IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧 ▶ MGCフィルシート株式会社の特許一覧

特開2024-166027積層体およびこれを硬化してなる硬化物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166027
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】積層体およびこれを硬化してなる硬化物
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/28 20060101AFI20241121BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241121BHJP
   C08G 64/04 20060101ALI20241121BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20241121BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241121BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20241121BHJP
   C08J 7/18 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
B32B27/28 101
B32B27/36 102
C08G64/04
C08J7/046 CFD
C08J5/18
C08J7/00 304
C08J7/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023174113
(22)【出願日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2023081988
(32)【優先日】2023-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100209037
【弁理士】
【氏名又は名称】猪狩 俊博
(72)【発明者】
【氏名】山口 円
(72)【発明者】
【氏名】亀井 将太
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 亮介
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4F073
4F100
4J029
【Fターム(参考)】
4F006AA22
4F006AA36
4F006AB39
4F006AB43
4F006AB76
4F006BA02
4F071AA33
4F071AA50
4F071AA86
4F071AG12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F073AA07
4F073BA18
4F073BB01
4F073CA45
4F073FA03
4F100AA01C
4F100AH02A
4F100AH05C
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK45A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA05C
4F100CA18C
4F100CA23C
4F100CA30C
4F100JB12C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4J029AA09
4J029AB02
4J029AE03
4J029BB13A
4J029FA07
4J029HA01
4J029HC01
4J029HC02
4J029HC04A
4J029HC05A
4J029HC07
4J029HC08
(57)【要約】
【課題】硬度および三次元成形性が優れる積層体が提供する。
【解決手段】基材層(a)と、200~600g/molのアクリル当量を有する(メタ)アクリロイルポリマーを含む硬化性樹脂層(b)と、を含む、積層体であって、前記基材層(a)が、基材層(a)の全質量に対して、96質量%以上のビスフェノールA型ポリカーボネートを含み、前記基材層(a)の中間ガラス転移温度(Tmg)が、100~140℃である、積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(a)と、
200~600g/molのアクリル当量を有する(メタ)アクリロイルポリマーを含む硬化性樹脂層(b)と、
を含む、積層体であって、
前記基材層(a)が、基材層(a)の全質量に対して、96質量%以上のビスフェノールA型ポリカーボネートを含み、
前記基材層(a)の中間ガラス転移温度(Tmg)が、100~140℃である、積層体。
【請求項2】
前記ビスフェノールA型ポリカーボネートが、ビスフェノールAと、カーボネート結合剤と、下記式(1):
【化1】
[上記式(1)中、
は、炭素数8~36のアルキル基、または炭素数8~36のアルケニル基であり、
は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン原子、もしくはハロゲン原子、炭素数6~12のアリール基で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、またはハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基である]
で表される1価フェノール末端停止剤と、を反応させてなる、ポリカーボネートである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤が、パラヒドロキシ安息香酸2-ヘキシルデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル、およびパラヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシルエステルからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記(メタ)アクリロイルポリマーが、下記式(2):
【化2】
[上記式(2)中、
mは、単結合、または炭素数1~4のアルキレン基であり、
nは、水素、または炭素数1~4のアルキル基であり、
pは、単結合、または炭素数1~2のアルキレン基であり、
qは、水素、またはエポキシ基、水酸基、(メタ)アクリロイル基の少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基である]
で表される繰り返し単位を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記(メタ)アクリロイルポリマーが、下記式(2-a)~(2-c):
【化3】
で表される繰り返し単位の少なくとも1つを含む、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記(メタ)アクリロイルポリマーのアクリル当量が、200~500g/molである、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
硬化性樹脂層(b)がレベリング剤をさらに含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記レベリング剤が、フッ素系レベリング剤を含む、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記硬化性樹脂層(b)が無機粒子をさらに含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
前記無機粒子の平均粒子径が、20~60nmである、請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
前記硬化性樹脂層(b)が光安定剤をさらに含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
前記硬化性樹脂層(b)が重合禁止剤をさらに含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項13】
前記硬化性樹脂層(b)の厚みが5μm以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項14】
アクリル層(c)をさらに含み、
基材層(a)、アクリル層(c)、および硬化性樹脂層(b)が、この順に積層される、請求項1に記載の積層体。
【請求項15】
前記アクリル層(c)の厚みが、20μm以上である、請求項14に記載の積層体。
【請求項16】
真空成形に用いられる、請求項1に記載の積層体。
【請求項17】
TOM成形に用いられる、請求項1に記載の積層体。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の積層体を硬化してなる、硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびこれを硬化してなる硬化物等に関する。
【背景技術】
【0002】
熱成形フィルム(機能性フィルム、加飾フィルムともいう)は、成形品の表面に所望の特性(例えば、耐擦傷性、耐薬品性、意匠性等)を付与するために好適に用いられる。
【0003】
熱成形フィルムを成形品に適用する場合、種々の成形法が用いられる。前記成形法としては、例えば、真空成形、圧空成形、フィルムインサート成形、インモールド成形、三次元加飾(TOM)成形等が好適に用いられる。
【0004】
成形品に対して、例えば、耐擦傷性等の特性を付与する場合、熱成形フィルムは高硬度であることが求められる。そこで、熱成形フィルムは、樹脂を硬化してなるハードコート層を設けた積層体の形態とすることが行われている。しかしながら、熱成形フィルムの硬度が高いほど、成形性が低下して成形品への追従性が不十分となることがある。すなわち、熱成形フィルムは硬度と成形性とがトレードオフの関係にある。
【0005】
従来、熱成形フィルムの硬度と成形性との両立を図る方法が検討されている。例えば、特許文献1には、ポリカーボネート系樹脂を含むA層、アクリル系樹脂を含むB層、およびアクリレート系活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の未硬化物から形成されたC層の少なくとも三層をこの順に積層してなる熱成形用シートに係る発明が記載されている。この際、前記A層のガラス転移温度(Tg)が100℃以上145℃以下であることを特徴としている。
【0006】
特許文献1には、前記発明によれば、成形品への適用時にハードコート層に相当するC層を未硬化の状態とすることで、高い成形性を実現することができ、また、成形品に熱成形シートを適用した後(成形後)に活性エネルギー線による後露光を行いC層を硬化することで、高硬度のハードコート層を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-146687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の熱成形フィルムは、硬度と成形性との両立が図れるものの、三次元成形性に改善の余地があった。そこで、本発明は、硬度および三次元成形性が優れる積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば以下のとおりである。
【0010】
[1]基材層(a)と、
200~600g/molのアクリル当量を有する(メタ)アクリロイルポリマーを含む硬化性樹脂層(b)と、
を含む、積層体であって、
前記基材層(a)が、基材層(a)の全質量に対して、96質量%以上のビスフェノールA型ポリカーボネートを含み、
前記基材層(a)の中間ガラス転移温度(Tmg)が、100~140℃である、積層体。
[2]前記ビスフェノールA型ポリカーボネートが、ビスフェノールAと、カーボネート結合剤と、下記式(1):
【化1】
[上記式(1)中、
は、炭素数8~36のアルキル基、または炭素数8~36のアルケニル基であり、
は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン原子、もしくはハロゲン原子、炭素数6~12のアリール基で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、またはハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基である]
で表される1価フェノール末端停止剤と、を反応させてなる、ポリカーボネートである、上記[1]に記載の積層体。
[3]前記式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤が、パラヒドロキシ安息香酸2-ヘキシルデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル、およびパラヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシルエステルからなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[2]に記載の積層体。
[4]前記(メタ)アクリロイルポリマーが、下記式(2):
【化2】
[上記式(2)中、
mは、単結合、または炭素数1~4のアルキレン基であり、
nは、水素、または炭素数1~4のアルキル基であり、
pは、単結合、または炭素数1~2のアルキレン基であり、
qは、水素、またはエポキシ基、水酸基、(メタ)アクリロイル基の少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基である]
で表される繰り返し単位を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記(メタ)アクリロイルポリマーが、下記式(2-a)~(2-c):
【化3】
で表される繰り返し単位の少なくとも1つを含む、上記[4]に記載の積層体。
[6]前記(メタ)アクリロイルポリマーのアクリル当量が、200~500g/molである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]硬化性樹脂層(b)がレベリング剤をさらに含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]前記レベリング剤が、フッ素系レベリング剤を含む、上記[7]に記載の積層体。
[9]前記硬化性樹脂層(b)が無機粒子をさらに含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10]前記無機粒子の平均粒子径が、20~60nmである、上記[9]に記載の積層体。
[11]前記硬化性樹脂層(b)が光安定剤をさらに含む、上記[1]~[10]のいずれかに記載の積層体。
[12]前記硬化性樹脂層(b)が重合禁止剤をさらに含む、上記[1]~[11]のいずれかに記載の積層体。
[13]前記硬化性樹脂層(b)の厚みが5μm以上である、上記[1]~[12]のいずれかに記載の積層体。
[14]アクリル層(c)をさらに含み、
基材層(a)、アクリル層(c)、および硬化性樹脂層(b)が、この順に積層される、上記[1]~[13]のいずれかに記載の積層体。
[15]前記アクリル層(c)の厚みが、20μm以上である、上記[14]に記載の積層体。
[16]真空成形に用いられる、上記[1]~[15]のいずれかに記載の積層体。
[17]TOM成形に用いられる、上記[1]~[16]のいずれかに記載の積層体。
[18]上記[1]~[17]のいずれかに記載の積層体を硬化してなる、硬化物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硬度および三次元成形性が優れる積層体が提供される。これにより、例えば、三次元加飾(TOM)成形等により好適に成形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0013】
1.積層体
本発明に係る積層体は、基材層(a)と、200~600g/molのアクリル当量を有する(メタ)アクリロイルポリマーを含む硬化性樹脂層(b)と、を含む。この際、前記基材層(a)は、基材層(a)の全質量に対して、96質量%以上のビスフェノールA型ポリカーボネートを含む。また、前記基材層(a)の中間ガラス転移温度(Tmg)は100~140℃である。
【0014】
上記積層体によれば、硬度および三次元成形性が優れる。具体的には、前記積層体は硬化性樹脂層(b)、すなわち未硬化の樹脂層(b)を含み、所定の構成を有することから成形性、特に三次元成形性に優れる。また、前記積層体を成形した後、硬化性樹脂層(b)を硬化させて硬化膜とすることにより、積層体から得られる硬化物は、高い硬度を有する。
【0015】
なお、本明細書において、「中間ガラス転移温度(Tmg)」とは、示差走査熱量分析(DSC)により得られるDSC曲線を解析して得られる値である。具体的には、DSC曲線の低温側のベースラインを高温側に延長した直線A、変曲点の接線B、高温側のベースラインを低温側に延長した直線Cのうち、直線Aおよび接戦Bの交点を開始ガラス転移温度(Tig)、接戦Bおよび直線Cの接戦を終了ガラス転移温度(Teg)としたとき、開始ガラス転移温度(Tig)と終了ガラス転移温度(Teg)との中間地点が中間ガラス転移温度(Tmg)である。なお、一般にガラス転移温度というときは開始ガラス転移温度(Tig)を指し、開始ガラス転移温度(Tig)は中間ガラス転移温度(Tmg)よりも低くなる。中間ガラス転移温度(Tmg)は、実施例に記載の方法で測定される。
【0016】
一実施形態において、本発明に係る積層体は、真空成形に用いられる。真空成形は、真空条件下で成形が行われる成形法であり、インモールド成形、三次元加飾(TOM)成形等が該当しうる。
硬化性樹脂層(b)を含む積層体を成形品に適用する場合(成形する場合)、成形時には硬化性樹脂層(b)の硬化は生じさせず、成形後に硬化性樹脂層(b)を硬化させることが好ましい。
しかしながら、成形を真空条件下で行う場合、硬化性樹脂層(b)の層内に含まれる酸素原子等からラジカルが生じることにより、真空成形時に意図しない硬化性樹脂層(b)の硬化が生じうる。その結果、成形後の硬化性樹脂層(b)にクラックが生じうる。
本発明に係る積層体によれば、成形を真空条件下で行う場合であっても、クラックを生じることなく積層体を形成することができ、前記積層体の硬化性樹脂層(b)にクラックが発生することを防止しうる。
【0017】
一実施形態において、本発明に係る積層体は、三次元加飾(TOM)成形に用いられる。三次元加飾(TOM)成形は、(1)凹凸表面を有する成形品が配置された上部開口する下部チャンバと、ヒーターが配置された下部開口する上部チャンバと、前記下部チャンバおよび前記上部チャンバで挟持された本発明に係る積層体と、を気密状態とした後、真空条件とする真空工程と、(2)前記ヒーターを用いて前記積層体を加熱する加熱工程と、(3)前記凹凸を有する成形品を加熱された積層体に接触させる接触工程と、(4)上部チャンバを大気圧条件とする上部チャンバ脱真空工程と、(5)下部チャンバを大気圧条件とする下部チャンバ脱真空工程と、を含む。
すなわち、三次元加飾(TOM)成形は、真空条件下で積層体を加熱により軟化させ、積層体の下部から成形品を突き上げてこれらを接触させた後(積層体の自重により成形品により密着してラミネートされる)、上部チャンバを大気圧条件として圧力差を生じさせて上部チャンバから下部チャンバに向かって加圧することでラミネートを完了させるというものである。これにより、凹凸表面を有する成形品と前記凹凸表面上に配置された積層体とを含む三次元加飾成形品を得ることができる。
なお、三次元加飾(TOM)成形は、上部チャンバ脱真空工程後に、上部チャンバに圧縮空気を導入する上部チャンバ加圧工程をさらに有していてもよい。また、下部チャンバ脱真空工程後に、凹凸表面上に配置された積層体の一部を除去するトリミング工程、積層体を硬化する硬化工程をさらに有していてもよい。
従来の積層体を用いる場合、三次元加飾(TOM)成形しようとすると、積層体が凹凸表面を有する成形品に追従性高くラミネートすることができず、また、仮にラミネートできたとしても、積層体にクラックが生じることがあった。しかしながら、本発明に係る積層体によれば、凹凸表面を有する成形品に追従性高くラミネートすることができ、また、得られる積層体にクラックが生じにくい。すなわち、本発明に係る積層体は三次元成形性に優れる。また、本発明の構成を有する積層体によれば、高い硬度を有する硬化物を得ることができる。
【0018】
<基材層(a)>
基材層(a)は、ビスフェノールA型ポリカーボネートを含む。基材層(a)は、その他、他の樹脂、可塑剤、添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0019】
[ビスフェノールA型ポリカーボネート]
ビスフェノールA型ポリカーボネートは、ビスフェノールA(BPA)に由来する構成単位を、ビスフェノールA型ポリカーボネートの末端構造を除く全構成単位の質量に対して、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、特に好ましくは98~100質量%含む樹脂である。
【0020】
一実施形態において、ビスフェノールA型ポリカーボネートは、ビスフェノールAと、カーボネート結合剤と、下記式(1)で表される1価フェノール末端停止剤と、を反応させてなる、ポリカーボネートであることが好ましい。
【化4】
【0021】
(ビスフェノールA)
ビスフェノールA(BPA)は、下記式で表される。
【化5】
【0022】
(他の構成単位を誘導する化合物)
ビスフェノールA型ポリカーボネートは、他の構成単位を誘導する化合物をさらに反応させて形成してもよい。前記他の構成単位を誘導する化合物を用いることで、ビスフェノールA型ポリカーボネートの物性(例えば、中間ガラス転移温度(Tmg)、粘度平均分子量等)を調整することができる。
【0023】
他の構成単位を誘導する化合物は、ビスフェノールA以外の重合性化合物であり、例えば、ビスフェノールA以外のビスフェノール化合物、オルガノシロキサンが挙げられる。
【0024】
ビスフェノールA以外のビスフェノール化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF:BPF)、ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE:BPE)、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC:BPC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG:BPG)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB:BPB)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH:BPPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン(ビスフェノールIBTD)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン(ビスフェノールMIBK)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン(ビスフェノールIOTD)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ:BPZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロウンデカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP:BPAP)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP;BPBP)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(2-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホンビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスフェノール、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0025】
オルガノシロキサンとしては、α,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス[3-(o-ヒドロキシフェニル)プロピル]ポリジメチルジフェニルランダム共重合シロキサン等が挙げられる。
【0026】
上述の他の構成単位を誘導する化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
他の構成単位を誘導する化合物の添加量は、ビスフェノールA 1モルに対して、50モル以下であることが好ましく、0.1~40モルであることがより好ましい。
【0028】
(カーボネート結合剤)
カーボネート結合剤としては、特に制限されないが、ホスゲン、トリホスゲン、一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸ジエステル等のカルボニル化合物が挙げられる。
【0029】
前記炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネート、ジ-p-トリルカーボネート、フェニル-p-トリルカーボネート、ジ-p-クロロフェニルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0030】
これらのうち、カーボネート結合剤は、ホスゲン、トリホスゲン、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートの少なくとも1つを含むことが好ましく、ホスゲン、ジフェニルカーボネートの少なくとも1つを含むことがより好ましい。なお、カーボネート結合剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(式(1)で表される1価フェノール末端停止剤)
式(1)で表される1価フェノール末端停止剤は、ビスフェノールA型ポリカーボネートの中間ガラス転移温度(Tmg)を調整する機能等を有する。
【化6】
【0032】
上記式(1)中、Rは、炭素数8~36のアルキル基、または炭素数8~36のアルケニル基であり、Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン原子、もしくはハロゲン原子、炭素数6~12のアリール基で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基、またはハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~12のアリール基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基である。なお、本明細書において、「アルキル基」および「アルケニル基」は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0033】
より好ましくは、式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤は、下記一般式(1-a)で表される。
【化7】
【0034】
上記式(1-a)中、Rは、炭素数8~36のアルキル基または炭素数8~36のアルケニル基である。
【0035】
式(1)または式(1-a)におけるRの炭素数は、特定の数値範囲内であることがより好ましい。具体的には、Rの炭素数の上限値として36が好ましく、22がより好ましく、18が特に好ましい。また、Rの炭素数の下限値として、8が好ましく、12がより好ましい。
【0036】
の炭素数の上限値が適当であると、式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤の有機溶剤溶解性が高くなる傾向があり、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂製造時の生産性が高くなる、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂の透明性が高くなる等の観点から好ましい。一例として、Rの炭素数が36以下であれば、高い透明性を有するビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を得ることができ、また、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を製造するにあたって生産性が高く、経済性も良い。Rの炭素数が22以下であれば、式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤は、特に有機溶剤溶解性に優れており、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を製造するにあたって生産性を非常に高くすることができ、経済性も向上する。
【0037】
の炭素数の下限値が適当であると、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂のガラス転移点が高すぎるということにならず、好適な熱成形性を有することから好ましい。例えばRが炭素数16のアルキル基である式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤を使用した場合、中間ガラス転移温度、溶融流動性、成形性、耐ドローダウン性、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂製造時の式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤の溶剤溶解性が優れており、本発明におけるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂に使用する末端停止剤として特に好ましい。
【0038】
一実施形態において、式(1)または式(1-a)におけるRは、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシルであることが好ましく、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、2-ヘキシルデシルであることがより好ましく、ヘキサデシル、2-ヘキシルデシルであることがより好ましい。
【0039】
一実施形態において、式(1)におけるRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、フェニルであることが好ましく、水素、フッ素原子、塩素原子、メチル、エチル、フェニルであることがより好ましく、水素、フッ素原子、塩素原子、メチル、エチルであることがさらに好ましい。別の一実施形態において、すべてのRは水素であることが好ましい。
【0040】
一実施形態において、式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤は、パラヒドロキシ安息香酸2-ヘキシルデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ドデシルエステル、およびパラヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシルエステルからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、パラヒドロキシ安息香酸2-ヘキシルデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステルの少なくとも1つを含むことがより好ましく、パラヒドロキシ安息香酸2-ヘキシルデシルエステルを含むことがさらに好ましい。
【0041】
なお、上述の式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤の使用量は、ビスフェノールA 1モルに対して、0.02~0.07モルであることが好ましく、0.025~0.06モルであることがより好ましい。
【0043】
式(1)で表わされる1価フェノール末端停止剤の使用量は、カーボネート結合剤1モルに対して、0.02~0.07モルであることが好ましく、0.025~0.06モルであることがより好ましい。
【0044】
(他の末端停止剤)
ビスフェノールA型ポリカーボネートは、他の末端停止剤をさらに反応させて形成してもよい。当該他の末端停止剤とは、式(1)で表される1価フェノール末端停止剤以外の末端停止剤であり、好ましくは不飽和基を有しない末端停止剤である。前記他の末端停止剤を用いることで、ビスフェノールA型ポリカーボネートの物性(例えば、中間ガラス転移温度(Tmg)、粘度平均分子量等)を調整することができる。
【0045】
他の末端停止剤としては、1価フェノール化合物から誘導されるものが挙げられる。
【0046】
前記1価フェノール化合物としては、例えば、フェノール、p-クレゾール、o-クレゾール、2,4-キシレノール、p-tert-ブチルフェノール、p-ヘキシルフェノール、p-ヘプチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-クミルフェノール等が挙げられる。これらの1価フェノール化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
他の末端停止剤の使用量は、式(1)で表される末端停止剤1モルに対して、0.5モル以下であることが好ましく、0.2モル以下であることがより好ましく、0.1モル以下であることがさらに好ましい。
【0048】
他の末端停止剤の使用量は、ビスフェノールA 1モルに対して、0.02~0.07モルであることが好ましく、0.025~0.06モルであることがより好ましい。
【0049】
ビスフェノールA型ポリカーボネートの中間ガラス転移温度(Tmg)は100~140℃であることが好ましく、125~140℃であることがより好ましく、128~140℃であることがさらに好ましく、128~135℃であることがさらに好ましい。ビスフェノールA型ポリカーボネートの中間ガラス転移温度(Tmg)が上記範囲であると、基材層(a)の中間ガラス転移温度(Tmg)の制御が容易となることから好ましい。
【0050】
ビスフェノールA型ポリカーボネートの粘度平均分子量は、14000以上であることが好ましく、16000以上であることがより好ましく、20000以上であることがさらに好ましく、24000以上であることが特に好ましく、26000以上であることが非常に好ましい。また、ビスフェノールA型ポリカーボネートの粘度平均分子量は、40000以下であることが好ましく、38000以下であることがより好ましく、36000以下であることがさらに好ましく、34000以下であることが特に好ましく、32000以下であることが非常に好ましい。一実施形態において、ビスフェノールA型ポリカーボネートの粘度平均分子量は、14000~40000であることが好ましく、16000~38000であることがより好ましく、18000~36000であることがさらに好ましく、20000~34000であることが特に好ましく、24000~32000であることが非常に好ましい。なお、本明細書において、「粘度平均分子量」は、実施例に記載の方法で測定される。また、ビスフェノールA型ポリカーボネートが分子量の異なる2種以上のビスフェノールA型ポリカーボネートの混合物である場合には、混合後の粘度平均分子量を採用する。
【0051】
ビスフェノールA型ポリカーボネートの含有量は、基材層(a)の全質量に対して、96質量%以上であり、より好ましくは98質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0052】
[可塑剤]
基剤層(a)は可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤は、基材層の中間ガラス転移温度(Tmg)を調整する機能を有する。
【0053】
可塑剤としては、特に制限されないが、ポリエステル、ポリエーテル、芳香族ホスホネート化合物、芳香族エステル化合物が挙げられる。
【0054】
前記ポリエステルとしては、ポリカプロラクトン(PCL)等の脂肪族ポリエステル;ポリエチレンテレフタレート変性樹脂、ポリカプロラクトンポリエチレンテレフタレート変性樹脂等の芳香族ポリエステルが挙げられる。
【0055】
なお、ポリカプロラクトンポリエチレンテレフタレート変性樹脂としては、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、グリコール変性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCTG)が挙げられる。
PETGは、PET(ジカルボン酸単位であるテレフタル酸単位およびグリコール単位であるエチレングリコール単位)のうち、エチレングリコール単位の一部を1,4-シクロヘキサンジメタノール単位で置換したものである。1,4-シクロヘキサンジメタノール単位の含有量は、全グリコール単位に対して、好ましくは50モル%未満であり、より好ましくは30~40モル%である。
PCTGは、PCT(ジカルボン酸単位であるテレフタル酸単位およびグリコール単位である1,4-シクロヘキサンジメタノール単位)のうち、グリコール単位の一部をグリコール単位で置換したものである。グリコール単位の含有量は、全グリコール単位に対して、好ましくは50モル%未満であり、より好ましくは30~40モル%である。
【0056】
ポリエステルの数平均分子量は、10000~100000であることが好ましく、20000~60000であることがより好ましい。なお、本明細書において、「数平均分子量」の値は、ゲル浸透クロマトグラフィーの方法で測定される。
【0057】
前記ポリエーテルとしては、エチレングリコール単位、プロピレングリコール単位、ブチレングリコール単位、トリメチレングリコール単位、およびテトラメチレングリコール単位からなる群から選択される少なくとも1つを有するポリエーテルが挙げられる。前記ポリエーテルは、具体的には、単一重合体であっても共重合体であってもよく、共重合体である場合にはランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、およびその組み合わせのいずれであってもよい。ポリエーテルの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンブチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのブロック共重合体等が挙げられる。
ポリエーテルの数平均分子量は、500~4000であることが好ましく、600~3000であることがより好ましく、800~2000であることがさらに好ましい。
【0058】
芳香族ホスホネート化合物としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、tert-ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(tert-ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス-(tert-ブチルフェニル)ホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート、ビフェニルビス-ジフェニルホスフェート等が挙げられる。なお、芳香族ホスホネート化合物の分子量は、200~1000であることが好ましく、400~800であることがより好ましい。
【0059】
芳香族エステル化合物としては、ジエチレングリコールジベンゾアート、三安息香酸グリセリル、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート等が挙げられる。なお、芳香族エステル化合物の分子量は、200~1000であることが好ましく、400~800であることがより好ましい。
【0060】
上述のうち、可塑剤は、ポリエステル、芳香族ホスホネート化合物を含むことが好ましく、ポリエステルを含むことがより好ましく、ポリカプロラクトン(PCL)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)、グリコール変性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCTG)の少なくとも1つを含むことがさらに好ましく、ポリカプロラクトン(PCL)を含むことが特に好ましい。上述の可塑剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
可塑剤の含有量は、基剤層(a)の全質量に対して、4質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、0.1~2質量%であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量が4質量%以下であると、基剤層(a)がビスフェノールA型ポリカーボネートを96質量%以上の含有量で含むことができる。
【0062】
[添加剤]
基剤層(a)は添加剤をさらに含んでいてもよい。
添加剤としては、特に制限されないが、ビスフェノールA型ポリカーボネート以外のポリカーボネート、酸化防止剤、エステル交換防止剤、離型剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等が挙げられる。これらの添加剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
添加剤の含有量は、基剤層(a)の全質量に対して、4質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、0.1~2質量%であることがさらに好ましい。添加剤の含有量が4質量%以下であると、基剤層(a)がビスフェノールA型ポリカーボネートを96質量%以上の含有量で含むことができる。
【0064】
[基材層(a)の構成]
基材層(a)の中間ガラス転移温度(Tmg)は、100~140℃であり、好ましくは110~140℃であり、より好ましくは120~140℃であり、さらに好ましくは120~135℃であり、特に好ましくは125~135℃である。基材層(a)の中間ガラス転移温度(Tmg)は、ビスフェノールA型ポリカーボネートの構造(例えば、ビスフェノールA(BPA)に由来する構成単位の含有量、他の構成単位の種類およびその含有量、使用する末端停止剤の種類、粘度平均分子量等)、基材層(a)に添加する可塑剤の種類およびその含有量等を適宜調整することで制御することができる。
【0065】
基材層(a)の厚みは、10~800μmであることが好ましく、20~500μmであることがより好ましく、30~400μmであることがさらに好ましい。一実施形態において、基材層(a)の厚みは、20~140μmであることが好ましく、30~120μmであることがより好ましく、60~120μmであることがさらに好ましい。また、別の一実施形態において、基材層(a)の厚みは、140~500μmであることが好ましく、150~400μmであることがより好ましく、180~300μmであることがさらに好ましく、180~260μmであることが特に好ましい。
【0066】
基材層(a)のシャルピー衝撃強度は、30kJ/m以上であることが好ましく、45kJ/m以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、「シャルピー衝撃強度」は実施例に記載の方法で測定される。
【0067】
<硬化性樹脂層(b)>
硬化性樹脂層(b)は、200~600g/molのアクリル当量を有する(メタ)アクリロイルポリマーを含む。硬化性樹脂層(b)は未硬化の状態であるため、本発明に係る積層体を成形しようとする場合、三次元成形性に優れる。このため、三次元成形を行った場合、硬化性樹脂層(b)は追従しやすく、成形後の硬化性樹脂層(b)にクラックが発生しにくい。また、積層体を硬化して得られる硬化物は高硬度であり、耐擦傷性、耐薬品性等が高くなりうる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルおよび/またはアクリロイルを意味する。「(メタ)アクリル」および「(メタ)アクリレート」についても同様に、メタクリルおよび/またはアクリル、メタクリレートおよび/またはアクリレートを意味する。
【0068】
[(メタ)アクリロイルポリマー]
(メタ)アクリロイルポリマーは、下記式(2)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0069】
【化8】
【0070】
上記式(2)中、mは、単結合、または炭素数1~4のアルキレン基であり、好ましくはメチレン、エチレンであり、さらに好ましくはメチレンである。
【0071】
nは、水素、または炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくは水素、メチル、エチルであり、より好ましくは水素、メチルであり、さらに好ましくは水素である。
【0072】
pは、単結合、または炭素数1~2のアルキレン基であり、好ましくは単結合またはメチレンであり、さらに好ましくは単結合である。
【0073】
qは、水素、またはエポキシ基、水酸基、(メタ)アクリロイル基の少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基であり、好ましくはエポキシ基、(メタ)アクリロイル基の少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基であり、より好ましくはエポキシ基、(メタ)アクリロイル基の少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい炭素数1~2のアルキル基である。
【0074】
一実施形態において、(メタ)アクリロイルポリマーは、下記式(2-a)~(2-c)で表される繰り返し単位の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0075】
【化9】
【0076】
式(2-a)で表される繰り返し単位の含有量は、(メタ)アクリロイルポリマーの全モル数に対して、30~85モル%であることが好ましく、40~80モル%であることがより好ましい。
【0077】
式(2-b)で表される繰り返し単位の含有量は、(メタ)アクリロイルポリマーの全モル数に対して、5~30モル%であることが好ましく、10~25モル%であることがより好ましい。
【0078】
式(2-c)で表される繰り返し単位の含有量は、(メタ)アクリロイルポリマーの全モル数に対して、10~40モル%であることが好ましく、10~35モル%であることがより好ましい。
【0079】
上述の(メタ)アクリロイルポリマーは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
式(2-a)で表される繰り返し単位と、式(2-b)で表される繰り返し単位とのモル比は、4.5~5.5:1.5~2.5であることが好ましい。
式(2-a)で表される繰り返し単位と、式(2-c)で表される繰り返し単位とのモル比は、4.5~5.5:2.5~3.5であることが好ましい。
式(2-b)で表される繰り返し単位と、式(2-c)で表される繰り返し単位とのモル比は、1.5~2.5:2.5~3.5であることが好ましい。
【0081】
(メタ)アクリロイルポリマーのアクリル当量は、200~600g/molであり、硬化物の硬度がより高くなる観点から、好ましくは200~500g/molであり、より好ましくは200~400であり、さらに好ましくは200~300である。なお、本明細書において、(メタ)アクリル当量(g/mol)とは、(メタ)アクリロイル基1つあたりの分子量を意味し、実施例に記載の方法で算出することができる。
【0082】
(メタ)アクリロイルポリマーの重量平均分子量は、5,000~200,000であることが好ましく、10,000~150,000であることがより好ましく、15,000~100,000であることがさらに好ましく、20,000~50,000であることが特に好ましい。なお、本明細書において、「重量平均分子量」は実施例に記載の方法で算出される。
【0083】
(メタ)アクリロイルポリマーの含有量は、硬化性樹脂層(b)の全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、60~100質量%であることがさらに好ましく、60~90質量%であることが特に好ましい。
【0084】
[多官能アクリレート化合物]
硬化性樹脂層(b)は、多官能アクリレート化合物をさらに含んでいてもよい。多官能アクリレート化合物は、例えば、(メタ)アクリロイルポリマーが有する(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、水酸基等と反応することにより、硬化物の硬度等を向上させることができる。なお、本明細書において、「多官能」とは、2官能以上であることを意味し、好ましくは3官能以上、より好ましくは3~8官能、さらに好ましくは3~6官能である。
【0085】
多官能アクリレート化合物としては、特に制限されないが、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0086】
多官能アクリレート化合物の含有量は、(メタ)アクリロイルポリマーおよび多官能アクリレート化合物の合計含有量に対して、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
[無機粒子]
硬化性樹脂層(b)は、無機粒子をさらに含んでいてもよい。無機粒子は、硬化物の硬度、耐擦傷性を向上させることができる。
【0088】
無機粒子としては、特に制限されないが、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ダイヤモンド等が挙げられる。
【0089】
無機粒子は、表面処理されていてもよい。無機粒子を表面処理することで、硬化性樹脂層(b)中に安定した状態で分散させることができる。この際、使用される表面処理剤としては、特に制限されないが、シラン化合物、アルコール、アミン、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸等が用いられる。これらの表面処理剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。表面処理により、無機粒子表面に重合性基(好ましくはビニル基、(メタ)アクリル基)を導入することができる。
【0090】
上述の無機粒子は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
無機粒子の平均粒子径は、5~95nmであることが好ましく、8~70nmであることがより好ましく、得られる硬化物の耐擦傷性等を向上させる観点から、20~60nmであることがさらに好ましく、30~60nmであることが特に好ましい。なお、本明細書において、「粒子径」とは、粒子の外表面の2点間の距離のうち最大のものを意味する。また、「平均粒子径」は、実施例に記載の方法で測定される。
【0092】
無機粒子の含有量は、硬化性樹脂層(b)の全質量に対して、5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。
【0093】
[レベリング剤]
硬化性樹脂層(b)は、レベリング剤をさらに含んでいてもよい。レベリング剤は、レベリング性(塗膜が平らで滑らかとなる)、硬化物の指紋ふき取り性、防汚性、耐摩耗性を向上させる機能等を有する。
【0094】
レベリング剤としては、特に制限されないが、フッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤が挙げられる。
【0095】
フッ素系レベリング剤としては、パーフルオロポリエーテル結合を有する化合物が挙げられる。フッ素系レベリング剤は、市販品を使用することができ、例えば、メガファックRS-56、RS-75、RS-76-E、RS-76-NS、RS-78、RS-90(DIC株式会社製)、KY-1203、X-71-1203E、KY-1207、KY-1211(信越化学工業株式会社製)、オプツールUD120(ダイキン工業株式会社製)、フタージェント710FL、220P、208G、601AD、602A、650A、228P、240GFTX-218(株式会社ネオス製)等が挙げられる。
【0096】
シリコーン系レベリング剤としては、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。シリコーン系レベリング剤は、市販品を使用することができ、例えば、BYK-UV3500、BYK-UV3505(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0097】
これらのうち、レベリング剤は、硬化物の指紋ふき取り性が向上する等の観点から、フッ素系レベリング剤を含むことが好ましい。なお、上述のレベリング剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
レベリング剤の含有量は、硬化性樹脂層(b)の全質量に対して、0.001~10質量%であることが好ましく、0.001~5質量%であることがより好ましく、0.01~4質量%であることがさらに好ましく、0.1~3質量%であることが特に好ましい。
【0099】
[光重合開始剤]
硬化性樹脂層(b)は、光重合開始剤をさらに含んでいてもよい。光重合開始剤は、硬化性樹脂層(b)を硬化させる際に硬化反応を促進する機能等を有する。
【0100】
光重合開始剤としては、特に制限されないが、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(イルガキュア1173)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(イルガキュアTPO)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(イルガキュア819)、2,2'-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(イルガキュア-651)、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン(EsacureONE)、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン(Omnirad 184)等が挙げられる。これらのうち、光重合開始剤は、耐熱性が高くなる観点から、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン(EsacureONE)、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン(Omnirad 184)の少なくとも1つを含むことが好ましく、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン(Omnirad 184)を含むことがより好ましい。なお、上述の光重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
光重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂層(b)の全質量に対して、1~10質量%であることが好ましく、1~6質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることがさらに好ましく、2~4質量%であることが特に好ましい。
【0102】
[光安定剤]
硬化性樹脂層(b)は、光安定剤をさらに含んでいてもよい。光安定剤は、硬化物の耐候性を向上させる機能等を有する。
【0103】
光安定剤としては、特に制限されないが、ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。
【0104】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(1-ウンデカンオキシ-2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート(アデカスタブLA-81)、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート(アデカスタブLA-52)、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート(アデカスタブLA-57)、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート(アデカスタブLA-82)、
ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-オクチルオキシ-4-ピペリジル)セバケート(Tinuvin123)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(Tinuvin770DF)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-((3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル)メチル)ブチルマロネート(Tinuvin144)等が挙げられる。
【0105】
これらのうち、光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤を含むことが好ましい。なお、上述の光安定剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
光安定剤の含有量は、硬化性樹脂層(b)の全質量に対して、0.1~15質量%であることが好ましく、0.1~7質量%であることがより好ましく、0.3~5質量%であることがさらに好ましく、0.3~3質量%であることが特に好ましい。
【0107】
[重合禁止剤]
硬化性樹脂層(b)は、重合禁止剤をさらに含んでいてもよい。重合禁止剤は、光、熱等による硬化性樹脂層(b)の重合反応を抑制し、積層体の保存安定性を向上させる機能等を有する。
【0108】
重合禁止剤としては、特に制限されないが、フェノチアジン、メキノール(4-メトキシフェノール)、ヒドロキノン、2-ヒドロキシナフトキノン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、6-エトキシ-2,2,4トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、2,2,6,6-テトラメチル-4-オキソピペリジン-1-オキシル、2メルカプトベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0109】
これらのうち、重合禁止剤は、フェノチアジン、メキノール、ヒドロキノンの少なくとも1つを含むことが好ましく、フェノチアジンを含むことがより好ましい。なお、上述の重合禁止剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
重合禁止剤の含有量は、硬化性樹脂層(b)の全質量に対して、0.001~5質量%であることが好ましく、0.01~4質量%であることがより好ましく、0.01~3質量%であることがさらに好ましい。
【0111】
[添加剤]
硬化性樹脂層(b)は、添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0112】
添加剤としては、特に制限されないが、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。これらの添加剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0113】
[硬化性樹脂層(b)の構成]
硬化性樹脂層(b)は、未硬化の状態であり、例えば、(メタ)アクリロイルポリマーは重合性官能基((メタ)アクリロイル基、エポキシ基、水酸基等)を有している。硬化性樹脂層(b)は追従しやすく、成形後の硬化性樹脂層(b)にクラックが発生しにくいため、三次元成形性に優れる。だたし、例えば、本発明の効果を損なわない範囲においては、硬化性樹脂層(b)中の(メタ)アクリロイルポリマーは、成形の過程で(メタ)アクリロイル基の一部が硬化反応を生じることにより架橋構造を有していてもよい。
【0114】
硬化性樹脂層(b)の厚みは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、硬度がより高くなる観点から、5μm以上であることがさらに好ましく、5~30μmであることが特に好ましく、5~10μmであることが最も好ましい。
【0115】
<アクリル層(c)>
積層体は、アクリル層(c)をさらに含んでいてもよい。アクリル層(c)は、積層体の耐衝撃性を向上させる機能、硬化物の硬度を向上させる機能等を有する。
【0116】
一実施形態において、積層体は、基材層(a)、アクリル層(c)、および硬化性樹脂層(b)が、この順に積層されることが好ましい。アクリル層(c)が、基材層(a)および硬化性樹脂層(b)の間に配置されることで、基材層(a)および硬化性樹脂層(b)の貼合性が向上しうる。
【0117】
アクリル層(c)は、(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0118】
[(メタ)アクリル樹脂]
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体であれば特に制限されない。
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0119】
(メタ)アクリル樹脂は、単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0120】
このうち、(メタ)アクリル樹脂は、透明性が高い、成形性に優れる等の観点から、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂を含むことが好ましい。なお、上述の(メタ)アクリル樹脂は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0121】
(メタ)アクリル樹脂の含有量は、アクリル層(c)の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、90~100質量%であることが特に好ましい。
【0122】
[添加剤]
アクリル層(c)は添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0123】
添加剤としては、特に制限されないが、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、無機粒子等が挙げられる。これらの添加剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[アクリル層(c)の構成]
アクリル層(c)の厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、硬化物の硬度がより高くなる観点から、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが特に好ましく、30~80μmであることが非常に好ましく、40~60μmであることが最も好ましい。
【0124】
2.積層体の製造方法
本発明の一形態によれば、積層体の製造方法が提供される。
【0125】
一実施形態において、積層体の製造方法は、第1の樹脂組成物から基材層(a)を形成する工程(1-1)と、前記基材層(a)上に、第2の樹脂組成物から硬化性樹脂層(b)を形成する工程(2-1)を含む。
【0126】
この際、工程(1-1)に代えて、第1の樹脂組成物および第3の樹脂組成物を共押出しして、基材層(a)およびアクリル層(c)を含む前駆体を形成する工程(1-2)を含んでいてもよい。なお、工程(1-2)を含む場合、工程(2-1)に代えて、前駆体上のアクリル層(c)上に、第2の樹脂組成物から硬化性樹脂層(b)を形成する工程(2-2)を含む。
【0127】
この際、第1の樹脂組成物は、ビスフェノールA型ポリカーボネートを含む。
第2の樹脂組成物は、200~600g/molのアクリル当量を有する(メタ)アクリロイルポリマーを含む。
第3の樹脂組成物は、(メタ)アクリル樹脂を含む。
【0128】
以下、各工程について説明する。
【0129】
<工程(1-1)>
工程(1-1)は、第1の樹脂組成物から基材層(a)を形成する工程である。
【0130】
[第1の樹脂組成物]
第1の樹脂組成物は、ビスフェノールA型ポリカーボネートを含む。その他、第1の樹脂組成物は、可塑剤、添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0131】
ビスフェノールA型ポリカーボネート、可塑剤、添加剤は上述のものが用いられる。
【0132】
第1の樹脂組成物の組成は、基材層(a)が所望の構成となるように適宜調整される。
【0133】
[基材層(a)の形成方法]
基剤層(a)の形成方法は、特に制限されないが、第1の樹脂組成物を押出し成形することが好ましい。
【0134】
第1の樹脂組成物の溶融温度は、特に制限されないが、230~320℃であることが好ましく、260~300℃であることがより好ましい。
【0135】
第1の樹脂組成物の冷却温度は、特に制限されないが、50~200℃であることが好ましく、70~150℃であることがより好ましい。
【0136】
<工程(1-2)>
工程(1-2)は、第1の樹脂組成物および第3の樹脂組成物を共押出しして、基材層(a)およびアクリル層(c)を含む前駆体を形成する工程である。
【0137】
[第1の樹脂組成物]
第1の樹脂組成物は、工程(1-1)と同様のものが用いられる。
【0138】
[第3の樹脂組成物]
第3の樹脂組成物は、(メタ)アクリル樹脂を含む。その他、第3の樹脂組成物は、添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0139】
第3の樹脂組成物の組成は、アクリル層(c)が所望の構成となるように適宜調整される。
【0140】
[前駆体の形成方法]
前駆体の形成方法は、第1の樹脂組成物および第3の樹脂組成物を共押出しすることにより形成される。これにより、基材層(a)およびアクリル層(c)を含む前駆体を形成することができる。
【0141】
第1の樹脂組成物の溶融温度および冷却温度は、工程(1-1)と同様である。
【0142】
第3の樹脂組成物の溶融温度は、特に制限されないが、200~280℃であることが好ましく、210~260℃であることがより好ましい。
【0143】
第3の樹脂組成物の冷却温度は、特に制限されないが、50~200℃であることが好ましく、70~150℃であることがより好ましい。
【0144】
<工程(2-1)>
工程(2-1)は、工程(1-1)で形成した基材層(a)上に、第2の樹脂組成物から硬化性樹脂層(b)を形成する工程である。
【0145】
[第2の樹脂組成物]
第2の樹脂組成物は、200~600g/molのアクリル当量を有する(メタ)アクリロイルポリマーを含む。その他、第2の樹脂組成物は、多官能アクリレート化合物、無機粒子、レベリング剤、光重合開始剤、光安定剤、重合禁止剤、添加剤、希釈溶剤等をさらに含んでいてもよい。
【0146】
なお、前記希釈溶剤としては、特に制限されないが、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの希釈溶剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0147】
第2の樹脂組成物の組成は、硬化性樹脂層(b)が所望の構成となるように適宜調整される。
【0148】
[硬化性樹脂層(b)の形成方法]
硬化性樹脂層(b)の形成方法は、特に制限されないが、第2の樹脂組成物を基材層(a)上に、塗布する方法であることが好ましい。
【0149】
第2の樹脂組成物の塗布方法としては、スプレーコート、スピンコート、バーコート、グラビアコート、ダイコート等が挙げられる。
【0150】
塗布して形成された塗膜は乾燥することが好ましい。例えば、乾燥により、第2の樹脂組成物に含まれうる希釈溶剤が揮発して、硬化性樹脂層(b)を得ることができる。
【0151】
塗膜の乾燥温度は、50~200℃であることが好ましく、70~150℃であることがより好ましい。
【0152】
<工程(2-2)>
工程(2-2)は、工程(1-2)で形成した前駆体中のアクリル層(c)上に、第2の樹脂組成物から硬化性樹脂層(b)を形成する工程であり、工程(2-1)と同様の方法で行うことができる。
【0153】
3.硬化物
本発明の一実施形態によれば、硬化物が提供される。前記硬化物は、上述の積層体を硬化してなる。なお、本明細書において、「積層体の硬化」とは、積層体が有する硬化性樹脂層(b)を硬化して硬化膜を得ることを意味する。また、「硬化膜」とは、硬化性樹脂層(b)が硬化して得られる硬化膜(単層膜)を意味する。さらに、「硬化物」とは、前記硬化膜の他、積層体に由来する各層(基材層(a)等)を含む2層以上の積層物を意味する。
【0154】
一実施形態において、硬化物は、基材層(a)と、硬化性樹脂層(b)の硬化膜と、を含む。
また、別の一実施形態において、硬化物は、基材層(a)と、硬化性樹脂層(b)の硬化膜と、アクリル層(c)と、を含む。前記硬化物は、好ましくは基材層(a)-アクリル層(c)-硬化性樹脂層(b)の硬化膜がこの順に積層されている。
この際、基材層(a)およびアクリル層(c)の構成は、通常、積層体における構成と同等である。
【0155】
硬化性樹脂層(b)の硬化膜は、高い硬度を有する。その結果、硬化物は耐擦傷性、耐薬品性等が高くなりうる。また、一実施形態において、硬化物は、指紋ふき取り性、耐候密着性等が高くなりうる。
【0156】
硬化物は、熱成形フィルム(機能性フィルム、加飾フィルム)として使用されうることから、成形品表面を被覆するように成形されていることが好ましい。すなわち、一実施形態において、成形品と、前記成形品表面に配置された本発明に係る硬化物と、を含む熱成形フィルム含有成形品が提供される。
【0157】
前記成形品は、特に制限されないが、凹凸表面を有する成形品であることが好ましい。前記成形品としては、例えば、ゴーグル、シンク、オルガン、ベッド、車両の筐体等が挙げられる。
【0158】
好ましい一実施形態において、成形品は凹凸表面を有する成形品であり、当該成形品に対して、前記積層体が三次元加飾成形(TOM成形)されることから、凹凸表面を有する成形品と、前記凹凸表面上に配置された積層体と、を含む三次元加飾成形品が提供される。
【0159】
4.硬化物の製造方法
本発明の一形態によれば、硬化物の製造方法が提供される。前記硬化物の製造方法は、上述の積層体を硬化する硬化工程を含む。前記硬化物の製造方法は、成形品表面に積層体を三次元成形する成形工程をさらに含んでいてもよい。
【0160】
[成形工程]
成形工程は、成形品表面に積層体を三次元成形する工程である。積層体が有する硬化性樹脂層(b)は未硬化の状態であるため、積層体の三次元成形性が高い。その結果、三次元成形をする場合であっても、積層体の追従性が高く、また、成形後の積層体にクラックが生じにくい。
【0161】
(成形品)
成形品は、特に制限されないが、例えば、上述したものが使用される。
【0162】
(積層体)
積層体としては、上述したものが使用される。
【0163】
(三次元成形)
三次元成形としては、三次元加飾(TOM)成形が挙げられる。
前記三次元加飾(TOM)成形は、上述したとおり、(1)凹凸表面を有する成形品が配置された上部開口する下部チャンバと、ヒーターが配置された下部開口する上部チャンバと、前記下部チャンバおよび前記上部チャンバで挟持された本発明に係る積層体と、を気密状態とした後、真空条件とする真空工程と、(2)前記ヒーターを用いて前記積層体を加熱する加熱工程と、(3)前記凹凸を有する成形品を加熱された積層体に接触させる接触工程と、(4)上部チャンバを大気圧条件とする上部チャンバ脱真空工程と、(5)下部チャンバを大気圧条件とする下部チャンバ脱真空工程と、を含む。
また、上部チャンバ脱真空工程後に、上部チャンバに圧縮空気を導入する上部チャンバ加圧工程をさらに有していてもよい。また、下部チャンバ脱真空工程後に、凹凸表面上に配置された積層体の一部を除去するトリミング工程をさらに有していてもよい。
【0164】
[硬化工程]
硬化工程は、積層体を硬化する工程である。より具体的には、積層体中の硬化性樹脂層(b)を硬化反応により硬化させて、硬化性樹脂層(b)の硬化膜を得る工程である。
【0165】
硬化反応は、特に制限されないが、活性エネルギー線を照射することにより行うことが好ましい。
【0166】
前記活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、放射線等を挙げることができ、紫外線であることが好ましい。
【0167】
活性エネルギー線の照射量は、特に制限されないが、紫外線波長365nmでの積算露光量として、100~5000mJ/cmであることが好ましく、300~3000mJ/cmであることがより好ましい。
【実施例0168】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0169】
1.原料
(1)ポリカーボネート樹脂
T-1380:パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル(p-HBAHE)を末端封止剤に用いたビスフェノールA(BPA)型ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、粘度平均分子量:25,500、Tig:126℃、Tmg:131℃)
T-1300:パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル(p-HBAHE)を末端封止剤に用いたビスフェノールA(BPA)型ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、粘度平均分子量:30,500、Tig:132℃、Tmg:136℃)
S-1000:パラターシャルブチルフェノール(p-t-BPh)を末端封止剤に用いたビスフェノールA(BPA)型ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、粘度平均分子量:25,000、Tig:147℃、Tmg:151℃)
FPC-0330:パラターシャルブチルフェノール(p-t-BPh)を末端封止剤に用いたビスフェノールC(BPC)型ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学株式会社製、粘度平均分子量:32,000、Tig:123℃、Tmg:126℃)
【0170】
なお、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル(p-HBAHE)およびパラターシャルブチルフェノール(p-t-BPh)の構造は以下のとおりである。
【化10】
【0171】
(2)可塑剤
プラクセルH1P:ポリカプロラクトン(PCL)(株式会社ダイセル製)
SKYGREEN(登録商標)J2003:PCTG(グリコール変性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(SKケミカル株式会社製、PETの原料であるエチレングリコールの80モル%をシクロヘキサンジメタノールに置き換えたポリエステル)
PX200:レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート(大八化学工業株式会社製)
【0172】
(3)PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂
デルペット80HD:PMMA樹脂(旭化成株式会社製、メタクリル酸メチル(MMA):アクリル酸メチル=99質量%:1質量%、重量平均分子量:124,600)
【0173】
(4)硬化性樹脂原料
SMP-360A:アクリロイル基含有ポリマー(共栄社化学株式会社製、アクリル当量360g/mol)
SMP-220A:アクリロイル基含有ポリマー(共栄社化学株式会社製、アクリル当量220g/mol)
SMP-550A:アクリロイル基含有ポリマー(共栄社化学株式会社製、アクリル当量550g/mol)
PGM-AC4130Y:ナノシリカ(日産化学株式会社製、平均粒子径45nm、表面アクリル処理、PGM分散液)
MEK-AC2140Z:ナノシリカ(日産化学株式会社製、平均粒子径12nm、表面アクリル処理、MEK分散液)
MEK-AC5140Z:ナノシリカ(日産化学株式会社製、平均粒子径80nm、表面アクリル処理、MEK分散液)
Omnirad 184:光重合開始剤(IGM RESINS B.V製)
アデカスタブLA-81:ヒンダードアミン系光安定剤(株式会社ADEKA製)
フェノチアジン(PTZ):重合禁止剤(富士フイルム和光純薬株式会社製)
RS-90:フッ素系レベリング剤(DIC株式会社製)
BYK-UV3500:シリコーン系レベリング剤(BYK社製)
【0174】
2.測定方法
(1)ガラス転移温度
各種樹脂および樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、下記の示差走査熱量測定(DSC測定)条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定した。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線(直線A)と、変曲点の接線(接線B)との交点を、開始ガラス転移温度(Tig)とした。高温側のベースラインを低温側に延長した直線(直線C)と、変曲点の接線(接線B)との交点を、終了ガラス転移温度(Teg)とした。開始ガラス転移温度(Tig)と終了ガラス転移温度(Teg)との中間地点を中間ガラス転移温度(Tmg)とした。
【0175】
測定開始温度:30℃
昇温速度:10℃/分
到達温度:250℃
降温速度:20℃/分とした。
測定装置:示差走査熱量計「DSC7020」(日立ハイテクサイエンス社製)
【0176】
(2)粘度平均分子量
粘度平均分子量はSchnellの粘度式から算出した。
具体的には、まず、樹脂の極限粘度[η](単位dL/g)を、メチレンクロライドを溶媒として使用して測定した。温度は25℃条件とした。ウベローデ粘度計にて、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[ηsp]を測定した。得られた比粘度の値と濃度から下記式により極限粘度を算出した。
【数1】
【0177】
次に、粘度平均分子量[Mv]を、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出した。
【0178】
(3)重量平均分子量
重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー装置にLC-20AD system(株式会社島津製作所製)を用い、カラムにはLF-804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。RI検出器にはRID-10A(株式会社島津製作所製)を用いた。溶離液にはクロロホルムを用い、検量線は、標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)を使用して作成した。
【0179】
(4)アクリル当量
アクリル当量は、「分子量/(メタ)アクリロイル基数」の計算式で算出した。
【0180】
(5)平均粒子径
平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した無機粒子を無作為に30個抽出し、それぞれの粒子について粒子の外表面の2点間の距離のうち最大のものを粒子径とし、それらの平均値を算出した。
【0181】
(6)シャルピー衝撃強度
基材層(a)のシャルピー衝撃強度は、JIS K 7111-1:2012に従って測定した。
具体的には、実施例1~22,比較例1~8に使用するポリカーボネート及び可塑剤について、ベント付二軸射出成形機(Sodick社製「PE-100」、二軸スクリュー径29mmの噛合型同方向回転式、プランジャー直径28mm)により、シリンダー温度260℃で溶融混練し、金型温度70℃の条件にて長さ80mm×幅10mm×厚さ3mmの成形体(試験片)を作製した。その後、JIS K7111-1:2012に準拠し、ノッチありのシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃強さを測定した。単位は、kJ/mで示した。
【0182】
3.積層体の製造
[実施例1]
基材層(a)、アクリル層(c)、および硬化性樹脂層(b)がこの順で積層した積層体を製造した。
(1)基材層(a)およびアクリル層(c)の積層体(前駆体)の作製
ポリカーボネート樹脂であるT-1380をスクリュー径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付二軸押出機TEX30α(株式会社日本製鋼所製)を用いて、シリンダー温度280℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0183】
前記ペレットおよびPMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂であるデルペット80HDを用いて、基材層(a)およびアクリル層(c)の積層体(前駆体)を作製した。
具体的には、軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結された650mm幅のTダイと、を有する多層押出装置を用い、軸径32mmの単軸押出機にはシリンダー温度240℃でPMMA樹脂(デルペット80HD)を連続的に導入し、軸径65mmの単軸押出機にはシリンダー温度280℃で前記ペレットを連続的に導入し、押し出した。この際、PMMA樹脂はアクリル層(c)の厚みが35μmとなるように、前記ペレットは基材層(a)の厚みが90μmとなるように、それぞれPMMA樹脂および前記ペレットの吐出量を制御した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備えており、層流を積層し、Tダイでシート状に押し出して、上流側から温度100℃、90℃、120℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却することで、ポリカーボネート樹脂であるT-1380を含む基材層(a)と、PMMA樹脂であるデルペット80HDを含むアクリル層(c)との積層体(前駆体)を作製した。
【0184】
(2)積層体の製造
基材層(a)およびアクリル層(c)の積層体(前駆体)のうち、アクリル層(c)上に硬化性樹脂層(b)を形成することで、積層体を製造した。
【0185】
70質量部のアクリロイル基含有ポリマーであるSMP-360Aと、30質量部のナノシリカであるPGM-AC4130Yと、3質量部の光重合開始剤であるOmnirad 184と、1質量部のフッ素系レベリング剤であるRS-90と、希釈溶剤であるシクロヘキサノンとを、撹拌により混合し、硬化性樹脂組成物を得た。この際、シクロヘキサノンは、硬化性樹脂組成物の固形分濃度が25重量%となる量で添加した。
【0186】
基材層(a)およびアクリル層(c)の積層体のうち、アクリル層(c)上に硬化性樹脂組成物を乾燥後の膜厚が4μmとなるようにバーコーターで塗布し、得られた塗膜を130℃で3分間乾燥することで硬化性樹脂層(b)を形成した。これにより、基材層(a)、アクリル層(c)、および硬化性樹脂層(b)がこの順で積層した積層体を製造した。
【0187】
[実施例2~20]
使用する原料の種類およびその使用量、各層の厚みを表1-1および表1-2に記載のとおり変更したことを除いては実施例1と同様の方法で基材層(a)、アクリル層(c)、および硬化性樹脂層(b)がこの順で積層した積層体を製造した。
【0188】
[実施例21]
基材層(a)および硬化性樹脂層(b)の積層体の製造を製造した。
【0189】
(1)基材層(a)からなる単層フィルムの作製
実施例1と同様の方法で得たポリカーボネート樹脂であるT-1380のペレットを用いて、基材層(a)からなる単層フィルムを作製した。
具体的には、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付き二軸押出機TEX30α(株式会社日本製鋼所製)からなるTダイ溶融押出機を用い、吐出10Kg/h、スクリュー回転数63rpm、シリンダー温度280℃の条件で、前記ペレットを連続的に導入し、押し出した。押出機に連結されたTダイでシート状に押し出して、上流側から温度120℃、120℃、120℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却することで、ポリカーボネート樹脂であるT-1380を含む基材層(a)からなる単層フィルムを得た。
【0190】
(2)積層体の製造
表1に記載の組成となるように、基材層(a)上に実施例1と同様の方法で硬化性樹脂層(b)を形成し、基材層(a)および硬化性樹脂層(b)が積層した積層体を製造した。
【0191】
[実施例22、比較例1~8]
使用する原料の種類およびその使用量、各層の厚みを表1-3に記載のとおり変更したことを除いては実施例1または実施例21と同様の方法で基材層(a)、アクリル層(c)、および硬化性樹脂層(b)がこの順で積層した積層体、または基材層(a)および硬化性樹脂層(b)が積層した積層体を製造した。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
4.評価
実施例1~22および比較例1~8で製造した積層体について各種評価を行った。
【0192】
<TOM成形性>
積層体を用いてTOM成形を行い、追従性およびクラックについて評価した。
【0193】
積層体を330mm×330mmサイズに裁断し、基材層(a)側に粘着層を貼合した。被着体にセーフティゴーグル用スペアレンズ(TRUSCO社製:品番TSG-005SP)を使用した。粘着層付き積層体および被着体を、TOM成形機であるNGF-0709-S(布施真空株式会社製)内の上下ボックスにセットし、上下ボックス内を0.1kPaになるように減圧した後、粘着層付き積層体を140℃または150℃まで加熱した。そして、上ボックス内にのみ0.3MPaの圧縮空気を導入することで、TOM成形体を得た。
【0194】
TOM成形体の追従性を以下のように評価した。なお、評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。得られた結果を下記表2に示す。
〇:積層体が被着体の形状に追従している
△:積層体が被着体の形状にやや追従していない
×:積層体が被着体の形状に追従していない
【0195】
また、TOM成形体のクラックを以下のように評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。得られた結果を下記表2に示す。
〇:積層体にクラックがない
△:積層体の表面に微細なクラックが見られる
×:積層体に大きなクラックが見られる
【0196】
<鉛筆硬度>
積層体を硬化して得られる硬化物の鉛筆強度を評価した。
【0197】
硬化物は以下のように製造した。
すなわち、積層体の硬化性樹脂層(b)に、コンベア型UV照射機ECS-401GX(アイグラフィック社製)を用いて、紫外線を照射した。この際、紫外線照射は、700mJ/cm(オーク社製UV照度計、測定波長360nm)の条件で行った。これにより、積層体の硬化性樹脂層(b)が硬化してなる硬化物を製造した。
【0198】
JIS K 5600-5-4:1999の条件に基づき、硬化性樹脂層(b)の硬化物の鉛筆硬度の測定を行い、傷の入らない最も硬い鉛筆の番手で評価した。得られた結果を下記表2に示す。
【0199】
なお、鉛筆硬度は、6B、5B、4B、3B、2B、B、HB、F、H、2H、3H、4H、5H、6H、7H、8H、および9Hの順に硬度が高くなる。
【0200】
<耐薬品性>
積層体を硬化して得られる硬化物の耐薬品性を評価した。なお、硬化物は、鉛筆硬度の評価で製造した硬化物を用いた。
【0201】
硬化性樹脂層(b)の硬化物の表面に、ニュートロジーナSPF70(ホモサレート、オクトクリレン、オクチサレート、およびアボベンゾンを含む日焼け止め薬)を塗布し、80℃で1時間静置した。次いで、表面を中性洗剤で洗浄し、外観を以下の基準で評価した。得られた結果を下記表2に示す。
〇:表面に異常なし
×:表面に白化が見られる。
【0202】
<耐擦傷性>
積層体を硬化して得られる硬化物の耐擦傷性を評価した。なお、硬化物は、鉛筆硬度の評価で製造した硬化物を用いた。
【0203】
硬化性樹脂層(b)の硬化物の表面に、#0000のスチールウールを100gf/cmの圧力下で15回往復させ、擦傷させた。擦傷させた後の外観を以下の基準で評価した。得られた結果を下記表2に示す。
◎:傷が見られない
〇:ごくわずかに傷が見られる
△:一部に傷が見られる
×:全面的に傷が見られる
【0204】
<耐候密着性>
積層体を硬化して得られる硬化物の耐候密着性を評価した。なお、硬化物は、鉛筆硬度の評価で製造した硬化物を用いた。
【0205】
硬化性樹脂層(b)の硬化物の表面に以下の条件で光照射を行った。
装置:SUV-W161(岩崎電気株式会社製)
光源:メタルハライドランプ
試験環境:63℃(ブラックパネル温度)、50%RH
照度:50mW/cm(波長365nm)
照射サイクル:24時間(連続照射)
【0206】
照射後の硬化性樹脂層(b)の硬化物の表面に対して、JIS K5600-5-6:1999に基づき、以下の基準で耐候密着性を評価した。得られた結果を下記表2に示す。
◎:カットの縁が完全に滑らかでどの格子にも剥がれがない
〇:剥がれの起こったマス目が40%未満である
×:剥がれの起こったマス目が40%以上である
【0207】
<指紋拭き取り性>
積層体を硬化して得られる硬化物の指紋拭き取り性を評価した。なお、硬化物は、鉛筆硬度の評価で製造した硬化物を用いた。
【0208】
硬化性樹脂層(b)の硬化物の表面に指紋を付着させた。その後、指紋を布で拭き取り、以下の基準で指紋の拭き取りやすさを評価した。得られた結果を下記表2に示す。
〇:2~4回の拭き取りで指紋が消失した。
△:5回の拭き取りで指紋が消失した。
×:6回以上の拭き取りで指紋が消失した。
【0209】
【表2】
【0210】
表2の結果から、実施例1~22の積層体は三次元成形性に優れることが分かった。また、実施例1~22の積層体を硬化してなる硬化物は、高硬度であることが分かった。