IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

<>
  • 特開-発電システム制御装置 図1
  • 特開-発電システム制御装置 図2A
  • 特開-発電システム制御装置 図2B
  • 特開-発電システム制御装置 図3A
  • 特開-発電システム制御装置 図3B
  • 特開-発電システム制御装置 図4
  • 特開-発電システム制御装置 図5
  • 特開-発電システム制御装置 図6
  • 特開-発電システム制御装置 図7
  • 特開-発電システム制御装置 図8A
  • 特開-発電システム制御装置 図8B
  • 特開-発電システム制御装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165936
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】発電システム制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20241121BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G05B23/02 R
H02P9/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082540
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小祝 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 敦史
【テーマコード(参考)】
3C223
5H590
【Fターム(参考)】
3C223AA23
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB03
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF24
3C223FF46
3C223GG01
3C223HH04
3C223HH08
5H590AA08
5H590CA09
5H590CD03
5H590CE02
5H590HA06
5H590HA18
5H590HA25
5H590HA27
5H590JA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数の発電源を備える発電システムにおいて、負荷の稼働状態が変動した場合であっても、内燃機関エンジンの劣化診断を安定して遂行する。
【解決手段】内燃機関エンジンに係る運転状態情報を取得する情報取得部31と、運転状態情報に基づいて劣化診断に係る対象エンジンの劣化診断を行う劣化診断部33と、劣化診断部33及び発電システムの制御を行う制御部37と、を備え、前記対象エンジンを除いた発電源に係る総発電容量は、発電システム全体としての総発電要求を満たす値に設定され、制御部37は、対象エンジンを除いた発電源を用いて発電システム3全体としての総発電要求を満たすように当該発電源の運転制御を行うと共に、当該対象エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、当該対象エンジンの劣化診断を劣化診断部33に行わせる。
【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関エンジンを発電源とするエンジン発電機を含む複数の発電源を備える発電システムにおいて、
前記内燃機関エンジンに係る運転状態情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部により取得した前記運転状態情報に基づいて、劣化診断に係る対象エンジンの劣化診断を行う劣化診断部と、
前記劣化診断部及び当該発電システムの制御を行う制御部と、を備え、
前記対象エンジンを除いた前記発電源に係る総発電容量は、当該発電システム全体としての総発電要求を満たす値に設定され、
前記制御部は、
前記対象エンジンを除いた前記発電源を用いて当該発電システム全体としての総発電要求を満たすように当該発電源の運転制御を行うと共に、当該対象エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、当該対象エンジンの劣化診断を前記劣化診断部に行わせる
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電システム制御装置であって、
当該発電システムに備わる前記複数の発電源は複数の内燃機関エンジンを含み、
複数の前記内燃機関エンジン毎の劣化診断履歴を含む個別情報の管理を行う管理部をさらに備え、
前記管理部によって複数の前記内燃機関エンジン毎に管理される前記個別情報は、直前回の劣化診断が行われた時期、当該直前回の劣化診断の結果として得られた劣化の度合い、当該劣化診断に係る所要時間のうち少なくともいずれかを含み、
前記管理部は、
複数の前記内燃機関エンジン毎に対応付けられた前記個別情報を、複数の当該内燃機関エンジン間で比較した結果に基づいて、複数の当該内燃機関エンジンのなかから、劣化診断に係る対象エンジンを選定する
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の発電システム制御装置であって、
前記内燃機関エンジンは、当該内燃機関エンジンに関する複数の各要素機能に対応する複数のサブシステムを備え、
前記複数のサブシステムの各々には、それぞれの状態に関する部分指標の情報が、前記個別情報に属するものとして対応付けられており、
前記劣化診断部は、
前記複数のサブシステムの各個別の状態に関する複数の部分指標のうちの少なくとも一以上の部分指標の情報、又は、当該部分指標に基づき算出される全体としての状態に関する統合指標の情報に基づいて、前記選定された対象エンジンの劣化診断を行う
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の発電システム制御装置であって、
前記内燃機関エンジンに備わる前記複数のサブシステムは、吸気サブシステム、潤滑サブシステム、冷却サブシステム、排気サブシステム、燃焼サブシステム、燃料サブシステム、及び点火サブシステムを含み、
前記吸気サブシステムの状態に関する部分指標の情報はスロットル弁開度であり、前記潤滑サブシステムの状態に関する部分指標の情報はオイル温度であり、前記冷却サブシステムの状態に関する部分指標の情報は冷却水温度であり、前記排気サブシステムの状態に関する部分指標の情報は排気浄化触媒の後流の酸素濃度であり、前記燃焼サブシステムの状態に関する部分指標の情報は燃焼安定度、燃焼時期、ノッキング耐性、燃焼効率であり、燃料サブシステムの状態に関する部分指標の情報は燃料噴射パルス幅であり、点火サブシステムの状態に関する部分指標の情報は燃焼期間である
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の発電システム制御装置であって、
前記劣化診断に係る対象エンジンに課される前記所定の運転条件は、エンジン回転速度、発電出力、空燃比、点火時期、のうちの少なくとも1つ以上の運転状態値が所定の許容範囲に収束する条件である
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の発電システム制御装置であって、
前記所定の運転条件は、前記劣化診断に係る対象エンジンを定格出力で運転する条件である
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の発電システム制御装置であって、
前記内燃機関エンジンは水素を含む2種類以上の燃料が供給されて混焼が可能なエンジンであり、
前記劣化診断に係る対象エンジンに課される前記所定の運転条件は、当該対象エンジンに供給される2種類以上の燃料に係る混合割合が所定の許容範囲に収束する条件である
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項8】
請求項2~4のいずれか一項に記載の発電システム制御装置であって、
前記複数の内燃機関エンジンの各々には、基礎エンジン又は適応エンジンとしての機能が各個別に割り当てられ、
前記管理部は、前記複数の内燃機関エンジンに各個別に割り当てられた役割の情報を、当該複数の内燃機関エンジン毎の前記個別情報として管理しており、
前記制御部は、
前記管理部により管理されている前記複数の内燃機関エンジン毎の前記個別情報に基づいて、前記基礎エンジンでは、各個別の要求発電出力を満たすように制御する一方、前記適応エンジンでは、当該発電システム全体としての総要求発電出力を満たすように制御する
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の発電システム制御装置であって、
前記管理部は、前記劣化診断に係る対象エンジンに対し、前記基礎エンジンとしての役割を割り当てる
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の発電システム制御装置であって、
前記複数の内燃機関エンジンには、個別排気管がそれぞれ備わっており、
前記個別排気管の排気口は、前記内燃機関エンジン毎にそれぞれ備わる複数の前記個別排気管を集合した集合排気管に連通接続され、
前記集合排気管の排気通路には、当該排気通路を流通する排気を浄化するための排気浄化触媒が設けられ、
前記管理部は、
前記内燃機関エンジンに係る前記個別排気管の各排気口から前記排気浄化触媒に至る排気経路長の情報を、当該複数の内燃機関エンジン毎の前記個別情報として管理しており、
前記内燃機関エンジンの劣化診断を行わない休止期間では、前記複数の内燃機関エンジンのうち、前記個別排気管の排気口から前記排気浄化触媒に至る排気経路長が最も短い内燃機関エンジンに対し、前記適応エンジンとしての役割を割り当てる
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【請求項11】
請求項8に記載の発電システム制御装置であって、
前記制御部は、前記劣化診断に係る対象エンジンの劣化診断結果を表示機器に表示させる制御を行う
ことを特徴とする発電システム制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン発電機を含む複数の電源を備える発電システムの制御を行う発電システム制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの脱炭素化に向けて、再生可能エネルギーの拡大が進展している。それに伴い、負荷変動に対応するために水素などの再生可能エネルギー由来燃料(以下、RE燃料という)を用いた調整用発電システムの重要性が増している。
大規模ガス火力発電は調整電力として活用可能である一方で、その出力調整幅が定格運転の30%から100%の範囲に限られている。そのため、大規模ガス火力発電は十分な調整力にはならない。また、大規模ガス火力発電は設備設置場所が固定されるため、電力線増強が必要となり、設備コストが大きくなる。さらに、大規模ガス火力発電は利用する燃料の調達範囲が限定されるので、特定地域に遍在するRE燃料を有効活用することが難しい。
【0003】
RE燃料に対応したエンジン発電機を活用した分散発電システムは、特定地域に遍在するRE燃料を活用しながら再生可能エネルギーの変動に対応可能なシステムとして有望である。特に既存の自動車用エンジンや産業用エンジンなど量産エンジンを活用し、定置式発電システムとして用いることにより、初期の設備コストを低減することが可能である。
【0004】
発電システム制御装置に関する技術の例として、劣化診断装置の発明が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に係る劣化診断装置は、非常用発電機に取り付けられたセンサによる測定結果の特徴を表す特徴情報及び非常用発電機が設置されている環境を表す環境データに基づいて、非常用発電機の運転情報を生成する運転情報生成部と、複数の劣化診断装置で生成された運転情報が登録される運転情報データベースを備える情報管理装置へ運転情報生成部から受け取った運転情報を送信する通信部と、運転情報データベースに登録されている運転情報に基づいて非常用発電機の劣化診断で使用する劣化診断モデルを構築する劣化診断モデル構築部と、劣化診断モデルに基づいて非常用発電機の劣化を診断する劣化診断部と、を備える。
【0005】
特許文献1に係る劣化診断装置によれば、非常用発電機の劣化を診断できるようになるまでの所要時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-128924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る劣化診断装置では、劣化診断の対象となるのが非常用発電機であるが故の課題があった。すなわち、非常用発電機は、点検時を除くと非常時にのみ運転される。そのため、非常運転時にエンジン発電機の劣化診断を行える頻度は少ないばかりか、接続されている負荷の稼働状態に応じてエンジン発電機に係る運転条件を変動させる運用を行うと、この運転条件の変動が外乱となって、エンジン発電機の劣化診断を安定して遂行することは難しいという課題があった。
【0008】
本発明は前記実情に鑑みてなされたものであり、内燃機関エンジンを発電源とするエンジン発電機を含む複数の電源を備える発電システムにおいて、接続されている負荷の稼働状態が変動した場合であっても、内燃機関エンジンの劣化診断を安定して遂行可能な発電システム制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る発電システム制御装置は、
内燃機関エンジンを発電源とするエンジン発電機を含む複数の発電源を備える発電システムにおいて、
前記内燃機関エンジンに係る運転状態情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部により取得した前記運転状態情報に基づいて、劣化診断に係る対象エンジンの劣化診断を行う劣化診断部と、
前記劣化診断部及び当該発電システムの制御を行う制御部と、を備え、
前記対象エンジンを除いた前記発電源に係る総発電容量は、当該発電システム全体としての総発電要求を満たす値に設定され、
前記制御部は、
前記対象エンジンを除いた前記発電源を用いて当該発電システム全体としての総発電要求を満たすように当該発電源の運転制御を行うと共に、当該対象エンジンを所定の運転条件に制御した状態で、当該対象エンジンの劣化診断を前記劣化診断部に行わせることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内燃機関エンジンを発電源とするエンジン発電機を含む複数の電源を備える発電システムにおいて、接続されている負荷の稼働状態が変動した場合であっても、内燃機関エンジンの劣化診断を安定して遂行することができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る発電システム制御装置の周辺を含む概略構成図である。
図2A】本発明の実施形態に係る発電システム制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図2B】本発明の実施形態に係る発電システム制御装置に備わるCPUの機能ブロック図である。
図3A】エンジン発電モジュールに備わる第1実施例に係る内燃機関エンジンの構成図である。
図3B】エンジン発電モジュールに備わる第2実施例に係る内燃機関エンジンの構成図である。
図4】内燃機関エンジンを複数の機能毎に区分してサブシステム化した構成例を示す図である。
図5】内燃機関エンジンの回転速度-トルク変化に対する熱効率特性を示す等高線図である。
図6】内燃機関エンジンのMFB50-熱効率特性を示す線図である。
図7】内燃機関エンジンの燃焼効率-排気温度特性を示す線図である。
図8A】発電システム制御装置の動作説明に供するフローチャート図である。
図8B】発電システム制御装置に備わるCPUの機能である管理部のエンジン情報管理テーブルを概念的に表す図である。
図9】発電システム制御装置による複数のエンジンの協調動作説明に供するタイムチャート図である。
【発明の実施の形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る発電システム制御装置について、適宜の図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る発電システム制御装置の説明において、共通の機能を有する構成要素には共通の符号を付し、その重複した説明を省略する。
【0013】
〔発電システム制御装置1の周辺を含む概略構成〕
はじめに、本発明の実施形態に係る発電システム制御装置1の周辺を含む概略構成について、図1を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る発電システム制御装置1の周辺を含む概略構成図である。
【0014】
本発明の実施形態に係る発電システム制御装置1は、例えば図1に示すように、内燃機関エンジン11を発電源とするエンジン発電モジュールGMを備える発電システム3に適用され、発電システム3の制御を行う機能を有する。内燃機関エンジン(「内燃機関エンジン」を単に「エンジン」と省略する場合がある。)11とは、例えば、水素及び天然ガス(炭化水素系燃料)を混合燃焼することで駆動力を得る態様のエンジンである。
【0015】
発電システム制御装置1には、前記エンジン発電モジュールGMを含む複数の発電源を備える発電システム3と、燃料としての水素を生成する水素生成装置5と、負荷側機器7と、表示機器9と、が電気的に接続されている。水素生成装置5は、例えば電解槽(不図示)を備え、電解槽内に貯められた水を電気分解することで水素(及び酸素)を得る装置である。
【0016】
発電システム制御装置1が適用される発電システム3は、内燃機関エンジン11を発電源とするエンジン発電モジュールGMを含んでいることが前提となる。
本発明の実施形態に係る発電システム制御装置1では、エンジン発電モジュールGMを含む複数の発電源を備える発電システム3において、接続されている負荷側機器7の稼働状態が変動した場合であっても、内燃機関エンジン11の劣化診断を安定して遂行することが課題だからである。
【0017】
発電システム3において、エンジン発電モジュールGM以外の他の発電源としては、蓄電池、燃料電池、風力発電機、水力発電機、太陽光発電機などの電力を供給可能な設備、系統電力をそれぞれ単独で採用するか、又はこれらの組み合わせを適宜採用しても構わない。
【0018】
〔発電システム3の構成〕
発電システム3は、図1に示すように、エンジン発電モジュールGM及び水素供給装置19を含んで構成されている。水素供給装置19は、水素生成装置5で生成された水素をエンジン発電モジュールGMに供給する役割を果たす。
本発明の実施形態に係る発電システム3において、エンジン発電モジュールGM及び水素供給装置19は、それぞれ3群、設けられている。
【0019】
詳しく述べると、第1群に属する第1エンジン発電モジュールGM1は、第1エンジン11A、第1発電機13A、第1電力変換器15Aを備えて構成されている。
同様に、第2群に属する第2エンジン発電モジュールGM2は、第2エンジン11B、第2発電機13B、第2電力変換器15Bを備えて構成されている。
同様に、第3群に属する第3エンジン発電モジュールGM3は、第3エンジン11C、第3発電機13C、第3電力変換器15Cを備えて構成されている。
【0020】
水素供給装置19は、第1群に属する第1エンジン11Aに水素を供給する第1水素供給装置19A、第2群に属する第2エンジン11Bに水素を供給する第2水素供給装置19B、及び第3群に属する第3エンジン11Cに水素を供給する第3水素供給装置19Cを備えて構成されている。
【0021】
なお、第1群に属する第1エンジン11A、第2群に属する第2エンジン11B、及び第3群に属する第3エンジン11Cのそれぞれには、水素に加えて、不図示の燃料タンクを介して天然ガス(炭化水素系燃料)が供給される。要するに、第1~第3エンジン11A、11B、11Cは、水素燃料又は天然ガスのうちいずれかを用いた専焼、水素燃料及び天然ガスの混合燃料を用いた混合燃焼によって駆動力を得る態様の内燃機関エンジンである。
【0022】
本実施形態に係る発電システム3では、第1群に属する第1エンジン発電モジュールGM1、第2群に属する第2エンジン発電モジュールGM2、第3群に属する第3エンジン発電モジュールGM3は、それぞれが共通の発電容量を有するように設定されている。ただし、第1~第3エンジン発電モジュールGM1、GM2、GM3は、それぞれが相互に異なる発電容量を有する設定を採用しても構わない。
【0023】
第1~第3エンジン11A、11B、11Cのそれぞれには、これらの各エンジン11を制御するための第1~第3電子制御装置(第1~第3ECU)17A、17B、17Cが備わっている。第1~第3エンジン発電モジュールGM1、GM2、GM3のそれぞれは、負荷側機器7と電気的に接続されている。これにより、第1~第3エンジン発電モジュールGM1、GM2、GM3による発電出力は負荷側機器7に供給される。
【0024】
ここで、第1群に属する第1エンジン発電モジュールGM1及び第1水素供給装置19A、第2群に属する第2エンジン発電モジュールGM2及び第2水素供給装置19B、第3群に属する第3エンジン発電モジュールGM3及び第3水素供給装置19Cについて、それぞれを区別した上での説明を要しない限り、第1~第3エンジン発電モジュールGM1、GM2、GM3を「エンジン発電モジュールGM」と、第1~第3水素供給装置19A、19B、19Cを「水素供給装置19」と、それぞれ総称することとする。
前記と同様に、それぞれを区別した上での説明を要しない限り、第1~第3エンジン11A、11B、11Cを「エンジン11」と、第1~第3発電機13A、13B、13Cを「発電機13」と、第1~第3電力変換器15A、15B、15Cを「電力変換器15」と、第1~第3ECU17A、17B、17Cを「ECU17」と、それぞれ総称することとする。
【0025】
なお、本発明に適用可能な発電モジュールGM(エンジン発電機)としては、エンジン11(ECU17を含む)及び発電機13を備えていればよく、負荷が交流負荷か直流負荷かに応じて、適宜の電力変換器15を備えればよい。また、発電機13は、交流発電機、直流発電機のいずれであってもよい。
【0026】
ECU17は、発電システム制御装置1から送られてくる発電システム3全体としての総要求発電出力に関する要求出力指令Sd1(詳しくは後記する。)に基づいてエンジン11の駆動制御を行う。詳しく述べると、ECU17は、天然ガス燃料噴射部、点火部、スロットルバルブ、スタータ(いずれも不図示)を含む各機能部の制御を行う。発電機13は、エンジン11の駆動力を所要の要求発電出力に応じた電力に変換する。電力変換器15は、発電機13により発生した電力の電圧・位相を調整し、調整後の電力を負荷側機器7に供給する。
【0027】
第1~第3エンジン11A、11B、11Cのそれぞれには、図1に示すように、個別排気管11A1、11B1、11C1が設けられている。複数の個別排気管11A1、11B1、11C1の各々の個別排気口11A2、11B2、11C2は、複数の個別排気管11A1、11B1、11C1を集合した集合排気管21に連通接続されている。
【0028】
集合排気管21には、その排気通路21aを流通する排気を浄化するための排気浄化触媒(三元触媒)23が設けられている。排気通路21aのうち排気浄化触媒23の上流側には、排気浄化触媒23に流入する排気ガスに係る空燃比を検知する空燃比センサ25、前記排気ガスに係る温度を検知する排気温度センサ27が設けられる一方、排気浄化触媒23の下流側には、排気浄化触媒23から流出する排気ガスに係る酸素濃度を検知する酸素濃度センサ29が設けられている。
【0029】
発電システム制御装置1には、負荷側機器7に関する負荷情報Sg1、水素生成装置5に関する供給可能な水素量情報Sg2、エンジン11に関する運転状態情報Sg3、電力変換器15に関する供給電力情報Sg4を含む各種情報が入力される。
【0030】
発電システム制御装置1は、負荷情報Sg1に基づいて、発電システム3全体としての総要求発電出力を求める。これにより、発電システム制御装置1は、負荷側機器7において時々刻々と変動する負荷の大きさ(要求発電出力)を実時間で取得することができる。
また、発電システム制御装置1は、前記取得した発電システム3全体としての総要求発電出力、水素量情報Sg2、運転状態情報Sg3、供給電力情報Sg4に基づいて、第1~第3発電モジュールGM1、GM2、GM3の各々の個別要求発電量に関する要求出力指令Sd1(図2A参照)を生成すると共に、該個別要求出力に従う目標水素供給量Sd2(図2A参照)を実現するように第1~第3水素供給装置19A、19B、19Cの制御を行う。これにより、発電システム制御装置1は、負荷の変動が生じた場合であっても、発電システム3全体としての総要求発電出力を実現することができる。
【0031】
〔発電システム制御装置1のハードウェア構成例〕
次に、発電システム制御装置1のハードウェア構成例について、図2Aを参照して説明する。
図2Aは、本発明の実施形態に係る発電システム制御装置1のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【0032】
発電システム制御装置1は、図2Aに示すように、入力回路1a、入出力ポート1b、RAM1c、ROM1d、CPU1e、エンジン制御出力部1f、水素供給量制御出力部1gを備えて構成されている。
【0033】
発電システム制御装置1の入力回路1aには、例えば、負荷側機器3に関する負荷側機器7全体としての需要電力である総要求発電出力(発電システム3全体としての総要求発電出力と同義)の情報Sg1、水素生成装置5に関する供給可能な水素量情報Sg2、エンジン11に関する運転状態情報Sg3を含む各種情報がそれぞれ入力される。入力回路1aに入力された各種情報に係る各信号は、入出力ポート1bのうち入力ポートに送られる。入力ポートに送られた値は、RAM1cに保管され、CPU1eで所定の演算処理(詳しくは後記する。)が施される。演算処理の内容を記述した本発明に係る制御プログラムは、ROM1dに予め書き込まれている。
【0034】
発電システム制御装置1において、本発明に係る制御プログラムに従って演算された制御対象(エンジン11、水素供給装置19など)の作動量に係る値は、RAM1cに保管された後、入出力ポート1bのうち出力ポートを介して、エンジントルク制御出力部1f、水素供給量制御出力部1gにそれぞれ送られる。
具体的には、エンジントルク制御出力部1fは、第1~第3発電モジュールGM1、GM2、GM3のそれぞれの要求発電量に関する要求出力指令Sd1をECU17に送る。また、水素供給量制御出力部1gは、前記要求出力に従う目標水素供給量Sd2を水素供給装置19に送る。
【0035】
ここで、図2Aに示す発電システム制御装置1の例では、複数の各エンジン11のそれぞれに対し、各エンジン11の制御を個別に行うECU17を設けているが、本発明はこの形態に限定されるものではない。各エンジン11の制御を統合して行う統合制御部を、発電システム制御装置1に備える構成を採用しても構わない。なお、制御プログラムにより演算された各エンジン11の劣化度に係る劣化度情報Selは、RAM1c等の記憶媒体に保管される。RAM1cに保管された劣化度情報Selは表示機器9に送られて、表示機器9に備わる表示部に表示される。
【0036】
〔発電システム制御装置1に備わるCPU1eの機能部に着目した構成例〕
次に、発電システム制御装置1に備わるCPU1eの機能部に着目した構成例について、図2Bを参照して説明する。
図2Bは、本発明の実施形態に係る発電システム制御装置1に備わるCPUの機能部に着目した構成例を示すブロック図である。
【0037】
発電システム制御装置1は、図2Bに示すように、情報取得部31、劣化診断部33、管理部35、制御部37を備えて構成されている。
【0038】
情報取得部31は、内燃機関エンジン11に係る運転状態情報を含む各種情報を取得する機能を有する。情報取得部31により取得した複数の内燃機関エンジン11A、11B、11C毎の運転状態情報を含む各種情報は、劣化診断部33、管理部35、制御部37にそれぞれ送られる。
【0039】
劣化診断部33は、情報取得部31により取得した運転状態情報に基づいて、劣化診断に係る対象エンジン11の劣化診断を行う機能を有する。なお、劣化診断に係る対象エンジン11とは、管理部35によって劣化診断対象として選定された内燃機関エンジン11を意味する。
【0040】
詳しく述べると、劣化診断部33は、エンジン11に関する複数の各要素機能に対応する複数のサブシステム(詳しくは後記する。)の各個別の状態に関する複数の部分指標のうちの少なくとも一以上の部分指標の情報、又は、当該部分指標に基づき算出される全体としての状態に関する統合指標の情報に基づいて、管理部35によって劣化診断対象として選定された対象エンジンの劣化診断を行う。管理部35による劣化診断に係る対象エンジンの選定について、詳しくは後記する。
劣化診断部33による劣化診断結果は、管理部35、制御部37にそれぞれ送られる。
【0041】
管理部35は、複数のエンジン11毎の劣化診断履歴を含む個別情報の管理を行う機能を有する。管理部35によって複数のエンジン11毎に管理される個別情報は、直前回の劣化診断が行われた時期、当該直前回の劣化診断の結果として得られた劣化の度合い(エンジン劣化度)、当該劣化診断に係る所要時間のうち少なくともいずれかを含む。
管理部35は、例えば、複数のエンジン11毎に対応付けられた個別情報を、複数のエンジン11間で横並びに比較した結果に基づいて、複数のエンジンのなかから、劣化診断に係る対象エンジンを選定する。ただし、管理部35は、複数のエンジン11のうちいずれかからの診断要求に基づいて、複数のエンジンのなかから、劣化診断に係る対象エンジンを選定しても構わない。
【0042】
例えば、直前回の劣化診断が行われた時期からの経過時間が長いほど劣化診断の優先度をあげる構成を採用すれば、複数のエンジン11間での劣化診断の機会を均等に分配することができる。
また、エンジン劣化度が大きいほど劣化診断の優先度をあげる構成を採用すれば、複数のエンジン11のうち、あるエンジン11の劣化が急速に進行しているケースが生じた際に、早期の劣化診断によって該当するエンジン11の失陥を未然に抑制することができる。
また、劣化診断に係る所要時間が短いほど劣化診断の優先度をあげる構成を採用すれば、複数のエンジン11のうち劣化診断が完了したエンジン11の台数を稼ぐことができる。
【0043】
要するに、複数のエンジン11毎に対応付けられた個別情報を、複数のエンジン11間で横並びに比較した結果に基づいて、複数のエンジンのなかから、劣化診断に係る対象エンジンを管理部35によって選定することにより、劣化診断候補として複数のエンジン11が存する場合であっても、複数のエンジン11間で劣化診断の機会を均等に分配し、早期の劣化診断によって該当するエンジン11の失陥を未然に抑制し、複数のエンジン11のうち劣化診断が完了したエンジン11の台数を稼ぐことがことが可能となる。その結果、複数のエンジン11の劣化診断を適時かつ適切に遂行することができる。また、必要に応じて、劣化が進んでいるエンジン11にメンテナンスを施したり、劣化の進行が抑制される運転条件に制御することで失陥を回避することにより、複数のエンジン11の稼働率を向上することができる。
【0044】
制御部37は、劣化診断に係る対象エンジン11を除いた発電源を用いて発電システム3全体としての総発電要求を満たすように個々の発電源の運転制御を行うと共に、対象エンジン11を所定の運転条件に制御した状態で、対象エンジン11の劣化診断を劣化診断部33に行わせる役割を果たす。
また、制御部37は、劣化診断に係る対象エンジンの劣化診断結果を表示機器9に表示させる制御を行う。これにより、対象エンジンの劣化診断結果を利用者に提供することが可能となる結果、必要に応じて、劣化が進んでいるエンジン11にメンテナンスを施す等の運用を促す効果を期待することができる。
なお、情報取得部31、劣化診断部33、管理部35、制御部37のそれぞれが果たす詳細な役割について、詳しくは後記する。
【0045】
〔第1実施例に係るエンジン11の構成〕
次に、エンジン発電モジュールGMに備わる第1実施例に係るエンジン11の構成について、図3Aを参照して説明する。
図3Aは、エンジン発電モジュールGMに備わる第1実施例に係る第1エンジン11Aの構成図である。ただし、第2エンジン11B、第3エンジン11Cの構成は、第1エンジン11Aの構成と同じである。そこで、図3Aには、第1エンジン11Aの構成例を代表的に示している。
【0046】
第1実施例に係る第1エンジン11A(エンジン11)は、図3Aに示すように、火花点火式の燃焼形態を採る自動車用の4気筒汎用エンジンを、水素燃料を供給可能となるように改造したものである。
【0047】
第1エンジン11A(エンジン11)の吸気管40には、吸入空気量を検知するエアフローセンサ41と、吸気圧力を調整する電子制御スロットル43とが、適宜の位置にそれぞれ配設されている。また、吸気管40には、該吸気管40内に水素燃料を供給するための燃料配管45が連通接続されている。燃料配管45は、水素の供給量制御を行う第1水素供給装置19Aに接続されている。
これにより、吸気管40には、第1水素供給装置19Aより燃料配管45を介して水素が供給されるように構成されている。
【0048】
第1エンジン11A(エンジン11)の本体部47には、4気筒分の燃焼室49がそれぞれ形成されている。吸気管40は、4気筒分の吸気配管51をそれぞれ介して、4気筒分の各燃焼室49に連通接続されている。また、4気筒分の燃焼室49のそれぞれには、天然ガス燃料を噴射するための噴射装置53が設けられている。噴射装置53は、燃料配管55を介して燃料タンク(不図示)へ接続されている。
これにより、4気筒分の燃焼室49のそれぞれには、燃料タンクより燃料配管55を介して天然ガスが供給されるように構成されている。
【0049】
4気筒分の燃焼室49のそれぞれには、点火エネルギーを供給する点火プラグ57が各気筒毎に設けられている。
これにより、4気筒分の燃焼室49のそれぞれにおいて、空気及び燃料に係る混合気体の吸入工程、同混合気体の圧縮工程、同混合気体の燃焼による膨張行程、燃焼ガスの排気工程を含む各工程が順次遂行されるように構成されている。
【0050】
また、第1エンジン11A(エンジン11)の本体部47には、エンジン冷却水の温度を検知する冷却水温度センサ61と、エンジンオイルの温度を検知するオイル温度センサ63とが、適宜の位置にそれぞれ配設されている。
【0051】
さらに、第1エンジン11A(エンジン11)の本体部47には、4気筒分の燃焼室49のそれぞれで生じた排気を導く分岐路65を介して排気を集合させる個別排気管11A1(図1図3A参照)が設けられている。個別排気管11A1の排気口11A2は、複数のエンジン毎にそれぞれ備わる複数の個別排気管11A1、11B1、11C1を集合した集合排気管21に連通接続されている。
【0052】
前記構成を採用することにより、第1エンジン11A(エンジン11)は、天然ガスを燃料として用いた天然ガス専焼と、水素を燃料として用いた水素専焼と、天然ガス及び水素の混合燃料を用いた天然ガス-水素混焼と、を適宜切り替えて運転可能に構成されている。
【0053】
〔第2実施例に係るエンジン12の構成〕
次に、エンジン発電モジュールGMに備わる第2実施例に係るエンジン12の構成について、図3Bを参照して説明する。
図3Bは、エンジン発電モジュールGMに備わる第2実施例に係るエンジン12の構成図である。
第1実施例に係るエンジン11と、第2実施例に係るエンジン12とは、基本的な構成部分が共通している。そこで、両者間のふたつの相違点に注目して説明することで、第2実施例に係るエンジン12の構成説明に代えることとする。
【0054】
第1実施例に係るエンジン11では、図3Aに示すように、吸気管40には、該吸気管40内に水素燃料を供給するための燃料配管45が連通接続され、第1水素供給装置19Aより燃料配管45を介して水素が供給されるように構成されている。
これに対し、第2実施例に係るエンジン12では、図3Bに示すように、4気筒分の燃焼室49のそれぞれに対し、水素燃料を供給するための燃料配管45が連通接続され、第1水素供給装置19Aより燃料配管45を介して水素が供給されるように構成されている。これが第1の相違点である。
【0055】
また、第1実施例に係るエンジン11では、図3Aに示すように、4気筒分の燃焼室49のそれぞれには、天然ガス燃料を噴射するための噴射装置53が設けられ、燃料タンクより燃料配管55を介して天然ガスが供給されるように構成されている。
これに対し、第2実施例に係るエンジン12では、図3Bに示すように、4気筒分の吸気配管51のそれぞれに対し、天然ガス燃料を噴射するための噴射装置53が設けられ、燃料タンクより燃料配管55を介して天然ガスが供給されるように構成されている。これが第2の相違点である。
【0056】
前記構成を採用することにより、第2実施例に係るエンジン12は、第1実施例に係るエンジン11と同様に、天然ガスを燃料として用いた天然ガス専焼と、水素を燃料として用いた水素専焼と、天然ガス及び水素の混合燃料を用いた天然ガス-水素混焼と、を適宜切り替えて運転可能に構成されている。
【0057】
第2実施例に係るエンジン12では、天然ガス専焼に対し、水素の混合割合を増加させることで希薄燃焼化の実現が可能となる結果、熱効率を向上することができる。これにより、燃料費を削減すると共に、二酸化炭素排出量を削減することができる。また、仮に、天然ガス又は水素のうちいずれか一方の燃料が使用できなくなった場合でも、エンジン発電を継続できるため、レジリエンス(回復力・復元力)向上を期待することができる。
【0058】
ここで、本発明の実施形態に係る発電システム3では、負荷側機器7全体としての需要電力である総要求発電出力(発電システム3全体としての総要求発電出力と実質的に同義)に応じて、稼働する発電源の出力調整を行う。具体的には、例えば図1に示すように、エンジン発電モジュールGMを3組備える発電システム3において、ある総要求発電出力PR1を充足するように2組のエンジン発電モジュールGM2、GM3が現在稼働中であるとする。
【0059】
かかる状況において、あるタイミングで、発電システム3全体としての総要求発電出力がPR1からPR2(PR1<PR2)に増大したとする。このとき、稼働中の2組のエンジン発電モジュールGM2、GM3に係る出力調整では総要求発電出力PR2に対応できない場合、未稼働で待機状態にあったエンジン発電モジュールGM1を新たに稼働させる。これにより、総要求発電出力の時間的な変動に対応する。
このように、本発明の実施形態に係る発電システム3では、複数のエンジン発電モジュールGM間で、基礎的な要求発電出力をまかなう基礎エンジンと、発電システム3全体としての総要求発電出力の変動に適応する適応エンジンと、の役割分担(詳しくは次述する)を行うことにより、突発的な負荷変動に柔軟に対応するようにしている。
【0060】
次に、内燃機関エンジン11の劣化診断手法について、図4を参照して説明する。
図4は、内燃機関エンジン11を複数の機能毎に区分してサブシステム化した構成例を示す図である。
【0061】
内燃機関エンジン11は、内燃機関エンジン11に関する複数の各要素機能に対応する複数のサブシステムを備える。複数のサブシステムの各々には、それぞれの状態に関する部分指標の情報が、前記個別情報に属するものとして対応付けられている。要するに、前記個別情報に属する部分指標の情報は、管理部35によって適切に管理されている。
【0062】
劣化診断部33は、複数のサブシステムの各個別の状態に関する複数の部分指標のうちの少なくとも一以上の部分指標の情報、又は、当該部分指標に基づき算出される全体としての状態に関する統合指標の情報に基づいて、管理部35によって劣化診断対象として選定された対象エンジンの劣化診断を行う。
【0063】
内燃機関エンジン11の劣化診断を行うに際し、図4に示すように、内燃機関エンジン11を複数の機能毎に分類してサブシステム化した。
具体的には、内燃機関エンジン11を、吸気サブシステム71、潤滑サブシステム73、冷却サブシステム75、排気サブシステム77、燃料サブシステム79、燃焼サブシステム81、点火サブシステム83の7つの機能毎に分類した。
【0064】
内燃機関エンジン11では、前記各サブシステムのいずれか又は複数の組み合わせに関する不具合がエンジン11の定常運転を損なうことが多い。そのため、複数の各サブシステム毎の状態に関する部分指標の情報を取得し、1又は複数の部分指標の情報に基づいて、対象エンジンの劣化診断を行うことが望ましい。
また、1又は複数の部分指標に基づいて、エンジン11全体としての状態に関する統合指標を算出し、該算出した統合指標の情報に基づいて、対象エンジンの劣化診断を行う構成を採用しても構わない。
このように構成すれば、エンジン11の劣化診断を過不足なく適切に遂行することができる。
【0065】
図4に例示するように、吸気サブシステム71の状態に関する部分指標の情報はスロットル弁開度である。潤滑サブシステム73の状態に関する部分指標の情報はオイル温度である。冷却サブシステム75の状態に関する部分指標の情報は冷却水温度である。排気サブシステム77の状態に関する部分指標の情報は排気浄化触媒23の後流側の酸素濃度である。燃料サブシステム79の状態に関する部分指標の情報は燃料噴射パルス幅である。燃焼サブシステム81の状態に関する部分指標の情報は燃焼安定度、燃焼時期、ノッキング耐性、燃焼効率である。点火サブシステム83の状態に関する部分指標の情報は燃焼期間である。
このように構成すれば、エンジン11の劣化診断を過不足なくより一層適切に遂行することができる。
【0066】
また、内燃機関エンジン11において、劣化診断に係る対象エンジンに課される所定の運転条件は、エンジン回転速度、発電出力、空燃比、点火時期、のうちの少なくとも1つ以上の運転状態値が所定の許容範囲に収束する条件である、構成を採用しても構わない。ここで、ある運転状態値が所定の許容範囲に収束するとは、個々の運転状態値が、対象エンジンを定常運転させるのに適した値域に属することを意味する。
一般に、前記運転状態値は、対象エンジンの動力性能、特に熱効率に与える影響が大きい。
そこで、少なくとも1つ以上の運転状態値が所定の許容範囲に収束する条件を、劣化診断に係る対象エンジンに課される所定の運転条件として採用すれば、対象エンジンにとって過酷な条件を運転条件として採用した場合と比べて、対象エンジンの動力性能、特に熱効率に与える影響を抑制して、劣化診断の精度向上に資することができる。
【0067】
また、内燃機関エンジン11において、劣化診断に係る対象エンジンに課される所定の運転条件は、劣化診断に係る対象エンジンを定格出力で運転する条件である、構成を採用しても構わない。ここで、劣化診断に係る対象エンジンを定格出力で運転すると、エンジン発電モジュールGMが連続して安定的に電力を供給することができる。
劣化診断に係る対象エンジンを定格出力で運転する条件を、該対象エンジンに課される所定の運転条件として採用すれば、対象エンジンを定格出力に満たない出力で運転する場合と比べて、対象エンジンを安定的に運転することが可能となる結果、高出力を得ながら劣化診断の精度向上に資することができる。
【0068】
また、内燃機関エンジン11は、水素を含む2種類以上の燃料が供給されて混焼が可能なエンジンであり、この場合、劣化診断に係る対象エンジンに課される所定の運転条件は、対象エンジンに供給される2種類以上の燃料に係る混合割合が所定の許容範囲に収束する条件である、構成を採用しても構わない。ここで、2種類以上の燃料に係る混合割合が所定の許容範囲に収束するとは、2種類以上の燃料に係る混合割合が、対象エンジンを定常運転させるのに適した領域に属することを意味する。
一般に、2種類以上の燃料に係る混合割合は、対象エンジンの動力性能、特に熱効率に与える影響が大きい。そこで、2種類以上の燃料に係る混合割合が所定の許容範囲に収束する条件を、劣化診断に係る対象エンジンに課される所定の運転条件として採用すれば、2種類以上の燃料に係る混合割合が所定の許容範囲外である条件にて対象エンジンを運転した場合と比べて、対象エンジンの動力性能、特に熱効率に与える影響を抑制して、劣化診断の精度向上に資することができる。
【0069】
次に、内燃機関エンジン11の熱効率について、図5を参照して説明する。
図5は、内燃機関エンジンの回転速度-トルク変化に対する熱効率特性を示す等高線図である。
図5に示すように、内燃機関エンジン11では、回転速度が所定の閾値と比べて低く、かつトルクが所定の閾値と比べて小さい運転領域、つまり所定の低出力条件を満たす運転領域において、熱効率が低下する傾向を示す。
【0070】
本発明の実施形態に係る発電システム3では、例えば、全てのエンジン11の発電出力が等しくなるようにエンジン11の稼働を制御することもできる。ただし、この場合において、仮に、それぞれのエンジン11が前記所定の低出力条件を満たす運転領域で稼働すると、発電システム3全体としての熱効率低下を招いてしまう。
【0071】
そこで、発電システム3に属する複数のエンジン発電モジュールGM(エンジン11)毎に、発電システム3においてベースとなる要求発電出力を発生させる基礎エンジン、発電システム3全体としての所望の総要求発電出力を満たすための運転条件を用いて総要求発電出力の変動を補償する適応エンジン、としての役割を予め設定しておく。
【0072】
基礎エンジンでは、制御部37は、発電出力が比較的大きく熱効率が高い所定の運転条件にて定常運転するように制御する。適応エンジンでは、制御部37は、回転速度及びトルクの限界条件に対して、余裕のある運転条件にて制御する一方、要求発電出力の変動が生じた場合には、回転速度及びトルクを適応的に変化させることにより、要求発電出力の変動を補償するように制御する。
【0073】
要求発電出力が、適応エンジンとしての役割が割り当てられたエンジン11が定格出力以下になると、制御部37は、基礎エンジンとしての役割が割り当てられたエンジン11の運転を停止し、適応エンジンに係るエンジン11だけを運転させる適応制御を行う。これにより、発電システム3全体としての熱効率を向上させるだけでなく、要求発電出力を高精度に実現する効果を得ることができる。
【0074】
また、例えば、劣化診断に係る対象エンジンに対し、基礎エンジンとしての役割を割り当てる運用を行うと、予め設定した運転条件にて劣化診断に係る対象エンジンを安定的に運転した状態で、当該対象エンジンの劣化診断を高精度に遂行することができる。
【0075】
ところで、仮に、適応エンジンとしての役割が割り当てられたエンジン11の劣化診断を行う場合、基礎エンジンとしての役割が割り当てられたエンジン11を、回転速度及びトルクの限界条件に対して余裕のある条件にて運転させる一方で、前記の適応エンジンを所定の運転条件にて定常運転させるように制御する。この定常運転時に、適応エンジン(エンジン11)の劣化診断が遂行される。
このとき、発電システム3全体としての総要求発電出力に変動が生じた場合には、この変動分を補償するように、限界条件に対して余裕のある条件にて運転中の基礎エンジン(エンジン11)の回転速度・トルクを適宜変化させる適応制御を行う。
このように構成すれば、発電システム3全体としての総要求発電出力を満たしつつ、適応エンジンの劣化診断を可及的に安定かつ高精度に遂行することができる。
【0076】
基礎エンジン又は適応エンジンとしての役割の割り当てに関し、管理部35は、図1に示すように、内燃機関エンジン11A、11B、11Cに係る個別排気管11A1、11B1、11C1の各排気口11A2、11B2、11C2から排気浄化触媒23に至る排気経路長の情報を、複数の内燃機関エンジン11A、11B、11C毎の個別情報(図2B参照)として管理している。
管理部35は、内燃機関エンジン11の劣化診断を行わない休止期間では、複数の内燃機関エンジン11A、11B、11Cのうち、個別排気管11A1、11B1、11C1の各排気口11A2、11B2、11C2から排気浄化触媒23に至る排気経路長が最も短い内燃機関エンジン11に対し、適応エンジンとしての役割を割り当てる一方、その他の内燃機関エンジン11に対し、基礎エンジンとしての役割を割り当てるように運用するのが好ましい。
このように構成すれば、要求発電出力の低下に伴い基礎エンジンとしての役割を担うエンジンの運転が停止し、適応エンジンとしての役割を担うエンジンのみが運転を継続する状態になった後において、排気が排気浄化触媒23に到達するまでの排気温度の低下が小さいため、排気浄化触媒23が本来の浄化性能を発揮可能な排気温度を十全に確保する効果を期待することができる。
【0077】
次に、内燃機関エンジン11に備わる複数のサブシステムの各々に対応付けられた、それぞれの状態に関する部分指標の情報について詳しく説明する。なお、前記個別情報に属する部分指標の情報は管理部35によって管理されている。
【0078】
一般に、自動車用エンジン11の耐久性は、発電用に設計されたエンジンと比べて低い。また、発電システム3への適用を想定した場合、自動車用として想定していた運転条件よりも過酷な運転条件となる。
そのため、自動車用のエンジン11を発電システム3に組み込んで長時間にわたり連続運転させた場合、早期に劣化・故障することが懸念される。さらに、RE燃料として注目されている水素は、既存燃料に対して燃焼速度が速く点火エネルギが小さいという特性がある。
そのため、ノッキングや過早着火といった異常燃焼が発生しやすく、エンジン11が損傷を受ける蓋然性が高い。
このように、従来に比べ故障リスクが上昇するため、エンジン11の劣化を適時かつ適切に診断し、故障を未然に防ぐ運用が必要である。特に、エンジン11の劣化診断では、誤診断を防ぐため、所定の運転条件にてエンジンの運転状態を安定して取得することが重要である。
【0079】
〔吸気サブシステム71〕
吸気サブシステム71では、スロットル弁開度を指標とする。スロットル弁開度は、不図示の開度センサにより検知する。スロットル弁開度は目標値を実現するようにECU17にてフィードバック制御されているが、劣化が進行していくに伴い制御の応答性が低下するため、開度のばらつきが増加する。
したがって、スロットル弁開度のばらつき増加が生じた場合に、吸気サブシステム71の状態悪化と判定する。
なお、スロットル弁開度のばらつき増加が生じた場合とは、スロットル弁開度のばらつきが、所定の許容範囲を逸脱したケースを想定している。
【0080】
〔潤滑サブシステム73〕
潤滑サブシステム73では、オイル温度を指標とする。オイル温度はオイル温度センサ63(図3A図3B参照)により検知する。オイルポンプ(不図示)の吐出圧低下、オイルクーラ(不図示)の目詰まりなど、潤滑サブシステム73が劣化すると、オイル冷却不良が発生する。その結果、オイル温度が増加する。
したがって、オイル温度の増加が生じた場合に、潤滑サブシステム73の状態悪化と判定する。
なお、オイル温度の増加が生じた場合とは、オイル温度が所定の温度閾値を超えるケースを想定している。
【0081】
〔冷却サブシステム75〕
冷却サブシステム75では、冷却水温度を指標とする。冷却水温度は冷却水温度センサ61(図3A図3B参照)により検知する。冷却水ポンプ(不図示)の吐出圧低下、ラジエータ(不図示)の目詰まりなど、冷却サブシステム75が劣化すると、冷却水冷却不良が発生する。その結果、冷却水温度が増加する。
したがって、冷却水温度の増加が生じた場合に、冷却サブシステム75の状態悪化と判定する。
なお、冷却水温度の増加が生じた場合とは、冷却水温度が所定の温度閾値を超えるケースを想定している。
【0082】
〔排気サブシステム77〕
排気サブシステム77では、排気浄化触媒23後流の酸素濃度を指標とする。酸素濃度は酸素濃度センサ29(図1参照)により検知する。排気浄化触媒23は浄化反応を最大限に引き出すために、排気の空燃比を理論空燃比に保つフィードバック制御がECU17にて実行される。排気浄化触媒23が劣化すると当該フィードバック制御時の触媒後流の酸素濃度の応答特性が鈍化する。
したがって、当該酸素濃度の応答特性の鈍化が生じた場合に、排気サブシステム77の状態悪化と判定する。
なお、当該酸素濃度の応答特性の鈍化が生じた場合とは、排気の空燃比を理論空燃比に保つフィードバック制御を行った場合でも、排気の空燃比が理論空燃比に収束するまでの時間長が、所定の時間長閾値を超えるケースを想定している。
【0083】
〔燃料サブシステム79〕
燃料サブシステム79では、噴射パルス幅を指標とする。噴射パルス幅はECU17の演算値であるため取得可能である。燃料噴射圧力の低下やデポジット付着によるインジェクタ噴射口目詰まり、インジェクタ噴射口シート不良など、燃料サブシステム79が劣化すると噴射不良が発生する。噴射不良に伴う噴射量低下の影響を補償するため、ECU17にて噴射パルス幅を増加させる方向に制御する。
したがって、噴射パルス幅の増加が生じた場合に、燃料サブシステム79の状態悪化と判定する。
なお、噴射パルス幅の増加が生じた場合とは、噴射パルス幅が所定の幅閾値を超えるケースを想定している。
【0084】
〔燃焼サブシステム81〕
燃焼サブシステム81では、燃焼安定性、燃焼時期、ノッキング限界、排気温度を指標とする。以下、各指標毎に詳細を説明する。
【0085】
〔燃焼安定性〕
IMEPの変動率(COV of IMEP)を指標とする。IMEPの変動率は電力変換器15の電流に基づき推定する。
IMEPの変動率の増加が生じた場合に、燃焼状態悪化と判定する。
【0086】
〔燃焼時期〕
MFB50を指標とする。MFB50とは、燃焼による熱発生量がトータルの50%発生したタイミングである。MFB50はエンジンクランク軸の回転センサ(不図示)から得られるクランク回転速度の情報をもとに推定する。
図6にMFB50に対する熱効率の関係を示す。図6において、エンジン11の回転速度、負荷、空燃比は一定である。
図6に示すように、MFB50に対して熱効率は上側に凸の関係となり、熱効率に対して最適なMFB50が存在することがわかる。
この関係特性に基づき、MFB50の最適値(図6ではCA1 degATDC)と現在のMFB50の差分の増加が生じた場合に、熱効率低下と判定する。
【0087】
〔ノッキング耐性〕
MFB50進角可能量を指標とする。ノッキングはノックセンサ(不図示)により検知する。デポジットやアッシュの堆積による実圧縮比上昇やホットスポットの存在により、エンドガスの温度が上昇しノッキングが発生しやすくなる。MFB50を進角方向に操作し意図的にノッキングを発生させ、その際のMFB50進角可能量を計測する。
MFB50進角可能量の新品時の値と現在の値の差分の増加が生じた場合に、ノッキング耐性低下と判定する。
【0088】
〔燃焼効率〕
燃焼効率は、所定の定義式に基づき未燃排気成分の量と空燃比、燃料流量から算出できるが、通常、未燃排気成分の計測手段がないため、燃焼効率を直接算出することはできない。そこで排気温度を間接的な指標とする。排気温度は排気温度センサ27(図1参照)により検知する。
図7に排気温度と燃焼効率の関係を示す。図7において、エンジン11の回転速度、負荷、空燃比、MFB50は一定である。横軸は基準条件で正規化した燃焼効率、縦軸は基準条件で正規化した排気温度である。
図7に示すように、燃焼効率と排気温度の間に正の相関があることわかる。これは燃焼効率の増加に伴い未燃排気量が低下し発熱量が増加するためである。
かかる関係特性に基づき、排気温度の新品時の値に対し現在値の低下が生じた場合に、燃焼効率の低下と判定する。
【0089】
また、サブシステムの劣化度を次の(式1)により算出してもよい。
【数1】
【0090】
(式1)において、Sub-sysSOH はサブシステム劣化度[%]、L は許容変化量、X0 はサブシステムの状態に関する指標の基準値、X1 はサブシステムの状態に関する指標の現在値、cは重みづけ係数[-]、添え字のi はサブシステムのインデックス、k は各サブシステムの監視項目のインデックスである。
L,X0,X1 の単位は監視項目毎に異なる。サブシステム劣化度は許容変化量に対する現在値の劣化進行度を表しており、サブシステム劣化度が大きいほど劣化していることを意味する。許容変化量は設計余裕や故障時の被害の影響度等を鑑み予め設定しておく。重み付け係数は、同一サブシステムにて監視項目が複数ある場合に監視項目の重要度を鑑み予め設定しておく。
前記サブシステムの状態に関する指標の基準値は、例えば新品時の値であり事前に計測し設定しておく。現在値は所定の診断条件にて、エンジン発電機状態検出部にて所定の単位期間(例えば1分)計測した統計値を用いる。統計値は、平均値、最大値、最小値のうち少なくとも1つ以上から適宜選択すればよい。
このようにサブシステムの状態に関する指標に基づきサブシステムの劣化度を算出することで、エンジン11の劣化診断を高精度に遂行することができる。
なお、エンジン11の劣化診断は、例えば、所定期間が経過する毎に実行すればよい。エンジン劣化度が大きいほど、前記の所定期間を短くする構成を採用してもよい。このように構成すれば、エンジン劣化度の時間的な変化を感度よく取得することができる。
【0091】
また、次の(式2)のようにサブシステム劣化度に基づきエンジントータルの劣化度(エンジン劣化度)を算出してもよい。
【数2】
【0092】
(式2)において、EngSOHはエンジン劣化度、Rはリスク指標、Sub-sysSOHはサブシステム劣化度、添え字のiはサブシステムのインデックスである。リスク指標は故障時の被害の影響度や故障確率が高いほど大きい数値とし、エンジン劣化度に対するリスクの高いサブシステムの寄与度が高くなるように設定する。
これにより、高リスクの失陥が生じた場合でも、エンジン劣化度を感度よく推定することができる。
【0093】
〔発電システム制御装置1の動作〕
次に、発電システム制御装置1の動作について、図8A図8Bを適宜参照して説明する。
図8Aは、発電システム制御装置1の動作説明に供するフローチャート図である。図8Bは、発電システム制御装置1に備わるCPU1eの機能である管理部35のエンジン情報管理テーブル88を概念的に表す図である。
図8Bに示すように、エンジン情報管理テーブル88には、複数のエンジン11毎に対応付けられた個別情報として、該当エンジン11に係る運転状態、診断履歴(直前回の診断日時)、役割割り当て、定格出力、排気経路長、劣化診断要求の有無を含む各種情報が管理部35によって記憶管理されている。
以下、複数の各ステップ毎にその詳細を説明する。
【0094】
<ステップS1>
ステップS1では、発電システム制御装置1に属する情報取得部31は、発電システム制御装置1が接続されている発電システム3全体としての総要求発電出力の情報Sg1を取得する。総要求発電出力の情報Sg1は、例えば、負荷側機器7の総消費電力(電圧及び電流)に係る現在値又は将来の予測値である。発電システム3が電力系統に接続されている場合、系統側からの現在又は将来の電力要求値が、総要求発電出力の情報Sg1となる。
【0095】
<ステップS2>
ステップS2では、発電システム制御装置1に属する情報取得部31は、ECU17やエンジン11から、エンジン11に関する運転状態情報Sg3を取得する。運転状態情報Sg3としては、例えば、現在のエンジン回転速度や発電出力、エンジン温度(冷却水温度、オイル温度、排気温度、吸気温度など)、スロットル弁開度、排気浄化触媒後流の酸素濃度、噴射パルス幅、点火時期、電力変換器電流といったエンジン発電機の運転状態やエンジン仕様(排気量、圧縮比、燃料供給位置、前記排気経路長)、エンジン劣化度、エンジン劣化度の診断要求、基礎エンジン・適応エンジンとしての役割割り当て情報である。
【0096】
<ステップS3>
ステップS3では、発電システム制御装置1に属する情報取得部31は、水素生成装置5から、水素生成装置5に関する供給可能な水素量情報Sg2を取得する。水素生成装置5が、例えば再生可能エネルギーから水素を生成する電解槽(不図示)を備える場合、電解槽への入力可能電力、出力効率などの情報を水素量情報Sg2として取得する。
【0097】
<ステップS4>
ステップS4では、発電システム制御装置1に備わるCPU1eは、ステップS1で取得した総要求発電出力の情報Sg1に基づいて、発電システム3に要求される総要求発電出力を演算する。ここでは、発電機13や電力変換器15での損失などを考慮して、エンジン11に対する全体としての総要求発電出力が演算される。
【0098】
<ステップS5>
ステップS5では、発電システム制御装置1に属する管理部35は、複数のエンジン11毎に役割(適応エンジン/基礎エンジン)を割り当てる。ここでは、例えば、エンジン劣化度の診断要求が生じておらず、排気経路長が最も短いエンジン11に適応エンジンの役割を、それ以外のエンジン11に基礎エンジンの役割を割り当てる。
【0099】
<ステップS6>
ステップS6では、発電システム制御装置1に属する制御部37は、ステップS4にて求められた総要求発電出力を、複数の各エンジン11毎に分配し、個別要求発電出力を得る。
制御部37は、例えば、総要求発電出力の情報Sd1及び各エンジン毎の定格出力に基づいて、必要なエンジンの特定及び台数を算出し、特定されたエンジン11間で総要求発電出力Sd1を配分する。ここで、基礎エンジンとしての役割を担うエンジン11では、出力が比較的大きく熱効率が高い運転条件を設定する。また、劣化診断に係る対象エンジンでは、定格出力に係る運転条件を設定する。適応エンジンとしての役割を担うエンジン11では、総要求発電出力を充足するように運転条件を設定する。
【0100】
<ステップS7>
ステップS7では、発電システム制御装置1に属する制御部37は、ステップS3で取得した水素量情報Sg2に基づいて、各エンジン11での天然ガス/水素の混合割合を演算する。劣化診断に係る対象エンジンでは、定格出力となる運転条件に従う混合割合を設定する。なお、この混合割合は、発電システム3全体としての水素必要量が水素生成装置5から得られる水素生成可能量を超えないことを考慮して適宜の値に設定される。
【0101】
<ステップS8>
ステップS8では、発電システム制御装置1に属する制御部37は、ステップS6にて求められた複数のエンジン11毎の出力指令値(個別要求発電出力)を各ECU17に送る。
【0102】
<ステップS9>
ステップS9では、発電システム制御装置1に属する制御部37は、ステップS7にて求められた複数の各エンジン11毎の混合割合を実現するよう水素供給量制御を実行する。具体的には、制御部37は、個別水素供給量指令値を各水素供給装置19に送る。
【0103】
<ステップS10>
ステップS10では、発電システム制御装置1に備わるCPU1eは、所定の条件を満たしているかを判定することにより、劣化診断の実行可否判定を行う。
前記所定の条件として、稼働中の各エンジン11が、始動後、所定の期間経過していることを採用することができる。
エンジン11が冷機の状態であると燃焼が安定しないため、ここではエンジン11が始動してから所定期間が経過したかを判定することを通じて、エンジン11が十分に暖機が済んだ状態で劣化診断を実行するようにしている。これにより、安定した運転条件での劣化診断が可能となり、誤診断を未然に防ぐ効果を期待することができる。
ステップS10の判定の結果、CPU1eは、所定の条件を満たしている場合(Yes)、処理の流れを次のステップS11に進ませる一方、所定の条件を満たしていない場合(No)、一連の処理の流れを終了させる。
【0104】
<ステップS11>
ステップS11では、発電システム制御装置1に属する劣化診断部33は、劣化診断に係る対象エンジンのエンジン劣化度を診断する。ここでは、まず、前記各サブシステムの状態に関する部分指標の現在値を算出する。次いで、(式1)を用いて各サブシステムの劣化度を算出する。最後に、各サブシステムの劣化度に基づいて、(式2)を用いてエンジン劣化度を算出する。
【0105】
<ステップS12>
ステップS12では、発電システム制御装置1に備わるCPU1eは、ステップS11で算出したサブシステム劣化度及びエンジン劣化度をRAM1c等の記憶装置に保存し、一連の処理を終了させる。
【0106】
〔発電システム制御装置1による複数のエンジン11の協調動作〕
次に、発電システム制御装置1による複数のエンジン11の協調動作について、図9を参照して説明する。
図9は、発電システム制御装置1による複数のエンジン11の協調動作説明に供するタイムチャート図である。
図9に示す例では、都合3台の第1エンジン11A、第2エンジン11B、第3エンジン11Cが稼働している状況下において、そのうち1台の第1エンジン11Aで劣化診断が行われるシーンを時系列的に表している。
なお、発電システム3の起動時における劣化診断要求状態は、第1エンジン11Aが診断要求有り、第2エンジン11B、第3エンジン11Cが診断要求無しであるとする。
図9において、縦軸は上段から総要求発電出力、エンジン発電量、エンジン熱効率であり、横軸は時間である。実線が本発明、破線が比較例を示す。比較例は、要求発電出力を複数の各エンジン11間で均等に分配する構成である。
【0107】
時刻t0において、総要求発電出力が算出される。次いで、排気浄化触媒23に至る排気経路長が最短である第3エンジン11Cに適応エンジンの役割を割り当てると共に、診断要求のある第1エンジン11A及び第2エンジン11Bに基礎エンジンの役割を割り当てる。
【0108】
次に、総要求発電出力を3台のエンジン11で配分する。比較例では、総要求発電出力を3台のエンジン11で均等に配分するため、1台当たりの出力が低く、それに伴い熱効率が低い運転条件となる。
一方で、本発明では、劣化診断に係る対象エンジンである第1エンジン11Aは定格出力の運転条件、第2エンジン11Bは出力が高く熱効率の高い運転条件、第3エンジン11Cは出力が低く、出力調整に余裕のある運転条件となることを考慮して総要求発電出力の配分がなされる。
これにより、第3エンジン11Cの熱効率は比較例と比べて低下するが、第1エンジン11A、第2エンジン11Bの熱効率は増加する。その結果、発電システム3全体としての熱効率を向上することができる。
【0109】
次に、各エンジン11が始動してから所定期間が経過した時刻t1において、第1エンジン11Aの劣化診断が開始される。
【0110】
時刻t2において、負荷変動が発生し、総要求発電出力が低下し始める。この時、比較例では、3台ともエンジン発電量が低下するため、第1エンジン11Aの劣化診断が完了前に中止されてしまう。
一方で、本発明では、第3エンジン11Cが負荷変動に応じて出力を調整するため、第1エンジン11Aは定格出力の運転条件で運転を継続し、時刻t3において劣化診断を完了する。また、時刻t3において、第1エンジン11Aは定格出力の運転条件から熱効率の高い運転条件に変更される。
【0111】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0112】
また、ここで説明した実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることは可能であり、さらには、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0113】
例えば、本発明の実施形態に係る本発明の実施形態に係る発電システム制御装置1の説明において、発電システム3を構成する発電源として3組のエンジン発電モジュールGM(エンジン発電機)を組み込む例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。発電システム3を構成する発電源としては、任意の組数のエンジン発電モジュールGM(エンジン発電機)を組み込んでもよいし、エンジン発電機以外の任意の発電源を含んでも構わないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0114】
1 発電システム制御装置
1a 入力回路
1b 入出力ポート
1c RAM
1d ROM
1e CPU
1f エンジン制御出力部
1g 水素供給量制御出力部
3 発電システム
5 水素生成装置
7 負荷側機器
9 表示機器
11 第1実施例に係る内燃機関エンジン
12 第2実施例に係る内燃機関エンジン
13 発電機
15 電力変換器
17 ECU
19 水素供給装置
21 集合排気管
23 排気浄化触媒
25 空燃比センサ
27 排気温度センサ
29 酸素濃度センサ
31 情報取得部
33 劣化診断部
35 管理部
37 制御部
GM エンジン発電モジュール(エンジン発電機)
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9