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  • 特開-燃焼方法、及び、燃焼装置 図1
  • 特開-燃焼方法、及び、燃焼装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166050
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】燃焼方法、及び、燃焼装置
(51)【国際特許分類】
   D21C 11/12 20060101AFI20241121BHJP
   D21C 3/20 20060101ALI20241121BHJP
   D21C 3/00 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
D21C11/12
D21C3/20
D21C3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210929
(22)【出願日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2023081600
(32)【優先日】2023-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岸 佳佑
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AB14
4L055AB15
4L055FA01
(57)【要約】
【課題】パルプ製造プロセスにおけるエネルギー回収技術に関し、特にエネルギー回収効率に優れた燃焼方法、及び、燃焼装置を提供する。
【解決手段】脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む原料溶液と木質原料とを蒸解し、セルロースとグリセリンとを含む回収溶液と、を得る蒸解工程と、前記蒸解工程によって得られた前記回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収するエネルギー回収工程と、を含む燃焼方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む原料溶液と木質原料とを蒸解し、セルロースとグリセリンとを含む回収溶液と、を得る蒸解工程と、
前記蒸解工程によって得られた前記回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収するエネルギー回収工程と、
を含む燃焼方法。
【請求項2】
前記回収溶液は、リグニンを含む、請求項1に記載の燃焼方法。
【請求項3】
前記原料溶液が、廃グリセリン溶液である、請求項1に記載の燃焼方法。
【請求項4】
前記蒸解工程によって得られた前記回収溶液からセルロースを分離する分離工程を含む、請求項1に記載の燃焼方法。
【請求項5】
前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解工程に供給する循環工程を含む、請求項1に記載の燃焼方法。
【請求項6】
前記分離工程においてセルロースが分離された前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解工程に供給する循環工程を含む、請求項4に記載の燃焼方法。
【請求項7】
前記循環工程は、前記回収溶液の蒸解状態に基づいて前記回収溶液の供給量を制御する、請求項5又は請求項6に記載の燃焼方法。
【請求項8】
脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む原料溶液と木質原料とを蒸解し、セルロースとグリセリンとを含む回収溶液を得る蒸解装置と、
前記蒸解装置によって得られた前記回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収するボイラーと、
を備えた燃焼装置。
【請求項9】
前記回収溶液は、リグニンを含む、請求項8に記載の燃焼装置。
【請求項10】
前記原料溶液が、廃グリセリン溶液である、請求項8に記載の燃焼装置。
【請求項11】
前記蒸解装置によって得られた前記回収溶液からセルロースを分離する分離装置を備えた、請求項8に記載の燃焼装置。
【請求項12】
前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解装置に供給する循環装置を備えた、請求項8に記載の燃焼装置。
【請求項13】
前記分離装置によってセルロースが分離された前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解装置に供給する循環装置を備えた、請求項11に記載の燃焼装置。
【請求項14】
前記循環装置は、前記回収溶液の蒸解状態に基づいて前記回収溶液の供給量を制御する制御装置を備えた、請求項12又は請求項13に記載の燃焼装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ製造プロセスにおけるエネルギー回収技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製紙工場では紙の原料となるセルロースを得るための木材資源を余すところなく有効に活用するため、製造工程において、木質原料からセルロースを取り出す蒸解工程で発生した回収パルプの廃液(黒液ともいう)を濃縮し、当該廃液をエネルギー源として高性能回収ボイラーで燃焼し、高出力タービンにて自家発電を確立している。製紙工場のエネルギーサイクルの一つの例としては、まず、セルロースを得るために、蒸解釜に木質原料、並びに、苛性ソーダ及び硫化ソーダを主成分とする原料液(白液ともいう)を投入し、高温高圧で煮沸して蒸解する。得られたセルロースは洗浄や漂白処理された後、抄紙工程に送られる。
【0003】
また、洗浄工程において廃液として抽出されたリグニンを主成分とする黒液は、真空蒸発缶等のエバポレータで濃縮された後、濃黒液タンクを得て回収ボイラーにて燃焼される。回収ボイラーにおいては、燃焼により得られた炭酸ナトリウムや硫化ソーダを主成分とする溶液(緑液ともいう)を回収し、当該緑液を苛性化装置にて生石灰と反応させて苛性ソーダと硫化ソーダとを主成分とする白液とする。回収された白液は、再度蒸解釜に送られ循環利用される。
【0004】
さらに、製紙工場の製造工程においては、黒液の燃焼によって得られたエネルギーを用いて蒸気を生成しタービンによって電気エネルギーに変換している。このように、従来の製紙工場では、蒸解工程における廃液をエネルギー源として燃焼させることで自家発電を確立し、エネルギーのリサイクルが図られている。このような従来の製紙工場におけるリサイクルシステムとしては、例えば、非特許文献1に記載のものが例示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】兵庫パルプ工業株式会社、“パルプ生産工程”、[online][2023年3月13日検索],インターネット<URL:https://www.hyogopulp.co.jp/pulp/process.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、近年は国内の紙の生産量が減少しており、これに伴い回収ボイラーで燃焼するための廃液も不足している。この影響により、工場における化石燃料の使用量及びその比率が増大している。このような問題を解決するため、非化石燃料の拡大、及び有効利用方法の開発が切望されている。
【0007】
上述の課題を解決すべく、本発明は、パルプ製造プロセスにおけるエネルギー回収技術に関し、特にエネルギー回収効率に優れた燃焼方法、及び、燃焼装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1>
脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む原料溶液と木質原料とを蒸解し、セルロースとグリセリンとを含む回収溶液と、を得る蒸解工程と、
前記蒸解工程によって得られた前記回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収するエネルギー回収工程と、
を含む燃焼方法。
<2>
前記回収溶液は、リグニンを含む、前記<1>に記載の燃焼方法。
<3>
前記原料溶液が、廃グリセリン溶液である、前記<1>又は<2>に記載の燃焼方法。
<4>
前記蒸解工程によって得られた前記回収溶液からセルロースを分離する分離工程を備えた、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の燃焼方法。
<5> 前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解工程に供給する循環工程を含む、前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の燃焼方法。
<6> 前記分離工程においてセルロースが分離された前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解工程に供給する循環工程を含む、前記<4>に記載の燃焼方法。
<7> 前記循環工程は、前記回収溶液の蒸解状態に基づいて前記回収溶液の供給量を制御する、前記<5>又は<6>に記載の燃焼方法。
<8>
脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む原料溶液と木質原料とを蒸解し、セルロースとグリセリンを含む回収溶液を得る蒸解装置と、
前記蒸解装置によって得られた前記回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収するボイラーと、
を備えた燃焼装置。
<9>
前記回収溶液は、リグニンを含む、前記<8>に記載の燃焼装置。
<10>
前記原料溶液が、廃グリセリン溶液である、前記<8>又は<9>に記載の燃焼装置。
<11>
前記蒸解装置によって得られた前記回収装置からセルロースを分離する分離工程を備えた、前記<8>~<10>のいずれか一つに記載の燃焼装置。
<12> 前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解装置に供給する循環装置を備えた、前記<8>~<11>のいずれか一つに記載の燃焼装置。
<13> 前記分離装置によってセルロースが分離された前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解装置に供給する循環装置を備えた、前記<11>に記載の燃焼装置。
<14> 前記循環装置は、前記回収溶液の蒸解状態に基づいて前記回収溶液の供給量を制御する制御装置を備えた、前記<12>又は前記<13>に記載の燃焼装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パルプ製造プロセスにおけるエネルギー回収技術に関し、特にエネルギー回収効率に優れた燃焼方法、及び、燃焼装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の燃焼装置の一態様を示す模式図である。
図2】本実施形態の燃焼装置の他の態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《燃焼方法》
本実施形態の燃焼方法は、脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む原料溶液と木質原料とを蒸解し、セルロースと、グリセリンを含む回収溶液と、を得る蒸解工程と、前記蒸解工程によって得られた前記回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収するエネルギー回収工程と、含む。本実施形態の燃焼方法は、クラフトパルプ法における苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の代わりに脂肪酸ナトリウムを用いており、蒸解工程によって得られた回収溶液を燃焼させることで、熱エネルギーを蒸気や電気エネルギーに変換して回収する。
【0012】
上述のように、従来の苛性ソーダ及び硫化ソーダを用いて木質原料を蒸解する工程を使用する製紙工場などにおいては、蒸解後に木質原料から分離されたリグニンを主成分とする黒液をボイラーにおいて燃焼させることによってスメルト(燃焼後、回収、再利用される無機物)と共に蒸気や電気エネルギーを回収している。しかし、近年では紙の生産量が低下しており、エネルギー源として石炭等の化石燃料を併用する必要性が高くなっている。これに対し、グリセリンは発熱量が比較的高く、化石燃料に代替するエネルギー源として使用可能である。本実施形態の製造方法において原料溶液にグリセリンを含めることで、従来の製紙工場などで採用されているリグニンを主成分とする黒液を燃焼する方法に比して、回収溶液を燃焼させた際に蒸気発生量、及び、発熱量が高く、エネルギー回収効率に優れる。このため、例えば製紙工場においてエネルギー源として使用する化石燃料の使用量及びその比率を低下させることができることから、近年の化石燃料価格の高騰を考慮すると、工場全体のエネルギーコストを大幅に低減させることができる。
【0013】
さらに、後述するように原料溶液としては、バイオディーゼル(BDF(登録商標))や、油脂工場、石鹸工場などで腐食油や植物油由来の副生物として得られる廃グリセリン溶液を使用することができる。これら廃グリセリン溶液は、不純物として脂肪酸ナトリウムを含むものが多く、近年廃グリセリン溶液の有効活用について多くの研究がなされている。本実施形態の製造方法では、クラフトパルプ法において使用されるナトリウム塩として、脂肪酸ナトリウムを用いることが出来ると共に、回収溶液を燃焼させる際のエネルギー源としてグリセリンを用いる。このため、本実施形態の製造方法は、コスト面、及び、環境面の観点から、廃グリセリン溶液の有効活用の一手段としても有益な方法である。
【0014】
上述のように本実施形態の燃焼方法は、エネルギー源に対するコストメリットが高いため、得られたコストメリットを利用し、セルロース等を用いてバイエタノール用の糖化、発酵装置を稼働させ、バイオエタノールのトータル的な製造コストを削減することもできる。
【0015】
本実施形態の燃焼方法は、蒸解工程、エネルギー回収工程の他、必要に応じて、回収溶液からセルロースを分離する分離工程、回収溶液を循環させる循環工程、回収溶液を濃縮する濃縮工程、などを含んでいてもよい。
【0016】
<蒸解工程>
蒸解工程は、脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む原料溶液と木質原料とを蒸解し、セルロースと、グリセリンと、を含む回収溶液と、を得る工程である。蒸解工程は、脂肪酸ナトリウムとグリセリンとを含む原料溶液中で木質原料を高温・高圧下で蒸解し、アルカリ条件下で木質材料中のリグニン等を溶出させセルロースを取り出す工程である。
【0017】
(原料溶液)
原料溶液は、少なくとも脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む溶液であり、蒸解工程において木質原料と共に蒸解される。本実施形態の製造方法に用いることのできる原料溶液は、脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含むものであれば特に限定されることなく使用することができる。
【0018】
原料溶液としては、コスト面、及び、環境面の観点から、上述のように、例えば、バイオディーゼル(BDF)や、油脂工場、石鹸工場などで腐食油や植物油由来の副生物として得られ、脂肪酸ナトリウムを含む、廃グリセリン溶液を使用することができる。
【0019】
原料溶液中に含まれるグリセリンは、別途準備した脂肪酸ナトリウムと混合して用いてよいし、上述のように、脂肪酸ナトリウムを含む廃グリセリン溶液を用いてもよい。原料溶液中に含まれるグリセリンの含有量は特に限定はないが、発熱量の点から、例えば、原料溶液の全体に対して、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。原料溶液中のグリセリン含有量は、例えば、セルロースなどを分離した後の回収溶液中のグリセリン含有量を基準に調整してもよい。
【0020】
本実施形態の製造方法に用いることのできる脂肪酸ナトリウムとしては、特に限定はないが、炭素数12~18の脂肪酸ナトリウムが好ましい。脂肪酸ナトリウムの具体例としては、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、ヘキサン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、アラキジン酸ナトリウム、ベヘン酸ナトリウム、リグノセリン酸ナトリウムなどの飽和脂肪酸ナトリウムの他、オレイン酸ナトリウム、パクセン酸ナトリウム、リノレン酸ナトリウム、アラキドン酸ナトリウム、ベルノル酸ナトリウム、ドコサキサエン酸ナトリウム、エレオステアリン酸ナトリウム、エイコサペンタエン酸ナトリウム、プロスタグランジン酸ナトリウムなどの不飽和脂肪酸ナトリウムなどが挙げられる。また、原料溶液に含まれる脂肪酸ナトリウムは、1種を単独でもよいし、複数種含まれていてもよい。
【0021】
原料溶液中に含まれる脂肪酸ナトリウムの含有量は特に限定はないが、例えば、原料溶液の全体に対して、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。
【0022】
原料溶液は、脂肪酸ナトリウム及びグリセリン以外の成分として、例えば、水や上述のグリセリンの副生に伴うその他の不純物を含んでいてもよい。
【0023】
(蒸解条件)
本実施形態において蒸解工程は、蒸解釜等の中で行われる。蒸解条件は、特に限定されるものではなく目的に応じて適宜決定することができる。蒸解温度は、例えば、250℃以上が好ましい。
【0024】
(回収溶液)
回収溶液は、少なくとも、セルロースとグリセリンとを含む溶液であり、蒸解工程において原料溶液と木質原料とを蒸解した後に得られる溶液である。このため、回収溶液には、セルロースと共に、ヘミセルロースやリグニンが含まれていてもよい。その他、回収溶液には、脂肪酸ナトリウム残渣等の不純物が含まれていてもよい。回収溶液は、真空蒸発缶等を用いた濃縮工程を設け、エネルギー回収工程において燃焼される前に溶液中の水分量を所望な範囲に調整することができる。
【0025】
(分離工程)
本実施形態の燃焼方法は、必要に応じて、回収溶液からセルロースやヘミセルロース(パルプ)を分離する分離工程を含めることができる。分離工程において分離されたセルロース等は、例えば、セルロース繊維等を洗浄する洗浄工程や、パルプ中のごみ等の異物を分離除去する工程を経て、抄紙工程等などを含む製紙工程や、バイオエタノールの製造などに用いることができる。
【0026】
分離工程における回収溶液からのセルロース等の分離手段は特に限定はないが、例えば、固液分離に用いられるフィルターによる濾過や遠心分離など通常の手段を適宜用いることができる。
【0027】
(循環工程)
本実施形態の燃焼方法は、必要に応じて、回収溶液の少なくとも一部を回収して蒸解工程に供給する循環工程を含めることができる。循環工程は、蒸解工程で得られた回収溶液の少なくとも一部を回収し再び蒸解工程に供給して、回収要件を循環させる工程である。本実施形態の燃焼方法は、循環工程を含めることで、廃グリセリン溶液の供給源となる多様な樹種への対応や、セルロースの収率を高めることができる。
【0028】
例えば、一般に廃グリセリン溶液中のグリセリン含有量は約80~90質量%であることが期待され、その他は脂肪酸ナトリウムや他の不純物が含有されている。しかし、廃グリセリン溶液中のグリセリン含有量は必ずしも一定ではなく、供給源の樹種や廃グリセリン溶液の製造状況等によって差が生じることが多く、その特性上一定の品質の廃グリセリンを安定して供給することは容易ではない。また、蒸解工程における蒸解条件は廃グリセリン溶液中のグリセリンや脂肪酸ナトリウムの供給量をも考慮して適切に設定されるが、グリセリン等の供給量が一定ではない場合、例えば、原料溶液と木質原料とが十分に蒸解されない状況が想定される。一例としては、例えば、分離工程によってセルロースを回収する場合に、原料溶液と木質原料との蒸解が不十分な場合には回収溶液中のセルロース量が低減するなど、セルロースの収率の低減の原因となるおそれがある。
【0029】
以上から、循環工程においては、蒸解が不十分な木質材料を含む回収溶液の少なくとも一部を回収し、再び蒸解工程に供給することで、廃グリセリンの溶液の供給源について多様な樹種への対応が可能となり、更に、セルロースの収率を高めることができる。
【0030】
回収溶液を回収するタイミングは蒸解工程とエネルギー回収工程との間であれば特に限定はなく行うことができ、例えば、分離工程においてセルロースが分離された前記回収溶液の少なくとも一部を回収して前記蒸解工程に供給するように構成することができる。ただし、循環工程における回収溶液の回収は、他の溶液との混合を考慮し、後述する回収溶液タンクなどに収容される前であることが好ましい。循環工程における回収溶液の回収の例としては、例えば、蒸解工程と分離工程との間や、分離工程とエネルギー回収工程との間、分離工程後であって回収溶液タンクに収容される前、などが挙げられる。循環工程における回収溶液の回収の回数は制限なく、二回以上であってもよい、例えば、蒸解工程と分離工程との間と、分離工程後であって回収溶液タンクに収容される前と、を組み合わせて二回以上任意に回収溶液を回収する態様であってもよい。
【0031】
循環工程における回収溶液の蒸解工程への供給量(以下、“回収溶液の回収量”とも称する)は特に限定されるものではないが、例えば、循環工程は、回収溶液の蒸解状態に基づいて回収溶液の供給量を制御するように構成することができる。ここで、“回収溶液の蒸解状態”とは、蒸解工程において、蒸解が不十分な状態などが含まれる。回収溶液の蒸解状態は、回収溶液中の木質材料やセルロース含有量を基準に定量的判断することも可能である。回収溶液の蒸解状態の確認は、例えば、分離工程後における分離されたセルロース等を含む溶液中の木質材料量やこれに伴うリグニン量の測定などによって行うことができる。
【0032】
蒸解工程における蒸解が不十分な場合、分離工程において分離されたセルロース等を含む溶液中における木質材料やこれに伴うリグニンの含有量が増加する。このため、分離工程後における分離されたセルロース等を含む溶液中の木質材料量やこれに伴うリグニン量を測定することで、蒸解工程における蒸解が不十分であるか否かを判断することができる。
【0033】
回収溶液の蒸解状態を判断するに際し、木質材料、リグニンの量等は、特に限定されるものではないが、センサーや検量装置によって適時測定したり、予め該当する溶液をサンプルとして排出口から取り出し、これら溶液を別途計測することで測定することができる。循環工程は、これら測定値に基づき回収溶液の蒸解状態を判断し、当該状態に基づいて回収溶液の回収量を制御することができる。なお、回収溶液の回収量は、回収溶液の蒸解状態を適時測定し、当該結果に基づいて適時回収量を変更できるように調整してもよいし、廃グリセリン溶液毎に回収溶液のサンプルを回収して回収溶液の蒸解状態を確認して、予め回収溶液の回収量を設定しておく態様であってもよい。
【0034】
<エネルギー回収工程>
エネルギー回収工程は、蒸解工程によって得られた回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収する工程である。エネルギー回収装置としては、火炉を備えたボイラーが用いられる。ボイラーの火炉内に送られた回収溶液は、火炉中に供給され燃焼される。回収溶液中のグリセリン等の燃焼によって生じた蒸気の熱エネルギーは熱交換により配管中の蒸気や水に伝達され、当該熱交換によって発生した蒸気によってタービンを稼働させることで電気エネルギーとして回収される。
【0035】
《燃焼装置》
つぎに、図1を用いて本実施形態の燃焼方法を実施可能な燃焼装置の一例について説明する。図1に示すように本実施形態の製造装置は、脂肪酸ナトリウム及びグリセリンを含む原料溶液と木質原料とを蒸解し、セルロースとグリセリンとを含む回収溶液を得る蒸解装置と、前記蒸解装置によって得られた前記回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収するボイラーと、を備える。
【0036】
図1を用いて本実施形態の装置と、当該装置を用いた本実施形態の燃焼方法の流れについて説明する。図1は、本実施形態の燃焼装置の一態様を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の燃焼装置100は、木質原料投入ライン1と、廃グリセリン溶液投入ライン2と、蒸解装置3と、分離装置4と、回収溶液タンク5と、回収ボイラー6と、を備える。
【0037】
蒸解装置3は、図示を省略する蒸解釜が設置されている。蒸解装置3には、木質原料投入ライン1と廃グリセリン溶液投入ライン2とが連通されており、各々木質原料と、脂肪酸ナトリウムとグリセリンとを含む廃グリセリン溶液(原料溶液)とが蒸解装置3内に供給される。蒸解装置3内に供給された木質原料は廃グリセリン溶液中で蒸解され、リグニンの脱離によりセルロースとヘミセルロースとが分離される。蒸解装置3内で蒸解により抽出したセルロースやヘミセルロース及びリグニン等の木質原料由来の成分及びグリセリンは、回収溶液として蒸解装置3から排出される。蒸解釜及び蒸解装置3としては、クラフトパルプ法に用いられる既存の蒸解装置を用いることができる。
【0038】
蒸解装置3より排出された回収溶液は分離装置4に供給される。分離装置4は図示を省略する固液分離手段を備えており、分離装置4に供給された回収溶液中のセルロースやヘミセルロースが固液分離手段により回収溶液より取り除かれる。回収溶液から回収されたセルロース等は、分離装置4から排出され、抄紙工程やバイオエタノール製造工程等他の工程に送られる。
【0039】
一方、セルロースやヘミセルロースが取り除かれた後グリセリンやリグニンが主成分となった回収溶液は、分離装置4から排出された後、回収溶液タンク5にて一時貯留される。回収溶液タンク5に貯留された回収溶液は、回収ボイラー6へと供給される。回収ボイラー6へと供給される回収溶液量は図示を省略するバルブ等によって調整することができる。なお、分離装置4から排出された回収溶液は回収溶液タンク5に送られる前に濃縮装置を設け、当該装置内にて溶液内の水分量を調整してもよい。
【0040】
回収ボイラー6は、蒸解装置によって得られた回収溶液を火炉内で燃焼してエネルギーを回収する装置であり、火炉7と、噴霧ノズル8と、を備える。
【0041】
回収ボイラー6に供給されたグリセリンやリグニンを主成分とする回収溶液は、噴霧ノズル8により火炉7内にて噴霧され燃焼する。この際、火炉7の重力方向上側は高い酸素濃度とされており、回収溶液中のグリセリン等が酸化燃焼し、蒸気を発生する。火炉7内で発生した蒸気は火炉7の重力方向上方に設置されたチューブ内を流通する蒸気を加熱する。
【0042】
また、火炉7の重力方向下側は低酸素濃度とされており、回収溶液中の無機成分の還元燃焼により、スメルトとして火炉7内に堆積する。火炉7内の底部に堆積したスメルトは適宜火炉7外に排出される。
【0043】
つぎに、図2を用いて本実施形態の燃焼方法を実施可能な燃焼装置の他の例について説明する。図2は、本実施形態の燃焼装置の他の態様を示す模式図である。図2においては、図1における燃焼装置に、回収溶液の少なくとも一部を回収して蒸解装置に供給する循環装置を備えた態様が示されている。図2において図1と共通する部材については同一の図番号を付し、その説明を省略する。
【0044】
図2に示すように、本実施形態の燃焼装置200は、木質原料投入ライン1と、廃グリセリン溶液投入ライン2と、蒸解装置3と、分離装置4と、回収溶液タンク5と、回収ボイラー6と、循環ライン9と、循環ライン10と、制御装置11と、を備える。なお、図2においては、循環ラインを二つ有し、する態様について説明するが、本実施形態は当該態様に限定されるものではなく、一つ、又は、三つ以上の循環ラインを有する態様であってもよい。
【0045】
図1と同様に、蒸解装置3に、各々木質原料と、脂肪酸ナトリウムとグリセリンとを含む廃グリセリン溶液(原料溶液)とが供給されると、木質原料は廃グリセリン溶液中で蒸解され、リグニンの脱離によりセルロースとヘミセルロースとが分離される。蒸解装置3内で蒸解により抽出したセルロースやヘミセルロース及びリグニン等の木質原料由来の成分及びグリセリンは、回収溶液として蒸解装置3から排出される。
【0046】
蒸解装置3より排出された回収溶液は分離装置4に供給される前に循環ライン9と連通可能なように設置された三方弁V1を通過する。三方弁V1は制御装置11と電気的に連結されており、開度を調整することで、蒸解装置3より排出された回収溶液の少なくとも一部を循環ライン9に流入できるように構成されている。循環ライン9に流入された回収溶液は蒸解装置3に再び供給される。
【0047】
三方弁V1において循環ライン9に流入されなかった残りの回収溶液は分離装置4に供給される。分離装置4に供給された回収溶液は、溶液中のセルロースやヘミセルロースが固液分離手段により回収溶液より取り除かれる。回収溶液から回収されたセルロース等は、分離装置4から排出され、抄紙工程やバイオエタノール製造工程等他の工程に送られる。図示を省略するが、分離装置4の他の工程への排出側のラインには、例えば、回収されたセルロース等の溶液中の木質材料やこれに伴うリグニンを検出可能な装置を設置し、木質材料やこれに伴うリグニンの量を測定可能な構成としてもよいし、回収されたセルロース等の溶液のサンプルを回収可能な排出口を設けてもよい。
【0048】
分離装置4においてセルロースやヘミセルロースが取り除かれた後グリセリンやリグニンが主成分となった回収溶液は、分離装置4から排出された後、回収溶液タンク5にて一時貯留される。燃焼装置200は、分離装置4によってセルロースが分離された回収溶液の少なくとも一部を回収して蒸解装置3に供給する循環装置(循環ライン10)を備える。燃焼装置200においては、分離装置4と回収溶液タンク5との間に循環ライン10と連通可能なように設置された三方弁V2が設置されている。三方弁V2は制御装置11と電気的に連結されており、開度を調整することで、分離装置4より排出された回収溶液の少なくとも一部が循環ライン10に流入できるように構成されている。循環ライン10に流入された回収溶液は蒸解装置3に再び供給される。
【0049】
三方弁V2において循環ライン10に流入されなかった残りの回収溶液は回収溶液タンク5に供給される。回収溶液タンク5に貯留された回収溶液は、図1と同様に、回収ボイラー6へと供給され、火炉7内で燃焼されてエネルギーが回収される。なお、分離装置4から排出された回収溶液は回収溶液タンク5に送られる前に濃縮装置を設け、当該装置内にて溶液内の水分量を調整してもよい。
【0050】
図2で示されるように、燃焼装置200は、循環ライン9、循環ライン10、三方弁V1、三方弁V2で構成される循環装置を、回収溶液の蒸解状態に基づいて回収溶液の供給量を制御する制御装置11を備える。制御装置11は、図示しないCPUやメモリ、タイマなどを内蔵する。また、制御装置11には、三方弁V1及び三方弁V2が電気的に接続されており、制御装置11からの出力に応じて三方弁V1及び三方弁V2の開度を各々調整できるように構成されている。制御装置11は、三方弁V1及び三方弁V2駆動し開度を変更することで、循環ライン9及び循環ライン10に流入する回収溶液量を調整することができる。
【0051】
制御装置11は回収溶液の蒸解状態に基づいて回収溶液の回収量を制御することができる。特に限定さるものではないが、制御装置11による回収溶液の回収量の制御は、例えば、分離装置4から排出される分離されたセルロース等を含む溶液中の木質材料及びこれに伴うリグニン量などに基づき、回収溶液の蒸解が不十分でありセルロースの収率が低下していると判断した場合には、その程度に応じて、三方弁V1及び三方弁V2の開度を制御して、循環ライン9及び循環ライン10に流出される回収溶液の回収量を調整することができる。
【0052】
また、制御装置11による回収溶液の回収量の制御は上述のものに限定されず、採取した回収溶液を分析し、予め回収溶液の回収量を設定し、設定された回収量となるように三方弁V1及び三方弁V2の開度に固定しておく態様であってもよい。この際、例えば、全回収溶液の7割が循環して蒸解装置3に供給されるなど、全回収溶液の回収量を調整することができる。
【0053】
以上、本実施形態の燃焼方法及び燃焼装置について説明したが、本発明の構成は各実施形態に示された態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
100,200:燃焼装置、1:木質原料投入ライン、2:廃グリセリン溶液投入ライン、3:蒸解装置、4:分離装置、5:回収溶液タンク、6:回収ボイラー、7:火炉、8:噴霧ノズル、9,10:循環ライン、11:制御装置、V1,V2:三方弁
図1
図2