(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024166079
(43)【公開日】2024-11-28
(54)【発明の名称】樹木健全度判定システム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20241121BHJP
G01N 21/3554 20140101ALI20241121BHJP
G01N 21/359 20140101ALI20241121BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20241121BHJP
G01N 33/46 20060101ALI20241121BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20241121BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G01N21/3554
G01N21/359
G01N21/27 A
G01N33/46
G01N33/483 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039135
(22)【出願日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2023081478
(32)【優先日】2023-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591146239
【氏名又は名称】いであ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】小原 一哉
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB20
2G045FA14
2G045FA19
2G045FA25
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB12
2G059CC09
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE11
2G059FF01
2G059FF04
2G059HH01
2G059HH02
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM03
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】樹木の健全度を簡便に判定可能な樹木健全度判定システムを提供する。
【解決手段】樹木健全度判定システム1は、樹木Tに近赤外線領域の波長を有する測定光を照射する照明部2と、測定光が樹木Tで反射した反射光を受光して近赤外線画像を撮像するカメラ3と、近赤外線画像に基づいて、樹木Tの水分に吸収される約1450nmの波長における反射光の反射強度を算出する算出部41と、予め記憶された反射強度と樹木Tの健全度との関係に基づいて、算出部41が算出した約1450nmの波長における反射強度から樹木Tの健全度を判定する判定部42と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木の健全度を判定する樹木健全度判定システムであって、
前記樹木に近赤外線領域の波長を有する測定光を照射する照明部と、
前記測定光が前記樹木で反射した反射光を受光して近赤外線画像を撮像するカメラと、
前記近赤外線画像に基づいて、前記樹木の水分に吸収される第1の波長における前記反射光の反射強度を算出する算出部と、
予め記憶された前記反射強度と前記樹木の健全度との関係に基づいて、前記算出部が算出した前記第1の波長における前記反射強度から前記樹木の健全度を判定する判定部と、
を備えている、ことを特徴とする樹木健全度判定システム。
【請求項2】
前記照明部は、前記樹木に可視光領域の波長を有する測定光を照射し、
前記カメラは、前記測定光が前記樹木で反射した反射光を受光して可視光画像を撮像し、
前記算出部は、前記可視光画像から前記樹木の樹皮表面に形成された凹部の位置座標を検出し、前記凹部の位置座標において前記第1の波長における前記反射強度を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の樹木健全度判定システム。
【請求項3】
前記算出部は、前記第1の波長と比べて前記樹木の水分に吸収されにくい第2、第3の波長における前記反射光の反射強度をそれぞれ算出し、前記近赤外線画像のうち前記第2、第3の波長における前記反射強度が略等しいエリアである測定エリアの位置座標を検出して、前記測定エリアにおいて前記第1の波長における前記反射強度を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の樹木健全度判定システム。
【請求項4】
前記判定部には、前記樹木の光合成が相対的に不活発な時期に取得された前記反射光の反射強度に基づき設定された第1の閾値が予め記憶され、
前記判定部は、前記樹木の光合成が相対的に活発な時期に取得された判定対象である前記樹木における前記反射光の反射強度が前記第1の閾値未満である場合に、前記樹木の健全度が高いと判定する、ことを特徴とする請求項1に記載の樹木健全度判定システム。
【請求項5】
前記判定部には、前記樹木の光合成が相対的に不活発な時期に取得された前記反射光の反射強度に基づき設定された第1の閾値が予め記憶され、
前記判定部は、前記樹木の光合成が相対的に活発な時期に取得された判定対象である前記樹木における前記反射光の反射強度が前記第1の閾値と略等しい場合に、前記樹木の健全度が低いと判定する、ことを特徴とする請求項1に記載の樹木健全度判定システム。
【請求項6】
前記判定部には、前記樹木の光合成が相対的に活発な時期に取得され、健全度が高い前記樹木の前記反射光の反射強度に基づき設定された第2の閾値が予め記憶され、
前記判定部は、判定対象である前記樹木における前記反射光の反射強度が前記第2の閾値と略等しい場合に、前記樹木の健全度が高いと判定する、ことを特徴とする請求項1に記載の樹木健全度判定システム。
【請求項7】
前記判定部には、前記樹木の光合成が相対的に不活発な時期に取得された前記反射光の反射強度に基づき設定された第1の閾値と、前記樹木の光合成が相対的に活発な時期に取得され、健全度が高い前記樹木の前記反射光の反射強度に基づき設定された第2の閾値と、が予め記憶され、
前記判定部は、判定対象である前記樹木における前記反射光の反射強度が、前記第1の閾値に近いほど健全度が低く、前記第2の閾値に近いほど健全度が高いと判定する、ことを特徴とする請求項1に記載の樹木健全度判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、街路樹等の樹木の健全度を判定する樹木健全度判定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹木医が樹木1本1本を定期的に植診する樹木診断が行われている。樹木診断には、樹木医が樹木毎に樹皮欠損、腐朽等の異常の有無を目視で調べる外観観察等が含まれる。
【0003】
しかしながら、このような樹木診断は、高い熟練度の診断医を必要とするため、将来的に人材不足や診断能力の低下が危ぶまれる。また、膨大な本数の樹木を定期的に診断するには、多大なコストを要する。さらに、樹木の健全性の低下は常に進行しているため、樹木診断を適時に実施する必要がある。
【0004】
このような樹木医による樹木診断に代えて、樹木の健全度を効率的に評価する方法として、特許文献1に示すように、樹種、土壌特性及び葉中養分毎に葉の分光特性を樹木の健全度と関連付けた健全度データベースを予め作成し、高解像度衛星画像を使用して樹木の葉の分光特性を読み取り、さらに、評価対象の樹木の土壌特性及び葉中養分データから健全度データベースを参照して、個々の樹木の健全度を評価するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の評価方法では、樹木が生育している土壌や樹木の葉を採集した上で、土壌の特性及び土壌の成分と密接に関連する葉中養分を事前に計測する必要があり、樹木の健全度評価に膨大な時間とコストを要する虞があった。
【0007】
そこで、樹木の健全度を簡便に判定するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明に係る樹木健全度判定システムは、樹木の健全度を判定する樹木健全度判定システムであって、前記樹木に近赤外線領域の波長を有する測定光を照射する照明部と、前記測定光が前記樹木で反射した反射光を受光して近赤外線画像を撮像するカメラと、前記近赤外線画像に基づいて、前記樹木の水分に吸収される第1の波長における前記反射光の反射強度を算出する算出部と、予め記憶された前記反射強度と前記樹木の健全度との関係に基づいて、前記算出部が算出した前記第1の波長における前記反射強度から前記樹木の健全度を判定する判定部と、を備えている。
【0009】
また、本発明に係る樹木健全度判定システムは、前記照明部が、前記樹木に可視光領域の波長を有する測定光を照射し、前記カメラが、前記測定光が前記樹木で反射した反射光を受光して可視光画像を撮像し、前記算出部が、前記可視光画像から前記樹木の樹皮表面に形成された凹部の位置座標を検出し、前記凹部の位置座標において前記第1の波長における前記反射強度を算出する、ことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る樹木健全度判定システムは、前記算出部が、前記第1の波長と比べて前記樹木の水分に吸収されにくい第2、第3の波長における前記反射光の反射強度をそれぞれ算出し、前記近赤外線画像のうち前記第2、第3の波長における前記反射強度が略等しいエリアである測定エリアの位置座標を検出して、前記測定エリアにおいて前記第1の波長における前記反射強度を算出する、ことが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る樹木健全度判定システムは、前記判定部には、前記樹木の光合成が相対的に不活発な時期に取得された前記反射光の反射強度に基づき設定された第1の閾値が予め記憶され、前記判定部が、前記樹木の光合成が相対的に活発な時期に取得された判定対象である前記樹木における前記反射光の反射強度が前記第1の閾値未満である場合に、前記樹木の健全度が高いと判定する、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る樹木健全度判定システムは、前記判定部には、前記樹木の光合成が相対的に不活発な時期に取得された前記反射光の反射強度に基づき設定された第1の閾値が予め記憶され、前記判定部が、前記樹木の光合成が相対的に活発な時期に取得された判定対象である前記樹木における前記反射光の反射強度が前記第1の閾値と略等しい場合に、前記樹木の健全度が低いと判定する、ことが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る樹木健全度判定システムは、前記判定部には、前記樹木の光合成が相対的に活発な時期に取得され、健全度が高い前記樹木の前記反射光の反射強度に基づき設定された第2の閾値が予め記憶され、前記判定部が、判定対象である前記樹木における前記反射光の反射強度が前記第2の閾値と略等しい場合に、前記樹木の健全度が高いと判定する、ことが好ましい
【0014】
また、本発明に係る樹木健全度判定システムは、前記判定部には、前記樹木の光合成が相対的に不活発な時期に取得された前記反射光の反射強度に基づき設定された第1の閾値と、前記樹木の光合成が相対的に活発な時期に取得され、健全度が高い前記樹木の前記反射光の反射強度に基づき設定された第2の閾値と、が予め記憶され、前記判定部は、判定対象である前記樹木における前記反射光の反射強度が、前記第1の閾値に近いほど健全度が低く、前記第2の閾値に近いほど健全度が高いと判定する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、従来の樹木診断のように高い熟練度の診断医を必要とせず、樹木の健全度を簡便に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る樹木健全度判定システムの構成を示す模式図である。
【
図2】樹木の樹幹裏側の水分量に比例して吸光量が増大する様子を示す模式図である。
【
図3】(a)は、実験例1において、第1グループに属するサクラのうち「不健全木」と診断されたサクラの樹幹を写した近赤外線画像である。(b)は、実験例1において、第1グループに属するサクラのうち「健全木」と診断されたサクラの樹幹を写した近赤外線画像である。
【
図4】(a)は、実験例1において、第2グループに属するサクラのうち「不健全木」と診断されたサクラの樹幹を写した近赤外線画像である。(b)、(c)は、実験例1において、第2グループに属するサクラのうち「健全木」と診断されたサクラの樹幹を写した近赤外線画像である。
【
図5】(a)は、実験例1において、「不健全木」と診断されたコナラの樹幹を写した近赤外線画像である。(b)は、実験例1において、「健全木」と診断されたコナラの樹幹を写した近赤外線画像である。
【
図6】(a)は、実験例1において、「不健全木」と診断されたケヤキの樹幹を写した近赤外線画像である。(b)は、実験例1において、「健全木」と診断されたケヤキの樹幹を写した近赤外線画像である。
【
図7】実験例1において、樹木毎の近赤外線画像における反射光の反射強度の平均値を示すグラフである。
【
図8】実験例2において、樹木医による樹木の活力度判定の結果を示す表である。
【
図9】実験例2において、危険木及び健全木の反射光の反射強度の平均値及びバランス比を示すグラフである。
【
図10】実験例2において、危険木及び健全木のバランス指標及びバランス比等を示す表である。
【
図11】実験例3のケース1における約1100nmの波長の近赤外線画像である。
【
図12】実験例3のケース1における約1450nmの波長の近赤外線画像である。
【
図13】実験例3のケース2における約1100nmの波長の近赤外線画像である。
【
図14】実験例3のケース2における約1450nmの波長の近赤外線画像である。
【
図15】実験例3のケース3において、1000nm、1100nmの波長の反射強度の比を示す画像である。
【
図16】実験例3のケース1、2において、被写体の測定エリア内の約900~1700nmの波長帯の反射光の反射強度を示すグラフである。
【
図17】実験例3のケース3、4において、被写体の測定エリア内の約900~1700nmの波長帯の反射光の反射強度を示すグラフである。
【
図18】実験例3のケース1~4において、反射強度の差を示すグラフである。
【
図19】実験例4において、冬季に計測した樹種別の近赤外線画像の平均反射強度を示す表である。
【
図20】
図19における樹木の平均反射強度を示すグラフである。
【
図21】(a)~(c)は、実験例1において、「健全木」であるケヤキの樹幹を夏季に撮影した近赤外線画像であり、(d)は、「不健全木」であるケヤキの樹幹を夏季に撮影した近赤外線画像である。
【
図22】実験例1において、
図21に示す「健全木」であるケヤキ3本の近赤外線画像の平均反射強度、及び実験例4においてケヤキが属する樹種グループG1の第1の閾値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0018】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0019】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0020】
図1(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る樹木健全度判定システム1の構成を示す模式図である。本実施形態に係る樹木健全度判定システム1は、照明部2と、カメラ3と、を備えている。
【0021】
照明部2は、街路樹等の樹木Tに向けて測定光を照射する。測定光は、可視光領域の波長(約400~800nm)及び近赤外線領域の波長(約1000~1500nm)を有する。照明部2は、例えばハロゲンランプ等である。なお、照明部2は、可視光領域の波長を有する測定光を照射するものと、近赤外線領域の波長を有する測定光を照射するものとに分割されても構わない。照明部2は、樹木Tに対して約1m離れた位置に配置されている。なお、樹木Tから照明部2までの距離は、任意に調整可能である。
【0022】
カメラ3は、例えば近赤外線波長域に感度をもつSWIRカメラを備えている。カメラ3は、測定光が樹木Tで反射した近赤外線領域の波長を有する反射光を受光して、近赤外線画像を撮像する。カメラ3による撮像は、太陽光由来の反射光が近赤外線画像に写り込むことを防止するために、夜間に行うが好ましい。また、カメラ3による撮像は、樹皮表面や葉が降雨で湿潤されることを防止するために、晴天時に行うのが好ましい。
【0023】
また、カメラ3は、近赤外線画像の撮影と同時に、測定光が樹木Tで反射した可視光領域の波長を有する反射光を受光して、樹木Tの樹幹表面等を写した可視光画像を撮像する。なお、カメラ3は、近赤外線画像を撮像するものと、可視光画像を撮像するものとに分割されても構わない。
【0024】
カメラ3は、樹木Tに対して約1m離れた位置に配置されている。また、カメラ3の地上高は、例えば、約0.9mに設定される。さらに、照明部2から照射された測定光の光路と樹木Tで反射したカメラ3に入射する反射光の光路とが成す反射角度は、約45度に設定されている。なお、樹木Tからカメラ3までの距離、カメラ3の地上高及び反射光の反射角度は、任意に調整可能である。
【0025】
樹木健全度判定システム1の動作は、コントローラ4によって制御される。コントローラ4は、樹木健全度判定システム1を構成する構成要素をそれぞれ制御するものである。コントローラ4は、例えば、CPU、メモリ等により構成される。なお、コントローラ4の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作することにより実現されても良い。コントローラ4は、算出部41と、判定部42と、を備えている。
【0026】
算出部41は、カメラ3が撮像した近赤外線画像に基づいて、樹木Tの水分による吸収が顕著な第1の波長(例えば、約1450nm)における反射光の反射強度を算出する。
図2に示すように、樹木Tの樹皮裏には、根から樹木T全体へ送られる地中から吸い上げられた水分である導管液及び葉で生成された栄養分である篩管液から成る水分が存在するところ、照明部2から照射された第1の波長の測定光は、樹皮裏の水分量に比例して吸光量が増大する。すなわち、樹皮裏の水分量が多く、樹木Tの湿潤度が高い場合には、第1の波長の測定光の多くが吸光されて、近赤外線画像では、より黒く(光量が少なく)写る。一方、樹皮裏の水分量が少なく、樹木Tの湿潤度が低い場合には、第1の波長の測定光の多くが反射して、近赤外線画像では、より白く(光量が多く)写る。
【0027】
算出部41が算出する反射光の反射強度は、近赤外線画像に写り込んだ樹木T全体の反射強度の平均値であっても構わないし、近赤外線画像に写り込んだ樹木Tの任意の領域における局所的な反射強度であっても構わない。
【0028】
近赤外線画像における樹木Tの任意の領域とは、例えば、算出部41が可視光画像から抽出する樹木Tの樹皮表面に形成された凹部である。これにより、樹皮表面にコルク化して乾燥した凸部と含有水分量が多い凹部が形成される樹種の場合、凸部を反射強度の算出から排除し、凹部において反射強度を算出することにより、樹木の実際の水分量を正確に把握することができる。
【0029】
または、算出部41が、近赤外線画像に写り込んだ樹木T全体に対して、第1の波長と比べて樹木Tの水分による吸収がほとんど生じない第2の波長(例えば、約1000nm)及び第3の波長(例えば、約1100nm)における反射光の反射強度をそれぞれ算出し、樹木Tのうち第2、第3の波長における反射光の反射強度が略等しい領域として抽出した測定エリアを、近赤外線画像における樹木Tの任意の領域に設定しても構わない。これにより、光の反射や散乱(乱反射)に起因するノイズが排除されることにより、信頼性が高い第1の波長における反射強度を得ることができる。
【0030】
判定部42は、予め実験等により取得して記憶された、反射光の反射強度と樹木Tの健全度との関係に基づいて、算出部41が算出した第1の波長における反射強度から樹木Tの健全度を判定する。
【0031】
具体的には、樹木Tが光合成を行う際、二酸化炭素を融解吸収するための水分が樹木Tの根から導管を通じて葉に供給される必要があり、樹皮又は葉裏の水分が多く湿潤度が高い樹木Tは、光合成と呼吸を活発に行い成長すると推定される。そこで、例えば、判定部42は、樹種や測定条件に応じて設定された反射光の反射強度の閾値に基づいて、算出部41が算出した近赤外線画像における反射強度が閾値より低く黒く写る樹木Tを、生き生きとして健全度が高いと判定し、算出部41が算出した近赤外線画像における反射強度が閾値より高く白く写る樹木Tを、根の衰退が進行する等して光合成や呼吸が十分に行われておらず健全度が低いと判定する。または、判定部42は、算出部41が複数の樹木Tについてそれぞれ算出した第1の波長における反射強度を比較して、複数の樹木Tにおける健全度の優劣を相対的に判定しても構わない。
【0032】
なお、照明部2、カメラ3及びコントローラ4は、車両等に搭載されて、樹木Tに対して相対的に移動しながら、カメラ3による近赤外線画像及び可視光画像の撮像を行っても構わない。これにより、街路樹のように複数の樹木Tが道路に沿って間隔を空けて植えられている場合、複数の樹木Tの撮像を効率的に行うことができる。
【0033】
このようにして、本実施形態に係る樹木健全度判定システム1は、樹木Tの健全度を判定する樹木健全度判定システム1であって、樹木Tに近赤外線領域の波長を有する測定光を照射する照明部2と、測定光が樹木Tで反射した反射光を受光して近赤外線画像を撮像するカメラ3と、近赤外線画像に基づいて、樹木Tの水分に吸収される第1の波長における反射光の反射強度を算出する算出部41と、予め記憶された反射強度と樹木Tの健全度との関係に基づいて、算出部41が算出した第1の波長における反射強度から樹木Tの健全度を判定する判定部42と、を備えている構成とした。
【0034】
このような構成により、従来の樹木診断のように高い熟練度の診断医を必要とせず、樹木の生理的な健全度を適時且つ簡便に低コストで判定することができる。
【実施例0035】
<実験例1>
サクラ、ケヤキ又はコナラに対する、樹木健全度判定システム1を用いた樹木の健全度判定と従来の樹木医による樹木診断との比較実験について説明する。
【0036】
・実験手順
まず、サクラ、ケヤキ又はコナラの樹木に対して従来の樹木医による樹木診断を行い、樹木医による樹木診断において「健全木」と診断された樹木及び「不健全木」と診断された樹木を選定した。なお、本実験において、「健全木」と診断された樹木は、「不健全木」と診断された樹木に近接するものを選定した。なお、「不健全木」とは、「街路樹診断等マニュアル(東京都建設局)」に準拠した街路樹診断の健全度判定でB2判定(著しい被害が見られる)を受けた樹木を意味し、「健全木」とは、A判定(健全か健全に近い)又はB1判定(注意すべき被害が見られる)を受けた樹木を意味する。
【0037】
次に、晴天の夜間にハロゲンランプを用いて、「健全木」又は「不健全木」と診断された樹木に向けて測定光を照射し、カメラ3を用いて、樹木からの反射光を受光して約1450nmの波長における近赤外線画像を撮像した。なお、カメラ3には、バンドパスフィルターを設け、カメラ3が、バンドパスフィルターを透過した約1450nmの波長に対応した近赤外線画像を撮像した。続いて、算出部41が、各近赤外線画像に写った樹木全体の反射光の反射強度の平均値を算出した。
【0038】
・実験結果
図3(a)は、第1グループに属するサクラ(以下、「サクラ1群」という)のうち、樹木診断により「不健全木」と診断されたサクラ1群の樹幹を写した近赤外線画像であり、
図3(b)は、樹木診断により「健全木」と診断されたサクラ1群の樹幹を写した近赤外線画像である。
図4(a)は、第2グループに属するサクラ(以下、「サクラ2群」という)のうち、樹木診断により「不健全木」と診断されたサクラ2群の樹幹を写した近赤外線画像であり、
図4(b)、(c)は、樹木診断により「健全木」と診断されたサクラ2群の樹幹を写した近赤外線画像である。
図5(a)は、樹木診断により「不健全木」と診断されたコナラの樹幹を写した近赤外線画像であり、
図5(b)は、樹木診断により「健全木」と診断されたコナラの樹幹を写した近赤外線画像である。
図6(a)は、樹木診断により「不健全木」と診断されたケヤキの樹幹を写した近赤外線画像であり、
図6(b)は、樹木診断により「健全木」と診断されたケヤキの樹幹を写した近赤外線画像である。また、
図7は、各近赤外線画像における反射光の反射強度の平均値を示すグラフである。なお、本実験では、SWIRカメラが撮像した画像を256階調に分け、黒色を反射強度0として、白色を反射強度256とした。
【0039】
図7によれば、サクラ1群、サクラ2群及びケヤキにおいて、「健全木」の反射強度が「不健全木」の反射強度より低いことが分かる。すなわち、サクラ及びケヤキ等の樹種においては、予め実験等によって得られた「不健全木」に対応した反射光の反射強度の平均値の閾値(例えば、サクラ:75、ケヤキ:60)を設定し、カメラ3が撮像した近赤外線画像における樹木の反射強度の平均値が、閾値を超えた場合には、樹木が不健全であると判定し、閾値以下である場合には、樹木が健全であると判定可能である。
【0040】
一方、コナラにおいて、「健全木」の反射強度が「不健全木」の反射強度より高いことが分かる。
【0041】
これは、コナラ、クヌギ、クリ又はイチョウ等の樹種は、健全度が高い樹木ほど古い篩部が周皮に変わり、古い周皮は樹皮となり、年輪成長に伴って亀裂が生じて樹皮表面に凹凸が形成される。そして、樹皮表面のうち大面積を占める凸部は、古周皮であって水分補給が絶たれ、コルク化して乾燥が進んでいるのに対し、凹部には、新しく形成された周皮の皮層が形成され、含有水分量が多いため、樹木全体の反射光の反射強度の平均値では、樹木の実際の健全度が正確に把握できない。
【0042】
そこで、コナラ、クヌギ、クリ又はイチョウ等の樹種では、算出部41が、カメラ3が撮像した可視光画像から凹部の位置座標を検出し、近赤外線画像において凹部における反射光の反射強度を算出し、予め実験等によって得られた「不健全木」に対応した反射光の反射強度の平均値の閾値を設定し、カメラ3が撮像した近赤外線画像における樹木の凹部の反射強度の平均値が、閾値を超えた場合には、樹木が不健全であると判定し、閾値以下である場合には、樹木が健全であると判定可能である。
【0043】
<実験例2>
ケヤキに対する、樹木健全度判定システム1を用いた樹木の健全度判定と従来の樹木医による樹木診断との比較実験について説明する。
【0044】
・実験手順
まず、互いに近接するケヤキの樹木5本を選定し、これらに対して従来の樹木医による樹木診断を行った。
【0045】
次に、晴天の夜間にハロゲンランプを用いて、各樹木に向けて測定光を照射し、カメラ3としてのSWIRカメラが、樹木からの反射光を受光して約1450nmの波長における近赤外線画像を撮像した。続いて、算出部41が、各近赤外線画像に写った樹木全体の反射光の反射強度の平均値を算出した。
【0046】
また、樹木の栄養分を得るための光合成と樹体の大きさのバランスを評価するために、樹冠投影面積を材積で除したバランス指標及びバランス指標の逆数に100を乗じたバランス比を用いた。樹冠投影面積は、測定者が樹木の樹冠を見上げて樹幹から8方向で最も枝が伸びている樹冠の縁を決め、樹幹から樹冠の縁までの距離を8方向巻き尺で計測して、レーダーチャートにより樹冠の投影面積を算出することにより得られ、材積は、地上高1.2mにおける樹幹外周から樹幹の半径を推定して算出される。バランス比が大きい樹木は、樹木の樹体に見合った光合成量や栄養分が補給できておらず、健全度が低下していると推定される。
【0047】
・実験結果
樹木医による「東京樹木医会の樹木調査票」を用いた樹木の活力度判定の結果を
図8に示す。「危険木」と診断された樹木は、活力度1.09で活力度区分2の「やや不良」と診断された。また、「健全木」と診断された樹木4本(健全木1~4)は、活力度0.45~0.55で活力度区分1の「良」と診断された。なお、「危険木」のみがB2判定を受けているのは、実験例1で説明した従前の街路樹診断の健全度判定と同様である。
【0048】
図9は、樹木5本の各近赤外線画像における反射光の反射強度の平均値及びバランス比を示すグラフである。なお、本実験の反射強度では、実験例2と同様に、黒色を反射強度0として、白色を反射強度256とした。
図10は、危険木及び健全木1~4のバランス指標及びバランス比等を示す表である。
図9によれば、危険木及び健全木1~4では、反射強度及びバランス比の傾向が同等であることが分かる。また、反射強度に着目すると、健全木1の樹皮が最も乾燥度が高く、バランス比に着目すると、健全木1の樹体維持に求められる光合成能力が他の樹木と比較して劣っていることが分かる。
【0049】
図8、
図9によれば、健全木1が危険木より健全度が低く、実験例1で説明した従前の街路樹診断の結果や樹木医による樹木診断結果と一致しないことが分かる。これは、従来のような街路樹診断の健全度判定では、主要な枝の強剪定によって樹木に腐朽痕が生じている、樹皮の状態が悪い、材質腐朽が確認される、樹幹に損傷が認められる、又は剪定後の巻き込み状態が悪い等の理由により、極端に健全度が低く診断されることに起因すると考えられる。しかしながら、強剪定に伴う腐朽痕の有無と健全度の相関性はほとんどないため、反射光の反射強度による健全度判定は、樹木の樹幹裏側の水分量に着目することにより樹木の実態を精度良く評価しているためと推測される。
【0050】
<実験例3>
近赤外線画像から反射光の反射強度を精度良く算出する手法の検証実験について説明する。
【0051】
・実験手順(ケース1)
近赤外線500W照明2灯、SWIRカメラ(例えば、RESONON社製 Pika NIR―640)を用意し、被写体で反射した約900~1700nmの波長帯の反射光に基づいて、被写体全面の平均反射強度を計測した。被写体として、板状に切り出されたヒノキのブロックを2枚用意し、一方を乾燥させ、他方を湿らせた。また、被写体の表面をラップで覆って、照明熱に伴ってブロック表面が乾燥して湿潤度が変化することを抑制した。そして、被写体の被照射面の垂線に対する測定光の角度(入射角)を約30度、被写体とSWIRカメラとの距離を約1mに設定した。
図11に、約1100nmの波長における近赤外線画像を示し、
図12に、約1450nmの波長の近赤外線画像を示す。なお、各画像中の破線で囲まれた範囲は、平均反射強度を評価したエリアを示す。
【0052】
・実験手順(ケース2)
ケース1と同様の照明、SWIRカメラ、被写体を用意し、測定光の入射角を約60度、被写体とSWIRカメラとの距離を約1mに設定して、被写体で反射した約900~1700nmの波長帯の反射光に基づいて、被写体全面の平均反射強度を計測した。
図13に、約1100nmの波長における近赤外線画像を示し、
図14に、約1450nmの波長の近赤外線画像を示す。なお、各画像中の破線で囲まれた範囲は、平均反射強度を評価したエリアを示す。
【0053】
・実験手順(ケース3)
ケース1と同様の照明、SWIRカメラ、被写体を用意し、ケース1と同様の測定光の入射角及び被写体とSWIRカメラとの距離に設定した。そして、算出部41が、SWIRカメラが撮像した約1000nm、約1100nmの各波長における近赤外線画像において反射強度が略一定の領域(測定エリア)の座標を抽出した。続いて、SWIRカメラは、被写体の測定エリアで反射した約900~1700nm波長帯の反射光の反射強度を計測した。
図15に、乾燥状態及び湿潤状態の被写体における約1000nm、約1100nmの各波長の反射強度の比(バンドレシオ)を示す画像を示す。なお、
図15の画像では、波長変化に応じた反射強度の変化がない領域を白色で示しており、各画像中の実線で囲まれた範囲は、測定エリアを示し、各画像中の破線で囲まれた範囲は、反射強度が特に大きく変動した領域を示す。
【0054】
・実験手順(ケース4)
ケース2と同様の照明、SWIRカメラ、被写体を用意し、ケース2と同様の測定光の入射角及び被写体とSWIRカメラとの距離に設定した。また、ケース3と同様に、算出部41が、SWIRカメラが撮像した約1000nm、約1100nmの各波長における近赤外線画像において反射強度が略一定の領域(測定エリア)の座標を抽出し、SWIRカメラが、被写体の測定エリアで反射した約900~1700nm波長帯の反射光の反射強度を計測した。
【0055】
・実験結果
図16は、ケース1、2において、被写体全面での約900~1700nmの波長帯の反射光の平均反射強度を示すグラフである。また、
図17は、ケース3、4において、測定エリア内の約900~1700nmの波長帯の反射光の反射強度を示すグラフである。なお、本実験では、反射強度をSWIRカメラの計測値(最大値:約65535)とした。
【0056】
図16によれば、水分に吸光される約1450nmの波長において、湿潤度の高低に応じた反射強度の変化が検出されていることが分かる。一方、水分に吸光されない約1100nmの波長において、本来であれば湿潤度の高低にかかわらず反射強度が略一定に保たれるべきであるが、反射強度が変化していることが分かる。
【0057】
このような本来は生じないはずの反射強度の変化(ノイズ)は、被写体に対する測定光の入射角、SWIRカメラに対する反射光の入射角、被写体からSWIRカメラまでの距離又は被写体を覆うラップのたわみ等に起因する光の反射や散乱(乱反射)に起因するものと推測される。そして、このようなノイズは、街路樹を撮影する場合であっても同様に、照明やカメラ側の条件(位置、入射・反射角度、照度等)又は被写体側の条件(樹皮状態、樹幹形状等)に応じて生じることが推測される。
【0058】
一方、
図17によれば、ケース3、4では、約1100nm以下の波長帯全域において、湿潤度の高低にかかわらず反射強度が同等であり、上述した光の反射や散乱(乱反射)に起因するノイズが補正されていることから、水分に吸光される波長1450nmにおける湿潤度の高低に応じた反射強度の検出結果の信頼性が高いことが推測される。
【0059】
また、
図18に示すように、ケース1における約1450nmの波長における湿潤度の異なる被写体の反射強度(乾燥:5330、湿潤:1693)の差が3637であり、ケース2における約1450nmの波長における湿潤度の異なる被写体の反射強度(乾燥:7247、湿潤:3359)の差が3888であったのに対し、ケース3における約1450nmの波長における湿潤度の異なる被写体の反射強度(乾燥:5644、湿潤:1883)の差が3760であり、ケース4における約1450nmの波長における湿潤度の異なる被写体の反射強度(乾燥:7876、湿潤:4069)の差が3807であることから、ケース3、4では、ケース1、2に比べて、入射角や距離が異なる2つのケース間であっても反射強度の差が縮小されていることが分かる。これにより、被写体内の測定エリアにおける約1450nmの波長の反射光の反射強度を用いることにより、様々な樹皮状態又は樹幹形状が混在する樹木群であっても精度良く健全度を判定できることが分かる。
【0060】
<実験例4>
冬季に取得した反射光の反射強度に基づき設定された閾値(第1の閾値)を用いて、夏季に樹木の健全度を判定する手法の検証実験について説明する。
【0061】
・実験手順
まず、本実験では、樹木を樹種に応じて以下の6グループに区分した。
(1)グループ1(G1):外樹皮が薄く、特に冬季のように外気が乾燥した状態において外樹皮の保水性が低く外樹皮表面が乾燥しやすいと考えられる、ケヤキ、ムクノキ等の落葉広葉樹。
(2)グループ2(G2):外樹皮が厚く、特に冬季のように外気が乾燥した状態において外樹皮の保水性が高く外樹皮表面が乾燥しにくいと考えられる、アキニレ、エノキ、ソメイヨシノ等の落葉広葉樹。
(3)グループ3(G3):外樹皮の厚みがG1、G2に属する落葉広葉樹の略中間に属する、ユリノキ、カキノキ、コナラ、イチョウ等の落葉広葉樹。
(4)グループ4(G4):シラカシ、スダジイ等の常緑広葉樹であって、幹の太さに準ずる太い枝が剪定される等して葉量が少ないもの。なお、グループ4の外樹皮厚は、グループ3に相当する。
(5)グループ5(G5):シラカシ、スダジイ等の常緑広葉樹であって、幹の太さに準ずる太い枝が剪定されておらず葉量が多いもの。なお、グループ5の外樹皮厚は、グループ3に相当する。
(6)グループ6(G6):サワラ等の常緑針葉樹。
【0062】
次に、近赤外線36V45W照明2灯(例えば、KLS社製 HySiL1500―2)、SWIRカメラ(例えば、ビジョンセンシング社製 NIR640SN)を用意し、被写体の被照射面の垂線に対する測定光の角度(入射角)を約0度、被写体とSWIRカメラとの距離を約1mに設定した。そして、グループ1~6について、樹木の光合成が相対的に不活発な時期(冬季)において、被写体(樹木)で反射した約1450nmの波長帯の反射光に基づいて、被写体全体の反射強度の計測を行った。
【0063】
・実験結果
図19は、冬季に計測した樹種別の約1450nmの波長における近赤外線画像の平均反射強度を示す表である。なお、
図19中の平均反射強度とは、樹木に対して一方向から反射強度を計測した場合にあっては、その値を意味し、樹木に対して複数の方向から反射強度を計測した場合にあっては、それらの平均値を意味する。
図20に、
図19に記載された樹種別の平均反射強度を示すグラフである。
図21(a)~(c)は、実験例1で健全木と診断されたケヤキ3本の各樹幹を、樹木の光合成が相対的に活発な時期(夏季)に撮影した約1450nmの波長の近赤外線画像であり、(d)は、実験例1で不健全木と診断されたケヤキの樹幹を夏季に撮影した近赤外線画像である。
図22は、
図21に示すケヤキ3本の各近赤外線画像の平均反射強度及びケヤキが属する樹種グループG1の後述の第1閾値を示すグラフである。なお、本実験では、反射強度をSWIRカメラの計測値(最大値:約65535)とした。
【0064】
図19、
図20によれば、冬季に計測された反射強度は、同一樹種間では健全度が低い不健全木と健全度が高い健全木との間で大きな差異がないことが分かる。これは、冬季は、太陽光のエネルギーが弱く、さらに落葉樹は葉が落ち、樹木の健全度にかかわらず、光合成が不活発で樹皮湿潤度が低いためと推測される。そこで、冬季に計測された反射強度が、休眠状態の樹木に対応しているとみなして、グループ1~6毎に冬季に計測された反射強度に基づいて健全度判定に用いる第1の閾値を設定した。なお、「休眠状態」とは、冬季間中のように、落葉もしくは日射エネルギーの低下等に起因して、光合成量や根からの水分吸収量が必要最小限となり、成長活動の活発さが低下している状態をいう。
【0065】
具体的には、グループ1内の反射強度が約30000程度であり、±10%程度は有意差でないと仮定して、グループ1の第1の閾値を28000に設定した。同様に、グループ2内の反射強度が約20000程度であるから、グループ2の第1の閾値を18000に設定し、グループ3内の反射強度が約25000程度であるから、グループ3の第1の閾値を23000に設定し、グループ4内の反射強度が約23000程度であるから、グループ4の第1の閾値を22000に設定し、グループ5内の反射強度が約16000程度であるから、グループ5の第1の閾値を15000に設定し、グループ6内の反射強度が約28000程度であるから、グループ6の第1の閾値を28000に設定した。なお、グループ1~6の各閾値は、上述した数値に限定されず、照明やカメラ側の条件(位置、入射・反射角度、照度等)又は被写体側の条件(樹皮状態、樹幹形状等)に応じて変動しても構わない。
【0066】
図22に示すように、
図21(a)~(c)の画像に対応する、夏季に計測された3本のケヤキ(健全木1~3)における反射光の反射強度は、順に、15437、17784、16900であり、グループ1の第1の閾値28000を大きく下回ることが分かる。これは、夏季は、太陽光のエネルギーが強く、さらに落葉樹に葉がつき、光合成が活発なため、夏季の樹皮湿潤度が冬季の樹皮湿潤度と比べて高いためと推測される。したがって、これら樹木は、健全度が高い健全木であると判定される。なお、
図21(d)の画像に対応する、夏季に計測されたケヤキにおける反射光の反射強度は、29442であった。
【0067】
このようにして、夏季に計測された判定対象である樹木における反射光の反射強度が、その樹木が属するグループの第1の閾値未満である場合、その樹木は、休眠状態の樹木と比べて樹皮湿潤度が高く、健全度が高いと判定できる。一方、夏季に計測された樹木における反射光の反射強度が、その樹木が属するグループの第1の閾値と略等しい場合、その樹木は、休眠状態の樹木と同様に樹皮湿潤度が低く、健全度が低いと判定できる。なお、第1の閾値と略等しいとは、例えば、第1の閾値を基準にして有意な差がないと仮定できる程度の範囲(±10%以下等)をいう。
【0068】
また、夏季に計測された各グループ1~6に属する健全木における反射光の各反射強度が、健全度が高い樹木に対応しているとみなして、これらの反射強度に基づいて健全度が高いか否かの判定に用いる第2の閾値を設定しても構わない。
【0069】
具体的には、
図22に示すグループ1の健全木1~3における反射光の反射強度に基づいて、健全度が高い状態の樹木を示すグループ1の第2の閾値を17000に設定した場合に、グループ1に属する樹木における反射光の反射強度が第2の閾値と略等しいとき、その樹木は、健全木と同様に樹皮湿潤度が高いとして、健全度が高いと判定する。なお、第2の閾値と略等しいとは、例えば、第2の閾値を基準にして有意な差がないと仮定できる程度の範囲(±10%以下等)をいう。なお、本実施形態では、第2の閾値としてグループ1の数値を例示したが、他のグループ2~6に関する第2の閾値は別途設定される。
【0070】
また、冬季に計測された各グループ1~6に属する休眠状態の樹木における反射光の各反射強度に基づいて設定された閾値(第1の閾値)及び夏季に計測された各グループ1~6に属する健全木の各反射強度に基づいて設定された閾値(第2の閾値)を予め記憶し、判定対象である樹木における反射光の反射強度が、その樹木が属するグループ1~6の第1の閾値に近いほど健全度が低く、その樹木が属するグループ1~6の第2の閾値に近いほど健全度が高いと判定しても構わない。
【0071】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。