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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166023
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】定着具
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20241121BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023169262
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2023081897
(32)【優先日】2023-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】高野 航一
(72)【発明者】
【氏名】崎中 稔
(72)【発明者】
【氏名】西野 元庸
(72)【発明者】
【氏名】松原 喜之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 公生
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG40
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減することができる定着具を提供する。
【解決手段】コンクリート躯体に埋設されるスリーブ部材を備え、前記スリーブ部材は、メスコーン部と、前記メスコーン部の軸に沿って前記メスコーン部の後端面に一体に連なる支圧部と、を有し、前記後端面は、前記メスコーン部の軸に直交する面であり、前記支圧部は、前記メスコーン部と同軸となるように前記後端面に一体に連なる筒部と、前記筒部の外周面に一体に連なる少なくとも1つのリブと、を有し、前記少なくとも1つのリブは、支圧面を有する、定着具。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体に埋設されるスリーブ部材を備え、
前記スリーブ部材は、
メスコーン部と、
前記メスコーン部の軸に沿って前記メスコーン部の後端面に一体に連なる支圧部と、を有し、
前記後端面は、前記メスコーン部の軸に直交する面であり、
前記支圧部は、
前記メスコーン部と同軸となるように前記後端面に一体に連なる筒部と、
前記筒部の外周面に一体に連なる少なくとも1つのリブと、を有し、
前記少なくとも1つのリブは、支圧面を有する、
定着具。
【請求項2】
前記支圧面は、前記後端面に平行な面である、請求項1に記載の定着具。
【請求項3】
前記少なくとも1つのリブの外周面は、円筒状面を有する、請求項2に記載の定着具。
【請求項4】
前記円筒状面の直径は、前記メスコーン部の外周面の直径以下である、請求項3に記載の定着具。
【請求項5】
前記少なくとも1つのリブの外周面は、前記円筒状面の前端から前記後端面に向かって先細るテーパー面を有する、請求項4に記載の定着具。
【請求項6】
前記テーパー面は、直線状に構成されており、
前記筒部の軸に対する前記テーパー面の角度は、30°以上60°以下である、請求項5に記載の定着具。
【請求項7】
前記テーパー面は、湾曲状に構成されている、請求項5に記載の定着具。
【請求項8】
前記少なくとも1つのリブの外周面は、四角筒状面を有する、請求項1に記載の定着具。
【請求項9】
前記少なくとも1つのリブの数は、第1リブおよび第2リブの2つであり、
前記第1リブおよび前記第2リブはともに前記円筒状面を有し、
前記第1リブの前記円筒状面の直径は、前記メスコーン部の外周面の直径以下であり、
前記第2リブの前記円筒状面の直径は、前記円筒状面の直径以下である、請求項4に記載の定着具。
【請求項10】
前記少なくとも1つのリブの数は、第1リブおよび第2リブの2つであり、
前記第1リブおよび前記第2リブはともに前記テーパー面を有する、請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の定着具。
【請求項11】
前記メスコーン部の軸に沿った前記スリーブ部材の長さは33mm以上である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の定着具。
【請求項12】
前記メスコーン部の軸に沿った前記スリーブ部材の長さは33mm以上である、請求項10に記載の定着具。
【請求項13】
前記支圧部は、前記支圧部の後端部にジョイントシースとの接続部品の端部が嵌め込まれる穴部を有し、
前記穴部は、前記筒部と同軸となるように設けられている、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の定着具。
【請求項14】
前記支圧部は、前記支圧部の後端部にジョイントシースとの接続部品の端部が嵌め込まれる穴部を有し、
前記穴部は、前記筒部と同軸となるように設けられている、請求項10に記載の定着具。
【請求項15】
前記支圧部は、前記支圧部の後端部にジョイントシースとの接続部品の端部が嵌め込まれる穴部を有し、
前記穴部は、前記筒部と同軸となるように設けられている、請求項11に記載の定着具。
【請求項16】
前記支圧部は、前記支圧部の後端部にジョイントシースとの接続部品の端部が嵌め込まれる穴部を有し、
前記穴部は、前記筒部と同軸となるように設けられている、請求項12に記載の定着具。
【請求項17】
超高強度繊維補強コンクリートによって構成された部材に埋設されるスリーブ部材を備え、
前記スリーブ部材は、
メスコーン部と、
前記メスコーン部の軸に沿って前記メスコーン部の後端面に一体に連なる支圧部と、を有し、
前記後端面は、前記メスコーン部の軸に直交する面であり、
前記支圧部は、
前記メスコーン部と同軸となるように前記後端面に一体に連なる筒部と、
前記筒部の外周面に一体に連なる少なくとも1つのリブと、を有し、
前記少なくとも1つのリブは、支圧面を有する、
定着具。
【請求項18】
前記支圧面は、前記後端面に平行な面である、請求項17に記載の定着具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、定着具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、PC鋼材をコンクリート躯体に定着する定着具が開示されている。定着具は、メスコーンと定着プレートとを備える。メスコーンと定着プレートとは、別体に構成されている。定着プレートは、メスコーンの後端面が接触される前端面を除く領域がコンクリート躯体に埋設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-137345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の定着具では、詳しくは後述するようにコンクリート躯体表面に発生する引張応力が大きい。そのため、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減できる定着具の開発が望まれている。
【0005】
本開示は、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減することができる定着具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の定着具は、コンクリート躯体に埋設されるスリーブ部材を備える。前記スリーブ部材は、メスコーン部と、前記メスコーン部の軸に沿って前記メスコーン部の後端面に一体に連なる支圧部と、を有する。前記後端面は、前記メスコーン部の軸に直交する面である。前記支圧部は、前記メスコーン部と同軸となるように前記後端面に一体に連なる筒部と、前記筒部の外周面に一体に連なる少なくとも1つのリブと、を有する。前記少なくとも1つのリブは、支圧面を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の定着具は、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態1の定着具が設けられる道路橋床版の一例を示す模式図である。
図2図2は、図1の領域Aの拡大図である。
図3図3は、実施形態1の定着具を示す斜視図である。
図4図4は、図3のIV-IV断面図である。
図5図5は、実施形態1の定着具が設けられる道路橋床版の別の例の一部を示す模式図である。
図6図6は、実施形態2の定着具の第1の例を示す断面図である。
図7図7は、実施形態2の定着具の第2の例を示す断面図である。
図8図8は、実施形態3の定着具を示す斜視図である。
図9図9は、図8のIX-IX断面図である。
図10図10は、図8のX-X断面図である。
図11図11は、実施形態4の定着具を示す断面図である。
図12図12は、実施形態5の定着具を示す断面図である。
図13図13は、実施形態6の定着具を示す断面図である。
図14図14は、試験例で使用した荷重伝達装置を示す側面図である。
図15図15は、モデルNo.1-1の解析結果を示す図である。
図16図16は、モデルNo.1-2の解析結果を示す図である。
図17図17は、モデルNo.1-101の解析結果を示す図である。
図18図18は、モデルNo.2-1の解析結果を示す図である。
図19図19は、モデルNo.2-101の解析結果を示す図である。
図20図20は、モデルNo.3-1の解析結果を示す図である。
図21図21は、モデルNo.3-2の解析結果を示す図である。
図22図22は、モデルNo.3-101の解析結果を示す図である。
図23図23は、従来の定着具を示す正面図である。
図24図24は、従来の定着具を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《本開示の実施形態の説明》
図1に示される道路橋床版300は、道路橋床版300の橋軸に沿って第1端部から第2端部に向かって順に第1端部床版310、複数の第1標準床版330、交差床版350、複数の第2標準床版340、および第2端部床版320を備える。第1端部床版310、複数の第1標準床版330、交差床版350、複数の第2標準床版340、および第2端部床版320は、超高強度繊維補強コンクリート(UFC:Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete)によって構成されている。
【0010】
第1端部床版310は、道路橋床版300の第1端部に配置される。従来、第1端部床版310には、図23図24に示される定着具500によって、複数の第1PC鋼材101の第1端部が固定される。定着具500は後述する。複数の第1PC鋼材101は、図1の紙面垂直方向に並列に配置されている。第2端部床版320は、道路橋床版300の第2端部に配置される。従来、図1における第2端部床版320には、図23図24に示される定着具500によって、複数の第2PC鋼材102の第1端部が固定される。複数の第2PC鋼材102は、紙面垂直方向に並列に配置されている。複数の第1標準床版330は、第1端部床版310と交差床版350との間に配置される。複数の第1標準床版330には、複数の第1PC鋼材101が挿通される。複数の第2標準床版340は、第2端部床版320と交差床版350との間に配置される。複数の第2標準床版340には、複数の第2PC鋼材102が挿通される。
【0011】
交差床版350は、第1標準床版330と第2標準床版340との間に配置される。交差床版350は、下方に突出する突起部350aを有する。交差床版350の下面は、第1標準床版330から第2標準床版340に向かう方向に順に第1下面351、第1傾斜面352、第2下面353、第2傾斜面354、および第3下面355を有する。第1下面351と第3下面355とは、第2下面353よりも上方に位置する。第1傾斜面352は、第1下面351と第2下面353とをつないでいる。第1傾斜面352は、第1下面351から第2下面353に向かって下方に下がるように設けられている。第1下面351と第1傾斜面352とのなす角は鈍角である。第2傾斜面354は、第3下面355と第2下面353とをつないでいる。第2傾斜面354は、第3下面355から第2下面353に向かって下方に下がるように設けられている。第3下面355と第2傾斜面354とのなす角は鈍角である。交差床版350では複数の第1PC鋼材101と複数の第2PC鋼材102とが交差している。従来、図1における第1傾斜面352には、図23図24に示される定着具500によって、緊張された複数の第2PC鋼材102の第2端部が固定される。従来、図1における第2傾斜面354には、図23図24に示される定着具500によって、緊張された複数の第1PC鋼材101の第2端部が固定される。
【0012】
その他の道路橋床版に備わる床版には、図5に示されるように、突起部400aを有する床版400がある。床版400は、交差床版350とは異なり、一般的なコンクリートによって構成されている。一般的なコンクリートとは、例えば鉄筋コンクリートである。床版400の下面は、床版400の第1端部から第2端部にむかって順に、第1下面401、第1傾斜面402、第2傾斜面403、および第2下面404を有する。第1傾斜面402は、第1下面401と第2傾斜面403とをつないでいる。第1傾斜面402は、第1下面401から第2傾斜面403に向かって下方に下がるように設けられている。第1下面401と第1傾斜面402とのなす角は鈍角である。第2傾斜面403は、第1傾斜面402と第2下面404とをつないでいる。第2傾斜面403は、第2下面404から第1傾斜面402に向かって下方に下がるように設けられている。第2下面404と第2傾斜面403とのなす角は鈍角である。従来、第1傾斜面402には、図23図24に示される従来の定着具500によって、緊張された複数のPC鋼材100の端部が固定される。第2傾斜面403には、PC鋼材100の端部は固定されない。
【0013】
従来の定着具500は、図24に示されるメスコーン501、アンカープレート502、および鋼管503と、図示が省略されたオスコーンとを備える。メスコーン501とアンカープレート502とは、上述した特許文献1と同様、別体である。鋼管503は、アンカープレート502の後端面に溶接などで接合されている。アンカープレート502は、メスコーン501の後端面と接触する前端面が図1に示される第1端部床版310、第2端部床版320、交差床版350、および図5に示される床版400の各々の床版から露出するように上記各々の床版に埋設される。即ち、アンカープレート502の前端面を除く面と鋼管503とは上記各々の床版に埋設され、メスコーン501は上記各々の床版に埋設されることなく上記各々の床版から露出される。メスコーン501の内周面と緊張された各PC鋼材100との間にオスコーンが嵌め込まれることで、各PC鋼材100の緊張力がアンカープレート502の後端面から上記各々の床版に伝達される。即ち、アンカープレート502の後端面が支圧面である。上記各々の床版に緊張力が伝達されることによって、道路橋床版300、床版400に圧縮力が作用する。
【0014】
本発明者らは、従来の定着具500を用いた場合、例えば、図1に示される第1端部床版310、第2端部床版320、交差床版350、および図5に示される床版400のいずれにおいても床版の特定の箇所に発生する引張応力が大きくなり過ぎるとの知見を得た。第1端部床版310および第2端部床版320において特定の箇所とは、例えば図1に示される領域Xである。即ち、第1端部床版310および第2端部床版320において特定の箇所とは、端面における上下の両角部付近である。交差床版350において特定の箇所とは、例えば第1下面351の領域Yと第3下面355の領域Yで示される箇所である。即ち、交差床版350において特定の箇所とは、第1下面351における第1傾斜面352に近い箇所と第3下面355における第2傾斜面354に近い箇所である。床版400において特定の箇所とは、図5に示すように、第1下面401の領域Zで示される箇所である。即ち、床版400において特定の箇所とは、第1下面401における第1傾斜面402に近い箇所である。これらの特定の箇所において引張応力が大きくなり過ぎる理由は、上記緊張力が上記各々の床版の表面から床版に伝達されるからであると考えられる。これらのことから、本発明者らは、従来の定着具500を用いた場合に引張応力が大きくなり過ぎるということは、交差床版または床版のように突起部を有している場合に限らないとの知見と、床版の構成材料が超高強度繊維補強コンクリートである場合に限らず一般的なコンクリートでも同様であるとの知見とを得た。
【0015】
本発明者らは、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減できる定着具を鋭意検討した。その結果、本発明者らは本発明を完成させるに至った。最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0016】
(1)本開示の一態様の定着具は、コンクリート躯体に埋設されるスリーブ部材を備える。前記スリーブ部材は、メスコーン部と、前記メスコーン部の軸に沿って前記メスコーン部の後端面に一体に連なる支圧部と、を有する。前記後端面は、前記メスコーン部の軸に直交する面である。前記支圧部は、前記メスコーン部と同軸となるように前記後端面に一体に連なる筒部と、前記筒部の外周面に一体に連なる少なくとも1つのリブと、を有する。前記少なくとも1つのリブは、支圧面を有する。
【0017】
上記(1)の定着具は、メスコーン部と支圧部とが一体であることで、メスコーン部と支圧部とをコンクリート躯体に埋設できる。即ち、上記(1)の定着具における支圧面は、コンクリート躯体の内部に配置される。そのため、上記(1)の定着具は、上述の緊張力をコンクリート躯体に対してコンクリート躯体の内部から伝達することができる。上記(1)の定着具では、支圧部がメスコーン部の後端面に一体に連なっている。そのため、上記(1)の定着具における支圧面とコンクリート躯体の表面との距離は、上述した従来の定着具の支圧面であるアンカープレートの後端面とコンクリート躯体の表面との距離に比較して長い。上記緊張力をコンクリート躯体の内部から伝達できることに加えて上記距離が長いことによって、上記(1)の定着具は、上述した従来の定着具に比較して、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減できる。引張応力を低減できる上記(1)の定着具は、上述の緊張力を増加させることができる。また、上記(1)の定着具が例えば鉄筋コンクリートに用いられる場合には補強筋量の削減が期待できる。そして、上記(1)の定着具を用いることで、隣り合う定着具の間隔を小さくすることが期待できる。ここでいう隣り合う定着具の間隔とは、例えば図20おいて隣り合う円形状の孔C1同士の間隔をいう。図20については後述する。上記(1)の定着具は、メスコーン部と支圧部とが一体であることで、従来のアンカープレートが不要である。
【0018】
上述した従来の定着具では、メスコーンとアンカープレートとが別体に構成されているため、コンクリート躯体に埋設されたアンカープレートに対してメスコーンを位置決めしてからPC鋼材を緊張する必要がある。これに対して、上記(1)の定着具は、上述したように、メスコーン部と支圧部とをコンクリート躯体に埋設できるため、従来の定着具のようなアンカープレートに対するメスコーンの位置決めを行う必要がない。よって、上記(1)の定着具は、上述した従来の定着具に比較して、PC鋼材をコンクリート躯体に緊張定着する作業時間を短くすることができる。
【0019】
(2)上記(1)の定着具において、前記支圧面は、前記後端面に平行な面であってもよい。
【0020】
上記(2)の定着具は、支圧面が後端面に平行な面であることで、緊張力をコンクリート躯体の内部に伝達し易い。
【0021】
(3)上記(1)または上記(2)の定着具において、前記少なくとも1つのリブの外周面は、円筒状面を有していてもよい。
【0022】
少なくとも1つのリブの外周面が円筒状面を有するとは、リブが複数の場合、1つ以上のリブの外周面が円筒状面を有していることをいう。即ち、1つ以上のリブの外周面が円筒状面を有していて、1つ以上のリブの外周面が円筒状面を有していない場合と、全てのリブの外周面が円筒状面を有している場合も含む。
【0023】
上記(3)の定着具は、リブの外周面が円筒状面を有することなく後述するテーパー面のみを有する場合に比較して、リブによって圧力を受け易い。そのため、上記(3)の定着具は、リブの外周面が円筒状面を有することなく後述するテーパー面のみを有する場合に比較して、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減し易い。
【0024】
(4)上記(3)の定着具において、前記円筒状面の直径は、前記メスコーン部の外周面の直径以下であってもよい。
【0025】
上記(4)の定着具は、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減し易い。
【0026】
(5)上記(4)の定着具において、前記少なくとも1つのリブの外周面は、前記円筒状面の前端から前記後端面に向かって先細るテーパー面を有していてもよい。
【0027】
少なくとも1つのリブの外周面がテーパー面を有することの意義は、少なくとも1つのリブの外周面が円筒状面を有することの意義と同様である。
【0028】
上記(5)の定着具は、リブの外周面がテーパー面を有することなく円筒状面のみを有する場合に比較して、リブによって圧力を受け易い。筒部の軸に沿った円筒状面の長さが一定である場合、テーパー面を有するリブの接続箇所の長さは、テーパー面を有さないリブの接続箇所の長さに比較して長い。リブの接続箇所とは、リブのうち筒部の外周面に接続される箇所である。リブの接続箇所の長さとは、筒部の軸に沿ったリブの接続箇所の長さである。よって、上記(5)の定着具は、リブの外周面がテーパー面を有することなく円筒状面のみを有する場合に比較して、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減し易い。
【0029】
(6)上記(5)の定着具において、前記テーパー面は、直線状に構成されており、前記筒部の軸に対する前記テーパー面の角度は、30°以上60°以下であってもよい。
【0030】
上記角度が上記範囲内である上記(6)の定着具は、上記角度が上記範囲外である定着具に比較して、円筒状面の直径および筒部の軸に沿った円筒状面の長さが一定である場合、筒部の軸に沿った支圧部の長さが長くなりすぎることなくリブの接続箇所の長さを長くし易い。よって、上記(6)の定着具は、筒部の軸に沿った支圧部の長さが長くなりすぎることなく、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減し易い。
【0031】
(7)上記(5)の定着具において、前記テーパー面は、湾曲状に構成されていてもよい。
【0032】
上記(7)の定着具は、上記(6)の定着具のようにテーパー面が直線状に構成されている場合と同様、筒部の軸に沿った支圧部の長さが長くなりすぎることなく、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減し易い。
【0033】
(8)上記(1)の定着具において、前記少なくとも1つのリブの外周面は、四角筒状面を有していてもよい。
【0034】
少なくとも1つのリブの外周面が四角筒状面を有することの意義は、少なくとも1つのリブの外周面が円筒状面を有することの意義と同様である。
【0035】
上記(8)の定着具は、円筒状面を有する場合と同様、リブによって圧力を受け易い。そのため、上記(8)の定着具は、円筒状面を有する場合と同様、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減し易い。
【0036】
(9)上記(4)の定着具において、前記少なくとも1つのリブの数は、第1リブおよび第2リブの2つであってもよい。前記第1リブおよび前記第2リブはともに前記円筒状面を有していてもよい。前記第1リブの前記円筒状面の直径は、前記メスコーン部の外周面の直径以下であってもよい。前記第2リブの前記円筒状面の直径は、前記円筒状面の直径以下であってもよい。
【0037】
上記(9)の定着具は、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減し易い。
【0038】
(10)上記(5)から上記(7)のいずれかの定着具において、前記少なくとも1つのリブの数は、第1リブおよび第2リブの2つであってもよい。前記第1リブおよび前記第2リブはともに前記テーパー面を有していてもよい。
【0039】
上記(10)の定着具は、コンクリート躯体表面に発生する引張応力を低減し易い。
【0040】
(11)上記(1)から上記(10)のいずれかの定着具において、前記メスコーン部の軸に沿った前記スリーブ部材の長さは33mm以上であってもよい。
【0041】
上記(11)の定着具は、支圧面とコンクリート躯体の表面との距離が長くなり易いため、コンクリート躯体表面に発生する引張応力をより一層低減できる。
【0042】
(12)上記(1)から上記(11)のいずれかの定着具において、前記支圧部は、前記支圧部の後端部にジョイントシースとの接続部品の端部が嵌め込まれる穴部を有していてもよい。前記穴部は、前記筒部と同軸となるように設けられていてもよい。
【0043】
上記(12)の定着具は、ジョイントシースとの接続部品をスリーブ部材に嵌め込むことができるので、PC鋼材を覆うシースとスリーブ部材とをジョイントシースとの接続部品によって接続することができる。
【0044】
(13)本開示の一態様の定着具は、超高強度繊維補強コンクリートによって構成された部材に埋設されるスリーブ部材を備える。前記スリーブ部材は、メスコーン部と、前記メスコーン部の軸に沿って前記メスコーン部の後端面に一体に連なる支圧部と、を有する。前記後端面は、前記メスコーン部の軸に直交する面である。前記支圧部は、前記メスコーン部と同軸となるように前記後端面に一体に連なる筒部と、前記筒部の外周面に一体に連なる少なくとも1つのリブと、を有する。前記少なくとも1つのリブは、支圧面を有する。
【0045】
上記(13)の定着具では、上述した従来の定着具に比較して、超高強度繊維補強コンクリートによって構成された部材の表面に作用する引張応力を低減し易い。上記(13)の定着具は、上述した従来の定着具に比較して、PC鋼材を超高強度繊維補強コンクリートによって構成された部材に緊張定着する作業時間を短くすることができる。
【0046】
(14)上記(13)の定着具において、前記支圧面は、前記後端面に平行な面であってもよい。
【0047】
上記(14)の定着具は、支圧面が後端面に平行な面であることで、緊張力をコンクリート躯体の内部に伝達し易い。
【0048】
《本開示の実施形態の詳細》
以下、本開示の定着具の詳細を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面が示す部材の大きさなどは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法関係などを表すものではない。
【0049】
《実施形態1》
〔定着具〕
図1から図4を参照して、実施形態1の定着具1を説明する。定着具1は、図1図2に示されるように、コンクリート躯体に埋設されるスリーブ部材2を備える。スリーブ部材2は、図2から図4に示されるように、メスコーン部3と支圧部4とを有する。実施形態1の定着具1の特徴の一つは、支圧部4がメスコーン部3に対して特定の位置に配置されるようにメスコーン部3に一体に連なるように設けられている点にある。以下、スリーブ部材2が上述した道路橋床版300の交差床版350に埋設される場合を例に説明する。なお、スリーブ部材2が埋設されるコンクリート躯体は、交差床版350に限定されない。スリーブ部材2が埋設されるコンクリート躯体は、例えば、上述した第1端部床版310、第2端部床版320、および図5に示される床版400であってもよい。図1および図5では、スリーブ部材2は簡略して示されている。
【0050】
[スリーブ部材]
(メスコーン部)
図2に示されるように、メスコーン部3とオスコーン10とは、緊張状態のPC鋼材100を定着する。オスコーン10は、PC鋼材100と図4に示されるメスコーン部3の内周面32との間に差し込まれている。オスコーン10は、公知のオスコーンである。PC鋼材100は、公知のPC鋼より線または被覆PC鋼より線である。
【0051】
図3および図4に示されるように、メスコーン部3は、円筒状に構成されている。メスコーン部3の外周面31は、円筒状面である。メスコーン部3の内周面32は、第1前端面33から後端面34に向かって順にテーパー面および円筒状面を有する。テーパー面は、第1前端面33から円筒状面に向かって先細っている。メスコーン部3の第1前端面33は、スリーブ部材2が交差床版350に埋設された際、交差床版350の第1傾斜面352から露出している。メスコーン部3の第1前端面33には、図2に示されるグラウトキャップ201が固定される。メスコーン部3の第1前端面33には、複数のねじ穴が設けられている。各ねじ穴には、グラウトキャップ201を固定するボルトが結合される。グラウトキャップ201は、メスコーン部3の第1前端面33と、オスコーン10と、オスコーン10から露出するPC鋼材100の端部とを覆う。グラウトキャップ201内には、図示が省略されたグラウトが充填される。メスコーン部3は、第1前端面33の外周に配置された第2前端面35を有する。第2前端面35は、第1前端面33よりも後端面34に近い位置に設けられている。即ち、第1前端面33と第2前端面35との間には段差が設けられている。第2前端面35は、スリーブ部材2が交差床版350に埋設された際、交差床版350の第1傾斜面352から露出している。メスコーン部3の後端面34は、メスコーン部3の軸に直交している面である。メスコーン部3の後端面34は、交差床版350の内部に配置されている。メスコーン部3の後端面34は支圧面の1つである。
【0052】
(支圧部)
支圧部4は、交差床版350を支圧する。支圧部4は、メスコーン部3の軸に沿ってメスコーン部3の後端面34に一体に連なっている。支圧部4は、交差床版350の内部に配置されている。支圧部4は、筒部5と少なくとも1つのリブ6とを有する。
【0053】
〈筒部〉
筒部5は、メスコーン部3の後端面34に一体に連なっている。筒部5は、メスコーン部3の軸と筒部5の軸とが同軸となるように設けられている。筒部5の内周面52は、円筒状面である。筒部5の内周面52は、メスコーン部3の内周面32に一体に連なっている。
【0054】
〈リブ〉
リブ6は、筒部5の外周面51に一体に連なっている。リブ6は、支圧面60を有する。本例の支圧面60は、メスコーン部3の後端面34に平行な面である。即ち、リブ6の支圧面60は、筒部5の軸に直交する平面である。支圧面60は本例の上記平面に限定されない。本例とは異なり、支圧面60は、例えば湾曲面であってもよい。湾曲面は、メスコーン部3に向かって凹むように構成された面である。支圧面60の数は、リブ6の数と同数である。リブ6の数は、1つでもよいし2つでもよいし3つ以上でもよい。リブ6の数が複数である場合、各リブ6の形状は、互いに同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0055】
本例のリブ6の数は第1リブ61と第2リブ62の2つである。第2リブ62は、第1リブ61よりも後端面34から離れた位置に設けられている。本例では、第1リブ61の形状と第2リブ62の形状とは、互いに同じである。本例では、第1リブ61の形状と第2リブ62の形状とは環状である。本例とは異なり、第1リブ61と第2リブ62とは、筒部5の外周面の軸周りに間隔をあけて配置された複数の突起で構成されていてもよい。
【0056】
本例の第1リブ61の縦断面の形状および第2リブ62の縦断面の形状は、直角台形形状である。縦断面とは、スリーブ部材2の軸に沿った切断面でスリーブ部材2を切断された断面である。第1リブ61および第2リブ62の表面は、後端面65と外周面63とを有する。外周面63とは、筒部5の軸に直交することなく交差する面または軸に平行な面をいう。即ち、筒部5の軸に直交する面は、外周面63に含まれない。
【0057】
第1リブ61および第2リブ62の後端面65は、メスコーン部3の後端面34と平行な面である。第1リブ61の後端面65は、第1リブ61のち第2リブ62に最も近い位置に設けられている。第2リブ62の後端面65は、第2リブ62のうち第1リブ61から最も離れた箇所に設けられている。第1リブ61および第2リブ62の後端面65はいずれも、支圧面60である。第1リブ61および第2リブ62の外周面63は、後端面65からメスコーン部3に向かって順に円筒状面631およびテーパー面632を有する。円筒状面631は、後端面65とテーパー面632とつないでいる。テーパー面632は、円筒状面631と筒部5の外周面51とをつないでいる。テーパー面632は、円筒状面631からメスコーン部3の後端面34に向かって先細っている。本例のテーパー面632は、縦断面において直線状に構成されている。
【0058】
本例では、第1リブ61の円筒状面631の直径D61と第2リブ62の円筒状面631の直径D62とは、互いに同じである。また、本例では、第1リブ61の円筒状面631の直径D61と第2リブ62の円筒状面631の直径D62とは、メスコーン部3の外周面31の直径D3と同じである。本例とは異なり、第1リブ61の円筒状面631の直径D61と第2リブ62の円筒状面631の直径D62とは、互いに同じであるものの、メスコーン部3の外周面31の直径D3よりも小さくてもよい。本例とは異なり、第1リブ61の円筒状面631の直径D61と第2リブ62の円筒状面631の直径D62とは、互いに異なっていてもよい。例えば、第2リブ62の円筒状面631の直径D62が第1リブ61の円筒状面631の直径D61よりも小さくてもよい。この場合、第1リブ61の直径D61は、メスコーン部3の外周面31の直径D3よりも小さくてもよいし、直径D3と同じであってもよい。円筒状面631の直径とは、円筒状面631の外径である。本例では、筒部5の軸に沿った第1リブ61の円筒状面631の長さと筒部5の軸に沿った第2リブ62の円筒状面631の長さとは、互いに同じである。本例とは異なり、筒部5の軸に沿った第1リブ61の円筒状面631の長さと筒部5の軸に沿った第2リブ62の円筒状面631の長さとは、互いに異なっていてもよい。
【0059】
本例では、筒部5の軸に対する第1リブ61および第2リブ62のテーパー面632の角度θは、互いに同じである。上記角度θは、例えば、30°以上60°以下である。上記角度θは、32.5°以上57.5°以下であってもよいし、35°以上55°以下であってもよい。本例とは異なり、上記角度θは、上記の範囲内において互いに異なっていてもよい。
【0060】
本例では、筒部5の軸に沿った第1リブ61のテーパー面632の長さと筒部5の軸に沿った第2リブ62のテーパー面632の長さとは、互いに同じである。本例とは異なり、筒部5の軸に沿った第1リブ61のテーパー面632の長さと、筒部5の軸に沿った第2リブ62のテーパー面632の長さとは、互いに異なっていてもよい。
【0061】
〈穴部〉
支圧部4は、穴部7をさらに有する。穴部7は、図2に示される接続部品202の端部がはめ込まれる穴である。接続部品202は、PC鋼材100を覆うシース204とスリーブ部材2とを接続する。図2に示される例では、接続部品202とジョイントシース203とによって、シース204とスリーブ部材2とが接続されている。接続部品202の一例は、グロッケンジョイント(商品名)である。接続部品202の外周にジョイントシース203が配置されている。接続部品202とジョイントシース203とがテーピング205によって固定されている。接続部品202の外周面とジョイントシース203の内周面との間には、水を吸収することで膨張する不織布206が配置されている。この不織布206によって、上記間が止水されている。図示が省略されているものの、ジョイントシース203とシース204とはテーピング205によって固定されている。穴部7は、図4に示されるように、穴部7の軸と筒部5の軸とが同軸となるように支圧部4の後端部に設けられている。穴部7の内周面は、筒部5の内周面52に一体に連なっている。穴部7の内周面は、接続部品202の端部の外周面に対応している。
【0062】
本例の穴部7の内周面は、筒部5の内周面52から離れる方向に向かって順に直径の異なる第1円筒状面、第2円筒状面、および第3円筒状面を有する。第1円筒状面の直径は、筒部5の内周面52の直径よりも大きい。第2円筒状面の直径は、第1円筒状面の直径よりも大きい。第3円筒状面の直径は、第1円筒状面の直径よりも大きく、第2円筒状面の直径よりも小さい。筒部5の内周面52と第1円筒状面とは、筒部5の軸に直交する平面でつながっている。第1円筒状面と第2円筒状面とは、筒部5の軸に直交する平面でつながっている。第2円筒状面と第3円筒状面とは、筒部5の軸に直交する平面でつながっている。
【0063】
本例のスリーブ部材2は、メスコーン部3と支圧部4とが一体である。そのため、本例のスリーブ部材2は、メスコーン部3と支圧部4とを図2に示される交差床版350に埋設できる。そのため、本例のスリーブ部材2は、図24を参照して上述したように、メスコーン501とアンカープレート502とが別体の従来の定着具500に比較して、PC鋼材100を交差床版350に緊張定着する作業時間を短くすることができる。
【0064】
本例のスリーブ部材2は、メスコーン部3と支圧部4とを交差床版350に埋設できる上に図4に示されるように支圧部4がメスコーン部3の後端面34に一体に連なっている。そのため、特に第2リブ62の支圧面60である後端面65と図2に示される交差床版350の領域Yとの距離は、図24に示される従来の定着具500の支圧面であるアンカープレート502の後端面と図2に示される交差床版350の領域Yとの距離に比較して長い。本例のスリーブ部材2では上記距離が長いことで領域Yに発生する引張応力が交差床版350内に分散され易いと考えられる。よって、本例のスリーブ部材2は、図24に示される従来の定着具500に比較して、図2に示される交差床版350の領域Yに発生する引張応力を低減し易い。
【0065】
メスコーン部3の軸に沿ったスリーブ部材2の長さは、PC鋼材100の外径に応じて適宜選択できる。PC鋼材100の外径とは、PC鋼材100の包絡円の直径である。上記長さとは、コンクリート躯体に埋設される長さである。即ち、上記長さとは、第2前端面35から第2リブ62の後端面65までの距離である。上記長さが長いほど、第2リブ62の後端面65と図2に示される交差床版350の領域Yとの距離が長くなり易いため、交差床版350の領域Yに発生する引張応力をより一層低減し易い。PC鋼材100の外径が12.4mmまたは12.7mmの場合、上記長さは33mm以上である。PC鋼材100の外径が15.2mmの場合、上記長さは38mm以上である。PC鋼材100の外径が17.8mmの場合、上記長さは50mm以上である。PC鋼材100の外径が19.3mmの場合、上記長さは55mm以上である。PC鋼材100の外径が21.8mmの場合、上記長さは65mm以上である。PC鋼材100の外径が28.6mmの場合、上記長さは80mm以上である。
【0066】
本例の第1リブ61および第2リブ62の外周面63は、図4に示されるように、円筒状面631とテーパー面632とを有する。本例の第1リブ61および第2リブ62は、テーパー面632を有することなく円筒状面631のみを有する場合に比較して、第1リブ61および第2リブ62によって圧力を受け易い。筒部5の軸に沿った円筒状面631の長さが一定である場合、テーパー面632を有する第1リブ61および第2リブ62の接続箇所の長さが、テーパー面632を有さない第1リブ61および第2リブ62の接続箇所の長さよりも長いからである。第1リブ61および第2リブ62の接続箇所とは、第1リブ61および第2リブ62の各々のうち筒部5の外周面51に接続する箇所である。第1リブ61および第2リブ62の接続箇所の長さとは、筒部5の軸に沿った第1リブ61および第2リブ62の接続箇所の長さである。第1リブ61および第2リブ62の接続箇所の長さが長いため、第1リブ61および第2リブ62は圧力を受けた際に変形し難い。よって、本例のスリーブ部材2は、第1リブ61および第2リブ62がテーパー面632を有することなく円筒状面631のみを有する場合に比較して、図2に示される交差床版350の領域Yに発生する引張応力をより一層低減し易い。
【0067】
本例のスリーブ部材2では、図4に示されるように、筒部5の軸に対する第1リブ61および第2リブの各々のテーパー面632の角度θが30°以上60°以下である。そのため、本例のスリーブ部材2は、角度θが上記範囲外であるスリーブ部材2に比較して、円筒状面631の直径および筒部5の軸に沿った円筒状面631の長さが一定である場合、筒部5の軸に沿った支圧部4の長さが長くなりすぎることなく第1リブ61および第2リブ62の接続箇所の長さを長くし易い。よって、本例のスリーブ部材2は、筒部5の軸に沿った支圧部4の長さが長くなりすぎることなく、図2に示される交差床版350の領域Yに発生する引張応力を低減し易い。
【0068】
《実施形態2》
〔定着具〕
図6図7を参照して、実施形態2の定着具1を説明する。実施形態2の定着具1は、第1リブ61の形状および第2リブ62の形状が実施形態1と異なる点を除き、実施形態1の定着具1と同じである。以下の説明は、実施形態1との相違点を中心に行う。実施形態1と同様の構成および効果の説明は省略する。
【0069】
本例では、第1リブ61の縦断面の形状および第2リブ62の縦断面の形状は、四角形形状である。第1リブ61および第2リブ62の表面は、前端面64と外周面63と後端面65とを有する。前端面64および後端面65は、軸に直交する面である。後端面65は、支圧面60である。外周面63は、前端面64と後端面65とをつなぐ面である。外周面63は、円筒状面631である。外周面63は、実施形態1で説明したテーパー面632を有していない。即ち、第1リブ61の厚さおよび第2リブ62の厚さは一様である。厚さとは、筒部5の軸に沿った長さである。
【0070】
図6図7に示される例において、例えば、後端面34と第1リブ61の前端面64との間の距離が25mm、第1リブ61および第2リブ62の各々の前端面64と後端面65との間の距離が15mmであり、PC鋼材100の外径が以下の通りのとき、メスコーン部3の軸に沿ったスリーブ部材2の長さは、以下の通りである。PC鋼材100の外径が12.4mmまたは12.7mmの場合、上記長さは113mm以上である。PC鋼材100の外径が15.2mmの場合、上記長さは118mm以上である。PC鋼材100の外径が17.8mmの場合、上記長さは130mm以上である。PC鋼材100の外径が19.3mmの場合、上記長さは135mm以上である。PC鋼材100の外径が21.8mmの場合、上記長さは145mm以上である。PC鋼材100の外径が28.6mmの場合、上記長さは160mm以上である。
【0071】
図6に示される第1リブ61の円筒状面631の直径D61と第2リブ62の円筒状面631の直径D62とは、互いに異なっている。図6では、第2リブ62の円筒状面631の直径D62は、第1リブ61の円筒状面631の直径D61よりも小さい。第1リブ61の円筒状面631の直径D61は、メスコーン部3の外周面31の直径D3よりも小さい。
【0072】
図7に示される第1リブ61の円筒状面631の直径D61と第2リブ62の円筒状面631の直径D62とは、互いに同じである。第1リブ61の円筒状面631の直径D61と第2リブ62の円筒状面631の直径D62とは、メスコーン部3の外周面31の直径D3と同じである。
【0073】
図6に示されるスリーブ部材2は、図7に示されるスリーブ部材2に比較して、上述した交差床版350の特定の箇所に発生する引張応力を低減し易い。
【0074】
《実施形態3》
〔定着具〕
図8から図10を参照して、実施形態3の定着具1を説明する。実施形態3の定着具1は、筒部5の軸に沿った方向から見た第1リブ61の形状が実施形態2と異なる点を除き、実施形態2の定着具1と同じである。以下の説明は、実施形態2との相違点を中心に行う。実施形態2と同様の構成および効果の説明は省略する。
【0075】
図8に示されるように、筒部5の軸に沿った方向から見た第1リブ61の形状は、四角形形状である。四角形形状とは、長方形形状、または正方形形状である。四角形形状の4つの角部の各々は、丸められていてもよい。四角形形状の4つの辺の各々は直線であってもよいし、四角形形状の4つの辺の少なくとも1つの辺は曲線であってもよい。曲線は、凸状の曲線でもよいし、凹状の曲線でもよい。
【0076】
本例では、筒部5の軸に沿った方向から見た第1リブ61の形状は、長方形形状である。長方形形状の4つの辺は、2本の直線と2本の凸状の曲線とで構成されている。2本の直線は、平行である。2本の直線は、2本の直線同士の間隔よりも長い。2本の直線は、2本の凸状の曲線よりも長い。2本の凸状の曲線は、2本の直線同士の間隔よりも長い。2本の直線は、メスコーン部3の外周面31の直径D3よりも長い。2本の直線同士の間隔は、メスコーン部3の外周面31の直径D3と同じである。2本の凸状の曲線は、メスコーン部3の外周面31の直径D3よりも長い。
【0077】
図9に示される第1リブ61の第1縦断面の形状は、長方形形状である。第1縦断面は、スリーブ部材2の軸を通り上記直線に沿った切断面でスリーブ部材2を切断した断面である。図10に示される第2縦断面の形状は、正方形形状である。第2縦断面は、スリーブ部材2の軸を通り上記直線に直交する切断面でスリーブ部材2を切断した断面である。第1リブ61および第2リブ62の表面は、前端面64と外周面63と後端面65とを有する。外周面63は、四角筒状面635である。第1リブ61の厚さは一様である。
【0078】
《実施形態4》
〔定着具〕
図11に示されるように、実施形態4の定着具1では、リブ6の数は1つである。実施形態4の定着具1は、リブ6の数が1つである点を除き、実施形態1の定着具1と同じである。本例では、リブ6の直径D6は、メスコーン部3の外周面31の直径D3と同じである。本例とは異なり、リブ6の直径D6は、メスコーン部3の外周面31の直径D3よりも小さくてもよい。
【0079】
《実施形態5》
〔定着具〕
図12に示されるように、実施形態5の定着具1では、リブ6の数が1つである。実施形態5の定着具1は、リブ6の数が1つである点を除き、実施形態2の定着具1と同じである。本例では、リブ6の直径D6は、メスコーン部3の外周面31の直径D3よりも小さい。本例とは異なり、リブ6の直径D6は、メスコーン部3の外周面31の直径D3と同じでもよい。本例において、例えば、後端面34と前端面64との間の距離が25mm、リブ6の前端面64と後端面65との間の距離が15mmであり、PC鋼材100の外径が以下の通りのとき、メスコーン部3の軸に沿ったスリーブ部材2の長さは、以下の通りである。PC鋼材100の外径が12.4mmまたは12.7mmの場合、上記長さは73mm以上である。PC鋼材100の外径が15.2mmの場合、上記長さは78mm以上である。PC鋼材100の外径が17.8mmの場合、上記長さは90mm以上である。PC鋼材100の外径が19.3mmの場合、上記長さは95mm以上である。PC鋼材100の外径が21.8mmの場合、上記長さは105mm以上である。PC鋼材100の外径が28.6mmの場合、上記長さは120mm以上である。
【0080】
《実施形態6》
〔定着具〕
図13に示されるように、実施形態6の定着具1では、テーパー面632が湾曲状に構成されている。実施形態6の定着具1は、テーパー面632が湾曲状に構成されている点を除き、実施形態1の定着具1と同じである。本例のテーパー面632は、支圧部4の中心に向かって凹むように湾曲している。本例の筒部5の軸に対するテーパー面632の角度θは、例えば、30°以上60°以下である。本例の角度θは、スリーブ部材2の縦断面におけるテーパー面632の長手に沿った中間点の接線とスリーブ部材2の軸とのなす角をいう。上記角度θは、32.5°以上57.5°以下であってもよいし、35°以上55°以下であってもよい。
【0081】
《試験例》
試験例では、定着具を埋設したコンクリートの耐力を評価した。耐力の評価には、図14に示される荷重伝達装置700を用いた。荷重伝達装置700は、センターホールジャッキ710のジャッキヘッド711によって、供試体800に圧力を付与する装置である。
【0082】
試料No.1から試料No.4の供試体800は、スリーブ部材とスリーブ部材を埋設したコンクリート810とで構成されている。試料No.1の供試体800のスリーブ部材は、図3および図4を参照して説明した実施形態1のスリーブ部材2である。試料No.2の供試体800のスリーブ部材は、図6を参照して説明した実施形態2の第1の例のスリーブ部材2である。試料No.3の供試体800のスリーブ部材は、図7を参照して説明した実施形態2の第2の例のスリーブ部材2である。試料No.4の供試体800のスリーブ部材は、図8から図10を参照して説明した実施形態3のスリーブ部材2である。試料No.1から試料No.4の供試体800のコンクリート810は、超高強度繊維補強コンクリートである。試料No.1から試料No.4では、メスコーン部3の第2前端面35がコンクリート810から露出するように、スリーブ部材2がコンクリート810に埋設されている。
【0083】
試料No.101の供試体800は、図24に示されるアンカープレート502および鋼管503と、アンカープレート502および鋼管503を埋設したコンクリート810とで構成されている。試料No.101の供試体800のコンクリート810は、超高強度繊維補強コンクリートである。試料No.101では、アンカープレート502の前端面がコンクリート810から露出するように、アンカープレート502および鋼管503がコンクリート810に埋設されている。
【0084】
試料No.1から試料No.4のスリーブ部材2の支圧面は、メスコーン部3の後端面34と第1リブ61および第2リブ62の後端面65とである。試料No.101の支圧面は、アンカープレート502の後端面である。試料No.1および試料No.3の支圧面の合計面積は、試料No.101の支圧面の面積と同等である。試料No.2の支圧面の合計面積は、試料No.101の支圧面の面積よりも小さい。試料No.4の支圧面の合計面積は、試料No.101の支圧面の面積よりも大きい。
【0085】
試料No.1から試料No.4では、ジャッキヘッド711をスリーブ部材2のメスコーン部3の第1前端面33に当てて、PC鋼材100の規格引張荷重の100%に相当する圧力がコンクリート810に付与されるようにした。試料No.101では、図24に示されるメスコーン501の後端面をアンカープレート502の前端面に接触させた状態でジャッキヘッド711をメスコーン501に当てて、PC鋼材100の規格引張荷重の100%に相当する圧力がコンクリート810に付与されるようにした。
【0086】
試料No.1から試料No.4と試料No.101とはいずれも、PC鋼材100の規格引張荷重の100%に相当する圧力が付与されても、コンクリート810に割れなどが生じなかった。
【0087】
試料No.1から試料No.4のスリーブ部材2の重量比率を求めた。この重量比率は、試料No.101で用いたメスコーン501、アンカープレート502、および鋼管503の合計重量を100%とする場合に対する割合である。試料No.1のスリーブ部材2の重量比率は、88%であった。試料No.2のスリーブ部材2の重量比率は、77%であった。試料No.3のスリーブ部材2の重量比率は、81%であった。試料No.4のスリーブ部材2の重量比率は、94%であった。このように、PC鋼材100の規格引張荷重の100%に相当する圧力が付与されてもコンクリート810に割れなどが生じない試料No.1から試料No.4のスリーブ部材2の重量は、試料No.101の上記合計重量よりも軽かった。その理由は、試料No.1から試料No.4のスリーブ部材2の第1リブ61および第2リブ62の各々の厚さを、試料No.101のアンカープレート502の厚さよりも薄くできたからである。
【0088】
《解析例1》
解析例1では、定着具の構成の違いによって定着具を埋設したコンクリートに発生する引張応力の大きさの違いをFEM(Finite Element Method)解析によって調べた。FEM解析のソフトウェアには、Siemens Digital Industries Software社製Simcenter Nastran VERSION 2019.1を用いた。
【0089】
モデルNo.1-1およびモデルNo.1-2の供試体800は、図15および図16に示されるように、スリーブ部材2とスリーブ部材2を埋設したコンクリート810とで構成されている。モデルNo.1-1の供試体800のスリーブ部材2は、図11を参照して説明した実施形態4のスリーブ部材2である。モデルNo.1-2の供試体800のスリーブ部材2は、図12を参照して説明した実施形態5のスリーブ部材2である。モデルNo.1-1およびモデルNo.1-2の供試体800のコンクリート810は、超高強度繊維補強コンクリートである。モデルNo.1-1およびモデルNo.1-2では、メスコーン部3の第2前端面35がコンクリート810から露出するように、スリーブ部材2がコンクリート810に埋設されている。
【0090】
図17に示されるモデルNo.1-101の供試体800は、図24に示されるアンカープレート502および鋼管503と、アンカープレート502および鋼管503を埋設したコンクリート810とで構成されている。モデルNo.1-101の供試体800のコンクリート810は、超高強度繊維補強コンクリートである。モデルNo.1-101では、アンカープレート502の前端面がコンクリート810から露出するように、アンカープレート502および鋼管503がコンクリート810に埋設されている。即ち、モデルNo.1-101は、上述の試料No.101のモデルである。
【0091】
各モデルにおいて、最大緊張荷重となるように緊張されたPC鋼材をコンクリート810に定着させた際にコンクリート810に発生する最大引張応力の大きさを調べた。最大緊張荷重とは、PC鋼材の0.2%永久伸びに対する荷重の90%である。モデルNo.1-1、モデルNo.1-2、およびモデルNo.1-101のそれぞれの解析結果を図15から図17に示す。各図のスケールが示す数値の単位は「N/mm」である。各図では、引張応力が最大となる箇所が白抜き矢印で示されている。モデルNo.1-1における最大引張応力の値は、8.08N/mmであった。モデルNo.1-2における最大引張応力の値は、7.96N/mmであった。モデルNo.1-101における最大引張応力の値は、11.66N/mmであった。
【0092】
モデルNo.1-1およびモデルNo.1-2における最大引張応力の値は、モデルNo.1-101における最大引張応力の値よりも小さかった。上述したように、試料No.101では、PC鋼材の規格引張荷重の100%に相当する圧力が付与されても、コンクリート810に割れなどが生じなかった。そのため、上述した試験例のように実際に、実施形態4のスリーブ部材2および実施形態5のスリーブ部材2をそれぞれ用いてコンクリート810の耐力を評価すれば、試料No.101と同様、PC鋼材の規格引張荷重の100%に相当する圧力が付与されても、コンクリート810に割れなどが生じないと考えられる。
【0093】
《解析例2》
解析例2では、定着具を埋設したコンクリートに発生する引張応力の大きさをFEMによって調べた。FEM解析のソフトウェアには、解析例1と同じソフトウェアを用いた。
【0094】
モデルNo.2-1の供試体800は、図18に示されるように、スリーブ部材2とスリーブ部材2を埋設したコンクリート810とで構成されている。モデルNo.2-1の供試体800のスリーブ部材2は、図3図4を参照して説明した実施形態1のスリーブ部材2であり、コンクリート810は鉄筋コンクリートである。図19に示されるモデルNo.2-101の供試体800は、図24に示されるアンカープレート502および鋼管503と、アンカープレート502および鋼管503を埋設したコンクリート810とで構成されている。モデルNo.2-101の供試体800のコンクリート810は、鉄筋コンクリートである。
【0095】
各モデルにおいて、解析例1と同様にして、最大緊張荷重となるように緊張されたPC鋼材をコンクリート810に定着させた際にコンクリート810に発生する最大引張応力の大きさを調べた。モデルNo.2-1およびモデルNo.2-101のそれぞれの解析結果を図18および図19に示す。各図のスケールが示す数値の単位は「N/mm」である。各図では、引張応力が最大となる箇所が白抜き矢印で示されている。モデルNo.2-1における最大引張応力の値は、6.58N/mmであった。モデルNo.2-101における最大引張応力の値は、10.56N/mmであった。このように、モデルNo.2-1における最大引張応力の値は、モデルNo.2-101における最大引張応力の値よりも小さかった。
【0096】
《解析例3》
解析例3では、定着具の構成の違いによって交差床版350に発生する引張応力の大きさの違いをFEM解析によって調べた。FEM解析のソフトウェアには、解析例1と同じソフトウェアを用いた。
【0097】
モデルNo.3-1では、図3および図4を参照して説明した実施形態1のスリーブ部材2と図2に示されるオスコーン10とを用いた。モデルNo.3-2では、図6を参照して説明した実施形態2の第1の例のスリーブ部材2と図2に示されるオスコーン10とを用いた。モデルNo.3-101は、図24に示されるメスコーン501、アンカープレート502、および鋼管503を用いた。
【0098】
各モデルにおいて、最大緊張荷重となるように緊張されたPC鋼材100を交差床版350の第1傾斜面352に定着させた際に交差床版350に発生する引張応力の分布を調べた。モデルNo.3-1、No.3-2、およびNo.3-101のそれぞれの解析結果を図20から図22に示す。図20から図22は、交差床版350の第1下面351と第1傾斜面352と第2下面353とが示されている。図20から図22では、定着具の図示は省略されている。図20図21において、第1傾斜面352に開口している大きな円形状の孔C1は、スリーブ部材2のメスコーン部3が嵌め込まれる孔である。図20図21において、孔C1の奥に示されている小さな円形状の孔C2は、メスコーン部3と第1リブ61との間に位置する筒部5の外周面51が嵌め込まれる孔である。図22において、第1傾斜面352に開口している長方形状の孔C3は、アンカープレート502が嵌め込まれる孔である。図22において、長方形状の孔C3の奥に示されている円形状の孔C4は、鋼管503が嵌め込まれる孔である。スケールが示す数値の単位は「N/mm」である。
【0099】
いずれのモデルにおいても、交差床版350に発生する引張応力が最大となる箇所は、図1図2において領域Yが示す箇所であった。モデルNo.3-1において交差床版350に発生する最大引張応力の値は、13.9N/mmであった。モデルNo.3-2において交差床版350に発生する最大引張応力の値は、14.5N/mmであった。モデルNo.3-101において交差床版350に発生する最大引張応力の値は、18.7N/mmであった。
【0100】
《実施例》
実際に、複数のスリーブ部材と複数のオスコーンとを用いて図1に示される道路橋床版300の交差床版350に緊張された複数のPC鋼材100を定着させた。各スリーブには、図3および図4を参照して説明した実施形態1のスリーブ部材2を用いた。複数のPC鋼材100をまとめて同時に緊張させることができないため、複数のPC鋼材100の各々を順に緊張させた。1回の緊張によって設計荷重の100%に達するように各PC鋼材100を順に緊張させた。交差床版350に割れなどが生じることなく、各PC鋼材100を交差床版350に定着できた。その理由は、上述の解析例で示されるように、図3および図4に示されるスリーブ部材2としたモデルNo.3-1の最大引張応力の値が、図24に示される従来の定着具500としたモデルNo.3-101の最大引張応力の値よりも小さかったからだと考えられる。
【0101】
図6を参照して説明した実施形態2の第1の例のスリーブ部材2としたモデルNo.3-2の最大引張応力の値は、図24に示される従来の定着具500としたモデルNo.3-101の最大引張応力の値よりも小さい。そのため、実際に図6を参照して説明した実施形態2の第1の例のスリーブ部材2を用いて各PC鋼材100を緊張する回数を1回としても、交差床版350に割れなどが生じることなく、各PC鋼材100を交差床版350に定着できると考えられる。
【0102】
同様に、図7を参照して説明した実施形態2の第2の例のスリーブ部材2、図8から図10を参照して説明した実施形態3のスリーブ部材2、図11を参照して説明した実施形態4のスリーブ部材2、または図12を参照して説明した実施形態5のスリーブ部材2を用いて各PC鋼材100を緊張する回数を1回としても、交差床版350に割れなどが生じることなく、各PC鋼材100を交差床版350に定着できると考えられる。
【0103】
図23図24を参照した従来の定着具500を用い、1回の緊張によって設計荷重の100%に達するように各PC鋼材100を順に緊張させることで図1の交差床版350に対して緊張された複数のPC鋼材100を定着させた。その結果、領域Yに割れが生じた。そこで、複数のPC鋼材100を緊張する回数を次の通り2回とした。複数のPC鋼材100の各々が設計荷重の50%に達するまで、複数のPC鋼材100の各々を順に緊張させる。次に、複数のPC鋼材100の各々が設計荷重の100%に達するまで、複数のPC鋼材100の各々を順に緊張させる。その結果、領域Yに割れが生じなかった。
【0104】
実施形態1のスリーブ部材2は、従来の定着具500に比較して、緊張する回数を減らすことができたため、緊張する作業の開始から完了までにかかる時間を短くできる。上記時間を短くできる点は、図6を参照して説明した実施形態2の第1の例のスリーブ部材2、図7を参照して説明した実施形態2の第2の例のスリーブ部材2、図8から図10を参照して説明した実施形態3のスリーブ部材2、図11を参照して説明した実施形態4のスリーブ部材2、および図12を参照して説明した実施形態5のスリーブ部材2でも同様であると考えられる。
【0105】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0106】
1 定着具
2 スリーブ部材
3 メスコーン部
31 外周面、32 内周面
33 第1前端面、34 後端面、35 第2前端面
4 支圧部
5 筒部、51 外周面、52 内周面
6 リブ
60 支圧面、61 第1リブ、62 第2リブ
63 外周面
631 円筒状面、632 テーパー面、635 四角筒状面
64 前端面、65 後端面
7 穴部
10 オスコーン
100 PC鋼材、101 第1PC鋼材、102 第2PC鋼材
201 グラウトキャップ、202 接続部品
203 ジョイントシース、204 シース
205 テーピング、206 不織布
300 道路橋床版
310 第1端部床版、320 第2端部床版
330 第1標準床版、340 第2標準床版
350 交差床版、350a 突起部
351 第1下面、352 第1傾斜面
353 第2下面、354 第2傾斜面
355 第3下面
400 床版、400a 突起部
401 第1下面、402 第1傾斜面
403 第2傾斜面、404 第2下面
500 定着具
501 メスコーン、502 アンカープレート、503 鋼管
700 荷重伝達装置、
710 センターホールジャッキ、711 ジャッキヘッド
800 供試体
810 コンクリート
A、X、Y、Z 領域、θ 角度
D3、D6、D61、D62 直径
C1、C2、C3、C4 孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24