(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165957
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20241121BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20241121BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20241121BHJP
G01N 30/32 20060101ALI20241121BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20241121BHJP
G01N 33/72 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
G01N35/00 E
G01N30/88 Q
G01N30/26 A
G01N30/32 A
G01N30/86 Q
G01N33/72 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082578
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出村 友裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊一
【テーマコード(参考)】
2G045
2G058
【Fターム(参考)】
2G045DA48
2G045FB06
2G058GA14
2G058GC02
2G058GC05
2G058GE02
(57)【要約】
【課題】複数の測定モードを有する分析部を用いて検体を分析する構成において、検査内容の異なる検体が混在していても、検査作業従事者の負担の増大を抑制可能な分析システムを提供する。
【解決手段】分析システムは、検体を分析する分析部であって、第一の測定モードと、前記第一の測定モードと異なる測定項目を含む第二の測定モードとを切り替え可能な前記分析部と、前記検体に設定される検査を依頼した診療科の情報に基づいて、前記分析部の前記第一の測定モードと前記第二の測定モードから測定モードを選択する管理部と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を分析する分析部であって、第一の測定モードと、前記第一の測定モードと異なる測定項目を含む第二の測定モードとを切り替え可能な前記分析部と、
前記検体に設定される検査を依頼した診療科の情報に基づいて、前記分析部の前記第一の測定モードと前記第二の測定モードから測定モードを選択する管理部と、
を有する分析システム。
【請求項2】
前記診療科の情報には、該診療科に属する医師の情報が紐づけられている、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記分析部は、液体クロマトグラフィ法により前記検体を分析する、請求項1又は請求項2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記第一の測定モードでは、前記検体中のヘモグロビンA1cを測定し、
前記第二の測定モードでは、前記検体中の変異ヘモグロビンを測定する、請求項3に記載の分析システム。
【請求項5】
前記第一の測定モードでは、前記第二の測定モードよりも溶出力の高い溶媒を用いる、請求項3に記載の分析システム。
【請求項6】
前記第一の測定モードでは、前記第二の測定モードよりも溶媒の送液スピードを速くする、請求項3に記載の分析システム。
【請求項7】
前記第一の測定モードでは、対象となる成分を検出した場合、溶媒を溶出力の高い溶媒に切り替えて測定を継続し、
前記第二の測定モードでは、対象となる成分を検出しても、溶媒を切り替えずに測定を継続する、請求項3に記載の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のヘモグロビンを分析する装置として液体クロマトグラフィ法を用いる分析装置が知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-198666号公報
【特許文献2】特開2019-60655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血液を含む検体の検査内容は、検査を依頼する診療科によって異なることが多い。そして、検体を検査する検査室には、検査内容の異なる検体が混在して届く。検査室の作業従事者は、検体の検査内容に応じて分析装置の測定モードを設定している。このように検体の検査内容に応じて測定モードを設定する場合、設定間違いが起きないよう注意を払う必要があり、作業従事者の負担が増大する傾向がある。
【0005】
本開示は、複数の測定モードを有する分析部を用いて検体を分析する構成において、検査内容の異なる検体が混在していても、検査作業従事者の負担の増大を抑制可能な分析システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様の分析システムは、
検体を分析する分析部であって、第一の測定モードと、前記第一の測定モードと異なる測定項目を含む第二の測定モードとを切り替え可能な前記分析部と、
前記検体に設定される検査を依頼した診療科の情報に基づいて、前記分析部の前記第一の測定モードと前記第二の測定モードから測定モードを選択する管理部と、
を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の分析システムによれば、複数の測定モードを有する分析部を用いて検体を分析する構成において、検査内容の異なる検体が混在していても、検査作業従事者の負担の増大を抑制可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態の分析システムの制御系の構成図である。
【
図3】液体クロマトグラフィ測定プログラムのフローチャートである。
【
図4】検体測定モード選択プログラムのフローチャートである。
【
図5】変形例の分析システムの制御系の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態の分析システムについて説明する。なお、実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
本実施形態の分析システム20は、
図2に示されるように、分析装置30と、管理装置80とを有する。
【0011】
(分析装置30)
図1には、分析装置30の概略構成が示されている。
分析装置30は、検体の成分を分析する装置である。具体的には、分析装置30は、高速液体クロマトグラフィ(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)を利用して、血液中のHbA1cの濃度を測定する装置である。なお、分析装置30は、本開示の分析部の一例である。また本開示の分析部は、検体(生体試料)の他の成分分析を行う分析装置であってもよい。
【0012】
図1に示されるように、分析装置30は、一例として、複数の溶離液ボトル32A、32B、32C、32D、32E(
図1では5個)を備える。
【0013】
各溶離液ボトル32A、32B、32C、32D、32Eは、後述する分析カラム44に供給すべき溶離液A、B、C、D、Eを各々保持したボトルである。各溶離液は、用途に応じて例えば組成、成分比、pH、浸透圧等が異なる。
【0014】
また、分析装置30は、一例として、試料調製ユニット34と、分析ユニット36と、測光ユニット38とを備える。
【0015】
試料調製ユニット34は、採血管100から採取した血液試料102から、分析カラム44に導入する試料を調製する機能を有するユニットである。この試料調製ユニット34は、例えば、ノズル40と、希釈槽42とを備える。ノズル40は採血管100から血液試料102をはじめとする各種の液体を採取するためのものである。希釈槽42は、血液試料102を希釈するための槽であり、ノズル40によって採取された血液試料102が供給される。
【0016】
分析ユニット36は、分析カラム44の充填剤に対する生体成分の吸着・脱着をコントロールし、各種の生体成分を測光ユニット38に供する機能を有するユニットである。この分析ユニット36は、分析カラム44と、マニホールド46と、送液ポンプ48と、インジェクションバルブ50とを備える。
【0017】
分析カラム44は、血液試料102中のヘモグロビンを選択的に吸着させるための充填剤を保持した器具である。
【0018】
マニホールド46は、複数の溶離液ボトル32A、32B、32C、32D、32Eのうちの特定の溶離液ボトルから、分析カラム44に選択的に溶離液を供給させる部品である。このマニホールド46は、配管52A、52B、52C、52Eを介して溶離液ボトル32A、32B、32C、32D、32Eに各々接続され、配管54を介してインジェクションバルブ50に接続されている。
【0019】
送液ポンプ48は、溶離液をインジェクションバルブ50に移動させるための動力を付与するためのポンプである。この送液ポンプ48は、配管54の途中に設けられている。
【0020】
インジェクションバルブ50は、一定量の導入用試料を採取するとともに、その導入用試料を分析カラム44に導入可能とするバルブである。このインジェクションバルブ50は、複数の導入ポート及び排出ポート(図示省略)を備える。またインジェクションバルブ50には、インジェクションループ56が接続される。このインジェクションループ56は、一定量の液体を保持可能なものである。インジェクションバルブ50を適宜切り替えることにより、インジェクションループ56が希釈槽42と連通して希釈槽42からインジェクションループ56に導入用試料が供給される状態と、インジェクションループ56がプレフィルターPF及び配管58を介して分析カラム44と連通してインジェクションループ56から導入用試料が分析カラム44に導入される状態を選択することができる。
【0021】
測光ユニット38は、分析カラム44からの脱着液に含まれるヘモグロビンを光学的に検出するための機器である。この測光ユニット38は、配管58を介して、分析カラム44からの脱着液を排出するための廃液槽60に接続される。
【0022】
図2には、分析装置30の制御系のブロック図が示されている。
図2に示されるように、分析装置30は、制御部70を備えている。制御部70は、CPU(Central Processing Unit)70Aと、ROM(Read Only Memory)70Bと、RAM(Random Access Memory)70Cと、不揮発性メモリ70Dと、入出力インターフェース(I/O)70Eと、バス70Fとを備える。CPU70A、ROM70B、RAM70C、不揮発性メモリ70D及び入出力インターフェース70Eは、バス70Fを介して各々接続された構成となっている。
【0023】
入出力インターフェース70Eには、試料調製ユニット34と、分析ユニット36と、測光ユニット38とがそれぞれ接続されている。
【0024】
なお、後述する液体クロマトグラフィ測定プログラムは、本実施形態では一例として不揮発性メモリ70Dに予め記憶される。CPU70Aは、不揮発性メモリ70Dに記憶された液体クロマトグラフィ測定プログラムを読み込んで実行する。また、例えば、CD-ROM等の記録媒体に液体クロマトグラフィ測定プログラムを記録し、これをCD-ROMドライブ等で読み込むことにより実行するようにしてもよい。
【0025】
また制御部70には、外部通信部72、バーコードリーダ74、操作部76、表示部78がそれぞれ接続されている。
【0026】
外部通信部72は、外部とネットワーク回線を介して通信するための機器である。
【0027】
バーコードリーダ74は、検体としての血液試料102が収容された採血管100に付されたバーコードを読み取る。バーコードリーダ74によって読み取られたバーコード情報は、外部通信部72を通して後述する管理装置80に送信される。管理装置80では採血管100のバーコード情報を基に血液試料102に対して行う測定モードを選択し、外部通信部72を通して制御部70(CPU70A)に測定モードを送信する。バーコード情報とは、検体固有の情報であり、例えば検体IDである。
【0028】
操作部76は、検査作業従事者からの入力を受け付ける部位である。
【0029】
表示部78は、操作部76での操作内容や後述する測定モード等が表示される。また、測光ユニット38での検出結果に基づいて描画されたクロマトグラムが表示されてもよい。
【0030】
また分析装置30は、少なくとも2つの測定モードを有する。具体的には、分析装置30は、第一の測定モードと第二の測定モードを有しており、第一の測定モードと第二の測定モードを切り替えられるように構成されている。
【0031】
第一の測定モードとは、第二の測定モードに比べ、検体を迅速に測定するモードである。ここで迅速に測定するとは、例えば、第二の測定モードに比べ、測定結果を取得するまでの時間(測定時間)が短い等が挙げられる。検体の測定時間が短くなる要因としては、測定結果を簡易な情報(測定結果が数値データである場合には、数値データの小数点以下の桁数が少ない等)として取得すること、又は測定項目数が少ないことなどが挙げられる。
【0032】
第二の測定モードとは、第一の測定モードに比べ、検体を詳細に測定するモードである。ここで詳細に測定するとは、例えば、第一の測定モードと異なる測定項目を含んでいること、又は第一の測定モードに比べ、検体の測定時間が長いこと等が挙げられる。測定結果を取得するまでの時間が長くなる要因としては、測定結果を詳細な情報(測定結果が数値データである場合には、数値データの小数点以下の桁数が多い等)として取得することなどが挙げられる。
【0033】
なお、本実施形態の分析装置30には、第一の測定モードの一例としてファストモードが設定され、第二の測定モードの一例としてバリアントモードが設定されている。
【0034】
ここで、バリアントモードとは、液体クロマトグラフィ法を用いて、後述する複数種類の溶離液を分析カラム44に予め定めた順序で順次送液することにより、測定項目として血液試料102のHbA1c及び変異ヘモグロビンを測定する詳細測定のモードである。本実施形態のバリアントモードでは、例えば、HbA1c、HbA0、HbF、HbS、HbCを測定可能である。
【0035】
また、ファストモードとは、複数種類の溶離液のうちバリアントモードで使用する溶離液と共通の複数の共通溶離液を分析カラム44に予め定めた順序で順次送液することによりHbA1cを測定するモードであり、測定項目としてHbA1cを主として測定することに特化した迅速測定のモードである。本実施形態のファストモードでは、例えば、HbA1c、HbA0、HbFを測定可能である。
【0036】
すなわち、バリアントモードは、ファストモードと異なる測定項目を含む詳細測定のモードである。具体的には、バリアントモードは、ファストモードよりも測定項目が多いため、測定時間が長くなる。
【0037】
(管理装置80)
図2には、管理装置80の概略構成が示されている。
管理装置80は、少なくとも一つの分析装置30を管理可能な装置である。なお、管理装置80は、本開示の管理部の一例である。
【0038】
図2には、管理装置80の制御系のブロック図が示されている。
図2に示されるように、管理装置80は、CPU(Central Processing Unit)80Aと、ROM(Read Only Memory)80Bと、RAM(Random Access Memory)80Cと、不揮発性メモリ80Dと、バス80Eとを備える。CPU80A、ROM80B、RAM80C及び不揮発性メモリ80Dは、バス80Eを介して各々接続された構成となっている。
【0039】
なお、後述する検体測定モード選択プログラムは、本実施形態では一例として不揮発性メモリ80Dに予め記憶される。CPU80Aは、不揮発性メモリ80Dに記憶された検体測定モード選択プログラムを読み込んで実行する。また、例えば、CD-ROM等の記録媒体に検体測定モード選択プログラムを記録し、これをCD-ROMドライブ等で読み込むことにより実行するようにしてもよい。
【0040】
また管理装置80には、外部通信部82、操作部84、表示部86、データベース88がそれぞれ接続されている。
【0041】
外部通信部82は、外部とネットワーク回線を介して通信するための機器である。この外部通信部82を通して管理装置80は、分析装置30と通信することができる。なお、ここでいうネットワーク回線は、分析装置30及び管理装置80が設置される医療機関内に構築された構内情報通信網(LAN)でもよいし、インターネットなどの通信回線でもよい。
【0042】
操作部84は、オペレータからの入力を受け付ける部位である。
【0043】
表示部86は、操作部84での操作内容や後述する測定モード等が表示される。
【0044】
データベース88は、血液試料102の検査内容に関する情報(以下、適宜(検査情報)という)を記憶している。なお、ここでいう血液試料102の検査内容とは、測定対象とする血液試料102に含まれる成分を指す(測定項目という)。また血液試料102の検査情報は、血液試料102に対応するバーコード情報(採血管100に付されたバーコードの情報)と紐づけられて記憶されている。
【0045】
血液試料102の検査情報には、病院内の採血室に患者の採血検査を依頼した診療科の情報(以下適宜「診療科情報」という)が含まれている。なお、診療科情報には、同一病院内の診療科だけでなく、分院など異なる病院の診療科情報も含まれてもよい。
【0046】
なお、血液試料102の検査情報は、採血検査を依頼した診療科に属する従事者が、外部装置190によって提供されるラボ情報管理システム等のサポートシステムを介して入力することで管理装置80に送られ、データベース88に記憶される。
【0047】
またデータベース88には、診療科情報と測定モードを紐づけた情報が記憶されている。例えば、診療科情報が糖尿病内科の場合にはバリアンドモードで測定すること、診療科情報が健診科の場合にはファストモードで測定することが記憶されている。診療科情報と測定モードを紐づけた情報は、操作部84からユーザーが任意で入力してもよい。
【0048】
CPU80Aは、分析装置30から血液試料102の測定モードの問い合わせを受ける(言い換えると、血液試料102のバーコード情報を受信する)と、データベース88に記憶された診療科情報と測定モードを紐づけた情報に基づいて、血液試料102の測定モードをファストモードとバリアントモードの中から選択する。そして、選択した測定モードを分析装置30へ送信する。
【0049】
次に、分析装置30による血液試料102の分析動作について説明する。
【0050】
図3には、制御部70のCPU70Aで実行される液体クロマトグラフィ測定処理のフローチャートの一例を示している。
【0051】
まず検査作業従事者は、分析装置30に血液試料102が入った採血管100をセットする。具体的には、分析装置30に、複数(例えば10本)の採血管100を収容したラック104をセットする。セットされたラック104は、分析装置30が備える搬送装置(図示省略)によって、採血管100から血液試料102を採取する採取位置まで搬送される。
【0052】
検査作業従事者が分析装置30に測定開始を指示すると、CPU70Aは、不揮発性メモリ70Dに記憶された液体クロマトグラフィ測定プログラムを読み込んで実行する。
【0053】
ステップS200では、バーコードリーダ74によって採血管100のバーコードから読み取ったバーコード情報を管理装置80に送信する。なお、本実施形態では全ての採血管100のバーコードをバーコードリーダ74によって連続的に読み取り、読み取った各情報を管理装置80に送信しているが、血液試料102の分析毎に採血管100のバーコードをバーコードリーダ74で読み取ってもよい。
【0054】
ステップS202では、管理装置80から血液試料102の測定モードを取得する。なお本実施形態では全ての血液試料102の測定モードを管理装置80から取得しているが、血液試料102の分析毎に測定モードを管理装置80から取得してもよい。
【0055】
ステップS204では、管理装置80から取得した測定モードがファストモードか否かを判定する。ファストモードの場合はステップS206へ移行する。一方、管理装置80から取得した測定モードがファストモードでない場合、ステップS220へ移行する。
【0056】
本実施形態で用いられる複数種類の溶離液は、A液、B液、C液である。A液は、例えば、HbA1cを溶出するため及び分析カラム44を平衡化するための溶離液である。B液は、例えば、分析カラム44に残ったヘモグロビンを全て溶出するための溶離液、すなわち、分析カラム44を洗浄するための溶離液である。C液は、例えば、HbA1cが溶出された後にHbA1c以外のヘモグロビンを溶出するための溶離液である。なお、ヘモグロビンの溶出力が高い順にB液、C液、A液となる。
【0057】
バリアントモードでは、A液、B液、及びC液を予め定めた順序で分析カラム44に送液して測定する。ファストモードでは、A液及びB液を予め定めた順序で分析カラム44に送液して測定する。すなわち、A液及びB液はバリアントモード及びファストモードで共通に使用する共通溶離液であり、C液は、バリアントモードでのみ使用する非共通溶離液である。
【0058】
ステップS206では、血液試料102を導入する。具体的には、ノズル40を動作させることによって採血管100から血液試料102を採取する。ノズル40によって採取された血液試料102は、ノズル40を動作させることによって希釈槽42に供給される。
【0059】
そして、インジェクションバルブ50を切り替えることによりインジェクションループ56に保持された試料は、プレフィルターPFによって濾過され、分析カラム44に導入される。分析カラム44に試料が導入されると、充填剤にHbA1c及び変異Hb等が吸着される。
【0060】
ステップS208では、A液を分析カラム44に予め定めた時間供給する。これにより、分析カラム44からHbA1cが溶出される。
【0061】
ステップS210では、B液を分析カラム44に予め定めた時間供給する。これにより、分析カラム44に残ったヘモグロビンが全て溶出され、分析カラム44が洗浄される。
【0062】
ステップS212では、A液を分析カラム44に予め定めた時間供給する。これにより、分析カラム44が平衡化される。
【0063】
このように、ファストモードでは、A液→B液→A液の順序で分析カラム44へ送液する。
【0064】
分析カラム44から排出される各種ヘモグロビンを含む脱着液は、配管58を介して測光ユニット38に供給される。この脱着液は、配管58を介して廃液槽60に導かれる。
【0065】
測光ユニット38においては、脱着液に対して連続的に光が照射され、その受光結果(吸光度)が制御部70に出力される。そして、制御部70においてクロマトグラムが演算される。
【0066】
クロマトグラムは、測定を開始してからの経過時間と受光結果としての吸光度との関係を表すグラフである。このクロマトグラムのピークがどの位置に現れるかによって、どのヘモグロビンが検出されたかを知ることができると共に、ピーク部分(山なりの部分)における吸光度の積算値、すなわちピーク部分の面積の大きさによってヘモグロビンの濃度を知ることができる。
【0067】
ステップS214では、演算されたクロマトグラムに基づいて、HbA1cを測定する。
【0068】
ステップS216では、測定結果を不揮発性メモリ70Dに記憶させる。すなわち、HbA1cの濃度及び変異ヘモグロビンの検知の有無を不揮発性メモリ70Dに記憶する。
【0069】
ステップS218では、全ての採血管100について上記の測定が終了したか否かを判断し、全ての採血管100について測定が終了した場合は本ルーチンを終了し、測定が終了していない採血管100が存在する場合には、ステップS204へ戻り、測定対象の血液試料102に対する管理装置80から取得した測定モードがファストモードか否かを判定する。
【0070】
ステップS204において、ファストモードではない、すなわちバリアントモードで測定すると判定された場合は、ステップS220へ移行する。
【0071】
ステップS220では、ステップS206と同様に血液試料102を導入する。
【0072】
ステップS222では、A液を分析カラム44に予め定めた時間供給する。これにより、分析カラム44からHbA1cが溶出される。
【0073】
ステップS224では、C液を分析カラム44に予め定めた時間供給する。これにより、分析カラム44からHbA1cが溶出された後にHbA1c以外のヘモグロビンが溶出される。
【0074】
ステップS226では、A液を分析カラム44に予め定めた時間供給する。これにより、分析カラム44が平衡化される。
【0075】
ステップS228では、B液を分析カラム44に予め定めた時間供給する。これにより、分析カラム44に残ったヘモグロビンが全て溶出され、分析カラム44が洗浄される。
【0076】
ステップS230では、A液を分析カラム44に予め定めた時間供給する。これにより、分析カラム44が平衡化される。
【0077】
このように、バリアントモードでは、A液→C液→A液→B液→A液の順序で分析カラム44へ送液する。
【0078】
ステップS232では、ステップS214と同様にHbA1cを測定する。
【0079】
ステップS234では、演算されたクロマトグラムに基づいて、変異ヘモグロビンを測定する。
【0080】
ステップS236では、測定結果を不揮発性メモリ70Dに記憶させる。すなわち、HbA1cの濃度及び変異ヘモグロビンの濃度を不揮発性メモリ70Dに記憶する。
【0081】
このようにして、本実施形態では、管理装置80の指示に基づき、1つの装置でファストモードとバリアントモードとを切り替えて測定することができる。
【0082】
次に、管理装置80による血液試料102の測定モードの選択フローについて説明する。
【0083】
図4には、管理装置80のCPU80Aで実行される検体測定モード選択処理のフローチャートの一例を示している。
【0084】
分析装置30から血液試料102に関する情報(バーコード情報)を受信すると、CPU80Aは、不揮発性メモリ80Dに記憶された検体測定モード選択プログラムを読み込んで実行する。
【0085】
ステップS300では、CPU80Aは、血液試料102のバーコード情報からデータベース88にアクセスし、バーコード情報に対応する採血検査を依頼した診療科の情報(診療科情報)を特定する。
【0086】
ステップS302では、CPU80Aは、データベース88に記憶された診療科情報と測定モードを紐づけた情報に基づいて血液試料102の測定モードをファストモードかバリアントモードか判定する。血液試料102の測定モードをファストモードと判定した場合は、ステップS304へ移行する。一方、血液試料102の測定モードをファストモードではないと判定した場合は、ステップS306へ移行する。
【0087】
ステップS304では、CPU80Aは、外部通信部82を通して分析装置30へファストモードで測定する指示を送信する。
【0088】
ステップS306では、CPU80Aは、外部通信部82を通して分析装置30へバリアントモードで測定する指示を送信する。
【0089】
このようにして、本実施形態では、管理装置80から分析装置30へ選択した測定モードで測定するよう指示が送信される。
【0090】
次に本実施形態の作用について説明する。
医療機関においては、血中のヘモグロビン分析などの検体検査は、種々の分析装置が設置された検体分析を専門に行う臨床検査科において実施される場合がある。そのような医療機関においては、検査依頼元となる各診療科(内科、糖尿病内科、健診科など)で、検査内容(測定項目)が定まっている場合がある。すなわち、血液中のヘモグロビン分析においては、ファストモードで測定するか、バリアントモードで測定するかは診療科(来院する患者の種類)によって定まっている場合がある。例えば、糖尿病内科では、糖尿病の診断・治療において、HbA1cの測定値が重要である。しかし、患者が変異ヘモグロビンを有している場合には、HbA1cの測定結果が影響を受ける可能性があるため、HbA1cと変異ヘモグロビンを分離し、HbA1cの測定値が影響を受けにくいバリアントモードで測定を行うことが多い。一方、健診科では、スクリーニング検査として、HbA1cの測定値が必要とされるため、ファストモードで測定を行い、ファストモードでの測定結果から、バリアントモードでの詳細な測定が必要となった場合には、専門科で再検査を行うため、ファストモードでの使用のみとなることが多い。そして、検体を検査する検査室には、検査内容の異なる検体が混在して届く。検査室の作業従事者は、検体の検査内容に応じて分析装置の測定モードを設定している。このように検体の検査内容に応じて測定モードを設定する場合、設定間違いが起きないよう注意を払う必要があり、作業従事者の負担が増大する傾向がある。
これに対して本実施形態の分析システム20では、検査内容の異なる検体が混在している、すなわち、ラック104にファストモードとバリアントモードで測定される採血管100が混在して収められている場合でも、血液試料102に設定される検査を依頼した診療科の診療科情報と測定モードを紐づけた情報に基づいて、管理装置80が分析装置30の測定モードを自動で選択する。このため、分析システム20では、例えば、検査作業従事者が検査を依頼した診療科の求める検査内容に応じて都度測定モードを設定する場合と比べて、検査作業従事者の負担が軽減される。
【0091】
前述の実施形態では、管理装置80と一つの分析装置30がネットワーク回線を通じて接続されているが、本開示はこの構成に限定されない。例えば、
図5に示されるように、管理装置80に複数の分析装置30がネットワーク回線を通じて接続されてもよい。なお、
図5の例では、管理装置80に3つの分析装置30がネットワーク回線を通じて接続されている。
【0092】
前述の実施形態では、管理装置80と分析装置30がネットワーク回線を通じて接続されているが、本開示はこの構成に限定されない。分析装置30の制御部70が管理装置80の機能を備えてもよい。この場合、分析装置30にデータベース88を設けることが好ましい。
【0093】
また前述の実施形態では、血液試料102の検査内容に関する情報として診療科情報が用いられているが、本開示はこの構成に限定されない。例えば、診療科情報には、診療科に属する医師の情報が紐づけられていてもよい。この場合には患者の採血検査を依頼した医師の情報からその医師の属する診療科の情報を取得することができる。なお、医師の情報とは、医師の識別情報であり、例えば、医師固有IDのバーコード等である。一例として、健診科に所属する医師からの検査依頼の場合には、ファストモードで測定し、糖尿病内科に所属する医師からの検査依頼の場合には、バリアントモードで測定する。
【0094】
前述の実施形態のファストモードでは、A液→B液→A液の順序で分析カラム44へ送液し、バリアントモードでは、A液→C液→A液→B液→A液の順序で分析カラム44へ送液しているが、本開示はこの構成に限定されない。例えば、ファストモードでは、バリアントモードよりも溶出力の高い溶媒を用いてもよい。これにより、ファストモードによる測定時間を短縮することができる。
また、例えば、ファストモードでは、バリアントモードよりも溶媒の送液スピードを速くしてもよい。具体的には、ファストモード実行時には、バリアントモード実行時と比べて、送液ポンプ48の回転を速めることで送液スピードを速くしてもよい。これにより、ファストモードによる測定時間を短縮することができる。
また、例えば、ファストモードでは、対象となる成分を検出した場合、溶離液を溶出力の高い溶離液に切り替えて測定を継続し、バリアントモードでは、対象となる成分を検出しても、溶離液を切り替えずに測定を継続してもよい。これにより、ファストモードによる測定時間を短縮することができる。
【0095】
前述の本実施形態では、高速液体クロマトグラフィを利用する分析装置30を管理装置80で管理しているが、本開示はこの構成に限定されない。例えば、血液中の細胞種を計測する血球計測装置を管理装置80で管理してもよい。すなわち、本開示の分析システムは、血液中の細胞種を計測する装置に適用してもよい。なお、血球計測装置の第一の測定モードでは、測定項目として血液中の細胞種のうち、通常の細胞種のみを測定し、第二の測定モードでは、測定項目として血液中の細胞種のうち、通常の細胞種とは異なる異常細胞をさらに測定する。
【0096】
さらに、本開示は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0097】
以下次の付記を開示する。
(付記1)
検体を分析する分析部であって、第一の測定モードと、前記第一の測定モードと異なる測定項目を含む第二の測定モードとを切り替え可能な前記分析部と、
前記検体に設定される検査を依頼した診療科の情報に基づいて、前記分析部の前記第一の測定モードと前記第二の測定モードから測定モードを選択する管理部と、
を有する分析システム。
【0098】
(付記2)
前記診療科の情報には、該診療科に属する医師の情報が紐づけられている、付記1に記載の分析システム。
【0099】
(付記3)
前記分析部は、液体クロマトグラフィ法により前記検体を分析する、付記1又は付記2に記載の分析システム。
【0100】
(付記4)
前記第一の測定モードでは、前記検体中のヘモグロビンA1cを測定し、
前記第二の測定モードでは、前記検体中の変異ヘモグロビンを測定する、付記3に記載の分析システム。
【0101】
(付記5)
前記第一の測定モードでは、前記第二の測定モードよりも溶出力の高い溶媒を用いる、付記3又は付記4に記載の分析システム。
【0102】
(付記6)
前記第一の測定モードでは、前記第二の測定モードよりも溶媒の送液スピードを速くする、付記3~付記5のいずれか1項に記載の分析システム。
【0103】
(付記7)
前記第一の測定モードでは、対象となる成分を検出した場合、溶媒を溶出力の高い溶媒に切り替えて測定を継続し、
前記第二の測定モードでは、対象となる成分を検出しても、溶媒を切り替えずに測定を継続する、付記3~付記6のいずれか1項に記載の分析システム。
【符号の説明】
【0104】
20 分析システム
30 分析装置(分析部の一例)
80 管理装置(管理部の一例)
102 血液試料(検体の一例)