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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166016
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】マーキング装置
(51)【国際特許分類】
   B25H 7/04 20060101AFI20241121BHJP
   F16B 31/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B25H7/04 D
F16B31/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142900
(22)【出願日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2023080543
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】根岸 博明
(57)【要約】
【課題】締結部材のサイズやマーキング位置の違いに対応可能であり、低コストで携帯性に優れたマーキング装置を提供する。
【解決手段】ボルト、ナット等の締結部にマーキングを施すためのマーキング装置である。筒状の筐体20と、筐体の底部に装着されたソケット部30と、筐体20及びソケット部30の内部に収納されたマーキング部材50を備える。締結部材に被せられるソケット部30は、締結部材のサイズ等に応じて交換可能であるが、使用中に不用意に外れないよう、回転規制機構が組み込まれている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材と、前記被締結部材に締結された締結部材とにマーキングを施すマーキング装置であって、
筒状の筐体と、
前記筐体の底部に設けられ前記締結部材に被せられるソケット部と、
前記筐体の内部に収納され、前記締結部材に向かって移動可能なマーキング部材とを備え、
前記ソケット部が前記筐体に着脱自在に嵌合されているマーキング装置。
【請求項2】
前記ソケット部が回転ロックにより前記筐体に嵌合されており、
前記回転ロックは、
前記ソケット部を前記筐体に嵌め込んで所定の位置まで回動することでロックするものである請求項1に記載のマーキング装置。
【請求項3】
前記ソケットが前記筐体に嵌合された状態において、前記マーキング部材が前記ソケットの回動を阻止しており、
前記マーキング部材が、マーキングを施す捺印位置よりもさらに前記筐体の内側方向へ押し込まれた状態では前記ソケット部の回動が可能となる請求項2に記載のマーキング装置。
【請求項4】
前記筒状の筐体が、弾性部材によって上方に弾発されるホルダと、
前記筐体に対する前記ホルダの上昇位置を規制する高さ規制機構を備え、
前記高さ規制機構によって前記ホルダの位置を低くされた状態では、前記ホルダが前記ソケットの回動を阻止する構造とした請求項2または3に記載のマーキング装置。
【請求項5】
前記ホルダの上部に、前記高さ規制機構の上面を覆うことによりその操作を防止するカバーを設けた請求項4に記載のマーキング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材等の被締結部材を、ボルト、ナット及びワッシャー等の締結部材を用いて接合する際に、一次締めの後に締結部材及び被締結部材にマークを施すために使用するマーキング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨工事において鋼材等の被締結部材をボルト、ナット及びワッシャー等の締結部材で接合する場合、これらの締結部材の締め付けは、一次締め、マーキング、本締めの順序で行われる。具体的には、まず所定のトルク値でナットを回転させて一次締めを行い、一次締めがなされた締結部材及び被締結部材(以下「マーキング対象物」と総称する。)に対して一連の線状のマークを施す。続いて本締めを行い、一次締め後にマーキング対象物に施した線状のマークの位置ずれ角度を検査することにより、ボルト、ナットの供回りの有無を判定することができる。
【0003】
マーキングは、一般的にペン等を用いて手作業で施されることが多いが、多数のマーキング対象物に対して一つずつ手書きする作業は負担が大きい。また、高所等の危険箇所や無理な姿勢を強いられる箇所等においては、手書きでは的確なマーキングや作業者の安全確保が困難である。そこで、ボルト等に対してマーキングを行うことができるマーキング装置が提案されている。
【0004】
特許文献1には、締結されたボルトナットとワッシャにマーキングを施すマーキング装置が記載されている。このマーキング装置は、下方に開口した略円筒形のソケット状の本体ケース部2と、この本体ケース部に近付く方向に移動可能な可動マーカー部3とを備え、本体ケース部2をボルトナットに被せてマーキングを行うものである。
【0005】
特許文献1記載の本体ケース部2の下端開口縁の内側には、ナット13の外形の正六角形とほぼ同じか若干大きいナットガイド部25が形成されている。これにより、マーキングの位置決めが行われナット13の頂部に正確にマーキングすることができる。
【0006】
ところで、締結部材の大きさは一律ではなく様々なサイズのものが用いられる。また、マーキング位置をナットの頂部ではなくナットの平面部に行う場合もある。特許文献1記載のマーキング装置では、ナット13のサイズや形状、マーキング位置に対応させた本体ケース部2をそれぞれ設計製造することになるため、コスト面で問題があった。また、工事現場において複数のマーキング装置を持ち運ぶ必要があり、携帯性にも問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-355777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決し、締結部材に合わせてソケット部を交換することによって締結部材のサイズやマーキング位置の違いに対応可能であり、低コストで携帯性に優れたマーキング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、被締結部材と、前記被締結部材に締結された締結部材とにマーキングを施すマーキング装置であって、筒状の筐体と、前記筐体の底部に設けられ前記締結部材に被せられるソケット部と、前記筐体の内部に収納され、前記締結部材に向かって移動可能なマーキング部材とを備え、前記ソケット部が前記筐体に着脱自在に嵌合されているマーキング装置とする。
【0010】
また、前記ソケット部が回転ロックにより前記筐体に嵌合されており、前記回転ロックは、前記ソケット部を前記筐体に嵌め込んで所定の位置まで回動することでロックする構成とすることが好ましい。
【0011】
また、前記ソケットが前記筐体に嵌合された状態において、前記マーキング部材が前記ソケットの回動を阻止しており、前記マーキング部材が、マーキングを施す捺印位置よりもさらに前記筐体の内側方向へ押し込まれた状態では前記ソケット部の回動が可能となる構成とすることが好ましい。
【0012】
さらに、前記筒状の筐体が、弾性部材によって上方に弾発されるホルダと、前記筐体に対する前記ホルダの上昇位置を規制する高さ規制機構を備え、前記高さ規制機構によって前記ホルダの位置を低くされた状態では、前記ホルダが前記ソケットの回動を阻止する構造とすることができ、前記ホルダの上部に、前記高さ規制機構の上面を覆うことによりその回動を防止するキャップを設けた構造とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、締結部材に合わせてソケット部を交換することによって締結部材のサイズやマーキング位置の違いに対応可能であり、低コストで携帯性に優れたマーキング装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態のマーキング装置の正面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】第1の実施形態のマーキング装置が締結部材に被せられた状態を示す断面図である。
図4】第1の実施形態のマーキング装置によってマーキング対象物に線状のマークが付される状態を示す断面図である。
図5】第1の実施形態のマーキング装置の分解斜視図である。
図6】第1の実施形態のソケット部の斜視図である。
図7】第1の実施形態のマーキング装置の底面図である。
図8】第1の実施形態のソケット部の回転規制機構を解除する手順を示す説明図である。
図9】第2の実施形態のマーキング装置の正面図である。
図10】第2の実施形態のマーキング装置の側面図である。
図11】第2の実施形態のマーキング装置の中央縦断面図である。
図12】第2の実施形態のマーキング装置の平面図である。
図13】ソケット部を外した状態の正面図である。
図14】ソケット部の平面図と中央縦断面図である。
図15】ソケット部の底面図である。
図16】ホルダを上昇させた状態の側面図である。
図17】ホルダを上昇させた状態の中央縦断面図である。
図18】第3の実施形態のマーキング装置の中央縦断面図である。
図19】キャップの中央縦断面図である。
図20】第4の実施形態のマーキング装置の縦断面図である。
図21】第4の実施形態の筐体の説明図である。
図22】第4の実施形態のキャップの説明図である。
図23】ホルダを上昇させた状態の縦断面図である。
図24】ソケット部と筐体との嵌合関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態のマーキング装置10の主な構成について説明する。図1及び図2に示されるように、本実施形態のマーキング装置10は、筒状の筐体20と、筐体20の底部に着脱自在に取り付けられた中空のソケット部30と、筐体20の天面側に被せられたホルダ40と、筐体20の内部に収納されたマーキング部材50とを備えている。実施形態の筐体20、ソケット部30及びホルダ40は樹脂製である。材質はこれに限定されず樹脂以外のものであってもよいが、樹脂製であれば、その防塵・防水・耐久性から屋外での使用に適し、かつ、軽量で壊れにくいマーキング装置10とすることができる。
【0016】
マーキング装置10は、図3及び図4に示されるように、ボルト81、ナット82及びワッシャー83などの締結部材80と、これらの締結部材80によって1次締めされた鋼材などの被締結部材90のうち締結部材側に位置する被締結部材91とをマーキング対象物とし、マーキング対象物の表面に連続した直線状のマークを付すために用いられる。
【0017】
なお、本実施形態の被締結部材90は、板状の被締結部材91と板状の被締結部材92との計2枚であるが、これに限定されず、被締結部材90は3つ以上の部材であってもよい。また、本実施形態では締結部材80はボルト81、ナット82及びワッシャー83であるが、締結部材の構成はこれに限定されない。
【0018】
マーキング装置10は、図2及び図3に示されるように、底面が開口し、開口した底面から図中上側に向かって形成された中空の空洞部11を備えており、マーキング対象物である締結部材80に被せられる。実施形態では、図4に示されるように、ホルダ40が締結部材80に近付く方向に押し込まれることによって、マーキング部材50がマーキング対象物に接触して線状のマークが施される。
【0019】
(筐体)
実施形態の筐体20は、図2に示されるように、底面が開口した筒状の部材であり、開口した底面から図中上側に向かって中空の構造となっている。実施形態の筐体20は、底面が開口した略円筒状の円筒部21と、円筒部21に連接された略角筒状の角筒部22とを備え、全体が平面視略鍵穴状に形成されている。円筒部21と角筒部22の内部空間は連通しており、実施形態の筐体20には平面視略鍵穴状の中空の内部空間が形成されている。この筐体20の内部空間は、マーキング装置10の空洞部11の一部(上側)を構成するものである。
【0020】
(マーキング部材)
実施形態のマーキング部材50は、図2に示されるように、全体として略への字状に形成されたアーム状の部材である腕部52を備えている。実施形態の腕部52は、基端側の端部に支軸51を挿通可能な軸受孔を備え、先端側の端部にはカートリッジ53を介して取り付けられた印字体54を備えている。
【0021】
本実施形態の印字体54は、マーキング用インキを含浸させることが可能なフェルト製の印字体であって、マーキング対象物の表面形状に沿うように形成された印字面541を備え、マーキング対象物に接触することにより略直線状のマークを付着させることができるものである。印字体54に含浸させるインキは、屋外でのマーキングが可能なインキであれば特に限定されない。また、印字体54は、インキを供給可能なインキ吸蔵体を備えた構成としてもよい。
【0022】
実施形態の印字体54は、印字体54を挟持可能な凹部を備えたカートリッジ53に挟持され、このカートリッジ53を介して腕部52に取り付けられている。カートリッジ53は腕部52の先端に着脱自在であることが好ましい。
【0023】
実施形態のカートリッジ53は、図1及び図2に示されるように、腕部52の先端に係止され取り付けられている。カートリッジ53を、腕部52の先端側から差し込んで組み付ける構成とすれば、カートリッジ53の着脱がマーキング装置10の底面側から容易に行えるため好ましい。
【0024】
図2に示されるように、本実施形態のマーキング部材50は、腕部52の基端側の軸受孔に挿通された支軸51を介して筐体20に軸支され、支軸51を揺動中心として、筐体20の内外方向に揺動可能となっている。また、実施形態のマーキング部材50は、支軸51に取り付けられたねじりばね55(図7参照)によって筐体20の径方向外側へ向かって付勢されている。
【0025】
実施形態では、図1及び図2に示されるように、筐体20の径方向外側へ向かって付勢されたマーキング部材50は、少なくとも一部が筐体20の角筒部22に収容される。また、実施形態のマーキング部材50の先端は、ソケット部30の角筒部32に収容される。
【0026】
実施形態のソケット部30の角筒部32の正面側には、図1及び図6に示されるように、略長方形の窓部321が開口している。窓部321から腕部52の一部が露出しており、腕部52の表面の押圧部521を指で押し込むことによってマーキング部材50をマーキング装置10の内側に向かって移動させることが可能となっている。
【0027】
(ホルダ)
実施形態では、筐体20の天面側にホルダ40が設けられている。図2に示されるように、実施形態のホルダ40は、筐体20に対して弾性部材41を介して組付けられ、マーキング対象物である締結部材80の先端から基端方向に向け移動自在となっている。本実施形態の弾性部材41は圧縮コイルばねであり、ホルダ40は筐体20に被せられた蓋状の部材であるが、これらの構成に限定されない。
【0028】
実施形態のホルダ40は、マーキング部材50の腕部52を図中下向きに押圧することが可能な押圧ピン42を備えている。実施形態の押圧ピン42は、筐体20の角筒部22の内部において短手方向に架け渡されるようにして、腕部52の上側の位置に配置される。
【0029】
図1及び図2に示されるように、実施形態のホルダ40には、押圧ピン42の端部を差し込み可能な凹部を備えた押圧ピン支持部43が一対形成されており、これら一対の押圧ピン支持部43に押圧ピン42の両端部が支持されている。また、押圧ピン42は、筐体20の角筒部22の両側面に形成された縦長の長孔形状のガイド溝221に挿通されており、ガイド溝221の上端から下端までの範囲で図中上下方向に移動可能となっている。押圧ピン42は、腕部52の図中上側の面と接している。
【0030】
押圧ピン42は、ホルダ40がボルト81の先端側から基端方向へ向けて押し込まれるのに伴って図中下側へ移動し、マーキング部材50を図中下向きに押し下げることができる。押し下げられたマーキング部材50は、支軸51を揺動中心として印字体54が筐体20の円筒部21の中心軸線Cに近付く方向へ移動する。
【0031】
このような構成とすれば、図3及び図4に示されるように、マーキング装置10を締結部材80に被せ、ホルダ40を被締結部材90に近付く方向に押し込むことにより、印字体54がマーキング対象物に近付く方向へ揺動し、マーキング対象物に接して線状のマークを付すことができる。
【0032】
ホルダ40には、ストラップ孔44が設けられていてもよい。ストラップ孔44にストラップを通して使用することで、マーキング作業時にマーキング装置10を落としたり紛失したりすることを抑制することができる。
【0033】
なお、マーキング部材50を押圧する手段は、ホルダ40に限定されず他の構成とすることができる。
【0034】
(ソケット部)
ソケット部30は、図5及び図6に示されるように、筐体20の底部に着脱自在に取り付けられる筒状の部材である。実施形態のソケット部30は、天面及び底面が開口した筒状部材であり、略円筒状の円筒部31と、円筒部31に連接された略角筒状の角筒部32とを備え、全体が平面視略鍵穴状に形成されている。
【0035】
円筒部31と角筒部32の内部空間は連通しており、ソケット部30には平面視略鍵穴状の中空の内部空間が形成されている。ソケット部30の内部空間は、マーキング装置10の空洞部11の一部(下側)を構成するものである。
【0036】
ソケット部30の円筒部31の底面の開口は、締結部材80を挿通可能な大きさに形成されている。実施形態の円筒部31には少なくともナット82が収容される。ソケット部30の円筒部31は、ナット82の外形より僅かに大きい内径を有していることが好ましい。また、この円筒部31が締結部材80に被せられたとき、図2に示すソケット部30の円筒部31の中心軸線Cと、マーキング対象のボルトの中心軸線C´とがほぼ一致することが好ましい。これにより、マーキング時のナット82に対する位置決めが容易となる。
【0037】
また、ソケット部30の円筒部31の内周面に、ナット82の外形形状に沿う凹凸が設けられていてもよい。実施形態のソケット部30の円筒部31の内周面には、図5及び図6に示されるように、ナット82の外周面の六角形状に沿うガイド面311が形成されている。図7に示されるように、実施形態のガイド面311は底面視形状が六角形に形成されている。これにより、円筒部31の内部においてナット82が確実に位置決めされ、マーキング部材50をナット82の角に正確に当ててマーキングを施すことが可能となる。
【0038】
なお、ソケット部30の円筒部31の内周面形状はこれに限定されず、円筒部31の内周面にガイド面311を形成しない構成としてもよい。この場合、六角ナットの角だけでなく側面の平面部にもマークを施すことができる。また、円筒部31の内周面に位置決めピンを設ける構成としてもよい。
【0039】
実施形態のソケット部30の円筒部31はM24サイズのナット82に対応するものである。ソケット部30の円筒部31の内径及び/または内周面の形状は、ナット82のサイズや形状に対応させてさまざまに設計することができる。ソケット30は簡素な構造であるため、低コストで容易にバリエーションを増やすことができ、携帯性にも優れている。
【0040】
このようなソケット部30が筐体20の底部に着脱自在に取り付けられていることにより、本発明では、締結部材80のサイズやマーキング位置の違いに対応可能であり、低コストで携帯性に優れたマーキング装置10とすることができる。
【0041】
(ソケット部の回転ロック機構)
次に、実施形態のソケット部30の筐体20への取付構造について説明する。ソケット部30は、回転ロックによって筐体20に嵌合されていることが好ましい。実施形態の回転ロックは、ソケット部30を筐体20に嵌め込んで所定の位置まで回動することでロックされるものであり、具体的にはバイオネット構造の回転ロックである。
【0042】
図2及び図5に示されるように、実施形態の筐体20の円筒部21の底部には、周方向にわたって図中下方に延出する底部フランジ211が形成されている。実施形態の底部フランジ211の外径寸法はソケット部30の内径寸法よりわずかに小さく形成され、ソケット部30の円筒部31に嵌合可能となっている。また、ソケット部30の内周面には、天面の近傍に、周方向にわたって径方向内側に延びる内側フランジ313が設けられている。実施形態の筐体20の底部フランジ211をソケット部30の天面側に挿入すると、フランジ211の下端が内側フランジ313と当接する。
【0043】
実施形態の底部フランジ211の外周面には、径方向外側に突出した係止突起212が設けられている。実施形態では一対の係止突起212が互いに対向するように設けられているが、係止突起212の数は限定されず、1つまたは3つ以上であってもよい。
【0044】
実施形態のソケット部30の円筒部31の内周面には、図5及び図6に示されるように、天面側の端部に、係止突起212と係合する略L字状のL字凹部312が形成されている。L字凹部312は、ソケット部30の上端に形成された開放部312aと、開放部312aから内側フランジ313にかけて形成された切欠きであって、係止突起212を下方に進入させるための挿入部312bと、挿入部312bの側方に形成され、係止突起212を上下方向に干渉させるための係合部312cとを備えている。
【0045】
筐体20とソケット部30を組み付けるときは、まず係止突起212を開放部312bから挿入部312bに進入させる。このときの係止突起212の進入方向は図中下向きであり、ソケット部30の円筒部31の中心軸線Cに平行な方向である。次に、ソケット部30を中心軸線Cを回転中心として周方向に回動させると、係止突起212が係合部312cに入り込み、ソケット部30がロックされる。
【0046】
これにより、運搬時や使用時にソケット部30が不用意に外れにくくなるため好ましい。また、回転ロックとすることにより、簡素な構造で容易に着脱自在とすることができる。なお、回転ロック機構はバイオネット構造に限定されず、その他の回転ロック機構を設けてもよい。
【0047】
(ソケット部の回転規制機構)
上記した回転ロック機構は、ソケット部30が回動することによりロック・アンロックが行われるため、不用意にソケット部30を回転させるとロックが解除されてしまうおそれがある。そこで、マーキング装置10には、ソケット部30が筐体20に嵌合された状態においてソケット部30の回動を阻止する回転規制機構が設けられていることが好ましい。
【0048】
実施形態のマーキング装置10では、マーキング部材50と、ソケット部30の角筒部32とが協働してソケット部30の回動を規制する役割を果たしている。図8(A)に示されるように、捺印動作が加えられていない初期状態のマーキング部材50は、ねじりばね55によって筐体20の径方向外側へ向かって付勢され、先端側がソケット部30の角筒部32に収容された状態となっている。これにより、マーキング部材50の外側面と角筒部32の内側面とが干渉し、ソケット部30の回動が規制される。なお、図8に示すソケット部30の脱着操作の際には、事前にマーキング部材50からカートリッジ53を取り外し、腕部52だけの状態としておく。
【0049】
図8(A)に示されるように、マーキング部材50の押圧部521は、ソケット部30の角筒部32の正面側に形成された窓部321に面しており、角筒部32の外側から指で押し込むことができる。マーキング部材50の押圧部521を円筒部31の中心軸線Cに近付く方向に押し込み、さらに、図8(B)に示されるように、円筒部31の底部開口から指を差し入れるなどして、マーキング部材50を円筒部31の背面側に押し付ける。ねじりばね55の付勢力に抗して押圧されたマーキング部材50は、マーキングを施すときの捺印位置よりもさらに筐体20の内側方向に押し込まれた状態となる。このとき、マーキング部材50は、全体が角筒部32から脱出して円筒部31に収容されている。これにより、ソケット部30の回転規制が解除され、ソケット部30を回転させることが可能となる。
【0050】
マーキング部材50を円筒部31の背面側に押し付けたまま、図8(C)に示されるように、ソケット部30を、中心軸線Cを回転中心として回転させる。これにより、係止突起212が係合部312cから挿入部312bに移動して回転ロック機構がアンロックとなり、ソケット部30を取り外すことができる。なお、取外しと逆の手順をとることによりソケット部30を筐体20に取り付けることができる。
【0051】
なお、上記した一連の脱着操作時には、あらかじめマーキング部材50からカートリッジ53を取り外しておくと、マーキング部材50の揺動範囲が広くなり、マーキング部材50をより背面側に位置させておくことができる。これにより、例えば円筒部31の内径が狭いソケット部30であっても、回動時にマーキング部材50と干渉しにくくなり作業性が良くなる。
【0052】
上記した構成によれば、ソケット部30が不用意に回動して回転ロックが外れ、ソケット部30が脱落してしまうことを確実に抑制することができる。
【0053】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、ソケット部30の角筒部32は角筒形状に限定されず、マーキング部材50と協働してソケット部30の回動を制限可能な他の形状とすることもできる。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、図9以下の図面を参照しつつ、本発明の第2の実施形態を説明する。
図11に示すように、第2の実施形態のマーキング装置も筒状の筐体60と、筐体60の底部に着脱自在に取り付けられた中空のソケット部61と、筐体60の天面側に被せられたホルダ70と、筐体60の内部に収納されたマーキング部材50とを備えている。マーキング部材50は第1の実施形態のマーキング部材50とほぼ同一構造であり、その上端は支軸51によって筐体60に枢着されている。なお図11では、マーキング部材50のみが図示され、マーキング部材50に装着される印字体は略されている。第1の実施形態ではホルダ40を被締結部材90に近付く方向に押し込むと、押圧ピン42がマーキング部材50を押し下げて内側に揺動させているが、第2の実施形態ではホルダ70の内面の押圧片94がマーキング部材50を押し下げて内側に揺動させるようになっている。
【0055】
図13に示すように、筐体60の下部に形成された円筒状の底部フランジ62の外周には、逆L字状の係合用凹部63が形成されている。係合用凹部63は図13の裏面側の対称位置にも形成されている。図14はソケット部61の平面図及び中央縦断面図であり、これらの図に示されるように、ソケット部61は、天面及び底面が開口した筒状部材であり、円筒部64とその側方に連接された角筒部65とを備え、全体が平面視略鍵穴状に形成されている。円筒部64はマーキング対象となる締結部材に被せられる部分である。角筒部65にはマーキング部材50を押し込むための縦長の窓孔65aが形成されている。
【0056】
ソケット部61の上方部には、上記した筐体60の底部フランジ62を受ける段部66が内向きに形成されている。そしてこの段部よりやや上方位置に一対の突起67が突設されている。このため筐体60の底部フランジ62をソケット部61の上方から落とし込み、突起67を逆L字状の係合用凹部63に嵌め込んだうえで少し回転させると、筐体60とソケット部61は回転ロック機構により、一体的に固定される。図15に示すように、マーキング部材50はその支軸51部分に設けられたねじりばね68により常に図11に示す外側方向に弾発されている。このため、図11図15の状態ではマーキング部材50は第1の実施形態と同様にソケット部61の角筒部65に入る。そして角筒部65に入り込んだマーキング部材50が障害となり、筐体60に対してソケット部61を回転させることができず、筐体60とソケット部61は一体的に固定された状態を維持する。この回転規制機構は第1の実施形態と同様であり、これを第1の回転規制機構とする。
【0057】
第1の実施形態はこの第1の回転規制機構のみを備えたものであるが、第2の実施形態では以下に説明する第2の回転規制機構が設けられている。
図11に示すように、筐体60の上部には、弾性部材69によって筐体60に対して上方に弾発されるホルダ70が設けられている。ホルダ70は筐体60及びソケット部61の円筒部64の外周に沿った円筒状部71と、ソケット部61の角筒部65の外面に沿った角筒状部72が一体に形成されたものである。
【0058】
筐体60の上部には円筒状凸部73が一体に形成されており、その上部の外周にはおねじ74が形成されている。また、このおねじ74と噛み合うめねじを備えたナット75が取り付けられている。図11に示すように、ナット75のスカート部76がホルダ70の上面に当接している。ホルダ70は弾性部材69によって常に上方に弾発されているが、その上面をナット75のスカート部76で押さえられている。すなわち、これらのおねじ74とナット75により構成される高さ規制機構77が、ホルダ70の上昇位置を規制している。なお、78はナット75の脱落防止部材である。ナット75の外周部には指先で容易にナット75を回転させることができるように、凹凸79が形成されている。
【0059】
図11はナット75を最低位置まで捩じ込んだ状態を示す。この状態ではホルダ70は弾性部材69に抗して最下位置まで押し下げられ、ホルダ70の角筒状部72が図15に示すようにソケット部61の角筒部65の外側を囲んだ状態となる。この状態ではホルダ70が筐体60に対するソケット部61の回転を阻止することとなり、これが第2の回転規制機構となる。なお、ナット75を逆回転させると図16図17に示すようにホルダ70は弾性部材69によって上昇し、第2の回転規制機構が解除される。この状態としたうえでマーキング部材50を内側に回動させれば、第1の回転規制機構も解除され、ソケット部61の取外しが可能となる。このように、第2の実施形態は第2の回転規制機構を組み込んだ構造であるので、ソケット部61が不用意に外れることをより確実に阻止することができる。
【0060】
(第3の実施形態)
以下に示す第3の実施形態は図18に示すように、第2の実施形態のナット75を覆うキャップ状のカバー115をホルダ70の上部に装着したものである。カバー115は図19に示すように円筒状部84と側方張出部85とからなり、例えば透明樹脂製である。円筒状部84の外周面下部の2か所には、逆L字状の係合用凹部86が形成されている。また図12に示すように、ホルダ70の上面には円弧状部87が突設されており、その内面には係合用凹部86に対応する係合用突起88が形成されている。このため、カバー115をホルダ70の上面の円弧状部87の内部に嵌めて小角度だけ回転させれば、カバー115の係合用凹部86がホルダ70の係合用突起88に嵌まり込み、カバーが固定される。
【0061】
さらにこの実施形態では、カバー115の側方張出部85の底部に貫通孔89を形成しておき、図18に示すようにカバー115ホルダ70に固定したとき、貫通孔89がホルダ70の角筒状部72に形成された貫通孔93と一致するようにしてある。この状態においてこれらの貫通孔89と貫通孔93に図示しない固定ピン等を落とし込めば、カバー115が不用意に回転されることが阻止される。上記した第3の実施形態では、第2の実施形態で説明した高さ規制機構77のナット75を回転させるためには先ずカバー115を取外す必要がある。よって第3の実施形態は、第3の回転規制機構を組み込んだものということができる。
【0062】
(第4の実施形態)
上記した第2、第3の実施形態では、おねじ74とナット75により構成されるねじ式の高さ規制機構77を採用したが、図20以下に示す第4の実施形態は、押し込みロック式の高さ規制機構95を採用したものである。第4の実施形態のマーキング装置も筐体100と、筐体100の底部に着脱自在に取り付けられた中空のソケット部101と、筐体100の天面側に被せられたホルダ102と、筐体100の内部に収納されたマーキング部材50とを備えている。マーキング部材50は第1の実施形態のマーキング部材50とほぼ同一構造である。
【0063】
図21に示すように、第4の実施形態の筐体100もその上面に円筒状凸部103を備えている。第2の実施形態ではその上部の外周にはおねじ74が形成されていたが、第4の実施形態ではその上部の外周にL字状の凹部104が形成されている。図20に示すように、ホルダ102の上面105の中央にはこの円筒状凸部103を貫通させる貫通孔が形成されており、ホルダ102は弾性部材106によって常に上方に弾発されている。しかし、円筒状凸部103の上端に装着されたキャップ107のスカート部がホルダ102の上面105に当接し、ホルダ102の上昇位置を規制している。
【0064】
このキャップ107は第2の実施形態のナット75と同様の外観を持つものであるが、図22に示すように中央に円筒状凸部103の上端に挿入できる中心孔108を備え、その底部に一対の突起109が形成されている。これらの突起109を図21に示した円筒状凸部103のL字状の凹部104の縦溝部110に一致させれば、キャップ107は円筒状凸部103に対して昇降可能となる。しかし、L字状の凹部104の下部でキャップ107を回転させて突起109を横溝部111に入れると、キャップ107はその位置で保持される。このため、キャップ107を下方に押し込んで回転させることにより、キャップ107は図20に示した低い位置で固定されるが、キャップ107を逆方向に回転させて突起109を縦溝部110に一致させれば、キャップ107は弾性部材106によって押し上げられ、図23に示す高い位置を取る。なお、円筒状凸部103の上端には脱落防止部材78が設けられているため、キャップ107が上方に脱落することはない。
【0065】
このようにキャップ107の高さが変われば、弾性部材106によって上方に弾発されているホルダ102の高さも変わり、第2の実施形態と同様に、ホルダ102が上昇した図23の状態では、ソケット部101の交換が可能となる。第4の実施形態は第3の実施形態のねじ式の高さ規制機構77に替えて、押し込みロック式の高さ規制機構95を採用したものである。
【0066】
なお図21に示すように、第4の実施形態では筐体100の底部フランジ112の外周には突起113が形成されており、図24に示すようにソケット部101の上端部にL字状の係合用凹部114が形成されている。この構造は第2の実施形態とは凹凸が逆であるが、ソケット部101を筐体100に対して回転させれば、ソケット部101の交換が可能となることは、第1の実施形態と同様である。
【0067】
上記した第2~第4の実施形態のマーキング装置は、第1の実施形態のマーキング装置と同様、ソケット部をマーキング対象となる締結部材に被せ、ホルダを押し下げることによってマーキング部材50を内側に揺動させ、締結部材にマーキングを施すものである。第1の実施形態のマーキング装置は第1の回転規制機構のみを備えたものであるが、第2の実施形態のマーキング装置は第2の回転規制機構を備え、第3の実施形態のマーキング装置は第3の回転規制機構を備えることにより、使用中にソケット部61が外れるおそれをより確実に阻止したものである。なお、第2の実施形態では、第2の回転規制機構としてねじ式の高さ規制機構77を用いたが、第4の実施形態は押し込みロック式の高さ規制機構95を用いている。高さ規制機構はこれらに限定されず、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 マーキング装置
11 空洞部
20 筐体
21 (筐体の)円筒部
211 底部フランジ
212 係止突起
22 (筐体の)角筒部
221 ガイド溝
30 ソケット部
31 (ソケット部の)円筒部
311 ガイド面
312 L字凹部
312a 開放部
312b 挿入部
313 内側フランジ
313c 係合部
32 (ソケット部の)角筒部
321 窓部
40 ホルダ
41 弾性部材
42 押圧ピン
43 押圧ピン支持部
44 ストラップ孔
50 マーキング部材
51 支軸
52 腕部
521 押圧部
53 カートリッジ
54 印字体
55 ねじりばね
60 筐体
61 ソケット部
62 底部フランジ
63 係合用凹部
64 円筒部
65 角筒部
65a 窓孔
66 段部
67 突起
68 ねじりばね
69 弾性部材
70 ホルダ
71 円筒状部
72 角筒状部
73 円筒状凸部
74 おねじ
75 ナット
76 スカート部
77 ねじ式の高さ規制機構
78 脱落防止部材
79 凹凸
80 締結部材
81 ボルト
82 ナット
83 ワッシャー
84 円筒状部
85 側方張出部
86 係合用凹部
87 円弧状部
88 係合用突起
89 貫通孔
90 被締結部材
91 被締結部材
93 貫通孔
94 押圧片
95 押し込みロック式の高さ規制機構
100 筐体
101 ソケット部
102 ホルダ
103 円筒状凸部
104 L字状の凹部
105 ホルダの上面
106 弾性部材
107 キャップ
108 中心孔
109 一対の突起
110 縦溝部
111 横溝部
112 底部フランジ
113 突起
114 L字状の係合用凹部
115 カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24