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特開2024-165976有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散方法及び有機修飾ナノ粒子分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024165976
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散方法及び有機修飾ナノ粒子分散液
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/00 20060101AFI20241121BHJP
   B01D 11/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B01J13/00 B
B01D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082624
(22)【出願日】2023-05-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本研究は、日本学術振興会・科研費(課題番号:JP16H06367)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、WPI-AIMR、東北大学WPI-AIMRの助成により実施されたものです。 文部科学省「世界トップレベル研究拠点プログラム」、文部科学省「材料プロセス科学プロジェクト」(助成番号 JPMXP0219192801)。
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】518268798
【氏名又は名称】株式会社スーパーナノデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】阿尻 雅文
(72)【発明者】
【氏名】猪股 宏
(72)【発明者】
【氏名】笘居 高明
(72)【発明者】
【氏名】横 哲
(72)【発明者】
【氏名】成 基明
(72)【発明者】
【氏名】高尾 研治
(72)【発明者】
【氏名】中西 亮
【テーマコード(参考)】
4D056
4G065
【Fターム(参考)】
4D056AB17
4D056AC24
4D056BA16
4D056CA31
4D056CA39
4G065AA06
4G065AB01X
4G065AB11X
4G065BB01
4G065BB06
4G065CA11
4G065DA02
4G065DA04
4G065DA06
4G065DA09
4G065EA03
4G065FA02
(57)【要約】
【課題】相対的に分子量の大きい溶媒に対しても有機修飾ナノ粒子を分散可能にし、溶媒選択の自由度を高めることを可能にする。
【解決手段】本発明は、有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散方法であり、表面に有機修飾基を有する有機修飾ナノ粒子を溶媒に分散させる分散工程を含む。溶媒には、有機修飾ナノ粒子に対して難分散性である難分散性溶媒と、所定の分子とが含まれている。ファンデルワールス体積に関し、分散処理工程での温度・圧力下における所定の分子のファンデルワールス体積は、溶媒のそれよりも小さく、有機修飾基のそれよりも小さく、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δに関し、当該圧力での有機修飾ナノ粒子の値と所定の分子の値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下であり、当該圧力での有機修飾ナノ粒子の値と所定の分子を含む難分散性混合溶媒の値との差が1.2 MPa1/2以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に有機修飾基を有する有機修飾ナノ粒子を溶媒に分散させる分散工程を含み、
前記溶媒には、前記有機修飾ナノ粒子に対して難分散性である難分散性溶媒と、第三成分としての所定の分子とが含まれており、
ファンデルワールス体積に関し、
分散処理温度及び圧力下において、前記溶媒の表面に接する前記所定の分子のファンデルワールス体積は、前記温度及び圧力での前記難分散性溶媒のファンデルワールス体積よりも小さく、
前記温度及び圧力での前記所定の分子のファンデルワールス体積は、前記温度及び圧力での前記有機修飾基のファンデルワールス体積よりも小さく、
ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δDに関し、
前記温度及び圧力での前記有機修飾基の分散力項δDの値と前記所定の分子の分散力項δDの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下であり、
前記温度及び圧力での前記所定の分子の分散力項δDの値と前記難分散性溶媒の分散力項δDの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下であり、
有機修飾層の自由体積の増大を誘起させる、有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散方法。
【請求項2】
前記分散工程は、前記有機修飾ナノ粒子を前記溶媒に入れた状態で前記第三成分を高濃度化することで前記有機修飾ナノ粒子の前記溶媒への分散を加速する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分散工程は、前記有機修飾ナノ粒子を前記溶媒に入れた状態で所定圧力に加圧して分散する工程を含み、
前記溶媒の表面に接する気体の温度及び圧力が所定温度及び前記所定圧力である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記有機修飾ナノ粒子が精製されたナノ粒子である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の分子は、二酸化炭素、炭化水素系化合物、窒素酸化物系化合物、フロンガスのいずれかから選択される気体又は液化ガスであり、
前記所定圧力が0.5 MPa以上の加圧状態、あるいは分散処理温度での飽和蒸気圧以上(ただし、分散処理温度が臨界温度以上である場合は臨界圧以上)である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒は、前記難分散性溶媒及び前記所定の分子を含む混合溶媒であり、
前記難分散性溶媒が主溶媒であり、前記所定の分子が助溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有機修飾ナノ粒子は、前記所定の分子として複数種類の有機修飾基を表面に有し、
前記分散工程における温度及び圧力下での有機修飾分子層の自由体積は、それぞれ単一種の有機修飾分子層の自由体積よりも大きく、かつ、有機修飾分子層の自由体積は、前記溶媒分子のファンデルワールス体積よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
表面に有機修飾基を有する有機修飾ナノ粒子が溶媒に分散されており、
前記溶媒は、前記有機修飾ナノ粒子に対して難分散性である難分散性溶媒と、第三成分としての所定の分子とを含み、
前記有機修飾ナノ粒子の濃度が1重量%であるときの波長450 nmにおける透過度が0.8以上である、有機修飾ナノ粒子分散液。
【請求項9】
前記所定の分子は、二酸化炭素、炭化水素系化合物、窒素酸化物系化合物、フロンガスのいずれかから選択される気体又は液化ガスであり、
前記有機修飾ナノ粒子分散液は、0.5 MPa以上の所定圧力に加圧された圧力容器の中に収容されている、請求項8に記載の分散液。
【請求項10】
ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δDに関し、分散液の温度及び圧力下での前記所定の分子及び前記溶媒の分子を含む前記機修飾ナノ粒子の分散力項δDの値と前記所定圧力での前記混合溶媒の分散力項δDの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下である、請求項9に記載の分散液。
【請求項11】
前記溶媒は、第1溶媒及び第2溶媒を含む混合溶媒であり、
前記第1溶媒は、前記有機修飾ナノ粒子に対して難分散性の主溶媒であり、
ガスの場合を含む前記第2溶媒は、分散液の温度及び圧力下でのファンデルワールス体積が前記有機修飾ナノ粒子の有機修飾分子層のファンデルワールス体積よりも小さく、かつ、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δDに関し、前記温度及び圧力での前記有機修飾ナノ粒子の分散力項δDの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下の助溶媒である、請求項8に記載の分散液。
【請求項12】
前記有機修飾ナノ粒子は、前記所定の分子として複数種類の有機修飾基を表面に有し、
有機修飾分子層の自由体積は溶媒分子のファンデルワールス体積よりも大きく、かつ、有機修飾分子層の自由体積はそれぞれ単一種の有機修飾分子層の自由体積よりも大きい、請求項8に記載の分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散方法及び有機修飾ナノ粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子、特にナノメーターサイズの粒子(ナノ粒子)は、様々な特有の優れた性状・特性・機能を示すことから、材料・製品のすべてに対して、現状よりも高精度で、より小型化、より軽量化の要求を満たしている技術を実現するものとして期待されている。このようにナノ粒子は、セラミックスのナノ構造改質材、光機能コーティング材、電磁波遮蔽材料、二次電池用材料、蛍光材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料などの産業・工業材料、医薬品・化粧品材料などの高機能・高性能・高密度・高度精密化を可能にするものとして注目されている。最近のナノ粒子に関する基礎研究から、ナノ粒子の量子サイズ効果による超高機能性や新しい物性の発現、新物質の合成などの発見も相次いでいることから産業界からも大きな関心を集めている。
【0003】
このような特性を維持するためには、ナノ粒子は個々の構造を保持する必要がある。しかし、ナノ粒子は溶媒中で取り扱われることが多いため、高い表面エネルギーに起因する溶液相での凝集をいかに防ぐかが重要である。凝集によって引き起こされる粘性を制御できれば、ナノ粒子のユニットオペレーションが容易になる。
【0004】
そこで、ナノ粒子の表面改質により、ナノ粒子と溶媒の分子間相互作用を変化させる方法がある。この方法では、目的の溶媒へのナノ粒子の分散を促進することで、凝集を防ぐことができる。有機修飾されたナノ粒子を大量連続合成する有機修飾ナノ粒子合成法としては、金属酸化物ナノ粒子の回収又は収集法として、高温高圧水を反応場として、金属酸化物ナノ粒子表面と有機修飾剤とを反応せしめ、置換されていてもよいし非置換のものであってよい炭化水素基を共有結合、あるいはエーテル結合、エステル結合、N原子を介した結合、S原子を介した結合、金属-C-の結合、金属-C=の結合及び金属-(C=O)-の結合からなる群から選ばれたものを介してナノ粒子の表面に結合せしめてナノ粒子の表面を有機修飾し、
(1)水溶液に分散させた金属酸化物ナノ粒子を沈殿させて回収すること、
(2)水溶液に分散させた金属酸化物ナノ粒子を有機溶媒中へ移行せしめて回収すること、又は
(3)有機溶媒相-水相界面に金属酸化物ナノ粒子を集めること、
を特徴とする方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3925936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれの有機修飾ナノ粒子の分散法においても、有機修飾基と溶媒との親和性を上げることが重要である。化学的な親和性向上には、有機修飾分子と溶媒分子とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)差を小さくすることが重要である。しかし、それだけでは、ナノ粒子の分散性を予測することはできない。最近の研究により、溶媒分子の分子体積も重要な因子であることが報告されている。さらには、最近の計算科学の推算結果によれば、有機修飾基の自己秩序化構造形成が、結果として溶媒との化学的相互作用を低下させることも報告されている。
【0007】
これらの効果を考慮すれば、これまでの技術では、化学的親和性が高く、かつ相対的に分子量の小さい溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散できるにとどまり、相対的に分子量の大きい溶媒には有機修飾ナノ粒子を分散できないことが理解できる。つまり、相対的に分子量の大きく、難分散性溶媒に対しても有機修飾ナノ粒子を分散可能な技術を提供することが求められており、またそれが可能となれば溶媒選択の自由度を高めることができる。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、相対的に分子量の大きい溶媒に対しても有機修飾ナノ粒子を分散可能にし、溶媒選択の自由度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、相対的に分子量の大きく難分散性の溶媒に第三成分として所定の分子を加えることで有機修飾ナノ粒子を分散できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0010】
第1の特徴に係る発明は、表面に有機修飾基を有する有機修飾ナノ粒子を溶媒に分散させる分散工程を含み、前記溶媒には、前記有機修飾ナノ粒子に対して難分散性である難分散性溶媒と、第三成分としての所定の分子とが含まれており、ファンデルワールス体積に関し、分散処理温度及び圧力下において、前記溶媒の表面に接する前記所定の分子のファンデルワールス体積は、前記温度及び圧力での前記難分散性溶媒のファンデルワールス体積よりも小さく、前記温度及び圧力での前記所定の分子のファンデルワールス体積は、前記温度及び圧力での前記有機修飾基のファンデルワールス体積よりも小さく、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δに関し、前記温度及び圧力での前記有機修飾基の分散力項δの値と前記所定の分子の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下であり、前記温度及び圧力での前記所定の分子の分散力項δの値と前記難分散性溶媒の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下であり、有機修飾層の自由体積の増大を誘起させる、有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散方法を提供する。
【0011】
第三成分としての所定の分子を含まない状態での難分散性溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させることは、できない。これは、難分散性溶媒のファンデルワールス体積が有機修飾基によってできた空隙の体積よりも大きく、あるいは有機修飾層の自由体積が小さく溶媒分子を包含できず、有機修飾ナノ粒子に対して易溶性を示すことができないか、あるいは、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δに関し、分散処理温度及び圧力下での有機修飾基の分散力項δの値と難分散性溶媒の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2を超えることを意味する。
【0012】
第1の特徴に係る発明によると、第三成分としての所定の分子のファンデルワールス体積は、溶媒のファンデルワールス体積よりも小さく、また、有機修飾ナノ粒子の修飾基のファンデルワールス体積よりも小さい。そのため、溶媒に所定の分子を加えると、有機修飾ナノ粒子の修飾基に所定の分子が配位し、混合溶媒と有機修飾ナノ粒子それぞれの分散力項δの値との差の絶対値を1.2 MPa1/2以下に低下し、親和性を飛躍的に向上させることができる。第三成分が修飾有機分子に配位すれば、修飾有機分子の自己組織化を抑制できそれにより有機分子層の自由体積を増大させ、溶媒分子の配位を促進させるため、有機修飾ナノ粒子の溶媒との親和性を飛躍的に向上させることができる。
【0013】
第1の特徴に係る発明によると、相対的に分子量の大きい溶媒に対しても有機修飾ナノ粒子を分散可能になるため、結果として溶媒選択の自由度が高まる。
【0014】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記分散工程は、前記有機修飾ナノ粒子を前記溶媒に入れた状態で前記第三成分を高濃度化することで前記有機修飾ナノ粒子の前記溶媒への分散を加速する工程を含む方法を提供する。この方法は、分散工程の前段プロセスとして、有機修飾ナノ粒子を予め高濃度の前記第三成分と接触させることで、一定時間、前記有機修飾ナノ粒子の前記溶媒への良好な分散を可能とする方法を提供に相当する。すなわち、第1の特徴に係る発明が平衡論的な発明であるのに対し、第2の特徴に係る発明は、速度論的な分散工程に関する発明である。
【0015】
高濃度の前記第三成分と予め接触させることで、第三成分は前記有機修飾ナノ粒子の有機修飾層に配位する。第三成分を含有した有機修飾基のハンセン溶解度パラメータの分散力項δと前記溶媒分子の分散項δとの差の絶対値は大幅に減少させることができ、これにより、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった相対的に分子量の大きい溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。
【0016】
分散工程において、上記調整工程の温度圧力とは異なる、あるいは新たな分散溶媒を用いる場合、平衡論的に配位した第三成分は脱離、拡散、放出され、分散性は低下するが、その時定数以内では分散性を維持させることができるため、速度論的な意味で分散工程が有効性を向上させ得る。
【0017】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記分散工程は、前記有機修飾ナノ粒子を前記溶媒に入れた状態で所定圧力に加圧して分散する工程を含み、前記溶媒の表面に接する気体の温度及び圧力が所定温度及び前記所定圧力である、方法を提供する。
【0018】
難分散性溶媒及び第三成分を含む溶媒を所定のガス存在下で所定圧力に加圧することで、ガスは溶媒に溶解し、そのため混合溶媒の自由体積は、加圧前に比べて大きくなる。また、有機修飾ナノ粒子の修飾基にもガスは分配されることで、有機修飾層の自由体積は大きくなり、また修飾基のハンセン溶解度パラメータの分散力項δと混合溶媒の分散力項δとの差の絶対値も低くなる。これらにより、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。常圧(0.1 MPa)にすれば、ガスは脱離、拡散脱離するが、1 h~14 h以上の間高分散性を維持することができる。
【0019】
第4の特徴に係る発明は、第3の特徴に係る発明であって、前記有機修飾ナノ粒子が精製されたナノ粒子である方法を提供する。
【0020】
一般に、有機修飾ナノ粒子の合成プロセスでは、洗浄工程後も、若干の不純物や修飾されていない修飾分子が物理吸着されていることが多いが、第4の特徴に係る発明の工程においては、これらの不純物が高圧ガスに置換・分離されるため、精密洗浄工程の負荷を大幅に削減させることができる。
【0021】
第4の特徴に係る発明によれば、精製が良好でない有機修飾ナノ粒子の分散と比較して、良好な分散が可能とし、分散後、常圧(0.1 MPa)に除圧した後であっても、14 h以上分散状態を保つことができる。
【0022】
第5の特徴に係る発明は、第3又は第4の特徴に係る発明であって、前記所定の分子は、二酸化炭素、炭化水素系化合物、窒素酸化物系化合物、フロンガスのいずれかから選択される気体又は液化ガスであり、前記所定圧力が0.5 MPa以上の加圧状態、あるいは分散処理温度での飽和蒸気圧以上(ただし、分散処理温度が臨界温度以上である場合は臨界圧以上)である、方法を提供する。
【0023】
有機修飾ナノ粒子を含有する溶液には、不純物や未反応の修飾分子が含まれ、それが有機修飾ナノ粒子の分散性を低下させる場合がある。第5の特徴に係る発明によると、高圧ガスが十分な圧力を有し、液化ガス状態あるいは、臨界圧以上の超臨界流体とすることでガスは溶解力を有するようになり、溶液に含まれる不純物が二酸化炭素等の高圧ガスによって抽出されるため、有機修飾ナノ粒子の無極性溶媒への分散性が高まり、結果として溶媒選択の自由度が高まる。
【0024】
第6の特徴に係る発明は、第1から第5のいずれかの特徴に係る発明であって、前記溶媒は、前記難分散性溶媒及び前記所定の分子を含む混合溶媒であり、前記難分散性溶媒が主溶媒であり、前記所定の分子が助溶媒である方法を提供する。
【0025】
難分散性溶媒は、有機修飾ナノ粒子に対して難分散性であり、当該難分散性溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させることができない。
【0026】
分子溶解系では、エントレーナ効果に代表されるように、少量の助溶媒を加えることで、主溶媒と溶質との親和性が向上し、溶解性が増す。第6の特徴に係る発明によると、難分散性溶媒に助溶媒が添加されたことで、混合溶媒のハンセン溶解度パラメータの分散力項δと分散処理温度及び圧力下での有機修飾基の分散力項δの値との差の絶対値が低くなる。助溶媒は、有機修飾基にも配位・分配され、分散項δとの差の絶対値はさらに低くなり、1.2 MPa1/2以下となる。このため、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。
【0027】
第6の特徴に係る発明によると、相対的に分子量の大きく難分散性溶媒に対しても有機修飾ナノ粒子を分散可能になるため、結果として溶媒選択の自由度が高まる。
【0028】
第7の特徴に係る発明は、第1から第6のいずれかの特徴に係る発明であって、前記有機修飾ナノ粒子は、前記所定の分子として複数種類の有機修飾基を表面に有し、前記分散工程における温度及び圧力下での有機修飾分子層の自由体積は、それぞれ単一種の有機修飾分子層の自由体積よりも大きく、かつ、有機修飾分子層の自由体積は、前記溶媒分子のファンデルワールス体積よりも小さい、方法を提供する。
【0029】
修飾基が1種だけの場合は、有機修飾ナノ粒子の分散性の支配因子は、溶媒分子と修飾分子層との化学的親和性である。例えば、仮にハンセン溶解度パラメータのδが溶媒のハンセン溶解度パラメータとの差の絶対値が小さくても、溶媒のファンデルワールス体積が有機修飾ナノ粒子の分散性を示す範囲よりも大きければ、当該溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させることができない。
【0030】
第7の特徴に係る発明によれば、さらに有機修飾層の自由体積の制御により有機修飾ナノ粒子の分散性が決まる。
【0031】
表面が複数種類の有機修飾剤によって修飾されており、第1、第2修飾基のファンデルワールス体積は、溶媒のファンデルワールス体積に関わらず、これらの修飾基あるいはそれ以外の修飾基との間に形成される空隙の体積(分子ポケット)は溶媒のファンデルワールス体積よりも大きい場合には、ファンデルワールス体積が大きな溶媒分子も、有機修飾ナノ粒子に取り込まれることとなり、その結果有機修飾ナノ粒子の性質は溶媒分子に近くなり、親和性が大きく向上する。これにより、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった相対的に分子量の大きい溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。
【0032】
近年の計算科学等の分子論的研究により、有機修飾ナノ粒子の分散性が有機修飾基あるいは溶媒分子の自己秩序化に大きく依存することが分かってきている。
【0033】
自己秩序化は分子が固相様の構造を形成することに相当し、固化した分子の溶媒への溶解性は著しく低下することは周知である。自己秩序化の解除は、固相から液相への変化を同値であり、それにより分子運動の自由度が上がると、溶媒分子の抱き込みも促進されることとなり、それが粒子の溶媒中分散性をあげることにつながる。第1の発明による第三成分の添加効果は、凝固点の変化も生じさせる。第三成分を添加することで融点は低下し、同じ温度でも液相を形成させうることは、融雪剤効果等で良く知られている。液相への第三成分の入り込みといった物理的効果のみならず、有機分子層の凝固点効果、すなわち自己秩序化解除、すなわち有機分子の運動自由度の向上(液相転移)にもつながる。
【0034】
第7の特徴に係る発明のように、自己秩序化の抑制は、有機分子層の構造設計によっても可能である。複数種類の分子を修飾させることで、修飾分子は自己秩序化しにくい構造となる。そのためには、それぞれの分子ごとに、ドメイン構造が形成されると、ドメイン内で自己秩序化が進むが、ランダムに修飾されれば、自己秩序化構造形成は抑制される。修飾分子の自由体積の大きさで既定でき、大きければ結晶化しにくくなる。ランダムな修飾には、例えば超臨界水熱合成場のように、修飾分子が均一相を形成しつつ、また表面では吸脱着を繰り返しつつ、表面で結合形成を生じさせる工程が有効である。原理的に分子が自由運動をしつつ構造形成するわけだから、自由体積が大きくなるのは当然である。それに対し、より低温で自己秩序化が生じやすい条件での有機修飾は、同量だけ修飾したとしても、自由体積は低いものとなる。
【0035】
複数種分子の有機修飾としては、先に説明した、物理的な溶媒取り込みを容易とする、空隙構造形成とまた自由体積を増大させる構造形成の両方の効果を最適化することで、より溶媒との親和性を大きく向上させることが可能となる。
【0036】
第8の特徴に係る発明は、表面に有機修飾基を有する有機修飾ナノ粒子が溶媒に分散されており、前記溶媒は、前記有機修飾ナノ粒子に対して難分散性である難分散性溶媒と、第三成分としての所定の分子とを含み、前記有機修飾ナノ粒子の濃度が1重量%であるときの波長450 nmにおける透過度が0.8以上である、有機修飾ナノ粒子分散液を提供する。
【0037】
第8の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明(方法発明)のカテゴリー違い(物の発明)に相当する。この有機修飾ナノ粒子分散液は、有機修飾ナノ粒子の濃度が1重量%であるときの波長450 nmにおける透過度が0.8 以上になる程度の透明度を有する。よって、第8の特徴に係る発明によると、相対的に分子量の大きい溶媒に分散された有機修飾ナノ粒子分散液を提供できる。
【0038】
第9の特徴に係る発明は、第8の特徴に係る発明であって、前記所定の分子は、二酸化炭素、炭化水素系化合物、窒素酸化物系化合物、フロンガスのいずれかから選択される気体又は液化ガスであり、前記有機修飾ナノ粒子分散液は、0.5 MPa以上の所定圧力に加圧された圧力容器の中に収容されている、分散液を提供する。
【0039】
使用時に減圧されれば、修飾分子及び溶媒中に分配されたガスは脱離、拡散、放出されるため、徐々にその分散性は低下するが、その脱離の時定数以内、すなわち1 hから14 h以上その分散性は維持されるため、本来、分散が困難な場合にも、分散作業が可能となる。
【0040】
有機修飾ナノ粒子を含有する溶液には、不純物や未反応の修飾剤が物理吸着しており、それが有機修飾ナノ粒子の分散性を低下させる場合がある。第9の特徴に係る発明によると、溶液に含まれる不純物が二酸化炭素等の高圧ガスによって、置換・分離されるため、有機修飾ナノ粒子の無極性溶媒への分散性が高まり、結果として溶媒選択の自由度が高まる。
【0041】
第10の特徴に係る発明は、第8又は第9の特徴に係る発明であって、ガスを封入した分散液を含め、提供する分散液の温度及び圧力における、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δに関し、前記所定の分子、ガスを含む前記有機修飾ナノ粒子の分散力項δの値と封入温度圧力における混合溶媒の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下である、分散液を提供する。
【0042】
第10の特徴に係る発明によると、相対的に分子量の大きい溶媒に分散された有機修飾ナノ粒子分散液を提供できる。
【0043】
第11の特徴に係る発明は、第8から第10のいずれかの特徴に係る発明であって、前記溶媒は、第1溶媒及び第2溶媒を含む混合溶媒であり、前記第1溶媒は、前記有機修飾ナノ粒子に対して難分散性の主溶媒であり、ガスの場合を含む前記第2溶媒は、分散液の温度及び圧力下でのファンデルワールス体積が前記有機修飾ナノ粒子の有機修飾分子層のファンデルワールス体積よりも小さく、かつ、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δに関し、前記温度及び圧力での前記有機修飾ナノ粒子の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下の助溶媒である、分散液を提供する。
【0044】
第11の特徴に係る発明によると、相対的に分子量の大きく一般に難分散性の溶媒に分散された有機修飾ナノ粒子分散液を提供できる。
【0045】
第12の特徴に係る発明は、第8又は第9の特徴に係る発明であって、前記有機修飾ナノ粒子は、前記所定の分子として複数種類の有機修飾基を表面に有し、有機修飾分子層の自由体積は溶媒分子のファンデルワールス体積よりも大きく、かつ、有機修飾分子層の自由体積はそれぞれ単一種の有機修飾分子層の自由体積よりも大きい分散液を提供する。
【0046】
溶媒のファンデルワールス体積は、複数種類の有機修飾基の1つである第1修飾基に対して易溶性を示す範囲よりも大きい。そのため、第1修飾基のみを有する有機修飾ナノ粒子について、仮に有機修飾基のハンセン溶解度パラメータδと溶媒分子のハンセン溶解度パラメータδとの差の絶対値が小さくても、当該溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させることができない。
【0047】
第12の特徴に係る発明によると、表面に複数種類の有機修飾基を有し、第2修飾基のファンデルワールス体積は、溶媒のファンデルワールス体積よりも大きい。これにより、ファンデルワールス体積が大きな溶媒分子とも相互作用しやすい修飾鎖配置(分子ポケット)が作成され、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった相対的に分子量の大きい溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。また、複数分子が修飾層に共存することで、単一分子だけの場合と比較して自己組織化が生じにくくなり、自由体積が増大し、それにより溶媒分子を配位しやすくなり、分散性を上げることができる。これにより、第12の特徴に係る発明によると、相対的に分子量の大きい溶媒に分散された有機修飾ナノ粒子の分散液を提供できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によると、相対的に分子量の大きい溶媒に対しても有機修飾ナノ粒子を分散可能にし、溶媒選択の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、試験例1で用いた装置の概略模式図である。
図2図2は、試験例1における圧力の設定条件を示す図である。
図3図3は、実施例1の試験結果を示す図である。
図4図4は、各種溶媒について、ハンセン溶解度パラメータのうち極性項δと分散力項δを可視化した相関図である。
図5図5は、各種溶媒について、ファンデルワールス体積とハンセン溶解度パラメータの分散力項δを可視化した相関図である。
図6図6は、デカン又はシクロヘキサンと二酸化炭素との混合系における二酸化炭素の圧力とハンセン溶解度パラメータの分散力項δ及びファンデルワールス体積との関係を示す図である。
図7図7は、試験例2等で用いた装置の概略模式図である。
図8図8は、試験例2における圧力の設定条件を示す図である。
図9図9は、分光光度計による照射光の波長と測定サンプル(実施例2)の吸光度との関係を示す図である。
図10図10は、分光光度計による照射光の波長と測定サンプル(実施例1)の吸光度との関係を示す図である。
図11図11は、測定サンプルが実施例2で用いた洗浄後デカン酸修飾ナノ粒子である場合におけるCOの除圧を開始してからの経過時間と波長450 nmでの吸光度との関係を示す図である。
図12図12は、測定サンプルが実施例1で用いた洗浄前デカン酸修飾ナノ粒子である場合における照射光の波長と測定サンプルの吸光度との関係を示す。
図13図13は、実施例3の試験結果、すなわち、COの添加を開始してからの経過時間と波長450 nmでの吸光度との関係を示す図である。
図14図14は、デカン酸とステアリン酸の両方で修飾した複合有機修飾ナノ粒子のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0051】
<有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散方法>
本実施形態に記載の発明は、公知の手法(例えば、特許4336856号に記載の手法)によって得られた有機修飾ナノ粒子を相対的に分子量の大きい溶媒に対しても分散可能にする方法である。本実施形態に記載の発明は、表面に有機修飾基を有する有機修飾ナノ粒子を溶媒に分散させる分散工程を含む。
【0052】
〔有機修飾ナノ粒子〕
有機修飾ナノ粒子の種類は特に限定されず、例えば、特許4336856号に記載の手法によって得られた有機修飾ナノ粒子が例示される。
【0053】
有機修飾基の種類は特に限定されず、置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換されていてもよい環式アルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい飽和又は不飽和の複素環式基等が挙げられる。
【0054】
置換基としては、例えば、カルボキシ基、シアノ基,ニトロ基、ハロゲン、エステル基、アミド基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アミノ基、スルホニル基、-O-、-NH-、-S-等が挙げられる。
【0055】
有機修飾ナノ粒子は、表面に1種類の有機修飾基をもつものであってもよいし、複数種類の有機修飾基をもつものであってもよい。
【0056】
〔溶媒〕
溶媒には、有機修飾ナノ粒子に対して難分散性である難分散性溶媒と、第三成分としての所定の分子とが含まれている。
【0057】
[難分散性溶媒]
本実施形態において、難分散性とは、有機修飾ナノ粒子を溶媒に分散したときに目視で濁りを確認できるものをいう。
【0058】
難分散性溶媒は、分散処理温度及び圧力下において有機修飾ナノ粒子に対して難分散性を有するものであれば特に限定されない。分散処理温度が常温であれば、分散処理温度は常温(25 ℃)であり、分散処理圧力が常圧であれば、分散処理圧力は常圧(0.1 MPa)である。
【0059】
難分散性溶媒として、例えば、ハンセン溶解度パラメータのうち極性項δが0である無極性溶媒を挙げることができる。当該無極性溶媒の具体例として、シクロヘキサン、シクロペンタン、ヘキサン、オクタン、ビシクロヘキシル、デカン、デカリン及びドデカン等が挙げられる。
【0060】
[所定の分子]
第三成分としての所定の分子のファンデルワールス体積は、分散処理温度及び圧力下において、当該分散処理温度及び圧力での難分散性溶媒のファンデルワールス体積よりも小さい。また、当該分散処理温度及び圧力での所定の分子のファンデルワールス体積は、前記有機修飾層の自由体積よりも小さい。
【0061】
溶媒が大気圧下に置かれているとき、分散処理圧力、すなわち溶媒の表面に接する気体の圧力は、常圧(0.1 MPa)である。溶媒が加圧された状態に置かれているとき、分散処理の温度圧力である。
【0062】
ファンデルワールス体積とは、その温度圧力における対象分子で占有される領域の体積をいう。自由体積とは、当該温度圧力で分子が自由に運動する空間体積からファンデルワールス体積を除いた体積をいう。
【0063】
第三成分としての所定の分子を含まない状態での溶媒は、有機修飾ナノ粒子に対して難分散性であり、当該溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させることができない。これは、溶媒のファンデルワールス体積は、有機修飾ナノ粒子に対して易溶性を示す範囲よりも大きいか、あるいは、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δに関し、有機修飾ナノ粒子の分散力項δの値と無極性溶媒の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2を超えることを意味する。
【0064】
ハンセン溶解度パラメータとは、Charles M. Hansenが1967年に発表した、物質の溶解性の予測に用いられる値をいい、分子体積あたりの分子間の分散力による分子間のエネルギー(分散力項δ)、分子間の双極子相互作用によるエネルギー(極性項δ)及び分子間の水素結合によるエネルギー(水素結合項δ)によって構成される。
【0065】
本実施形態において、第三成分としての所定の分子のファンデルワールス体積は、溶媒のファンデルワールス体積よりも小さく、また有機修飾ナノ粒子の修飾基の分散力項δの値と所定の分子の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下である。そのため、溶媒に所定の分子を加えることで良好な混合状態を得ることができ、その混合溶媒の平均ファンデルワールス体積を溶媒のファンデルワールス体積に比べて低く抑えることができ、分散力項δについても、有機修飾ナノ粒子の修飾基に所定の分子が配位することで、混合溶媒との親和性を飛躍的に向上させることが可能となり、その結果、混合溶媒と有機修飾ナノ粒子それぞれの分散力項δの値との差の絶対値を低く抑えることができる。さらに、第三成分の配位により、有機修飾層の自己秩序化は抑制され、それにより有機修飾層の自由体積は増大し、溶媒分子との親和性、ひいては有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散性はさらに向上する。
【0066】
(第1の態様)
第1の態様として、分散工程は、分散工程の前に、有機修飾ナノ粒子を溶媒に入れた状態で第三成分を高濃度化することで有機修飾ナノ粒子の溶媒への分散を加速する工程を含むことが好ましい。
【0067】
第三成分を高濃度化して有機修飾基に配位させることで、有機分子層の自己秩序化は抑制され自由体積は増大し、溶媒の配位を向上させうる。第三成分の配位により、有機修飾ナノ粒子のハンセン溶解度パラメータ分散力項δと溶媒の分散力項δとの差の絶対値はより低くなる。これにより、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった難分散性溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。
【0068】
所定の分子の種類は特に限定されるものではないが、ファンデルワールス体積が有機分子層の自由体積よりも小さいことが望ましく、両分散性溶媒分子であってもよい。ガスであっても良く、例えば、二酸化炭素、炭化水素系化合物、窒素酸化物系化合物、フロンガスのいずれかから選択される気体又は液化ガス等が挙げられる。
【0069】
炭化水素系化合物の種類は特に限定されないが、一般的には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、及びブタンを含む群における一以上の軽質炭化水素系化合物が挙げられる。
【0070】
窒素酸化物系化合物の種類は特に限定されないが、一般的には、一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化窒素、亜酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、及び五酸化二窒素を含む群における一以上が挙げられる。
【0071】
気体又は液化ガスを所定の分子とする場合、分散工程は、有機修飾ナノ粒子を前記溶媒に入れた状態で所定圧力に加圧して分散することが好ましい。難分散性溶媒を所定のガス存在下で所定温度圧力に加圧することで、ガス分子は溶媒に溶解して有機修飾基に分配される。そのため混合溶媒のハンセン溶解度パラメータは、有機修飾層の溶解度パラメータに近くなる。修飾層の分散力項δの値と混合溶媒の分散力項δの値との差の絶対値はより低くなる。これにより、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった相対的に分子量の大きい溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。
【0072】
加圧する際の圧力は、分散処理温度における飽和蒸気圧以上(ただし、分散処理温度が臨界温度以上である場合は、臨界圧以上)であることが好ましいが、難溶性溶媒あるいは所定の分子との混合溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散可能な程度であれば特に限定されない。例えば、圧力の下限は、0.5 MPa以上であることが好ましく、さらに高い圧力が効果的であるが操作性から至適圧力が決定される。
【0073】
圧力の上限は特に限定されないが、操作の簡便性及び安全性、及び設備の圧力容器、圧縮機のコストを考慮すると、圧力の上限は、20 MPa以下であることが好ましく、10 MPa
以下であることがより好ましい。
【0074】
難溶性溶媒あるいは所定の分子との混合溶媒をガス存在下で所定温度圧力に加圧することで、混合溶媒のハンセン溶解度パラメータ分散力項δと有機修飾ナノ粒子の分散力項δの値との差の絶対値もまた、より低くなる。またガスの共存により、有機分子層の自由体積はさらに増大し、溶媒との親和性はさらに大きくなる。
【0075】
有機修飾ナノ粒子を含有する溶液には、不純物や未反応の修飾分子が含まれ、それが有機修飾ナノ粒子の分散性を低下させる場合がある。高圧ガスが十分な圧力を有し、液化ガス状態あるいは、臨界圧以上の超臨界流体とすることでガスは溶解力を有するようになり、溶液に含まれる不純物が二酸化炭素等の高圧ガスによって抽出されるため、有機修飾ナノ粒子の難溶性溶媒への分散性が高まり、結果として溶媒選択の自由度が高まる。
【0076】
有機修飾ナノ粒子は、精製されたナノ粒子であることが好ましい。
【0077】
一般に、有機修飾ナノ粒子の精製は、ナノ粒子の粒子径や修飾率による分画により、有機修飾ナノ粒子の物性をそろえること、有機修飾の際に用いた有機分子の未反応分や洗浄工程で用いた洗浄溶剤を取り除くために行われる。精製の手法は特に限定されるものでなく、遠心分離、膜精製、溶媒抽出、クロマトグラフィー等、いずれであってもよい。
【0078】
ファンデルワールス体積及び自由体積は、ファンデルワールス状態方程式他の種々実在気体の状態方程式で液相、気相とも評価を行うことができる。あらゆる物質の物性値、臨界定数は、物性評価から入手できる。未知の物質についても、グループ寄与法を用いて構成分子の物性値を用いて推算が可能である。
ガスを含め第三成分が共存した場合の有機修飾分子あるいは溶媒への分配、すなわち相平衡推算には、さらに分子間の相互作用パラメータが必要であるが、データベースから評価するか、ハンセン溶解度パラメータの差から評価できる。これにより、各成分について体積分率φiを評価できるから、多成分が共存した場合の平均溶解度パラメータ、平均ファンデルワールス体積と自由体積を評価できる。
【数1】
【数2】
式中、φは、液相での体積分率であり、添え字1は、二酸化炭素を示し、添え字2は、溶媒を示す。
【0079】
混合溶媒を加圧すると、所定圧力での混合溶媒のファンデルワールス体積は、有機修飾ナノ粒子に対して易溶性を示す範囲の範囲内になり、0.1 MPaでの前記有機修飾ナノ粒子の分散力項δの値と所定圧力での混合溶媒の分散力項δの値との差は、1 以下になる。これにより、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった相対的に分子量の大きい溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。
【0080】
第1の態様に記載の発明によると、相対的に分子量の大きい溶媒に対しても有機修飾ナノ粒子を分散可能になるため、結果として溶媒選択の自由度が高まる。
【0081】
(第2の態様)
第2の態様として、難分散性溶媒を主溶媒、所定の分子を助溶媒とする混合溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させる態様が挙げられる。
【0082】
主溶媒は、化学的親和性が低く、すなわちハンセン溶解度パラメータと有機修飾基の溶解度パラメータとの差が大きく、またあるいは分散工程の温度圧力でのファンデルワールス体積が有機修飾基に対して易溶性を示す範囲よりも大きな難分散性溶媒である。
【0083】
助溶媒は、そのファンデルワールス体積が有機修飾ナノ粒子に対して易溶性を示す範囲の範囲内にあり、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δに関し、当該圧力での有機修飾ナノ粒子の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下の助溶媒である。
【0084】
助溶媒は、ファンデルワールス体積及び分散力項δが上述した範囲にあるものであれば、特に限定されない。デカン酸によって修飾された有機修飾ナノ粒子に混合溶媒を分散させる場合を例にすると、助溶媒の具体例として、シクロヘキサン、ビシクロヘキシル、デカン、デカリン及びドデカン等が挙げられる。
【0085】
主溶媒に対する助溶媒の体積比は、特に限定されるものでないが、主溶媒100 体積部に対して0.1 体積部以上であることが好ましく、0.5 体積部以上であることがより好ましく、1.0 体積部以上であることがさらに好ましい。また、主溶媒を用いることが本来の目的であるから、助溶媒の体積比は、主溶媒100 体積部に対して20 体積部以下であることが好ましく、10 体積部以下であることがより好ましい。
【0086】
分子溶液系では、エントレーナ効果に代表されるように、少量の助溶媒を加えることで、主溶媒と溶質との親和性が向上し、溶解性が増す。第2の態様に記載の発明によると、ファンデルワールス体積が有機修飾基にできた空隙体積よりも小さく、有機修飾基に対して易溶性を示す範囲内にある助溶媒を添加しているため、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった、有機修飾ナノ粒子に対する親和性も低くまた相対的に分子量の大きい溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。これはファンデルワールス体積が小さい高分散性溶媒の分子が優先的に表面修飾鎖に作用したことに起因し、表面に配位した助溶媒分子まで含めた有機修飾ナノ粒子の総体が主溶媒に対して高い分散性を呈したためと考えられる。
【0087】
第2の態様に記載の発明によると、有機修飾ナノ粒子に対する親和性が低く相対的に分子量の大きい溶媒に対しても有機修飾ナノ粒子を分散可能になるため、結果として溶媒選択の自由度が高まる。
【0088】
(第3の態様)
上述したとおり、有機修飾ナノ粒子は、表面に1種類の有機修飾基をもつものであってもよいし、複数種類の有機修飾基をもつものであってもよい。有機修飾ナノ粒子が複数種類の有機修飾基をもつ場合、これら複数種類の有機修飾基は、所定の分子として扱われる。
【0089】
複数種類の有機修飾基を有する有機修飾ナノ粒子は、公知の手法(例えば、特許4336856号に記載の手法)において、複数種類の有機修飾剤の混合物を修飾剤にすることで得られる。例えば、Ce(OH)を前駆体とし、デカン酸(DA,炭素数:10)とステアリン酸(SA,炭素数:18)の混合物を修飾剤として、超臨界水熱合成法により複合有機修飾CeOナノ粒子を合成することができる。
【0090】
有機修飾ナノ粒子が表面に複数種類の有機修飾基を有する場合、分散工程における温度及び圧力下での有機修飾分子層の自由体積は、それぞれ単一種の有機修飾分子層の自由体積よりも大きいことが好ましい。かつ、分散工程における温度及び圧力下での有機修飾分子層の自由体積は、前記溶媒分子のファンデルワールス体積よりも小さいことが好ましい。
【0091】
溶媒のファンデルワールス体積は、複数種類の有機修飾基の1つである第1修飾基に対して易溶性を示す範囲よりも大きい。そのため、第一修飾基のみが修飾剤の有機修飾ナノ粒子では、当該溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させることができない。
【0092】
表面が複数種類の有機修飾剤によって修飾されており、溶媒のファンデルワールス体積に関わらず、これらの修飾基層に形成される空隙の体積(分子ポケット)は溶媒のファンデルワールス体積よりも大きい。これにより、ファンデルワールス体積が大きな溶媒分子も、有機修飾ナノ粒子に取り込まれることとなり、その結果有機修飾ナノ粒子の性質は溶媒分子に近くなり、親和性が大きく向上する。すなわち、本来であれば有機修飾ナノ粒子を分散できなかった相対的に分子量の大きい溶媒であるにも関わらず、有機修飾ナノ粒子を分散させることが可能になる。
【0093】
近年の計算学等の分子論的研究によれば、表面に複数種類の有機修飾基を付与させることで、有機修飾基あるいは溶媒分子の自己秩序化が大きく変化し、それが有機修飾ナノ粒子の分散性に大きく変化する。すなわち、全くことなる原理に基づく分散性向上が期待される。
【0094】
自己秩序化は、分子が固相を形成することに相当し、固化した分子の溶媒への溶解性は著しく低下することは周知である。自己秩序化の解除は、固相から液相への変化を同値であり、それにより分子運動の自由度が上がると、溶媒分子の抱き込みも促進されることとなり、それが粒子の溶媒中分散性をあげることにつながる。第三成分の添加効果は、凝固点をも生む。第三成分を添加することで融点は低下し、同じ温度でも液相を形成させうることは、融雪剤効果等で良く知られている。液相への第三成分の入り込みといった物理的効果のみならず、有機分子層の凝固点効果、すなわち自己秩序化解除、すなわち有機分子の運動自由度の向上(液相転移)にもつながる。
【0095】
自己秩序化の抑制は、有機分子層の構造設計によっても可能である。複数種類の分子を修飾させることで、修飾分子は自己秩序化しにくい構造となる。そのためには、それぞれの分子ごとに、ドメイン構造が形成されると、ドメイン内で自己秩序化が進むが、ランダムに修飾されれば、自己秩序化構造形成は抑制される。修飾分子の自由体積の大きさで既定でき、大きければ結晶化しにくくなる。ランダムな修飾には、例えば超臨界水熱合成場のように、修飾分子が均一相を形成しつつ、また表面では吸脱着を繰り返しつつ、表面で結合形成を生じさせる工程が有効である。原理的に分子が自由運動をしつつ構造形成するため、自由体積が大きくなるのは当然である。それに対し、より低温で自己秩序化が生じやすい条件での有機修飾は、同量だけ修飾したとしても、自由体積は低いものとなる。
【0096】
複数種分子の有機修飾としては、先に説明した、物理的な溶媒取り込みを容易とする、空隙構造形成と自由体積を増大させる構造形成両方の効果を最適化することで、より溶媒との親和性を大きく向上させることが可能となる。
【0097】
〔製品:有機修飾ナノ粒子分散液〕
本実施形態に記載の方法によって得られる粒子は、溶媒に分散された状態で供給されることが好ましい。溶媒は、有機修飾ナノ粒子に対して難分散性である難分散性溶媒と、第三成分としての所定の分子とを含み、有機修飾ナノ粒子の濃度が1重量%であるときの波長450 nmにおける透過度が0.8 である。なお、透過度は、1から吸光度を引いた値である。そのため、「透過度が0.8以上」は、「吸光度が0.2以下」と言い換えることもできる。
【0098】
上述した方法によって得られる有機修飾ナノ粒子分散液は、有機修飾ナノ粒子の濃度が1重量%であるときの波長450 nmにおける透過度が0.8以上になる程度の透明度を有する。よって、本実施形態に記載の発明によると、相対的に分子量の大きい溶媒に分散された有機修飾ナノ粒子分散液を提供できる。
【0099】
本実施形態において、透過度は、分散性を示す尺度であり、高いほど好ましい。透過度は、0.8以上であり、0.9以上であることがより好ましく、0.95以上であることがさらに好ましい。
【0100】
第三成分としての所定の分子の例として、二酸化炭素、炭化水素系化合物、窒素酸化物系化合物、フロンガスのいずれかから選択される気体又は液化ガスが挙げられる。有機修飾ナノ粒子分散液は、0.5 MPa以上の所定圧力に加圧された圧力容器の中に収容されていることが好ましい。
【0101】
有機修飾ナノ粒子を含有する溶液には、未反応の修飾剤や、不純物が含まれ、それが分散性を阻害する場合もある。本実施形態に記載の発明によると、溶液に含まれる未反応修飾剤や不純物が二酸化炭素等の高圧ガスによって抽出されるため、有機修飾ナノ粒子の無極性溶媒への分散性が高まり、結果として溶媒選択の自由度が高まる。
【0102】
また、ガス圧が除圧され、常圧(0.1 MPa)に戻ると、時間の経過とともに上記の吸光度が上がり、有機修飾ナノ粒子の難分散性無極性溶媒への分散状態を維持できなくなる。本実施形態に記載の発明によると、ガス圧が維持されるため、当該分散状態を長時間維持することができる。
【0103】
あるいは、本実施形態に記載の方法によって得られる粒子は、第1溶媒及び第2溶媒を含む混合溶媒に分散された状態で供給されることが好ましい。第1溶媒は、前記有機修飾ナノ粒子に対して難分散性の主溶媒である。第2溶媒は、混合溶媒の表面に接する気体の温度・圧力でのファンデルワールス体積が有機修飾基にできた空隙体積よりも小さく、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δに関し、混合溶媒の表面に接する気体の温度・圧力での有機修飾ナノ粒子の分散力項δの値との差の絶対値が1.2 MPa1/2以下の助溶媒である。
【実施例0104】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0105】
<試験例1>有機修飾ナノ粒子の溶媒分散
〔実施例1〕有機修飾ナノ粒子のデカンへの溶媒分散(添加剤あり)
[デカン酸による有機修飾ナノ粒子の調製]
本試験では、モデルナノ粒子としてCeOナノ粒子とした。改質剤としてデカン酸(DA)を用い、超臨界水熱合成法により有機修飾CeOナノ粒子(以下、「OMナノ粒子」ともいう。)を合成した。
【0106】
Ce(OH)を超音波処理により蒸留水に分散させ、0.1 MのCe(OH)懸濁液とした。その後、0.10 MのCe(OH)水性懸濁液(2.5 mL)及びDA(モル比は1:3)を、容積5 mLのハステロイ管型バッチ反応器に装入した。この反応器を加熱炉に入れ、まず150 ℃で20分間加熱し、次に400℃で10分間加熱した。反応器を急冷して反応を停止させた後、ヘキサンを用いて生成物を回収し、水層を除去した。残った有機層に等量のエタノールを加え、遠心分離(9600 rpm、20分)により未反応物を除去することで、OMナノ粒子を得た。
【0107】
[OMナノ粒子のデカンへの溶媒分散]
図1に記載の装置において、以下の条件にて溶媒分散を行った。
ナノ粒子:上述したデカン酸修飾CeOナノ粒子(OMナノ粒子)
ナノ粒子の濃度:1重量%
溶媒:デカン
温度:40 ℃
添加剤:二酸化炭素ガス
圧力:図2に記載のとおり(2, 4, 6 MPa)
【0108】
[結果]
結果を図3に示す。二酸化炭素ガスの圧力が2 MPaであるときには、OMナノ粒子は、溶媒(デカン)に分散されていなかったが、圧力が4 MPaであるときには、OMナノ粒子は、溶媒(デカン)に均一に分散された。均一分散の状態は、圧力が6MPaであっても維持され、その後、圧力を常圧に戻したときにも維持された。
【0109】
〔比較例1〕
二酸化炭素ガスを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ手法にてOMナノ粒子のデカンへの溶媒分散を試みた。しかしながら、OMナノ粒子をデカンに均一分散することはできなかった。
【0110】
〔考察〕
図4は、各種溶媒について、ハンセン溶解度パラメータのうち極性項δと分散力項δを可視化した相関図である。図4に示す通り、基本的に、溶媒と有機修飾ナノ粒子との間において、ハンセン溶解度パラメータのうち分散力項δの差が1.2 MPa1/2以下であり、かつ、溶媒と有機修飾ナノ粒子のいずれも極性項δが0 MPa1/2であれば、有機修飾ナノ粒子を溶媒(無極性溶媒)に分散させることができる。例えば、シクロヘキサンの分散力項δは、16.8 MPa1/2であり、デカン酸修飾CeOナノ粒子(OMナノ粒子)の分散力項δは、15.7 MPa1/2である。そのため、両者の間において、分散力項δの差は、1.2 MPa1/2以下である。また、シクロヘキサン及びOMナノ粒子の極性項δは、いずれも0 MPa1/2である。よって、OMナノ粒子をシクロヘキサンに分散させることができる。
【0111】
また、デカンの分散力項δは16 MPa1/2以下であり、デカンとOMナノ粒子との間において、分散力項δの差は、1.2 MPa1/2以下である。また、デカンの極性項δは、0 MPa1/2である。そのため、OMナノ粒子をデカンに分散できると思われるが、実際には、常温常圧の条件下でOMナノ粒子をデカンに分散させることは、できない。
【0112】
図5は、各種溶媒について、ファンデルワールス体積とハンセン溶解度パラメータの分散力項δを可視化した相関図である。図5に示す通り、OMナノ粒子がデカン酸修飾CeOナノ粒子である場合、ファンデルワールス体積が89 cm3mol-1以下であれば、OMナノ粒子を溶媒(無極性溶媒)に分散させることができる。例えば、シクロヘキサンのファンデルワールス体積は、61.4 cm3mol-1であり、89 cm3mol-1以下である。そのため、OMナノ粒子をシクロヘキサンに分散させることができる。
【0113】
それに対し、デカンのファンデルワールス体積は、129.6 cm3mol-1であり、OMナノ粒子に対して易溶性を示すファンデルワールス体積の範囲(89 cm3mol-1以下)から外れている。そのため、デカンは、OMナノ粒子との分散力項δの差が1.2 MPa1/2以下であり、かつ、極性項δが0 MPa1/2であるにも関わらず、常温常圧の条件下でOMナノ粒子をデカンに分散させることができないと考えられる。
【0114】
ここで、二酸化炭素の25 ℃、0.1 MPaでのファンデルワールス体積は、19.7 cm3mol-1であり、OMナノ粒子のファンデルワールス体積に対して著しく小さい。そこで、本発明者は、デカンに対して二酸化炭素を添加物として加え、混合物としてのファンデルワールス体積をOMナノ粒子のファンデルワールス体積に近づけることができれば、常温常圧ではOMナノ粒子を分散できないデカンに対してOMナノ粒子を分散できるのではないか、と仮説を立てた。本実施例は、この仮説が正しいことを裏付けるものである。
【0115】
図6は、デカン又はシクロヘキサンと二酸化炭素との混合系における二酸化炭素の圧力とハンセン溶解度パラメータの分散力項δ及びファンデルワールス体積との関係を示す図である。
【0116】
ファンデルワールス体積及び自由体積は、ファンデルワールス状態方程式他の種々実在気体の状態方程式で液相、気相とも評価を行うことができる。あらゆる物質の物性値、臨界定数は、物性評価から入手できる。未知の物質についても、グループ寄与法を用いて構成分子の物性値を用いて推算が可能である。
ガスを含め第三成分が共存した場合の有機修飾分子あるいは溶媒への分配、すなわち相平衡推算には、さらに分子間の相互作用パラメータが必要であるが、データベースから評価するか、ハンセン溶解度パラメータの差から評価できる。これにより、各成分について体積分率φを評価できるから、多成分が共存した場合の平均溶解度パラメータ、平均ファンデルワールス体積と自由体積を評価できる。
【数3】
【数4】
式中、φは、液相での体積分率であり、添え字1は、二酸化炭素を示し、添え字2は、溶媒を示す。
【0117】
溶媒がデカンと二酸化炭素との混合溶媒である場合について着目する。圧力が0MPaに近い場合、ファンデルワールス体積が89 cm3mol-1を超えている。そのため、ハンセン溶解度パラメータの分散力項δがOMナノ粒子の分散力項δに近い場合であっても、当該混合溶媒にOMナノ粒子を分散させることはできない。
【0118】
それに対し、圧力が高くなるにつれ、混合溶媒のファンデルワールス体積が小さくなり、圧力が4 MPa であると、混合溶媒のファンデルワールス体積が89 cm3mol-1以下になる。これにより、デカン単体であれば、溶媒の分子量が大きいためにOMナノ粒子を分散できなかったにも関わらず、二酸化炭素との混合系にすることで、OMナノ粒子を分散させることが可能になる。
【0119】
続いて、溶媒がシクロヘキサンと二酸化炭素との混合溶媒である場合について着目する。上述した通り、シクロヘキサンは、単体でもOMナノ粒子を分散可能な溶媒である。しかしながら、溶媒をシクロヘキサンと二酸化炭素との混合溶媒にして二酸化炭素の圧力を上げると、ハンセン溶解度パラメータの分散力項δが減少し、OMナノ粒子の分散力項δの値に近づく。そのため、単体でOMナノ粒子を分散可能な溶媒であっても、溶媒を二酸化炭素との混合系にすることの技術的意義を有する。
【0120】
<試験例2>洗浄した有機修飾ナノ粒子の溶媒分散
〔実施例2〕洗浄した有機修飾ナノ粒子のデカンへの溶媒分散(添加剤あり)
[洗浄したOMナノ粒子の調製]
実施例1で得た洗浄後OMナノ粒子をシクロヘキサンに分散させ、その懸濁液をゆっくりと滴下し、シクロヘキサンの20倍量のアセトンで攪拌しながら洗浄を行った。その後,遠心分離により粒子を回収し,再度同様の方法で洗浄した後,シクロヘキサンに再分散し,常温で1日静置してサイズ分類を行った。サイズ分級後、上澄み液を回収し、真空凍結乾燥し、洗浄後OMナノ粒子を得た。
【0121】
得られた洗浄後OMナノ粒子の一次平均粒子径を透過電子顕微鏡(TEM、TEM、H-7650;日立製作所)により測定したところ、一次平均粒子径は、5.8 nmであった。また、CeOナノ粒子表面のデカン酸修飾率は4.9 分子/nm2 であった。
【0122】
[洗浄後OMナノ粒子のデカンへの溶媒分散]
実施例1では、分散性を目視で評価していたが、これを数値化するため、図7に記載の装置を用いて溶媒分散を行った。図7では、紫外可視分光光度計V-750(日本分光株式会社製)を追加した点で、図1の装置構成と異なる。溶媒分散の条件は、以下の通りである。
ナノ粒子:上述した洗浄後のデカン酸修飾CeOナノ粒子(洗浄後OMナノ粒子)
ナノ粒子の濃度:1重量%
溶媒:デカン
温度:40 ℃
添加剤:二酸化炭素ガス
圧力:図8に記載のとおり(2, 4, 6 MPa)
【0123】
[常圧に戻したときの分散性]
デカン-COの混合溶媒への分散後、混合溶媒からCOを除圧した後のデカン溶媒について、除圧開始から14 h経過するまでの洗浄後OMナノ粒子のデカンへの溶媒分散性を評価した。
【0124】
[結果]
洗浄後OMナノ粒子をデカン-CO混合溶媒に分散させたときの結果を図9に示す。図9は、分光光度計による照射光の波長と測定サンプル(洗浄後OMナノ粒子をデカン-CO混合溶媒に分散させたもの)の吸光度との関係を示す。照射光の波長450 nmでの吸光度に着目すると、実施例1では圧力2 MPaではOMナノ粒子を溶媒分散できなかったが、実施例2によると、圧力2 MPaであっても、洗浄後OMナノ粒子を溶媒分散できることが示唆される。実施例2によると、洗浄したOMナノ粒子を用いることで、OMナノ粒子を混合溶媒に分散させるのに必要な二酸化炭素の圧力を低くすることができるといえる。
【0125】
図10は、測定サンプルが実施例1で用いたOMナノ粒子、すなわち洗浄前OMナノ粒子である場合の分光光度計による照射光の波長と測定サンプルの吸光度との関係を示す。照射光の波長450 nmでの吸光度に着目すると、圧力2 MPaでは依然として高い吸光度を有し、圧力4 MPa以上である場合に低い吸光度、すなわちOMナノ粒子を溶媒分散できることが示唆される。
【0126】
図11は、測定サンプルが実施例2で用いた洗浄後OMナノ粒子である場合におけるCOの除圧を開始してからの経過時間と波長450 nmでの吸光度との関係を示す図である。図11によると、除圧を開始してから14 h経過しても吸光度は約0.85程度を維持しており、COを除圧したにも関わらず洗浄後OMナノ粒子の溶媒への分散性が十分に担保されているといえる。
【0127】
図12は、測定サンプルが実施例1で用いた洗浄前OMナノ粒子である場合における照射光の波長と測定サンプルの吸光度との関係を示す。図12には、COの除圧開始時、除圧開始後1~60分経過時、除圧開始後150分経過時について示されている。照射光の波長450 nmでの吸光度に着目すると、除圧開始時には吸光度が0.5未満であり十分な溶媒分散性を有しているが、除圧開始後60分経過時には吸光度が約3程度になっており、溶媒分散性が低くなっている。そのため、OMナノ粒子を得る際の洗浄の有無が、二酸化炭素等の添加剤を除圧した後の溶媒分散性に大きく寄与するといえる。
【0128】
<試験例3>添加剤の加圧時間と溶媒分散性との間の関係
〔実施例3〕
[洗浄後OMナノ粒子のデカンへの溶媒分散]
図7に記載の装置を用いて、実施例2で用いた洗浄後OMナノ粒子のデカン-二酸化炭素混合溶媒への溶媒分散を行った。溶媒分散の条件は、以下の通りである。
ナノ粒子:実施例2と同じ洗浄後OMナノ粒子
ナノ粒子の濃度:1重量%
溶媒:デカン
温度:40 ℃
添加剤:二酸化炭素ガス
圧力:0.8, 1, 2, 6 MPa
【0129】
[結果]
図13は、COの添加を開始してからの経過時間と波長450 nmでの吸光度との関係を示す図である。図13によると、COの圧力が0.8 MPaであっても、添加を開始してから17分程度で、十分な分散性を示すことの指標である透過度0.8以上を実現できるといえる。COの圧力は高い方が好ましく、COの圧力が1.2 MPa以上であれば、添加を開始してから10分未満で透過度0.8以上を実現できる。
【0130】
<試験例4> デカン酸修飾ナノ粒子の分散
実施例2と同じ手法で調製した洗浄後OMナノ粒子(デカン酸修飾ナノ粒子)をシクロヘキサンで湿潤させた後、貧溶媒であるトルエンに分散させた。
【0131】
長時間すると凝集がすすんだが、分散直後は、良好な分散性が得られた。これは、シクロヘキサンがデカン有機修飾層に配位することで、有機修飾層の自由体積が増大し、自己秩序化(有機相の固化)を抑制したためである。平衡論的に第三成分であるシクロヘキサンは溶媒分子へと脱着、拡散していくため、最終的には、親和性が低下し、凝集が進行した。しばらくの間分散状態を維持できることは多くのプロセスからなるナノ粒子の処理工程、ハンドリング上、極めて有用である。これを湿潤ナノ粒子として製品提供することもできる。
【0132】
<試験例5> OMナノ粒子の混合溶媒への分散
〔実施例5-1〕OMナノ粒子の混合溶媒(デカン+シクロヘキサン)への分散
デカン100体積部及びシクロヘキサン1体積部からなる混合溶媒100質量部に対し、実施例2と同じ手法で調製した洗浄後OMナノ粒子1質量部を添加し、30分間超音波処理した後、室温で一晩放置した。その後、目視による観察と、ゼータサイザーナノZS(Malvern Instruments社製)を用いた動的光散乱法(Dynamic Light Scattering:DLS)による観察とにより分散性を評価した。目視による観察では、沈殿や曇りがない場合を「分散している」と判断し、動的光散乱法による観察では、平均流体力学的直径が10 nm以下の単分散と判定された場合に「分散している」と判断した。
【0133】
その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていることが確認された。
【0134】
〔実施例5-2〕OMナノ粒子の混合溶媒(デカン+ヘキサン)への分散
シクロヘキサン1体積部がヘキサン1体積部であること以外は、実施例5-1と同じ手法にてOMナノ粒子の分散性を評価した。その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていることが確認された。
【0135】
〔実施例5-3〕OMナノ粒子の混合溶媒(デカリン+シクロヘキサン)への分散
デカン100体積部がデカリン(デカヒドロナフタレンとも呼ばれる)100体積部であること以外は、実施例4-1と同じ手法にてOMナノ粒子の分散性を評価した。その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていることが確認された。
【0136】
〔実施例5-4〕OMナノ粒子の混合溶媒(デカリン+ヘキサン)への分散
デカン100体積部がデカリン100体積部であり、シクロヘキサン1体積部がヘキサン1体積部であること以外は、実施例4-1と同じ手法にてOMナノ粒子の分散性を評価した。その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていることが確認された。
【0137】
〔比較例5-1〕OMナノ粒子の単独溶媒(デカン)への分散
デカン100体積部及びシクロヘキサン1体積部からなる混合溶媒がデカンからなる単独溶媒であること以外は、実施例5-1と同じ手法にてOMナノ粒子の分散性を評価した。その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていないことが確認された。
【0138】
〔比較例5-2〕OMナノ粒子の単独溶媒(デカリン)への分散
デカリン100体積部及びシクロヘキサン1体積部からなる混合溶媒がデカリンからなる単独溶媒であること以外は、実施例5-1と同じ手法にてOMナノ粒子の分散性を評価した。その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていないことが確認された。
【0139】
〔考察〕
主溶媒であるデカン又はデカリン(第1溶媒)のファンデルワールス体積は、OMナノ粒子に対して易溶性を示す範囲よりも大きい。そのため、第1溶媒単独では、第1溶媒に有機修飾ナノ粒子を分散させることができない。
【0140】
分子溶解系では、エントレーナ効果に代表されるように、少量の助溶媒(第2溶媒)を加えることで、 主溶媒と溶質との親和性が向上し、溶解性が増す。本実施形態に記載の発明によると、第1溶媒に、ファンデルワールス体積が有機修飾基に対して易溶性を示す範囲内にある助溶媒(ヘキサン)を添加しているため、本来であればOMナノ粒子を分散できなかった相対的に分子量の大きい溶媒であるにも関わらず、OMナノ粒子を分散させることが可能になったと考えられる。ファンデルワールス体積が小さい高分散性溶媒の分子が優先的に表面修飾鎖に作用したことに起因し、表面に配位した助溶媒分子まで含めた有機修飾ナノ粒子の総体が主溶媒に対して高い分散性を呈したためと考えられる。
【0141】
<試験例6> 複合OMナノ粒子の溶媒への分散
〔実施例6〕 デカン酸及びステアリン酸による複合OMナノ粒子の溶媒への分散
[複合OMナノ粒子の調製]
Ce(OH)を前駆体とし、デカン酸(DA,炭素数:10)とステアリン酸(SA,炭素数:18)の混合物を修飾剤として、超臨界水熱合成法により複合有機修飾CeOナノ粒子を合成した。
【0142】
Ce(OH)を超音波処理により蒸留水に分散させ、0.10 MのCe(OH)懸濁液とした。その後、0.10 MのCe(OH)水性懸濁液(2,5 mL)、DA及びSA(モル比は1 : 1.5 : 1.5)を、容積5 mLのハステロイ管型バッチ反応器に装入した。この反応器を加熱炉に入れ、まず150 ℃で20分間加熱し、次に400℃で10分間加熱した。反応器を急冷して反応を停止させた後、ヘキサンを用いて生成物を回収し、水層を除去した。残った有機層に等量のエタノールを加え、遠心分離(9600rpm、20分)により未反応物を除去した。次に、回収した粒子をシクロヘキサンに分散させ、その懸濁液をゆっくりと滴下し、シクロヘキサンの20倍量のアセトンで攪拌しながら洗浄を行った。その後,遠心分離により粒子を回収し,再度同様の方法で洗浄した後,シクロヘキサンに再分散し,常温で1日静置してサイズ分類を行った。サイズ分級後、上澄み液を回収し、真空凍結乾燥し、複合有機修飾CeOナノ粒子(以下、「複合OMナノ粒子」ともいう。)を得た。
【0143】
図14は、DAとSAの両方で修飾した複合OMナノ粒子のTEM像である。粒子間の隙間から、粒子が溶媒(シクロヘキサン)に対して良好に修飾・分散されていることが分かる。また、複合OMナノ粒子の一次平均粒子径は、5.2 nmであった。
【0144】
[溶媒への分散性]
ドデカン100体積部からなる単独溶媒100質量部に対し、上述した複合OMナノ粒子1質量部を添加し、30分間超音波処理した後、室温で一晩放置した。その後、目視による観察と、上述した動的光散乱法による観察とにより分散性を評価した。その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていることが確認された。
【0145】
〔比較例6-1〕 デカン酸によるOMナノ粒子の溶媒への分散
複合OMナノ粒子が実施例2と同様のデカン酸によるOMナノ粒子に代わったこと以外は、実施例6-1と同じ手法にてデカン酸によるOMナノ粒子の分散性を評価した。その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていないことが確認された。
【0146】
〔比較例6-2〕 ステアリン酸によるOMナノ粒子の溶媒への分散
[ステアリン酸による有機修飾ナノ粒子の調製]
改質剤がステアリン酸(SA)であること以外は、実施例2と同じ手法にてステアリン酸によるOMナノ粒子を得た。
【0147】
[溶媒への分散性]
複合OMナノ粒子がステアリン酸によるOMナノ粒子に代わったこと以外は、実施例5と同じ手法にてデカン酸によるOMナノ粒子の分散性を評価した。その結果、目視による観察、動的光散乱法による観察のいずれによっても、OMナノ粒子が適切に分散されていないことが確認された。
【0148】
〔考察〕
OMナノ粒子の表面は、有機修飾剤で高密度に覆われており、分子サイズの大きな溶媒が浸透するのを妨げている。アルキル鎖への親和性が高くても、浸透しないため、分散性が悪くなる。
【0149】
試験例6によると、鎖長の異なるカルボン酸を共重合させることで、改質剤シェル表面の幾何学的変化を発現し、改質剤の末端、溶媒にさらされる領域にさらなる空間を作り出す。鎖長の違いにより,改質剤シェル表面に窪みができ、浸透を受け入れる空間ができることから、分子量の大きい溶媒の浸透が可能になると考えられる。
【0150】
ドデカンのハンセン溶解度パラメータ(HSP)値は、DA修飾ナノ粒子及びSA修飾ナノ粒子のHSP値に近いが、これら二つの単分子系はドデカン中に1質量%の高濃度で分散しない。これは、ドデカンの大きさが修飾剤の殻への効率的な浸透を妨げているためと考えられる。一方、2種類の複合OMナノ粒子の場合、1質量%濃度で単分散したことから、修飾剤と溶媒の相互作用が強化された。溶媒の浸透に影響を与える修飾剤シェル内の2つの修飾剤分子の配置はまだ十分に明らかにされていないが、この結果は、DAとSAの鎖長の違いによって生じた窪みに、分子サイズの大きな溶媒が浸透したためと考えられる。
【0151】
このように、表面に複数種類の有機修飾基を付与させることで、空隙を生み、そこに溶媒を抱き込ませることで、有機修飾ナノ粒子の見かけの溶媒親和性を上げ、それによる分散性向上は有効である。しかしながら、それだけではない。近年の計算科学等の分子論的研究により、有機修飾ナノ粒子の分散性が有機修飾基あるいは溶媒分子の自己秩序化に大きく依存することが分かってきている。すなわち、これまで知られた原理とは全く異なる原理に基づく分散性向上が期待される。
【0152】
自己秩序化は、分子が固相様の構造を形成することに相当し、固化した分子の溶媒への溶解性は著しく低下することは周知である。自己秩序化の解除は、固相から液相への変化を同値であり、それにより分子運動の自由度が上がると、溶媒分子の抱き込みも促進されることとなり、それが粒子の溶媒中分散性を上げることにつながる。第三成分の添加効果は、凝固点をも生む。第三成分を添加することで融点は低下し、同じ温度でも液相を形成させ得ることは、融雪剤効果等で良く知られている。液相への第三成分の入り込みといった物理的効果のみならず、有機分子層の凝固点効果、すなわち自己秩序化解除、すなわち有機分子の運動自由度の向上(液相転移)にもつながる。
【0153】
自己秩序化の抑制は、有機分子層の構造設計によっても可能である。複数種類の分子を修飾させることで、修飾分子は自己秩序化しにくい構造となる。そのためには、それぞれの分子ごとにドメイン構造が形成されると、ドメイン内で自己秩序化が進むが、ランダムに修飾されれば、自己秩序化構造形成は抑制される。自己秩序化の抑制の程度は、修飾分子の自由体積の大きさで既定でき、大きければ結晶化しにくくなる。ランダムな修飾には、例えば超臨界水熱合成場のように、修飾分子が均一相を形成しつつ、また表面では吸脱着を繰り返しつつ、表面で結合形成を生じさせる工程が有効である。原理的に分子が自由運動をしつつ構造形成するわけだから、自由体積が大きくなるのは当然である。それに対し、より低温で自己秩序化が生じやすい条件での有機修飾は、同じ量修飾したとしても、自由体積は低いものとなる。
【0154】
実施例6によると、複数種分子の有機修飾としては、物理的な溶媒取り込みを容易とする空隙構造形成と自由体積を増大させる構造形成との両方の効果を最適化することで、より溶媒との親和性を大きく向上させることが可能になったと考えられる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14