(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165940
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】推定システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20241121BHJP
G05B 19/418 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
G06Q50/04
G05B19/418 Z
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082544
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栢下 洋一
【テーマコード(参考)】
3C100
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C100AA22
3C100AA29
3C100AA38
3C100AA58
3C100BB02
3C100BB03
3C100BB05
3C100BB13
3C100BB17
5L049AA16
5L049AA20
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】不良品の作り込みによるロスコストの低減や不良品回収による損失リスクを軽減させ得る推定システム及び方法を提案する。
【解決手段】複数の製造拠点で製品の製造に使用する原材料の疑義が発覚した場合の影響範囲を推定し、及び又は、製品の不具合が発覚した場合の原材料を推定する推定システムにおいて、各製造拠点でそれぞれ行われた各工程の現場データを収集し、収集した現場データに基づいて、製造拠点で行われる各工程をそれぞれモデル化した第1のデータモデルを定義すると共に、工程ごとの第1のデータモデルを製品の製造工程順に順次関連付けるようにして、製品の製造工程をモデル化した第2のデータモデルを定義し、疑義が発覚した原材料の情報に基づき、第2のデータモデルを利用して、当該原材料を使用して製造された製品の範囲と推定し、又は、不具合が発覚した製品の原材料を推定するようにした。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の製造拠点で製品の製造に使用する原材料の疑義が発覚した場合の影響範囲を推定し、及び又は、製品の不具合が発覚した場合の原材料を推定する推定システムにおいて、
各前記製造拠点でそれぞれ行われた各工程の現場データを収集するデータ取集部と、
収集された前記現場データに基づいて、前記製造拠点で行われる各前記工程をそれぞれモデル化した第1のデータモデルを定義すると共に、前記工程ごとの前記第1のデータモデルを前記製品の製造工程順に順次関連付けるようにして、前記製品の製造工程をモデル化した第2のデータモデルを定義するデータモデル定義部と、
疑義が発覚した前記原材料の情報に基づき、前記第2のデータモデルを利用して、当該原材料を使用して製造された前記製品の範囲と推定し、又は、不具合が発覚した前記製品の原材料を推定するデータアクセス制御部と
を備えることを特徴とする推定システム。
【請求項2】
前記データモデル定義部は、
複数の前記製造拠点で共通して前記現場データが管理された各前記工程の前記第1のデータモデルを前記製品の製造工程順に順次関連付け、各前記工程にそれぞれ各前記製造拠点の前記現場データを纏めて紐付けるようにして、前記製品の製造工程をモデル化した第2のデータモデルを定義する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定システム。
【請求項3】
前記データモデル定義部は、
複数の前記製造拠点で共通して前記現場データが管理された各前記工程以外の前記工程の前記現場データを管理している前記製造拠点については、当該製造拠点で前記現場データが管理された各前記工程をそれぞれモデル化した前記第1のデータモデルを製造工程順に順次関連付け、各前記工程にそれぞれ当該製造拠点の前記現場データを紐付けるようにして前記第2のデータモデルを定義する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定システム。
【請求項4】
前記データアクセス制御部は、
不具合が発覚した前記製品の情報に基づき、前記第2のデータモデルを製造工程の流れとは逆方向にトレースするようにして、当該製品の原材料を推定する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の推定システム。
【請求項5】
前記データアクセス制御部は、
疑義が発覚した前記原材料の情報に基づき、前記第2のデータモデルを製造工程の流れに沿った方向にトレースするようにして、当該原材料を使用して製造された前記製品の範囲を推定する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の推定システム。
【請求項6】
前記データモデル定義部は、
前序工程の完成品及び当該完成品のロットと、後続工程の入力部品及び当該入力部品のロットが一致するように前記第1のデータモデルを前記製品の製造工程順に順次関連付けるようにして前記第2のデータモデルを定義する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定システム。
【請求項7】
前記データアクセス制御部により推定された、疑義が発覚した前記原材料の影響範囲、又は、不具合が発覚した前記製品の前記原材料を表示する表示部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の推定システム。
【請求項8】
複数の製造拠点で製品の製造に使用する原材料の疑義が発覚した場合の影響範囲を推定し、及び又は、製品の不具合が発覚した場合の原材料を推定する推定システムにおいて実行される推定方法であって、
各前記製造拠点でそれぞれ行われた各工程の現場データを収集する第1のステップと、
収集した前記現場データに基づいて、前記製造拠点で行われる各前記工程をそれぞれモデル化した第1のデータモデルを定義すると共に、前記工程ごとの前記第1のデータモデルを前記製品の製造工程順に順次関連付けるようにして、前記製品の製造工程をモデル化した第2のデータモデルを定義する第2のステップと、
疑義が発覚した前記原材料の情報に基づき、前記第2のデータモデルを利用して、当該原材料を使用して製造された前記製品の範囲と推定し、又は、不具合が発覚した前記製品の原材料を推定する第3のステップと
を備えることを特徴とする推定方法。
【請求項9】
前記第2のステップにおいて、前記推定システムは、
複数の前記製造拠点で共通して前記現場データが管理された各前記工程の前記第1のデータモデルを前記製品の製造工程順に順次関連付け、各前記工程にそれぞれ各前記製造拠点の前記現場データを纏めて紐付けるようにして、前記製品の製造工程をモデル化した第2のデータモデルを定義する
ことを特徴とする請求項8に記載の推定方法。
【請求項10】
前記第2のステップにおいて、前記推定システムは、
複数の前記製造拠点で共通して前記現場データが管理された各前記工程以外の前記工程の前記現場データを管理している前記製造拠点については、当該製造拠点で前記現場データが管理された各前記工程をそれぞれモデル化した前記第1のデータモデルを製造工程順に順次関連付け、各前記工程にそれぞれ当該製造拠点の前記現場データを紐付けるようにして前記第2のデータモデルを定義する
ことを特徴とする請求項8に記載の推定方法。
【請求項11】
前記第3のステップにおいて、前記推定システムは、
不具合が発覚した前記製品の情報に基づき、前記第2のデータモデルを製造工程の流れとは逆方向にトレースするようにして、当該製品の原材料を推定する
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の推定方法。
【請求項12】
前記第3のステップにおいて、前記推定システムは、
疑義が発覚した前記原材料の情報に基づき、前記第2のデータモデルを製造工程の流れに沿った方向にトレースするようにして、当該原材料を使用して製造された前記製品の範囲を推定する
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の推定方法。
【請求項13】
前記第2のステップにおいて、前記推定システムは、
前序工程の完成品及び当該完成品のロットと、後続工程の入力部品及び当該入力部品のロットが一致するように前記第1のデータモデルを前記製品の製造工程順に順次関連付けるようにして前記第2のデータモデルを定義する
ことを特徴とする請求項8に記載の推定方法。
【請求項14】
前記第3のステップで推定した、疑義が発覚した前記原材料の影響範囲、又は、不具合が発覚した前記製品の前記原材料を表示する第4のステップをさらに備える
ことを特徴とする請求項8に記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は推定システム及び方法に関し、例えば、複数拠点を跨ぐ製造工程をトレースして不具合が発覚した原材料の影響範囲を推定したり、不具合が発覚した製品の原材料を推定する推定システムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
製品に不良品が発生した場合、その製造工程をトレースして原因を究明し、その原因の影響範囲を調査するなどの迅速な対応が重要となる。しかしながら、各所への問合せが必要であったり、情報が散在しているなどの理由から、製造工程をトレースして原因を究明したり、その原因の影響範囲を調査する際の負担が大きい。
【0003】
この点について、例えば特許文献1には、製品出荷までの製造工程における実績情報の紐付けと、紐付け内容を示すとレージ情報とを登録することで、ユーザ負担を軽減したトレースを行い得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1では、複数の製造拠点を跨ぐケースにおけるトレースに関しては考慮されていない。原材料に疑義が発覚した際、その原材料(以下、これを疑義原材料と呼ぶ)が複数の製造拠点で調達されているケースがあるため、疑義原材料を使用して製造された製品の範囲(疑義原材料の影響範囲)を特定する際は、複数の製造拠点を跨いだトレースを行わなければならない場合がある。
【0006】
複数の製造拠点を跨いだトレースを行うためには、各製造拠点における情報管理の粒度(以下、情報管理レベルと呼ぶ)を揃えることが理想であるが、すべての製造拠点において情報管理レベルを揃えることは難しいと想定される。
【0007】
このため、各製造拠点における情報管理レベルが異なる場合においても、疑義が発覚した原材料の影響範囲を迅速に把握可能な方法の実現が望まれており、このような方法が実現できれば、不良品の作り込みによるロスコストの低減や不良品回収による損失リスクを軽減させ得るものと考えられる。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、不良品の作り込みによるロスコストの低減や不良品回収による損失リスクを軽減させ得る推定システム及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明においては、複数の製造拠点で製品の製造に使用する原材料の疑義が発覚した場合の影響範囲を推定し、及び又は、製品の不具合が発覚した場合の原材料を推定する推定システムにおいて、各前記製造拠点でそれぞれ行われた各工程の現場データを収集するデータ取集部と、収集された前記現場データに基づいて、前記製造拠点で行われる各前記工程をそれぞれモデル化した第1のデータモデルを定義すると共に、前記工程ごとの前記第1のデータモデルを前記製品の製造工程順に順次関連付けるようにして、前記製品の製造工程をモデル化した第2のデータモデルを定義するデータモデル定義部と、疑義が発覚した前記原材料の情報に基づき、前記第2のデータモデルを利用して、当該原材料を使用して製造された前記製品の範囲と推定し、又は、不具合が発覚した前記製品の原材料を推定するデータアクセス制御部とを設けるようにした。
【0010】
また本発明においては、複数の製造拠点で製品の製造に使用する原材料の疑義が発覚した場合の影響範囲を推定し、及び又は、製品の不具合が発覚した場合の原材料を推定する推定システムにおいて実行される推定方法であって、各前記製造拠点でそれぞれ行われた各工程の現場データを収集する第1のステップと、収集した前記現場データに基づいて、前記製造拠点で行われる各前記工程をそれぞれモデル化した第1のデータモデルを定義すると共に、前記工程ごとの前記第1のデータモデルを前記製品の製造工程順に順次関連付けるようにして、前記製品の製造工程をモデル化した第2のデータモデルを定義する第2のステップと、疑義が発覚した前記原材料の情報に基づき、前記第2のデータモデルを利用して、当該原材料を使用して製造された前記製品の範囲と推定し、又は、不具合が発覚した前記製品の原材料を推定する第3のステップとを設けるようにした。
【0011】
本発明の推定システム及び方法によれば、疑義が発覚した原材料の影響範囲や、不具合が発生した製品の原材料を迅速に推定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不良品の作り込みによるロスコストの低減や不良品回収による損失リスクを軽減させ得る推定システム及び方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(A)は業務データモデルの説明に供する概念図であり、(B)は統合データモデルの説明に供する概念図である。
【
図2】(A)及び(B)は、全工場共通データモデル及び個別工場データモデルの説明に供する概念図である。
【
図3】本実施の形態による推定システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】トランザクションデータの構成例を示す図表である。
【
図6B】全工場共通データモデルにおける各工程の統合4M情報の紐付けの様子を概念的に示す概念図である。
【
図7B】個別工場データモデルにおける各工程の4M情報の紐付けの様子を概念的に示す概念図である。
【
図8】トレースフォワード処理の説明に供する概念図である。
【
図9】トレースバック処理の説明に供する概念図である。
【
図10A】全工場共通データモデルについての第1の条件設定・結果表示画面の表示例を示す図である。
【
図10B】個別工場データモデルについての第1の条件設定・結果表示画面の表示例を示す図である。
【
図11】第2の条件設定・結果表示画面の画面構成例を示す図である。
【
図12】トレースフォワード処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】トレースバック処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0015】
(1)本実施の形態におけるデータモデル
すべての生産活動は、
図1(A)に示すように、その業務の内容に関する情報(以下、これを業務情報と呼ぶ)と、その業務に投入される部品(material)及びその業務の結果として生み出された完成品(material)に関する各情報と、その業務を行った作業者(Man)及び機械(Machine)に関する各情報と、その業務の作業手順(Method)に関する情報とによって定義することができる。
【0016】
以下においては、
図1(A)のデータモデルを業務データモデル1と呼び、業務、部品、完成品、作業者、機械及び作業手順にそれぞれ対応するノードをそれぞれ業務ノード1B、部品ノード1A、完成品ノード1C、作業者ノード1D、機械ノード1E及び作業手順ノード1Fと呼ぶものとする。
【0017】
また以下においては、業務に関する情報を業務情報と呼び、部品、完成品、作業者、機械及び作業手順に関する情報をまとめて、これら部品、完成品、作業者、機械及び作業手順の英語表記の頭文字である「M」をとって4M情報と呼ぶものとする。
【0018】
従って、各業務は、業務ノード1Bに業務情報をマッピングすると共に、部品ノード1A、完成品ノード1C、作業者ノード1D、機械ノード1E及び作業手順ノード1Fにそれぞれ実際の現場で取得した4M情報のデータ(以下、これを現場データと呼ぶ)をマッピングした
図1(A)のような業務データモデル1として表現することができる。
【0019】
また工場などの製品の製造現場では、前序工程の出力部品が後続工程の入力部品であることに着目すれば、原材料の受け入れから製品の製造及び出荷までの一連の製造工程も、実施される工程順に個々の工程の業務データモデル1を関連付けた
図1(B)に示すような一連のデータモデル(以下、これを統合データモデルと呼ぶ)2として表現することができる。
【0020】
従って、このような原材料の受け入れから製品の出荷までの一連の製造工程を表す統合データモデル2に個々の工程の現場データをマッピングすることによって、原材料から製品の出荷までの製造工程を1つの統合データモデル2として定義することができる。
【0021】
また複数の工場で同一の原材料を使用して同一の製品を作成する場合、その製造工程を表す統合データモデル2の個々の工程に対して、各工場におけるその工程の4M情報をまとめて関連付けることにより、複数の工場における原材料から製品の出荷までの一連の製造工程を1つの統合データモデル2によって表現することができる。なお、ここでの「同一の原材料」とは、同一種類の原材料という程度の意味であり、「同一の製品」とは、同じ製品品目を意味する。以下においても同様である。
【0022】
そして、このように同一の原材料を用いて同一の製品を製造する各工場における一連の製造工程を1つの統合データモデル2で表現することによって、各工場の実績管理を容易化することができる。
【0023】
また、例えば、ある原材料のあるロットの不具合が発覚した場合などに、その原材料(疑義原材料)のそのロット(以下、これを疑義ロットと呼ぶ)を起点としてかかる統合データモデル2を製造工程の流れに沿ってトレース(以下、これをトレースフォワード処理と呼ぶ)することによって、その疑義原材料のその疑義ロットを使用して各工場で製造され又は製造過程にある製品の所在や状況を一括して検出することができ、これにより疑義原材料の疑義ロットの影響範囲を迅速に特定することができる。
【0024】
さらに、製品の不具合が発覚したときにも、かかる統合データモデル2を製品を起点として製造過程とは逆方向にトレース(以下、これをトレースバック処理と呼ぶ)することで、不具合の原因となったかもしれない原材料及びそのロットを特定することができる。加えて、その原材料のそのロットを調査した結果、その原材料のそのロットに不具合があることが確認できた場合には、その原材料のそのロットを起点として当該統合データモデル2を製造工程の流れに沿ってトレース(トレースフォワード処理)していくことによって、どの工場で製造されたどの製品に不具合が生じている可能性があるかといった、かかる原材料の不具合の影響範囲を迅速に推定することもできる。
【0025】
ただし、複数の工場で同一の原材料を用いて同一の製品を製造する場合、各工場における情報管理レベルが異なることがある。例えば、一部の工場A1,A2,……では、製品を製造して出荷するまでの工程を
図2(A)に示すような「工程1」~「工程4」の4つの工程の現場データで管理しているのに対し、同一の原材料を用いて同一の製品を製造する他の工場B,C,……では、製品を製造してから出荷するまでの工程を
図2(B)に示すような「工程1」~「工程6」の6つの工程の現場データで管理(
図2(B)の工場Bの場合)していたり、「工程1」~「工程5」の5つの工程の現場データで管理(
図2(B)の工場Cの場合)している場合がある。
【0026】
なお
図2(A)は、製品を製造して出荷するまでの工程を、原材料等の部品を受け入れる「工程1」と、その部品を用いて完成品(製品)を製造する「工程2」との2つの工程の現場データで管理し、製造した完成品を出荷するまでの工程を、完成品を所定個数ずつパレットに積み付ける「工程3」と、パレット単位で完成品を出荷する「工程4」との2つの工程の現場データで管理している例である。
【0027】
また
図2(B)の上段は、製品を製造して出荷するまでの工程を、原材料等の部品を受け入れる「工程1」と、その部品を用いて完成品を製造する「工程2」と、製造した完成品を個別に包装(個装)する「工程3」との3つの工程の現場データで管理し、完成品を出荷するまでの工程を、完成品を所定個数ずつケースに入れる「工程4」と、そのケースを所定個数ずつパレットに積み付ける「工程5」と、パレット単位で完成品を出荷する「工程6」との3つの工程の現場データで管理している例である。
【0028】
さらに
図2(B)の下段は、製品を製造して出荷するまでの工程を、原材料等の部品を受け入れる「工程1」と、その部品を用いて完成品を製造する「工程2」と、製造した完成品を個別に包装(個装)する「工程3」との3つの工程の現場データで管理し、完成品を出荷するまでの工程を、完成品(個装されているかいないかを問わない)を所定個数ずつパレットに積み付ける「工程4」と、パレット単位で完成品を出荷する「工程5」との2つの工程の現場データで管理している例である。
【0029】
このような場合、工場A1,A2,……と、工場Bや工場Cとにおける「工程1」、「工程2」、……の内容が異なるため、全工場で共通する
図2(A)のような統合データモデル2を作成することはできない。そして、全工場で共通する統合データモデル2を作成できなければ、かかる統合データモデル2を作成することにより得られる上述のメリットを享受することができない。
【0030】
そこで、本実施の形態においては、このように一部の工場の情報管理レベルが他の工場と異なる場合には、全工場で共通して現場データを管理している工程(以下、これを全工場で共通する工程と呼ぶ)のみを集めた統合データモデル2(以下、これを全工場共通データモデルと呼ぶ)を作成する。なお、ここでは、工場A1,A2,……と、工場B及び工場Cと以外の工場も工場A1,A2,……の「工程1」~「工程4」と同じ工程を有するものとする。
【0031】
例えば、
図2(A)及び
図2(B)の例では、工場A1,A2,……の「工程1」、「工程2」、「工程3」及び「工程4」は、それぞれ工場Bの「工程1」、「工程2」、「工程5」又は「工程6」とそれぞれ同じ内容の工程であり、工場Cの「工程1」、「工程2」、「工程4」及び「工程5」とそれぞれ同じ内容の工程であるため、これら工場A1,A2,……と、工場B及び工場Cとのすべてに共通する工場Aの「工程1」、「工程2」、「工程3」及び「工程4」のみからなる
図2(A)のような全工場共通データモデルを作成する。
【0032】
また、全工場で共通する工程以外の工程の現場データを管理しより細かい情報粒度を保有する工場B,工場C、……については、その工場Bの各工程(「工程1」~「工程6」)からなる
図2(B)の上段に示すようなその工場Bに専用の統合データモデル2(以下、これを個別工場データモデルと呼ぶ)を作成する。また工場Cについても、その工場Cの各工程(「工程1」~「工程5」)からなる
図2(B)の下段に示すようなその工場Cに専用の個別工場データモデルを作成する。
【0033】
そして、ある原材料のあるロットの不具合が発覚し、その影響範囲を特定する際には、情報管理レベルが全工場共通データモデルと同じ工場(つまり全工場共通データモデルを構成する各工程と同じ工程の現場データのみを管理している工場)については、全工場共通データモデルを利用して、情報管理レベルが全工場共通データモデルと同じ各工場におけるその原材料の影響範囲を推定する。
【0034】
また情報管理レベルが全工場共通データモデルと異なる工場(つまり全工場共通データモデルを構成する各工程とは異なる工程の現場データをも管理している工場)については、その工場の個別工場データモデルを用いてその工場における原材料の影響範囲を推定する。
【0035】
そして、情報管理レベルが全工場共通データモデルと同じ各工場について推定したその原材料の影響範囲と、情報管理レベルが全工場共通データモデルと異なる各工場について推定したその原材料の影響範囲とを合わせることにより、複数の工場全体での不具合のある原材料のロットの影響範囲を推定することができる。
【0036】
このようにすることによって、すべての工場の個別工場データモデルをそれぞれ作成する場合と比べて、より容易かつ迅速に原材料の不具合の影響範囲の推定を行うことができる。
【0037】
以下、同一の原材料を用いて同一の製品を製造する複数の工場における製品の製造工程を上述のような全工場共通データモデルや個別工場データモデルを定義して管理し、原材料や製品の不具合が発覚した場合に、これらの全工場共通データモデルや個別工場データモデルを用いてその影響範囲を推定してユーザに提示し得るようになされた本実施の形態の推定システムについて説明する。
【0038】
(2)本実施の形態による推定システムの構成
図3において、10は全体として本実施の形態による推定システムを示す。この推定システム10は、同一の原材料を用いて同一の製品を製造する複数の工場にそれぞれ設置された製造システム・設備11と、各工場を統括管理する本社などに設置された統括管理装置12と、データ抽出装置13、クライアント14及び推定装置15とを備えて構成される。
【0039】
なお、統括管理装置12及びデータ抽出装置13間の通信や、データ抽出装置13及び推定装置15間の通信、及び、クライアント14及び推定装置15間の通信は、有線・無線を問わず一般的な公衆回線網、例えば「多数同時接続」及び「超低遅延」を可能とした第5世代移動通信システム(いわゆる5G(5th Generation))を用いることができる。さらに5G以降の新しい携帯電話システムの特徴を活かすことで、以下に説明する本実施の形態による効果の向上も期待できる。
【0040】
製造システム・設備11は、作業員の作業ログを取得するバーコードリーダや、作業ログを収集するコンピュータ装置又はサーバ装置や、部品の加工又は完成品の組み立てを行う機械や、部品又は完成品(製品)に付されたRFID(Radio Frequency IDentifier)の検査情報を収集するセンサなどから構成される。
【0041】
また統括管理装置12は、汎用のコンピュータ装置から構成され、予め登録された、各工場で製造される製品の品目、名称及びその原材料などの情報を共通管理マスタ情報16として保持する。また統括管理装置12は、各工場の製造システム・設備11からそれぞれ出力された各種情報を収集し、収集したこれらの情報と、予め与えられた各工場における製品の製造計画等の情報となどを共通システム情報17として保持する。
【0042】
データ抽出装置13は、例えば汎用のサーバ装置などから構成される。データ抽出装置13は、統括管理装置12が保持する共通管理マスタ情報16を定期的(例えば、数時間や1日又は数日周期)に読み出し、読み出した共通管理マスタ情報16を推定装置15に送信する。この共通管理マスタ情報16は、推定装置15に搭載されたハードディスク装置やSSD(Solid State Drive)などの大容量の不揮発性の記憶装置から構成されるマスタデータ蓄積部に
図4に示すようなマスタデータ19として蓄積される。
【0043】
またデータ抽出装置13は、統括管理装置12が保持及び管理する共通システム情報17の中から各工場でそれぞれ行われた各工程の業務情報及び4M情報を定期的(例えば、共通管理マスタ情報16を読み出す周期と同じ周期)に抽出し、抽出したこれら各工場における各工程の業務情報や4M情報を推定装置15に送信する。この業務情報及び4M情報は、推定装置に搭載されたハードディスク装置やSSDなどの大容量の記憶装置から構成されるトランザクションデータ蓄積部20に
図5に示すようなトランザクションデータ21として蓄積される。
【0044】
クライアント14は、ユーザが使用するコンピュータ装置である。ユーザは、所定操作により
図10A及び
図10Bについて後述する第1の条件設定・結果表示画面30や、
図11について後述する第2の条件設定・結果表示画面50をクライアント14に表示させることができる。そしてユーザは、これら第1及び第2の条件設定・結果表示画面30,50を用いて、原材料の不具合が発覚した場合におけるその原材料の影響範囲をトレースフォワード処理により推定したり、製品の不具合が発覚した場合におけるその製品の原材料をトレースバック処理により推定する際の条件(以下、これを探索条件と呼ぶ)を設定することができる。
【0045】
推定装置15は、例えばCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、半導体メモリなどの不揮発性のメモリと、ハードディスク装置やSSDなどの大容量の不揮発性の記憶装置となどの物理的なデバイスを備えた汎用のコンピュータ装置から構成される。
【0046】
この推定装置15は、
図3に示すように、論理的にデータモデル定義部22、データアクセス制御部23及び表示部24を備えて構成される。これらデータモデル定義部22、データアクセス制御部23及び表示部24は、上述のメモリや記憶装置に格納された対応するプログラムを上述のプロセッサが実行することにより具現化される。
【0047】
データモデル定義部22は、マスタデータ蓄積部18に蓄積されたマスタデータ19(
図4)と、トランザクションデータ蓄積部20に蓄積されたトランザクションデータ21(
図5)とを用いて、
図2(B)について上述した全工場共通データモデルと、必要な工場の個別工場データモデルとをそれぞれ定義する機能を有する機能部である。
【0048】
実際上、データモデル定義部22は、マスタデータ蓄積部18に蓄積されたマスタデータ19と、トランザクションデータ蓄積部20に蓄積されたトランザクションデータ21とに基づいて、まず、すべての工場で共通して現場データが管理されている工程をすべて抽出し、抽出した各工程の
図1(A)について上述した業務データモデル1をそれぞれ定義する。この場合における業務データモデル1の定義方法としては、特開2019-153051号公報に開示された方法を適用することができる。
【0049】
なお、このとき業務データモデル1にマッピングする4M情報は、必ずしも部品、完成品、作業者、機械及び作業手順の各情報をすべて含む必要はなく、取得可能な情報のみを対応する部品ノード1A、完成品ノード1C、作業者ノード1D、機械ノード1E及び作業手順ノード1Fにそれぞれマッピングすればよい。
【0050】
そしてデータモデル定義部22は、定義した個々の工程の業務データモデル1を工程順に順次関連付けるようにして全工場共通データモデルを定義する。このような全工場共通データモデルの定義は、現場データが管理されているすべての工程が全工場で共通する工程のみからなる工場を特定し、その工場の各工程の業務データモデル1を、前序工程の完成品が後続工程の入力部品であることに着目しながら、前序工程の完成品及びそのロット番号と、後続工程の入力部品及びそのロット番号とが順次一致するようにロット単位で工程順に順次関連付けることにより行うことができる。
【0051】
この際、データモデル定義部22は、全工場共通データモデルの工程ごとに、各工場におけるその工程の4M情報(トランザクションデータ蓄積部20から抽出された対応するトランザクションデータ21)を、
図6Aのように1つに纏めた統合4M情報25Aとしてその工程に紐付ける(マッピングする)。
【0052】
なお、
図6Aは、理解の容易化のため、原材料を製造設備に投入する工程(
図2(A)の「工程2」や、
図2(B)の「工程2」)に関連付ける統合4M情報25Aのうちの特に
図1(A)の部品ノード1Aに関する情報のみを簡略的に表記したものである。従って、実際にはこの工程に対して、部品ノード1Aに関する情報以外にも、各工場のその工程における
図1(A)の完成品ノード1C、作業者ノード1D、機械ノード1E及び作業手順ノード1Fに関する各情報もそれぞれ統合4M情報25Aの一部として纏めてその工程に紐付けられることになる。
【0053】
そして、このように全工場共通データモデルの工程ごとに統合4M情報25Aを紐付けることによって、
図6Bに示すように、各工程の統合4M情報25Aが紐付けられる。これにより、例えば、あるロットの原材料を用いて作成された製品の現在位置(例えば、積み付けられたパレットのパレット番号)や、その製品の製造日時及び生産量などの情報も容易に検索することができる。
【0054】
またデータモデル定義部22は、全工場で共通して現場データを管理している工程以外の工程の現場データを管理している工場については、その工場の工程ごとに、その工程の
図7のような4M情報25Bを紐付けるようにして業務データモデル1をそれぞれ定義する。
【0055】
この
図7Aも
図6Aと同様に、理解の容易のため、原材料を製造設備に投入する工程(
図2(A)の「工程2」や、
図2(B)の「工程2」)に紐付ける4M情報25Bのうちの特に
図1(A)の部品ノード1Aに関する情報のみを簡略的に表記したものである。従って、実際にはこの工程に対して、部品ノード1Aに関する情報以外にも、各工場のその工程における
図1(A)の完成品ノード1C、作業者ノード1D、機械ノード1E及び作業手順ノード1Fに関する各情報もそれぞれ4M情報25Bの一部として纏めてその工程に紐付けられることになる。
【0056】
そして、このように個別工場データモデルの工程ごとに4M情報25Bを紐付けることによって、
図7Bに示すように、原材料を製造設備に投入する工程の「部品」の情報からその時点までに完了している工程の「完成品」の情報の情報までが紐付けられる。これにより、あるロットの原材料を用いて作成された各製品のシリアル番号や、その製品が収納されたケースのケース番号及びその製品が積み付けられたパレットのパレット番号といった、その製品に関するより詳細な情報を容易に検索することができる。
【0057】
そしてデータモデル定義部22は、定義したこれらの業務データモデル1を、前序工程の出力部品が後続工程の入力部品であることに着目しながら、前序工程の完成品及びそのロットと、後続工程の入力部品及びそのロットとが一致するように工程順に順次関連付けることにより、その工場の個別工場データモデルを定義する。
【0058】
そしてデータモデル定義部22は、このようにして定義した全工場共通データモデルと、個別工場データモデルとを、ハードディスク装置やSSDなどの大容量の不揮発性の記憶装置からなるデータモデル蓄積部26に格納する。
【0059】
表示部24は、クライアント14からの要求に応じて後述の第1の条件設定・結果表示画面30(
図10A及び
図10B)の画面データや、第2の条件設定・結果表示画面50(
図11)の画面データをクライアント14に送信する機能を有する機能部である。これらの画面データに基づいて、そのクライアント14にその第1又は第2の条件設定・結果表示画面30,50が表示される。
【0060】
また表示部24は、これら第1及び第2の条件設定・結果表示画面30,50上でユーザが指定した探索条件を取得してデータアクセス制御部23に引き渡したり、この探索条件に基づいて後述のようにデータアクセス制御部23が推定した不具合を有する原材料の影響範囲や、不具合が発覚した製品の原材料のロットの推定結果をクライアント14に送信する機能も有する。これにより、かかる推定結果がクライアント14に表示された第1及び第2の条件設定・結果表示画面30,50上に表示される。
【0061】
なお、原材料の不具合が発覚した場合の影響範囲を推定する際の「探索条件」は、その原材料(疑義原材料)の原材料コード又は原材料名称などの識別情報と、その疑義原材料における不具合が発覚したロット(以下、これを疑義ロットと呼ぶ)のロット番号である。
【0062】
また製品の不具合が発覚した場合において、その原材料におけるその製品を製造する際に使用したロットを推定する際の「探索条件」は、その製品の個装に印字された製品品目、製造日、製造時刻、製造工場識別記号及び又はシリアル番号などのその製品を特定可能な情報である。
【0063】
データアクセス制御部23は、表示部24から探索条件が与えられた場合に、その探索条件と、データモデル蓄積部26に蓄積された全工場共通データモデルや個別工場データモデルとを用いて不具合が発覚した全工場から見た疑義原材料の影響範囲や、不具合が発覚した製品の原材料のロットを推定し、その推定結果を表示部24を介してクライアント14に送信する機能を有する機能部である。
【0064】
実際上、データアクセス制御部23は、不具合が発覚した原材料(疑義原材料)の影響範囲を推定する場合には、探索条件として指定された識別情報及びロット番号の疑義原材料を起点として、
図8に示すように、全工場共通データモデル(
図8上段)や個別工場データモデル(
図8下段)を製品の製造工程に沿ってそれぞれ探索し、その疑義原材料を用いて製造され又は製造途中にある各製品の所在や状況を推定する(トレースフォワード処理)。
【0065】
またデータアクセス制御部23は、製品の不具合が発覚した場合において、その原材料のロットを推定する場合には、まず、探索条件として指定されたその製品のシリアル番号等のその製品を特定可能な情報に基づいて、その製品を起点として、
図9に示すように、その製品を製造した工場に対応する統合データモデル2(全工場共通データモデル又は個別工場データモデル)を製品の製造工程とは逆方向にトレースすることにより原材料及びそのロットを推定する(トレースバック処理)。
【0066】
(3)条件設定・結果表示画面の構成
図10Aは、所定操作によりクライアント14に表示させ得る第1の条件設定・結果表示画面30の画面構成を示す。この第1の条件設定・結果表示画面30は、原材料の不具合が発覚した場合に、トレースフォワード処理によってその影響範囲を推定装置15に推定させる際の探索条件をユーザが設定したり、その推定結果が表示される画面である。なお、
図10Aは、
図6Aについて上述した全工場共通データモデルについて表示される第1の条件設定・結果表示画面30の表示例である。
【0067】
この第1の条件設定・結果表示画面30は、探索条件設定領域31、工程指定領域32及び推定結果表示領域33と、戻るボタン34とを備えて構成される。
【0068】
探索条件設定領域31は、かかる探索条件を設定するための領域であり、原材料コード設定テキストボックス40、原材料名設定テキストボックス41、ロット番号設定テキストボックス42と、期間開始日設定テキストボックス43及び期間終了日設定テキストボックス44とを備える。
【0069】
そして探索条件設定領域31では、不具合が発覚した原材料(疑義原材料)の原材料コードを原材料コード設定テキストボックス40に入力し又は疑義原材料の名称を原材料名設定テキストボックス41に入力すると共に、その疑義原材料における不具合のあるロット(疑義ロット)のロット番号をロット番号設定テキストボックス42に入力することにより、その疑義原材料の識別情報と、疑義ロットのロット番号とを探索条件として設定することができる。
【0070】
また探索条件設定領域31では、さらに所望する期間の開始日を期間開始日設定テキストボックス43に入力すると共に、その期間の終了日を期間終了日設定テキストボックス44に入力することにより、疑義原材料の疑義ロットを用いて製造された製品の製造日の範囲をも探索条件として設定することもできる。
【0071】
また工程指定領域32には、探索条件設定領域31に対応させて表示された原材料マーク45と、全工場共通データモデルにおける各工程にそれぞれ対応させた工程ボタン46とが縦方向に並べて表示される。この場合、各工程ボタン46は、製品を製造する過程で行われる対応する工程の順番に並べて表示される。
【0072】
そして第1の条件設定・結果表示画面30では、工程指定領域32に表示された工程ボタン46のうちの所望する工程に対応する工程ボタン46をクリックすることにより、推定すべき疑義原材料の影響範囲として、その工程までの影響範囲を指定することができる。
【0073】
以下においては、このようにして指定された工程を指定工程と呼ぶものとする。なお全工場共通データモデルにおける各工程と、個別工場データモデルにおける各工程とは必ずしも業務内容が一致しない。従って、個別個別工場データモデルにおける「指定工程」は、全工場共通データモデルにおける指定工程と業務内容が同じ工程である。
【0074】
さらに推定結果表示領域33には、探索条件設定領域31で設定された探索条件の下に全工場共通データモデル及び各個別工場データモデルのうちの必要な統合データモデルをそれぞれ疑義原材料から指定工程までをトレースフォワードでトレースすることにより推定された、各工場で疑義原材料の疑義ロットを使用して指定工程までに製造され又は製造途中にある製品の4M情報のうちの少なくとも「部品」及び「完成品」に関する情報が推定結果表示領域33内に表形式で一覧表示される。
【0075】
図10Aは、「工程1」が原材料を受け入れる工程であるものとして、その工程における「部品」及び「完成品」の情報の一部のみを表示した場合を例示しているが、この他の4M情報を表示するようにしてもよい。また、推定結果表示領域33に推定結果として表示される情報の種類を、自由に設定できるようにしてもよい。
【0076】
また、推定結果表示領域33に表示された推定結果が格納された一覧表47には、各工場(各レコード)にそれぞれ対応させてチェックボックス48が表示される。そして、このチェックボックス48をクリックするようにしてそのチェックボックス48内にチェックマーク49を表示させることにより、指定工程以降の工程については、そのチェックマーク49を表示させたレコードに対応する工場についてのみ、疑義原材料の影響範囲を推定させるように設定することができる。
【0077】
例えば、「工程1」までの疑義原材料の影響範囲の一覧表47が推定結果表示領域33に表示されている状態において、所望する工場に対応するレコードのチェックボックス48内にチェックマーク49を表示させた場合、「工程2」の工程ボタン46をクリックすると、表示させたチェックマーク49のレコードに関連するその工場の「工程2」における疑義原材料の影響範囲の一覧表47が推定結果表示領域33に表示される。
【0078】
また、この状態で同様に疑義原材料の影響範囲の一覧表47における所望する工場に対応するレコードのチェックボックス48内にチェックマーク49を表示させた場合において、「工程3」の工程ボタン46をクリックすると、表示させたチェックマーク49のレコードに関連するその工場の「工程3」における疑義原材料の影響範囲の一覧表47が推定結果表示領域33に表示される。さらに、これ以降も同様にして、工程ごとに疑義原材料の影響範囲を絞り込みながら疑義原材料の影響範囲を特定することができる。
【0079】
なおチェックマーク49は、複数のチェックボックス48内に同時にそれぞれ表示させることができる。この場合には、指定工程以降の工程については、そのチェックマーク49を表示させた各レコードにそれぞれ対応するすべての工場について、疑義原材料の影響範囲が推定結果表示領域33の一覧表47に表示される。
【0080】
このような第1の条件設定・結果表示画面30によれば、ユーザは、指定工程を全工場共通データモデルの各工程に順番に切り替えることによって、ある工場で疑義原材料の疑義ロットを使用した製品が製造途中にある場合においても、その製品が、現在、その工場のどの工程にあるかを容易に認識することができる。
【0081】
またユーザは、指定工程を全工場共通データモデルの最後の工程(以下、これを最終工程と呼ぶ)を指定工程とすることによって、疑義原材料の疑義ロットを使用して製造された製品の工場ごとの完成品についての情報を推定結果表示領域33に表示させることができる。この場合、かかる最終工程の完成品についての情報には、その製品が積み付けられたパレットの識別情報を含むため、その製品が既に工場から出荷されている場合においても、このパレットの識別情報を利用してその製品の出荷後の行先を追跡することができる。
【0082】
なお、第1の条件設定・結果表示画面30では、戻るボタン34をクリックすることにより、クライアント14の表示画面を図示しない所定のメニュー画面に戻すことができる。
【0083】
一方、
図10Aとの対応部分に同一符号を付して示す
図10Bは、
図7Aについて上述した個別工場データモデルについて表示される第1の条件設定・結果表示画面30の表示例である。この第1の条件設定・結果表示画面30も、
図10Aについて上述した第1の条件設定・結果表示画面30と同様の構成を有する。
【0084】
ただし、この場合における第1の条件設定・結果表示画面30では、対応する工場が全工場共通データモデルに対応する工場よりも多くの工程のデータを管理しているため、工程指定領域32に表示される工程ボタン46の数が多くなる。また、この場合における第1の条件設定・結果表示画面30では、これに伴って推定結果表示領域33により詳細な内容の一覧表47が表示される。
【0085】
例えば
図10Aの例では、疑義原材料の影響範囲として最終的な製品が積み付けられたパレットのパレット番号のみが特定できるのに対して、
図10Bの例では、疑義原材料の影響範囲として最終的な製品のシリアル番号と、これらの製品が収納されたケースのケース番号と、これらのケースが積み付けられたパレットのパレット番号までが推定結果表示領域33の一覧表47内に表示される。つまり製造拠点が保有する情報粒度に応じた精度の高いトレースを実現できる。このように本推定装置15によれば、情報粒度が異なる複数の製造拠点に対して、製造拠点の情報管理レベルに応じたトレースを行うことができる。
【0086】
一方、
図11は、所定操作によりクライアント14に表示させ得る第2の条件設定・結果表示画面50の画面構成を示す。この第2の条件設定・結果表示画面50は、製品の不具合が発覚した場合に、トレースバック処理によってその原材料のロットを推定装置15に推定させる際の探索条件をユーザが設定したり、その推定結果が表示される画面である。
【0087】
この第2の条件設定・結果表示画面50は、探索条件設定領域51、原材料ボタン表示領域52及び推定結果表示領域53と、戻るボタン54とを備えて構成される。
【0088】
探索条件設定領域51は、かかる探索条件を設定するための領域であり、製品品目設定テキストボックス60、工場識別記号設定テキストボックス61、製造日設定テキストボックス62、製造時刻設定テキストボックス63及びシリアル番号設定テキストボックス64を備える。
【0089】
そして探索条件設定領域51では、不具合が発覚した製品自体やその包装などに印字された、その製品の品目、工場識別記号、製造日、製造時刻及びシリアル番号などの情報のうちの取得可能な情報を、それぞれ製品品目設定テキストボックス60、工場識別記号設定テキストボックス61、製造日設定テキストボックス62、製造時刻設定テキストボックス63又はシリアル番号設定テキストボックス64に入力することにより、これらの情報を、不具合が発覚した製品の原材料及びそのロットを探索する際の探索条件として設定することができる。
【0090】
また原材料ボタン表示領域52には、探索条件設定領域51に対応させて表示された製品マーク65と、原材料に対応させた原材料ボタン66とが縦方向に並べて表示される。
【0091】
そして第2の条件設定・結果表示画面50では、原材料ボタン表示領域52に表示された原材料ボタン66をクリックすることにより、トレースバック処理によりその製品の原材料及びそのロットを推定すべきことを推定装置15に指示することができる。
【0092】
そして、このトレースバック処理により推定されたかかる原材料の識別情報と、かかるロットのロット番号とが、推定結果表示領域53内に表示される。
【0093】
なお、第2の条件設定・結果表示画面50においても、戻るボタン54をクリックすることにより、クライアント14の表示画面を上述のメニュー画面に戻すことができる。
【0094】
(4)トレースフォワード/バック探索処理
次に、上述のトレースフォワード処理及びトレースバック処理の処理の流れについて説明する。なお、トレースフォワード処理については、上述の第1の条件設定・結果表示画面30(
図10)において、探索条件が設定された後に工程指定領域32内の全工場共通データモデルの最後の工程に対応する工程ボタン46(
図10の場合は「工程4」の工程ボタン46)がクリックされた場合の処理の流れについて説明するものとする。
【0095】
(4-1)トレースフォワード処理
図12は、データアクセス制御部23(
図3)により実行されるトレースフォワード処理の処理手順を示す。このトレースフォワード処理は、第1の条件設定・結果表示画面30(
図10)の探索条件設定領域31において探索条件が設定された後に、工程指定領域32において全工場共通データモデルの最後の工程に対応する工程ボタン46がクリックされたことがクライアント14から推定装置15の表示部24(
図3)を介してデータアクセス制御部23に通知されると開始される。
【0096】
そしてデータアクセス制御部23は、このトレースフォワード処理を開始すると、まず、クライアント14から推定装置15の表示部24を経由して与えられた、第1の条件設定・結果表示画面30上で探索条件として設定された疑義原材料の識別情報及び疑義ロットのロット番号と、期間が設定されている場合にはその期間の開始日及び終了日とを探索条件として受け付ける(S1)。
【0097】
続いて、データアクセス制御部23は、疑義原材料の疑義ロットを受け入れた工場を特定する(S2)。この特定は、データモデル蓄積部26に蓄積された全工場共通データモデル及び各個別工場データモデルのうち、原材料の受入工程にそれぞれ紐づいた4M情報の「部品」の情報の中に疑義原材料の識別情報及び疑義ロットのロット番号を含む全工場共通データモデルや個別工場データモデルを特定し、特定した全工場共通データモデルや個別工場データモデルにそれぞれ対応する工場を特定することにより行われる。
【0098】
次いで、データアクセス制御部23は、ステップS2で特定した全工場の中からステップS4以降が未処理の工場を1つ選択する(S3)。そしてデータアクセス制御部23は、選択した工場(以下、これを選択工場と呼ぶ)における疑義原材料の疑義ロットの投入実績を特定する(S4)。この特定は、選択工場の統合データモデル(全工場共通データモデル又は個別工場データモデル)における各工程の業務情報(
図1(A)の「業務」の情報)を参照して原材料を機械に投入する工程を特定し、その工程と紐付けられた統合4M情報25A又は4M情報25Bの中から、疑義原材料の識別情報と、疑義ロットのロット番号とを「部品」の情報として含む情報を特定することにより行う。
【0099】
続いて、データアクセス制御部23は、ステップS4で特定した実績を起点として選択工場の統合データモデルを製品の製造工程に沿って、ステップS4で特定した製造実績の情報と関連する製造実績を工程ごとに順番に順次特定する(S5)。
【0100】
この処理は、上述のように前序工程の出力部品が後続工程の入力部品であることに着目して行う。具体的に、データアクセス制御部23は、ステップS4で特定した実績実績(
図1(A)の「部品」の情報に該当)に対応する
図1(A)の「完成品」の情報を特定し、次の工程の統合4M情報25A又は4M情報25Bから、その「完成品」の情報を含む「部品」の情報を特定し、さらにその情報に対応する
図1(A)の「完成品」の情報を特定し、……という処理を繰り返し行う。
【0101】
そしてデータアクセス制御部23は、疑義原材料の疑義ロットを使用して製造された製品の選択工場における最終工程(以下、これを最終工程と呼ぶ)を特定し(S6)、特定した最終工程における疑義原材料の疑義ロットを使用して製造された製品に関する
図1(A)の「部品」及び「完成品」に関する情報をその工程に紐付けられた4M情報から取得する(S7)。
【0102】
この後、データアクセス制御部23は、ステップS2で特定したすべての工場についてステップS4~ステップS7の処理を実行し終えたか否かを判断する(S8)。そしてデータアクセス制御部23は、この判断で否定結果を得るとステップS3に戻り、この後、ステップS3で選択する工場をステップS4以降が未処理の他の該当工場に順次切り替えながらステップS3~ステップS8の処理を繰り返す。
【0103】
そしてデータアクセス制御部23は、この後、ステップS2で特定したすべての工場について、その工場で疑義原材料の疑義ロットを使用して製造された各製品の最終工程における
図1(A)の「部品」及び「完成品」に関する情報を取得し終えることによりステップS8で工程結果を得ると、それまでにステップS7で取得した情報を第1の条件設定・結果表示画面30(
図10)の推定結果表示領域33(
図10)に表示し、この後、このトレースフォワード処理を終了する(S9)。
【0104】
(4-2)トレースバック処理
一方、
図13は、データアクセス制御部23により実行されるトレースバック処理の処理手順を示す。このトレースバック処理は、第2の条件設定・結果表示画面50(
図11)の探索条件設定領域51において探索条件が設定された後に、原材料ボタン表示領域52内の原材料ボタン66がクリックされたことがクライアント14から推定装置15の表示部24(
図3)を介してデータアクセス制御部23に通知されると開始される。
【0105】
そしてデータアクセス制御部23は、このトレースバック処理を開始すると、まず、クライアント14から推定装置15の表示部24を経由して与えられた、第2の条件設定・結果表示画面50上で探索条件として設定された対象製品(不具合が発覚した製品)の製品品目、工場識別記号、製造日、製造時間を受け付ける(S10)。なお情報粒度の高い製造拠点の個別工場モデルの場合では、シリアル番号を受け付けることも可能である。
【0106】
続いて、データアクセス制御部23は、全工場共通データモデルの最後の工程に紐付けられた統合4M情報25A(
図6)と、各個別工場データモデルの最後の工程に紐付けられた4M情報25B(
図7)とをそれぞれ参照して、対象製品の最後の製造実績を特定する(S11)。この特定は、かかる統合4M情報及び4M情報のうちステップS10で受け付けた製品品目、工場識別記号、製造日、製造時間及び又はシリアル番号などの情報を含む
図1(A)の「完成品」の情報を特定することにより行われる。
【0107】
次いで、データアクセス制御部23は、ステップS11で特定した製造実績を有する工場を特定し、その工場と対応付けられた統合データモデル(全工場共通データモデル又は個別工場データモデル)を、ステップS11で特定した製造実績を起点として対象製品の製造工程とは逆方向に遡りながら、その製造実績と関連する工程ごとの製造実績をそれぞれ特定する(S12)。
【0108】
この処理は、後続工程の入力部品が前序工程の出力部品であることに着目して行う。具体的に、データアクセス制御部23は、ステップS11で特定した製造実績(
図1(A)の「完成品」の情報に該当)に対応する
図1(A)の「部品」の情報を特定し、1つ前の工程の統合4M情報25A又は4M情報25Bから、その「部品」の情報を含む「完成品」の情報を特定し、さらにその情報に対応する
図1(A)の「部品」の情報を特定し、……という処理を繰り返し行う。
【0109】
そしてデータアクセス制御部23は、以上の処理により最初の工程まで遡ると、その工程の「部品」の情報に基づいて対象製品の原材料及びそのロットを特定し(S13)、特定した原材料及びそのロットの情報を第2の条件設定・結果表示画面50(
図11)の推定結果表示領域53(
図11)に表示し(S14)、この後、このトレースバック処理を終了する。なお全体工場データモデルの工場の場合は製造日時等を入力してトレースするため疑義範囲の特定(ロット1~ロット3等)となるのに対し、個別工場データモデルの工場の場合はシリアル番号を入力としてトレースするためピンポイントで原材料及びそのロットの情報が特定される。
【0110】
(5)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態の推定システム10では、各工場で製品を製造するために実施される工程ごとに、当該工程をそれぞれモデル化した業務データモデル1をそれぞれ定義すると共に、これらの業務データモデル1を製造工程順に関連付けるようにして統合データモデル2を定義し、疑義が発覚した原材料の情報に基づいて統合データモデル2を利用して当該原材料を使用して製造された製品の範囲を推定し、又は、不具合が発覚した製品の原材料を推定する。
【0111】
従って、本推定システム10によれば、情報粒度が異なる複数の製造拠点に対して、製造拠点の情報管理レベルに応じたトレースを実現できる。疑義が発覚した原材料の影響範囲や、不具合が発生した製品の原材料を迅速に推定することができ、かくして不良品の作り込みによるロスコストの低減や不良品回収による損失リスクを軽減させることができる。
【0112】
(6)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、すべての工場で同一の原材料を使用して同一の製品を製造する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、同一の原材料を使用して異なる製品を製造するケースにおいて、原材料の不具合が発覚した場合にその影響範囲を推定する場合にも本発明を適用することができる。
【0113】
また上述の実施の形態においては、データモデル定義部22、データアクセス制御部23及び表示部24を1つのコンピュータ装置である推定装置15内に配置するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これらデータモデル定義部22、データアクセス制御部23及び表示部24を、分散型コンピューティングシステムを構成する複数のコンピュータ装置に分散して配置するようにしてもよい。
【0114】
さらに上述の実施の形態においては、推定装置15とは別個にデータ抽出装置13を設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、データ抽出装置13を同じ機能を有する機能部を推定装置15内に設け、データ抽出装置13を省略するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、複数の製造拠点で共通して製品の製造に使用する原材料の不具合が発覚した場合の影響範囲を推定し、及び又は、製品の不具合が発覚した場合の原材料を推定する種々の構成の推定システムに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0116】
1……業務データモデル、2……統合データモデル、10……推定システム、11……製造システム・設備、12……統括管理装置、13……データ抽出装置、14……クライアント、15……推定装置、16……共通管理マスタ情報、17……共通システム情報、18……マスタデータ蓄積部、19……マスタデータ、20……トランザクションデータ蓄積部、21……トランザクションデータ、22……データモデル定義部、23……データアクセス制御部、24……表示部、25A……統合4M情報、25B……4M情報、26……データモデル蓄積部、30……第1の条件設定・結果表示画面、50……第2の条件設定・結果表示画面。