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特開2024-166076新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166076
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/024 20190101AFI20241121BHJP
   C12G 3/02 20190101ALI20241121BHJP
   C12H 1/065 20060101ALI20241121BHJP
   C12H 1/07 20060101ALI20241121BHJP
   C12N 1/16 20060101ALN20241121BHJP
【FI】
C12G3/024
C12G3/02
C12H1/065
C12H1/07
C12N1/16 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037981
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023080579
(32)【優先日】2023-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】000225142
【氏名又は名称】奈良県
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】上垣 浩一
(72)【発明者】
【氏名】倉田 淳志
(72)【発明者】
【氏名】大西 徹
(72)【発明者】
【氏名】木崎 健斗
(72)【発明者】
【氏名】松尾 啓史
【テーマコード(参考)】
4B065
4B115
4B128
【Fターム(参考)】
4B065AA80X
4B065BA21
4B065BB26
4B065BC03
4B065BD13
4B065BD29
4B065BD44
4B065CA42
4B115AG09
4B115AG17
4B115BA01
4B115BA09
4B128AC10
4B128AC12
4B128AG05
4B128AS06
(57)【要約】
【課題】生柿を酒類例えば果実酒にするには、野生酵母を加熱殺菌しようとすると渋戻が生じ、渋戻を抑制しようとすると、野生酵母を殺菌できず、刺激臭をともなった果実酒となる課題があった。
【解決手段】柿を前処理して柿ピューレを得る工程と、
前記柿ピューレの糖度を調節し糖度調整後の柿ピューレを得る工程と、
前記糖度調整後の柿ピューレにペクチナーゼを添加し原料液を得る工程と、
前記原料液に殺菌工程を行い殺菌後原料液を得る工程と、
前記殺菌後原料液に酵母を添加し、仕込み原液を得る工程と、
前記仕込み原液を発酵させて柿醪を得る工程を有し、
前記酵母はサッカロマイセスセレビシエ種である酵母ZYY1(受託番号:NITE P-03859)若しくは酵母KNK2(受託番号:NITE P-03860)の何れかである新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法は、野生酵母の繁殖を抑え、なおかつ渋戻も起こさない柿を用いた酒類を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柿を前処理して柿ピューレを得る工程と、
前記柿ピューレの糖度を調節し糖度調整後の柿ピューレを得る工程と、
前記糖度調整後の柿ピューレにペクチナーゼを添加し原料液を得る工程と、
前記原料液に殺菌工程を行い殺菌後原料液を得る工程と、
前記殺菌後原料液に酵母を添加し、仕込み原液を得る工程と、
前記仕込み原液を発酵させて柿醪を得る工程を有し、
前記酵母はサッカロマイセスセレビシエ種である酵母ZYY1(受託番号:NITE P-03859)若しくは酵母KNK2(受託番号:NITE P-03860)の何れかである新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法。
【請求項2】
前記殺菌処理の工程は、メタカリを投入し、その後クエン酸を添加する工程である請求項1に記載された新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法。
【請求項3】
前記仕込み原液を発酵させて柿醪を得る工程は、15℃±2℃の温度で発酵する工程である請求項2に記載された新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法。
【請求項4】
柿果実酒
前記酒類が果実酒であって、
前記柿醪を搾汁する工程をさらに有する請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載された新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法。
【請求項5】
前記果実酒の全量に対して5.0質量%以上、6.0質量%以下の上白糖を添加する工程を追加する請求項4に記載された新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
柿は季節性の果物で、収穫と消費期間が限られており、余剰な生柿や出荷できない生柿の有効利用が模索されている。
【0003】
柿は桃やリンゴのような特徴的な香りが少なく、加工品にした際に柿と認識されにくい。また、柿には一部の甘柿以外は一般に渋があり、糖度があるものの、渋抜きをしなければ食することができない。また、この渋は渋抜きをしても、加熱により渋戻があるので、加熱工程を有する加工品にできないという特徴がある。したがって、柿は干し柿若しくは柿酢といった加工品への応用がほとんどであった。そこで、柿を果実酒にすることで、生柿の有効利用を図るという提案があった。
【0004】
特許文献1には、渋柿を木になったままの状態で熟柿とし、かつ、木になったままの状態で自然凍結させる。または、渋柿を熟柿となる前に木から取って収穫し、-5℃以下-15℃以上の温度で冷凍する。次いで、渋柿のへたを取り、樽等の発酵容器に入れて発酵させたのち、布袋等のろ過材により、発酵容器内の発酵後物質を果肉と柿ワイン又は柿酢とに固液分離する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、柿を用いて柿ワインを製造する方法において、ゼラチンまたはアルブミンとコロイド状シリカゾルとを併用して柿果汁または柿ワインを処理することを特徴とする柿ワインの製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-002017号公報:特許第5652685号公報
【特許文献2】特開平6-90730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生柿の皮の表面には野生酵母が付着している。しかし、この野生酵母は、生柿の破砕液を加熱せずに醸造すると刺激的な酸味臭を発生させるという課題があった。一方、この野生酵母を殺菌するために生柿の破砕液を加熱すると、渋戻が生じるという課題があった。つまり、これらの課題はトレードオフの関係になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するために想到されたものであり、加熱殺菌は行わず、新たに発見した酵母を使い、柿風味の残る新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法を提供するものである。
【0009】
より具体的には、本発明に係る新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法は、
柿を前処理して柿ピューレを得る工程と、
前記柿ピューレの糖度を調節し糖度調整後の柿ピューレを得る工程と、
前記糖度調整後の柿ピューレにペクチナーゼを添加し原料液を得る工程と、
前記原料液に殺菌工程を行い殺菌後原料液を得る工程と、
前記殺菌後原料液に酵母を添加し、仕込み原液を得る工程と、
前記仕込み原液を発酵さて柿醪を得る工程を有し、
前記酵母はサッカロマイセスセレビシエ種である酵母ZYY1(受託番号:NITE P-03859)若しくは酵母KNK2(受託番号:NITE P-03860)の何れかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法では、パン酵母としてしられているサッカロマイセスセレビシエ種に属するジャスミン由来の酵母であるZYY1(受託番号:NITE P-03859)若しくは金木犀由来の酵母であるKNK2(受託番号:NITE P-03860)を発酵に用いる。これらの酵母を用いて作られた柿醪は、様々な種類の酒類の原料若しくは副原料として利用することができる。
【0011】
例えば、果実酒においては、通常のワイン製造工程で行われるメタカリと酸性度調整の工程を行っても、ワインらしい酸味・香りを有する柿果実酒を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明に係る新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法について実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0013】
本発明に係る新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法では、洗浄し、渋抜きをした生柿を用いる。渋抜きはアルコール法、湯抜き法、米ぬか法や二酸化炭素法等が好適に用いられる。熟し柿のように熟成が進みすぎると、傷みやすく多数をまとめて加工するのが容易でなくなる。また、富有柿といった甘柿を用いてもよい。
【0014】
生柿は柿ピューレにされる。柿ピューレとは、生柿を破砕し裏ごし半液体状にしたものである。
【0015】
柿ピューレには、糖度調整のためスクロースを添加する。スクロース添加後の柿ピューレは糖度調整後の柿ピューレと呼ぶ。糖度調整後の柿ピューレの糖度はBrix20~23程度になるのが望ましい。柿ピューレ全量に対しておよそ10質量%程度のスクロースの添加になる。
【0016】
糖度調整後の柿ピューレには、ペクチナーゼが所定量投入される。濁り防止のためである。最初の柿ピューレ全量に対して0.01~0.03質量%のペクチナーゼが好適である。その後室温で1時間程度静置する。これを原料液と呼ぶ。
【0017】
次に殺菌工程としてメタカリ(ピロ亜硫酸カリウム)を添加する。メタカリは原料液の50~300ppmの濃度で添加する。なお、ピロ亜硫酸カリウムに変えて、二酸化硫黄、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムなどを用いてもよい。
【0018】
次に再度の殺菌工程として酸を添加する。pHを下げるためである。メタカリを投入した原料液はおよそpH5.6程度であるが、これをpH4.0まで下げる。pH低下に用いる酸としては、クエン酸、乳酸、コハク酸などが好適に利用できる。このように殺菌工程は複数あってもよい。殺菌工程を経た原料液を殺菌後原料液と呼ぶ。
【0019】
発酵に用いる酵母は、あらかじめ培養しておき、3.0×10cfu/ml~7.0×10cfu/mlになるように殺菌後原料液に接種する。酵母が接種された殺菌後原料液を仕込み原液と呼ぶ。その後仕込み原液を13℃~17℃で静置し、Brixの低下が止まるまで発酵を行う。発酵させた仕込み原液を柿醪(かきもろみ)と呼ぶ。
【0020】
本発明に係る新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法では、上記の様にして得た柿醪を種々の酒類の原料若しくは副原料として用いることができる。なお、ここで、酒類とは、製造工程で醪を経るアルコール飲料を指すが、原料がその定義中に定められている酒類は除かれる。具体的には、清酒、みりん、ウイスキー、ワイン(原料をブドウに限る物)、ウォッカは、柿醪若しくは柿を用いた酒類を加えた時点で、雑酒となるからである。
【0021】
本明細書では、柿醪を主材料(50%以上含む)としたものを、柿果実酒等と呼び、他の材料による醪に柿醪を副材料(50%未満)追添したものを柿風味の果実酒等と呼ぶ。
【0022】
また、上記の柿醪を他の醪を合わせる場合は、醪同士を合わせた後、1時間以上の追発酵を行ってもよい。追発酵する際には13℃~17℃の温度で行うのが望ましい。
【0023】
<果実酒:醸造酒>
上記の柿醪を、ろ過や遠心分離などの固液分離処理を行うことで(固液分離工程と呼んでよい。)柿果実酒すなわち醸造酒を得ることができる。なお、柿果実酒に対して4.5質量%~6.5質量%の範囲で上白糖を添加し補糖を行ってもよい。これを補糖工程と呼ぶ。
【0024】
以上の工程により果実酒にしにくいといわれる柿であっても、飲みやすく美味しい柿果実酒を得ることができる。
【0025】
また、他の果実酒の製造工程において醪を作る際若しくは作った後に上記の柿醪を10%以上50%未満加える工程を加えて、その後搾汁する工程を行うことで、柿風味の果実酒とすることもできる。なお、醪を作った後に柿醪を追添する場合は、追発酵を行ってもよい。
【0026】
<柿ブランデー:蒸留酒>
上記の発酵した柿醪を搾汁し搾汁液を得る工程を行い上記の柿果実酒を得る。次に柿果実酒を蒸留する工程を加え、蒸留液を樽で熟成させることで柿ブランデーを得ることができる。柿の風味を残すには単式蒸留を行いアルコール度が20~30度ほどに調製する。次に蒸留液をさらに樽若しくはビンで寝かせる工程を行う。これらの工程によって、柿の風味の残る蒸留酒が得られる。なお、樽で寝かせれば柿ブランデー、ビンで寝かせれば柿焼酎と呼ぶ。
【0027】
また、柿以外の材料で製造される蒸留酒を製造する製造段階において、原料を酵母で発酵させ醪を作る工程で、柿醪を10%以上50%未満含めることで、柿風味の蒸留酒を得ることもできる。例えば、柿風味のイモ焼酎や泡盛を得ることができる。
【0028】
<柿ビール:発泡酒>
ビールは、以下の様に製造される。まず、大麦から麦芽を作り、麦、米、でんぷん、トウモロコシ、糖類等と温水を入れ糖化した後、ホップを入れて煮沸し麦汁を作る。この麦汁に酵母を加えて主発酵を行い、醪を作る。これは若ビールなどと呼ばれる。この醪を後発酵させ濾過することで生ビールができる。
【0029】
柿風味のビールは、主発酵で醪を作った段階で、別途製造しておいた柿醪を10%以上50%未満加えて後発酵し、濾過することで柿風味のビールを得ることができる。
【0030】
<混成酒>
混成酒は蒸留酒に果実やハーブなどで風味や香り付けをしたものに、甘味料や着色料の少なくともいずれか一方を加えたものである。本発明に係る新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法では、柿ブランデーは柿の風味を持っているので、柿ブランデーに甘味料や着色料を加えることで柿リキュール、すなわち混成酒を得ることができる。
【0031】
また、柿果実酒に他の蒸留酒(例えばウォッカ)を加えても混成酒とすることができる。これは、甘味果実酒と呼ばれる。つまり柿甘味果実酒若しくは柿風味の甘味果実酒である。なお、この場合の柿甘味果実酒は、他の蒸留酒が2~98度加えられる範囲のものをいう。
【実施例0032】
以下、本発明に係る新規酵母と柿を用いた酒類の製造方法について、柿果実酒の実施例および評価を示す。
【0033】
<酵母選択の試作>
飲用に耐えうる柿を用いた酒類を製造できる酵母を検討した。最終的に検討した酵母はワイン用の酵母として知られるEC1118、パン酵母として知られるSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセスセレビシエ)種の分離酵母であるZYY1(ジャスミンの花由来の酵母)、KNK2(金木犀の花由来の酵母)の3種とした。ZYY1およびKNK2は従来知られていない新規酵母である。これらの酵母は以下の方法で試作の柿果実酒にし、官能評価を得た。
【0034】
富有柿をブレンダーでピューレ状にし、200ml容量のマヨネーズ瓶3本に200mlずつ分注し、それぞれにペクチナーゼSS0.2%(w/v)・スクロース10gを(終濃度5%w/v)添加した。酵素(スクロース)添加後すぐに65℃で30min滅菌・酵素処理を行った。その後、発酵に必要な菌数5.0×10cfu/mlになるよう各酵母を添加した。その後15℃で8日間発酵させ柿醪を得た。柿醪は遠心分離して、上清を柿果実酒とした。
【0035】
次に官能評価を行った。官能評価者は20代の男女15名である。
【0036】
EC1118(ワイン用酵母)による柿果実酒は、辛口、さっぱりしすぎ、味がたんぱくであった。ただし、白ワインらしさはあり、シャンパンのような香りであった。一般的に醸造酒に用いられる酵母だが、柿果実酒としては複雑さに欠け好適とはいえなかった。
【0037】
KNK2(金木犀由来酵母:受託番号:NITE P-03860)による柿果実酒は、日本酒に近い味・香りで、酸味が弱く甘みが強かった。香りはクセがなくすっきりしたものであった。
【0038】
ZYY1(ジャスミン由来酵母:受託番号:NITE P-03859)による柿果実酒は、ワインらしい酸味・香りであった。また、酸味と甘みのバランスが良く、香りはクセがなくすっきりしていた。適度なボディ感・バランスで柿らしさを残していた。
【0039】
<柿果実酒の試作>
官能評価を行った結果、酵母ZYY1(受託番号:NITE P-03859)と酵母KNK2(受託番号:NITE P-03860)を用いて本発明の方法で柿果実酒を試作した。冷凍した富有柿のヘタを除去し、6~8等分した後破砕し、柿ピューレを得た。この柿ピューレ全量に対して10質量%のスクロースを添加し糖度調整後の柿ピューレを得た。このスクロースの添加で糖度調整後の柿ピューレは、Brix23の糖度になった。
【0040】
ペクチナーゼ(ラルザイムHC)を糖度調整後の柿ピューレに対して0.02質量%添加し、室温で1時間静置し、原料液を得た。
【0041】
次に原料液の100ppmの濃度になるようにメタカリを添加した。次にメタカリ添加後の原料液のpHが4.0になるまでクエン酸を添加した。クエン酸は、メタカリ添加後の原料液に対して1000ppmとなる量であった。
【0042】
なお、クエン酸の代わりにメタカリ添加後の原料液のpHが4.0になるまで乳酸を添加したものも作製した。乳酸は、メタカリ添加後の原料液に対して2000ppmとなる量であった。
【0043】
メタカリおよびクエン酸で殺菌工程を行ったものをクエン酸殺菌後原料液と呼び、メタカリおよび乳酸で殺菌工程を行ったものを乳酸殺菌後原料液と呼ぶ。これらは殺菌後原料液である。
【0044】
酵母KNK2(受託番号:NITE P-03860)および酵母ZYY1(受託番号:NITE P-03859)をクエン酸殺菌後原料液および乳酸殺菌後原料液にそれぞれ5.0×10cfu/mlになるように接種し仕込み原液を得た。これらの仕込み原液は15℃でBrixの低下が止まるまで発酵を行った。発酵で得られた醪をそれぞれ、KNK2クエン酸柿醪、KNK2乳酸柿醪、ZYY1クエン酸柿醪、ZYY1乳酸柿醪と呼ぶ。発酵終了後にろ過によって固液分離を行い、柿果実酒を得た。4種の柿醪から得た柿果実酒は、それぞれKNK2クエン酸柿果実酒、KNK2乳酸柿果実酒、ZYY1クエン酸柿果実酒、ZYY1乳酸柿果実酒と呼ぶ。
【0045】
以上の4種の柿果実酒について、グルコース濃度・Brix測定・アルコール度数分析・官能評価を行った。なお、各項目は以下のようにして測定した。
グルコース濃度:グルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて添付のマニュアルに従って分析した。
Brix測定:Brixメーターを用いて測定した。
アルコール度数分析:柿果実酒を35mlずつ取り、振動密度計を用いて、質量と容積から得られる液体密度からアルコール度数(%w/v)算出した。
【0046】
いずれの仕込み原液も発酵は正常に進行し、問題のない柿醪を得た。発酵が終了するまでに4週間~6週間ほどかかった。結果を表1から表3に示す。なお、各表では「柿果実酒」の文字は省略した。
【0047】
表1を参照して、醸造開始時のグルコース濃度はいずれの試料も約15%であったが、発酵終了時には何れの試料も0%であった。
【0048】
【表1】
【0049】
表2を参照して、醸造開始時の糖度はBrix23.2であったが、発酵終了時の糖度は何れの試料もBrix7.0~Brix7.2で一定になった。
【0050】
【表2】
【0051】
表3を参照して、アルコール濃度は、いずれの試料も13%~14%程度の濃度になった。
【0052】
【表3】
【0053】
次にこれら4種の柿果実酒の官能評価を行った。5人の官能評価者がそれぞれの柿果実酒の評価を行いまとめた結果である。
KNK2クエン酸柿果実酒:日本酒に近い味と香りであった。
ZYY1クエン酸柿果実酒:ワインらしい酸味と香りがあった。
KNK2乳酸柿果実酒:日本酒に近い味と香りであった。また、乳酸菌飲料のような酸味があった。
ZYY1乳酸柿果実酒:ワインらしい香りを有するものの、乳酸菌飲料のような酸味があった。
【0054】
いずれの柿果実酒もメタカリの発酵への大きな影響はなく、味の劣化もなかった。これは雑菌の繁殖が、メタカリおよび酸の添加による殺菌工程で抑制された効果であると考えられた。また、いずれの試料もBrix7.0程度の糖度であり、甘味は薄かった。
【0055】
以上の評価よりZYY1クエン酸柿果実酒およびKNK2クエン酸柿果実酒は、甘味が薄いとはいえ、柿果実酒として好適であると判断できた。ZYY1クエン酸柿果実酒およびKNK2クエン酸柿果実酒の製造手順を再度示す。なお、以下の(1)~(7)ではZYY1クエン酸柿果実酒の製造手順を示すが、手順中、「ZYY1」を「KNK2」に置き換えることで、KNK2クエン酸柿果実酒の製造手順となる。
【0056】
(1)冷凍した富有柿のヘタを取り6~8等分に切り、潰す(柿ピューレ)。
(2)発酵前のBrix23程度になるよう柿の全量に対し10質量%のスクロースを添加する(糖度調整後の柿ピューレ)。
(3)ペクチナーゼ(ラルザイムHC)を柿全量の0.02質量%添加し室温で1時間ほど静置する(原料液)。
(4)原料液の100ppmになるようメタカリを添加(メタカリ添加後の原料液)。
(5)原料液の1000ppmとなるようクエン酸を添加(クエン酸殺菌後原料液)。
(6)培養した酵母ZYY1(受託番号:NITE P-03859)を5.0×10cfu/mlになるようにクエン酸殺菌後原料液に接種し(ZYY1クエン酸柿仕込み原液)、15℃で4週間発酵を行う。
(7)発酵後得られたZYY1クエン酸柿醪を搾汁し柿果実酒(ZYY1クエン酸柿果実酒)を得る。
【0057】
<補糖>
4週間醸造後の柿果実酒は甘味が弱く、果実酒としての評価を下げることも懸念された。そこで醸造後の柿果実酒に上白糖を添加し甘味を調整し、官能評価により最適な添加量を検討した。
【0058】
<補糖量の検討>
酵母ZYY1(受託番号:NITE P-03859)で醸造後の柿果実酒の全量に対し0.5%、2.5%、5.5%、7.5%、10%(w/v)の上白糖を添加し、官能評価を行った。
【0059】
官能評価の結果は以下のようになった。
0.5%上白糖を添加 柿果実酒:甘さが足りずアルコール感や酸味が目立つ。
2.5%上白糖を添加 柿果実酒:少し甘さが足りない
5.5%上白糖を添加 柿果実酒:ちょうどいい甘さで酸味とのバランスがいい。
7.5%上白糖を添加 柿果実酒:少し甘すぎる
10%上白糖を添加 柿果実酒:甘すぎる
【0060】
以上のことより、補糖工程としては、およそ5.5質量%(4.5質量%以上、6.5質量%以下)の上白糖を添加するのが、好適であった。なお、この補糖工程により柿果実酒の糖度はBrix7.2からBrix12.3に上昇していた。
【0061】
補糖は酵母KNK2(受託番号:NITE P-03860)でも同様の効果を発揮し、およそ5.5質量%(5.0質量%以上、6.0質量%以下)の上白糖を添加するのが、好適であった。以上のように、酵母ZYY1(受託番号:NITE P-03859)および酵母KNK2(受託番号:NITE P-03860)を用いた上記(1)~(7)の手順若しくはこれに補糖工程を加えた手順で、好適な柿の果実酒(柿果実酒)を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、柿果実酒の品質は柿醪を製造した時点でほぼ決まると言える。したがって、この柿醪を利用することで他の種類の酒類を好適に得ることができる。
【受託番号】
【0063】
(1)
微生物の表示
識別の表示 ZYY1
受託番号 NITE P-03859
受託日
2023年3月17日
国内寄託当局
名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室
(2)
微生物の表示
識別の表示 KNK2
受託番号 NITE P-03860
受託日
2023年3月17日
国内寄託当局
名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室