出し、次に、測定期間T2で注入有効電力Ix_Active及び注入無効電力Ix_Reactiveを算出し、次に、測定期間T3で漏れ電流I
Mを測定する例を示している。しかし、測定順序は任意であり、
図5に示したものに限られない。
【0077】
図1~
図5を参照して説明した測定装置1は、例えば、3線式の送電回路における電気量を測定するための装置に応用してもよい。
【0078】
図6は、
図1の測定装置1を応用した活線絶縁抵抗を測定する装置2の一例を示す図である。装置2は、本実施形態に係る測定装置1をクランプセンサに応用した構成例である。クランプセンサとは、電磁誘導作用を利用して、導線の周辺に位置する磁気コア内に発生した磁界の測定値に基づき、被測定電圧を測定する装置である。装置2は、本体部51、クランプ部52、絶縁クリップ41(41r,41s,41t)、及び、配線45(45r,45s,45t)を備える。装置2は、
図2、
図3を参照して説明した絶縁クリップ41及び配線45と同様の構成を、R,S,Tの各々について備えている。本体部51は、
図4を参照して説明した装置本体10と同様の構成を、R,S,Tの各々について備えている。また、本体部51は、電磁誘導作用によりクランプ部52において検出された電流を測定するための構成を備えている。
【0079】
図6において、端子91(91r,91s,91t)から負荷90へ三相3線式のケーブル92(92r,92s,92t)により電力が供給されている。
図6の例において、クランプ部52は、例えば、配電盤回路のリーク電流を測定するために用いられる。装置2は、絶縁クリップ41(41r,41s,41t)で各ケーブル92(92r,92s,92t)をクリップすることで、非接触で各ケーブル92にかかる被測定電圧及び位相を測定することができる。
【0080】
装置2は、このような非接触電圧プローブの構成により、活線絶縁抵抗測定Ior測定器を構成する。すなわち、クランプ部52で測定した電流Ioは、容量性リークと抵抗性リークの合成値となっている。そこで、装置2は、絶縁クリップ41で測定した被測定電圧の位相と、クランプ部52が測定した電流Ioの位相と差分により、抵抗性リークのみを抽出することができる。また、装置2は、絶縁クリップ41で測定した被測定電圧値とクランプ部52が測定したIoの抵抗成分のリーク電流より、絶縁抵抗の値を求めることができる。装置2は、活線に直接触れない非接触でこれらの測定を行うことができるため、作業者は、危険を伴う配電盤作業において安全に作業を行うことができる。
【0081】
図7は、
図1の測定装置1を応用した電力計3の一例を示す図である。電力計3は、本体部61、クランプ部62(62r,62s,62t)、配線65(65r,65s,65t)、絶縁クリップ41(41r,41s,41t)、及び、配線45(45r,45s,45t)を備える。
図7の電力計3は、
図6の装置2と比較すると、絶縁クリップ41及び配線45だけでなく、クランプ部62及び配線65についても、R,S,Tの各々について備えている点が相違する。
図7のような電力計3によれば、クランプ電力計もしくは、直接電流測定型電力計において、負荷電流測定に加えて、非接触で位相及び電圧を測定し、電力測定を行うことができる。電力計3も活線に非接触でこれらの測定を行うことができるため、作業者は、危険を伴う配電盤作業において安全に作業を行うことができる。
【0082】
このように、測定装置1は、活線絶縁測定以外にも、電力計及び電圧計等に応用することができる。例えば、危険個所での電圧測定、及び、屋外高電圧設備などにおいて、安全に電圧を測定するための機器、例えば、ディジタルマルチメータ、及び、検電器などにも応用することができる。
【0083】
以上のように、測定装置1は、被測定電圧VMの周波数FMと異なる周波数Ftの注入電流を注入することで、被測定信号と区別して、活線の状態でケーブル被覆82の抵抗成分87及び容量成分88を特定することができる。また、測定装置1は、ケーブル被覆82の上から絶縁クリップ41をクリップして、ケーブル被覆82及び絶縁体部401を介して取得した信号に基づき、被測定電圧VM及び位相θMを測定することができる。したがって、作業者は、活線部にクリップすることなく、安全にメンテナンス作業を進めることができる。
【0084】
また、測定装置1は、
図4に示すように簡易な回路構成を有する。したがって、測定装置1は、比較的安価な構成で実現することが可能である。
【0085】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、ブロック図に記載の複数のブロックは統合されてもよいし、又は1つのブロックは分割されてもよい。その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 測定装置
10 装置本体
11~14 オペアンプ
21,22 スイッチ
25 抵抗器
31 注入端子
35~37 測定端子
40 クリップ電極
41 絶縁クリップ
45 配線
47 把持構造
51 本体部
52 クランプ部
61 本体部
62 クランプ部
65 配線
71 回路ユニット
72 制御ユニット
80 ケーブル
81 芯線
82 ケーブル被覆
84 電源
87 抵抗成分
88 容量成分
90 負荷
91 端子
101~104 グラフ
401 絶縁体部
402 電極
403 絶縁体部
404 シールド
405 絶縁体部
406 絶縁体部
408 接着部
471 アーム部
472 接触部
473 把持部
721 制御部
722 記憶部
723 入力部
724 出力部