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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165960
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】急性痛の治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/675 20060101AFI20241121BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20241121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/485 20060101ALI20241121BHJP
   A61K 31/4166 20060101ALI20241121BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A61K31/675
A61P29/02
A61P43/00 121
A61K31/485
A61K31/4166
A61P25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082581
(22)【出願日】2023-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】504237832
【氏名又は名称】ノーベルファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】天谷 文昌
(72)【発明者】
【氏名】山北 俊介
(72)【発明者】
【氏名】新井 沙織
(72)【発明者】
【氏名】喜多田 好
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086CB23
4C086DA38
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA52
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】術後痛等の急性痛の治療剤を提供する。
【解決手段】フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸およびエトトインからなる群から選ばれるヒダントイン化合物を有効成分として含有する、注射剤、経口剤または経皮吸収製剤等の形態の急性痛治療剤。モルヒネ等のオピオイドの投与と併用されることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物を有効成分として含む、急性痛の治療剤。
【請求項2】
前記有効成分が、フェニトインまたはホスフェニトインである請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
前記有効成分が、ホスフェニトインである請求項1に記載の治療剤。
【請求項4】
急性痛が術後痛である請求項1に記載の治療剤。
【請求項5】
オピオイドの投与と併用される、請求項1に記載の治療剤。
【請求項6】
オピオイドがモルヒネである、請求項5に記載の治療剤。
【請求項7】
フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物、及び薬学的に許容される担体を含む急性痛治療用の医薬組成物。
【請求項8】
注射剤、経口剤または経皮吸収製剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
注射剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記有効成分が、フェニトインまたはホスフェニトインである請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記有効成分が、ホスフェニトインである請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
急性痛が術後痛である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項13】
オピオイドの投与と併用される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項14】
オピオイドがモルヒネである、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
オピオイドの投与と同時に投与される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項16】
オピオイドがモルヒネである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ヒダントイン系化合物がホスフェニトインであり、オピオイドがモルヒネである、請求項14又は請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
ヒダントイン系化合物とモルヒネとの重量比が、1000:1~1:1000の範囲内である、請求項14又は請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
ホスフェニトインとモルヒネとの重量比が、100:1~100:20の範囲内である、請求項18に記載の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てんかんの治療薬として使用されている化合物の新規な用途に関する。詳細には、本発明は、フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物を有効成分として用いる急性痛の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
急性痛は、急性疼痛と同義で用いられ、通常は組織損傷に対する反応として生じ、末梢の痛覚受容器とそれに対応するAδおよびC線維で構成される感覚神経線維(侵害受容器)が活性化することによって発生する(MSDマニュアル)。
【0003】
侵害受容性疼痛には体性痛と内臓痛がある。体性神経の痛覚受容器は、皮膚、皮下組織、筋膜、その他の結合組織、骨膜、骨内膜、および関節包に存在する。これらの受容器が刺激されると、通常は限局的な鋭痛または鈍痛が生じるが、皮膚または皮下組織が障害された場合は灼熱感が生じることもまれではない。内臓神経の痛覚受容器は、ほとんどの内臓とその周囲の結合組織に存在する。管腔臓器の閉塞による内臓痛は、局在が不明瞭で痙攣痛様の深部痛であり、遠隔部位の皮膚に関連痛を伴うことがある。内臓の被膜またはその他の深部結合組織の損傷による内臓痛は、より局在のはっきりした鋭痛となることがある。
【0004】
現在、急性痛用の薬剤としては、疼痛が軽度であれば一般的な鎮痛薬(NSAIDs、選択的COX-2阻害薬、アセトアミノフェンなど)が主に使用されている。重度の疼痛にはオピオイドが使用される。
【0005】
特に、外科手術後の術後急性痛の管理は予後改善のために重要であり、異なる作用機序の薬物や、神経ブロックの併用で、痛みと副作用を軽減した方法が図られている。現在の周術期管理において、オピオイド(モルヒネなど)が術中術後の鎮痛管理に用いられており、手術後も強い疼痛を予防するため、麻酔覚醒後も必要なオピオイドが継続投与されている。しかしながら、オピオイドは呼吸抑制、嘔気、便秘、さらには耐性や依存、耽溺のリスクなど、さまざまな副作用を併発する問題点がある。
【0006】
また、胸部外科手術後の急性疼痛にプレガバリン、カルバマゼピン、リドカインなどの投与が行われることもある。
【0007】
近年、フェニトイン、ホスフェニトイン等のヒダントイン系化合物を、急性帯状疱疹痛の治療剤として用いる技術が開発されている(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、特許文献1においては、急性痛、特に術後急性痛への適用については具体的に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2020/054872号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、急性痛、特に術後急性痛の新たな治療薬を提供することを目的とする。
【0011】
更に、本発明は、急性痛、特に術後急性痛の治療方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、周術期のオピオイド使用量を減量することのできる鎮痛薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明では、以下の項[1]~[19]を提供する。
[項1] フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物を有効成分として含む、急性痛の治療剤。
【0014】
[項2] 前記有効成分が、フェニトインまたはホスフェニトインである項1に記載の治療剤。
【0015】
[項3] 前記有効成分が、ホスフェニトインである項1に記載の治療剤。
【0016】
[項4] 急性痛が術後痛である項1に記載の治療剤。
【0017】
[項5] オピオイドの投与と併用される、項1に記載の治療剤。
【0018】
[項6] オピオイドがモルヒネである、項5に記載の治療剤。
【0019】
[項7] フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物、及び薬学的に許容される担体を含む急性痛治療用の医薬組成物。
【0020】
[項8] 注射剤、経口剤または経皮吸収製剤である、項7に記載の医薬組成物。
【0021】
[項9] 注射剤である、項7に記載の医薬組成物。
【0022】
[項10] 前記有効成分が、フェニトインまたはホスフェニトインである項7に記載の医薬組成物。
【0023】
[項11] 前記有効成分が、ホスフェニトインである項7に記載の医薬組成物。
【0024】
[項12] 急性痛が術後痛である、項7に記載の医薬組成物。
【0025】
[項13] オピオイドの投与と併用される、項7に記載の医薬組成物。
【0026】
[項14] オピオイドがモルヒネである、項13に記載の医薬組成物。
【0027】
[項15] オピオイドの投与と同時に投与される、項7に記載の医薬組成物。
【0028】
[項16] オピオイドがモルヒネである、項15に記載の医薬組成物。
【0029】
[項17] ヒダントイン系化合物がホスフェニトインであり、オピオイドがモルヒネである、項14又は項16に記載の医薬組成物。
【0030】
[項18] ヒダントイン系化合物とモルヒネとの重量比が、1000:1~1:1000の範囲内である、項14又は項16に記載の医薬組成物。
【0031】
[項19] ホスフェニトインとモルヒネとの重量比が、100:1~100:20の範囲内である、項18に記載の医薬組成物。
【0032】
更に、本発明では、以下を提供する。
[項20] 治療が必要な患者に、フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物を投与することを含む、急性痛の治療方法。
【0033】
[項21] 治療が必要な患者に、フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物及びオピオイドを投与することを含む、急性痛の治療方法。
【0034】
[項22] 治療が必要な患者に、フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物及びオピオイドを同時に投与することを含む、急性痛の治療方法。
【0035】
[項23] 治療が必要な患者に、ホスフェニトイン及びモルヒネを投与することを含む、急性痛の治療方法。
【0036】
[項24] 治療が必要な患者に、ホスフェニトイン及びモルヒネを同時に投与することを含む、急性痛の治療方法。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、幅広い患者に適応可能な、急性痛、特に、術後急性痛の治療薬を提供することが可能となる。
【0038】
更に、ヒダントイン系化合物とオピオイドとを併用して使用することにより、周術期のオピオイド使用量を減量することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0040】
本発明において、急性痛とは、急性疼痛と同義で用いられ、通常は組織損傷に対する反応として生じ、末梢の痛覚受容器とそれに対応するAδおよびC線維で構成される感覚神経線維(侵害受容器)が活性化することによって発生する(MSDマニュアル)。
【0041】
本発明において、術後急性痛とは、手術後に、神経組織が損傷することや、損傷部位で炎症反応が起こることによる痛みのことをいい、急性痛の1つである。
【0042】
本発明において、投与対象(患者)は、温血動物であり、ヒトまたは非ヒト哺乳動物である。一実施形態では、投与対象はヒトである。
【0043】
有効成分
本発明の治療剤で用いる有効成分は、フェニトイン、ホスフェニトイン、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸及びエトトインよりなる群から選択されるヒダントイン系化合物である。フェニトインは、日本薬局方に収載されており、例えばアレビアチンの販売名で住友ファーマ株式会社から又はヒダントールの販売名で第一三共株式会社から販売されており、ホスフェニトインは、ホストインの販売名でノーベルファーマ株式会社から販売されている。そして、ホスフェニトインは、フェニトインのプロドラッグである。そして、エトトインは、アクセノンの販売名で住友ファーマ株式会社から販売されている。一方、メフェニトイン、ニルバノール、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸は現在市販されてはいないが、てんかんの治療薬として古くから公知の化合物である。なかでも、フェニトイン、ホスフェニトインが好ましく、特にホスフェニトインが推奨される。
【0044】
特に、ホスフェニトインは、生体内でアルカリホスファターゼにより活性代謝物であるフェニトインに加水分解されフェニトインとして作用するものであり、フェニトインの有する副作用が軽減されており、好ましく使用される。
【0045】
これらの有効成分は、単独で使用可能であり、又は、複数を組み合わせて使用することも可能である。
【0046】
有効成分の光学異性体
本発明の有効成分であるヒダントイン系化合物が不斉中心を含有する場合、例えばエトトインの場合、ラセミ体およびラセミ混合物、単一鏡像異性体として存在してよい。本発明は、単一種として、またはその混合物としての何れかの、化合物の全てのこのような異性体を包含するものとする。
【0047】
有効成分の塩
本発明の有効成分であるヒダントイン系化合物は、塩の形態で使用することもできる。例えば、ホスフェニトインはリン酸基を有しており、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸は、アミノ基とカルボキシル基を有しており、それらの薬学的に許容される塩の形態も使用可能である。
【0048】
本発明において「薬学的に許容される塩」という用語は、薬学的に許容される非毒性塩基または酸から調製される塩を指す。本発明のヒダントイン系化合物が酸性である場合、その対応する塩は、無機塩基及び有機塩基を含む、薬学的に許容される非毒性塩基から調製することができる。例えば、そのような塩には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅(第二及び第一)、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン(第二及び第一)、カリウム、ナトリウム、亜鉛などの塩が含まれる。なかでも、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム及びナトリウムの塩が好ましい。特に、ホスフェニトインの場合は、そのナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、特にナトリウム塩が推奨される。
【0049】
一方、本発明の有効成分であるヒダントイン系化合物が塩基性である場合、その対応する塩は、薬学的に許容される非毒性の無機酸及び有機酸から調製することができる。そのような酸には、例えば酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコ酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸などが含まれる。
【0050】
特に、アミノ(ジフェニルヒダントイン)吉草酸のように分子内に酸性基と塩基性基の両方を有する場合は、両性イオンの形態で存在することもできる。
【0051】
本明細書において、ヒダントイン系化合物への言及は薬学的に許容される塩も含むものであることは当然理解される。
【0052】
本発明で用いる有効成分の適切な投薬量レベルは、通常約0.01~500mg/患者体重kg/日であり、単回または複数回投与で投与することができる。適した投薬量レベルは、約0.01~250mg/kg/日、約0.05~100mg/kg/日、または約0.1~50mg/kg/日であり得る。この範囲内で、投薬量は0.05~0.5、0.5~5または5~50mg/kg/日であってよい。有効成分は、1日に1~4回の投与レジメで投与されてもよいし、1日に1回または2回投与されてもよい。
【0053】
しかし、任意の特定の患者に対する具体的な用量レベルおよび投薬頻度は変動し、用いる具体的な有効成分の活性、その有効成分の代謝安定性および作用の長さ、年齢、体重、全体的な健康、性別、食事、投与様式および回数、排出速度、薬剤の組み合わせ、特定の症状の重症度、および治療を受けるホストを含む、多様な要因に依存することは当業者に理解される。
【0054】
本発明の有効成分は、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、ICV、大槽内注射または注入、皮下注射、または移植)、吸入スプレー、鼻腔、膣、直腸、舌下、口内または局所の投与経路によって投与してよく、単独又は一緒で、各々の投与経路に適切な従来の無毒の薬学的に許容される担体を含有する適切な投薬単位製剤に処方され得る。
【0055】
医薬組成物
本発明の治療剤の有効成分は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、医薬組成物として患者に投与される。医薬組成物としては、経口、経直腸、局所、ならびに非経口(例えば、皮下、筋肉内および静脈内)投与に適した組成物が挙げられるが、所定の症例における最も適した経路は、具体的な宿主、ならびに有効成分の投与対象の病状の性質および重症度に依存する。
【0056】
一般に、医薬組成物は、有効成分を液体担体または微粉砕した固体担体または両方と均一にかつ均質に会合させ、その後、必要に応じて、生成物を所望の製剤に成形することによって調製される。医薬組成物中の有効成分は、疾患の過程または症状への効果を生じるために十分な量を含む。
【0057】
有効成分を含有する医薬組成物は、経口使用に適した形態、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁液、分散性粉末もしくは顆粒、乳濁液、溶液、硬または軟カプセル、あるいはシロップもしくはエリキシル剤に製剤化される。経口使用のための組成物は、医薬組成物の製造のための当分野で公知の任意の方法に従って調製することができ、そのような組成物は、甘味剤、香味剤、着色剤および保存剤からなる群から選択される1以上の薬剤を含有することができる。錠剤は、有効成分を、錠剤の製造に適した無毒の製薬上許容される賦形剤と混合して含有する。これらの賦形剤は、不活性希釈剤、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウム;造粒剤および崩壊剤、例えばトウモロコシデンプンまたはアルギン酸;結合剤、例えばデンプン、ゼラチンまたはアラビアガム;ならびに滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクであってよい。錠剤は、コーティングされていなくてもよく、又は胃腸管での崩壊および吸収を遅延させ、それによって長期にわたる持続的な作用をもたらすために既知技法によってコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を用いればよい。また、それらは従来公知の方法によってコーティングして、制御放出のための浸透圧による治療錠剤を形成してもよい。また、即時放出のための経口錠剤、例えば高速溶解錠剤もしくはウエハー、急速溶解錠剤または急速溶解フィルムなどを処方することもできる。
【0058】
また、経口使用のための製剤は、有効成分が不活性の固体希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンと混合されている硬ゼラチンカプセル剤、あるいは有効成分が水または油媒体、例えばピーナッツ油、流動パラフィン、またはオリーブ油と混合されている軟ゼラチンカプセル剤として提示されてもよい。
【0059】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合した有効成分を含有する。そのような賦形剤は、沈殿防止剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシ-プロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニル-ピロリドン、トラガカントガムおよびアラビアガムであり;分散剤または湿潤剤は、天然に存在するリン脂質、例えばレシチン、または、アルキレン酸化物と脂肪酸の縮合生成物、例えばステアリン酸ポリオキシエチレン、または、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、または、エチレンオキシドと、脂肪酸及びヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートなど、またはエチレンオキシドと、脂肪酸及びヘキシトール無水物由来の部分エステルとの縮合生成物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートであってよい。また、水性懸濁液は、防腐剤、例えばエチルまたはn-プロピル、p-ヒドロキシベンゾエート、着色剤、香味剤、および甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリンを含有してもよい。
【0060】
油性懸濁液は、有効成分を、植物油、例えばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油またはココナッツ油に、または流動パラフィンなどの鉱油に懸濁することによって処方することができる。油性懸濁液は、増粘剤、例えば蜜ろう、固形パラフィンまたはセチルアルコールを含むことができる。上記に示したものなどの甘味剤および香味剤を添加し、美味な経口調製物を得ることができる。これらの組成物は、アスコルビン酸のような抗酸化剤を添加することにより保存することができる。
【0061】
水の添加による水性懸濁液の調製に適した分散性粉末および顆粒は、有効成分を、分散剤または湿潤剤、沈殿防止剤および1以上の防腐剤と混合して提供する。適した分散剤または湿潤剤および沈殿防止剤は、すでに上に述べたものによって例示される。さらなる賦形剤、例えば甘味料、香味料および着色剤も存在してよい。
【0062】
また、本発明の医薬組成物は、水中油型乳濁液の形態で存在することができる。油性相は、植物油、例えばオリーブ油またはラッカセイ油、または鉱油、例えば流動パラフィン、あるいはこれらの混合物であってよい。適した乳化剤は、天然に存在するガム、例えばアラビアガムまたはトラガカントガム、天然に存在するリン脂質、例えばダイズ、レシチン、ならびに脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来するエステルまたは部分エステル、例えばソルビタンモノオレエート、ならびに前記部分エステルとエチレンオキシドの縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートである。また、これらの乳濁液は甘味料および香味剤を含有してもよい。
【0063】
シロップ剤およびエリキシル剤は、甘味剤、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロースとともに処方することができる。また、そのような製剤は、粘滑剤、防腐剤および香味料および着色剤を含有してもよい。
【0064】
本発明の医薬組成物は、滅菌した注射可能な水性または油性懸濁液の形態であってよい。この懸濁液は、上記の分散剤または湿潤剤および沈殿防止剤を用いて、既知技術によって処方することができる。また、滅菌注射用製剤は、無毒の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射溶液または懸濁液としてもよい。許容されるビヒクル又は溶媒には、水、リンゲル液および等張食塩水溶液が挙げられる。更に、油性の懸濁液用のビヒクル又は溶媒として、滅菌不揮発油、例えば、合成モノマーもしくはジグリセリドを含む任意の無刺激性の不揮発油が挙げられる。
【0065】
また、本発明の医薬組成物は、薬物の直腸投与用の坐剤の形態で投与することもできる。これらの組成物は、薬物を、常温で固体であるが直腸温度で液体であり、そのために直腸で溶融して薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤と混合することにより調製することができる。そのような材料は、カカオバターおよびポリエチレングリコールである。
【0066】
経皮吸収のような局所投与には、本発明の有効成分を含有するクリーム、軟膏、ゼリー、溶液または懸濁液等が用いられる。同様に、経皮パッチも局所投与に使用される。
【0067】
上記形態の中でも、本発明の医薬組成物は、注射剤、経口剤または経皮吸収製剤が好ましい。
【0068】
更には、本発明の治療剤は急性痛治療に用いられるので、医薬組成物としては、投与後に直ちに血中濃度が上がり効果を発揮できるよう、注射用、特に静脈注射用の製剤が好ましい。
【0069】
他の薬剤との併用(併用療法)
本発明の医薬組成物は、その効果を高めるために他の薬剤と併用することができる。そのような他の薬剤は、それに関して一般的に使用される経路及び量で、本発明の医薬組成物と同時に又は逐次的に投与することができる。本発明の医薬組成物は、一般に、当該症状に対する1以上の他の薬剤を既に摂取している患者に対して投与することができる。また、本発明の医薬組成物は、1以上の急性痛治療薬で既に治療されている患者に対して、その患者の痛みが治療に適切に応答していない場合にも投与される。
【0070】
併用療法は、さらに、本発明の医薬組成物と1以上の他の薬剤が重複する異なるスケジュールで投与される療法も包含する。1以上の他の薬剤と組み合わせて使用する場合、本発明の医薬組成物及び該他の薬剤をそれぞれが単独で使用される場合よりも低い用量で使用することができることも意図されている。従って、本発明の医薬組成物は、本発明の医薬組成物に加えて1以上の他の薬剤を含む医薬組成物をも包含することができる。
【0071】
そのような他の薬剤としては、オピオイド類;カルシウムチャンネル拮抗薬;NMDA受容体作用薬;NMDA受容体拮抗薬;COX-2選択的阻害薬;NSAID(非ステロイド性抗炎症薬);及び、鎮痛薬が挙げられる。
【0072】
特に、オピオイド類、例えば、リン酸コデイン、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、レミフェンタニル、メペリジン、トラマドール、ブプレノルフィン、ペンタゾシン等が好ましく、なかでも、モルヒネ、フェンタニル等が好ましい。
【0073】
本発明は、さらに、急性痛を治療する方法も提供し、ここで、該方法は、そのような治療を必要とする患者に、その症状を治療するのに有効な特定量の本発明の医薬組成物及び特定量の他の薬剤を投与し、それによって、それらが一緒になって効果的な緩和をもたらすことを含む。
【0074】
本発明の医薬組成物におけるヒダントイン系化合物と他の薬剤の重量比は、変えることができ、そして、各成分の有効用量に依存する。一般的には、それぞれの有効な用量が使用される。従って、例えば、本発明のヒダントイン系化合物がオピオイド類と組み合わされる場合、本発明のヒダントイン系化合物とオピオイド類の重量比は、オピオイド類がモルヒネである場合、約1000:1~約1:1000の範囲内であり、好ましくは、約200:1~約1:200の範囲内である。特に、ホスフェニトインとモルヒネとの重量比が、100:1~100:20の範囲内が推奨される。
【0075】
本発明のヒダントイン系化合物と他の別の薬剤との組み合わせも、一般に、前述の範囲内であるが、いずれの場合にも、各有効成分の有効な用量を使用すべきである。
【実施例0076】
以下に具体的な実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明はその実施形態に限定されるものではなく、それらにおける様々な変更及び改変が当業者によって、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく実行され得ることが理解される。
【0077】
実験内容
(1)急性痛に対する鎮痛効果
切開モデルに対するホスフェニトイン群(3mg/kg、10mg/kg、30mg/kg、各6匹)、モルヒネ群(0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、各6匹)、ビヒクル群(6匹)における機械刺激及び熱刺激に対する応答を行動解析により評価する。
(2)急性痛に対するモルヒネ鎮痛増強効果
急性痛に対するモルヒネ鎮痛増強効果切開モデルに対するホスフェニトイン(鎮痛効果の生じない用量)+モルヒネ群(0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、各6匹)及びモルヒネ単独群(0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、各6匹)における機械刺激及び熱刺激に対する応答を行動解析により、モルヒネの鎮痛効果の増強効果をモルヒネ単独群と比較評価する。
(3)急性痛時のpERK1/2発現抑制効果
切開モデルに対するホスフェニトイン群(30mg/kg、6匹)、モルヒネ群(3mg/kg、6匹)、もしくはビヒクル群(6匹)におけるphosphorylated Extracellular signal-regulated kinase 1/2(pERK1/2)の発現抑制(薬剤単独)を免疫組織化学法(6匹/群×3群)およびウェスタンブロッティング(6匹/群×3群)によりそれぞれ評価する。
【0078】
実験スケジュール
(1)急性痛に対する鎮痛効果
モデル作成24時間後にホスフェニトインまたはモルヒネを腹腔内投与した。
行動解析は術前、術後24時間(薬剤投与前、24h)、薬剤投与後1時間(25h)、薬剤投与後4時間(28h)、薬剤投与後24時間(48h)に評価した。なお、行動解析前にチャンバー内で実験動物を十分に順応させたあと、行動解析を実施した。
【化1】
(2)急性痛に対するモルヒネ鎮痛増強効果
モデル作成24時間後にホスフェニトインおよびモルヒネを腹腔内投与した。
(1)と同様に、行動解析は術前、術後24時間(薬剤投与前、24h)、薬剤投与後1時間(25h)、薬剤投与後4時間(28h)、薬剤投与後24時間(48h)に評価した。
(3)急性痛時のpERK1/2発現抑制効果
モデル作成1時間前にホスフェニトインまたはモルヒネを腹腔内投与した。
術後10分時点で術側の第5腰髄後根神経節を採取し、pERK1/2の発現を評価した。
【0079】
使用薬剤及び試薬
使用薬剤及び試薬は以下のものを使用した。
・ホスフェニトインナトリウム:
ホスフェニトインナトリウムとして750mg/10mL(ノーベルファーマ株式会社、ロット番号:NP062231)
・モルヒネ塩酸塩注射液:
モルヒネ塩酸塩水和物として10mg/mLを含有(第一三共株式会社、ロット番号:ETA0135)
・イソフルラン吸入麻酔液「ファイザー」:
イソフルラン1mL/mL(マイランEPD合同会社、ロット番号:229KAR)
【0080】
免疫組織化学法
・一次抗体
・二次抗体
・免疫組織学関連試薬
・免疫組織学関連機器・消耗品
・顕微鏡関連機器・消耗品
【0081】
ウェスタンブロッティング
・一次抗体
・二次抗体
・ウェスタンブロッティング関連試薬
・ウェスタンブロッティング関連機器・消耗品
【0082】
実験動物
実験には、Sprague-Dawley ラット(週齢12w,male,200-250g,housed in groups of 3 per cage under a 12h light-dark cycle)を用いた。
【0083】
術後痛モデルの作成
イソフルランによる全身麻酔下に、すべてのラットに対して、左後肢の皮膚、筋膜、足底筋に1cmの縦切開を行い、皮膚は5-0ナイロン縫合糸で閉創し、術後痛モデルを作成した。
【0084】
評価の測定
(1)行動解析
機械刺激としてvon Frey stimulation(Muromachi Kikai)、熱刺激としてradiant heat test (Ugo Basile)を用い、それぞれに対する応答を行動解析により評価した。
(2)免疫組織化学法
組織を灌流、固定、スクロース置換した後、凍結させクライオスタットで切片を切り出し、切片をブロッキング後、一次抗体・二次抗体でインキュベートした。切片はデジタルカメラ付き蛍光顕微鏡を用いて可視化し(図7)、画像はImage-Jにより解析した。pERK1/2およびDAPI陽性ニューロン数を数え、その割合を計算した。
(3)ウェスタンブロッティング
採取したDRGをプロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤を含むバッファーでホモジネートし、各サンプルのタンパク質濃度を測定し、均一化した。SDS-PAGEで分離した後、PVDFメンブレンに転写、メンブレンはブロッキング後、一次抗体・二次抗体でインキュベートした。Western Blotting Detection Kitを用いて可視化し、Image-Jを使用してbandのシグナル測定・解析を行った。
【0085】
薬物投与
全身投与する方法として、腹腔内投与を用いた。投与量は参考文献1及び3を基に決定した。いずれの投与も1回の投与総量を1mLとなるように生理食塩水で希釈した。
【0086】
データ解析
統計解析は、GraphPad Prismソフトウェア等を用い、データの形式に従って適切な方法を用いて実施した。p<0.05を統計学的に有意であるとみなした。
【0087】
結果
(1)急性痛に対する鎮痛効果
<機械刺激:mechanical sensitivity>
・モルヒネ3mg/kg(M3)の投与後1時間(25h)及び4時間(28h)の鎮痛効果はビヒクル群に比べて有意(いずれもp<0.01)に高かった。
・モルヒネ1mg/kg(M1)の投与後1時間(25h)及び4時間(28h)の鎮痛効果はビヒクル群に比べて有意(p<0.01、p<0.05)に高かった。
・モルヒネ0.3mg/kg(M0.3)の投与後1時間(25h)の鎮痛効果はビヒクル群に比べて有意(p<0.05)に高かった。
・ホスフェニトイン30mg/kg(F30)の投与後1時間(25h)及び4時間(28h)の鎮痛効果はビヒクル群に比べて有意(いずれもp<0.01)に高かった。
・ホスフェニトイン10mg/kg(F10)の投与後1時間(25h)及び4時間(28h)の鎮痛効果はビヒクル群に比べて有意(p<0.05、p<0.01)に高かった。
・ホスフェニトイン3mg/kg(F3)の鎮痛効果はいずれの時点においてもビヒクル群に比べて有意な差は認められなかった。
【0088】
急性痛に対する鎮痛効果(機械刺激)の結果を図1に示す。
【0089】
<熱刺激:thermal sensitivity>
・モルヒネ3mg/kg(M3)の投与後1時間(25h)及び4時間(28h)の鎮痛効果はビヒクル群に比べて有意(いずれもp<0.01)に高かった。
・モルヒネ1mg/kg(M1)の投与後1時間(25h)の鎮痛効果はビヒクル群に比べて有意(p<0.01)に高かった。
・モルヒネ0.3mg/kg(M0.3)の鎮痛効果はいずれの時点においてもビヒクル群に比べて有意な差は認められなかった。
・ホスフェニトイン30mg/kg(F30)の投与後1時間(25h)の鎮痛効果はビヒクル群に比べて有意(p<0.01)に高かった。
・ホスフェニトイン10mg/kg(F10)及びホスフェニトイン3mg/kg(F3)の鎮痛効果はいずれの時点においてもビヒクル群に比べて有意な差は認められなかった。
【0090】
急性痛に対する鎮痛効果(熱刺激)の結果を図2に示す。
【0091】
(2)急性痛に対するモルヒネ鎮痛増強効果
<機械刺激:mechanical sensitivity>
・ホスフェニトイン10mg/kg+モルヒネ0.3mg/kg(F10+M0.3)及びホスフェニトイン10mg/kg+モルヒネ1mg/kg(F10+M1)の投与後1時間(25h)及び4時間(28h)の鎮痛効果は、モルヒネ3mg/kg(M3)比べいずれも有意(いずれもp<0.01)に低かった(図3)。
・ホスフェニトイン10mg/kg+モルヒネ1mg/kg(F10+M1)の投与後1時間(25h)及び4時間(28h)の鎮痛効果は、モルヒネ1mg/kg(M1)に比べいずれも有意(いずれもp<0.05)に高く、鎮痛増強効果が認められた(図4-A)。
・ホスフェニトイン10mg/kg+モルヒネ0.3mg/kg(F10+M0.3)の投与後4時間(28h)の鎮痛効果は、モルヒネ0.3mg/kg(M0.3)に比べ有意(p<0.01)に高く、鎮痛増強効果が認められた(図4-B)。
【0092】
<熱刺激:thermal sensitivity>
・ホスフェニトイン10mg/kg+モルヒネ0.3mg/kg(F10+M0.3)の投与後1時間(25h)及び4時間(28h)の鎮痛効果は、モルヒネ3mg/kg(M3)に比べいずれも有意(p<0.01、p<0.05)に低かった(図5)。
・ホスフェニトイン10mg/kg+モルヒネ1mg/kg(F10+M1)の投与後4時間(28h)の鎮痛効果は、モルヒネ1mg/kg(M1)に比べ有意(p<0.05)に高く、鎮痛増強効果が認められた(図6-A)。
・ ホスフェニトイン10mg/kg+モルヒネ0.3mg/kg(F10+M0.3)の投与後4時間(28h)の鎮痛効果は、モルヒネ0.3mg/kg(M0.3)に比べ有意(p<0.05)に高く、鎮痛増強効果が認められた(図6-B)。
【0093】
(3)急性痛時のpERK1/2発現抑制効果
<免疫組織化学法>
・ビヒクル群と比較してホスフェニトイン30mg/kg(F30)は、全体の陽性ニューロン数の割合において有意(p<0.01)な低下が認められた(図8)。
・モルヒネ3mg/kg(M3)の全体の陽性ニューロン数の割合は、ビヒクル群と同程度であった(図8)。
・ビヒクル群と比較してホスフェニトイン30mg/kg(F30)は、pERK+/3PGDH+の比率において有意(p<0.01)な低下が認められた(図9)。
・モルヒネ3mg/kg(M3)のpERK+/3PGDH+の比率は、ビヒクル群と同程度であった(図9)。
【0094】
<ウェスタンブロッティング>
・Western Blotting Detection Kitによるバンド画像を示す(図10左図)。
・ビヒクル群と比較してホスフェニトイン30mg/kg(F30)は、pERK/GAPDHの比率において、有意(p<0.05)な低下が認められた(図10右図)。
・モルヒネ3mg/kg(M3)のpERK+/3PGDH+のpERK/GAPDHの比率は、ビヒクル群と同程度であった(図10右図)。
【0095】
上記の試験により、ホスフェニトイン10mg/kgの腹腔内投与はモルヒネ1mg/kgの腹腔内投与とほぼ同等の鎮痛効果を認めた。
【0096】
モルヒネは、激しい疼痛時における鎮痛・鎮静に効能効果を有し、このときの用法用量は成人において1回5-10mgの皮下投与である。本試験ではモルヒネ1mg/kgを腹腔内投与した。投与経路は異なるものの、体重換算としてヒト成人(体重50kgとして)においてモルヒネ50mgの単回投与と同等の強い鎮痛効果が得られている。
【0097】
さらに、ホスフェニトイン10mg/kgをモルヒネ1mg/kgならびに0.3mg/kgと併用することにより、モルヒネ1mg/kgおよび0.3mg/kgの単独投与に比べ鎮痛効果の増強が認められた。
【0098】
足底切開刺激は一次知覚神経を活性化し、神経感作によって急性痛の増悪や術後痛の慢性化を引き起こす。一次知覚神経活性化の指標としてリン酸化ERK(pERK)を用いてホスフェニトインの神経感作抑制効果をモルヒネと比較した。pERKの発現は術後痛モデルの一次知覚神経において、ニューロン、グリアともに有意な上昇を認めた。ホスフェニトイン30mg/kgの投与によりpERKの発現は有意に抑制されたが、モルヒネ3mg/kgでは抑制されなかった。このことから、モルヒネは神経感作を抑制しないが、ホスフェニトインは効果的に抑制することが示され、ホスフェニトインはすぐれた作用機序により疼痛の抑制をもたらすことが明らかである。
【0099】
これらの結果より、術後痛患者に対し、ホスフェニトインは単独で優れた鎮痛効果を発揮する可能性が示されただけでなく、オピオイドと併用することでその使用量を減少させる効果が期待できる。
【0100】
本試験においてはホスフェニトインやモルヒネを腹腔内投与している。一般的に腹腔内投与では血中濃度の上昇が静脈内投与よりも緩徐であり、最高血中濃度が低くなることが見込まれる。このため、静脈内投与では同様の用量を用いてもより強い効果が生じる可能性がある。
【0101】
図1~6、及び8~10のグラフ作成の元の数値データを以下に示す。表1~11において、「H」は「時間」を、「Av.」は「平均値」をそれぞれ示す。
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
【表7】
【0108】
【表8】
【0109】
【表9】
【0110】
【表10】
【0111】
【表11】
【0112】
参考文献
1)Takasaki I, et al. Fosphenytoin alleviates herpes simplex virus infection-induced provoked and spontaneous pain-like behaviors in mice. Biol Pharm Bull. 2022;45(3):360-363.
2)Yamakita S, et al. Synergistic activation of ERK1/2 between A-fiber neurons and glial cells in the DRG contributes to pain hypersensitivity after tissue injury. Mol Pain. 2018;14:174480691876750.
3)Sanna MD, et al. Regionally selective activation of ERK and JNK in morphine paradoxical hyperalgesia: a step toward improving opioid pain therapy. Neuropharmacology. 2014;86:67-77.
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の治療薬は、急性痛、特に、術後急性痛の治療薬となり得、幅広い患者に適応可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
図1】機械刺激での急性痛に対する鎮痛効果を示す。
図2】熱刺激での急性痛に対する鎮痛効果を示す。
図3】機械刺激での急性痛に対するモルヒネ鎮痛増強効果を示す。
図4】機械刺激での急性痛に対するモルヒネ鎮痛増強効果を示す。(A)は、モルヒネ1mg/kgであり、(B)は、モルヒネ0.3mg/kgである。
図5】熱刺激での急性痛に対するモルヒネ鎮痛増強効果を示す。
図6】熱刺激での急性痛に対するモルヒネ鎮痛増強効果を示す。(A)は、モルヒネ1mg/kgであり、(B)は、モルヒネ0.3mg/kgである。
図7】デジタルカメラ付き蛍光顕微鏡を用いた画像である。
図8】全体の陽性ニューロン数の割合を示す。
図9】pERK陽性/3PGDH陽性の比率を示す。
図10】Western Blotting Detection Kitによるband画像(左図)及びpERK/GAPDHの比率(右図)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10