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特開2024-166035亜酸化チタン材料及び亜酸化チタン材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166035
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】亜酸化チタン材料及び亜酸化チタン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20241121BHJP
【FI】
C01G23/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189871
(22)【出願日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2023080883
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】森本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】向原 彪亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵太
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA01
4G047CA02
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD04
(57)【要約】
【課題】高い導電性を有し、かつ、加熱処理によっても酸化反応の進行が抑制された耐熱性の高い亜酸化チタンを提供する。
【解決手段】熱重量分析において、50~900℃の温度範囲における重量変化の幅が0.30~3.40%であり、かつ、粉末を63MPaの圧力で圧粉した際の25℃における体積抵抗率が1×10Ω・cm~8×10Ω・cmであることを特徴とする亜酸化チタン材料。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱重量分析において、50~900℃の温度範囲における重量変化の幅が0.30~3.40%であり、かつ、粉末を63MPaの圧力で圧粉した際の25℃における体積抵抗率が1×10Ω・cm~8×10Ω・cmであることを特徴とする亜酸化チタン材料。
【請求項2】
前記亜酸化チタン材料は、熱重量分析において、50~400℃の温度範囲における重量変化の幅が0~1.20%であることを特徴とする請求項1に記載の亜酸化チタン材料。
【請求項3】
前記亜酸化チタン材料は、ニオブ元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の亜酸化チタン材料。
【請求項4】
前記亜酸化チタン材料は、結晶構造がルチル型であることを特徴とする請求項1に記載の亜酸化チタン材料。
【請求項5】
粒度分布測定における体積基準90%径D90と体積基準10%径D10との比(D90/D10)が3.0未満であることを特徴とする請求項1に記載の亜酸化チタン材料。
【請求項6】
粒度分布におけるメジアン径が1.0~20μmであることを特徴とする請求項1に記載の亜酸化チタン材料。
【請求項7】
硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタン、ニオブ元素含有化合物、酸、並びに、無機塩類を混合して加水分解する第一工程と、
該第一工程で得られた加水分解物を還元焼成する第二工程とを含み、
該第一工程において、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンに含まれるチタン元素100モル%に対して、ニオブ元素含有化合物に含まれるニオブ元素の量が0.5モル%を超えて15モル%以下となる量のニオブ元素含有化合物を用いることを特徴とする亜酸化チタン材料の製造方法。
【請求項8】
前記第二工程は、水素濃度が4体積%未満の雰囲気下で加水分解物を還元焼成する工程であることを特徴とする請求項7に記載の亜酸化チタン材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化チタン材料及び亜酸化チタン材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素欠損を有する亜酸化チタンは、その自由電子の存在から低い体積抵抗率、即ち高い導電率を発現することが知られており、導電性材料として利用されている。また亜酸化チタンは黒色であることから化粧料の顔料等としても利用されている。
従来の亜酸化チタンとして、白色度、赤色度、黄色度が特定の範囲であって、熱重量分析によって測定された酸素欠損量が0.1質量%以上、1.5質量%以下である酸化チタンを主構成物質として含む導電性粒子(特許文献1参照)、低次酸化チタンの粒子の表面にガスバリヤー性薄膜を形成してなる低次酸化チタン粉末(特許文献2参照)、化粧料の顔料として使用される、二酸化チタン粉末をアンモニアガス雰囲気中で500~1000℃で加熱還元して得られる黒色系の色彩を有する酸化チタン(特許文献3参照)、及びチタンアルコキシドを還元ガス雰囲気中へ噴霧供給して分解還元反応を行うことにより製造される有色酸化チタン(特許文献4参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-179590号公報
【特許文献2】特開平8-59240号公報
【特許文献3】特開昭58-180413号公報
【特許文献4】特開平4-46016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に酸化チタンへの酸素欠損の導入は、高温雰囲気下での還元焼成によってなされるが、酸化チタンへの十分な酸素欠損の導入は容易ではなく、過去の報告においても10-10Ω・cm程度の体積抵抗率を示す亜酸化チタンが得られるに留まっている。また、酸素欠損を有する酸化チタン(亜酸化チタン)は大気雰囲気下では酸化反応が進行して導電性が低下することがある。さらに、亜酸化チタンを導電性・誘電性材料として使用する場合、その実施形態の1つとして樹脂と複合化して用いることが想定されるが、その場合、樹脂を可塑化するために100~300℃程度に加熱して混練されるため、樹脂との複合化の過程で亜酸化チタンの導電性、誘電性が損なわれてしまうことが想定される。また、誘電加熱における被加熱体用途も当該亜酸化チタンの想定される用途の1つであるが、高い誘電率を有する亜酸化チタン自身がマイクロ波等の電波により加熱されるため、これによっても亜酸化チタンの導電性、誘電特性が損なわれてしまうことが想定される。これら亜酸化チタンの大気雰囲気下における酸化反応に対して、特許文献1において外部環境の影響が小さい導電性酸化チタンが開示されているが、十分な導電性を示さないため、実用性は低い。
これらの理由により、亜酸化チタンは使用環境が制限されるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、高い導電性を有し、かつ、加熱処理によっても酸化反応の進行が抑制された耐熱性の高い亜酸化チタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記公知文献や周知技術から、亜酸化チタンの耐熱性の低さはその結晶構造の安定性、すなわち酸素欠損量に依存するとの仮説を立てた。酸素欠損量が多いほど、化学組成がTiOから乖離し、酸化チタンの熱力学的に安定な結晶構造とされるアナタース型やルチル型の結晶構造を維持できなくなり、非晶質化の他、熱力学的に不安定なマグネリ相等の結晶構造が形成されると考えられる。
そこで、ルチル型の結晶構造を維持しつつ、十分な導電性及び誘電特性を有する程度に酸素欠損が導入することができれば、加熱処理によっても導電性、誘電特性が変化しない耐熱性に優れた亜酸化チタンを得ることができるとの考えに至った。
ここで、還元の程度が不十分な場合は十分な導電性や誘電特性を示さず、還元の程度が強すぎる場合は耐熱性の低い材料となるため、適度な還元による酸素欠陥の導入が重要である。通常、酸化チタン粒子を還元焼成して亜酸化チタンを得る場合、ある一定の閾値となる還元条件まではほとんど酸素欠損は導入されず、閾値となる還元条件を超えた場合は結晶構造の変化を伴う大幅な酸素欠損の導入が起こる。そのため、従来の方法では、還元の度合いを十分な導電性を確保する上で必要最小程度に制御しつつ、目的とする亜酸化チタンを得ることは困難であった。さらに粒子表面の還元反応が優先的に進行することで、粒子表面と粒子内部で結晶相が不均一な粒子が形成されることも、耐熱性が低下する一因であった。
そこで、発明者らは1)前駆体材料としてチタン酸凝集体を用いること、2)当該チタン酸凝集体にニオブ元素を均一に混合しておくこと、これらを満たす前駆体材料を用いることにより亜酸化チタン材料を合成するに至った。
1)前駆体材料としてチタン酸凝集体を用いることにより、粒子内部まで十分に還元性ガスが浸透し、粒子全体を均一に還元焼成でき、粒子全体が均一なルチル型の結晶構造を有することとなり、熱力学的に安定な材料となる。なお、還元反応の進行に伴い、凝集体を構成する一次粒子は焼結し、最終的に凝集体の形状を維持した亜酸化チタン材料が得られる。
2)チタン酸凝集体にニオブ元素を均一に混合しておくことにより、還元焼成時にチタン元素の4価から3価への還元反応を促進し、温和な条件で適度な酸素欠損を導入でき、十分な導電性や誘電特性をもったルチル型の結晶構造を有する亜酸化チタン材料が得られる。
以上の材料設計のもと、高い導電性を有し、かつ耐熱性の高い亜酸化チタンについて検討し、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンと所定の割合のニオブ元素含有化合物と酸と無機塩類を混合して加水分解した後、得られた加水分解物を還元焼成すると、優れた導電性を有するとともに耐熱性にも優れた亜酸化チタン材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の亜酸化チタン材料は、特許文献1に記載の導電性酸化チタンに比べて体積抵抗率が低く、優れた導電性を示す材料である。
【0007】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]熱重量分析において、50~900℃の温度範囲における重量変化の幅が0.30~3.40%であり、かつ、粉末を63MPaの圧力で圧粉した際の25℃における体積抵抗率が1×10Ω・cm~8×10Ω・cmであることを特徴とする亜酸化チタン材料。
【0008】
[2]前記亜酸化チタン材料は、熱重量分析において、50~400℃の温度範囲における重量変化の幅が0~1.20%であることを特徴とする[1]に記載の亜酸化チタン材料。
【0009】
[3]前記亜酸化チタン材料は、ニオブ元素を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の亜酸化チタン材料。
【0010】
[4]前記亜酸化チタン材料は、結晶構造がルチル型であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の亜酸化チタン材料。
【0011】
[5]粒度分布測定における体積基準90%径D90と体積基準10%径D10との比(D90/D10)が3.0未満であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載亜酸化チタン材料。
【0012】
[6]粒度分布におけるメジアン径が1.0~20μmであることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の亜酸化チタン材料。
【0013】
[7]硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタン、ニオブ元素含有化合物、酸、並びに、無機塩類を混合して加水分解する第一工程と、該第一工程で得られた加水分解物を還元焼成する第二工程とを含み、該第一工程において、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンに含まれるチタン元素100モル%に対して、ニオブ元素含有化合物に含まれるニオブ元素の量が0.5モル%を超えて15モル%以下となる量のニオブ元素含有化合物を用いることを特徴とする亜酸化チタン材料の製造方法。
【0014】
[8]前記第二工程は、水素濃度が4体積%未満の雰囲気下で加水分解物を還元焼成する工程であることを特徴とする[7]に記載の亜酸化チタン材料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の亜酸化チタン材料は、高い導電性を有し、かつ、耐熱性にも優れた材料であるため、樹脂と高温で混練して使用される導電フィラー、誘電フィラー等の用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で製造した亜酸化チタン材料の熱重量分析結果を示した図である。
図2】比較例3で使用した亜酸化チタン材料の熱重量分析結果を示した図である。
図3】実施例12で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
図4】実施例13で得られたチタン酸凝集体の電子顕微鏡観察(倍率200倍、2000倍、1万倍)結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0018】
1.亜酸化チタン材料
本発明の亜酸化チタン材料は、熱重量分析において、50~900℃の温度範囲における重量変化の幅が0.30~3.40%であり、かつ、粉末を63MPaの圧力で圧粉した際の25℃における体積抵抗率が1×10Ω・cm~8×10Ω・cmであることを特徴とする。当該温度範囲における重量変化の幅を評価することで、亜酸化チタンの粒子表面の吸着水の影響を考慮しつつ、酸素欠損量を定量的に評価することができる。
熱重量分析において、50~900℃の温度範囲における重量変化の幅が0.30~3.40%であることは、安定な二酸化チタンの結晶構造を維持したまま導電性を発現するに十分な酸素欠損が形成されたことを意味し、亜酸化チタンの耐熱性が高いことを意味すると考えられる。
本発明の亜酸化チタン材料の熱重量分析における50~900℃の温度範囲での重量変化の幅は0.30~3.40%であればよいが、0.33~3.30%であることが好ましい。より好ましくは、0.35~3.00%である。特に好ましくは、0.37~2.70%である。最も好ましくは、0.38~1.00%である。
また本発明の亜酸化チタン材料は、粉末を63MPaの圧力で圧粉した際の25℃における体積抵抗率が1×10Ω・cm~8×10Ω・cmである導電性の高い材料である。亜酸化チタン材料の当該測定条件における体積抵抗率は、1×10Ω・cm~8×10Ω・cmであればよいが、3×10Ω・cm~5×103Ω・cmであることが好ましい。より好ましくは、5×10Ω・cm~1×103Ω・cmであり、更に好ましくは、1×10Ω・cm~5×102Ω・cmであり、特に好ましくは、1×10Ω・cm~1×10Ω・cmである。なお、ここでいう亜酸化チタン材料の粉末を63MPaの圧力で圧粉した際の25℃における体積抵抗率とは、熱処理を行っていない亜酸化チタン材料の原体の体積抵抗率を意味する。
亜酸化チタン材料の熱重量分析、体積抵抗率の測定は、後述する実施例に記載の方法で行うことができる。
【0019】
本発明の亜酸化チタン材料は、熱重量分析において、50~400℃の温度範囲における重量変化の幅が0~1.20%であることが好ましい。このような重量変化の幅であると、加熱時に副生成物の発生がないか、あったとしても非常に少ないため、亜酸化チタン材料の導電率、誘電特性を損なうことなく樹脂組成物を調製することができる。また、亜酸化チタン材料を樹脂と混練する際に化学反応に伴う重量及び体積の変化が小さく、緻密な樹脂組成物を調製することができる。50~400℃の温度範囲における重量変化の幅は、より好ましくは0~1.00%であり、更に好ましくは0~0.50%であり、特に好ましくは0~0.30%である。
【0020】
また本発明の亜酸化チタン材料は、後述するように用途に応じて誘電特性を調製することが可能な材料であるが、誘電率の高い材料が求められる用途に使用される場合は、1GHzにおける誘電率が20以上であることが好ましい。このような誘電率であると、本発明の亜酸化チタン材料を導電フィラー、誘電フィラー等の用途により好適に使用することができる。亜酸化チタン材料の1GHzにおける誘電率は、より好ましくは、25以上であり、更に好ましくは、30以上であり、特に好ましくは、35以上であり、最も好ましくは、40以上である。亜酸化チタン材料の誘電率には特に上限はないが、1GHzにおける誘電率は通常、100以下である。なお、ここでいう亜酸化チタン材料の1GHzにおける誘電率とは、熱処理を行っていない亜酸化チタン材料の原体の1GHzにおける誘電率を意味する。
亜酸化チタン材料の誘電率は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0021】
本発明の亜酸化チタン材料は、亜酸化チタンを主成分とするものであれば、他の元素を含むものであってもよく、ニオブ元素を含むものであることが好ましい。ニオブ元素を含むことで、本発明の亜酸化チタン材料が、比較的少ない酸素欠損量で導電性に優れる特性をより十分に発揮することができる。
本発明の亜酸化チタン材料がニオブ元素を含む場合、その含有量は、亜酸化チタン材料が含むチタン元素100モル%に対して、0.5モル%を超えて15モル%以下であることが好ましい。より好ましくは、1.0~5.0モル%であり、更に好ましくは、2.0~4.0モル%である。
亜酸化チタン材料に含まれるニオブ元素はエネルギー分散型分光(EDS)分析により検出、定量分析をすることができる。
【0022】
本発明の亜酸化チタン材料は、比表面積が0.1~5.0m/gであることが好ましい。このような比表面積であると、亜酸化チタン材料が良好なハンドリング性を有するものとなる。亜酸化チタン材料の比表面積は、より好ましくは、0.3~3.0m/gであり、更に好ましくは、0.5~1.0m/gである。
亜酸化チタン材料の比表面積は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0023】
本発明の亜酸化チタン材料は、粒度分布測定におけるメジアン径D50で表される二次粒子径が1.0~20μmであることが好ましい。このような二次粒子径であると、亜酸化チタン材料が良好なハンドリング性を有するものとなる。また、本発明の亜酸化チタン材料が樹脂と混合して用いる場合の樹脂への分散性に優れたものとなり、樹脂と複合化しやすいものとなる。亜酸化チタン材料の二次粒子径は、より好ましくは、2.0~15μmであり、更に好ましくは、3.0~12μmであり、特に好ましくは、4.0~10μmである。
【0024】
本発明の亜酸化チタン材料は、粒度分布測定における体積基準90%径D90と体積基準10%径D10との比(D90/D10)が3.0未満であることが好ましい。このような粒度分布の狭いものであると、本発明の亜酸化チタン材料が樹脂と混合して用いる場合の樹脂への分散性に優れたものとなり、樹脂と複合化しやすいものとなる。亜酸化チタン材料の(D90/D10)は、より好ましくは、2.5未満であり、更に好ましくは、2.0未満である。
亜酸化チタン材料のD50及び(D90/D10)は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0025】
本発明の亜酸化チタン材料は、結晶構造がルチル型であることが好ましい。結晶構造がルチル型であると、二酸化チタンの安定な結晶構造を維持したまま酸素欠損が導入されたことになる。これにより、亜酸化チタン材料の安定性が向上し、耐熱性に優れたものとなり、結果として酸化雰囲気に暴露したとしても優れた導電性を維持するものとなると考えられる。
また本発明の亜酸化チタン材料は、上述した熱重量分析における重量変化の幅および粉末の体積抵抗率の要件を満たすものである限り、ルチル型の結晶構造を有する亜酸化チタンとルチル型以外の結晶構造とを有する亜酸化チタンとを含むものであってもよい。本発明の亜酸化チタン材料の要件を満たす限り、ルチル型以外の結晶構造を有する亜酸化チタンの含有割合は特に制限されないが、亜酸化チタン材料全体100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、30質量%以下であり、更に好ましくは、20質量%以下である。
亜酸化チタン材料の結晶構造は、XRD測定により確認することができる。
【0026】
本発明の亜酸化チタン材料は、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、共重合ブロックポリマー、ゴム系材料等の樹脂と混練して樹脂組成物として用いられてもよい。
その場合、樹脂組成物は、必要に応じて有機溶媒、硬化剤、添加剤等の他の成分を1種又は2種以上含んでもよい。
【0027】
2.亜酸化チタン材料の製造方法
本発明はまた、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタン、ニオブ元素含有化合物、酸、並びに、無機塩類を混合して加水分解する第一工程と、該第一工程で得られた加水分解物を還元焼成する第二工程とを含み、該第一工程において、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンに含まれるチタン元素100モル%に対して、ニオブ元素含有化合物に含まれるニオブ元素の量が0.5モル%を超えて15モル%以下となる量のニオブ元素含有化合物を用いることを特徴とする亜酸化チタン材料の製造方法でもある。
硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンとニオブ元素含有化合物と酸、無機塩類とを混合して加水分解する第一工程を製造方法に含むことで、ニオブ元素を含有するチタン酸凝集体を効率的に合成することができ、第二工程の還元焼成処理により比較的酸素欠損量が少ないものでありながら導電性、分散性に優れる亜酸化チタン材料を製造することができる。
【0028】
上記第一工程においては、チタン源として硫酸チタニル、オキシ塩化チタンのいずれか一方を用いてもよく、両方を用いてもよい。
オキシ塩化チタン(TiOCl)は、四塩化チタンが水と反応することで生成するため、四塩化チタン水溶液をチタン源として用いると、オキシ塩化チタンを用いていることになる。
【0029】
上記第一工程において用いるニオブ元素含有化合物としては、シュウ酸ニオブアンモニウム、五塩化ニオブ、五フッ化ニオブ、ニオブアルコキシド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
上記第一工程におけるニオブ元素含有化合物の使用量は、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンに含まれるチタン元素100モル%に対して、ニオブ元素含有化合物に含まれるニオブ元素の量が0.5モル%を超えて15モル%以下となる量であるが、好ましくは、ニオブ元素の量が1.0~5.0モル%となる量であり、更に好ましくは、ニオブ元素の量が2.0~4.0モル%となる量である。
【0031】
上記第一工程においては、ニオブ元素含有化合物と硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンをそれぞれ溶液としたうえで酸、無機塩類と混合することが好ましい。
ニオブ元素含有化合物の溶液や硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンの溶液を調製する際に用いる溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、希硫酸、塩酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
上記ニオブ元素含有化合物の溶液を調製する場合、ニオブ元素含有化合物含有溶液の濃度は、チタン元素と均一に混合する点から1~50質量%であることが好ましい。より好ましくは、5~45質量%であり、更に好ましくは、10~40質量%である。
【0033】
上記硫酸チタニルの溶液を調製する場合、硫酸チタニル含有溶液における硫酸チタニルの濃度は特に制限されないが、加水分解物の収率と製造の効率とを考慮すると、0.10~3.5mol/Lであることが好ましい。より好ましくは、0.50~3.0mol/Lであり、更に好ましくは、0.70~2.5mol/Lである。
オキシ塩化チタン含有溶液におけるオキシ塩化チタンの濃度も硫酸チタニル含有溶液における硫酸チタニルの濃度と同様であることが好ましい。
【0034】
また上記第一工程においては、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンやニオブ元素含有化合物を溶媒に十分溶解させるために硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンやニオブ元素含有化合物を溶媒と混合した後、加熱してもよい。
加熱する際の温度は40~80℃であることが好ましい。より好ましくは、50~70℃である。これにより、加水分解反応が開始する前に硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンとニオブ元素含有化合物を溶解させ、より均一に混合することが可能となる。
硫酸チタニル溶液及び/又はオキシ塩化チタン溶液やニオブ元素含有化合物溶液の加熱は、これらと酸、無機塩類とを混合した後に行ってもよい。
【0035】
上記第一工程においては、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンとニオブ元素含有化合物と酸、無機塩類とを混合して硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタン、並びに、ニオブ元素含有化合物の加水分解を行う。酸ではなく塩基を用いて加水分解を行うこともできるが、酸を用いて加水分解を行うことで、粒度分布の狭い亜酸化チタン材料を製造することができる。この理由は以下のように考えられる。すなわち、酸による加水分解を行うことで、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンとニオブ元素含有化合物の加水分解が緩やかに進行してニオブ元素が均一に共沈しながらチタン酸が徐々に反応系中に析出される。析出したチタン酸はファン・デル・ワールス力によって互いに凝集し、粒度分布の幅が狭く均一な凝集粒子径を有するチタン酸凝集体が形成されるため、これを還元雰囲気下、焼成することで、チタン酸凝集体の粒子径、粒度分布を維持したまま、亜酸化チタン材料を製造することができると考えられる。塩基による加水分解では、粒度分布の幅が狭く均一なチタン酸凝集体を形成させるためには加水分解速度が速すぎることから制御が難しく、加えて、硫酸チタニルやオキシ塩化チタンの中和加水分解速度とニオブ元素のそれが異なるため、ニオブ元素の均一性という点からも好ましくない。
上記第一工程において用いる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。
上記第一工程における酸の使用量は、十分に加水分解を行うことと製造コストとを考慮すると、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタン100質量%に対して、1~50質量%であることが好ましい。より好ましくは、5~40質量%であり、更に好ましくは、10~30質量%である。
【0036】
上記第一工程において用いる無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。無機塩類を混合することで、最終的に得られる亜酸化チタン材料を粒度分布の狭いものとすることができる。これらの中でも、安価で入手容易である点で塩化ナトリウムが好ましい。
無機塩類の使用量は、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタン100質量%に対して、50~1000質量%であることが好ましい。より好ましくは、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタン100質量%に対して、60~700質量%であり、更に好ましくは、100~600質量%であり、特に好ましくは、125~500質量%である。
【0037】
上記第一工程において硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンとニオブ元素含有化合物と酸と無機塩類とを混合する順番は特に制限されないが、チタン元素とニオブ元素を均一に混合する点から、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンと酸と無機塩類とを混合した後、そこにニオブ元素含有化合物を添加して混合することが好ましい。
【0038】
上記第一工程では加水分解を十分に進めるため、硫酸チタニル及び/又はオキシ塩化チタンとニオブ元素含有化合物と酸と無機塩類とを混合した混合液を加熱してもよい。混合液を加熱する場合の加熱温度は、90~115℃であることが好ましい。より好ましくは、95~110℃である。
また上記第一工程の加水分解を行う時間は、0.5~6時間であることが好ましい。より好ましくは、1~5時間であり、更に好ましくは、2~3時間である。
【0039】
上記亜酸化チタン材料の製造方法では、第一工程の後、得られた加水分解物を中和する工程を行うことが好ましい。中和する工程を行うことで、より効率的に残存する硫酸や塩酸といった酸を効率的に除去できる。
中和に用いる塩基性化合物は特に制限されず、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。これらの中でも、ナトリウム以外のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の混入を防ぐことができる点で、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが好ましい。より好ましくはアンモニアである。これらは固体又は気体の状態で添加しても良いが通常は水溶液として添加する。
【0040】
上記中和工程においては、加水分解物を、加水分解物の質量に対して10倍の水にリパルプしたリパルプスラリーのpHが7~11になるまで塩基性化合物を添加することが好ましい。より好ましくは、リパルプスラリーのpHが8~10になるまで塩基性化合物を添加することである。
【0041】
上記中和工程を行う場合、中和工程の前に加水分解物を水洗する工程を行うことが好ましい。これにより加水分解後のスラリーに含まれる不要な酸類、無機塩類等を除くことができる。加水分解物の水洗は、加水分解物をろ過して分離した固形分に通水する等して行うことができる。加水分解物の水洗は、ろ液の電気伝導度が5000μS/cm以下となるまで行うことが好ましく、これにより中和工程において使用する塩基性化合物の量を削減することができる。より好ましくは、3000μS/cm以下であり、更に好ましくは、1000μS/cm以下である。
【0042】
上記中和工程を行う場合、中和工程の後に、得られた中和物をろ過、水洗する工程を行うことが好ましい。これにより中和工程で生じた塩を除去し、加水分解物の純度を高めることができる。中和物の水洗は、ろ液の電気伝導度が1000μS/cm以下となるまで行うことが好ましく、これにより中和工程で生じた塩を十分に除去することができる。より好ましくは、500μS/cm以下であり、更に好ましくは、100μS/cm以下である。
【0043】
上記亜酸化チタン材料の製造方法では、上記中和工程の後(中和工程の後、得られた中和物をろ過、水洗する工程を行う場合はろ過、水洗する工程の後)、第二工程の焼成の前に得られたチタン酸凝集体を乾燥する工程を行うことが好ましい。
チタン酸凝集体を乾燥する方法は特に制限されないが、加熱して行うことが好ましい。加熱する際の温度は、80~200℃であることが好ましい。より好ましくは、100~150℃である。このような温度で乾燥させることで粒子同士の過剰な焼結を抑えつつ、十分に乾燥させることができる。
【0044】
上記亜酸化チタン材料の製造方法では更に、上記乾燥工程を行ったチタン酸凝集体を分級する工程を行うことが好ましい。
乾燥したチタン酸凝集体を分級する方法は特に制限されないが、篩を用いて行うことが好ましい。篩の平均目開きサイズは、50~1000μmであることが好ましい。より好ましくは、200~500μmである。このような平均目開きサイズの篩を通過させることで異常サイズの凝集体を形成したチタン酸凝集体及び、第一工程において反応系外から混入しうる不純物を十分に除去することができる。
【0045】
上記第一工程で得らえた加水分解物は、200℃で30分脱気し、予備加熱を200℃で5分間行った際の比表面積が100~800m/gであることが好ましい。このような比表面積であると、亜酸化チタン粒子内部まで効率的に還元を進行させることができる。加水分解物の比表面積は、より好ましくは、200~600m/gであり、最も好ましくは、250~500m/gである。
加水分解物の比表面積は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
上記第二工程の還元焼成を行う雰囲気としては特に限定されず、水素(H)雰囲気、窒素(N)雰囲気、アルゴン(Ar)雰囲気、一酸化炭素(CO)雰囲気、水素と窒素及びまたはアルゴン、一酸化炭素との混合ガス雰囲気、水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気等が挙げられ、アンモニア(NH)雰囲気等もこれに含まれる。中でも、効率よく目的とする亜酸化チタン材料を製造できることから、水素雰囲気、窒素雰囲気、または水素と窒素との混合ガス雰囲気であることが好ましい。中でも、水素濃度が1体積%以上、20体積%未満の雰囲気が好ましい。より好ましくは水素濃度が1体積%以上、4体積%未満である。水素濃度が4体積%未満の雰囲気であれば水素が爆発下限濃度以下となるため安全性が高く、また窒素との混合ガスであればコストの観点でも工業化に適する。
【0047】
上記第二工程の還元焼成を行う温度は、500~1300℃とすることが好ましい。より好ましくは、800~1250℃、更に好ましくは、850~1200℃であり、特に好ましくは900~1100℃である。
また還元焼成を行う時間は、水素濃度等の還元雰囲気の条件にもよるが、焼成温度に到達後1~8時間とすることが好ましい。より好ましくは2~6時間、更に好ましくは3~5時間である。
【0048】
本発明の亜酸化チタン材料の製造方法は、上述した工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、還元焼成の後に更に大気中で焼成を行う工程や、乾燥後のチタン酸凝集体を解砕する工程、分級する工程等が挙げられる。
【実施例0049】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0050】
<熱重量分析>
熱重量分析装置(STA7300、日立ハイテクサイエンス製)を用いて、200mL/minの流量の空気中で、温度範囲50~900℃、昇温速度10℃/min、保持時間30秒の条件で熱重量分析を行った。
(変位幅算出)
熱重量分析の結果から50~900℃及び50~400℃の温度範囲における変位幅を算出した。
測定前の試料重量をWとし、50~900℃の温度範囲における重量減少の下限値から、重量増加の最大値までの重量変化量をΔW900、50~400℃の温度範囲における重量減少の下限値から、重量増加の最大値までの重量変化量をΔW400とした場合の変位幅(%)は
変位幅(%)=(ΔW900/W)×100
あるいは
変位幅(%)=(ΔW400/W)×100
で表される。
<体積抵抗率測定>
低抵抗抵抗率計(ロレスタGX MCP-T700、日東精工アナリティクス製)を用いて、粉末を63MPaの圧力で圧粉した際の試料の厚みが1.0~3.0mmの範囲となるように充填し、25℃における体積抵抗率測定を行った。
<誘電率測定>
空洞共振器法誘電率測定装置(AET製)にネットワークアナライザP9373A(キーサイト製)を接続し、石英管に詰めた粉体の誘電率を測定した。測定周波数は1GHzとした。
<比表面積測定>
全自動比表面積測定装置(Macsorb、マイクロトラック製)を用いて、200℃で30分脱気し、予備加熱を200℃で5分間行った後に吸脱着測定により比表面積を測定した。
<メジアン径、粒度分布測定>
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-960、HORIBA製)を用いて、分散媒に0.025%ヘキサメタリン酸水溶液を使用し、超音波ホモジナイザー(US-600、日本精機製)で1分間の分散処理を行ったものについて粒度分布測定をおこない、メジアン径(D50)、体積基準10%径(D10)、体積基準90%径(D90)を測定し、D10及びD90の数値から比(D90/D10)を算出した。
<XRD測定>
X線回折装置(D8 ADVANCE、ブルカージャパン社製)を使用し、下記の条件でサンプルを測定した。
[XRD測定条件]
光学系:集中法
X線管球:Cu Kα線
2θ角度:10.0°-80.0°
管電圧-管電流:40kV-40mA
ステップ幅:0.01°
ステップ時間:0.05s
<SEM/EDS測定>
電界放出形走査電子顕微鏡(JSM―7500、JEOL社製)及びEDS検出器(Ultim Max 170、OXFORD INSTRUMENTS社製)を用いて、カーボンコート処理を行った試料を測定した。測定に際し、加速電圧を15.00kV、積算回数を5回とした。
TiはKα1線、NbはLα1線を用いて解析を行い、チタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)を算出した。
【0051】
実施例1
還流装置を備えた反応装置に、純水1200mLに対し、硫酸チタニル水和物(Tiとして19.9wt%)を240g、塩化ナトリウムを400g、98%硫酸を40mL添加し、混合した。混合溶液を200rpmで撹拌し、液温80℃まで加熱した。加熱後、硫酸チタニル水和物が溶解していることを確認し、シュウ酸ニオブアンモニウム水和物17.26g(硫酸チタニル中のTiに対しNbとして3.0mol%に相当する量)を純水60mLに溶解させたものを加えた。混合溶液を110℃の条件で加熱撹拌し、3時間還流を行った。
得られたスラリーをブフナー漏斗に加えて吸引ろ過をし、得られた固形分を100Lの純水で通水洗浄した。固形分を純水にリパルプし、リパルプスラリーのpHが8~9程度になるまでアンモニア水溶液を添加した。pH調整後のスラリーについて再度ろ過し、ろ液の伝導度が100μS/cm以下となるように通水洗浄した。洗浄後の固形分を100℃で乾燥させ、150μmの篩通しを行った。得られた粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
得られた粉体を、アルミナボートに載せ、窒素ガスをキャリアガスとした濃度3.9vol%の水素ガスを300mL/minの流量で流し、温度900℃で4時間の還元焼成を行った。還元焼成後、回収し、実施例1の亜酸化チタン材料を得た。
【0052】
実施例2
実施例1の還元焼成に加えて更に大気中400℃で4時間の焼成を行い、酸素欠損量を僅かに減少させ、実施例2の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0053】
実施例3
実施例1の還元焼成に加えて更に大気中200℃で4時間焼成を行い、酸素欠損量を僅かに減少させ、実施例3の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0054】
実施例4
実施例1の還元焼成温度を1000℃としたこと以外は実施例1と同様にして実施例4の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0055】
実施例5
実施例1のシュウ酸ニオブアンモニウム水和物の添加量を28.78g(硫酸チタニル中のTiに対しNbとして5.0mol%に相当する量)に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例5の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0056】
実施例6
還流装置を備えた反応装置に、純水300mLに対し、硫酸チタニル水和物(Tiとして19.9wt%)を60g、塩化ナトリウムを100g、98%硫酸を10mL添加し、混合した。混合溶液を200rpmで撹拌し、液温80℃まで加熱した。加熱後、硫酸チタニル水和物が溶解していることを確認し、塩化ニオブ6.75g(硫酸チタニル中のTiに対しNbとして10.0mol%に相当する量)を35%塩酸20mLに溶解させたものを加えた。混合溶液を110℃の条件で加熱撹拌し、3時間還流を行った。
得られたスラリーをブフナー漏斗に加えて吸引ろ過をし、得られた固形分を100Lの純水で通水洗浄した。固形分を純水にリパルプし、リパルプスラリーのpHが8~9程度になるまでアンモニア水溶液を添加した。pH調整後のスラリーについて再度ろ過し、ろ液の伝導度が100μS/cm以下となるように通水洗浄した。洗浄後の固形分を100℃で乾燥させ、150μmの篩通しを行った。得られた粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
得られた粉体を、アルミナボートに載せ、窒素ガスをキャリアガスとした濃度3.9vol%の水素ガスを300mL/minの流量で流し、温度900℃で4時間の還元焼成を行った。還元焼成後、回収し、実施例6の亜酸化チタン材料を得た。
【0057】
実施例7
実施例1の還元焼成に使用するガスを、窒素ガスをキャリアガスとした濃度3.9vol%の水素ガスから、水素ガス濃度100vol%のガスに変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例7の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0058】
実施例8
加水分解工程において添加する塩化ナトリウムの量を800gに変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例8の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0059】
実施例9
加水分解工程において添加する塩化ナトリウムの量を200gに変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例9の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0060】
実施例10
加水分解工程において添加する無機塩類を塩化アンモニウムに変更し、添加量を200gに変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例10の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
実施例11
実施例1の還元焼成温度を、1200℃としたこと以外は実施例1と同様にして実施例11の亜酸化チタン材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0062】
実施例12
五塩化ニオブ(三津和化学薬品社製、44.1g、四塩化チタン水溶液中のTiに対しNbとして3.1mol%に相当する量)をエタノール200mLに溶解させ、溶解液に純水100mLを加え、塩化ニオブ溶液を調製した。還流装置を備えた反応装置に、純水2000mLに対し、四塩化チタン水溶液(大阪チタニウム社製、Tiとして16.7wt%、比重1.56g/mL)を1000mL、調製した塩化ニオブ溶液を全量、塩化ナトリウムを300g、95%硫酸を100mL添加し、混合した。混合溶液を110℃の条件で加熱撹拌し、3時間還流を行った。
得られたスラリーをブフナー漏斗に加えて吸引ろ過をし、得られた固形分を100Lの純水で通水洗浄した。固形分を純水にリパルプし、リパルプスラリーのpHが8~9程度になるまでアンモニア水溶液を添加した。pH調整後のスラリーについて再度ろ過し、ろ液の伝導度が100μS/cm以下となるように通水洗浄した。洗浄後の固形分を100℃で乾燥させ、150μmの篩通しを行った。得られた粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
得られた粉体を、アルミナボートに載せ、窒素ガスをキャリアガスとした濃度3.9vol%の水素ガスを300mL/minの流量で流し、温度1000℃で4時間の還元焼成を行った。還元焼成後、回収し、実施例1の亜酸化チタン材料を得た。得られた亜酸化チタン材料の電子顕微鏡観察結果を図3に示す。
【0063】
実施例13
実施例12の五塩化ニオブの使用量を14.7g(四塩化チタン水溶液中のTiに対しNbとして1.2mol%に相当する量)に変更したこと以外は実施例12と同様にして実施例13の亜酸化チタン材料を得た。得られた亜酸化チタン材料の電子顕微鏡観察結果を図4に示す。
実施例12と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0064】
実施例14
実施例12に相当する亜酸化チタンを28.5g、マグネリ相の導電性酸化チタンENETIA(堺化学工業社製)を1.5g秤量し、乳鉢にて1時間手動で混合した。混合した粉末を回収し、実施例14の亜酸化チタン材料を得た。
【0065】
実施例15
実施例12に相当する亜酸化チタンを27.0g、マグネリ相の導電性酸化チタンENETIA(堺化学工業社製)を3.0g秤量し、乳鉢にて1時間手動で混合した。混合した粉末を回収し、実施例15の亜酸化チタン材料を得た。
【0066】
実施例16
実施例12に相当する亜酸化チタンを24.0g、マグネリ相の導電性酸化チタンENETIA(堺化学工業社製)を6.0g秤量し、乳鉢にて1時間手動で混合した。混合した粉末を回収し、実施例16の亜酸化チタン材料を得た。
【0067】
実施例17
実施例12に相当する亜酸化チタンを21.0g、マグネリ相の導電性酸化チタンENETIA(堺化学工業社製)を9.0g秤量し、乳鉢にて1時間手動で混合した。混合した粉末を回収し、実施例17の亜酸化チタン材料を得た。
【0068】
比較例1
実施例1の還元焼成に代えて、大気中900℃で4時間焼成したこと以外は実施例1と同様にして比較例1の材料を得た。
実施例1と同様に、大気焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0069】
比較例2
実施例1のシュウ酸ニオブアンモニウム水和物の添加量を2.88g(硫酸チタニル中のTiに対しNbとして0.50mol%に相当する量)としたこと以外は実施例1と同様にして比較例2の材料を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0070】
比較例3
マグネリ相の導電性酸化チタンENETIA(堺化学工業社製)を比較例3の材料とした。
【0071】
比較例4
Ti(SO及びNbFを含む混合水溶液を調製した。混合水溶液中のTi(SO の濃度はTi換算で15g/Lとした。NbFの濃度はNb換算で0.29g/L とした。この混合水溶液とは別に、6.0mol/LのNaOH水溶液を調製した。液温60℃の前記混合水溶液(3000mL)に、500mLのNaOH水溶液を連続滴下した。これによって液中に析出物が生成した。析出物を固液濾過して単離した後、該析出物を水洗した。水洗は、水洗後の水の電導度が25℃で600μS/cm以下になるまで行った。洗浄後の析出物を150℃で12時間にわたって乾燥させて水を除去した。次いで析出物をミルで粉砕した後、粉砕された析出物を焼成に付した。焼成は4%水素ガスの雰囲気にて1000℃で4時間にわたって行った。このようにして、粒子全体にニオブが分散した二酸化チタンからなる導電性粒子を得た。
実施例1と同様に、還元焼成を行う前の粉体のチタン元素100モル%に対するニオブ元素量(モル%)、メジアン径、D90/D10、及び、比表面積の測定を行った。結果を表1に示す。
【0072】
比較例5
実施例12に相当する亜酸化チタンを15.0g、マグネリ相の導電性酸化チタンENETIA(堺化学工業社製)を15.0g秤量し、乳鉢にて1時間手動で混合した。混合した粉末を回収し、比較例5の亜酸化チタン材料を得た。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1~17、比較例1~5で得られた材料について、メジアン径、粒度分布(D90/D10)、比表面積の測定、50~900℃及び50~400℃の範囲における重量の変位幅の測定を行った。
また実施例1~17、比較例1~5で得られた材料そのもの、及び、得られた材料に対して200℃、400℃、600℃の加熱処理を行った後のものについて体積抵抗率、誘電率の測定を行った。加熱処理は、材料をアルミナるつぼに入れ、大気中で所定の温度で4時間加熱することにより行った。これらの結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示されるとおり、本発明の亜酸化チタン材料は高い導電性を有し、400℃までの加熱処理を行っても優れた導電性が維持されることが確認された。
実施例1~11は、チタン源として硫酸チタニルを使用し、実施例12、13はチタン源として硫酸チタニルに代えてオキシ塩化チタンを用いているが、いずれの場合も高い導電性を有し、400℃までの加熱処理を行っても優れた導電性が維持される亜酸化チタン材料が得られることが確認された。
比較例3は比較的低い体積抵抗率を示したが、200℃の加熱処理を行うことで体積抵抗率が100倍以上に増加する結果となった。これは比較例3が(1)熱力学的に不安定な結晶相であるマグネリ相を有していること、(2)熱重量分析における50-400℃での重量変化が大きく、容易に大気と反応して、酸素欠損部が酸素化、即ち酸化されたことに起因すると考えられる。
図1及び図2はそれぞれ実施例1及び比較例3の亜酸化チタン材料の熱重量分析の結果である。図1の実施例1では、500℃程度までは重量変化はほとんど起こらず、上述の酸化反応が進行していないことがうかがえる。これに対して、図2の比較例3では200℃程度の温度から重量変化が開始しており、上述の酸化反応が進行していることがうかがえる。
実施例14~17、比較例5は、本発明の亜酸化チタン材料の製造方法で得られた亜酸化チタンにマグネリ相の亜酸化チタンであるENETIAを混合したものである。実施例14~17、比較例5の結果から、マグネリ相の亜酸化チタンを含む場合であってもその割合が一定の割合より少なければ高い導電性を有し、400℃までの加熱処理を行っても優れた導電性が維持されることが確認された。
比較例4は、上述した先行技術文献の特許文献1の実施例の導電性酸化チタンを再現したものであるが、実施例のものに比べて体積抵抗率が高く、十分な導電性を示さないものであった。比較例4は硫酸チタニルとニオブ元素含有化合物の塩基による加水分解工程を経て合成されたものであり、チタンとニオブの均一な共沈が起こっておらず、還元焼成において効率的なチタンの還元が進行しなかったためと考えられる。
亜酸化チタンを樹脂と混練して得られる樹脂組成物を導電性材料として使用する場合、樹脂と混練する際の加熱温度は400℃程度までであるため、本発明の亜酸化チタン材料を用いることで、優れた導電性を有する導電性材料向けの樹脂組成物を得ることができる。
また本発明の亜酸化チタン材料は、600℃で加熱処理をすることで導電性や誘電率を任意に低下させることができる。誘電率を低下させることで、亜酸化チタン材料は電磁波を照射した際の発熱を適度に抑制した材料となる。本発明の亜酸化チタン材料は加熱処理する温度を変化させることで誘電特性を調整ことが可能であり、用途に応じて誘電特性を調整することができる。


図1
図2
図3
図4