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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166024
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/04 20060101AFI20241121BHJP
   F16C 29/02 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
F16C17/04 Z
F16C29/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171858
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2023082629
(32)【優先日】2023-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004071
【氏名又は名称】弁理士法人オリベ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 誠二
(72)【発明者】
【氏名】奥平 賢嗣
【テーマコード(参考)】
3J011
3J104
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA08
3J011EA02
3J011KA07
3J011MA02
3J011MA12
3J011SB01
3J011SB03
3J011SB05
3J011SB15
3J011SD02
3J011SD04
3J104AA44
3J104AA76
3J104CA05
3J104DA15
3J104DA20
3J104EA04
3J104EA10
(57)【要約】
【課題】 人の目視による交換要否を確認しやすくすることが可能な摺動部材を提供する。
【解決手段】 摺動部材1の各第1端面部6には、摺動層3の露出表面に摩耗検出溝8が形成されている。そして、第1端面部6の摺動層3の露出表面(上側露出表面33U、下側露出表面33L)および摩耗検出溝8の溝内面(第1溝内面81、第2溝内面82)における算術平均粗さRaが異なることで、隣接する各面で反射する反射光の光沢の差(違い)が生じることとなり、各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認しやすくすることができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面を有する裏金層と、往復移動する相手部材と摺動するための摺動面を有する摺動層を備える平板形状の摺動部材において、
前記摺動層は、銅合金からなり、
前記背面と、前記摺動面と、前記摺動層の前記裏金層との界面は、平行になされ、
前記摺動部材は、前記相手部材の各移動方向の先側に第1端面部を有し、
前記第1端面部は、前記摺動層が露出した露出表面を有し、
前記第1端面部の一方または両方には、前記露出表面に摩耗検出溝が形成されており、
前記摩耗検出溝は、一定の溝深さおよび一定の溝幅を有し、前記摺動面に平行し、且つ、前記相手部材の移動方向と直交する方向に延び、
前記露出表面は、算術平均粗さRaが1.5μm以上15μm以下であり、
前記摩耗検出溝の溝内面の算術平均粗さRaは、前記露出表面の算術平均粗さRaの60%以下になされていることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記第1端面部は、前記相手部材の移動方向と直交する仮想の平面と平行である垂直面からなることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記第1端面部は、前記背面に隣接し、前記相手部材の移動方向と直交する仮想の平面と平行である垂直面と、該垂直面および前記摺動面に隣接し、前記垂直面に対し一定の角度で傾斜する傾斜面からなることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項4】
前記摩耗検出溝は、前記傾斜面内に位置することを特徴とする請求項3記載の摺動部材。
【請求項5】
前記摩耗検出溝は、前記垂直面内に位置することを特徴とする請求項3記載の摺動部材。
【請求項6】
前記摩耗検出溝は、前記摺動面に直交し、且つ、前記相手部材の移動方向と平行な方向の断面にて、V形状、R形状または逆台形形状の断面を有することを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項7】
前記摩耗検出溝は、前記露出表面の幅方向の全長に亘って形成されることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項8】
前記摩耗検出溝は、前記露出表面の幅方向の長さの一部に形成されることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばタイヤ加硫機等に用いられる摺動部材に関するものである。詳細には、本発明は、裏金層上に形成された摺動層を備える平板形状の摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ加硫機の往復摺動部には、裏金層上に形成された摺動層を備える平板形状の摺動部材が用いられている。このような摺動部材には、タイヤ加硫機の作業者や管理者が目視にて、摺動層が摩耗して摺動部材の交換時期に達したことを検知するための摩耗インジケーター(摩耗ゲージ)が形成されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、メンテナンスの作業負担およびランニングコストを増大させることなく、摺動部材の交換時期を目視にて簡易に検知することを目的として、摺動層の摺動面と相手部材の摺動方向に向けられる端面との境界部に摩耗インジケーター(摩耗ゲージ)として2つの段差を形成した摺動部材が提案されている(図5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-207117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案の摺動部材には、端面に2つの段差が摩耗インジケーター(摩耗ゲージ)として形成されているが、2つの段差面および摺動方向に向けられる端面が平行になされているため、可視光が照射された際の2つの段差面および端面に露出する摺動層の面どうし間の色の明暗の差が小さく、人の目視による交換要否のための確認が困難であった。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、人の目視による交換要否を確認しやすくすることが可能な摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、
背面を有する裏金層と、往復移動する相手部材と摺動するための摺動面を有する摺動層を備える平板形状の摺動部材において、
前記摺動層は、銅合金からなり、
前記背面と、前記摺動面と、前記摺動層の前記裏金層との界面は、平行になされ、
前記摺動部材は、前記相手部材の各移動方向の先側に第1端面部を有し、
前記第1端面部は、前記摺動層が露出した露出表面を有し、
前記第1端面部の一方または両方には、前記露出表面に摩耗検出溝が形成されており、
前記摩耗検出溝は、一定の溝深さおよび一定の溝幅を有し、前記摺動面に平行し、且つ、前記相手部材の移動方向と直交する方向に延び、
前記露出表面は、算術平均粗さRaが1.5μm以上15μm以下であり、
前記摩耗検出溝の溝内面の算術平均粗さRaは、前記露出表面の算術平均粗さRaの60%以下になされていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の摺動部材において、前記第1端面部は、前記相手部材の移動方向と直交する仮想の平面と平行である垂直面からなることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1記載の摺動部材において、前記第1端面部は、前記背面に隣接し、前記相手部材の移動方向と直交する仮想の平面と平行である垂直面と、該垂直面および前記摺動面に隣接し、前記垂直面に対し一定の角度で傾斜する傾斜面からなることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の摺動部材において、前記摩耗検出溝は、前記傾斜面内に位置することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項3記載の摺動部材において、前記摩耗検出溝は、前記垂直面内に位置することを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1記載の摺動部材において、前記摩耗検出溝は、前記摺動面に直交し、且つ、前記相手部材の移動方向と平行な方向の断面にて、V形状、R形状または逆台形形状の断面を有することを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項1記載の摺動部材において、前記摩耗検出溝は、前記露出表面の幅方向の全長に亘って形成されることを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項1記載の摺動部材において、前記摩耗検出溝は、前記露出表面の幅方向の長さの一部に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、摺動部材の第1端面部の一方または両方には、摺動層が露出した露出表面に摩耗検出溝が形成されているが、摺動層の露出表面および摩耗検出溝の溝内面における算術平均粗さRaが異なることで、隣接する各面で反射する反射光の光沢の差(違い)が生じることとなり、各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】軸受装置の摺動部材と相手部材の関係を示す斜視図である。
図2】実施例1の摺動部材を示す斜視図である。
図3図2の摺動部材の側面拡大図である。
図4図2の摺動部材の摺動層の側面拡大図である。
図5】実施例2の摺動部材を示す斜視図である。
図6図5の摺動部材の側面拡大図である。
図7】実施例3の摺動部材を示す斜視図である。
図8図7の摺動部材の側面拡大図である。
図9】実施例4の摺動部材を示す斜視図である。
図10】従来技術の摺動部材の側面拡大図である。
図11A】作用を説明するための図である。
図11B】作用を説明するための図である。
図12】実施例5の摺動部材の側面拡大図である。
図13】実施例6の摺動部材の側面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
まず、本発明の摺動部材1を有する軸受装置11の構成について、図1を参照して説明する。図1に示すように、軸受装置11は、摺動部材1と相手部材12からなり、摺動部材1と相手部材12は、X矢印方向に相対的に往復移動するようになっている。
【0019】
[実施例1]
(摺動部材の構成)
次に、実施例1の摺動部材1の構成について、図2乃至図4を参照して説明する。図2は、実施例1の摺動部材を示す斜視図であり、図3は、図2の摺動部材を示す側面拡大図であり、図4は、図2の摺動部材の摺動層を示す側面拡大図である。
【0020】
実施例1の摺動部材1は、裏金層2に摺動層3を接着したバイメタルによって、平板形状に形成される。図2に示すように、摺動部材1は、摺動層3の表面であり相手部材12を支承する摺動面4と、摺動層3の裏金層2との界面32と、裏金層2において、摺動層3を接着させた側と反対側の表面である背面5とを有し、摺動面4と、摺動層3の裏金層2との界面32と、背面5は、平行になっている。このため、摺動層3の摺動面4に垂直な方向の厚さT1及び裏金層2の摺動面4に垂直な方向の厚さT2は、一定になっている。摺動層3の厚さT1は、0.5~5mmとすることができ、裏金層2の厚さT2は、2~5mmとすることができる。但し、摺動層3の厚さT1および裏金層2の厚さT2は、他の寸法にしてもよい。
【0021】
裏金層2は、0.05~0.50質量%の炭素を含有する亜共析鋼や、ステンレス鋼等のFe合金を用いることができる。但し、裏金層2の材質は、これに限定されないで、他材質にしてもよい。
【0022】
摺動層3は、有色である摺動用の銅合金からなる。なお、有色である銅合金とは、可視光を反射する際、銅合金の表面にて白、黒以外の色を目視にて認識できる銅合金を意味する。銅合金の組成としては、Snを1~12質量%と残部銅および不可避不純物からなるものや、Snを1~12質量%含み、さらに、0.01~1質量%P、0.5~15質量%のNi,0.2~5質量%のFe、1~20質量%のZn、0.5~20質量%のPb、0.5~20質量%のBiから選択される1種以上の選択成分と残部銅および不可避不純物からなるものを用いることができる。銅合金は、さらに、Gr、MoS、WSから選ばれる固体潤滑剤を1~20体積%含むようにしてもよい。また、銅合金は、さらに、FeP、FeP、MoC、WC、Al,SiO等の硬質物を0.5~10体積%含むようにしてもよい。但し、銅合金31の組成は、これらに限定されないで、他組成であってもよい。
【0023】
摺動部材1は、相手部材12の各移動方向Xの先側にそれぞれ1つの第1端面部6を有し、各第1端面部6は、平行になっている。また、摺動部材1は、摺動面4に平行し、且つ、相手部材12の移動方向Xと直交する方向の各端部に第2端面部7を有し、各第2端面部7は、平行になっている。このため、各第2端面部7の間において、摺動面4に平行し、且つ、相手部材12の移動方向Xと直交する方向の長さL2は、一定になっている。また、各第1端面部6は、摺動面4に平行し、且つ、相手部材12の移動方向Xと直交する方向の長さL2を有するものになっている。
【0024】
図3に示すように、摺動部材1の各第1端面部6は、相手部材12の移動方向Xと直交する仮想の平面FPと平行である垂直面61からなる。この垂直面61は、裏金層2の露出表面と、摺動層3の露出表面33からなる。
【0025】
図4に示すように、摺動部材1の各第1端面部6には、摺動層3の露出表面33に摩耗検出溝8が形成されている。このため、露出表面33は、摩耗検出溝8と摺動面4との間の上側露出表面33Uと、摩耗検出溝8と界面32との間の下側露出表面33Lから構成されるようになる。そして、上側露出表面33Uと下側露出表面33Lは、同一の平面(垂直面61)内に位置している。なお、摩耗検出溝8は、摺動部材1の一方の第1端面部6のみに形成されていてもよい。
【0026】
摩耗検出溝8は、摺動面4とは接しないで、摺動面4から、摺動面4に垂直な方向に一定の長さL4で離間しており、摺動面4に平行し、且つ、相手部材12の移動方向Xと直交する方向に延び、第1端面部6の露出表面33の幅方向の全長に亘って形成されている。なお、露出表面33の幅方向は、摺動面4に平行し、且つ、相手部材12の移動方向Xと直交する方向として定義される。また、摩耗検出溝8は、延び方向の全長に亘って、一定の溝幅L1および一定の溝深さD1を有している。なお、溝幅L1は、摺動面4に直交し、且つ、相手部材12の移動方向Xと平行な方向の断面にて、露出表面33に平行な方向の長さとして定義される。また、溝深さD1は、摺動面4に直交し、且つ、相手部材12の移動方向Xと平行な方向の断面にて、露出表面33から摩耗検出溝8の最深部(溝深さD1の最大位置81P)までの間において、露出表面33に垂直な方向の長さとして定義される。
【0027】
摩耗検出溝8の溝幅L1は、0.2~2mmとすることができ、溝深さD1は、0.2~1mmとすることができる。また、摺動面4から摩耗検出溝8までの間において、摺動面4に垂直な方向の長さ(上側露出表面33Uの長さ)L4は、0.2~0.8mmとすることができる。但し、摩耗検出溝8の溝幅L1、溝深さD1、および、摺動面4から摩耗検出溝8までの間の長さ(上側露出表面33Uの長さ)L4は、他の寸法にしてもよい。
【0028】
摩耗検出溝8は、摺動面4に直交し、且つ、相手部材12の移動方向Xと平行な方向の断面にて、V形状の断面を有している。摩耗検出溝8の溝内面84は、溝深さD1の最大位置81Pと溝幅L1の一方の端部81Eの間の第1溝内面81と、溝深さD1の最大位置81Pと溝幅L1の他方の端部82Eの間の第2溝内面82からなる。そして、第1溝内面81および第2溝内面82は、それぞれ摩耗検出溝8(第1溝内面81および第2溝内面82)が隣接する露出表面33に対して一定の傾斜角度θ1を有して傾斜している。摩耗検出溝8の第1溝内面81と露出表面33(上側露出表面33U)との傾斜角度θ1、および、第2溝内面82と露出表面33(下側露出表面33L)との傾斜角度θ1は、30°~60°とすることができる。但し、第1溝内面81と露出表面33(上側露出表面33U)との傾斜角度θ1、および、第2溝内面82と露出表面33(下側露出表面33L)との傾斜角度θ1は、他の角度にしてもよく、また、実施例1では、第1溝内面81と露出表面33(上側露出表面33U)との傾斜角度θ1と、第2溝内面82と露出表面33(下側露出表面33L)との傾斜角度θ1は同じになっているが、異なる角度としてもよい。
【0029】
露出表面33は、算術平均粗さRaが1.5μm以上15μm以下の範囲内になされ、摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)の算術平均粗さRaは、露出表面33の算術平均粗さRaの60%以下になされている。さらに、摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)の算術平均粗さRaは、露出表面33の算術平均粗さRaの50%以下になされていることが好ましい。なお、算術平均粗さRa(μm)は、JIS B 0633:2001(ISO 4288:1996)に従い測定することができる。
【0030】
(作用)
実施例1の摺動部材1は、タイヤ加硫機の往復摺動部に用いられた際、作業者や管理者が目視で、摺動層3が摩耗して摺動部材1の交換時期に達しているか否かを検知するための摩耗検出溝8が第1端面部6に形成されている。そして、実施例1の摺動部材1は、相手部材12との相対的な往復摺動により摺動層3の摩耗が進むが、第1端面部6の摺動層3の露出表面33において、摩耗検出溝8と摺動面4との間の上側露出表面33Uが失われるまでの間(存在している間)には、摺動部材1の交換時期に達していないと判断され、上側露出表面33Uが失われると、摺動部材1の交換時期に達したと判断される。
【0031】
作業者や管理者(以下、「人」と記す)は、室内用光源等から照射されて第1端面部6で反射する可視光を目で受け入れ、視覚神経が刺激されることにより第1端面部6の形状を知ることができる。詳しくは、第1端面部6の摺動層3の露出表面33(上側露出表面33U、下側露出表面33L)および摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)において、隣接する各面で反射する反射光の明暗の差(違い)が生じることで、各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認しやすくすることができる。なお、摩耗検出溝8の第1溝内面81および第2溝内面82は、上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lに対して傾斜角度θ1を有し傾斜しているため、上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lと、第1溝内面81や第2溝内面82では、夫々、可視光の反射角が異なることで、反射光に明暗の差が生じることとなる。一方、第1端面部6の摺動層3の露出表面3における上側露出表面33Uと下側露出表面33Lは、同一の平面(垂直面61)内に位置しているため、上側露出表面33Uと下側露出表面33Lでは、反射光に明暗の差が生じていない。
【0032】
また、実施例1の摺動部材1は、摺動層3が、有色である摺動用の銅合金からなる。銅合金は、可視光が反射する際、赤~黄色の波長領域の光(電磁波)を選択的に反射することで、赤~黄(金)色を呈する。そして、反射光が有色(銅合金の場合には赤~黄(金)色)であると、人は、視覚神経が刺激されて第1端面部6の摺動層3の露出表面33(上側露出表面33U、下側露出表面33L)および摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)における各面の形状(各面同士の間の境界(面の輪郭))や各面の明暗の差を視認しやすくなる。さらに、人は、摺動部材1の交換要否の確認のために摺動部材1の第1端面部6を目視するとき、下側露出表面33Lの色調(明度)を見ながら、摩耗検出溝8の上側に同じ色調(明度)である上側露出表面33Uが残されているか否かを見ることができるため、摺動部材1の交換要否を目視で確認しやすくなる。
【0033】
さらに、露出表面33は、算術平均粗さRaが1.5μm以上15μm以下の範囲内になされ、摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)の算術平均粗さRaは、露出表面33の算術平均粗さRaの60%以下になされていることで、上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lと、第1溝内面81および第2溝内面82では、光沢の違いを視認できるようになる。なお、金属表面の光沢の違いは、入射光が表面で正反射した正反射光の強さの大小で現れる。正反射光は、入射光の表面への入射角度と同じ角度で表面で正反射する光(正反射方向に進む光)である。人は、正反射光が目に入ることで、金属の表面に光沢を感じることができる。
【0034】
図11Aは、露出表面33の上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lでの可視光の反射を説明するための図であり、図11Bは、摩耗検出溝8の第1溝内面81および第2溝内面82での可視光の反射を説明するための図である。
【0035】
図11Aに示すように、露出表面33の上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lは、摩耗検出溝8の第1溝内面81および第2溝内面82のよりも算術平均粗さRaが大きいため、上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lでの反射光は、拡散反射光の割合が大きくなり、光沢に関係する正反射光の割合(強さ)が小さくなる。なお、拡散反射光は、表面で正反射方向以外の方向へ反射する光である。拡散反射光は、どの方向にも一定の低い強さを有するので、人は、どの方向から見ても拡散反射光によっては光沢を感じにくい。
【0036】
図11Bに示すように、摩耗検出溝8の第1溝内面81および第2溝内面82は、露出表面33の上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lよりも算術平均粗さRaが小さい(60%以下)ため、第1溝内面81および第2溝内面82での反射光は、拡散反射光の割合が小さくなり、光沢に関係する正反射光の割合(強さ)が大きくなる。このため、人は、摩耗検出溝8の第1溝内面81および第2溝内面82と、露出表面33の上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lとの光沢の違いを視認できるようになる。さらに、人は、摺動部材1の交換要否の確認のために摺動部材1の第1端面6を目視するとき、下側露出表面33Lの光沢を見ながら、摩耗検出溝8の上側に同じ光沢を呈する上側露出表面33Uが残されているか否かを見ることができるため、摺動部材1の交換要否を目視で確認しやすくなる。
【0037】
なお、本発明とは異なり、露出表面33における算術平均粗さRaが1.5μm未満である場合には、露出表面33の光沢が強くなりすぎて、摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)との光沢の違いを視認しにくくなる。一方、露出表面33における算術平均粗さRaが15μmを超える場合には、露出表面33の光沢が弱くなりすぎて、摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)との光沢の違いを視認しにくくなる。また、露出表面33は、算術平均粗さRaが1.5μm以上15μm以下の範囲内になされていても、摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)の算術平均粗さRaが露出表面33の算術平均粗さRaの60%を超える場合には、露出表面33および摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)は、光沢の違いが小さくなりすぎて視認しにくくなる。
【0038】
なお、本発明の銅合金からなる摺動層3に変えて、摺動用のAl合金やFe合金からなる摺動層を用いた場合には、人は、摺動部材の交換要否を目視で確認し難くなる。Al合金は、可視光の全ての波長領域を均等に反射するために白色に見え、Fe合金は、可視光の全ての波長領域で反射率が低いために黒(灰)色に見える。そして、Al合金やFe合金のように反射光が無彩色(Al合金の場合には白色、Fe合金の場合には黒(灰)色)であると、銅合金の有色の反射光に比べて人の視覚神経への刺激が小さくなることで、人は、第1端面部6の摺動層3の露出表面33(上側露出表面33U、下側露出表面33L)および摩耗検出溝8(第1溝内面81、第2溝内面82)における各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認し難くなる。
【0039】
図10は、従来技術の摺動部材101の第1端面部106付近の側面拡大図である。摺動部材101は、摺動部材101の交換要否を目視にて判断するために、相手部材の移動方向Xの先側の第1端面部106に2つの段差が形成されている。そして、摺動層103の露出表面は、摺動面104に隣接する上側段差面133Uと、摩耗検出段差面108と、第1端面部106に位置する下側露出表面133Lからなる。
【0040】
従来技術の摺動部材101は、相手部材との相対的な往復摺動により摺動層103の摩耗が進み、第1端面部106の摺動層103の上側段差面133Uが失われるまでの間(存在している間)には、摺動部材101の交換時期に達していないと判断され、上側段差面133Uが失われると、摺動部材101の交換時期に達したと判断される。しかしながら、従来技術の摺動部材101は、上側段差面133Uと、摩耗検出段差面108と、下側露出表面133Lが平行に配置されており、これら面に照射された可視光の反射角が同じになることで、各面での反射光に明暗の差が生じ難くなる。このため、人は、上側段差面133Uが失われているか否かを目視で判断し難いものになっている。
【0041】
[実施例2]
次に、実施例2の摺動部材1として、実施例1とは異なる形態の第1端面部6を備える摺動部材1について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、実施例2の摺動部材1の斜視図であり、図6は、図5に示す摺動部材1の側面拡大図である。なお、実施例1と共通する実施例2の摺動部材1の構成については、同じ符号が付してあり、その説明を省略する。
【0042】
図5及び図6に示すように、実施例2の摺動部材1の各第1端面部6には、背面5に隣接し、相手部材12の移動方向Xと直交する仮想の平面FPと平行である垂直面61と、該垂直面61および摺動面4に隣接し、垂直面61に対し一定の傾斜角度θ2で傾斜した傾斜面62からなる。なお、垂直面61と傾斜面62との傾斜角度θ2は、30°~60°とすることが好ましいが、これに限定されないで、他の角度にしてもよい。
【0043】
摩耗検出溝8は、傾斜面62における摺動層3の露出表面33に形成されている。このため、露出表面33において、摩耗検出溝8と摺動面4との間の上側露出表面33Uと、摩耗検出溝8と界面32との間の下側露出表面33Lは、傾斜面62に形成されている。また、摩耗検出溝8は、摺動面4とは接しないで、摺動面4から、摺動面4に垂直な方向に一定の長さL4で離間しており、摺動面4に平行し、且つ、相手部材12の移動方向Xと直交する方向に延び、第1端面部6の露出表面33の幅方向の全長に亘って形成されている。
【0044】
実施例2の摺動部材1は、傾斜面62における摺動層3の露出表面33に摩耗検出溝8が形成されているが、傾斜面62における摺動層3の露出表面33(上側露出表面33U、下側露出表面33L)および摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)において、隣接する各面で反射する反射光の光沢の差(違い)および明暗の差(違い)が生じることで、各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認しやすくすることができる。
【0045】
[実施例3]
次に、実施例3の摺動部材1として、実施例1とは異なる形態の第1端面部6を備える摺動部材1について、図7及び図8を参照して説明する。図7は、実施例3の摺動部材1の斜視図であり、図8は、図7に示す摺動部材1の側面拡大図である。なお、実施例1と共通する実施例3の摺動部材1の構成については、同じ符号が付してあり、その説明を省略する。
【0046】
図7及び図8に示すように、実施例3の摺動部材1の各第1端面部6には、背面5に隣接し、相手部材12の移動方向Xと直交する仮想の平面FPと平行である垂直面61と、該垂直面61および摺動面4に隣接し、垂直面61に対し一定の傾斜角度θ2で傾斜した傾斜面62からなる。なお、垂直面61と傾斜面62との傾斜角度θ2は、30°~60°とすることが好ましいが、これに限定されないで、他の角度にしてもよい。
【0047】
摩耗検出溝8は、垂直面61における摺動層3の露出表面33に形成されている。このため、露出表面33において、摩耗検出溝8と摺動面4との間の上側露出表面33Uは、傾斜面62と垂直面61とに形成され、摩耗検出溝8と界面32との間の下側露出表面33Lは、垂直面61に形成されている。また、摩耗検出溝8は、摺動面4とは接しないで、摺動面4から、摺動面4に垂直な方向に一定の長さL4で離間しており、摺動面4に平行し、且つ、相手部材12の移動方向Xと直交する方向に延び、第1端面部6の露出表面33の幅方向の全長に亘って形成されている。
【0048】
実施例3の摺動部材1は、垂直面61における摺動層3の露出表面33に摩耗検出溝8が形成されているが、垂直面61における摺動層3の露出表面33(上側露出表面33U、下側露出表面33L)および摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)において、隣接する各面で反射する反射光の光沢の差(違い)および明暗の差(違い)が生じることで、各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認しやすくすることができる。
【0049】
[実施例4]
次に、実施例4の摺動部材1として、実施例1とは異なる形態の第1端面部6を備える摺動部材1について、図9を参照して説明する。図9は、実施例4の摺動部材1の斜視図である。なお、実施例1と共通する実施例4の摺動部材1の構成については、同じ符号が付してあり、その説明を省略する。
【0050】
図9に示すように、実施例4の摺動部材1の各第1端面部6には、摺動層3の露出表面33に摩耗検出溝8が形成されているが、摩耗検出溝8の長さL3は、摺動層3の露出表面33の幅方向の長さL2よりも小さくなされている。換言すると、摩耗検出溝8は、摺動層3の露出表面33の幅方向の一部に形成されている。なお、摩耗検出溝8の長さL3は、摺動層3の露出表面33の幅方向の長さL2の60%以上とすることが好ましいが、これに限定されないで、他の割合にしてもよい。また、摩耗検出溝8の長さL3が、摺動層3の露出表面33の幅方向の長さL2よりも小さく形成される場合、摩耗検出溝8の長さ方向の端部付近での溝深さD1および溝幅L1は、摩耗検出溝8の長さ方向の端部側に向かって次第に小さく形成されるようにしてもよい。また、摺動層3の露出表面33には、複数の摩耗検出溝8が形成されるようにしてもよい。
【0051】
実施例4の摺動部材1は、摺動層3の露出表面33の幅方向の一部に摩耗検出溝8が形成されているが、摺動層3の露出表面33および摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)において、隣接する各面で反射する反射光の光沢の差(違い)および明暗の差(違い)が生じることで、各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認しやすくすることができる。
【0052】
[実施例5]
以下、実施例5の摺動部材1として、実施例1とは異なる形態の摩耗検出溝8を備える摺動部材1について、図12を参照して説明する。図12は、実施例5の摺動部材1の側面拡大図である。なお、実施例1と共通する実施例5の摺動部材1の構成については、同じ符号が付してあり、その説明を省略する。
【0053】
図12に示すように、実施例5の摺動部材1の摩耗検出溝8は、摺動面4に直交し、且つ、相手部材12の移動方向Xと平行な方向の断面にて、逆台形形状の断面を有している。摩耗検出溝8の溝内面84は、第1溝内面81と第2溝内面82との間に、露出表面33(上側露出表面33U、下側露出表面33L)と平行な溝底面83を有している。
【0054】
実施例5の摺動部材1は、摺動層3の露出表面33に逆台形形状の断面を有する摩耗検出溝8が形成されているが、摺動層3の露出表面33および摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82、溝底面83)において、隣接する各面で反射する反射光の光沢の差(違い)および明暗の差(違い)が生じることで、各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認しやすくすることができる。
【0055】
[実施例6]
以下、実施例6の摺動部材1として、実施例1とは異なる形態の摩耗検出溝8を備える摺動部材1について、図13を参照して説明する。図13は、実施例6の摺動部材1の側面拡大図である。なお、実施例1と共通する実施例6の摺動部材1の構成については、同じ符号が付してあり、その説明を省略する。
【0056】
図13に示すように、実施例6の摺動部材1の摩耗検出溝8は、摺動面4に直交し、且つ、相手部材12の移動方向Xと平行な方向の断面にて、R形状の断面を有している。摩耗検出溝8の溝内面84は、溝深さD1の最大位置81Pと溝幅L1の一方の端部81Eの間にR形状の第1溝内面81と、溝深さD1の最大位置81Pと溝幅L1の他方の端部82Eの間にR形状の第2溝内面82からなる。また、実施例6の摺動部材1は、上側露出表面33Uおよび下側露出表面33Lと、R形状の断面を有する溝表面84(第1溝内面81、第2溝内面82)では、夫々、可視光の反射角が異なることで、反射光に明暗の差が生じることとなる。
【0057】
実施例6の摺動部材1は、摺動層3の露出表面33にR形状の断面を有する摩耗検出溝8が形成されているが、摺動層3の露出表面33および摩耗検出溝8の溝内面84(第1溝内面81、第2溝内面82)において、隣接する各面で反射する反射光の光沢の差(違い)および明暗の差(違い)が生じることで、各面の形状(輪郭)および構造(面どうしの関係)を目視で確認しやすくすることができる。
【0058】
本発明の摺動部材1は、実施例1~6に限定されないで、次のように変更することができる。摺動部材1は、所定の装置に摺動部材1をボルト締結するための凹部および穴等や、グリス等を保持するための溝等が、摺動面4に形成されていてもよい。また、摺動部材1の第2端面部7は、摺動面4に隣接する位置に傾斜面が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 摺動部材
2 裏金層
3 摺動層
32 界面
33 露出表面
33U 上側露出表面
33L 下側露出表面
4 摺動面
5 背面
6 第1端面部
61 垂直面
62 傾斜面
7 第2端面部
8 摩耗検出溝
81 第1溝内面
82 第2溝内面
83 溝底面
84 溝内面
81E 溝幅の端部(第1溝内面側)
82E 溝幅の端部(第2溝内面側)
81P 溝深さの最大位置
11 摺動装置
12 相手部材
D1 溝深さ
L1 溝幅
L2 摺動層の露出表面の幅方向の長さ
L3 摩耗検出溝の長さ
T1 摺動層の厚さ
T2 裏金層の厚さ
X 相手部材の移動方向
FP 相手部材の移動方向と直交する仮想の平面
θ1 傾斜角度
θ2 傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13